薬剤
本発明は、炎症症状(好ましくは虚血に関連する症状)を治療するための薬剤であって、a)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)またはそのサブセットを含有する生理的溶液、またはb)上記溶液a)の上清を包含し、上記溶液a)が、PBMCまたはそのサブセットを、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中で少なくとも1時間培養することによって得られる、薬剤に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状を治療するための薬剤に関する。
【0002】
酸素が減少した状態である低酸素症は、肺が易感染性になると、または血流が低下すると発生し得る。血流が減少である虚血は、凝血(血栓)もしくは何かしらの外来性の循環物質による動脈もしくは静脈の閉塞(塞栓)によって、または血管障害(例えば粥状動脈硬化)によって引き起こされる可能性がある。血流の減少は、突然発症して持続期間が短い(急性の虚血)こともあれば、発症がゆるやかで持続期間が長いまたは頻繁に再発(慢性の虚血)することもある。急性の虚血は、局所的で不可逆的な組織の壊死(梗塞)に関連していることが多い。一方で、慢性の虚血は通常一過性の低酸素性の組織傷害に関連する。ただし灌流の減少が長引く、あるいは重篤であると、慢性の虚血は梗塞にも関連する。梗塞は脾臓、腎臓、肺、脳、および心臓において頻繁に発生し、例えば腸梗塞、肺梗塞、虚血発作、心筋梗塞などの障害を引き起こす。
【0003】
虚血性障害における病理的な変化は、虚血の持続期間および重症度ならびに患者の生存期間に依存する。壊死は梗塞内部で最初の24時間以内に確認できる。また、急性の炎症反応は梗塞部に隣接する生存組織中で進行し、白血球は死滅組織の領域に移動する。これに続く数日の間に、貪食および膠質性瘢痕または神経膠瘢痕との置換によって、梗塞領域内において細胞が徐々に分解および除去される。
【0004】
1つの器官における低灌流または梗塞が、他の器官に影響を及ぼすことが多い。一例として、例えば肺塞栓症によって引き起こされる肺の虚血は、肺に影響するだけではなく、心臓やその他の器官(例えば脳)をも低酸素性ストレス下におく。心筋梗塞は、血栓症、動脈壁痙攣、または心臓のウイルス感染症に起因する冠動脈の閉塞を伴うことが多く、うっ血性心不全および全身的低血圧症を引き起こす可能性がある。心拍停止が長引いて低灌流が継続すると、二次的な各種合併症(例えば全身的な虚血性脳症)が発症する可能性がある。脳虚血は、最も一般的には粥状動脈硬化を原因とする血管閉塞によって引き起こされ、その重症度は、各種一過性脳虚血発作(transient ischemic attack; TIA)から大脳梗塞または脳卒中にまでわたり得る。TIAの症状は一時的かつ可逆的であるが、TIAは再発する傾向があり、TIAに続いて脳卒中を起こすことが多い。
【0005】
閉塞性動脈疾患の例としては、心筋梗塞に繋がるおそれのある冠動脈疾患、ならびに腹部大動脈、腹部大動脈の主要な支脈、および脚の動脈に影響しかねない末梢動脈疾患などが挙げられる。末梢動脈疾患とは、例えばバージャー病、レイノー病、および先端チアノーゼなどである。末梢動脈疾患は一般に粥状動脈硬化によって引き起こされるが、その他の主要な原因の一例としては糖尿病があげられる。末梢動脈疾患に関連する合併症の例としては、重症下肢痙攣、急性扁桃炎、心拍異常、心不全、心発作、脳卒中、腎不全などが挙げられる。
【0006】
虚血性障害および低酸素性障害は罹患および死亡の主要な原因である。循環器疾患は、世界中の死亡原因の30%を占める。各種の循環器疾患の中では、虚血性心疾患および脳血管疾患が死亡原因の約17%である。
【0007】
現在、虚血性障害および低酸素性障害の治療では、症状の緩和および原因となる疾患の治療に焦点が合わせられている。例えば、心筋梗塞の治療にはニトログリセリンおよび鎮痛薬が用いられ、痛みを制御し心臓の作業負荷を軽減する。ジゴキシン、利尿薬、アムリノン、β遮断薬、高脂血症治療薬、およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬を含めた、他の薬物療法が病状の安定化のために使用されるが、これらの治療法はいずれも、虚血および低酸素症によって生じた組織の損傷を直接治療対象とするものではない。
【0008】
現在の治療法には短所があるために、低酸素症に関連する病状の治療に効果的な方法に対する必要性が依然として存在する。例えば粥状動脈硬化、糖尿病、および肺障害に起因して起きる虚血によって引き起こされる組織の損傷の、効果的な予防法に対する必要性も存在する。
【0009】
虚血および低酸素症に関連する病状には、通常炎症が併発する。したがって、炎症も緩和する手段および方法が必要とされている。
【0010】
本発明の目的は、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する症状を効率的に治療することを可能にする手段を提供することである。
【0011】
本発明は、体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬剤であって、a)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)またはそのサブセットを含有する生理的溶液、またはb)溶液a)の上清を包含し、溶液a)は、PBMC増殖性物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中において、PBMCまたはそのサブセットを少なくとも1時間培養することによって得られるものである、薬剤に関する。
【0012】
上記において定義した薬剤を、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状を患う患者に投与することによって、各症状が軽減され、治癒過程が実現されることが見出された。
【0013】
本発明に係る薬剤は、培養されたPBMCもしくはそのサブセット、および/またはPBMCを培養した培養上清を包含する。PBMCの培養過程において、これらのPBMC細胞は、活性化PBMCにおいて発現および分泌される物質とは異なる、サイトカインなどの物質を発現および分泌する。このことは、本発明のPBMCのセクレトームが、活性化PBMCのセクレトームとは異なることを意味している。本発明のPBMC細胞は、細胞の表面以外の部分で誘因されるセクレトーム生成を行う。したがって、PHAまたはLPSなどのPBMCを活性化する物質と接触していないPBMCが、体内の炎症症状、特に虚血に関連する症状の治療に使用可能であることは驚くべきことである。これは、これらのPBMC細胞のセクレトームが、上記の症状または同様の症状の治療を支援する物質を含有することを示している。
【0014】
本発明に係るPBMCは、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中でPBMCを培養することによって得られる。ただし、このPBMCは、生理的溶液中で少なくとも1時間インキュベートされる。この最短培養時間は、PBMCにサイトカインおよびその他の有益な物質を分泌させるために必要である。
【0015】
本発明に係る薬剤のうちPBMCの部分は、例えばフィコール勾配、低浸透圧性溶解などの当該技術分野において公知の方法を用いて、全血から得ることもできる。これらの方法は当該技術分野において周知である。
【0016】
上記薬剤のPBMCを、薬剤が投与されるドナー集団または同じ個体から得てもよい。
【0017】
PBMCまたはそのサブセットは、本発明に係る薬剤中に生存可能な形態で存在している。
【0018】
上清を得る元となる生理的溶液は、溶液1mlあたり、または単位服用量あたり、少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMC細胞を包含する。
【0019】
本発明の薬剤は、1mlあたり、または単位服用量あたり、少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMCを含有している。
【0020】
ここで使用する「生理的溶液」とは、使用に先立って、PBMCを本発明に係る薬剤中で培養するための溶液を指す。
【0021】
「生理的溶液」とは、さらに、PBMCの細胞死を1時間以内、好ましくは30分以内に引き起こさない溶液も指す。生存PBMCの個数が、ある溶液中で1時間以内、好ましくは30分以内に75%、より好ましくは90%減少すれば、この溶液はここで定義する「生理的溶液」であるとは見なさない。「生理的溶液」は、PBMCがこの溶液に接触しても、PBMCの自発的な溶解を引き起こさない。
【0022】
本文脈において、「培養(cultivating)」または「培養(culturing)」工程は、「インキュベーション」工程を含む、または「インキュベーション」工程からなる。なお、この「インキュベーション」工程は、PBMCを培養するために通常使用される条件の下で、所定の時間(少なくとも1時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも8時間、さらにより好ましくは少なくとも12時間)、PBMC細胞を溶液に接触させる工程である。
【0023】
本発明の文脈において、「虚血に関連する症状」という用語は「虚血症状」という用語と交換可能に使用可能であって、ヒトまたは動物の体の一部の領域に十分な酸素が供給されず、その結果組織の損傷または機能障害を発生させる、任意の症状、疾患、または障害を表わす。病態は、血管の狭窄または閉塞によって引き起こされる可能性がある、器官または器官の一部の内部における血液供給の減少または消滅という特徴を有していてもよい。このような性状を、ここではまとめて、「虚血」または「虚血関連症状」または「虚血に関連する症状」という用語によって称する。例えば心疾患では、虚血という用語を使って、狭窄または閉塞した冠動脈が原因となって酸素に富む血液が十分な量だけ得られていない心筋に言及することが多い。虚血の症状は「虚血」状態にある器官によって異なる。心臓の場合、虚血の結果、狭心症が起こることが多い。脳では、虚血の結果、脳卒中が起こり得る。虚血症状の場合には炎症が併発する。
【0024】
炎症、特に虚血に関連する病態の例としては、創傷、心筋虚血、肢虚血、組織の虚血、虚血再灌流障害、狭心症、冠動脈疾患、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、虚血発作、慢性の創傷、糖尿病性の創傷、心筋梗塞、うっ血性心不全、肺梗塞、皮膚潰瘍などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0025】
ただし、本発明の文脈における病態とは、内皮細胞の損傷または機能障害、つまり創傷を特徴とするものであってもよい。本発明に係る薬剤を使用することによって治療してもよい創傷の例としては、慢性の創傷、糖尿病性の創傷、潰瘍、熱傷、炎症性皮膚疾患、腸疾患などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0026】
「体内の症状」、「体内の炎症症状」、および「虚血に関連する体内の症状」という用語は、最適な機能(例えば骨、心臓、肝臓、腎臓、大脳、皮膚の良好な連携)を実現するために必要な哺乳類の末端器官における、急性または不顕性の低酸素症および炎症が原因となって、個体の体の内部に生じる症状および疾患に関連する。
【0027】
ここで使用する「生理的溶液」とは、PBMCまたはそのサブセットの破壊を引き起こさない浸透圧を示す溶液を指し、個体に直接投与可能である。
【0028】
「PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない」という用語は、PBMCを活性化し、PBMCまたはそのサブセットの増殖を誘導する物質を含有しない生理的溶液を指す。このような物質の例としては、PHA、LPSなどがある。
【0029】
本発明の好適な実施形態によれば、上記炎症症状は、機能性を有する末端器官の低酸素症および炎症に関連する哺乳類の疾患からなる群より選択される。
【0030】
本発明の特に好適な実施形態によれば、上記体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状は、心筋虚血、肢虚血、組織の虚血、虚血再灌流障害、狭心症、冠動脈疾患、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、虚血発作、心筋梗塞、うっ血性心不全、外傷、腸疾患、腸間膜梗塞、肺梗塞、骨折、歯を移植した後の組織の再生、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、同種移植、および同種移植の拒絶からなる群より選択される。
【0031】
末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)のサブセットは、好ましくはT細胞、B細胞、またはNK細胞である。言うまでもなく、これらの細胞の組み合わせ、具体的にはT細胞とB細胞との組み合わせ、T細胞とNK細胞との組み合わせ、B細胞とNK細胞との組み合わせ、T細胞とB細胞とNK細胞との組み合わせを使用することも可能である。これらの細胞を準備および単離する方法は公知である。
【0032】
驚くべきことに、本発明のPBMCは、(先に定義したように)溶液が薬学的に許容不可能な物質を含有せず、PBMCの突然死を引き起こさず、PBMCを活性化せず、かつ、PBMCの増殖を刺激しない限り、任意の種類の溶液中で培養可能であることがわかった。したがって、使用される溶液は、少なくともPBMCの溶解を引き起こさない浸透圧性を示す。生理的溶液は、好ましくは生理食塩水(好ましくは生理的NaCl溶液)、全血、血液分画物(好ましくは血清)、または細胞培養培地である。
【0033】
上記細胞培養培地は、好ましくはRPMI、DMEM、X−vivo、およびウルトラカルチャー(Ultraculture)からなる群より選択される。
【0034】
本発明の特に好適な実施形態によれば、本発明のPBMC細胞はストレスを誘発する条件下で培養される。
【0035】
ここで使用する「ストレスを誘発する条件下」という用語は、ストレス細胞を引き起こす培養条件を指す。細胞においてストレスを引き起こす条件としては、例えば熱、化学物質、放射線、低酸素症、浸透圧(つまり非生理的な浸透圧条件)などがある。
【0036】
本発明のPBMC細胞にさらにストレスを加えると、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状の治療にとって有益な物質の発現および分泌が一層増加する。
【0037】
本発明の好適な実施形態によれば、ストレスを誘発する条件には、低酸素症、オゾン、熱(例えば、PBMCの最適な培養温度、つまり37℃より2℃、好ましくは5℃、より好ましくは10℃を超えて高い温度)、放射線(例えばUV線やγ線)、化学物質、浸透圧(つまり、体液中で、特に血液中で通常生じる浸透圧条件に比べて少なくとも10%高い浸透圧条件)、pHの変化、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0038】
放射線を利用して本発明のPBMCにストレスを与えるのであれば、好ましくは、PBMC細胞を、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gyで暴露する。ここで、放射線の供給源として、好ましくは、Cs−137セシウムが使用される。
【0039】
本発明の好適な実施形態によれば、不活性化PBMCまたはそのサブセットを、培地中で少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間培養する。
【0040】
本発明に係る薬剤は、治療しようとする症状に応じて様々な方法で投与可能である。したがって、この薬剤は、好ましくは皮下投与、筋肉内投与、内器官投与(例えば心筋内への投与)および静脈内投与ができるように構成される。
【0041】
本発明に係る薬剤は、薬学的に許容可能な賦形剤、例えば希釈剤、安定剤、担体などを包含してもよい。投与経路に応じて、本発明に係る薬剤は各剤形の形態(注射溶液など)で提供される。これを調製する方法は当業者にとって周知である。
【0042】
本発明に係る薬剤の有効期間を伸ばすために、溶液a)または上清b)は凍結乾燥される。このような調製物を凍結乾燥する方法は、当業者にとって周知である。
【0043】
上記凍結乾燥された調製物を、使用前にバッファ、安定剤、塩などを含む水または水溶液と接触させてもよい。
【0044】
本発明の他の態様は、上記において定義した薬剤を、体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬物の製造のために用いる使用方法に関する。
【0045】
本発明のさらにもう他の態様は、ここに開示する薬剤を調製する方法であって、a)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)またはそのサブセットを準備する工程と、b)工程a)のPBMC細胞を、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中で少なくとも1時間培養する工程と、c)工程b)の細胞および/またはこの細胞の上清を単離する工程と、d)工程c)の細胞および/または上清を用いて上記薬剤を調製する工程とを含む、方法に関する。
【0046】
本発明に係る薬剤は、PBMCを、生理的溶液中で少なくとも1時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも8時間、さらにより好ましくは少なくとも12時間インキュベートまたは培養することによって得ることができる。この工程において、PBMCは、体内の炎症症状の治療において有用な物質の合成および分泌を開始する。上記培養工程の前、同工程の後、および同工程の途中で、PBMC細胞は、PHAまたはLPSなどのPBMCを活性化する物質を添加することによって活性化されることがない。培養工程の後に、培養物からPBMC細胞および/または上清は単離され、最終的な薬剤の調製においてさらに使用される。上述のように、上記薬剤は、培養したPBMC、上記細胞をインキュベートした培養物の上清、または培養したPBMCと培地との両方を包含してもよい。
【0047】
本発明の好適な実施形態によれば、上記細胞は、工程b)の前または同工程の途中で、ストレスを誘発する条件に曝され、このストレスを誘発する条件には、低酸素症、オゾン、熱、放射線、化学物質、浸透圧(例えば、塩、特にNaClを添加して、浸透圧を血液中より高くすることによって誘発される)、pHの変化(つまり、酸または水酸化物を添加してpH値を6.5〜7.2または7.5〜8.0とすることによるpH値の変化)、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0048】
本発明の好適な実施形態によれば、上記細胞は、工程b)の前または同工程の途中で、少なくとも10Gy(好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy)、オゾン、高温、またはUV線に暴露される。
【0049】
本発明の他の態様は、上述の方法によって得られる薬剤に関する。
【0050】
本発明のさらに他の態様は、本発明に係る薬剤を適切な量で、必要とする個体に投与することによって、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状を治療する方法に関する。治療しようとする症状に応じて、本発明の薬剤は、筋肉内投与、静脈内投与、器官内投与(例えば心筋内投与)または皮下投与される。
【0051】
本発明の好適な実施形態において、上記薬剤は、上記において概説した方法によって得られる1mlあたり少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMCを包含する。これに対応して、少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMCが、治療対象である個体に投与される。
【0052】
本発明を、以下の図面および例によってさらに説明する。ただし本発明はこれらに制限されるものではない。
【0053】
図1中aは、心エコー検査、組織学的検査、および免疫組織学的検査による心機能の評価における、実験プロトコルおよび実験時期を示している。図1中bは、18時間の培養期間の後にアネキシンに対して陽性染色したPBMCであって、放射線の照射を受けたラットのPBMCおよび放射線の照射を受けていないラットのPBMCの比率を示している。
【0054】
図2中aでは、放射線を照射することによってヒトのPBMCではアポトーシスを引き起こし、アネキシンの発現が48時間にわたって時間の経過と共に増加することを、FACS分析によって示している。図2中bでは、LPS刺激を受けたPBMCまたは単球を、放射線を照射したアポトーシス自系PBMCと共にインキュベートすることによって、炎症促進性のサイトカインIL−1βの分泌が投与量に応じて減少することが示されている。図2中cでは、程度は相対的に低いが、この知見は、IA−PBMCの存在下における、LPS刺激PBMCおよび単球のIL−6分泌プロファイルにも相関している。図2中dでは、LPS刺激を伴う混合リンパ球の反応液に、自系IA−PBMCを添加すると、1分毎に測定した(counts per minute; cpm)T細胞の増殖数が減少している。図2中eでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMPの転写物のRT−PCR RNA発現解析によって、24時間の培養後に、放射線の照射を受けたPBMCにおいてIL−8/CXCL8および特にMMP9の上方制御が起こったことが示されている。図2中fでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9のELISA解析によって、MMP9は大部分が細胞溶解物質中に見られる一方で、VEGFおよびIL−8/CXCL8のタンパク質分泌の差が、生細胞においても、IA−PBMCにおいても、ほぼ同じレベルのままであることが示されている。図2中gでは、生存PBMCまたはIA−PBMCの細胞培養物から得られる上清中でインキュベートしたヒトの線維芽細胞が、RT−PCR解析において、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9転写物の強い上方制御を示している。また、ピーク値は、IA−PBMCの上清中でインキュベートされた線維芽細胞に見られた。
【0055】
図3中a、図3中b、図3中cに示すように、人工的に心筋梗塞を起こした後のラットにおいて、尾静脈を介して投与した、CFSEで標識された同系PBMCは、大部分が脾臓(図3中b)において見られ、これよりは少ない個数が肝臓(図3中a)において見られたが、梗塞を起こした心臓(図3中c)ではPBMC細胞が全く見られなかった。図3中d、図3中e、図3中fに示すように、培地(図3中d)または生存PBMC(図3中e)のいずれかを注射したラットにおいてHE染色した梗塞区域が、免疫細胞が浸潤した虚血の心筋に匹敵するパターンを示し、IA−PBMCを与えられたラットから得られる組織が、非常に高い密度の浸潤を示唆している。図3中g、図3中h、図3中iでは、生細胞で治療されたラット(図3中h)の方が、培地で治療されたラット(図3中g)に比べて、梗塞部位において、CD68+で染色された細胞がわずかに多いことがわかる。これとは対照的に、IA−PBMCを注射した動物(ラット)では、3倍の量のCD68+が検出された。図3中j、図3中k、図3中lに示すように、生存PBMCまたはIA−PBMCを投与した場合に比べて、培地だけを与えられたラットの方が、高いレベルのS100β+細胞が見られた。
【0056】
図4中a、図4中b、図4中cに示すように、培地(図4中a)または生細胞治療(図4中b)の場合に比べて、IA−PCMCを注射した動物から得られる梗塞を起こした心筋組織(c)において、ほぼ4倍の量のVEGFについて陽性染色された細胞が検出された。図4中d、図4中e、図4中fに示すように、VEGF受容体のKDR/FLK1について、同様の発現パターンが見られ、ピーク値は培地(図4中d)および生細胞(図4中e)ではなく、IA−PBMCのグループ(図4中f)において見られた。図4中g、図4中h、図4中iに示すように、3つのどのグループにおいてもCD34について差が検出されなかった。図4中j、図4中k、図4中lに示すように、梗塞を起こした心臓におけるマーカーc−キットについての免疫組織学的分析によると、IA−PBMC(図4中l)を注射したラットでは、多量の陽性染色された細胞および高密度な局在性が示され、培地を与えられた動物(図4中j)および生細胞を与えられた動物(図4中k)では、それより少ない個数の細胞が示されている。
【0057】
図5中a、図5中b、図5中cに示すように、心筋梗塞(Elastica van Gieson染色法)の誘導から6週間後に外植された虚血性のラットの心臓の組織学的解析の結果である。培地を注射した動物(図5中a)から得られた心臓は、他に比べて拡張されているようであり、線維性組織が大きく広がっていた。生細胞を注射したラット(図5中b)では瘢痕の広がりが低減し、拡張の徴候が他に比べて少なかった。瘢痕組織の形成の最低量は、IA−PBMCを注射された動物(図5中c)において検出された。図5中dに示すように、LADの結紮から6週間後に収集された標本のプラニメーター分析によって得られたデータの統計解析の結果から、瘢痕の広がりの平均値は、培地を注射された動物では24.95%±3.6、生存PBMCを注射された動物では14.3%±1.3、IA−PBMCを注射された動物では5.8%±2であることを示している(平均値+SEM)。図5中e、図5中f、図5中gでは、心エコー検査によって得られる心機能パラメータ(収縮分画率、駆出分画率、および収縮末期の直径)の評価によって、IA−PBMCを注射した動物では、他に比べて、心筋梗塞後に良好に回復していることが示されている。
【0058】
図6aは、無刺激の生存PBMCも、IA−PBMCも、どちらも主に単球に由来する炎症促進性のサイトカインTNF−αを分泌しないことを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0059】
図6bは、無刺激のPBMCに比べると、炎症促進性のインターフェロンγの分泌が、活性化後に強く誘導されることを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0060】
図7aは、フローサイメトリー法を用いた分析の結果を統合して示している。PBMCをT細胞についてゲーティングし、活性化マーカーCD69およびCD25の発現を評価した。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=4)。
【0061】
図7bは、いずれか(PHA、CD3 mAb)で活性化されたPBMCの代表的なFACS分析結果を示す。ゲーティング(gating)は陽性細胞の比率を表わす。
【0062】
図8は、刺激したPBMCを対象として、3[H]チミジン取り込み法によって測定した増殖速度が、RPMI中で無刺激で培養される生存PBMCに比べて高いことを示している。
【0063】
図9は、T細胞増殖アッセイにおいて、PBMCセクレトームに対するT細胞の応答が阻害されることを示している。
【0064】
図10中a〜図10中fは、インターロイキン−8、Gro−α、ENA−78、ICAM−1、VEGF、およびインターロイキン−16の上清のレベルを示している。アポトーシスPBMCにおいては、血管新生および免疫抑制に関連するこれらのサイトカインおよびケモカイン(chemokime)の分泌パターンが、生細胞とは顕著に異なる。この効果は、細胞を高密度でインキュベートすると一層顕著であった。
【0065】
図11は、実験的にLADの結紮を実施してから6週間後の、心筋の瘢痕組織の広がりを(左心室を占める%で)示している。アポトーシス細胞に由来する細胞培養物の上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の大幅な減少、瘢痕の広がりの低減、および生存可能な心筋の増加を示す。
【0066】
図12中a〜図12中cは、実験的に心筋梗塞を起こさせてから6週間後に外植されたラットの心臓の巨視的な外観を示している。放射線の照射を受けたアポトーシス細胞(図12中c)から得られた上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の減少、および梗塞領域が、培地(図12中a)または生存細胞から得られる上清(図12中b)を注射したものに比べて非常に小さいことを示す。瘢痕組織は緑色に着色し、より良好に可視化できるようにする。
【0067】
図13中a〜図13中dは、代表的な心エコー検査(Mモード)を示している。心機能は、IA−PBMCの上清を注射したラット(図13中c)の方が、培地で処理したラット(図13中a)および生細胞で処理したラット(図13中b)に比べてはるかに良好であった。偽処理を行ったラットから得られた心エコー検査法による撮影画像を図13中dに示す。
【0068】
図14中aおよび図14中bは、心筋梗塞から6週間後に実施した心エコー検査による分析結果を示している。放射線の照射を受けたアポトーシスPBMCから得られた上清を用いて治療したラットは、培地を注射した動物または生細胞を培養した上清を注射した動物に比べて、はるかに良好な心機能を示している。
【0069】
図15は、4つの治療グループすべてのカプラン−マイヤー生存曲線(surivial curve)を示している。生存PBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、アポトーシスPBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、どちらも、培地を注射したラットに比べて良好な生存率を示している。(p<0.1)。
【0070】
図16は、PBMCを用いて実施した抗CD3およびPHA刺激実験を示している。
【0071】
図17は、抗CD3、PHA、および混合リンパ球を用いて刺激をした際のPBMCの増殖を示している。
【0072】
図18は、PBMCの上清を用いてインキュベートしたCD4+細胞の上清のアネキシンVのレベルおよびPIの陽性度を示している。
【0073】
図19は、PBMCの上清によってCD4+細胞におけるCD25およびCD69の上方制御が阻害されることを示している。
【0074】
図20は、IL−10およびTGF−βを機能させないようにしても、CD4+細胞の増殖速度が上昇しなかったことを示している。
【0075】
〔実施例〕
〔実施例1〕
急性心筋梗塞(acute myocardical infarct; AMI)は、うっ血性心不全を引き起こすことが多い。現在の薬理学的および機械的な血行再建にもかかわらず、梗塞を起こした心筋を置換するような、効果的な治療法は実験的に確立されていない。AMI後の再モデリング過程の不可欠な構成要素は、AMI後の炎症反応および血管再生の進行である。これらの過程は、梗塞を起こした心筋中のサイトカインおよび炎症細胞によって媒介され、アポトーシス組織および壊死組織を貪食し、間質性樹状細胞(interstitial dendritic cell; IDC)およびマクロファージの自動誘導を開始する。全身的な免疫抑制(ステロイド)によって梗塞のサイズが拡大し、心筋の治癒が遅延したので、AMIによって誘導される炎症反応を減弱させることを目的とする臨床治験を、実施した。以上のデータから、AMI後の炎症応答が、組織の安定化および瘢痕の形成の原因であると結論した。離れた幹細胞が損傷部位を検知し、構造面の修復および機能面の修復を促進することを研究者が観察したときに、再生循環器学における新分野が出現した。この手法を用いて、Orlicらは、c−キット陽性の血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell; EPC)を、実験的なAMIと増加した血管再生ならびに心筋構造および血管構造の再生との境界領域に注射した。この研究は、「細胞治療」の再生能力を実証する多数の発表の引き金となった。ただし、この治療効果が、移植した細胞自身によってもたらされたのか、常在性の心筋幹細胞の補充によってもたらされたのか、あるいは、未知のパラクリンおよび免疫性のメカニズムの活性化によってもたらされたのか、依然はっきりしないままである。梗塞した心筋における虚血はアポトーシス過程を引き起こし、死にかけている細胞の細胞表面の脂質の変化を惹起する。最もよく特徴がわかっている変化は、リン脂質の非対称の喪失およびホスファチジルセリン(phosphatidylserine; PS)の曝露である。これらのPSは、配位子(例えばトロンボスポンジン、CD14、およびCD36)を介して、マクロファージおよび樹状細胞(抗原提示細胞、APC)によって認識される。これらの受容体は、生理的条件の下では、アポトーシス性および壊死性の組織片を貪食し、静かな「清掃」過程を開始するように作用する。このAPCによる貪食過程は、表現型の抗炎症性反応を引き起こし、これは増大したIL−10およびTGF−βの生成および阻害されたAPCの機能によって決定される。臨床的に関連する報告は、アポトーシス細胞の注射が、造血細胞(hematopoietic cell; HC)の移植モデルにおいて、同種のHCの移植および致死的な急性移植片対宿主病(graft−versus−host disease; GVHD)を遅延させることを実証した報告である。また、臓器移植モデルでは、ドナーのアポトーシス細胞を注射すると、心臓の移植片生着期間が長くなった。炎症とは反対に、また、骨髄(bone marrow; BM)からの前駆細胞の補充に関連して、アポトーシス細胞のオプソニン作用によって、APCによるVEGFおよびCXC8/IL−8の生成の増加が誘導されることが示された。この後者のサイトカインに加えて、MMP9も、骨髄からのEPCの補充および遊離にとって非常に重要であるということがわかった。
【0076】
AMIの治療に関する現在の「状況」は、急性閉塞冠動脈の早期の再灌流および再開口に向けられており、この状況は心筋障害を増加させ、内在性の修復機構に対して反対に作用するが、梗塞後の心筋の炎症は有利であると考えられる。
【0077】
〔物質および方法〕
〔PBMCにおけるアポトーシスの誘導および上清の生成〕
生体内実験を実施するために、健康な若いボランティアから血液を採取した。インビボ(ラットのPBMC)実験を実施するために、60Gy(ヒトPBMCの場合)または45GyのCs−137セシウムを照射することによって、アポトーシスを誘導した。0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)、0.5%のβ−メルカプトエタノール(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)、1%のL−グルタミン(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を含有するが、血清を含有しないUltra Culture培地(Cambrex Corp.、アメリカ)中に、細胞を再懸濁し、加湿雰囲気中で24時間培養して、試験管内実験(細胞濃度、1×106ml)に備えた。アポトーシスの誘導を、アネキシンV−フルオレセイン/ヨウ化プロピジウム(FITC/PI)の共染色(Becton Dickinson、アメリカ)によって、フローサイトメーターで測定した。PBMCのアネキシン陽性度を、>70%であると判断し、その結果、IA−PBMCと称することにする。放射線の照射を受けていないPBMCをコントロールとして使用し、生存PBMCと称することにする。上清を、どちらの実験的設定環境からも収集し、以下のように(SN−生存PBMC、SN−IA−PBMC)と記載し、実験用実体として使用した。
【0078】
〔LPS刺激実験〕
ヒトPBMCおよび単球(純度>95%)を、磁気ビーズシステム(Negative Selection、Miltenyi Biotec社、アメリカ)を用いて分離した。互いに異なる濃度のアポトーシス自系PBMC(アネキシンの陽性度>70%)およびリポ多糖(1ng/ml LPS;Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を用いて、PBMCおよび単球を4時間共インキュベートした。上清を確保し、次の試験まで−80℃で凍結保管した。IL−6およびIL−1βの放出量を、市販のELISAキット(BenderMedSystems社、オーストリア)を用いて決定した。
【0079】
〔単球に由来するDCの調製およびT細胞の刺激〕
PBMCを、フィコール・パク(Ficoll−paque:GE Healthcare Bio−Sciences AB社、スウェーデン)を用いた標準的な密度勾配遠心によって、健常なドナーのヘバリン処置した全血から単離した。T細胞および単球を、MACS法(Miltenyi Biotec社)を用いた磁気的な選別によって分離した。CD11b、CD14、CD16、CD19、CD33、およびMHCクラスIIの陽性細胞の、各単クローン抗体を用いた陰性除去によって、精製済みT細胞を得た。ビオチン化済みCD14 mAb VIM13(純度95%)を使用することによって、単球を濃縮した。精製済み血中単球をGM−CSF(50ng/ml)とIL−4(100U/ml)とを組み合わせて用いて7日間培養することによって、DCを生成した。次に、DCに異なる刺激を与えた。大腸菌(血清型0127−B8、Sigma Chemie社)から得た100ng/mlのLPSだけを24時間添加するか、あるいは、LPSを2時間添加し、さらに樹状細胞をアポトーシス細胞とともに1:1の比で22時間培養するかのいずれかによって、成熟を誘導した。また、アポトーシス細胞だけを用いて(1:1)、DCを24時間処理した。混合白血球反応(MLR)を起こすために、同種間の、精製済みT細胞(1×105個/ウェル)を、96個のウェルを有する細胞培養プレート(Corning Costar社)中で、異なる刺激を与えたDCを段階的に増やしながら6日間インキュベートした。3組の分析を実施した。5日後に添加する[メチル−3H]チミジン(ICN Pharmaceuticals社)の取り込み量を測定することによって、T細胞の増殖を観察した。細胞を18時間後に回収し、取り込まれた[メチル−3H]チミジンを、ミクロプレート・シンチレーションカウンターで検出した。
【0080】
〔生存PBMC、IA−PBMC、およびSNに曝露された線維芽細胞の細胞培養、RNA単離、およびcDNA調製〕
IA−PBMC、生存PBMC(細胞は1×106個、どちらもUltra Cultureの培地中で24時間培養)、およびSN−生存PBMC/SN−IA−PBMCに曝露した線維芽細胞を(Cascade Inc.(アメリカ)から入手した1×105個の線維芽細胞を、10%のウシ胎仔血清(FBS、PAA社、オーストリア)、25mMのL−グルタミン(Gibco社、BRL、アメリカ)、および1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco社 BRL、アメリカ)中で培養し、12個のウェルを有するプレートに播種して調べた。線維芽細胞を、SN−生存PBMCおよびSN−IA−PBMCを用いてそれぞれ4時間および24時間共インキュベートした)。製造者の指示にしたがって(RNeasy(QiIAGEN社、オーストリア)を用いて)、PBMCおよび線維芽細胞のRNA抽出を実施した後、取扱説明書の記載にしたがってiScript cDNA合成キット(BioRad社、アメリカ)を用いて、cDNAを転写した。
【0081】
〔定量的リアルタイムPCR〕
LightCycler Fast Start DNA Master SYBR Green I(Roche Applied Science社、Penzberg、ドイツ)を製造者のプロトコルにしたがって用いて、mRNAの発現を、リアルタイムPCRによって定量化した。VEGFのプライマーは、順方向が5´−CCCTGATGAGATCGAG−TACATCTT−3´、逆方向が5´−ACCGCCTCGGCTTGTCAC−3´であった。IL−8のプライマーは、順方向が5´−CTCTTGGCAGCCTTCCTGATT−3´、逆方向が5´−TATGCACTGACATCTAAGTTCTTTAGCA−3´であった。MMP9のプライマーは、順方向が5´−GGGAAGATGCTGGTGTTCA−3´、逆方向が5´−CCTGGCAGAAATAGGCTTC−3´であった。β−2−ミクログロブリンβ 2Mのプライマーは、順方向が5´−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3´、逆方向が5´−CAATCCAAATGCGGCATCT−3´であった。標的遺伝子の相対的な発現量を、Wellmann et al.(Clinical Chemistry. 47 (2001) 654-660, 25)の式を用いてハウスキーピング遺伝子β2Mと比較することによって算出した。プライマー対の効率は記載にしたがって決定した(A. Kadl, et al. Vascular Pharmacology. 38 (2002) 219-227)。
【0082】
〔培養後の生存PBMCおよびIA−PBMCによる血管新生促進因子およびMMP9の放出〕
IA−PBMC(5×105個)および生存PBMCを、加湿雰囲気中で24時間インキュベートした。上清を24時間後に収集し、−80℃でただちに凍結し、評価を実施するまで凍結させた。各PBMC細胞の溶解液をコントロールとして使用した。血管新生促進因子(VEGF−A、CXCL−8/IL−8、GMCSF、GCSF)およびMMP9(つまり、c−キット細胞に許容されている遊離因子)の放出を、製造業者の指示にしたがってELISA(R&D社、アメリカ)を使用して分析した。プレートを、Wallac Multilabel counter 1420(PerkinElmer社、アメリカ)を用いて、450nmで読み取った。
【0083】
〔AMIの生体内実験のための、同系IA−PBMCおよび生存PBMCの取得〕
生体内実験用に、同系のラットのPBMCを、前もってヘバリン処置しておいたラットから心臓を穿刺(punctuation)することによって得られた全血から密度勾配遠心によって分離した。生体内実験を実施するために、Cs−137セシウムを45Gyで照射することによって、アポトーシスを誘導し、上述のように18時間培養した(アネキシン染色>IA−PBMCの80%、アネキシン染色<生存PBMCの30%、1×106個/ml)。
【0084】
〔心筋梗塞の誘発〕
上述のようにLADを結紮することによって、雄の成体のスプラーグドーリーラットにおいて心筋梗塞を誘導した(Trescher K, et al. Cardiovasc Res. 2006: 69(3): 746−54)。簡潔に説明すると、キシラジン(xylazin)(1mg/身体重量100g)およびケタミン(ketamin)(10mg/身体重量100g)の混合物を用いて、動物に腹腔内麻酔し、機械を用いて人工呼吸を行った。左側方の開胸手術を実施し、6−0 proleneを用いて左心房の下方のLADの周囲を結紮した。虚血の開始直後に、0.3mlの細胞培養培地に懸濁した8×106個のアポトーシスPBMCを、尾静脈を介して注射した。細胞培養培地だけの注射、生存PBMCの注射、および偽処理を、それぞれ、この実験の設定環境においてネガティブコントロールとして使用した。ラットの実験計画を、図1(図1中a、図1中b)に示す。
【0085】
〔アポトーシス細胞の追跡〕
8×106個の同系のラットのPBMCを、15μMのカルボキシフルオセイン二酢酸サクシニミジルエステル(carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester; CFSE、Fluka Bio−Chemika社、Buchs,スイス)を用いて室温で10分間標識した。標識を、ウシ胎仔血清(FCS)を添加することによって停止させた。アポトーシスを誘導し(アネキシンV>70%)、結紮術後に細胞を注射した。手術の72時間後にラットを屠殺し、肝臓、脾臓、および心臓を標準的な手順にしたがって処理し、凍結切片(n=4)を得た。試料を、上述のように共焦点レーザ走査顕微鏡法(ZEISS LSM 510レーザ走査顕微鏡、ドイツ)によって分析した(Ker-jaschki D, J Am Soc Nephrol. 2004; 15: 603-12)。
【0086】
〔インビボの組織分析および免疫組織化学法〕
すべての動物を、実験的に梗塞を起こしてから72時間後または6週間後に屠殺した。心臓を外植し、次に、梗塞を起こした最大の領域(n=8〜10)を薄片化した。薄片を10%の中性の緩衝化ホルマリンで固定し、(免疫)組織染色をするためにパラフィンに埋め込んだ。組織試料を、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)およびelastic van Gieson(evg)を用いて染色した。免疫組織的評価を、CD68(MCA 341R、AbD Serotec社、イギリス)、VEGF(05−443、Upstate/Milipore、アメリカ)、Flk−1(sc−6251、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)、CD34(sc−52478、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)、c−キット(sc−168、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)、S100β(sc−58841、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)を対象とする以下の抗体を用いて実施した。組織試料を、Olympus Vanox AHBT3顕微鏡(Olympus Vanox AHBT3、Olympus Optical Co. Ltd.社、日本)を用いて拡大率×200で評価し、ProgRes Capture−Pro C12 plus カメラ(Jenoptik Laser Optik Systeme GmbH社、ドイツ)を使用してデジタル方式で撮像した。
【0087】
〔面積測定による心筋梗塞の大きさの決定〕
梗塞を起こした領域の大きさを決定するために、Image Jプラニメーター分析用ソフトウェア(Rasband, W.S., Image J, U. S. National Institutes of Health、アメリカ)を使用した。梗塞を起こした心筋組織の広がり(左心室における%)を、梗塞を起こした領域の外周の面積を左心室の心内膜および心外膜の外周の面積全体で割り算することによって算出した。壊死した領域が比較しやすいようにevgで染色した組織試料に対して、面積測定評価を実施した。梗塞の大きさを、左心室の面積全体に対する比率%で示す。
【0088】
〔心エコー検査による心機能の評価〕
心筋梗塞の誘発の6週間後に、100mg/kgケタミン(ketamin)および20mg/kgキシラジン(xylazin)を用いて、ラットを麻酔した。Vivid 5システム(General Electric Medical Systems社、アメリカ)を用いて、超音波検査を実施した。動物を割り当てられる投与グループに対して、経験豊富な観察者が盲検式で分析を行った(EW)。Mモード追跡を、傍胸骨の短軸図から記録し、機能的な収縮および拡張パラメータを得た。心室の直径および体積を、収縮期および拡張期において評価した。分画収縮率(fractional shortening)を下記のように算出した。
FS(%)=((LVEDD−LVESD)/LVEDD)×100%
【0089】
〔検定手法〕
SPSSソフトウェア(SPSS Inc.、アメリカ)を用いて、統計解析を実施した。すべてのデータは、平均値±標準偏差として与えられている。Kolmogorov−Smirnov試験を利用して、正規分布を検証した。従属変数を対象とする対応のある両側t検定、および独立変数を対象とする対応のないt検定を使用して、有意性を算出した。ボンフェローニ・ホルム補正を用いて、複数の試験のp値を調節した。p値(<0.05)は、統計的に有意であると考えられた。
【0090】
〔結果〕
〔セシウムの照射によるアポトーシスの誘導(IA−PBMC)〕
アポトーシス細胞の免疫調節能力を評価するために、まず、ヒトの末梢血単核球(PBMC)において、セシウム照射によるアポトーシスの誘導に対する細胞の反応を、フローサイトメーターを用いて、アネキシン−V/PI染色を利用したフローサイトメトリーによって判定した。生存PBMCと比較すると、セシウム照射したPBMCはアネキシンに対して時間に依存する陽性を示し、24時間以内にピーク値を示した。生細胞をコントロールとして使用した(図2a)。アネキシン−V結合は、インビトロですべてさらに24時間後に最高であったので、この培養期間後に調査を実施した(IA−PBMC)。生存PBMCを、RT−PCRを用いた実験および上清を用いた実験において、コントロールとして使用した。
【0091】
〔IA−PBMCは、インビトロで免疫抑制特性を示す〕
インターロイキン−1βおよびIL−6は、インビボにおける心筋梗塞の主要な炎症促進メディエーターであると考えられている。IA−PBMCが細胞反応に対して効果を有するかどうかという仮説をテストするために、ヒトの単球およびPBMCをIA−PBMCとともに共インキュベートし、標的細胞をLPSで刺激した。どちらの細胞型でも、ELISAによって評価したところ、培養物中におけるIL−1βおよびIL−6の分泌が投与量に応じて減少することがわかった(図2中b、図2中c)。同系モデルにおけるIA−PBMCの抗増殖効果を検証するために、混合リンパ球反応(MLR)を使用した。同系の精製済みT細胞を採用し、これらのエフェクター細胞を、IA−PBMCに添加して、あるいは添加せずに、投与量を段階的に変化させた樹状細胞とともにインキュベートした。図2中dは、IA−PBMCの共インキュベートによって、増殖速度が用量に応じて低下することを示している。
【0092】
〔IA−PBMCおよび生存PBMCによって、VEGF、IL−8/CXL8、およびMMP9のmRNAの転写が増加することの証明〕
EPCの分離に関連することが知られているタンパク質のmRNAの転写が、照射により増加するかどうかを調査するために、分離後、およびアポトーシスの誘導(24時間)後に、PBMCを分析した。生存PBMCをコントロール(生存PBMCまたはIA−PBMC)として使用した。RNA転写は、RT−PCRによって決定したVEGFの発現に比べてほとんど差を示さなかったが、IL−8/CXCL8およびMMP9の大幅な増加を示した。IA−PBMCにおけるIL−8/CXL8の場合のピークとなる誘導は、それぞれ、生細胞における2倍に対して6倍であり、MMP9の場合は5倍に対して30倍であった(図2中e)。
【0093】
〔IA−PBMCおよび生存PBMCによる、血管内皮前駆細胞(EPC)の遊離を引き起こすパラクリン因子の分泌〕
IA−PBMCおよび生存PBMCに由来するSNを、24時間の培養の後に、ELISAを使用して、VEGF、IL−8/CXCL8、GMCSF、GCSF、およびMMP9について定量した。図2中fからわかるように、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9は増加を示した。GM−CSFおよびG−CSFは検出されなかった。注目すべきは、MMP9が細胞溶解物においてピーク値を示すという知見であった。
【0094】
〔IA−PBMCおよび生存PBMCに由来するSNによる、間葉系の線維芽細胞における血管新生促進性mRNA転写の増加〕
骨髄中の間質細胞は構造的には線維芽細胞であるから、線維芽細胞とIA−PBMCおよび生存PBMCに由来するSNとの共インキュベーションには、EPC分離の原因となる、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9のmRNA転写因子を増加させる能力があるかどうかを調べることが必要であった。RT−PCRを4時間後および24時間後に実施した。IA−PBMC SN中で培養された細胞におけるIL−8/CXCL8について、最高レベルの誘導が検出された。誘導レベルは、コントロールに比べると4時間後にほぼ120倍に到達した。この反応は24時間後にも存在する。同等の反応がVEGFの場合に見られた。その一方で、MMP9の上方制御は、主に24時間が経過してから見られた。このデータは、BMにおける血管新生促進効果の原因となる、線維芽細胞によるmRNAの生成量の増加を促進するパラクリン因子を、SNが含んでいることを示唆している(図2中g)。
【0095】
〔ラットの心筋梗塞モデルにおける、CFSE標識IA−PBMCの養子移植〕
培養されたIA−PBMCはインビトロでは抗炎症性でもあり、血管新生促進性でもあることは証明できたので、IA−PBMCおよび生存PBMCを、急性のラットAMIモデルに注射した。まず、これらの培養細胞が梗塞後にどこに自動誘導されているのかを決定することが必要であった。LADの動脈結紮の直後に、CFSE標識IA−PBMCをラットの尾静脈に注射した。代表的な組織像は、図3中a、図3中b、図3中cに示すとおりである。CFSE IA−PBMCは大部分が、脾臓組織および肝組織において72時間以内に捕捉される。心臓で観察された細胞はなかった。
【0096】
〔IA−PBMCで処理したAMIにおける、転送された初期炎症の免疫反応〕
H.E.染色をさらに詳しく調べると、コントロールの梗塞および生存白血球(生存PBMC)で処理したAMIのラットは、創傷領域において、肉芽組織に応じた混合細胞浸潤を示し、AMIから72時間以内に多量の好中球、マクロファージ/単球、リンパ単核細胞、線維芽細胞、および活性化された増殖性内皮細胞が、ジストロフィーの心筋細胞と混合されていた(図3中d、図3中e)。その一方で、IA−PBMCで処理したAMIのラットは、好酸球性の細胞質、高密度な核、および円形状から紡錘形状の形態を有する中程度の大きさの単球様の細胞からなる創傷領域において、高密度で単形性の浸潤を示した(図3中f)。また、リンパ単核細胞、特に血漿細胞、線維芽細胞、および内皮細胞は、ほとんど検出できなかった。免疫組織学的解析によって、IA−PBMC AMIのラットにおける細胞浸潤は、残りの2つのグループでは非常に弱い、大量のCD68+単球/マクロファージ(図3中i)からなることがわかった(それぞれ、MCI、生存PBMC、IA−PBMC、強拡大視野、HPF、60.0±3.6、78.3±3.8、285.0±23.0(SEM))(図3中g、図3中h)。ビメンチンについて陽性の間葉系細胞の含有物は、すべてのグループにおいて同様であった。その一方で、S100+樹状細胞は、コントロール梗塞(処置グループ(図3中j、図3中k、図3中hの代表的な組織像、n=5)に比べると、それぞれ、AMI、生存PBMC、IA−PBMC、HPF 15.6±1.7、12.4±2.3、8.4±1.2(SEM))において、多く見られた。
【0097】
〔IA−PBMCで処理したAMIにおけるVEGF+、Flk1+、およびc−キット+細胞の初期自動誘導〕
IA−PBMCは、好酸球性の細胞質および高密度な核を有する中程度の大きさの単球様の細胞からなる創傷領域において、高密度で単形性の浸潤を示したので、血管再生および再生力に関連する複数の表面マーカーを調査した。IA−PBMCで処理したAMIグループにおいてH.E.染色で特定されるこの細胞集団は、血管内皮増殖因子(VEGFa)、Flk−1、およびc−キット(CD117)について、非常に高い陽性の染色を示した(図4中c、図4中f、図4中i)。どちらのマーカーの発現も、コントロールAMIおよび生存PBMCで処理したAMIグループにおいて低下した(図4中a、図4中b、図4中d、図4中e、図4中j)。興味深いことに、IA−PBMCで処理したAMIは、細胞が非常に密集している梗塞を起こした領域の内部において、CD34+細胞の増加を示した。なお、この領域は、コントロール(G、H)に比べて、34+細胞(I)のコロニー形成を推定的に指す、血管の構造に由来している(代表的な組織像、n=5)。
【0098】
〔IA−PBMCで処理したAMIにおける減弱した梗塞のサイズ〕
心筋梗塞を誘発させてから6週間後に外植した心臓から得た、EVGで染色した組織試料に対して実施したプラニメーター分析において、生理食塩水を与えられたラットは、左心室の24.95%±3.58(SEM)を超えて延び、拡張の徴候を有するコラーゲンの瘢痕を示す。IA−PBMCで処理したラットでは、これらの徴候はほとんど抑止され、梗塞のサイズは5.81%±2.02(SEM)であった。なお、生存PBMCで処理したラットの梗塞のサイズ14.3%±1.7(SEM)であった(図5中a、図5中b、図5中c)。
【0099】
〔IA−PBMCで処理したAMIでは、LV機能が向上する〕
同系培養IA−PBMCを静脈内に注入すると、生存PBMCまたは培地で処置した動物に比べて、心エコー検査のパラメータが大幅に向上する。収縮分画率(SF)は、偽処理を行った動物では29.16%±4.65(SEM)、培地で処理したAMI動物では18.76%±1.13(SEM)、生存PBMCで処理したAMIグループでは18.46%±1.67(SEM)、IA−PBMCで処理したラットでは25.14%±2.66(SEM)であった(図5e)。駆出分画率(EF)は、偽処理を行ったラットでは60.58%±6.81(SEM)であり、培地で処理したAMIの動物では42.91%±2.14(SEM)まで低下、生存PBMCを与えられた動物では42.24%±3.28(SEM)まで低下した。その一方で、IA−PBMCで処理したラットは、EFが53.46%±4.25であった。
【0100】
収縮末期の直径および拡張終期の直径(LVESD、LVEDD)、ならびに収縮末期の容積および拡張終期の容積(LVESV、LVEDV)の分析は、先に観察された値に匹敵するパターンを示した。生理食塩水を与えた動物および生存PBMCで処理したラットは、LVEDD値がそれぞれ10.43mm±0.21(SEM)および11.03mm±0.40であった。IA−PBMCで処理したラットでも、左心室の拡張期の直径が、偽処理を行った動物の9.47mm±0.64と比較するとわずかに低減し、8.99mm±0.32であった。収縮期の直径の差はこれほど顕著ではなかったが、同一レベル(パネル5(a、b、c)であった。
【0101】
〔結論〕
これらの知見によって、放射線の照射を受けたアポトーシスPBMC(IA−PBMC)が、インビトロで免疫抑制を誘導すること、および血管新生促進タンパク質の分泌に関連することが実証された。したがって、培養済み生存PBMCおよびIA−PBMCを急性のラットAMIモデルに注射し、この治療法がFLK1+/c−キット+陽性のEPCの梗塞心筋への大量の自動誘導を72時間以内に惹起し、6週間以内に有意な機能回復を引き起こすことを実証した。
【0102】
IA−PBMCを免疫アッセイ中で共培養すると、IL−1βおよびIL−6の生成が低下し、同種の樹状の混合リンパ球反応(MLR)が減弱した。免疫のパラメータはどちらも、心筋虚血後の炎症において役割を有すると考えられた。さらに、生存PBMCおよびIA−PBMCは、24時間以内に培地にCXCL8/IL−8およびMMP9を分泌することが示された。これらのタンパク質は、血管再生の原因およびEPCがBMから虚血心筋へ補充される原因であると考えられた。CXCL8/IL−8ケモカインは、内皮細胞に結合し、内皮細胞に対する強力な化学走性の活性を有する、小さな(<10kDa)各種ヘパリン結合性ポリペプチドからなるCXCLファミリーに属する。N末端(Glu−Leu−Arg、ELRモチーフ)における3つのアミノ酸残基が、内皮細胞上のCXC受容体1および2への、CXCケモカイン(例えばIL−8およびGro−α)の結合を決定し、内皮の化学遊走および血管新生を促進している。さらに、このマトリクスプロテイナーゼがキット配位子(sKitL)を放出するシグナルとして作用することから、MMP9の分泌がEPC動員の中心的な役割をはたしていることがわかった。なお、キット配位子(sKitL)とは、BMにおいて内皮および造血幹細胞(EPC)が無活動状態の状態から増殖性の状態へ転移する原因となるケモカインである。さらに別のインビトロ分析では、培養された生存PBMCおよびIA−PBMCに由来する上清(supernatant;SN)が、間葉系の線維芽細胞において、CXCL8/IL−8およびMMP9のmRNA転写を強化する能力を有していることを実証することができた。以上のデータは、生存PBMCおよび放射線の照射を受けたPBMCに由来するSNが、c−キット+EPCを循環中に溶出させるBMにおける、生物学的な状況を与えるパラクリン因子を含有することを示唆している。
【0103】
このインビボの培養細胞の懸濁液における何かしらの薬効を証明するために、開胸心筋損傷のモデル、およびラットの動物モデルにおいて、LADの結紮直後に、培養し注射した生存PBMCおよびIA−PBMCを使用した。最初のテストでは、CSFEで標識されたIA−PBMCの大部分が脾臓および肝臓において捕捉されることが証明された。以上のデータは、「細胞治療」が梗塞心筋では自動誘導されないことを示唆している。これとは対照的に、パラクリン効果は、「修正済み」培地だけによってであっても、または細胞培養懸濁液の暴露に起因する惹起された「免疫が媒介するサイトカインストーム」によってであっても、AMIの再生効果の原因となる可能性の方がはるかに高い。急性虚血直後の炎症が室の拡張を決定するので、AMIから72時間後の組織学的解析への道筋が実施された。IA−PBMCで処理したラットが、この期間における、CD68+およびVEGFa/FLK1/c−キット+陽性のEPC細胞集団における大量の自動誘導の証拠となることも示すことができた。一方、さらに多くのS100β陽性の樹状細胞がコントロールAMI中に見られた。このことは、コントロールAMIにおけるAPCに基づく炎症が増加したことを示唆している。
【0104】
IA−PBMCで処理したラットにおいて見られた結果は、部分的には、心筋梗塞の自然な進行に関して現在認容されている知識と相容れない。炎症に関しては、再設計過程は、通常の条件下では梗塞心筋中のサイトカインおよび炎症細胞によって媒介され、このサイトカインおよび炎症細胞が、壊死組織の食作用および融食作用、サバイビン筋細胞の肥大、血管新生、および(程度は限られているが)前駆細胞の増殖を特徴とする創傷修復過程を開始させる。梗塞後の炎症反応を介在する、ここまでの説明において紹介したどの実験手法も、AMIモデルにとっては有害であることが示された。この組織に関する短期データを解釈する際には、AMI中におけるIA−PBMC細胞の培地であった懸濁液によって、炎症からc−キット+EPC修復相への高度な遷移が起こることが示される。従来の研究では、AMI後の循環前駆体細胞治療の骨髄が、該細胞の心筋細胞への分化転換が起きているかどうかに関わらず、心機能を改善することが確認されている。c−キット+EPCについては、骨髄に由来する細胞は、心臓の修復に必須の大切な役割を有していると考えられる。イマチニブメシル酸塩を用いた薬理学的な阻害およびc−キット+EPCの非動員によって、AMI後の筋線維芽細胞の反応性が減弱し、心機能の急激な衰弱がともなった。
【0105】
これらの結果は、「同系」培養されたIA−PBMCを、AMIを患う患者に注射することが再生力を有することを示しており、また、急性のAMIを患う患者は、自己(つまり、治療を受ける患者または同じ種から採取された)IA−PBMCを注射されることによって利点を享受することを示唆している。
【0106】
〔実施例2:静止末梢血単核球(resting PBMC)による、低活性マーカーおよび炎症性サイトカイン産生の減少の証明〕
活性化された末梢血単核球(PBMC)およびその上清(SN)は、創傷の再生において有益であると考えられている(Holzinger C et al. Eur J Vasc Surg. 1994 May; 8(3): 351-6.)。不活性化PBMCおよび不活性化PBMCに由来するSNには、実験的な急性心筋梗塞(AMI)および創傷を形成したモデルにおいて薬効があることが、実施例1において示された。PBMCの不活性化は実験的に検証されなければならないので、PBMCの培養が、T細胞活性化マーカー(CD69、CD25)の強化または炎症性サイトカインの分泌(単球の活性化=TNFα、T細胞活性化=INFγ)の強化につながるかどうかを調べた。対照実験では、培養されたT細胞が、CD3 mAb刺激または植物性血球凝集素(Phytohemagglutinin; PHA)によって誘導される。
【0107】
〔方法および結果〕
健常人からの静脈血をEDTA管に収集した。フィコール・ハイパック密度勾配分離(density grade separation)を実施した後に、PBMCを収集し、生存細胞と放射線の照射を受けたアポトーシス細胞(IA−PBMC)とに分けた。アポトーシス細胞を得るために、PBMCを60Gy(セシウム137)に暴露した。フローサイメトリー法による分析を実施するために、500,000個のPBMCを200μlの無血清培地中で培養した。細胞に対してPHA(7μg/ml)もしくはCD3−mAb(10μg/ml)で刺激を与えるか、または刺激を全く与えなかった。24時間のインキュベーションの後に、細胞を洗浄し、CD3、CD69、およびCD25について染色(R&D System社)し、FC500(Coulter社)で表面活性化マーカーについて評価した。ELISAアッセイを実施するために、PBMCを、PHA刺激またはCD3刺激を与えるものと与えないものとに分けて、2.5×106個/mlの密度で一晩培養した。24時間後に、上清を回収し、−20℃で凍結させた。TNF−α(R&D社)用およびINF−γ(Bender社)用の市販のELISAキットを購入した。簡潔に説明すると、MaxiSorpプレートをTNF−αおよびINF−γに対する抗体でコーティングし、一晩保存した。24時間後に、プレートを洗浄し、試料を各ウェルに2個ずつ添加した。インキュベーションならびに検出用抗体およびStrep−tavidin−HRPの添加の後、TMB基質を各ウェルに添加した。発色後、スルヒック酸(sulphic acid)を添加することによって、酵素反応を停止させた。光学濃度値を、Wallac Victor3プレート読み取り装置で読み取った。
【0108】
〔結果〕
FACS分析
CD3で刺激されたT細胞およびPHAで刺激されたT細胞は、24時間のインキュベーション後に、活性化マーカーCD69およびCD25の上方制御を示した。無刺激の細胞およびアポトーシス細胞は、ほんのわずかな量のCD69およびCD25を発現させるだけであった(図6中a(代表的な試料、図6中b、ヒストグラム、n=4)。統計的有意性は星印で表わす(xxp<0.001、xp<0.05)。
【0109】
ELISA分析
無刺激のPBMCに由来する上清においてはTNF−αもINF−γもいずれも検出されなかったが、PHAまたはCD3で刺激を与えたPBMCから得られた上清は、ELISA分析が示唆するように、これらのサイトカインが高い値であることを示した(星印**p<0.001、*p<0.05、n=8)。この結果は、無刺激のPBMCとは炎症性サイトカインの分泌パターンが異なることを明確に示している。
【0110】
〔結論〕
以上のデータは、「無刺激PBMC」が、刺激PBMC(PHAおよびCD3 mAb)とは異なる別の表現型(活性化マーカー、サイトカインの分泌)であることを示唆している。
【0111】
図6中aは、無刺激の生存PBMCも、IA−PBMCも、どちらも主に単球に由来する炎症促進性のサイトカインTNF−αを分泌しないことを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0112】
図6中bは、無刺激のPBMCに比べると、炎症促進性のインターフェロンγの分泌が、活性化後に強く誘導されることを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0113】
図7中aは、フローサイメトリー法を用いた分析の結果を統合して示している。PBMCをT細胞に対してゲーティングし、活性化マーカーCD69およびCD25の発現を評価した。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=4)。
【0114】
図7中bは、いずれか(PHA、CD3 mAb)で活性化されたPBMCの代表的なFACS分析結果を示す。ゲーティング(gating)は陽性細胞の百分率を表わす。
【0115】
〔実施例3:生理的溶液中で培養されるPBMCの増殖活性〕
本実施例の目的は、特異的(CD3)、非特異的(レクチン、PHA)、および同種のT細胞の誘発(混合リンパ球反応、MLR)を、2日(CD3、PHA)および5日(MLR)間の刺激アッセイにおいて利用する免疫アッセイに比べると、PBMCは増殖活性を有しないことを証明することである。
【0116】
〔物質および方法〕
PBMCを、フィコール密度勾配遠心法によって若い健常人から分離し、0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)および1%のL−グルタミン(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を含有するRPMI(Gibco社、アメリカ)中で、200μLにつき細胞1×105個の割合で再懸濁した。レスポンダー細胞に、MoAbによってCD3(10μg/ml、BD社、NJ、アメリカ)、PHA(7μL/ml、Sigma Chemical Co.社、アメリカ)に対して刺激を与えるか、あるいは、放射線の照射を受けた同種のPBMCを1:1の比(MLRの場合)で用いることによって刺激を与えた。プレートを48時間または5日間インキュベートし、その後、3[H]チミジン(3.7×104Bq/ウェル;Amersham Pharmacia Biotech社、スウェーデン)を用いて18時間パルスを与えた。細胞を回収し、3[H]チミジンの取り込み量を液体シンチレーション計数器において測定した。
【0117】
〔結果〕
刺激PBMCは、3[H]チミジン取り込み法によって測定した増殖速度が、RPMI中で無刺激で培養される生存PBMCに比べて高いことを示した(図8)。この効果は、T細胞に特異的な刺激(PHA、CD3)を付加することによって、増殖が抗原提供細胞(MLR)によって誘導されたアッセイにおいても、観察された。
【0118】
〔結論〕
この一連の実験は、培養液中で最長5日間まで保持される生存PBMCが増殖しない一方で、異なる方法で刺激を与えられたPBMCは顕著な増殖反応を示したことを示唆している。以上のデータから、無刺激でPBMCを培養しても増殖反応を引き起こさないと結論できる。
【0119】
〔実施例4:無菌培養条件の下で保管された分離PBMCのセクレトームが有する新たな血管新生能〕
血管再生と炎症とはインビボにおいて強く関連しているので、これらのPBMCのセクレトームがT細胞に対して抗増殖効果をも示し、その結果、炎症の免疫反応に干渉するかどうかを調べた。
【0120】
〔物質および方法〕
フィコール密度勾配遠心法によって若い健常人から分離したPBMC(2.5×106個/ml)を、0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)および1%のL−グルタミン(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を含有するRPMI(Gibco社、CA、アメリカ)中で24時間インキュベートすることによって、セクレトームを得た。上清を細胞分画から分離し、−80℃で保存した。増殖アッセイを実施するために、分離後に、同種のPBMCを200μLのRPMIにつき細胞1×105個の割合で再懸濁した。レスポンダー細胞として、MoAbによってCD3(10μg/ml、BD社、アメリカ)またはPHA(7μL/ml、Sigma Chemical Co.社、アメリカ)に対して刺激を与えた。上清の異なる希釈物を添加した。プレートを48時間インキュベートし、その後、3[H]−チミジン(3.7×104Bq/ウェル;Amersham Pharmacia Biotech社、スウェーデン)を用いて18時間パルスを与えた。細胞を回収し、3[H]−チミジンの取り込み量を液体シンチレーション計数器において測定した。
【0121】
〔結果〕
3[H]−チミジン取り込み法によって測定する増殖速度は、同種のPBMCのセクレトームにおいて、正のコントロールに比べて有意に低減することを示した(図9)。この効果は用量に依存し、PHA刺激時とともに、抗CD3刺激時にも観察された。
【0122】
〔結果に基づく示唆〕
この一連の実験は、生存PBMCから得られるセクレトームを24時間培養液中に保持すると、有意な抗増殖効果をインビトロで示すことを示唆している。以上のデータは、PBMCに由来する上清または凍結乾燥された状態にある上清は、低酸素症によって誘発される炎症またはその他の高炎症疾患(例えば自己免疫疾患、炎症性皮膚疾患など)に関連するヒトの疾患を治療するための、治療用処方物として作用する潜在的な可能性があることを示唆している。
【0123】
〔実施例5:末梢血単核球が分泌するパラクリン因子による心機能の保存〕
実施例1では、末梢血液に由来し、放射線の照射を受けた培養後のアポトーシス細胞を注射することによって、ラットにおける実験的な心筋梗塞の後の機能的な心臓の回復が大幅に改善されることが示された。この改善は、アポトーシス細胞が持つ免疫を抑制する特性、血管新生促進効果、およびc−キット+血管内皮前駆細胞(EPC)の増大した自動誘導の誘導に基づいている。
【0124】
本実施例では、末梢血単核球(PBMC)(生存PBMCまたは60Grayの放射線の照射を受けたPBMC)を24時間インキュベートし、細胞培養物の上清を生成した。上清を凍結乾燥し、生体内実験において使用するまで凍結したまま保管した。左前側の下行動脈を結紮することによって、スプラーグドーリーラットにおいて心筋梗塞を誘導した。虚血の開始後に、凍結乾燥していた上清を再懸濁し、静脈内に注射した。組織学的評価および免疫組織学的な評価を行うために、心筋梗塞から3日後および6週間後に組織試料を採取した。AMIから6週間後の心エコー検査によって、心機能を評価した。偽処理を行った動物および無処置の動物を、コントロールとして使用した。
【0125】
アポトーシスPBMCから得られた上清を注射したラットは、コントロールに比べると、心筋の血管新生が増加し、および血管内皮前駆細胞の自動誘導の強化を72時間以内に示した。線維症の領域のプラニメーター評価は、アポトーシス細胞から得られた上清を用いて治療した動物では梗塞のサイズが低減したことを示唆していた。さらに、心エコー検査は、駆出分画率の損失の減弱および室の形状の保存によって証明されるように、AMI後の再設計について大きな改善を示した。アポトーシス細胞から得られた上清を与えたラットにおける左室駆出分画(LVEF)は平均値が56±4%であり、一方で、偽処理を行った動物の場合には60±5%であった。また、無処置の動物または生細胞の上清を注射した動物は、それぞれ44±3%および41±4%にまで、LVEFが大きく衰弱した(p<0.001)。
【0126】
以上のデータは、実験的AMIにおいて放射線の照射を受けたアポトーシスPBMCに由来する上清を注射することによって、炎症が回避でき、心室機能の保存につながる再生EPCの優先的な自動誘導を引き起こすことを示唆している。
【0127】
〔方法〕
〔インビトロアッセイにおけるヒトPBMCの細胞培養〕
ヒト末梢血単核球(PBMC)を、上述のフィコール密度勾配遠心法(Ficoll density grade centrifugation)によって採取した。ヒトPBMCにおいてアポトーシスを誘導するために、細胞に60Gyの放射線を照射した(irradiation automat for human blood products、Department of Hematology、General Hospital Vienna)。生存PBMCおよび放射線の照射を受けたアポトーシス(IA−)PBMCを、どちらも各種の細胞密度(1×106、5×106、10×106、および25×106個の細胞/ミリリットル、n=5)で37℃で24時間インキュベートした。その後、上清を得て、分泌されるタンパク質のレベルを、製造業者が提供するプロトコルにしたがって、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA、R&D System社、Minneapolis、アメリカ)によって測定した。
【0128】
〔AMI生体内実験のための同系IA−PBMCおよび生存PBMCの取得〕
生体内実験に用いる同系ラットのPBMCを、前もってヘバリン処置しておいたラットから、右心房を穿刺することによって得られた全血から、密度勾配遠心法によって分離した。生体内実験を行うために、45GyのCs−137セシウムを照射することによって、アポトーシスを誘導し、37℃で25×106個の細胞/ミリリットルの細胞密度で培養した。照射によるアポトーシスの誘導を、フローサイトメトリー(IA−PBMCの場合はアネキシンV染色>80%、生存PBMCの場合はアネキシンV染色<20%)によって測定した。細胞を加湿雰囲気(5% CO2、37℃、相対湿度95%)中で24時間インキュベートした。上清を除去し、50mMの酢酸アンモニウムに対して3.5kDaのカットオフ(Spectrum laboratories、Breda、オランダ)で4℃で一晩透析した。その後、上清を無菌濾過し、凍結乾燥した。凍結乾燥したセクレトームを−80℃で保存し、実験を行うたびに新たに再懸濁した。セクレトームを無作為抽出して、そのpH値を計測した。凍結乾燥した粉末を、次の実験を実施するまで−80℃で保存した。
【0129】
〔心筋梗塞の誘発〕
ウイーン医科大学動物研究委員会(committee for animal research, Medical University of Vienn)から、動物実験の許可を得た。実験はすべて米国国立衛生研究所(National Institutes of Health (NIH))が発行するGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsにしたがって実施した。左前側の下行動脈(LAD)を結紮することによって、雄の成体スプラーグドーリーラットにおいて、心筋梗塞を誘導した。簡潔に説明すると、キシラジン(xylazin)(1mg/身体重量100g)およびケタミン(ketamin)(10mg/身体重量100g)の混合物を用いて、動物に腹腔内麻酔し、機械を用いて人工呼吸を行った。左側方の開胸術を実施し、6−0 proleneを用いて左心房の下方のLADの周囲を結紮した。虚血の開始直後に、0.3ml細胞培養培地中に再懸濁された8×106個のアポトーシスPBMCから得られた、凍結乾燥させた上清を、大腿静脈に注射した。細胞培養培地だけの注射、生存PBMCの上清の注射、および偽処理を、それぞれ、この実験の設定環境において、ネガティブコントロールとして使用した。実験設計を図1に示す。
【0130】
〔インビボにおける組織学および免疫組織化学〕
実施例1を参照する。
【0131】
〔プラニメーター分析による心筋梗塞のサイズの決定〕
実施例1を参照する。
【0132】
〔心エコー検査による心機能の評価〕
実施例1を参照する。
【0133】
〔検定手法〕
ソフトウェア(Graph Pad Prism、アメリカ)を用いて統計解析を実施した。すべてのデータを、平均値±標準誤差として与える。従属変数を対象とする対応のある両側t検定、および独立変数を対象とする対応のないt検定を使用して有意性を算出した。
【0134】
急性の心筋梗塞の生存率のグループ間の差を、カプラン−マイヤー保険統計解析法によって比較した。ボンフェローニ・ホルム補正を使用して、複数の試験のp値を調節した。p値<0.05は、統計的に有意であると考えられた。
【0135】
〔結果〕
〔ELISAによるIA−PBMCおよび生存PBMCが分泌するパラクリン因子の決定〕
結果を図10〜15に示す。
【0136】
〔実施例6:末梢血単核球が分泌するパラクリン因子が有する免疫抑制特性〕
実施例1では、急性心筋梗塞(acute myocardical infarct; AMI)の動物モデルにおける、PBMCセクレトームの抗炎症効果が示された。本実施例では、AMIを誘発後のPBMCセクレトームの適用が、免疫応答を大きく下方制御することによって心筋の炎症性損傷を阻害することを示す。
【0137】
これらの知見に基づいて、試験管内実験におけるセクレトームの考え得る免疫抑制効果について調べた。CD4+細胞は、免疫過程において、他の白血球(例えばマクロファージ、B細胞、細胞傷害性T細胞など)の補助にとって重要であって、免疫反応の統合において鍵となる役割を果たす。
【0138】
〔物質および方法〕
〔PBMCセクレトームの生成〕
健常人から得られるPBMCを、フィコール密度勾配遠心法によって分離した。細胞を、Ultra Cultureの培地(Lonza社、Basel、スイス)中で1×106個/ml(sup liv)の濃度で再懸濁した。アポトーシスPBMCからセクレトームを生成するために、60Gy(sup APA)を照射することによって、アポトーシスを誘導した。細胞を、加湿雰囲気(5% CO2、37℃、相対湿度95%)下で24時間インキュベートした。上清を除去し、50mMの酢酸アンモニウムに対して3.5kDaのカットオフ(Spectrum laboratories、Breda、オランダ)で4℃で一晩透析した。その後、上清を無菌濾過し、凍結乾燥した。凍結乾燥したセクレトームを−80℃で保存し、実験を行うたびに新たに再懸濁した。セクレトームを無作為抽出して、そのpH値を計測した。
【0139】
〔CD4細胞の分離〕
MACSビーズシステム(Miltenyi社、Bergisch Gladbach、ドイツ)を使用して、CD4+T細胞以外の細胞を枯渇させることによって、CD4+細胞を分離した。細胞を新たに準備し、ただちに各実験に使用した。
【0140】
〔アポトーシスの測定〕
アポトーシスを、市販のアネキシンV/PIキット(BD社、New Jersey、アメリカ)を用いてフローサイトメトリーによって検出した。アポトーシスをアネキシン陽性染色法によって定義し、後期アポトーシスをPIの陽性度によって定義した。
【0141】
〔増殖実験〕
PBMCまたは精製済みCD4+細胞を、96個の丸底ウェルを有するプレートにおいて、0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、St. Louis、MO、アメリカ)、0.5%のβ−メルカプトエタノール(Sigma Chemical Co.社、St Louis、MO、アメリカ)、および1%のGlutaMAX−I(インビトロゲン社、Carlsbad、CA、アメリカ)を補充したUltra Culture中で、1×105個/ウェルの濃度にまで希釈した。PHA(7μg/ml、Sigma Chemical Co.社、アメリカ)、CD3(10μg/ml、BD社、New Jersey、アメリカ)、IL−2(10U/ml、BD社、アメリカ)を用いて、または放射線の照射を受けた(60Gy)同種のPBMCを1:1の比で用いて、MLRを得るために、細胞に刺激を与えた。細胞を、複数の濃度のPBMCセクレトーム、IL−10、またはTGF−βを用いて48時間または5日間(MLR)インキュベートした。その後、3[H]チミジン(3.7×104Bq/ウェル;Amersham Pharmacia Biotech社、Uppsala、スウェーデン)を用いて、細胞に18時間パルスを与えた。細胞を回収し、3[H]チミジンの取り込み量を液体シンチレーション計数器において測定した。
【0142】
〔活性化マーカー〕
精製済みCD4+細胞を、抗CD3(10μg/ml)を用いて刺激し、複数の濃度のPBMCセクレトームで共インキュベートした。細胞を、標準的なフローサイメトリー法の染色プロトコルにしたがって、CD69およびCD25について染色し、フローサイトメーターFC500(Beckman Coulter社、Fullerton、CA、アメリカ)で分析した。
【0143】
〔結果〕
予備実験において、生細胞(sup liv)から得られるPBMCの上清の抗増殖特性について試験を行った。抗CD3刺激実験およびPHA刺激実験では、増殖速度が、セクレトーム(n=10)を添加することによって大幅に低下した。
【0144】
これらの細胞は、免疫反応を始動および継続させる際に中心的役割を果たすので、これらの知見に基づいて、Tヘルパー細胞の区画に対するPBMCセクレトームの効果を評価した。図16と同様に、非常に高度に精製されたCD4+細胞は、セクレトームを添加することによって増殖能を喪失した。この現象は、放射線の照射を受けたアポトーシスPBMC(図17、n=5)の上清の場合にも、生存PBMCの上清の場合にも観察された。
【0145】
次の工程は、細胞生存率に対するセレクトームの考え得る効果を決定することである。したがって、静止CD4+細胞を、上清およびアネキシンVを用いてイノキュベートし、PIの陽性度を評価した。生存PBMCから得られる上清も、アポトーシスPBMCから得られる上清も、どちらも顕著なアポトーシス促進効果を示した(図18、n=5)。
【0146】
PBMCセクレトームがCD4+細胞活性化を阻害することができるかどうかを試してみるために、CD4+細胞の抗CD3刺激に続いて、T細胞活性化マーカーCD25およびCD69を評価した。どちらのマーカーの上方制御も、PBMCセクレトームによって大幅にかつ用量に応じて阻害された(図19、n=5)。
【0147】
最後の一連の実験では、これらの実験において中和抗体を添加することによる、免疫抑制サイトカインIL−10およびTGF−βの効果について検討した。IL−10も、TGF−βも、これらのサイトカインの効果を失わせても増殖速度は上昇しなかったので(図20、n=5)、本発明のPBMCセクレトームの抗増殖効果の原因ではなかった。
【0148】
〔結論〕
これらの実験によって、PBMCのセレクトームがインビトロで免疫抑制特性を有することが初めて示された。上清は、a)抗CD3刺激実験、PHA刺激実験、およびMLR刺激実験において増殖速度を低下させ、b)T細胞の誘導時にCD4+細胞のアポトーシスを誘導し活性化を阻害する効力を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】図1中aは、心エコー検査、組織学的検査、および免疫組織学的検査による心機能の評価における、実験プロトコルおよび実験時期を示している。図1中bは、18時間の培養期間の後にアネキシンに対して陽性染色したPBMCであって、放射線の照射を受けたラットのPBMCおよび放射線の照射を受けていないラットのPBMCの比率を示している。
【図2】図2中aでは、放射線を照射することによってヒトのPBMCではアポトーシスを引き起こし、アネキシンの発現が48時間にわたって時間の経過と共に増加することを、FACS分析によって示している。図2中bでは、LPS刺激を受けたPBMCまたは単球を、放射線を照射したアポトーシス自系PBMCと共にインキュベートすることによって、炎症促進性のサイトカインIL−1βの分泌が投与量に応じて減少することが示されている。図2中cでは、程度は相対的に低いが、この知見は、IA−PBMCの存在下における、LPS刺激PBMCおよび単球のIL−6分泌プロファイルにも相関している。図2中dでは、LPS刺激を伴う混合リンパ球の反応液に、自系IA−PBMCを添加すると、1分毎に測定した(counts per minute; cpm)T細胞の増殖数が減少している。図2中eでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMPの転写物のRT−PCR RNA発現解析によって、24時間の培養後に、放射線の照射を受けたPBMCにおいてIL−8/CXCL8および特にMMP9の上方制御が起こったことが示されている。図2中fでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9のELISA解析によって、MMP9は大部分が細胞溶解物質中に見られる一方で、VEGFおよびIL−8/CXCL8のタンパク質分泌の差が、生細胞においても、IA−PBMCにおいても、ほぼ同じレベルのままであることが示されている。図2中gでは、生存PBMCまたはIA−PBMCの細胞培養物から得られる上清中でインキュベートしたヒトの線維芽細胞が、RT−PCR解析において、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9転写物の強い上方制御を示している。また、ピーク値は、IA−PBMCの上清中でインキュベートされた線維芽細胞に見られた。
【図3】図3中a、図3中b、図3中cに示すように、人工的に心筋梗塞を起こした後のラットにおいて、尾静脈を介して投与した、CFSEで標識された同系PBMCは、大部分が脾臓(図3中b)において見られ、これよりは少ない個数が肝臓(図3中a)において見られたが、梗塞を起こした心臓(図3中c)ではPBMC細胞が全く見られなかった。図3中d、図3中e、図3中fに示すように、培地(図3中d)または生存PBMC(図3中e)のいずれかを注射したラットにおいてHE染色した梗塞区域が、免疫細胞が浸潤した虚血の心筋に匹敵するパターンを示し、IA−PBMCを与えられたラットから得られる組織が、非常に高い密度の浸潤を示唆している。図3中g、図3中h、図3中iでは、生細胞で治療されたラット(図3中h)の方が、培地で治療されたラット(図3中g)に比べて、梗塞部位において、CD68+で染色された細胞がわずかに多いことがわかる。これとは対照的に、IA−PBMCを注射した動物(ラット)では、3倍の量のCD68+が検出された。図3中j、図3中k、図3中lに示すように、生存PBMCまたはIA−PBMCを投与した場合に比べて、培地だけを与えられたラットの方が、高いレベルのS100β+細胞が見られた。
【図4】図4中a、図4中b、図4中cに示すように、培地(図4中a)または生細胞治療(図4中b)の場合に比べて、IA−PCMCを注射した動物から得られる梗塞を起こした心筋組織(c)において、ほぼ4倍の量のVEGFについて陽性染色された細胞が検出された。図4中d、図4中e、図4中fに示すように、VEGF受容体のKDR/FLK1について、同様の発現パターンが見られ、ピーク値は培地(図4中d)および生細胞(図4中e)ではなく、IA−PBMCのグループ(図4中f)において見られた。図4中g、図4中h、図4中iに示すように、3つのどのグループにおいてもCD34について差が検出されなかった。図4中j、図4中k、図4中lに示すように、梗塞を起こした心臓におけるマーカーc−キットについての免疫組織学的分析によると、IA−PBMC(図4中l)を注射したラットでは、多量の陽性染色された細胞および高密度な局在性が示され、培地を与えられた動物(図4中j)および生細胞を与えられた動物(図4中k)では、それより少ない個数の細胞が示されている。
【図5】図5中a、図5中b、図5中cに示すように、心筋梗塞(Elastica van Gieson染色法)の誘導から6週間後に外植された虚血性のラットの心臓の組織学的解析の結果である。培地を注射した動物(図5中a)から得られた心臓は、他に比べて拡張されているようであり、線維性組織が大きく広がっていた。生細胞を注射したラット(図5中b)では瘢痕の広がりが低減し、拡張の徴候が他に比べて少なかった。瘢痕組織の形成の最低量は、IA−PBMCを注射された動物(図5中c)において検出された。図5中dに示すように、LADの結紮から6週間後に収集された標本のプラニメーター分析によって得られたデータの統計解析の結果から、瘢痕の広がりの平均値は、培地を注射された動物では24.95%±3.6、生存PBMCを注射された動物では14.3%±1.3、IA−PBMCを注射された動物では5.8%±2であることを示している(平均値+SEM)。図5中e、図5中f、図5中gでは、心エコー検査によって得られる心機能パラメータ(収縮分画率、駆出分画率、および収縮末期の直径)の評価によって、IA−PBMCを注射した動物では、他に比べて、心筋梗塞後に良好に回復していることが示されている。
【図6a】図6aは、無刺激の生存PBMCも、IA−PBMCも、どちらも主に単球に由来する炎症促進性のサイトカインTNF−αを分泌しないことを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【図6b】図6bは、無刺激のPBMCに比べると、炎症促進性のインターフェロンγの分泌が、活性化後に強く誘導されることを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【図7a】図7aは、フローサイメトリー法を用いた分析の結果を統合して示している。PBMCをT細胞についてゲーティングし、活性化マーカーCD69およびCD25の発現を評価した。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=4)。
【図7b】図7bは、いずれか(PHA、CD3 mAb)で活性化されたPBMCの代表的なFACS分析結果を示す。ゲーティング(gating)は陽性細胞の比率を表わす。
【図8】図8は、刺激したPBMCを対象として、3[H]チミジン取り込み法によって測定した増殖速度が、RPMI中で無刺激で培養される生存PBMCに比べて高いことを示している。
【図9】図9は、T細胞増殖アッセイにおいて、PBMCセクレトームに対するT細胞の応答が阻害されることを示している。
【図10】図10中a〜図10中fは、インターロイキン−8、Gro−α、ENA−78、ICAM−1、VEGF、およびインターロイキン−16の上清のレベルを示している。アポトーシスPBMCにおいては、血管新生および免疫抑制に関連するこれらのサイトカインおよびケモカイン(chemokime)の分泌パターンが、生細胞とは顕著に異なる。この効果は、細胞を高密度でインキュベートすると一層顕著であった。
【図11】図11は、実験的にLADの結紮を実施してから6週間後の、心筋の瘢痕組織の広がりを(左心室を占める%で)示している。アポトーシス細胞に由来する細胞培養物の上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の大幅な減少、瘢痕の広がりの低減、および生存可能な心筋の増加を示す。
【図12】図12中a〜図12中cは、実験的に心筋梗塞を起こさせてから6週間後に外植されたラットの心臓の巨視的な外観を示している。放射線の照射を受けたアポトーシス細胞(図12中c)から得られた上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の減少、および梗塞領域が、培地(図12中a)または生存細胞から得られる上清(図12中b)を注射したものに比べて非常に小さいことを示す。瘢痕組織は緑色に着色し、より良好に可視化できるようにする。
【図13】図13中a〜図13中dは、代表的な心エコー検査(Mモード)を示している。心機能は、IA−PBMCの上清を注射したラット(図13中c)の方が、培地で処理したラット(図13中a)および生細胞で処理したラット(図13中b)に比べてはるかに良好であった。偽処理を行ったラットから得られた心エコー検査法による撮影画像を図13中dに示す。
【図14】図14中aおよび図14中bは、心筋梗塞から6週間後に実施した心エコー検査による分析結果を示している。放射線の照射を受けたアポトーシスPBMCから得られた上清を用いて治療したラットは、培地を注射した動物または生細胞を培養した上清を注射した動物に比べて、はるかに良好な心機能を示している。
【図15】図15は、4つの治療グループすべてのカプラン−マイヤー生存曲線(surivial curve)を示している。生存PBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、アポトーシスPBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、どちらも、培地を注射したラットに比べて良好な生存率を示している。(p<0.1)。
【図16】図16は、PBMCを用いて実施した抗CD3およびPHA刺激実験を示している。
【図17】図17は、抗CD3、PHA、および混合リンパ球を用いて刺激をした際のPBMCの増殖を示している。
【図18】図18は、PBMCの上清を用いてインキュベートしたCD4+細胞の上清のアネキシンVのレベルおよびPIの陽性度を示している。
【図19】図19は、PBMCの上清によってCD4+細胞におけるCD25およびCD69の上方制御が阻害されることを示している。
【図20】図20は、IL−10およびTGF−βを機能させないようにしても、CD4+細胞の増殖速度が上昇しなかったことを示している。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状を治療するための薬剤に関する。
【0002】
酸素が減少した状態である低酸素症は、肺が易感染性になると、または血流が低下すると発生し得る。血流が減少である虚血は、凝血(血栓)もしくは何かしらの外来性の循環物質による動脈もしくは静脈の閉塞(塞栓)によって、または血管障害(例えば粥状動脈硬化)によって引き起こされる可能性がある。血流の減少は、突然発症して持続期間が短い(急性の虚血)こともあれば、発症がゆるやかで持続期間が長いまたは頻繁に再発(慢性の虚血)することもある。急性の虚血は、局所的で不可逆的な組織の壊死(梗塞)に関連していることが多い。一方で、慢性の虚血は通常一過性の低酸素性の組織傷害に関連する。ただし灌流の減少が長引く、あるいは重篤であると、慢性の虚血は梗塞にも関連する。梗塞は脾臓、腎臓、肺、脳、および心臓において頻繁に発生し、例えば腸梗塞、肺梗塞、虚血発作、心筋梗塞などの障害を引き起こす。
【0003】
虚血性障害における病理的な変化は、虚血の持続期間および重症度ならびに患者の生存期間に依存する。壊死は梗塞内部で最初の24時間以内に確認できる。また、急性の炎症反応は梗塞部に隣接する生存組織中で進行し、白血球は死滅組織の領域に移動する。これに続く数日の間に、貪食および膠質性瘢痕または神経膠瘢痕との置換によって、梗塞領域内において細胞が徐々に分解および除去される。
【0004】
1つの器官における低灌流または梗塞が、他の器官に影響を及ぼすことが多い。一例として、例えば肺塞栓症によって引き起こされる肺の虚血は、肺に影響するだけではなく、心臓やその他の器官(例えば脳)をも低酸素性ストレス下におく。心筋梗塞は、血栓症、動脈壁痙攣、または心臓のウイルス感染症に起因する冠動脈の閉塞を伴うことが多く、うっ血性心不全および全身的低血圧症を引き起こす可能性がある。心拍停止が長引いて低灌流が継続すると、二次的な各種合併症(例えば全身的な虚血性脳症)が発症する可能性がある。脳虚血は、最も一般的には粥状動脈硬化を原因とする血管閉塞によって引き起こされ、その重症度は、各種一過性脳虚血発作(transient ischemic attack; TIA)から大脳梗塞または脳卒中にまでわたり得る。TIAの症状は一時的かつ可逆的であるが、TIAは再発する傾向があり、TIAに続いて脳卒中を起こすことが多い。
【0005】
閉塞性動脈疾患の例としては、心筋梗塞に繋がるおそれのある冠動脈疾患、ならびに腹部大動脈、腹部大動脈の主要な支脈、および脚の動脈に影響しかねない末梢動脈疾患などが挙げられる。末梢動脈疾患とは、例えばバージャー病、レイノー病、および先端チアノーゼなどである。末梢動脈疾患は一般に粥状動脈硬化によって引き起こされるが、その他の主要な原因の一例としては糖尿病があげられる。末梢動脈疾患に関連する合併症の例としては、重症下肢痙攣、急性扁桃炎、心拍異常、心不全、心発作、脳卒中、腎不全などが挙げられる。
【0006】
虚血性障害および低酸素性障害は罹患および死亡の主要な原因である。循環器疾患は、世界中の死亡原因の30%を占める。各種の循環器疾患の中では、虚血性心疾患および脳血管疾患が死亡原因の約17%である。
【0007】
現在、虚血性障害および低酸素性障害の治療では、症状の緩和および原因となる疾患の治療に焦点が合わせられている。例えば、心筋梗塞の治療にはニトログリセリンおよび鎮痛薬が用いられ、痛みを制御し心臓の作業負荷を軽減する。ジゴキシン、利尿薬、アムリノン、β遮断薬、高脂血症治療薬、およびアンジオテンシン変換酵素阻害薬を含めた、他の薬物療法が病状の安定化のために使用されるが、これらの治療法はいずれも、虚血および低酸素症によって生じた組織の損傷を直接治療対象とするものではない。
【0008】
現在の治療法には短所があるために、低酸素症に関連する病状の治療に効果的な方法に対する必要性が依然として存在する。例えば粥状動脈硬化、糖尿病、および肺障害に起因して起きる虚血によって引き起こされる組織の損傷の、効果的な予防法に対する必要性も存在する。
【0009】
虚血および低酸素症に関連する病状には、通常炎症が併発する。したがって、炎症も緩和する手段および方法が必要とされている。
【0010】
本発明の目的は、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する症状を効率的に治療することを可能にする手段を提供することである。
【0011】
本発明は、体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬剤であって、a)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)またはそのサブセットを含有する生理的溶液、またはb)溶液a)の上清を包含し、溶液a)は、PBMC増殖性物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中において、PBMCまたはそのサブセットを少なくとも1時間培養することによって得られるものである、薬剤に関する。
【0012】
上記において定義した薬剤を、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状を患う患者に投与することによって、各症状が軽減され、治癒過程が実現されることが見出された。
【0013】
本発明に係る薬剤は、培養されたPBMCもしくはそのサブセット、および/またはPBMCを培養した培養上清を包含する。PBMCの培養過程において、これらのPBMC細胞は、活性化PBMCにおいて発現および分泌される物質とは異なる、サイトカインなどの物質を発現および分泌する。このことは、本発明のPBMCのセクレトームが、活性化PBMCのセクレトームとは異なることを意味している。本発明のPBMC細胞は、細胞の表面以外の部分で誘因されるセクレトーム生成を行う。したがって、PHAまたはLPSなどのPBMCを活性化する物質と接触していないPBMCが、体内の炎症症状、特に虚血に関連する症状の治療に使用可能であることは驚くべきことである。これは、これらのPBMC細胞のセクレトームが、上記の症状または同様の症状の治療を支援する物質を含有することを示している。
【0014】
本発明に係るPBMCは、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中でPBMCを培養することによって得られる。ただし、このPBMCは、生理的溶液中で少なくとも1時間インキュベートされる。この最短培養時間は、PBMCにサイトカインおよびその他の有益な物質を分泌させるために必要である。
【0015】
本発明に係る薬剤のうちPBMCの部分は、例えばフィコール勾配、低浸透圧性溶解などの当該技術分野において公知の方法を用いて、全血から得ることもできる。これらの方法は当該技術分野において周知である。
【0016】
上記薬剤のPBMCを、薬剤が投与されるドナー集団または同じ個体から得てもよい。
【0017】
PBMCまたはそのサブセットは、本発明に係る薬剤中に生存可能な形態で存在している。
【0018】
上清を得る元となる生理的溶液は、溶液1mlあたり、または単位服用量あたり、少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMC細胞を包含する。
【0019】
本発明の薬剤は、1mlあたり、または単位服用量あたり、少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMCを含有している。
【0020】
ここで使用する「生理的溶液」とは、使用に先立って、PBMCを本発明に係る薬剤中で培養するための溶液を指す。
【0021】
「生理的溶液」とは、さらに、PBMCの細胞死を1時間以内、好ましくは30分以内に引き起こさない溶液も指す。生存PBMCの個数が、ある溶液中で1時間以内、好ましくは30分以内に75%、より好ましくは90%減少すれば、この溶液はここで定義する「生理的溶液」であるとは見なさない。「生理的溶液」は、PBMCがこの溶液に接触しても、PBMCの自発的な溶解を引き起こさない。
【0022】
本文脈において、「培養(cultivating)」または「培養(culturing)」工程は、「インキュベーション」工程を含む、または「インキュベーション」工程からなる。なお、この「インキュベーション」工程は、PBMCを培養するために通常使用される条件の下で、所定の時間(少なくとも1時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも8時間、さらにより好ましくは少なくとも12時間)、PBMC細胞を溶液に接触させる工程である。
【0023】
本発明の文脈において、「虚血に関連する症状」という用語は「虚血症状」という用語と交換可能に使用可能であって、ヒトまたは動物の体の一部の領域に十分な酸素が供給されず、その結果組織の損傷または機能障害を発生させる、任意の症状、疾患、または障害を表わす。病態は、血管の狭窄または閉塞によって引き起こされる可能性がある、器官または器官の一部の内部における血液供給の減少または消滅という特徴を有していてもよい。このような性状を、ここではまとめて、「虚血」または「虚血関連症状」または「虚血に関連する症状」という用語によって称する。例えば心疾患では、虚血という用語を使って、狭窄または閉塞した冠動脈が原因となって酸素に富む血液が十分な量だけ得られていない心筋に言及することが多い。虚血の症状は「虚血」状態にある器官によって異なる。心臓の場合、虚血の結果、狭心症が起こることが多い。脳では、虚血の結果、脳卒中が起こり得る。虚血症状の場合には炎症が併発する。
【0024】
炎症、特に虚血に関連する病態の例としては、創傷、心筋虚血、肢虚血、組織の虚血、虚血再灌流障害、狭心症、冠動脈疾患、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、虚血発作、慢性の創傷、糖尿病性の創傷、心筋梗塞、うっ血性心不全、肺梗塞、皮膚潰瘍などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0025】
ただし、本発明の文脈における病態とは、内皮細胞の損傷または機能障害、つまり創傷を特徴とするものであってもよい。本発明に係る薬剤を使用することによって治療してもよい創傷の例としては、慢性の創傷、糖尿病性の創傷、潰瘍、熱傷、炎症性皮膚疾患、腸疾患などがあげられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0026】
「体内の症状」、「体内の炎症症状」、および「虚血に関連する体内の症状」という用語は、最適な機能(例えば骨、心臓、肝臓、腎臓、大脳、皮膚の良好な連携)を実現するために必要な哺乳類の末端器官における、急性または不顕性の低酸素症および炎症が原因となって、個体の体の内部に生じる症状および疾患に関連する。
【0027】
ここで使用する「生理的溶液」とは、PBMCまたはそのサブセットの破壊を引き起こさない浸透圧を示す溶液を指し、個体に直接投与可能である。
【0028】
「PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない」という用語は、PBMCを活性化し、PBMCまたはそのサブセットの増殖を誘導する物質を含有しない生理的溶液を指す。このような物質の例としては、PHA、LPSなどがある。
【0029】
本発明の好適な実施形態によれば、上記炎症症状は、機能性を有する末端器官の低酸素症および炎症に関連する哺乳類の疾患からなる群より選択される。
【0030】
本発明の特に好適な実施形態によれば、上記体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状は、心筋虚血、肢虚血、組織の虚血、虚血再灌流障害、狭心症、冠動脈疾患、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、虚血発作、心筋梗塞、うっ血性心不全、外傷、腸疾患、腸間膜梗塞、肺梗塞、骨折、歯を移植した後の組織の再生、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、同種移植、および同種移植の拒絶からなる群より選択される。
【0031】
末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)のサブセットは、好ましくはT細胞、B細胞、またはNK細胞である。言うまでもなく、これらの細胞の組み合わせ、具体的にはT細胞とB細胞との組み合わせ、T細胞とNK細胞との組み合わせ、B細胞とNK細胞との組み合わせ、T細胞とB細胞とNK細胞との組み合わせを使用することも可能である。これらの細胞を準備および単離する方法は公知である。
【0032】
驚くべきことに、本発明のPBMCは、(先に定義したように)溶液が薬学的に許容不可能な物質を含有せず、PBMCの突然死を引き起こさず、PBMCを活性化せず、かつ、PBMCの増殖を刺激しない限り、任意の種類の溶液中で培養可能であることがわかった。したがって、使用される溶液は、少なくともPBMCの溶解を引き起こさない浸透圧性を示す。生理的溶液は、好ましくは生理食塩水(好ましくは生理的NaCl溶液)、全血、血液分画物(好ましくは血清)、または細胞培養培地である。
【0033】
上記細胞培養培地は、好ましくはRPMI、DMEM、X−vivo、およびウルトラカルチャー(Ultraculture)からなる群より選択される。
【0034】
本発明の特に好適な実施形態によれば、本発明のPBMC細胞はストレスを誘発する条件下で培養される。
【0035】
ここで使用する「ストレスを誘発する条件下」という用語は、ストレス細胞を引き起こす培養条件を指す。細胞においてストレスを引き起こす条件としては、例えば熱、化学物質、放射線、低酸素症、浸透圧(つまり非生理的な浸透圧条件)などがある。
【0036】
本発明のPBMC細胞にさらにストレスを加えると、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状の治療にとって有益な物質の発現および分泌が一層増加する。
【0037】
本発明の好適な実施形態によれば、ストレスを誘発する条件には、低酸素症、オゾン、熱(例えば、PBMCの最適な培養温度、つまり37℃より2℃、好ましくは5℃、より好ましくは10℃を超えて高い温度)、放射線(例えばUV線やγ線)、化学物質、浸透圧(つまり、体液中で、特に血液中で通常生じる浸透圧条件に比べて少なくとも10%高い浸透圧条件)、pHの変化、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0038】
放射線を利用して本発明のPBMCにストレスを与えるのであれば、好ましくは、PBMC細胞を、少なくとも10Gy、好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gyで暴露する。ここで、放射線の供給源として、好ましくは、Cs−137セシウムが使用される。
【0039】
本発明の好適な実施形態によれば、不活性化PBMCまたはそのサブセットを、培地中で少なくとも4時間、好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間培養する。
【0040】
本発明に係る薬剤は、治療しようとする症状に応じて様々な方法で投与可能である。したがって、この薬剤は、好ましくは皮下投与、筋肉内投与、内器官投与(例えば心筋内への投与)および静脈内投与ができるように構成される。
【0041】
本発明に係る薬剤は、薬学的に許容可能な賦形剤、例えば希釈剤、安定剤、担体などを包含してもよい。投与経路に応じて、本発明に係る薬剤は各剤形の形態(注射溶液など)で提供される。これを調製する方法は当業者にとって周知である。
【0042】
本発明に係る薬剤の有効期間を伸ばすために、溶液a)または上清b)は凍結乾燥される。このような調製物を凍結乾燥する方法は、当業者にとって周知である。
【0043】
上記凍結乾燥された調製物を、使用前にバッファ、安定剤、塩などを含む水または水溶液と接触させてもよい。
【0044】
本発明の他の態様は、上記において定義した薬剤を、体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬物の製造のために用いる使用方法に関する。
【0045】
本発明のさらにもう他の態様は、ここに開示する薬剤を調製する方法であって、a)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)またはそのサブセットを準備する工程と、b)工程a)のPBMC細胞を、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中で少なくとも1時間培養する工程と、c)工程b)の細胞および/またはこの細胞の上清を単離する工程と、d)工程c)の細胞および/または上清を用いて上記薬剤を調製する工程とを含む、方法に関する。
【0046】
本発明に係る薬剤は、PBMCを、生理的溶液中で少なくとも1時間、好ましくは少なくとも4時間、より好ましくは少なくとも8時間、さらにより好ましくは少なくとも12時間インキュベートまたは培養することによって得ることができる。この工程において、PBMCは、体内の炎症症状の治療において有用な物質の合成および分泌を開始する。上記培養工程の前、同工程の後、および同工程の途中で、PBMC細胞は、PHAまたはLPSなどのPBMCを活性化する物質を添加することによって活性化されることがない。培養工程の後に、培養物からPBMC細胞および/または上清は単離され、最終的な薬剤の調製においてさらに使用される。上述のように、上記薬剤は、培養したPBMC、上記細胞をインキュベートした培養物の上清、または培養したPBMCと培地との両方を包含してもよい。
【0047】
本発明の好適な実施形態によれば、上記細胞は、工程b)の前または同工程の途中で、ストレスを誘発する条件に曝され、このストレスを誘発する条件には、低酸素症、オゾン、熱、放射線、化学物質、浸透圧(例えば、塩、特にNaClを添加して、浸透圧を血液中より高くすることによって誘発される)、pHの変化(つまり、酸または水酸化物を添加してpH値を6.5〜7.2または7.5〜8.0とすることによるpH値の変化)、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0048】
本発明の好適な実施形態によれば、上記細胞は、工程b)の前または同工程の途中で、少なくとも10Gy(好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy)、オゾン、高温、またはUV線に暴露される。
【0049】
本発明の他の態様は、上述の方法によって得られる薬剤に関する。
【0050】
本発明のさらに他の態様は、本発明に係る薬剤を適切な量で、必要とする個体に投与することによって、体内の炎症症状、好ましくは虚血に関連する体内の症状を治療する方法に関する。治療しようとする症状に応じて、本発明の薬剤は、筋肉内投与、静脈内投与、器官内投与(例えば心筋内投与)または皮下投与される。
【0051】
本発明の好適な実施形態において、上記薬剤は、上記において概説した方法によって得られる1mlあたり少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMCを包含する。これに対応して、少なくとも500個、好ましくは少なくとも1000個、より好ましくは少なくとも105個、さらにより好ましくは少なくとも106個のPBMCが、治療対象である個体に投与される。
【0052】
本発明を、以下の図面および例によってさらに説明する。ただし本発明はこれらに制限されるものではない。
【0053】
図1中aは、心エコー検査、組織学的検査、および免疫組織学的検査による心機能の評価における、実験プロトコルおよび実験時期を示している。図1中bは、18時間の培養期間の後にアネキシンに対して陽性染色したPBMCであって、放射線の照射を受けたラットのPBMCおよび放射線の照射を受けていないラットのPBMCの比率を示している。
【0054】
図2中aでは、放射線を照射することによってヒトのPBMCではアポトーシスを引き起こし、アネキシンの発現が48時間にわたって時間の経過と共に増加することを、FACS分析によって示している。図2中bでは、LPS刺激を受けたPBMCまたは単球を、放射線を照射したアポトーシス自系PBMCと共にインキュベートすることによって、炎症促進性のサイトカインIL−1βの分泌が投与量に応じて減少することが示されている。図2中cでは、程度は相対的に低いが、この知見は、IA−PBMCの存在下における、LPS刺激PBMCおよび単球のIL−6分泌プロファイルにも相関している。図2中dでは、LPS刺激を伴う混合リンパ球の反応液に、自系IA−PBMCを添加すると、1分毎に測定した(counts per minute; cpm)T細胞の増殖数が減少している。図2中eでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMPの転写物のRT−PCR RNA発現解析によって、24時間の培養後に、放射線の照射を受けたPBMCにおいてIL−8/CXCL8および特にMMP9の上方制御が起こったことが示されている。図2中fでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9のELISA解析によって、MMP9は大部分が細胞溶解物質中に見られる一方で、VEGFおよびIL−8/CXCL8のタンパク質分泌の差が、生細胞においても、IA−PBMCにおいても、ほぼ同じレベルのままであることが示されている。図2中gでは、生存PBMCまたはIA−PBMCの細胞培養物から得られる上清中でインキュベートしたヒトの線維芽細胞が、RT−PCR解析において、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9転写物の強い上方制御を示している。また、ピーク値は、IA−PBMCの上清中でインキュベートされた線維芽細胞に見られた。
【0055】
図3中a、図3中b、図3中cに示すように、人工的に心筋梗塞を起こした後のラットにおいて、尾静脈を介して投与した、CFSEで標識された同系PBMCは、大部分が脾臓(図3中b)において見られ、これよりは少ない個数が肝臓(図3中a)において見られたが、梗塞を起こした心臓(図3中c)ではPBMC細胞が全く見られなかった。図3中d、図3中e、図3中fに示すように、培地(図3中d)または生存PBMC(図3中e)のいずれかを注射したラットにおいてHE染色した梗塞区域が、免疫細胞が浸潤した虚血の心筋に匹敵するパターンを示し、IA−PBMCを与えられたラットから得られる組織が、非常に高い密度の浸潤を示唆している。図3中g、図3中h、図3中iでは、生細胞で治療されたラット(図3中h)の方が、培地で治療されたラット(図3中g)に比べて、梗塞部位において、CD68+で染色された細胞がわずかに多いことがわかる。これとは対照的に、IA−PBMCを注射した動物(ラット)では、3倍の量のCD68+が検出された。図3中j、図3中k、図3中lに示すように、生存PBMCまたはIA−PBMCを投与した場合に比べて、培地だけを与えられたラットの方が、高いレベルのS100β+細胞が見られた。
【0056】
図4中a、図4中b、図4中cに示すように、培地(図4中a)または生細胞治療(図4中b)の場合に比べて、IA−PCMCを注射した動物から得られる梗塞を起こした心筋組織(c)において、ほぼ4倍の量のVEGFについて陽性染色された細胞が検出された。図4中d、図4中e、図4中fに示すように、VEGF受容体のKDR/FLK1について、同様の発現パターンが見られ、ピーク値は培地(図4中d)および生細胞(図4中e)ではなく、IA−PBMCのグループ(図4中f)において見られた。図4中g、図4中h、図4中iに示すように、3つのどのグループにおいてもCD34について差が検出されなかった。図4中j、図4中k、図4中lに示すように、梗塞を起こした心臓におけるマーカーc−キットについての免疫組織学的分析によると、IA−PBMC(図4中l)を注射したラットでは、多量の陽性染色された細胞および高密度な局在性が示され、培地を与えられた動物(図4中j)および生細胞を与えられた動物(図4中k)では、それより少ない個数の細胞が示されている。
【0057】
図5中a、図5中b、図5中cに示すように、心筋梗塞(Elastica van Gieson染色法)の誘導から6週間後に外植された虚血性のラットの心臓の組織学的解析の結果である。培地を注射した動物(図5中a)から得られた心臓は、他に比べて拡張されているようであり、線維性組織が大きく広がっていた。生細胞を注射したラット(図5中b)では瘢痕の広がりが低減し、拡張の徴候が他に比べて少なかった。瘢痕組織の形成の最低量は、IA−PBMCを注射された動物(図5中c)において検出された。図5中dに示すように、LADの結紮から6週間後に収集された標本のプラニメーター分析によって得られたデータの統計解析の結果から、瘢痕の広がりの平均値は、培地を注射された動物では24.95%±3.6、生存PBMCを注射された動物では14.3%±1.3、IA−PBMCを注射された動物では5.8%±2であることを示している(平均値+SEM)。図5中e、図5中f、図5中gでは、心エコー検査によって得られる心機能パラメータ(収縮分画率、駆出分画率、および収縮末期の直径)の評価によって、IA−PBMCを注射した動物では、他に比べて、心筋梗塞後に良好に回復していることが示されている。
【0058】
図6aは、無刺激の生存PBMCも、IA−PBMCも、どちらも主に単球に由来する炎症促進性のサイトカインTNF−αを分泌しないことを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0059】
図6bは、無刺激のPBMCに比べると、炎症促進性のインターフェロンγの分泌が、活性化後に強く誘導されることを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0060】
図7aは、フローサイメトリー法を用いた分析の結果を統合して示している。PBMCをT細胞についてゲーティングし、活性化マーカーCD69およびCD25の発現を評価した。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=4)。
【0061】
図7bは、いずれか(PHA、CD3 mAb)で活性化されたPBMCの代表的なFACS分析結果を示す。ゲーティング(gating)は陽性細胞の比率を表わす。
【0062】
図8は、刺激したPBMCを対象として、3[H]チミジン取り込み法によって測定した増殖速度が、RPMI中で無刺激で培養される生存PBMCに比べて高いことを示している。
【0063】
図9は、T細胞増殖アッセイにおいて、PBMCセクレトームに対するT細胞の応答が阻害されることを示している。
【0064】
図10中a〜図10中fは、インターロイキン−8、Gro−α、ENA−78、ICAM−1、VEGF、およびインターロイキン−16の上清のレベルを示している。アポトーシスPBMCにおいては、血管新生および免疫抑制に関連するこれらのサイトカインおよびケモカイン(chemokime)の分泌パターンが、生細胞とは顕著に異なる。この効果は、細胞を高密度でインキュベートすると一層顕著であった。
【0065】
図11は、実験的にLADの結紮を実施してから6週間後の、心筋の瘢痕組織の広がりを(左心室を占める%で)示している。アポトーシス細胞に由来する細胞培養物の上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の大幅な減少、瘢痕の広がりの低減、および生存可能な心筋の増加を示す。
【0066】
図12中a〜図12中cは、実験的に心筋梗塞を起こさせてから6週間後に外植されたラットの心臓の巨視的な外観を示している。放射線の照射を受けたアポトーシス細胞(図12中c)から得られた上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の減少、および梗塞領域が、培地(図12中a)または生存細胞から得られる上清(図12中b)を注射したものに比べて非常に小さいことを示す。瘢痕組織は緑色に着色し、より良好に可視化できるようにする。
【0067】
図13中a〜図13中dは、代表的な心エコー検査(Mモード)を示している。心機能は、IA−PBMCの上清を注射したラット(図13中c)の方が、培地で処理したラット(図13中a)および生細胞で処理したラット(図13中b)に比べてはるかに良好であった。偽処理を行ったラットから得られた心エコー検査法による撮影画像を図13中dに示す。
【0068】
図14中aおよび図14中bは、心筋梗塞から6週間後に実施した心エコー検査による分析結果を示している。放射線の照射を受けたアポトーシスPBMCから得られた上清を用いて治療したラットは、培地を注射した動物または生細胞を培養した上清を注射した動物に比べて、はるかに良好な心機能を示している。
【0069】
図15は、4つの治療グループすべてのカプラン−マイヤー生存曲線(surivial curve)を示している。生存PBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、アポトーシスPBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、どちらも、培地を注射したラットに比べて良好な生存率を示している。(p<0.1)。
【0070】
図16は、PBMCを用いて実施した抗CD3およびPHA刺激実験を示している。
【0071】
図17は、抗CD3、PHA、および混合リンパ球を用いて刺激をした際のPBMCの増殖を示している。
【0072】
図18は、PBMCの上清を用いてインキュベートしたCD4+細胞の上清のアネキシンVのレベルおよびPIの陽性度を示している。
【0073】
図19は、PBMCの上清によってCD4+細胞におけるCD25およびCD69の上方制御が阻害されることを示している。
【0074】
図20は、IL−10およびTGF−βを機能させないようにしても、CD4+細胞の増殖速度が上昇しなかったことを示している。
【0075】
〔実施例〕
〔実施例1〕
急性心筋梗塞(acute myocardical infarct; AMI)は、うっ血性心不全を引き起こすことが多い。現在の薬理学的および機械的な血行再建にもかかわらず、梗塞を起こした心筋を置換するような、効果的な治療法は実験的に確立されていない。AMI後の再モデリング過程の不可欠な構成要素は、AMI後の炎症反応および血管再生の進行である。これらの過程は、梗塞を起こした心筋中のサイトカインおよび炎症細胞によって媒介され、アポトーシス組織および壊死組織を貪食し、間質性樹状細胞(interstitial dendritic cell; IDC)およびマクロファージの自動誘導を開始する。全身的な免疫抑制(ステロイド)によって梗塞のサイズが拡大し、心筋の治癒が遅延したので、AMIによって誘導される炎症反応を減弱させることを目的とする臨床治験を、実施した。以上のデータから、AMI後の炎症応答が、組織の安定化および瘢痕の形成の原因であると結論した。離れた幹細胞が損傷部位を検知し、構造面の修復および機能面の修復を促進することを研究者が観察したときに、再生循環器学における新分野が出現した。この手法を用いて、Orlicらは、c−キット陽性の血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cell; EPC)を、実験的なAMIと増加した血管再生ならびに心筋構造および血管構造の再生との境界領域に注射した。この研究は、「細胞治療」の再生能力を実証する多数の発表の引き金となった。ただし、この治療効果が、移植した細胞自身によってもたらされたのか、常在性の心筋幹細胞の補充によってもたらされたのか、あるいは、未知のパラクリンおよび免疫性のメカニズムの活性化によってもたらされたのか、依然はっきりしないままである。梗塞した心筋における虚血はアポトーシス過程を引き起こし、死にかけている細胞の細胞表面の脂質の変化を惹起する。最もよく特徴がわかっている変化は、リン脂質の非対称の喪失およびホスファチジルセリン(phosphatidylserine; PS)の曝露である。これらのPSは、配位子(例えばトロンボスポンジン、CD14、およびCD36)を介して、マクロファージおよび樹状細胞(抗原提示細胞、APC)によって認識される。これらの受容体は、生理的条件の下では、アポトーシス性および壊死性の組織片を貪食し、静かな「清掃」過程を開始するように作用する。このAPCによる貪食過程は、表現型の抗炎症性反応を引き起こし、これは増大したIL−10およびTGF−βの生成および阻害されたAPCの機能によって決定される。臨床的に関連する報告は、アポトーシス細胞の注射が、造血細胞(hematopoietic cell; HC)の移植モデルにおいて、同種のHCの移植および致死的な急性移植片対宿主病(graft−versus−host disease; GVHD)を遅延させることを実証した報告である。また、臓器移植モデルでは、ドナーのアポトーシス細胞を注射すると、心臓の移植片生着期間が長くなった。炎症とは反対に、また、骨髄(bone marrow; BM)からの前駆細胞の補充に関連して、アポトーシス細胞のオプソニン作用によって、APCによるVEGFおよびCXC8/IL−8の生成の増加が誘導されることが示された。この後者のサイトカインに加えて、MMP9も、骨髄からのEPCの補充および遊離にとって非常に重要であるということがわかった。
【0076】
AMIの治療に関する現在の「状況」は、急性閉塞冠動脈の早期の再灌流および再開口に向けられており、この状況は心筋障害を増加させ、内在性の修復機構に対して反対に作用するが、梗塞後の心筋の炎症は有利であると考えられる。
【0077】
〔物質および方法〕
〔PBMCにおけるアポトーシスの誘導および上清の生成〕
生体内実験を実施するために、健康な若いボランティアから血液を採取した。インビボ(ラットのPBMC)実験を実施するために、60Gy(ヒトPBMCの場合)または45GyのCs−137セシウムを照射することによって、アポトーシスを誘導した。0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)、0.5%のβ−メルカプトエタノール(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)、1%のL−グルタミン(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を含有するが、血清を含有しないUltra Culture培地(Cambrex Corp.、アメリカ)中に、細胞を再懸濁し、加湿雰囲気中で24時間培養して、試験管内実験(細胞濃度、1×106ml)に備えた。アポトーシスの誘導を、アネキシンV−フルオレセイン/ヨウ化プロピジウム(FITC/PI)の共染色(Becton Dickinson、アメリカ)によって、フローサイトメーターで測定した。PBMCのアネキシン陽性度を、>70%であると判断し、その結果、IA−PBMCと称することにする。放射線の照射を受けていないPBMCをコントロールとして使用し、生存PBMCと称することにする。上清を、どちらの実験的設定環境からも収集し、以下のように(SN−生存PBMC、SN−IA−PBMC)と記載し、実験用実体として使用した。
【0078】
〔LPS刺激実験〕
ヒトPBMCおよび単球(純度>95%)を、磁気ビーズシステム(Negative Selection、Miltenyi Biotec社、アメリカ)を用いて分離した。互いに異なる濃度のアポトーシス自系PBMC(アネキシンの陽性度>70%)およびリポ多糖(1ng/ml LPS;Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を用いて、PBMCおよび単球を4時間共インキュベートした。上清を確保し、次の試験まで−80℃で凍結保管した。IL−6およびIL−1βの放出量を、市販のELISAキット(BenderMedSystems社、オーストリア)を用いて決定した。
【0079】
〔単球に由来するDCの調製およびT細胞の刺激〕
PBMCを、フィコール・パク(Ficoll−paque:GE Healthcare Bio−Sciences AB社、スウェーデン)を用いた標準的な密度勾配遠心によって、健常なドナーのヘバリン処置した全血から単離した。T細胞および単球を、MACS法(Miltenyi Biotec社)を用いた磁気的な選別によって分離した。CD11b、CD14、CD16、CD19、CD33、およびMHCクラスIIの陽性細胞の、各単クローン抗体を用いた陰性除去によって、精製済みT細胞を得た。ビオチン化済みCD14 mAb VIM13(純度95%)を使用することによって、単球を濃縮した。精製済み血中単球をGM−CSF(50ng/ml)とIL−4(100U/ml)とを組み合わせて用いて7日間培養することによって、DCを生成した。次に、DCに異なる刺激を与えた。大腸菌(血清型0127−B8、Sigma Chemie社)から得た100ng/mlのLPSだけを24時間添加するか、あるいは、LPSを2時間添加し、さらに樹状細胞をアポトーシス細胞とともに1:1の比で22時間培養するかのいずれかによって、成熟を誘導した。また、アポトーシス細胞だけを用いて(1:1)、DCを24時間処理した。混合白血球反応(MLR)を起こすために、同種間の、精製済みT細胞(1×105個/ウェル)を、96個のウェルを有する細胞培養プレート(Corning Costar社)中で、異なる刺激を与えたDCを段階的に増やしながら6日間インキュベートした。3組の分析を実施した。5日後に添加する[メチル−3H]チミジン(ICN Pharmaceuticals社)の取り込み量を測定することによって、T細胞の増殖を観察した。細胞を18時間後に回収し、取り込まれた[メチル−3H]チミジンを、ミクロプレート・シンチレーションカウンターで検出した。
【0080】
〔生存PBMC、IA−PBMC、およびSNに曝露された線維芽細胞の細胞培養、RNA単離、およびcDNA調製〕
IA−PBMC、生存PBMC(細胞は1×106個、どちらもUltra Cultureの培地中で24時間培養)、およびSN−生存PBMC/SN−IA−PBMCに曝露した線維芽細胞を(Cascade Inc.(アメリカ)から入手した1×105個の線維芽細胞を、10%のウシ胎仔血清(FBS、PAA社、オーストリア)、25mMのL−グルタミン(Gibco社、BRL、アメリカ)、および1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco社)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco社 BRL、アメリカ)中で培養し、12個のウェルを有するプレートに播種して調べた。線維芽細胞を、SN−生存PBMCおよびSN−IA−PBMCを用いてそれぞれ4時間および24時間共インキュベートした)。製造者の指示にしたがって(RNeasy(QiIAGEN社、オーストリア)を用いて)、PBMCおよび線維芽細胞のRNA抽出を実施した後、取扱説明書の記載にしたがってiScript cDNA合成キット(BioRad社、アメリカ)を用いて、cDNAを転写した。
【0081】
〔定量的リアルタイムPCR〕
LightCycler Fast Start DNA Master SYBR Green I(Roche Applied Science社、Penzberg、ドイツ)を製造者のプロトコルにしたがって用いて、mRNAの発現を、リアルタイムPCRによって定量化した。VEGFのプライマーは、順方向が5´−CCCTGATGAGATCGAG−TACATCTT−3´、逆方向が5´−ACCGCCTCGGCTTGTCAC−3´であった。IL−8のプライマーは、順方向が5´−CTCTTGGCAGCCTTCCTGATT−3´、逆方向が5´−TATGCACTGACATCTAAGTTCTTTAGCA−3´であった。MMP9のプライマーは、順方向が5´−GGGAAGATGCTGGTGTTCA−3´、逆方向が5´−CCTGGCAGAAATAGGCTTC−3´であった。β−2−ミクログロブリンβ 2Mのプライマーは、順方向が5´−GATGAGTATGCCTGCCGTGTG−3´、逆方向が5´−CAATCCAAATGCGGCATCT−3´であった。標的遺伝子の相対的な発現量を、Wellmann et al.(Clinical Chemistry. 47 (2001) 654-660, 25)の式を用いてハウスキーピング遺伝子β2Mと比較することによって算出した。プライマー対の効率は記載にしたがって決定した(A. Kadl, et al. Vascular Pharmacology. 38 (2002) 219-227)。
【0082】
〔培養後の生存PBMCおよびIA−PBMCによる血管新生促進因子およびMMP9の放出〕
IA−PBMC(5×105個)および生存PBMCを、加湿雰囲気中で24時間インキュベートした。上清を24時間後に収集し、−80℃でただちに凍結し、評価を実施するまで凍結させた。各PBMC細胞の溶解液をコントロールとして使用した。血管新生促進因子(VEGF−A、CXCL−8/IL−8、GMCSF、GCSF)およびMMP9(つまり、c−キット細胞に許容されている遊離因子)の放出を、製造業者の指示にしたがってELISA(R&D社、アメリカ)を使用して分析した。プレートを、Wallac Multilabel counter 1420(PerkinElmer社、アメリカ)を用いて、450nmで読み取った。
【0083】
〔AMIの生体内実験のための、同系IA−PBMCおよび生存PBMCの取得〕
生体内実験用に、同系のラットのPBMCを、前もってヘバリン処置しておいたラットから心臓を穿刺(punctuation)することによって得られた全血から密度勾配遠心によって分離した。生体内実験を実施するために、Cs−137セシウムを45Gyで照射することによって、アポトーシスを誘導し、上述のように18時間培養した(アネキシン染色>IA−PBMCの80%、アネキシン染色<生存PBMCの30%、1×106個/ml)。
【0084】
〔心筋梗塞の誘発〕
上述のようにLADを結紮することによって、雄の成体のスプラーグドーリーラットにおいて心筋梗塞を誘導した(Trescher K, et al. Cardiovasc Res. 2006: 69(3): 746−54)。簡潔に説明すると、キシラジン(xylazin)(1mg/身体重量100g)およびケタミン(ketamin)(10mg/身体重量100g)の混合物を用いて、動物に腹腔内麻酔し、機械を用いて人工呼吸を行った。左側方の開胸手術を実施し、6−0 proleneを用いて左心房の下方のLADの周囲を結紮した。虚血の開始直後に、0.3mlの細胞培養培地に懸濁した8×106個のアポトーシスPBMCを、尾静脈を介して注射した。細胞培養培地だけの注射、生存PBMCの注射、および偽処理を、それぞれ、この実験の設定環境においてネガティブコントロールとして使用した。ラットの実験計画を、図1(図1中a、図1中b)に示す。
【0085】
〔アポトーシス細胞の追跡〕
8×106個の同系のラットのPBMCを、15μMのカルボキシフルオセイン二酢酸サクシニミジルエステル(carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester; CFSE、Fluka Bio−Chemika社、Buchs,スイス)を用いて室温で10分間標識した。標識を、ウシ胎仔血清(FCS)を添加することによって停止させた。アポトーシスを誘導し(アネキシンV>70%)、結紮術後に細胞を注射した。手術の72時間後にラットを屠殺し、肝臓、脾臓、および心臓を標準的な手順にしたがって処理し、凍結切片(n=4)を得た。試料を、上述のように共焦点レーザ走査顕微鏡法(ZEISS LSM 510レーザ走査顕微鏡、ドイツ)によって分析した(Ker-jaschki D, J Am Soc Nephrol. 2004; 15: 603-12)。
【0086】
〔インビボの組織分析および免疫組織化学法〕
すべての動物を、実験的に梗塞を起こしてから72時間後または6週間後に屠殺した。心臓を外植し、次に、梗塞を起こした最大の領域(n=8〜10)を薄片化した。薄片を10%の中性の緩衝化ホルマリンで固定し、(免疫)組織染色をするためにパラフィンに埋め込んだ。組織試料を、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)およびelastic van Gieson(evg)を用いて染色した。免疫組織的評価を、CD68(MCA 341R、AbD Serotec社、イギリス)、VEGF(05−443、Upstate/Milipore、アメリカ)、Flk−1(sc−6251、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)、CD34(sc−52478、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)、c−キット(sc−168、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)、S100β(sc−58841、Santa Cruz Biotechnology社、アメリカ)を対象とする以下の抗体を用いて実施した。組織試料を、Olympus Vanox AHBT3顕微鏡(Olympus Vanox AHBT3、Olympus Optical Co. Ltd.社、日本)を用いて拡大率×200で評価し、ProgRes Capture−Pro C12 plus カメラ(Jenoptik Laser Optik Systeme GmbH社、ドイツ)を使用してデジタル方式で撮像した。
【0087】
〔面積測定による心筋梗塞の大きさの決定〕
梗塞を起こした領域の大きさを決定するために、Image Jプラニメーター分析用ソフトウェア(Rasband, W.S., Image J, U. S. National Institutes of Health、アメリカ)を使用した。梗塞を起こした心筋組織の広がり(左心室における%)を、梗塞を起こした領域の外周の面積を左心室の心内膜および心外膜の外周の面積全体で割り算することによって算出した。壊死した領域が比較しやすいようにevgで染色した組織試料に対して、面積測定評価を実施した。梗塞の大きさを、左心室の面積全体に対する比率%で示す。
【0088】
〔心エコー検査による心機能の評価〕
心筋梗塞の誘発の6週間後に、100mg/kgケタミン(ketamin)および20mg/kgキシラジン(xylazin)を用いて、ラットを麻酔した。Vivid 5システム(General Electric Medical Systems社、アメリカ)を用いて、超音波検査を実施した。動物を割り当てられる投与グループに対して、経験豊富な観察者が盲検式で分析を行った(EW)。Mモード追跡を、傍胸骨の短軸図から記録し、機能的な収縮および拡張パラメータを得た。心室の直径および体積を、収縮期および拡張期において評価した。分画収縮率(fractional shortening)を下記のように算出した。
FS(%)=((LVEDD−LVESD)/LVEDD)×100%
【0089】
〔検定手法〕
SPSSソフトウェア(SPSS Inc.、アメリカ)を用いて、統計解析を実施した。すべてのデータは、平均値±標準偏差として与えられている。Kolmogorov−Smirnov試験を利用して、正規分布を検証した。従属変数を対象とする対応のある両側t検定、および独立変数を対象とする対応のないt検定を使用して、有意性を算出した。ボンフェローニ・ホルム補正を用いて、複数の試験のp値を調節した。p値(<0.05)は、統計的に有意であると考えられた。
【0090】
〔結果〕
〔セシウムの照射によるアポトーシスの誘導(IA−PBMC)〕
アポトーシス細胞の免疫調節能力を評価するために、まず、ヒトの末梢血単核球(PBMC)において、セシウム照射によるアポトーシスの誘導に対する細胞の反応を、フローサイトメーターを用いて、アネキシン−V/PI染色を利用したフローサイトメトリーによって判定した。生存PBMCと比較すると、セシウム照射したPBMCはアネキシンに対して時間に依存する陽性を示し、24時間以内にピーク値を示した。生細胞をコントロールとして使用した(図2a)。アネキシン−V結合は、インビトロですべてさらに24時間後に最高であったので、この培養期間後に調査を実施した(IA−PBMC)。生存PBMCを、RT−PCRを用いた実験および上清を用いた実験において、コントロールとして使用した。
【0091】
〔IA−PBMCは、インビトロで免疫抑制特性を示す〕
インターロイキン−1βおよびIL−6は、インビボにおける心筋梗塞の主要な炎症促進メディエーターであると考えられている。IA−PBMCが細胞反応に対して効果を有するかどうかという仮説をテストするために、ヒトの単球およびPBMCをIA−PBMCとともに共インキュベートし、標的細胞をLPSで刺激した。どちらの細胞型でも、ELISAによって評価したところ、培養物中におけるIL−1βおよびIL−6の分泌が投与量に応じて減少することがわかった(図2中b、図2中c)。同系モデルにおけるIA−PBMCの抗増殖効果を検証するために、混合リンパ球反応(MLR)を使用した。同系の精製済みT細胞を採用し、これらのエフェクター細胞を、IA−PBMCに添加して、あるいは添加せずに、投与量を段階的に変化させた樹状細胞とともにインキュベートした。図2中dは、IA−PBMCの共インキュベートによって、増殖速度が用量に応じて低下することを示している。
【0092】
〔IA−PBMCおよび生存PBMCによって、VEGF、IL−8/CXL8、およびMMP9のmRNAの転写が増加することの証明〕
EPCの分離に関連することが知られているタンパク質のmRNAの転写が、照射により増加するかどうかを調査するために、分離後、およびアポトーシスの誘導(24時間)後に、PBMCを分析した。生存PBMCをコントロール(生存PBMCまたはIA−PBMC)として使用した。RNA転写は、RT−PCRによって決定したVEGFの発現に比べてほとんど差を示さなかったが、IL−8/CXCL8およびMMP9の大幅な増加を示した。IA−PBMCにおけるIL−8/CXL8の場合のピークとなる誘導は、それぞれ、生細胞における2倍に対して6倍であり、MMP9の場合は5倍に対して30倍であった(図2中e)。
【0093】
〔IA−PBMCおよび生存PBMCによる、血管内皮前駆細胞(EPC)の遊離を引き起こすパラクリン因子の分泌〕
IA−PBMCおよび生存PBMCに由来するSNを、24時間の培養の後に、ELISAを使用して、VEGF、IL−8/CXCL8、GMCSF、GCSF、およびMMP9について定量した。図2中fからわかるように、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9は増加を示した。GM−CSFおよびG−CSFは検出されなかった。注目すべきは、MMP9が細胞溶解物においてピーク値を示すという知見であった。
【0094】
〔IA−PBMCおよび生存PBMCに由来するSNによる、間葉系の線維芽細胞における血管新生促進性mRNA転写の増加〕
骨髄中の間質細胞は構造的には線維芽細胞であるから、線維芽細胞とIA−PBMCおよび生存PBMCに由来するSNとの共インキュベーションには、EPC分離の原因となる、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9のmRNA転写因子を増加させる能力があるかどうかを調べることが必要であった。RT−PCRを4時間後および24時間後に実施した。IA−PBMC SN中で培養された細胞におけるIL−8/CXCL8について、最高レベルの誘導が検出された。誘導レベルは、コントロールに比べると4時間後にほぼ120倍に到達した。この反応は24時間後にも存在する。同等の反応がVEGFの場合に見られた。その一方で、MMP9の上方制御は、主に24時間が経過してから見られた。このデータは、BMにおける血管新生促進効果の原因となる、線維芽細胞によるmRNAの生成量の増加を促進するパラクリン因子を、SNが含んでいることを示唆している(図2中g)。
【0095】
〔ラットの心筋梗塞モデルにおける、CFSE標識IA−PBMCの養子移植〕
培養されたIA−PBMCはインビトロでは抗炎症性でもあり、血管新生促進性でもあることは証明できたので、IA−PBMCおよび生存PBMCを、急性のラットAMIモデルに注射した。まず、これらの培養細胞が梗塞後にどこに自動誘導されているのかを決定することが必要であった。LADの動脈結紮の直後に、CFSE標識IA−PBMCをラットの尾静脈に注射した。代表的な組織像は、図3中a、図3中b、図3中cに示すとおりである。CFSE IA−PBMCは大部分が、脾臓組織および肝組織において72時間以内に捕捉される。心臓で観察された細胞はなかった。
【0096】
〔IA−PBMCで処理したAMIにおける、転送された初期炎症の免疫反応〕
H.E.染色をさらに詳しく調べると、コントロールの梗塞および生存白血球(生存PBMC)で処理したAMIのラットは、創傷領域において、肉芽組織に応じた混合細胞浸潤を示し、AMIから72時間以内に多量の好中球、マクロファージ/単球、リンパ単核細胞、線維芽細胞、および活性化された増殖性内皮細胞が、ジストロフィーの心筋細胞と混合されていた(図3中d、図3中e)。その一方で、IA−PBMCで処理したAMIのラットは、好酸球性の細胞質、高密度な核、および円形状から紡錘形状の形態を有する中程度の大きさの単球様の細胞からなる創傷領域において、高密度で単形性の浸潤を示した(図3中f)。また、リンパ単核細胞、特に血漿細胞、線維芽細胞、および内皮細胞は、ほとんど検出できなかった。免疫組織学的解析によって、IA−PBMC AMIのラットにおける細胞浸潤は、残りの2つのグループでは非常に弱い、大量のCD68+単球/マクロファージ(図3中i)からなることがわかった(それぞれ、MCI、生存PBMC、IA−PBMC、強拡大視野、HPF、60.0±3.6、78.3±3.8、285.0±23.0(SEM))(図3中g、図3中h)。ビメンチンについて陽性の間葉系細胞の含有物は、すべてのグループにおいて同様であった。その一方で、S100+樹状細胞は、コントロール梗塞(処置グループ(図3中j、図3中k、図3中hの代表的な組織像、n=5)に比べると、それぞれ、AMI、生存PBMC、IA−PBMC、HPF 15.6±1.7、12.4±2.3、8.4±1.2(SEM))において、多く見られた。
【0097】
〔IA−PBMCで処理したAMIにおけるVEGF+、Flk1+、およびc−キット+細胞の初期自動誘導〕
IA−PBMCは、好酸球性の細胞質および高密度な核を有する中程度の大きさの単球様の細胞からなる創傷領域において、高密度で単形性の浸潤を示したので、血管再生および再生力に関連する複数の表面マーカーを調査した。IA−PBMCで処理したAMIグループにおいてH.E.染色で特定されるこの細胞集団は、血管内皮増殖因子(VEGFa)、Flk−1、およびc−キット(CD117)について、非常に高い陽性の染色を示した(図4中c、図4中f、図4中i)。どちらのマーカーの発現も、コントロールAMIおよび生存PBMCで処理したAMIグループにおいて低下した(図4中a、図4中b、図4中d、図4中e、図4中j)。興味深いことに、IA−PBMCで処理したAMIは、細胞が非常に密集している梗塞を起こした領域の内部において、CD34+細胞の増加を示した。なお、この領域は、コントロール(G、H)に比べて、34+細胞(I)のコロニー形成を推定的に指す、血管の構造に由来している(代表的な組織像、n=5)。
【0098】
〔IA−PBMCで処理したAMIにおける減弱した梗塞のサイズ〕
心筋梗塞を誘発させてから6週間後に外植した心臓から得た、EVGで染色した組織試料に対して実施したプラニメーター分析において、生理食塩水を与えられたラットは、左心室の24.95%±3.58(SEM)を超えて延び、拡張の徴候を有するコラーゲンの瘢痕を示す。IA−PBMCで処理したラットでは、これらの徴候はほとんど抑止され、梗塞のサイズは5.81%±2.02(SEM)であった。なお、生存PBMCで処理したラットの梗塞のサイズ14.3%±1.7(SEM)であった(図5中a、図5中b、図5中c)。
【0099】
〔IA−PBMCで処理したAMIでは、LV機能が向上する〕
同系培養IA−PBMCを静脈内に注入すると、生存PBMCまたは培地で処置した動物に比べて、心エコー検査のパラメータが大幅に向上する。収縮分画率(SF)は、偽処理を行った動物では29.16%±4.65(SEM)、培地で処理したAMI動物では18.76%±1.13(SEM)、生存PBMCで処理したAMIグループでは18.46%±1.67(SEM)、IA−PBMCで処理したラットでは25.14%±2.66(SEM)であった(図5e)。駆出分画率(EF)は、偽処理を行ったラットでは60.58%±6.81(SEM)であり、培地で処理したAMIの動物では42.91%±2.14(SEM)まで低下、生存PBMCを与えられた動物では42.24%±3.28(SEM)まで低下した。その一方で、IA−PBMCで処理したラットは、EFが53.46%±4.25であった。
【0100】
収縮末期の直径および拡張終期の直径(LVESD、LVEDD)、ならびに収縮末期の容積および拡張終期の容積(LVESV、LVEDV)の分析は、先に観察された値に匹敵するパターンを示した。生理食塩水を与えた動物および生存PBMCで処理したラットは、LVEDD値がそれぞれ10.43mm±0.21(SEM)および11.03mm±0.40であった。IA−PBMCで処理したラットでも、左心室の拡張期の直径が、偽処理を行った動物の9.47mm±0.64と比較するとわずかに低減し、8.99mm±0.32であった。収縮期の直径の差はこれほど顕著ではなかったが、同一レベル(パネル5(a、b、c)であった。
【0101】
〔結論〕
これらの知見によって、放射線の照射を受けたアポトーシスPBMC(IA−PBMC)が、インビトロで免疫抑制を誘導すること、および血管新生促進タンパク質の分泌に関連することが実証された。したがって、培養済み生存PBMCおよびIA−PBMCを急性のラットAMIモデルに注射し、この治療法がFLK1+/c−キット+陽性のEPCの梗塞心筋への大量の自動誘導を72時間以内に惹起し、6週間以内に有意な機能回復を引き起こすことを実証した。
【0102】
IA−PBMCを免疫アッセイ中で共培養すると、IL−1βおよびIL−6の生成が低下し、同種の樹状の混合リンパ球反応(MLR)が減弱した。免疫のパラメータはどちらも、心筋虚血後の炎症において役割を有すると考えられた。さらに、生存PBMCおよびIA−PBMCは、24時間以内に培地にCXCL8/IL−8およびMMP9を分泌することが示された。これらのタンパク質は、血管再生の原因およびEPCがBMから虚血心筋へ補充される原因であると考えられた。CXCL8/IL−8ケモカインは、内皮細胞に結合し、内皮細胞に対する強力な化学走性の活性を有する、小さな(<10kDa)各種ヘパリン結合性ポリペプチドからなるCXCLファミリーに属する。N末端(Glu−Leu−Arg、ELRモチーフ)における3つのアミノ酸残基が、内皮細胞上のCXC受容体1および2への、CXCケモカイン(例えばIL−8およびGro−α)の結合を決定し、内皮の化学遊走および血管新生を促進している。さらに、このマトリクスプロテイナーゼがキット配位子(sKitL)を放出するシグナルとして作用することから、MMP9の分泌がEPC動員の中心的な役割をはたしていることがわかった。なお、キット配位子(sKitL)とは、BMにおいて内皮および造血幹細胞(EPC)が無活動状態の状態から増殖性の状態へ転移する原因となるケモカインである。さらに別のインビトロ分析では、培養された生存PBMCおよびIA−PBMCに由来する上清(supernatant;SN)が、間葉系の線維芽細胞において、CXCL8/IL−8およびMMP9のmRNA転写を強化する能力を有していることを実証することができた。以上のデータは、生存PBMCおよび放射線の照射を受けたPBMCに由来するSNが、c−キット+EPCを循環中に溶出させるBMにおける、生物学的な状況を与えるパラクリン因子を含有することを示唆している。
【0103】
このインビボの培養細胞の懸濁液における何かしらの薬効を証明するために、開胸心筋損傷のモデル、およびラットの動物モデルにおいて、LADの結紮直後に、培養し注射した生存PBMCおよびIA−PBMCを使用した。最初のテストでは、CSFEで標識されたIA−PBMCの大部分が脾臓および肝臓において捕捉されることが証明された。以上のデータは、「細胞治療」が梗塞心筋では自動誘導されないことを示唆している。これとは対照的に、パラクリン効果は、「修正済み」培地だけによってであっても、または細胞培養懸濁液の暴露に起因する惹起された「免疫が媒介するサイトカインストーム」によってであっても、AMIの再生効果の原因となる可能性の方がはるかに高い。急性虚血直後の炎症が室の拡張を決定するので、AMIから72時間後の組織学的解析への道筋が実施された。IA−PBMCで処理したラットが、この期間における、CD68+およびVEGFa/FLK1/c−キット+陽性のEPC細胞集団における大量の自動誘導の証拠となることも示すことができた。一方、さらに多くのS100β陽性の樹状細胞がコントロールAMI中に見られた。このことは、コントロールAMIにおけるAPCに基づく炎症が増加したことを示唆している。
【0104】
IA−PBMCで処理したラットにおいて見られた結果は、部分的には、心筋梗塞の自然な進行に関して現在認容されている知識と相容れない。炎症に関しては、再設計過程は、通常の条件下では梗塞心筋中のサイトカインおよび炎症細胞によって媒介され、このサイトカインおよび炎症細胞が、壊死組織の食作用および融食作用、サバイビン筋細胞の肥大、血管新生、および(程度は限られているが)前駆細胞の増殖を特徴とする創傷修復過程を開始させる。梗塞後の炎症反応を介在する、ここまでの説明において紹介したどの実験手法も、AMIモデルにとっては有害であることが示された。この組織に関する短期データを解釈する際には、AMI中におけるIA−PBMC細胞の培地であった懸濁液によって、炎症からc−キット+EPC修復相への高度な遷移が起こることが示される。従来の研究では、AMI後の循環前駆体細胞治療の骨髄が、該細胞の心筋細胞への分化転換が起きているかどうかに関わらず、心機能を改善することが確認されている。c−キット+EPCについては、骨髄に由来する細胞は、心臓の修復に必須の大切な役割を有していると考えられる。イマチニブメシル酸塩を用いた薬理学的な阻害およびc−キット+EPCの非動員によって、AMI後の筋線維芽細胞の反応性が減弱し、心機能の急激な衰弱がともなった。
【0105】
これらの結果は、「同系」培養されたIA−PBMCを、AMIを患う患者に注射することが再生力を有することを示しており、また、急性のAMIを患う患者は、自己(つまり、治療を受ける患者または同じ種から採取された)IA−PBMCを注射されることによって利点を享受することを示唆している。
【0106】
〔実施例2:静止末梢血単核球(resting PBMC)による、低活性マーカーおよび炎症性サイトカイン産生の減少の証明〕
活性化された末梢血単核球(PBMC)およびその上清(SN)は、創傷の再生において有益であると考えられている(Holzinger C et al. Eur J Vasc Surg. 1994 May; 8(3): 351-6.)。不活性化PBMCおよび不活性化PBMCに由来するSNには、実験的な急性心筋梗塞(AMI)および創傷を形成したモデルにおいて薬効があることが、実施例1において示された。PBMCの不活性化は実験的に検証されなければならないので、PBMCの培養が、T細胞活性化マーカー(CD69、CD25)の強化または炎症性サイトカインの分泌(単球の活性化=TNFα、T細胞活性化=INFγ)の強化につながるかどうかを調べた。対照実験では、培養されたT細胞が、CD3 mAb刺激または植物性血球凝集素(Phytohemagglutinin; PHA)によって誘導される。
【0107】
〔方法および結果〕
健常人からの静脈血をEDTA管に収集した。フィコール・ハイパック密度勾配分離(density grade separation)を実施した後に、PBMCを収集し、生存細胞と放射線の照射を受けたアポトーシス細胞(IA−PBMC)とに分けた。アポトーシス細胞を得るために、PBMCを60Gy(セシウム137)に暴露した。フローサイメトリー法による分析を実施するために、500,000個のPBMCを200μlの無血清培地中で培養した。細胞に対してPHA(7μg/ml)もしくはCD3−mAb(10μg/ml)で刺激を与えるか、または刺激を全く与えなかった。24時間のインキュベーションの後に、細胞を洗浄し、CD3、CD69、およびCD25について染色(R&D System社)し、FC500(Coulter社)で表面活性化マーカーについて評価した。ELISAアッセイを実施するために、PBMCを、PHA刺激またはCD3刺激を与えるものと与えないものとに分けて、2.5×106個/mlの密度で一晩培養した。24時間後に、上清を回収し、−20℃で凍結させた。TNF−α(R&D社)用およびINF−γ(Bender社)用の市販のELISAキットを購入した。簡潔に説明すると、MaxiSorpプレートをTNF−αおよびINF−γに対する抗体でコーティングし、一晩保存した。24時間後に、プレートを洗浄し、試料を各ウェルに2個ずつ添加した。インキュベーションならびに検出用抗体およびStrep−tavidin−HRPの添加の後、TMB基質を各ウェルに添加した。発色後、スルヒック酸(sulphic acid)を添加することによって、酵素反応を停止させた。光学濃度値を、Wallac Victor3プレート読み取り装置で読み取った。
【0108】
〔結果〕
FACS分析
CD3で刺激されたT細胞およびPHAで刺激されたT細胞は、24時間のインキュベーション後に、活性化マーカーCD69およびCD25の上方制御を示した。無刺激の細胞およびアポトーシス細胞は、ほんのわずかな量のCD69およびCD25を発現させるだけであった(図6中a(代表的な試料、図6中b、ヒストグラム、n=4)。統計的有意性は星印で表わす(xxp<0.001、xp<0.05)。
【0109】
ELISA分析
無刺激のPBMCに由来する上清においてはTNF−αもINF−γもいずれも検出されなかったが、PHAまたはCD3で刺激を与えたPBMCから得られた上清は、ELISA分析が示唆するように、これらのサイトカインが高い値であることを示した(星印**p<0.001、*p<0.05、n=8)。この結果は、無刺激のPBMCとは炎症性サイトカインの分泌パターンが異なることを明確に示している。
【0110】
〔結論〕
以上のデータは、「無刺激PBMC」が、刺激PBMC(PHAおよびCD3 mAb)とは異なる別の表現型(活性化マーカー、サイトカインの分泌)であることを示唆している。
【0111】
図6中aは、無刺激の生存PBMCも、IA−PBMCも、どちらも主に単球に由来する炎症促進性のサイトカインTNF−αを分泌しないことを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0112】
図6中bは、無刺激のPBMCに比べると、炎症促進性のインターフェロンγの分泌が、活性化後に強く誘導されることを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【0113】
図7中aは、フローサイメトリー法を用いた分析の結果を統合して示している。PBMCをT細胞に対してゲーティングし、活性化マーカーCD69およびCD25の発現を評価した。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=4)。
【0114】
図7中bは、いずれか(PHA、CD3 mAb)で活性化されたPBMCの代表的なFACS分析結果を示す。ゲーティング(gating)は陽性細胞の百分率を表わす。
【0115】
〔実施例3:生理的溶液中で培養されるPBMCの増殖活性〕
本実施例の目的は、特異的(CD3)、非特異的(レクチン、PHA)、および同種のT細胞の誘発(混合リンパ球反応、MLR)を、2日(CD3、PHA)および5日(MLR)間の刺激アッセイにおいて利用する免疫アッセイに比べると、PBMCは増殖活性を有しないことを証明することである。
【0116】
〔物質および方法〕
PBMCを、フィコール密度勾配遠心法によって若い健常人から分離し、0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)および1%のL−グルタミン(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を含有するRPMI(Gibco社、アメリカ)中で、200μLにつき細胞1×105個の割合で再懸濁した。レスポンダー細胞に、MoAbによってCD3(10μg/ml、BD社、NJ、アメリカ)、PHA(7μL/ml、Sigma Chemical Co.社、アメリカ)に対して刺激を与えるか、あるいは、放射線の照射を受けた同種のPBMCを1:1の比(MLRの場合)で用いることによって刺激を与えた。プレートを48時間または5日間インキュベートし、その後、3[H]チミジン(3.7×104Bq/ウェル;Amersham Pharmacia Biotech社、スウェーデン)を用いて18時間パルスを与えた。細胞を回収し、3[H]チミジンの取り込み量を液体シンチレーション計数器において測定した。
【0117】
〔結果〕
刺激PBMCは、3[H]チミジン取り込み法によって測定した増殖速度が、RPMI中で無刺激で培養される生存PBMCに比べて高いことを示した(図8)。この効果は、T細胞に特異的な刺激(PHA、CD3)を付加することによって、増殖が抗原提供細胞(MLR)によって誘導されたアッセイにおいても、観察された。
【0118】
〔結論〕
この一連の実験は、培養液中で最長5日間まで保持される生存PBMCが増殖しない一方で、異なる方法で刺激を与えられたPBMCは顕著な増殖反応を示したことを示唆している。以上のデータから、無刺激でPBMCを培養しても増殖反応を引き起こさないと結論できる。
【0119】
〔実施例4:無菌培養条件の下で保管された分離PBMCのセクレトームが有する新たな血管新生能〕
血管再生と炎症とはインビボにおいて強く関連しているので、これらのPBMCのセクレトームがT細胞に対して抗増殖効果をも示し、その結果、炎症の免疫反応に干渉するかどうかを調べた。
【0120】
〔物質および方法〕
フィコール密度勾配遠心法によって若い健常人から分離したPBMC(2.5×106個/ml)を、0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)および1%のL−グルタミン(Sigma Chemical Co.社、アメリカ)を含有するRPMI(Gibco社、CA、アメリカ)中で24時間インキュベートすることによって、セクレトームを得た。上清を細胞分画から分離し、−80℃で保存した。増殖アッセイを実施するために、分離後に、同種のPBMCを200μLのRPMIにつき細胞1×105個の割合で再懸濁した。レスポンダー細胞として、MoAbによってCD3(10μg/ml、BD社、アメリカ)またはPHA(7μL/ml、Sigma Chemical Co.社、アメリカ)に対して刺激を与えた。上清の異なる希釈物を添加した。プレートを48時間インキュベートし、その後、3[H]−チミジン(3.7×104Bq/ウェル;Amersham Pharmacia Biotech社、スウェーデン)を用いて18時間パルスを与えた。細胞を回収し、3[H]−チミジンの取り込み量を液体シンチレーション計数器において測定した。
【0121】
〔結果〕
3[H]−チミジン取り込み法によって測定する増殖速度は、同種のPBMCのセクレトームにおいて、正のコントロールに比べて有意に低減することを示した(図9)。この効果は用量に依存し、PHA刺激時とともに、抗CD3刺激時にも観察された。
【0122】
〔結果に基づく示唆〕
この一連の実験は、生存PBMCから得られるセクレトームを24時間培養液中に保持すると、有意な抗増殖効果をインビトロで示すことを示唆している。以上のデータは、PBMCに由来する上清または凍結乾燥された状態にある上清は、低酸素症によって誘発される炎症またはその他の高炎症疾患(例えば自己免疫疾患、炎症性皮膚疾患など)に関連するヒトの疾患を治療するための、治療用処方物として作用する潜在的な可能性があることを示唆している。
【0123】
〔実施例5:末梢血単核球が分泌するパラクリン因子による心機能の保存〕
実施例1では、末梢血液に由来し、放射線の照射を受けた培養後のアポトーシス細胞を注射することによって、ラットにおける実験的な心筋梗塞の後の機能的な心臓の回復が大幅に改善されることが示された。この改善は、アポトーシス細胞が持つ免疫を抑制する特性、血管新生促進効果、およびc−キット+血管内皮前駆細胞(EPC)の増大した自動誘導の誘導に基づいている。
【0124】
本実施例では、末梢血単核球(PBMC)(生存PBMCまたは60Grayの放射線の照射を受けたPBMC)を24時間インキュベートし、細胞培養物の上清を生成した。上清を凍結乾燥し、生体内実験において使用するまで凍結したまま保管した。左前側の下行動脈を結紮することによって、スプラーグドーリーラットにおいて心筋梗塞を誘導した。虚血の開始後に、凍結乾燥していた上清を再懸濁し、静脈内に注射した。組織学的評価および免疫組織学的な評価を行うために、心筋梗塞から3日後および6週間後に組織試料を採取した。AMIから6週間後の心エコー検査によって、心機能を評価した。偽処理を行った動物および無処置の動物を、コントロールとして使用した。
【0125】
アポトーシスPBMCから得られた上清を注射したラットは、コントロールに比べると、心筋の血管新生が増加し、および血管内皮前駆細胞の自動誘導の強化を72時間以内に示した。線維症の領域のプラニメーター評価は、アポトーシス細胞から得られた上清を用いて治療した動物では梗塞のサイズが低減したことを示唆していた。さらに、心エコー検査は、駆出分画率の損失の減弱および室の形状の保存によって証明されるように、AMI後の再設計について大きな改善を示した。アポトーシス細胞から得られた上清を与えたラットにおける左室駆出分画(LVEF)は平均値が56±4%であり、一方で、偽処理を行った動物の場合には60±5%であった。また、無処置の動物または生細胞の上清を注射した動物は、それぞれ44±3%および41±4%にまで、LVEFが大きく衰弱した(p<0.001)。
【0126】
以上のデータは、実験的AMIにおいて放射線の照射を受けたアポトーシスPBMCに由来する上清を注射することによって、炎症が回避でき、心室機能の保存につながる再生EPCの優先的な自動誘導を引き起こすことを示唆している。
【0127】
〔方法〕
〔インビトロアッセイにおけるヒトPBMCの細胞培養〕
ヒト末梢血単核球(PBMC)を、上述のフィコール密度勾配遠心法(Ficoll density grade centrifugation)によって採取した。ヒトPBMCにおいてアポトーシスを誘導するために、細胞に60Gyの放射線を照射した(irradiation automat for human blood products、Department of Hematology、General Hospital Vienna)。生存PBMCおよび放射線の照射を受けたアポトーシス(IA−)PBMCを、どちらも各種の細胞密度(1×106、5×106、10×106、および25×106個の細胞/ミリリットル、n=5)で37℃で24時間インキュベートした。その後、上清を得て、分泌されるタンパク質のレベルを、製造業者が提供するプロトコルにしたがって、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA、R&D System社、Minneapolis、アメリカ)によって測定した。
【0128】
〔AMI生体内実験のための同系IA−PBMCおよび生存PBMCの取得〕
生体内実験に用いる同系ラットのPBMCを、前もってヘバリン処置しておいたラットから、右心房を穿刺することによって得られた全血から、密度勾配遠心法によって分離した。生体内実験を行うために、45GyのCs−137セシウムを照射することによって、アポトーシスを誘導し、37℃で25×106個の細胞/ミリリットルの細胞密度で培養した。照射によるアポトーシスの誘導を、フローサイトメトリー(IA−PBMCの場合はアネキシンV染色>80%、生存PBMCの場合はアネキシンV染色<20%)によって測定した。細胞を加湿雰囲気(5% CO2、37℃、相対湿度95%)中で24時間インキュベートした。上清を除去し、50mMの酢酸アンモニウムに対して3.5kDaのカットオフ(Spectrum laboratories、Breda、オランダ)で4℃で一晩透析した。その後、上清を無菌濾過し、凍結乾燥した。凍結乾燥したセクレトームを−80℃で保存し、実験を行うたびに新たに再懸濁した。セクレトームを無作為抽出して、そのpH値を計測した。凍結乾燥した粉末を、次の実験を実施するまで−80℃で保存した。
【0129】
〔心筋梗塞の誘発〕
ウイーン医科大学動物研究委員会(committee for animal research, Medical University of Vienn)から、動物実験の許可を得た。実験はすべて米国国立衛生研究所(National Institutes of Health (NIH))が発行するGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsにしたがって実施した。左前側の下行動脈(LAD)を結紮することによって、雄の成体スプラーグドーリーラットにおいて、心筋梗塞を誘導した。簡潔に説明すると、キシラジン(xylazin)(1mg/身体重量100g)およびケタミン(ketamin)(10mg/身体重量100g)の混合物を用いて、動物に腹腔内麻酔し、機械を用いて人工呼吸を行った。左側方の開胸術を実施し、6−0 proleneを用いて左心房の下方のLADの周囲を結紮した。虚血の開始直後に、0.3ml細胞培養培地中に再懸濁された8×106個のアポトーシスPBMCから得られた、凍結乾燥させた上清を、大腿静脈に注射した。細胞培養培地だけの注射、生存PBMCの上清の注射、および偽処理を、それぞれ、この実験の設定環境において、ネガティブコントロールとして使用した。実験設計を図1に示す。
【0130】
〔インビボにおける組織学および免疫組織化学〕
実施例1を参照する。
【0131】
〔プラニメーター分析による心筋梗塞のサイズの決定〕
実施例1を参照する。
【0132】
〔心エコー検査による心機能の評価〕
実施例1を参照する。
【0133】
〔検定手法〕
ソフトウェア(Graph Pad Prism、アメリカ)を用いて統計解析を実施した。すべてのデータを、平均値±標準誤差として与える。従属変数を対象とする対応のある両側t検定、および独立変数を対象とする対応のないt検定を使用して有意性を算出した。
【0134】
急性の心筋梗塞の生存率のグループ間の差を、カプラン−マイヤー保険統計解析法によって比較した。ボンフェローニ・ホルム補正を使用して、複数の試験のp値を調節した。p値<0.05は、統計的に有意であると考えられた。
【0135】
〔結果〕
〔ELISAによるIA−PBMCおよび生存PBMCが分泌するパラクリン因子の決定〕
結果を図10〜15に示す。
【0136】
〔実施例6:末梢血単核球が分泌するパラクリン因子が有する免疫抑制特性〕
実施例1では、急性心筋梗塞(acute myocardical infarct; AMI)の動物モデルにおける、PBMCセクレトームの抗炎症効果が示された。本実施例では、AMIを誘発後のPBMCセクレトームの適用が、免疫応答を大きく下方制御することによって心筋の炎症性損傷を阻害することを示す。
【0137】
これらの知見に基づいて、試験管内実験におけるセクレトームの考え得る免疫抑制効果について調べた。CD4+細胞は、免疫過程において、他の白血球(例えばマクロファージ、B細胞、細胞傷害性T細胞など)の補助にとって重要であって、免疫反応の統合において鍵となる役割を果たす。
【0138】
〔物質および方法〕
〔PBMCセクレトームの生成〕
健常人から得られるPBMCを、フィコール密度勾配遠心法によって分離した。細胞を、Ultra Cultureの培地(Lonza社、Basel、スイス)中で1×106個/ml(sup liv)の濃度で再懸濁した。アポトーシスPBMCからセクレトームを生成するために、60Gy(sup APA)を照射することによって、アポトーシスを誘導した。細胞を、加湿雰囲気(5% CO2、37℃、相対湿度95%)下で24時間インキュベートした。上清を除去し、50mMの酢酸アンモニウムに対して3.5kDaのカットオフ(Spectrum laboratories、Breda、オランダ)で4℃で一晩透析した。その後、上清を無菌濾過し、凍結乾燥した。凍結乾燥したセクレトームを−80℃で保存し、実験を行うたびに新たに再懸濁した。セクレトームを無作為抽出して、そのpH値を計測した。
【0139】
〔CD4細胞の分離〕
MACSビーズシステム(Miltenyi社、Bergisch Gladbach、ドイツ)を使用して、CD4+T細胞以外の細胞を枯渇させることによって、CD4+細胞を分離した。細胞を新たに準備し、ただちに各実験に使用した。
【0140】
〔アポトーシスの測定〕
アポトーシスを、市販のアネキシンV/PIキット(BD社、New Jersey、アメリカ)を用いてフローサイトメトリーによって検出した。アポトーシスをアネキシン陽性染色法によって定義し、後期アポトーシスをPIの陽性度によって定義した。
【0141】
〔増殖実験〕
PBMCまたは精製済みCD4+細胞を、96個の丸底ウェルを有するプレートにおいて、0.2%のゲンタマイシン硫酸塩(Sigma Chemical Co.社、St. Louis、MO、アメリカ)、0.5%のβ−メルカプトエタノール(Sigma Chemical Co.社、St Louis、MO、アメリカ)、および1%のGlutaMAX−I(インビトロゲン社、Carlsbad、CA、アメリカ)を補充したUltra Culture中で、1×105個/ウェルの濃度にまで希釈した。PHA(7μg/ml、Sigma Chemical Co.社、アメリカ)、CD3(10μg/ml、BD社、New Jersey、アメリカ)、IL−2(10U/ml、BD社、アメリカ)を用いて、または放射線の照射を受けた(60Gy)同種のPBMCを1:1の比で用いて、MLRを得るために、細胞に刺激を与えた。細胞を、複数の濃度のPBMCセクレトーム、IL−10、またはTGF−βを用いて48時間または5日間(MLR)インキュベートした。その後、3[H]チミジン(3.7×104Bq/ウェル;Amersham Pharmacia Biotech社、Uppsala、スウェーデン)を用いて、細胞に18時間パルスを与えた。細胞を回収し、3[H]チミジンの取り込み量を液体シンチレーション計数器において測定した。
【0142】
〔活性化マーカー〕
精製済みCD4+細胞を、抗CD3(10μg/ml)を用いて刺激し、複数の濃度のPBMCセクレトームで共インキュベートした。細胞を、標準的なフローサイメトリー法の染色プロトコルにしたがって、CD69およびCD25について染色し、フローサイトメーターFC500(Beckman Coulter社、Fullerton、CA、アメリカ)で分析した。
【0143】
〔結果〕
予備実験において、生細胞(sup liv)から得られるPBMCの上清の抗増殖特性について試験を行った。抗CD3刺激実験およびPHA刺激実験では、増殖速度が、セクレトーム(n=10)を添加することによって大幅に低下した。
【0144】
これらの細胞は、免疫反応を始動および継続させる際に中心的役割を果たすので、これらの知見に基づいて、Tヘルパー細胞の区画に対するPBMCセクレトームの効果を評価した。図16と同様に、非常に高度に精製されたCD4+細胞は、セクレトームを添加することによって増殖能を喪失した。この現象は、放射線の照射を受けたアポトーシスPBMC(図17、n=5)の上清の場合にも、生存PBMCの上清の場合にも観察された。
【0145】
次の工程は、細胞生存率に対するセレクトームの考え得る効果を決定することである。したがって、静止CD4+細胞を、上清およびアネキシンVを用いてイノキュベートし、PIの陽性度を評価した。生存PBMCから得られる上清も、アポトーシスPBMCから得られる上清も、どちらも顕著なアポトーシス促進効果を示した(図18、n=5)。
【0146】
PBMCセクレトームがCD4+細胞活性化を阻害することができるかどうかを試してみるために、CD4+細胞の抗CD3刺激に続いて、T細胞活性化マーカーCD25およびCD69を評価した。どちらのマーカーの上方制御も、PBMCセクレトームによって大幅にかつ用量に応じて阻害された(図19、n=5)。
【0147】
最後の一連の実験では、これらの実験において中和抗体を添加することによる、免疫抑制サイトカインIL−10およびTGF−βの効果について検討した。IL−10も、TGF−βも、これらのサイトカインの効果を失わせても増殖速度は上昇しなかったので(図20、n=5)、本発明のPBMCセクレトームの抗増殖効果の原因ではなかった。
【0148】
〔結論〕
これらの実験によって、PBMCのセレクトームがインビトロで免疫抑制特性を有することが初めて示された。上清は、a)抗CD3刺激実験、PHA刺激実験、およびMLR刺激実験において増殖速度を低下させ、b)T細胞の誘導時にCD4+細胞のアポトーシスを誘導し活性化を阻害する効力を有することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】図1中aは、心エコー検査、組織学的検査、および免疫組織学的検査による心機能の評価における、実験プロトコルおよび実験時期を示している。図1中bは、18時間の培養期間の後にアネキシンに対して陽性染色したPBMCであって、放射線の照射を受けたラットのPBMCおよび放射線の照射を受けていないラットのPBMCの比率を示している。
【図2】図2中aでは、放射線を照射することによってヒトのPBMCではアポトーシスを引き起こし、アネキシンの発現が48時間にわたって時間の経過と共に増加することを、FACS分析によって示している。図2中bでは、LPS刺激を受けたPBMCまたは単球を、放射線を照射したアポトーシス自系PBMCと共にインキュベートすることによって、炎症促進性のサイトカインIL−1βの分泌が投与量に応じて減少することが示されている。図2中cでは、程度は相対的に低いが、この知見は、IA−PBMCの存在下における、LPS刺激PBMCおよび単球のIL−6分泌プロファイルにも相関している。図2中dでは、LPS刺激を伴う混合リンパ球の反応液に、自系IA−PBMCを添加すると、1分毎に測定した(counts per minute; cpm)T細胞の増殖数が減少している。図2中eでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMPの転写物のRT−PCR RNA発現解析によって、24時間の培養後に、放射線の照射を受けたPBMCにおいてIL−8/CXCL8および特にMMP9の上方制御が起こったことが示されている。図2中fでは、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9のELISA解析によって、MMP9は大部分が細胞溶解物質中に見られる一方で、VEGFおよびIL−8/CXCL8のタンパク質分泌の差が、生細胞においても、IA−PBMCにおいても、ほぼ同じレベルのままであることが示されている。図2中gでは、生存PBMCまたはIA−PBMCの細胞培養物から得られる上清中でインキュベートしたヒトの線維芽細胞が、RT−PCR解析において、VEGF、IL−8/CXCL8、およびMMP9転写物の強い上方制御を示している。また、ピーク値は、IA−PBMCの上清中でインキュベートされた線維芽細胞に見られた。
【図3】図3中a、図3中b、図3中cに示すように、人工的に心筋梗塞を起こした後のラットにおいて、尾静脈を介して投与した、CFSEで標識された同系PBMCは、大部分が脾臓(図3中b)において見られ、これよりは少ない個数が肝臓(図3中a)において見られたが、梗塞を起こした心臓(図3中c)ではPBMC細胞が全く見られなかった。図3中d、図3中e、図3中fに示すように、培地(図3中d)または生存PBMC(図3中e)のいずれかを注射したラットにおいてHE染色した梗塞区域が、免疫細胞が浸潤した虚血の心筋に匹敵するパターンを示し、IA−PBMCを与えられたラットから得られる組織が、非常に高い密度の浸潤を示唆している。図3中g、図3中h、図3中iでは、生細胞で治療されたラット(図3中h)の方が、培地で治療されたラット(図3中g)に比べて、梗塞部位において、CD68+で染色された細胞がわずかに多いことがわかる。これとは対照的に、IA−PBMCを注射した動物(ラット)では、3倍の量のCD68+が検出された。図3中j、図3中k、図3中lに示すように、生存PBMCまたはIA−PBMCを投与した場合に比べて、培地だけを与えられたラットの方が、高いレベルのS100β+細胞が見られた。
【図4】図4中a、図4中b、図4中cに示すように、培地(図4中a)または生細胞治療(図4中b)の場合に比べて、IA−PCMCを注射した動物から得られる梗塞を起こした心筋組織(c)において、ほぼ4倍の量のVEGFについて陽性染色された細胞が検出された。図4中d、図4中e、図4中fに示すように、VEGF受容体のKDR/FLK1について、同様の発現パターンが見られ、ピーク値は培地(図4中d)および生細胞(図4中e)ではなく、IA−PBMCのグループ(図4中f)において見られた。図4中g、図4中h、図4中iに示すように、3つのどのグループにおいてもCD34について差が検出されなかった。図4中j、図4中k、図4中lに示すように、梗塞を起こした心臓におけるマーカーc−キットについての免疫組織学的分析によると、IA−PBMC(図4中l)を注射したラットでは、多量の陽性染色された細胞および高密度な局在性が示され、培地を与えられた動物(図4中j)および生細胞を与えられた動物(図4中k)では、それより少ない個数の細胞が示されている。
【図5】図5中a、図5中b、図5中cに示すように、心筋梗塞(Elastica van Gieson染色法)の誘導から6週間後に外植された虚血性のラットの心臓の組織学的解析の結果である。培地を注射した動物(図5中a)から得られた心臓は、他に比べて拡張されているようであり、線維性組織が大きく広がっていた。生細胞を注射したラット(図5中b)では瘢痕の広がりが低減し、拡張の徴候が他に比べて少なかった。瘢痕組織の形成の最低量は、IA−PBMCを注射された動物(図5中c)において検出された。図5中dに示すように、LADの結紮から6週間後に収集された標本のプラニメーター分析によって得られたデータの統計解析の結果から、瘢痕の広がりの平均値は、培地を注射された動物では24.95%±3.6、生存PBMCを注射された動物では14.3%±1.3、IA−PBMCを注射された動物では5.8%±2であることを示している(平均値+SEM)。図5中e、図5中f、図5中gでは、心エコー検査によって得られる心機能パラメータ(収縮分画率、駆出分画率、および収縮末期の直径)の評価によって、IA−PBMCを注射した動物では、他に比べて、心筋梗塞後に良好に回復していることが示されている。
【図6a】図6aは、無刺激の生存PBMCも、IA−PBMCも、どちらも主に単球に由来する炎症促進性のサイトカインTNF−αを分泌しないことを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【図6b】図6bは、無刺激のPBMCに比べると、炎症促進性のインターフェロンγの分泌が、活性化後に強く誘導されることを示している。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=8)。
【図7a】図7aは、フローサイメトリー法を用いた分析の結果を統合して示している。PBMCをT細胞についてゲーティングし、活性化マーカーCD69およびCD25の発現を評価した。(有意性は次のとおりである:*p=0.05、**p=0.001;n=4)。
【図7b】図7bは、いずれか(PHA、CD3 mAb)で活性化されたPBMCの代表的なFACS分析結果を示す。ゲーティング(gating)は陽性細胞の比率を表わす。
【図8】図8は、刺激したPBMCを対象として、3[H]チミジン取り込み法によって測定した増殖速度が、RPMI中で無刺激で培養される生存PBMCに比べて高いことを示している。
【図9】図9は、T細胞増殖アッセイにおいて、PBMCセクレトームに対するT細胞の応答が阻害されることを示している。
【図10】図10中a〜図10中fは、インターロイキン−8、Gro−α、ENA−78、ICAM−1、VEGF、およびインターロイキン−16の上清のレベルを示している。アポトーシスPBMCにおいては、血管新生および免疫抑制に関連するこれらのサイトカインおよびケモカイン(chemokime)の分泌パターンが、生細胞とは顕著に異なる。この効果は、細胞を高密度でインキュベートすると一層顕著であった。
【図11】図11は、実験的にLADの結紮を実施してから6週間後の、心筋の瘢痕組織の広がりを(左心室を占める%で)示している。アポトーシス細胞に由来する細胞培養物の上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の大幅な減少、瘢痕の広がりの低減、および生存可能な心筋の増加を示す。
【図12】図12中a〜図12中cは、実験的に心筋梗塞を起こさせてから6週間後に外植されたラットの心臓の巨視的な外観を示している。放射線の照射を受けたアポトーシス細胞(図12中c)から得られた上清を注射した動物は、コラーゲンの堆積の減少、および梗塞領域が、培地(図12中a)または生存細胞から得られる上清(図12中b)を注射したものに比べて非常に小さいことを示す。瘢痕組織は緑色に着色し、より良好に可視化できるようにする。
【図13】図13中a〜図13中dは、代表的な心エコー検査(Mモード)を示している。心機能は、IA−PBMCの上清を注射したラット(図13中c)の方が、培地で処理したラット(図13中a)および生細胞で処理したラット(図13中b)に比べてはるかに良好であった。偽処理を行ったラットから得られた心エコー検査法による撮影画像を図13中dに示す。
【図14】図14中aおよび図14中bは、心筋梗塞から6週間後に実施した心エコー検査による分析結果を示している。放射線の照射を受けたアポトーシスPBMCから得られた上清を用いて治療したラットは、培地を注射した動物または生細胞を培養した上清を注射した動物に比べて、はるかに良好な心機能を示している。
【図15】図15は、4つの治療グループすべてのカプラン−マイヤー生存曲線(surivial curve)を示している。生存PBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、アポトーシスPBMC細胞培養物の上清を注射した動物も、どちらも、培地を注射したラットに比べて良好な生存率を示している。(p<0.1)。
【図16】図16は、PBMCを用いて実施した抗CD3およびPHA刺激実験を示している。
【図17】図17は、抗CD3、PHA、および混合リンパ球を用いて刺激をした際のPBMCの増殖を示している。
【図18】図18は、PBMCの上清を用いてインキュベートしたCD4+細胞の上清のアネキシンVのレベルおよびPIの陽性度を示している。
【図19】図19は、PBMCの上清によってCD4+細胞におけるCD25およびCD69の上方制御が阻害されることを示している。
【図20】図20は、IL−10およびTGF−βを機能させないようにしても、CD4+細胞の増殖速度が上昇しなかったことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬剤であって、
a)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)またはそのサブセットを含有する生理的溶液、または
b)上記溶液a)の上清を包含し、
上記溶液a)が、PBMCまたはそのサブセットを、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中で、少なくとも1時間培養することによって得られる、薬剤。
【請求項2】
上記炎症症状が、心筋虚血、肢虚血、組織の虚血、虚血再灌流障害、狭心症、冠動脈疾患、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、虚血発作、心筋梗塞、うっ血性心不全、外傷、腸疾患、腸間膜梗塞、肺梗塞、骨折、歯を移植した後の組織の再生、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、同種移植、および同種移植の拒絶からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
上記末梢血単核球(PBMC)のサブセットが、T細胞、B細胞、またはNK細胞であることを特徴とする、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
上記生理的溶液が、生理食塩水(好ましくは生理的NaCl溶液)、全血、血液分画物(好ましくは血清)、または細胞培養培地であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項5】
上記細胞培養培地が、RPMI、DMEM、X−vivo、およびウルトラカルチャー(Ultraculture)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
上記PBMCが、ストレスを誘発する条件の下で培養されたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
上記ストレスを誘発する条件には、低酸素症、オゾン、熱、放射線、化学物質、浸透圧、pHの変化、またはこれらの組み合わせが含まれることを特徴とする、請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
上記PBMCまたはそのサブセットが、少なくとも10Gy(好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy)、オゾン、高温、またはUV線によって培養中にストレスを与えられたものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の薬剤であって、皮下投与、筋肉内投与、器官内投与、および静脈内投与を実施できるように構成されたことを特徴とする、薬剤。
【請求項10】
上記溶液a)または上記上清b)が凍結乾燥されたものであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項11】
上記PBMCまたはそのサブセットが、上記溶液中で少なくとも4時間(好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間)培養されたものであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の薬剤を、体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬物の製造のために用いる使用方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の薬剤を調製する方法であって、
a)末梢血単核球(PBMC)またはそのサブセットを準備する工程と、
b)上記工程a)のPBMCを、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中で少なくとも1時間培養する工程と、
c)上記工程b)の細胞および/またはこの細胞の上清を単離する工程と、
d)上記工程c)の細胞および/または上清を用いて上記薬剤を調製する工程とを含む、方法。
【請求項14】
上記工程b)の前または上記工程b)の途中で、上記PBMCを、ストレスを引き起こす条件に暴露し、
上記ストレスを引き起こす条件には、低酸素症、オゾン、熱、放射線、化学物質、浸透圧、pHの変化、またはこれらの組み合わせが含まれることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記工程b)の前または上記工程b)の途中で、上記PBMCが、少なくとも10Gy(好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy)、オゾン、高温、またはUV線に暴露されることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
請求項13または15に記載の方法によって得られる薬剤。
【請求項1】
体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬剤であって、
a)末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)またはそのサブセットを含有する生理的溶液、または
b)上記溶液a)の上清を包含し、
上記溶液a)が、PBMCまたはそのサブセットを、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中で、少なくとも1時間培養することによって得られる、薬剤。
【請求項2】
上記炎症症状が、心筋虚血、肢虚血、組織の虚血、虚血再灌流障害、狭心症、冠動脈疾患、末梢血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、虚血発作、心筋梗塞、うっ血性心不全、外傷、腸疾患、腸間膜梗塞、肺梗塞、骨折、歯を移植した後の組織の再生、自己免疫疾患、リウマチ性疾患、同種移植、および同種移植の拒絶からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
上記末梢血単核球(PBMC)のサブセットが、T細胞、B細胞、またはNK細胞であることを特徴とする、請求項1または2に記載の薬剤。
【請求項4】
上記生理的溶液が、生理食塩水(好ましくは生理的NaCl溶液)、全血、血液分画物(好ましくは血清)、または細胞培養培地であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項5】
上記細胞培養培地が、RPMI、DMEM、X−vivo、およびウルトラカルチャー(Ultraculture)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
上記PBMCが、ストレスを誘発する条件の下で培養されたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
上記ストレスを誘発する条件には、低酸素症、オゾン、熱、放射線、化学物質、浸透圧、pHの変化、またはこれらの組み合わせが含まれることを特徴とする、請求項6に記載の薬剤。
【請求項8】
上記PBMCまたはそのサブセットが、少なくとも10Gy(好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy)、オゾン、高温、またはUV線によって培養中にストレスを与えられたものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の薬剤であって、皮下投与、筋肉内投与、器官内投与、および静脈内投与を実施できるように構成されたことを特徴とする、薬剤。
【請求項10】
上記溶液a)または上記上清b)が凍結乾燥されたものであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項11】
上記PBMCまたはそのサブセットが、上記溶液中で少なくとも4時間(好ましくは少なくとも6時間、より好ましくは少なくとも12時間)培養されたものであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の薬剤を、体内の炎症症状(好ましくは虚血に関連する体内の症状)を治療するための薬物の製造のために用いる使用方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の薬剤を調製する方法であって、
a)末梢血単核球(PBMC)またはそのサブセットを準備する工程と、
b)上記工程a)のPBMCを、PBMC増殖物質およびPBMC活性化物質を含有しない生理的溶液中で少なくとも1時間培養する工程と、
c)上記工程b)の細胞および/またはこの細胞の上清を単離する工程と、
d)上記工程c)の細胞および/または上清を用いて上記薬剤を調製する工程とを含む、方法。
【請求項14】
上記工程b)の前または上記工程b)の途中で、上記PBMCを、ストレスを引き起こす条件に暴露し、
上記ストレスを引き起こす条件には、低酸素症、オゾン、熱、放射線、化学物質、浸透圧、pHの変化、またはこれらの組み合わせが含まれることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記工程b)の前または上記工程b)の途中で、上記PBMCが、少なくとも10Gy(好ましくは少なくとも20Gy、より好ましくは少なくとも40Gy)、オゾン、高温、またはUV線に暴露されることを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
請求項13または15に記載の方法によって得られる薬剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図13d】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図13d】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2012−512843(P2012−512843A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541478(P2011−541478)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067536
【国際公開番号】WO2010/070105
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(510339175)アポサイエンス アクチエンゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】APOSCIENCE AG
【住所又は居所原語表記】Rauhensteingasse 4/3,A−1010 Vienna,Austria
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067536
【国際公開番号】WO2010/070105
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(510339175)アポサイエンス アクチエンゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】APOSCIENCE AG
【住所又は居所原語表記】Rauhensteingasse 4/3,A−1010 Vienna,Austria
【Fターム(参考)】
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