説明

薄膜型電気化学素子

【課題】金属ラミネートフィルム製の容器の封止性を確保するとともに、リード端子を確実に補強することができる薄膜型電気化学素子を提供すること。
【解決手段】リチウム一次電池10は、正極と負極とがセパレータを介して積層されてなる電極積層体11を有する。電極積層体11はアルミニウム・ラミネートフィルム53からなる容器51内に収容されている。正極及び負極のリード端子25,35が密封封止部52から容器外部に引き出されている。リード端子25,35を補強するためのタブフィルム59がラミネートフィルム53の間に介在される。タブフィルム59は、溶融樹脂層とその溶融樹脂層よりも融点が高い耐熱樹脂層とを含んで構成される。タブフィルム59の表面に低融点樹脂層を介してリード端子25,35が固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極と負極とがセパレータを介して積層されてなる電極積層体を有し、電極積層体が電解液とともに金属ラミネートフィルムからなる容器内に収容されて密封封止されている薄膜型電気化学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報の多様化に伴い、電子ペーパ、ICタグ、多機能カード、電子キーなどのさまざまな超薄型電子機器が実用化されており、それら電子機器には電源としてラミネートタイプの電池が組み込まれている。このラミネートタイプの電池に求められる特徴としては、軽薄長寿命に加えて、曲げに対する強度特性も求められている。
【0003】
特許文献1には、扁平な形状の巻回電極体を金属ラミネートフィルムの容器内に収納した薄型電池が開示されている。特許文献1では、金属ラミネートフィルムとして、絶縁樹脂層、アルミニウム箔及び溶融樹脂層を張り合わせてなるアルミニウム・ラミネートフィルムが用いられている。そして、2枚のラミネートフィルムを重ね合わせ、その外周縁に沿って熱溶着することで密封封止して矩形袋状の容器が形成されている。
【0004】
特許文献1の薄型電池では、扁平な形状の巻回電極体を容器内に収容しているため、電池を薄く形成するのには限界があるといった問題がある。これに対して、シート状の電極(正極及び負極)を積層した積層タイプの電池が実用化されている。この積層タイプの電池では、特許文献1のような巻回タイプの電池と比較して、薄膜化が可能となる。図9には、積層タイプのリチウム一次電池70の従来例を示している。このリチウム一次電池70において、金属ラミネートフィルム製の容器71が使用されており、正極及び負極に繋がるリード端子72,73が容器71の密封封止部74から容器外部に引き出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−151512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図9のような薄膜型のリチウム一次電池70では、リード端子72,73が薄く形成されているため、そのリード端子72,73の強度を十分に確保することができない。このため、図10に示されるように、リチウム一次電池10のリード端子72,73が簡単に折れ曲がってしまう。また、容器71の端部では、金属ラミネートフィルム(金属層)の断面が露出している。従って、リード端子72,73の折れ曲がりによって、各リード端子72,73が金属ラミネートフィルムの金属層に接触し、その金属層を介して各リード端子72,73が短絡してしまうといった問題が生じる。
【0007】
この対策として、図11に示されるように、リード端子72,73を補強するためのサポートタブ75を新たに設けるリチウム一次電池76を検討している。具体的には、サポートタブ75は、表裏の金属ラミネートフィルムのうち一方のラミネートフィルムをタブ状に延設することで形成されている。またこの一次電池76では、ラミネートフィルムの表面に形成されている低融点樹脂の接着層を利用して、各リード端子72,73がサポートタブ75の表面に接着固定される。このようにすると、リード端子72,73の強度を高めることができる。
【0008】
しかしながら、一次電池76のリード端子72,73に外部配線や外部端子等を接続する際に、はんだ接続などで熱が加わると、サポートタブ75の接着層が溶融してしまう。この場合、リード端子72,73の接着強度が弱くなる。また、溶融した接着層がリード端子72,73とラミネートフィルムとの界面から流れ出てしまうと、絶縁性が低下してリード端子72,73とラミネートフィルムとが短絡するといった問題も生じてしまう。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属ラミネートフィルム製の容器の封止性を確保するとともに、リード端子を確実に補強することができる薄膜型電気化学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段[1]〜[4]を以下に列挙する。
【0011】
[1]正極と負極とがセパレータを介して積層されてなる電極積層体を有し、前記電極積層体が電解液とともに金属ラミネートフィルム製の容器内に収容され、前記金属ラミネートフィルムを外周縁に沿って熱溶着することで密封封止部が形成されている薄膜型電気化学素子であって、前記正極及び前記負極にそれぞれ繋がるリード端子を前記密封封止部から容器外部に引き出す構造を有するとともに、前記リード端子を補強するための補強用樹脂板を前記金属ラミネートフィルムの間に介在させる積層構造を有し、前記補強用樹脂板は、前記金属ラミネートフィルム同士を熱溶着させる低融点樹脂層よりも融点が高い高融点樹脂層を含んで構成され、前記補強用樹脂板の表面に前記低融点樹脂層を介して前記リード端子が固定されていることを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【0012】
従って、手段1に記載の発明によると、電気化学素子のリード端子を外部装置等に接続する際に、低融点樹脂層の融点以上の温度から高融点樹脂層の融点未満の温度範囲で熱を加えた加工を行うことができる。この加工を行う場合、低融点樹脂層が溶融しても高融点樹脂層は溶融せずにリード端子と金属ラミネートフィルムとの間に介在するため、リード端子と金属ラミネートフィルムとの短絡を防止することができる。また、金属ラミネートフィルムの密封封止部においても、高融点樹脂層が介在するため、リード端子と低融点樹脂層との密着性を十分に高めることができる。このようにすると、密封封止部においてリード端子と低融点樹脂層との隙間がなくなり、容器内への水分の混入を確実に防ぐことができる。また、補強用樹脂板によってリード端子の強度を十分に確保することができる。この結果、電気化学素子の特性劣化を回避することができ、長期保存特性を改善することができる。
【0013】
[2]手段1において、前記金属ラミネートフィルムは、前記容器の最表層となる外側樹脂層と、アルミニウム箔からなる金属層と、前記低融点樹脂層とからなり、前記補強用樹脂板は、2層の前記低融点樹脂層と、前記低融点樹脂層の間に介在される前記高融点樹脂層とからなることを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【0014】
手段2に記載の発明によると、密封封止部において金属ラミネートフィルムの間に補強用樹脂板を介在させた状態で加熱加圧すると、補強用樹脂板の表面にある低融点樹脂層が金属ラミネートフィルムの低融点樹脂層とともに溶融する。その低融点樹脂層を介して補強用樹脂板と金属ラミネートフィルムとが熱溶着される。このとき、補強用樹脂板の高融点樹脂層は溶融しないため、その高融点樹脂層により金属ラミネートフィルムやリード端子との密着性を確実に高めることができる。また、補強用樹脂板の低融点樹脂層を介してリード端子を熱溶着させることで、補強用樹脂板にリード端子を固定することができる。この結果、リード端子の強度を十分に確保することができる。
【0015】
[3]手段1または2において、前記補強用樹脂板を構成する高融点樹脂層は、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン及びポリイミドから選択される少なくとも1つを用いて形成されていることを特徴とする記載の薄膜型電気化学素子。
【0016】
手段3のような高融点樹脂層を用いることで、リード端子と金属ラミネートフィルムとの短絡を確実に防止することができる。特に、高融点樹脂層として、ポリエチレンナフタレートなどのような吸湿性が低い樹脂材料を用いることがより好ましい。この吸湿性が低い樹脂を用いると、容器内への水分の混入を確実に防ぐことができ、電気化学素子の長期保存特性を向上させることができる。また、高融点樹脂層の融点は、低融点樹脂層の融点よりも100℃以上高いことが好ましい。このようにすると、高融点樹脂層の耐熱性を十分に確保することができる。
【0017】
[4]手段1乃至3のいずれか1項において、前記補強用樹脂板は、前記リード端子の背面を完全に覆うように前記リード端子の端部よりも外側に延設されていることを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【0018】
手段4に記載の発明によると、補強用樹脂板によってリード端子を確実に補強することができ、リード端子の折れ曲がりによる短絡を回避することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳述したように、手段1乃至4のいずれかに記載の発明によると、金属ラミネートフィルム製の容器の封止性を確保するとともに、リード端子を確実に補強することができる薄膜型電気化学素子を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一実施の形態のリチウム一次電池を示す平面図。
【図2】図1におけるリチウム一次電池のA−A線での断面図。
【図3】図1におけるリチウム一次電池のB−B線での断面図。
【図4】図1におけるリチウム一次電池のC−C線での断面図。
【図5】サポートタブにおける2次加工を示す説明図。
【図6】リチウム一次電池の高温高湿試験結果を示すグラフ。
【図7】タブ強度の測定方法を示す説明図。
【図8】タブ強度の測定結果を示すグラフ。
【図9】従来のリチウム一次電池を示す平面図。
【図10】従来のリチウム一次電池を示す平面図。
【図11】従来のリチウム一次電池を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を薄膜型電気化学素子としてのリチウム一次電池に具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は本実施の形態におけるリチウム一次電池10を示す平面図であり、図2は図1におけるリチウム一次電池10のA−A線での断面図である。図3は図1におけるリチウム一次電池10のB−B線での断面図であり、図4は、図1におけるリチウム一次電池10のC−C線での断面図である。なお、本実施の形態のリチウム一次電池10は、0.45mm以下の厚さを有する薄型ラミネートタイプの電池である。
【0022】
図1及び図2に示されるように、リチウム一次電池10は、正極集電体23に支持された正極21と負極集電体33に支持された負極31とがセパレータ41を介して積層されてなる電極積層体11を備えている。リチウム一次電池10において、電極積層体11は、非水電解液とともに容器51内に密封封止されている。非水電解液としては、ブチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどに溶質としてトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド等を溶解させた電解液を用いている。
【0023】
セパレータ41は、電解液や電極活物質等に対して耐久性があり、連通気孔を有する非導電性の多孔体等からなる。本実施の形態では、セパレータ41として、ポリプロピレンからなる不織布が用いられる。セパレータ41の厚さは、キャパシタの内部抵抗を小さくするために薄いほうが好ましいが、電解液の保持量、流通性、強度等を勘案して適宜設定することができる。
【0024】
正極21は、二酸化マンガン(MnO)からなる正極活物質と、アセチレンブラックまたはグラファイトなどの炭素系導電剤と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)からなる結着剤とを含んで構成されている。正極集電体23は、正極21を支持しつつ集電を行うための金属箔であり、厚みが20μmのステンレス箔からなる。正極集電体23の片面(図2では上面)にニッケルめっき(図示略)が施されており、そのニッケルめっき上に正極21が形成されている。正極集電体23は平面視矩形状に形成され、その四辺のうちの一辺に正極用リード端子25が溶接されている。この正極用リード端子25は、容器51の密封封止部52を介して容器外部に引き出されている。
【0025】
負極31は、負極活物質としてのリチウム箔からなり、負極集電体33の片面に圧着されている。なお、負極31としては、リチウム箔の代わりにリチウム合金箔(例えば、アルミニウム−リチウム合金箔等)を用いてもよい。負極集電体33は、負極31を支持しつつ集電を行うための金属箔であって、例えば、厚みが20μmのニッケル箔からなる。負極集電体33は平面視矩形状に形成され、その四辺のうちの一辺に負極用リード端子35が溶接されている。この負極用リード端子35も、正極用リード端子25と同様に容器51の密封封止部52を介して容器外部に引き出されている。
【0026】
リチウム一次電池10の容器51は、アルミニウム箔を樹脂フィルムにラミネートしてなるアルミニウム・ラミネートフィルム(金属ラミネートフィルム)53を2枚用いて矩形袋状に加工した金属ラミネートフィルム製の容器である。
【0027】
容器51では、外周縁に沿ってラミネートフィルム53を帯状に熱溶着することで密封封止部52が形成されており、密封封止部52により容器51が密封封止されている。熱溶着による封止は、表裏のラミネートフィルム53に正極用リード端子25及び負極用リード端子35を挟み込んだ状態で行われる。
【0028】
また、容器51には、リード端子25,35を補強するためのサポートタブ58が設けられている。本実施の形態において、サポートタブ58は、表裏のラミネートフィルム53のうちの裏側のラミネートフィルム53をタブ状に延設するとともに、そのタブ状の部位をタブフィルム59(補強用樹脂板)で覆うことで形成されている。サポートタブ58は、リード端子25,35の背面を完全に覆うようにリード端子25,35の端部よりも外側に延設されている。
【0029】
図3及び図4に示されるように、本実施の形態のアルミニウム・ラミネートフィルム53は、ナイロン樹脂かならなる絶縁樹脂層55(外側樹脂層)とアルミニウム箔からなる金属層56と酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)からなる溶融樹脂層57(低融点樹脂層)とを順に積層した3層構造のラミネートフィルムである。なお、アルミニウム箔以外の他の金属箔からなる金属ラミネートフィルム材を用いて、容器51を形成してもよい。
【0030】
本実施の形態では、容器51において、リード端子25,35を引き出している辺以外の三辺の密封封止部52は、表裏のラミネートフィルム53の溶融樹脂層57を熱溶着させることで形成されている。また、図3に示されるように、リード端子25,35側の密封封止部52は、表裏のラミネートフィルム53の間に2枚のタブフィルム59を介在させるとともに、それらタブフィルム59の間にリード端子25,35を挟み込み、ラミネートフィルム53の溶融樹脂層57及びタブフィルム59を熱溶着させることで形成されている。
【0031】
タブフィルム59は、2層の溶融樹脂層57(低融点樹脂層)の間に耐熱樹脂層61(高融点樹脂層)を介在させた3層構造のフィルムである。タブフィルム59における溶融樹脂層57は、ラミネートフィルム53の溶融樹脂層57と同じ樹脂材料である酸変性ポリプロピレン樹脂(PPa)を用いて形成される。また、耐熱樹脂層61は、溶融樹脂層57よりも融点が高い樹脂材料であるポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)を用いて形成されている。なお、本実施の形態において、溶融樹脂層57の融点は145℃であり、耐熱樹脂層61の融点は268℃である。
【0032】
容器51においてリード端子25,35側の密封封止部52では、ラミネートフィルム53の溶融樹脂層57とタブフィルム59の溶融樹脂層57とが熱溶着されるとともに、リード端子25,35を挟み込んでいる2枚のタブフィルム59の溶融樹脂層57が熱溶着されている。これにより、容器51の密封封止が行われている。
【0033】
また、各リード端子25,35を挟み込んでいる一方のタブフィルム59の幅は、密封封止部52の封止長さとほぼ等しく、他方のタブフィルム59の幅は、密封封止部52の封止長さよりも長くなっている。この長く形成されたタブフィルム59が密封封止部52から容器外側に延設されてサポートタブ58の表面を被覆している(図1及び図4参照)。そして、サポートタブ58において、リード端子25,35の表面がタブフィルム59の溶融樹脂層57により熱溶着され固定されている。このように、サポートタブ58は、リード端子25,35を支持する部位であり、ラミネートフィルム53の表面側(図4では下側)から順に絶縁樹脂層55、金属層56、溶融樹脂層57、耐熱樹脂層61及び溶融樹脂層57を積層した構造となっている。
【0034】
次に、リチウム一次電池10の製造方法について説明する。
【0035】
正極21の作製は下記の手順で行う。先ず、シート状のステンレス箔を準備し、片面に部分ニッケルめっきを施す。さらに、ステンレス箔を所定サイズに切断することで、厚さが20μの矩形状の正極集電体23を作製する。
【0036】
また、二酸化マンガン(MnO)からなる正極活物質と、アセチレンブラックまたはグラファイトなどの炭素系導電剤と、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)からなる結着剤とを所定の質量比となるように混合する。その混合物に有機溶剤となるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを加え、溶解させることで正極活物質スラリーを準備する。そして、正極集電体23のニッケルめっき上に、正極活物質スラリーを100μm程度の厚みとなるよう塗布した後、真空中にて100℃の温度で乾燥して正極21を作製する。
【0037】
負極31の作製は以下の手順で行う。先ず、シート状のニッケル箔を準備し、ニッケル箔を所定サイズに切断することで、厚さが20μの矩形状の負極集電体33を作製する。また、所定サイズに切断したリチウム箔を負極集電体33に重ね合わせ、所定の圧力で圧着することで、負極集電体33の片面に負極31を形成する。
【0038】
この後、正極集電体23に正極用リード端子25を超音波溶接し、かつ、負極集電体33に負極用リード端子35を超音波溶接する。さらに、正極集電体23に支持された正極21と負極集電体33に支持された負極31とをセパレータ41を介して積層することで電極積層体11を形成する。また、プロピレンカーボーネートに溶質としてLiN(SOCFと表記されるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドを溶解させて非水電解液を作製する。
【0039】
次に、ラミネートフィルム53の熱溶着工程を行う。この熱溶着工程では、先ず、2枚のラミネートフィルム53を用意し、それらの溶融樹脂層57を対向させて内側に向け、2枚のラミネートフィルム53を重ね合わせる。そして、加熱加圧用治具(図示略)によりラミネートフィルム53の外周縁に170℃の熱を加えて加圧することにより、ラミネートフィルム53を熱溶着により密封封止する。なおここでは、先ず、ラミネートフィルム53の外周縁において、各リード端子25,35の引き出し側となる辺以外の他の三辺について密封封止し、一辺を開口させた袋状の容器51を形成する。
【0040】
そして、電極積層体11を容器51の開口側から容器51内に収容する。さらに、容器51の開口を注入口として非水電解液を容器51内に注入する。その後、容器51において、開口部分のラミネートフィルム53の内側に2枚のタブフィルム59を配置し、それらタブフィルム59で正極用リード端子25及び負極用リード端子35を挟み込んだ状態でその開口部分を熱溶着により密封封止する。ここでも、加熱加圧用治具(図示略)により、ラミネートフィルム53の開口部分に170℃の熱を加えて加圧する。この結果、リード端子25,35を挟み込んでいるタブフィルム59が溶融樹脂層57を介して熱溶着されるとともに、ラミネートフィルム53とタブフィルム59とが溶融樹脂層57を介して熱溶着される。このようにラミネートフィルム53を加工(一次加工)することで容器51が密封封止される。
【0041】
その後、サポートタブ58の部分を熱溶着するための2次加工を行う。この2次加工時には、図5に示されるように、サポートタブ58において、正極用リード端子25及び負極用リード端子35が配置されているタブフィルム59側から加熱加圧用治具64を押し付け、加熱加圧する。この結果、サポートタブ58のタブフィルム59とラミネートフィルム53とが溶融樹脂層57により熱溶着されるとともに、各リード端子25,35が溶融樹脂層57によりサポートタブ58の表面に熱溶着され固定される。以上の工程を経てリチウム一次電池10を製造する。
【0042】
本発明者らは、上記のように製造したリチウム一次電池10(実施例)について、高温高湿の条件下(具体的には、温度が60℃、湿度が90%の条件下)で保存試験を行い、その保存期間(日数)に対するリチウム一次電池10の内部抵抗の変化を確認した。また、比較例として、サポートタブ58におけるタブフィルム59を省略したリチウム一次電池(従来例)を製造し、その従来例のリチウム一次電池についても、高温高湿試験における内部抵抗の変化を確認した。それら実施例及び従来例のリチウム一次電池10の試験結果を図6に示している。
【0043】
図6に示されるように、従来例のリチウム一次電池では、30日程度の期間で容器51内に水分が混入し、内部抵抗が急激に上昇した。このように、電池の内部抵抗が大きくなると、電池容量が取り出せなくなり、電池として機能しなくなる。また、容器51の膨れも発生する。これに対して、実施例のリチウム一次電池10では、容器51への水分混入を防止することができ、内部抵抗の上昇が低く抑えられている。このため、実施例のリチウム一次電池10では、長期間にわたって電池容量を取り出すことができる。
【0044】
また、本発明者らは、上記のように製造したリチウム一次電池10について、タブ強度を測定した。なおここでは、図7に示すように、正極用リード端子25及び負極用リード端子35を上方に向けた状態でリチウム一次電池10を固定し、正極用リード端子25及び負極用リード端子35(サポートタブ58)の上方からプッシュプルゲージ65を押し付けることで、サポートタブ58の圧壊強度を測定した。その結果を図8に示している。図8に示されるように、サポートタブ58(リード端子25,35)の折れ曲がりが発生するタブの圧壊強度は、15N〜16N(1.5kgf〜1.6kgf)であった。因みに、サポートタブ58を省略した従来のリチウム一次電池70(図9参照)やサポートタブ58におけるタブフィルム59を省略した従来のリチウム一次電池76(図11参照)においても、タブの圧壊強度を測定した。それらの従来のリチウム一次電池70,76におけるタブの圧壊強度は、3N〜4N(0.3kgf〜0.4kgf)であった。このように、本実施の形態のリチウム一次電池10では、リード端子25,35の強度を従来の4倍から5倍程度に高めることができた。
【0045】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0046】
(1)本実施の形態のリチウム一次電池10において、リード端子25,35を補強するためのサポートタブ58には、溶融樹脂層57よりも融点が高い耐熱樹脂層61を含んで構成されたタブフィルム59が設けられている。このようにすると、リチウム一次電池10のリード端子25,35を外部装置等に接続する際に、溶融樹脂層57の融点である145℃以上から耐熱樹脂層61の融点である268℃未満の温度範囲において熱を加えた加工を行うことができる。この加工を行う場合、溶融樹脂層57が溶融しても耐熱樹脂層61は溶融せずにリード端子25,35とラミネートフィルム53との間に介在する。このため、リード端子25,35とラミネートフィルム53との短絡を防止することができる。
【0047】
(2)本実施の形態のリチウム一次電池10では、リード端子25,35側の密封封止部52において、表裏のラミネートフィルム53の間にタブフィルム59を介在させた状態でタブフィルム59とラミネートフィルム53とが熱溶着されている。この熱溶着を行う際には、タブフィルム59の耐熱樹脂層61は溶融しないため、その耐熱樹脂層61によって溶融樹脂層57とリード端子25,35との密着性を十分に高めることができる。従って、密封封止部52において、リード端子25,35と溶融樹脂層57との間を隙間なく密着させることができ、容器51内への水分の混入を確実に防ぐことができる。また、タブフィルム59の溶融樹脂層57によってリード端子25,35を熱溶着させることができ、サポートタブ58にリード端子25,35を確実に固定することができる。これにより、リード端子25,35の強度を十分に確保することができる。この結果、リチウム一次電池10の特性劣化を回避することができ、長期保存特性を改善することができる。
【0048】
(3)本実施の形態のリチウム一次電池10では、タブフィルム59を構成する耐熱樹脂層61として、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)を用いている。このポリエチレンナフタレート樹脂は吸湿性が低い樹脂である。このため、タブフィルム59を密封封止部52に介在させることにより、容器51内への水分の混入を確実に防ぐことができ、リチウム一次電池10の長期保存特性を向上させることができる。
【0049】
(4)本実施の形態のリチウム一次電池10では、サポートタブ58がリード端子25,35の背面を完全に覆うようにリード端子25,35の端部よりも外側に延設されている。このようにすると、サポートタブ58によってリード端子25,35を確実に補強することができ、リード端子25,35の折れ曲がりによる短絡を回避することができる。
【0050】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0051】
・上記実施の形態において、補強用樹脂板として機能するタブフィルム59の耐熱樹脂層61(高融点樹脂層)として、ポリエチレンフタレート(PEN)を用いたが、これに限定されるものではない。具体的には、耐熱樹脂層61の形成材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)及びポリイミド(PI)などの樹脂材料を用いてもよい。
【0052】
・上記実施の形態では、密封封止部52において、正極用リード端子25及び負極用リード端子35を挟み込むようそれらリード端子25,35の表面側及び裏面側にタブフィルム59をそれぞれ設けていた。この場合、正極用リード端子25及び負極用リード端子35の間は、溶融樹脂層57で埋められた構造となっているが、その部分にも耐熱樹脂層61を設けてもよい。具体的には、タブフィルム59をクランク状に屈曲させて正極用リード端子25及び負極用リード端子35の間に介在するよう配置する。このようにすると、各リード端子25,35間における絶縁性を高めることができる。なおこの場合、密封封止部52において、3枚のタブフィルム59が介在することとなる。また、密封封止部52において4枚以上のタブフィルム59を介在させてもよいが、その場合には密封封止部52が厚くなってしまう。このため、絶縁性が確保される場合は、上記実施の形態のように2枚のタブフィルム59を介在させて、密封封止部52を薄く形成することが好ましい。
【0053】
・上記実施の形態のリチウム一次電池10において、一対の正極21及び負極31を積層した電極積層体11を容器51に収容するものであったが、複数対の正極21及び負極31を積層した電極積層体を容器51に収納してもよい。
【0054】
・上記実施の形態のリチウム一次電池10では、正極用リード端子25及び負極用リード端子35が同一方向から引き出されていたが、これに限定するものではなく、正極用リード端子25及び負極用リード端子35が互いに反対方向に引き出される構成としてもよい。
【0055】
・上記実施の形態では、リチウム一次電池10に具体化するものであったが、金属ラミネートフィルム製の容器51に収納される電気化学素子であれば、リチウム一次電池以外の電池やキャパシタなどに本発明を具体化してもよい。
【0056】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0057】
(1)手段1乃至4のいずれか1項において、前記薄膜型電気化学素子は薄膜型リチウム一次電池であることを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【0058】
(2)手段2において、前記補強用樹脂板を構成する高融点樹脂層は、ポリエチレンナフタレートを用いて形成されていることを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【0059】
(3)手段2において、前記補強用樹脂板を構成する前記高融点樹脂層の融点は、前記低融点樹脂層の融点よりも100℃以上高いことを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【0060】
(4)手段2において、前記リード端子を支持する部位は、表面側から順に前記外側樹脂層、前記金属層、前記低融点樹脂層、前記高融点樹脂層及び前記低融点樹脂層を積層した構造となっていることを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【符号の説明】
【0061】
10…薄膜型電気化学素子としてのリチウム一次電池
11…電極積層体
21…正極
25…リード端子としての正極用リード端子
31…負極
35…リード端子としての負極用リード端子
41…セパレータ
51…容器
52…密封封止部
53…金属ラミネートフィルムとしてのアルミニウム・ラミネートフィルム
55…外側樹脂層としての絶縁樹脂層
56…金属層
57…低融点樹脂層としての溶融樹脂層
59…補強用樹脂板としてのタブフィルム
61…高融点樹脂層としての耐熱樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とがセパレータを介して積層されてなる電極積層体を有し、前記電極積層体が電解液とともに金属ラミネートフィルム製の容器内に収容され、前記金属ラミネートフィルムを外周縁に沿って熱溶着することで密封封止部が形成されている薄膜型電気化学素子であって、
前記正極及び前記負極にそれぞれ繋がるリード端子を前記密封封止部から容器外部に引き出す構造を有するとともに、前記リード端子を補強するための補強用樹脂板を前記金属ラミネートフィルムの間に介在させる積層構造を有し、
前記補強用樹脂板は、前記金属ラミネートフィルム同士を熱溶着させる低融点樹脂層よりも融点が高い高融点樹脂層を含んで構成され、
前記補強用樹脂板の表面に前記低融点樹脂層を介して前記リード端子が固定されていることを特徴とする薄膜型電気化学素子。
【請求項2】
前記金属ラミネートフィルムは、前記容器の最表層となる外側樹脂層と、アルミニウム箔からなる金属層と、前記低融点樹脂層とからなり、
前記補強用樹脂板は、2層の前記低融点樹脂層と、前記低融点樹脂層の間に介在される前記高融点樹脂層とからなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型電気化学素子。
【請求項3】
前記補強用樹脂板を構成する高融点樹脂層は、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン及びポリイミドから選択される少なくとも1つを用いて形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜型電気化学素子。
【請求項4】
前記補強用樹脂板は、前記リード端子の背面を完全に覆うように前記リード端子の端部よりも外側に延設されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の薄膜型電気化学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−209125(P2012−209125A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73753(P2011−73753)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000177081)FDK鳥取株式会社 (28)
【Fターム(参考)】