説明

薬品濃度解析プログラム、記録媒体、及び、薬品濃度解析装置

【課題】感水紙の表面に形成される変色部分を解析して、対象物に含まれる薬品の濃度データを短時間かつ精度よく演算可能な薬品濃度解析プログラムを提供する。
【解決手段】 薬品に反応する感水紙3を用い、その表面をスキャニングすることで得られたデジタルの画像データを解析して、当該薬品が農作物内に残留する濃度で演算する薬品濃度解析プログラム1であって、コンピュータ内に、画像データ内に含まれる多数の変色部分の画像のサイズデータを演算する手段11と、サイズデータに基づいて変色部分に対応する液滴径データを演算する手段12と、液滴径データから液滴の総体積データを演算する手段13と、感水紙上における薬品の密度データを求める手段14と、農作物を感水紙上に投影した場合の単位面積当たりの重量データを取得する手段15と、この重量データと密度データに基づいて農作物に含まれる薬品の濃度データを演算する手段16と、を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧される薬品の付着に反応する薬品反応紙を用いて、薬品反応紙の表面をスキャニングすることにより得られたデジタルの画像データを解析することで、当該薬品が対象物内に残留する濃度データを演算するための薬品濃度解析プログラム、このプログラムを格納した記録媒体、このプログラムがインストールされた薬品濃度解析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
病害虫や雑草による被害を未然に防止するために、農作物の栽培を行う時に農薬(薬品に相当)は必要不可欠である。かかる農薬は、粉剤や液体状であり、農作物に散布する際にはノズルから噴霧することで行なわれている。かかる農薬は、散布対象とすべき農作物に対してのみ散布するべきであるが、風などに乗って農作物以外のものや、他の場所で栽培されている農作物に対しても飛散してしまうことがある。このような飛散現象をドリフトと呼んでいる。かかるドリフト現象により散布した農薬は風に乗って風下に移動し、風下において思いもよらぬ問題を引き起こす可能性がある。例えば、Aという農作物には許可されている農薬が、風下に飛散し当該農薬が許可されていないBという農作物に残留してしまうという事態を引き起こしてしまう。従って、農薬を扱う場合には、ドリフト低減をするために、適切なノズルの選択、散布位置を適切に行なうこと、適切な散布圧力の設定、ドリフトしにくい農薬の選択、などの種々の対策を行なう。
【0003】
更に、農作物に残留する全ての農薬を規制対象とするポジティブリスト制度が2006年5月から導入される。この制度によれば、農作物に残留する全ての農薬に0.01ppmの一律基準か個別の残留基準が設けられ、基準を超えた農作物の流通が禁止されることになる。従って、よりいっそう農薬のドリフト現象について考慮しなければならず、ドリフト低減の対策を行った場合にもその対策の効果を予め確認する必要性が高まってきている。
【0004】
そこで、ドリフト現象の程度を確認する方法として感水紙(薬品反応紙に相当)を用いた方法がある(下記、非特許文献1参照)。感水紙は、水滴が付着すると変色し、現状の農薬散布方法でどの程度のドリフトが生じるのか、採用されたドリフト対策の結果がどの程度効果があるのか、などを視覚的に評価することが可能である。
【0005】
【非特許文献1】スプレーイング・システムス・ジャパン株式会社、“ノズル関連機器、感水試験紙”、[平成18年4月25日検索]、インターネット<URL:http://www.spray.co.jp/products/kansuishi01.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる感水紙を用いて評価を行う場合、単に変色した感水紙の外観を視覚的に見るだけでは、正確な評価を行なうことは難しい。特に、新しい制度が導入されるに当たり、どの程度の残留濃度になるのかを予め確認しておくことは重要なことであり、また、かかる数値評価においても、ある程度の正確さが要求される。そこで、感水紙の変色部分(斑点部分)の大きさを計測して、ドリフトしてきた液滴の大きさを予測することで残留濃度を推定する方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、感水紙の変色部分は膨大な数の斑点で構成されることもあるため、かかる変色部分を計測するのは多大な労力を要し、結果が出るまでに要する時間も多大である。従って、作業者にかかる負担も多大となっていた。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、感水紙等の薬品反応紙の表面に形成される変色部分を解析して、対象物に含まれる薬品の濃度データを短時間かつ精度よく演算可能な薬品濃度解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明に係る薬品濃度解析プログラムは、
噴霧される薬品の付着に反応する薬品反応紙を用いて、薬品反応紙の表面をスキャニングすることにより得られたデジタルの画像データを解析することで、当該薬品が対象物内に残留する濃度データを演算するための薬品濃度解析プログラムであって、
コンピュータ内に、
前記画像データ内に含まれる多数の変色部分の画像のサイズデータを演算する手段と、
演算されたサイズデータに基づいて変色部分に対応する液滴径データを演算する手段と、
演算された液滴径データから液滴の総体積データを演算する手段と、
この総体積データと対象物の特性データに基づいて、対象物に含まれる薬品の濃度データを演算する手段と、を構築することを特徴とするものである。
【0010】
この構成による薬品濃度解析プログラムの作用・効果を説明する。まず、薬品反応紙の表面をスキャニングし、デジタルの画像データを取得する。この画像データを解析することで、最終的に薬品が対象物内に残留する濃度データを演算するものである。取得された画像データの中に含まれる変色部分の画像のサイズデータ(面積、半径、直径などの大きさを表わす指標となるもの)を演算する。薬品の液滴は空中を飛来して感水紙の表面に付着し、その部分が変色するため、変色部分の形状は円形に類似した形状になることが多い。薬品反応紙には多数の変色部分が形成されるため、変色部分の画像を解析して、個々の変色部分に対応する液滴径データ(径は半径でも直径でもよい)を演算する。薬品がドリフトする場合、空中を飛来する液滴は球で規定することができる。この球状の液滴が薬品反応紙に付着すると、平面的に広がり、例えば、所定の大きさの円になるものと仮定することができる。従って、検出された1つの変色部分画像から1つの液滴の液滴径データを推定することができる。これを全ての変色部分について求めることで、各々の液滴径データから感水紙に付着した液滴の総体積を演算することができる。
【0011】
この演算された総体積データと対象物の特性データに基づいて、対象物に含まれる薬品の濃度データを演算することができる。つまり、この総体積データは、対象物に対して飛来するであろう薬品の量に対応し、特性データとして対象物の大きさなどのデータから、どの程度の量の薬品が対象物内に残留することになるのかを演算することができる。以上のように、薬品反応紙の画像データを取得してから所定の処理手順をプログラムに実行させることで、任意の対象物に含まれる残留濃度を求めることができる。また、変色部分の画像のサイズデータから液滴径を求めるようにしており、平面的な画像データから立体的な形状の液滴径を推定することができ、精度のある残留濃度を演算することが可能になる。その結果、感水紙等の薬品反応紙の表面に形成される変色部分を解析して、対象物に含まれる薬品の濃度データを短時間かつ精度よく演算可能な薬品濃度解析プログラムを提供することができる。その結果、感水紙等の薬品反応紙の表面に形成される変色部分を解析して、対象物に含まれる薬品の濃度データを短時間かつ精度よく演算可能な薬品濃度解析プログラムを提供することができる。
【0012】
本発明において、前記演算された総体積データに基づいて、薬品反応紙上における薬品の密度データを求める手段と、
対象物を薬品反応紙上に投影した場合の単位面積当たりの重量データを前記特性データとして取得する手段と、
この重量データと密度データに基づいて対象物に含まれる薬品の濃度データを演算する手段と、を更にコンピュータ内に構築することが好ましい。
【0013】
総体積データが演算されると、薬品の特性データに基づいて、薬品反応紙上に付着した薬品の密度データを演算することができる。次に、対象物を薬品反応紙の表面上に投影した場合の単位面積当たりの重量データを求める。これは、例えば、特定の野菜についての残留濃度を求めるのであれば、その野菜を薬品反応紙の上に投影させる。これは、予め投影させた時の面積を求めておき、その野菜の重量を測定しておけば、重量データを求めておくことができる。このように、単位面積当たりの重量データを取得し、この重量データと密度データに基づいて対象物に含まれる濃度データを演算することができる。かかる方法によれば、対象物の特性データは比較的簡単な手法により入手することができ、任意の対象物について濃度データの演算をすることができる。
【0014】
本発明において、薬品反応紙は、薬品の付着により変色する感水紙であることが好ましい。
【0015】
感水紙は水分に反応して変色する性質を有しており、取り扱いも容易である。そこで、感水紙を対象物に対して所定の場所に配置して、薬品を付着させる試験を行うことで、残留濃度の解析を行なうことができる。感水紙を配置する場所を適宜変えることで、種々の条件下における残留濃度の解析を短時間で行なうことができる。
【0016】
本発明において、前記液滴径データは、サイズデータから相関式に基づいて演算するものであることが好ましい。
【0017】
薬品反応紙上に形成される変色部分の面積と、この変色部分を形成させた液滴径の大きさには、相関関係が存在するものと推定される。そこで、変色部分のサイズデータから相関式に基づいて液滴径データを演算するようにすることができる。かかる相関式データについては、予め実験等により求めておくか、理論式に基づいて設定しておくことができる。
【0018】
本発明において、サイズデータから求められた変色部分の平均径データと、この平均径データと係数もしくは係数式に基づいて、前記相関式により、液滴径データを演算するものであることが好ましい。
【0019】
変色部分は飛来してきた液滴が薬品反応紙表面に衝突することで形成されるため、その変色部分の形状から平均径データを求めることができる。例えば、その変色部分のサイズデータから平均径を求めることができる。そして、この平均径データと係数もしくは係数式に基づいて、相関式により液滴径データを演算することができる。これは、立体的な液滴が薬品反応紙表面に衝突すると2次元的に広がるため、この広がり具合を係数もしきは係数式で表わすことにより、液滴径データを精度よく求めることができる。
【0020】
本発明において、液滴が空中をドリフトする間に蒸発により消失する分を考慮した係数もしくは係数式を前記相関式に含ませることが好ましい。
【0021】
液滴径データを更に精度よく求めるためには、液滴が空中をドリフトする間に蒸発により消失する分を考慮することが好ましい。例えば、対象物の場所と感水紙の場所が離れている場合は、そのような消失分を考慮することでより制度のよい濃度解析を行うことができる。液滴の水分蒸発は、風速・気温・湿度・飛行距離などのパラメータにより演算できるものと考えられるので、かかる消失分を係数もしくは係数式の形で相関式に組み込むことにより、より精度のよい濃度解析を行なうことができる。
【0022】
本発明において、前記密度データを求めるに際して、薬品の希釈倍率データと、薬品中の解析対象成分の比率データを更に考慮して演算することが好ましい。
【0023】
薬品の残留濃度を求める場合、その薬品に含まれている解析対象成分の残留濃度を求めることが必要な場合がある。かかる場合は、希釈倍率データと、その解析対象成分の比率データに基づいて、当該解析対象成分の残留濃度として演算することができる。
【0024】
本発明に係る薬品濃度解析プログラムは、記録媒体に格納することができる。記録媒体は、CD−ROM、ハードディスク、メモリカードなどが例としてあげられる。
【0025】
本発明に係る薬品濃度解析プログラムは、コンピュータにインストールすることで薬品濃度解析装置を構築することができる。かかるコンピュータとしては、パソコンだけではなく、持ち運びの可能な携帯機器(携帯電話や小型測定器)にインストールすることでも構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係る薬品濃度解析プログラム及びこれがインストールされた薬品濃度解析装置の好適な実施形態を図面を用いて説明する。この薬品濃度解析プログラムは、感水紙(薬品反応紙に相当)を用いて野菜などの農作物(対象物に相当)に残留する農薬の濃度を解析するためのコンピュータプログラムである。農作物に残留する全ての農薬を規制対象とするポジティブリスト制度によれば、農作物に残留する全ての農薬に0.01ppmの一律基準か個別の残留基準が設けられるため、農作物への残留濃度を精度よく、また、短時間で解析するシステムが必要となっている。感水紙とは片面に特殊な薬剤が塗りつけられた紙であり、この薬剤は水と反応して色が変わるという性質を有している。この感水紙は矩形形状を有しており、表側は全面黄色であり、この表側に水がかかるとその部分が青く変色する。この変色部分である斑点の大きさ等を演算することで農作物への残留濃度を解析しようとするものである。
【0027】
図1は、薬品濃度解析プログラムの機能を示すブロック図である。図1には、薬品濃度解析プログラム1の主要な機能を示している。スキャナー2は、感水紙3の表面の画像をスキャニングして、画像データを取り込む機能を有する。取り込まれたデジタルの画像データは、画像データ格納部4に保存される。画像データは必要に応じてカラーの画像データとして取り込んでもよいし、モノクロの画像データとして取り込んでもよい。
【0028】
薬品濃度解析プログラム1の主要な機能である薬品濃度解析部10について説明する。サイズデータ演算手段11は、斑点のサイズデータを演算する機能を有する。図2は、液滴が付着した感水紙3の表面画像を示す図である。噴霧された液滴が付着すると、その部分が変色した斑点3aとして形成される。かかる斑点3aは多数形成され、そのサイズデータを各斑点3aについて演算する。これは、例えば、変色部分の画素数をカウントすることで、個々の斑点3aの面積データを演算することができ、その斑点3aを円であると仮定した場合に、その直径2rもしくは半径rを演算することができる。従って、サイズデータは、面積データ、半径データ、直径データとして表わすことができる。複数の斑点3aの一部がつながって異形になっている場合は、これを複数の斑点3aに分離した上で、夫々の斑点3aについてサイズデータを取得する。
【0029】
液滴径データ演算手段12は、演算されたサイズデータに基づいて斑点3aに対応する液滴径データを演算する機能を有する。斑点3aから演算されるサイズデータは、平面的な形状に関するデータであり、このサイズデータから感水紙3に付着する前の立体的な形状を想定して液滴径を演算する。液滴の形状は球であると仮定して液滴径データを演算する。これは立体的な球である液滴が平面的な感水紙3に衝突すると、どのような大きさの円に広がるのかについて、斑点3aの直径2r(あるいは半径r)と液滴の直径D(あるいは半径D/2)の間には相関関係があると考えられ、この相関関係に基づいて液滴径データを演算することができる。例えば、
D=f・r(あるいはD=f(r))
という式により液滴径データを演算することができる。fは係数もしくは係数式であり、詳細は後述する。相関式については、相関式データ設定手段30に予め設定しておくことができ、液滴径データ演算手段12は、設定された相関式データに基づいて液滴径データを演算する。相関式は、予め理論及び実験に基づいて求めることができる。
【0030】
相関式データは、1つではなく、条件により異なるものである。例えば、斑点3aの大きさにより係数や係数式は変わる可能性がある。また、液滴の大きさはノズルから噴霧した直後と、所定時間が経過した後ではその大きさが変化する。これは、液滴が空中を飛散している間に水分が蒸発して小径になるためである。どの程度小さくなるかについては、条件により異なるものであり、風速、気温、湿度、飛行時間などにより異なってくる。また、感水紙3を空中にさらす時間によっても変わってくる。従って、これらの条件をパラメータとして、相関式あるいは係数・係数式が異なってくるため、これらの条件を考慮することで、より精度のよい解析を行なうことができる。演算条件設定手段31は、かかる演算条件を設定する機能を提供する。具体的には、気温30℃の夏季において、1mmの液滴が10m飛行すると、液滴径は0.5mm程度の大きさに縮小されるものと考えられる。
【0031】
また、液滴中の特定の成分について残留濃度の解析を行う場合には、その成分の希釈倍率データTと薬品中の解析対象成分の比率データPを演算条件として設定しておく。農薬が単一の成分ではなく、複数の成分から構成されており、その中の特定の成分についての濃度解析を行う場合には、上記データを考慮する必要がある。また、農薬を水で希釈して使用する場合には、希釈倍率データTも残留濃度を演算する上で必要となる。これらのデータを設定しておくことで、より精度の高い残留濃度を演算することができる。
【0032】
総体積データ演算手段13は、演算された液滴径データから感水紙3に付着した液滴の総体積データを演算する。液滴径データは、個々の斑点3aについて求められるものであるから、全ての斑点3aについて液滴径データを求めることで、個々の斑点3aについて液滴体積データを演算することができる。これを全て加算することで、総体積データVを演算することができる。
【0033】
前述の希釈倍率データTから、液滴の中に含まれる農薬の原液量Vtは、
Vt=V/T
により演算することができる。
【0034】
また、農薬中の解析対象成分の比率データPから、解析対象成分の量Vxは、
Vx=Vt×P
により演算することができる。
【0035】
密度データ演算手段14は、感水紙表面上における薬品の密度データを演算する機能を有する。感水紙3の面積データをAとした場合、解析対象成分の密度データVpは、前述の解析対象成分の量Vxから、
Vp=Vx/A
により演算することができる。
【0036】
感水紙3の面積データは、感水紙面積設定手段32において予め設定されている。感水紙3の大きさは、メーカーや型番等により異なっているため、使用する感水紙3に対応した面積データを演算に用いるようにする。
【0037】
重量データ演算手段15は、対象物である農作物を感水紙3上に投影した場合の単位面積当たりの単位重量データWuを求める機能を有する。単位重量データWuは、農作物の水平投影面積Aaと農作物の全重量Wから、
Wu=W/Aa
により演算することができる。
【0038】
これを図3により簡単に説明する。図3において農作物の一例であるキャベツを感水紙3上に投影している。投影面積Aaは適宜の方法により計測することができる。実際に投影して感水紙3上に影が形成された感水紙画像をデジタルカメラなどで撮影し、影の部分の面積を演算することで投影面積データを取得することができる。そのほかに、複写機を利用して農作物の投影画像を取得するようにしてもよい。水平投影面積Aaは、サイズデータ演算手段11の機能を利用して求めることができる。単位重量データWについては、別途重量計により計測しておくことができる。対象物データ設定手段33は、単位重量データWuを求めるために必要な重量データ等が設定される。必要なデータは、農作物の種類毎にデータベースなどを構築して、予め設定しておくことが好ましい。
【0039】
濃度データ演算手段16は、農作物に含まれる残留濃度を演算する機能を有する。残留濃度PPMは、密度データVpと単位重量データWuにより、
PPM=Vp/Wu
により演算することができる。
【0040】
薬品濃度解析部10のその他の補助的な機能を説明する。液滴数演算手段17は、感水紙3の画像データに含まれる斑点3aの個数(=液滴数)をカウントする。この個数データにより、どの程度の数の液滴が飛来してきたのかを知ることができる。平均液滴径演算手段18は、液滴径データ演算手段12により演算された液滴径データを用いて平均液滴径データを演算する。具体的には、全ての液滴について液滴径データを加算して、これを液滴数データで除算することで平均液滴径データを演算することができる。
【0041】
斑点総面積演算手段19は、感水紙3上に形成された斑点3aの総面積データを演算する。斑点密度演算手段20は、感水紙3上に形成された斑点3の密度データ(面積率データ)を演算する。液滴粒度分布グラフ演算手段21は、液滴粒度分布をグラフで視覚化するための表示データを生成する機能を有する。
【0042】
画像処理部25は、スキャナー2を介して取得した画像データに対する画像処理を行う機能を提供する。例えば、得られた多階調の画像データを所定のしきい値により処理して二値化画像データを生成したり、変色部分を抽出する処理などを行うことができる。
【0043】
モニター5は、オペレータが解析作業を行う場合に、取り込んだ画像データを表示したり、解析作業を進めるための指令を行う。また、解析結果はモニター5に表示される。入力操作部6は、マウス、キーボードなどにより構成され、解析を行なうための必要なデータの入力や、種々の指令を行なう。
【0044】
<解析手順>
次に、図1に示す薬品濃度解析プログラム1を用いて濃度解析を行う場合の概略手順を図4のフローチャートにより説明する。まず、感水紙3を用いて農薬を噴霧させて農薬の付着試験を行なう。農薬を噴霧するノズルや感水紙3の配置は、状況に応じて適宜行なうことができる。例えば、感水紙3は対象物である農作物のごく近傍か所定距離だけ離れた位置にセットしておくことができる。このような配置データは、演算条件として設定しておくことができる。また、試験を行なう日の環境条件(温度、湿度など)も測定しておき、演算条件設定手段31に設定させておく。
【0045】
試験を行なった後、感水紙の画像データの取り込みを行う(S1)。スキャナー2により画像データを取り込み、デジタルの画像データを画像データ格納部4に一旦保存する(S2)。次に、画像処理部25の機能を用いて、画像データの二値化画像データを生成する(S3)。取り込んだ原画像データは、多階調の画像データであるが、これを「0」か「1」の二値化画像データに変換する。二値化する場合のしきい値については、予め設置しておいてもよいし、取得した画像データの濃度ヒストグラムに基づいて自動的に設定されるようにしてもよい。図5は、実際に農薬を散布した場合の感水紙の原画像データ(a)とこれを二値化処理した画像データ(b)を示している。二値化処理した画像データは、斑点部分が白い画像部分に変化し、その他の領域は黒い画像部分に変化している。
【0046】
次に、生成された二値化画像データを用いて斑点の解析処理を行う(S4)。具体的には、サイズデータ演算手段11により個々の斑点のサイズデータを演算する。サイズデータは、前述のように面積データ、直径データ、半径データとして取得することができる。次に、演算されたサイズデータから相関式を用いて、液滴径データ演算手段12の機能により液滴径の解析処理を行う(S5)。相関式に関しては、前述の通りであり、場合により種々の条件を考慮した上で相関式による演算が行なわれる。これにより、感水紙3に飛来してきた全ての液滴の液滴径データを求めることができる。個々の液滴径データが求められると、総体積データ演算手段13の機能により液滴の総体積データを演算することができる(S6)。
【0047】
次に、密度データ演算手段14の機能を用いて、感水紙3上における液滴の密度データを演算する(S7)。次に、重量データ演算手段15の機能を用いて、感水紙3上における農作物の単位重量データを取得する(S8)。この重量データと密度データを用いて、残留濃度を演算することができる(S9)。演算した結果は、モニター6に表示される(S10)。
【0048】
図6は、解析結果の一例を示すものであり、液滴の粒度分布がグラフ化して表示されている。このグラフは横軸が液滴径であり縦軸が個数を示している。また、グラフの右横には、解析された各種データ、すなわち、残留濃度(PPM)の他に、液滴数、液滴密度、液滴平均径などの演算結果が表示されている。
【0049】
<相関式の具体例>
次に、相関式の具体例について説明する。実際に感水紙にノズルから液滴を噴霧させて、感水紙に形成された斑点の直径と噴霧された液滴径の関係を求めた。その結果を図7のグラフに示す。使用したノズルは18種類であり、18個の点がプロットされている。各ノズルについて夫々多数の斑点が形成されるので、その算術平均径を横軸(x)に取り、液浸法により求めた液滴径の算術平均径を縦軸(y)にとっている。このグラフからも分かるように両者の間には明らかな相関関係があり、これを相関式により表わすと、
y=(K1)x(K2)
となる。この相関式においてK1,K2は係数(定数)である。K2≒1.0の場合には、直線式として表わしてもよい。K1,K2は演算条件に依存して決定されるものである。
【0050】
本発明に係る薬品濃度解析プログラムを用いて濃度解析の依頼を受ける場合のフォームと、解析結果の出力フォームの一例を図8に示す。「ご指定条件」のフォームにより依頼者に各項目を入力してもらう。ここで入力されたデータは、前述の感水紙面積設定手段32や対象物データ設定手段33などにより設定され、残留濃度などの解析が行われる。
【0051】
解析結果の出力フォームには、農薬が飛散したときの残留農薬濃度や飛散した農薬の密度や、その他の種々の解析結果が数値やグラフとして表示される。
【0052】
<別実施形態>
本発明に係る薬品濃度解析プログラムは、パソコンなどのコンピュータにインストールすることで、当該コンピュータを薬品濃度解析装置として構成することができる。このプログラムは、パソコン以外の機器(例えば、携帯性を有する機器)にもインストールすることができる。例えば、バーコードリーダのような外観を有するポータブルの濃度チェッカーにプログラムをインストールして使用することができる。また、濃度チェッカーには、感水紙画像を取得するためのカメラ機能を備えておく。これにより、農業現場で感水紙を使用して試験を行い、その場で濃度チェッカーを利用して瞬時に残留濃度を解析することができる。現場ですぐに確認できるため、非常に有用である。
【0053】
また、携帯電話にプログラムをダウンロードすることでインストールさせて、携帯電話の有するカメラ機能を用いて感水紙画像を撮影することができる。画像データを取得した後の処理については、すでに説明した通りの処理手順を利用することができ、携帯電話に備えられている液晶画面を利用して解析結果を表示させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】薬品濃度解析プログラムの機能を示すブロック図
【図2】液滴が付着した感水紙の画像を示す図
【図3】重量データを求める時の原理を説明する図
【図4】残留濃度を求めるまでの手順を示すフローチャート
【図5】原画像データと二値化画像データを比較して示す図
【図6】解析結果の一例を示す図
【図7】相関式の一例を示すグラフ
【図8】解析結果の出力フォームの一例を示す図
【符号の説明】
【0055】
1 薬品濃度解析プログラム
2 スキャナー
3 感水紙
3a 斑点(変色部分)
10 薬品濃度解析部
11 サイズデータ演算手段
12 液滴径データ演算手段
13 総体積データ演算手段
14 密度データ演算手段
15 重量データ演算手段
16 濃度データ演算手段
17 液滴数演算手段
18 平均液滴径演算手段
19 斑点総面積演算手段
20 斑点密度演算手段
21 液滴粒度分布グラフ演算手段
30 相関式データ設定手段
31 演算条件設定手段
32 感水紙面積設定手段
33 対象物データ設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴霧される薬品の付着に反応する薬品反応紙を用いて、薬品反応紙の表面をスキャニングすることにより得られたデジタルの画像データを解析することで、当該薬品が対象物内に残留する濃度データを演算するための薬品濃度解析プログラムであって、
コンピュータ内に、
前記画像データ内に含まれる多数の変色部分の画像のサイズデータを演算する手段と、
演算されたサイズデータに基づいて変色部分に対応する液滴径データを演算する手段と、
演算された液滴径データから液滴の総体積データを演算する手段と、
この総体積データと対象物の特性データに基づいて、対象物に含まれる薬品の濃度データを演算する手段と、を構築するための薬品濃度解析プログラム。
【請求項2】
前記演算された総体積データに基づいて、薬品反応紙上における薬品の密度データを求める手段と、
対象物を薬品反応紙上に投影した場合の単位面積当たりの重量データを前記特性データとして取得する手段と、
この重量データと密度データに基づいて対象物に含まれる薬品の濃度データを演算する手段と、を更にコンピュータ内に構築する請求項1に記載の薬品濃度解析プログラム。
【請求項3】
薬品反応紙は、薬品の付着により変色する感水紙であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬品濃度解析プログラム。
【請求項4】
前記液滴径データは、サイズデータから相関式に基づいて演算するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬品濃度解析プログラム。
【請求項5】
サイズデータから求められた変色部分の平均径データと、この平均径データと係数もしくは係数式に基づいて、前記相関式により、液滴径データを演算するものであることを特徴とする請求項4に記載の薬品濃度解析プログラム。
【請求項6】
液滴が空中をドリフトする間に蒸発により消失する分を考慮した係数もしくは係数式を前記相関式に含ませることを特徴とする請求項4又は5に記載の薬品濃度解析プログラム。
【請求項7】
前記密度データを求めるに際して、薬品の希釈倍率データと、薬品中の解析対象成分の比率データを更に考慮して演算することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬品濃度解析プログラム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬品濃度解析プログラムを格納した記録媒体。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の薬品濃度解析プログラムをコンピュータにインストールすることで構築される薬品濃度解析装置。
【請求項10】
前記コンピュータは、携帯機器であることを特徴とする請求項9に記載の薬品濃度解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−303831(P2007−303831A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129261(P2006−129261)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年(平成18年)4月6日 「読売新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年(平成18年)4月17日 「日刊工業新聞」に発表
【出願人】(503045038)ノズルネットワーク株式会社 (18)
【Fターム(参考)】