説明

薬剤の持続送達のための多糖ゲル組成物および方法

持続放出特性を有する生体適合性多糖ゲル組成物の製造方法が開示される。また、持続放出特性を有する生体適合性多糖ゲル組成物、本発明の生体適合性多糖ゲル組成物を用いて疾患または症状を治療する方法、および生体適合性多糖ゲル組成物からの少なくとも1つの目的溶質の放出速度を制御する方法も開示される。本発明の多糖ゲル組成物を含む医薬組成物もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において、美容または医療用途に有用な持続放出特性を有する生体適合性多糖ゲル組成物、および製剤、ならびに関連するその使用方法および製造方法を一般に開示する。
【背景技術】
【0002】
多糖は、比較的複雑な炭水化物である。それらは、グリコシド結合によって結合した多くの単糖から構成される重合体である。従って、それらは、大きく、分岐していることが多い、巨大分子である。多糖充填剤、特にヒアルロン酸充填剤は、美容および医療用途に有用である。これらの充填剤は、例えば、軟部組織増強に使用されている。
【0003】
ヒアルロン酸は、細胞外空間に存在し、特殊順応性(malleable)物理的特性および優れた生体適合性を有する空間充填、構造安定化および細胞保護の分子として機能する。ヒアルロン酸マトリックスは、高レベルの水和を維持しながら、極めて粘弾性である。皮膚の含水量と、皮膚組織のヒアルロン酸レベルとの間に強い相関関係が存在する。ヒト皮膚が老化すると共に、ヒアルロン酸含有量および代謝が変化することが既知である。これらの変化に伴って、皮膚の機械的特性が著しく低下する。若々しい皮膚と、細胞間基質中の強いヒアルロン酸網状構造の存在との間に関連性があると考えられる。
【0004】
ヒアルロン酸(ヒアルロン酸またはヒアルロネートとも称される)は、結合組織、上皮組織および神経組織に広く分布している非硫酸化グリコサミノグリカンである。それは、細胞外基質の主成分の1つであり、細胞増殖および移動に有意に関与し、ある種の悪性腫瘍の進行にも関わっていると考えられる。70kgの平均的男性は、約15gのヒアルロン酸を体内に有し、その3分の1は毎日、代謝回転(分解および合成)している。
【0005】
ヒアルロン酸は、体の多くの組織、例えば、皮膚、軟骨および硝子体液に天然に見出される。従って、これらの組織を標的とする生物医学用途に極めて適している。最初のヒアルロン酸生物医学製剤Healon(登録商標)は、1970年代および1980年代に開発され、眼手術(例えば、角膜移植、白内障手術、緑内障手術、および網膜剥離の修復手術)における使用が承認されている。
【0006】
ヒアルロン酸は、膝の骨関節炎の治療にも使用される。粘性補充(viscosupplementation)と称されるそのような治療は、膝関節への注射によって行われ、関節液の粘性を補い、それによって、関節を潤滑にし、関節への衝撃を緩和し、鎮痛作用を生じると考えられる。ヒアルロン酸は、軟骨細胞における正の生化学作用を有することも示されている。しかし、いくつかのプラセボ対照試験(placebo controlled test)はヒアルロン酸注射の有効性に疑いを投げかけており、ヒアルロン酸は、主に手術の最終的代替手段として勧められている。ヒアルロン酸の経口使用が示されている。現在、いくつかの予備臨床試験は、ヒアルロン酸の経口投与が骨関節炎に効能を有することを示唆している。
【0007】
ヒアルロン酸は、高生体適合性であり、かつ組織の細胞外基質に一般に存在することにより、組織工学研究における生体材料骨格としても関心を集めている。ある種の癌において、ヒアルロン酸レベルは、悪性度および悪い予後によく相関している。これにより、ヒアルロン酸は、前立腺癌および乳癌の腫瘍マーカーとして使用されることが多い。それは、疾患の進行を監視するのにも使用しうる。ヒアルロン酸は、組織治癒を誘導するために手術後、特に白内障手術後に、使用することもできる。現在の創傷治癒モデルは、より大きいヒアルロン酸高分子が治癒の早期段階に現れて、免疫応答を媒介する白血球のための空間を物理的に形成することを示している。
【0008】
ヒアルロン酸またはコルチコステロイドの治療的使用が既知である。従って、治療的および美容的使用のためのヒアルロン酸(または、ヒアルロナンおよびヒアルロン酸ナトリウムと称される)配合物が既知である。ヒアルロン酸は、生体内でポリアニオンとして存在し、プロトン化酸形態で存在しないので、ヒアルロナンと称されることが極めて多い。米国特許第4,636,524号、同第4,713,448号、同第5,009,013号および同第5,143,724号は、特定のヒアルロナンまたはヒアルロン酸およびそれらの製造法を開示している。さらに、ヒアルロン酸(即ち、粘性補充物として)または抗炎症性ステロイドの関節内使用も既知である。例えば下記を参照:Kopp S.ら、The short-term effect of intra-articular injections of sodium hyaluronate and corticosteroid on temporomandibular joint pain and dysfunction, J Oral Maxillofac Surg 1985 Jun; 43(6):429-35;Grecomoro G.ら、Intra-articular treatment with sodium hyaluronate in gonarthrosis: a controlled clinical trial versus placebo, Pharmatherapeutica. 1987; 5(2):137-41;Adams M., An analysis of clinical studies of the use of crosslinked hyaluronan, hylan, in the treatment of osteoarthritis, J Rheumatol Suppl. 1993 August; 39:16-8,およびJones, A.ら、Intra-articular hyaluronic acid compared to intra-articular triamcinolone hexacetonide in inflammatory knee osteoarthritis, Osteoarthritis Cartilage. 1995 December; 3(4):269-7。
【0009】
市販のヒアルロン酸配合物は、架橋ヒアルロン酸から成る注射可能皮膚充填剤Juvederm(商標)(Allergan)を包含する。Orthovisc(登録商標)(Anika)、Durolane(Smith & Nephew)、Hyalgan(登録商標)(Sanofi)、Hylastan(登録商標)(Genzyme)、Supartz(登録商標)(Seikagaku/Smith & Nephew)、Synvisc(登録商標)(Genzyme)、Euflexxa(登録商標)(Ferring)も既知であり、それらは骨関節炎の関節痛を治療するための、ヒアルロン酸の種々の架橋度を有する種々の分子量の注射可能(関節内)ヒアルロン酸粘性補充物として使用される。
【0010】
高分子量ヒアルロン酸および1つ以上の活性剤を含んで成る治療的または美容的使用のための組成物が開示されている。例えば、米国特許出願第11/039,192号、同第11/695,527号、同第11/742,350号、同第10/966,764号、同第11/354,415号、および同第11/741,366号を参照。
【0011】
特定のコルチコステロイド(例えばトリアムシノロン)は、抗炎症特性を有しうる。従って、関節内コルチコステロイドが、種々の関節疾患の治療に使用されている。例えば下記参照:Zulian F.ら、Triamcinolone acetonide and hexacetonide intra-articular treatment of symmetrical joints in juvenile idiopathic arthritis: a double-blind trial, Rheum 2004; 43:1288-1291(2mg〜80mgのトリアムシノロンアセトニドの使用);およびHertzberger-ten Cate R.ら、Intra-articular steroids in pauciarticular juvenile chronic arthritis, type I, Eur J Ped 1991; 150:170-172(関節内20mgトリアムシノロンを若年性関節炎の治療に使用)。トリアムシノロンは、関節硬直の治療に使用されている(Clark D.ら、The influence of triamcinolone acetonide on joint stiffness in the rat, J Bone Joint Surg Am 1971; 53:1409-144)。
【0012】
さらに、急性疾患、例えば喘息を治療するために、患者を経口ステロイドの使用によって処置できるようになるまで、筋肉内ステロイドが投与されている(Mancinelli L.ら、Intramuscular high-dose triamcinolone acetonide in the treatment of severe chronic asthma, West J Med November 1997: 167(5);322-329(360mgまでのトリアムシノロンが3日間、毎日、患者に投与された))。ステロイドの皮下および経皮投与は、皮膚委縮を生じうるので、好ましい投与経路ではない。筋肉内注射による投与の場合、深い臀筋領域に注射し、ステロイド配合物の真皮への漏出を避けることによって、ステロイドによる皮膚委縮のリスクを減少させることができる。
【0013】
残念なことに、末梢使用ための既知の粘性配合物および既知のコルチコステロイド配合物に関して、重大な不利点および欠陥がある。例えば、ヒアルロン酸の頻回(5回以上)末梢投与が、末梢疾患の治療に必要とされることがある。さらに、トリアムシノロンの水性コルチコステロイド配合物は、末梢投与部位から急速に除去される(拡散し、そして/または1つ以上の活性輸送メカニズムによって除去される)。急速クリアランスは、有効な治療のために、頻回再投与(再投薬)を必要とする。さらに、治療用コルチコステロイドは、その低水溶性により、比較的大きく不規則な形の結晶(粒子)の水性懸濁液として一般に投与される。そのようなステロイド粒子は、投与時に炎症反応を誘発しうる。これは、投与部位に存在するマクロファージが、大きく不規則な形状を有するステロイド粒子を除去する(貪食作用)ことができないことによって生じうる。実際、そのような粒子は、マクロファージに毒性であり、細胞死を生じうる。次に、マクロファージの死が、炎症誘発性サイトカインを放出させ、それによって、急性および慢性の炎症を生じる。粒子からの毒性の臨床例は、痛風性関節炎であり、それにおいて5〜20ミクロンの尿酸結晶が関節炎を生じうる。例えば下記参照:Helliwell P, Use of an objective measure of articular stiffness to record changes in finger joints after intra-articular injection of corticosteroid, Ann Rheum Dis 1997; 56:71-73(関節内コルチコステロイド注射は結晶滑膜炎を生じうる)。
【0014】
このように、マクロファージは、尿酸結晶を貪食する際に傷つき、それによって炎症反応を引き起こすことが既知である。注目すべきことに、マクロファージ活性を減少させる薬剤、例えばコルヒチンで治療された患者は、関節炎の劇的改善を示す。マクロファージを傷つける大きく不規則な形状の結晶が関節に沈着する他の臨床例は、偽性痛風である。この場合、副甲状腺機能亢進症の患者において、ピロリン酸カルシウム二水和物の沈着によって、関節炎症が生じる。注射された薬剤粒子に関連した関節炎症の例は、結晶誘発滑膜炎であり、それにおいて、Lederspan、Kenalogまたは他のコルチコステロイド蓄積配合物の関節内注射を受けた患者の1〜2%が、関節炎症の注射後増悪を示す(McCarty D.ら、Inflammatory reaction after intrasynovial injection of microcrystalline adrenocorticosteroid esters, Arthritis and Rheumatism, 7(4); 359-367(1964)(コルチコステロイド結晶の関節内注射は、注射後発赤とも称される無菌性炎症を生じうる))。下記も参照:Selvi E.ら、Arthritis induced by corticosteroid crystals, J Rheumatology 2004; 31:3(40mgのトリアムシノロンヘキサアセトニドの関節内注射で治療された骨関節炎患者が、注射されたトリアムシノロン結晶によって誘発された急性関節炎を発症した)。平均で10ミクロンより大きく、不規則形状を有するこれらの配合物中の粒子は、痛風または偽性痛風患者の関節における尿酸結晶に極めて類似している。
【0015】
Kenalog(登録商標)(Bristol-Myers-Squibb, Princeton N.J.)の商品名で入手できるトリアムシノロン医薬組成物は、筋肉内または関節内(嚢内使用)投与によって、種々の疾患の治療に使用されている。1ミリリットル(mL)のKenalog(登録商標)40組成物につき、40ミリグラム(mg)のトリアムシノロンアセトニド、塩化ナトリウム(等張化剤として)、10mg(0.99%)のベンジルアルコール(防腐剤として)、7.5mg(0.75%)のカルボキシメチルセルロースナトリウム、および0.4mg(0.04%)のポリソルベート80(再懸濁助剤として)を含有する。ベンジルアルコール防腐剤および/またはポリソルベート80は、潜在的に、感受性組織に毒性になりうる。従って、防腐剤含有コルチコステロイド配合物は、患者の背痛を増悪させる硬膜外注射後の癒着性クモ膜炎に関連付けられている。例えば下記参照:Hurst, E.W., Adhesive Arachnoiditis and Vascular Blockage caused by Detergents and Other Chemical Irritants: an Experimental Study. J. Path. Bact., 1955, 70:p.167;DeLand, F.H., Intrathecal toxicity studies with benzyl alcohol. Toxicol Appl Pharmacol, 1973, 25(2):p.153;およびHetherington, N.J.およびM.J.Dooley, Potential for patient harm from intrathecal administration of preserved solutions. Med J Aust, 2000, 173(3):p.141。
【0016】
重要なことに、Kenalog(登録商標)中のトリアムシノロンアセトニドは、配合物の残部から急速に分離し沈殿する。例えば、Kenalog(登録商標)が約5〜10分間ほどの短い時間静置された場合、組成物の残部からのトリアムシノロンアセトニド沈殿物の実質的分離が生じる。残念なことに、そのようなトリアムシノロンの急速な沈降分離は、他の既知の生理食塩水系トリアムシノロン懸濁液(防腐剤および安定剤を含有または不含)でも生じる。実質的に均質な懸濁液(それは、Kenalogまたは他の生理食塩水系トリアムシノロン懸濁液によって得られない)は、懸濁液の投与時に、一定の正確な投与量を与えるのに有利である。さらに、再懸濁処理は、感受性組織に影響を与えうる前述の再懸濁助剤の使用を必要とする。
【0017】
さらに、コルチコステロイド、例えばトリアムシノロンの既知配合物の投与は、おそらく、既知配合物からのトリアムシノロンのバーストまたは高速放出速度により、アレルギーまたは炎症反応も生じうる。そのような反応は、前述のように、投与された不溶性コルチコステロイド粒子の大きく不規則な形状によっても生じるか、または増悪しうる。
【0018】
何年にもわたり、医薬的治療を必要とする哺乳動物に治療薬を送達する方法が開発されている。生分解性担体は、理想的に生体適合性であり、目的溶質または薬剤の所望の放出を可能にする。目的溶質の所望の放出は、持続放出であることが多い。従って、目的溶質、例えば薬剤の、持続送達を与える新規生体適合性多糖ゲル組成物が必要とされており、かつ、望ましくない特徴(配合物中の毒性防腐剤または界面活性剤の存在;大部分または全部の活性剤の急速放出)を有さず、末梢投与部位での活性剤のより長い滞留時間を有し、かつ非または低免疫原性配合物を有する末梢疾患治療用の末梢投与配合物も必要とされている。
【発明の概要】
【0019】
これらおよび他の目的は本開示の組成物および方法によって達成でき、本開示は、広い態様において、目的溶質または薬剤の持続送達を達成する新規生体適合性多糖ゲル組成物および関連方法を提供する。本開示の範囲および教示によれば、目的溶質または薬剤を多糖マトリックスに移植するかまたは封入することによって、制御放出を達成する生体適合性多糖ゲル組成物を得る。多糖、例えばヒアルロン酸への、少なくとも1つの目的溶質、例えば薬剤の移植は、少なくとも1つの目的溶質または薬剤と多糖との共有結合によって達成することができる。広い態様において、少なくとも1つの目的溶質と多糖との共有結合は、多糖、例えばヒアルロン酸上に存在する1つ以上のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基の使用によって行うことができる。形成された共有結合は、薬剤とヒアルロン酸とを先行技術法によって組み合わせる非共有相互作用より強い。しかし、強い共有結合が切れ、それによって少なくとも1つの目的溶質を患者の体内に放出してしまうことがある。結合は、共有結合を分解する反応、例えば加水分解によって分解することができる。
【0020】
共有結合の形成、および後の分解は、所望の放出特性を有意に向上させ、優れた持続放出を達成する。共有結合に適した官能基を有する任意の目的溶質を、多糖マトリックスとの結合に使用できる。酸-塩基化学によって進む反応のような結合形成反応を使用できる。当業者は、少なくとも1つの目的溶質と多糖(例えば、結合に必要な官能基を有するヒアルロン酸)とを共有結合させるのに必要な反応および反応条件を認識している。
【0021】
本発明の組成物に使用される好ましいヒアルロン酸(「HA」)は、下記の特徴を有する。第一に、HAは、粘性増加を与えるが、高剪断速度を有し、これは25〜30ゲージ針での注射可能性を保持していることを意味する。第二に、HAは、多くの哺乳類組織の細胞外基質の天然成分であり、従って、生体適合性の粘性誘導成分である。第三に、HAは、組織付着性であり、従って、HAを組織、例えば筋肉に注射した場合に、顔面表面でのHAの拡散および移動が最小限にされる。例えば、Cohenら、Biophys J. 2003; 85:1996-2005参照。低付着性ポリマー、例えばシリコーンは、組織を移動しうる。例えば、Capozziら、Plast Reconstr Surg. 1978; 62:302-3参照。HAを含んで成る配合物の組織付着性、それ故の低組織移動性は、ほぼ注射部位に配合物が残留することを可能にする。このように、コルチコステロイド-HA配合物は、末梢位置、例えば関節内位置(即ち、椎間関節炎を治療するため)からの低拡散という有利な特徴を有する。さらに、ボツリヌス毒素-HA配合物は、末梢位置、例えば筋肉内位置(即ち、片側顔面痙攣を治療するための小輪筋)からの低拡散という有利な特性も有する。このように、配合物におけるHAの使用は、周囲または近接非標的組織への薬剤暴露または生物暴露を抑制し、それによって副作用(眼近傍ボツリヌス毒素投与に関する)、例えば眼瞼下垂または視覚障害を抑制することができる。
【0022】
第三に、薬剤を担体から放出させるため、または活性剤(即ち、ステロイド結晶)を溶解させるために、水との接触が必要とされる。使用される好ましいHAは、水和する(水を吸収する)能力によって、水との接触を与える。
【0023】
第四に、使用されるHAは、種々の程度に架橋することができるポリマーであり、それによって、下記のような特性の変更を可能にする:末梢投与位置へのHA移動の速度、HA担体からの活性剤の拡散および移動の速度。
【0024】
ヒアルロン酸のような多糖に共有結合し、生体適合性多糖ゲル組成物として患者に送達しうる1つの特定薬剤は、トリアムシノロンアセトニドである。1つの実施形態において、本発明のゲル組成物のトリアムシノロン粒子は、粘性誘導成分(ヒアルロン酸、または高分子ヒアルロネート)に実質的に均質に懸濁される。
【0025】
本開示は、さらに、少なくとも1つの目的溶質、例えば薬剤を、多糖ゲルの多孔性網状構造に封じ込めることによって、生体適合性多糖ゲル組成物を製造する方法に一般に関する。そのような封じ込めは、送達される薬剤と、ヒアルロン酸のような多糖(本発明の範囲および教示に従って、架橋されていてもいなくてもよい)とを組み合わせるもう1つの有用な方法である。
【0026】
本開示のさらに他の態様は、本明細書に記載されている生体適合性組成物の治療有効量を投与することによって、疾患または症状を治療する方法に関する。本発明の方法によって種々の疾患を治療することができ、それらは眼疾患、骨関節炎、神経根障害、脊椎炎および脊椎症を包含するが、それらに限定されない。1つの実施形態に従って、組成物を末梢位置のような位置において、患者に注射できる。
【0027】
少なくとも1つの目的溶質、例えばトリアムシノロンアセトニドの放出速度を、1つの実施形態に従って、多糖マトリックスの多孔度の調節によって制御できる。調節工程は、多糖の濃度、架橋度、分子量分布、または架橋剤を変化させることを包含するが、それらに限定されない。該パラメータは、単独で、または組み合わせて、調節できる。さらに、架橋する間に多糖マトリックスの多孔度に影響を与える反応条件を変化させて、種々のまたは所望の放出速度を達成することもできる。
【0028】
本開示は、新規生体適合性多糖ゲル配合物および医薬担体を含有する医薬組成物にも関する。
【0029】
本明細書に開示されている本発明の組成物および方法の利点および特徴は、下記の説明および特許請求の範囲からより明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示の1つの実施形態は、持続放出特性を有する生体適合性多糖ゲル組成物の製造方法に関し、該方法は、少なくとも1つの目的溶質と多糖との共有結合によって、少なくとも1つの目的溶質を多糖に移植することを含んで成る方法である。共有結合は、原子間の、または原子と他の共有結合との、電子対の共有を特徴とする化学結合の形態である。簡単に言えば、原子が電子を共有している場合に、原子間に形成される吸引対反発安定性が、共有結合として既知である。
【0031】
共有結合は、多種類の相互作用を包含し、σ-結合、π-結合、金属-金属結合、アゴスティック(agostic)相互作用、および3中心2電子結合を包含する。共有結合という用語は、1939年にさかのぼる。接頭辞「共(co-)」は、一緒に、作用において関連し、より低い程度に共同し等、を意味し;従って、「共有結合(co-valent bond)」は、本質的に、原子価結合理論において論じられているように、原子が「原子価」を共有していることを意味する。H2分子において、水素原子は、2個の電子を共有結合によって共有している。共有原子価は、同様の電気陰性度の原子間で最大である。従って、共有結合では、必ずしも、2個の原子が同じ元素である必要はなく、それらが同等の電気陰性度でありさえすればよい。共有結合は、電子の共有を伴うので、必然的に非局在化する。さらに、静電的相互作用(「イオン結合」)と異なり、共有結合の強度は、多原子分子中の原子間の角度関係に依存する。
【0032】
移植(graft)は、本開示において、共有結合によって達成される。そのような結合のための反応の結果として、目的溶質を多糖網状構造に移植することができる。それらは、ヒドロキシル基およびカルボキシル基のような官能基を使用する酸塩基化学に基づく反応であってもよい。感受性結合は、多糖(例えば、ヒアルロン酸二糖)のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基を含む。1つの実施形態におけるこれらの結合の分解は、少なくとも1つの目的溶質の有利な制御および持続放出を可能にする。
【0033】
ヒアルロン酸のような多糖は、重合体であり、そのような結合に有用なヒドロキシル官能基およびカルボキシル官能基を有する。少なくとも1つの目的溶質または薬剤の共有結合は、例えば、そのような基および少なくとも1つの目的溶質、例えばトリアムシノロンアセトニド上の感受性官能基との酸/塩基反応によって行うことができる。
【0034】
共有結合を達成するために使用しうる反応の一例は、縮合である。縮合反応は、2個の分子または部分(官能基)が結合して、小分子の脱離と共に1個の分子を形成する化学反応である。この小分子が水である場合、それは脱水反応として既知であり;脱離される他の可能な小分子は、塩化水素、メタノールまたは酢酸である。分離した2個の分子が反応する場合、縮合は分子間縮合と称される。簡単な例は、2個のアミノ酸が縮合して、タンパク質の特徴であるペプチド結合を形成する反応である。この反応の例は、加水分解の反対であり、加水分解は、極性水分子の作用によって化学成分を2つの部分に分解し、該極性水分子自身は、水酸化物イオンおよび水素イオンに分解する。結合が、同じ分子の原子または基の間の結合である場合、その反応は分子内縮合と称され、多くの場合、環形成を生じる。その例はディークマン縮合であり、それにおいて、1個のジエステル分子の2個のエステル基が互いに反応して、小アルコール分子を脱離し、β-ケトエステル生成物を形成する。
【0035】
高分子化学において、一連の縮合反応が起こり、それによってモノマーまたはモノマー鎖が互いに付加して、より長い鎖を形成する。これは、「縮合重合」または「逐次重合」とも称される。それは、A-Bモノマーのホモ重合、または2つのコモノマーA-AおよびB-Bの重合としても起こる。小分子の遊離がない重付加の場合と異なり、小分子縮合物は一般に遊離される。カロザース方程式により、高分子量を得るために高変換速度が必要とされる。一般に、縮合重合体は付加重合体よりゆっくり形成され、熱を必要とすることが多い。それらは一般に分子量が低い。モノマーが反応の早期に消費され;末端官能基が最後まで活性を維持し、短い鎖が結合してより長い鎖を形成する。二官能性モノマーは直鎖(従って、熱可塑性ポリマー)を生じるが、モノマー官能性が2を超える場合、生成物は熱硬化性ポリマーである。
【0036】
少なくとも1つの目的溶質、例えばトリアムシノロンアセトニドを、多糖、例えばヒアルロン酸に共有結合させるために縮合のような反応を使用することは、本開示の範囲および教示の範囲内である。トリアムシノロンアセトニドは、抗炎症作用を有する合成グルココルチコイドコルチコステロイドであり、化学名9-フルオロ-11,21-ジヒドロキシ-16,17-[1-メチルエチリデンビス(オキシ)]プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンを有する。それは一般に硝子体内注射によって送達され、トリアムシノロンアセトニドの眼適応症は、交感性眼炎、側頭動脈炎、ブドウ膜炎、および局所コルチコステロイドに不反応性の眼炎症性疾患を包含する。これらは視力喪失を生じうる炎症性疾患である。
【0037】
他のコルチコステロイドを、少なくとも1つの目的溶質として使用してもよい。有用なコルチコステロイドの例は下記の物質であるが、それらに限定されない:コルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオロメトロン、デキサメタゾン、メドリゾン、ロテプレドノール、それらの誘導体およびそれらの混合物。本明細書において使用される「誘導体」という用語は、任意物質が特定物質の誘導体として同定される場合に、特定物質に構造的に充分に類似した任意物質を意味し、従って、任意物質が特定物質の代わりに使用された場合に、任意物質は特定物質と実質的に同様の官能性または活性、例えば治療有効性を有する。
【0038】
少なくとも1つの目的溶質を、多糖、例えば、前述のヒアルロン酸またはヒアルロネートに共有結合してもよい。少なくとも1つの目的溶質、例えば薬剤と共有結合するのに必要な官能基を有する他の多糖を使用することも、本開示の範囲および教示に含まれる。このような多糖は、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩を包含するが、それらに限定されない。
【0039】
使用される多糖、例えばヒアルロネートは、架橋されてもよく、されなくてもよい。架橋は種々の程度に行うことができ、それによって、末梢投与位置へのHA移動の速度、HA担体からの活性剤の拡散および移動の速度のような特性を、変化させることができる。架橋度が高くなるほど、ヒアルロン酸は標的領域により長い時間存在する。さらに、好ましくは、トリアムシノロンアセトニド(Trivaris(登録商標))中の高分子ヒアルロネートは非架橋ヒアルロネートであるが(Trivaris(登録商標)の投与に使用される注射器のプランジャーに力を加えた際に、高剪断速度、およびそれにより27-33ゲージ針でのTrivaris(登録商標)の相対的注射容易性を得るため)、ヒアルロネートは有意により低い粘度(即ち、約25℃において約0.1/秒の剪断速度で約5,000cpsの粘度)を有する架橋ヒアルロネートであってもよい(それにより真ヒドロゲルを形成するため)。そのような架橋ヒアルロネートは、同じかまたは同様の優れたTrivaris(登録商標)のコルチコステロイド懸濁特性を有することができ、しかも、末梢におけるヒアルロネートのより長い滞留(即ち、より遅い速度の生分解性)という付加的利点を有し、それによって、架橋ヒアルロネートのポリマーマトリックス中のコルチコステロイド粒子の、より長時間の末梢(または末梢)保持により、末梢におけるそのような架橋ヒアルロネート配合物の長時間のごくわずかな免疫原性を有する。架橋および非架橋ヒアルロナンを種々の比率でブレンドして、生分解を遅くし、例えば骨関節炎の治療において、炎症組織内での長時間滞留を向上させつつ、注射性能を最適化することもできる。さらに、架橋ヒアルロネートの他に、他の架橋ポリマー、例えばポリカルボフィルを使用することもできる。
【0040】
少なくとも1つの目的溶質をヒアルロン酸と組み合わせることによって持続放出しうる。HAが少なくとも1つの目的溶質を取り囲んでもよく、それによってそのマトリックスに該溶質を埋め込む。本明細書に記載されているように、少なくとも1つの目的溶質とヒアルロン酸のような多糖との本発明の新規共有結合と共に、他の制御パラメータを導入する。形成された共有結合は、加水分解のような反応によって分解しうる。共有結合の分解は、目的溶質を放出させ、それによって、該溶質は患者の体内において意図された医薬機能を果たしうる。
【0041】
加水分解は、化合物が水との反応によって分解する化学的反応または過程である。これは、ポリマーを分解させるのに使用される反応型である。この反応において、水が添加される。有機化学において、加水分解は、縮合(生成される各水分子につき、2個の分子フラグメントが結合する反応)の逆または反対であると考えられる。加水分解は可逆反応であるので、縮合および加水分解が同時に起こることができ、平衡点が各生成物の量を決定する。
【0042】
エステル結合の分解に関与する加水分解反応において、1つの加水分解生成物はヒドロキシル官能基を有し、もう一方はカルボン酸官能基を有する。カルボニルが水酸化物陰イオン(または、急速に脱プロトンされる水分子)によって攻撃される。生じた四面体中間体が分解する。アルコキシドフラグメントが、正四面体炭素から脱離し、プロトン化によってアルコールになり、アシルフラグメントに攻撃水酸化物を残して、カルボン酸を生成する。これは、エステル化反応の逆であり、元のアルコールおよびカルボン酸を再び生成する。塩基性溶液中で、カルボン酸は脱プロトンされ、従って塩基性加水分解は不可逆性であり、酸性加水分解はそうでない。
【0043】
エステルを加水分解する2つの主要な方法があり、それらは塩基性加水分解および酸触媒加水分解である。酸触媒加水分解の場合、希酸を使用してカルボニル基をプロトン化して、該カルボニル基を水分子による求核攻撃に対して活性化する。しかし、より一般的なエステル加水分解方法は、水性塩基、例えばNaOHまたはKOHと共に、エステルを還流させることを含む。反応が終了すれば、カルボン酸塩を酸性化して、遊離カルボン酸を生成する。
【0044】
さらに、少なくとも1つの目的溶質を移植することができる多糖は、架橋または非架橋である。多糖の架橋は、例えば酸塩基化学によって行うことができる。ヒアルロン酸のような多糖を架橋するのに有用な架橋試薬は、1,4 Butanediol Diglycidal EtherまたはDivinyl Sulfoneを包含する。現在開示されている生体適合性多糖ゲル製造法において、多糖は、例えば、ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩を包含するが、それらに限定されない。
【0045】
多糖に移植される少なくとも1つの目的溶質は、例えば薬剤である。薬剤は、トリアムシノロンアセトニドであってよいが、それに限定されない。薬剤は、大まかに言えば、生体に吸収された際に通常の生体機能を変化させる任意の化学物質である。それは、疾患の治療、治癒、予防または診断に使用されるか、または肉体的または精神的健康を増強するために使用される。
【0046】
本明細書において使用される持続放出は、ゆっくり溶解される長時間放出(ER、XRまたはXL)、時限放出または時間指定放出(time-release or timed-release)、制御放出(CR)および連続放出(CR)配合物を包含する。持続放出配合物は、少なくとも1つの目的溶質または薬剤を、時間の経過と共に放出する。持続放出配合物の利点は、同じ薬剤の即時放出配合物より少ない頻度で投与できることが多く、かつ、血流中の薬剤のより一定したレベルを維持することである。持続放出配合物は、活性成分が不溶性物質(種々の物質:ある種のアクリル;キチンでもよい)のマトリックスに埋め込まれるように製造され、それによって、溶解薬剤はマトリック中の穴を通って出て行かなければならない。ある持続放出配合物において、マトリックスが物理的に膨潤してゲルを形成し、それによって、薬剤は先ずマトリックス中で溶解し、次に、表面層から出て行かなければならない。
【0047】
制御放出と持続放出の違いは、制御放出は、完全にゼロ次放出であり、即ち、薬剤が、濃度に関係なく経時的に放出される。一方、持続放出は、時間の経過に伴う薬剤のゆっくりした放出を意味する。それは制御放出であってもよく、そうでなくてもよい。
【0048】
本開示の他の態様は、生体適合性多糖ゲル組成物の製造方法に関し、該方法は、多糖ゲルの多孔性網状構造に少なくとも1つの目的溶質を封入することを含んで成る。多孔性網状構造は、多糖と関連付けることができる。グリコシド結合によって結合した多くの単糖から成る重合体である多糖は、目的溶質の封入に使用できる空間を有しうる。多糖の多孔性網状構造は、多糖に封入されている少なくとも1つの目的溶質の持続放出を可能にする。例えば、少なくとも1つの目的溶質、例えばトリアムシノロンアセトニドを、ヒアルロン酸粒子に封入することができる。持続放出は、多孔性網状構造を通る少なくとも1つの目的溶質によって達成できる。
【0049】
少なくとも1つの目的溶質を多糖ゲルの多孔性網状構造に封入することを含んで成る生体適合性多糖ゲル組成物のこの製造方法において、多糖は、例えば、ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩であってよいが、それらに限定されない。さらに、該方法において、少なくとも1つの目的溶質を封入することができる多糖は、架橋または非架橋であってよい。ヒアルロン酸のような多糖を架橋するのに有用な架橋試薬が存在する。そのような試薬は、例えば、1,4 Butanediol Diglycidal EtherまたはDivinyl Sulfoneである。
【0050】
さらに、多糖に封入するのに好適な薬剤は、トリアムシノロンアセトニドであるが、それに限定されない。本開示の他の態様は、少なくとも1つの目的溶質と多糖との共有結合によって多糖に移植された少なくとも1つの目的溶質を含んで成る持続放出特性を有する生体適合性多糖ゲル組成物に関する。本開示の生体適合性多糖ゲル組成物の関連製造方法に関して言えるように、使用される多糖は架橋または非架橋であってよい。さらに、使用される多糖は、ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩から成る群から選択しうる。好ましい実施形態はヒアルロン酸である。少なくとも1つの目的溶質は、トリアムシノロンアセトニドのような薬剤であってよい。
【0051】
または、本開示の範囲および教示による好ましい生体適合性組成物は、トリアムシノロンアセトニドとヒアルロン酸との共有結合によってヒアルロン酸に移植されたトリアムシノロンアセトニドを含んで成る持続放出特性を有する生体適合性ヒアルロン酸ゲル組成物である。少なくとも1つの目的溶質を多糖ゲルの多孔性網状構造に封入することを含んで成る方法によって製造される生体適合性多糖ゲル組成物において、該多糖は、例えば下記の多糖であってよい:ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩。多糖に移植される少なくとも1つの目的溶質は、例えば薬剤であってよい。本明細書において使用される薬剤は、疾患の治療、治癒、予防または診断に使用されるか、または肉体的または精神的健康の増進に使用される化学物質を意味する。薬剤はトリアムシノロンアセトニドであってよいが、それに限定されない。
【0052】
本開示の他の態様は、治療有効量の本発明の生体適合性多糖ゲル配合物の組成物を投与することを含んで成る疾患または症状を治療する方法に関する。疾患または症状の例は、Trivaris(登録商標)で治療しうる炎症性眼疾患のような眼疾患である。本開示の範囲および教示に含まれる他の眼疾患の例は、交感性眼炎、側頭動脈炎およびブドウ膜炎である。
【0053】
本開示の範囲および教示によって治療できる可能性のある網膜疾患は、湿性および乾性加齢性黄斑変性(AMD)、糖尿病性黄斑浮腫、および網膜静脈閉塞関連黄斑浮腫を包含する。特に脈絡膜新生血管(CNV)用の活性医薬成分は、抗VEGF化合物、例えば、Avastin(登録商標)、Lucentis(登録商標)、または他の全長モノクローナル抗体または抗体フラグメントを包含するが、それらに限定されない。その他に、下記を包含する:抗VEGFアプタマー(例えば、Pegaptanib(登録商標))、可溶性組換えデコイレセプター(例えば、VEGF Trap)、コルチコステロイド、VEGFRまたはVEGFリガンドの発現を減少させる小干渉RNA(small interfering RNA's decreasing expression of VEGFR or VEGF ligand)、チロシンキナーゼ阻害剤でのVEGFR後遮断、MMP阻害剤、IGFBP3、SDF-1ブロッカー、PEDF、ガンマ-セクレターゼ、デルタ様リガンド4、インテグリンアンタゴニスト、HIF-1アルファ遮断、プロテインキナーゼCK2遮断、および血管内皮カドヘリン(CD-144)および間質由来因子(SDF)-1抗体を使用する新生血管形成部位に向かう幹細胞(即ち、内皮前駆細胞)の阻害。必ずしも抗-VEGF化合物ではない、CNVに対する活性を有する薬剤も使用することができ、そのような薬剤は、抗炎症薬、ラパマイシン、シクロスポリン、抗-TNF薬、および抗補体薬を包含する。抗補体薬は、地図状委縮を包含する乾性AMDの全形態を治療するのにも極めて有用である。神経保護性であり、乾性黄斑変性の進行を潜在的に減少させる薬剤、例えば、「神経ステロイド」と称される種類の薬剤を使用することもできる。このような薬剤は、例えば、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)(商標名:Prastera(登録商標)およびFidelin(登録商標))、硫酸デヒドロエピアンドロステロン、および硫酸プレグネノロンである。他の神経保護剤、例えば、ブリモニジンおよび他のアルファアゴニスト、およびCNTFを使用することもできる。これらの成分または薬剤または化合物は全て、本開示の範囲および教示に含まれる1つ以上の目的溶質として使用しうる。
【0054】
本明細書において、本開示の生体適合性多糖ゲル組成物からの目的溶質の放出速度を制御する方法も開示され、該方法は、多糖マトリックスの多孔度を調節する工程を含んで成る。放出速度は、ゲルマトリックスの多孔度を調節することによって調節でき、該多孔度の調節は特定パラメータを変化させて障害作用を調節することによって行うことができる。このようなパラメータは、下記を包含する:多糖(例えばヒアルロン酸)濃度、架橋度、架橋剤の化学的性質、原材料多糖(例えばヒアルロン酸)の分子量分布、および架橋する間に多糖ゲルマトリックスの全体的多孔度に直接的に作用する反応条件。例えば、本発明のゲル組成物中に充分な濃度の高分子量ヒアルロン酸ナトリウムを使用または含有することは、投与のための粘性ゼラチン状プラグ(gelatinous plugs)の形成を可能にする。
【0055】
本開示の他の態様は、本発明の生体適合性多糖ゲル配合物および医薬担体を含んで成る医薬組成物に関する。該医薬組成物は1つ以上の薬剤を任意に含有でき、それは、例えば、乳化剤、湿潤剤、甘味または香味剤、等張化剤、防腐剤、緩衝剤または酸化防止剤であるが、それらに限定されない。本発明の医薬組成物に有用な等張化剤は、限定するものではないが、塩、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールまたはグリセリン、および他の医薬的に許容される等張化剤を包含する。本発明の医薬組成物に有用な防腐剤は、限定するものではないが、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、チメロサール、酢酸フェニル水銀、および硝酸フェニル水銀を包含する。医薬組成物の調製のために、pH調節用の種々の緩衝剤および手段を使用することができ、それらは酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液およびホウ酸緩衝液を包含するが、それらに限定されない。医薬組成物に有用な酸化防止剤も当分野において周知であり、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アセチルシステイン、ブチル化ヒドロキシアニソール、およびブチル化ヒドロキシトルエンを包含する。薬理学分野において既知のこれらおよび他の物質を、本発明の医薬組成物に含有しうるものと理解される。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences Mac Publishing Company, Easton, PA 第16版、1980参照。
【0056】
本明細書において使用される「担体」、「不活性担体」および「許容される担体」は、交換可能に使用でき、所望の組成物を得るために本開示の多糖ゲルと組み合わせうる担体を意味する。当業者は、特定の治療用医薬組成物の製造用に周知の、多くの担体を認識している。
【0057】
本発明の組成物は、本発明の組成物に1つ以上の有用な特性および/または利点を与えるのに有効な量の、1つ以上の他の成分を含有しうる。例えば、本発明の組成物は、添加防腐成分を実質的に含有しなくてもよいが、他の実施形態において、本発明の組成物は、有効量の防腐成分、好ましくは、組成物が配置される組織に、ベンジルアルコールより適合性または害のない成分、を含有する。そのような防腐成分の例は、下記の物質であるが、それらに限定されない:塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアニド)、メチルおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば、安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩等、他の眼科的に許容される防腐剤等、ならびにそれらの混合物。本発明の組成物に防腐成分が存在する場合、その濃度は、組成物を保存するのに有効な濃度であり、多くの場合、組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)である。
【0058】
さらに、本発明の組成物は、本発明の組成物におけるコルチコステロイド成分粒子の懸濁または再懸濁を促進するのに有効な量の再懸濁成分を含有しうる。前述のように、特定の実施形態において、本発明の組成物は添加再懸濁成分を含有しない。本発明の組成物の他の実施形態において、例えば、コルチコステロイド成分粒子が、所望のように懸濁状態に維持され、かつ/または再懸濁が必要とされる本発明の組成物に比較的容易に再懸濁されることをより確実にするために、有効量の再懸濁成分が使用される。有利には、本発明によって再懸濁成分が使用される場合、該成分は、組成物を配置する組織に、ポリソルベート80より適合性であるかまたはより無害であるように選択される。
【0059】
任意の好適な再懸濁成分を、本発明によって使用しうる。そのような再懸濁成分の例は、下記の物質であるが、それらに限定されない:界面活性剤、例えば、ポロキサン(例えば、商標Pluronic.RTMで市販されている)、チロキサポール、サルコシネート、ポリエトキシル化ヒマシ油、他の界面活性剤等、およびそれらの混合物。
【0060】
再懸濁成分の1つの極めて有用な種類は、ビタミン誘導体から選択される。そのような物質は、これまで、組成物中の界面活性剤としての使用が示されているが、それらは本発明の組成物において再懸濁成分として有効であることが見出された。有用なビタミン誘導体の例は、ビタミンEトコフェリルポリエチレングリコールスクシネート、例えば、ビタミンEトコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート(ビタミンE TPGS)であるが、それらに限定されない。他の有用なビタミン誘導体は、ビタミンEトコフェリルポリエチレングリコールスクシンアミド、例えば、ビタミンEトコフェリルポリエチレングリコール1000スクシンアミド(ビタミンE TPGSA)(これにおいて、ポリエチレングリコールと琥珀酸とのエステル結合が、アミド基で置き換えられている)を包含するが、それらに限定されない。
【0061】
本発明の組成物に現在有用な再懸濁成分が存在する場合、該成分は、例えば組成物の製造中またはその後に、本発明の組成物への粒子の懸濁を促進するのに有効な量で存在する。使用される再懸濁成分の特定量は、例えば、使用される特定再懸濁成分、再懸濁成分が使用される特定組成物などの要素に依存して、広い範囲で変化しうる。本発明の組成物に再懸濁成分が存在する場合、その好適な濃度は、約0.01%〜約5%、例えば、約0.02%または約0.05%〜約1.0%(w/v)であることが多い。
【0062】
特に指定しない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載されている成分の量、属性、例えば分子量、反応条件等を表わす全ての数値は、あらゆる場合において「約」という語によって修飾されているものと理解される。従って、特に指示されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化しうる概数である。少なくとも、かつ、特許請求の範囲への均等の原則の適用を制限するものではないが、各数値パラメータは、少なくとも、記載されている有効桁の数字に照らして、かつ通常の端数計算法を適用して、解釈されるものとする。本発明の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは概数であるが、特定の実施例に記載されている数値は、できる限り正確に記載されている。しかし、あらゆる数値は、各試験測定値に見出される標準偏差から必然的に生じるある程度の誤差を本質的に含んでいる。
【0063】
本発明の説明に関して(特に、特許請求の範囲に関して)使用されている「a」、「an」、「the」という語および同様の指示詞は、特に指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾するものでない限り、単数および複数の両方を含むものと解釈される。本明細書における数値範囲の記載は、単に、範囲内の各個別数値を個々に参照するのを簡潔化した方法として示すものである。特に指示しない限り、各個別数値は、本明細書において個々に記載されているものとして、本明細書に組み入れられる。本明細書に記載されている全ての方法は、特に指示しない限り、または文脈と明らかに矛盾するものでない限り、任意の好適な順序で行うことができる。任意のおよび全ての例、または本明細書に示されている例示的語句(例えば、「例えば」という語句)は、本発明をより詳しく例示するものにすぎず、特許請求の範囲に記載されている以外は本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のどの語句も、本発明の実施に必須ないかなる非請求要素も示さないものと理解すべきである。
【0064】
本明細書に開示されている発明の選択的要素または実施形態のグループ分けは、限定されたものと理解すべきでない。各グループの構成員は、個々に、またはグループの他の構成員もしくは本明細書に見出される他の要素と任意に組み合わせて、言及してよく、特許請求してよい。グループの1つ以上の構成員を、便宜上および/または特許性の理由により、グループに包含するかまたはグループから除外することが考えられる。任意のそのような包含または除外が行われる場合、本明細書は、変更されたグループを含み、従って、特許請求の範囲に使用されている全てのマーカッシュグループの記載を満たすものとみなされる。
【0065】
本発明の特定の実施形態が本明細書に記載されており、該実施形態は、本発明者に既知の、本発明の実施に最良の形態を含んでいる。当然、前述の説明を読めば、これら記載された実施形態の変形が当業者に明らかである。本発明者は、当業者が必要に応じてそのような変形を使用することを考え、本発明者は本明細書に特に記載されている以外の方法で本発明が実施されることを予期している。従って、本発明は、特許請求の範囲に記載されている主題についての、適用可能な法律によって許可される全ての変更および等価物を包含する。さらに、全ての可能な変形における前記要素の任意の組み合わせも、本明細書において特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、本発明に含まれる。
【0066】
さらに、本明細書を通して、多くの特許および刊行物が参照されている。前述の各文献および刊行物の全内容は、個々に、参照により本明細書に組み入れられる。
【0067】
最後に、本明細書に開示されている本発明の実施形態は、本発明の原理を例示するものと理解される。他の変更を、本発明の範囲内で使用しうる。即ち、例示するものであって限定するものではないが、本発明の代替構成を本明細書の教示に従って使用しうる。よって、本発明は、提示され記載されているものに厳密に限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
持続放出特性を有する生体適合性多糖ゲル組成物の製造方法であって、少なくとも1つの目的溶質と多糖との共有結合によって、前記少なくとも1つの目的溶質を前記多糖に移植することを含んで成る方法。
【請求項2】
前記共有結合が、前記多糖の1つ以上のヒドロキシル基および/またはカルボキシル基によって形成される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多糖が架橋されている請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多糖が、ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩から成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記多糖がヒアルロン酸である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの目的溶質が薬剤である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記薬剤がトリアムシノロンアセトニドである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの目的溶質を、多糖ゲルの多孔性網状構造に封入することを含んで成る生体適合性多糖ゲル組成物の製造方法。
【請求項9】
前記多糖が架橋されている請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記多糖が、ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩から成る群から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記多糖がヒアルロン酸である請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの目的溶質が薬剤である請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記薬剤がトリアムシノロンアセトニドである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
持続放出特性を有する生体適合性多糖ゲル組成物であって、少なくとも1つの目的溶質と多糖との共有結合によって、前記多糖に移植された前記少なくとも1つの目的溶質を含んで成る生体適合性多糖ゲル組成物。
【請求項15】
前記多糖が架橋されている請求項14に記載の生体適合性多糖ゲル組成物。
【請求項16】
前記多糖が、ヒアルロン酸、硫酸デキストラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、キトサン、ケラチン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸およびアルギン酸塩から成る群から選択される請求項14に記載の生体適合性多糖ゲル組成物。
【請求項17】
前記多糖がヒアルロン酸である請求項14に記載の生体適合性多糖ゲル組成物。
【請求項18】
前記少なくとも1つの目的溶質が薬剤である請求項14に記載の生体適合性多糖ゲル組成物。
【請求項19】
前記薬剤がトリアムシノロンアセトニドである請求項18に記載の生体適合性多糖ゲル組成物。
【請求項20】
持続放出特性を有する生体適合性ヒアルロン酸ゲル組成物であって、トリアムシノロンアセトニドとヒアルロン酸との共有結合によって、前記ヒアルロン酸に移植されたトリアムシノロンアセトニドを含んで成る生体適合性ヒアルロン酸ゲル組成物。
【請求項21】
疾患または症状の治療方法であって、治療有効量の請求項14に記載の組成物を、それを必要とする哺乳動物に投与することを含んで成る方法。
【請求項22】
前記疾患または症状が眼症状である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項14に記載の生体適合性多糖ゲル組成物からの、少なくとも1つの目的溶質の放出速度を制御する方法であって、前記多糖のマトリックスの多孔度を調節する工程を含んで成る方法。
【請求項24】
前記調節工程が、前記多糖の濃度、架橋度、分子量分布、および架橋剤を変更することを含んで成る請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記調節工程が、前記多糖の架橋度を変更することを含んで成る請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記調節工程が、前記多糖の分子量分布を変更することを含んで成る請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記調節工程が、架橋する間に前記マトリックスの多孔度に影響を与える反応条件を変更することを含んで成る請求項23に記載の方法。
【請求項28】
請求項14に記載の生体適合性多糖ゲル配合物および医薬担体を含んで成る医薬組成物。

【公表番号】特表2011−505369(P2011−505369A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536162(P2010−536162)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/084841
【国際公開番号】WO2009/073508
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】