説明

薄膜パターンの形成方法、並びに、圧電素子および表示素子の製造方法

【課題】エッチングプロセスが不要で、平坦性の良好な薄膜パターンを容易に形成することのできる薄膜パターンの形成方法を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる薄膜パターンの形成方法は、第1基板の平坦面にインク層を形成する工程と、前記第1基板に形成された前記インク層に含まれる溶媒を減少させる工程と、凹凸面を有する第2基板40の凹凸面の凸部に前記第1基板から前記インク層を転写する工程と、凸部から第3基板50にインク層を転写する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜パターンの形成方法、並びに、圧電素子および表示素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下部電極、圧電体層および下部電極を備えた圧電素子などの薄膜形状のパターンを有するデバイスは、フォトリソグラフィによるパターニング工程を経て形成されることが一般的であった。フォトリソグラフィによって素子をパターニングする工程は、材料の使用効率が悪く、またマスキング、エッチング等の工程を経るため、割高でスループットも必ずしも優れていなかった。
【0003】
このような問題に対して、フォトリソグラフィを必要としない方法として、特許文献1には、電極材料と基板との親和性を表面修飾によって調節し、所定領域に選択的に電極パターンを形成する方法が開示されている。しかし、この方法は、特殊な表面修飾膜を用いるため、未だ必ずしも容易な薄膜パターンの形成方法とはいえなかった。
【0004】
一方、薄膜パターンを有する各種デバイスの製造において、配線等の薄膜パターンを形成するときに、フォトリソグラフィを必要としない方法として、インクジェット法、スクリーン印刷法、およびマイクロコンタクトプリント法(μCP法)(非特許文献1等)などの印刷技術を利用する方法があり有望視されている。
【特許文献1】特開2005−135975号公報
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Phisics Vol.46,No.9A,pp.5960−5963(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷法によって薄膜パターンを形成する場合は、たとえば、銀インクなどの金属インク、インジウム錫酸化物(ITO)インクなどの金属酸化物インクを用いる。しかし、このようなインクには溶媒が含まれるため、最終的に溶媒を除去して薄膜を形成する過程で、形成した薄膜の形状が溶媒の脱離によって変形するため、薄膜の形状の制御が難しいという問題があった。また、溶媒の拡散に伴い、他の部材へのダメージが発生し、薄膜素子の特性が劣化するという問題がある。
【0006】
本発明にかかるいくつかの態様の目的の1つは、エッチングプロセスが不要で、平坦性の良好な薄膜パターンを容易に形成することのできる薄膜パターンの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる薄膜パターンの形成方法は、
第1基板の平坦面にインク層を形成する工程と、
前記第1基板に形成された前記インク層に含まれる溶媒を減少させる工程と、
凹凸面を有する第2基板の該凹凸面の凸部に前記第1基板から前記インク層を転写する工程と、
前記凸部から第3基板に前記インク層を転写する工程と、
を含む。
【0008】
このようにすれば、エッチングプロセスを用いずに、平坦性の良好な薄膜パターンを容易に形成することができる。
【0009】
本発明にかかる薄膜パターンの形成方法において、
前記インク層に含まれる溶媒を減少させる工程は、前記インク層を前記溶媒の沸点未満の温度に加熱して行われることができる。
【0010】
本発明にかかる薄膜パターンの形成方法において、
前記第3基板の表面に前記インク層を転写する工程は、前記インク層を前記溶媒の沸点未満の温度に加熱して行われることができる。
【0011】
本発明にかかる薄膜パターンの形成方法において、
前記インクは、界面活性剤を含有することができる。
【0012】
本発明にかかる薄膜パターンの形成方法において、
前記第3基板は、平坦面を有し、
前記インク層は、前記第3基板の平坦面に転写されることができる。
【0013】
本発明にかかる薄膜パターンの形成方法において、
前記第3基板に前記インク層を転写する工程の前に、前記第3基板の表面を平坦化する工程を有することができる。
【0014】
本発明にかかる圧電素子の製造方法は、
上述の薄膜パターンの形成方法を用いて、
下部電極、圧電体層、および上部電極の少なくとも1つを形成する。
【0015】
このようにすれば、エッチングプロセスを用いずに、平坦性の良好な圧電素子を容易に製造することができる。
【0016】
本発明にかかる表示素子の製造方法は、
上述の薄膜パターンの形成方法を用いて、
陽極、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層、および陰極の少なくとも1つを形成する。
【0017】
このようにすれば、エッチングプロセスを用いずに、平坦性の良好な表示素子を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一例として説明するものである。
【0019】
1.薄膜パターンの形成方法
図1ないし図6は、本実施形態にかかる薄膜パターンの形成工程を模式的に示す断面図である。本実施形態にかかる薄膜パターン24の形成方法は、第1基板10の平坦面10aにインク層20を形成する工程と、第1基板10に形成されたインク層20に含まれる溶媒を減少させる工程と、凹凸面42を有する第2基板40の凹凸面42の凸部44に第1基板10からインク層22を転写する工程と、凸部44から第3基板50にインク層22を転写する工程と、を含む。
【0020】
まず、第1基板10の平坦面10aにインク層20を形成する。
【0021】
図1に示すように、本工程で用いる第1基板10は、平坦面10aが形成されている。平坦面10aは、インク層20が形成されたときに、インク層20が平坦な形状となる程度の平坦性を有する。第1基板10の平面的な形状は任意である。第1基板10は、インク層20を形成するときの基材としての機能を有する。第1基板10の材質としては、特に限定されず、たとえば、SUS等の金属、高分子材料等の有機物、シリコン、ガラス等の無機物を用いることができる。第1基板10の材質を有機物とする場合は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などを用いることができる。なかでも、PDMSは化学的に安定であるため、インク層20を形成するために用いられる、ほとんどのインクに対応することができる。第1基板10は、平坦面10aの反対側に補強板(図示せず)を有していても良い。また、第1基板10の材質をシリコンやガラスとする場合には、平坦面10aにヘキサメチルジシラザン(HMDS)、フッ化アルキルシラン、アルキルシランなどの表面修飾膜を設けてもよい。これにより、平坦面10aの表面自由エネルギーが減少し、後の工程でインク層22の剥離をより容易にすることができる。
【0022】
図1に示すように、本工程においてインク層20は、第1基板10の平坦面10aに形成される。インク層20は、薄膜パターン24の原料となるインクによって形成される。本明細書ではインクと称しているが、インクは、印刷等に用いられる通常のインクに限定されず、金属、酸化物、有機物、およびこれらの粒子などが、水や有機溶剤等の溶媒に溶解または分散された液体のことを指す。本工程で用いられるインクとしては、たとえば、薄膜パターン24を導電配線とする場合には、金属インクや導電性高分子の溶液、さらに具体的には、銀のナノ粒子をエタノールに分散させた分散液などとすることができる。薄膜パターン24を誘電体とする場合には、該誘電体の原料溶液または原料分散体、さらに具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛の原料溶液などとすることができる。また、たとえば、薄膜パターン24を有機半導体とする場合には、ポリチオフェンのクロロホルム溶液などを用いることができる。さらに、本工程で用いられるインクとしては、機能性の有機物の溶液または分散体であってもよい。
【0023】
本実施形態のインクに含有される溶媒の具体例としては、水(沸点:100℃)、エタノール(沸点:78℃)、クロロホルム(沸点:61℃)、シクロヘキサン(沸点:81℃)、酢酸ブチル(沸点:126℃)、ヘキサン(沸点:69℃)、トルエン(沸点:111℃)、キシレン(沸点:140℃)等が挙げられ、さらにこれらから選択される2種以上の混合溶媒を例示することができる。
【0024】
第1基板10の平坦面10aへのインクの塗布は、スピンコート法、スリットコート法、ダイコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディッピング法、インクジェット法などを用いることができる。また、第1基板10へのインクの塗布性を良くするために、必要に応じて平坦面10aの表面処理を行ってもよい。特に、インクが水のような表面張力の大きい溶媒を含有している場合であって、第1基板10の材質にPDMSのような表面自由エネルギーの低い材料を選択した場合は、第1基板10へのインクの濡れ性が悪くなることがある。このようなときには、平坦面10aにVUV処理(真空紫外線照射)やプラズマ処理などの表面処理を行うことができる。これにより、第1基板10へのインクの濡れ性を改善することができる。
【0025】
次に第1基板10に形成されたインク層20に含まれる溶媒を減少させる工程を行う。
【0026】
図1に示すように、本工程は、インク層20が第1基板10の平坦面10aに形成された状態で行われる。本工程を経ることによって、溶媒が減少されたインク層には符号22を付す。インク層20に含有される溶媒を減少させる方法としては、特に限定されず、インク層20を形成後、放置してもよいし、必要に応じて加熱、減圧等の処理を行ってもよい。溶媒を減少させるための典型的な方法としては、ホットプレート、オーブン等により第1基板10とともにインク層20を加熱する方法が挙げられ、その他、ランプ、レーザなどの光をインク層20に照射する方法も可能である。
【0027】
加熱によって溶媒を減少させる場合は、インク層20に含有される溶媒の沸点未満の温度で処理を行うことが好ましい。なお溶媒が混合溶媒であって複数の沸点を有する場合は、最も低い沸点未満の温度で処理されることが好ましい。これらのことは、処理温度が、沸点以上となると、溶媒が沸騰してバブル等を生じることがあり、インク層の厚みの不均一を生じてしまうことがあるためである。また、処理温度が沸点以上となると、溶媒の減少速度が大きくなり、完全に溶媒を除去してしまう場合がある。そうすると後の工程でインク層22の転写が困難となることがあるためである。
【0028】
本工程によって減少させる溶媒の量は、インクの種類や組成などによって異なる。本工程では、インク層20を形成したときにインク層20に含有される溶媒の量を100%としたときに、5〜95%、好ましくは10〜90%、さらに好ましくは20〜80%の量の溶媒を減少させる。すなわち、本工程により溶媒が減少された後のインク層22の溶媒の含有量は、本工程を行う前のインク層20に含有される溶媒の量を100%としたときに、5〜95%、好ましくは10〜90%、さらに好ましくは20〜80%である。本工程によって減少させる溶媒の量が上記範囲よりも多いと、後の工程でインク層22の転写が困難となることがある。また、本工程によって減少させる溶媒の量が上記範囲よりも少ないと、後の工程でインク層22の形状や平坦性が悪化してしまうことがある。
【0029】
次に、凹凸面42を有する第2基板40の凹凸面42の凸部44に第1基板10からインク層22を転写する工程を行う。
【0030】
本工程では、準備として、図2に示すように、まず第2基板40を作成する。第2基板40は、印刷用の版としての機能を有する。第2基板40は、凹凸面42を有し、一例として以下のように作成される。
【0031】
図2に示すように、マスター版30を準備する。このマスター版30の形状が転写されて、第2基板40の凹凸面44が形成される。マスター版30は、最終的に形成される薄膜パターン24のパターンの原版である。マスター版30の凹部32の形状が第2基板40の凹凸面44における凸部42の形状に対応している。マスター版30の材質は、パターンを形成しやすいものが望ましく、たとえば、シリコン基板、ガラス基板を用いることができる。マスター版30は、例示した基板を、たとえば、フォトリソグラフィ法によって、パターニングおよびエッチングして、形成されることができる。
【0032】
次に、マスター版30の形状を第2基板40に転写する。転写方法としては、一般的にナノインプリント法と称される方法を用いることができる。これにより、マスター版30に形成された凹部32の形状が、第2基板40における凸部44の形状に転写される。第2基板40の材質としては、マスター版30の形状の転写性に優れるものが好ましい。たとえば、図示しない補強板とマスター版30をPDMSの前駆体を介して対向させた後、前駆体を硬化させ、マスター版30を離型することにより作製することができる。PDMSの前駆体の組成の例としては、KE−106(信越化学工業株式会社製)を90%、CAT−RG(信越化学工業株式会社製)を10%、の混合物(硬化物の硬度:56(タイプA))が挙げられる。
【0033】
凹凸面42のパターンは作製しようとするデバイスの種類や構造によって任意に設計されうる。第2基板40に用いることが可能な材料は、第1基板10で例示した材料と同様である。
【0034】
第2基板40は、インク層22の転写元となるため、転写先の面に凹凸がある場合などは、これに追従できるように厚みや硬さを調節することができる。たとえば、第2基板40の厚み(凸部44の高さなど)を大きくすれば、インク層22が形成される面の柔軟性が増して、転写先の表面形状への追従性を高めることができる。また、第2基板40をPDMSで形成する場合には、PDMSの前駆体の組成において、たとえば、KE−103(信越化学工業株式会社製)の配合量を95%、CAT−103(信越化学工業株式会社製)を5%とすることにより、硬化物の硬度は24(タイプA)になり柔軟性が高まり、転写先の表面形状への追従性を高めることができる。
【0035】
インク層22の第1基板10からの転写をより確実に行うため、第2基板40の表面自由エネルギーは、第1基板10の表面自由エネルギーよりも大きくすることがより好ましい。第2基板40の表面自由エネルギーの制御は、例えば、VUV処理やプラズマ処理などによって行うことができる。また、第2基板40の材質として、ガラス等の表面自由エネルギーの高い材料を用いる場合でも、表面に自己組織化単分子膜や、フッ化アルキルシラン等の表面修飾膜を凸部44に形成すれば表面自由エネルギーの制御をおこなうことができる。
【0036】
次に図3、図4に示すように、第2基板40の凹凸面42の凸部44に第1基板10からインク層22を転写する。まず、図3に示すように、第1基板10のインク層22が形成された側の面と、第2基板40の凹凸面42が形成された側の面とを対向させて接触させる。このときの温度および押圧力は、インク層22、第1基板10および第2基板40の種類や材質により選択される。第1基板10と第2基板40を接触させるときの温度は、各基板の表面自由エネルギーの値の差を最適化するために変化させることができる。なおこの場合においても、インク層22に残留している溶媒の沸点未満の温度とすることが望ましい。第1基板10と第2基板40を接触させるときの温度としては、たとえば、溶媒の凝固点以上であって溶媒の沸点未満とする。溶媒の凝固点よりも低いと、溶媒が凝固して転写不良を生じる場合がある。また沸点以上の温度では、前述した加熱によって溶媒を減少させる場合と同様の不具合を生じることがある。また、第1基板10と第2基板40を接触させるときの押圧力は、たとえば、100Pa〜100kPaとすることができる。押圧力がこの範囲よりも小さいと、インク層22の転写が不十分となることがあり、この範囲よりも大きいと、第2基板40の凸部44以外の領域(凹部)にもインク層22が転写されてしまうことがある。次いで、図4に示すように、第1基板10および第2基板40を剥離することにより、第2基板40の凸部44にインク層22が転写される。
【0037】
最後に、凸部44から第3基板50にインク層22を転写する工程を行う。
【0038】
本工程は、インク層22が転写された第2基板40を第3基板50に接触させ、第3基板50にインク層22を転写させて行われる。本工程は、たとえば、マイクロコンタクトプリント(μCP)法で一般的に行われる方法により行うことができる。本工程では、インク層22の転写をより確実に行うため、第3基板50の表面自由エネルギーは、第2基板40の凸部44の表面自由エネルギーよりも大きくすることがより好ましい。表面自由エネルギーの調節方法としては、VUVやプラズマによる処理、自己組織化単分子膜や、フッ化アルキルシラン等の表面修飾膜の形成等によって行うことができる。
【0039】
本工程は、図5に示すように、第2基板40の凸部44が形成された側の面と、第3基板50の所望の面とを対向させて接触させる。このときの温度および押圧力は、インク層22、第2基板40および第3基板50の種類や材質により選択される。第2基板40と第3基板50を接触させるときの温度は、各基板の表面自由エネルギーの値の差を最適化する等のために変化させることができる。なおこの場合においても、インク層22に残留している溶媒の沸点未満の温度とすることが望ましい。第2基板40と第3基板50を接触させるときの温度としては、たとえば、溶媒の凝固点以上であって溶媒の沸点未満とする。溶媒の凝固点よりも低いと、溶媒が凝固して転写不良を生じる場合がある。また沸点以上の温度では、前述した加熱によって溶媒を減少させる場合と同様の不具合を生じることがある。また、第2基板40と第3基板50を接触させるときの押圧力は、たとえば、100Pa〜100kPaとすることができる。押圧力がこの範囲よりも小さいと、インク層22の転写が不十分となることがあり、この範囲よりも大きいと、第3基板50に転写されるインク層22の線幅(面積)が大きくなってしまう場合がある。また、第2基板40と第3基板50を接触させるときの押圧力は、第3基板50の転写先の面に凹凸がある場合などは、これに第2基板40の凸部44が追従できるように適宜増加させることもできる。このときの押圧力としては、たとえば、100Pa〜1000kPaとすることができる。
【0040】
次いで、図6に示すように、第2基板40および第3基板50を剥離することにより、第3基板50に、第2基板40に形成されたパターンに対応するインク層22が形成される。第3基板50は、特に限定されない。第3基板50としては、半導体基板、樹脂基板、および金属板などとすることができ、第3基板50の内部には素子や回路などの構成が含まれていてもよい。本工程によって、インク層22が第3基板50に転写され、目的の薄膜パターン24となることができる。また、本工程の後、必要に応じて、インク層22を乾燥する工程、インク層22を加熱焼成する工程などを行うことにより、第3基板50に薄膜パターン24が形成されてもよい。
【0041】
また、第3基板50のインク層22が転写される面は、平坦であることがより好ましい。第3基板50のインク層22が転写される面が平坦でない場合は、たとえば、化学機械研磨等の方法によって、第3基板50のインク層22が転写される面を平坦化することができる。
【0042】
また、インクには界面活性剤が添加されていてもよい。インクに添加される界面活性剤としては、たとえば、フッ素基を含む界面活性剤が挙げられる。このような界面活性剤がインクに含有されると、第1基板10、第2基板40、および第3基板50へのインクの濡れ性が高まり、かつ、該基板からのインク層22の離型性を高めることができる。このような機能を有する界面活性剤のさらに具体的な例としては、パーフルオロブチルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、などが挙げられる。
【0043】
なお、第1基板10、第2基板40および第3基板50において、表面自由エネルギーを調節する場合、インク層22の転写をより確実にするために転写元の基板よりも転写先の基板のほうが表面自由エネルギーが大きくなるようにするとさらに好ましい。すなわち、本実施形態においては、第1基板10、第2基板40、および第3基板50の順に表面自由エネルギーが大きくなるように調節することができる。このようにすれば、インク層22の転写における欠陥を極めて低減することができる。
【0044】
以上説明した方法によれば、薄膜パターンを形成するためのエッチングプロセスを行うことなく、形状や厚みにムラが少なく表面の平坦性の高い薄膜パターンを形成することができる。すなわち、本実施形態の薄膜パターンの形成方法によれば、インクを第1基板10に展開した状態で、溶媒を減少させる工程を有するため、転写工程の途中や転写工程の後に除去すべき溶媒の量を少なく抑えることができる。そのため、転写中および転写後のインク層22の表面形状の変化を少なくすることができる。よって、第2基板40の凸部44の形状に、より忠実でかつ平坦性の高い薄膜パターン22(24)を形成することができる。また、本実施例の変形例として、第2基板40の凸部44にインク層22を転写させた後、第1基板10に残ったインク層22のパターンを第3基板に転写させて所望のパターンを形成しても良い。さらに、以上説明した方法は、レジスト膜等の形成が不要であり、使用する設備も安価であり、しかも省資源化という点で環境負荷も低減することができるものである。
【0045】
2.圧電素子の製造方法
本実施形態の薄膜パターンの形成方法は、各種デバイスの製造方法に適用可能である。以下に上述の薄膜パターンの形成方法を圧電素子の製造方法に適用した例を述べる。図7ないし図10は、圧電素子100の製造工程を模式的に示す断面図である。
【0046】
本実施形態の製造方法によって製造される圧電素子100は、図10に示すように、下部電極70と、下部電極70の上に形成された圧電体層80と、圧電体層80の上に形成された上部電極90とを有する。図示の例では、圧電素子100は、基体60の上に形成されている。
【0047】
下部電極70は、導電性を有し、たとえば、白金、イリジウム、ルテニウム、金などの金属、これらの合金、SrRuO、LaNiOのような導電性酸化物、またはアモルファスシリコンなどで形成される。圧電体層80は、圧電性を有し、たとえばチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、チタン酸ジルコン酸ニオブ酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O)、BaTiO系化合物、(K,Na)NbO系酸化物などで形成されることができる。圧電体層80の厚さは、たとえば0.1μmないし200μmとすることができる。上部電極90は、導電性を有し、たとえば、金、白金、銀、ニッケルなどの金属、これらの合金、LaNiOのような導電性酸化膜、またはアモルファスシリコンなどで形成される。下部電極70および上部電極90の厚さは、十分に低い電気抵抗値が得られる厚さであれば良く、たとえば10nmないし5μmとすることができる。
【0048】
圧電体層80は、下部電極70および上部電極90によって挟まれ、両電極から電界が印加されると、電界に従って変形することができる。圧電体層80の変形は、下部電極70を介して基体60に伝達され、基体60を振動させたり変形させたりすることができる。圧電素子100の下部電極70および上部電極80は、それぞれ図示せぬ回路に接続される。
【0049】
本実施形態の圧電素子の製造方法は、下部電極70、圧電体層80および上部電極90の少なくとも1つを、「1.薄膜パターンの形成方法」で述べた方法により形成する。以下では、下部電極70、圧電体層80および上部電極90を上述の薄膜パターンの形成方法によって形成する場合について説明する。
【0050】
最初に図7に示すように、基体60の上に下部電極70の薄膜パターンを形成する。基体60(上述の第3基板50に対応する)としては、例えば、シリコン基板にシリコン酸化膜を付けたものを用いる。下部電極70を白金とする場合は、たとえば、インクとして、市販のインク(Pt Paste E−3100:N.E.CHEMCAT社から入手可能)を用いることができる。
【0051】
次に、図8に示すように、下部電極70の上に圧電体層80の薄膜パターンを形成する。圧電体層80をチタン酸ジルコン酸鉛で構成する場合のインクとしては、たとえば、酢酸鉛、ジルコニウムアセチルアセトナート、チタニウムテトライソプロポキシドを含みブトキシエタノールを溶媒とし、ジエタノールアミンおよびポリエチレングリコールを添加したものを用いることができる。また、圧電体層80の薄膜パターンを形成するときには、図8に示すように、下部電極70の薄膜パターンよりも圧電体層80の薄膜パターンを小さくしてもよい。このようにすれば、圧電体層80の位置ずれ等の転写不良を抑制することができる。
【0052】
次に、圧電体層80の上に上部電極90の薄膜パターンを形成する。上部電極90を白金とする場合は、たとえば、インクとして、市販の白金インク(Pt Paste E−3100:N.E.CHEMCAT社から入手可能)を用いることができる。また、上部電極90の薄膜パターンを形成するときには、図9に示すように、圧電体層80の薄膜パターンよりも上部電極90の薄膜パターンを小さくしてもよい。このようにすれば、上部電極90の位置ずれ等の転写不良を抑制することができる。
【0053】
なお、上述の製造工程では、各薄膜パターンの乾燥や焼成を行う工程を省略して説明しているが、図7ないし図9の例では、各薄膜パターンを形成した後、そのつど乾燥や焼成を行っている。図においては、薄膜パターンを形成し、乾燥や焼成を行う前の部材については、符号にaを付してある。薄膜パターンを形成した後であれば、乾燥や焼成を行うタイミングは任意であり、複数の薄膜パターンを同時に乾燥や焼成を行ってもよい。
【0054】
以上の手順により、エッチングプロセスを用いることなく、簡便に圧電素子100を製造することができる。また、圧電素子100は、本実施形態の薄膜パターンの形成方法によって製造されるため、各電極や圧電体層の平坦性が良好、すなわち厚みの均一性を高くすることができ、圧電特性が良好なものとなる。
【0055】
図11および図12は、圧電素子200の製造工程を模式的に示す断面図である。本実施形態の製造方法によって製造される圧電素子200は、図12に示すように、圧電体層82が下部電極70および基体60の上に形成される以外は、上述の圧電素子100と同様である。
【0056】
図11は、圧電体層82aを薄膜パターンの形成方法によって形成するときの様子が描かれている。図示のように、本実施形態の薄膜パターンの形成方法は、第3基板(この例では、基体60と下部電極70とを合わせた構成である。)の転写先の面に凹凸があっても良好な薄膜パターンを形成することができる。このような第3基板の転写先の面への追従性の高い第2基板48の形成については、既述の通りである。このようにすれば、圧電体層82の位置ずれ等の転写不良を抑制することができる。さらに、このようにすれば、圧電体層82によって下部電極70が覆われるため、下部電極70と、上部電極90との電気的な絶縁性をより高めることができる。
【0057】
3.表示素子の製造方法
本実施形態の薄膜パターンの形成方法は、各種デバイスの製造方法に適用可能である。以下に上述の薄膜パターンの形成方法を表示素子の製造方法に適用した例を述べる。図13は、表示素子300を模式的に示す断面図である。表示素子300は、有機EL素子を想定しているが、薄膜構造を有するものであればこれに限定されない。
【0058】
本実施形態の製造方法によって製造される表示素子300は、図13に示すように、透明基板310の上に、陽極層320、正孔輸送層330、有機発光層340、電子注入層350、および陰極層360が積層された構造を有する。陽極層320、正孔輸送層330、有機発光層340、電子注入層350、および陰極層360は、いずれも薄膜の構造を有している。
【0059】
本実施形態の表示素子の製造方法は、陽極層320、正孔輸送層330、有機発光層340、電子注入層350、および陰極層360の少なくとも1つを、「1.薄膜パターンの形成方法」で述べた方法により形成する。以下では、陽極層320、正孔輸送層330、有機発光層340、電子注入層350、および陰極層360を上述の薄膜パターンの形成方法によって形成する場合について説明する。
【0060】
透明基板310は、たとえば、ガラスや樹脂等から構成され、光を透過する性質を有する限り任意である。陽極層320は、光を透過する性質を有し、かつ仕事関数が大きい材料で形成される。陽極層320の材料としては、金などの金属、ITO(インジウム錫酸化物)、錫酸化物(SnO)、亜鉛酸化物(ZnO)などの電気伝導性化合物を挙げることができる。正孔輸送層330の材質としては、たとえば、トリアゾール誘導体、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー等の導電性高分子オリゴマー等を挙げることができる。有機発光層340の材質としては、ポリフルオレン系、ベンゾチアゾール系、ポリフェニレンビニル誘導体系、ポリアルキルチオフェン誘導体系の化合物を挙げることができる。電子注入層350の材質としては、アントラキノジメタン誘導体、ジフェニルキノン誘導体等の化合物を挙げることができる。陰極層360は、仕事関数の小さい材料で形成される。陰極層360の材質としては、マグネシウム、リチウム、銀などの金属を挙げることができる。
【0061】
陽極層320、正孔輸送層330、有機発光層340、電子注入層350、および陰極層360の各層の薄膜パターンの形成方法は、用いるインクが異なる以外は、上述の通りであるので説明を簡略する。
【0062】
陽極層320の形成において用いるインクとしては、例えば、ITO微粒子をデカヒドロナフタレンに分散させたインクが挙げられる。
【0063】
正孔輸送層330の形成において用いるインクとしては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の共重合体(PEDOT/PSS)を水に分散させたインクが挙げられる。
【0064】
有機発光層340の形成において用いるインクとしては、例えば、ポリジオクチルフルオレン(F8)をトルエンに溶解させたインクが挙げられる。
【0065】
電子注入層350の形成において用いるインクとしては、例えば、シアノ基付加ポリフェニレンビニレン系コポリマーをトルエンに溶解させたインクが挙げられる。
【0066】
陰極層360の形成において用いるインクとしては、例えば、Ag微粒子をエタノールに分散させたインクが挙げられる。
【0067】
上記の層を積層する際には、「2.圧電素子の製造方法」の項で述べたと同様に、薄膜パターンの位置ずれ等の転写不良等を防ぐために、下層の薄膜パターンよりも上層の薄膜パターンを小さくすることがより好ましい。
【0068】
以上のように、エッチングプロセスを用いることなく、簡便に表示素子300を製造することができる。また、表示素子300は、本実施形態の薄膜パターンの形成方法によって製造されるため、各電極や各機能層の平坦性が良好、すなわち厚みの均一性を高くすることができ、表示特性が良好なものとなる。また素子のダークスポットやショートを低減することができる。
【0069】
上述のような有機EL素子を、本実施形態の方法ではなく、インクジェット法などの印刷法によって形成する場合は、各部材のインクに含まれる溶媒によって、下層の部材にダメージを生じる。これに対して、上述の本実施形態のプロセスを用いれば、インク中の残存溶媒を制御できるため、下層の薄膜パターンへのダメージを極めて低減することができる。
【0070】
4.実施例および比較例
以下に実施例および比較例を記載して本発明をさらに説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0071】
(実施例)
第1基板および第2基板の材質として、PDMSを用いた。第3基板として、被転写面に酸化シリコン層が形成されたシリコン基板を用いた。第2基板の凹凸面には、平行に延びる2本の線状をなす凸部が形成されている。インクとしては、酢酸鉛、ジルコニウムアセチルアセトナート、チタニウムテトライソプロポキシドを含みブトキシエタノールを溶媒とし、ジエタノールアミンおよびポリエチレングリコールを添加したものを用いた。そして、「1.薄膜パターンの形成方法」で述べた方法により、シリコン基板上に薄膜パターンを作成した。形成された薄膜パターンを、大気中、150℃で2分放置した後、光学顕微鏡で観察した結果を図14に示した。
【0072】
(比較例)
溶媒を減少させる工程を行わないこと以外は実施例と同様にパターンを作成した。形成されたパターンを、大気中、150℃で2分放置した後、光学顕微鏡で観察した結果を図15に示した。
【0073】
図14をみると、実施例の薄膜パターンは、線幅が均一であった。また、実施例の薄膜パターンは、パターンの内側で、画像のコントラストが均一であることから、厚みが均一、すなわち平坦性が高いことが判明した。これに対して、図15をみると、比較例のパターンは、線幅が不均一となっており、さらに、パターンの内側で、画像のコントラストが均一でないことから、厚みが不均一、すなわち平坦性が悪いことが判明した。
【0074】
以上のように、本発明の薄膜パターンの形成方法を用いれば、エッチングプロセスを用いることなく、簡便に平坦性が良好、すなわち厚みの均一性の高い薄膜パターンを形成することができることが分かった。
【0075】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。たとえば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(たとえば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施形態にかかる薄膜パターンの形成工程を模式的に示す断面図。
【図2】実施形態にかかる薄膜パターンの形成工程を模式的に示す断面図。
【図3】実施形態にかかる薄膜パターンの形成工程を模式的に示す断面図。
【図4】実施形態にかかる薄膜パターンの形成工程を模式的に示す断面図。
【図5】実施形態にかかる薄膜パターンの形成工程を模式的に示す断面図。
【図6】実施形態にかかる薄膜パターン22(24)を模式的に示す断面図。
【図7】実施形態にかかる圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】実施形態にかかる圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図9】実施形態にかかる圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図10】実施形態にかかる圧電素子100を模式的に示す断面図。
【図11】実施形態にかかる圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図12】実施形態にかかる圧電素子200を模式的に示す断面図。
【図13】実施形態にかかる表示素子300を模式的に示す断面図。
【図14】実施例にかかる薄膜パターンの光学顕微鏡写真。
【図15】比較例にかかる薄膜パターンの光学顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0077】
10 第1基板、10a 平坦面、20,22 インク層、24 薄膜パターン、
30 マスター版、32 凹部、40,48 第2基板、42 凹凸面、
44 凸部、50,60 第3基板、70 下部電極、80,82 圧電体層、
90 上部電極、100,200 圧電素子、300 表示素子、310 透明基板、
320 陽極層、330 正孔輸送層、340 有機発光層、350 電子注入層、
360 陰極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板の平坦面にインク層を形成する工程と、
前記第1基板に形成された前記インク層に含まれる溶媒を減少させる工程と、
凹凸面を有する第2基板の該凹凸面の凸部に前記第1基板から前記インク層を転写する工程と、
前記凸部から第3基板に前記インク層を転写する工程と、
を含む、薄膜パターンの形成方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記インク層に含まれる溶媒を減少させる工程は、前記インク層を前記溶媒の沸点未満の温度に加熱して行われる、薄膜パターンの形成方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記第3基板の表面に前記インク層を転写する工程は、前記インク層を前記溶媒の沸点未満の温度に加熱して行われる、薄膜パターンの形成方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記インクは、界面活性剤を含有する、薄膜パターンの形成方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記第3基板は、平坦面を有し、
前記インク層は、前記第3基板の平坦面に転写される、薄膜パターンの形成方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記第3基板に前記インク層を転写する工程の前に、前記第3基板の表面を平坦化する工程を有する、薄膜パターンの形成方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の薄膜パターンの形成方法を用いて、
下部電極、圧電体層、および上部電極の少なくとも1つを形成する、圧電素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の薄膜パターンの形成方法を用いて、
陽極、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層、および陰極の少なくとも1つを形成する、表示素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−87118(P2010−87118A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252947(P2008−252947)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超フレキシブルディスプレイ部材技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】