説明

薄板打ち抜き金型

【課題】 薄板を打ち抜く打ち抜き金型において、パンチとダイの切刃部の部分が常に一定の精度、クリアランスを保ち、そのまま持続的に打ち抜きが行うこと。また、使用中に金型の温度変化があった場合でも、その精度を維持して切断すること。
【解決手段】パンチとダイの位置決めを、パンチおよびダイと一体に設けた位置決めガイドおよび位置決め穴にて行なうことで、解決した。位置決めガイドは位置決め穴に圧入するために、ダイとパンチの位置精度を正確に行なえ、それが持続できる。また、金型の温度が上昇しても、位置精度の維持ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイとパンチにより被切断物(ワーク)である薄板シートを打ち抜く、打ち抜き用金型に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ダイとパンチを有する金型で、一般的に行なわれている板状物の打ち抜き方法を図5に示し、これを元に説明する。被切断物ワークである薄板シートWは、ダイ2とストリッパ10で挟み込まれ、そこにダイ2のエッジ形状よりやや小さい輪郭形状を有するパンチ1先端を押し込み、ダイ2およびパンチ1に設けられた切刃部により剪断することで被切断物であるWを切断する方法である。ダイ2とパンチ1のクリアランスはCで表した。
【0003】
ダイ2とパンチ1は図示しないホルダにてそれぞれ固定されており、お互いの位置精度をある程度保っているが、金型本体の剛性や、熱膨張の視点からその位置精度は十分とはいえない。パンチ1とダイ2の位置精度が保たれていないと、パンチ1とダイ2に大きなクリアランスCをつける必要が生じたり、被打ち抜き材Wのエッジの品質が巻き込みや剥離により悪くなったり、金型の一部のみが磨耗や欠損するような弊害が生じやすい。
【0004】
そのために、パンチとダイとの位置決めをより的確に行なうように、一般に良く使われるのが、図6中で示すガイドポスト40である。これはダイ2とパンチ1から程近い部分に両者の位置関係を維持する目的のポスト41およびそれを受けるポストガイド42からなるものである。このポストガイド40を用いた場合の精度は、用いない場合と比べて向上する。なぜなら、パンチ1とダイ2の近傍にこれを設けることで、変形する部分の影響がポスト−ダイ間、ポスト−パンチ間と限られたものになるためである。そのために、金型精度の維持に、ポスト41およびポストガイド42を使用する形態は、よく用いられている。
【0005】
しかしながら、ポスト−ダイ間、ポスト−パンチ間は依然として距離が残るために、2〜5μm程度のクリアランスであれば維持できるが、それより少ない2μm以下のクリアランスや、それを下回るゼロ−クリアランスやマイナスのクリアランスには、精度的に十分とはいえなかった。
【0006】
特許文献1には、パンチと一体となったガイド部(ガイドヒールと記載)が、ダイと一体で、一方ダイ側にはガイド部と一体のパンチと嵌合するように設けられている。この構造とすることにより、ガイドポストを用いた例よりも、さらにパンチとダイの位置精度は向上することになる。しかしながら、明細書中にはその構造が書かれているものの、主たる目的はパンチとダイの切刃部にあたる部分の磨耗の防止であり、また、ガイドヒールについては設けられることは書かれているが、その精度をはじめ、詳細については何ら言及されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−235436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薄板を打ち抜く打ち抜き金型において、パンチとダイの切刃部の部分が常に一定の精度、クリアランスを保ち、そのまま持続的に打ち抜きが行なえることを課題とした。また、使用中に金型の温度変化があった場合でも、その精度を維持して切断することを課題とした。
【発明の効果】
【0009】
本発明は以下の効果のうち、少なくとも1つを実現する。
1.打ち抜き加工に用いられるパンチとダイとの相対的な位置精度が極めて高く維持でき、繰り返し切断しても位置関係はずれない。
2.パンチとダイとの切刃部にあたる部分で位置決めを行なわないために、パンチやダイの破損や磨耗が起きにくい。
3.被打ち抜き材Wの品質が高く、特に被打ち抜き部近辺のチッピングや割れ、欠けなどが抑えられる。
4.使用中に金型の温度変化があった場合でも、精度を落とすことなく打ち抜きができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の打ち抜き金型は、以下のようにして得ることができる。
まずフレームなどの金型本体や搬送機などは、通常の打ち抜き金型と同様に作製すればよい。
主要部であるダイ2とパンチ1は図1に示すように、パンチ1に先行してダイ2の位置決め穴6に嵌合する位置決めガイド5をパンチと一体に形成し、ダイ2側にはその位置決め穴6をダイ2とあわせて設ける。これはパンチ1側に位置決めガイド5を設けた模式図だが、逆にパンチ1側に位置決め穴6を、ダイ2側に位置決めガイド5を設けても同様の効果が得られる。また、以後の説明はダイ側を固定して、パンチ側がダイに接近する形態をモデルとしているが、ダイ側とパンチ側のどちらが、または両方が動いても同様の結果が得られる。
【0011】
パンチ1とダイ2との接近に伴い、位置決めガイド部と位置決め穴部がパンチ1およびダイ2の切刃部13、23どうしが接近する前に接触、嵌合してパンチとダイとの位置決めを行なう。この際に、位置決めガイド部5と位置決め穴部6にクリアランスが大きく付いていれば、パンチ1とダイ2の位置関係もそれに従い大きくずれる余地があるので好ましくない。パンチとダイの位置関係を確保するためには、位置決めガイド部5と位置決め穴部6のクリアランスは0(μm)、または位置決めガイド部の方が位置決め穴部よりも大きい「マイナスクリアランス」とする必要がある。このことが確保されることにより、それらと一体に形成されたパンチ1とダイ2との位置関係は、ずれることなく良好な切断が可能となり、且つ維持できる。
【0012】
クリアランスを0またはマイナスとするためには、位置決めガイド5を位置決め穴6の中に圧入状態で嵌合することが必要になる。圧入しろが大きすぎれば嵌合の際にガイドなどの破壊も起こりえるために、そのクリアランスの設定は−3μm以上0μm以下が適当である。打ち抜き1回ごとに事前にこの位置決めが行なわれるために、パンチ1とダイ2との位置関係は常に一定であり、良好な切断を続けることができる。
また、位置決めガイド5と位置決め穴6のクリアランスは、パンチ1とダイ2のクリアランスよりも小さくすることが望ましい。パンチ1およびダイ2で直接位置決めを行なうと、1回の打ち抜きごとに切断が一定の箇所に行なえず、ずれ量によってはパンチ1やダイ2の破損にもつながる。パンチ1とダイ2のクリアランスを小さくしていけば、この破損が起き易くなったり、互いが強く摺動、摩擦して磨耗が早まったりする。位置決めは位置決めガイド5で行い、パンチ1とダイ2のクリアランスはそれよりも広く取り、破損や損耗を避ける方法が良好な切断を行なう上で望ましい。
【0013】
請求項3に記載の本発明は、位置決めガイドの先端部および位置決め穴縁の少なくとも一方に、圧入を容易にするために設けられたテーパー部もしくは面取り部を設けてなる
請求項1または請求項2に記載の打ち抜き装置である。位置決めガイド5または位置決め穴6のいずれかに角度をつけることにより、両者の嵌合が容易に行なうことができるようになる。また、金型全体で数μm程度の位置決め誤差がある場合でも、テーパーや面取りに沿って位置が矯正されるために、金型中に他の部分で生じた位置決め誤差を打ち消すことができる。これらテーパーや面取りがなければ、位置決めの誤差がある場合に、位置決めの最中に互いがエッジ部からぶつかり合い、破壊する原因になりえる。そのために、テーパーや面取りは、位置決めガイドと位置決め穴の両方に設けることがより好ましい。
【0014】
請求項4に記載の本発明は、前記位置決めガイドおよび位置決め穴縁のテーパー部もしくは面取り部で、最初に対向する位置決め穴または位置決めガイドと接する先端部は、少なくとも位置決めガイドおよび位置決め穴でテーパー部や面取り部でないストレート部分に対して、3μm以上その輪郭が小さい。図2に示すように前記位置決めガイド5および位置決め穴6縁のテーパー部51もしくは面取り部30で、最初に対向する位置決め穴または位置決めガイドと接すると接する先端部51は、少なくとも位置決めガイドおよび位置決め穴でテーパーや面取りが付いていないストレートな部分52に対して、3μm以上その輪郭が小さい、請求項3に記載の打ち抜き装置である。図2にはパンチと位置決めガイドが一体のもののみ図示したが、パンチと位置決め穴が一体のものでもよい。 (1)は位置決めガイドに面取りを施した模式図、(2)は同テーパー加工を施した模式図である。前述の3μm以上その輪郭が小さいというのは、図2では(b−a)の値が3μmより大きいことと対応している。位置決めガイド5と位置決め穴6とが、前記破壊をまぬがれるためには、互いの先端が少なくとも薄板の面方向に3μm以上の導入部を設けたほうがよい。3μmより小さければ、金型の他の部分の微妙な誤差により、テーパー部を超えて、直接位置決めガイド5と位置決め穴6が垂直に激突する危険性がある。逆に、大きくすることついては特に制限を設ける必要はなく、2〜3mmつけることも可能である。
【0015】
請求項5に記載の本発明は、前記位置決めガイド5と位置決め穴6の材質を、位置決めガイドの材質5の方が位置決め穴6を形成する材質よりも使用温度での熱膨張係数が大または同等な材質とし、連続打ち抜きの際に金型の温度が上昇した場合でも、圧入状態で位置決めが維持可能な請求項1から請求項4のいずれかに記載の打ち抜き金型である。この場合の「同等」とは、両者の熱膨張係数の差が0〜0.1×10−6(K−1)という意味で使用している。また、請求項6に記載の本発明は、位置決めガイド5と位置決め穴6の材質が異なり、位置決めガイド5の熱膨張係数が0〜3.0×10−6(K−1)の範囲、置決め穴の材質よりも大きいことを特徴とした、請求項5に記載の打ち抜き金型である。位置決めガイド5と位置決め穴6の材質は、基本的に同材種にて製作するが、磨耗やチッピングなどの材料的相性の問題で、両者の材質を変える場合がある。その際には、位置決めガイド5側を熱膨張係数のより高い材料で形成するのが良い。
打ち抜き金型は打ち抜きの際に摩擦が生じるため、外気温が一定ならば温度は上昇する傾向にある。また、本発明の打ち抜き金型は、位置決めガイドと位置決め穴による摩擦も生じるために、やはり温度は上昇しやすい。
本発明のように、位置決めガイド5側の熱膨張係数が大きいか同等であれば、温度上昇が起こった場合でも、圧入および嵌合に強い圧力が求められるようになるが、位置的なズレは生じない。ただし、あまりその差が大きくなれば、今度は両者の圧入嵌合自体が難しくなるために、望ましくない。その上で望ましい差の範囲は0〜3.0×10−6(K−1)の範囲である。0×10−6(K−1)以上大きいことにより、温度上昇に対してクリアランスがプラスになることはなく、また、差を3.0×10−6(K−1)以下とすることで、温度上昇下でも極端にマイナスクリアランスにならず、圧入、嵌合を妨げずに位置決めを行なうことができる。
前記と逆に、位置決め穴6側が極端に大きくなれば、温度の上昇が大きい場合には、両者間に0μmより大きいプラスのクリアランスになることが起こりえるため、この場合請求項1以降に記載の位置決めは難しくなる。
【0016】
請求項7に記載の本発明はパンチ、ダイ、およびそれらと一体に設けられた位置決めガイドおよび位置決め穴の材質が、金属結合成分が0.5〜30質量%で残部が炭化物からなる超硬合金、主成分として部分安定化ジルコニアを50%以上含むジルコニア系セラミックス、炭化物の割合が10〜40質量%で残部がアルミナおよび焼結助剤からなるアルミナ−炭化物系セラミックス、主成分として窒化珪素を70質量%以上含む窒化珪素系セラミックス、工具鋼のいずれか少なくとも一種からなる請求項1から請求項6のいずれかに記載の打ち抜き金型である。パンチやダイには一般に工具鋼が、これらで磨耗が激しい場合には超硬合金が用いられる。工具鋼である高速度鋼やダイス鋼は安価で加工しやすいのが利点であり、超硬合金は耐摩耗性が高く、切刃部の性能が長持ちすることでも用いられる。セラミックスをダイやパンチ、位置決めガイドや位置決め穴に用いることは、靱性の面から難しい場合が多いが、その中でも比較的破壊靱性値が高い部分安定化ジルコニアを50%以上含むジルコニア系セラミックス、炭化物の割合が10〜40質量%で残部がアルミナおよび焼結助剤からなるアルミナ−炭化物系セラミックス、主成分として窒化珪素を70質量%以上含む窒化珪素系セラミックスなどは使用にも耐え、長寿命を得ることができる。
【0017】
請求項8に記載の本発明は、ダイまたはパンチを固定する少なくとも一方の金型本体が、金型本体とダイまたはパンチのホルダー間に伸縮可能な機構を設けることにより、薄板シートの面方向に30μm以下可動であり、位置決めガイドと位置決め穴による位置決めの際に、それに倣って薄板の薄板シートの面方向に移動可能にしたダイまたはパンチを有する請求項1から請求項7のいずれかに記載の打ち抜き金型である。請求項3には、テーパーや面取りを位置決めガイド等に施すことで位置決めを調整する方法を述べた。本請求項8の発明は、これに対応するように金型本体とダイまたはパンチのホルダー間に伸縮可能な機構をもうけ、薄板シートの面方向に対して30μm以下可動な機構を有するものである。図3にゴムを用いた例を示すが、この例ではゴムの弾力により薄板シートの面方向に金型本体に対してダイホルダーが可動な構造としている。これを設けることにより、金型を位置決めガイドと位置決め穴に従って、金型の本体の方が動き、位置決めガイドとパンチ、ダイの位置関係は常に一定であるために、精度のよい切断が実現できる。これを実現するためには、請求項9に記載するように、金型本体が、薄板シートの面方向に30μm以下自在に動ける機構がダイまたはパンチを支持するホルダーと金型本体の間にゴム、樹脂、軟鋼、純銅、バネ、油圧シリンダ、ダンパ、XYスライダーなどの伸縮する機構を金型本体とダイホルダー間に設ければよい。これを設けることにより、図3に示すように、ダイ側とパンチ側の位置あわせが、位置決めガイドと位置決め穴を基準にして精度よく合わせることが容易に可能になる。
【0018】
請求項10に記載の本発明は、打ち抜き加工する帯状の薄板シートが、特に厚さ10μm〜200μmの金属箔からなる集電体の片面もしくは両面に、厚さ10〜200μmの金属化合物を含む電極材もしくはカーボンが塗布されている蓄電デバイス用電極であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の打ち抜き金型である。請求項1以降に記載の本発明は、特に厚さが数μm〜500μm程度の薄板に適しているが、打ち抜き加工ができる材質を特に特定したものではなく、一般的な金型と同じく厚さ数mmまでの金属や樹脂、ゴム、紙などを良好に切断することができる。
【0019】
蓄電デバイスには電池、コンデンサー、キャパシターなどが挙げられるが、現在のところ、さまざまな薄板シートでも良好に切断を行なうのが困難であるのが、リチウムイオン電池の電極である。この電極は一般的に、銅やアルミなど金属箔の片面もしくは両面に、有機物バインダを含むリチウム化合物の活物質もしくはカーボンが電極材として塗布されている。この電極を切断する際は、切れにくく伸びやすい金属箔と、比較的もろくて剥離しやすい電極材が一体であるため、ダイとパンチの切刃部が鋭い状態で、クリアランスをある程度小さくしなければ延びやバリの発生を抑えて連続して切るのは難しい。また、切り抜き寸法も高い精度が求められる。本発明の打ち抜き金型は、ダイとパンチの切刃部が鋭い状態が長持ちし、寸法精度が高いことから、この電極の切断には適している。
以下実施例により、より詳細に本発明を説明する。
【実施例】
【0020】
以下本発明での主要な数件の実施例を示す。
【0021】
(実施例1)
図1に示すような、パンチ1とダイ2の長辺13および23に切刃部があり、薄板シートWを短冊形状に切断する打ち抜き金型に、本発明を用いた。
切刃部13を有するパンチ1と一体で、先端が切刃部よりも突出した略六角形の位置決めガイド5を設けた。
ダイ側は切刃部23と一体に形成した、位置決めガイドの形状に対応する位置決め穴6を設けた。
パンチおよびダイは、それぞれ同じ材質でWC−10質量%Coの組成の超硬合金で製作した。
切刃部13および23は直線2本により薄板Wを切断する。
パンチ1およびダイ2の切刃部13および23については、ダイ側をパンチ側より3μm大きく製作した。言い換えれば、両者のクリアランスはプラス3μm(片側1.5μm)である。
【0022】
一方、位置決めガイド5と位置決め穴6は、位置決めガイド5の方を位置決め穴6の形状より1μm大きくし、両者のクリアランスを−1μmとした。
位置決めガイドの先端から、角度が10°の面取り部20をガイド一周に設けた。これにより、先端部はそうでない直線部分より10μm外形が小さくなった(図2参照)。
【0023】
以上に要部を述べた打ち抜き金型にて、薄板Wを連続的に切断した。薄板Wの材質は、厚さ10μmの銅箔の両面に、硬質ではあるが比較的もろいリチウム化合物を有機バインダと混ぜて80μm塗布した、蓄電デバイスの一つである、リチウムイオン電池用電極を用いた。
また、試験環境は恒温室(22℃)にて、金型部分にはエアブローを行ないながら、温度を一定に保てる状態で試験を行なった。
【0024】
打ち抜き加工の工程は以下のとおりである。
1.パンチ1とダイ2が離れた状態で、薄板Wがダイ上に搬送される
2.図示しないストリッパ(図5での10)が、パンチ1の両脇から薄板Wをダイ2面上に押し付け、固定する。パンチ1および位置決めガイド5がダイ2の方向に下降する
3.先端から面取り部20の着いた位置決めガイド5が、位置決め穴6に沿って下降する
4.面取り部の上端で位置決めガイド5と位置決め穴6が完全に密着し、その後は位置決めガイド5の外形のほうが大きくなるために、位置決め穴6への圧入が始まる
5.圧入状態で位置決めガイド5と位置決め穴6によりパンチ1とダイ2の切刃部の位置が確定する
6.片側1.5μmのクリアランスのパンチ1とダイ2の切刃部13、23が薄板に接触し、そのまま打ち抜く。
7.ダイ穴2の下方に打ち抜かれた短冊状の薄板が落下する。パンチ1はダイ2の上面から1mm下降した位置で静止し、その後上昇する
8.図示しないストリッパが上昇する
9.圧入されていた位置決めガイド5が、位置決め穴6より抜ける(1へ戻る)
【0025】

この1.〜9.の工程を繰り返すことにより、薄板を連続的に打ち抜き加工試験を行なった。その結果以下のことを確認した。
【0026】
A.薄板の切断は、バリが少なく、形状的な崩れや塗布材の剥離などの不具合を起こすことなく、試験終了の10万ショットまで順調に稼動した。
B.10万ショット終了時に薄板を挟まずにパンチ1とダイ2を接近させたところ、クリアランスは片側1.5μmと、稼動前と変化なかった。
C.パンチ1とダイ2の切刃部13、23は、エッジより約2μm程度の正常磨耗が起きていた。エッジの形状はほぼ維持されており、チッピング、欠けはなかった。
D.位置決めガイド5のテーパー部は損傷していなかった。また、10万回の圧入でも位置決めガイド5および位置決め穴6は寸法的には変化していなかった。
E.試験開始直後には20℃だったパンチ1、ダイ2、位置決めガイド5、位置決め穴6は、試験終了時も殆ど温度変化はなかった。
【0027】
(実施例2)
実施例1と他の条件は同様として、パンチ1および位置決めガイド5の材質をアルミナ−30質量%炭化チタンセラミック(熱膨張係数7.8×10−6(K−1))とし、ダイ2および位置決め穴6の材質を炭化タングステン−10質量%コバルトの超硬合金(熱膨張係数5.8×10−6(K−1))とした。
20℃の室温状態にて、ダイとパンチのクリアランスは3μm、位置決めガイドと位置決め穴のクリアランスは0μmとした。
【0028】
温度管理を行なわない部屋中で、実施例1と同様の試験を行なったところ、当初25℃程度だった打ち抜き金型は使用後30分でダイ1、パンチ2、位置決めガイド5、位置決め穴6ともに50℃に達し、その後は殆ど温度変化のないまま推移した。
【0029】
実験開始1時間後にダイ1とパンチ2のクリアランスは約2.5μmと狭まり、位置決めガイド5と位置決め穴6のクリアランスは−0.5μm程度となったが、そのまま試験を続行した。超硬合金、セラミックスともに破損、チッピングは起こらなかった。
【0030】
実験の結果、実施例1同様10万ショットは問題なく良好に行なうことができた。パンチ1とダイ2の切刃部13、23の磨耗量はセラミックスを用いたパンチが1μm、超硬合金を用いたダイが約2μmであった。薄板もバリや欠けなどの異常も見られず、品質のバラツキがなく打ち抜きができた。
【0031】
(実施例3)
ダイ側に図4に示すような、ダイの本体9からダイホルダー8が4箇所に設けた硬質ゴム7を介して接する。図示していないが、ダイホルダー8は薄板の厚さ方向には移動できず、薄板面方向にのみ可動なよう保持されている。
パンチ側はパンチ1と一体の位置決めガイドとして3°のテーパーをつけたものを用いた。
【0032】
このダイセットを用いて、パンチ1および位置決めガイド5を、完全に嵌合する位置より故意に10μmずらして降下させたところ、位置決めガイドのテーパー部に位置決め穴6が当たったところから、ダイ側が位置決めガイドに倣って動き、テーパーの終点で、パンチとダイ、位置決めガイドと位置決め穴が、ずれが1μm以下の精度で正確に重なった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の位置決めガイドと位置決め穴をパンチおよびダイと一体に設けた打ち抜き金型の模式図
【図2】位置決めガイドの直線部と先端部の測定方法を表す2面図
【図3】位置決めガイドと位置決め穴の位置を、テーパーを用いることにより調整する方法の模式図
【図4】硬質ゴムを用いることによりダイおよび位置決め穴がWの面方向に対してのみ可動に設けられたダイセット
【図5】一般的な打ち抜き加工金型の模式図
【図6】一般的な打ち抜き金型で、ガイドポストを用いた例
【符号の説明】
【0034】
1 パンチ
2 ダイ
5 位置決めガイド
6 位置決め穴
7 硬質ゴム
8 ダイホルダー
9 金型本体
10 ストリッパ
13 切刃部(パンチ側)
23 切刃部(ダイ側)
30 面取り部
40 ガイドポスト
41 ポスト
42 ポストガイド
51 テーパー部
52 ストレート部
53 ガイドポスト
W 被打ち抜き材である帯状の薄板シート
C クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の薄板シートからダイおよびパンチの切刃部にて製品を打ち抜く、打ち抜き切断の金型で、
ダイまたはパンチのいずれかに、ダイまたはパンチと一体である突出した位置決めガイドを有し、
他方に前記位置決めガイドと嵌合する位置決め穴を有しており、
前記位置決めガイドと位置決め穴は、打ち抜き動作中に切刃部が切断を行なうより前に嵌合してダイとパンチの位置を合わせる機能を持ち、
前記位置決めガイドと位置決め穴を、位置決めガイドの輪郭形状の方が0μm以上3μm以下大きく設定したゼロクリアランスまたはマイナスクリアランスとし、
位置決めガイドを位置決め穴に圧入することで位置決めを行なったのちに切刃部にて打ち抜きを行なうことを特徴とする打ち抜き金型。
【請求項2】
位置決めガイドと位置決め穴のクリアランスが、パンチとダイの切刃部のクリアランスより小さく設定された請求項1に記載の打ち抜き金型。
【請求項3】
位置決めガイドの先端部および位置決め穴縁の少なくとも一方に、
圧入を容易にするために設けられたテーパー部もしくは面取り部を設けてなる
請求項1または請求項2に記載の打ち抜き装置。
【請求項4】
前記位置決めガイドおよび位置決め穴縁のテーパー部もしくは面取り部で、最初に対向する位置決め穴または位置決めガイドと接する先端部は、少なくとも位置決めガイドおよび位置決め穴でテーパー部や面取り部でないストレート部分に対して、3μm以上その輪郭が小さい、請求項3に記載の打ち抜き装置。
【請求項5】
前記位置決めガイドと位置決め穴の材質を、
位置決めガイドの材質の方が位置決め穴を形成する材質よりも使用温度域での熱膨張係数が大もしくは同等な材質とし、
連続打ち抜きの際に金型の温度が上昇した場合でも、圧入状態で位置決めが維持可能な
請求項1から請求項4のいずれかに記載の打ち抜き金型。
【請求項6】
位置決めガイドと位置決め穴の材質が異なり、位置決めガイドの熱膨張係数が0〜3.0×10−6(K−1)の範囲、位置決め穴の材質よりも大きいことを特徴とした、請求項5に記載の打ち抜き金型。
【請求項7】
パンチ、ダイ、およびそれらと一体に設けられた位置決めガイドおよび位置決め穴の材質が金属結合成分が0.5〜30質量%で残部が炭化物からなる超硬合金、主成分として部分安定化ジルコニアを50%以上含むジルコニア系セラミックス、炭化物の割合が10〜40質量%で残部がアルミナおよび焼結助剤からなるアルミナ−炭化物系セラミックス、主成分として窒化珪素を70質量%以上含む窒化珪素系セラミックス、工具鋼のいずれか少なくとも一種からなる請求項1から請求項6のいずれかに記載の打ち抜き金型。
【請求項8】
ダイまたはパンチを固定する少なくとも一方の金型本体が、金型本体とダイまたはパンチのホルダー間に伸縮可能な機構を設けることにより、薄板シートの面方向に30μm以下可動であり、位置決めガイドと位置決め穴による位置決めの際に、それに倣って薄板の薄板シートの面方向に移動可能にしたダイまたはパンチを有する請求項1から請求項7のいずれかに記載の打ち抜き金型。
【請求項9】
前記金型本体が、薄板シートの面方向に30μm以下自在に動ける機構がパンチまたはダイを支持するホルダーと金型本体の間にゴム、樹脂、軟鋼、純銅、バネ、油圧シリンダ、ダンパ、XYスライダーのいずれかを設けた請求項8に記載の打ち抜き金型。
【請求項10】
打ち抜き加工する帯状の薄板シートが、特に厚さ10μm〜200μmの金属箔からなる集電体の片面もしくは両面に、厚さ10〜200μmの金属化合物を含む電極材もしくはカーボンが塗布されている蓄電デバイス用電極であることを特徴とする
請求項1から請求項9のいずれかに記載の打ち抜き金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−36262(P2010−36262A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198131(P2008−198131)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】