説明

蓄電素子用電極、それを用いた蓄電素子、および蓄電素子用電極の製造方法

【課題】製造時や使用時に短絡防止その他の機能を有する層および/または活物質層が剥離・脱落しにくい蓄電素子用電極および蓄電素子を提供する。
【解決手段】集電体箔11と、集電体箔11の少なくとも一方の表面上に形成された活物質層12と、集電体箔11の表面上に形成され、活物質層12と隣接する高抵抗層40とを有し、活物質層12と高抵抗層40との界面50の少なくとも一部には、前記2つの層12,40の組成を含む混合相51が形成されている蓄電素子用電極10。活物質層12と高抵抗層40の界面50が混合相51を有することによって、隣接する2つの層12,40の接合が強固になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池や電気化学キャパシタなどの蓄電素子に用いる電極に関する。また、当該電極を用いた蓄電素子、および当該電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車などの、高密度・高出力が求められる用途では、巻回電極電池などの積層型電池が多く用いられる。また、これらの電池と類似した構造を有する積層型の電気化学キャパシタの開発が進められている。積層型の電池やキャパシタには、枚葉式の正極、負極およびセパレータが積層された電極体を有するものと、帯状の正極、負極およびセパレータが積層・巻回された巻回電極体を有するものがある。
【0003】
正極および負極には、金属箔のみからなるもの(例えばリチウム電池における負極)、金属箔からなる集電体上に活物質層を形成したもの、発泡金属からなる集電体に活物質を充填したものなどがある。活物質を有する電極であっても、電気を取り出すための集電タブを接続するために、あるいは直接集電端子に接続するために、通常その端部には、活物質が塗工されず金属製の集電体が露出する部分を有する。この露出した金属部分と、他方の電極の露出した金属部分または活物質層とが短絡した場合には、大きな電流が流れ、発熱によって蓄電素子が破損に至る可能性がある。隣り合う二つの電極はセパレータを介して対向しているが、巻回時の巻きずれや、運搬・使用時の落下・振動によって電極から剥離した粉末がセパレータを貫通するなどにより、短絡が起こる場合がある。
【0004】
これを防止するために、特許文献1には、集電体箔上の活物質非塗工部に、活物質層に隣接して短絡防止層を設ける発明が開示されている。また、現状の非水電解質二次電池においては、充電時に正極活物質から放出されたリチウムイオンを負極活物質に円滑に吸蔵させるために、負極活物質層は正極活物質層よりも大きく、正極活物質層全体に対向するように設計される。そのため、正極集電体箔の活物質非塗工部と負極の活物質塗工部がセパレータを介して対向する部分が必ず存在する。特許文献2および3には、正極活物質非塗工部であって、負極活物質塗工部とセパレータを介して対向している部分に絶縁層を形成する発明が開示されている。また、特許文献4には、短絡防止層を非絶縁性とする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−93583号公報
【特許文献2】特開2004−259625号公報
【特許文献3】特開2004−55537号公報
【特許文献4】特開2007−95656号公報
【特許文献5】特表2005−509247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、設計上短絡防止層を設けても、製造工程において電極箔とセパレータを巻回するとき、巻回電極体を押しつぶして扁平型とするとき、電極体をハンドリングするとき等に、短絡防止層や活物質層が剥離、脱落することがあった。また、蓄電素子使用時の落下、振動などによって、短絡防止層や活物質層が剥離、脱落する問題があった。
【0007】
本発明はこれらの点を考慮してなされたものであり、製造時や使用時に、短絡防止その他の機能を有する層および/または活物質層が剥離・脱落しにくい蓄電素子を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る蓄電素子用電極は、集電体箔と、集電体箔の少なくとも一方の表面上に形成された活物質層と、集電体箔の表面上に形成され、前記活物質層と隣接する高抵抗層とを有し、活物質層と高抵抗層との界面の少なくとも一部には、前記2つの層の組成を含む混合相が形成されていることを特徴とする。ここで「混合相が2つの層の組成を含む」とは、混合相において、2つの層を構成する成分が入り混じっていることをいう。本発明における高抵抗層は、活物質層と隣接して設けられる層であって、活物質層よりも高い電気抵抗を有する層である。高抵抗層には、絶縁性のものも含まれる。高抵抗層は、セパレータを介して隣合う極性の異なる電極との短絡を防止する、短絡による異常な発熱を抑制する、活物質層端縁部の剥離を抑制する、などの機能を有する。
【0009】
このように、活物質層と高抵抗層の界面が混合相を有することによって、隣接する2つの層の接合が強固になり、また界面に発生する応力の集中が緩和されるため、高抵抗層および/または活物質層の剥離・脱落を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、集電体箔上に設けられた高抵抗層および/または活物質層が、製造工程や電池使用時において剥離・脱落しにくいという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る正極の断面を示す図である。
【図2】実験1の正極の断面の光学顕微鏡写真である。
【図3】本発明の一実施形態に係る電池の巻回電極体の構造を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る電極体部分の断面構造を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る電極体部分の断面構造を示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る正極の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の一実施形態にかかる電極を図に基づいて説明する。本実施形態は、巻回型リチウムイオン二次電池に用いる正極で、正極集電体箔上に正極活物質層と高抵抗層を有している。本実施形態における高抵抗層は、主な機能として、負極との短絡を防止するための短絡防止機能を発揮する。
【0013】
0013
図3に、本実施形態に係る電極を用いた巻回電極体1の構造を示す。帯状の正極10と帯状の負極20とが帯状のセパレータ30を介して積層・巻回されている。正極10は、正極集電体箔11の両面に正極活物質層12と高抵抗層40を有しており、負極20は負極集電体21の両面に負極活物質層22を有している。
【0014】
図4に、図3のI−I断面における正極、負極およびセパレータの構造を示す。高抵抗層40は、正極集電体箔11の表面上に、正極活物質層12に隣接して形成され、セパレータ30を介して隣り合う負極20の端縁25(負極集電体箔21および活物質層22を切断した箇所)と、セパレータ30を介して対面している。
正極活物質層12は、正極活物質を主成分とし、必要に応じて、さらに導電剤、結着剤、フィラー等の添加成分を含んでいる。負極活物質層22も同様に、負極活物質を主成分とし、必要に応じてさらに導電剤、結着剤、フィラー等の添加成分を含んでいる。高抵抗層は、無機物および/または有機物の微粒子と、結着剤、必要に応じて導電材等の添加成分を含んでいる。
【0015】
図1に、図4の正極集電体箔11の側端に近い部分を拡大して示す。図1は集電体箔11の片面のみを表し、全体に縮尺は正確ではない。本実施形態では、正極活物質層12は、ほぼ一定の厚さを有するバルク領域121と、端部において厚さが漸次減少するテーパー領域122を有している。図1は活物質層12端縁に垂直な断面を示しており、このとき、テーパー領域122の断面が形成するくさび形状の内角をテーパー角123という。
【0016】
図1において、高抵抗層40は、正極活物質層12の端部テーパー領域122に重なるように塗工されている。活物質層12と高抵抗層40との界面50には、2つの層の組成を含む混合相51が形成されている。すなわち、混合相51においては2つの層12、40を構成する成分が入り混じっている。混合相51は、界面50の全体にわたって形成されていてもよいが、少なくとも一部に形成されている必要がある。また、混合相51の厚さは場所によってばらつきがあってもよい。
【0017】
混合相51は、正極活物質層12と高抵抗層40の組成を含んでいる。例えば、活物質層12がある元素Xを含まず、高抵抗層40のみがXを含む場合には、従来技術においては、界面が混合相を有さず明瞭な境界面として認識され、Xの濃度は界面の活物質層側では実質的に0であり、界面の高抵抗層側では高抵抗層中の平均組成となる。活物質層12の表面の凹凸や、元素の拡散移動を考慮しても、界面が乱れた境界領域の厚さはせいぜい正極活物質の粒径の半分程度未満である。なお、正極活物質の粒径は、典型的には3〜10μmである。これに対して図1に示す本実施形態においては、界面50に垂直な方向に沿って高抵抗層40側から活物質層12側に向かって、Xの濃度は高抵抗層40中の平均濃度から、局所的に増減しながら全体としては減少していき、活物質層12側の平均濃度(この例では不純物を除き実質的に0)に至る。このように、二つの層の界面50において、前記二つの層の間の組成を有する領域が混合相51である。
【0018】
より定量的には、ある元素Xに着目した場合に、活物質層中の平均濃度をXA原子%、高抵抗層中の平均濃度をXS原子%とすると、Xの濃度が(90XA+10XS)/100から(10XA+90XS)/100の間である部分を混合相51とみなすことができる。
【0019】
混合相51の厚さについては、図1の断面内において界面50に垂直な方向に混合相51の幅が最も大きいところを、混合相の最大厚さ52と定義することができる。また、複数の元素について求めた混合相の厚さが異なる場合には、そのうちの最大のものを混合相の最大厚さとすることができる。
【0020】
混合相51を測定・観察する方法としては、電子線マイクロアナリシス(EPMA)を利用することができる。電極を樹脂で固めてから界面に垂直に切断し、断面をEPMAで分析することにより、元素分布マッピング像によって、混合相の領域を視覚的に観察することができ、混合相の厚さおよび最大厚さ52を簡易的に求めることができる。また、元素の分布が活物質層12および高抵抗層40と異なる部分を混合相51として、その厚さおよび最大厚さ52を求めることができる。つまり、EPMAの分析結果から、ある元素Xの濃度を、界面50に垂直な方向に沿って求めることによって、混合相の最大厚さ52を決定することができる。
【0021】
分析の対象とする元素は、活物質層12および高抵抗層40のうち、いずれか一方の層に多く含まれ、他方の層にはあまり含まれない元素を選択するのが良い。また、一般には、正極活物質粒子の方が高抵抗層に含まれる粒子よりも大きく、高抵抗層に含まれる粒子が活物質粒子の間に入り込むようにして混合相51が形成される。したがって、高抵抗層40に多く含まれ、活物質層12にはあまり含まれない元素を分析の対象として選択するのがよい。例として、活物質層12がアルミニウム(Al)を含まず、高抵抗層40のみがAlを含む場合には、Alを選択することができる。ただし、LiはEPMAで検出することができないので、選択できない。
【0022】
混合相51の最大厚さ52が大きいほど、活物質層12と高抵抗層40の接合が強固となるので好ましい。混合相の最大厚さ52は、活物質粒子の粒径の中央値(累積の50%粒子径、D50)よりも大きいことが好ましく、活物質粒子の粒径の中央値の3倍よりも大きいことがさらに好ましい。
【0023】
正極活物質層12のバルク領域121の厚さは、電池の仕様に基づいて設計され、特に限定されない。典型的には、片面で40〜130μmで塗工され、乾燥・プレス後に25〜80μm厚に圧縮されて、集電体箔の幅方向の分布が±5%以内、好ましくは±3%以内となるように形成される。
【0024】
テーパー領域122の幅は、電極の容量を大きくするという観点からは狭い方が望ましく、技術的にはほぼ0とすることも可能である。しかし、テーパー角123を90度よりも小さくして、テーパー領域122をある程度確保するのが好ましい。
テーパー角123の大きさは、特に限定されるものではないが、好ましくは10度以上80度以下、より好ましくは10度以上45度以下、さらに好ましくは20度以上35度以下とするのがよい。また、テーパー領域122の幅は、特に限定されるものではないが、好ましくは20μm以上1mm以下、より好ましくは100μm以上500μm以下、さらに好ましくは150μm以上500μ以下とするのがよい。
【0025】
高抵抗層40の厚さは、典型的には3〜15μmであるが、特に限定されるものではない。高抵抗層40の集電体箔上に直接接して塗工された部分は、プレス加工されていないことが好ましい。すなわち、高抵抗層40の厚さが、活物質層12のプレス後の厚さよりも小さいことが好ましい。理由は次の通りである。
正極および負極は、集電体箔にそれぞれの活物質を塗工・乾燥した後、プレス加工により活物質層の密度を上げて製作される。高抵抗層40は、酸化物等の微細な粒子を含むため、良好な結着性を得るために、活物質層に比較して結着剤の含有量が多くなっている。結着剤を多く含む高抵抗層がプレスされると、伸びが大きく、活物質層と高抵抗層との界面には歪みが発生し、プレス後にも残留応力によって界面の接合強度が損なわれる。さらに、高抵抗層は結着剤が多いためプレスロールに接着しやすく、安定してプレスしにくいという製造上の問題も発生する。
【0026】
高抵抗層40は、活物質層12のテーパー領域122と部分的に重なり、かつ活物質層12のバルク領域121とは重ならないことが好ましい。高抵抗層40が薄く、集電体箔上に直接接して塗工された部分がプレス加工されていない場合でも、高抵抗層40が活物質層12のバルク領域121に重なる場合には、その部分がプレス加工されることになるからである。ただし実際には、高抵抗層40と活物質層12が混じり合う結果、バルク領域上に重なり部分があっても、問題にならない場合も多い。
【0027】
次に、本実施形態の電極である正極を製造する方法について説明する。
まず、各部材の材料および塗工用ペーストの調製方法を説明する。
【0028】
正極の集電体としては、耐酸化性に優れるアルミニウムの箔が好適に用いられる。
箔の厚さは、一般には12〜25μmのものが用いられ、好適には15〜20μmのものが用いられる。
箔の材質は、アルミニウムに限らず、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば何でもよい。例えば、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子等を用いることができる。また、アルミニウム等の表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理したものを用いることができる。
【0029】
正極活物質に必要に応じて導電剤、結着剤、フィラー等を添加して正極合剤が調製され、正極合剤に適量の溶媒を加えることによって、塗工用の正極ペーストが調製される。
【0030】
正極活物質としては、Liイオンを吸蔵・放出する周知の材料を用いることができる。例えば、LiCoOやCoの一部がNi,Mnその他の遷移金属あるいはホウ素で置換されたα−NaFeO構造を有するリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnに代表されるスピネル型結晶構造を有する化合物、LiFePO、LiFeSOあるいはFeの一部がCo,Mn等で置換されたポリアニオン型化合物等を用いることができる。正極にはさらに、CuO、CuO、AgO、CuS、CuSOなどのI族金属化合物、TiS、SiO、SnOなどのIV族金属化合物、V、V12、VO、Nb、Bi、SbなどのV族金属化合物、CrO、Cr、MoO、MoS、WO、SeOなどのVI族金属化合物、MnO、MnなどのVII族金属化合物、Fe、FeO、Fe、FePO、Ni、NiO、CoO、CoOなどのVIII族金属化合物等が添加されていてもよい。さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等を用いてもよい。
【0031】
正極活物質に添加される導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料を用いることができる。例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を、一種またはそれらの混合物として含ませることができる。好ましくは、導電性および塗工性の観点から、アセチレンブラックが用いられる。その添加量は、正極活物質に対して1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
正極活物質に添加される結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、カルボキシメチルセルロース等の、熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー、多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることができる。また、多糖類の様にリチウムと反応する官能基を有する結着剤は、例えばメチル化するなどしてその官能基を失活させておくことが望ましい。その添加量は、正極活物質に対して1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0033】
正極活物質に添加されるフィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料を用いることができる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、アエロジル、ゼオライト、ガラス、炭素等を用いることができる。フィラーの添加量は、正極活物質に対して0〜30質量%であることが好ましい。
【0034】
正極ペーストの調製に用いられる溶媒の種類および添加量は、粘度、揮発性、ペーストのチキソトロピー等を考慮して決めることができる。また、2以上の溶媒を混合して添加してもよい。溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒や、結着剤を含む水などの水溶液等が挙げられる。溶媒の添加量は、正極合剤に対して、40〜60質量%であることが好ましい。
【0035】
なお、正極ペーストの調製手順は、ペーストの原料を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。正極ペーストを調製するには、上記の正極合剤を調製した後に溶媒を加える方法の他、正極合剤の構成成分と溶媒を同時に混合して正極活物質に加える方法、結着剤を予め溶媒に溶解してから他の構成成分と混合する方法を用いてもよい。また、導電剤と溶媒をあらかじめ均一に混合し、その後に活物質と混合すると、導電剤がより均一に分散されるため、好ましい。
【0036】
高抵抗層の構成成分である無機および/または有機の粒子、結着剤、および必要に応じて導電剤その他の添加剤を混合し、さらに適量の溶媒を加えることによって、塗工用の高抵抗層ペーストが調製される。
【0037】
高抵抗層の材料としては、無機および/または有機の粒子と結着剤を混合したものを用いることができる。粒子としては、例えば、Al、SiO、ZrO、TiO、MgO等の無機物粒子や、ポリイミド粉末等の有機物粒子を用いることができる。なかでも、安定性や取り扱いの容易さ等の点からアルミナが好ましく、集電体箔との密着性、接合強度の点からγ型アルミナ粒子が特に好ましい。
【0038】
高抵抗層に含まれる粒子としては、一次粒径の中央値が1〜2000nmのものが使用できるが、集電体箔との密着性、接合強度の観点からは、一次粒径の中央値が1〜200nmであることが好ましく、1〜10nmであることがさらに好ましい。ここで高抵抗層に含まれる粒子の一次粒径の中央値とは、透過型電子顕微鏡で1次粒子の直径を10粒子観察したときのメジアンをいう。
【0039】
高抵抗層に含まれる結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。なかでも、集電体箔や活物質層との密着性、接合強度の観点から、PVDFが用いることが好ましい。また、PVDF樹脂の含有量は、45質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0040】
高抵抗層には、さらに適量の導電剤を加えることができる。本実施形態における高抵抗層は、正極の集電体箔と負極との短絡による異常な発熱を防止することを主な機能とする。高抵抗層が絶縁性であっても短絡防止機能を発揮できることはもちろんであるが、高抵抗層を非絶縁性とすることによって、正極または負極作製時に生じたバリ等がセパレータを突き破った場合に、高抵抗層を介して穏やかな放電を起こさせ、異常な発熱を避けることができる。
【0041】
高抵抗層ペーストの調製に用いられる溶媒の種類および添加量は、粘度、揮発性、チキソトロピー(チキソ性、揺変性)等を考慮して決めることができる。また、2以上の溶媒を混合して添加してもよい。溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒や、結着剤を含む水などの水溶液等が挙げられる。溶媒の添加量は、高抵抗層中の固形分に対して、40〜60質量%が好ましい。
【0042】
なお、高抵抗層ペーストの調製手順は、ペーストの原料を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、上記の粉末、結着剤および導電剤を混合した後に溶媒を加えてもよいし、粉末、結着剤、導電剤および溶剤を同時に混合してもよいし、結着剤を予め溶媒に溶解してから粉末および導電剤と混合してもよい。
【0043】
次に、本実施形態の正極の製造方法のうち、塗工以後の工程について説明する。
【0044】
帯状の正極集電体箔の両面に、正極ペーストを塗工する。塗工方法としては、例えばダイコート法やコンマコート法を用いて塗工することができる。このとき、集電体箔の両側端部には塗工しない部分を残す。正極ペーストの塗工厚さは、集電体箔の幅方向の厚さ分布が±5%以内、好ましくは±3%以内となるようにする。厚さの平均値は、集電体箔を除いて典型的には片面で40〜130μm、両面で80〜260μmである。
【0045】
テーパー領域を設けるには、例えばダイコート法であればシム板(ダイコーター・ヘッド部のスリット内に挿入配置されて、スリットの寸法を規定する部品)の端部が薄くなるようにテーパー加工したり、端部に切り欠きを設けたりすることで、端部領域の塗工量を減らすことができる。また、シム板の加工部位や加工量を適宜調節することによって、テーパー角の大小およびテーパー領域の幅の大小を制御することが可能である。
【0046】
次いで、両面の正極ペースト層の両側端部に隣接して、正極ペースト相が乾燥する前に、すなわち正極活物質層が乾燥する前に、高抵抗層ペーストを塗工する。塗工には周知の方法、例えばダイコート法を用いることができる。
正極ペースト層が乾燥する前に高抵抗層ペーストを塗工するには、正極ペーストの塗工と高抵抗層ペーストの塗工を連続して行えばよい。2つの工程を連続して行なわず、間に他の工程、例えば正極ペーストを塗工した正極集電体箔の検査、一時保管、移動その他の工程を実施する場合にも、当該他の工程で正極ペースト層の乾燥が進まないことが望ましい。このような観点から、正極ペースト塗工から高抵抗層ペースト塗工までの間には、塗工された正極ペーストは常時100℃以下の環境にあることが望ましく、常時40℃以下の環境にあることがさらに望ましい。その場合、正極ペースト中には溶媒が残存している。特に高沸点溶媒であるNMP等を用いた場合には、ほとんどの溶媒がペースト中に残存した状態である。したがって、高抵抗層ペーストを塗工したときに、正極ペースト層との界面で2つのペースト層の構成成分が入り混じり、簡便・確実に混合相を形成することができる。
【0047】
また、正極ペーストに使用する溶媒と高抵抗層ペーストに使用する溶媒は、相溶性を有することが好ましい。
ここで2つの溶媒が相溶性を有するとは、2つの溶媒が相互に溶解する、すなわち溶液を形成することをいう。相溶性を有するか否かの指標として、2つの溶媒を容器に等量封入し、10秒間振とう撹拌して、混ざり合うようであれば2つの溶媒は相溶性を有すると言える。
両者が同じ溶媒であれば、当然に相溶性を有する。両者が異なる場合でも、共に有機溶媒で、溶解度パラメータ(SP値)が近ければ相溶性を有する。また、両者共に同じ物質、例えばNMPを主成分とすることによって、相溶する溶媒を作製することができる。あるいは、両者共に水を用いることによって、相溶する溶媒を作製することができる。
【0048】
次いで、正極ペーストと高抵抗層ペーストが塗工された正極箔は、120〜180℃で乾燥される。乾燥方法には、周知の方法を用いることができる。
【0049】
乾燥された正極は、プレス加工される。本実施形態では、正極が帯状であるため、ロールプレスが好適に用いられる。プレス加工によって正極活物質層は、典型的には、プレス前の片面で40〜130μm厚から、25〜80μm厚に圧縮される。
【0050】
プレス工程を経た帯状の正極は、両側端部の集電体箔が露出している。この正極は、必要に応じて一時保管された後、幅方向の中央を長さ方向に沿って切断され、さらに必要な長さに切断される。
以上の工程を経て、本実施形態の電極(正極)が製造される。
【0051】
次に、上記実施形態の正極を用いた電池の実施形態について説明する。
本実施形態の電池は、上記正極と、集電体箔上に負極用の活物質層を有する負極とがセパレータを介して積層巻回された電極体を備えた、巻回型リチウムイオン二次電池である。
【0052】
負極の材料および作製工程について述べる。
負極の集電体としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。これらのうち、還元場において安定であり、かつ電導性に優れ、安価な銅箔、ニッケル箔、鉄箔、およびそれらの一部を含む合金箔が好適に用いられる。銅箔の場合には、一般に厚さ7〜15μmのものが用いられ、好適には約10μmのものが用いられる。
【0053】
負極活物質としては、Liイオンを吸蔵・放出する周知の材料を用いることができる。例えば、スピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム;リチウム金属;リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−スズ、リチウム−アルミニウム−スズ、リチウム−ガリウムなどのリチウム含有合金;ウッド合金;さらに、天然黒鉛、人造黒鉛、無定形炭素、繊維状炭素、粉末状炭素、石油ピッチ系炭素、石炭コークス系炭素等の炭素材料が挙げられる。さらに、炭素材料にはスズ酸化物や珪素酸化物といった金属酸化物の添加や、リンやホウ素を添加して改質を行うことも可能である。また、グラファイトとリチウム金属、リチウム含有合金などを併用することや、あらかじめ電気化学的に還元することによって、本発明に用いる炭素質材料にあらかじめリチウムを挿入することも可能である。
【0054】
負極の作製工程は、正極の作製工程と同様である。
負極活物質に、必要に応じて導電剤、結着剤、フィラー等を添加して負極合剤が調製され、負極合剤に適量の溶媒を加えることによって、塗工用の負極ペーストが調製される。
負極ペーストの調製に用いられる溶媒の種類および添加量は、粘度、揮発性、チキソトロピー(チキソ性、揺変性)等を考慮して決められる。また、2以上の溶媒を混合して添加されることがある。溶媒の例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられる。なお、負極ペーストの調製手順が、ペーストの原料を均一に混合できる方法であれば特に限定されないことも、正極ペーストの場合と同様である。
【0055】
帯状の負極集電体箔の両面に、負極ペーストを塗工する。塗工方法としては、例えば、ダイ塗工法を用いることができる。このとき、集電体箔の両側端部には塗工しない部分を残す。負極ペーストの塗工厚さは、集電体箔の幅方向の厚さ分布が±5%以内、好ましくは±3%以内となるようにする。厚さの平均値は、典型的には片面50〜100μmである。
次いで、負極ペーストが塗工された集電体箔を、120〜180℃で乾燥する。乾燥方法には、周知の方法を用いることができる。
乾燥された負極は、プレス加工される。本実施形態では、負極が帯状であるため、ロールプレスが好適に用いられる。プレス加工によって負極活物質層の厚さは、典型的には、プレス前の50〜100μmから30〜60μmに圧縮される。
プレス加工された負極は、さらに、正極と同様に幅方向の中央を長さ方向に沿って切断され、必要な長さに切断される。
【0056】
電池のセパレータには、周知の材料を用いることができる。例えば、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリイミド系、フッ素樹脂系の微孔膜や不織布を用いることができる。セパレータの濡れ性が悪い場合には、界面活性剤等の処理を施すことができる。
【0057】
電解質には、周知の材料を用いることができる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート等の環状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネート;酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル;テトラヒドロフラン又はその誘導体、1,3−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキサラン又はその誘導体等の単独又はそれら2種以上の混合物等を挙げることができる。
【0058】
上記正極と負極とをセパレータを介して積層、巻回し、外装容器に収容し、前記非水電解質を注液、含浸し、初期充放電サイクル工程を経て、本実施形態のリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0059】
本発明は、以上の実施形態に限られるものではない。
上記実施形態においては、集電体箔の表面上に活物質層を塗工し、活物質層が乾燥する前に高抵抗層を塗工し、その後に全体を乾燥することによって、界面における混合相を形成する。これ以外にも、例えば、活物質層と高抵抗層の間に両者の中間の組成を持った1つ以上の薄い層を設けることによっても混合相を実現することができる。
【0060】
また、上記実施形態においては、集電体箔表面上に活物質層を塗工した後、その端部テーパー領域の上に重なるように高抵抗層を塗工したが、二つの層を塗工する順番を入れ替えてもよい。
図5に、集電体表面上に高抵抗層を塗工した後、その端部に重なるように活物質層を塗工した場合の電極体の断面構造を示す。図6に、図5の正極集電体箔11の側端に近い部分を拡大して示す。図6は集電体箔11の片面のみを表し、全体に縮尺は正確ではない。
この場合図6において、活物質層12の端縁が高抵抗層40上に乗り上げる格好になるため、活物質層12端縁に垂直な断面はくさび形状を形成しない。しかしながら、活物質層12の厚さがほぼ一定のバルク領域121と、厚さが漸次減少する端部テーパー領域122は依然として観念することができる。したがって、高抵抗層40が活物質層12の端部テーパー領域122の一部と重なり、かつ活物質層のバルク領域121とは重ならないことがより望ましいことは、図1に示した上記実施形態と同様である。
【0061】
また、上記実施形態においては、高抵抗層は正極に形成されているが、高抵抗層を負極のみに、または正極および負極の両方に形成することも可能である。その場合、負極に形成される高抵抗層の材料(結着剤、フィラー、導電剤)と溶媒は、正極に形成される場合と同じ材料を用いることができる。さらに、高抵抗層の塗工方法、負極活物質層と高抵抗層の界面に混合相を形成する方法、望ましい形状を得る方法等は、正極の場合と同様である。
【0062】
また、上記実施形態においては、高抵抗層が形成された電極の対極が、集電体箔上に活物質層を有する構造であるが、対極はリチウム金属やリチウムと合金化可能な金属などの箔であってもよいし、発泡金属からなる集電体に活物質を充填したものであってもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、巻回電極体を有するリチウムイオン電池について説明したが、本発明にかかる電極は枚葉式の電極であってもよく、したがって本発明にかかる蓄電素子は正極、負極およびセパレータを積層するが巻回しない電極体を有するものであってもよい。また、本発明にかかる蓄電素子は、リチウムイオン電池に限られず、アルカリ蓄電池等の水溶液を電解液とするものであってもよいし、リチウム金属箔を負極とするリチウム一次電池やリチウム二次電池であってもよい。さらに、本発明にかかる電極は、二次電池と構造の類似した電極を用いる電気化学キャパシタにも用いることができる。したがって、本発明にかかる蓄電素子は、電気化学キャパシタをも含むものである。
【0064】
(実験)
種々条件を変えて正極を作製し、プレス加工後の活物質層および高抵抗層の剥離の発生状況を観察した。以下に実験方法および結果を説明する。
【0065】
(実験1)
硝酸マンガン、硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Mn:Ni:Coの原子比が9:9:2の割合となるように混合し、これを硝酸に加え、熱を加えながら撹拌し、完全に溶解させた。次に、硝酸を蒸発させ、混合塩を得た。該混合塩に水酸化リチウム粉末を添加し、ボールミルにて混合後、1000℃で12時間、酸素雰囲気下で焼成した後、粉砕後分級して中央値(D50。以下、単に「粒径」という。)が5μmの粉末とした。不活性気体の吸着によるBrunauer,Emmett&Teller法(BET法)で測定した比表面積は0.90m/gであった。
該粉末を正極活物質として用い、正極活物質である粉末、導電剤であるアセチレンブラック及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を重量比85:10:5で混合し、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え、混練して、正極ペーストを調製した。なお、PVDFを混合する際には固形分が溶解分散された溶解液を用い、上記重量比は、溶解液に含まれるPVDFの重量によって表した。
【0066】
高抵抗層については、一次粒子径の中央値(以下、単に「粒径」という。)が5nm、比表面積96m/g、タップ密度0.04g/cmのγ型アルミナ粒子2.1kgを、結着剤であるPVDFを12%含有したNMP溶液21.39kg(PVDF量として2.567kg)にNMP6.0kgを加えて希釈した液に混合し、均一に分散させて、スラリー状の高抵抗層ペーストとした。この場合、NMPは最終的には蒸発してなくなるので、高抵抗層中のPVDF含有比率は2.567/(2.1+2.567)=55質量%となる。
【0067】
前記正極ペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔集電体の片面に、25℃の雰囲気下でダイコーターにて塗工した。このとき、テーパー加工を施したシムを用いて、端部テーパー角が30度になるように調整した。バルク領域の乾燥後厚さは70μm、乾燥後の塗工量は7.5mg/cmであった。
高抵抗層ペーストを、正極ペーストの塗工後5分以内で正極ペーストが乾燥しないうちに、その端縁に0.2mm重なるようにして、ダイコート法によって幅4.5mm、厚さ10μmに塗工した。
その後正極を140℃で2分間乾燥し、プレス後の活物質層の厚さが50μmになるようにプレス加工を行った。
【0068】
剥離状況および混合相の観察は、光学顕微鏡およびEPMAによるAl分析によって行った。
活物質層と高抵抗層の界面近傍の状態を光学顕微鏡で観察し、活物質層および高抵抗層に剥離がないことを確認した。
断面をEPMAで観察した結果、アルミニウム(Al)は正極ペーストには含まれていないが、活物質粒子の裏側(高抵抗層とは反対の側)にも回り込んでいた。アルミニウム元素は、活物質粒子の隙間に、界面から活物質粒子径6個分、30μmの距離まで入り込んでいることを確認した。
【0069】
図2に、光学顕微鏡による断面の写真を示す。
正極集電体箔上に正極活物質層が塗工されており、正極活物質層は厚さが約50μmでほぼ一定のバルク領域(図2左側)と、厚さが漸次減少するテーパー領域を有している。活物質層端部に重なるように高抵抗層(図2右側)が厚さ約10μmで塗工されており、正極活物質層と高抵抗層との界面には、2つの層の組成を含む混合相が形成されている。混合相の厚さは、最も大きいところで30μmに達している。
【0070】
混合相は、活物質層のくさび形状の先端付近においては薄くなっているが、これは、集電体箔の近傍では物質の流動が制限されることによると考えられる。このため、くさび形状の先端位置を容易に特定することができる。くさび形状の先端を通って活物質層と高抵抗層の界面を通る直線を引くことにより、集電体箔表面となす内角であるテーパー角を測定することができる。活物質層と高抵抗層の界面には混合相が存在するので、界面を通る直線を引く際に多少の誤差を生ずる。しかし、くさび形状の先端位置を容易に特定することができるので、その誤差は、高々±5度程度である。図2ではテーパー角は約30度であった。
【0071】
また、混合相の存在は、EPMA測定によれば、より明瞭に確認することができる。図2からは分かりづらいが、高抵抗層は、活物質層のテーパー領域斜面の下から2/3付近まで重なっており、先端付近では、薄くなっている。EPMA観察によると、Al濃度が高抵抗層内の平均濃度とほぼ等しい層、すなわち高抵抗層の厚さは2〜4μmとなっている。
【0072】
(実験2)
活物質層を140℃で2分乾燥した後に、高抵抗層ペーストを塗工したことを除いては、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層と高抵抗層の界面に激しい剥離があることを確認した。
また、EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径の約半分、2μmの距離まで入り込んでいることを確認した。
【0073】
表1に、実験1と実験2の主な製造条件および評価結果を、後述する実施例・比較例と併せて示す。
表中、「活物質層塗工後の乾燥」の欄には、正極ペースト塗工後、高抵抗層ペースト塗工までの間に、正極ペーストの乾燥を行ったか否かを示した。「混合相厚さ」の欄には、EPMAによる元素マッピング像により、Alが界面から活物質層側に最も深くまで入り込んでいる距離を示した。
【0074】
実験1と実験2を比較すると、前者では活物質層が乾燥する前に高抵抗ペーストを塗工したのに対して、後者では活物質層を乾燥後に高抵抗ペーストを塗工した以外は、2つの実験で使用した材料、方法はすべて同じである。作製された電極は、各部の外形寸法が同じであり、混合相の厚さのみが異なる。剥離状況の観察では、実験1では剥離がなかったのに対して、実験2では、酷い剥離が観察された。以上の結果から、実験1では、活物質層と高抵抗層の界面に混合相が形成されたことによって、2つの層の剥離が抑制されたことが確認できた。
【0075】
【表1】

【0076】
(実験3)
高抵抗層の厚さを40μmとしたことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層および高抵抗層に剥離がないことを確認した。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径6個分、30μmの距離まで入り込んでいることを確認した。
【0077】
(実験4)
高抵抗層の厚さを60μmとしたことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層と高抵抗層の界面に剥離があり、高抵抗層にはひび割れが発生していることを確認した。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径6個分、30μmの距離まで入り込んでいることを確認した。
【0078】
実験1、実験3および実験4の結果を比較すると、実験1と実験3では剥離が発生していないのに対して、実験4では、実験2ほどではないが、活物質層と高抵抗層の界面に剥離が見られ、高抵抗層にはひび割れが観察された。実験4では高抵抗層の厚さが60μmあり、活物質層よりも厚い。このことから、プレス加工工程において高抵抗層全体がプレスされていたことが分かり、そのことにより活物質層との界面に大きな歪みを生じたものと考えられる。剥離の程度が実験2ほど酷くなかったのは、混合相による効果と考えられる。
【0079】
(実験5)
ダイコーターのシムにテーパー加工および切り欠き加工を施したものを用いて、テーパー角を20度としたことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層および高抵抗層に剥離がないことを確認した。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径6個分、30μmの距離まで入り込んでいることを確認した。
【0080】
(実験6)
ダイコーターのシムに切り欠き加工を施したものを用いて、テーパー角を45度としたことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層および高抵抗層に剥離がないことを確認した。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径4個分、20μmの距離まで入り込んでいることを確認した。また、活物質層のバルク領域の表面にも、アルミニウム元素の濃度が高い層が約100μmにわたって見られた。これは、高抵抗層ペーストが、活物質層のテーパー領域だけでなく、バルク領域上にも塗工されていたことを示している。
【0081】
(実験7)
ダイコーターのシムに切り欠き加工を施したものを用いて、テーパー角を60度としたことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層と高抵抗層の界面のごく一部に剥離が見られた。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径4個分、20μmの距離まで入り込んでいることを確認した。活物質層のバルク領域の表面には、アルミニウム元素の濃度が高い層が約150μmにわたって見られた。
【0082】
(実験8)
ダイコーターのシムに切り欠き加工を施したものを用いて、テーパー角を80度としたことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層と高抵抗層の界面のごく一部に剥離が見られた。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径1個分強、7μmの距離まで入り込んでいることを確認した。活物質層のバルク領域の表面には、アルミニウム元素の濃度が高い層が約300μmにわたって見られた。
【0083】
(実験9)
ダイコーターのシムに切り欠き加工等を行わずテーパー角を90度とし、高抵抗層ペーストを正極ペースト塗工層に重ねずに塗工したことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層および高抵抗層が集電体箔から剥離していることが観察された。
EPMA観察により、アルミニウム元素は活物質層には入り込んでおらず、活物質層と高抵抗層の界面には混合相が形成されていなかったことが分かった。
【0084】
実験1、実験5〜実験9の結果を比較すると、テーパー角が小さいほど、活物質層および高抵抗層が剥離しにくいことが分かった。また、実験7(テーパー角が60度)と実験8(同80度)では、一部に剥離が見られたが、実験6(同45度)よりもテーパー角が小さい場合には、剥離は全く観察されなかった。
【0085】
なお、実験9では、テーパー角を90度とするとともに、高抵抗層が活物質層に重ならないように高抵抗層ペーストを塗工した。したがって、2つの層は、厚さ10μmの高抵抗層の端面で接しているだけである。このように2つの層の界面の面積は小さく、活物質層がプレス加工されても、界面近傍の変形量や応力は、2つの層が重なり合っている場合に比べて小さいと考えられる。にもかかわらず剥離が発生したことは、2つの層の界面に混合相がないことを考慮しても、意外な結果であった。
実験9での剥離箇所を詳細に観察すると、界面近傍の活物質層が剥離していることが分かった。この原因は明らかではないが、2つの層に含まれる結着剤の濃度差が影響している可能性が考えられる。すなわち、結着剤濃度の高い高抵抗層から結着剤濃度の低い活物質層に溶剤が移行し、活物質層12中の溶剤濃度が減少することによって、活物質層が剥離しやすくなった可能性がある。
【0086】
(実験10)
正極ペーストを塗工後、雰囲気温度が40℃の中で、高抵抗層ペーストを塗工したことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層および高抵抗層に剥離がないことを確認した。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径4個分、20μmの距離まで入り込んでいることを確認した。
【0087】
(実験11)
正極ペーストを塗工後、雰囲気温度が60℃の中で、高抵抗層ペーストを塗工したことを除いて、実験1と同じ材料および方法で電極を作製した。
光学顕微鏡観察により、活物質層と高抵抗層の界面に剥離が見られた。
EPMA観察により、アルミニウム元素は、仮想的な境界面から垂直に、活物質層の活物質粒子の隙間に、活物質粒子径2個分、10μmの距離まで入り込んでいることを確認した。
【0088】
実験1、実験10および実験11の結果を比較すると、高抵抗層ペーストを塗工するときの雰囲気温度が高いほど、アルミニウム元素の活物質層への入り込みが小さくなっていること、すなわち界面の混合相の厚さが小さくなっていることが分かる。そして、実験1と実験10では剥離が発生していないのに対して、実験11では活物質層と高抵抗層の界面に剥離が見られた。このことから、正極ペースト塗工から高抵抗層ペースト塗工までの間には、塗工された正極ペーストの温度は常時40℃以下であることが好ましいことが分かった。すなわち、活物質層塗工工程から高抵抗層塗工工程までの間には、活物質層の温度が40℃以下で実施される工程のみが含まれることが好ましいことが分かった。
また、実験11では剥離が発生したが、これを作製された電極各部の外形寸法が同じである実験2と比較すると、実験11での剥離の程度は実験2のそれほどには酷くなかった。このことから、実験11は本発明の最良の実施形態ではないとしても、実験11の結果は混合相による剥離抑制効果を示しているものと考えられる。
【符号の説明】
【0089】
1 巻回電極体
10 正極
11 正極集電体箔
12 正極活物質層
20 負極
21 負極集電体箔
22 負極活物質層
25 負極端縁
30 セパレータ
40 高抵抗層
50 活物質層と高抵抗層の界面
51 混合相
52 混合相の最大厚さ
121 正極活物質層のバルク領域
122 正極活物質層の端部テーパー領域
123 テーパー角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体箔と、
前記集電体箔の少なくとも一方の表面上に形成された活物質層と、
前記集電体箔の表面上に形成され、前記活物質層と隣接する高抵抗層とを有し、
前記活物質層と前記高抵抗層との界面の少なくとも一部には、前記2つの層の組成を含む混合相が形成されている
ことを特徴とする蓄電素子用電極。
【請求項2】
前記混合相の最大厚さが、前記活物質層に含まれる活物質粒子の粒径の中央値以上の大きさである
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電素子用電極。
【請求項3】
前記活物質層の厚さが前記高抵抗層の厚さよりも大きい
ことを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電素子用電極。
【請求項4】
前記活物質層はプレス加工されており、
前記高抵抗層のうち前記活物質層と重ならない部分はプレス加工されていない
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蓄電素子用電極。
【請求項5】
前記高抵抗層は、前記活物質層の端部テーパー領域の一部と重なり、かつ前記活物質層のバルク領域とは重ならない
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄電素子用電極。
【請求項6】
前記活物質層は、厚さがほぼ一定のバルク領域と、厚さが漸次減少する端部テーパー領域を有し、
前記端部テーパー領域は、活物質層端縁に垂直な断面におけるくさび形状の内角であるテーパー角が80度以下である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の蓄電素子用電極。
【請求項7】
前記テーパー角が45度以下である
ことを特徴とする請求項6に記載の蓄電素子用電極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載された第1の電極と、
前記第1の電極とは極性の異なる第2の電極と、
セパレータとが積層された積層電極体を有する
ことを特徴とする蓄電素子。
【請求項9】
前記第1の電極が正極である
ことを特徴とする請求項8に記載の蓄電素子。
【請求項10】
さらに非水電解質を有する
ことを特徴とする請求項8または9に記載の蓄電素子。
【請求項11】
集電体箔を準備する工程と、
前記集電体箔の表面上に活物質層を塗工する工程と、
前記集電体箔の表面上に高抵抗層を塗工する工程とを有し、
前記活物質層と前記高抵抗層のうち後から塗工される第2の塗工層は、先に塗工された第1の塗工層が乾燥する前に、第1の塗工層に隣接して塗工される
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載された蓄電素子用電極を製造する方法。
【請求項12】
集電体箔を準備する工程と、
前記集電体箔の表面上に活物質層を塗工する工程と、
前記集電体箔の表面上に高抵抗層を塗工する工程とを有し、
前記活物質層と前記高抵抗層のうち後から塗工される第2の塗工層は、先に塗工された第1の塗工層に隣接して塗工され、
第1の塗工工程から第2の塗工工程までの間には、第1の塗工層の温度が40℃以下で実施される工程のみが含まれる
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載された蓄電素子用電極を製造する方法。
【請求項13】
前記活物質層を塗工する際の溶媒と、前記高抵抗層を塗工する際の溶媒とが相溶性を有する
ことを特徴とする請求項11または12に記載の蓄電素子用電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−114079(P2012−114079A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198941(P2011−198941)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】