説明

薬剤揮散器

【課題】常温でガス化する揮散性の物質を定量的に安定して揮散させることができ、且つ、取り扱いが簡便で安全性にも優れた薬剤揮散器を提供すること。
【解決手段】常温でガス化する揮散性の有効成分を含有した薬剤を収納する薬剤容器と、該薬剤容器に穿刺される管状体とを備え、薬剤容器は少なくとも一部が気体非透過性フィルムにより構成されて、且つ、気密封止されており、管状体は両端を開口した中空状であり、該管状体の一端は尖端部を有し、管状体の尖端部により前記気体非透過性フィルムが破断されて当該管状体が穿刺されることにより、有効成分が該管状体の中空部を通して大気中へ放出される薬剤揮散器であって、気体非透過性フィルムは、管状体が穿刺されたときに破断部分が復元性を有するとともに、揮散した有効成分により膨潤するものからなり、前記管状体による破断により形成された間隙が塞がれる薬剤揮散器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤揮散器に関し、さらに詳しくは、常温でガス化する揮散性の物質(有効成分)を定量的に安定して揮散させる薬剤揮散器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、防虫成分や芳香成分等の常温でガス化する揮散性の物質は、担持体に含浸させたものを密封容器に封入しておき、使用時に当該密封容器を破断して、その破断口から揮散させて使用したり、気体透過性フィルムと気体非透過性フィルムとを各層剥離可能に積層した蓋体が設けられた密封容器に揮散性物質を含浸させた担持体を収納し、前記気体非透過性フィルムを剥して使用されている。
【0003】
例えば、常温揮散性ピレスロイドを含有する無機又は有機担体を、所定の孔径の孔が全面に多数個穿たれたプラスチックフィルム袋に封入した防虫剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この防虫剤は、非使用時は非通気性の袋で密封保存し、使用時に開封して前記プラスチックフィルム袋を取り出し使用する。
また、揮散性物質を含む薬剤担持体が収納される薬剤非吸着性の本体と、透過性フィルムに非透過性フィルムを各層剥離可能に積層してなる蓋体を備えた揮散性物質収納容器において、前記非透過性フィルムの剥離面積、又は透過性フィルムの剥離枚数を選択自在として揮散性物質の揮散量を調節可能に構成した揮散性物質収納容器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、多数の通気孔を有する薄膜片の片面に、防虫防臭薬剤またはその含浸片を定置し、その周辺部に接着剤を塗布した防虫防臭用貼着片が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この防虫防臭用貼着片は、ゴミ容器の除虫、脱臭などを目的として接着剤部分でゴミ容器の蓋体内面に貼着させて使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−139903号公報
【特許文献2】特開2005−187052号公報
【特許文献3】実開昭52−168475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の防虫剤や特許文献3の防虫防臭用貼着片は、使用者の手に直接薬剤が触れる危険性があるため安全性に問題があり、また、有効成分の定量的な揮散や持続時間の調節が難しい。また、特許文献2の揮散性物質収納容器では、揮散量の調節はできるが蓋体を気体透過性フィルムと気体非透過性フィルムとで剥離可能に構成しなければならず、手間がかかり、コスト高になる。
【0007】
本発明は前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、常温でガス化する物質(有効成分)を定量的に安定して揮散させることができ、且つ、取り扱いが簡便で安全性にも優れた薬剤揮散器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)〜(6)の手段により、上記の課題を解決した。
(1) 常温でガス化する揮散性の有効成分を含有した薬剤を収納する薬剤容器と、該薬剤容器に穿刺される管状体とを備え、
前記薬剤容器は少なくとも一部が気体非透過性フィルムにより構成されて、且つ、気密封止されており、
前記管状体は両端を開口した中空状であり、該管状体の一端は尖端部を有し、
前記管状体の尖端部により前記気体非透過性フィルムが破断されて当該管状体が穿刺されることにより、前記有効成分が該管状体の中空部を通して大気中へ放出される薬剤揮散器であって、
前記気体非透過性フィルムは、前記管状体が穿刺されたときに破断部分が復元性を有するとともに、揮散した有効成分により膨潤するものからなり、前記管状体による破断により形成された間隙が塞がれる
ことを特徴とする薬剤揮散器。
(2) 前記気体非透過性フィルムが、薬剤と接する側からヒートシール層、バリア層の順に積層されたフィルムであることを特徴とする前記(1)に記載の薬剤揮散器。
(3) 前記ヒートシール層が、揮散した有効成分により膨潤することを特徴とする前記(2)に記載の薬剤揮散器。
(4) 前記有効成分の30℃における蒸気圧が、1.0×10−3hPa以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の薬剤揮散器。
(5) 前記有効成分がアリルイソチオシアネートであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の薬剤揮散器。
(6) 前記管状体が複数個設けられていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の薬剤揮散器。
【0009】
尚、本発明において、常温とは、15〜30℃を意味する。
【0010】
本発明において、前記薬剤に含有される有効成分は、常温でガス化する揮散性を有する物質である。前記有効成分としては、例えば、防虫成分、殺虫成分、忌避成分、誘引成分、殺菌成分(抗菌成分)、芳香成分、消臭成分等が挙げられる。
【0011】
防虫成分、殺虫成分としては、例えば、アリルイソチオシアネート、パラジクロルベンゼン、ナフタリン、ショウノウ、ピネン、リナロール、ジクロルボス、フェニトロチオン、IBTA、IBTE、トランスフルトリン、メトフルスリン、プロフルスリン、エンペントリン、プロポクスル、フェノブカルブ、アミドフルメト等が挙げられる。忌避成分としては、例えば、ジエチルトルアミド、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、シトロネラ、レモングラス、ユーカリ油等が挙げられる。誘引成分としては、例えば、乳酸エチル、酪酸、オクタノール等が挙げられる。殺菌成分(抗菌成分)としては、例えば、二酸化塩素、ヨウ素、チモール、イソプロピルメチルフェノール、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、エタノール、プロピルアルコール、フェノール、クレゾール、フェノキシエタノール等が挙げられる。芳香成分としては、例えば、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、イグサ、ヒノキ、シトラール、シトロネラール、レモン、オレンジ、ラベンダー、メントール等の精油成分等が挙げられる。消臭成分としては、例えば、メタアクリル酸エステル、塩素化イソシアヌール酸、二酸化塩素水溶液等が挙げられる。
【0012】
本発明において、前記有効成分は、30℃における蒸気圧が1.0×10−3hPa以上のものを用いることが好ましい。30℃における蒸気圧が1.0×10−3hPa以上である物質を用いることで、後述する気体非透過性フィルムのヒートシール層をより確実に膨潤させることができ、本発明の所望の効果を十分に得ることができる。
【0013】
前記有効成分の配合量は、所望の効果が発揮されれば特に限定されない。例えば、アリルイソチオシアネートの場合は、薬剤全量に対して、5質量%以上配合することが好ましく、25〜75質量%がより好ましい。
【0014】
前記有効成分は、アルコール類(多価アルコール類を含む)、ケトン類、エステル類、エーテル類(グリコールエーテル類など)、油脂、灯油、流動パラフィン等の有機溶媒あるいは水、及びこれらの混合溶媒等の溶媒に溶解して用いることが好ましい。アルコール類としては、例えば、エタノール、プロパノール、オクタノール等が挙げられる。エステル類としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、イソステアリン酸ブチル等が挙げられる。エーテル類としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。油脂としては、例えば、パーム油、オリーブ油等が挙げられる。溶媒の配合量は、薬剤全量に対して25〜75質量%とするのが好ましい。
【0015】
薬剤には、前記有効成分の効果を妨げない範囲で、その他の成分として、酸化防止剤、防腐剤、色素等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ビタミンC等が挙げられる。防腐剤としては、例えば、ソルビン酸カリウム、フェノキシエタノール、塩化セチルピリジニウム(CPC)等が挙げられる。色素としては、青色1号、青色201号、だいだい203号、黄色4号等の法定色素が挙げられる。
【0016】
薬剤は、液体の状態で薬剤容器に充填しても良いが、薬剤保持担体に保持させて収納することが好ましい。薬剤保持担体に薬剤を保持させておくと、薬剤容器が倒立状態にある場合でも破断部材の管状体の揮散口や気体非透過性フィルムの破断部分から薬剤が漏れることがない。
薬剤保持担体としては、前記薬剤を保持できれば特に限定されず、例えば、濾紙、パルプ、リンター、厚紙、ダンボール等の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、高吸油性ポリマー等の樹脂類;セラミック;ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル,ナイロン,アクリル,ポリエチレン,ポリプロピレン等の化学繊維、木綿,絹,羊毛,麻等の天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、化学繊維、天然繊維等からなる不織布や編織布等の布綿;多孔性ガラス材料;多孔性金属材料等が挙げられる。薬剤保持担体に薬剤を保持させるには、薬剤保持担体に薬剤を滴下塗布する方法、含浸塗布する方法、スプレー塗布する方法等の方法が挙げられる。
【0017】
前記薬剤を収納する薬剤容器は、その少なくとも一部が気体非透過性フィルムで構成され、気密封止されている。本発明において気体非透過性フィルムとは、実質的に気体透過性を有しないものを言う。
本発明の気体非透過性フィルムは、薬剤と接する側から、ヒートシール層、バリア層の順に積層された多層構造の積層体フィルムとすることが好ましい。
【0018】
ヒートシール層は、積層体フィルムの最内層になり、揮散した物質(有効成分)と直接接触する層である。また、薬剤を密封状態とする際に、熱や圧力等によって充分に接着することができる接着性が必要である。さらに、本発明において、ヒートシール層は、外力が加わったときに元に戻ろうとする復元力を有し、且つ、揮散した有効成分により膨潤しやすい性質を有している。復元力を有することで、破断部材の管状体が気体非透過性フィルムに穿刺された際、薬剤容器内に入り込んだ破断部分が元に戻ろうとして該管状体に密着し、さらに当該ヒートシール層が揮散した薬剤により膨潤するので、破断により形成された管状体と気体非透過性フィルムとの間の間隙が塞がれ、密着性が向上する。
【0019】
ヒートシール層は、前述のような要件を満たす材質を選択すればよく、単層構造であっても多層構造であってもよい。ヒートシール層としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDP
)等のポリエチレン(PE)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)、未延伸ポリプロピレン(CPP)等のポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー(IO)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂を用いることができる。
【0020】
バリア層は、薬剤容器内の有効成分が揮散するのを防ぐための層であり、単層構造であっても多層構造であってもよい。バリア層としては、例えば、アルミニウム(AL)層、ポリアクリロニトリル(PAN)層、シリカ蒸着PET層、アルミニウム蒸着PET層、アルミナ蒸着PET層、シリカ・アルミナ蒸着PET層、シリカ蒸着CPP層、アルミニウム蒸着CPP層、アルミナ蒸着CPP層、シリカ・アルミナ蒸着CPP層、シリカ蒸着OPP層、アルミニウム蒸着OPP層、アルミナ蒸着OPP層、シリカ・アルミナ蒸着OPP層、シリカ蒸着LDPE層、アルミニウム蒸着LDPE層、アルミナ蒸着LDPE層、シリカ・アルミナ蒸着LDPE層等が挙げられる。本発明において、バリア層は、気密性に優れ、且つフィルムを破断しやすいアルミニウム層などの金属層を有していることが好ましい。
【0021】
さらに、バリア層には、必要に応じて保護層を設けてもよい。該保護層は、積層体フィルムの最外層に設けられ、前記金属層を保護し、気体非透過性フィルムが不注意に破断されることを防ぐことができる。また、復元性を有する樹脂等を用いれば、破断後の破断部分が復元しやすくなる。保護層は、単層構造であっても多層構造であっても良い。保護層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、2軸延伸ポリプロピレン(OPP)、ナイロン等の樹脂を用いることができる。
【0022】
本発明において、気体非透過性フィルム全体の厚さは、10〜200μmとするのが好ましく、40〜110μmがより好ましい。気体非透過性フィルムの厚さが10μmより薄いと、破れやすくなるため好ましくなく、200μmより厚いと、管状体で容易に穿つことができなくなるため好ましくない。尚、気体非透過性フィルムは、前記フィルムの厚さを考慮して6層以下とするのが好ましい。
【0023】
尚、薬剤容器は、少なくとも後述する破断部材の管状体が接触する部分が気体非透過性フィルムにより構成されていればよく、例えば、上方開口のプラスチック容器等の上面を前記気体非透過性フィルムで密封する構成、前記気体非透過性フィルムで袋状とした構成等、種々の形態とすることができる。
【0024】
本発明の薬剤揮散器は、前記薬剤容器を破断するための破断部材を備えている。該破断部材は、該薬剤容器に穿刺される管状体を有している。該管状体はプラスチック、金属などの硬質の素材により形成され、長尺の両端を開口した中空状であって、該管状体の一端は尖端部を有している。管状体を中空状とすることで、この管状体を気体非透過性フィルムに穿刺した状態で薬剤容器内の有効成分を外部へ揮散させることができる。尚、管状体は、中空状であればその外側側壁の形状、つまり断面の形状は特に限定されず、例えば、円形や楕円形、多角形等任意の形状とすることができる。
【0025】
破断部材の管状体の内径は、所定量の有効成分を揮散させるように適宜選択すればよい。具体的には、0.5〜20mm程度が好ましく、1〜10mmがより好ましい。内径が0.5mmより小さいと有効量の有効成分を揮散させることができなくなるため好ましくなく、内径が20mmより大きくなると、有効成分が出すぎる、気体非透過性フィルムを破断し難くなる等のため好ましくない。
【0026】
また、前記管状体の外側側壁に貫通孔やスリットを形成してもよい。貫通孔やスリットを設けておくと、管状体の先端部(尖端部)が、薬剤に浸漬したり、薬剤保持担体に突き刺さった状態でも、薬剤容器内で揮散した有効成分が該貫通孔やスリットを通って容器外へ放出される。
【0027】
本発明において、管状体は複数個設けられていてもよい。管状体を複数備えることで、揮散量を適宜調整することができ、大きな薬剤容器にも対応可能となる。
【0028】
本発明において、薬剤容器の一部に粘着部を設けておくことが好ましい。粘着部を設けておくと、例えば、ゴミ容器の蓋の裏面、ごみ容器の側面等に接着させて使用することができる。
【0029】
また、本発明において、薬剤容器を外容器に収納して使用することもできる。その場合、外容器には前記破断部材の管状体が貫通する貫通孔を設けておくことが好ましい。また、外容器の底部に粘着部を設けておくと、前記したように、例えば、ゴミ容器の蓋の裏面や側面に接着して使用することができる。
【0030】
そして、本発明において、前記破断部材には押圧部材や装飾体を設けてもよい。例えば、管状体の尖端部とは反対の端部に幅広の板材を設けておくと、管状体の尖端部を気体非透過性フィルムに当接させてこの板材を押すだけで、容易に管状体を気体非透過性フィルムに穿刺することができる。また、外容器に薬剤容器を収納する場合は、この押圧部材や装飾体が外容器に係止するので、管状体が薬剤容器を貫通してしまうことを防ぐことができる。
【0031】
本発明の薬剤揮散器の使用方法としては、前記薬剤容器の気体非透過性フィルムに管状体をその尖端部を突き刺して穿刺する。すると、薬剤容器内に収納されている薬剤の有効成分は管状体の中空部を通り空中へ放出される。ここで、管状体が穿刺された気体非透過性フィルムの破断部分は、薬剤容器内に入り込むが、フィルムの復元力により外方へ戻り、さらに揮散した有効成分により最内層のフィルムが膨潤して管状体の外側側壁に密着するので、破断により形成された管状体と気体非透過性フィルムとの間隙は塞がれ、従って、有効成分は管状体の中空部のみを通って大気中へ放出されることになり、該有効成分は常時一定量ずつ放出されることになる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の薬剤揮散器によれば、定量的に安定して有効成分を放出できるので、有効成分による所望の効果を持続させて、十分に得ることができる。また、所定量の有効成分を揮散できるので、使用者が個々に揮散口を設ける場合と異なり決められた各用途に適した必要量の有効成分を揮散させることができる。そして、管状体を薬剤容器に穿刺するだけで有効成分を放出させることができるので取り扱いが簡便であり、安全に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薬剤揮散器の全体斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る薬剤揮散器の使用形態を説明する図である。
【図3】第1実施形態に係る薬剤揮散器の断面図である。
【図4】(a)は破断部材を穿刺直後の図3の要部を示す拡大図であり、(b)は(a)の破断部が密封された状態を説明する図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る薬剤揮散器の斜視図である。
【図6】(a)は第2実施形態に係る薬剤揮散器の非使用時の上面図であり、(b)はそのA−A断面図である。
【図7】第2実施形態の破断部材を下方から見た斜視図である。
【図8】(a)は第2実施形態に係る蒸散揮散器の使用時の上面図であり、(b)はそのB−B断面図である。
【図9】アリルイソチオシアネートの累積揮散量を示すグラフである。
【図10】タマネギに対する防臭効果を示す結果であり、(a)は検体設置の評価を示すグラフ、(b)は無処理の評価を示すグラフ、(c)は検体設置と無処理の比較を示すグラフ、(d)は検体設置と無処理のタマネギの放置後の様子を示す写真図である。
【図11】ネギに対する防臭効果を示す結果であり、(a)は検体設置の評価を示すグラフ、(b)は無処理の評価を示すグラフ、(c)は検体設置と無処理の比較を示すグラフ、(d)は検体設置と無処理のネギの放置後の様子を示す写真図である。
【図12】エビがらに対する防臭効果を示す結果であり、(a)は検体設置の評価を示すグラフ、(b)は無処理の評価を示すグラフ、(c)は検体設置と無処理の比較を示すグラフ、(d)は検体設置と無処理のエビがらの放置後の様子を示す写真図である。
【図13】サバの切り身に対する防臭効果を示す結果であり、(a)は検体設置の評価を示すグラフ、(b)は無処理の評価を示すグラフ、(c)は検体設置と無処理の比較を示すグラフ、(d)は検体設置と無処理のサバの切り身の放置後の様子を示す写真図である。
【図14】試験方法を説明する図である。
【図15】供試食品(キャベツ、ダイコン、ネギ、タマネギ)の腐敗抑制効果試験の結果を示す図であり、(a)は検体処理、(b)は無処理である。
【図16】試験方法を説明する図である。
【図17】供試食品(タマネギ、ミカン、キウイ、ダイコン)の腐敗抑制効果試験の結果を示す図である。
【図18】抗菌効果試験の2日経過後の結果を示す図である。
【図19】ネズミの忌避効果試験の結果を示す図である。
【図20】ネズミの忌避効果試験の結果を示す図である。
【図21】試験方法を説明する図である。
【図22】試験方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の薬剤揮散器の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
(第1実施形態)
図1〜図4は、本発明の第1実施形態の薬剤揮散器を説明する図である。
本発明の第1実施形態の薬剤揮散器10は、図1および図2に示したように、常温でガス化する揮散性の有効成分を含有した薬剤を収納する薬剤容器2と、該薬剤容器2を破断する破断部材1と、該薬剤容器2を収納する外容器3とを備えている。
【0036】
前記破断部材1は、両端を開口した中空の円筒状の管状体(円筒体)11と該管状体11の後端に設けられた装飾体12から構成される硬質樹脂製の部材である。尚、本明細書において、管状体11の薬剤容器2に穿刺する側を先端と言い、他端を後端と言う。前記管状体11の先端は斜切面が形成されて尖端部13が設けられている。装飾体12は板状の部材であり、破断部材1を押圧しやすくなっている。
【0037】
薬剤容器2はプラスチック製の上方開口の薬剤容器本体21と該薬剤容器本体21の上面に熱圧着される気体非透過性フィルム22から構成されている。該気体非透過性フィルム22は前述した構成を有するフィルム、すなわち、最外層側から揮散した有効成分と接する内側に向って、保護層を設けたバリア層、ヒートシール層の順に積層された積層体フィルムである。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)/アルミニウム(AL)/未延伸ポリプロピレン(CPP)の構成を有するフィルムを用いることができる。また、薬剤容器2の内部には、図3に示したように、前述した薬剤がマット状の薬剤保持担体23に保持された状態で収納されている。薬剤に含有される有効成分としては、例えば、アリルイソチオシアネートが挙げられる。
【0038】
外容器3は、上容器31と下容器32とがヒンジで連結されており、互いに対向させて係止することにより、内部に空間を形成している。該下容器32の底板には前記薬剤容器2を載置するための位置決め突起36が複数個設けられている。また、該上容器31の天板には前記破断部材1の管状体11が貫通する貫通孔34が設けられ、また、破断部材1の装飾体12を保持する凹部35が形成されている。
【0039】
第1実施形態において、前記破断部材1の管状体11は、その長さを、破断部材1を外容器3に装着したときに、管状体11の先端が薬剤保持担体23に接触しない長さで設計されている。
【0040】
第1実施形態の薬剤揮散器10の使用時において、まず、外容器3の下容器32に、気体非透過性フィルム22が上容器31側に位置するように薬剤容器2を載置し、上容器31を下容器32に嵌合させる。その後、破断部材1の管状体11を上容器31の貫通孔34から挿入し、装飾体12を押圧する。
【0041】
すると、図3に示したように、破断部材1の管状体11の尖端部13が気体非透過性フィルム22を破断し、薬剤容器2内に進入する。ここで、前記破断部材1の管状体11は、上容器31の貫通孔34から貫通させて外容器3に装着した際に、その管状体11の先端が薬剤保持担体23と接触しない長さに設計されているため、該管状体11の尖端部13は薬剤容器2内で静止する。従って、破断部材1は薬剤容器2の気体非透過性フィルム22のみを破断し、管状体11が穿刺された状態となる。
【0042】
次に、破断部材1による薬剤容器2の破断後の有効成分の放出について説明する。
図4(a)に示したように、薬剤容器2の気体非透過性フィルム22が破断部材1の管状体11により破断された直後は、気体非透過性フィルム22の破断部分が薬剤容器2側に入り込んだ状態になり、僅かではあるものの管状体11の外側側壁と破断部分との間に隙間αが生じる。しかしながら、気体非透過性フィルム22の弾性復元力により薬剤容器2側に入り込んだ破断部分は外方に戻り、更に最内層の樹脂が揮散した有効成分により膨潤して、図4(b)に示したように、前記破断部分は管状体11の外側側壁に密着する。従って、図3の矢印Aで示したように、薬剤容器2内で揮散した有効成分は、管状体11の尖端部13の開口から管状体11の中空部を通って、揮散口14から大気中へ放出されることとなる。
【0043】
従って、本第1実施形態によれば、定量的に安定して有効成分を揮散できるので、有効成分による所望の効果を持続して、十分に得ることができる。また、管状体11を薬剤容器2に穿刺するだけで有効成分を揮散させることができるので取り扱いが簡便であり、安全に使用することができる。
【0044】
(第2実施形態)
次に、図5〜図8を参照しながら、本発明に係る第2実施形態の薬剤揮散器について説明する。
尚、第2実施形態において、前述した第1実施形態と共通する構成部分の説明は同一符号または相当符号を付すことで簡略化あるいは省略する。
【0045】
本発明の第2実施形態の薬剤揮散器100は、図5に示したように、常温でガス化する揮散性の有効成分を含有した薬剤を収納する薬剤容器2と、該薬剤容器2を破断する破断部材5と、該薬剤容器2を収納する外容器7とを備えている。
【0046】
薬剤容器2はプラスチック製の上方開口の薬剤容器本体21と該薬剤容器本体21の上面に熱圧着される気体非透過性フィルム22から構成されている。該気体非透過性フィルム22は前述した構成を有するフィルム、すなわち、最外層側から薬剤と接する内側に向って、保護層を設けたバリア層、ヒートシール層の順に積層された積層体フィルムである。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)/アルミニウム(AL)/未延伸ポリプロピレン(CPP)の構成を有するフィルムが利用できる。また、薬剤容器2の内部には、図6(b)に示したように、前述した薬剤が薬剤保持担体23に保持された状態で収納されている。薬剤に含有される有効成分としては、例えば、アリルイソチオシアネートが挙げられる。
【0047】
外容器7は、有底の略円筒形状であり、図5および図6に示したように、容器本体71と薬剤容器保持部材76と支持部材75と枠体72とで構成されている。前記容器本体71は上方開口の円筒形状である。前記薬剤容器保持部材76は、前記容器本体71よりも小さい内径の上方開口の円筒形状であり、その高さは後述する枠体72の線条突起73の下端部よりも下方に位置するように設計されている。前記支持部材75は前記薬剤容器保持部材76の内径と略等しい直径を有する薄板状であり、破断部材5の管状体51を挿入するための貫通孔74が略等間隔で6箇所設けられている。尚、支持部材75は薬剤容器保持部材76の蓋体として薬剤容器保持部材76の上端部近傍に固定される。前記枠体72はリング状の上面部と、該上面部の内側端部から略垂直に設けられた内面部と、該上面部の外側端部から該内面部と平行に設けられた外面部とで構成され、前記容器本体71の上端、内壁及び外壁を覆っている。枠体72の内面部の内壁には、後述する破断部材5を未使用時に保持するための上下方向に長い線条突起73が略等間隔で6箇所設けられている。尚、前記線条突起73と支持部材75の貫通孔74は、互いに相対する位置に設けられている。
【0048】
前記破断部材5は、図7に示したように、6個の両端を開口した中空の円筒状の管状体(円筒体)51と該管状体51の後端に設けられた天板52とで構成されている。押圧部材である天板52は前記外容器7の枠体72の内径より僅かに小さい外径を有する略円形の平板部材であり、天板52の周縁部には、切り欠き57が略等間隔で6箇所に形成されている。前記管状体51は、前記天板52の裏面に、前記切り欠き57と対向する位置に設けられている。前記管状体51の先端は斜切面が形成されて尖端部53が設けられている。また、管状体51は、その側面に上下方向に線条切り欠き55が形成されており、上面視C形状に構成されている。また、第2実施形態において、管状体51の側面には補強のためのリブ56が設けられている。
【0049】
第2実施形態において、前記破断部材5の管状体51は、その長さが前記薬剤容器2の高さよりも短くなるように設計されている。従って、破断部材5の管状体51を前記支持部材75の貫通孔74から挿入させたときに、該管状体51の先端部が薬剤容器2の底板に接触することはない。
【0050】
第2実施形態の薬剤揮散器100において、前述したごとく、複数の管状体51が設けられていることが大きな特徴である。
【0051】
第2実施形態において、図6(b)に示したように、薬剤容器保持部材76が容器本体71内に載置され、該薬剤容器保持部材76内に薬剤容器2が配置されている。そして、支持部材75は薬剤容器保持部材76の上端付近に固定され、枠体72が容器本体71を覆うように取り付けられている。このとき、枠体72の線条突起73と支持部材75の貫通孔74が互いに相対するように設置されている。未使用時には、図6(a)に示したように、破断部材5が、その天板52の切り欠き57が枠体72の線条突起73からずらされた状態で線条突起73の上端に載置されており、枠体72の上面部と破断部材5の天板52が略面一となっている。
【0052】
使用時において、図8(a)に示したように、天板52の切り欠き57と枠体72の線条突起73が一致するように天板52を回転させる。すると、線条突起73に沿って破断部材5が下方に移動するので、そのまま天板52を押し下げる。すると、図8(b)に示したように、破断部材5の管状体51が支持部材75の貫通孔74を貫通して、該管状体51の尖端部53が気体非透過性フィルム22を破断して薬剤容器2内に穿刺される。尚、前記破断部材5の管状体51は、薬剤容器2の高さよりも短くなるように設計されているため、破断部材5は薬剤容器2の気体非透過性フィルム22のみを破断し、管状体51が気体非透過性フィルム22に穿刺された状態となる。ここで、管状体51の先端は薬剤保持担体23に接触しても構わない。
【0053】
次に、破断部材5による薬剤容器2の破断後の有効成分の放出について説明する。
薬剤容器2の気体非透過性フィルム22が破断部材5の管状体51により破断された直後は、気体非透過性フィルム22の破断部分が薬剤容器2側に入り込んだ状態になり、僅かではあるものの管状体51の外側側壁と破断部分との間に隙間が生じる。しかしながら、気体非透過性フィルム22の弾性復元力により薬剤容器2側に入り込んだ破断部分は外方に戻り、更に最内層の樹脂が揮散した有効成分により膨潤して、前記破断部分は管状体51の外側側壁に密着する。筒状体51の先端は薬剤保持担体23と接触しているが、管状体51の側面には線条切り欠き55が設けられているため、薬剤容器2内で揮散した有効成分は、図8(b)の矢印Bで示したように、線条切り欠き55から管状体51の中空部を通って、揮散口54から空中へ放出されることとなる。
【0054】
従って、本第2実施形態によれば、定量的に安定して薬剤を揮散できるので、有効成分による所望の効果を持続して、十分に得ることができる。また、管状体51を薬剤容器2に穿刺するだけで有効成分を放出させることができるので取り扱いが簡便である。尚、第2実施形態は、管状体51が複数個備えられているため、大きな薬剤揮散器に対しても効果的に使用できる。
【0055】
ここで、前述した各実施形態はそれぞれに限定されず、いずれの実施形態においても、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、薬剤容器を気体非透過性フィルムで袋状に形成しても良い。また、外容器の外側底面に粘着材を添付しておけばゴミ容器の蓋の裏面やゴミ容器の内側側面等に接着させて使用することができる。また、1つの管状体を備えた破断部材を複数備えて、使用場所や環境に応じて薬剤容器に穿刺する破断部材の数を選択する構成とすることもできる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。尚、特に断りの無い限り、配合量は質量%を示す。
【0057】
下記表1に示す組成により各成分を攪拌下で混合し、薬剤検体1を作製した。
【0058】
【表1】

【0059】
(試験例1:揮散試験1)
[試験方法]
縦55mm×横12mm×厚さ4mmの不織布に表1記載の薬剤検体1を5g含浸させ、縦60mm×横15mm×高さ10mmのポリプロピレン(PP)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/ポリプロピレン(PP)からなる上方開口のプラスチック容器に入れた。それから表2に示す構成のフィルムA〜Jを開口を塞ぐようにそれぞれ約180℃で加圧して接着させて密封した。尚、フィルムの構成は、左側からバリア層、ヒートシール層の順に積層されており、フィルムA〜Hにおいては、バリア層に保護層が設けられている。
【0060】
それぞれのフィルム容器のフィルム面に直径3mmのピンで穴を開けて揮散口とし、50℃条件下に保管して、穿孔直後と3日後の揮散口の開口面積を目視にて判断した。尚、対照として、それぞれのフィルムを用いたプラスチック容器において、何も充填していない空のフィルム容器を用いた。
3日後の揮散口の状態の判断は、若干の縮小が見られるが穿孔直後とほぼ変化がないものを「○」、穿孔直後の半分程度の揮散口面積を「△」、穿孔直後の1割程度の面積となったものを「×」として判断した。結果を表3に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表3の結果より、何も充填していない空のフィルム容器では、フィルムA〜Jすべてのフィルムで開けた穴(揮散口)に若干ではあるが縮小傾向が見られるがほぼ変化はなく、一方、薬剤検体1を封入したフィルム容器では、すべてのフィルムで開けた穴が3日後には小さくなることが確認された。この結果より、薬剤が充填されたフィルム容器は、穴を開けた破断部分が、元に戻ろうとする樹脂の復元力と揮散した有効成分による膨潤により揮散口が小さくなることがわかった。
【0064】
(試験例2:揮散試験2)
[試験方法]
縦35mm×横35mm×厚さ6mmの不織布に表1記載の薬剤検体1を3g含浸させ、縦40mm×横40mm×高さ10mmのポリプロピレン(PP)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/ポリプロピレン(PP)からなる上方開口のプラスチック容器に入れた。それから表2に示したフィルムBを開口を塞ぐように約180℃で圧着して密封した。
このプラスチック容器のフィルム面に、直径4.3mm、内径2.0mmの両端が開口した中空状のピンを穿刺したものを試験検体1として、これを25℃条件下に保管し、経時的にアリルイソチオシアネートの揮散量(累積揮散量)を測定した。結果を表4及び図9に示す。
また、対照検体1として、同様に作製したプラスチック容器のフィルム面に前記中空状のピンを刺した後に該ピンを抜いたもの(すなわち、フィルムに直接揮散口を形成したもの)を、25℃条件下に保管し、経時的にアリルイソチオシアネートの揮散量(累積揮散量)を測定した。結果を表5及び図9に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
表4、5及び図9の結果より、試験検体1はほぼ一定量でアリルイソチオシアネートが揮散することが確認できた。一方、対照検体1は日数が経つにつれ揮散量が低下していることがわかった。これらのことから、試験検体1において有効成分が定量的に安定してピンの中空部のみから揮散し、対照検体1では揮散口が徐々に塞がるので揮散量が減少していることがわかった。
【0068】
(試験例3:殺虫効力試験)
[検体]
下記表6に示す薬剤検体2及び3を用いて以下の試験に供した。
【0069】
【表6】

【0070】
[検体]
縦40mm×横30mm×厚さ4mmのろ紙(薬剤保持担体)23に表6記載の薬剤検体2を1.6g含浸させ、縦55mm×横56mm×高さ10mmのポリプロピレン(PP)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/ポリプロピレン(PP)からなる上方開口のプラスチック容器(薬剤容器本体)21に入れた。それから表2に示したフィルムBを約180℃で開口を塞ぐように圧着して密封した。薬剤検体2を封入したプラスチック容器は本発明の第1実施形態の薬剤揮散器に設置して、これを試験検体とした。
一方、縦60mm×横60mm×厚さ1mmのろ紙に表6記載の薬剤検体3を含浸させ、縦60mm×横60mm×高さ20mmのポリプロピレン(PP)/エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)/ポリプロピレン(PP)からなる上方開口のプラスチック容器に入れた。それから表2に示したフィルムAを約180℃で開口を塞ぐように圧着して密封した。これを試験検体とした。
【0071】
[試験方法]
縦38cm×横21cm×高さ18cm(容量30L)の透明樹脂製の蓋付きボックスのそれぞれの上面内側に前記試験検体をそれぞれ設置した。各試験検体は、表6に記載した内径および本数の管状体の破断部材、すなわち薬剤検体2では2.0mmを1本、薬剤検体3では20mmを6本によりプラスチック容器のフィルム部分を穿刺した。
口径6cm、高さ4cmの蓋付きのプラスチックカップ(製品名:KPカップ)の上面に縦4cm×横4cmの開口部を開け、プラスチック製ネットを貼り付けてメッシュ加工を施したKPカップにキイロショウジョウバエ(雄雌混合)80頭を入れた。
前記蓋付きボックス内にキイロショウジョウバエを入れたKPカップを入れて、ボックスを密閉した。密閉後、12、24時間後にボックス底に落下したキイロショウジョウバエの数を数え、落下した供試虫の割合を求めた。尚、試験は2回行い、結果は平均を求めた。結果を表7に示す。
【0072】
【表7】

【0073】
表7の結果より、アリルイソチオシアネート、エンペントリンのいずれも24時間後には80%以上の供試虫がノックダウンもしくは致死していることがわかった。
これらのことから、試験検体から有効成分が経時的に揮散し、しかも有効成分が継続的に放出されて、十分な殺虫効力を得られることがわかった。
【0074】
(試験例4:防臭効果試験)
[検体]
本発明の第1実施形態の薬剤揮散器を用いて検体揮散器を作成した。
縦40mm×横30mm×厚さ4mmのろ紙(薬剤保持担体)23に表1記載の薬剤検体1を1.6g含浸させ、縦55mm×横56mm×高さ10mmのポリプロピレン(PP)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/ポリプロピレン(PP)からなる上方開口のプラスチック容器(薬剤容器本体)21に入れた。それから表2に示したフィルムBを約180℃で開口を塞ぐように圧着して密封し、試験検体を作製した。これを第1実施形態の外容器3に設置し、検体揮散器(薬剤揮散器)10とした。
【0075】
[試験方法]
図16に示すように、縦38cm×横21cm×高さ18cm(容量30L)のプラスチック製の蓋付きボックス(計8個)のうち4個のボックスの上面内側に、検体揮散器(薬剤揮散器)10をそれぞれ設置した。
供試食品として、タマネギ、ネギ、エビがら、およびサバの切り身を20gずつ入れたシャーレをそれぞれ2個ずつ用意し、このシャーレを上記検体揮散器10を設置したボックス(検体設置)および無処理のボックスにそれぞれ入れた。検体設置のボックスに設置された検体揮散器10のフィルムに直径4.1mm、内径2.0mmの両端が開口した中空状のピン11を穿刺して揮散口を作成し、それぞれ以下の条件で一定期間放置した。
タマネギ:検体設置及び無処理のボックス内でそれぞれ、25℃、6日間放置
ネギ:検体設置及び無処理のボックス内でそれぞれ、25℃、6日間放置
エビがら:検体設置及び無処理のボックス内でそれぞれ、25℃、1日間放置
サバの切り身:検体設置及び無処理のボックス内でそれぞれ、25℃、2日間放置
放置後、供試食品の入ったシャーレを取り出し、それらをそれぞれ20cm四方のボックスに移した。尚、有効成分の揮散量は試験期間を通じて約15mg/日であった。
【0076】
新鮮な供試食品と、検体設置または無処理のボックス内で放置した供試食品の臭いの比較を、パネラー24人による官能試験により、以下のa〜eの5段階で評価した。また、検体設置と無処理のどちらが不快な臭いが強いかを判定した。尚、供試食品の臭いの評価は、仕切りを立て外部から内容物が見えないようにして実施した。結果を図10〜13に示す。
<評価基準>
a:新鮮なものに比べて生ゴミ特有の不快な臭いをとても強く感じる
b:新鮮なものに比べて生ゴミ特有の不快な臭いを強く感じる
c:新鮮なものに比べて生ゴミ特有の不快な臭いをやや感じる
d:新鮮なものに比べて生ゴミ特有の不快な臭いをそれほど感じない
e:生ゴミ特有の不快な臭いを全く感じない
【0077】
図10(a)〜(c)、図11(a)〜(c)、図12(a)〜(c)および図13(a)〜(c)の結果から、新鮮な供試食品(タマネギ、ネギ、エビがら、サバの切り身)と比較すると、検体設置の供試食品よりも無処理の供試食品の方が不快な臭いが強いという回答が得られた。特にタマネギでは無処理の方が不快な臭いが強いという回答が8割以上あった。そして、図10(d)、図11(d)、図12(d)および図13(d)からわかるように、無処理よりも検体設置の方が食品の腐敗が抑えられていることがわかった。これらのことから、検体揮散器から有効成分が経時的に揮散して、生ゴミの不快な臭いおよび腐敗の進行を抑制し、しかもその効果が持続することがわかった。
【0078】
(試験例5:腐敗抑制効果試験1)
[試験方法]
図14に示すように、縦30cm×横21cm×高さ2cmのステンレス製トレイ(容器)41に、供試食品として、キャベツ、ダイコン、ネギ、およびタマネギを20gずつ混合したものを入れ、縦33cm×横22cm×高さ48cm(容量27L)の蓋付きボックス4内の底板の略中央に前記トレイ41を設置した。蓋付きボックス4の蓋裏に試験例4で用いた検体揮散器(薬剤揮散器)10を取り付けた。
この蓋付きボックス4を40℃に設定した恒温試験室内に設置し、検体揮散器10のフィルムに直径4.1mm、内径2.0mmの両端が開口した中空状のピンを穿刺して揮散口を作成して、5日間放置した。対照例として検体揮散器を取り付けない無処理のボックスも同様に設置した。尚、有効成分の薬剤揮散量は約15mg/日であった。
5日経過した後にそれぞれのボックスからトレイを取り出し、腐敗の進行状況を確認した。結果を図15に示す。
【0079】
図15(a)および(b)の結果より、検体揮散器を設置したボックス(検体設置)に入れた供試食品(図15(a)参照)は、無処理のボックスに入れた供試食品(図15(b)参照)と比較して、腐敗の進行が抑制されていることがわかった。このことから、検体揮散器から有効成分が継続して揮散し、食品の腐敗の進行を抑制することがわかった。
【0080】
(試験例6:腐敗抑制効果試験2)
[試験方法]
図16に示すように、供試食品として、タマネギ、ミカン、キウイ、およびダイコンを20gずつシャーレ(容器)43にそれぞれ入れ、縦38cm×横21cm×高さ18cm(容量30L)の蓋付きボックス4内の底板の略中央に前記シャーレ43を置いた。蓋付きボックス4の蓋裏に試験例4で用いた検体揮散器(薬剤揮散器)10を取り付けた。
この蓋付きボックス4を25℃に設定した部屋に設置し、検体揮散器10のフィルムに直径4.1mm、内径2.0mmの両端が開口した中空状のピンを穿刺して揮散口を作成して、6日間放置した。有効成分の薬剤揮散量は約15mg/日であった。対照例として検体揮散器を取り付けない無処理のボックスも同様に設置した。
6日経過した後にそれぞれのボックスからシャーレを取り出し、腐敗の進行状況を目視で確認した。結果を図17に示す。
【0081】
図17の結果より、検体揮散器を設置したボックス(検体設置)に入れた供試食品は変化は見られなかった。一方、無処理区のボックスに入れた供試食品のうち、タマネギ、ミカン、キウイにはカビが発生し、ダイコンは腐敗による液化が始まっていた。
これらのことから、検体揮散器から有効成分であるアリルイソチオシアネートが継続して揮散し、該有効成分により雑菌の繁殖が抑えられ、供試食品の腐敗を抑制できることがわかった。
【0082】
(試験例7:抗菌効果試験)
以下の菌株を用いて薬剤検体の抗菌・防カビ効果を評価した。
細菌類:Escherichia coli(NBRC 3972)、Stapylococcus aureus(NBRC 13276)
真菌類:Aspergillus niger(NBRC 9455)、Candida albicans(NBRC 1594)
【0083】
[植菌済み寒天培地の作成]
SCD液体培地(Soybean−Casein Digest Broth、DAIGO、日本製薬株式会社製)20mLで前培養した各種菌液を生理食塩水で希釈した(約1000CFU/gになるように希釈)。次に、SCDLP寒天培地(Soybean Casein Digest Agar with Lercthin & Polysorbate 80、日本製薬株式会社製)に前記希釈した菌液を100μlずつ植菌した。
【0084】
[試験方法]
図16に示したような縦38cm×横21cm×高さ18cm(容量30L)の蓋付きボックス4の底板の略中央に前記植菌済み寒天培地44を設置した。蓋付きボックス4の蓋裏に試験例4で用いた検体揮散器(薬剤揮散器)10を取り付けた。この蓋付きボックス4を25℃に設定した部屋に設置し、検体揮散器10のフィルムに直径4.1mm、内径2.0mmの両端が開口した中空状のピンを穿刺して揮散口を作成して放置した。有効成分の薬剤揮散量は約15mg/日であった。対照例として検体揮散器を取り付けない無処理のボックスも同様に設置した。
2日および5日経過後に蓋を開け、コロニーの発育状況を確認した。2日経過後の結果を図18に示す。
【0085】
図18の結果から、2日経過後、すべての菌において、無処理ではコロニーが発生したが、検体揮散器を設置したボックス(検体設置)に入れた培地にはコロニーの発育は確認できなかった。また、観察を続けたところ、5日経過後も同様であった。
これらのことから、検体揮散器から有効成分が経時的に揮散して、該有効成分が菌の増殖を抑制することが確認でき、抗菌・防カビ効果があることがわかった。
【0086】
(試験例8:ネズミ忌避効果試験1)
[検体]
本発明の第1実施形態の薬剤揮散器を用いて、内部に上記試験例4で用いた試験検体を設置し、これを検体揮散器とした。尚、薬剤揮散器の破断部材の管状体の内径は5.1mmである。
【0087】
[試験方法]
縦38cm×横24cm×高さ20cmのゲージ内の隅に、前記検体揮散器を置いた(検体処理)。このとき、検体揮散器は、破断部材によって試験検体のフィルムを破断した。対照例として、試験検体を入れない空の薬剤揮散器のみを別のゲージ内に置いた。
室温(25℃)の部屋にそれぞれのゲージを設置し、ネズミの雄成獣1匹をそれぞれゲージ内に放ち、ネズミが検体揮散器に接近した時の様子を試験開始後から観察した。結果を図19および図20に示す。
【0088】
図19に示したように、検体揮散器10を置いたゲージ内のネズミ9は、試験開始後検体揮散器(薬剤揮散器)10に興味を示し該揮散器に近づいていくが(図19(a)参照)、揮散した薬剤の匂いを感知した(図19(b))直後に検体揮散器10とは反対側のゲージの隅に逃げて丸まってしまった(図19(c)および(d))。一方、対照例では、図20(a)〜(d)に示したように、ネズミ9が薬剤揮散器10に興味を示し、該揮散器に近づいていっている様子がわかる。
これらのことから、検体揮散器から有効成分が揮散し、しかも有効成分が継続的に放出されて、ネズミの忌避効果が得られることがわかった。
【0089】
(試験例9:ネズミ忌避効果試験2)
[検体]
本発明の第1実施形態の薬剤揮散器を用いて検体揮散器を作成した。
縦30mm×横40mm×厚さ16mmのろ紙(薬剤保持担体)23にアリルイソチオシアネートを4g含浸させ、縦60mm×横60mm×高さ20mmのポリプロピレン(PP)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)/ポリプロピレン(PP)からなる上方開口のプラスチック容器(薬剤容器本体)21に入れた。それから表2に示したフィルムBを開口を塞ぐように約180℃で圧着して密封し、試験検体を作製した。これを2個用意し、それぞれ本発明の第1実施形態の外容器3に設置し、これを検体揮散器(薬剤揮散器)10とした。尚、薬剤揮散器の破断部材の管状体の内径はそれぞれ3mm、1.7mmとした。
【0090】
[試験方法]
図21に示すような縦50cm×横58cm×高さ65cmのダンボール8を4個用意し、その一つの側面に底辺位置から縦12cm×横10cmの開口部83を開けた。うち2個のダンボール8の隅に前記作成した検体揮散器10をそれぞれ置き、これらを検体処理区81とした。また、対照例として検体揮散器を置いていないダンボールを無処理区82とした。
これら検体処理区と無処理区を、図22に示すように、2.6m×2.6mの部屋(高さ2.2m)に壁から50cm離して並置した。また、部屋の中央には餌85と水86を設置した。
10匹のネズミ(オス成獣5匹、メス成獣5匹)を部屋(室温:25℃、換気:5回/時間)に放ち、24時間後の検体処理区81と無処理区82内のネズミの数をカウントし、侵入定着阻害率(%)を下記式により求めた。結果を表8に示す。
侵入定着阻害率(%)=(無処理区−検体処理区)/無処理区×100
【0091】
【表8】

【0092】
表8の結果から、本発明の薬剤揮散器を設置した検体処理区は侵入定着阻害率が100%であり、忌避効果を十分に得ることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の薬剤揮散器は、定量的に安定して有効成分を揮散させることができるため、薬剤保持担体に防虫成分や芳香成分、消臭成分などを保持させて、その目的に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1,5 破断部材
2 薬剤容器
3,7 外容器
4 蓋付きボックス
8 ダンボール
9 ネズミ
10,100 薬剤揮散器
11,51 管状体(円筒体)
12 装飾体
13,53 尖端部
14,54 揮散口
21 薬剤容器本体
22 気体非透過性フィルム
23 薬剤保持担体
31 上容器
32 下容器
34,74 貫通孔
35 凹部
36 位置決め突起
41 トレイ(容器)
43 シャーレ(容器)
44 植菌済み寒天培地
52 天板
55 線条切り欠き
56 リブ
57 切り欠き
71 容器本体
72 枠体
73 線条突起
75 支持部材
76 薬剤容器保持部材
81 検体処理区
82 無処理区
83 開口部
85 餌
86 水
α 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温でガス化する揮散性の有効成分を含有した薬剤を収納する薬剤容器と、該薬剤容器に穿刺される管状体とを備え、
前記薬剤容器は少なくとも一部が気体非透過性フィルムにより構成されて、且つ、気密封止されており、
前記管状体は両端を開口した中空状であり、該管状体の一端は尖端部を有し、
前記管状体の尖端部により前記気体非透過性フィルムが破断されて当該管状体が穿刺されることにより、前記有効成分が該管状体の中空部を通して大気中へ放出される薬剤揮散器であって、
前記気体非透過性フィルムは、前記管状体が穿刺されたときに破断部分が復元性を有するとともに、揮散した有効成分により膨潤するものからなり、前記管状体による破断により形成された間隙が塞がれる
ことを特徴とする薬剤揮散器。
【請求項2】
前記気体非透過性フィルムが、薬剤と接する側からヒートシール層、バリア層の順に積層されたフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の薬剤揮散器。
【請求項3】
前記ヒートシール層が、揮散した有効成分により膨潤することを特徴とする請求項2に記載の薬剤揮散器。
【請求項4】
前記有効成分の30℃における蒸気圧が、1.0×10−3hPa以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の薬剤揮散器。
【請求項5】
前記有効成分がアリルイソチオシアネートであることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の薬剤揮散器。
【請求項6】
前記管状体が複数個設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の薬剤揮散器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図14】
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【図16】
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【図21】
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【図22】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−155972(P2011−155972A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2233(P2011−2233)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】