説明

薄膜太陽電池の製造方法

【課題】光電変換効率に優れた薄膜太陽電池の製造方法を得ること。
【解決手段】透光性絶縁基板上に、透光性導電材料からなる透明電極層を形成する第1工程と、前記透明電極層上に半導体層からなり光電変換を行う半導体光電変換層を形成する第2工程と、前記半導体光電変換層上に、光散乱層を有する透光性導電材料からなる裏面側透明電極層を形成する第3工程と、裏面側透明電極層上に反射性導電材料からなる裏面反射電極層を形成する第4工程と、を含み、前記第3工程は、前記光散乱層の構成材料を含む光散乱層材料膜を略一様な厚みで前記半導体光電変換層上に形成する第4工程と、前記光散乱層材料膜に対して200℃以下の温度で前記光散乱層材料膜を前記半導体光電変換層上において凝集させて前記光散乱層を形成する第5工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の製造方法に関し、特に、光の反射や散乱等が可能な構造の薄膜太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光のエネルギーを直接電気エネルギーに変換する光電変換装置である薄膜太陽電池において太陽光のエネルギーをより有効に変換し、高いエネルギー変換効率を得るためには、入射した光を薄膜太陽電池セルの内部で繰り返し反射などさせることで光路長を伸ばして入射光の利用効率を高めるという光閉じ込め技術を用いることが必須の手段となっている。このような光閉じ込め技術の一つとして、光を散乱させる凹凸形状や光散乱物質を裏面側電極に埋設する方法が採られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1の技術によれば、裏面側透明電極の内部に埋設する光散乱物質の実施例として銀を使用している。そして、光散乱物質の埋設方法として、銀薄膜を300℃の高い基板温度でスパッタリング法により製膜して堆積させるとともに、基板からの熱エネルギーによって銀薄膜を凝集させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−75154号公報(5項、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、変換効率の高い薄膜太陽電池を製造する上で、高い製膜温度は他層の膜質に影響を与える。例えば、アモルファスシリコン太陽電池においては、光電変換層が200℃程度の温度で製造されている。このため、特許文献1の技術にあるように300℃という高い温度で裏面電極層の製膜を行う場合には、すでに製膜されている光電変換層内において不純物拡散などが生じ、その膜質に致命的な影響を与える。
【0006】
したがって、薄膜太陽電池の性能の指標となる光電変換効率の向上のために光散乱層を形成しているものの、結果として光電変換効率が著しく低下する、という問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、光電変換効率に優れた薄膜太陽電池の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる薄膜太陽電池の製造方法は、透光性絶縁基板上に、透光性導電材料からなる透明電極層を形成する第1工程と、前記透明電極層上に半導体層からなり光電変換を行う半導体光電変換層を形成する第2工程と、前記半導体光電変換層上に、光散乱層を有する透光性導電材料からなる裏面側透明電極層を形成する第3工程と、裏面側透明電極層上に反射性導電材料からなる裏面反射電極層を形成する第4工程と、を含み、前記第3工程は、前記光散乱層の構成材料を含む光散乱層材料膜を略一様な厚みで前記半導体光電変換層上に形成する第4工程と、前記光散乱層材料膜に対して200℃以下の温度で前記光散乱層材料膜を前記半導体光電変換層上において凝集させて前記光散乱層を形成する第5工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光散乱層の形成工程における熱に起因した薄膜太陽電池の性能低下を誘引せずに、裏面側透明電極層の内部に光散乱層を形成することができ、良好な光閉じ込め効果を有する光電変換効率に優れた薄膜太陽電池を作製することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1−1】図1−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の概略構成を模式的に示す断面図である。
【図1−2】図1−2は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の有する光散乱層を拡大して示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図3−1】図3−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図3−2】図3−2は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図3−3】図3−3は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図3−4】図3−4は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図3−5】図3−5は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図3−6】図3−6は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図3−7】図3−7は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法により作製した薄膜太陽電池における光散乱層の散乱効果を示す特性図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法により作製した薄膜太陽電池における光散乱層での散乱効果のアニール処理時間に対する依存性を示す特性図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法により作製した薄膜太陽電池における光散乱層での散乱効果のアニール処理時間に対する依存性を示す特性図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図8−1】図8−1は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【図8−2】図8−2は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる薄膜太陽電池の製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0012】
実施の形態1.
図1−1は、本発明の実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の概略構成を模式的に示す断面図である。本実施の形態にかかる薄膜太陽電池は、透光性絶縁基板1上に、表面に凹凸構造を有して第1電極層となる透明電極層2、半導体層からなる半導体光電変換層3、裏面側透明電極層4、第2電極層となる裏面反射電極層5がこの順で積層されている。
【0013】
透光性絶縁基板1としては、透光性を有する絶縁基板が用いられる。このような透光性絶縁基板1には、通常は透過率の高い材質が用いられ、例えば可視から近赤外領域までの吸収が小さいガラス基板が使用される。ガラス基板としては無アルカリガラス基板を用いてもよく、また、安価な青板ガラス基板を用いてもよい。ただし、透光性絶縁基板1は必ずしもガラスである必要はなく、光を透過する絶縁性基板であれば、樹脂等の基板を用いることも可能である。本実施の形態では、透光性絶縁基板1として白板ガラス等を用いる。
【0014】
透明電極層2は、透明導電膜からなり、凹凸構造を有する。透明電極層2は、例えば酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化スズ(SnO)、酸化インジウム(In)のうちの少なくとも1種を含む透明導電性酸化膜(TCO:Transparent Conducting Oxide)、またはこれらを積層した透明導電膜で構成される。また、透明電極層2は、上述したTCO膜にドーパントとしてアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、シリコン(Si)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、フッ素(F)から選択した少なくとも1種類以上の元素を用いた透光性の膜によって構成されてもよい。
【0015】
このような透明電極層2は、微細な凹凸を含む表面凹凸形状を有しており、凹凸表面での光の乱反射によって半導体光電変換層3での光の利用効率を高める機能を有する。このような透明電極層2は、スパッタリング法、電子ビーム堆積法、常圧化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、低圧CVD法、有機金属化学気相蒸着法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ゾルゲル法、印刷法、スプレー法等の種々の方法により作製することができる。本実施の形態では、透明電極層2として、スパッタリング法によってアルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)膜を形成し、表面のテクスチャー構造はウェットエッチングによって形成する。
【0016】
半導体光電変換層3としては、例えば結晶シリコン系半導体膜、またはアモルファスシリコン系半導体膜が用いられ、pin接合(p型−i型−n型)の三層構造の半導体膜からなる。本実施の形態では、半導体光電変換層3は、透明電極層2側から第1導電型半導体層であるp型半導体層3p、第2導電型半導体層であるi型半導体層(真性半導体層)3i、第3導電型半導体層であるn型半導体層3nが積層された積層膜が形成されている。これらの半導体層には、例えば微結晶シリコン薄膜、アモルファスシリコンゲルマニウム薄膜、微結晶シリコンゲルマニウム薄膜、アモルファス炭化シリコン薄膜、微結晶炭化シリコン薄膜などが用いられ、またこれらの積層膜などを用いてもよい。
【0017】
また、ここでは半導体光電変換層3を1つ備える場合について示しているが、半導体光電変換層3は、pin接合を有する複数の半導体膜を積層して構成してもよい。この場合は、異なる半導体層間に酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電膜や、不純物をドーピングして導電性を向上させた酸化シリコン(SiO)膜や窒化シリコン(SiN)膜などの珪素化合物膜を中間層として挿入してもよい。このような半導体光電変換層3は、一般にプラズマCVD法、熱CVD法等を用いて堆積形成される。
【0018】
裏面側透明電極層4は、透光性導電材料からなり、第1の裏面側透明電極層4aと第2の裏面側透明電極層4dとの間に光散乱層4cを備えて構成される。裏面側透明電極層4は、裏面反射電極層5から半導体光電変換層3への元素の拡散を防止する。
【0019】
第1の裏面側透明電極層4aは透光性導電材料からなり、透明電極層2と同様に、アルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)膜、酸化インジウム錫(ITO)、酸化スズ(SnO)またはガリウム(Ga)を添加した酸化亜鉛(ZnO)などの透明導電性酸化膜(TCO)を用いることが可能である。なお、第1の裏面側透明電極層4aの膜中に微量の不純物が添加されていてもよい。
【0020】
このような第1の裏面側透明電極層4aは、スパッタリング法、常圧CVD法、減圧CVD法、MOCVD法、電子ビーム蒸着法、ゾルゲル法、電析法、スプレー法等の公知の方法によって作製でき、特に、下地層である半導体光電変換層3に薄膜太陽電池の性能低下の要因になるダメージを与えない方法であればよい。本実施の形態では、第1の裏面側透明電極層4aとして、アルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)膜がスパッタリング法によって形成されている。
【0021】
光散乱層4cは、第1の裏面側透明電極層4aと第2の裏面側透明電極層4dとの間に狭持され、半導体光電変換層3で吸収されることなく通過した光を積極的に散乱させて裏面反射電極層5に入射させ、効率的に再度半導体光電変換層3に光を入射させる光の散乱効果を有する。図1−2は、実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の有する光散乱層4cを拡大して示す断面図である。このような光散乱層4cの形状は、例えば粒形、半球状または島状などの凹凸形状とされる。光散乱層4cは、例えば銀により構成される。
【0022】
第2の裏面側透明電極層4dは透光性導電材料からなり、透明電極層2と同様にアルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)膜、酸化インジウム錫(ITO)、酸化スズ(SnO)またはガリウム(Ga)を添加した酸化亜鉛(ZnO)などの透明導電性酸化膜(TCO)を用いることが可能である。なお、第2の裏面側透明電極層4dの膜中に微量の不純物が添加されていてもよい。
【0023】
このような第2の裏面側透明電極層4dは、スパッタリング法、常圧CVD法、減圧CVD法、MOCVD法、電子ビーム蒸着法、ゾルゲル法、電析法、スプレー法等の公知の方法によって作製できる、特に、下地層である半導体光電変換層3に薄膜太陽電池の性能低下の要因になるダメージを与えない方法であればよい。本実施の形態では、第1の裏面側透明電極層4aとして、アルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)膜がスパッタリング法によって形成されている。
【0024】
裏面反射電極層5は、裏面電極として機能するとともに、光電変換層で吸収されなかった光を反射して再度光電変換層に戻す反射層として機能するため、光電変換効率の向上に寄与する。したがって、裏面反射電極層6は、光反射率が大きく導電率が高い程好ましい。裏面反射電極層5は、例えばチタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、白金(Pt)から選択された少なくとも1つ以上の金属またはこれらの合金からなる層が用いられる。なお、これらの裏面反射電極層の金属材料としての具体的材料は特に限定されるものではなく、周知の材料から適宜に選択して用いることができる。このような裏面反射電極層5は、スパッタリング法やCVD法や蒸着法、塗布法などにより形成される。本実施の形態では、裏面反射電極層5としてスパッタリング法によって形成した銀(Ag)膜が形成されている。
【0025】
上述したように、実施の形態1にかかる薄膜太陽電池においては、第1の裏面側透明電極層4aと第2の裏面側透明電極層4dとの間に光散乱層4cが狭持されている。これにより、この薄膜太陽電池においては、半導体光電変換層3で吸収されることなく通過した光を積極的に散乱させて裏面反射電極層5に入射させ、効率的に再度、半導体光電変換層3に光を入射させることができ、良好な光閉じ込め効果が得られ、光電変換効率に優れた薄膜太陽電池が実現されている。
【0026】
次に、上記のように構成された本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造方法について図2および図3−1〜図3−7を参照して説明する。図2は、実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。図3−1〜図3−7は、実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【0027】
まず、透光性絶縁基板1として例えばガラス基板を用意する。そして、透光性絶縁基板1の一面側に、透明電極層2を公知の方法で形成する(ステップS10、図3−1)。例えば、透光性絶縁基板1上にアルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)膜からなる透明電極層2をスパッタリング法により形成する。また、成膜方法として、CVD法などの他の成膜方法を用いてもよい。また、ウェットエッチングにより、透明電極層2の表面にテクスチャー構造を形成する。
【0028】
つぎに、透明電極層2上に半導体光電変換層3をp型半導体層3p、i型半導体層(真性半導体層)3iおよびn型半導体層3nを順次、公知の方法で形成する(ステップS20、図3−2)。例えば、透明電極層2上にp型半導体層3p、i型半導体層(真性半導体層)3iおよびn型半導体層3nとして水素化アモルファスシリコン薄膜をCVD法により順次形成する。なお、ここで堆積形成する半導体光電変換層3としては、例えば微結晶シリコン薄膜、アモルファスシリコンゲルマニウム薄膜、微結晶シリコンゲルマニウム薄膜、アモルファス炭化シリコン薄膜、微結晶炭化シリコン薄膜およびこれらの積層膜を用いてもよい。
【0029】
つぎに、n型半導体層3n上に裏面側透明電極層4を形成する。まず、第1の裏面側透明電極層4aとして、アルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)薄膜をn型半導体層3n上にスパッタリング法によって形成する(ステップS30、図3−3)。なお、この第1層裏面透明電極4aには、透明電極層2と同様に酸化インジウム錫(ITO)、酸化スズ(SnO)またはガリウム(Ga)を添加した酸化亜鉛(ZnO)などの透明導電性酸化膜(TCO)を用いることが可能である。また、この第1の裏面側透明電極層4aの形成には、スパッタリング法以外にも、常圧CVD法、減圧CVD法、MOCVD法、電子ビーム蒸着法、ゾルゲル法、電析法、スプレー法等の公知の方法を用いることができ、特に、下地層である半導体光電変換層3に薄膜太陽電池の性能低下の要因になるダメージを与えない方法であればよい。
【0030】
つぎに、裏面側透明電極層4の内部に埋設される光散乱層4cを形成する前段階として、第1層裏面透明電極4a上に、光散乱層4cの構成材料を含む光散乱層材料膜として一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bを例えばスパッタリング法によって形成する(ステップS40、図3−4)。ここで、銀の薄膜4bを用いる理由は、光散乱層4cの形成に際して、光学的に高い反射率を有し、熱エネルギーによって凝集効果が誘発され易い材料として銀が好ましいからである。また、銀は、膜厚の再現性や均一性の点で好ましい。本実施の形態における銀の薄膜4bの形成条件(スパッタリング条件)の一例を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
この銀の薄膜4bの形成においては、スパッタリングにおける膜厚を80nm以下にしていることを特徴としている。銀の薄膜4bの膜厚を80nm以下にすることにより、後工程における熱処理または紫外線の照射によって光の散乱効果を有する光散乱層4cを形成することができる。また、成膜時においては、銀の薄膜4bは連続した膜となっている。
【0033】
つぎに、一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bに対して熱処理を実施することにより、粒形、半球状または島状などの凹凸形状の光散乱層4cを第1層裏面透明電極4a上に形成する(ステップS50、図3−5)。例えば、一様な厚みの銀の薄膜4bに対して熱処理としてアニール処理を行うことにより、該一様な厚みの銀の薄膜4bが凝集し、粒形、半球状または島状などの凹凸形状の光散乱層4cを形成することができる。銀の薄膜4bのアニール処理は、例えば窒素(N)雰囲気、アルゴン(Ar)雰囲気、アルゴン(Ar)に水素(H)を含んだ雰囲気、または真空中などの非酸化性雰囲気で行われる。
【0034】
この銀の薄膜4bに対する熱処理においては、既に形成されている半導体光電変換層3に対して著しい悪影響を与えることのない200℃以下の温度で実施することを特徴としている。このように第1層裏面透明電極4a上に一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bを形成した後に、熱処理を実施して光散乱層4cを形成することで、従来技術のように基板温度を300℃のような高温としなくても光散乱層4cの形成が可能になる。すなわち、従来技術において問題となっていた製造工程における高熱に起因した薄膜太陽電池の性能低下を誘引せずに、裏面側透明電極層4に光散乱層4cを形成することを特徴としている。本実施の形態における銀の薄膜4bの好ましい熱処理条件の一例を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
半導体光電変換層3に著しい悪影響を与えない熱処理条件の範囲としては、アニール処理温度を150℃以上200℃以下、アニール処理時間を30分以上120分以下である。アニール処理温度が低すぎると、銀(Ag)薄膜の凝集作用が十分に起きず、光散乱層4cの全光透過率Ttに対する拡散透過率Tdの割合Td/Tt(%)が25%を超える十分な散乱効果が得られない。また、アニール処理温度を200℃よりも高い温度にすると、熱によって既に製膜された薄膜太陽電池の半導体光電変換層3にダメージを与えてしまい、光電変換効率が低下する。また、アニール処理時間は規定の時間以上の範囲では銀(Ag)の凝集による粒の変化において、後述する図5に示すように長波長の光に対しての散乱特性が低下する傾向を示す。
【0037】
なお、ここでは銀の薄膜4bに対して熱処理を行うことにより銀の薄膜4bを凝集させているが、銀の薄膜4bに対する熱処理方法はこれに限定されない。すなわち、アニール処理と同様に半導体光電変換層3に対して熱によるダメージを与えずに熱エネルギーによって銀の薄膜4bの凝集の作用を発現可能であれば、アニール処理以外の方法により銀の薄膜4bに対して熱処理を実施してもよい。
【0038】
つぎに、第2の裏面側透明電極層4dとして、アルミニウム(Al)を添加した酸化亜鉛(ZnO)薄膜を第1の裏面側透明電極層4a上および光散乱層4c上にスパッタリング法によって形成する(ステップS60、図3−6)。なお、この第2層裏面透明電極4dには、透明電極2と同様に酸化インジウム錫(ITO)、酸化スズ(SnO)またはガリウム(Ga)を添加した酸化亜鉛(ZnO)などの透明導電性酸化膜(TCO)を用いることが可能である。また、この第2の裏面側透明電極層4dの形成には、スパッタリング法以外にも、常圧CVD法、減圧CVD法、MOCVD法、電子ビーム蒸着法、ゾルゲル法、電析法、スプレー法等の公知の方法を用いることができ、特に、下地層である半導体光電変換層3に薄膜太陽電池の性能低下の要因になるダメージを与えない方法であればよい。以上により、第1の裏面側透明電極層4aと第2の裏面側透明電極層4dとの間に光散乱層4cが狭持された裏面側透明電極層4が形成される。
【0039】
つぎに、裏面側透明電極層4上に裏面反射電極層5を公知の方法で形成する(ステップS70、図3−7)。裏面側透明電極層4上に高反射率を有する銀(Ag)膜からなる裏面反射電極層5をスパッタリング法により形成する。また、成膜方法として、CVD法、蒸着法や塗布法などの他の成膜方法を用いてもよい。以上の処理により、図1−1に示す本実施の形態にかかる薄膜太陽電池が得られる。
【0040】
図4は、上述した本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造方法により作製した実施例の薄膜太陽電池における光散乱層4cの散乱効果を示す特性図である。熱処理条件は、実施の表2に示した条件である。図4においては、横軸にアニール処理前の銀の薄膜4bの膜厚、すなわち一様な銀の薄膜4bの膜厚を示し、縦軸に光散乱層4cの全光透過率Ttに対する拡散透過率Tdの割合Td/Tt(%)を示している。このTd/Ttの値が大きいほど、形成された光散乱層4cによる光散乱特性が大きいことを表す。また、図4における丸記号(○)は波長600nmの光に対するTd/Ttを表している。また、図4における三角記号(黒△)は波長1000nmの光対するTd/Ttを表している。
【0041】
図4より、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が85nm以下の範囲においてTd/Ttの値は0より大きくなっており、光散乱層による散乱の作用が確認できる。すなわち、本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製法方法においては、確実な光散乱特性を得るために、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bを、波長600nmまたは波長1000nmの光においてTd/Ttの値が0にならない膜厚範囲として85nm以下の膜厚で製膜する。さらに、波長600nmおよび波長1000nmの光に対して、Td/Ttとして共に25%以上の値を得られることが好ましく、この場合のアニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚は45nm以上〜60nm以下の範囲である。
【0042】
アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が薄すぎる場合には、アニール処理後に形成される光散乱層4cの粒形が例として波長1000nm以上の長波長の光に対して小さくなる、光散乱層4cの粒形同士の間隔が小さくなる、または間隔が無くなる、などの状態が発生する。この結果、熱処理工程を長時間にわたって行っても、光学特性も十分な散乱特性を呈することがない傾向を示す。
【0043】
また、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が85nmよりも厚い場合には、波長600nmおよび波長1000nmの光に対するTd/Ttの値が略0となる。すなわち、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が厚い状態で熱処理を施しても、表2に示した本実施の形態における銀の薄膜4bの熱処理条件では、島状などの凹凸形状が形成されず、光が透過する隙間の形成が不十分なため、光散乱層としての機能を成さない。
【0044】
したがって、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚は85nm以下の範囲が好ましく、波長600nmおよび波長1000nmの光に対してTd/Ttとして共に25%以上の値を得られる45nm以上〜60nm以下の範囲がより好ましい。
【0045】
図5および図6は、上述した本実施の形態にかかる薄膜太陽電池の製造方法により作製した実施例の薄膜太陽電池における光散乱層4cでの散乱効果のアニール処理時間に対する依存性を示す特性図である。図5は、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が50nmの場合であり、横軸にアニール処理時間を示し、縦軸に光散乱層4cの全光透過率Ttに対する拡散透過率Tdの割合Td/Tt(%)を示している。図6は、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が30nmの場合であり、横軸にアニール処理時間を示し、縦軸に光散乱層4cの全光透過率Ttに対する拡散透過率Tdの割合Td/Tt(%)を示している。また、図5および図6における丸記号(○)は波長600nmの光に対するTd/Ttを表している。また、図5および図6における三角記号(黒△)は波長1000nmの光対するTd/Ttを表している。
【0046】
図5より、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が50nmの場合は、散乱特性Td/Ttの値がアニール処理時間に対して概ね25%以上を示すことがわかる。一方、図6より、アニール処理前の一様な厚みの銀の薄膜4bの膜厚が30nmの場合は、散乱特性Td/Ttの値はアニール処理時間に関わらず25%未満であることがわかる。これらのことより、光散乱層4cでの光の散乱特性を示すのに十分なTd/Ttは、銀の薄膜4bのアニール処理前の膜厚に大きく依存性があることがわかる。
【0047】
上述したように、実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法においては、裏面側透明電極層4の内部に光散乱層4cを埋設して形成する工程として、第1の裏面側透明電極層4a上に一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bを形成する工程と、該銀の薄膜4bに対して熱処理としてアニール処理を実施する工程とを有する。これにより、銀の薄膜4bを第1の裏面側透明電極層4a上において凝集させて、粒形、半球状または島状などの凹凸形状の光散乱層4cを第1層裏面透明電極4a上に形成する。そして、この一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bの形成および熱処理においては、すでに作製済みの半導体光電変換層3に悪影響を与えない200℃以下の温度で行われる。
【0048】
したがって、実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の製造方法によれば、光散乱層4cの形成工程における熱に起因した薄膜太陽電池の性能低下を誘引せずに、裏面側透明電極層4の内部に光散乱層4cを形成することができ、良好な光閉じ込め効果を有する光電変換効率に優れた薄膜太陽電池を作製することができる。
【0049】
なお、上記においては、実施の一例として、光散乱層4cの形成材料として銀の薄膜を用いたが、光学的に反射率が高く、また、熱、および、レーザー光や、電磁波、例えば紫外線照射によって、光散乱層4cの元になる薄膜に対して凝集作用を起こしピンホール状の穴を空けることが可能な材料であれば、銀(Ag)に限定されない。すなわち、光散乱層4cの形成材料としては、銀(Ag)と同様に、熱処理により凝集作用を呈する材料であれば、例えばアルミニウム(Al)、金(Au)、銅(Cu)なども使用可能であり、また、これらの元素を含む合金材料を使用することも可能である。光散乱層4cの形成材料としてこのような材料を用いた場合においても、上記と同様に微細な凹凸による光散乱層4cとしての効果を得ることができる。
【0050】
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1にかかる薄膜太陽電池の他の作製方法について説明する。光散乱層4cの形成については、一様な膜厚の銀の薄膜4bを形成後に、該銀の薄膜4bに対してUVランプ等を用いた紫外線領域の光の照射をすることで選択的に銀の薄膜4bのみを凹凸、または、島状、または、ピンホール状の孔を有する光散乱層として形成可能である。これにより、実施の形態1の場合と同様に、光散乱層4cとしての機能を有する構造を作製することが可能である。
【0051】
銀(Ag)は、紫外線領域の光に対し吸収を起こす(プラズモン共鳴吸収)ため、紫外線の照射によって選択的に銀(Ag)の薄膜を凝集させ、光散乱層4cとなる凹凸、島状、またはピンホール状の構造を得ることが可能であり、この場合にも200℃以下のアニール処理の場合と同じく低温度領域で光散乱効果を有する光散乱層4cの形成が可能である。すなわち、これは、波長326nm付近で見られる銀(Ag)のプラズモン吸収を利用しており、銀の薄膜4bのみに選択的に熱エネルギーを与えて、同様の凝集作用を誘引するものである。この場合、紫外線領域の光の照射には、例えばYAG3倍波(波長355nm)、エキシマKrF(波長248nm)、XeCl(波長308nm)等のレーザーを用いることが可能である。また、放電管によるUVランプ(波長254nm等)も使用可能である。このように銀を主成分とする膜を凝集させるには波長200〜360nmの範囲の紫外線が有効で、特に240〜340nmの範囲の波長で吸収効果が高く、より効果的である。
【0052】
また、銀の薄膜4bに対する紫外線領域の光の照射による光散乱層4cの形成は室温にて行うことが可能であり、その製造工程においても200℃よりも高い温度は必要としない。したがって、従来技術のように基板温度を300℃のような高温としなくても光散乱層4cの形成が可能になる。すなわち、従来技術において問題となっていた製造工程における高熱に起因した薄膜太陽電池の性能低下を誘引せずに、裏面側透明電極層4に光散乱層4cを形成することを特徴としている。
【0053】
以下、実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法について、図7、図3−1〜図3−4、図8−1、図8−2、図3−6および図3−7を参照して説明する。図7は、実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するためのフローチャートである。図8−1および図8−2は、実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法を説明するための断面図である。
【0054】
まず、実施の形態1において図3−1〜図3−4を用いて説明した工程(ステップS10〜ステップS40)を実施して、透光性絶縁基板1の上に透明電極2、半導体光電変換層3、第1の裏面側透明電極層4a、一様な厚みの銀の薄膜4bを順次製膜する。
【0055】
つぎに、一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bに対して熱処理を実施することにより、粒形、半球状または島状などの凹凸形状の光散乱層4cを第1層裏面透明電極4a上に形成する(ステップS150、図8−1)。例えば、一様な厚みの銀の薄膜4bに対して紫外線照射装置6を用いた紫外線領域の光7の照射を行う。これにより、銀(Ag)のプラズモン共鳴吸収時のエネルギーによる凝集作用を用いて粒形、半球状、島状、または面内に多数のピンホールを有する等一様でない光透過部分を有する層を形成することができる(図8−2)。ここで、銀(Ag)の反射率の低い波長の光を照射するので、光は主として銀の薄膜4bに吸収されて銀の薄膜4bの凝集に用いられる。紫外線領域の光7のエネルギーは、半導体光電変換層3にはあまり伝わらないので半導体光電変換層3が高温になることがない。したがって、半導体光電変換層3が熱によって劣化することが抑制できる。
【0056】
この銀の薄膜4bに対する紫外線領域の光7の照射は、室温にて行うことが可能であり、その製造工程においても200℃よりも高い温度は必要としない。したがって、高熱に起因した薄膜太陽電池の性能低下を誘引せずに、裏面側透明電極層4に光散乱層4cを形成することができる。
【0057】
以下、実施の形態1において図3−6および図3−7を用いて説明した工程(ステップS60、ステップS70)を実施することにより、図1−1に示す薄膜太陽電池が得られる。
【0058】
上述したように、実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法においては、裏面側透明電極層4の内部に光散乱層4cを埋設して形成する工程として、第1の裏面側透明電極層4a上に一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bを形成する工程と、該銀の薄膜4bに対して紫外線領域の光の照射を実施する工程とを有する。これにより、銀の薄膜4bを第1の裏面側透明電極層4a上において凝集させて、粒形、半球状または島状などの凹凸形状の光散乱層4cを第1層裏面透明電極4a上に形成する。そして、この一様な厚みの極薄い銀の薄膜4bの形成は、すでに作製済みの半導体光電変換層3に悪影響を与えない200℃以下の温度で行われ、また紫外線領域の光の照射は室温で行われ、200℃よりも高い温度は必要としない。
【0059】
したがって、実施の形態2にかかる薄膜太陽電池の製造方法によれば、実施の形態1の場合と同様に光散乱層4cの形成工程における熱に起因した薄膜太陽電池の性能低下を誘引せずに、裏面側透明電極層4の内部に光散乱層4cを形成することができ、良好な光閉じ込め効果を有する光電変換効率に優れた薄膜太陽電池を作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明にかかる薄膜太陽電池の製造方法は、良好な光閉じ込め効果を有する光電変換効率に優れた薄膜太陽電池の製造に有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 透光性絶縁基板
2 透明電極層
3 半導体光電変換層
3p p型半導体層
3i i型半導体層(真性半導体層)
3n n型半導体層
4 裏面側透明電極層
4a 裏面側透明電極層
4b 銀の薄膜
4c 光散乱層
4d 裏面側透明電極層
5 裏面反射電極層
6 紫外線照射装置
7 紫外線領域の光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性絶縁基板上に、透光性導電材料からなる透明電極層を形成する第1工程と、
前記透明電極層上に半導体層からなり光電変換を行う半導体光電変換層を形成する第2工程と、
前記半導体光電変換層上に、光散乱層を有する透光性導電材料からなる裏面側透明電極層を形成する第3工程と、
裏面側透明電極層上に反射性導電材料からなる裏面反射電極層を形成する第4工程と、
を含み、
前記第3工程は、前記光散乱層の構成材料を含む光散乱層材料膜を略一様な厚みで前記半導体光電変換層上に形成する第4工程と、
前記光散乱層材料膜に対して200℃以下の温度で前記光散乱層材料膜を前記半導体光電変換層上において凝集させて前記光散乱層を形成する第5工程と、
を含むこと、
を特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記第5工程では、前記光散乱層材料膜に対して200℃以下の温度範囲でアニール処理を行うこと、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記第5工程では、前記光散乱層材料膜に対して紫外線を照射すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記光散乱層材料膜は銀を主成分とする膜であって、前記紫外線領域の光は波長が200〜360nmであること、
を特徴とする請求項3に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記光散乱層材料膜は、膜厚が45nm以上60nm以下の銀膜であること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate

【図3−4】
image rotate

【図3−5】
image rotate

【図3−6】
image rotate

【図3−7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8−1】
image rotate

【図8−2】
image rotate