薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置
【課題】 可撓体に対し小さな曲げ変位を与えるだけで、大きな静止姿勢角の変化量を確保する操作を、自動的に実行できる磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置を提供すること。
【解決手段】 薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして、予め、コンピュータシステム94の記憶部942に記憶しておく。薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を、測定装置93で測定する。その測定値をコンピュータシステム94に供給し、測定値に対応する修正条件に基づいて、修正装置92により、可撓体12に静止姿勢角修正のための曲げを加える。そして、可撓体12の曲げを生じる領域にレーザを照射する。
【解決手段】 薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして、予め、コンピュータシステム94の記憶部942に記憶しておく。薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を、測定装置93で測定する。その測定値をコンピュータシステム94に供給し、測定値に対応する修正条件に基づいて、修正装置92により、可撓体12に静止姿勢角修正のための曲げを加える。そして、可撓体12の曲げを生じる領域にレーザを照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
浮上型の磁気ヘッド装置では、高密度記録再生を達成するため、ヘッド支持装置によって支持された磁気ヘッドの静止姿勢角が高精度に保持されていることが基本的な要求事項となる。磁気ヘッド装置の静止姿勢角には、ピッチ角と、ロール角とが含まれる。
【0003】
ところが、磁気ヘッド装置は、ヘッド支持装置(サスペンション)の一端に磁気ヘッドを接着剤によって接着した構造になっているから、この接着構造のために、静止姿勢角が所定の角度からずれを生じることがある。
【0004】
磁気ヘッド装置は、複雑なプロセスを経て製造された高価な磁気ヘッドを、高精度で高価なヘッド支持装置に取り付けて構成されており、磁気ヘッド装置の段階で、静止姿勢角が所定の角度内にないとして、不良品扱いにすることは、許されない。
【0005】
静止姿勢角ずれを修正するための修正手段としては、押圧治具を用いた機械的押圧による修正手段が知られている。この押圧治具を用いた静止姿勢角修正方法では、ロードビームの自由端側に取り付けられた可撓体(フレキシャ)の軸線上の1点を支点にして、他点を押圧することによって、可撓体を曲げ、それによって磁気ヘッドの静止姿勢角を修正する。
【0006】
しかしながら、機械的押圧により、可撓体に大きな曲げ変位を与えても、可撓体の有する復元力のために、曲げが元に戻る。このことは、所定の静止姿勢角を与える曲げ変位よりも、著しく大きな曲げ変位で、可撓体を曲げなければならないことを意味する。
【0007】
可撓体に大きな曲げ変位を与えると、ロードビームから可撓体に荷重を加える突起部(ディンプル)と、可撓体との間に隙間を生じ、いわゆるディンプル浮きが発生することがある。ディンプル浮きが発生すると、ロードビームから可撓体に荷重を与えることができなくなり、所定の磁気ヘッド浮上特性を確保することができなくなる。
【0008】
上述した問題点を解決する手段として、特許文献1、2は、可撓体(フレキシャ)またはロードビームに静止姿勢角修正のための曲げを加え、曲げ領域にレーザを照射して、応力を開放することにより、加えられた曲げ角度に近い角度で曲げる技術を開示している。
【0009】
確かに、この先行技術によれば、ヘッド支持装置を、小さな曲げ角度で曲げるだけで、大きな静止姿勢角変化量を確保することができるという優れた効果を得ることができる。
【特許文献1】特開2001−357644号公報
【特許文献2】特開2001−357645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上述した先行技術に更に改良を加え、可撓体に対し小さな曲げ変位を与えるだけで、大きな静止姿勢角の変化量を確保する操作を、自動的に実行できる磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明に係る静止姿勢角修正方法は、ヘッドアーム組立体の可撓体に取り付けられた薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を修正するに当たり、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶しておく。そして、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定し、その測定値に対応する前記修正条件に基づいて、前記可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加え、前記可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する。
【0012】
可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加えた場合、可撓体には曲げに応じた応力が発生する。本発明では、可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する。これにより、レーザを照射された曲げを生じる領域における応力が、レーザの照射に伴う熱により、開放される。このため、このレーザ照射を受けた領域では、可撓体の復元量が小さくなり、加えられた曲げ角度に近い角度で曲ることになる。このことは、可撓体に与えられる曲げ変化量が小さくとも、可撓体に対し、大きな曲げ角度を付与できることを意味する。よって、可撓体を、小さな曲げ角度で曲げるだけで、大きな静止姿勢角変化量を確保することができる。
【0013】
上述した基本ステップは、先に上げた特許文献1、2に既に開示されている。本発明の特徴は、この基本ステップを、自動的に実行するためのステップを含むことにある。即ち、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶しておく。そして、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定し、その測定値に対応する前記修正条件に基づいて、前記可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加え、前記可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する。
【0014】
この追加されたステップによれば、CPU(コンピュータ)を中心とした磁気ヘッド静止姿勢角修正システムを構築し、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を、自動的に、再現性よく、修正することができる。
【0015】
上述した磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法は、具体的には、本発明が開示する磁気ヘッド静止姿勢角修正装置によって実施される。この磁気ヘッド静止姿勢角修正装置は、修正装置と、レーザ発振装置と、測定装置と、コンピュータシステムとを含む。
【0016】
前記修正装置は、前記可撓体に曲げを加えるものであり、前記レーザ発振装置は、曲げ領域にレーザを照射するものである。前記測定装置は、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定する。
【0017】
前記コンピュータシステムは、コンピュータ(CPU)と、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶した記憶部とを有し、前記CPUは、前記測定装置から供給された測定値に対応する前記修正条件を前記記憶部から読み出し、読み出された修正条件を前記修正装置に供給する。前記修正装置は、前記コンピュータシステムから供給された修正条件に基づき、前記可撓体に曲げを加える。
【0018】
上述した磁気ヘッド静止姿勢角修正装置によれば、CPUを中心とした磁気ヘッド静止姿勢角修正システムを構築し、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を、自動的に、再現性よく、修正することができることは明らかである。
【0019】
具体的には、前記修正装置は、先端を前記可撓体の表面に押圧し得る複数の可動性修正ピンを有することができる。この場合、前記修正条件は、前記可撓体に対する前記修正ピンの当接位置と、前記修正ピンの押込み量と、レーザ照射位置との条件を含むことができる。前記修正条件には、更に、レーザの照射時間を含むことができる。
【0020】
好ましくは、前記修正ピンは、前記可撓体の表面に対して所定の角度をもって配置される。このような構成によれば、小型化された薄膜磁気ヘッド及び可撓体に対しても、複数備えられる修正ピン相互の接触、重なりなどの相互干渉を回避することができる。
【0021】
前記静止姿勢角測定装置は、CCDカメラが用いられるほか、レーザオートコリメータを用いることもできる。測定値の定量化という観点からは、レーザオートコリメータが適している。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、可撓体に対し小さな曲げ変位を与えるだけで、大きな静止姿勢角の変化量を確保する操作を、自動的に実行できる磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置を提供することができる。
【0023】
本発明の他の目的、構成及び効果については、実施の形態である添付図を参照して詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明に係る静止姿勢角修正方法の実施に直接に用いられる静止姿勢角修正装置の構成を示す図、図2は本発明に係る静止姿勢角修正方法が適用される磁気ヘッド装置の平面図である。図示された静止姿勢角修正装置は、レーザ発振装置91と、修正装置92と、測定装置93と、コンピュータシステム94とを含み、磁気ヘッド装置95に含まれた薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を修正する。
【0025】
磁気ヘッド装置95は、ヘッド支持装置1と、磁気ヘッド2とを含む。ヘッド支持装置1は、ロードビーム11と、可撓体12とを含む。ロードビーム11は、中央を通る長手方向軸線Lの自由端近傍に突起部111を有する。図示されたロードビーム11は、幅方向の両側に折り曲げ部118(図1参照)を有しており、この折り曲げ部118により、剛性を増加させてある。
【0026】
可撓体12は薄いバネ板材で構成され、一方の面がロードビーム11の突起部111を有する側の面に取り付けられ、突起部111から押圧荷重を受けている。可撓体12の他方の面には、磁気ヘッド2が取り付けられている。可撓体12は、接続点13において、ロードビーム11の突起部111を有する側に、スポット溶着等の手段により貼り合わされている。スポット溶着の代わりに、カシメ等の手段を用いてもよい。可撓体12は、中央に舌状部120を有する。舌状部120は、一端が可撓体12の横枠部121に結合されている。可撓体12の横枠部121は両端が外枠部123、124に連なっている。外枠部123、124と舌状部120との間には、舌状部120の周りに、溝122が形成されている。舌状部120の一面には磁気ヘッド2が接着剤などで取り付けられ、突起部111の先端がバネ接触している。
【0027】
磁気ヘッド装置95は、その複数個が、例えば、ワークパレット971などの上に間隔を隔てて配置され、磁気ヘッド装置(ワーク)95及びワークパレット971は搬送冶具973の上に搭載され、押さえ冶具972により搬送冶具973の上に押し付けられている。
【0028】
図1に図示された静止姿勢角修正装置は、上述した磁気ヘッド装置における薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を修正するために用いられる。静止姿勢角には、ピッチ角及びロール角が含まれる。ピッチ角は、ロードビーム11の長手方向軸線L(図2参照)の方向にとられた基準線と交差する角度であり、ロール角は長手方向軸線Lの周りにとられた角度である。静止姿勢角はヘッド支持装置1に対する磁気ヘッド2の組立状態、ヘッド支持装置1の曲り等の影響を受けて、さまざまに変化する。本発明に係る静止姿勢角修正方法及び修正装置によれば、静止姿勢角を、要求される値に確実に設定することができる。
【0029】
レーザ発振装置91は、可撓体12とロードビーム11との接続点13、及び、磁気ヘッド2との間に現れる可撓体12の領域にレーザLAを照射する。レーザ発振装置91は、YAGレーザを含め、各種のものを用いることができる。図示されたレーザ発振装置91は、レーザ発振部911と、レーザヘッド912とを含む。レーザヘッド912は、可撓体12において、曲げられる部分に向けられている。
【0030】
修正装置92は、可撓体12に静止姿勢角修正のための曲げを加える。図3は修正装置92の例を示す図である。この実施例では、修正装置92は、4つの修正ピン922〜925と、駆動部932〜935を有する。修正ピン922〜925は、何れも、駆動部932〜935によって直線的に送られる可動ピンであり、先端部が可撓体12の外枠部123、124に接触できる位置に配置されている。修正ピン922、924は、可撓体12の一面側(磁気ヘッド2を取り付けた面側)に配置され、修正ピン923、925は可撓体12の他面側に配置されている。図示では、修正ピン922と修正ピン923とが対向し、修正ピン924と修正ピン925とが対向しているが、対向していなくてもよい。即ち、互いに異なる位置に配置してもよい。
【0031】
図示実施例では、修正ピン922〜925は、可動体12の面に対して斜めに配置されている。この配置であれば、平面積極小の薄膜磁気ヘッド2及び可撓体12に対しても、隣接する修正ピン922、924を支える駆動装置932、934が、対向する端部でぶつかり合うなどの干渉を回避することができる。隣接する修正ピン923、925を支える駆動装置933、935の相互間でも同様である。
【0032】
測定装置93は、薄膜磁気ヘッド2の静止傾斜角を検出する。測定装置93は磁気ヘッド2の例えば空気ベアリング面(以下ABS面と称する)に向けられている。測定装置93によって得られた検出信号は、コンピュータシステム94に供給される。図示された測定装置93は、信号処理部932と、検出部931とを含む。検出部931は、例えば、CCD、レーザオートコリメータ等の角度検出手段を含む。
【0033】
コンピュータシステム94は、CPU941と、薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶した記憶部(例えばROM)942とを有する。CPU941は、測定装置93から供給された測定値に対応する修正条件を記憶部942から読み出し、読み出された修正条件を修正装置92に供給する。修正装置92は、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、可撓体12に曲げを加える。コンピュータシステム94は、CPU及びメモリ装置を含むプログラム実行装置であり、パソコンやマイコン以外にも、例えばシーケンサユニットと称されるものなども含まれるものとする。
【0034】
次に、先に挙げた図、特に図1とともに、図4を参照し、本発明に係る静止姿勢角修正方法について説明する。図4は本発明に係る静止姿勢角修正方法のフローチャートである。
【0035】
まず、ワークパレット971のセット、運転開始、ワークパレット搬入、ワーク固定などの準備段階を経ることにより、図1に図示したように、磁気ヘッド装置95及びワークパレット971が搬送冶具973の上に搭載され、押さえ冶具972により押し付けられている。
【0036】
この状態で、測定装置93によって、薄膜磁気ヘッド2の静止傾斜角を検出する。静止傾斜角は、レーザオートコリメータ等で構成された検出部931から、薄膜磁気ヘッド2のABS面にレーザを照射し、その反射光を捉えて測定する。
【0037】
測定装置93の検出部931によって得られた検出信号は、信号処理部932を経てコンピュータシステム94に供給される。コンピュータシステム94のCPU941は、測定装置93から供給された測定値に対応する修正条件を記憶部942から読み出し、読み出された修正条件を修正装置92に供給する。修正装置92では、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、修正ピン922〜925に修正移動動作が与えられ、それによって可撓体12に曲げを加える。修正条件は、可撓体12に対する修正ピン922〜925の当接位置、修正ピン922〜925の押込み量と、レーザ照射位置の条件を含む。更に、修正条件は、レーザLAの照射時間を含むことができる。
【0038】
コンピュータシステム94による修正条件の設定、及び、修正ピンの移動制御は本発明の特徴部分をなすものである。次にこの点について、説明する。
【0039】
既に述べたように、静止姿勢角には、ピッチ角及びロール角が含まれており、静止姿勢角はヘッド支持装置1に対する磁気ヘッド2の組立状態、ヘッド支持装置1の曲り等の影響を受けて、さまざまに変化する。しかも、ピッチ角及びロール角は、水平位置を基準値0として、正、及び、負の値をとる。したがって、ピッチ角及びロール角は、正又は負の所定値に設定しなければならない。
【0040】
その手段として、本発明では、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けし、これを予め記憶部942に記憶しておく。図5はその概念を表わすグラフで、縦軸にピッチ角の測定値に対する修正条件を、正側ランク(m1〜m9)及び負側ランク(−m1〜−m9)のようにランク付けしておく。また、横軸では、ロール角の測定値に対する修正条件を、正側ランク(n1〜n9)及び負側ランク(−n1〜−n9)のようにランク付けしておく。これらは、予め記憶部942に記憶しておく。もっとも、ランク数は任意である。そして、測定装置93から静止傾斜角の信号が供給されたとき、CPU941により、供給された測定値に対応する修正条件を、記憶部942から読み出し、読み出された修正条件を修正装置92に供給する。
【0041】
例えば、図5に示す場合、ロール角の測定値に対する修正条件が、正側ランク(n2)であり、ピッチ角の測定値に対する修正条件が負側ランク(−m4)であり、これらが、記憶部942から読み出される。
【0042】
修正装置92は、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、薄膜磁気ヘッド2を支持する可撓体12に曲げを加える。このとき加えられる曲げは、ロール角に関しては、正側ランク(n2)を、図5のグラフ上で、原点OKに戻す方向であり、ピッチ角に関しては、負側ランク(−m4)を原点OKに戻す方向である。そのような修正条件が、コンピュータシステム94から修正装置92に供給され,修正装置92において,修正ピンの移動制御が実行される。
【0043】
次に、修正ピンを用いた静止姿勢角修正方法について、具体的に説明する。図6、図7は、図3に示した修正装置によるピッチ角修正方法を示す図である。まず、図6に示すように、修正ピン923、925を方向P1に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123、124を押すことにより、ピッチ角を修正することができる。この場合のピッチ角の修正方向P1を正方向とする。
【0044】
図7は、ピッチ角を負方向P2に修正する場合を示し、修正ピン922、924を方向P2に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123、124を押す。これにより、ピッチ角を負方向P2に修正することができる。
【0045】
図8、図9は図3に示した修正装置92によるロール角修正方法を示す図である。まず、図8に示すように、修正ピン923を方向P1に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123を押すと同時に、修正ピン924を方向P2に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部124を押す。これにより、ロール角を方向R1に修正することができる。この場合のロール角の修正方向R1を正方向とする。
【0046】
図9は、ロール角を負方向R2に修正する場合を示し、修正ピン922を方向P2に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123を押すと同時に、修正ピン925を方向P1に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部124を押す。これにより、ロール角を負方向R2に修正することができる。
【0047】
図6〜図9に示したピッチ角及びロール角の修正プロセス中に、レーザ発振装置91から可撓体12の表面にレーザLAが照射される。レーザLAは、図10に示すように、可撓体12の曲げを生じる領域6に照射される。レーザLAの照射は、一点ではなく、ある長さで、間隔をおいて複数のポイント(例えば10ポイント)に実行する。レーザLAは、可撓体12の裏面に照射してもよい。
【0048】
図6〜図9に図示し、説明した操作によって、可撓体12に機械的な曲げを加えた場合、可撓体12には曲げに応じた応力が発生する。本発明において、可撓体12の曲げを生じる領域6にレーザLAを照射するので、レーザLAを照射された領域6における応力が、レーザLAの照射に伴う熱により、開放される。このため、このレーザLAの照射を受けた領域6では、可撓体12の復元量が小さくなり、加えられた曲げ角度に近い角度で曲ることになる。このことは、可撓体12に与えられる曲げ変化量が小さくとも、可撓体12に対し、大きな曲げ角度を付与できることを意味する。レーザLAは、可撓体12の照射を受ける領域6がステンレススチールで構成されている場合、その表面温度が、例えば、N2を吹き付けた状態で、300〜400℃となるように照射するのが好ましい。
【0049】
レーザLAの照射を受ける可撓体12の領域6は、可撓体12とロードビーム11との接続点13、及び、磁気ヘッド2の間に現れる部分である。この部分で、可撓体12が曲げられる。従って、可撓体12の曲げ角度が、磁気ヘッド2のピッチ角にそのまま反映される。よって、可撓体12の小さな曲げ角度で、大きなピッチ角変化量を確保することができる。上述した静止姿勢角修正装置によれば、CPU941を中心とした静止姿勢角修正システムを構築し、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を、自動的に、確実に、修正することができる。
【0050】
上述のようにして、薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を修正した後、再度、測定装置93によって、薄膜磁気ヘッド2の静止傾斜角を検出し、検出された静止傾斜角が許容される角度範囲内(図5の原点OK)であるかどうかを、コンピュータシステム94のCPU941で判断する。判断の結果、検出された静止傾斜角が、許容される角度範囲内にないときは、コンピュータシステム94のCPU941は、修正装置92に修正条件を再度供給する。修正装置92は、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、修正ピン922〜925に修正移動動作を与え、それによって可撓体12に曲げが加えられる。そして、レーザ発振装置91により、可撓体12の曲げ部分にレーザLAが照射される。
【0051】
上述した静止姿勢角の検出、修正ピン移動、レーザ照射の各プロセスを、ロール角およびピッチ角の修正条件が、図5の原点OKに到るまで繰り返される。そして、検出された静止傾斜角が許容される角度範囲内(図5の原点OK)にあると判断されたときは、修正完了とし、次のワーク(磁気ヘッド装置95)の処理に移り、当該ワークに対して、上述したプロセスが実行される。用意された全ワークの処理が終了した後は、ワークパレットを排出し、運転が終了され、ワークパレットが取り出される。
【0052】
図11は本発明に係る静止姿勢角修正装置の具体的な構造を示す正面図、図12は図11に示した静止姿勢角修正装置の側面図である。これらの図は、機械的部分のみを抽出して示したものである。図において、先に示した図面に現れた構成部分に相当する部分については、同一の参照符号を付してある。
【0053】
レーザ発振装置91は、直交3軸X,Y,Zで見て、X軸(横方向)及びY軸(奥行き方向)の2軸方向に移動しえるXYテーブル913を備えており、このXYテーブル913の上に、レーザヘッド912が搭載されている。レーザヘッド912は、下から上に向かってレーザを照射する。レーザ発振部911(図11参照)は任意の場所に設置される。
【0054】
修正装置92は、4つの修正ピン922〜925と、駆動部932〜935を有する。修正ピン922〜925は、何れも、斜めに配置され、斜めの状態を保って、駆動部932〜935により、Y軸及びZ軸の方向に駆動される。
【0055】
測定装置93は、レーザオートコリメータで構成され、レーザ発振装置91とは反対側に配置され、X軸、Y軸、Z軸、X軸周りθX、及び、Y軸周りθYの各方向に可動であり、それによって位置調整ができるように配置されている。
【0056】
ワークである磁気ヘッド装置95は、ワークパレット971、押さえ冶具972及び搬送冶具973により支持され、薄膜磁気ヘッド2が、修正ピン922〜925により押される位置、レーザ発振装置91によるレーザ照射を受けうる位置、及び、測定装置93による静止姿勢角測定を受ける位置に搬入される。
【0057】
図11及び図12に示した静止姿勢角修正装置によれば、図1〜図10を参照して説明した静止姿勢角修正を、自動的に、効率よく実行することができる。
【0058】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。例えば、修正装置はピンタイプに限らず、可撓体を挟み込んで曲げるタイプのものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る静止姿勢角修正方法の実施に直接に用いられる静止姿勢角修正装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る静止姿勢角修正方法が適用される磁気ヘッド装置の底面図である。
【図3】修正装置の例を示す図である。
【図4】本発明に係る静止姿勢角修正方法のフローチャートである。
【図5】薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件のランク付けについて、その概念を表わすグラフである。
【図6】図3に示した静止姿勢角修正装置によるピッチ角修正方法を示す図である。
【図7】図3に示した静止姿勢角修正装置によるピッチ角修正方法の別の例を示す図である。
【図8】静止姿勢角修正装置によるロール角修正方法を示す図である。
【図9】図3に示した静止姿勢角修正装置によるロール角修正方法の別の例を示す図である。
【図10】可撓体に対するレーザ照射位置を示す図である。
【図11】本発明に係る静止姿勢角修正装置の具体的な構造を示す正面図である。
【図12】図11に示した静止姿勢角修正装置の側面図である。
【符号の説明】
【0060】
2 薄膜磁気ヘッド
12 可撓体
91 レーザ発振装置
92 修正装置
93 測定装置
94 コンピュータシステム
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
浮上型の磁気ヘッド装置では、高密度記録再生を達成するため、ヘッド支持装置によって支持された磁気ヘッドの静止姿勢角が高精度に保持されていることが基本的な要求事項となる。磁気ヘッド装置の静止姿勢角には、ピッチ角と、ロール角とが含まれる。
【0003】
ところが、磁気ヘッド装置は、ヘッド支持装置(サスペンション)の一端に磁気ヘッドを接着剤によって接着した構造になっているから、この接着構造のために、静止姿勢角が所定の角度からずれを生じることがある。
【0004】
磁気ヘッド装置は、複雑なプロセスを経て製造された高価な磁気ヘッドを、高精度で高価なヘッド支持装置に取り付けて構成されており、磁気ヘッド装置の段階で、静止姿勢角が所定の角度内にないとして、不良品扱いにすることは、許されない。
【0005】
静止姿勢角ずれを修正するための修正手段としては、押圧治具を用いた機械的押圧による修正手段が知られている。この押圧治具を用いた静止姿勢角修正方法では、ロードビームの自由端側に取り付けられた可撓体(フレキシャ)の軸線上の1点を支点にして、他点を押圧することによって、可撓体を曲げ、それによって磁気ヘッドの静止姿勢角を修正する。
【0006】
しかしながら、機械的押圧により、可撓体に大きな曲げ変位を与えても、可撓体の有する復元力のために、曲げが元に戻る。このことは、所定の静止姿勢角を与える曲げ変位よりも、著しく大きな曲げ変位で、可撓体を曲げなければならないことを意味する。
【0007】
可撓体に大きな曲げ変位を与えると、ロードビームから可撓体に荷重を加える突起部(ディンプル)と、可撓体との間に隙間を生じ、いわゆるディンプル浮きが発生することがある。ディンプル浮きが発生すると、ロードビームから可撓体に荷重を与えることができなくなり、所定の磁気ヘッド浮上特性を確保することができなくなる。
【0008】
上述した問題点を解決する手段として、特許文献1、2は、可撓体(フレキシャ)またはロードビームに静止姿勢角修正のための曲げを加え、曲げ領域にレーザを照射して、応力を開放することにより、加えられた曲げ角度に近い角度で曲げる技術を開示している。
【0009】
確かに、この先行技術によれば、ヘッド支持装置を、小さな曲げ角度で曲げるだけで、大きな静止姿勢角変化量を確保することができるという優れた効果を得ることができる。
【特許文献1】特開2001−357644号公報
【特許文献2】特開2001−357645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上述した先行技術に更に改良を加え、可撓体に対し小さな曲げ変位を与えるだけで、大きな静止姿勢角の変化量を確保する操作を、自動的に実行できる磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明に係る静止姿勢角修正方法は、ヘッドアーム組立体の可撓体に取り付けられた薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を修正するに当たり、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶しておく。そして、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定し、その測定値に対応する前記修正条件に基づいて、前記可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加え、前記可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する。
【0012】
可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加えた場合、可撓体には曲げに応じた応力が発生する。本発明では、可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する。これにより、レーザを照射された曲げを生じる領域における応力が、レーザの照射に伴う熱により、開放される。このため、このレーザ照射を受けた領域では、可撓体の復元量が小さくなり、加えられた曲げ角度に近い角度で曲ることになる。このことは、可撓体に与えられる曲げ変化量が小さくとも、可撓体に対し、大きな曲げ角度を付与できることを意味する。よって、可撓体を、小さな曲げ角度で曲げるだけで、大きな静止姿勢角変化量を確保することができる。
【0013】
上述した基本ステップは、先に上げた特許文献1、2に既に開示されている。本発明の特徴は、この基本ステップを、自動的に実行するためのステップを含むことにある。即ち、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶しておく。そして、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定し、その測定値に対応する前記修正条件に基づいて、前記可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加え、前記可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する。
【0014】
この追加されたステップによれば、CPU(コンピュータ)を中心とした磁気ヘッド静止姿勢角修正システムを構築し、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を、自動的に、再現性よく、修正することができる。
【0015】
上述した磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法は、具体的には、本発明が開示する磁気ヘッド静止姿勢角修正装置によって実施される。この磁気ヘッド静止姿勢角修正装置は、修正装置と、レーザ発振装置と、測定装置と、コンピュータシステムとを含む。
【0016】
前記修正装置は、前記可撓体に曲げを加えるものであり、前記レーザ発振装置は、曲げ領域にレーザを照射するものである。前記測定装置は、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定する。
【0017】
前記コンピュータシステムは、コンピュータ(CPU)と、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶した記憶部とを有し、前記CPUは、前記測定装置から供給された測定値に対応する前記修正条件を前記記憶部から読み出し、読み出された修正条件を前記修正装置に供給する。前記修正装置は、前記コンピュータシステムから供給された修正条件に基づき、前記可撓体に曲げを加える。
【0018】
上述した磁気ヘッド静止姿勢角修正装置によれば、CPUを中心とした磁気ヘッド静止姿勢角修正システムを構築し、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を、自動的に、再現性よく、修正することができることは明らかである。
【0019】
具体的には、前記修正装置は、先端を前記可撓体の表面に押圧し得る複数の可動性修正ピンを有することができる。この場合、前記修正条件は、前記可撓体に対する前記修正ピンの当接位置と、前記修正ピンの押込み量と、レーザ照射位置との条件を含むことができる。前記修正条件には、更に、レーザの照射時間を含むことができる。
【0020】
好ましくは、前記修正ピンは、前記可撓体の表面に対して所定の角度をもって配置される。このような構成によれば、小型化された薄膜磁気ヘッド及び可撓体に対しても、複数備えられる修正ピン相互の接触、重なりなどの相互干渉を回避することができる。
【0021】
前記静止姿勢角測定装置は、CCDカメラが用いられるほか、レーザオートコリメータを用いることもできる。測定値の定量化という観点からは、レーザオートコリメータが適している。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、可撓体に対し小さな曲げ変位を与えるだけで、大きな静止姿勢角の変化量を確保する操作を、自動的に実行できる磁気ヘッドの静止姿勢角修正方法及び装置を提供することができる。
【0023】
本発明の他の目的、構成及び効果については、実施の形態である添付図を参照して詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明に係る静止姿勢角修正方法の実施に直接に用いられる静止姿勢角修正装置の構成を示す図、図2は本発明に係る静止姿勢角修正方法が適用される磁気ヘッド装置の平面図である。図示された静止姿勢角修正装置は、レーザ発振装置91と、修正装置92と、測定装置93と、コンピュータシステム94とを含み、磁気ヘッド装置95に含まれた薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を修正する。
【0025】
磁気ヘッド装置95は、ヘッド支持装置1と、磁気ヘッド2とを含む。ヘッド支持装置1は、ロードビーム11と、可撓体12とを含む。ロードビーム11は、中央を通る長手方向軸線Lの自由端近傍に突起部111を有する。図示されたロードビーム11は、幅方向の両側に折り曲げ部118(図1参照)を有しており、この折り曲げ部118により、剛性を増加させてある。
【0026】
可撓体12は薄いバネ板材で構成され、一方の面がロードビーム11の突起部111を有する側の面に取り付けられ、突起部111から押圧荷重を受けている。可撓体12の他方の面には、磁気ヘッド2が取り付けられている。可撓体12は、接続点13において、ロードビーム11の突起部111を有する側に、スポット溶着等の手段により貼り合わされている。スポット溶着の代わりに、カシメ等の手段を用いてもよい。可撓体12は、中央に舌状部120を有する。舌状部120は、一端が可撓体12の横枠部121に結合されている。可撓体12の横枠部121は両端が外枠部123、124に連なっている。外枠部123、124と舌状部120との間には、舌状部120の周りに、溝122が形成されている。舌状部120の一面には磁気ヘッド2が接着剤などで取り付けられ、突起部111の先端がバネ接触している。
【0027】
磁気ヘッド装置95は、その複数個が、例えば、ワークパレット971などの上に間隔を隔てて配置され、磁気ヘッド装置(ワーク)95及びワークパレット971は搬送冶具973の上に搭載され、押さえ冶具972により搬送冶具973の上に押し付けられている。
【0028】
図1に図示された静止姿勢角修正装置は、上述した磁気ヘッド装置における薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を修正するために用いられる。静止姿勢角には、ピッチ角及びロール角が含まれる。ピッチ角は、ロードビーム11の長手方向軸線L(図2参照)の方向にとられた基準線と交差する角度であり、ロール角は長手方向軸線Lの周りにとられた角度である。静止姿勢角はヘッド支持装置1に対する磁気ヘッド2の組立状態、ヘッド支持装置1の曲り等の影響を受けて、さまざまに変化する。本発明に係る静止姿勢角修正方法及び修正装置によれば、静止姿勢角を、要求される値に確実に設定することができる。
【0029】
レーザ発振装置91は、可撓体12とロードビーム11との接続点13、及び、磁気ヘッド2との間に現れる可撓体12の領域にレーザLAを照射する。レーザ発振装置91は、YAGレーザを含め、各種のものを用いることができる。図示されたレーザ発振装置91は、レーザ発振部911と、レーザヘッド912とを含む。レーザヘッド912は、可撓体12において、曲げられる部分に向けられている。
【0030】
修正装置92は、可撓体12に静止姿勢角修正のための曲げを加える。図3は修正装置92の例を示す図である。この実施例では、修正装置92は、4つの修正ピン922〜925と、駆動部932〜935を有する。修正ピン922〜925は、何れも、駆動部932〜935によって直線的に送られる可動ピンであり、先端部が可撓体12の外枠部123、124に接触できる位置に配置されている。修正ピン922、924は、可撓体12の一面側(磁気ヘッド2を取り付けた面側)に配置され、修正ピン923、925は可撓体12の他面側に配置されている。図示では、修正ピン922と修正ピン923とが対向し、修正ピン924と修正ピン925とが対向しているが、対向していなくてもよい。即ち、互いに異なる位置に配置してもよい。
【0031】
図示実施例では、修正ピン922〜925は、可動体12の面に対して斜めに配置されている。この配置であれば、平面積極小の薄膜磁気ヘッド2及び可撓体12に対しても、隣接する修正ピン922、924を支える駆動装置932、934が、対向する端部でぶつかり合うなどの干渉を回避することができる。隣接する修正ピン923、925を支える駆動装置933、935の相互間でも同様である。
【0032】
測定装置93は、薄膜磁気ヘッド2の静止傾斜角を検出する。測定装置93は磁気ヘッド2の例えば空気ベアリング面(以下ABS面と称する)に向けられている。測定装置93によって得られた検出信号は、コンピュータシステム94に供給される。図示された測定装置93は、信号処理部932と、検出部931とを含む。検出部931は、例えば、CCD、レーザオートコリメータ等の角度検出手段を含む。
【0033】
コンピュータシステム94は、CPU941と、薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶した記憶部(例えばROM)942とを有する。CPU941は、測定装置93から供給された測定値に対応する修正条件を記憶部942から読み出し、読み出された修正条件を修正装置92に供給する。修正装置92は、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、可撓体12に曲げを加える。コンピュータシステム94は、CPU及びメモリ装置を含むプログラム実行装置であり、パソコンやマイコン以外にも、例えばシーケンサユニットと称されるものなども含まれるものとする。
【0034】
次に、先に挙げた図、特に図1とともに、図4を参照し、本発明に係る静止姿勢角修正方法について説明する。図4は本発明に係る静止姿勢角修正方法のフローチャートである。
【0035】
まず、ワークパレット971のセット、運転開始、ワークパレット搬入、ワーク固定などの準備段階を経ることにより、図1に図示したように、磁気ヘッド装置95及びワークパレット971が搬送冶具973の上に搭載され、押さえ冶具972により押し付けられている。
【0036】
この状態で、測定装置93によって、薄膜磁気ヘッド2の静止傾斜角を検出する。静止傾斜角は、レーザオートコリメータ等で構成された検出部931から、薄膜磁気ヘッド2のABS面にレーザを照射し、その反射光を捉えて測定する。
【0037】
測定装置93の検出部931によって得られた検出信号は、信号処理部932を経てコンピュータシステム94に供給される。コンピュータシステム94のCPU941は、測定装置93から供給された測定値に対応する修正条件を記憶部942から読み出し、読み出された修正条件を修正装置92に供給する。修正装置92では、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、修正ピン922〜925に修正移動動作が与えられ、それによって可撓体12に曲げを加える。修正条件は、可撓体12に対する修正ピン922〜925の当接位置、修正ピン922〜925の押込み量と、レーザ照射位置の条件を含む。更に、修正条件は、レーザLAの照射時間を含むことができる。
【0038】
コンピュータシステム94による修正条件の設定、及び、修正ピンの移動制御は本発明の特徴部分をなすものである。次にこの点について、説明する。
【0039】
既に述べたように、静止姿勢角には、ピッチ角及びロール角が含まれており、静止姿勢角はヘッド支持装置1に対する磁気ヘッド2の組立状態、ヘッド支持装置1の曲り等の影響を受けて、さまざまに変化する。しかも、ピッチ角及びロール角は、水平位置を基準値0として、正、及び、負の値をとる。したがって、ピッチ角及びロール角は、正又は負の所定値に設定しなければならない。
【0040】
その手段として、本発明では、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けし、これを予め記憶部942に記憶しておく。図5はその概念を表わすグラフで、縦軸にピッチ角の測定値に対する修正条件を、正側ランク(m1〜m9)及び負側ランク(−m1〜−m9)のようにランク付けしておく。また、横軸では、ロール角の測定値に対する修正条件を、正側ランク(n1〜n9)及び負側ランク(−n1〜−n9)のようにランク付けしておく。これらは、予め記憶部942に記憶しておく。もっとも、ランク数は任意である。そして、測定装置93から静止傾斜角の信号が供給されたとき、CPU941により、供給された測定値に対応する修正条件を、記憶部942から読み出し、読み出された修正条件を修正装置92に供給する。
【0041】
例えば、図5に示す場合、ロール角の測定値に対する修正条件が、正側ランク(n2)であり、ピッチ角の測定値に対する修正条件が負側ランク(−m4)であり、これらが、記憶部942から読み出される。
【0042】
修正装置92は、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、薄膜磁気ヘッド2を支持する可撓体12に曲げを加える。このとき加えられる曲げは、ロール角に関しては、正側ランク(n2)を、図5のグラフ上で、原点OKに戻す方向であり、ピッチ角に関しては、負側ランク(−m4)を原点OKに戻す方向である。そのような修正条件が、コンピュータシステム94から修正装置92に供給され,修正装置92において,修正ピンの移動制御が実行される。
【0043】
次に、修正ピンを用いた静止姿勢角修正方法について、具体的に説明する。図6、図7は、図3に示した修正装置によるピッチ角修正方法を示す図である。まず、図6に示すように、修正ピン923、925を方向P1に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123、124を押すことにより、ピッチ角を修正することができる。この場合のピッチ角の修正方向P1を正方向とする。
【0044】
図7は、ピッチ角を負方向P2に修正する場合を示し、修正ピン922、924を方向P2に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123、124を押す。これにより、ピッチ角を負方向P2に修正することができる。
【0045】
図8、図9は図3に示した修正装置92によるロール角修正方法を示す図である。まず、図8に示すように、修正ピン923を方向P1に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123を押すと同時に、修正ピン924を方向P2に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部124を押す。これにより、ロール角を方向R1に修正することができる。この場合のロール角の修正方向R1を正方向とする。
【0046】
図9は、ロール角を負方向R2に修正する場合を示し、修正ピン922を方向P2に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部123を押すと同時に、修正ピン925を方向P1に直線的に移動させ、その先端で、可撓体12の外枠部124を押す。これにより、ロール角を負方向R2に修正することができる。
【0047】
図6〜図9に示したピッチ角及びロール角の修正プロセス中に、レーザ発振装置91から可撓体12の表面にレーザLAが照射される。レーザLAは、図10に示すように、可撓体12の曲げを生じる領域6に照射される。レーザLAの照射は、一点ではなく、ある長さで、間隔をおいて複数のポイント(例えば10ポイント)に実行する。レーザLAは、可撓体12の裏面に照射してもよい。
【0048】
図6〜図9に図示し、説明した操作によって、可撓体12に機械的な曲げを加えた場合、可撓体12には曲げに応じた応力が発生する。本発明において、可撓体12の曲げを生じる領域6にレーザLAを照射するので、レーザLAを照射された領域6における応力が、レーザLAの照射に伴う熱により、開放される。このため、このレーザLAの照射を受けた領域6では、可撓体12の復元量が小さくなり、加えられた曲げ角度に近い角度で曲ることになる。このことは、可撓体12に与えられる曲げ変化量が小さくとも、可撓体12に対し、大きな曲げ角度を付与できることを意味する。レーザLAは、可撓体12の照射を受ける領域6がステンレススチールで構成されている場合、その表面温度が、例えば、N2を吹き付けた状態で、300〜400℃となるように照射するのが好ましい。
【0049】
レーザLAの照射を受ける可撓体12の領域6は、可撓体12とロードビーム11との接続点13、及び、磁気ヘッド2の間に現れる部分である。この部分で、可撓体12が曲げられる。従って、可撓体12の曲げ角度が、磁気ヘッド2のピッチ角にそのまま反映される。よって、可撓体12の小さな曲げ角度で、大きなピッチ角変化量を確保することができる。上述した静止姿勢角修正装置によれば、CPU941を中心とした静止姿勢角修正システムを構築し、薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を、自動的に、確実に、修正することができる。
【0050】
上述のようにして、薄膜磁気ヘッド2の静止姿勢角を修正した後、再度、測定装置93によって、薄膜磁気ヘッド2の静止傾斜角を検出し、検出された静止傾斜角が許容される角度範囲内(図5の原点OK)であるかどうかを、コンピュータシステム94のCPU941で判断する。判断の結果、検出された静止傾斜角が、許容される角度範囲内にないときは、コンピュータシステム94のCPU941は、修正装置92に修正条件を再度供給する。修正装置92は、コンピュータシステム94から供給された修正条件に基づき、修正ピン922〜925に修正移動動作を与え、それによって可撓体12に曲げが加えられる。そして、レーザ発振装置91により、可撓体12の曲げ部分にレーザLAが照射される。
【0051】
上述した静止姿勢角の検出、修正ピン移動、レーザ照射の各プロセスを、ロール角およびピッチ角の修正条件が、図5の原点OKに到るまで繰り返される。そして、検出された静止傾斜角が許容される角度範囲内(図5の原点OK)にあると判断されたときは、修正完了とし、次のワーク(磁気ヘッド装置95)の処理に移り、当該ワークに対して、上述したプロセスが実行される。用意された全ワークの処理が終了した後は、ワークパレットを排出し、運転が終了され、ワークパレットが取り出される。
【0052】
図11は本発明に係る静止姿勢角修正装置の具体的な構造を示す正面図、図12は図11に示した静止姿勢角修正装置の側面図である。これらの図は、機械的部分のみを抽出して示したものである。図において、先に示した図面に現れた構成部分に相当する部分については、同一の参照符号を付してある。
【0053】
レーザ発振装置91は、直交3軸X,Y,Zで見て、X軸(横方向)及びY軸(奥行き方向)の2軸方向に移動しえるXYテーブル913を備えており、このXYテーブル913の上に、レーザヘッド912が搭載されている。レーザヘッド912は、下から上に向かってレーザを照射する。レーザ発振部911(図11参照)は任意の場所に設置される。
【0054】
修正装置92は、4つの修正ピン922〜925と、駆動部932〜935を有する。修正ピン922〜925は、何れも、斜めに配置され、斜めの状態を保って、駆動部932〜935により、Y軸及びZ軸の方向に駆動される。
【0055】
測定装置93は、レーザオートコリメータで構成され、レーザ発振装置91とは反対側に配置され、X軸、Y軸、Z軸、X軸周りθX、及び、Y軸周りθYの各方向に可動であり、それによって位置調整ができるように配置されている。
【0056】
ワークである磁気ヘッド装置95は、ワークパレット971、押さえ冶具972及び搬送冶具973により支持され、薄膜磁気ヘッド2が、修正ピン922〜925により押される位置、レーザ発振装置91によるレーザ照射を受けうる位置、及び、測定装置93による静止姿勢角測定を受ける位置に搬入される。
【0057】
図11及び図12に示した静止姿勢角修正装置によれば、図1〜図10を参照して説明した静止姿勢角修正を、自動的に、効率よく実行することができる。
【0058】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。例えば、修正装置はピンタイプに限らず、可撓体を挟み込んで曲げるタイプのものでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る静止姿勢角修正方法の実施に直接に用いられる静止姿勢角修正装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に係る静止姿勢角修正方法が適用される磁気ヘッド装置の底面図である。
【図3】修正装置の例を示す図である。
【図4】本発明に係る静止姿勢角修正方法のフローチャートである。
【図5】薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件のランク付けについて、その概念を表わすグラフである。
【図6】図3に示した静止姿勢角修正装置によるピッチ角修正方法を示す図である。
【図7】図3に示した静止姿勢角修正装置によるピッチ角修正方法の別の例を示す図である。
【図8】静止姿勢角修正装置によるロール角修正方法を示す図である。
【図9】図3に示した静止姿勢角修正装置によるロール角修正方法の別の例を示す図である。
【図10】可撓体に対するレーザ照射位置を示す図である。
【図11】本発明に係る静止姿勢角修正装置の具体的な構造を示す正面図である。
【図12】図11に示した静止姿勢角修正装置の側面図である。
【符号の説明】
【0060】
2 薄膜磁気ヘッド
12 可撓体
91 レーザ発振装置
92 修正装置
93 測定装置
94 コンピュータシステム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドアーム組立体の可撓体に取り付けられた薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を修正する方法であって、
前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶しておき、
前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定し、
その測定値に対応する前記修正条件に基づいて、前記可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加え、
前記可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する、
ステップを含む静止姿勢角修正方法。
【請求項2】
請求項1に記載された静止姿勢角修正方法であって、前記修正条件は、前記可撓体に対する修正ピンの当接位置と、前記修正ピンの押込み量と、レーザ照射位置の条件を含む静止姿勢角修正方法。
【請求項3】
請求項2に記載された静止姿勢角修正方法であって、前記修正条件は、レーザの照射時間を含む静止姿勢角修正方法。
【請求項4】
修正装置と、レーザ発振装置と、測定装置と、コンピュータシステムとを含み、ヘッドアーム組立体の可撓体に取り付けられた薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を修正する装置であって、
前記修正装置は、前記可撓体に曲げを加えるものであり、
前記レーザ発振装置は、曲げ領域にレーザを照射するものであり、
前記測定装置は、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定するものであり、
前記コンピュータシステムは、CPUと、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶した記憶部とを有し、前記CPUは、前記測定装置から供給された測定値に対応する前記修正条件を前記記憶部から読み出し、読み出された修正条件を前記修正装置に供給し、
前記修正装置は、前記コンピュータシステムから供給された修正条件に基づき、前記可撓体に曲げを加える、
静止姿勢角修正装置。
【請求項5】
請求項4に記載された静止姿勢角修正装置であって、
前記修正装置は、先端を前記可撓体の表面に押圧し得る複数の可動性修正ピンを有し、
前記修正条件は、前記可撓体に対する前記修正ピンの当接位置と、前記修正ピンの押込み量と、レーザ照射位置との条件を含む、
静止姿勢角修正装置。
【請求項6】
請求項5に記載された薄膜磁気ヘッド静止姿勢角修正装置であって、前記修正ピンは、前記可撓体の表面に対して所定の角度をもって配置されている、
静止姿勢角修正装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載された静止姿勢角修正装置であって、前記修正条件は、レーザの照射時間を含む静止姿勢角修正装置。
【請求項8】
請求項4乃至7の何れかに記載された静止姿勢角修正装置であって、前記静止姿勢角測定装置はレーザオートコリメータである静止姿勢角修正装置。
【請求項1】
ヘッドアーム組立体の可撓体に取り付けられた薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を修正する方法であって、
前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶しておき、
前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定し、
その測定値に対応する前記修正条件に基づいて、前記可撓体に静止姿勢角修正のための曲げを加え、
前記可撓体の曲げを生じる領域にレーザを照射する、
ステップを含む静止姿勢角修正方法。
【請求項2】
請求項1に記載された静止姿勢角修正方法であって、前記修正条件は、前記可撓体に対する修正ピンの当接位置と、前記修正ピンの押込み量と、レーザ照射位置の条件を含む静止姿勢角修正方法。
【請求項3】
請求項2に記載された静止姿勢角修正方法であって、前記修正条件は、レーザの照射時間を含む静止姿勢角修正方法。
【請求項4】
修正装置と、レーザ発振装置と、測定装置と、コンピュータシステムとを含み、ヘッドアーム組立体の可撓体に取り付けられた薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を修正する装置であって、
前記修正装置は、前記可撓体に曲げを加えるものであり、
前記レーザ発振装置は、曲げ領域にレーザを照射するものであり、
前記測定装置は、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角を測定するものであり、
前記コンピュータシステムは、CPUと、前記薄膜磁気ヘッドの静止姿勢角の値に対する修正条件をランク付けして予め記憶した記憶部とを有し、前記CPUは、前記測定装置から供給された測定値に対応する前記修正条件を前記記憶部から読み出し、読み出された修正条件を前記修正装置に供給し、
前記修正装置は、前記コンピュータシステムから供給された修正条件に基づき、前記可撓体に曲げを加える、
静止姿勢角修正装置。
【請求項5】
請求項4に記載された静止姿勢角修正装置であって、
前記修正装置は、先端を前記可撓体の表面に押圧し得る複数の可動性修正ピンを有し、
前記修正条件は、前記可撓体に対する前記修正ピンの当接位置と、前記修正ピンの押込み量と、レーザ照射位置との条件を含む、
静止姿勢角修正装置。
【請求項6】
請求項5に記載された薄膜磁気ヘッド静止姿勢角修正装置であって、前記修正ピンは、前記可撓体の表面に対して所定の角度をもって配置されている、
静止姿勢角修正装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載された静止姿勢角修正装置であって、前記修正条件は、レーザの照射時間を含む静止姿勢角修正装置。
【請求項8】
請求項4乃至7の何れかに記載された静止姿勢角修正装置であって、前記静止姿勢角測定装置はレーザオートコリメータである静止姿勢角修正装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−80417(P2007−80417A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−268444(P2005−268444)
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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