説明

蓄光性コーティング材及びこの蓄光性コーティング材を用いるコーティング方法

【課題】
下地に対する汚染防止、耐候性、保護機能といったコーティング材に求められる機能に優れ、かつ蓄光性も発揮するコーティング材を提供する。
【解決手段】
オルガノシロキサンオリゴマー、触媒、シラン化合物及びチタン化合物及び蓄光性顔料を配合要素とする配合物であり、この配合物の粘度が、25°Cにおいて50〜300mPa・sに調整してある蓄光性コーティング材

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性コーティング材及びこれを用いるコーティング方法に関し、特に、非汚染性及び耐候性のある蓄光性コーティング層を比較的簡単、かつ溶剤を使用することなく得られる一液型の蓄光性コーティング材及びこれを用いるコーティング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
夜間で光源のない場合には物が見え難い。例えば、街灯が設置されていない場所では歩き難いし、自動車の運転もし難い。また、屋内においても、電灯を消したときや急な停電のときには、視界を遮られ、しばらくは何も見えない。このようなことを解消するため、製品の素材に蓄光性顔料を練り込むことが提案され、既に種々の製品に応用されている。しかし、この方法は、蓄光性顔料を成形時に製品素材に混入しなければならないため、製作過程が複雑になり、コストが高くなるという欠点がある。
【0003】
このため、下記特許文献1に見られるように、蓄光性顔料を混入したコーティング材が提案されている。これは、製品そのものの表面にこのコーティング材を塗布すれば、発光性が出現するため、製品素材に練入するものに比べると、簡単でコストも安くなる利点はある。しかし、この先行例は、単に蓄光性を付与したのみであり、コーティング材に本来求められる汚染防止、耐候性、保護機能といったコーティング性能については考慮されていない(この点で、優れたコーティング材とはいえない)。
【特許文献1】特願2000−86966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した課題を解決するものであり、コーティング材に本来求められるコーティング性能において優れ、しかも、蓄光性を発揮する蓄光性コーティング材及びこれを用いるコーティング方法を具現したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明で解決した蓄光性コーティング材は、請求項1に記載した、オルガノシロキサンオリゴマー、触媒、シラン化合物及びチタン化合物及び蓄光性顔料を配合要素とする配合物であり、この配合物の粘度が、25°Cにおいて50〜300mPa・sに調整してあるものである。また、本発明を効果的に実行する蓄光性コーティング材を用いたコーティング方法は、請求項8に記載した、コンクリート、土石、紙、プラスチック、金属、木材で構成される有体物に対して塗膜10μm以下で塗布する一度塗り工程と、一度塗り工程を何回か繰り返す重ね塗り工程と、自然乾燥又は強制乾燥によって塗布した蓄光性コーティング材を乾燥させる乾燥工程と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1による蓄光性コーティングによれば、これを製品の表面に塗布するだけで、蓄光性顔料によって発光性を発揮するものとなる。加えて、このコーティング材は、非常に安定した配合物であり、発光性を十分に継続できるし、非汚染性、耐候性、耐酸性、耐アルカリ性といった性質を有する。もちろん、溶剤を必要としないから、環境面及び健康面にも優れたものになる。また、請求項8のコーティング方法によれば、蓄光性コーティング層を簡単な方法で確実に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の蓄光性コーティング材(以下、単にコーティング材という)は、(a)オルガノシロキサンオリゴマー、(b)触媒、(c)シラン化合物、(d)チタン化合物及び(e)蓄光性顔料を配合要素とする配合物であり、(f)25℃での粘度が50〜300mPa・sに調整されているものである。そこで、まず、このコーティング材の各成分について詳細に説明する。
【0008】
(a)オルガノシロキサンオリゴマー
オルガノシロキサンオリゴマーは、下記(1)式で表わされる。
l s SiO( R1 2 SiO)l SiRl s ‥(1)
(式中、Rl は水素原子、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜8の1価の有機基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、l は1から40の数を表わす。)で表されるオルガノシロキサンオリゴマーおよびその誘導体である。また、誘導体としては、オルガノシロキサンオリゴマーの加水分解物及びオルガノシロキサンオリゴマーの縮合物が挙げられる。なお、このようなオルガノシロキサンオリゴマーは、1種単独で用いても2種以上混合して用いてもよい。
【0009】
l を構成するハロゲン原子としては、フッ素、塩素などが挙げられる。
【0010】
1 を構成する炭素数1〜8の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、メトキシ基やエトキシ基などのアルコキシル基、フェニル基等が挙げられる。
【0011】
また、R1 は、その一部がハロゲン原子、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、メタクリル基、メルカプト基、フェニル基、ビニル基等の置換基によって置換されていてもよく、これらの置換基の一部が上記の置換基によってさらに置換されていてもよい。
【0012】
これらのうち、ケイ素原子が加水分解性基及び/又は水酸基と結合した構造を含有するオルガノシロキサンオリゴマー、例えば、アルコキシシランの縮合物又はクロロシランの縮合物が好ましい。このようなオルガノシロキサンオリゴマーは、本発明に係るコーティング材を硬化する際に、シラン化合物、チタン化合物、蓄光性顔料と共縮合して固定化する。そのため、安定なコーティング層を得られる。
【0013】
なお、オルガノシロキサンオリゴマーとしては、上記の化合物を調製して使用してもよいし、市販されているものを使用してもよい。市販されているオルガノシロキサンオリゴマーとしては、例えば、信越化学工業株式会社製のKC89SやKR400、GE東芝シリコーン株式会社製のXC96−B0446、XR31−B2230等が挙げられる。なお、これらのオルガノシロキサンオリゴマーは、そのまま使用してもよく、加水分解して使用してもよい。
【0014】
オルガノシロキサンオリゴマーは、ベースは樹脂であるので、これの量を100重量部であるとして比較の基準にする。
【0015】
(b)触媒
触媒としては、酸性化合物、アルカリ性化合物、塩化合物、アミン化合物、有機金属化合物及び/又はその部分加水分解物(以下、有機金属化合物及び/又はその部分加水分解物をまとめて、「有機金属化合物類」という)が挙げられる。なお、このような触媒は、1種単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
酸性化合物としては、例えば、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。
【0017】
アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0018】
塩化合物としては、ナフテン酸、オクチル酸などのアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0019】
アミン化合物としては、例えば、アミノシラン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、アルキルアミン塩類、四級アンモニウム塩類等が挙げられる。また、エポキシ樹脂の硬化剤として使用できる各種変性アミン等も挙げられる。
【0020】
有機金属化合物類としては、例えば、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等の有機ジルコニウム化合物、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム等の有機チタン化合物、ジ−i−プロポキシ・アセチルアセトナトアルミニウム、i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等の有機アルミニウム化合物、(C492 Sn(OCOCC11232 、(C492 Sn(SCH2 COOC8172 、(C492 Sn(SCH2 CH2 COOC8172 等の有機錫化合物及びこれらの部分加水分解物が挙げられる。
【0021】
触媒は、本発明に係るコーティング材を調製する工程で配合してもよく、また、コーティング膜を形成する工程でコーティング材に配合してもよく、さらには、コーティング材を調製する工程とコーティング膜を形成する工程との両方で配合してもよい。
【0022】
触媒は、上記の化合物を調製して使用してもよいし、市販されているものを使用してもよい。市販されている触媒としては、テトラアルコキシチタンの重合物(部分加水分解物)である信越化学株式会社製D−20が挙げられる。
【0023】
触媒の量は、オルガノシロキサンオリゴマー100重量部に対して、0.1〜40重量部、好ましくは0.5〜35重量部、さらに好ましくは1〜30重量部が好ましい。触媒の量が上記上限を超えると、貯蔵安定性が悪くなり、硬化速度が極めて早くなるため、コーティング材の塗布作業が困難となる可能性がある。また、触媒の量が上記下限を超えると、硬化速度が極めて低下し、塗り重ね時間、硬化養生時間が長くなる。また、極端な場合には、硬化不良で本来の硬度が発現できなくなる可能性がある。
【0024】
(c)シラン化合物
シラン化合物は、下記(2)式で表わされる。
2 m SiR3 4 -m・・(2)
(式中、R2 は、水素原子又は炭素数1〜8個の1価の有機基を表わし、R3 はハロゲン原子、水酸基又は炭素数1〜8個の1価のアルコキシル基を表わしており、複数個存在するときは、互いに同じものであっても異なるものであってもよい。なお、mは0〜3の整数である。)で表されるシラン化合物及びその誘導体である。また、誘導体としては、シラン化合物の加水分解物、シラン化合物の縮合物が挙げられる。なお、このようなシラン化合物は、1種単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
2 を構成する炭素数1〜8の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。
【0026】
また、R2 の一部をビニル基、エポキシシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、ハロゲン原子、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、カルボキシル基等の置換基によって置換してもよい。
【0027】
3 を構成するハロゲン原子としては、フッ素、塩素等が挙げられる。また、R3 を構成する1 炭素数1〜8個の1価のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基等が挙げられる。
【0028】
このようなシラン化合物としては、具体的には、テトラメトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類、トリメチルメトキシシラン等のモノアルコキシシラン類、トリクロルシラン等のクロルシラン類等が挙げられる。
【0029】
これらのうち、トリアルコキシシラン類、トリクロルシラン類が好ましく、なかでも、有機系物質と化学結合する反応基及び無機系物質と化学反応する反応基の両方を備えたシランカップリング剤が好ましい。これは、シランカップリング剤が硬化を促進し、架橋性、接着性向上の効果を付与するからである。
【0030】
なお、このようなシランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリクロルシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプリピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0031】
シラン化合物は、上記の化合物を調製して使用してもよいし、市販されているものを使用してもよい。市販されているシラン化合物としては、例えば、信越化学工業株式会社製のKBM−403が挙げられる。なお、シラン化合物は、そのまま使用してもよく、加水分解して使用してもよい。
【0032】
本発明において、シラン化合物は、オルガノシロキサンオリゴマー100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1.5〜10重量部が好ましい。シラン化合物の量が上記上限を超えると、ひび割れや表面ブリードアウト発生の可能性がある。また、シラン化合物の量が上記下限を超えると、接着向上、架橋不良の原因となる可能性がある。
【0033】
(d)チタン化合物
チタン化合物は、下記(3)によって表わされる。
4nTi(OR54-n ‥(3)
(式中、R4 は、炭素数1〜8個の有機基を表し、複数個存在するときは同一であっても異なっていてもよい。R5 は、炭素数1〜6個のアルキル基、炭素数1〜6個のアシル基及びフェニル基からなる群から選択される有機基を表す。なお、複数個存在するときは同一であっても異なっていてもよい。nは0〜3の整数である。)で表されるチタンアルコレート及びその誘導体並びに上記式(3)で表されるチタンアシレート及びその誘導体である。なお、これらのチタン化合物は、1種単独であっても、任意の2種以上の混合物であってもよい。
【0034】
チタンアルコレート及びチタンアシレート誘導体としては、これらの加水分解物及び縮合物、これらのキレート化合物、これらのキレート化合物の加水分解物及び縮合物が挙げられる。
【0035】
上記式(3)において、R4 は炭素数1〜8個の有機基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等のアルキル基、アセチル基、プロピオニル基などのアシル基等が挙げられる。
【0036】
また、R4 は、その一部が、例えば、ハロゲン原子、アミノ基、水酸基によって置換されていてもよく、これらの置換基の一部が上記の置換基によってさらに置換されていてもよい
【0037】
チタンアルコレートとして、具体的には、テトラ−i−プロポキシチタニウム、テトラ−n−ブトキシチタニウム、テトラ−t−ブトキシチタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセテート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(ラクテタート)チタニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナート)チタニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタニウム等が挙げられる。これらのうち、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウムが好ましい。
【0038】
また、チタンアシレートおよびチタンアシレートのキレート化合物として、具体的には、ジヒドロキシ・チタンジブチレート、ジ−i−プロポキシ・チタンジアセテート、ビス(アセチルアセトナト)・チタンジアセテート、ビス(アセチルアセトナト)・チタンジプロピオネート、ジ−i−プロポキシ・チタンジプロピオネート、ジ−i−プロポキシ・チタンジマロニエート、ジ−i−プロポキシ・チタンジベンゾイレート、ジ−n−ブトキシ・ジルコニウムジアセテート、ジ−i−プロピルアルミニウムモノマロニエート等が挙げられる。これらのうち、ジヒドロキシ・チタンジブチレート、ジ−i−プロポキシ・チタンジアセテートが好ましい。
【0039】
チタンアルコレート及びチタンアシレートのキレート化合物は、これらとβ−ジケトン類、β−ケトエステル類等のキレート化剤とを反応させることによって得られる。また、チタンアルコレート及びチタンアシレートの加水分解物及び縮合物又はこれらのキレート化合物の加水分解物及び縮合物は、チタンアルコレート及びチタンアシレート又はこれらのキレート化合物に水を添加することによって得られる。
【0040】
チタン化合物は、上記の化合物を調製して使用してもよいし、市販されているものを使用してもよい。市販されているチタンアルコレートの縮合物としては、日本曹達株式会社製T−50等が挙げられる。
【0041】
本発明に使用できるチタン化合物の量は、オルガノシロキサンオリゴマー100重量部に対して、0.1〜50重量部、好ましくは1〜40重量部、さらに好ましくは2〜30重量部が好ましい。チタン化合物の量が上記上限を超えると、透明性が低下する可能性がある。また、チタン化合物の量が上記下限を超えると、汚染防止性能、撥水機能が低下する可能性がある。
【0042】
(e)蓄光性顔料
コーティング材の中に含まれて光エネルギーを蓄えて発光するもので、後述するようなものが市販されている。その量は、オルガノシロキサンオリゴマー、触媒、シラン化合物及びチタン化合物の合計100重量部に対して10〜40重量部、さらに好ましくは10〜30重量部が好ましい。
【0043】
(f)粘度
本発明のコーティング材の粘度は、25℃における粘度が50〜300mPa・sに調整されるが、100〜150mPa・sの範囲内であることがより好ましい。これは、粘度が高くなりすぎると、流動性が劣り、抵抗が大きくなって下地に対して規定量(塗膜厚)以下で塗り拡げるのが難しくなるからであり、低くなりすぎると、定着性が劣って塗膜の形成が困難になるからである。なお、この粘度は、増粘剤を添加する量で調整できるものであり、この増粘剤としては、ポリオキサイド、メチルセルロース等がある。この場合の粘度は、回転粘度計等、通常の粘度測定に使用される測定装置によって測定した値である。
【0044】
なお、本発明のコーティング材は、その粘度が一般的には低くて一液性であるため、噴射剤、例えば、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル(DME)、フロン類、窒素ガス、炭酸ガス等と混合してスプレー缶に封入し、エアゾールとして使用することもできる。
【0045】
次に、上記のコーティング材を使用するコーティング方法について説明する。まず、このコーティング方法は(イ)一度塗り工程、(ロ)重ね塗り工程、(ハ)乾燥工程の3つの工程に分けられる。そこで、以下にこの詳細について説明する。
【0046】
なお、以下の説明では、1回の塗り工程で処理する下地の範囲を塗布ゾーンと呼ぶ。なお、下地については上記したあらゆる素材が適用できる。
【0047】
(イ)一度塗り工程
まず、塗布用ツールによって、適量のコーティング材を下地の所定の塗布ゾーンにスプレーにて塗り斑がないように吹き付ける。なお、コーティング材の量は、塗布ゾーンの有効塗布量が、100g/m2 以下であるのが、経済性、塗布斑の防止、早期乾燥による次工程までの時間短縮、ひび割れ抑制等の観点から好ましい。また、吹き付け作業は、時間経過と共に硬化が徐々に進行して来るために、30分以内に完了するのが好ましい。
【0048】
(ロ)重ね塗り工程
一度塗り工程の完了後、塗布ゾーンに、適量のコーティング材を一度塗り工程と同様の方法によって塗り斑がないように吹き付ける。
【0049】
重ね塗りする際のコーティング材の量は、塗布ゾーンの有効塗布量が100g/m2 以下であるのが、ひび割れ防止、乾燥促進、膜厚の均一確保のため好ましい。また、重ね塗り工程は、一度塗り工程の完了後10〜120分経った後に行うと、シラノール化反応が進行し、コーティング膜が強固に一体化するので好ましい。
【0050】
(ハ)乾燥工程
目的とするすべての塗布ゾーンに対して重ね塗り工程が完了したのち、そのまま放置して自然乾燥するか又は強制乾燥する。自然乾燥の場合は、例えば、外気が直接当たらない屋内の換気設備のある場所で、1〜2時間以上、好ましくは3時間以上放置する。強制乾燥の場合は、15分以上、好ましくは30〜60分程度自然乾燥したのち、熱風式乾燥機、赤外線長波乾燥機、赤外線中波乾燥機、赤外線短波(遠赤外線)乾燥機等を用いて、乾燥機中の槽内雰囲気温度が50〜150℃、好ましくは60〜70℃となるように5〜60分、好ましくは15分程度乾燥する。
【0051】
このように、本発明によるーティング材及びコーティング方法を利用すれば、非汚染性で紫外線領域に影響されず、耐酸性、耐アルカリ性に強くて耐候性のよい蓄光性コーティング層を、溶剤を使用せずに比較的簡単に得られる。そして、このコーティング層が存在するために、耐酸・耐アルカリ・耐紫外線・耐透水性等から下地を保護すると同時に、発光性を発揮する。
【0052】
以下に本発明を実施例に従って説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中において粘度は25℃での値を示す。
【実施例1】
【0053】
(試料の調製)
置換基がメチル基であり、加水分解性アルコキシ基がメトキシ基であるKC89S(信越化学株式会社製、粘度70mPa・s)100gと、エポキシシランKBM−403(信越化学株式会社製)0.5gと、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウムT−50(日本曹達株式会社製)5gと、チタン触媒D−20(信越化学株式会社製)3gと、蓄光性顔料(イージーブライト社製)20gをマグネチックスターラーで均一になるまで攪拌し、粘度が130mPa・Sのコーティング材(試料1)を得た。
【0054】
オルガノシロキサンオリゴマーとしてメチルメチル型のKR500を使用したことを除いて、試料1と同様の組成・手順により、粘度が140mPa・sのコーティング材(試料2)を得た。
【0055】
ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウムを加えなかった点を除いて、試料1と同様の組成・手順により、粘度110mPa・sのコーティング材(試料3)を得た。
【実施例2】
【0056】
(初期性能試験)
試料1のコーティング材をスプレー吹きにて、標準塗布板に塗り斑がないように塗布した。そして、標準塗布板への塗装はA・B・Cの3種類の塗布板に、塗布回数を1回、2回、3回と変えて行った。また、2回、3回と重ね塗りする場合は、1回目又は2回目の塗装が完了したのち、それぞれ60分間後に1回目と同様の方法によって行った。
【0057】
このようにして作製した塗装見本を約25℃で7日養生したのち、蓄光性、撥水性、塗り重ね密着性、塗布膜厚について調べた。その結果を以下の表1に示す。なお、蓄光時間は目視にて評価し、撥水性は協和界面化学製接触角計(CA−Z)にて測定した水接触角に基づいて評価し、塗り重ね密着性はJISK5600 5−6碁盤目試験に従って評価した。また、塗膜厚は、塗布したコーティング材の重量と密度から体積を算出し、反応後の体積減量を20%として計算により求めた。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、試料1のコーティング材は、塗り重ねるに連れて蓄光時間が長くなった。また、試料1のコーティング材は、1回塗るだけで十分な蓄光性び強い撥水性を示すとともに、強い塗り重ね接着性をも示した。
【実施例3】
【0060】
(耐候性能試験)
標準塗布板の半分に、実施例2と同様の方法で試料1をA・B・C3種類を1回・2回と変えて塗装した。そして7日間養生したものを、耐候性促進試験(サンシャインウエザーメター促進試験方法)にて2000時間行った。その結果を以下の表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、耐候性促進試験においても、1年の暴露試験でも異常は見受けられなかった。
【実施例4】
【0063】
(比較性能試験)
試料1、試料2、試料3を標準塗布板の上に実施例2と同様の方法で2回塗装し、蓄光時間、表面平滑性、塗膜厚について調べた。その結果を表3に示す。なお、表3中の記号の意味は、◎:塗り班、反射班なし、×:塗り班、反射班あり、である。表3に示すように、試料1は蓄光時間、表面が平らで塗膜厚の均一なコーティング層を形成できた。なお、蓄光時間、塗膜厚は実施例2と同様の方法で評価した。また、表面平滑性は目視にて塗り斑、反射斑の有無を評価した。
【0064】
【表3】

【実施例5】
【0065】
(比較耐久試験)
試料1、試料2、試料3を標準塗布板の上に実施例2と同様の方法で2回塗装し、撥水性(水接触角)、指紋付着性、汚れについて、長期間に渡り屋外に暴露しその変化を調べた。その結果を表4に示す。
【0066】
ここで、撥水性(水接触角)は実施例2と同様の方法で測定した。また、色差Lは、ミノルタ製色差計CR−300を用いて測定した暴露前と暴露後の明度値の差である。なお、表4中の記号の意味は、汚れ(目視)は、目視にて表面の汚れ付着を評価した。なお、表4中の記号の意味は、◎:煤煙の付着を認めず、○:煤煙は薄く付着するが乾燥綿布で容易に拭き取れる、△:煤煙は付着するが乾燥綿布で拭き取りできる、×:煤煙の付着は大きく乾燥綿布での拭き取りは困難、である。
【0067】
【表4】

【0068】
表4に示すように、資料1、資料2、資料3を塗布することによって、標準塗布板の撥水性が36ケ月間という長期間にわたって維持された。また、試料1を塗布した場合は、試料2又は3を塗布した場合と比べて、色差、汚れ(目視)の各性能が低下し難く、なかでも試料1は暴露開始して36ヶ月後まで低下しなかった。
【実施例6】
【0069】
(成分量決定試験)
コーティング材を構成するオルガノシロキサンオリゴマー(実施例1に記載のKC89S)、触媒(信越化学株式会社製のリン酸とオルガノシロキサンとの混合体X40−2309A、及び実施例1に記載のD−20)、シラン化合物(実施例1に記載のKBM−403)及びチタン化合物(実施例1に記載のT−50)の割合が、コーティング材の性質に与える影響を調べるため、これらの量が異なる試料4から試料15を実施例1と同じようにして調製し、指触乾燥時間、硬化性、鉛筆硬度、指紋付着性、接着性、塗り重ね性について試験した、なお、蓄光性顔料は、20重量部で統一して行った。その結果を以下の(I)から(III)に示す。
【0070】
ここで、上記各試験は、気温25℃の室内で、各試料を有効塗布量が80g/となるように2回塗布した標準塗装板を使用して次のように行った。まず、指触乾燥時間は、指で触って付着しなくなるまでの時間を測定した。また、硬化性は、塗布2時間後の塗膜にカーボンを付着させたのち、濡れた綿布で拭き取って評価した。なお、各表中の記号の意味は、○:完全除去、△:薄く残った、×:除去不能、である。また、鉛筆硬度は、24時間後及び7日後にJISK5600 5−4引っかき硬度(鉛筆法)に従って評価した。また、指紋付着性は、3秒間指を押し付けて指紋の付着の有無で評価した。なお、各表中の記号の意味は、○:付着なし、△:拭き取りが容易、×:拭き取り困難、である。接着性は、JIS K5600 5−6碁盤目試験に従って評価した。塗り重ね試験は、塗膜の透明性、平滑性を観察し、感覚と目視により評価した。なお、各表中の記号は、一度塗りの塗布膜と重ね塗りの塗布膜が上記基準を満たすことが、○:容易、△:やや困難、×:不能、であることを意味している。
【0071】
(I)触媒量の影響
表5に示すように、コーティング材に加える触媒の量を変えたところ、触媒の量が少ない場合(試料4の)には、硬化に時間がかかるとともにコーティング層の硬度が低くなり、反対に、触媒量が多い場合(試料7)には、コーティング材の塗り重ねが難しかった。また、オルガノシロキサンオリゴマー100重量部に対する触媒の量が、0.5〜30重量部の範囲では良好な性質を示した。
【0072】
【表5】

【0073】
(II)シリコン化合物量の影響
表6に示すように、シリコン化合物の量が少ない場合(試料8)には、コーティング層の接着性が低下して標準塗装板から剥がれ易くなり、反対に、シリコン化合物の量が多い場合(試料11)には、硬化に時間がかかる他にコーティング層の硬度が低かった。また、オルガノシロキサンオリゴマー100重量部に対するシリコン化合物の量が、0.1〜20重量部の範囲では良好な性質を示した。
【0074】
【表6】

【0075】
(III)チタン化合物の影響
表7に示すように、チタン化合物の量が少ない場合(試料12)には、コーティング層に指紋が付着し易く、反対に、チタン化合物の量が多い場合(試料15)には、コーティング材の塗り重ねが難しかった。また、オルガノシロキサンオリゴマー100重量部に対するチタン化合物の量が、0.1〜50重量部の範囲では良好な性質を示した。
【0076】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノシロキサンオリゴマー、触媒、シラン化合物及びチタン化合物及び蓄光性顔料を配合要素とする配合物であり、この配合物の粘度が、25°Cにおいて50〜300mPa・sに調整してある蓄光性コーティング材
【請求項2】
オルガノシロキサンオリゴマーが、置換基を一個以上有する請求項1に記載の蓄光性コーティング材。
【請求項3】
触媒が、酸化合物、アルカリ化合物、塩化合物、有機金属化合物である請求項1又は2に記載の蓄光性コーティング材。
【請求項4】
シラン化合物が、少なくともシランカップリング剤を含んでいる請求項1〜3何れかに記載の蓄光性コーティング材。
【請求項5】
シラン化合物が、グリシジル基、アミノ基、ビニル基のいずれかの官能基を有する請求項4記載の蓄光性コーティング材。
【請求項6】
チタン化合物が、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタンである請求項1〜5何れかに記載の蓄光性コーティング材。
【請求項7】
畜光性顔料が金属化合物系のものである請求項1〜6何れかに記載の蓄光性コーティング材。
【請求項8】
請求項1〜7何れかに記載の蓄光性コーティング材を、コンクリート、土石、紙、プラスチック、金属、木材で構成される有体物に対して塗膜10μm以下で塗布する一度塗り工程と、
一度塗り工程を何回か繰り返す重ね塗り工程と、
自然乾燥又は強制乾燥によって塗布した蓄光性コーティング材を乾燥させる乾燥工程と、を備えた蓄光性コーティング材を用いるコーティング方法。
【請求項9】
一度塗り工程をコーティング作業開始直後から30分以内に完了させ、一度塗り工程の完了後10〜120分放置してシラノール化反応を進行させたのち、重ね塗り工程を行う請求項8に記載の蓄光性コーティング材を用いるコーティング方法。
【請求項10】
重ね塗り工程を2回以上行う請求項8〜9何れかに記載の蓄光性コーティング材を用いるコーティング方法。
【請求項11】
乾燥工程が、3時間以上の自然乾燥を行う工程又は自然乾燥を30〜60分間行ったのち、50〜150℃で5〜60分間強制乾燥する工程である請求項8〜10何れかに記載の蓄光性コーティング材を用いるコーティング方法。

【公開番号】特開2007−56200(P2007−56200A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245677(P2005−245677)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(503186397)
【Fターム(参考)】