説明

薬剤包装用基材、薬剤包装用容器およびこれらを用いた製剤

【課題】 薬剤と薬剤包装用容器との相互作用による薬剤の変質を抑制した薬剤包装用基材および該基材から形成された薬剤包装用容器および該容器に薬剤を充填した薬剤を提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分が、炭素数1,000あたりの分岐度50以下であるポリオレフィン系樹脂から成形された薬剤包装用基材、該基材から形成された薬剤包装用容器ならびに該容器に薬剤を充填した製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤包装用基材、該基材から製造された薬剤包装用容器ならびに該容器に薬剤を充填した製剤に関し、より詳細には、該薬剤包装用容器から溶出される成分を抑制した薬剤包装用基材、薬剤包装用容器ならびに製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、薬剤を収容する容器として、線状ポリオレフィン単層フィルムまたは線状ポリオレフィンと水分またはガスバリア性を有するポリマーとの多層フィルムを使用した容器が広く使用されている。また、近年、日本薬局方の改正により、これらのフィルムを接着剤により接合した多層フィルムの使用が認められ、多くの性能を付与した医療用容器が開発され、種々の薬剤をこのような容器に収容することが可能となっている。
しかしながら、容器の性能向上および種々の薬剤を収容可能となったことにより、線状ポリオレフィンから溶出してくる低分子量成分および接着層から溶出してくる成分などの不純物と有効成分である薬剤との相互作用による薬剤含量の低下、類縁物質の増加、薬液の濁度の増加、または不溶性微粒子の増加等の問題が発生している。
【0003】
このような状況下に、包装すべき薬剤に対して悪影響を起こす危険がないか、または非常に少ないポリオレフィンとして、ベント式押出機により直鎖状低密度ポリエチレンを樹脂温度170〜230℃、減圧条件10トール以下で処理した炭素数12以上26以下の物質の含有量が150ppmである薬剤包装用ポリオレフィン包装材が提案されている(特許文献1)。また、食品、飲料または医薬品のための低分子量物質の溶出が少ない包装材として、基材に環状オレフィンコポリマーまたは環状オレフィンコポリマーとポリオレフィン樹脂とのブレンドポリマーを介してシーラント層、例えば直鎖状低密度ポリエチレンまたは無延伸ポリプロピレンを積層した低溶出包装材が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、これらの包装用基材では、包装する医薬品が固形薬剤であって、使用時に溶解液によって、薬液として使用される薬剤包装用容器である場合、薬液の濁度および不溶性微粒子の増加がいまだ解決されていない。また、これらの包装材からなる薬剤包装用容器は、高圧滅菌、熱水滅菌のみならず、γ線照射による耐久性を有することも要求されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2826643号公報
【特許文献2】特開2001−162724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、薬剤と薬剤包装用容器との相互作用による薬剤の変質を引き起こす要因を特定し、その要因の影響を減じた薬剤包装用基材および該基材から形成された薬剤包装用容器および該容器に薬剤を充填した製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、抗生物質等の薬剤と薬剤包装用容器との相互作用による薬剤の変質を引き起こす因子として、包装用容器に使用した薬剤包装用基材中の低分子量成分の分岐度が重要な役割を果たしていることに注目し、種々検討した。その結果、ポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分が、炭素数1,000あたりの分岐度50以下であるポリオレフィン系樹脂から成形された基材が固形薬剤を収容した場合、薬剤の変質が抑制されることが見出された。
【0007】
すなわち、本発明はポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分が、炭素数1,000あたりの分岐度50以下であるポリオレフィン系樹脂から成形された薬剤包装用基材である。
【0008】
また、本発明は薬剤と接する層がポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分が、炭素数1,000あたりの分岐度50以下であるポリオレフィン系樹脂から成形された層である薬剤包装用容器である。
【0009】
さらに、本発明は上記した薬剤包装用容器に薬剤を充填した製剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、基材中の低分子量成分が実質的に分岐を有しないポリオレフィン系樹脂、より具体的にはポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分が、炭素数1,000あたりの分岐度50以下であるポリオレフィン系樹脂を選択することにより、このポリオレフィン系樹脂基材から製造された容器に薬剤を収容しても、薬剤と容器との相互作用が見られず、薬剤の変質を防止することができる。すなわち、薬剤包装用基材の低分子量成分が徐々に表面に移行し、薬剤と相互作用することによって、経時的に薬剤の変質を引き起こすことがあり、その低分子量成分、すなわち有機溶媒の抽出物が実質的に分岐のないポリエチレンであれば、薬剤との相互作用が減じられ、薬剤の変質が防止できる。これは1つには、同じ炭素数であっても、直鎖である低分子量成分は高い融点を有し、固体となる割合が高くなるために、表面への移行が抑制されること、2つには、直鎖である低分子量成分は熱加工や経時による酸化を受けにくいため、酸素を含む化合物となり難く、表面に移行しても薬剤との好ましくない相互反応を引き起こしにくくなるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明における薬剤包装用基材としては、単層フィルム、積層フィルムなどのシート状あるいは管状物品が挙げられる。該基材としては、さらに本発明のポリオレフィンから直接に成形される袋、ボトル、筒状物、注射器、プレフィルドシリンジなどの物品も包含する。また、薬剤包装用容器としては、これらのシート状基材または管状基材から製造された薬剤を収容する容器、例えば袋状物、複室容器などが挙げられる。具体的には、注射用の液体薬品容器、バイアル、アンプル、プレフィルドシリンジ、輸液用バッグ、固形薬品容器、点眼薬容器、点滴薬容器などの液体または固体を収容する薬剤容器、固体薬剤と液剤を収容する複室容器、例えば、液剤を収容する液剤区画室と薬剤を収容する薬剤区画室が剥離可能なシール部で流体密に区画された複室容器、2種以上の液剤を収容する複室容器などの物品が含まれる。
【0012】
本発明に使用するポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの単独重合体、エチレンとα−オレフィンの共重合体、プロピレンとα−オレフィンとの共重合体などが挙げられる。
ポリエチレン(単独重合体または共重合体を含む)としては、一般に密度を基準にして高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンに分類されている。また、エチレンとα−オレフィンの共重合により作られた低密度ポリエチレンは線状低密度ポリエチレンと呼ばれることもある。エチレンと共重合可能なα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1などが挙げられる。
低密度ポリエチレンとしては、酸素や過酸化物を触媒として、いわゆる高圧法で製造されたものが広く使用されており、比重0.910〜0.929、MFR0.1〜100g/10分のものなどが好適に使用される。
直鎖状低密度ポリエチレンとしては、Ziegler触媒やメタロセン触媒を用いて、気相法、高圧法、スラリー法、溶液法で製造されたものが広く使用されており、比重0.945程度までのもので、MFR1〜50g/10分のものなどが好適に使用される。
高密度ポリエチレンとしては、Ziegler触媒やPhillip触媒を用いてスラリー法によって製造されたものが広く出回っており、比重0.940〜0.971、数平均分子量が3,500〜300,000、MFR0.01〜15g/10分(190℃,2.16kg)のものなどが好適に使用される。
ポリプロピレンとしては、プロピレンホモポリマー、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどが挙げられる。プロピレンと共重合可能なα−オレフィンとしては、エチレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1などが挙げられる。
これらポリオレフィンは本発明の趣旨を損なわない範囲で単独で、もしくは2種以上のブレンドによって使用される。ポリオレフィン以外のポリマーのブレンドは、本発明の趣旨を損なわない範囲で可能である。
【0013】
本発明において製剤とは、本発明の薬剤包装用容器に薬剤を充填した製剤であり、例えば、プレフィルドシリンジ、輸液バッグ、複室容器などの薬剤を充填した製剤が包含される。
【0014】
一般に材料中に含まれる微量成分の分離方法としては、有機溶剤に浸漬して振とうする方法あるいは通常のソックスレー抽出法など有機溶剤による抽出が知られているが、本発明の抽出方法は、n−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出を行なう方法をいう。具体的には樹脂1g当たり30mLのn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出を行なう。ポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンでソックスレー抽出が不可能な場合は、n−ヘキサンに代えて、n−ペンタン、n−ヘプタンでソックスレー抽出することも可能である。
抽出液の溶剤、n−ヘキサンはエバポレータや自然乾燥で揮発させ、得られた抽出物を核磁気共鳴スペクトルによって分析する。各化学シフト値と積分値により、抽出物の分岐度が求められる。すなわちメチン炭素数を炭素数1,000当たりで計算して得られたものを分岐度とする。分岐度0とは、メチン炭素に相当するピークが存在しないことを意味する。
本発明では、ポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分を核磁気共鳴スペクトルで測定したときに、炭素数1,000当たりの分岐度50以下であることが必要である。分岐度が50を超えると、このようなポリオレフィン系樹脂を使用した薬剤包装用容器では、薬剤と容器との相互作用を生じることがある。具体的には、粉末薬剤を収容した場合、薬剤が容器と相互作用し、例えば収容した薬剤を溶解液にて溶解したとき、薬液中に濁りを生じる微粒子が増加するなど、好ましくない現象が起きる。
【0015】
本発明では、薬剤包装用基材として低分子量成分が実質的に分岐を有しないポリオレフィン系樹脂を使用することが最も望ましい。しかしながら、様々な制約により不可能な場合には、基材を製造するペレットまたはペレットから製造された成形品を溶媒抽出、減圧乾燥、あるいはベント式押出機を使用した吸引による押出しなど公知手段によって低分子量成分の分岐度を低下させてもよい。
【0016】
本発明の一実施形態としては、上記基材層を少なくとも最内層に含む多層フィルムから形成された薬剤包装用多層容器がある。具体的には、ドライラミネーション、押出コーティング、共押出ラミネーション(Tダイ法、インフレーション法)、ヒートラミネーション等、あるいはこれらの方法を組合せたラミネーション法により製造することができる。多層フィルムを構成する他の層としては、他のポリオレフィンを含むプラスチック層、ガスバリア層、印刷可能層などを有することができる。使用目的に応じて、これらの層が選択される。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
実施例および比較例中、各測定項目は下記方法により測定した。
低分子量成分の分岐度測定:単層フィルム10gをn−ヘキサンでソックスレー抽出し、抽出液からエバポレータでn−ヘキサンを揮発させて、残留物の乾燥重量を測定した。残留物を13C−核磁気共鳴スペクトル分析に供し、全体の炭素に対するメチン炭素を測定した。その割合より炭素数1,000あたりの分岐度を求めた。
濁度:濁度計(HACH社製、2100N)を使用し、濁度物質により減衰した透過光(LED光源からの平行光線)と濁度物質により発生した散乱光量(光源に対して90°方向に配置された受光部にて測定)を同時に測定して、それぞれの比率を求める。濁度測定単位として、フォルマジン濁度(NTU)を採用する。
【0018】
実施例1
高密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、密度0.957g/cm3、MFR0.35g/10分)をインフレーション成形した後、厚さ50μmのシート状フィルムを得た。このフィルムを9cm×16cmの大きさに切断し、二つ折りにし、1cm幅で2方インパルスシールして一端が開口する袋状物を得た。この袋状物に抗生物質1.06gを入れて、開口部を1cm幅でインパルスシールした。ガラスボトル内に、この袋状物を密封し、50℃で保管した。4週間経過後、袋状物を開封し、蒸留水に加えて、抗生物質を溶解し、3.42g/25mlの溶液を得た。この溶液の濁度を測定した。別にフィルムのみを用いて、n−ヘキサン抽出後の残存物質の低分子量成分の分岐度測定を行った。その結果を表1に示す。
【0019】
実施例2
実施例1における高密度ポリエチレンに代えて、中密度ポリエチレンペレット(宇部興産株式会社製、密度0.938g/cm3、MFR4.0g/10分)を用いた以外は、実施例1と同様にして袋上物を形成し、これに薬剤を収容し、同様な試験を行った。その結果を表1に示す。
【0020】
比較例1
実施例1における高密度ポリエチレンペレットに代えて、線状低密度ポリエチレン(東ソー株式会社製、密度0.930g/cm3、MFR2.0g/10分)を用いた以外は、実施例1と同様にして袋上物を形成し、これに薬剤を収容し、同様な試験を行った。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1によれば、フィルムの低分子量成分が実質的に分岐を有しないポリエチレンである、より具体的には炭素数1,000あたりの分岐度が50以下であるポリエチレンである時、蒸留水溶解後の濁度は低くなり、すなわち薬剤と容器との相互作用が抑制され、溶状も異常がなかった。それに対して低分子量成分が実質的に分岐を有するポリエチレンである、より具体的には、炭素数1,000あたりの分岐度が50を越えるポリエチレンであると、見た目にも濁りが観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分が実質的に分岐のないポリオレフィン系樹脂である薬剤包装用基材。
【請求項2】
前記残存成分は、ポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分を核磁気共鳴スペクトルで測定したときに、炭素数1,000当たりの分岐度50以下である、請求項1記載の薬剤包装用基材。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとα−オレフィンの共重合体、環状ポリオレフィンまたは環状オレフィンとα−オレフィンの共重合体である、請求項1記載の薬剤包装用基材。
【請求項4】
ポリエチレンが高密度ポリエチレンまたは中密度ポリエチレンである、請求項1記載の薬剤包装用基材。
【請求項5】
前記基材は単層フィルムまたは積層フィルムである、請求項1記載の薬剤包装用基材。
【請求項6】
薬剤と接する層がポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分が実質的に分岐のないポリオレフィン系樹脂である薬剤包装用容器。
【請求項7】
前記残存成分は、ポリオレフィン系樹脂をn−ヘキサンで6時間、ソックスレー抽出し、n−ヘキサンを蒸発させた後に残存する成分を核磁気共鳴スペクトルで測定したときに、炭素数1,000当たりの分岐度50以下である、請求項6記載の薬剤包装用容器。
【請求項8】
容器がバイアル、アンプル、プレフィルドシリンジ、輸液用バッグ、固形薬品容器、液体薬品容器、点眼薬容器、点滴薬容器を含む液体または固体を収容する容器である、請求項5記載の薬剤包装用容器。
【請求項9】
固体薬剤と液剤を収容する複室容器である、請求項6記載の薬剤包装用容器。
【請求項10】
請求項6に記載される薬剤包装用容器に薬剤を充填した製剤。
【請求項11】
薬剤は、固形薬剤である、請求項10記載の製剤。
【請求項12】
薬剤は、抗生物質、抗菌剤、抗ガン剤、またはホルモン剤からなる群から選択された固形薬剤である、請求項10記載の製剤。

【公開番号】特開2006−213800(P2006−213800A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−26759(P2005−26759)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】