説明

薬剤放散装置

【課題】 設置環境に影響されることなく、長期に亘って、昆虫性フェロモン等の薬剤の正常な放散動作を継続可能な薬剤放散装置を提案すること。
【解決手段】 薬剤放散装置1は、薬剤放散場所に立設される支柱2と、この先端部分に取り付けた薬剤放散ケース3と、この内部に設置された薬剤放散機構4を有している。薬剤放散機構4は薬剤放散ケース3の内部空間3aに薬剤を放散する。薬剤放散ケース3はフィン25を一定間隔で配置した構成の通気部を備えた側板部分6〜9を備えており、内部空間3aに放散された薬剤が、これらの側板部分6〜9を通って外部に放散していく。外側に向けて下向きとなるように45度にフィン25を配置してあるので、側板部分6〜9からの雨水の侵入を防止でき、かつ、良好な通風状態が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫性フェロモンからなる害虫の交信かく乱剤や誘引剤などの薬剤を放散するための薬剤放散装置に関し、特に、設置環境に影響されずに、長期に亘って正常な薬剤放散動作を行うことのできる薬剤放散装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農場などにおいては、殺虫剤を用いる代わりに、昆虫性フェロモンなどの誘引剤を空気中に放散して、害虫に交信かく乱を引き起こして産卵数を減少させることにより害虫の発生を減少させる害虫駆除方法が知られている。例えば、圃場施設に所定間隔で多数の昆虫性フェロモンディスペンサを設置して、昆虫性フェロモンを自然放散させるものが知られている。昆虫性フェロモンディスペンサとしては、プラスチック製のチューブに性フェロモンを封入したものが知られており、これを育成植物の枝やビニールハウスの骨組に掛けて、性フェロモンをチューブを介して空気中に自然放散させるようにしている(特許文献1)。しかし、このディスペンサでは、昆虫が交尾をしない日中も昆虫性フェロモンが継続放散され、気温の高い日中の方が放散量も多いので、薬剤の無駄な放散が多い。また、性フェロモンのうち二重結合をもつものは紫外線劣化や酸化を起こしやすいので、安定剤を混合する必要があり、その分コスト高になっている。さらには、近隣の果樹園などの影響で想定しなかった害虫が存在する場合に、そのような想定外の害虫に即応できない。
【0003】
そこで、ヒータやファンなどによって揮発性の薬剤を強制的に放散させる薬剤放散装置を利用すること(特許文献2、3、4)、遠隔制御によるスプレー式の薬剤放散装置を利用すること(特許文献5)、あるいは、インクジェットプリンタに用いられるインクジェッドヘッドと同様な液滴吐出ヘッドを用いて薬剤を放散すること(特許文献6)等が考えられる。
【特許文献1】特開平8−322447号公報
【特許文献2】実開昭58−110288号公報
【特許文献3】実用新案登録第3021119号公報
【特許文献4】特開平9−74969号公報
【特許文献5】米国特許第6182904号公報
【特許文献6】米国特許第6339897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような強制式あるいはオンデマンド式の薬剤放散装置は、一般に、圃場施設などに立てた支柱に取り付けられ、必要な時間帯に合わせて、薬剤を蒸発皿やメッシュ状素材などの薬剤放散部材の表面に滴下あるいは吐出して、薬剤を外部に放散している。したがって、外部環境に晒された状態で、薬剤の放散動作を行う。
【0005】
このため、例えば、風雨などに晒されると、蒸発皿やメッシュ状素材が水分を含み、そこに滴下あるいは吐出された薬液が水によって分解、劣化して、薬効が低下あるいは消失するおそれがある。また、塵などが薬剤放散装置の内部に侵入して、薬剤滴下部分や薬剤吐出部分が詰まり、薬剤放散動作に支障を来たすことがある。さらに、直射日光に長時間晒され、装置内部が過熱状態に陥り、放散動作に支障を来たすおそれもある。これに加えて、昆虫誘引剤などを放散する場合には、昆虫が薬剤放散装置に集まり、その内部に侵入して、薬剤放散装置が故障するおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、このような風雨、塵、昆虫などに起因する弊害を防止して、長期に亘って正常な薬剤放散動作を行うことのできる薬剤放散装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の解決するために、本発明の薬剤放散装置は、薬剤放散ケースと、当該薬剤放散ケースの内部空間に、昆虫性フェロモンなどの揮発性の薬剤を放散する薬剤放散機構とを有し、前記薬剤放散ケースは、少なくとも、前記薬剤放散機構の上側を覆っている天板部分と、当該薬剤放散機構の外周を取り囲んでいる通気性を備えた側板部分とを備えており、前記薬剤放散機構から前記薬剤放散ケースの内部空間に放散された薬剤が前記側板部分を通って大気中に放散されるようになっていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、薬剤放散機構を薬剤放散ケースに内蔵し、薬剤を当該薬剤放散ケースの内部空間に放散し、当該薬剤放散ケースの側板部分を介して大気中に放散させるようにしてある。薬剤放散ケースによって薬剤放散機構が覆われ、当該薬剤放散機構が日光、風雨、塵などに直接に晒されることがない。よって、直射日光による内部の過熱、雨水の浸入による薬剤の劣化、塵に侵入による装置の詰まりなどの弊害を防止できる。
【0009】
ここで、前記側板部分は、一定幅のフィンを一定間隔で平行に配列した構成の通気部を備えたものとし、前記側板部分の厚さ方向に対して、各フィンを所定角度だけ傾斜配置させることが望ましい。特に、各フィンを、前記側板部分の外面側の縁が下に位置するように45度傾斜した姿勢にすることが望ましい。このようにすると、良好な通風性を保持したまま、雨水や塵の侵入、および薬剤放散機構への直射日光の照射を効果的に防止できる。
【0010】
また、前記薬剤放散ケースはアルミニウムなどの金属材料から形成すれば、当該薬剤放散ケースに照射した日光が反射され、薬剤放散ケースの内部温度の上昇を抑制できる。
【0011】
さらに、前記側板部分の内側には、防虫あるいは防塵用の網を取り付けることが望ましい。昆虫誘引剤などの薬剤を放散する場合には、昆虫が薬剤放散装置に引き寄せられ、その内部に侵入して、装置の目詰まりや故障が起きるおそれがあるが、このような弊害を回避できる。
【0012】
前記薬剤放散ケースは、一般的には、前記天板部分、4つの前記側板部分、および底板部分を備えた直方体形状の箱とすればよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の薬剤放散装置は、通気性を備えた側板部分を有する薬剤放散ケース内に、薬剤を外部に放散する薬剤放散機構を配置した構成としてある。したがって、薬剤放散機構が直接に風雨、日光に晒されることがないので、雨水の侵入に起因する薬剤の劣化、装置の故障、装置内部の異常加熱などの弊害を回避できる。また、通気性のある側板部分の内側に防虫用あるいは防塵用の網を取り付けた場合には、昆虫や塵の侵入を確実に防止できるので、これらの侵入に起因する装置の故障、目詰まりなどの弊害を回避できる。よって、本発明の薬剤放散装置は、長期に亘って、正常な薬剤放散動作を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した薬剤放散装置の一例を説明する。
【0015】
(全体構成)
図1は本例の薬剤放散装置を示す斜視図であり、図2はその内部構成を示すための一部を取り外して示す斜視図であり、図3は背面側から見た場合の斜視図である。これらの図を参照して説明すると、薬剤放散装置1は、薬剤放散場所に設置する支柱2と、この支柱2の上端部分に取り付けられる薬剤放散ケース3と、この薬剤放散ケース3の内部空間3aに、昆虫性フェロモンなどの揮発性の薬剤を放散する薬剤放散機4とを有している。
【0016】
薬剤放散ケース3は、全体として直方体形状をした箱であり、薬剤放散機構4の上側を覆っている天板部分5と、薬剤放散機構4の外周を取り囲んでいる通気性を備えた4枚の側板部分6〜9と、底板部分10とを備えている。背面側の側板部分8には、支柱取り付け板11が垂直に取り付けられており、この支柱取り付け板11の上下の端に取り付けた固定バンド12、13によって、薬剤放散ケース3が支柱2の上端部分に固定されている。薬剤は、薬剤放散機構4から薬剤放散ケース3の内部空間3aに放散され、内部空間3aに放散された薬剤が、4枚の側板部分6〜9を通って大気中に放散されるようになっている。
【0017】
(薬剤放散ケース)
薬剤放散ケース3は、金属部材、例えばアルミニウム材から構成されている。本例では、天板部分5および底板部分10が、同一の大きさの長方形の板の四辺部分を一定の幅で直角に折り曲げた形状とされ、上下方向に一定の間隔で平行に配置された天板部分5および底板部分10の四隅にそれぞれ角柱21〜24が取り付けられている。左側の側板部分9は、角柱21、22と、これらの間に水平に一定の間隔で架け渡した複数枚の一定幅のフィン25から構成されている。同様に、右側の側板部分7も角柱24、23と、これらの間に架け渡した複数枚のフィン25から構成され、後側の側板部分8も角柱22、23と、これらの間に架け渡したフィン25から構成されている。
【0018】
これに対して、前側の側板部分6は、天板部分5、底板部分10および左右の前側の角柱21、24によって規定される薬剤放散ケース3の前側開口部3bに着脱可能な状態で取り付けられている。この側板部分6は、溝形断面の左右の垂直枠26、27と、これらの間に水平に架け渡した複数枚のフィン25から構成されている。
【0019】
本例では、各側板部分6〜9の内側面には、それぞれ、防虫・防塵用の金属メッシュ28が貼り付けられている。金属メッシュ28の目は、約1mm(25メッシュ)とされている。
【0020】
図4は薬剤放散ケース3の側板部分7の断面図である。この図に示すように、側板部分7の構成部材であるフィン25は、側板部分7の厚さ方向に沿って、その内側から外側に向けて、下向きに45度の傾斜角度αで配置されている。また、上側のフィン25の下側の縁25aと、下側のフィン25の上側の縁25bとがほぼ同一の高さとなるように、それらの間隔が設定されている。さらに、側板部分7の厚さTは約3cmとされている。
【0021】
(薬剤放散機構)
図5は本例の薬剤放散機構4の一例を示す斜視図であり、図6は図5の矢印VIの方向から見た場合の側面図であり、図7は図1のVII-VII線で示す位置で切断した場合の断面図である。これらの図を参照して説明すると、薬剤放散機構4は、回転ドラム102を有し、この回転ドラム102の円形外周面102aには、その回転中心軸103に平行な方向に延びる細長い長方形のゴムブレード104の刃先104aが線接触状態で押し付けられている。これら回転ドラム102およびゴムブレード104は支持板105によって支持されている。
【0022】
支持板105は上下の端から前方に直角に折れ曲がっている端板部分106、107を備え、支持板105の前側において、これらの端板部分106、107の間に、回転ドラム102の回転中心軸103が支持板105に平行で、かつ、回転自在の状態で架け渡されている。また、上側の端板部分106には、当該薬剤放散機構4を薬剤放散ケース3の天板部分5に固定するためのブラケット210が取り付けられている。薬剤放散ケース3の前側の側板部分6を外し、ここから薬剤放散機構4を薬剤放散ケース3の内部に入れて、ブラケット210を固定ねじ、固定ビスなどの固定金具を用いて天板部分5に固定することにより、薬剤放散機構4を薬剤放散ケース3の内部に固定できる。この後は、側板部分6を取り付けて薬剤放散ケース3が封鎖される。
【0023】
次に、支持板105の一方の側における上下の端部分には後方に直角に切り起こした切り起こし片108、109が形成されている。これらの切り起こし片108、109の間には、ブレード保持板111が回転中心軸3に平行な方向に架け渡され、このブレード保持板111によってゴムブレード104の後端部分が支持されている。ブレード保持板111の長さ方向の中間位置にはばね掛け111aが形成され、ここと、支持板105に形成したばね掛け112の間に、伸長状態でコイルばね113が架け渡されている。このコイルばね113のばね力によって、ゴムブレード104の刃先104aが回転ドラム102の円形外周面102aに対して、線状に接触した状態が形成されるように押し付けられている。
【0024】
図7から分かるように、本例のゴムブレード104は一定厚さのブレードであり、その刃先角は例えば、90度とされている。そして、回転ドラム102の円形外周面102aに対する刃先104aの接触角θは、例えば約80度に設定されている。刃先角としては鋭角なものを用いることも可能であり、また、接触角も80度よりも急な角度にすることも可能である。いずれの場合においても、刃先104aが円形外周面102aに線接触状態で押し付けられることが望ましい。
【0025】
支持板105は、全体としてU字状の支持スタンド115によって傾斜状態に支持されている。例えば、垂直方向に対して前方に30度程度傾斜した姿勢で支持されている。したがって、支持板105に平行に取り付けられている回転ドラム102も前方に30度傾斜した姿勢に保持されている。回転ドラム102の傾斜角度は30度以外の角度にしてもよい。また、垂直姿勢にすることも可能である。場合によっては水平姿勢に保持することも可能である。水平に保持した場合には、回転ドラム102の円形外周面102aとゴブムレード4の刃先104aの間の線接触位置における複数箇所に薬剤液滴を滴下することにより、薬剤を効率良く線状に拡展させることができる。
【0026】
次に、支持板105の背面の上端部分には駆動モータ121が取り付けられており、この駆動モータ121の回転が、ピニオン122、複合歯車123および回転ドラム102の端に取り付けた大径歯車124を介して回転ドラム102に伝達されるようになっている。回転ドラム102の回転駆動機構としては、このような歯車伝達機構の代わりに、ベルト・プーリ式の伝達機構を採用することもできる。
【0027】
また、支持板105の背面における駆動モータ121の下側位置には、薬剤カートリッジ装着部125が形成されている。この薬剤カートリッジ装着部125には、側方から、扁平な直方体形状の薬剤カートリッジ126を着脱可能な状態で装着できるようになっている。また、薬剤カートリッジ装着部125を形成している取り付け板127の表面には、薬剤ポンプ140が搭載されている。支持板105の上側の端板部分106には、回転ドラム102の円形外周面102aとゴムブレード104の刃先104aの接触位置の真上に位置するように、薬剤滴下ノズル129が取り付けられている。この薬剤滴下ノズル129と、薬剤ポンプ140の吐出口140bとの間は、薬剤供給チューブ130によって接続されている。また、薬剤ポンプ140の吸引口140aには薬剤供給チューブ131が接続されており、この薬剤供給チューブ131の他方の端は、カートリッジ装着部125に装着された薬剤カートリッジ126の薬剤取り出し口(図示せず)に連通している。
【0028】
薬剤ポンプ140の下側には、制御ユニット132が取り付けられている。制御ユニット132は、薬剤ポンプ140および駆動モータ121の駆動を制御する。この制御ユニット132はマイクロコンピュータを中心に構成することができ、タイマ機能を備え、予め定められた処理ルーチンに従って、薬剤ポンプ140および駆動モータ121を駆動制御する。
【0029】
図8は、本例の薬剤ポンプ140を示す正面図およびb−b線の位置で切断した場合の断面図である。本例の薬剤ポンプ140の基本構成は一般的なチューブポンプと同様であり、金属製のシャーシ141の表面に積層したプラスチック製のケース142の裏面に半円形内周側面143が形成されており、この半円形内周側面143に沿って可撓製のチューブ144が配置されている。チューブ144は耐薬品性に優れたフッ素系ゴム、例えばVAITON(商品名)から形成することができる。このチューブ144は、内周側面143の中心回りに公転運動するローラ145によって内周側面143の側に押し潰され、その押し潰し位置が円周方向に移動することにより、チューブ144内の薬剤がローラ145の公転方向に押し出されるようになっている。ローラ145の公転運動は、シャーシ141に取り付けた駆動モータ150によって行われる。
【0030】
チューブ144は、ケース142の裏面側において、半円形内周側面143に沿ってU字状に配置されており、その一方の端が、ケース142に取り付けた薬剤吸引口140aに接続され、他方の端が、同じくケース142に取り付けた薬剤吐出口140bに接続されている。薬剤吐出口140bの内部には、薬剤が吐出側から逆流することを阻止するための逆止弁148が内蔵されている。本例の逆止弁148はダックビルバルブを用いており、例えばフロロシリコンゴムから形成されている。
【0031】
この構成の薬剤ポンプ140では、ローラ145がチューブ144から外れた回転角度位置に待機している。制御ユニット132によって駆動モータ150が駆動されると、ローラ145が矢印で示すように、薬剤吸引口140aから薬剤吐出口140bに向けて回転し、所定の回転角度範囲ではチューブ144を押し潰しながら公転する。この結果、チューブ144内の薬剤が薬剤吐出口140bに向けて押し出され、ここに内蔵されている逆止弁148を通って吐出する。駆動モータ150を止めるタイミングは、ローラ145がチューブ144から外れた回転角度位置とされ、チューブ144が押し潰されたまま次の駆動まで待機するという状態を回避している。
【0032】
本例の薬剤ポンプ140では、非駆動状態において、チューブ144からローラ145が外れた回転角度位置に保持される。チューブ144が押し潰されたまま長時間放置されると、内部に残っている薬剤が原因となって、チューブが押し潰された状態のまま貼り付いてしまい、円形断面に復帰できないおそれがある。本例では、このような貼り付きを回避できる。
【0033】
また、チューブ144が押し潰されていない状態において、薬剤吐出口140bに作用する背圧が薬剤供給口140aに作用する背圧よりも高くなると、チューブ144に残っている薬剤が逆流するおそれがある。しかし、本例では、薬剤吐出口140bに逆止弁148が内蔵されているので、このような圧力状態が発生しても、薬剤が逆流することがない。よって、チューブ144内から薬剤が無くなり、次の薬剤吐出動作の初期状態において薬剤が吐出されない空吐出状態の発生を確実に防止できる。この結果、常に、所定量の薬剤を吐出することが可能になる。このことは、昆虫性フェロモンなどにように放散量が微小量である薬剤を放散する場合に極めて有効である。
【0034】
なお、薬剤ポンプ140としてはチューブポンプ以外のポンプを用いることも可能である。例えば、歯車ポンプやピストンポンプを用いることができる。
【0035】
(薬剤放散動作)
図9は制御ユニット132の制御の下に行われる本例の薬剤放散装置1の動作例を示す概略フローチャートである。このフローチャートに従って説明すると、薬剤放散機構4は、制御ユニット132に内蔵のタイマ機能に基づき、例えば1日2回、決まった時刻に薬剤の放散動作を行う。予め定められた時刻になったことがタイマ機能によって検出されると(ステップST1)、制御ユニット132によって薬剤ポンプ140が一定時間に亘り駆動され、一定量の薬剤が薬剤カートリッジ126から吸い出されて、薬剤滴下ノズル129に供給される(ステップST2)。
【0036】
薬剤滴下ノズル129に供給された薬剤は、このノズル129から真下に位置している回転ドラム102の円形外周面102aとゴムブレード104の刃先104aの線接触位置110(図3参照)の上端部分に滴下される。これらの線接触位置110の上端部分に滴下した薬剤は、刃先104aに沿って、毛細管力および重力の作用によって、速やかに下方に向けて線状に拡展していく。滴下された薬剤が、刃先104aに沿ってその下端部分まで拡展するのに十分な時間を置いた後に(ステップST3)、制御ユニット132は駆動モータ121を駆動して、回転ドラム102を所定の速度で所定回数だけその中心軸線103a(回転中心軸103の中心線)を中心として回転させる(ステップST4)。ゴムブレード104は固定した位置にあるので、回転ドラム102の円形外周面102aとゴムブレード104の刃先104aの接触位置に沿って線状に拡展した薬剤は、回転ドラム102の回転に伴って、ゴムブレード104の刃先104aによって、当該円形外周面102aに沿って強制的に面状に拡展させられる。
【0037】
この結果、回転ドラム102の円形外周面102aに沿って薬剤が薄く広がった状態が形成される。また、刃先104aは円形外周面102aに対して線接触状態に保持されているので、面接触状態で接触している場合に比べて、むら無く均一に拡展させることができる。よって、薬剤が効率良く薬剤放散ケース3の内部空間3aに放散あるいは蒸散していく。また、繰り返しゴムブレード104の刃先104aによって擦られることにより、効率良く薬剤が放散していく。
【0038】
このようにして、薬剤放散ケース3の内部空間3aに放散された薬剤は、その側板部分6〜9の通気部分、すなわち、フィン25の間を通って大気中に放散していく。フィン25は約45度の角度で外側が下に向く状態に傾斜している。したがって、雨水の浸入を防止できると共に、良好な通風状態が確保される。よって、内部空間3aに放散された薬剤は速やかに側板部分6〜9を通って外部に放散していく。
【0039】
また、通気性のある側板部分6〜9の内側には防虫用の金属メッシュが貼り付けられているので、昆虫や塵が側板部分6〜9のフィン25の間の隙間から内部に侵入して、薬剤放散機構4に入り込むことを防止できる。よって、昆虫や塵によって薬剤放散機構4が故障し、あるいは目詰まりすることが無い。
【0040】
さらに、薬剤放散ケース3はアルミニウムなどの金属材料から形成されているので、その外側表面によって日光が反射されやすい。よって、直射日光によって薬剤放散ケース3の内部空間3aが加熱されて、薬剤放散機構4が過熱状態に陥り、正常が薬剤放散動作が阻害されるなどの弊害も回避される。
【0041】
なお、薬剤放散装置1に、温度センサおよび/または風速センサを取り付け、これらの検出結果に基づき、薬剤ポンプ140の薬剤吐出量および/または回転ドラム102の回転速度あるいは回転数を制御することもできる。例えば、薬剤放散場所の気温が低い場合には、気温が高い場合に比べて、薬剤の放散速度が低下する。したがって、この場合には、回転ドラム102の回転速度を上げるなどして、薬剤の放散効率を高めることが望ましい。
【0042】
また、本例では、回転ドラム102の傾斜角度が固定されているが、傾斜角度を変更可能な状態で支持した構成を採用することも可能である。
【0043】
さらに、薬剤放散機構4としては、上記構成以外の機構のものを用いることも勿論可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明を適用した薬剤放散装置の斜視図である。
【図2】図1の薬剤放散装置を一部を外した状態で示す斜視図である。
【図3】図1の薬剤放散装置を背面側から見た場合の斜視図である。
【図4】図1の薬剤放散装置の薬剤放散ケースの部分断面図である。
【図5】図1の薬剤放散装置の薬剤放散機構の斜視図である。
【図6】図5の機構の側面図である。
【図7】図5の機構の断面図である。
【図8】図5の機構の薬剤ポンプを示す正面図および断面図である。
【図9】図1の装置の放散動作のフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1 薬剤放散装置、2 支柱、3 薬剤放散ケース、4 薬剤放散機構、5 天板部分、6〜9 側板部分、10 底板部分、11 ブラケット、12、13 固定バンド、21〜24 角柱、25 フィン、26、27 枠、28 金属メッシュ、102 回転ドラム、102a 円形外周面、103 回転中心軸、103a 中心軸線、104 ゴムブレード、104a 刃先、105 支持板、110 線接触位置、111 ブレード保持板、113 コイルばね、115 支持スタンド、121 駆動モータ、122 ピニオン、123 複合歯車、124 歯車、125 薬剤カートリッジ装着部、126 薬剤カートリッジ、129 薬剤滴下ノズル、130、131 薬剤供給チューブ、132 制御ユニット、140 薬剤ポンプ、140a 吸引口、140b 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤放散ケースと、
当該薬剤放散ケースの内部空間に、昆虫性フェロモンなどの揮発性の薬剤を放散する薬剤放散機構とを有し、
前記薬剤放散ケースは、少なくとも、前記薬剤放散機構の上側を覆っている天板部分と、当該薬剤放散機構の外周を取り囲んでいる通気性を備えた側板部分とを備えており、
前記薬剤放散機構から前記薬剤放散ケースの内部空間に放散された薬剤が前記側板部分を通って大気中に放散されるようになっていることを特徴とする薬剤放散装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記側板部分は、一定幅のフィンを一定間隔で平行に配列した構成の通気部を備え、
各フィンは、前記側板部分の厚さ方向に対して所定角度だけ傾斜していることを特徴とする薬剤放散装置。
【請求項3】
請求項2において、
各フィンは、前記側板部分の外面側の縁が下を向くように45度傾斜していることを特徴とする薬剤放散装置。
【請求項4】
請求項1、2または3において、
前記薬剤放散ケースは、アルミニウムなどの金属材料から形成されていることを特徴とする薬剤放散装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれかの項において、
前記側板部分の内側には、防虫あるいは防塵用の網が取り付けられていることを特徴とする薬剤放散装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項において、
前記薬剤放散ケースは、前記天板部分、4つの前記側板部分、および底板部分を備えた直方体形状の箱であることを特徴とする薬剤放散装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−50966(P2006−50966A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235234(P2004−235234)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】