説明

蓄熱材マイクロカプセルの製造方法

【課題】本発明の課題は、球状で、皮膜の物理的、化学的強度に優れる、融点約80℃以上の有機系蓄熱材を内包するマイクロカプセルを安定して製造できる方法を提供することである。
【解決手段】(1)融点が80〜130℃の無極性有機系蓄熱材を融点以上に加熱し、加圧状態で分散剤水溶液中に乳化分散し、蓄熱材乳化液を作製する工程、(2)蓄熱材乳化液を50℃以下に冷却する工程、(3)蓄熱材乳化液を60〜95℃に再加熱してin−situ重合法により、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を皮膜とするマイクロカプセル化を行う工程を含むことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセルの製造方法により、融点が80℃以上の有機系蓄熱材を内包するマイクロカプセルを安定して製造することができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱を蓄え得る蓄熱材マイクロカプセルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多量の冷熱や温熱を蓄えることができる蓄熱材としては、温度差のみを利用した顕熱蓄熱材と相変化時に発生する融解熱または凝固熱を利用した潜熱蓄熱材がある。特に高温度領域での使用に適した蓄熱材として、煉瓦、砂利、コンクリート、金属などの安価な固体の顕熱蓄熱材が利用されている。液体の顕熱蓄熱材としては、鉱物油、合成油、グリコール系の化合物が利用されている。潜熱蓄熱材としては、各種無機化合物の水和塩である無機系蓄熱材やノルマルパラフィン類、高級アルコール類、高級脂肪酸類、高級脂肪酸エステル類などの有機系蓄熱材が挙げられる。
【0003】
暖房用や給湯用を目的とした80℃以上の高温度域での潜熱蓄熱材としては、その蓄熱効果とコスト面から、パラフィンワックス、高級脂肪酸類等の有機系蓄熱材や無機化合物の水和塩などの無機系蓄熱材が実用的なものとして挙げられる。しかしながら、有機系蓄熱材は熱伝導性が悪い、体積変化が大きい、可燃性である、潜熱がそれほど大きくない等の欠点により、主として無機系蓄熱材が実用化されていた。
【0004】
有機系蓄熱材の上記欠点を補うために、蓄熱材マイクロカプセルが実用化されるようになってきている。有機系蓄熱材をマイクロカプセル化することにより、潜熱を含んだ液状スラリーとして取り扱うことができ、潜熱を流動状態で搬送して空調用に使用することが可能となっている。また、蓄熱材マイクロカプセルの液状スラリーを乾燥することで、固体として用いることができ、金属、樹脂、繊維などに練り込んだり、塗工したりして使用することが可能となっている。
【0005】
有機系蓄熱材をマイクロカプセル化する方法としては、複合エマルジョン法によるカプセル化法(例えば、特許文献1参照)、有機系蓄熱材粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(例えば、特許文献2参照)、有機系蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(例えば、特許文献3参照)、有機系蓄熱材粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(例えば、特許文献4参照)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(例えば、特許文献5参照)等の方法が知られている。
【0006】
上記マイクロカプセル化法の多くは、有機系蓄熱材を所望の大きさまで微小滴状とするために水中油滴型に乳化分散せしめる工程、即ち乳化工程が必要である。乳化工程において、微小滴状となる有機系蓄熱材が液体状態であれば乳化が容易であるが、固体状態の場合は有機系蓄熱材が溶融する温度以上に加熱して乳化を行う必要がある。しかしながら、水中油滴型の乳化条件下においては、分散媒が水であるため、有機系蓄熱材の融点が80℃以上の高温になると乳化液全体を常に融点以上の温度に保つことが困難となり、容器内で有機系蓄熱材の融点よりも低い温度に至った部分が生じた場合には、その部分の有機系蓄熱材は固まってしまい、均一な粒子径の乳化液を作製することは困難であった。
【0007】
固形状態分散方法として、物理的な粉砕装置を用いることにより微粒化することが可能であるが、その結果得られた粉砕物は、液体状態での乳化工程を経たものとは異なり、形状が球形ではなく、不定形となる。不定形粉砕物であっても、周囲より共重合し得る反応性のモノマーを供給して皮膜を形成することが可能であるが、粉砕物の凹凸の細部まで緻密な皮膜を形成することは困難であり、有機系蓄熱材を液体の状態で乳化分散を行って得たマイクロカプセルほど高い緻密性と堅牢性を得ることは困難であった。
【0008】
この問題点を解決する方法として、加圧可能な装置を用いて有機系蓄熱材の融点以上で乳化を行うことにより、球形で緻密な皮膜を有するマイクロカプセルを得る方法が開示されているが(例えば、特許文献6参照)、加圧可能な乳化装置内で乳化に続いてマイクロカプセル化を行うことは難しく、蓄熱材乳化液をマイクロカプセル化が可能な温度まで冷却した後にマイクロカプセル化を行うことが必要であった。
【0009】
しかしながら、有機系蓄熱材は高温では膨張状態にあり、また、冷却する段階で過冷却状態が発生し、液相と固相との共存状態となりやすく、均一な粒子径を維持してマイクロカプセル化を行うことが難しかった。さらには、蓄熱材乳化液の乳化状態が冷却工程で壊れる場合があり、安定して有機系蓄熱材のマイクロカプセルを得ることが難しいために、実用化されていないのが実状であった。
【特許文献1】特開昭62−1452号公報
【特許文献2】特開昭62−45680号公報
【特許文献3】特開昭62−149334号公報
【特許文献4】特開昭62−225241号公報
【特許文献5】特開平2−258052号公報
【特許文献6】特開2002−80835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、球状で、皮膜の物理的、化学的強度に優れる、融点が80℃以上の有機系蓄熱材を内包するマイクロカプセルを安定して製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、この課題を解決するため研究を行った結果、(1)融点が80〜130℃の無極性有機系蓄熱材を融点以上に加熱し、加圧状態で分散剤水溶液中に乳化分散し、蓄熱材乳化液を作製する工程、(2)蓄熱材乳化液を50℃以下に冷却する工程、(3)蓄熱材乳化液を60〜95℃に再加熱してin−situ重合法により、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を皮膜とするマイクロカプセル化を行う工程を含むことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセルの製造方法を見出した。
【発明の効果】
【0012】
有機系蓄熱材として無極性有機系蓄熱材を使用し、分散剤水溶液中に有機系蓄熱材を微小滴状に乳化分散する工程において、有機系蓄熱材の融点以上に加熱し、加圧状態にして有機系蓄熱材を溶融状態として乳化液を作製し、さらに、有機系蓄熱材が完全に固体状態になる温度まで一旦冷却した後に再加熱して、微小滴状の有機系蓄熱材の周囲に皮膜を形成し、マイクロカプセルを作製することによって、球状で、緻密な皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルを安定して得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法について詳細に説明する。本発明の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法は、(1)融点が80〜130℃の無極性有機系蓄熱材を融点以上に加熱し、加圧状態で分散剤水溶液中に乳化分散し、蓄熱材乳化液を作製する工程、(2)蓄熱材乳化液を50℃以下に冷却する工程、(3)蓄熱材乳化液を60〜95℃に再加熱してin−situ重合法により、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を皮膜とするマイクロカプセル化を行う工程を含むことを特徴としている。
【0014】
工程(1)において、蓄熱材乳化液は、分散剤を含む水溶液中に有機系蓄熱材を添加した後に、加圧密閉が可能で、強度的に丈夫な耐圧容器であり、しかも加熱装置として耐熱性があって激しい剪断力を施すことが可能な乳化装置を用いて、有機系蓄熱材の融点以上に加熱し、かつ加圧状態で乳化を行うことにより作製される。水を分散媒とした蓄熱材乳化液の温度は、大気圧下である1013mbar(0.1013MPa)の開放系においては100℃以上にはなり得ないが、容器を密閉状態として1013mbarを超える圧力にまで加圧して乳化を行うことにより、容器内の温度を100〜150℃とすることが可能となり、有機系蓄熱材も溶融状態となる。容器内の圧力の上限は、実用的な点から0.6MPa以下が好ましい。
【0015】
融点が80〜130℃の有機系蓄熱材としては、天然パラフィンワックス、合成パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、エチレン−プロピレン共重合ワックスなどの炭化水素化合物、高級アルコール類や高級脂肪酸類及びその金属塩、高級脂肪酸の長鎖エステル類などが挙げられる。本発明では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどの炭化水素化合物等の無極性有機系蓄熱材を好適に用いることができる。高級アルコール類や高級脂肪酸類及びその金属塩、高級脂肪酸の長鎖エステル類などの極性基や極性を有する結合を含んだ化合物は、高温の乳化状態から冷却する段階で乳化系が壊れやすく、使用することができない。
【0016】
本発明で用いられる分散剤としては、熱的に安定でマイクロカプセル化するために適するものであれば使用可能であり、カチオン系、アニオン系、ノニオン系何れの種類でも使用可能であるが、in−situ重合法においてはアニオン系の分散剤が適し、具体的には、脂肪酸石鹸、金属石鹸、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、ジアルキルスルフォこはく酸塩、ポリ(メタ)アクリル酸、スチレン無水マレイン酸共重合体加水分解物、α−アルキルスチレン無水マレイン酸共重合体加水分解物、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体加水分解物、ビニルトルエン無水マレイン酸共重合体加水分解物、スチレンベンジルメタクリレート無水マレイン酸共重合体加水分解物、エチレン無水マレイン酸共重合体加水分解物、イソブチレン無水マレイン酸共重合体加水分解物、酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体加水分解物などが用いられる。
【0017】
上記分散剤のうち、蓄熱材乳化液の安定性という点では、無水マレイン酸系共重合体加水分解物が好ましい。通常、無水マレイン酸系共重合体加水分解物は、無水マレイン酸系共重合ナトリウム塩として有機系蓄熱材の乳化に用いられる。また、無水マレイン酸系共重合体加水分解物としては、スチレン無水マレイン酸共重合体加水分解物、α−アルキルスチレン無水マレイン酸共重合体加水分解物が特に好ましい。
【0018】
工程(2)において、蓄熱材乳化液は、50℃以下まで一旦冷却される。これは、溶融状態の有機系蓄熱材を固体微粒子状の分散状態にするためであり、これにより有機系蓄熱材の極度の膨張状態が避けられ、次工程の60〜95℃に再加熱して行われるマイクロカプセル化のために必要な安定で均一な粒子径の蓄熱材乳化液とすることができる。工程(2)における冷却温度の下限は、蓄熱材乳化液の媒体である水が凝固する氷点以上であれば特に制限されることはない。通常は、20〜30℃程度の室温が好ましく、室温以下まで過剰に強制冷却する必要はない。
【0019】
工程(3)において、一旦冷却された蓄熱材乳化液を60〜95℃に再加熱し、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂の初期縮合物を添加して、加熱下で攪拌することにより蓄熱材マイクロカプセルを得ることができる。マイクロカプセルの皮膜としては、界面重合法、in−situ法等の手法によるポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、またゼラチンとカルボキシメチルセルロース若しくはアラビアゴムとのコアセルベーション法を利用した合成あるいは天然の樹脂が知られている。本発明では、高融点の有機系蓄熱材を内包し、高温にも耐えうる皮膜を形成し得るために、in−situ法によりメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を皮膜とするマイクロカプセル化を行う。in−situ法によるメラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を皮膜とするマイクロカプセル化法としては、公知の方法が用いられる。
【0020】
本発明において、無極性有機系蓄熱材には、必要に応じ過冷却防止剤、比重調節材、劣化防止剤等を添加することができる。本発明で好適に用いられる過冷却防止剤としては、無極性有機系蓄熱材と溶融状態で相溶性があり、無極性有機系蓄熱材の融点よりも10℃以上高く、140℃以下の融点を有する化合物が好ましい。無極性有機系蓄熱材との融点の差が10℃以内では、過冷却防止の効果が少ない場合がある。融点が140℃を超える場合、溶融のためにさらに高温に加熱する必要があり、マイクロカプセル皮膜や分散剤等の有機化合物の劣化を生じさせるおそれがある。過冷却防止剤は、具体的には、天然パラフィンワックス、合成パラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどの炭化水素化合物から適当な融点の化合物を選択して用いることができる。使用量は、無極性有機系蓄熱材に対し、0.5〜10質量%が好ましい。
【0021】
本発明の蓄熱材マイクロカプセルの平均粒子径は1〜50μmの範囲に設定することが好ましく、更には2〜10μmの範囲が最も好ましい。平均粒子径が1μmより小さいと物理的強度が高くなり、破壊は抑えられるものの、膜厚が薄くなって耐熱性が低下する場合がある。また、平均粒子径が50μmを超えると、物理的強度が低下することがあり、機械的剪断力に対して極めて弱くなる場合がある。蓄熱材マイクロカプセルの平均粒子径の制御は、分散剤の種類と濃度、分散工程時の温度と時間、乳化比(水相と油相の体積比率)、乳化機、分散機等と称される乳化装置の運転条件(攪拌回転数、時間等)等の因子で調節される。本発明で述べるマイクロカプセルの平均粒子径は体積平均粒子径を意味し、具体的には米国コールター社製コールターマルチサイザーを用いて測定された体積平均粒子径を表す。
【0022】
本発明の製造方法により得られる蓄熱材マイクロカプセルは、通常水分散液の形態で得られ、液状スラリーとして使用することができる。また、分散媒である水を乾燥又は脱水することにより固形物とすることが可能である。固形物としては、水分が全くない状態の完全な固形物に限らず、常温で流動性がないケーキ状態の形態もあり、例えばフィルタープレス、スクリュープレス、遠心分離法、蒸発乾燥法、噴霧乾燥法等の装置を用いて得られた水分含有量が40質量%以下に脱水したウェットケーキも含まれる。固形化処理を行う前に、金属粉、着色剤、比重調節材、分散助剤、接着剤、湿潤剤等をマイクロカプセル分散液中に添加することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は固形質量基準である。
【0024】
「メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液の作製」
メラミン粉末7部に37%ホルムアルデヒド水溶液13.5部と水30部を加え、pHを8に調整した後、70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。
【0025】
(実施例1)
pHを4.5に調整した10%スチレン無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100部中に、融点が104℃のパラフィンワックス(商品名:FT−105;日本精蝋社製)80部を加え、加熱及び加圧が可能な乳化装置により、130℃、0.40MPaの条件で、平均粒子径が3μmの蓄熱材乳化液を作製した。これを30℃まで冷却した後、60℃に再加熱して上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液の50.5部を添加して2時間攪拌を行った。放冷後、pHを9に調製して固形分濃度45%、平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液1を得た。
【0026】
(実施例2)
融点が104℃のパラフィンワックス80部の代わりに、融点が86℃のポリエチレンワックス(商品名:ポリワックス500;ベーカーペトロライト社)80部と融点が100℃のパラフィンワックス(商品名:FT−100;日本精蝋社製、過冷却防止剤)5部を用いる以外は実施例1と同様にして平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液2を得た。
【0027】
(実施例3)
融点が104℃のパラフィンワックス80部の代わりに、融点が125℃のポリエチレンワックス(商品名:ポリワックス2000;ベーカーペトロライト社製)80部を用い、乳化装置の加熱温度、加圧条件を140℃、0.45MPaとし、蓄熱材乳化液の冷却温度を50℃、再加熱温度を90℃とする以外は実施例1と同様にして平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液3を得た。
【0028】
(実施例4)
融点が104℃のパラフィンワックス80部に加え、融点が136℃のポリエチレンワックス(商品名:ハイワックス400P;三井化学社製、過冷却防止剤)3部を用いて平均粒子径が6μmの乳化液を作製し、再加熱温度を80℃とする以外は実施例1と同様にして平均粒子径6μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液4を得た。
【0029】
(実施例5)
融点が104℃のパラフィンワックス80部の代わりに、融点が90℃のパラフィンワックス(商品名:FNP−0090;日本精蝋社製)80部と融点が115℃のパラフィンワックス(FT−115;日本精蝋社製、過冷却防止剤)2部を用い、再加熱温度を80℃とする以外は実施例1と同様にして平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液5を得た。
【0030】
(実施例6)
蓄熱材乳化液の平均粒子径を10μmとする以外は実施例5と同様にして平均粒子径10μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液6を得た。
【0031】
(実施例7)
融点が100℃のパラフィンワックス5部の代わりに、融点が101℃のアマイドワックス(商品名:アマイドAP−1;日本化成社製、過冷却防止剤)2部を用いる以外は実施例2と同様にして平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液7を得たが、蓄熱材乳化液の冷却の際、凝集を防止するために強攪拌を行う必要があった。
【0032】
(実施例8)
pHを3.6に調整した10%エチレン無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100部中に、融点が86℃のポリエチレンワックス(商品名:ポリワックス500;ベーカーペトロライト社製)80部と融点が104℃のパラフィンワックス(商品名:FT−105;過冷却防止材)3部を加え、110℃、0.3MPaに加熱、加圧条件を設定した加圧型乳化装置を用いて、平均粒子径が3μmの蓄熱材乳化液を作製した。これを30℃まで冷却した後、60℃に再加熱し、尿素10部、レゾルシン1部、37%ホルムアルデヒド水溶液22部、水40部を加えて、3時間攪拌を行った。冷却後、pH8に調整して、固形分濃度42%、平均粒子径5μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液8を得た。
【0033】
(実施例9)
10%エチレン無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100部の代わりに、7%アクリル酸−スチレンスルホン酸−アクリル酸エチル共重合体水溶液100部を用いる以外は実施例8と同様にして平均粒子径が5μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液9を得た。
【0034】
(実施例10)
融点が104℃のパラフィンワックス80部の代わりに、融点が100℃のパラフィンワックス(商品名:FT−100;日本精蝋社製)80部と融点が104℃のパラフィンワックス(商品名:FT−105;過冷却防止材)3部を用いる以外は実施例1と同様にして平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液10を得た。
【0035】
(実施例11)
融点が104℃のパラフィンワックス80部の代わりに、融点が100℃のパラフィンワックス(商品名:FT−100;日本精蝋社製)80部と融点が115℃のパラフィンワックス(FT−115;日本精蝋社製、過冷却防止剤)3部を用いる以外は実施例1と同様にして平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液11を得た。
【0036】
(比較例1)
融点が104℃のパラフィンワックス80部の代わりに、融点が81℃のベヘニン酸80部を用いる以外は実施例1と同様にして行ったが、冷却する際に蓄熱材乳化液が凝固し、蓄熱材マイクロカプセル分散液を得ることはできなかった。
【0037】
(比較例2)
イソシアネートとアミンとの反応による界面重合法によるマイクロカプセル化のため、融点が104℃のパラフィンワックス(商品名:FT−105;日本精蝋社製)80部にヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(商品名:スミジュールN−3200;住化バイエルウレタン社製)8部を溶解し、スチレン無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100部と共に、加熱、加圧が可能な乳化装置中で乳化しようとしたが、ヘキサメチレンジイソシアネートと水との反応により凝集し、マイクロカプセル化はできなかった。
【0038】
(比較例3)
蓄熱材乳化液の冷却を80℃で止め、メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液の50.5部を添加して2時間攪拌を行う以外は実施例4と同様にして平均粒子径6μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液12を得た。
【0039】
(比較例4)
融点が104℃のパラフィンワックス80部の代わりに、融点が86℃のポリエチレンワックス(ポリワックス500;ベーカーペトロライト社)80部を用い、蓄熱材乳化液の冷却を60℃で止め、再加熱以降の操作は実施例1と同様にする以外は実施例1と同様にして平均粒子径3μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液13を得た。
【0040】
(比較例5)
融点が90℃のパラフィンワックス(商品名:FNP−0090;日本精蝋社製)80部と融点が115℃のパラフィンワックス(商品名:FT−115;日本精蝋社製、過冷却防止剤)2部を、室温でセラミック製のボールを用いた湿式粉砕器を用いて平均粒子径が10μmになるまで粉砕を行い、蓄熱材乳化液を得た。蓄熱材乳化液を60℃に加熱し、前記のメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液の全量を添加して2時間攪拌を行い、平均粒子径10μmの蓄熱材マイクロカプセル分散液14を得た。
【0041】
「蓄熱材マイクロカプセルの評価(1)」
実施例及び比較例で得られた蓄熱材マイクロカプセル分散液を150メッシュのふるいに通して粗粒の量を比べた結果、蓄熱材マイクロカプセル分散液1〜6及び8〜11については粗粒は見られなかった。蓄熱材マイクロカプセル分散液7では、若干量の粗粒が有り、蓄熱材マイクロカプセル分散液12および14では多量の粗粒が観察された。また、蓄熱材マイクロカプセル分散液13ではやや多い量の粗粒が観察された。蓄熱材マイクロカプセル分散液4と12との比較により、蓄熱材乳化液を一旦50℃以下まで冷却した後に再加熱してマイクロカプセル化した場合は粗粒の発生が少なく、均一な平均粒子径のマイクロカプセルが得られるが、一旦冷却せずにマイクロカプセル化を行った場合は、蓄熱材粒子の状態が不均一なことが原因と思われる粗粒が多量に発生して、品質上不十分なものになることが分かった。また、比較例4(蓄熱材マイクロカプセル分散液13)の結果より、乳化後に充分な冷却温度まで下げなかった場合も粗粒の発生が多くなることが分かった。
【0042】
「蓄熱材マイクロカプセルの評価(2)」
実施例及び比較例で得られた蓄熱材マイクロカプセル分散液を105℃の乾燥機中で1時間乾燥して質量を測定した後、200℃の乾燥機中に3時間放置して、質量変化の程度を比べた結果、蓄熱材の融点の違いによって多少の違いはあるが、蓄熱材マイクロカプセル分散液1〜6及び10〜11については3%以下であり、良好な蓄熱材マイクロカプセルが得られていることが分かった。蓄熱材マイクロカプセル分散液7〜9では、各々6%、4%、6%とやや悪い結果であったが、実用可能なレベルであった。蓄熱材マイクロカプセル分散液12及び13では、質量減少率が20%と悪目であり、蓄熱材マイクロカプセル分散液14については、質量減少率が90%を超えて大部分の蓄熱材が揮散した状態であり、マイクロカプセルの皮膜が不十分な出来であることが分かった。
【0043】
「蓄熱材マイクロカプセルの評価(3)」
実施例1、4、10及び11で得られた蓄熱材マイクロカプセル分散液1、4、10及び11をそれぞれ105℃の乾燥機中で1時間乾燥して水分を除去して得られた蓄熱材マイクロカプセルについて、示差走査熱量計(米国パーキンエルマー社製DSC−7型)を用いて昇温時、降温時の熱容量曲線の主ピーク温度の差を測定した。測定は、サンプル量2±0.2mg、昇温速度10℃/分および降温速度10℃/分にて行った。蓄熱材自体の熱容量曲線がブロードであるため、主ピーク温度の差を見ることにより過冷却状態の良否を判断したものであり、数値が小さい方が過冷却防止効果が大きく、好ましい状態を表す。実施例1では9.8℃、実施例4では−4.0℃、実施例10では3.2℃、実施例11では−5.0℃であり、過冷却防止剤として、無極性有機系蓄熱材の融点より10℃以上融点が高い実施例4及び11では良好な過冷却防止効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法により得られる蓄熱材マイクロカプセルは、分散液のまま液状スラリーとして使用することができ、その活用例としては、ボイラーや各種燃焼釜からの廃熱及び太陽熱を利用する暖房用や給湯用の蓄熱装置などが挙げられる。また、シート状支持体、例えば、セルロース繊維からなる紙、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリウレタン繊維等からなる合成繊維シートに塗工、又は含浸して蓄熱性を有するシートとして取り扱うことができる。固形物とした蓄熱材マイクロカプセルをシリコンゴムやポリオレフィンゴムに練り混んでシート化することもできる。これらの蓄熱性を有するシートは、精密電子部品等の異常な温度上昇を吸収して機器の破損を防ぐ温度障壁の機能を有する発熱抑制シートとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)融点が80〜130℃の無極性有機系蓄熱材を融点以上に加熱し、加圧状態で分散剤水溶液中に乳化分散し、蓄熱材乳化液を作製する工程、(2)蓄熱材乳化液を50℃以下に冷却する工程、(3)蓄熱材乳化液を60〜95℃に再加熱してin−situ重合法により、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂または尿素−ホルムアルデヒド樹脂を皮膜とするマイクロカプセル化を行う工程を含むことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
過冷却防止剤として、無極性有機系蓄熱材の融点より10℃以上高く、140℃以下である融点を有するパラフィンワックスおよびポリエチレンワックスから選択される少なくとも1種の炭化水素化合物が無極性有機系蓄熱材に含有されている請求項1記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
分散剤が、無水マレイン酸重合体ナトリウム塩である請求項1記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2009−84527(P2009−84527A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259751(P2007−259751)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】