説明

薄切片作製装置及び薄切片作製方法

【課題】薄切片を搬送帯から確実に離隔させて高品質の薄切片標本を得ることができる薄切片作製装置及び薄切片作製方法を提供すること。
【解決手段】試料ブロックBから切断された薄切片B1をスライドガラス3まで搬送するキャリアテープ(搬送帯)5と、キャリアテープ5により薄切片B1を搬送する際に、キャリアテープ5及び薄切片B1を互いに異なる電荷に帯電させる帯電部6と、帯電部6により帯電されて接着されたキャリアテープ5及び薄切片B1から電荷を除去する除電部7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学実験や顕微鏡観察等に用いられる薄切片標本を作製する際に用いられる薄切片作製装置及び薄切片作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
理化学実験や顕微鏡観察に用いられる薄切片標本は、厚さが数μm(例えば、3μm〜5μm)の薄切片を、スライドガラス等の基板上に固定させたものである。
この薄切片標本は、ホルマリン固定された生物や動物等の生体試料をパラフィン置換した後、更に周囲をパラフィンで固めて作製されたブロック状態の包埋ブロックから作製される。即ち、まず、包埋ブロックを専用の薄切装置であるミクロトームにセットして、粗削りを行う。この粗削りによって、包埋ブロックの表面を平滑とすると共に、実験や観察の対象物である包埋された生体試料を表面に露出させる。この粗削りを終了した後、ミクロトームが有する切削刃により、包埋ブロックを上述した厚みで極薄にスライスする本削りを行い、薄切片を得る。
【0003】
このようにして得られた薄切片は、静電気力等によってキャリアテープ等の搬送帯に保持され、伸展させるための水槽や転写用のスライドガラスの上方まで搬送された後、例えば、スライドガラスの表面に密着されて、スライドガラス上に転写される。この際、薄切片とキャリアテープとの接着力が大きい場合には、薄切片がキャリアテープからスムーズに離隔されない。また、スライドガラスに転写する際、薄切片がゆがんでしまうとスライドガラスとの間に気泡を巻き込んでしまい、薄切片が破れてしまう可能性がある。
【0004】
このような問題に対処するものとして、キャリアテープを移動させるためのガイドローラをスライドガラスに対して移動して、キャリアテープを弛ませた状態でスライドガラスに薄切片を接近させるものがある。即ち、一の方向からスライドガラスに徐々に接触させながら全面を接触させ、その後、逆の方向からキャリアテープをスライドガラスから離隔させるものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−275538号公報
【特許文献2】特開2000−310737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の薄切片作製装置では、薄切片が薄いので、キャリアテープに歪んだ状態で接着している場合には、歪んだ状態のままスライドガラスに接着してしまい、気泡の巻き込みを十分除去することができない。従って、スライドガラスに歪みのない状態で薄切片を転写させることが未だ困難である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、薄切片を搬送帯から確実に離隔させて高品質の薄切片標本を得ることができる薄切片作製装置及び薄切片作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る薄切片作製装置は、試料が包埋された試料ブロックから切断された薄切片を搬送する搬送帯と、該搬送帯により前記薄切片を搬送する際に、前記搬送帯及び前記薄切片を互いに異なる電荷で帯電させる帯電部と、前記帯電部により帯電されて接着された前記搬送帯及び前記薄切片から前記電荷を除去する除電部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る薄切片作製方法は、試料が包埋された試料ブロックから切断された薄切片をスライドガラスまで搬送帯にて搬送し、前記スライドガラスに前記薄切片を貼り付ける薄切片作製方法であって、前記搬送帯により前記薄切片を搬送する際に、前記搬送帯及び前記薄切片を互いに異なる電荷で帯電させる帯電工程と、帯電された前記搬送帯及び前記薄切片から電荷を除去する除電工程と、を備えていることを特徴とする。
【0010】
この発明は、除電部を備えているので、帯電部により帯電されて静電気力にて互いに接着している搬送帯と薄切片とから静電気を取り除いて、搬送帯と薄切片とを再び離隔させることができる。
【0011】
また、本発明に係る薄切片作製装置は、前記薄切片作製装置であって、前記除電部が、前記搬送帯と前記薄切片とにX線を照射することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る薄切片作製方法は、前記薄切片作製方法であって、前記除電工程が、前記搬送帯と前記薄切片とにX線を照射するX線照射工程を備えていることを特徴とする。
【0013】
この発明は、搬送帯と薄切片との間で空気を挟んで対向した状態の搬送帯及び薄切片にX線を照射する。これによって、空気中に含まれる窒素、酸素、水等の分子が電離してイオン化される。このときの陽イオンが、搬送帯又は薄切片表面の負電荷と結合し、かつ、陰イオンが、正電荷と結合する。その結果、搬送帯及び薄切片のそれぞれの静電気を中和することができ、搬送帯と薄切片とをより好適に離隔させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、薄切片を搬送帯から確実に離隔させて高品質の薄切片標本を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る一実施形態について、図1から図3を参照して説明する。なお、本実施の形態では、生体試料として、鼠等の実験動物から採取した生体組織を例に挙げて説明する。
本実施形態に係る薄切片作製装置1は、図示しない生体組織が包理剤に包埋された試料ブロックB(試料ブロックとしては、新規な試料ブロック、薄切片採取済の試料ブロック、又は、別箇所で粗削りまで完了した試料ブロック等がある)から切断された、所定厚さのシート状の薄切片B1を用いて薄切片標本を作製するための装置である。
【0016】
この薄切片作製装置1は、図1に示すように、ナイフ2により試料ブロックBから切断された薄切片B1をスライドガラス3まで搬送するキャリアテープ(搬送帯)5と、キャリアテープ5により薄切片B1を搬送する際に、キャリアテープ5及び薄切片B1を互いに異なる電荷に帯電させる帯電部6と、帯電部6により帯電されて接着されたキャリアテープ5及び薄切片B1から電荷を除去する除電部7と、を備えている。
【0017】
試料ブロックBは、ホルマリン固定された生体組織内の水分をパラフィン置換した後、さらに周囲をパラフィン等の包埋剤によってブロック状に固めた包埋ブロックを包埋カセット上に固定したものである。これにより、生体組織がパラフィン内に包埋された状態となっている。
【0018】
キャリアテープ5は、供給リール8から繰り出され、薄切片B1の搬送経路に配されたガイドロール10に沿って、テープ駆動装置11によって移動され、巻取りリール12に巻き取られるようになっている。
【0019】
ナイフ2には、水平面に沿って設けられた切削面2aが設けられている。
帯電部6は、試料ブロックBの表面を、例えば正電荷で帯電させる第一帯電部6Aと、キャリアテープ5を、例えば負電荷で帯電させる第二帯電部6Bとを備えている。本実施形態では、第一帯電部6Aにより帯電された試料ブロックBがさらに移動した位置にて、第二帯電部6Bによってキャリアテープ5が帯電され、その後ナイフ2により切断されるように、第一帯電部6A及び第二帯電部6Bが配されている。
【0020】
除電部7は、キャリアテープ5と薄切片B1とに対して、キャリアテープ5側から鉛直下方にX線を照射するように、スライドガラス3の上方近傍に配されている。
【0021】
次に、本実施形態に係る薄切片作製装置1の作用について、薄切片作製方法とともに説明する。
本実施形態に係る薄切片作製方法は、試料ブロックBから切断された薄切片B1をスライドガラス3までキャリアテープ5にて搬送し、スライドガラス3に薄切片B1を貼り付ける薄切片作製方法であって、キャリアテープ5により薄切片B1を搬送する際に、キャリアテープ5及び薄切片B1を互いに異なる電荷で帯電させる帯電工程と、帯電されたキャリアテープ5及び薄切片B1から電荷を除去する除電工程と、を備えている。
【0022】
まず、帯電工程について説明する。
ここでは、作業者は、予め冷却された試料ブロックBを、図示しない搬送装置によって薄切片作製装置1の第一帯電部6A近傍まで搬送する。そして、試料ブロックB側の薄切片B1を切断する側の面に、正電荷を帯電させる。
【0023】
次に、帯電された試料ブロックBを第二帯電部6Bが配された方向に移動する。ここでは、キャリアテープ5が、試料ブロックBの移動速度と同じ速度で供給リール8から繰り出されており、第二帯電部6Bによって表面に負電荷が帯電される。
【0024】
そして、ナイフ2によって、表面が帯電された試料ブロックBから薄切片B1を切断する。このとき、キャリアテープ5に対向する薄切片B1の表面には、正電荷があるので、キャリアテープ5表面の負電荷との間で静電気力が発生して、互いに接近して接着される。
【0025】
この際、薄切片B1が薄く、薄切片B1が歪んで皺が発生した状態となっているので、図2に示すように、微視的には所々でキャリアテープ5と薄切片B1との間に空間Sが形成され、空間S内に空気が挟まれた状態となっている。従って、この部分に残された電荷にともなう静電気力によって、キャリアテープ5と薄切片B1とが接触した状態となっている。
【0026】
水等の接着液5Aで表面が覆われたスライドガラス3上まで薄切片B1を搬送した後、除電工程を実施する。
ここでは、キャリアテープ5を弛ませて薄切片B1を接着液5Aに接触させるのと同時に、除電部7よりX線を照射する。ここで、X線の強度は、照射する範囲や周囲の環境によって適宜決められるが、3kev〜10kev程度とする。
【0027】
X線を照射することによって、図3に示すように、キャリアテープ5及び薄切片B1との間に挟まれた空気中の窒素、酸素、水等がイオン化されて、陽イオンと陰イオンとが発生する。そして発生した陽イオンが、キャリアテープ5上の負電荷と衝突してこれを中和する。一方、発生した陰イオンが、薄切片B1上の正電荷と衝突してこれを中和する。
【0028】
こうして、キャリアテープ5と薄切片B1とを接着させていた静電気が中和されるので、キャリアテープ5と薄切片B1とが離隔する。このとき、薄切片B1の歪みやスライドガラス3との間における気泡の巻き込み、薄切片B1の破れの発生が抑えられた状態で、薄切片B1が接着液5Aの表面に沿ってスライドガラス3に接着される。
【0029】
この薄切片作製装置1及び薄切片作製方法によれば、除電部7を備えているので、帯電部6により帯電されて静電気力にて互いに接着しているキャリアテープ5と薄切片B1とから静電気を取り除くことができる。そして、その際、薄切片B1が破れたり、折り曲げられたりすることなく、キャリアテープ5から確実に離隔させることができ、薄切片B1の品質を向上させることができる。
【0030】
ここで、キャリアテープ5と薄切片B1との間で空気を挟んで対向した状態のキャリアテープ5及び薄切片B1にX線を照射する。これによって、空気中に含まれる窒素、酸素、水等の分子が電離してイオン化される。これらのイオンが、キャリアテープ5又は薄切片B1表面のそれぞれの電荷と結合する。その結果、キャリアテープ5及び薄切片B1のそれぞれの静電気を中和することができ、キャリアテープ5と薄切片B1とをより好適に離隔させることができる。
【0031】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、除電部7からのX線照射は、キャリアテープ5側から鉛直下方に向けたものであるが、これに限らず、キャリアテープ5と薄切片B1との間に向けて薄切片B1と平行方向から照射しても構わない。この場合、キャリアテープ5と薄切片B1との間の空気のすべてに確実にX線を照射することができ、より確実に両者を離隔させることができる。
【0032】
また、キャリアテープ5側を正電荷に、かつ、薄切片B1側を負電荷に帯電させても構わない。
さらに、除電はX線に限らず、放電を利用して空気中の分子をイオン化できるものでも構わない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る薄切片作製装置を示す概要図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る薄切片作製方法を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る薄切片作製方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 薄切片作製装置
5 キャリアテープ(搬送帯)
6 帯電部
7 除電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が包埋された試料ブロックから切断された薄切片を搬送する搬送帯と、
該搬送帯により前記薄切片を搬送する際に、前記搬送帯及び前記薄切片を互いに異なる電荷で帯電させる帯電部と、
前記帯電部により帯電されて接着された前記搬送帯及び前記薄切片から前記電荷を除去する除電部と、
を備えていることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項2】
前記除電部が、前記搬送帯と前記薄切片とにX線を照射することを特徴とする請求項1に記載の薄切片作製装置。
【請求項3】
試料が包埋された試料ブロックから切断された薄切片をスライドガラスまで搬送帯にて搬送し、前記スライドガラスに前記薄切片を貼り付ける薄切片作製方法であって、
前記搬送帯により前記薄切片を搬送する際に、前記搬送帯及び前記薄切片を互いに異なる電荷で帯電させる帯電工程と、
帯電された前記搬送帯及び前記薄切片から電荷を除去する除電工程と、
を備えていることを特徴とする薄切片作製方法。
【請求項4】
前記除電工程が、前記搬送帯と前記薄切片とにX線を照射するX線照射工程を備えていることを特徴とする請求項3に記載の薄切片作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−145382(P2008−145382A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335631(P2006−335631)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】