説明

蓄電性素子の制御方法、および、蓄電性素子の制御装置

【課題】ピエゾ素子431が有する一方の電極に与えられる電位を低く抑えつつも、一方の電極と他方の電極の電位差を大きくする。
【解決手段】次のステップを有するピエゾ素子431の制御方法である。まず、最初のステップでは、ピエゾ素子431が有する第1個別電極431bを駆動信号生成部51に接続して、第1個別電極431bを第2個別電極431cよりも高い電位にする。次のステップでは、インクを吐出させるための動作をピエゾ素子431に行わせるため、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルを介して接続し、第2個別電極431cへ正電荷を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電性素子の制御方法、および、蓄電性素子の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ素子やコンデンサ等の蓄電性素子の充放電を制御するための制御装置は、例えば、インクジェットプリンタ(液体吐出装置の一種に相当する。以下、単にプリンタともいう。)に用いられている。この制御装置には、コイルと蓄電性素子による共振を用いて充放電を制御するものがある(例えば、特許文献1を参照。)。共振を用いるのは、蓄電性素子の動作時における損失を極力抑えることができるからである。その結果、リニアアンプや抵抗性の素子を使った場合に生じる発熱や過度な電力消費といった問題を抑制することができる。この制御装置は、ヘッドからインクを吐出させる際に、例えばピエゾ素子を充電することで、ヘッドが有する圧力室を膨張させ、次にピエゾ素子を放電することで圧力室を収縮させてインクを吐出させる。その後、ピエゾ素子を充電することで、圧力室を膨張させて初期状態に戻している。このような制御を実現するため、蓄電性素子(ピエゾ素子)には、複数種類の電位が与えられる。すなわち、プリンタには、与える電位毎に、複数個の電源が設けられており、制御装置は、これらの電源を蓄電性素子が有する一方の電極へ順次接続している。そして、蓄電性素子の他方の電極には、固定電位(例えば接地電位)が与えられている。
【特許文献1】特開平11−320872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前述した制御装置は、蓄電性素子が有する一方の電極について、その電位を調整している。この蓄電性素子は、一方の電極と他方の電極の電位差に応じて動作するので、電位差が大きいほど動作範囲を拡げることができる。前述した装置において、一方の電極と他方の電極の電位差を大きくするためには、一方の電極に与えられる電位をその分だけ高くする必要がある。しかし、この電位が高くなるほど、回路を構成する素子に制約が生じる等の不都合が生じ、好ましくない。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、一方の電極に与えられる電位を低く抑えつつも、蓄電性素子が有する一方の電極と他方の電極の電位差を大きくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための主たる発明は、
(a)蓄電性素子が有する一方の電極を他方の電極よりも高い電位にするステップと、
(b)前記蓄電性素子に所定の動作を行わせるべく、前記一方の電極と前記他方の電極とをコイルを介して接続して前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップと、
を有する蓄電性素子の制御方法である。
【0006】
本発明の他の特徴については、本明細書および添付図面の記載によって明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
すなわち、蓄電性素子が有する一方の電極を他方の電極よりも高い電位にするステップと、前記蓄電性素子に所定の動作を行わせるべく、前記一方の電極と前記他方の電極とをコイルを介して接続して前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップと、を有する蓄電性素子の制御方法が実現できること。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、蓄電性素子に所定の動作を行わせる際に、蓄電性素子が有する一方の電極と他方の電極がコイルを介して接続され、共振回路が形成される。このため、正電荷は、共振によって他方の電極へ移動する。このとき、正電荷は、一方の電極の電位と他方の電極の電位が揃った後も他方の電極へ向けて流れ続ける。このため、一方の電極に与えられる電位を低く抑えつつも、一方の電極と他方の電極の電位差を大きくすることができる。
【0009】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、前記一方の電極と前記他方の電極とを、前記コイル、および、前記一方の電極から前記他方の電極へ向かう方向の正電荷の移動を許容するダイオードを介して接続することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、一方の電極と他方の電極との間にダイオードが介在しているので、一方の電極から他方の電極へ向かう方向の正電荷の移動は許容され、反対方向の正電荷の移動は阻止される。このため、一方の電極と他方の電極の電位差が最大の状態で、正電荷の移動を自然に停止させることができる。
【0010】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記蓄電性素子が有する一方の電極を他方の電極よりも高い電位にするステップでは、駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記一方の電極に印加することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、所定の動作の開始直前までの一方の電極の電位が駆動信号によって定められるので、蓄電性素子の動作を精度良く定めることができる。
【0011】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記一方の電極と前記他方の電極の電位を揃えるステップを、前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップよりも後に有することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、蓄電性素子に所定の動作を繰り返し行わせる場合において、一方の電極と他方の電極の電位を初期状態にすることができる。これにより、所定の動作について各回のばらつきを抑制することができる。
【0012】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記一方の電極と前記他方の電極の電位を揃えるステップでは、駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記他方の電極に印加することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、一方の電極と他方の電極の電位を確実に初期状態にすることができる。また、所定の動作の終了後から初期状態にするまでの期間における蓄電性素子の動作も精度良く定めることができる。
【0013】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、複数の蓄電性素子から、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子を選択するステップを有し、前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、それぞれが有する他方の電極へ接続することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、複数の蓄電性素子について、所定の動作を選択的に行わせることができる。
【0014】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記選択された蓄電性素子に応じて、インダクタンスを調整するために設けられた複数のコイルから、所定のコイルを選択するステップを有し、前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に、前記選択されたコイルを介して接続することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、コイルを選択することでインダクタンスを調整できる。これにより、選択された蓄電性素子、および、選択されたコイルによる共振回路の共振周期を調整することができる。このため、選択された蓄電性素子に応じて動作を最適化できる。例えば、蓄電性素子の選択状態に拘わらず、一定の動作を行わせることができる。
【0015】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記所定のコイルを選択するステップでは、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子の数に応じて、前記所定のコイルを選択することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、所定の動作を行わせる蓄電性素子の数に応じて所定のコイルを選択するので、制御を容易に行うことができる。
【0016】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記選択された蓄電性素子に応じて、静電容量を調整するために設けられた複数の他の蓄電性素子から、所定の他の蓄電性素子を選択するステップを有し、前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に、前記コイルを介して接続することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、他の蓄電性素子を選択することで、選択された蓄電性素子および他の蓄電性素子による合成静電容量を調整できる。これにより、選択された蓄電性素子および他の蓄電性素子とコイルによる共振周期を調整できる。このため、選択された蓄電性素子の動作を最適化できる。例えば、選択状態に拘わらず、蓄電性素子に一定の動作を行わせることができる。
【0017】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記他の蓄電性素子を選択するステップでは、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子の数に応じて、前記他の蓄電性素子を選択することが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、所定の動作を行わせる蓄電性素子の数に応じて他の蓄電性素子を選択するので、制御を容易に行うことができる。
【0018】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記蓄電性素子は、液体を吐出するためのヘッドに設けられ、前記液体を吐出させるための動作を前記所定の動作として行うことが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、液体を吐出するためのヘッドについて消費電力を抑えることができる。
【0019】
かかる蓄電性素子の制御方法であって、前記蓄電性素子は、ピエゾ素子によって構成されていることが好ましい。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、液体を吐出させるために十分な力と、高い応答性を得ることができる。
【0020】
また、次の蓄電性素子の制御装置を実現することができる。
すなわち、液体を吐出するためのヘッドに設けられるとともにピエゾ素子によって構成され、前記液体を吐出させる動作を所定の動作として行う複数の蓄電性素子から、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子を選択するステップと、前記選択された蓄電性素子の数に応じて、インダクタンスを調整するために設けられた複数のコイルから、所定のコイルを選択するステップと、駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、それぞれが有する他方の電極よりも高い電位にするステップと、前記選択された蓄電性素子に所定の動作を行わせるべく、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極とそれぞれが有する他方の電極とを、前記選択されたコイルとダイオードとを介して接続して前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極へ正電荷を移動させるステップと、前記駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極と前記他方の電極の電位を揃えるステップと、を有する蓄電性素子の制御方法を実現することができる。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、既述の効果を奏するので、本発明の目的が有効に達成される。
【0021】
また、次の蓄電性素子の制御装置を実現することもできる。
すなわち、液体を吐出するためのヘッドに設けられるとともにピエゾ素子によって構成され、前記液体を吐出させる動作を所定の動作として行う複数の蓄電性素子から、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子を選択するステップと、前記選択された蓄電性素子の数に応じて、静電容量を調整するために設けられた複数の他の蓄電性素子から、所定の他の蓄電性素子を選択するステップと、駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、それぞれが有する他方の電極よりも高い電位にするステップと、前記選択された蓄電性素子に所定の動作を行わせるべく、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極とそれぞれが有する他方の電極とを、コイルとダイオードとを介して接続して前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極へ正電荷を移動させるステップと、前記駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極とそれぞれが有する他方の電極の電位を揃えるステップと、を有する蓄電性素子の制御方法を実現することもできる。
このような蓄電性素子の制御方法によれば、既述の効果を奏するので、本発明の目的が有効に達成される。
【0022】
また、次の蓄電性素子の制御装置を実現することができる。
すなわち、コイルと、一方の電極と他方の電極の電位差に応じて動作をする蓄電性素子の、前記一方の電極と前記他方の電極との間に、前記コイルを接続するためのスイッチ部と、前記スイッチ部を制御するコントローラであって、前記蓄電性素子が有する一方の電極が他方の電極よりも高い電位になっている状態で、前記一方の電極と前記他方の電極とを前記コイルを介して接続して前記他方の電極へ正電荷を移動させるよう、前記スイッチ部を制御するコントローラと、を有する蓄電性素子の制御装置を実現することもできる。
【0023】
===第1実施形態===
<蓄電性素子、および、その制御装置について>
蓄電性素子は、電荷を蓄えることのできる素子のことであり、例えば、ピエゾ素子やコンデンサが該当する。また、蓄電性素子の制御装置は、蓄電性素子に対する充電や放電を制御するものである。これらの蓄電性素子、および、その制御装置は、例えば、プリンタに搭載されている。詳細は後述するが、このプリンタには、インクを吐出させるための駆動源としてピエゾ素子が用いられている。このピエゾ素子は、蓄えた電荷の量に応じて変形量が定まる。このようなピエゾ素子は、電極間の電位差に応じて所定の動作を行う蓄電性素子に相当する。
【0024】
このプリンタは、ピエゾ素子の充放電を制御することでインクを吐出させている。そして、プリンタは、吐出させたインクを用紙等の媒体上に着弾させることで、画像を印刷する。このため、プリンタは、印刷装置の一種に相当し、且つ、液体吐出装置の一種に相当する。なお、液体吐出装置には、プリンタ(印刷装置)の他、カラーフィルタ製造装置、ディスプレイ製造装置、半導体製造装置、およびDNAチップ製造装置など、様々な種類がある。本明細書では、印刷装置としてのプリンタ、および、このプリンタを有する印刷システムを例に挙げて説明をする。ここで、印刷システムとは、印刷装置と、この印刷装置の動作を制御する印刷制御装置とを少なくとも有するシステムのことであり、液体吐出装置と吐出制御装置とを有する液体吐出システムの一形態に相当する。
【0025】
===印刷システム100===
図1は、印刷システム100の構成を説明する図である。例示した印刷システム100は、印刷装置としてのプリンタ1と、印刷制御装置としてのコンピュータ110とを含んでいる。具体的には、この印刷システム100は、プリンタ1と、コンピュータ110と、表示装置120と、入力装置130と、記録再生装置140とを有している。プリンタ1は、用紙、布、フィルム等の媒体にインク(液体の一種)を吐出して画像を印刷する。なお、この媒体は、液体が吐出される対象となる対象物に相当する。また、以下の説明では、代表的な媒体である用紙S(図3Aを参照。)を例に挙げて説明する。コンピュータ110は、プリンタ1と通信可能に接続されている。そして、プリンタ1に画像を印刷させるため、コンピュータ110は、その画像に応じた印刷データをプリンタ1に出力する。このコンピュータ110には、アプリケーションプログラムやプリンタドライバ等のコンピュータプログラムがインストールされている。表示装置120は、例えば、コンピュータプログラムのユーザーインタフェースを表示する。入力装置130は、例えば、キーボード131やマウス132である。記録再生装置140は、例えば、フレキシブルディスクドライブ装置141やCD−ROMドライブ装置142である。
【0026】
===コンピュータ110===
<コンピュータ110の構成について>
図2は、コンピュータ110、およびプリンタ1の構成を説明するブロック図である。まず、コンピュータ110の構成について簡単に説明する。このコンピュータ110は、前述した記録再生装置140と、ホスト側コントローラ111とを有している。記録再生装置140は、ホスト側コントローラ111と通信可能に接続されており、例えばコンピュータ110の筐体に取り付けられている。ホスト側コントローラ111は、コンピュータ110における各種の制御を行うものであり、前述した表示装置120や入力装置130も通信可能に接続されている。このホスト側コントローラ111は、インタフェース部112と、CPU113と、メモリ114とを有する。インタフェース部112は、プリンタ1との間でデータの受け渡しを行う。CPU113は、コンピュータ110の全体的な制御を行うための演算処理装置である。メモリ114は、CPU113が使用するコンピュータプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM、ROM、磁気ディスク装置等によって構成される。このメモリ114に格納されるコンピュータプログラムとしては、前述したアプリケーションプログラムやプリンタドライバがある。そして、CPU113は、メモリ114に格納されているコンピュータプログラムに従って各種の制御を行う。
【0027】
印刷データは、プリンタ1が解釈できる形式のデータであって、各種のコマンドデータと、ドット形成データSI(図6を参照。)とを有する。コマンドデータとは、プリンタ1に特定の動作の実行を指示するためのデータである。このコマンドデータには、例えば、給紙を指示するコマンドデータ、搬送量を示すコマンドデータ、排紙を指示するコマンドデータがある。また、ドット形成データSIは、印刷される画像を構成するドットに関するデータである。ここで、ドットは、用紙Sの上に仮想的に定められた方眼状の升目(単位領域ともいう。)毎に、形成又は非形成が定められる。本実施形態におけるドット形成データSIは、1ノズルあたり1ビットのデータによって構成されている。すなわち、このドット形成データSIは、ドットの形成(インクの吐出)に対応するデータ[1]と、ドットの非形成(インクの非吐出)に対応するデータ[0]によって構成されている。
【0028】
===プリンタ1===
<プリンタ1の構成について>
次に、プリンタ1の構成について説明する。ここで、図3Aは、本実施形態のプリンタ1の構成を示す図である。図3Bは、本実施形態のプリンタ1の構成を説明する側面図である。なお、以下の説明では、図2も参照する。このプリンタ1は、図2に示すように、用紙搬送機構20、キャリッジ移動機構30、ヘッドユニットHU(ヘッド40,ヘッド制御部HC)、駆動制御部50、検出器群60、および、プリンタ側コントローラ70を有する。駆動制御部50とプリンタ側コントローラ70は共通のコントローラ基板CTRに実装されている。このコントローラ基板CTRとヘッドユニットHUとの間は、可撓性を有するフラットケーブルFCを介して接続されている。
【0029】
このプリンタ1では、プリンタ側コントローラ70によって制御対象部、すなわち用紙搬送機構20、キャリッジ移動機構30、ヘッド40、ヘッド制御部HC、および、駆動制御部50が制御される。そして、プリンタ側コントローラ70は、コンピュータ110から受け取った印刷データに基づいて制御対象部を制御し、用紙Sに画像を印刷させる。このとき、検出器群60の各検出器は、プリンタ1内の各部の状態を検出しており、検出結果をプリンタ側コントローラ70に出力する。各検出器からの検出結果を受けたプリンタ側コントローラ70は、その検出結果に基づいて制御対象部を制御する。
【0030】
<用紙搬送機構20について>
用紙搬送機構20は、媒体を搬送させる媒体搬送部に相当する。この用紙搬送機構20は、媒体としての用紙Sを印刷可能な位置に送り込んだり、この用紙Sを搬送方向に所定の搬送量で搬送させたりするものである。図3Aおよび図3Bに示すように、用紙搬送機構20は、給紙ローラ21と、搬送モータ22と、搬送ローラ23と、プラテン24と、排紙ローラ25とを有する。給紙ローラ21は、紙挿入口に挿入された用紙Sをプリンタ1内に自動的に送るためのローラであり、この例ではD形の断面形状をしている。搬送モータ22は、用紙Sを搬送方向に搬送させるためのモータであり、その動作は、プリンタ側コントローラ70によって制御される。搬送ローラ23は、給紙ローラ21によって送られてきた用紙Sを、印刷可能な領域まで搬送するためのローラである。プラテン24は、用紙Sを裏面側から支持するための部材である。排紙ローラ25は、印刷が終了した用紙Sを搬送するためのローラである。
【0031】
<キャリッジ移動機構30について>
キャリッジ移動機構30は、ヘッドユニットHUが取り付けられたキャリッジCRをキャリッジ移動方向に移動させるためのものである。キャリッジ移動機構30は、キャリッジモータ31と、ガイド軸32と、タイミングベルト33と、駆動プーリー34と、アイドラプーリー35とを有する。キャリッジモータ31は、キャリッジCRを移動させるための駆動源に相当する。このキャリッジモータ31の動作は、プリンタ側コントローラ70によって制御される。そして、キャリッジモータ31の回転軸には、駆動プーリー34が取り付けられている。この駆動プーリー34は、キャリッジ移動方向の一端側に配置されている。駆動プーリー34とは反対側のキャリッジ移動方向の他端側には、アイドラプーリー35が配置されている。タイミングベルト33は、キャリッジCRに接続されているとともに、駆動プーリー34とアイドラプーリー35とに架け渡されている。ガイド軸32は、キャリッジCRを移動可能な状態で支持する。このガイド軸32は、キャリッジ移動方向に沿って取り付けられている。従って、キャリッジモータ31が動作すると、キャリッジCRはこのガイド軸32に沿ってキャリッジ移動方向に移動する。
【0032】
<ヘッドユニットHUについて>
ヘッドユニットHUは、液体の一種であるインクを、媒体の一種である用紙Sに向けて吐出させるためのものであり、キャリッジCRに取り付けられている。このヘッドユニットHUは、ヘッド40とヘッド制御部HCとを有している。ここでは、ヘッド40について説明し、ヘッド制御部HCについては後で説明する。図4Aは、ヘッド40の構造を説明するための断面図である。図4Bは、ヘッド40の主要部を拡大して示す断面図である。図4Cは、ヘッド40が有するピエゾ素子431の構造を説明する図である。図4Dは、ヘッド40が有するピエゾ素子431の変形を模式的に説明する図である。図5は、ヘッド40が有するノズル列の配置を説明する図である。
【0033】
<ヘッド40について>
ヘッド40は、ケース41と、流路ユニット42と、ピエゾ素子ユニット43とを有する。ケース41は、ピエゾ素子ユニット43を収容するための収容室411を有するブロック状の部材である。流路ユニット42は、流路形成板421と、流路形成板421の一方の表面に接合された弾性板422と、流路形成板421の他方の面に接合されたノズルプレート423とを有する。流路形成板421には、圧力室421aとなる溝部、ノズル連通口421bとなる貫通口、共通インク室421c(「共通液室」に相当する。)となる貫通口、および、インク供給路421d(「液体供給路」に相当する。)となる溝部が形成されている。弾性板422は、支持枠422aと、弾性膜422bと、アイランド部422cとを有する。そして、弾性膜422bは、圧力室421aとなる溝部の開口を覆う。アイランド部422cは、圧力室421aとは反対側となる弾性板422の表面に設けられている。これにより、アイランド部422cの周囲には、弾性膜422bによる弾性領域が形成されている。そして、弾性膜422bにおける溝部の開口を覆っている部分、および、アイランド部422cは、圧力室421aの一部を区画する弾性部に相当し、ピエゾ素子431によって弾性膜422bが変形される。また、ノズルプレート423には、ノズルNzが複数個設けられている。
【0034】
ピエゾ素子ユニット43は、複数のピエゾ素子431と、接着用基板432とから構成されている。前述したように、ピエゾ素子431は、電荷を蓄えることのできる蓄電性素子の一種であり、蓄えた電荷の量に応じて変形する。例示したピエゾ素子431は、圧電体層と電極層を交互に積層して焼成したピエゾ基板を櫛歯状に切ることで作製されている。そして、ピエゾ素子431の上半部分が接着用基板432に接着されている。これにより、ピエゾ素子431は、所謂片持ち梁の状態で接着用基板432に固定されている。そして、ピエゾ素子431のそれぞれは互いに平行に固定され、下半部分の先端面はアイランド部422cに接合されている。
【0035】
図4Cに示すように、ピエゾ素子431は、誘電体としての圧電体層431aを挟んで、第1個別電極431b(一方の電極に相当する。)と第2個別電極431c(他方の電極に相当する。)とを交互に積層した構造となっている。つまり、複数のピエゾ素子431のそれぞれは、第1個別電極431bと第2個別電極431cとを有している。ここで、第1個別電極431bおよび第2個別電極431cは、その電位がピエゾ素子431毎に制御されるものであるため、ピエゾ素子431毎に分けられている。そして、積層方向に見て第1個別電極431bと第2個別電極431cとが重なっている部分は、伸縮部(変形部に相当する。)である。この伸縮部は、接着用基板432の縁よりも外側に位置しており、第1個別電極431bの電位と第2個別電極431cの電位の差に応じて伸縮する(即ち、変形する)。例えば、図4Dに示すように、第1個別電極431bの電位が第2個別電極431cの電位よりも高い場合、伸縮部は積層方向とは直交する方向に収縮し、基準状態に対応する長さX1よりも短い長さX2になる。一方、第2個別電極431cの電位が第1個別電極431bの電位よりも高い場合、伸縮部は積層方向とは直交する方向に伸長し、基準状態に対応する長さX1よりも長い長さX3になる。このようなピエゾ素子431は、電気エネルギーから機械的なエネルギーが得られるので、インクを吐出させるためのアクチュエータとして適している。また、電位と伸縮量との間に高い相関関係があるので、高い精度で制御ができる。
【0036】
接着用基板432は矩形状の板であり、一方の表面には複数のピエゾ素子431の上半部分(根本部分)が接着されている。また、他方の表面は、ケース41に接着されている。接着用基板432がケース41に接着されていることから、ピエゾ素子431は、その変形によってアイランド部422cを変位させる。簡単に説明すると、ピエゾ素子431が伸長した場合には、アイランド部422cが圧力室421a側に押され、ピエゾ素子431が収縮した場合には、アイランド部422cが反対側に引っ張られる。このようなアイランド部422cの変位によって、弾性膜422bが変形し、圧力室421a内のインクに圧力変動を生じさせることができる。その結果、圧力室421aに連通したノズルNzからインクを吐出させることができる。
【0037】
図5に示すように、ノズルプレート423には、複数のノズルNzが設けられている。そして、所定数のノズルNzが所定間隔で形成されてノズル列を構成している。この例では、60個のノズルNzが所定間隔k・D毎(kは定数,Dはドット同士の最小間隔)に形成され、1つのノズル列を構成している。また、このヘッド40には、4つのノズル列がキャリッジ移動方向に設けられている。各ノズル列は、ブラックインク用のノズル列Nkと、シアンインク用のノズル列Ncと、マゼンタインク用のノズル列Nmと、イエローインク用のノズル列Nyとなっている。従って、1つのヘッド40には、合計240個のノズルNzが設けられている。また、ピエゾ素子431も、ノズルNzと同じ数が設けられている。そして、各ピエゾ素子431の静電容量は揃っている。本実施形態において、ピエゾ素子431の1個あたりの静電容量は例えば0.5nFである。
【0038】
<駆動制御部50について>
駆動制御部50は、ピエゾ素子431が有する第1個別電極431bや第2個別電極431cの電位を制御するための動作を行う。また、この駆動制御部50は、インクの吐出時に用いられるコイル(第1コイルL1〜第8コイルL8,図8を参照。)を選択する動作も行う。これらの動作について簡単に説明すると、まず、圧力室421aを膨張させている期間(第1個別電極431bの電位を最も高くするまでの期間)は、駆動信号生成部51(図6を参照。)によって、第1個別電極431bの電位を定める。次に、インクを吐出させるべく圧力室421aを収縮させている期間(第1個別電極431bから第2個別電極431cへ正電荷を移動させている期間)は、第1個別電極431bと第2個別電極431cとを、インダクタンス調整部52内で選択されたコイルL1〜L8を介して接続する。最後に、圧力室421aを初期状態に戻す期間(第2個別電極431cの電位を下降させている期間)は、駆動信号生成部51によって、第1個別電極431bの電位を定める。なお、この駆動制御部50については、後で詳しく説明する。
【0039】
<検出器群60について>
検出器群60は、プリンタ1の状況を監視するためのものである。図3A,図3Bに示すように、この検出器群60には、リニア式エンコーダ61、ロータリー式エンコーダ62、紙検出器63、および紙幅検出器64が含まれている。リニア式エンコーダ61は、キャリッジCRのキャリッジ移動方向の位置を検出するためのものである。ロータリー式エンコーダ62は、搬送ローラ23の回転量を検出するためのものである。紙検出器63は、印刷される用紙Sを検出するためのものである。紙幅検出器64は、印刷される用紙Sの幅を検出するためのものである。
【0040】
<プリンタ側コントローラ70について>
プリンタ側コントローラ70は、プリンタ1が有する各部を制御するものである。このプリンタ側コントローラ70は、図2に示すように、インタフェース部71と、CPU72と、メモリ73と、制御ユニット74とを有する。インタフェース部71は、外部装置であるコンピュータ110との間でデータの受け渡しを行う。CPU72は、プリンタ1の全体的な制御を行うための演算処理装置である。メモリ73は、CPU72のプログラム(制御用のコードも含む。)を格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM、ROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU72は、メモリ73に記憶されているコンピュータプログラムに従って動作する。
【0041】
プリンタ側コントローラ70は、用紙Sに画像を印刷させるための制御を行う。この制御時において、プリンタ側コントローラ70は、所定の搬送量で用紙Sを搬送させる動作と、キャリッジCR(ヘッド40)を移動させながら断続的にインクを吐出させる動作とを交互に行わせる。このため、プリンタ側コントローラ70は、搬送モータ22の回転量を制御することで用紙Sの搬送を制御し、キャリッジモータ31の回転を制御することでキャリッジCRの移動を制御する。
【0042】
また、プリンタ側コントローラ70は、ヘッド40の動作を制御するためのヘッド制御信号(例えば、クロックCLK,ドット形成データSI,ラッチ信号LAT,リセット信号RST,図6を参照。)をヘッド制御部HCへ出力する。さらに、プリンタ側コントローラ70は、駆動制御部50が有する駆動信号生成部51に所定の駆動信号を生成させるため、信号生成情報を出力する。加えて、プリンタ側コントローラ70は、ピエゾ素子431を充放電するために駆動制御部50を制御する。例えば、ピエゾ素子431が有する第1個別電極431bの電位および第2個別電極431cの電位を定めるべく、駆動制御部50が有する信号切り替え部54(図6を参照。)に切り替え信号SW1〜SW3を出力する。すなわち、このプリンタ側コントローラ70は、駆動制御部50を制御するコントローラに相当する。そして、この切り替え信号SW1〜SW3により、第1個別電極431bや第2個別電極431cに駆動信号生成部51やインダクタンス調整部52(詳しくは、インダクタンス調整部52が有するコイル群521)が接続される。そして、ピエゾ素子431によるインクを吐出させるための動作が行われる。
【0043】
===インクの吐出およびその制御===
<概要について>
以上のように構成されたプリンタ1では、第1個別電極431b(一方の電極に相当する。)と第2個別電極431c(他方の電極に相当する。)の電位差に応じてピエゾ素子431の変形量を定めることができる。従って、これらの第1個別電極431bおよび第2個別電極431cの電位差を制御することで、ノズルNzからインクを吐出させることができる。このプリンタ1では、インクを吐出させるにあたり、まず、初期状態の圧力室421aを膨張させる。次に、圧力室421aを急激に収縮させる。圧力室421aの急激な収縮によって圧力室421a内のインクが加圧され、ノズルNzからインクが吐出される。最後に、収縮状態の圧力室421aを初期状態まで膨張させる。このとき、第1個別電極431bの電位を、第2個別電極431cの電位に対して相対的に高くすることで、圧力室421aを膨張させることができる。反対に、第1個別電極431bの電位を、第2個別電極431cの電位に対して相対的に低くすることで圧力室421aを収縮させることができる。
【0044】
そして、初期状態の圧力室421aを膨張させる際に、プリンタ側コントローラ70(スイッチ部を制御するコントローラに相当する。)は、信号切り替え部54(スイッチ部に相当する。)に対して切り替え信号SW1〜SW3を出力し、駆動信号生成部51を第1個別電極431bに接続する。また、プリンタ側コントローラ70は、信号生成情報を出力することで、駆動信号生成部51から駆動信号COMを生成させる。この駆動信号COMが印加されることで、第1個別電極431bの電位は上昇される。つまり、圧力室421aは膨張状態になる。
【0045】
圧力室421aを膨張させたならば、圧力室421aを急激に収縮させる。このため、プリンタ側コントローラ70は、信号切り替え部54に対して切り替え信号SW1〜SW3を出力する。信号切り替え部54は、この切り替え信号SW1〜SW3に基づき、第1個別電極431bと第2個別電極431cとを、インダクタンス調整部52が有するコイル(コイル群521を構成する第1コイルL1〜第8コイルL8のうち、選択されたもの。)を介して接続する。これにより、第1個別電極431bから第2個別電極431cへと正電荷が移動する。このとき、コイルL1〜L8とピエゾ素子431によって共振回路が形成されているので、正電荷は、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位が揃った後も同じ方向へ移動を続ける。これにより、第2個別電極431cの電位が第1個別電極431bの電位よりも高い状態になる。すなわち、ピエゾ素子431が基準状態よりも伸長する。その結果、圧力室421aは、初期状態よりも収縮した状態となり、ノズルNzからインクが吐出される。
【0046】
圧力室421aを収縮させたならば、圧力室421aを初期状態に戻す。すなわち、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位を揃える。このため、プリンタ側コントローラ70は、信号切り替え部54に対して切り替え信号SW1〜SW3を出力する。信号切り替え部54は、この切り替え信号SW1〜SW3に基づき、第2個別電極431cに駆動信号生成部51を接続する。また、プリンタ側コントローラ70は、信号生成情報を出力することで、駆動信号生成部51から駆動信号COMを生成させる。この駆動信号COMが印加されることで、第2個別電極431cの電位は下降される。つまり、初期状態まで圧力室421aが収縮される。
【0047】
このプリンタ1では、インクを吐出させるにあたり、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8を介して接続して正電荷を移動させ、ピエゾ素子431を伸張させている(つまり、所定の動作を行わせている。)。このため、この動作を行わせるにあたり、エネルギーの損失を極めて少なくすることができる。加えて、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8で接続して共振回路を形成しているので、コイルL1〜L8に保存されたエネルギーにより、第1個別電極431bの電位と第2個別電極431cの電位が揃ったあとも、正電荷は同じ方向へ移動し続ける。その結果、圧力室421aを膨張させた際の第1個別電極431bの電位を低く抑えつつも、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差を大きくすることができる。つまり、ピエゾ素子431の変形量(圧力室421aの容積変化度合い)を大きくすることができる。そして、圧力室421aの膨張時における第1個別電極431bの電位を低く抑えることができることから、電源電位を下げることができる。
【0048】
以下、これらの点について詳細に説明する。
【0049】
<ヘッド制御部HCについて>
まず、ヘッド制御部HCについて説明する。ここで、図6は、駆動制御部50およびヘッド制御部HCの構成を説明するためのブロック図である。図6に示すように、ヘッド制御部HCは、シフトレジスタ回路81と、ラッチ回路82と、個別スイッチ群83とを有する。シフトレジスタ回路81およびラッチ回路82は、プリンタ側コントローラ70からシリアル転送されるドット形成データSIを、パラレル変換するためのものである。シフトレジスタ回路81は、直列に接続された複数のFF回路(フリップフロップ回路,図示せず。)によって構成されている。各FF回路には、プリンタ側コントローラ70からシリアル転送されるドット形成データSIが、クロックCLKに同期してセットされる。なお、本実施形態では、4色分(240ノズル分)のドット形成データSIを、1つの信号線でシリアル転送している。ラッチ回路82は、シフトレジスタ回路81にセットされたドット形成データSIを、ラッチ信号LATで規定されるタイミングでラッチするものであり、例えば、複数のFF回路(図示せず。)で構成されている。そして、シフトレジスタ回路81が有するFF回路の数、及び、ラッチ回路82が有するFF回路の数は、ノズルNzの数に揃えられている。
【0050】
個別スイッチ群83は、ドット形成データSIに基づき選択されたピエゾ素子431について、その第1個別電極431bを信号切り替え部54に接続するものである。なお、各ピエゾ素子431が有する第2個別電極431cは、信号切り替え部54に接続されている。そして、信号切り替え部54は、対象となるピエゾ素子431について、その第1個別電極431bや第2個別電極431cを駆動信号生成部51に接続したり、その第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8を介して接続したりする(後述する。)。
【0051】
<駆動制御部50の詳細について>
次に、駆動制御部50について説明する。図6に示すように、この駆動制御部50は、駆動信号生成部51と、インダクタンス調整部52と、電荷移動用ダイオード53と、信号切り替え部54とを有している。
【0052】
<駆動信号生成部51について>
まず、駆動信号生成部51について説明する。ここで、図7は、駆動信号生成部51の構成を説明するためのブロック図である。駆動信号生成部51は、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号COMを生成するものであり、デジタルアナログ変換回路511(DAC回路)と電流増幅回路512とを有している。デジタルアナログ変換回路511は、プリンタ側コントローラ70からの信号生成情報に基づき、対応する電位の信号(電流増幅前の駆動信号COM)を出力する。信号生成情報はDAC値とも呼ばれ、本実施形態では電位の値を示す10ビットのデータによって構成されている。
【0053】
電流増幅回路512は、複数のピエゾ素子431が支障なく動作できるように、十分な電流を供給するための回路である。この電流増幅回路512は、コンプリメンタリ接続されたトランジスタ対によって構成されている。すなわち、電流増幅回路512は、互いのエミッタ端子同士が接続されたNPN型トランジスタTR1とPNP型トランジスタTR2とを有している。NPN型トランジスタTR1は、駆動信号COMの電位を上昇させる際に動作されるトランジスタである。このNPN型トランジスタTR1は、コレクタが電源に、エミッタが駆動信号COMを出力するための配線に、それぞれ接続されている。なお、本実施形態において、コレクタが接続される電源は24Vの電位を与えるものである。PNP型トランジスタTR2は、駆動信号COMの電位を降下させる際に動作されるトランジスタである。このPNP型トランジスタTR2は、コレクタが接地(アース)に、エミッタが駆動信号COMを出力するための配線に、それぞれ接続されている。
【0054】
この電流増幅回路512(すなわちトランジスタ対TR1,TR2)は、デジタルアナログ変換回路511からの出力によって動作が制御される。例えば、デジタルアナログ変換回路511から出力される電位が駆動信号COM用の配線の電位よりも高い場合には、NPN型トランジスタTR1がオン状態となる。これに伴い、駆動信号COM用の配線の電位も上昇する。言い換えれば、駆動信号COMの電圧が上昇する。一方、デジタルアナログ変換回路511から出力される電位が駆動信号COM用の配線の電位よりも低い場合には、PNP型トランジスタTR2がオン状態となる。これに伴い、駆動信号COMの電圧も下降する。そして、この構成では、プリンタ側コントローラ70からの信号生成情報を変化させることで、所望の波形の駆動信号COMを駆動信号生成部51に生成させることができる。
【0055】
<インダクタンス調整部52について>
次に、インダクタンス調整部52について説明する。ここで、図8は、インダクタンス調整部52の構成を説明するための図である。インダクタンス調整部52は、インクの吐出時において、ピエゾ素子431の第1個別電極431bと第2個別電極431cとを接続するコイル(第1コイルL1〜第8コイルL8)を選択するものである。言い換えれば、選択されたピエゾ素子431の数に応じて、第1個別電極431bと第2個別電極431cの間のインダクタンスを調整するものである。このインダクタンス調整部52は、コイル群521と、選択スイッチ群522と、カウンタ523とを有している。
【0056】
コイル群521は、インダクタンスが最も大きい基準コイルL1と、そのインダクタンスが、基準コイルのインダクタンスに対して、1/2の比率で小さくなるように定められた、他のコイルL2〜L8とから構成されている。なお、このプリンタ1では、他のコイルが7個設けられている。便宜上、以下の説明では、基準コイルを第1コイルL1という。また、他のコイルは、インダクタンスの大きいものから順に、第2コイルL2〜第8コイルL8という。本実施形態において、第1コイルL1(基準コイル)のインダクタンスはL0(16.2mH)に定められている。また、第2コイルL2のインダクタンスは1/2(1/2L0=8.1mH)に定められている。同様に、残りのコイルのインダタンスも、1/2の比率で小さくなるように定められている。すなわち、第3コイルL3は1/4L0(1/2L0),第4コイルL4は1/8L0(1/2L0),第5コイルL5は1/16L0(1/2L0),第6コイルL6は1/32L0(1/2L0),第7コイルL7は1/64L0(1/2L0),第8コイルL8は1/128L0(1/2L0)に定められている。
【0057】
各コイルL1〜L8は互いに並列に接続されている。そして、それぞれのコイルL1〜L8の一端は、信号切り替え部54に接続されている。一方、それぞれのコイルL1〜L8の他端は、電荷移動用ダイオード53を介して信号切り替え部54に接続されている。この電荷移動用ダイオード53は、コイルL1〜L8から第2個別電極431cへ向かう方向の正電荷の移動を許容し、反対方向の移動を阻止するものである。
【0058】
選択スイッチ群522は、コイル群521の中から必要なコイルL1〜L8を選択して接続する際に用いられる。このため、選択スイッチ群522を構成する各選択スイッチ522a〜522hは、コイル群521を構成する各コイルL1〜L8について設けられる。すなわち、第1コイルL1に対応して第1選択スイッチ522aが設けられ、第2コイルL2に対応して第2選択スイッチ522bが設けられている。このような選択スイッチは、他のコイルL3〜L8にも同様に設けられる。従って、選択スイッチ群522は、第1選択スイッチ522aから第8選択スイッチ522hまでの8個の選択スイッチによって構成されている。そして、コイルL1〜L8とは反対側の選択スイッチ522a〜522hの端部は、配線を通じて電荷移動用ダイオード53に接続されている。このような選択スイッチ群522は、カウンタ523の出力によって動作が制御される。
【0059】
カウンタ523は、ドット形成データSIのうち、ドットの形成を示すデータ[1]の数をカウントするものである。すなわち、ドット形成データSIの転送前において、リセット信号RST(リセットパルス)が入力されると、カウンタ523はクリアされ、出力は値[0](2進数で[00000000])になる。ドット形成データSIはカウンタ553のカウントイネーブル端子に入力される。データの転送中においては、ドット形成データSIが[1]の時にクロックCLK(クロックパルス)が入力されると、カウンタ523の出力が値[1]加算される。前述したように、本実施形態では、4色分の全ノズルNzについて、ドット形成データSIを1つの信号線で伝送している。このため、2進カウンタ523のカウント値は、240個のノズルNzの中で、インクを吐出するノズルNzの数を示す。従って、カウンタ523は、値[240]がカウント可能な構成とされる。そして、インクを吐出するノズルNzの数は、インクを吐出するために動作するピエゾ素子431の数を示す。本実施形態のカウンタ523は、8ビットの2進カウンタによって構成されている。そして、カウンタ523の出力は、選択スイッチ群522の制御信号として使用される。例えば、最下位ビットに対応する出力Qaは、第1選択スイッチ522aの制御信号として使用される。また、最下位ビット側から2番目に対応する出力Qbは、第2選択スイッチ522bの制御信号として使用される。以下同様に対応付けられ、最上位ビットに対応する出力Qhは、第8選択スイッチ522hの制御信号として使用される。
【0060】
ここで、カウンタ523のカウント値と選択されるコイルとの関係について説明する。以下の説明では、カウンタ523のカウント値が[B8,B7,B6,B5,B4,B3,B2,B1]の8ビットであるとする。この場合、ビットB1が出力Qaとなり、ビットB2が出力Qbとなる。同様に、ビットB8が出力Qhとなる。この場合、各ビットB8〜B1が値[1]のとき、対応する選択スイッチ522h〜522aが接続状態になる。反対に、値[0]のとき、対応する選択スイッチ522h〜522aは切断された状態になる。そうすると、並列に接続されたコイルの公式に基づき、合成インダクタンスLは、次式(1)のように表すことができる。
1/L=B8/L8+B7/L7+ … +B2/L2+B1/L1
L=1/(B8/L8+B7/L7+ … +B2/L2+B1/L1)
…(1)
【0061】
ここで、選択されたピエゾ素子431の数をNとすると、上記式(1)より、合成インダクタンスLは(1/N)L0となる。例えば、N=5の場合、カウンタ523のカウント値は[00000101]となる。このため、第1コイルL1および第3コイルL3が選択される。そして、第1コイルL1のインダクタンスはL0であり、第3コイルL3のインダクタンスは1/4L0である。このため、L=1/5L0となる。
また、各ピエゾ素子431も並列に接続されている。このため、並列に接続されたコンデンサの公式に基づき、その合成静電容量CはN×C1となる。例えば、5本のピエゾ素子431からインクを吐出させる場合、C=5C1となる。
【0062】
インクの吐出時において、第1個別電極431bと第2個別電極431cとが、選択されたコイルL1〜L8によって接続される。このときの共振周期Tは、次式(2)のように表すことができる。
T=2π(L×C)1/2 …(2)
そして、L=(1/N)L0,C=N×C1を代入すると、次式(3)が得られる。
T=2π((1/N)L0×N×C1)1/2=2π(L0×C1) …(3)
つまり、カウンタ523からの出力でコイルL1〜L8を選択することにより、選択されたピエゾ素子431の数に拘わらず、共振周期を一定にすることができる。
【0063】
<信号切り替え部54について>
次に、信号切り替え部54について説明する。ここで、図9は、信号切り替え部54の構成を説明するための図である。なお、この図において、ピエゾ素子431は選択されたものを1つにまとめて示している。同様に、コイル群521も選択されたコイルL1〜L8を1つにまとめて示している。
【0064】
信号切り替え部54は、第1切り替えスイッチ541と、第2切り替えスイッチ542と、第3切り替えスイッチ543とを有している。
【0065】
第1切り替えスイッチ541は、駆動信号生成部51をピエゾ素子431の第1個別電極431bや第2個別電極431cに接続するためのものである。この第1切り替えスイッチ541は、プリンタ側コントローラ70からの第1切り替え信号SW1に基づいて動作する。具体的には、駆動信号生成部51を第1個別電極431bへ接続する状態と、駆動信号生成部51を第2個別電極431cへ接続する状態と、駆動信号生成部51を第1個別電極431bおよび第2個別電極431cのいずれにも接続しない状態(以下、遮断状態ともいう。)とに切り替わる。
【0066】
第2切り替えスイッチ542は、グランドをピエゾ素子431の第1個別電極431bや第2個別電極431cに接続するためのものである。この第2切り替えスイッチ542は、プリンタ側コントローラ70からの第2切り替え信号SW2に基づいて動作する。具体的には、グランドを第1個別電極431bへ接続する状態と、グランドを第2個別電極431cへ接続する状態と、グランドを第1個別電極431bおよび第2個別電極431cのいずれにも接続しない状態(以下、遮断状態ともいう。)とに切り替わる。
【0067】
第3切り替えスイッチ543は、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイル群521のコイルL1〜L8で接続するか否かを定めるためのものである。この第3切り替えスイッチ543は、プリンタ側コントローラ70からの第3切り替え信号SW3に基づいて動作する。具体的には、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8で接続する状態と、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8で接続しない状態(以下、遮断状態ともいう。)とに切り替わる。
【0068】
なお、これらの第1切り替えスイッチ541、第2切り替えスイッチ542、および、第3切り替えスイッチ543の動作については、インク吐出時の動作とともに説明する。
【0069】
<インク吐出時の動作について>
次に、インク吐出時の動作について説明する。ここで、図10は、インク吐出時における、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差、駆動信号COMの電位、第1個別電極431bの電位、および、第2個別電極431cの電位を説明する図である。図11Aは、初期状態の圧力室421aを膨張させる際に形成される回路を示した図である。図11Bは、初期状態の圧力室421aを膨張させる際における、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差を説明する図である。図12Aは、圧力室421aを収縮させる際に形成される回路を示した図である。図12Bは、圧力室421aを収縮させる際における、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差を説明する図である。図13Aは、圧力室421aを初期状態に戻す際に形成される回路を示した図である。図13Bは、圧力室421aを初期状態に戻す際における、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差を説明する図である。図14Aは、インク吐出前の圧力室421aの状態を説明する図である。図14Bは、圧力室421aを膨張させた状態を説明する図である。図14Cは、インクを吐出させるべく圧力室421aを収縮させた状態を説明する図である。図14Dは、インク吐出後の状態を説明する図である。
【0070】
なお、これらの図において、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差は、第2個別電極431cを基準とする電位差である。従って、第1個別電極431bの方が第2個別電極431cよりも電位が高い場合、電位差は正の値となる。反対に、第1個別電極431bの方が第2個別電極431cよりも電位が低い場合、電位差は負の値となる。
【0071】
<圧力室421aを膨張させる動作について>
まず、初期状態の圧力室421aを膨張させる期間(t0−t3)の動作について説明する。前述したように、第1個別電極431bの電位を上昇させることでピエゾ素子431は収縮し、圧力室421aが膨張する。このため、図11Aに示すように、圧力室421aを膨張させるにあたり、第1切り替えスイッチ541によって、駆動信号生成部51を第1個別電極431bに接続する。また、第2切り替えスイッチ542によって、グランドを第2個別電極431cに接続する。なお、この場合において、第3切り替えスイッチ543は遮断状態とする。また、ピエゾ素子431は、ドット形成データSIによって選択されたものである(以下同じ)。このような回路を形成することで、第1個別電極431bの電位を、駆動信号COM(詳しくは、駆動信号COMの前半部分)によって制御することができる。
【0072】
図10に示すように、符号t0から符号t1で示す期間において、駆動信号COMはグランド電位(0V)を示す。この期間において、第2個別電極431cはグランドに接続されているので、図11Bに示すように、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差は0Vとなる。このため、図14Aに示すように、ピエゾ素子431は基準状態を、圧力室421aは初期状態をそれぞれ維持する。
【0073】
符号t1から符号t2で示す期間において、駆動信号COMはグランド電位から最高電位Vh(例えば15V)まで、一定の電位勾配で上昇する。この期間において、第2個別電極431cはグランドに接続されているので、電位差は、駆動信号COMで与えられる電位で定まる。従って、第1個別電極431bの電位が第2個別電極431cの電位よりも高くなり、その度合いが時間の経過と共に大きくなる。その結果、ピエゾ素子431は収縮し、圧力室421aは膨張する。そして、符号t2のタイミングでは、図14Bに示すように、ピエゾ素子431は最も収縮し、圧力室421aは最も膨張する。
【0074】
符号t2から符号t3で示す期間において、駆動信号COMは最高電位Vhを維持する。これにより、圧力室421aは膨張状態で維持される。この維持期間を設けることで、インクの吐出タイミングを調整することができる。例えば、圧力室421aを膨張させた直後(符号t2のタイミング)では、圧力室421aに存在するインクの圧力が不安定であるため、この時点から圧力室421aの収縮を開始すると、インクの吐出量が不安定になる可能性がある。ここで、本実施形態のように、圧力室421aを膨張させた状態で維持し、その後に圧力室421aを収縮させるとインクの吐出量や飛行速度を安定させることができる。
【0075】
この構成では、駆動信号COMがプリンタ側コントローラ70から出力される信号生成情報に基づいて生成されるので、圧力室421aを膨張させる期間(t0−t3)において、第1個別電極431bの電位を精度良く定めることができる。例えば、駆動信号COMの電位や電位勾配を精度良く定めることができる。これにより、圧力室421aの膨張速度や膨張度合いを、高い精度で制御することができる。そして、これらの膨張速度や膨張度合いは、吐出されるインクの量や飛行速度に影響を与える要因である。従って、吐出されるインクの量や飛行速度を高い精度で制御することができる。
【0076】
<圧力室421aを収縮させる動作について>
次に、膨張状態の圧力室421aを収縮させる期間(t3−t5)の動作について説明する。この期間では、第1個別電極431bと第2個別電極431cとを、選択されたコイルL1〜L8および電荷移動用ダイオード53を介して接続する。このため、図12Aに示すように、第3切り替えスイッチ543を接続状態にする。一方、第1切り替えスイッチ541および第2切り替えスイッチ542は遮断状態にする。第3切り替えスイッチ543を接続した直後(符号t3で示すタイミング)において、第1個別電極431bの電位は最高電位であり、第2個別電極431cの電位は電位0Vである。そして、電荷移動用ダイオード53は、前述したように、コイルL1〜L8から第2個別電極431cへ向かう方向の正電荷の移動を許容する。このため、正電荷は、第1個別電極431bからコイルL1〜L8および電荷移動用ダイオード53を通って第2個別電極431cへ移動する。これにより、第1個別電極431bの電位は下降し、第2個別電極431cの電位は上昇する。
【0077】
第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差は、電位0Vを中心とする三角関数で表される。すなわち、コイルL1〜L8とピエゾ素子431による共振が生じているので、第2個別電極431cの電位は、最終的に第1個別電極431bの電位よりも高くなる。第3切り替えスイッチ543を接続した直後において、コイルL1〜L8の両端の電位差は最高電位とグランド電位の差に等しい。そして、第1個別電極431bの電位の方が高いので、電流は、コイルL1〜L8および電荷移動用ダイオード53を通って第2個別電極431cへ流れる。つまり、正電荷の移動によって、第1個別電極431bの電位は低くなる一方、第2個別電極431cの電位は高くなる。また、第2個別電極431c側へ電流が流れると、コイルL1〜L8の内部に磁束が発生する。この磁束は、第2個別電極431c側へ流れる電流を阻止する一方で、エネルギーとしてコイルL1〜L8に保存される。そして、第1個別電極431bの電位が第2個別電極431cの電位に揃うと(符号t4のタイミング)、それ以降は、コイルL1〜L8に保存された磁束のエネルギーが電流となって流れる。ここで、コイルL1〜L8を流れる電流は、連続して流れようとする性質を有しているので、第2個別電極431c側へ流れ続ける。その結果、第2個別電極431cの電位は第1個別電極431bの電位よりも高くなる。
【0078】
コイルL1〜L8に保存されたエネルギーが用い尽くされると(t5)、第2個別電極431cの電位は最も高くなる。本実施形態では、コイルL1〜L8と第2個別電極431cとの間に電荷移動用ダイオード53を設けているので、第2個別電極431c側から第1個別電極431b側への正電荷の移動は阻止される。このため、エネルギーが用い尽くされた後も、第2個別電極431cは最高電位を維持する。すなわち、第2個別電極431c側への正電荷の移動は、ピエゾ素子431が最も伸長したタイミングで自然に終了することになる。このように、電荷移動用ダイオード53を介在させたことにより、共振を終了させるための特別な制御が不要となり、制御を簡素化させることができる。その結果、図14Cに示すように、圧力室421aは最も収縮した状態で維持される。
【0079】
このプリンタ1では、圧力室421aを収縮させるにあたり、ピエゾ素子431が有する第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8で接続し、第2個別電極431cへと正電荷を移動させている。このため、エネルギーの損失を極力抑えつつピエゾ素子431を変形させることができる。また、コイルL1〜L8とピエゾ素子431によって共振回路を形成しているため、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差を大きくすることができる。つまり、ピエゾ素子431を大きく変形させることができる。
【0080】
<圧力室421aを初期状態に戻す動作について>
次に、圧力室421aを初期状態に戻す期間(t5−t9)の動作について説明する。この期間では、図13Aに示すように、第1切り替えスイッチ541により、駆動信号生成部51を第2個別電極431cに接続する。また、第2切り替えスイッチ542により、グランドをピエゾ素子431の第1個別電極431bに接続する。なお、この場合において、第3切り替えスイッチ543は遮断状態とする。このように各切り替えスイッチ541〜543を制御することで、駆動信号COMにより、第2個別電極431cの電位を、第1個別電極431bの電位に揃えて圧力室421aを初期状態に戻す。
【0081】
図10に示すように、符号t5から符号t6で示す期間において、駆動信号COMは最高電位を示す。この期間において、第1個別電極431bはグランドに接続されているので、図13Bに示すように、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差は−Vhとなる(第2個別電極431cの方が電位が高いため。)。その結果、図14Cに示すように、ピエゾ素子431は伸長状態を、圧力室421aは収縮状態をそれぞれ維持する。
【0082】
符号t6から符号t7で示す期間において、駆動信号COMは最高電位から中間電位(例えば10V)まで一定の電位勾配で下降する。これにより、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差は−Vmとなる。そして、電位差が−Vhから−Vmに小さくなることで、ピエゾ素子431が対応する量だけ収縮する。これに伴い、圧力室421aが僅かに膨張する。この圧力室421aの膨張によって、メニスカス(ノズルNzで露出しているインクの自由表面)が圧力室421a側に引き込まれる。その結果、吐出されるインクの量を精度良く定めることができる。
【0083】
符号t7から符号t8で示す期間において、駆動信号COMは中間電位を維持する。ここの期間においてメニスカスは自由振動をする。そして、この期間の長さは、次の期間(t8−t9)になされる圧力室421aの膨張動作の開始タイミングを定める。
【0084】
符号t8からt9で示す期間において、駆動信号COMは中間電位からグランド電位まで一定勾配で電位を下降させる。これにより、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差は−Vmから0まで次第に小さくなる。これにより、図14Dに示すように、圧力室421aが膨張して初期状態に戻るが、ここでの圧力室421aの膨張速度は、インクの吐出に起因するメニスカスの変位を打ち消すように定められる。これにより、インクの吐出後におけるメニスカスの変位を速やかに抑制することができる。
【0085】
このように、このプリンタ1では、駆動信号COMを第2個別電極431cに印加することで、圧力室421aを初期状態に戻す動作を行っている。このため、次の吐出周期における圧力室421aを膨張させる動作に先立って、圧力室421aの状態を揃えることができる。これにより、インクを吐出させる動作を繰り返し行うに際し、各回における圧力室421aの状態を揃えることができ、インクの吐出量や飛行速度を揃えることができる。また、このプリンタ1では、駆動信号生成部51に生成させた駆動信号COMを用いているので、複雑な波形の駆動信号COMを精度良く生成させることができ、複雑な制御を行うことができる。さらに、インクの吐出後において、メニスカスの移動を速やかに抑制することができる。
【0086】
<エネルギー消費について>
このように構成されたプリンタ1では、インクを吐出させる期間(t3−t5)において、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8を介して接続している。また、圧力室421aを膨張させる期間(t0−t3)、および、圧力室421aを初期状態に戻す期間(t5−t9)において、駆動信号生成部51にて生成された駆動信号COMを用いている。これにより、ピエゾ素子431を精度良く制御しつつも、消費されるエネルギーを抑えることができる。
【0087】
消費されるエネルギーに関し、インクを吐出させる期間では、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8を介して接続することで、正電荷を第1個別電極431bから第2個別電極431cへと移動させている。すなわち、ピエゾ素子431とコイルL1〜L8とによる共振回路を用いて正電荷を移動させている。このため、ピエゾ素子431を伸長させるに際し、外部からエネルギーを供給する必要はない。
【0088】
圧力室421aを膨張させる期間では、図10の中段における期間(t1−t2)でエネルギーが消費され、圧力室421aを初期状態に戻す期間では、期間(t6−t9)でエネルギーが消費される。すなわち、斜線で示す領域で、NPN型トランジスタTR1やPNP型トランジスタTR2が発熱する。ここで、インクを吐出させる期間において、第1個別電極431bから第2個別電極431cへと正電荷を移動させているので、NPN型トランジスタTR1を動作させるための電源は、第1個別電極431bと第2個別電極431cにおける最大電位差の半分を基準に定めればよい。本実施形態の最大電位差は2Vhであるので、少なくともVhの電位を与えることのできる電源を用いれば足りる。本実施形態ではVhが15Vであるので、例えば、24Vの電位を与えることのできる電源を用いればよい。この点でもエネルギーの消費を抑えることができる。
【0089】
<まとめ>
以上説明したように、このプリンタ1では、インクを吐出させる際に、ピエゾ素子431とコイルL1〜L8によって共振回路が形成され、正電荷は共振によって第2個別電極431cへ移動する。このため、正電荷は、第1個別電極431bの電位と第2個別電極431cの電位が揃った後も第2個別電極431cへ向けて流れ続ける。従って、圧力室421aの膨張時において第1個別電極431bに与えられる電位を抑えつつも、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差を大きくすることができる。つまり、ピエゾ素子431を大きく伸縮させることができる。
【0090】
また、このプリンタ1では第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルL1〜L8および電荷移動用ダイオード53を介して接続しているので、第2個別電極431cの電位が最高になったタイミングで、正電荷の移動を特別な制御をすることなく停止させることができる。このため、制御の簡素化が図れる。
【0091】
また、このプリンタ1では、第1個別電極431bから第2個別電極431cへ正電荷を移動させた後に、第1個別電極431bの電位と第2個別電極431cの電位を揃えている。これにより、ピエゾ素子431にインクを吐出させる動作を繰り返し行わせる場合において、第1個別電極431bの電位と第2個別電極431cの電位を、その都度初期状態にすることができる。これにより、インクを吐出させる動作について各回のばらつきを抑制することができる。
【0092】
加えて、このプリンタ1では、選択されるピエゾ素子431の数に応じてコイルL1〜L8を選択し、インダクタンスを調整している。このため、選択されるピエゾ素子431の数に拘わらず共振周期を揃えることができる。さらに、選択されるピエゾ素子431の数に応じて最適な電流量に調整することができる。
【0093】
===第2実施形態===
ところで、前述した第1実施形態では、ピエゾ素子431とコイルL1〜L8によって形成される共振回路に関し、選択されたピエゾ素子431の数に応じてコイルL1〜L8を選択することで、共振周期を調整していた。しかし、共振周期の調整は、この構成に限定されるものではない。例えば、ダミーコンデンサ(他の蓄電性素子)をピエゾ素子431に対して並列に接続することで、共振周期を調整するようにしてもよい。以下、このように構成した第2実施形態について説明する。ここで、図15は、第2実施形態の構成を説明する図である。図16は、ダミーコンデンサ選択部55の構成を説明する図である。図17は、信号切り替え部54を説明するための図である。なお、この第2実施形態では、駆動制御部50の構成が第1実施形態と相違している。そして、他の構成は第1実施形態と同様である。このため、相違点を中心に説明し、共通点の説明は省略する。
【0094】
<駆動制御部50について>
図15に示すように、この実施形態における駆動制御部50は、駆動信号生成部51と、ダミーコンデンサ選択部55と、信号切り替え部54と、電荷移動用コイル56と、電荷移動用ダイオード53と、信号切り替え部54とを有している。これらの中で、駆動信号生成部51は、第1実施形態と同じ構成であるため、説明は省略する。
【0095】
<ダミーコンデンサ選択部55について>
ダミーコンデンサ選択部55は、ダミーコンデンサ群551と、選択スイッチ群552と、カウンタ553とを有している。図16に示すように、ダミーコンデンサ群551は、複数のダミーコンデンサD1〜D8(他の蓄電性素子に相当する。)を有している。これらのダミーコンデンサD1〜D8は、その静電容量がピエゾ素子431の1本分に調整された基準ダミーコンデンサD1(基準となる他の蓄電性素子に相当する。)と、その静電容量が、基準ダミーコンデンサの2の比率で大きくなるように定められた、調整用ダミーコンデンサD2〜D8(調整用の他の蓄電性素子に相当する。)とから構成されている。なお、このプリンタ1では、調整用ダミーコンデンサが7個設けられている。便宜上、以下の説明では、基準ダミーコンデンサを第1ダミーコンデンサD1という。また、調整用ダミーコンデンサは、静電容量の小さいものから順に、第2ダミーコンデンサD2〜第8ダミーコンデンサD8という。
【0096】
本実施形態において、ピエゾ素子431の静電容量は0.5nFである。このため、第1ダミーコンデンサD1(基準ダミーコンデンサ)の静電容量C1も、0.5nFに定められる。また、第2ダミーコンデンサD2の静電容量C2は、2×C1(2×C1=1.0nF)に定められている。同様に、残りのダミーコンデンサの静電容量も、2倍で大きくなるように定められている。すなわち、第3ダミーコンデンサD3の静電容量C3は4×C1(2×C1),第4ダミーコンデンサD4の静電容量C4は8×C1(2×C1),第5ダミーコンデンサD5の静電容量C5は16×C1(2×C1),第6ダミーコンデンサD6の静電容量C6は32×C1(2×C1),第7ダミーコンデンサD7の静電容量C7は64×C1(2×C1),第8ダミーコンデンサD8の静電容量C8は128×C1(2×C1)に定められている。
【0097】
これらのダミーコンデンサD1〜D8は互いに並列に接続されている。そして、それぞれのダミーコンデンサD1〜D8の一端は第1個別電極431b用の配線(図17を参照。)に接続される。一方、ダミーコンデンサD1〜D8の他端は、選択スイッチ群552を介して第2個別電極431c用の配線に接続される。つまり、これらのダミーコンデンサD1〜D8は、ピエゾ素子431に対して並列に接続される。
【0098】
選択スイッチ群552は、これらのダミーコンデンサD1〜D8を選択的に接続する際に用いられる。このため、選択スイッチ群552は、複数の選択スイッチ552a〜552hを有している。複数の選択スイッチ552a〜552hは、複数のダミーコンデンサD1〜D8のそれぞれに対して直列に設けられる。本実施形態では、第1ダミーコンデンサD1に対応して第1選択スイッチ552aが設けられ、第2ダミーコンデンサD2に対応して第2選択スイッチ552bが設けられる。このような選択スイッチは、他のダミーコンデンサD3〜D8にも同様に設けられる。従って、選択スイッチ群552は、前述した第1選択スイッチ552aや第2選択スイッチ552bの他、第3ダミーコンデンサD3に対応する第3選択スイッチ552c、第4ダミーコンデンサD4に対応する第4選択スイッチ552d、第5ダミーコンデンサD5に対応する第5選択スイッチ552e、第6ダミーコンデンサD6に対応する第6選択スイッチ552f、第7ダミーコンデンサD7に対応する第7選択スイッチ552g、第8ダミーコンデンサD8に対応する第8選択スイッチ552hを有している。そして、各選択スイッチ552a〜552hは、後述するように、カウンタ553の出力によって動作する。
【0099】
カウンタ553は、8ビットで出力が可能な減算カウンタによって構成されている。このカウンタ553の出力は、ドット形成データSIのうち、ドットの形成を示すデータ[1]の数に応じて変化する。すなわち、ドット形成データSIの転送前において、リセット信号RST(リセットパルス)が入力されると、カウンタ553には値[240](2進数で[11110000])がセットされる。ドット形成データSIはカウンタ553のカウントイネーブル端子に入力される。データの転送中においては、ドット形成データSIが[1]の時にクロックCLK(クロックパルス)が入力されることで、カウンタ553の出力が値[1]減算される。本実施形態のプリンタ1は、4色分の全ノズル(240個のノズルNz)について、ドット形成データSIを1つの信号線で伝送している。そして、カウンタ553の出力は、インクを吐出するノズルNzの数との和が値[240]となるように定められる。例えば、インクを吐出するノズルNzの数が[1]の場合、カウンタ553の出力は10進数で[239](2進数で[11101111])となる。そして、カウンタ553の出力は、選択スイッチ群552の制御信号として使用される。例えば、最下位ビットに対応する出力Qaは、第1選択スイッチ552aの制御信号として使用される。また、最下位ビット側から2番目に対応する出力Qbは、第2選択スイッチ552bの制御信号として使用される。以下同様に対応付けられ、最上位ビットに対応する出力Qhは、第8選択スイッチ552hの制御信号として使用される。
【0100】
<信号切り替え部54等について>
次に、信号切り替え部54、電荷移動用コイル56、および、電荷移動用ダイオード53について説明する。図17に示すように、信号切り替え部54は、第1切り替えスイッチ541と、第2切り替えスイッチ542と、第3切り替えスイッチ543とを有している。第1切り替えスイッチ541、第2切り替えスイッチ542、および、第3切り替えスイッチ543は、第1実施形態のものと同じ構成である。簡単に説明すると、第1切り替えスイッチ541は、駆動信号生成部51をピエゾ素子431の第1個別電極431bや第2個別電極431cに接続するためのものであり、第2切り替えスイッチ542は、グランドをピエゾ素子431の第1個別電極431bや第2個別電極431cに接続するためのものである。また、第3切り替えスイッチ543は、第1個別電極431bと第2個別電極431cとをコイルで接続するか否かを定めるためのものである。
【0101】
ここで、本実施形態では、第3切り替えスイッチ543によって接続される電荷移動用コイル56に関し、インダクタンスが固定されている点が第1実施形態と相違している。これは、前述したように、選択されたピエゾ素子431とダミーコンデンサD1〜D8による全体の合成静電容量が一定のためである。すなわち、選択されるピエゾ素子431の数に起因する合成静電容量の違いをダミーコンデンサD1〜D8によって調整しているため、インダクタンスが固定された電荷移動用コイル56を用いることで、共振周期を一定にすることができる。
【0102】
電荷移動用ダイオード53は、第1実施形態と同様に、電荷移動用コイル56から第2個別電極431cへ向かう方向の正電荷の移動を許容し、反対方向の移動を阻止するものである。
【0103】
<インク吐出時の動作について>
次に、インク吐出時の動作について説明する。ノズルNzからインクを吐出させる場合、シフトレジスタ回路81における対応するFF回路には、ドット形成データSIとしてデータ[1]がセットされる。このデータ[1]に対応するピエゾ素子431は充放電の対象となる。そして、データ[1]の数に応じて、所定のダミーコンデンサD1〜D8が選択される。ダミーコンデンサD1〜D8の選択は、カウンタ553の出力に基づいて行われる。前述したように、このカウンタ553の出力は、ドット形成データSIにおけるデータ[1]の数に応じたものとなる。すなわち、ヘッド40が有する各ピエゾ素子431は静電容量が揃っているので、データ[1]の数は、充放電の対象となるピエゾ素子431における、全体の静電容量を示す情報となる。このため、データ[1]の数に応じてダミーコンデンサD1〜D8を選択することにより、ピエゾ素子431とダミーコンデンサD1〜D8の合成静電容量を一定にすることができる。
【0104】
すなわち、カウンタ553の出力を、インクを吐出するノズルNzの数との和が値[240](ピエゾ素子431の総数に相当する。)になるよう定め、このカウンタ553の出力でダミーコンデンサD1〜D8を選択すると、ピエゾ素子431とダミーコンデンサD1〜D8の合成静電容量を揃えることができる。
【0105】
例えば、インクを吐出するノズルNzの数が[1]の場合、カウンタ553の出力は10進数で[239](2進数で[11101111])となる。また、インクを吐出するノズルNzの数が[2]の場合、カウンタ553の出力は10進数で[238](2進数で[11101110])となる。同様に、インクを吐出するノズルNzの数が[239]の場合、カウンタ553の出力は10進数で[1](2進数で[00000001])となる。そして、インクを吐出するノズルNzの数が[240]の場合、カウンタ553の出力は10進数で[0](2進数で[00000000])となる。
【0106】
そして、カウンタ553の出力に関し、最上位ビットに対応する出力Qhは第8選択スイッチ552hの制御信号として使用され、最下位ビットに対応する出力Qaは、第1選択スイッチ552aの制御信号として使用される。そして、カウンタ553のカウント値が[B8,B7,B6,B5,B4,B3,B2,B1]の8ビットであるとする。この場合、ビットB1が出力Qaとなり、ビットB2が出力Qbとなる。同様に、ビットB8が出力Qhとなる。本実施形態において、基準となる第1ダミーコンデンサD1の静電容量は、ピエゾ素子431の1個分の静電容量である。そして、他のダミーコンデンサの静電容量は、第1ダミーコンデンサD1の静電容量に対して2ずつ大きくなっている。
【0107】
このため、選択されたダミーコンデンサによる合成静電容量Cdは、次の式(4)で表すことができる。
Cd=128C1×B8+64C1×B7+32C1×B6+16C1×B5
+8C1×B4+4C1×B3+2C1×B2+C1×B1 …(4)
【0108】
例えば、選択されたピエゾ素子431の数が[1]であり、カウンタ553の出力が[11101111]の場合(10進数で[239]の場合)、Qe=[0],Qa〜Qd,Qf〜Qh=[1]となり、第5ダミーコンデンサD5を除く7つのダミーコンデンサD1〜D4,D6〜D8が選択される。このため、合成静電容量Cdは239C1となる。そして、選択されたダミーコンデンサD1〜D4,D6〜D8は、選択された1つのピエゾ素子431と並列に接続される。このため、選択されたピエゾ素子431とダミーコンデンサD1の合成静電容量CCは、選択されたピエゾ素子431の合成静電容量Cpと選択されたダミーコンデンサD1〜D8の合成静電容量Cdの和となる。そして、選択されたピエゾ素子431の静電容量CpはC1であるため、全体の合成静電容量CCは、239C1+C1で240C1となる。なお、本実施形態においてC1は0.5nFであるため、合成静電容量CCは120nFとなる。
【0109】
この関係は、選択されたピエゾ素子431の数が変わっても同じである。このため、全体の合成静電容量CCは、選択されたピエゾ素子431の数に拘わらず240C1となる。従って、インクを吐出するノズルNzの数(選択されたピエゾ素子431の数)に拘わらず、共振周期を揃えることができる。つまり、インクの吐出量を揃えることができる。
【0110】
<まとめ>
このプリンタ1でも、インクを吐出させる際に、ピエゾ素子431、ダミーコンデンサD1〜D8、および、電荷移動用コイル56によって共振回路が形成され、正電荷は共振によって第2個別電極431cへ移動する。このため、正電荷は、第1個別電極431bの電位と第2個別電極431cの電位が揃った後も第2個別電極431cへ向けて流れ続ける。従って、圧力室421aの膨張時において第1個別電極431bに与えられる電位を抑えつつも、第1個別電極431bと第2個別電極431cの電位差を大きくすることができる。つまり、ピエゾ素子431を大きく伸縮させることができる。
【0111】
加えて、このプリンタ1では、選択されるピエゾ素子431の数に応じてダミーコンデンサD1〜D8を選択し、静電容量を調整している。このため、選択されるピエゾ素子431の数に拘わらず共振周期を揃えることができる。
【0112】
===その他の実施形態===
上記の実施形態は、主としてプリンタ1を有する印刷システムについて記載されているが、その中には液体吐出装置及び液体吐出システムの開示も含まれている。加えて、蓄電性素子の充放電を制御する制御装置や制御方法の開示も含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0113】
<カウンタについて>
前述した各実施形態では、カウンタ523,553を設けていたが、プリンタ側コントローラ70に、ノズルNzの数をカウントさせる制御と、選択スイッチ群552を動作させる制御とを行わせてもよい。また、選択されたピエゾ素子431の静電容量が把握できれば、カウンタ523,553を用いなくてもよい。すなわち、把握した静電容量に基づいて、コイルL1〜L8やダミーコンデンサD1〜D8を選択すればよい。
【0114】
<蓄電性素子について>
前述した各実施形態では、蓄電性素子としてピエゾ素子431を例示したが、これに限定されるものではない。蓄電性を有する素子であれば同様に適用できる。同様に、他の蓄電性素子としてコンデンサを例示したが、これに限定されるものではない。また、各実施形態では、複数の蓄電性素子(ピエゾ素子431)を有する装置を例示したが、蓄電性素子は1つであってもよい。
【0115】
<ダミーコンデンサD1〜D8について>
前述した各実施形態は、プリンタ1を例に挙げていたので、各ノズルNzから吐出させるインクの量は揃っている必要があった。しかし、プリンタ1以外の装置であれば、吐出される液体の量がばらついていてもよい場合がある。この場合には、ダミーコンデンサD1〜D8を省略してもよい。
【0116】
<ヘッドから吐出される液体について>
前述した各実施形態は、プリンタ1の実施形態であったので、液体状の染料インクや顔料インクを吐出させていた。しかし、吐出させる液体は、液体状であればインクに限られるものではない。その用途に応じた液体を吐出させればよい。
【0117】
<他の応用例について>
また、前述の実施形態では、プリンタ1が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体吐出装置に、本実施形態と同様の技術を適用しても良い。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】印刷システムの構成を説明する図である。
【図2】コンピュータ、およびプリンタの構成を説明するブロック図である。
【図3】図3Aは、プリンタの構成を示す図である。図3Bは、プリンタの構成を説明する側面図である。
【図4】図4Aは、ヘッドの構造を説明するための断面図である。図4Bは、ヘッドの主要部を拡大して示す断面図である。図4Cは、ヘッドが有するピエゾ素子の構造を説明する図である。図4Dは、ヘッドが有するピエゾ素子の変形を模式的に説明する図である。
【図5】ヘッドが有するノズル列の配置を説明する図である。
【図6】駆動制御部およびヘッド制御部の構成を説明するためのブロック図である。
【図7】駆動信号生成部の構成を説明するためのブロック図である。
【図8】インダクタンス調整部の構成を説明するための図である。
【図9】信号切り替え部の構成を説明するための図である。
【図10】インク吐出時における、第1個別電極と第2個別電極の電位差、駆動信号によって与えられる電位、第1個別電極の電位、および、第2個別電極の電位を説明する図である。
【図11】図11Aは、初期状態の圧力室を膨張させる際に形成される回路を示した図である。図11Bは、初期状態の圧力室を膨張させる際における、第1個別電極と第2個別電極の電位差を説明する図である。
【図12】図12Bは、圧力室を収縮させる際における、第1個別電極と第2個別電極の電位差を説明する図である。
【図13】図13Aは、圧力室を初期状態に戻す際に形成される回路を示した図である。図13Bは、圧力室を初期状態に戻す際における、第1個別電極と第2個別電極の電位差を説明する図である。
【図14】図14Aは、インク吐出前の圧力室の状態を説明する図である。図14Bは、圧力室を膨張させた状態を説明する図である。図14Cは、インクを吐出させるべく圧力室を収縮させた状態を説明する図である。図14Dは、インク吐出後の状態を説明する図である。
【図15】第2実施形態の構成を説明する図である。
【図16】ダミーコンデンサ選択部の構成を説明する図である。
【図17】信号切り替え部を説明するための図である。
【符号の説明】
【0119】
1 プリンタ,20 用紙搬送機構,21 給紙ローラ,22 搬送モータ,
23 搬送ローラ,24 プラテン,25 排紙ローラ,
30 キャリッジ移動機構,31 キャリッジモータ,32 ガイド軸,
33 タイミングベルト,34 駆動プーリー,35 アイドラプーリー,
40 ヘッド,41 ケース,411 収容室,42 流路ユニット,
421 流路形成板,421a 圧力室,421b ノズル連通口,
421c 共通インク室,421d インク供給路,422 弾性板,
422a 支持枠,422b 弾性膜,422c アイランド部,
423 ノズルプレート,43 ピエゾ素子ユニット,
431 ピエゾ素子,431a 圧電体層,431b 第1個別電極,
431c 第2個別電極,432 接着用基板,50 駆動制御部,
51 駆動信号生成部,511 デジタルアナログ変換回路,
512 電流増幅回路,52 インダクタンス調整部,521 コイル群,
522 選択スイッチ群,522a〜522h 選択スイッチ,
523 カウンタ,53 電荷移動用ダイオード,54 信号切り替え部,
541 第1切り替えスイッチ,542 第2切り替えスイッチ,
543 第3切り替えスイッチ,55 ダミーコンデンサ選択部,
551 ダミーコンデンサ群,552 選択スイッチ群,
551a〜551h 選択スイッチ,553 カウンタ,
56 電荷移動用コイル,60 検出器群,61 リニア式エンコーダ,
62 ロータリー式エンコーダ,63 紙検出器,64 紙幅検出器,
70 プリンタ側コントローラ,71 インタフェース部,72 CPU,
73 メモリ,74 制御ユニット,81 シフトレジスタ回路,
82 ラッチ回路,83 個別スイッチ群,100 印刷システム,
110 コンピュータ,111 ホスト側コントローラ,
112 インタフェース部,113 CPU,114 メモリ,
120 表示装置,130 入力装置,131 キーボード,
132 マウス,140 記録再生装置,
141 フレキシブルディスクドライブ装置,
142 CD−ROMドライブ装置,S 用紙,SI ドット形成データ,
HU ヘッドユニット,HC ヘッド制御部,CTR コントローラ基板,
FC フラットケーブル,CR キャリッジ,Nz ノズル,
Nk ブラックインク用のノズル列,Nc シアンインク用のノズル列,
Nm マゼンタインク用のノズル列,Ny イエローインク用のノズル列,
COM 駆動信号,SI ドット形成データ,CLK クロック,
LAT ラッチ信号,TR1 NPN型トランジスタ,
TR2 PNP型トランジスタ,L1〜L8 コイル,
D1〜D8 ダミーコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)蓄電性素子が有する一方の電極を他方の電極よりも高い電位にするステップと、
(b)前記蓄電性素子に所定の動作を行わせるべく、前記一方の電極と前記他方の電極とをコイルを介して接続して前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップと、
を有する蓄電性素子の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、
前記一方の電極と前記他方の電極とを、前記コイル、および、前記一方の電極から前記他方の電極へ向かう方向の正電荷の移動を許容するダイオードを介して接続する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記蓄電性素子が有する一方の電極を他方の電極よりも高い電位にするステップでは、
駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記一方の電極に印加する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記一方の電極と前記他方の電極の電位を揃えるステップを、前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップよりも後に有する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記一方の電極と前記他方の電極の電位を揃えるステップでは、
駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記他方の電極に印加する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の蓄電性素子の制御方法であって、
複数の蓄電性素子から、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子を選択するステップを有し、
前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、
前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、それぞれが有する他方の電極へ接続する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記選択された蓄電性素子に応じて、インダクタンスを調整するために設けられた複数のコイルから、所定のコイルを選択するステップを有し、
前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、
前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に、前記選択されたコイルを介して接続する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記所定のコイルを選択するステップでは、
前記所定の動作を行わせる蓄電性素子の数に応じて、前記所定のコイルを選択する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項9】
請求項6に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記選択された蓄電性素子に応じて、静電容量を調整するために設けられた複数の他の蓄電性素子から、所定の他の蓄電性素子を選択するステップを有し、
前記他方の電極へ正電荷を移動させるステップでは、
前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に、前記コイルを介して接続する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記他の蓄電性素子を選択するステップでは、
前記所定の動作を行わせる蓄電性素子の数に応じて、前記他の蓄電性素子を選択する、蓄電性素子の制御方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記蓄電性素子は、
液体を吐出するためのヘッドに設けられ、前記液体を吐出させるための動作を前記所定の動作として行う、蓄電性素子の制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の蓄電性素子の制御方法であって、
前記蓄電性素子は、
ピエゾ素子によって構成されている、蓄電性素子の制御方法。
【請求項13】
液体を吐出するためのヘッドに設けられるとともにピエゾ素子によって構成され、前記液体を吐出させる動作を所定の動作として行う複数の蓄電性素子から、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子を選択するステップと、
前記選択された蓄電性素子の数に応じて、インダクタンスを調整するために設けられた複数のコイルから、所定のコイルを選択するステップと、
駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、それぞれが有する他方の電極よりも高い電位にするステップと、
前記選択された蓄電性素子に所定の動作を行わせるべく、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極とそれぞれが有する他方の電極とを、前記選択されたコイルとダイオードとを介して接続して前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極へ正電荷を移動させるステップと、
前記駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極と前記他方の電極の電位を揃えるステップと、
を有する蓄電性素子の制御方法。
【請求項14】
液体を吐出するためのヘッドに設けられるとともにピエゾ素子によって構成され、前記液体を吐出させる動作を所定の動作として行う複数の蓄電性素子から、前記所定の動作を行わせる蓄電性素子を選択するステップと、
前記選択された蓄電性素子の数に応じて、静電容量を調整するために設けられた複数の他の蓄電性素子から、所定の他の蓄電性素子を選択するステップと、
駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極を、それぞれが有する他方の電極よりも高い電位にするステップと、
前記選択された蓄電性素子に所定の動作を行わせるべく、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極とそれぞれが有する他方の電極とを、コイルとダイオードとを介して接続して前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極へ正電荷を移動させるステップと、
前記駆動信号生成部によって生成され、時間ごとの電位が予め定められた駆動信号を、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する他方の電極に印加することで、前記選択された蓄電性素子、および、前記選択された他の蓄電性素子のそれぞれが有する一方の電極とそれぞれが有する他方の電極の電位を揃えるステップと、
を有する蓄電性素子の制御方法。
【請求項15】
コイルと、
一方の電極と他方の電極の電位差に応じて動作をする蓄電性素子の、前記一方の電極と前記他方の電極との間に、前記コイルを接続するためのスイッチ部と、
前記スイッチ部を制御するコントローラであって、
前記蓄電性素子が有する一方の電極が他方の電極よりも高い電位になっている状態で、前記一方の電極と前記他方の電極とを前記コイルを介して接続して前記他方の電極へ正電荷を移動させるよう、前記スイッチ部を制御するコントローラと、
を有する蓄電性素子の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−118308(P2007−118308A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311582(P2005−311582)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】