説明

薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法

【課題】薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法において、特に重ね継手部やT継手部を高速度で溶接する場合、ワイヤ狙い位置が変動しても溶接時に溶け落ちを発生することなく安定的な溶け込み量を確保しビード幅の広い良好な溶接ビードが得られる方法を提供する。
【解決手段】C:0.2〜0.7%、Si:0.05〜0.2%、Mn:0.2〜0.5%を含有するソリッドワイヤを用いて、パルスピーク電流Ip:380〜600A、パルスベース電流Ib:30〜80Aで、かつ前記パルスピーク電流Ip[A]とパルスピーク時間Tp[ms]が下記(1)式を満足するパルスを印加しつつ溶接する。120≦Ip×Tp≦380(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法に関し、更に詳しくは、板厚が1.2〜4.5mmの薄鋼板の重ね継手部やT継手部を溶接するに際して溶接速度が0.8m/min以上の条件でパルス溶接を印加した消耗電極式ガスシールドアーク溶接(以下、パルスMAG溶接という)でワイヤ狙い位置が変動してアーク長が変化してもアークの安定性に優れ、溶接金属の溶け落ちが生じ難く、かつ溶接部の開先間隙(以下、ギャップという)が大きい場合においても良好な溶接金属部が得られる薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
ソリッドワイヤを用いたガスシールドアーク溶接方法は溶接の自動化が容易であり、高能率で、機械的性能の良好な溶接金属特性と良好なビード形状が得られることから薄鋼板の溶接にも広く適用されている。また、溶接構造物の継手部には品質特性面からスパッタの発生量を軽減して部材への付着を少なくする目的と高速溶接性確保の面からシールドガスとしてArガスを主成分とし、これにCOを混合、さらにはOガスを混合させたガスを用いたパルスMAG溶接方法が近年増加している。パルスMAG溶接方法は平均電流を低くして溶接できることから薄鋼板の溶接では耐溶け落ち性も向上できるとともに、高速度の溶接条件で施工されるので生産性が高く、品質の良好な溶接継手部が得られている。
【0003】
パルスMAG溶接とは、溶接電流として平均電流値より高電流となるピーク電流と平均電流値より低電流としたベース電流を周期的に流す溶接方法である。これによりピーク電流期間では一定に送給されている溶接ワイヤを溶融し電磁ピンチ力などの作用で溶滴状態とし、ベース電流期間中にこの溶滴を溶融池に安定的に移行させるので、溶接中のアーク電圧が低くなった場合においても溶滴が溶融池と短絡することなく溶融池へ移行させることができる。
【0004】
このように、パルス溶接電源を適用することにより、パルスMAG溶接においてピーク電流、ピーク時間、アーク電圧の積からなる溶融エネルギーに対応した溶滴生成量にする。すなわち、1回のパルスピーク電流時に1個の溶滴を生成し、ベース電流期間に溶滴を溶融池に移行させる1パルス−1ドロップ移行となるパルス条件とするにより、溶滴はスムーズに溶融池に移行しスパッタ発生量が低減される。このため溶接電源は、溶接ワイヤの送給速度に対応してパルスの周波数が数十Hzないし300Hz程度まで変化するようになっている。
【0005】
一方、ピーク電流、ピーク時間、アーク電圧の積からなるワイヤを溶融するエネルギーがワイヤ送給量と不均衡になると、溶滴の形成がベース電流期間となったり、溶滴形成がピーク電流期間の初期時に終了した溶滴はスムーズに移行できなくスパッタとして飛散する。また溶滴移行時期がベース電流期間およびピーク電流期間に不連続に発生することになり、スパッタとして飛散するばかりでなく不均一なビード形状となる。
【0006】
また、特にガスシールドアーク溶接での高速度溶接においてはアンダーカットが発生し易く、これを抑制する方法としてはアーク電圧を低くした溶接条件を採用することが一般的であるが、アークの広がりが小さくなるのでビード幅も狭くなり、ビード幅の広い良好な継手の形成が困難となる。また、薄鋼板の構造物の形状は複雑化し、溶接部においても継手部の形状は複雑で溶接狙い精度が要求され、ワイヤ狙い精度の不安定状態により鋼板の溶け落ちや溶け込み不良さらにはアーク状態の安定性劣化によるスパッタの多発、ビード形状の不良などの要因となっている。
【0007】
図1(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に薄鋼板の重ね継手部の横向姿勢においてギャップがある場合のビード形成状態の例を示す。図中1は前板、2は後板、3は溶接金属、Gはギャップである。図1(a)は、溶け落ちやビードの垂れおよびアンダーカットがなくビード幅Wが大きく良好な溶接金属3が得られた例を示す。図1(b)は、アンダーカット4が生じた例、図1(c)は、溶融金属が前板1側に垂れた例、図1(d)は、鋼板が溶け落ちた例、図1(e)は、溶融金属が前板1と後板2の間のギャップG内に垂れ落ちた例を示す。
【0008】
図1(b)は、アーク電圧が高い場合に生じる。図1(c)は、図2に示すワイヤ狙い位置6が前板1の前面側61になった場合に生じやすい。図1(d)は、図2に示すワイヤ狙い位置6が後板側62になった場合に生じやすい。図1(d)は、ギャップGが大きい場合に生じやすくなる。このように、ワイヤ狙い位置が変動した場合は、溶融金属の垂れ、後板側の鋼板に溶け落ちが生ずるばかりでなく、重ね継手部のギャップが大きい場合、溶融金属が架橋できなくなり、良好な溶接ビード形成が困難という問題があった。
【0009】
従来、薄鋼板の溶接方法として、例えば特開昭56−80377号公報(特許文献1)には、第1段階の溶接として、溶接ワイヤが母材と短絡して赤熱、溶断、短時間のスタッビング状態のアーク発生を繰り返す溶接条件によって一定時間溶接を行ってギャップを埋めた後、第2段階の溶接として安定な定常アークによる溶接を行なうことにより、1mm以下の板厚の溶接において、溶接部にギャップがある場合でも安定してギャップを埋めながら溶接することのできる薄板溶接法が提案されている。しかし、この溶接方法ではスタッビング状態で溶接を行なう際にスパッタが多量に発生することや、高速溶接に向かないなど能率面で実用的ではなかった。
【0010】
特開2001−321985号公報(特許文献2)には、溶接部材のギャップが大きくても架橋性に優れ、耐割れ性に優れたガスシールドアーク溶接用ワイヤおよびパルスMAG溶接方法が提案されている。しかし、この溶接方法では横向重ね継手の溶接に適用した場合、溶融金属が垂れて適用は困難である。
【0011】
また、特開平8−243749号公報(特許文献3)には、板厚1.2〜1.6mmの薄鋼板に対し、所定の化学成分のワイヤを使用し、Arに3〜7体積%のOを混合したシールドガスによるパルスMAG溶接で、溶け落ちを防止し高能率な溶接を可能とする溶接方法が開示されている。しかし、この方法はシールドガス成分を限定することにより、比較的板厚の薄い鋼板においても高能率なガスシールドアーク溶接を可能とするものであるが、薄鋼板の重ね継手部の特にギャップが大きい場合においては、溶接金属が垂れて適用が困難である。
【0012】
さらに、特開平9−206984号公報(特許文献4)には、ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを用いる薄鋼板でのパルスMAG溶接において、耐ギャップ性を確保する溶接方法が開示されている。しかし、薄鋼板の重ね継手部の高速度溶接への適用は困難であり、溶融金属の耐垂れ性と広幅ビードを確保できない。
【0013】
上記のように、薄鋼板の溶接における溶け落ち防止の手段、各種ワイヤ組成、シールドガス組成など種々の検討がなされてきたが、重ね継手部の溶接における高速溶接でのワイヤ狙い特性、溶融金属の耐垂れ性、広幅ビード確保および耐ギャップ性を改善するには至っていない。
【特許文献1】特開昭56−80377号公報
【特許文献2】特開2001−321985号公報
【特許文献3】特開平8−243749号公報
【特許文献4】特開平9−206984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法において、特に重ね継手部やT継手部を高速度で溶接する場合に適正なパルス条件を付加して、ワイヤ狙い位置が変動しても溶け落ちがなく適正な溶け込み特性が得られ、さらに部材のギャップが大きい場合においても、ビード幅の広い良好な溶接ビードが得られる溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の要旨は、厚さ1.2〜4.5mmの薄鋼板を0.8m/min以上の溶接速度でガスシールドアーク溶接する方法において、質量%で、C:0.2〜0.7%、Si:0.05〜0.2%、Mn:0.2〜0.5%、さらに必要に応じてAl:0.10%以下、Ti:0.10%以下の少なくとも一方を含有し、P:0.03%以下、S:0.03%以下で、残部はFeおよび不可避不純物よりなるソリッドワイヤを用いて、パルスピーク電流Ip:380〜600A、パルスベース電流Ib:30〜80Aで、かつ前記パルスピーク電流Ip[A]とパルスピーク時間Tp[ms]が下記(1)式を満足するパルスを印加しつつ溶接することを特徴とする薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法にある。
120≦Ip×Tp≦380 ・・・・(1)
【発明の効果】
【0016】
本発明の薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法によれば、特に重ね継手部やT継手部を高速度で溶接する場合において、ワイヤ狙い位置が変動しても鋼板の溶け落ちがなく、ギャップが大きい場合でも溶融金属の垂れの発生がなく、かつ良好な広幅な溶接ビードが高能率に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために、薄鋼板を重ね継手とし、各種成分のソリッドワイヤを用いて各種パルス条件で0.8m/min以上の溶接速度で溶接を行い、ワイヤ狙い位置変動時の溶け落ちの有無、溶け込み特性さらには溶融金属の耐垂れ性と耐ギャップ性につき詳細に調査した結果、次の知見を得た。
(1)ワイヤ組成は、SiおよびMn量の低減、C量の増加によって溶鋼の細粒化、アークの安定性向上、ワイヤ溶融量の増加、溶融金属の粘性および表面張力の適正化を図り、広幅ビードでスパッタ発生量の少ない溶接ができ、溶け込み特性が良好でビード外観の良好な溶接金属部が得られる。
(2)上記ワイヤ組成のワイヤを用いてパルス条件が1パルス−1ドロップの溶滴移行となる領域にすることで、高速度の溶接でアーク電圧を低くしても溶滴が溶融池と短絡することなく移行でき、スパッタ発生量が少なく高速溶接においてもアンダーカットのない広幅ビードが得られる。
【0018】
以下、本発明におけるワイヤ組成とその含有量およびパルス条件の限定理由について説明する。
[C:0.2〜0.7質量%]
Cは溶接金属の強度を確保し溶滴を細粒化する作用があるが、本発明においては溶鋼の細粒化と広幅ビードを得ることを目的に脱酸元素であるSiおよびMn量を低くしており、溶融金属の脱酸は主にCによって行なう。Cが0.2質量%(以下、%という)未満では脱酸不足となり溶鋼の細粒化は困難となってアークが不安定でビード幅も不均一となる。また、スパッタ発生量が多く溶融金属の垂れも生じる。一方、0.7%を超えると溶融金属の粘性が劣り耐垂れ性を確保できない。また、スパッタ発生量が増加するばかりでなく、溶接金属を著しく硬化させ耐割れ性が劣化する。
【0019】
[Si:0.05〜0.2%]
Siは溶融金属の粘度および表面張力を適正化させる効果が大きい元素である。また、溶滴を細粒化すると共に広幅ビードが得られ、アーク電圧を低くした場合においても溶滴が短絡し難く電圧条件の拡大に寄与できる。これによって、溶接継手部のワイヤ狙い位置変動時においても鋼板の溶け落ちを防止し、溶け込み特性を安定的に確保できる。しかし、Siが0.05%未満では上記効果が得られない。一方、0.2%を超えると溶滴が大きくなることから短絡し易くワイヤ狙い位置変動時にスパッタ発生の要因になる。また、溶融池の溶融金属が溶接速度に追従できずハンピングビードとなり易い。さらに、溶融スラグが増加するという問題もある。
【0020】
[Mn:0.2〜0.5%]
Mnは溶融金属の粘度および表面張力を適正化させる効果がある。Mnが0.2%未満ではその効果が得られず、ブローホール等の気孔欠陥が発生しやすくなると共に、溶融金属の粘度および表面張力が劣化することから、溶融金属が垂れてビード形状が劣り、十分な耐ギャップ性が得られない。一方、Mnが0.5%を超えると溶滴が大きくなり短絡し易くワイヤ狙い位置変動時にスパッタ発生の要因となる。
【0021】
なお、Sはビード止端部のなじみを良好にするので0.005%以上含有することが好ましい。しかし、SおよびPが0.030%を超えると溶接金属の耐割れ性が劣化する。また、その他成分として溶融金属の粘度を調整する目的でAlおよびTiの少なくとも一方を、それぞれ0.10%以下の範囲で含有することができる。
【0022】
さらに、ビード幅が広くしかも垂れ落ちしない最適パルス条件範囲を検討した結果、1パルス1ドロップ領域であるパルスピーク電流Ipとパルスピーク時間Tpの領域において、短絡がし難くスパッタ発生量の少ない溶接となり、ワイヤ狙い位置が変動した場合においても広幅ビードが得られる最適のパルス条件範囲を見出した。
【0023】
[パルスピーク電流Ip:380〜600A]
パルスピーク電流Ipが380A未満では、電磁ピンチ効果による溶滴の離脱がスムーズに行われなくなり、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。また、溶滴の移行が不安定になるため溶け込み特性が不安定になり、さらにはビードが広がりも不均一となり凸ビードとなる。一方、600Aを超えると、アーク力により薄鋼板では溶け落ちし易くなり、また溶融池が垂れ易くなる。
【0024】
[パルスベース電流Ib:30〜80A]
パルスベース電流Ibはベース期間でアークを保持できる電流値が必要となる。30A未満ではアークが不安定となりパッタ発生量が多くビード幅が不均一となる。一方、80Aを超えると溶滴の離脱が速やかに行われず、溶滴の移行が不安定となり、アークが不安定でスパッタ発生量が多くなる。また、ビード幅が不均一でビードが広がらず凸ビードとなる。
【0025】
[120≦Ip×Tp≦380]
前述のパルスピーク電流Ipおよびパルスベース電流Ibに加えて、下記(1)式で示すパルスピーク電流Ip[A]とパルスピーク時間Tp[ms]の積Ip×Tpで得られる値を限定することによって、溶滴の短絡がベース時に生じて溶融金属の垂れが生じ難く、広幅ビードが得られてワイヤの狙い位置が変動した場合においても良好な溶接継手を得られる。
120≦Ip×Tp≦380 ・・・・(1)
【0026】
パルスピーク電流Ip[A]とパルスピーク時間Tp[ms]の積Ip×Tpが120未満ではピーク電流期間で溶滴を形成するためのエネルギーが不足し、十分な溶滴の形成ができずビード幅が狭く、スパッタ発生量が多くなるとともに溶け込み深さが不安定となり溶け落ちが生じる場合がある。一方、380を超えるとワイヤ送給量と溶滴生成量が不均衡となり、過度に成長した溶滴が短絡しやすく再点弧時のアーク力で溶融池が吹き飛ばされることからスパッタ発生量が多くなるとともに、溶け落ちも生じ易くなり耐ギャップ性も劣化する。
【0027】
なお、本発明においては、安定したビードを得るためにワイヤ径を1.2mm(公称径)とし、ワイヤ送給速度を7m/min以上とする。ワイヤ送給速度が7m/min未満であると、溶融金属がハンピング状態となり安定したビードを得ることができない。
以下、実施例により本願発明を具体的に説明する。
【実施例】
【0028】
表1に示す成分の板厚2.3mm、長さ500mmの薄鋼板を、図3に示すスペーサ5を後板2と前板1の間に挟んで長さG=3mmのギャップを形成した横向重ね継手とし、表2に示す各種成分のワイヤ径1.2mmのソリッドワイヤを用いて、表3に示す各種溶接条件で溶接した。なお、溶接は図2に示すように、ワイヤ狙い位置6を前板1の前面側端部61として溶接を開始し、溶接終了時には前板1の後板側端部62とした。トーチ角度θは30°とし、チップ−母材間距離は15mm、シールドガスはAr−20%COで溶接を実施した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
各条件について溶接長の中央部における図1(a)に示す溶け込み量Lおよびビード幅Wを調べ、溶接開始部近傍の溶融金属の垂れおよび溶接全長における溶接作業性を調査した。評価は、溶け込み量Lは鋼板板厚の20%以上である0.46mm以上、溶接金属のビード幅Wは7mm以上を良好とした。それらの調査結果を表4にまとめて示す。
【0033】
【表4】

【0034】
表3および表4において試験No.1〜9が本発明例、試験No.10〜21は比較例である。
本発明例である試験No.1〜9は、ワイヤ成分が適正で、パルス条件も適正であるので、溶接作業性が良好で、ワイヤ狙い位置が変動した場合においても溶融金属の垂れや溶け落ちがなく、溶け込み量Lが確保でき、ビード幅が広いため良好な継手特性が得られるなど、極めて満足な結果であった。
【0035】
比較例中試験No.10は、パルスピーク電流Ipが低いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、溶け込み量Lおよびビード幅W少なく、凸ビードとなった。
試験No.11は、パルスピーク電流Ipが高いので、溶接開始部近傍で溶融金属が垂れた。また、溶接長の中央部で後板側に溶け落ちたので溶接を中止した。
【0036】
試験No.12は、パルスベース電流Ibが低いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多くビード幅Wが不均一となった。
試験No.13は、パルスベース電流Ibが高いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、ビード幅が不均一で凸ビードとなった。
【0037】
試験No.14は、パルスピーク電流Ipとパルスピーク時間Tpの積Ip×Tpが低いので、スパッタ発生量が多かった。また、ビードに広がりがなくビード幅Wが狭くなり、溶接終端部近傍で溶け落ちが生じた。
試験No.15は、パルスピーク電流Ipとパルスピーク時間Tpの積Ip×Tpが高いので、スパッタ発生量が多く、溶接長の中央部で後板側に溶け落ちたので溶接を中止した。
【0038】
試験No.16は、ワイヤ記号W8のMnが低いので、溶接開始部近傍で溶融金属が垂れた。また、ピットも生じた。
試験No.17はワイヤ記号W9のSiが低いので、溶接開始部近傍で溶融金属が垂れた。また、ビード幅Wが狭かった。
【0039】
試験No.18は、ワイヤ記号W10のSiが高いで、スパッタ発生量が多かった。また、ハンピングビードとなった。
試験No.19は、ワイヤ記号W11のMnが高いので、スパッタ発生量が多かった。
【0040】
試験No.20は、ワイヤ記号W12のCが高いので、スパッタ発生量が多く、溶接開始部近傍で溶融金属の垂れも生じた。
試験No.21は、ワイヤ記号W13のCが低いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、ビード幅Wも不均一で、溶接開始部近傍で溶融金属の垂れも生じた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(a)ないし(e)は、それぞれ薄鋼板の重ね継手部の横向姿勢でギャップがある場合のビード形成状態の例を示す図
【図2】本発明の実施例における横向重ね継手部のワイヤ狙い位置を示す図
【図3】本発明の実施例に用いた横向重ね継手の試験板を示す図
【符号の説明】
【0042】
1 前板
2 後板
3 溶接金属
4 アンダーカット
5 スペーサ
6、61、62 ワイヤ狙い位置
7 トーチ
θ トーチ角度
W ビード幅
L 溶け込み深さ
G ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1.2〜4.5mmの薄鋼板を0.8m/min以上の溶接速度でガスシールドアーク溶接する方法において、質量%で、C:0.2〜0.7%、Si:0.05〜0.2%、Mn:0.2〜0.5%を含有し、P:0.03%以下、S:0.03%以下で、残部はFeおよび不可避不純物よりなるソリッドワイヤを用いて、パルスピーク電流Ip:380〜600A、パルスベース電流Ib:30〜80Aで、かつ前記パルスピーク電流Ip[A]とパルスピーク時間Tp[ms]が下記(1)式を満足するパルスを印加しつつ溶接することを特徴とする薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法。
120≦Ip×Tp≦380 ・・・・(1)
【請求項2】
ソリッドワイヤは、さらにAl:0.10%以下、Ti:0.10%以下の少なくとも一方を含有することを特徴とする請求項1記載の薄鋼板の高速ガスシールドアーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−262180(P2009−262180A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112834(P2008−112834)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】