説明

薬液供給装置

【課題】痛みを軽減しつつ針を皮膚に刺通できるとともに、薬液を確実に皮膚へ供給できる薬液供給装置を提供すること。
【解決手段】薬液供給装置2は、略円筒状の基台4と、基台4の中心開口部内に基台4の軸方向へ移動可能に配置される針保持部材6と、針保持部材6を覆って基台4の軸方向へ移動可能に配置されるキャップ8と、を備える。針保持部材6の皮膚側面に針9が突設され、基台4と、針保持部材6との間に第1スプリング13が配設され、キャップ8と針保持部材6との間に第2スプリング24が配設され、キャップ8に、針保持部材6を軸方位へ移動可能にし、かつ回転方向へは回転不能にする嵌合リブ42が形成され、針保持部材6に薬液を収容する薬液収容部30が形成され、針保持部材6に薬液を皮膚上へ供給し得る通孔31が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を人の皮膚表面より針を介して皮膚へ供給するための薬液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリン、成長ホルモン、インターフェロン、カルシトニン等に代表される高分子量医薬品は蛋白製剤であるため、内服すると消化管内で多くが分解されてしまう。そのため、これらの高分子量医薬品を投与する場合には、非経口投与である皮下注射や筋肉注射をしている。しかし、注射時の針の刺通による痛みをともなう。特に、糖尿病患者のように毎日繰り返しインスリンを投与する必要がある者にとって、注射時の針の刺通による痛みは切実な問題である。
【0003】
皮膚は、一般的に、死んだ表皮細胞層からなる角質層、生きた表皮細胞層、真皮層および皮下脂肪組織層からなり、この皮膚が筋膜を介して筋肉層と接している。最も汎用される注射として皮下注射があるが、この注射方法は、角質層、生きた表皮細胞層、および真皮層を貫いて皮下脂肪組織に薬液を投与するものである。しかし、真皮層や皮下脂肪組織層には痛みの刺激を受容する自由神経終末や血管が豊富にあるため、針先が神経を傷つけたり血管を損傷したりすることによってブラジキニンなどの発痛物質の産生を促し、痛みを引き起こしてしまう。
【0004】
針の刺通による痛みを軽減する最も簡便な方法は、針を細くすること、および短くすることが有効である。近年、患者に実質的に痛みを与えないで、微細な針を使用することにより、薬液を皮膚に経皮投与する装置が提案されている。
【0005】
例えば、特開昭63−164963号公報(特許文献1)には、0.05mm以下の直径を有し、針の入り深さが5000μm程度である針を備えた薬液を皮下または皮内注射のための携帯用装置が開示されている。
【0006】
特表2010−508058号公報(特許文献2)には、複数の注射針にて人体の皮膚に孔を開けながら、同時に、薬液を注入できる、皮膚美容、脱毛治療、肥満治療などのためのマイクロニードル治療装置が開示されている。
【0007】
特開2005−87521号公報(特許文献3)には、0.1〜3mmの長さの複数の針を備え、痛みを軽減しつつ針を皮膚に穿刺できる、薬液供給装置が開示されている。
【0008】
しかし、これらの薬液供給装置においては、痛みを軽減するために針の長さおよび針径を小さくしているために、針の先端が皮膚内で閉塞されることがあり、そのため薬液が投与され難い。
【0009】
また、手で持って針を皮膚に突き刺すものであるので、針の刺通程度を調整できず、さらに痛みを軽減することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭63−164963号公報
【特許文献2】特表2010−508058号公報
【特許文献3】特開2005−87521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、痛みを軽減し、かつ薬液を確実に皮膚へ供給することができる薬液供給装置を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、針を皮膚へ刺通する速度および力加減を自動的に調節することによって痛みをさらに軽減することができる薬液供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は以下を提供する。
(項目1)
略円筒状の基台と、該基台の中心開口部内に基台の軸方向へ移動可能に配置される針保持部材と、該針保持部材を覆って該基台の軸方向へ移動可能に配置されるキャップと、を備え、
該針保持部材の皮膚側面に針が突設され、
該基台と、該針保持部材との間に第1スプリングが配設され、
該キャップと該針保持部材との間に第2スプリングが配設され、
該キャップに、該針保持部材を軸方位へ移動可能にし、かつ回転方向へは回転不能にする嵌合リブが形成され、
該針保持部材に薬液を収容する薬液収容部が形成され、
該針保持部材に該薬液収容部内の薬液を皮膚上へ供給し得る通孔が形成されている薬液供給装置。
(項目2)
前記通孔が、封止用部材にて開閉可能に封止されている項目1に記載の薬液供給装置。
(項目3)
前記針は、前記針保持部材の底板の皮膚側の面に複数取付けられ、かつ該針保持部材の回転中心位置からずれている項目1に記載の薬液供給装置。
(項目4)
前記キャップに注射針を通すための開口部が形成され、前記薬液収容部に該注射針を刺通するためのゴム栓が設けられている項目1に記載の薬液供給装置。
(項目5)
前記基台を覆うためのリング体が配設され、該リング体の裏面に粘着剤層が設けられている項目1に記載の薬液供給装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の薬液供給装置によれば、針保持部材の皮膚側面に針が突設され、キャップと針保持部材との間に第1スプリングが配設され、キャップに、針保持部材を軸方位へ移動可能にし、かつ回転方向へは回転不能にする嵌合リブが形成されているので、キャップを皮膚方向へ押圧すると共に、キャップを回転することにより、針保持部材に設けた針で皮膚表面に引っ掻き傷を付けることができる。そして、針保持部材に薬液を収容する薬液収容部が形成され、針保持部材に該薬液収容部内の薬液を皮膚上に供給し得る通孔が形成されているので、皮膚の引っかき傷に薬液を供給することで薬液の効果を発揮させることができる。ここで、キャップと針保持部材との間に第1スプリングが配設されているので、キャップで針保持部材を押圧する力および速度は、第1スプリングの弾性力によって調節され、針が皮膚内へ刺通する力および速度を自動的に調整して痛みをさらに軽減することができる。
【0015】
さらに、第1スプリングおよび第2スプリングのバランスを調整することにより、皮膚の弾力のバラツキを吸収して皮膚内又は皮下へタンパク、ワクチン、ペプチド等を投与すること可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の薬液供給装置の断面図である。
【図2】本発明の薬液供給装置の断面図である。
【図3】本発明の薬液供給装置の断面図である。
【図4】本発明の薬液供給装置の断面図である。
【図5】本発明の薬液供給装置の正面図である。
【図6】本発明の薬液供給装置の正面図である。
【図7】本発明の薬液供給装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1および図2に示すように、本発明の薬液供給装置2は、略円筒状の基台4と、該基台4の中心開口部内に基台の軸方向へ移動可能に配置される針保持部材6と、該針保持部材6の上側に基台の軸方向へ移動可能に配置されるキャップ8と、を備えている。
【0019】
該基台4は、円板状の基部10と、該基部10から上方へ立設された第1内筒11および第1外筒12と、を有し、第1内筒11および第1外筒12の間に第1スプリング13を配設するためのスペースが形成されている。該基部10の周囲の上面にはリング体16が配置されている。
【0020】
リング体16は、その裏面に粘着剤層17が設けられ、通常はこの粘着剤層17を覆うフィルムが貼着されている。フィルムを剥がして粘着剤層17が皮膚に貼り付けられる。
【0021】
上記針保持部材6は、針を保持するための円板状の底板21と、該底板21の上面から上方へ立設された第2内筒22および第2外筒23と、を有し、第2内筒22および第2外筒23の間に第2スプリング24を配設するためのスペースが形成されている。第2外筒23の上端から折り返し部25が外側に形成されている。この折り返し部25の下端と基台10との間に第1スプリング13が配設されている。
【0022】
第2内筒22の上端にリング状の栓体27が配設され、この栓体27の通孔にゴム栓28が装着されている。第2内筒22と底板21と栓体27およびゴム栓28によって薬液を収容するための収容部30が形成されている。
【0023】
底板21の中心位置には薬液を流すための通孔31が形成され、通常はこの通孔31はテープ、ゴムなどからなる封止用部材32にて封止されている。
【0024】
底板21の周囲において複数の取付孔が形成され、該取付孔に取付部材35によって針9が取り付けられている。
【0025】
底板21の底面から取付部材35が下方へ突出し、さらに取付部材35の下面から針9が所定寸法だけ下方へ突出している。針9は、前記針保持部材6の底板21の皮膚側の面に複数取付けられ、かつ該針保持部材6の回転中心位置からずれている。
【0026】
上記キャップ8は、円板状の上板38の下面から外壁39を垂下して形成されている。
【0027】
該キャップ8と該針保持部材6との間に第2スプリング24が配設されている。該キャップ8の上板38の下面から一対の嵌合リブ42が突設されている。この嵌合リブ42には長手方向に長い係合溝が形成されている。
【0028】
針保持部材6の該第2内筒22の外面には軸方向に長い凹部26が形成され、この凹部26内に上記キャップ8の嵌合リブ42が嵌合している。
【0029】
従って、針保持部材6は、キャップ8に対して軸方向へ移動可能であるが、キャップ8を回転させると針保持部材6もそれに伴って回転する。
【0030】
上板38の中心位置には注射針などを通すための開口部41が形成されている。
【0031】
該基台4と該針保持部材6との間に配設された第1スプリング13は、針保持部材6を皮膚から離す方向へ付勢しており、また針保持部材6とキャップ8との間に配設された第2スプリング24はキャップ8を針保持部材6に対して遠ざかるほう方向へ付勢している。
【0032】
キャップ8の外壁39の下端には係合爪43が形成され、この係合爪43が基台4の第1外筒12の上端に形成した突起44に係合している(図1)。
【0033】
上記針保持部材6の薬液収容部30の通孔31を封止するゴム栓28の上方位置にキャップ8の開口部41が形成されている。
【0034】
上記各部品は、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を材料として、射出成形や低圧鋳造することによって製造することができる。栓体27は、上記したように樹脂成形品又はゴムにて形成されている。
【0035】
該底板21下面からの取付部材35の突出寸法は0〜10mmとするのが好ましい。また、取付部材35の下端からの針9の突出寸法は50μm〜10mmが好ましい。ただし、図1に示す装置の使用前の状態において針9の先端は基部10の下面を結ぶ面より下方へ突出することはない。
【0036】
また、針9を底板21下面に直接取付けてもよく、その場合は底板21の下面からの針9の突出寸法は50μm〜2500μmとするのが好ましい。さらに、針9の周囲に幅狭の筒状体を配置して、針9の先端を該筒状体の先端より突出させるように構成することもできる。そのような場合は、底板21下面からの筒状体の突出寸法は0〜5mmとするのが好ましく、筒状体先端からの針の突出寸法は50μm〜2000μmとするのが好ましい。
【0037】
針9の周囲に筒状体を配置することにより、針を皮膚に刺した場合に、筒状体の先端が皮膚面に当たるために、針を設定寸法だけ確実に皮膚内に刺通することができる。
【0038】
針9は、この実施形態では、3本設けられているが、2本あるいは4本以上であってもよい。針9はステンレスなどの金属、プラスチックなどで形成することができる。針9は、一般的には、ステンレス鋼を使用して、例えば、塑性加工によって筒状または棒状に形成したものを使用することができる。また、チタンなどの他の金属あるいは生体適合性プラスチック等の材料から針保持部材6容器4と一体で針9を形成することもできる。針9の針保持部材6の底板21への固着は、例えば、インサート成形あるいは接着によっても実施できる。
【0039】
この薬液供給装置2においては、薬液収容部30と針9内とが連通することはなく、針9には液体を通すための孔を設けなくてもよい。しかし、筒状の針を用いて薬液収容部30と連通させてもよい。この場合は、通孔31を設けなくてもよい。
【0040】
以下に本発明の薬液供給装置2の操作を説明する。
【0041】
キャップ8の開口部41を通して注射器の針をゴム栓28に刺通し、薬液を針保持部材6の薬液収容部30内へ注入しておく。
【0042】
次に、針保持部材6の封止用部材(図示せず)を取り除いて通孔31を開け、基台4を皮膚に貼り付ける。基台4はリング対16の粘着剤層によって良好に皮膚面に貼り付けられる。
【0043】
次に、キャップ8を指などで皮膚側へ軽く押圧すると、針保持部材6は第2スプリング24を介して皮膚側へ加圧され、針保持部材6の皮膚側面に設けられた針9は皮膚を刺し通す。次に、キャップ8を回転させると、キャップ8の嵌合リブ42と針保持部材6とが嵌合していることにより、針保持部材6が回転し、針9は皮膚上を引っ掻く。その間に、薬液収容部30内の薬液が通孔31から皮膚上へ流れ出る。
【0044】
そのため、皮膚上の引っ掻き傷から薬液が皮膚内へ入り、例えば、表皮のランゲルハンス細胞を活性化する。従って、例えば皮膚組織内にタンパク、ワクチン、ペプチド等が浸透することにより、キラーT細胞(CTL)を増殖させることができる。
【0045】
キャップ8の外径は、操作を容易にする上で20〜50mmが好ましく、30〜40mmがさらに好ましい。皮膚を傷付ける深さは、100〜500μmが好ましい。薬液としては少量でも可能である。
【0046】
薬液を皮膚に供給した後、キャップ8から手を離すと、第1スプリング13によって針保持部材6が皮膚から離す方向へ移動し、針9は皮膚から抜かれる。その後、基台4を皮膚面から剥離すればよい。
【0047】
なお、薬液収容部30内の薬液は、ゴム栓28部分をキャップ8の開口部41を通して加圧することにより、皮膚上へ流すようにしてもよい。また、その際に、薬液の圧力で針保持部材6の封止用部材を除去するようにしてもよい。
【0048】
本発明で使用可能な薬剤としては、以下があげられる。
【0049】
抗菌薬、抗ウイルス薬、ワクチン、抗腫瘍薬、免疫抑制薬、ステロイド薬、抗炎症薬、抗リウマチ薬、関節炎治療薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、糖尿病治療薬、ホルモン剤、骨・カルシウム代謝薬、ビタミン、血液製剤、造血薬、抗血栓薬、抗高脂血症薬、抗不整脈薬、血管拡張薬、プロスタグランジン、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、βブロッカー、降圧薬、利尿薬、キサンチン誘導体、βアゴニスト、抗喘息薬、鎮咳薬、去痰薬、抗コリン薬、止寫薬、健胃消化薬、抗潰瘍薬、下剤、睡眠薬、鎮静薬、解熱剤、かぜ薬、抗てんかん薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、中枢神経刺激薬、副交感神経作用薬、交感神経作用薬、制吐剤、中枢興奮薬、抗パーキンソン病薬、筋弛緩薬、鎮痙薬、麻酔薬、鎮痒薬、抗片頭痛薬、診断薬、オリゴヌクレオチド、遺伝子薬などが挙げられる。
【0050】
特に好ましい薬剤は、経口投与で効果を表さないかあるいは減弱してしまうタンパク、ぺプチド、多糖類、オリゴヌクレオチド、DNA等であり、具体的には、インスリン、成長ホルモン、インターフェロン、カルシトニン等の高分子量医薬品である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の薬液供給装置を用いることにより、薬剤や化粧品等を確実に経皮投与することができ、また痛みを伴うこともない。
【符号の説明】
【0052】
2 薬液供給装置
4 基台
6 針保持部材
8 キャップ
9 針
10 基部
11 第1内筒
12 第1外筒
13 第1スプリング
24 第2スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円筒状の基台と、該基台の中心開口部内に基台の軸方向へ移動可能に配置される針保持部材と、該針保持部材を覆って該基台の軸方向へ移動可能に配置されるキャップと、を備え、
該針保持部材の皮膚側面に針が突設され、
該基台と、該針保持部材との間に第1スプリングが配設され、
該キャップと該針保持部材との間に第2スプリングが配設され、
該キャップに、該針保持部材を軸方位へ移動可能にし、かつ回転方向へは回転不能にする嵌合リブが形成され、
該針保持部材に薬液を収容する薬液収容部が形成され、
該針保持部材に該薬液収容部内の薬液を皮膚上へ供給し得る通孔が形成されている薬液供給装置。
【請求項2】
前記通孔が、封止用部材にて開閉可能に封止されている請求項1に記載の薬液供給装置。
【請求項3】
前記針は、前記針保持部材の底板の皮膚側の面に複数取付けられ、かつ該針保持部材の回転中心位置からずれている請求項1に記載の薬液供給装置。
【請求項4】
前記キャップに注射針を通すための開口部が形成され、前記薬液収容部に該注射針を刺通するためのゴム栓が設けられている請求項1に記載の薬液供給装置。
【請求項5】
前記基台を覆うためのリング体が配設され、該リング体の裏面に粘着剤層が設けられている請求項1に記載の薬液供給装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−100783(P2012−100783A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250321(P2010−250321)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000225740)南部化成株式会社 (41)
【Fターム(参考)】