説明

薄膜およびその製造方法

【課題】 従来技術が有する前述の欠点を解消し、高プロトン伝導性、酸触媒能力、イオン交換能力、耐薬品性、耐熱性に優れたナノメーターサイズの細孔を有し、細孔壁にプロトン供与基などを配したハイブリッド膜を提供すること。
【解決手段】 直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を含有することを特徴とする薄膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜およびその製造方法に関する。さらに詳しくはエネルギーデバイスや電気化学センサーに利用されるプロトン伝導材料や、ファインケミカル製品及びポリマー製品製造に利用される酸触媒膜、イオン交換膜に用いることのできる薄膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料として水素を用い、排出する物質は水のみという非常にクリーン次世代エネルギーとして、固体高分子型燃料電池(PEFC)の開発が盛んである。また、燃料として水素の代わりにメタノールを用いる直接メタノール型燃料電池(DMFC)が提案され、リチウム2次電池に代わる携帯機器用高容量電池として期待され、活発に研究されている。
【0003】
これら固体高分子型燃料電池に用いられる電解質膜(プロトン伝導膜)の重要な機能は、正極触媒電極に供給される燃料(水素、メタノール水溶液等)と負極に供給される酸化剤ガス(酸素等)を物理的に絶縁すること、正極と負極を電気的に絶縁すること、及び正極上で生じるプロトンを負極に伝達することである。これらの機能を満たすためには、ある程度の機械的強度と高いプロトン伝導性が要求される。
【0004】
固体高分子型燃料電池用電解質膜には、一般的にナフィオン(登録商標)に代表されるスルホン酸基含有パーフルオロカーボン重合体が用いられている。これらの電解質膜はプロトン伝導度に優れ、機械的強度も比較的高いものであるが、以下の点においてさらなる改良が望まれる。すなわち、これらの電解質膜では膜に含まれる水とスルホン酸基により生成したクラスターチャンネルの中で水を介してプロトンが伝導するため、プロトン伝導度が電池使用環境の湿度による膜含水率に大きく依存する。固体高分子燃料電池は、COによる触媒電極の被毒低減と触媒電極の高活性化の観点から、100〜150℃の温度領域で作動させるのが好ましいとされる。しかし、このような中温度領域では電解質膜の含水率の低下とともにプロトン伝導度が低下するため、期待した電池特性が得られない。また、電解質膜の軟化点が120℃付近にあり、この温度域で作動させた場合には電解質膜の機械的強度が得られない。
【0005】
一方、これらの電解質膜をDMFCに用いた場合には以下のような現象がおこる。すなわち、本質的に含水し易いこれらの膜は、燃料のメタノールに対するバリヤ性が低いため、正極に供給したメタノールが電解質膜を透過し負極に到達してしまう。これにより電池出力が低下する、メタノールクロスオーバー現象の原因となる。これは、DMFC実用化のための解決すべき重要な課題の一つである。
【0006】
このような状況下、ナフィオンに代わるプロトン伝導膜を開発する機運が高まり、幾つかの有望な電解質材料が提案されている。例えば、無機プロトン伝導材料としてプロトン伝導性ガラスが知られている。これらは、テトラアルコキシシランを酸の存在下、ゾル−ゲル法により重合して得られるものであり、高温域での湿度依存性が小さいことが知られている。しかし、プロトン伝導性が不充分あり、燃料電池用電解質としては適当でない。
【0007】
無機材料の特性を活かしながら製膜を容易にするため、一つには高分子材料と複合したナノコンポジッド材料が提案されている。例えば、スルホン酸基を側鎖に持つ高分子化合物、ケイ素酸化物及びプロトン酸との複合化によりプロトン伝導膜を作製する方法等が開示されている(例えば、特許文献1〜3参照)。他には有機ケイ素化合物を前駆体とし、プロトン酸存在下のゾル−ゲル反応により生成する有機−無機ナノハイブリッド型のプロトン伝導材料が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
これらの有機−無機コンポジッド及びハイブリッド型プロトン伝導材料は、ケイ酸とプロトン酸からなりプロトン伝導部位である無機成分と材料に柔軟性を付与する有機成分とにより構成されるが、いずれも十分な電導度がないものである。
【0009】
また、陽極酸化で得られたアルミナの細孔内にメソポーラスシリカを合成した薄膜が報告されている(非特許文献1参照)。しかし該報告にはプロトン伝導膜、イオン交換膜に関する記述はなく、プロトン伝導膜、イオン交換膜への応用は考えられていない。
さらに、非特許文献1で報告された膜は触媒としての利用を示唆してはいるが、具体性が無くどの様な触媒で、どの様に用いるかさえ不明瞭である。
【0010】
メソポーラスシリカを用いたプロトン伝導膜も報告されているが(非特許文献2)、メソポーラスシリカのみで膜を構成していることから、膜厚を厚くすることは困難であり、そのままでは膜自体の強度が十分ではない。
【0011】
メソポーラスP−SiOガラスを用いたプロトン伝導膜も報告されているが(非特許文献3)、メソポーラスP−SiOガラスは脆く、そのままでは電池のセルを組み上げる際に割れやすいなどの問題がある。
【0012】
多孔質膜をマトリックスとして用い、その細孔内にプロトン伝導性の物質を充填する報告もあるが(例えば、特許文献5,特許文献6など)、細孔内に充填する物質は細孔を有する訳ではなく、そのため低加湿条件下などでは、プロトン伝導膜に十分な水分が保持されにくく、十分にプロトン伝導性能を発揮することが困難である。
【特許文献1】特開平10−69817号公報
【特許文献2】特開平11−203936号公報
【特許文献3】特開2001−307752号公報
【特許文献4】特許第3103888号公報
【特許文献5】国際特許公開2003/075386号パンフレット
【特許文献6】特開2003−335895号公報
【特許文献7】特開2004−2865号公報
【特許文献8】特開2004−18751号公報
【特許文献9】特開2003−359860号公報
【非特許文献1】ネィチャー マテリアルズ(Nature Materials),vol3,p337〜341
【非特許文献2】化学と工業 第57巻 第4号 p410〜413(2004)
【非特許文献3】アドバンスド マテリアルズ(Advanced Materials.),12,18,p1370〜1372(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記課題を解決することを目的としたものである。すなわち、本発明の目的はハンドリング性や耐久性が高いエネルギーデバイスや電気化学センサーに利用されるプロトン伝導材料や、ファインケミカル製品及びポリマー製品製造に利用される触媒膜やイオン交換膜に用い得る薄膜およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明によれば、直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を含有することを特徴とする薄膜が提供される。本発明の薄膜は好ましい形態によれば、セラミックス、有機ポリマーのいずれかから構成されるものである。有機ポリマーは耐薬品性、耐熱性の高いポリテトラフルオロエチレンやポリイミドが好ましい。セラミックスとしては金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物などが挙げられる。
【0015】
本発明の薄膜としては膜厚が1mm以下であるものが好ましいが(60μm以下がより好ましい)、陽極酸化で得られる薄膜は酸化皮膜部を膜厚とし、その他種々の方法で得られる薄膜に関しては適宜支持体や基板上に作成するが支持体や基板は膜厚には含まないものとする。なお、膜強度の点から膜厚の下限は5μm以上であることが好ましい。
【0016】
本発明において3次元細孔とは、個々の形状としては、1次元の膜面に対してほぼ垂直(90°±20°の範囲)の直線状細孔は含まない。ただし、後述するように他の細孔と交わるなどして全体として3次元の細孔になる場合にはほぼ垂直の直線状細孔であってもよい。細孔は、膜面に対してほぼ垂直(90°±20°の範囲)以外の直線状、曲線状、屈曲状である(なおここで直線状、曲線状、屈曲状とは細孔をその長手方向断面をイメージしたときの形状とする)。細孔の集合体としては、細孔同士は交わっていてもよく、規則的および/又は不規則的な細孔であり、網目状細孔や、脱気、脱溶媒、脱官能基などによって生じた空間が連続的に連なったものも3次元細孔の範囲に入るものとする。3次元細孔は薄膜の表裏両面間を物質が通過又は移動できる点で、貫通しているものが好ましい。このような3次元細孔は、走査型電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0017】
本発明においてプロトン伝導性とは、プロトンが水酸基などのプロトン供与基(−OH、−SO−OH、−C(O)−OH、−P(O)(OH)、−NR−H(Rはアルキル基などの炭化水素基であり、環状のイミダゾール基なども含む)など)と水分子間をホッピングすることにより、電導度を示す性質である。
【0018】
本発明においてイオン交換性とは、イオンの濃度勾配が生じた際に、イオン平衡により支配されイオン交換するものである。
【0019】
本発明においてメタノール不透過性有機ポリマーとしては、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル等を挙げることができる。
【0020】
本発明においてポリイミドとは、イミド基を主鎖中に有する高分子ポリマーをいい、ポリアミドイミド、テトラカルボン酸およびジアミンから得られる狭義のポリイミドなどを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下に説明する通り、直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を含有することを特徴とする薄膜を得ることができる。このような膜は、プロトンの伝導性、イオン交換性にすぐれ、さらに耐久性、安定性も良好であり、燃料電池や電気化学センサー用途、キャパシター、触媒膜、イオン交換膜などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明について更に詳細に説明する。本発明の直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を含有することを特徴とする薄膜は二段階のプロセスで作成される。第一段階では直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜を作成し、第二段階で薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物の構造体を作成する。
【0023】
まず、第一段階での直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の作成方法について説明する。第一段階での薄膜作成方法は、フォトリソグラフィーをはじめ、電子線露光、X線露光などの微細パターン形成技術をはじめとする半導体加工技術やスパッタリング法、陽極酸化、ゾル−ゲル法、熱安定性の異なる2種類以上の有機ポリマーを混合分散させ、より熱不安定な有機ポリマーのみ分解させる方法、ブロック共重合有機ポリマーの部分的熱分解法などがあるが、これらに限定されることはない。また、ポリイミド前駆体を製膜し、加熱により環化させポリイミドとし、その際同時に縮合時に生じた水や共存させた有機物を熱処理法を用いて飛ばすことにより、多孔質ポリイミド膜を作成することが出来る(特許文献7、特許文献8、特許文献9などに記載の方法)が、化学処理法を用いて、除去したい成分を溶かし出すなどする方法を採用してもよい。
【0024】
上記のように無機薄膜でも有機薄膜でもよい。無機薄膜の場合は、細孔を作成のため、フォトリソグラフィーをはじめ、電子線露光、X線露光などの微細パターン形成技術をはじめとする半導体加工技術やスパッタリング法、陽極酸化など好ましく、コストや歩留まりの点から陽極酸化がより好ましい。
【0025】
有機薄膜の場合は、耐熱性、耐薬品性、官能基修飾のしやすさなどから、多孔質ポリイミドが好ましい。
【0026】
直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜は有機ポリマーまたはセラミックス材料(金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物)で構成されることが好ましい。耐熱性が重要視される燃料電池システムを組む場合はセラミックス材料を含むものが好ましく、コストや作成上容易である点から金属酸化物を含むものがより好ましい。また、機械的強度が重要視される燃料電池システムを組む場合は、膜全体が無機物質では脆さが問題となる場合があるので、その際は有機ポリマーを直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜として用いるのが好ましい。
【0027】
また、有機ポリマーはフレキシブルであるため、様々な形で用いることが可能であり、触媒やイオン交換膜などに用いる際もハンドリング性が良いことから、汎用性があるものである。
【0028】
有機ポリマーの中でも耐熱性、耐薬品性、官能基修飾のしやすさなどから、多孔質ポリイミドが好ましく、ポリイミド(狭義)はテトラカルボン酸成分とジアミン成分の好ましくは芳香族化合物に属するモノマーを重合して得られる。
【0029】
ジアミンとしては、芳香族ジアミンであれば特に制限はないが、好適には4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル、パラ−フェニレンジアミン(以下、p−PDAと略記することもある)、メタ−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエ−テル(以下、DADEと略記することもある)などの芳香族ジアミンが挙げられる。また、前記のジアミン成分としては、ジアミノピリジンであってもよく、具体的には、2,6−ジアミノピリジン、3,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジンなどが挙げられる。ジアミン成分は上記の各ジアミンを2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0030】
前記のテトラカルボン酸成分としては、好適にはビフェニルテトラカルボン酸成分が挙げられ、例えば3,3’,4,4’− ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、s−BPDAと略記することもある)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、a−BPDAと略記することもある)が好ましいが、2,3,3’,4’−又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、あるいは2,3,3’,4’− 又は3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の塩またはそれらのエステル化誘導体であってもよい。ビフェニルテトラカルボン酸成分は、上記の各ビフェニルテトラカルボン酸類の混合物であってもよい。
【0031】
また、上記のテトラカルボン酸成分は、ビフェニルテトラカルボン酸成分の一部あるいは全部をピロメリット酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン,ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)チオエ−テルあるいはそれらの酸二無水物、塩またはエステル化誘導体などの芳香族テトラカルボン酸類で置き換えてもよい。またこれら芳香族テトラカルボン酸成分の一部あるいは全部を脂環族テトラカルボン酸、あるいはそれらの酸無水物、塩またはエステル化誘導体で置き換えてもよい。
【0032】
このような多孔質ポリイミドからなる薄膜は、市販品の中から用いることもできる。
【0033】
本発明においては、薄膜を構成する有機ポリマーに後処理を施すことにより、種々の性質を付与することも可能である。
【0034】
例えば、特許文献8記載の多孔質ポリイミドに後処理として、特に限定されないが、クロロスルホン酸などにより、スルホン化などの処理を行うか、特許文献7記載のように、官能基が導入されたモノマーからの重合により、多孔質ポリイミドを合成することにより、多孔質ポリイミド表面を親水化することが可能となる。これにより、第2段階で作成の、薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を作成する際、薄膜細孔と金属酸化物の界面に隙間が生じることを防ぐ効果があり、同時に金属酸化物が担うプロトン伝導性、イオン交換性などの機能を、多孔質ポリイミドも担うことが可能となるため、薄膜全体としての機能を向上させることが可能となる。例えばスルホン化芳香族ポリイミドのスルホン酸含有量は、1g当たり0.5ミリ当量以上が好ましく、1ミリ当量以上が更に好ましい。
【0035】
また、本発明の薄膜に関し、直径2〜500nmの細孔は、細孔分布測定装置にて(水銀圧入法に基づくポロシメーター装置、窒素吸着法に基づくBET吸着測定装置、バブルポイント法及びハーフドライ法に基づくパームポロメ−ター装置など)により算出される平均細孔径が2〜500nmの範囲に入っているものとする。2nm以上50nm未満の領域ではBET吸着測定装置(液体窒素温度条件下での窒素吸着)、50nm以上500nm以下の領域ではポロシメーター装置またはパームポロメ−ター装置で測定するが、パームポロメ−ター装置は細孔が貫通孔である場合に用いるものとする。パームポロメーター装置での測定は25℃±5℃の条件にて測定を行う。細孔径測定時は鋳型分子などの細孔内物質を焼成や抽出により取り除いてから測定を行う。
【0036】
第1段階での作成薄膜の細孔径直径が2〜500nmであるのは、第2段階において、薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を作成する際に、金属酸化物の細孔が第1段階作成の膜の細孔に沿うように形成されやすいことから、プロトン伝導性や触媒として用いる際の物質の拡散性が向上する点において好ましいからである。第1段階での作成薄膜の細孔径は更に好ましくは2〜200nm、最も好ましいのは、2〜100nmである。
【0037】
次に第二段階の、薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を作成することについて説明する。第二段階のプロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物作成方法は、第一段階で作成した薄膜の細孔内にゾル−ゲル法にて作成することが好ましい。
【0038】
この際のゾル−ゲル法は一般的な方法でよく、特に限定されないが、例えば金属アルコキシド、金属ハロゲン化物、金属酸化物、有機金属エステルなどが原料として用いられる。また、ゾル−ゲル反応の際、薄膜の細孔径より小さい直径の細孔の金属酸化物に生じさせる上で、鋳型として極性官能基を有するポリマー、界面活性剤、イオン性液体、有機アミン、4級アンモニウム塩などを添加することが好ましい。
【0039】
上記ゾル−ゲル法は特に限定されないが、例えば、メソポーラスシリカ合成時などに行われる既存の各種手法を用いることができる。
【0040】
ゾルーゲル反応時、特に限定はされないがNaClなどの塩を加えることにより、金属酸化物の細孔の規則性を向上させることも可能である。
【0041】
ゾルーゲル反応時、Zr,Tiなどを加えることにより、金属酸化物の耐水性を向上させることも可能であり、Zr酸化物及び/またはTi酸化物のみで構成される金属酸化物でもよい。当然Si酸化物を主成分として、一部がZr酸化物及び/またはTi酸化物で構成されていても良い。
【0042】
また、ゾルーゲル反応時、特に限定はされないがフッ素源としてNaFやNaBFを加えることで重縮合を速め、合成時間を短縮させ、さらに金属酸化物の細孔壁を厚くできることから、該膜の耐久性を向上させることも可能である。
【0043】
薄膜の細孔径より小さい直径の細孔は細孔内への水の保持力、プロトン伝導性の点から1nm以上が好ましく、更に好ましくは1.5nm以上である。これらの細孔径は薄膜の細孔径測定方法と同様であるが、2nm以下の領域を測定する際は、BET装置により窒素吸着測定を行う。
【0044】
ゾルーゲル反応後、100℃程度(好ましくは100±50℃)での乾燥工程やそれ以上の温度(特に限定されないが200℃〜500℃程度が好ましい)で焼成工程を入れることで、金属酸化物の重縮合を促進させ、より耐久性のある薄膜を得ることも可能である。
【0045】
ゾル−ゲル反応後、得られた直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を含有することを特徴とする薄膜を電子顕微鏡にて観察すると、薄膜の細孔内以外の場所にもゾル−ゲル反応にて金属酸化物が副生する場合がある。そのような細孔内以外の場所に金属酸化物が副生すると不都合が生じる際は、特に限定はされないがCMP工程など、従来既知の研磨法にて薄膜表面を研磨することで副成金属酸化物を取り除くことができる。
【0046】
また、本発明の薄膜は、膜厚が1mm以下で、直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内にゾル−ゲル反応にて薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を作成し、その後、特に限定はされないがCMP(ケミカル・メカニカル・ポリッシング(プラナリゼイション))工程など、一般的な研磨法にて薄膜表面を研磨することで、膜厚1mm以下の本発明のハイブリッド膜を作成することもできる。
【0047】
作成した金属酸化物の細孔は三次元六方対称P63/mmc構造または二次元六方対称P6mm構造がプロトン伝導度の向上や圧力損失を軽減させる点で好ましい。P63/mmcやP6mmの構造はX線回折や、電子線回折などにより確認することが出来る。
【0048】
金属酸化物の組成は特に限定されないが、金属種として周期表の2族〜16属までの元素を少なくとも1つ以上含むことが好ましく、Si,Al,P,S,N,Zr,Ti原子のいずれかを含むものがプロトン伝導性、イオン交換性や耐久性を向上させる点から好ましい。例えば金属酸化物にシリカを用いる場合、シリカだけではプロトン伝導性、イオン交換性が不十分な場合がある。その場合にこの方法は有効である。特にリン酸基や硫酸基など、水酸基を有するリンや硫黄を金属酸化物表面に含有させることがプロトン伝導性、イオン交換性向上の点から好ましい。これらの官能基は、プロトンの供与能力が高く、プロトンがプロトン供与基(−OH、−SO−OH、−C(O)−OH、−P(O)(OH)、−NR−H(Rはアルキル基などの炭化水素基であり、環状のイミダゾール基なども含む)など)と水分子間をホッピングすることにが容易になる。水酸基を有するリンや硫黄を金属酸化物表面に含有させることで、プロトン伝導性、イオン交換性は向上させることが出来る。これらの官能基は直接金属酸化物上に存在する必要はなく、炭化水素(アルキル基など)などで官能基と金属酸化物間が結合されているものでもよい。
【0049】
金属酸化物表面に水酸基を有するリンや硫黄を含有させる方法は、特に限定されないが、例えば(1)の方法として、金属酸化物作成時にリン酸エステル類などを用い、ゾル−ゲル法にて金属酸化物の細孔壁の一部として導入する、またはチオール基を有する金属アルコキシド(例えばメルカプトプロピルトリメトキシシランなど)と過酸化水素水を用い、金属酸化物作成時に同時にチオール基をスルホン酸基へ酸化し、金属酸化物の細孔壁の一部として導入する方法が上げられる。また例えば(2)の方法として、金属酸化物作成後、後処理として、リン酸エステルや塩化スルフリルなどで金属酸化物表面の水酸基を処理し、加水分解してもよい。また、チオール基を含む金属アルコキシドなどで後処理として金属酸化物表面の水酸基を処理し、酸化しスルホン酸基などに変換することも出来る。
【0050】
しかし、(2)の方法では、金属酸化物作成後、後処理としてリン酸基や硫酸基を修飾導入しようとすると、金属酸化物細孔の入り口付近に修飾されやすく、金属酸化物細孔内に均一にリン酸基や硫酸基を配することが容易ではないこと、また、製作工程が1ステップ更にかかることから、(1)の方法のように、金属酸化物合成時に同時に、1段階(ワンポット)で導入することが好ましい。
【0051】
また、金属酸化物の細孔径を調整するために、金属酸化物合成時に種々鋳型となる分子を選ぶことができるが、金属酸化物合成後、特に限定はされないが金属アルコキシドなどを用いて金属酸化物の細孔壁で重縮合させ、金属酸化物の細孔を狭くすることもできる。
【0052】
本発明の直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物の細孔に有機ポリマーを接触させることでプロトン伝導膜として更に機能化することが出来る。例えばスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、イミダゾール基などを有する有機ポリマーを接触させることにより、燃料電池用途に応用する際、電極やガスの流路となるセパレーターとプロトン伝導膜との接着性を向上させ、電導度を向上させることが出来る。この際スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などを有する有機ポリマーが接触する場所は、金属酸化物の細孔の内外いずれでもよい。細孔内外で接触させる場合は特に限定されないが、該有機ポリマーを膜面に塗布し、加圧するなどすればよく、その結果、細孔内部に該ポリマーが浸入・圧入されても問題ない。金属酸化物細孔内で接触させる場合は、既知のスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などを有する有機ポリマーのみのプロトン伝導膜や、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基などを有する有機ポリマーと無機物と複合化させるプロトン伝導膜と異なり、本発明の薄膜は、薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を有することから、膜強度も高く、ナノオーダーの細孔により、保水力が高いものである。
【0053】
上記スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、イミダゾール基などを有する有機ポリマーとしては、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンなどの有機ポリマーにスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、イミダゾール基などを導入したものが挙げられる。
【0054】
また、金属酸化物の細孔にメタノール不透過性有機ポリマー(エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル等)を接触させることにより、DMFC用途へ応用する際、電池出力が低下するメタノールクロスオーバー現象を抑制することが出来る。上記メタノール不透過性有機ポリマーを細孔に接触させる方法は特に限定されないが、該ポリマーを膜面に塗布し、加圧するなどすればよく、その結果、細孔内部に該ポリマーが浸入・圧入されても問題ない。
【0055】
メタノール不透過性有機ポリマーは、前述のスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、イミダゾール基などを有する有機ポリマーとは異なり、これらの官能基は有しないものが好ましい。
【0056】
しかし、前述のスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、イミダゾール基などを有する有機ポリマーの効果とメタノール不透過性有機ポリマーの効果を併用するために、2つのポリマーを混合し用いても良い。
【0057】
上記メタノール不透過性有機ポリマーとしては、室温でメタノール・水・窒素(1.5:1.5:97(体積比))の混合気体をその樹脂からなる膜(50μm厚)に送り込んだとき、メタノールの供給量に対し、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは3%以下の透過量をもつ有機ポリマーが好ましく、このようなものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルなどが挙げられる。
【0058】
金属酸化物の細孔径は第一段階で作成した薄膜同様に、窒素吸着測定や透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡によって測定することが出来る。
【0059】
本発明において、金属酸化物がプロトン伝導性を示すとは、相対湿度100%、25℃(室温)条件下、交流複素インピーダンス法により電導度を測定し、1mS・cm−1以上の値を示すものである。好ましくは20mS・cm−1以上の値を示すものである。
【0060】
本発明において交流複素インピーダンス法は周波数0.01Hz〜10kHz、交流振幅は50mVにて測定を行い、サンプルと電極の界面には、界面抵抗を下げるために、ポリ(2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸)の15wt%水溶液を塗布して測定を行うものとする。
【0061】
以上述べたように、本発明の薄膜は、フォトリソグラフィーをはじめ、電子線露光、X線露光などの微細パターン形成技術をはじめとする半導体加工技術やスパッタリング法、陽極酸化、ゾル−ゲル法、多孔性有機ポリマー膜作成法などで直径2nm〜500nmの細孔を有する薄膜を作成し、次いで第一段階で作成した薄膜の細孔内に、ゾル−ゲル法などにより、薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を作成する方法を組み合わせて用いることを特徴としており、プロトン伝導性、イオン交換性の特性が高く、加えて保水力、膜強度も高く、圧力損失の少ない膜を提供しうるものである。プロトン供与基またはイオン交換基は水酸基を有するリンや硫黄などが好ましい。
【0062】
また、本発明の薄膜は、プロトン伝導性、イオン交換性を有するため、ファインケミカル製品及びポリマー製品製造において触媒膜として利用することも可能である。その場合、ナノオーダーの細孔内が主反応場となることから、分子篩効果が見られ、副生物としてターゲット分子よりも分子径の大きな生成物が生じうる反応において有用な触媒膜となる。同様の効果を持つ膜にゼオライト膜が知られているが、ゼオライト膜はオングストロームオーダーの細孔であり、物質の拡散が悪く、圧力損失が大きくなる欠点があるが、本発明の薄膜はナノオーダーの細孔であることから圧力損失は小さく、触媒膜として有用である。
【0063】
一部又は全てのイオン交換点にプロトンを保持させた際は酸触媒として有用であり、また遷移金属を用い、薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を合成する場合、または遷移金属微粒子を薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物に担持させる場合は、遷移金属によって機能は異なるが、酸化触媒、還元触媒、縮合触媒、重合触媒、ルイス酸触媒などとして有用である。
【0064】
例えば、ビスフェノールA合成用触媒、CO酸化用触媒、ポリアセチレン製造用触媒、ポリオレフィン製造用触媒、オレフィン類のエポキシ化反応用触媒などに有用である。
【0065】
これらの触媒活性種となるプロトンや遷移金属を該薄膜に導入する際、該薄膜がイオン交換性を有していることが好ましい。該薄膜がイオン交換性を有している場合は、アルコールや水などの極性溶媒に鉱酸や遷移金属塩又は錯体などを溶解させ、その溶液に該薄膜を接触させることによりイオン交換が起こり、該薄膜全体に、より均一に触媒活性種となるプロトンや遷移金属を導入することが可能となるためである。
【0066】
イオン交換性は、特に限定されないが、電荷の異なる複数の金属酸化物から成る複合金属酸化物、例えば、3価の金属(例えばAl)と4価の金属(例えばSi)から成る複合金属酸化物はAl原子が4つの共有結合を有する場合が生じ、Al原子上(近傍)はAlは元々3価金属であることから、マイナスの電荷を生じることになる。その際、複合酸化物上のマイナスの電荷を補うために、カウンターカチオンが生じる。そのカウンターカチオンは、イオン交換可能となり、その複合酸化物はイオン交換性を有するものとなる。また、金属酸化物表面にスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、プロトン化イミダゾール基などが導入されている場合は、それら官能基はプロトンを放出しやすいことから、各種金属カチオンなどとイオン交換が可能となり、イオン交換性を有するものとなる。
【0067】
本発明の薄膜は、直接メタノール型燃料電池(DMFC)、高分子電解質型燃料電池(PEFC)などの燃料電池用途やイオン伝導膜を必要とする電気化学センサー用途、キャパシターなどに有用であり、また、酸触媒膜、イオン交換膜などの触媒膜、分離膜としても有用である。
【実施例】
【0068】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
第一段階として、宇部興産(株)製の多孔質ポリイミド膜(商品名:ユーピレックス(登録商標)PT)を0.3g用いた。走査型電子顕微鏡により確認した結果、上記多孔質ポリイミド膜は網目のような構造を有しており、3次元細孔を有するものであった。また、バブルポイント法及びハーフドライ法に基づくパームポロメター(PMIパームポロメーターCF−200AE)により測定した結果、上記多孔質ポリイミド膜の平均細孔径は約150nmであった。また、多孔質ポリイミド膜の厚みは約30μmであった。
【0070】
第2段階として、界面活性剤であるポリエチレングリコール−ブロック−ポリプロピレングリコール−ブロック−ポリエチレングリコール(アルドリッチ社製:平均分子量5800)2gに対し、メタノール14mlと5M硝酸水溶液80μlを加え、攪拌し、均一な溶液とした。その後テトラエトキシシラン(Si(OCHCH、以下「TEOS」という)3.57ml(16mmol)を加え40℃にて3時間攪拌した。その後、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(以下「MPTMS」という)(アルドリッチ社製)0.756ml、過酸化水素水30wt%3.65mlを加え40℃にて20時間攪拌した。
【0071】
以上のように調製した前駆体溶液に、第1段階での膜(多孔質ポリイミド膜)を浸し、膜を浸した前駆体溶液の入った容器ごと超音波水浴中へ浸し、室温で5分間超音波を接触させた。
【0072】
その後膜を引き上げ、膜面上に残る余剰前駆体液を液切りし、室温下にて膜を乾燥後、流動パラフィン中に該膜を浸し60℃にて20時間加熱した。その後、膜を引き上げ、ヘキサンにて膜に付着した流動パラフィンを洗い流し、100℃にて一晩乾燥後、平均細孔径約150nmの細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性の性質を有する金属酸化物を含有し、金属酸化物細孔壁にプロトン供与基を配した薄膜膜を得た。
【0073】
なお、上記において薄膜の細孔内に細孔径より小さい直径の細孔を有する構造体が存在することの確認は透過型電子顕微鏡観察及び窒素吸着測定により行い、その構造体が金属酸化物であることの確認はエネルギー分散型蛍光X線分析により行った。
【0074】
得られた薄膜を相対湿度70%条件下、交流複素インピーダンス法により電導度を測定すると、室温で20mS・cm−1であり、プロトン高電導性を確認した。この薄膜はプロトン伝導膜として用い得る。
【0075】
(実施例2)
第一段階として、宇部興産(株)製の多孔質ポリイミド膜(商品名:ユーピレックス(登録商標)PT)を0.3g用いた。
細孔径は約150nmであった。多孔質ポリイミド膜の厚みは約30μmであった。
【0076】
第2段階として、界面活性剤であるポリエチレングリコール−ブロック−ポリプロピレングリコール−ブロック−ポリエチレングリコール(アルドリッチ社製:平均分子量5800)1gに対し、メタノール7ml、純水40μlを加え、ZrCl0.233gを加え、攪拌し、均一な溶液とした。その後TEOS1.61mlを加え、室温にて1時間攪拌した。その後、MPTMS0.34ml添加し室温にて3時間攪拌後、過酸化水素水30wt%1.65mlを加え室温にて20時間攪拌した。
【0077】
以上のように調製した前駆体溶液に、第1段階での膜(多孔質ポリイミド膜)を浸し、膜を浸した前駆体溶液の入った容器ごと超音波水浴中へ浸し、室温で5分間超音波を接触させた。
【0078】
その後膜を引き上げ、膜面上に残る余剰前駆体液を液切りし、室温下にて膜乾燥後、流動パラフィン中に該膜を浸し60℃にて20時間加熱した。その後、膜を引き上げ、ヘキサンにて膜に付着した流動パラフィンを洗い流し、100℃にて一晩乾燥により、平均直径150nmの細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性の性質を有する金属酸化物を含有し、金属酸化物細孔壁にプロトン供与基を配した薄膜を得た。得られた薄膜については実施例1と同様の確認を行った。
【0079】
得られた薄膜を相対湿度70%条件下、交流複素インピーダンス法により電導度を測定すると、室温で21mS・cm−1であり、プロトン高電導性を確認した。
【0080】
(実施例3)
第一段階として、宇部興産(株)製の多孔質ポリイミド膜(商品名:ユーピレックス(登録商標)PT)を1g用い(細孔径は約150nmであった。多孔質ポリイミド膜の厚みは約30μm)、窒素雰囲気下、120mlの脱水したクロロホルムを溶媒として加え、アイスバスにより0℃に冷やした後、1mmolのクロロスルホン酸をゆっくりと滴下した。その後、0℃にて30分攪拌を続け、室温に昇温し30分攪拌、70℃へ昇温し30分攪拌し、温度を下げ氷水中へ注ぎ、希塩酸で膜を洗った。
【0081】
第2段階として、界面活性剤であるポリエチレングリコール−ブロック−ポリプロピレングリコール−ブロック−ポリエチレングリコール(アルドリッチ社製:平均分子量5800)1gに対し、メタノール7ml、純水40μlを加え、ZrCl0.233gを加え、攪拌し、均一な溶液とした。その後TEOS1.61mlを加え、室温にて1時間攪拌した。その後、MPTMS0.34ml添加し室温にて3時間攪拌後、過酸化水素水30wt%1.65mlを加え室温にて20時間攪拌した。
【0082】
以上のように調製した前駆体溶液に、第1段階での膜(多孔質ポリイミド膜)の0.15g分を切り分けた膜を浸し、膜を浸した前駆体溶液の入った容器ごと超音波水浴中へ浸し、室温で5分間超音波を接触させた。
【0083】
その後膜を引き上げ、膜面上に残る余剰前駆体液を液切りし、室温下にて膜乾燥後、流動パラフィン中に該膜を浸し60℃にて20時間加熱した。その後、膜を引き上げ、ヘキサンにて膜に付着した流動パラフィンを洗い流し、100℃にて一晩乾燥により、平均直径150nmの細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性の性質を有する金属酸化物を含有し、金属酸化物細孔壁にプロトン供与基を配した薄膜を得た。得られた薄膜については実施例1と同様の確認を行った。
【0084】
得られた薄膜を相対湿度70%条件下、交流複素インピーダンス法により電導度を測定すると、室温で40mS・cm−1であり、プロトン高電導性を確認した。この薄膜はプロトン伝導膜として優れるものである。
【0085】
(比較例1)
トリメチルフォスフェート((CHO)P(O))0.742g(0.0053mol)、テトラエトキシシラン20.83g(0.1mol)、水1.63g、エタノール4.6g(0.1mol)、HCl(36wt%水溶液)0.027gを加え撹拌し(CHO)P(O):Si(OEt):HO:EtOH:HCl=0.053:1:1:1:0.0027のモル比で混合)、その混合液に水7.5g、エタノール4.83g(0.1053mol)、HCl(36wt%水溶液)0.117gの混合液を加え1時間撹拌した。得られた混合物へ8.06mlホルムアミドを加え、1ヶ月間放置した。
【0086】
得られたゲルを空気中で50℃/hで昇温し、2時間700℃で焼成し、網目状の細孔を有するメソポーラスP−SiOガラスを得た(背景技術の非特許文献3を追試した)。しかし、焼成後は脆く、膜は破損しやすいものであった。ちなみに実施例1〜3で製造した薄膜は、しなやかで破損することはなく、ハンドリング性に優れるものであった。
【0087】
得られた薄膜を相対湿度70%条件下、交流複素インピーダンス法により電導度を測定すると、室温で20mS・cm−1であった。
【0088】
実施例と比較例より、本発明の薄膜はハンドリング性に優れ、高いプロトン伝導性を示し、電気・エネルギーデバイスとしての有用性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は従来なかった直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有する金属酸化物を含有し、その金属酸化物はプロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する薄膜であり、燃料電池用プロトン伝導膜やイオン伝導膜を必要とする電気化学センサー用途、キャパシターなどに有用であり、また、酸触媒膜、イオン交換膜などの触媒膜、分離膜としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径2nm〜500nmの3次元細孔を有する薄膜の細孔内に薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を含有することを特徴とする薄膜。
【請求項2】
薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物がリン原子、硫黄原子、窒素原子少なくとも1種類以上を含むことを特徴とする請求項1記載の薄膜。
【請求項3】
薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物の細孔に有機ポリマーが接触していることを特徴とする請求項1または2記載の薄膜。
【請求項4】
有機ポリマーがスルホン酸基、リン酸基、含窒素官能基およびカルボン酸基から選ばれる官能基を少なくとも一つ以上含むことを特徴とする請求項3記載の薄膜。
【請求項5】
有機ポリマーがメタノール不透過性有機ポリマーであることを特徴とする請求項3または4記載の薄膜。
【請求項6】
直径2nm〜500nmの細孔を有する薄膜がセラミックスであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の薄膜。
【請求項7】
直径2nm〜500nmの細孔を有する薄膜が有機ポリマーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の薄膜。
【請求項8】
請求項7記載の有機ポリマーがスルホン酸基、リン酸基、含窒素官能基およびカルボン酸基から選ばれる官能基を少なくとも一つ以上含むことを特徴とする請求項7記載の薄膜。
【請求項9】
請求項7または8記載の有機ポリマーがポリイミドであることを特徴とする請求項7または8記載の薄膜。
【請求項10】
薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物が周期表の2族〜16族までの元素を少なくとも1つ以上含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の薄膜。
【請求項11】
薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物がゾル−ゲル法によって得られることを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載の薄膜。
【請求項12】
薄膜がイオン交換体またはプロトン伝導膜として用いられるものである請求項1〜10のいずれか記載の薄膜。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか記載の薄膜の細孔径より小さい直径の細孔を有し、プロトン伝導性、イオン交換性のいずれかの性質を少なくとも1つ以上有する金属酸化物を、1段階(ワンポット)で薄膜の細孔内に合成することを特徴とする薄膜の製造方法。

【公開番号】特開2007−123152(P2007−123152A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316160(P2005−316160)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】