説明

蓄冷機能付きエバポレータ

【課題】全ての蓄冷材容器内への蓄冷材への封入作業を容易に行うことができる蓄冷機能付きエバポレータを提供する。
【解決手段】蓄冷機能付きエバポレータ1は、幅方向を通風方向に向けて配置された複数の扁平状冷媒流通管13と、幅方向を通風方向に向けて配置されるとともに冷媒流通管13にろう付された複数の扁平状蓄冷材容器15とを備えている。蓄冷材容器15が、冷媒流通管13の片面にろう付された容器本体部21と、容器本体部21の風下側縁部に連なるとともに冷媒流通管13よりも通風方向外側に張り出すように設けられた外方張り出し部22とを備えている。蓄冷材容器15内に蓄冷材を注入する蓄冷材注入パイプ25を、全ての蓄冷材容器15の外方張り出し部22を貫通するように配置する。蓄冷材注入パイプ25に、全ての蓄冷材容器15の外方張り出し部22内に通じる連通穴29を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンに用いられる蓄冷機能付きエバポレータに関する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、図1および図2の上下を上下というものとする。また、冷媒流通管の並び方向を左右方向をいうものとし、図1の左右を左右というものとする。
【背景技術】
【0003】
近年、環境保護や自動車の燃費向上などを目的として、信号待ちなどの停車時にエンジンを自動的に停止させる自動車が提案されている。
【0004】
ところで、通常のカーエアコンにおいては、エンジンを停止させるとエンジンを駆動源とする圧縮機が停止するので、エバポレータに冷媒が供給されなくなり、冷房能力が急激に低下するという問題がある。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、エバポレータに蓄冷機能を付与し、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、エバポレータに蓄えられた冷熱を利用して車室内を冷却することが考えられている。
【0006】
蓄冷機能付きエバポレータとして、上下方向にのびるとともに幅方向を通風方向に向け、かつ通風方向に間隔をおいて配置された複数の扁平状冷媒流通管からなる組が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて複数配置され、複数の冷媒流通管からなる組の片面側に、上下方向にのびるとともに幅方向を通風方向に向け、かつ内部に蓄冷材が封入された扁平状蓄冷材容器が、通風方向に隣り合う冷媒流通管に跨るように配置されて冷媒流通管にろう付され、通風方向に並んだ冷媒流通管からなる組および当該組の冷媒流通管にろう付された蓄冷材容器からなる組み合わせ体が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて配置され、隣り合う組み合わせ体どうしの間が通風間隙とされ、通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管および蓄冷材容器にろう付されているものが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1記載の蓄冷機能付きエバポレータにおいては、各蓄冷材容器毎に蓄冷材を封入する必要があり、全ての蓄冷材容器内への蓄冷材の封入作業が面倒であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4043776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、上記問題を解決し、全ての蓄冷材容器内への蓄冷材への封入作業を容易に行うことができる蓄冷機能付きエバポレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0011】
1)上下方向にのびるとともに幅方向が通風方向を向いた複数の扁平状冷媒流通管が、左右方向に間隔をおいて配置され、冷媒流通管の片面側に、上下方向にのびるとともに幅方向を通風方向に向け、かつ内部に蓄冷材が封入された扁平状蓄冷材容器が配置されて冷媒流通管に接合された蓄冷機能付きエバポレータであって、
蓄冷材容器が、冷媒流通管に接合された容器本体部と、容器本体部の風上側縁部または風下側縁部に連なるとともに冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられた外方張り出し部とを備えており、蓄冷材容器内に蓄冷材を注入する蓄冷材注入パイプが、全ての蓄冷材容器の外方張り出し部を貫通するように配置され、蓄冷材注入パイプに、全ての蓄冷材容器の外方張り出し部内に通じる連通穴が形成されている蓄冷機能付きエバポレータ。
【0012】
2)蓄冷材容器の外方張り出し部の左右両側壁に、蓄冷材注入パイプを通す貫通穴が形成され、上記両側壁における貫通穴の周囲の部分に、それぞれ蓄冷材注入パイプの外周面に接触した状態で接合された部分を有する筒状のフランジが外方突出状に設けられ、各蓄冷材容器の外方張り出し部の左右両側壁に設けられた一方のフランジの先端と他方のフランジの先端との間の範囲内に、蓄冷材注入パイプの連通穴が外方張り出し部内に通じるように形成され、隣り合う2つの蓄冷材容器の近接したフランジの先端間に隙間が設けられている上記1)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0013】
3)蓄冷材注入パイプの連通穴の左右方向の幅Aと、フランジにおける蓄冷材注入パイプに接合された部分の左右方向の長さBと、蓄冷材容器の外方張り出し部内空間の左右方向の高さCとの比を、A:B:C=1.0:0.5〜0.9:0.5〜1.0とする上記2)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0014】
4)蓄冷材注入パイプの連通穴の左右方向の幅Aが1.0〜3.5mm、フランジにおける蓄冷材注入パイプに接合された部分の左右方向の長さBが0.5〜3.2mm、蓄冷材容器の外方張り出し部内空間の左右方向の高さCが0.5〜3.5mmである上記3)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0015】
5)蓄冷材容器の外方張り出し部の上下両端部のうち少なくともいずれか一端部に、容器本体部よりも上下方向外側に突出した突出部が設けられており、蓄冷材注入パイプが蓄冷材容器の外方張り出し部の突出部を貫通している上記1)〜4)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0016】
6)蓄冷材容器が、周縁部どうしが互いに接合された2枚の金属板により形成され、両金属板のうち少なくとも一方の金属板を左右方向外方に膨出させることにより容器本体部および外方張り出し部が設けられており、両金属板に貫通穴およびフランジが設けられている上記2)〜5)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0017】
7)蓄冷材容器の外方張り出し部の左右方向の寸法が容器本体部の左右方向の寸法よりも大きくなっており、冷媒流通管および当該冷媒流通管に接合された蓄冷材容器の容器本体部からなる組み合わせ体が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて配置され、隣り合う組み合わせ体どうしの間が通風間隙とされ、通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管および容器本体部に接合され、フィンにおける通風方向の両側部分のうちの外方張り出し部が設けられた側の部分が、冷媒流通管よりも通風方向外側に突出させられ、蓄冷材容器の外方張り出し部の両面にフィンが接合されている上記1)〜6)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0018】
8)蓄冷材容器の風下側部分に外方張り出し部が設けられている上記1)〜7)のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【0019】
9)上記各組み合わせ体の冷媒流通管が、通風方向に間隔をおいて複数配置され、当該組み合わせ体の蓄冷材容器の容器本体部が、当該組み合わせ体の全冷媒流通管に跨るように配置されて冷媒流通管に接合されている上記7)または8)記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【発明の効果】
【0020】
上記1)〜9)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器が、冷媒流通管の片面に接合された容器本体部と、容器本体部の風上側縁部または風下側縁部に連なるとともに冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられた外方張り出し部とを備えており、蓄冷材容器内に蓄冷材を注入する蓄冷材注入パイプが、全ての蓄冷材容器の外方張り出し部を貫通するように配置され、蓄冷材注入パイプに、全ての蓄冷材容器の外方張り出し部内に通じる連通穴が形成されているので、蓄冷材注入パイプを通して全ての蓄冷材容器内に蓄冷材を注入することができ、全ての蓄冷材容器内への蓄冷材への封入作業が容易になる。
【0021】
上記2)の蓄冷機能付きエバポレータは、たとえば冷媒流通管、蓄冷材容器および蓄冷材注入パイプを組み合わせて仮組した後に、全部品を一括ろう付することにより製造されるが、冷媒流通管、蓄冷材容器および蓄冷材注入パイプを組み合わせる際に、外部から見て蓄冷材注入パイプの連通穴が、蓄冷材容器の筒状フランジに隠れるように組み合わせることによって、製造された蓄冷機能付きエバポレータにおける蓄冷材容器の外方張り出し部内と蓄冷材注入パイプの連通穴とを通じさせることが可能になって、蓄冷材注入パイプを通しての蓄冷材容器内への蓄冷材の注入を行うことができできるとともに、蓄冷材容器内に注入した蓄冷材の洩れを防止することができる。
【0022】
また、隣り合う2つの蓄冷材容器の近接したフランジの先端間に隙間が設けられているので、冷媒流通管、蓄冷材容器および蓄冷材注入パイプに寸法誤差が生じていたとしても、製造された蓄冷機能付きエバポレータにおける蓄冷材容器の外方張り出し部内と蓄冷材注入パイプの連通穴とを通じさせることが可能になる。隣り合う2つの蓄冷材容器の近接したフランジの先端間に隙間が設けられていないと、冷媒流通管、蓄冷材容器および蓄冷材注入パイプに寸法誤差が生じていた場合、蓄冷材容器の外方張り出し部内と蓄冷材注入パイプの連通穴とを通じさせることができなくなったり、冷媒流通管と蓄冷材容器とのろう付が不十分になったりするおそれがある。
【0023】
上記3)および4)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器の外方張り出し部内と蓄冷材注入パイプの連通穴とを確実に通じさせることが可能になって、蓄冷材注入パイプを通しての蓄冷材容器内への蓄冷材の注入を確実に行うことができるとともに、蓄冷材容器内に注入した蓄冷材の洩れを確実に防止することができる。
【0024】
上記7)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、蓄冷材容器の外方張り出し部の左右方向の寸法が容器本体部の左右方向の寸法よりも大きくなっているので、蓄冷材容器の容器高さが全体に同一の場合に比べて、蓄冷材容器および冷媒流通管の長さを長くしたり、蓄冷材容器の厚み方向の寸法である容器高さを全体に高くしたりすることなく、蓄冷材容器に封入される蓄冷材の量を多くすることができる。したがって、蓄冷機能付きエバポレータの小型軽量化を図ることができる。しかも、内容積増大部を設けることに起因する通風間隙の面積の減少を抑制することができ、熱交換コア部の寸法を変えない場合であっても、通気抵抗の上昇を抑制することができる。
【0025】
また、冷媒流通管および当該冷媒流通管に接合された蓄冷材容器の容器本体部からなる組み合わせ体が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて配置され、隣り合う組み合わせ体どうしの間が通風間隙とされ、通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管および容器本体部に接合され、フィンにおける通風方向の両側部分のうちの外方張り出し部が設けられた側の部分が、冷媒流通管よりも通風方向外側に突出させられ、蓄冷材容器の外方張り出し部の両面にフィンが接合されているので、エンジンが停止して圧縮機が停止した際に、蓄冷材容器の外方張り出し部内の蓄冷材の有する冷熱が、外方張り出し部の両側面から外方張り出し部の両側面に接合されているフィンを介して通風間隙を通過する空気に伝えられるので、放冷性能が向上する。
【0026】
特に、外方張り出し部が容器本体部の風下側に設けられている場合には、通風間隙を流れてくる空気の温度が低くなっている部分に、多くの蓄冷材が入れられている外方張り出し部が存在することになるので、蓄冷材を効率良く冷却することができ、蓄冷性能が向上する。
【0027】
上記8)の蓄冷機能付きエバポレータによれば、外方張り出し部が容器本体部の風下側に設けられているので、通風間隙を流れてくる空気の温度が低くなっている部分に、多くの蓄冷材が入れられている外方張り出し部が存在することになるので、蓄冷材を効率良く冷却することができ、蓄冷性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示す一部切り欠き斜視図である。
【図2】図1の一部を省略したA−A線拡大断面図である。
【図3】図2のB−B線拡大断面図である。
【図4】図2のC−C線拡大断面図である。
【図5】一体化された複数の蓄冷材容器を示す斜視図である。
【図6】図4のD−D線断面図である。
【図7】1つの蓄冷材容器を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0030】
以下の説明において、通風方向下流側(図1〜図4に矢印Xで示す方向)を前、これと反対側を後というものとする。
【0031】
また、以下の説明において、「アルミニウム」という用語には、純アルミニウムの他にアルミニウム合金を含むものとする。
【0032】
図1はこの発明による蓄冷機能付きエバポレータの全体構成を示し、図2〜図7はその要部の構成を示す。
【0033】
図1および図2において、蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、上下方向に間隔をおいて配置された左右方向にのびるアルミニウム製第1ヘッダタンク(2)およびアルミニウム製第2ヘッダタンク(3)と、両ヘッダタンク(2)(3)間に設けられた熱交換コア部(4)とを備えている。
【0034】
第1ヘッダタンク(2)は、前側(風下側)に位置する冷媒入口ヘッダ部(5)と、後側(風上側)に位置しかつ冷媒入口ヘッダ部(5)に一体化された冷媒出口ヘッダ部(6)とを備えている。冷媒入口ヘッダ部(5)の右端部に冷媒入口(7)が設けられ、冷媒出口ヘッダ部(6)の右端部に冷媒出口(8)が設けられている。第2ヘッダタンク(3)は、前側に位置する第1中間ヘッダ部(9)と、後側に位置しかつ第1中間ヘッダ部(9)に一体化された第2中間ヘッダ部(11)とを備えている。第2ヘッダタンク(3)の第1中間ヘッダ部(9)内と第2中間ヘッダ部(11)内とは、両中間ヘッダ部(9)(11)の右端部に跨ってろう付され、かつ内部が通路となった連通部材(12)を介して通じさせられている。
【0035】
図1〜図4に示すように、熱交換コア部(4)には、上下方向にのびるとともに幅方向を前後方向に向け、かつ前後方向に間隔をおいて配置された複数、ここでは2つのアルミニウム押出形材製扁平状冷媒流通管(13)からなる組(14)が、左右方向(冷媒流通管(13)の厚み方向)に間隔をおいて複数配置されており、2つの冷媒流通管(13)からなる組(14)の片面、ここでは左側面側に、上下方向にのびるとともに幅方向を前後方向に向け、かつ内部に蓄冷材が封入されたアルミニウム製扁平状蓄冷材容器(15)が、各組(14)の2つの冷媒流通管(13)に跨るように配置されて冷媒流通管(13)にろう付されている。前側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒入口ヘッダ部(5)に接続されるとともに、同下端部は第1中間ヘッダ部(9)に接続されている。また、後側の冷媒流通管(13)の上端部は冷媒出口ヘッダ部(6)に接続されるとともに、同下端部は第2中間ヘッダ部(11)に接続されている。
【0036】
図2〜図5に示すように、蓄冷材容器(15)は、冷媒入口ヘッダ部(5)および第1中間ヘッダ部(9)の前側縁よりも後方に位置し、かつ各組(14)の前後の冷媒流通管(13)にろう付された容器本体部(21)と、容器本体部(21)の前側縁に連なるとともに冷媒入口ヘッダ部(5)および第1中間ヘッダ部(9)の前側縁よりも前方に突出するように設けられ、かつ厚み方向(左右方向)の寸法が容器本体部(21)の厚み方向(左右方向)の寸法よりも高くなった外方張り出し部(22)とよりなる。容器本体部(21)の左右方向の寸法は全体に等しくなっている。外方張り出し部(22)の左右方向の寸法は、冷媒流通管(13)の厚み方向(左右方向)の寸法である管高さに、蓄冷材容器(15)の容器本体部(21)の厚み方向の寸法を加えた高さと等しくなっている。外方張り出し部(22)は、容器本体部(21)に対して右方のみに膨出しており、容器本体部(21)および外方張り出し部(22)の左側面は面一である。そして、前後方向に並んだ2つの冷媒流通管(13)からなる各組(14)および各組(14)の2つの冷媒流通管(13)に跨ってろう付された蓄冷材容器(15)の容器本体部(21)によって、複数の組み合わせ体(16)が構成されるとともに、当該組み合わせ体(16)が左右方向に間隔をおいて配置されており、隣り合う組み合わせ体(16)どうしの間が通風間隙(17)となり、当該通風間隙(17)にアルミニウム製アウターフィン(18)が配置されて冷媒流通管(13)および蓄冷材容器(15)にろう付されている。各組(14)の冷媒流通管(13)および各組(14)の冷媒流通管(13)にろう付された蓄冷材容器(15)の容器本体部(21)からなる組み合わせ体(16)の左右両端に位置するものの外側にもアルミニウム製アウターフィン(18)が配置されており、右端のアウターフィン(18)は前後両冷媒流通管(13)に跨ってろう付され、左端のアウターフィン(18)は蓄冷材容器(15)にろう付されている。なお、アウターフィン(18)は、波頂部、波底部および波頂部と波底部とを連結する連結部とよりなるコルゲート状であり、波頂部および波底部を前後方向に向けて配置されている。左右両端のアウターフィン(18)の外側にはアルミニウム製サイドプレート(19)が配置されてアウターフィン(18)にろう付されており、サイドプレート(19)と左右両端の組み合わせ体(16)との間にも通風間隙(17)が設けられている。
【0037】
蓄冷材容器(15)内には、容器本体部(21)の後側縁部から外方張り出し部(22)の前端部に至るアルミニウム製インナーフィン(23)が、上下方向のほぼ全体にわたって配置されている。インナーフィン(23)は、波頂部、波底部および波頂部と波底部とを連結する連結部とよりなるコルゲート状であり、波頂部および波底部を前後方向に向けて配置されている。インナーフィン(23)のフィン高さは全体に等しく、蓄冷材容器(15)の容器本体部(21)および外方張り出し部(22)の左側壁内面と、容器本体部(21)の右側壁内面とにろう付されている。
【0038】
図2〜図6に示すように、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)の上下両端部は、容器本体部(21)よりも上下方向外側に突出している。当該突出部を(24)で示す。突出部(24)の左右方向の寸法は、外方張り出し部(22)の左右方向の寸法と同一である。そして、蓄冷材容器(15)内に蓄冷材(図示略)を注入する蓄冷材注入パイプ(25)が、全ての蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)の上下両突出部(24)を貫通するように配置されている。すなわち、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)における突出部(24)の左右両側壁(24a)に、蓄冷材注入パイプ(25)を通す貫通穴(26)が形成されるとともに、左右両側壁(24a)における貫通穴(26)の周囲の部分にそれぞれ円筒状部(27a)を有する筒状のフランジ(27)が外方突出状に設けられており、蓄冷材注入パイプ(25)が、全ての蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)における突出部(24)の左右両側壁(24a)の貫通穴(26)およびフランジ(27)に通され、フランジ(27)の円筒状部(27a)が蓄冷材注入パイプ(25)の外周面に接触した状態でろう付されている。隣り合う2つの蓄冷材容器(15)の近接した筒状フランジ(27)の先端間には隙間(28)が設けられている。
【0039】
蓄冷材注入パイプ(25)の周壁における各蓄冷材容器(15)と対応する部分には、各蓄冷材容器(15)における外方張り出し部(22)の突出部(24)の左右両側壁(24a)に設けられた一方の筒状フランジ(27)の先端と他方の筒状フランジ(27)の先端との間の範囲内において、蓄冷材容器(15)における外方張り出し部(22)の突出部(24)内に通じる連通穴(29)が、周方向に間隔をおいて複数、ここでは2つ形成されている。連通穴(29)は、蓄冷材注入パイプ(25)の周壁の周方向にのびており、左右方向の幅は全長にわたって等しくなっている。また、上下両蓄冷材注入パイプ(25)の4つの両端開口のうちのいずれか1つが蓄冷材充填口となされるとともに、他の1つが空気抜き口となされており、蓄冷材充填口を通して全蓄冷材容器(15)内に蓄冷材が注入されるようになっている。このとき、蓄冷材は、まず蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)内に入り、インナーフィン(23)の隣り合う連結部間を通って、容器本体部(21)内に入る。そして、蓄冷材注入パイプ(25)の両端開口は、蓄冷材の注入後に蓄冷材注入パイプ(25)の両端部にろう付された閉鎖部材(31)により閉鎖されている。蓄冷材容器(15)内へ充填される蓄冷材としては、たとえば水系、パラフィン系などの凝固点が3〜10℃程度に調整されたものが用いられる。また、蓄冷材容器(15)内への蓄冷材の充填量は、全蓄冷材容器(15)内を上端部まで満たすような量とするのがよい。
【0040】
ここで、図6に示すように、蓄冷材注入パイプ(25)の連通穴(29)の左右方向の幅Aと、筒状フランジ(27)における蓄冷材注入パイプ(25)にろう付された円筒状部(27a)の左右方向の長さBと、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)における突出部(24)内の空間の左右方向の高さCとの比を、A:B:C=1.0:0.5〜0.9:0.5〜1.0とし、さらに当該比を満たした上で、蓄冷材注入パイプ(25)の連通穴(29)の左右方向の幅Aが1.0〜3.5mm、筒状フランジ(27)の円筒状部(27a)の左右方向の長さBが0.5〜3.2mm、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)の突出部(24)内の空間の左右方向の高さCが0.5〜3.5mmであることが好ましい。
【0041】
図7に示すように、蓄冷材容器(15)は、周縁部どうしが互いにろう付された2枚の略縦長方形状アルミニウム板(32)(33)よりなる。アルミニウム板(32)(33)は両面にろう材層を有するアルミニウムブレージングシートからなり、左右両方から見た外形は同一となっている。蓄冷材容器(15)を構成する左側のアルミニウム板(32)は、前側部分を除いた大部分を占めるとともに、左方に膨出した容器本体部(21)形成用の第1膨出部(34)と、第1膨出部(34)の前側に連なるとともに左方に膨出し、かつ第1膨出部(34)と膨出高さの等しい外方張り出し部(22)形成用の第2膨出部(35)と、第2膨出部(35)の上下両端部に設けられて左方に膨出し、かつ第2膨出部(35)と膨出高さの等しい突出部(24)形成用の第3膨出部(36)とを備えている。左端の蓄冷材容器(15)を除いた蓄冷材容器(15)を構成する左側アルミニウム板(32)における第3膨出部(36)と対応する部分に貫通穴(26)およびフランジ(27)が形成されている。
【0042】
蓄冷材容器(15)を構成する右側のアルミニウム板(33)は、前側部分を除いた大部分を占める容器本体部(21)形成用の平坦部(37)と、平坦部(37)の前側に連なるとともに右方に膨出した外方張り出し部(22)形成用の第1膨出部(38)と、第1膨出部(38)の上下両端部に設けられて右方に膨出し、かつ第1膨出部(38)と膨出高さの等しい突出部(24)形成用の第2膨出部(39)とを備えている。右端の蓄冷材容器(15)を除いた蓄冷材容器(15)を構成する右側アルミニウム板(33)における第2膨出部(39)の膨出端壁に貫通穴(26)およびフランジ(27)が形成されている。
【0043】
そして、2枚のアルミニウム板(32)(33)を、膨出部(35)(36)およ(38)(39)の開口どうしが対向するとともに、平坦部(37)により第1膨出部(34)の開口を閉鎖するように組み合わせてろう付することによって、蓄冷材容器(15)が形成されている。
【0044】
アウターフィン(18)の前側部分は、前側の冷媒流通管(13)よりも前方に突出させられており、アウターフィン(18)における前側の冷媒流通管(13)よりも前方に突出した部分が、左右両側に位置する蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)の左右両側面にろう付されている。
【0045】
上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、閉鎖部材(31)を除いた全部品を組み合わせて仮止めした後、仮止めした部品を一括してろう付し、ついで上下両蓄冷材注入パイプ(25)の4つの両端開口のうちのいずれか1つの蓄冷材充填口から全蓄冷材容器(15)内に蓄冷材を注入した後、両蓄冷材注入パイプ(25)の両端開口を閉鎖部材(31)により閉鎖されることにより製造される。
【0046】
そして、閉鎖部材(31)を除いた全部品を組み合わせて仮止めする際に、外部から見て蓄冷材注入パイプ(25)の連通穴(29)が、蓄冷材容器(15)のフランジ(27)に隠れるように組み合わせることによって、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)の突出部(24)内と、蓄冷材注入パイプ(25)の連通穴(29)とを通じさせることが可能になって、蓄冷材注入パイプ(25)を通しての蓄冷材容器(15)内への蓄冷材の注入を行うことができできるとともに、蓄冷材容器(15)内に注入した蓄冷材の洩れを防止することができる。
【0047】
上述した蓄冷機能付きエバポレータ(1)は、車両のエンジンを駆動源とする圧縮機、圧縮機から吐出された冷媒を冷却するコンデンサ(冷媒冷却器)、コンデンサを通過した冷媒を減圧する膨張弁(減圧器)とともにフロン系冷媒を使用する冷凍サイクルを構成し、カーエアコンとして、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両、たとえば自動車に搭載される。そして、圧縮機が作動している場合には、圧縮機で圧縮されてコンデンサおよび膨張弁を通過した低圧の気液混相の2相冷媒が、冷媒入口(7)を通って蓄冷機能付きエバポレータ(1)の冷媒入口ヘッダ部(5)内に入り、前側の全冷媒流通管(13)を通って第1中間ヘッダ部(9)内に流入する。第1中間ヘッダ部(9)内に入った冷媒は、連通部材(12)を通って第2中間ヘッダ部(11)内に入った後、後側の全冷媒流通管(13)を通って出口ヘッダ部(6)内に流入し、冷媒出口(8)から流出する。そして、冷媒が冷媒流通管(13)内を流れる間に、通風間隙(17)を通過する空気と熱交換をし、冷媒は気相となって流出する。
【0048】
このとき、冷媒流通管(13)内を流れる冷媒によって蓄冷材容器(15)の容器本体部(21)内の蓄冷材が冷却されるとともに、容器本体部(21)内の冷却された蓄冷材の有する冷熱がインナーフィン(23)を介して外方張り出し部(22)内の蓄冷材に伝えられ、さらに通風間隙(17)を通って冷媒により冷やされた空気によって蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)内の蓄冷材が冷却され、その結果蓄冷材容器(15)内全体の蓄冷材に冷熱が蓄えられる。
【0049】
圧縮機が停止した場合には、蓄冷材容器(15)の容器本体部(21)内の蓄冷材の有する冷熱が、容器本体部(21)の左側面から容器本体部(21)の左側面にろう付されているアウターフィン(18)を介して通風間隙(17)を通過する空気に伝えられるとともに、容器本体部(21)の右側面から冷媒流通管(13)および当該冷媒流通管(13)にろう付されているアウターフィン(18)を介して通風間隙(17)を通過する空気に伝えられる。また、蓄冷材容器(15)の外方張り出し部(22)内の蓄冷材の有する冷熱は、外方張り出し部(22)の左右両側面から外方張り出し部(22)の左右両側面にろう付されているアウターフィン(18)を介して通風間隙(17)を通過する空気に伝えられる。したがって、エバポレータ(1)を通過した風の温度が上昇したとしても、当該風は冷却されるので、冷房能力の急激な低下が防止される。
【0050】
上記実施形態において、蓄冷機能付きエバポレータの冷媒流通管は、所謂積層型エバポレータの場合と同様に、2枚のアルミニウム板を対向させて周縁部どうしをろう付することにより形成された扁平中空体に設けられていてもよい。すなわち、扁平中空体を構成する両アルミニウム板間に膨出状に形成されたものであってもよい。
【0051】
上記実施形態においては、上下2つの蓄冷材注入パイプが配置されているが、これに限定されるものではなく、蓄冷材注入パイプは上下のいずれか一方だけに配置されていてもよい。
【0052】
さらに、上記実施形態においては、前後方向に並んだ2つの冷媒流通管(13)からなる各組(14)および各組(14)の2つの冷媒流通管(13)に跨ってろう付された蓄冷材容器(15)の容器本体部(21)によって、複数の組み合わせ体(16)が構成されるとともに、当該組み合わせ体(16)が左右方向に間隔をおいて配置されており、隣り合う組み合わせ体(16)どうしの間が通風間隙(17)となり、当該通風間隙(17)にアルミニウム製アウターフィン(18)が配置されて冷媒流通管(13)および蓄冷材容器(15)にろう付されているが、これに限定されるものではなく、前後方向に並んだ2つの冷媒流通管からなる組が左右方向に間隔をおいて配置されるとともに、一部の複数の組の2つの冷媒流通管に跨って蓄冷材容器の容器本体部がろう付されていてもよい。この場合、蓄冷材容器の容器本体部の厚み方向の寸法を、左右方向に隣り合う組どうしの間隔に等しくし、容器本体部を左右両側の組を構成する冷媒流通管にろう付しておいてもよい。なお、前後方向に並んだ2つの冷媒流通管からなる組が左右方向に間隔をおいて配置されるとともに、一部の複数の組の2つの冷媒流通管に跨って蓄冷材容器の容器本体部がろう付されている場合、左右方向に隣り合う組どうしの間に、蓄冷材容器が存在しない箇所が生じるが、蓄冷材容器が存在しない箇所には、アウターフィンが配置されて左右両側の組を構成する冷媒流通管にろう付される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明による蓄冷機能付きエバポレータは、停車時に圧縮機の駆動源であるエンジンを一時的に停止させる車両のカーエアコンを構成する冷凍サイクルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0054】
(1):蓄冷機能付きエバポレータ
(13):冷媒流通管
(14):前後の冷媒流通管からなる組
(15):蓄冷材容器
(16):各組の冷媒流通管と蓄冷材容器の容器本体部との組み合わせ体
(17):通風間隙
(18):コルゲートフィン
(21):容器本体部
(22):外方張り出し部
(24):突出部
(24a):左右両側壁
(25):蓄冷材注入パイプ
(26):貫通穴
(27):フランジ
(27a):円筒状部(蓄冷材注入パイプの外周面に接触した状態で接合された部分)
(28):隙間
(29):連通穴
(32)(33):アルミニウム板(金属板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向にのびるとともに幅方向が通風方向を向いた複数の扁平状冷媒流通管が、左右方向に間隔をおいて配置され、冷媒流通管の片面側に、上下方向にのびるとともに幅方向を通風方向に向け、かつ内部に蓄冷材が封入された扁平状蓄冷材容器が配置されて冷媒流通管に接合された蓄冷機能付きエバポレータであって、
蓄冷材容器が、冷媒流通管に接合された容器本体部と、容器本体部の風上側縁部または風下側縁部に連なるとともに冷媒流通管よりも通風方向外側に張り出すように設けられた外方張り出し部とを備えており、蓄冷材容器内に蓄冷材を注入する蓄冷材注入パイプが、全ての蓄冷材容器の外方張り出し部を貫通するように配置され、蓄冷材注入パイプに、全ての蓄冷材容器の外方張り出し部内に通じる連通穴が形成されている蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項2】
蓄冷材容器の外方張り出し部の左右両側壁に、蓄冷材注入パイプを通す貫通穴が形成され、上記両側壁における貫通穴の周囲の部分に、それぞれ蓄冷材注入パイプの外周面に接触した状態で接合された部分を有する筒状のフランジが外方突出状に設けられ、各蓄冷材容器の外方張り出し部の左右両側壁に設けられた一方のフランジの先端と他方のフランジの先端との間の範囲内に、蓄冷材注入パイプの連通穴が外方張り出し部内に通じるように形成され、隣り合う2つの蓄冷材容器の近接したフランジの先端間に隙間が設けられている請求項1記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項3】
蓄冷材注入パイプの連通穴の左右方向の幅Aと、フランジにおける蓄冷材注入パイプに接合された部分の左右方向の長さBと、蓄冷材容器の外方張り出し部内空間の左右方向の高さCとの比を、A:B:C=1.0:0.5〜0.9:0.5〜1.0とする請求項2記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項4】
蓄冷材注入パイプの連通穴の左右方向の幅Aが1.0〜3.5mm、フランジにおける蓄冷材注入パイプに接合された部分の左右方向の長さBが0.5〜3.2mm、蓄冷材容器の外方張り出し部内空間の左右方向の高さCが0.5〜3.5mmである請求項3記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項5】
蓄冷材容器の外方張り出し部の上下両端部のうち少なくともいずれか一端部に、容器本体部よりも上下方向外側に突出した突出部が設けられており、蓄冷材注入パイプが蓄冷材容器の外方張り出し部の突出部を貫通している請求項1〜4のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項6】
蓄冷材容器が、周縁部どうしが互いに接合された2枚の金属板により形成され、両金属板のうち少なくとも一方の金属板を左右方向外方に膨出させることにより容器本体部および外方張り出し部が設けられており、両金属板に貫通穴およびフランジが設けられている請求項2〜5のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項7】
蓄冷材容器の外方張り出し部の左右方向の寸法が容器本体部の左右方向の寸法よりも大きくなっており、冷媒流通管および当該冷媒流通管に接合された蓄冷材容器の容器本体部からなる組み合わせ体が、冷媒流通管の厚み方向に間隔をおいて配置され、隣り合う組み合わせ体どうしの間が通風間隙とされ、通風間隙にフィンが配置されて冷媒流通管および容器本体部に接合され、フィンにおける通風方向の両側部分のうちの外方張り出し部が設けられた側の部分が、冷媒流通管よりも通風方向外側に突出させられ、蓄冷材容器の外方張り出し部の両面にフィンが接合されている請求項1〜6のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項8】
蓄冷材容器の風下側部分に外方張り出し部が設けられている請求項1〜7のうちのいずれかに記載の蓄冷機能付きエバポレータ。
【請求項9】
上記各組み合わせ体の冷媒流通管が、通風方向に間隔をおいて複数配置され、当該組み合わせ体の蓄冷材容器の容器本体部が、当該組み合わせ体の全冷媒流通管に跨るように配置されて冷媒流通管に接合されている請求項7または8記載の蓄冷機能付きエバポレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−242098(P2011−242098A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116940(P2010−116940)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】