説明

蓄電池の内部インピーダンス測定装置および蓄電池の内部インピーダンス測定方法

【課題】 大掛かりな装置を必要とせず、かつ、回路を複雑化することなく、正確に測定する、蓄電池の内部インピーダンス測定装置並びにその測定方法を提供することである。
【解決手段】 蓄電池の内部インピーダンスを測定するためのデータを収納するマイクロプロセッサと、プログラムによるデータを複数の周期の信号に変換するD/Aコンバータと、返還された信号を増幅して被測定蓄電池に印加する電流アンプとからなる測定電流印加手段と、印加された電流により被測定蓄電池に発生する起電力のうち特定範囲の周波数成分の信号を通過させるバンドパスフィルタと、通過した信号をデジタル化するA/Dコンバータと、デジタル化された特定範囲の周波数の成分の信号の相関から内部インピーダンスを求めるマイクロプロセッサとからなる計測手段と、を有する蓄電池の内部インピーダンス測定装置であり、該装置による蓄電池の内部インピーダンスを測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池に接続機器等からノイズ電流が流れても、安定して蓄電池の内部インピーダンスが測定できる、蓄電池の内部インピーダンス測定装置および蓄電池の内部インピーダンス測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数の蓄電池が直列接続された蓄電池群の各蓄電池の内部インピーダンスを測定する方法として、いわゆる交流4端子法が知られている。
【0003】
交流4端子法とは、内部インピーダンス測定対象の蓄電池に交流電流Iを流し、その際に発生する起電力Vを交流電圧計で計測し、蓄電池の内部インピーダンスZを下記式1で求める。
Z=V/I・・・・・・(1)
【0004】
交流4端子法による蓄電池の内部インピーダンス測定の原理図を図8に示す。図8において、11は蓄電池、2は計測電流印加手段、3は計測手段であり、複数の蓄電池11の各蓄電池11に計測電流印加手段2および計測手段3が接続されている。
【0005】
計測電流印加手段2は、蓄電池11の内部インピーダンスを測定するための交流電流(本明細書では計測電流と表記する)を発生させるものである。この計測電流印加手段2は、例えば交流定電流源として機能するものであって、原理的にインピーダンスは無限大である。
【0006】
計測手段3は、計測電流印加手段2が発生した計測電流により蓄電池11に生じた起電力を計測するものである。この計測手段3は、例えば交流電圧計として機能するものであって、原理的にインピーダンスは無限大である。
【0007】
ところで、蓄電池11には図8に示すように充電器5や負荷6等が接続され、それらにより交流電流成分(ノイズ電流)が蓄電池11に流れる。蓄電池11の内部インピーダンス計測を行うにはこのノイズ電流成分と計測電流成分とを分離する必要がある。
本出願人は特許文献1で、ノイズ電流成分と計測電流成分とを分離するため、計測手段に通常の計測電流のみを通過させるアナログフィルタあるいはデジタルフィルタからなる周波数フィルタを設け、ノイズ電流成分を除去して蓄電池の内部インピーダンスを測定する方法を提案した。
【0008】
【特許文献1】特開2004−132797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、計測電流の周波数とノイズ電流の周波数とが近接している場合には前記ノイズ電流をノイズ電流除去用周波数フィルタでは除去できず、計測誤差を生ずる。
このため、ノイズ電流の影響を少なくして内部インピーダンスを測定する手段として、(1)ノイズ電流より大きい電流にて計測する、
(2)ノイズ周波数と異なる周波数で計測する、
等の方法を講じた。
しかし、(1)の方法では大きな電流を通電するための大掛かりな装置を必要とし、(2)の方法ではノイズ周波数を予め計測してから計測周波数を決定しなければならず、測定回路が複雑となる、等の欠点があった。
【0010】
本発明は、上記欠点を解消し、内部インピーダンス測定に大掛かりな装置を必要とせず、かつ、測定回路を複雑化することなく、蓄電池の内部インピーダンスを測定することができる蓄電池の内部インピーダンス測定装置並びにその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蓄電池の内部インピーダンス測定装置は、被測定蓄電池に交流電流を印加して内部インピーダンスを計測する蓄電池の内部インピーダンス測定装置であって、該測定装置は蓄電池の内部インピーダンスを測定するためのデータを作成するマイクロプロセッサと、該マイクロプロセッサのプログラムによるデータを複数の周期の信号に変換するD/Aコンバータと、該D/Aコンバータで生成された信号を増幅して被測定蓄電池に印加する電流アンプとからなる計測電流印加手段と、該計測電流印加手により印加された電流により被測定蓄電池に発生する起電力のうち特定範囲の周波数成分の信号のみを通過させるバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタを通過した信号をデジタル化するA/Dコンバータと、該A/Dコンバータでデジタル化された特定範囲の周波数の成分の信号の相関から内部インピーダンスを求めるマイクロプロセッサとからなる計測手段と、を有する。
【0012】
本発明の蓄電池の内部インピーダンス測定方法は、被測定蓄電池に交流電流を印加して内部インピーダンスを計測する蓄電池の内部インピーダンス計測方法であって、該計測方法はマイクロプロセッサに収納の蓄電池の内部インピーダンス測定用プログラムからデータを呼び出し、該データをD/Aコンバータにより複数の周期と波形の信号に変換し、該D/Aコンバータで生変換された複数の信号を電流アンプで増幅し、該増幅した信号を被測定蓄電池に印加する計測電流印加工程と、前記電流アンプで増幅された電流の印加で被測定蓄電池に発生する起電力をバンドパスフィルタを通して特定範囲の周波数成分の信号のみを抽出し、該バンドパスフィルタを通過した抽出信号をA/Dコンバータでデジタル化し、該A/Dコンバータでデジタル化した特定周波数成分の信号の相関を計数して内部インピーダンスを求める計測手段とからなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、内部インピーダンス測定に大掛かりな装置を必要とせず、かつ、測定回路を複雑にすることなく、正確に蓄電池の内部インピーダンスを測定することができる蓄電池の内部インピーダンス測定装置並びにその測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明蓄電池の内部インピーダンス測定装置の計測手段3を説明するためのブロック図である。図1において、計測手段3は、アナログバンドパスフィルタ33、A/Dコンバータ32とマイクロプロセッサ31とからなるデジタルフィルタ34とからなり、該アナログバンドパスフィルタ33とデジタルフィルタ34は直列に接続されている。
アナログバンドパスフィルタ33は後述するように、計測周波数可変範囲のみを通過させる周波数特性を有している。
また、デジタルフィルタ34はアナログバンドパスフィルタ33からの出力をA/Dコンバータ32でデジタル値に変換し、その値をマイクロプロセッサ31でDFT(離散フーリエ変換)演算等を行い、特定範囲の周波数成分の大きさを求め、内部インピーダンスを計測する。
【0016】
このように、アナログバンドパスフィルタ33とデジタルフィルタ34とを直列に接続することで、フィルタの周波数通過帯域以外の周波数を除去することができる。しかし、ノイズの周波数成分が計測周波数と近い場合にはノイズ成分をも通過させてしまうため、計測電流成分と干渉し、誤差が生じる。
【0017】
そのため、本発明においてはアナログバンドパスフィルタ33の周波数通過帯域の区間で計測周波数を種々に変化させて周波数成分を計測し、周波数を変化させて計測した値の相関を求め、内部インピーダンスを求める。特定の周波数帯域で測定周波数を変化させ、得られた計測値の相関を求めることで、ノイズを大幅に削除することができる。
【0018】
即ち、図2に示すように、アナログバンドパスフィルタ33により該フィルタ33を通過する通過周波数は特定される。この通過周波数帯域区間で図3に示すように計測周波数を複数に変化させて内部インピーダンスを計測し、その測定データの相関を検出する。その結果の一例を図4に示す。図4から明らかなように、ノイズによる測定値は他の測定値と相関がなく、異常値であることが判明し、したがって相関のあるデータにより内部インピーダンスを正確に測定することができる。
【0019】
実施形態1
図5により本発明の、蓄電池の内部インピーダンス測定装置の一実施例を具体的に説明する。
図5は、蓄電池11に交流電流(計測電流)を流し、該計測電流により内部インピーダンスを計測する測定装置1で、該測定装置1は計測電流印加手段2と計測手段3とで構成される。計測電流印加手段2はマイクロプロセッサ21とD/Aコンバータ22と電流アンプ23とで構成され蓄電池11に周波数の異なる複数の電流を印加する。また、計測手段3は前記計測電流印加手段2で印加された電流により蓄電池11に発生する起電力のうち特定周波数帯域の周波数成分の信号のみを通過させるアナログバンドパスフィルタ33と、該バンドパスフィルタ33を通過した信号をデジタル化するA/Dコンバータ32と、該A/Dコンバータ32でデジタル化された特定周波数帯域の周波数成分の信号をDFT演算等して特定周波数のレベルを計算しその相関から内部インピーダンスを求めるマイクロプロセッサ31とで構成されている。
【0020】
本発明の測定方法は前記測定装置1を実施する方法であり、図5に示すように、マイクロプロセッサ21は蓄電池の内部インピーダンスを測定するためのプログラム24を実行して、そのプログラムに基づく信号をD/Aコンバータ22に送る。D/Aコンバータ22はマイクロプロセッサ21から送られた信号を指定された周期、波形の異なる複数の信号に変換する。電流アンプ23は前記D/Aコンバータ22で変換された複数の信号を増幅して蓄電池11に複数の異なる周波数からなる計測電流として印加する。
【0021】
蓄電池11に前記計測電流が印加されると該電流により起電力が発生する。バンドパスフィルタ33はこの起電力の特定範囲帯域における周波数成分の信号のみを通過させる(例えば図3参照)。A/Dコンバータ32は前記バンドパスフィルタ33を通過した特定範囲帯域内の複数の周波数成分の信号をデジタル化してマイクロプロセッサ31にその信号を送る。マイクロプロセッサ31は前記A/Dコンバータ32でデジタル化された特定範囲内の複数の周波数成分につきDFT(フーリエ変換)演算を行い、特定範囲の周波数成分の大きさを求め、求めた値につき相関を求め(図4参照)、蓄電池11の内部インピーダンスを求める。
【0022】
図6は本実施形態で内部インピーダンスを計測する工程を示すフローチャートである。
ステップ(ST)1−1
マイクロプロセッサ21は計測周波数f1(例えば測定周波数帯域を15〜17Hzの範囲に設定した場合、例えば15.7Hz)を発生するようD/Aコンバータ22に指示し、D/Aコンバータ22は計測周波数f1の電流を電流アンプ23に送り、電流アンプ23はその電流を増幅して蓄電池11に印加する。なお、本実施形態では、蓄電池に印加する電流は周波数の分離が良い(高調波成分を含まない)正弦波を採用し、該正弦波の周波数帯域はバンドパスフィルタ33の通過周波数範囲内で選択することが好ましい。
正弦波の電流を印加された蓄電池11からは起電力が発生する。この起電力をバンドパスフィルタ33−A/Dコンバータ32−マイクロプロセッサ31に収納のプログラムで演算することで蓄電池11に印加した周波数f1の電流による起電力成分の内部インピーダンスを計測する。
【0023】
ステップ(ST)1−2
次にステップ1−1で蓄電池11に印加した計測周波数とは異なる周波数f2(例えば15.8Hz)の正弦波電流をステップ1−1と同様に蓄電池11に印加し、蓄電池に印加した周波数f2の電流による起電力成分の内部インピーダンスを計測する。
ステップ1−N
次にステップ1−2で蓄電池11に印加した計測周波数と異なる周波数f3.・・・・n(例えば15.9、16.0、16.1、16.2、16.3Hz)の各正弦波電流をステップ1−1と同様に蓄電池11に印加し、蓄電池に印加した周波数f3、・・・・・nの電流による各起電力成分の内部インピーダンスを計測する。
【0024】
ステップ(ST)2
各周波数f1〜fnの電流で計測した数値の相関を求め、計測値が相関から逸脱したデータを削除する。
【0025】
ステップ3
ステップ2で得られた測定値の平均値を算出し、その結果を測定内部インピーダンスとして表示する。
【0026】
本発明はステップ1−1〜1−nで周波数の異なる複数の電流を畜電池11に印加し、その結果蓄電池11から生じる起電力に基づき内部インピーダンスを計測し、計測結果の相関を取って内部インピーダンスを求めている。したがって、蓄電池に印加される外来ノイズの周波数成分と計測周波数成分とが同じあるいは近似した周波数である場合には両者が干渉して誤差が生じるが、上述したように複数の異なる周波数で内部インピーダンスを計測し、その相関を求めているので、相関のないデータは計測メンバーから削除され、(測定結果からノイズ成分によるデータが削除され、)正確な内部インピーダンスを計測することができる。
【0027】
なお、上記実施形態では計測電流印加手段2と計測手段3とで別々のマイクロプロセッサを使用したが、両プロセッサを1台として両機能を持たせるように構成することも可能であり、1台で構成すると、A/Dコンバータ、D/Aコンバータを同期して動作させることが可能となる.
【0028】
また、蓄電池、特に鉛蓄電池には図7に示すようにその周波数特性に平坦な周波数帯域が存在する。したがって、この平坦な周波数特性を示す周波数帯で内部インピーダンスの計測を実施することにより、測定結果に直線的な相関が得られ、測定精度をより向上することができる。
【0029】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、内部インピーダンス計測時の外来ノイズの影響を除去でき、安定した正確な計測ができる内部インピーダンス測定装置並びに測定方法を提供することができる。
また、蓄電池に大きな電流を流す必要がなく、複雑な回路の付加も必要ないので、装置の小型化、取り扱いの簡素化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態である蓄電池の内部インピーダンス測定装置の原理を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態で採用するバンドパスフィルタの周波数特性を説明するグラフである。
【図3】本発明の実施形態で蓄電池に印加する周波数範囲を示すグラフである。
【図4】本実施形態で測定した測定値の相関を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態を示すブロック図である。
【図6】本発明の一実施形態の工程を示すフローチャートである。
【図7】蓄電池の周波数特性の一例を示すグラフである。
【図8】蓄電池の内部インピーダンスを測定する原理を説明する回路図である。
【符号の説明】
【0031】
1 内部インピーダンス測定装置
2 計測電流印加手段
3 計測手段
11 蓄電池
21 マイクロプロセッサ
22 D/Aコンバータ
23 電流アンプ
31 マイクロプロセッサ
32 A/Dコンバータ
33 バンドパスフィルタ
34 デジタルフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定蓄電池に交流電流を印加して内部インピーダンスを計測する蓄電池の内部インピーダンス測定装置であって、該測定装置は蓄電池の内部インピーダンスを測定するためのデータを収納するマイクロプロセッサと、該マイクロプロセッサのプログラムによるデータを複数の周期の信号に変換するD/Aコンバータと、該D/Aコンバータで生成された信号を増幅して被測定蓄電池に印加する電流アンプとからなる電流印加手段と、該電流印加手により印加された電流により被測定蓄電池に発生する起電力のうち特定範囲の周波数成分の信号のみを通過させるバンドパスフィルタと、該バンドパスフィルタを通過した信号をデジタル化するA/Dコンバータと、該A/Dコンバータでデジタル化された特定範囲の周波数の成分の信号の相関から内部インピーダンスを求めるマイクロプロセッサとからなる計測手段と、を有する蓄電池の内部インピーダンス測定装置。
【請求項2】
被測定蓄電池に交流電流を印加して内部インピーダンスを計測する蓄電池の内部インピーダンス計測方法であって、該計測方法はマイクロプロセッサに収納の蓄電池の内部インピーダンス測定用プログラムからデータを呼び出し、該データをD/Aコンバータにより複数の周期と波形の信号に変換し、該D/Aコンバータで生変換された複数の信号を電流アンプで増幅し、該増幅した信号を被測定蓄電池に印加する計測電流印加工程と、前記電流アンプで増幅された電流の印加で被測定蓄電池に発生する起電力をバンドパスフィルタを通して特定範囲の周波数成分の信号のみを抽出し、該バンドパスフィルタを通過した抽出信号をA/Dコンバータでデジタル化し、該A/Dコンバータでデジタル化した特定周波数成分の信号の相関を計数して内部インピーダンスを求める計測手段とからなる蓄電池の内部インピーダンス測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−220629(P2006−220629A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36884(P2005−36884)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】