説明

薄切片試料作製装置

【課題】試料ブロックの面合わせをより一層正確に行うことができる薄切片試料作製装置を提供する。
【解決手段】カッターを備える試料ブロック切削部と、試料ブロックのXY直交2軸方向に対する傾斜角度及びZ軸方向の高さ位置を調整可能に構成され試料ブロックをX軸方向に搬送する試料ブロック搬送部と、試料ブロックの高さ位置を検出する高さ検出部と、高さ検出部の検出情報に基づいて試料ブロックの傾斜角度及び高さ位置を調整する制御部とを備え、高さ検出部は、試料ブロックの表層部分に対して互いに異なる3つの測定点に接触して当該3つの測定点の高さ位置を検出可能な3つの接触式センサを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学試料分析や生体試料等の顕微鏡観察などに利用される薄切片試料の作製する薄切片試料作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置としては、ミクロトームが知られている。ミクロトームは、パラフィン等で包埋された被検体をカッターによって薄切りすることにより、薄切片試料を作製する装置である。ミクロトームにより作製された薄切片試料は、スライドガラスに貼付けられ、組織観察用の薄切片試料として利用される。
【0003】
ミクロトームを用いた薄切片試料の作製作業は、従来、作業者によって手動で行われており、多大な手間と労力を要するものである。また、薄切片試料に求められる厚さは、非常に薄く(試料によって異なるが例えば3μm〜10μm)、高い均一性も求められる。このため、ミクロトームの使用に熟練した作業者であっても、数十個の試料ブロックを処理するのには、通常、数日かかる。また、同様の作業の繰り返しであるため、肉体的にも精神的にも作業者に過度の負担がかかる。
【0004】
そこで、近年、前記薄切片試料の作製作業を自動化して作業者の負担を軽減する装置が種々提案されている。この種の装置は、カッターが試料ブロックの表層部分を薄切りできるようにカッターと試料ブロックの高さ位置を調整し、その後、試料ブロックをカッターに向けて搬送することによって薄切片試料を作製するように構成されるのが一般的である。このような構成を有する薄切片試料作製装置においては、まず所定量粗削りすることにより面出しを行い、試料ブロックの露出面積が適切になった段階で本削りを行う。ここで、試料ブロックの表層部分がカッターの刃先の延在方向又は試料ブロックの搬送方向に対して傾斜していると、粗削りに時間がかかりすぎてしまう。このため、試料ブロックの表層部分がカッターの刃先の延在方向及び試料ブロックの搬送方向に対して平行になるように試料ブロックの位置を調整することが重要である。
【0005】
特許文献1(特開2008−76251号公報)には、ラインセンサを備え、ラインセンサの受光量の変化に基づいて、試料ブロックを面出し(面合わせ)する方法が開示されている。なお、試料ブロックの位置を平行になるように調整すること「面出し」という場合もあるが、薄切片試料作成装置の分野において「面出し」という言葉は、「試料ブロックの表面に被検体を有効に露出させる」ことを意味することがある。このため、誤解を避けるべく、ここでは、試料ブロックの表層部分がカッターの刃先の延在方向及び試料ブロックの搬送方向に対して平行になるように試料ブロックの位置を調整することを「面合わせ」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−76251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、試料ブロックの表面に異物が付着している場合、当該異物がラインセンサの光を遮光し、異物の頂部の高さ位置が試料ブロックの表面の高さ位置であると誤検出することがあり得る。この場合、試料ブロックの面出しを正確に行うことができず、その結果、薄切片試料の作製時間が長くなるなどの問題が発生するおそれがある。
【0008】
従って、本発明の目的は、前記問題を解決することにあって、試料ブロックの面合わせをより一層正確に行うことができる薄切片試料作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、試料ブロックの表層部分をカッターにより薄切りして薄切片試料を作製する薄切片試料作製装置であって、
前記カッターを備える試料ブロック切削部と、
前記試料ブロックのXY直交2軸方向に対する傾斜角度及びZ軸方向の高さ位置を調整可能に構成され、前記試料ブロックをX軸方向に搬送する試料ブロック搬送部と、
前記試料ブロックの高さ位置を検出する高さ検出部と、
前記高さ検出部の検出情報に基づいて前記試料ブロックの前記傾斜角度及び前記高さ位置を調整する制御部と、
を備え、
前記高さ検出部は、前記試料ブロックの表層部分に対して同一直線上にない少なくとも3つの測定点に接触して当該少なくとも3つの測定点の高さ位置を検出可能な少なくとも3つの接触式センサを備える、
薄切片試料作製装置を提供する。
【0010】
本発明の第2態様によれば、前記3つの測定点は、前記試料ブロックの外縁部よりも内側に位置している、第1態様に記載の薄切片試料作製装置を提供する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、前記高さ検出部は、前記試料ブロックの大略中心に位置する第4の測定点に接触して当該測第4の測定点の高さ位置を検出可能な第4の接触式センサを更に備える、第1又は2態様に記載の薄切片試料作製装置を提供する。
【0012】
本発明の第4態様によれば、前記制御部は、前記試料ブロックの前記傾斜角度を調整した後、再度前記高さ検出部に前記試料ブロックの高さ位置を検出させ、当該高さ検出部の検出情報に基づいて前記試料ブロック搬送部を制御し前記試料ブロックの前記傾斜角度を再調整し、さらに前記高さ検出部に前記試料ブロックの高さ位置を検出させ、前記試料ブロックの高さ位置を調整する、第1〜3態様のいずれか1つに記載の薄切片試料作製装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる薄切片試料作製装置によれば、前記高さ検出部が前記3つの接触式センサを備えているので、前記試料ブロックの表層部分に対して同一直線上にない3つの測定点に接触して当該3つの測定点の高さ位置を検出することができる。当該3つの測定点の高さ位置を検出することにより、前記試料ブロックの前記傾斜角度及び高さ位置を検出することができる。また、接触式センサであるため、試料ブロックの表面に異物が付着していたとしても、当該異物により試料ブロックの高さ位置を誤検出する可能性を抑えることができる。したがって、試料ブロックの面合わせをより一層正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる薄切片試料作製装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】高さ検出部の概略構成を示す斜視図である。
【図3】試料ブロックの表層部分に対して、接触式センサを接触させた状態を模式的に示す側面図である。
【図4】XY平面に対して平行になるように調整した試料ブロックの表層部分に対して、接触式センサを接触させた状態を模式的に示す側面図である。
【図5】図4に示す状態から更にXY平面に対して平行になるように微調整した試料ブロックの表層部分に対して、接触式センサに接触させた状態を模式的に示す側面図である。
【図6】表面が内側に反った試料ブロックに対して、図2に示す高さ検出部が備える接触式センサを接触させた状態を模式的に示す側面図である。
【図7】高さ検出部の変形例の概略構成を示す斜視図である。
【図8】表面が内側に反った試料ブロックに対して、図7に示す高さ検出部が備える接触式センサを接触させた状態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
《実施形態》
本発明の実施形態にかかる薄切片試料作製装置の概略構成について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる薄切片試料作製装置の概略構成を示すブロック図である。
【0017】
図1において、薄切片試料作製装置100は、試料ブロック20の表層部分をカッター41により自動的に且つ連続的に薄切りして複数の薄切片試料24を作製する装置である。試料ブロック20は、被検体20aをパラフィン等の包埋材の中に埋め込んだものである。被検体20aとしては、例えば、人間や動物の組織などの生体試料が挙げられる。
【0018】
薄切片試料作製装置100は、複数の試料ブロック20を収納する試料ブロック収納部30を備えている。試料ブロック収納部30に収納された複数の試料ブロック20から選ばれた1つの試料ブロック20は、試料ブロック搬送部1によりカッター41を備える試料ブロック切削部4へと搬送される。
【0019】
試料ブロック搬送部1は、試料ブロック収納部30から次に薄切り処理される試料ブロック20を取り出して位置A上に搬送したのち、当該試料ブロック20を位置A〜Cの間で往復搬送可能に構成されている。なお、位置A〜Cは、±X軸方向に直線的に整列している。すなわち、試料ブロック搬送部1は、試料ブロック20をX軸方向に搬送可能に構成されている。また、試料ブロック搬送部1は、試料ブロック20のXY直交2軸方向(XY平面ともいう)に対する傾斜角度及びZ軸方向の高さ位置を調整可能に構成されている。
【0020】
位置Aの上方には、試料ブロック20の高さ位置を検出する高さ検出部2が配置されている。高さ検出部2の構成については、後で詳しく説明する。位置Bの上方には、カッター41により薄切りされて露出した試料ブロック20の切削面を撮像する撮像部3が配置されている。撮像部3は、例えば、白色光源や単色LED光源のような試料ブロック表面を照射する部分と、CCDカメラのような画像データを得るための撮影部分とを有するように構成されている。位置Cの上方には、カッター41を保持して試料ブロック20の表層部分を薄切可能な試料ブロック切削部4が配置されている。カッター41は、刃先が±Y軸方向に延在するように保持されている。
【0021】
また、位置Cの上方には、試料ブロック20の表層部分がカッター41によって薄切りされることにより得られた薄切片試料24を保持するキャリアテープ21が供給される。キャリアテープ21は、供給リール5から繰り出され、ガイドローラ81,82に案内されて位置Cの上方に供給される。位置Cの上方で薄切片試料24を保持したキャリアテープ21は、ガイドローラ83,84に案内されて巻取リール6に巻き取られる。
【0022】
供給リール5には、繰り出しモータ51が設けられている。繰り出しモータ51が駆動されることにより、供給リール5からキャリアテープ21が繰り出される。また、巻取リール6には、巻取モータ61が設けられている。巻取モータ61が常に駆動されることにより、巻取リール6には常に一定のトルクがかけられている。これにより、繰り出しモータ51の駆動により供給リール5から繰り出されたキャリアテープ21は、当該繰り出しと同時に巻取リール6に巻き取られる。
【0023】
キャリアテープ21に保持された薄切片試料24は、ガイドローラ83,84の間に配置された薄切片貼付部7によりスライドガラス22に貼り付けられる。薄切片貼付部7は、キャリアテープ21の走行経路の上流側(−X軸方向側)に配置された一対のガイドローラ71と、キャリアテープ21の走行経路の下流側(+X軸方向側)に配置された一対のガイドローラ72とを備えている。薄切片貼付部7は、一対のガイドローラ71,71の間と一対のガイドローラ72,72の間でキャリアテープ21を挟んで下方に撓ませ、当該キャリアテープ21に保持された薄切片試料24を、水などの接着液23が供給されたスライドガラス22に接触させる。これにより、薄切片試料24がスライドガラス22に貼り付けられる。以下、薄切片試料24が貼り付けられたスライドガラスを、薄切片付きスライドガラスという。
【0024】
薄切片付きスライドガラス22は、スライドガラス搬送部8により伸展部9へ搬送される。スライドガラス搬送部8は、薄切片付きスライドガラス22を伸展部9へ搬送するとともに、スライドガラス収納部(図示せず)から薄切片試料24を未貼付のスライドガラス22を取り出して薄切片貼付部7の下方へ搬送する。伸展部9は、加温板(図示せず)を備え、薄切片試料24の皺の伸展を行うとともに、スライドガラス22上の水分を完全に蒸発させて薄切片試料24をスライドガラス22に密着固定する。
【0025】
試料ブロック搬送部1などの各構成要素は、制御部10により動作を制御される。制御部10は、入力部(図示せず)に入力された情報に基づいて、各構成要素の動作を制御する。入力部は、例えば、薄切片付きスライドガラスの製作枚数や1枚のスライドガラス当たりの薄切片試料の貼り付け数などを入力可能に構成されている。
【0026】
次に、薄切片試料24の作製動作について説明する。この薄切片試料24の作製動作は、制御部10の制御の下に行われる。なお、通常、試料ブロック20が試料ブロック収納部30に収納された状態では、被検体20aは外部に露出しない(あるいは僅かに露出する)ように包埋材の中に埋め込まれている。このため、本実施形態においては、被検体20aの露出面積が予め設定された面積以上になるまで試料ブロック20の表層部分を粗削りし、その後、3〜10μm程度の薄切片試料24を作製する本削りを行うようにしている。まず、粗削りの動作について説明する。
【0027】
まず、試料ブロック搬送部1が試料ブロック収納部30から次に薄切り処理される試料ブロック20を取り出し、位置Aに搬送する。
次いで、高さ検出部2が試料ブロック20の高さ位置を検出する。
次いで、試料ブロック搬送部1が、高さ検出部2の検出情報に基づいて、試料ブロック20のXY平面に対する傾斜角度及びZ軸方向の高さ位置を調整する。
【0028】
次いで、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Bに搬送する。
次いで、撮像部3が試料ブロック20を撮像する。これにより、試料ブロック20中の被検体20aの最大投影領域(最大投影面積)を認識する。
次いで、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Cに搬送する。これにより、試料ブロック20の表層部分がカッター41により粗削りされる。
【0029】
次いで、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Bに搬送する。
次いで、撮像部3が、カッター41により薄切りされて露出した試料ブロック20の切削面を撮像する。
【0030】
試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積が予め設定された面積(例えば前記最大投影領域の80%)未満であるとき、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20の表層部分がカッター41に粗削りされるように試料ブロック20の高さ位置を調整する。その後、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を位置Cに搬送する。これにより、試料ブロック20の表層部分がカッター41により再度粗削りされる。その後、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Bに搬送し、撮像部3が再度試料ブロック20の切削面を撮像する。この試料ブロック20の粗削り及び切削面の撮像動作は、試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積が予め設定された面積以上になるまで繰り返される。
【0031】
試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積が予め設定された面積以上になると、粗削りの動作を終了し、本削りの動作に移行する。なお、粗削りと本削りとで異なるカッター41又は異なるカッター41の刃先41aの位置を使用する場合、あるいは粗削りの厚さと本削りの厚さが異なる場合は、作製される切片の厚さ精度を良くするため、本削りに使用されるカッター41又はカッター41の刃先41aの位置で、薄切片試料24の作製前(本削り前)に本削り厚さで数回薄切りのみを行う、いわゆる捨て切り動作を行うのが好ましい。
【0032】
本削り動作においては、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20の表層部分がカッター41に薄切り(3μm〜10μm程度)されるように試料ブロック20の高さ位置を調整する。その後、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を位置Cへ搬送する。これにより、試料ブロック20の表層部分がカッター41により薄切りされ、薄切片試料24が作製される。その後、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を位置Cから位置Bなどへ退避させ、試料ブロック20の表層部分がカッター41に薄切りされるように試料ブロック20の高さ位置を調整する。この試料ブロック20の高さ位置の調整、薄切り、及び退避の動作が、前記入力部(図示せず)に入力された情報に基づく任意の回数、自動的且つ連続的に繰り返され、任意の枚数の薄切片試料24が作製される。
【0033】
前記本削り動作により作製された薄切片試料24は、キャリアテープ21に貼り付けられる。なお、このとき、薄切片試料24がキャリアテープ21により確実に貼り付くように、キャリアテープ21の表面に加湿、冷却及び帯電などの処理をしておくことが好ましい。キャリアテープ21に貼り付けられた薄切片試料24は、繰り出しモータ51及び巻取モータ61の駆動により薄切片貼付部7に搬送され、薄切片貼付部7によりスライドガラス22に貼り付けられる。その後、薄切片付きスライドガラス22は、スライドガラス搬送部8により伸展部9へ搬送される。その後、伸展部9が、薄切片試料24の皺を伸展するとともに、薄切片試料24をスライドガラス22に密着固定させる。
【0034】
次に、高さ検出部2の構成についてより詳しく説明する。図2は、高さ検出部2の概略構成を示す斜視図である。
【0035】
図2に示すように、高さ検出部2は、3つの接触式センサ2A,2B,2Cを備えている。各接触式センサ2A,2B,2Cは、試料ブロック20の表層部分に対して、同一直線上にない3つの測定点20b〜20dに接触して当該3つの測定点の高さ位置を検出可能に設けられている。各接触式センサ2A,2B,2Cは、例えば、試料ブロック20の表層部分との接触圧力を検出可能に構成され、各センサの接触圧力が同一のとき、試料ブロック20のXY平面に対する傾斜角度が0度(すなわち、カッター41の刃先の延在方向及び試料ブロック20の搬送方向に対して平行)になるように設けられている。
【0036】
次に、高さ検出部2による試料ブロック20の高さ検出動作について更に詳しく説明する。この高さ検出部2による試料ブロック20の高さ検出動作は、制御部10の制御の下に行われる。
【0037】
まず、試料ブロック搬送部1が試料ブロック収納部30から次に薄切り処理される試料ブロック20を位置Aに搬送する。
【0038】
次いで、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を+Z軸方向に移動させ、試料ブロック20の表層部分を高さ検出部2の3つの接触式センサ2A,2B,2Cに接触させる。これにより、接触式センサ2A,2B,2Cが試料ブロック20の高さ位置を検出する。
【0039】
次いで、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を3つの接触式センサ2A,2B,2Cから−Z軸方向に退避させた後、試料ブロック20のXY平面に対する傾斜角度を調整する。例えば、図3に示すように試料ブロック20がXY平面に対して傾斜しているとき、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20の表層部分がXY平面に対して平行になるように試料ブロック20の傾斜角度を調整する。この調整により、試料ブロック20の表層部分をXY平面に対してより平行に近づけることで、薄切片試料24の粗削り時間を短縮することができ、また粗削り量を少なくすることもできる。なお、この調整により試料ブロック20の表層部分をXY平面に対して完全に平行にすることが好ましいが、当該調整には数μmレベルの精度が要求されるため、現実的には困難である。このため、次の動作を行うことが好ましい。
【0040】
すなわち、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を+Z軸方向に移動させ、図4に示すように、試料ブロック20の表層部分を3つの接触式センサ2A,2B,2Cに再接触させる。これにより、接触式センサ2A,2B,2Cが試料ブロック20の高さ位置を再検出する。
【0041】
次いで、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を3つの接触式センサ2A,2B,2Cから−Z軸方向に退避させた後、試料ブロック20のXY平面に対する傾斜角度を微調整する。この接触式センサにて2度目の高さ検出を行い、傾斜角度の微調整を行うことで、試料ブロック20の表層部分をXY平面に対して平行にする精度が向上する。なお、試料ブロック20の高さ位置の再検出及び微調整の動作は、所望の精度が得られるまで繰り返されてもよい。
【0042】
次いで、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を+Z軸方向に移動させ、図5に示すように、試料ブロック20の表層部分を3つの接触式センサ2A,2B,2Cに再々接触させる。これにより、接触式センサ2A,2B,2Cが試料ブロック20の高さ位置を再々検出する。
【0043】
次いで、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を3つの接触式センサ2A,2B,2Cから−Z軸方向に退避させる。
次いで、3つの接触式センサ2A,2B,2Cが高さ位置を検出した3つの測定点のうち最も高い位置に位置する測定点とカッター41の刃先との高さ位置が一致するように、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20の高さ位置を調整する。
【0044】
次いで、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を位置Cへ搬送する。これにより、試料ブロック20の表層部分がカッター41により薄切りされ、粗削りがより短時間で可能になるとともに、薄切片試料24が作製される。
【0045】
以上、本実施形態によれば、高さ検出部2が3つの接触式センサ2A,2B,2Cを備えているので、試料ブロック20の表層部分に対して同一直線上にない3つの測定点20b,20c,20dに接触して当該3つの測定点の高さ位置を検出することができる。特に、当該3つの測定点20b,20c,20dの高さ位置を2度検出することにより、試料ブロック20のXY平面に対する傾斜角度を微調整することで、より面合わせの精度を高めることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、試料ブロック20の表層部分に対して接触式センサ2A,2B,2Cで接触するので、試料ブロック20の表面に異物が付着していたとしても、当該異物により試料ブロック20の高さ位置を誤検出する可能性を抑えることができる。なお、薄切片試料作成装置においては、包埋材となるパラフィンくずが異物として試料ブロック20の表面に付着することが考えられる。また、試料ブロックの表面を清浄にするため不織布等の繊維材料を用いることがあるが、その繊維くずが試料ブロック20の表面に付着することもあり得る。そのような場合、非接触式センサであれば、当該異物を含めた厚みを検出してしまう。これに対して、接触式センサの場合、パラフィンくず等であれば、接触時に当該異物を試料ブロック20内にある程度押し込むことが可能であるため、異物による厚みを除外することが可能となる。従って、パラフィンを包理材として用いた試料ブロック20の面合わせをより一層正確に行うことができる。
【0047】
なお、接触式センサ2A,2B,2Cが高さ位置を検出する3つの測定点20b,20c,20dは、試料ブロック20の外縁部20eよりも内側に位置していることが好ましい。試料ブロック20は、例えば、プラスチック製の型枠内に、被検体20aを配置した後、パラフィンを流し込むことにより作製される。この場合、作製された試料ブロック20から型枠を外す際に、図6に示すように、試料ブロック20の表面が内側に反る(凹む)ことが有り得る。この場合、試料ブロック20の外縁部20eのみを薄切りしても薄切片試料24としては使用することができないので、当該外縁部20eを薄切りする動作にかかる時間は無駄になる。前記特許文献1の方法では、試料ブロック20の外縁部20eの高さ位置しか検出することができないため、薄切片試料24の作製時間が長くなる。これに対し、3つの測定点20b,20c,20dを試料ブロック20の外縁部20eよりも内側に位置させることにより、外縁部20eを薄切りする動作にかかる時間を短縮することができる。
【0048】
なお、試料ブロック20は、表面のサイズが24mm×24mm、24mm×30mm、24mm×37mmであるものが一般的である。このため、測定点20b,20c,20dの間隔は、24mm未満であることが好ましい。
【0049】
また、試料ブロック20は、表面のサイズが15mm×15mmのものも存在する。この場合、測定点20b,20c,20dの間隔は、15mm未満であることが好ましい。と考えられる。但し、測定点20b,20c,20dの間隔が狭くなればなる程、試料ブロック20の表層部分のXY平面に対する傾斜角度を検出することが困難になる。また、図6では、試料ブロック20の表面の凹部の底部が平坦であるように示したが、当該底部が円弧状であることも有り得る。このため、高さ検出部2は、図7に示すように、試料ブロックの大略中心に位置する第4の測定点20fに接触して当該測定点20fの高さ位置を検出可能な第4の接触式センサ2Dを備えてもよい。これにより、試料ブロック20の表面の凹部の最下点近傍の高さ位置を検出することが可能になり、薄切片試料24の作製時間をより短縮することができる。
【0050】
また、第4の測定点20fは、前記試料ブロック20の中心に位置させることが好ましい。これにより、より一層、試料ブロック20の表面の凹部の最下点近傍の高さ位置を検出することが可能になり、薄切片試料24の作製時間をより一層短縮することができる。
【0051】
また、試料ブロック20の大略中心に第4の測定点20fを位置させることで、次のような効果がある。例えば、試料ブロック20が非常小さい場合、3つの接触式センサ2A,2B,2Cが当該試料ブロック20に接触できず、装置がエラー状態になり停止してしまうおそれがある。これに対して、試料ブロック20の大略中心に位置する第4の測定点20fに接触可能な第4の接触式センサ2Dを設けることで、少なくとも当該接触式センサ2Dが試料ブロック20と接触することができる。これにより、試料ブロック20の高さ位置の調整が可能となる。また、エラー状態になることなく、連続運転状態を保ち続けることができる。特に、終夜運転等の連続自動運転時には、当該第4の接触式センサ2Dを設けることが有効である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明にかかる薄切片試料作製装置は、試料ブロックの面合わせをより一層正確に行うことができるので、理化学試料分析や生体試料等の顕微鏡観察などに利用される薄切片試料作製装置として有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 試料ブロック搬送部
2 高さ検出部
2A〜2D 接触式センサ
3 撮像部
4 試料ブロック切削部
5 供給リール
6 巻取リール
7 薄切片貼付部
8 スライドガラス搬送部
9 伸展部
10 制御部
20 試料ブロック
21 キャリアテープ
22 スライドガラス
23 接着液
24 薄切片試料
30 試料ブロック収納部
41 カッター
51 繰り出しモータ
61 巻取モータ
71,72,81〜84 ガイドローラ
100 薄切片試料作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ブロックの表層部分をカッターにより薄切りして薄切片試料を作製する薄切片試料作製装置であって、
前記カッターを備える試料ブロック切削部と、
前記試料ブロックのXY直交2軸方向に対する傾斜角度及びZ軸方向の高さ位置を調整可能に構成され、前記試料ブロックをX軸方向に搬送する試料ブロック搬送部と、
前記試料ブロックの高さ位置を検出する高さ検出部と、
前記高さ検出部の検出情報に基づいて前記試料ブロックの前記傾斜角度及び前記高さ位置を調整する制御部と、
を備え、
前記高さ検出部は、前記試料ブロックの表層部分に対して同一直線上にない少なくとも3つの測定点に接触して当該少なくとも3つの測定点の高さ位置を検出可能な少なくとも3つの接触式センサを備えている、
薄切片試料作製装置。
【請求項2】
前記3つの測定点は、前記試料ブロックの外縁部よりも内側に位置している、請求項1に記載の薄切片試料作製装置。
【請求項3】
前記高さ検出部は、前記試料ブロックの中心に位置する第4の測定点に接触して当該第4の測定点の高さ位置を検出可能な第4の接触式センサを更に備える、請求項1又は2に記載の薄切片試料作製装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記試料ブロックの前記傾斜角度を調整した後、再度前記高さ検出部に前記試料ブロックの高さ位置を検出させ、当該高さ検出部の検出情報に基づいて前記試料ブロック搬送部を制御し前記試料ブロックの前記傾斜角度を再調整し、さらに前記高さ検出部に前記試料ブロックの高さ位置を検出させ、前記試料ブロックの高さ位置を調整する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の薄切片試料作製装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate