説明

薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤

【課題】エチレン−プロピレン共重合体に添加する造核剤を最適な割合で含有し、衛生性、耐熱性、透明性及び耐圧性に優れた薬液充填用容器を提供する。
【解決手段】本発明に係る薬液充填用容器は、エチレン分0.5%〜1.2%を含む(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に、0.15〜0.20重量部の(B)環状有機リン酸エステル金属塩と、0.04〜0.06重量部の(C)ステアリン酸カルシウムと、を含むポリオレフィン樹脂組成物を成形して得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば尿路や血管、CT(Computed Tomography)撮影用の造影剤等の薬液を充填するために使用される薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤に関し、特に衛生性、耐熱性、透明性及び耐圧性に優れた薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、尿路や血管、CT撮影用の造影剤等の薬液を充填するために使用されるシリンジ等の薬液充填用容器、及び、薬液充填用容器に薬液を予め充填した状態でオートクレーブ(AC)等を用いて高圧蒸気滅菌するプレフィルドシリンジ等の薬液充填製剤が従来から知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
薬液充填用容器及び薬液充填製剤は、人体に使用されるため衛生性が高く安全でなければならない。薬液充填用容器及び薬液充填製剤は、オートクレーブ等を用いて高圧蒸気滅菌が施されるため、高温・高圧の飽和水蒸気への曝露に耐える耐熱性及び耐圧性を有していなければならない。また、薬液充填用容器及び薬液充填製剤は、機械(インジェクター)を用いて薬液を注入することが多いことからも耐圧性を有している必要がある。加えて、薬液充填用容器及び薬液充填製剤は、充填される薬液の性状を視覚により確認できるようにするため透明性も求められている。具体的には、第15改正 日本薬局方 一般試験 45.プラスチック製医薬品容器試験法 1.ポリエチレン製又はポリプロピレン製水性注射剤容器の試験項目の全部を満たしていなければならない。
【0004】
特許文献1には、ポリプロピレン樹脂の単独重合体またはポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂との共重合体によって製造されたプラスチック注射器(薬液充填用容器)が開示されている。一般に、ポリプロピレン樹脂は、加工成形が容易であり、価格が低いことから、薬液充填用容器として広く利用されている。また、ポリ環状オレフィン樹脂やポリプロピレン樹脂を用いて薬液充填用容器を形成したものが知られている。さらに、ガラス材料を用いて薬液充填用容器を形成したものが存在している。
【0005】
しかしながら、ポリ環状オレフィン樹脂は、高価であり、加工性が悪く、脆くて破損しやすい等の欠点を有している。また、ホモポリマーであるポリプロピレン樹脂では、透明性及び耐圧性(剛性)が必ずしも充分ではないという欠点を有している。これは、結晶性高分子であるポリプロピレン樹脂で薬液充填用容器を加熱成形する際、大きさが不揃いな球晶が多数生成され、生成された球晶によって透明性が不充分になってしまうからである。したがって、特許文献1に記載されているような薬液充填用容器では、オートクレーブ装置等を用いて高圧蒸気滅菌すると、変形・破損や透明度の低下等のような不具合が避けられなかった。また、ガラス材料は、容易に破損することによって危険性が高くなってしまうという欠点を有している。
【0006】
そこで、汎用のポリプロピレン樹脂を主原料とし、環状有機リン酸エステル金属塩からなる造核剤を添加することによって、上記4つの要件(衛生性、耐熱性、透明性及び耐圧性)を満たすようにした薬液充填用容器が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の薬液充填用容器は、プロピレンの単独重合体100重量部に、環状有機リン酸エステル金属塩からなる造核剤を0.1〜0.25重量部、アルカリ金属変性ハイドロタルサイト0.1〜0.25重量部、及び、ハイドロタルサイト0.02〜0.08重量部を配合してなるプロピレン樹脂組成物を射出成形したものである。これによって、高価、難成形性及び易破損性を解消した薬液充填用容器が提供できるようになった。
【0007】
造核剤とは、ポリプロピレン樹脂等の結晶性高分子に添加する化合物の1つで、加熱溶融された樹脂が冷却固化されるときに微細で均一な大きさの球晶を急速かつ大量に生成させ、ポリプロピレン樹脂だけでは不充分であった透明性及び耐圧性を向上させる化合物である。このような造核剤として、特に透明性の向上効果が認められるものには、新日本理化学株式会社が提供するゲルオール(登録商標)MDやミリケン・ケミカルが提供するミラード3988などのソルビトール系の化合物が知られている。
【0008】
しかしながら、後述するように本発明に係る造核剤としては、物性バランスと透明性の観点から、有機リン酸エステル金属塩を採用することにした。このような造核剤としては、株式会社ADEKAによって提供されているアデカスタブ(登録商標)NA−11(以下、単にNA−11と称する)やアデカスタブ(登録商標)NA−21(以下、単にNA−21と称する)がよく知られている。本発明では、より良い透明性を発現するNA−21を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−194866号公報
【特許文献2】特開2004−256606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載されている薬液充填用容器では、造核剤の配合割合の範囲が広く、その範囲で製造された薬液充填用容器の全部が上記4つの要件をバランスよく向上できるわけではないことがわかった。つまり、造核剤の最適な配合割合の範囲が存在することが種々の実験から発見することができた。特に、造核剤の最適な配合割合の範囲外で形成された薬液充填用容器では、容器の透明性、及び、高圧蒸気滅菌における高温・高圧の飽和水蒸気への曝露に対しての耐圧性や、高圧蒸気滅菌を施した完成品製剤を注入装置へ装着し、高圧で造影剤等の薬液の注入を行なった際の耐圧性が低くなることがわかった。また、特許文献2には、プロピレン単独重合体による樹脂が開示されているが、更に透明性を向上させるために、それに代えてエチレン−プロピレン共重合体による樹脂とした場合、造核剤の最適な配合割合の範囲が更に不明確となってしまう。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、エチレン−プロピレン共重合体に添加する造核剤を最適な割合で含有し、衛生性、耐熱性、透明性及び耐圧性に優れた薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る薬液充填用容器は、薬液が充填される薬液充填用容器であって、エチレン分0.5%〜1.2%を含む(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に、0.15〜0.20重量部の(B)環状有機リン酸エステル金属塩と、0.04〜0.06重量部の(C)ステアリン酸カルシウムと、を含むポリオレフィン樹脂組成物を成形して得られるものである。
【0013】
本発明に係る薬液充填用容器は、薬液が充填される薬液充填用容器であって、エチレン分0.5%〜1.2%を含む(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に、0.15〜0.20重量部の(B)環状有機リン酸エステル金属塩と、0.01〜0.05重量部の(D)ハイドロタルサイトと、を含むポリオレフィン樹脂組成物を成形して得られるものである。
【0014】
本発明に係る薬液充填用容器は、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び(F)リン系加工熱安定剤のうち少なくとも1つを添加しているものである。
【0015】
本発明に係る薬液充填製剤は、上記の薬液充填用容器に薬液が充填されているものである。
【0016】
本発明に係る薬液充填製剤は、前記薬液充填用容器に薬液が充填され、密封されてから高圧蒸気滅菌が施されるものである。
【0017】
本発明に係る薬液充填製剤は、前記薬液充填用容器に充填する薬液が造影剤であるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る薬液充填用容器によれば、好適な含有割合を規定したので、各成分及び添加剤が均一に分散混合されるため、透明性及び耐圧性を特に向上させることが可能になって衛生性及び耐熱性と併せた特性をバランスよく向上させたものになる。すなわち、本発明に係る薬液充填用容器は、衛生性、耐熱性、透明性及び耐圧性に優れているのである。
【0019】
本発明に係る薬液充填製剤は、上記の薬液充填用容器に薬液を充填したものなので、衛生性、耐熱性、透明性及び耐圧性に優れている。本発明に係る薬液充填製剤は、予め薬液が充填され、密封されてから高圧蒸気滅菌が施される場合にも、高温・高圧の飽和水蒸気への曝露に耐えることができ、透明性の高いものになる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る薬液充填用容器及び薬液充填製剤について詳細に説明する。
本発明に係る薬液充填用容器は、(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂に、少なくとも(B)環状有機リン酸エステル金属塩、及び、(C)ステアリン酸カルシウムが含まれている。
【0021】
(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂
本発明に係る薬液充填用容器に用いられる(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂は、エチレンとプロピレンとからなるコポリマーであり、エチレン含有量が0.5%〜1.2%を含んでいる。また、(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂のメルトフローインデックス(MFI;ASTM−D1238、230℃、2.16kg荷重)は、20〜30g/10分、好ましくは25〜26g/10分の範囲にある。
【0022】
なお、メルトフローインデックス(MFI)は、加熱溶融された樹脂の金型内での流れ易さを示す指標である。(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂のメルトフローインデックスがこの範囲内にあると成形性と剛性とのバランスに優れた薬液充填用容器が得られる。
【0023】
(B)環状有機リン酸エステル金属塩
本発明に係る薬液充填用容器に用いられる(B)環状有機リン酸エステル金属塩は、下記式(1)で表される化合物である。
【化1】

【0024】
(B)環状有機リン酸エステル金属塩は、造核剤として作用するものであり、その含有量が(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に対して、0.15〜0.20重量部である。この範囲で(B)環状有機リン酸エステル金属塩を含有することで、(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂を微細で均一な大きさの球晶を極めて多数含む成形品として加工でき、透明性及び耐圧性に優れた薬液充填用容器を得ることが可能になる。0.3重量部以上使用すると透明性が向上するが靭性に欠け、0.1重量部以下では透明性が低い。
【0025】
(C)ステアリン酸カルシウム(Calcium Stearate)
本発明に係る薬液充填用容器に用いられる(C)ステアリン酸カルシウムは、下記式(2)で表される化合物である。(C)ステアリン酸カルシウムは、たとえば堺化学工業株式会社から提供されているものを使用するとよい。
【化2】

【0026】
(C)ステアリン酸カルシウムは、安定剤や中和剤として作用するものであり、その含有量が(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に対して、0.04〜0.06重量部である。
【0027】
(D)ハイドロタルサイト(DHT−4A(登録商標):受酸剤(ハロゲンスキャベンジャー))
本発明に係る薬液充填用容器に用いられる(D)ハイドロタルサイトは、協和化学工業株式会社から提供されており、下記式(3)で表されるマグネシウムアルミニウム複合水酸化物塩である。
【化3】

【0028】
(D)ハイドロタルサイトは、安定剤や中和剤として作用するものであり、その含有量が(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に対して、0.01〜0.05重量部である。(D)ハイドロタルサイトが0.08重量部以上であると変色し易く、0.02重量部以下であると金型腐食の可能性がある。
【0029】
なお、本発明に係る薬液充填用容器においては、(C)ステアリン酸カルシウム、または、(D)ハイドロタルサイトが添加されている。ただし、世界的に安定的な供給を図るためには、(C)ステアリン酸カルシウムを添加することが望ましいと言える。また、実施例でも説明するが、(C)ステアリン酸カルシウムを添加した方が、耐圧性に優れたものとなる。
【0030】
本発明に係る薬液充填用容器においては必要に応じて、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤や(F)リン系加工熱安定剤を安定剤として添加することができる。なお、好ましくは、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び(F)リン系加工熱安定剤の双方を併用する。それは、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤はR−○○・のラジカルを、(F)リン系加工熱安定剤はR−○・のラジカルを、それぞれ補足し、効果的な酸化防止作用を果たすことになるからである。また、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び(F)リン系加工熱安定剤の双方を同時に使用することで、相乗効果を発揮し、単独で使う場合(一方を添加せずに他の化合物と一緒に使う場合)よりも少ない添加量で同等の効果を発揮するからである。また、たとえば帯電防止剤やスリップ剤、脂肪酸金属塩等の分散剤、高密度ポリエチレン、オレフィン系エラストマー等を本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。
【0031】
(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤
本発明に係る薬液充填用容器に必要に応じて添加される(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、従来から知られているものを用いればよい。たとえば、IRGANOX(登録商標)1010(チバ・ジャパン株式会社製)等を使用することができる。(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量は、(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に対して、0.03〜0.05重量部である。
【0032】
(F)リン系加工熱安定剤
本発明に係る薬液充填用容器に必要に応じて添加される(F)リン系加工熱安定剤としては、従来から知られているものを用いればよい。たとえば、IRGAFOS168(商品名:チバ・ジャパン株式会社)等を使用することができる。(F)リン系加工熱安定剤の含有量は、(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に対して、0.04〜0.06重量部である。
【0033】
以上説明した(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂、(B)環状有機リン酸エステル金属塩、(C)ステアリン酸カルシウム又は(D)ハイドロタルサイト、必要に応じて他の添加剤(たとえば(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、(F)リン系加工熱安定剤等)を混合する。これらは、たとえばヘンシェルミキサーやスーパーミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダー等の装置を用いて混合すればよい。それから、たとえば単軸押出機や多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、プラベンダー、ロール等の装置を用いて溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物が得られる。
【0034】
このポリオレフィン樹脂組成物を、公知の射出成形機により射出成形することで本発明に係る薬液充填用容器が得られる。上記のような含有割合で得たポリオレフィン樹脂組成物は、各成分及び添加剤が均一に分散混合されているので、高品質である。したがって、本発明に係る薬液充填用容器も高品質なものとなる。つまり、本発明に係る薬液充填用容器は、各成分(特に造核剤となる(B)環状有機リン酸エステル金属塩)を最適な割合で含有したので、透明性及び耐圧性を特に向上させることが可能になって衛生性及び耐熱性と併せた特性をバランスよく向上させたものになっている。また、耐圧性を向上できるので、壁厚を薄くすることができることになる。したがって、壁厚を薄くすることができれば、更に透明性に寄与することになる。
【0035】
本発明に係る薬液充填用容器は、合格基準の厳しい第15改正 日本薬局方 一般試験 45.プラスチック製医薬品容器試験法 1.ポリエチレン製又はポリプロピレン製水性注射剤容器の試験項目の全部を満たしているので、たとえば尿路や血管、CT撮影用の造影剤等の薬液を充填するために使用されるシリンジやバイアル等に好適である。また、本発明に係る薬液充填用容器を用いた薬液充填製剤は、薬液を予め充填しておくプレフィルドシリンジに好適である。プレフィルドシリンジとは、治療や診断に必要な薬液が予め充填されている滅菌済みのシリンジ形状の製剤である。
【0036】
本発明に係る薬液充填製剤は、本発明に係る薬液充填用容器を用いたもの、つまり本発明に係る薬液充填用容器に造影剤等の薬液を充填したものである。本発明に係る薬液充填製剤は、本発明に係る薬液充填用容器に薬液を充填して密封した後、オートクレーブ装置等を用いて121℃で60分間高圧蒸気滅菌する。したがって、本発明に係る薬液充填製剤は、透明性及び耐圧性を特に向上させることが可能になって衛生性及び耐熱性と併せた特性をバランスよく向上させたものになっている。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するものとする。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた物性の測定法、評価法、及び、原料は、以下の通りである。
【0038】
[試験方法の概要]
1.試料
最初の試験(MFI)以外は、実際の製品(本発明に係る薬液充填用容器、以下単にシリンジと称する)を試料として評価を行なった。また、シリンジには各種サイズがあるが、代表的な容量100mL(内径32mm、外径35mm(壁厚1.5mm)、全長168mm)のものを使用した。さらに、シリンジの先端の継ぎ手は、ISO594−2に規定される標準的な固定式ルアー・ロック・タイプのものを使用した。なお、射出成形された実際のシリンジにイオベルソール造影剤を充填し、121℃×45分の高圧蒸気滅菌を施したもの(本発明に係る薬液充填製剤、以下単にプレフィルドシリンジと称する)を試料として使用した。
【0039】
試料の構成パーツとしては、シリンジ本体のみならず、針や延長チューブを繋ぐ先端部(ルアー・チップ)を覆うキャップと、内容液を排出するための摺動ゴム栓(栓子)と、その摺動ゴム栓を押すプランジャー(押子)と、が必要になる。薬液を滅菌する際には、薬液がこぼれないように、あるいは、蒸気がシリンジ本体内に侵入しないように、キャップと摺動ゴム栓が必要になる。したがって、これらの部品には121℃の高圧蒸気滅菌に耐え得るハロゲン化(塩化)ブチルゴム(JISゴム硬度で50〜65度が適切)が用いられる。これらの部品の形状の賦形は、一般的には圧縮成形によって行なわれる。プランジャーには耐熱性が求められないので、通常のPP樹脂、アセタール樹脂、ナイロン樹脂等の熱可塑性樹脂が原料として用いられる。プランジャーの形状の賦形は、射出成形によって行なわれる。
【0040】
イオベルソールとは、トリヨードベンゼン誘導体で、そのベンゼン環の1、3及び5位の側鎖に多くの水酸基を導入して親水性を高めた非イオン性造影剤である。主成分の構成元素であるヨウ素は、X線吸収能が高いという性質を持っている。この性質によって、イオベルソールの存在部位と他の生体組織との間にX線画像上のコントラストを生じさせることができる。なお、造影剤は、画像診断の際に画像にコントラストを付けたり、特定の組織を強調したりして撮影するために投与されるものである。
【0041】
2.試験項目
(1)メルトフローインデックス(MFI)
上述したように、メルトフローインデックスは、加熱溶融された樹脂の金型内での流れ易さを示す指標である。ASTM−D1238、230℃、2.16kg荷重に準拠して測定した。
【0042】
(2)ヘイズ
ヘイズ値の測定には積分球式の紫外可視分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製のUV−VIS spectrophotometer,Model Lambda 40)を使用した。試験片は、厚さ1.4mmのシリンジの円筒壁から幅10mm、長さ40mmの試料を切り出して試験に供した。試験方法は、試料を蒸留水を満たした10mm角のセルに沈め、波長450nmの光線を照射し、試料を透過した光量(散乱光を含む)を計測するといった自社規格による。なお、ヘイズとは、透明プラスチックの内部又は表面の不明瞭なくもり様の外観の度合いを意味している。
【0043】
(3)光線透過率
光線透過率の測定には、ヘイズ値の測定と同様に積分球式の紫外可視分光光度計(株式会社パーキンエルマージャパン製のUV−VIS spectrophotometer,Model Lambda 40)を使用した。試験片は、厚さ1.4mmのシリンジの円筒壁から幅10mm、長さ40mmの試料を切り出して試験に供した。試験は、試料を蒸留水を満たした10mm角のセルに沈め、波長450nmの光線を照射し、試料を透過した光量を計測することによって行なった。
【0044】
「第15改正 日本薬局方 一般試験 45.プラスチック製医薬品容器試験法」に規定されている透明性試験方法は、平行光線のみを計測するようになっている。この試験方法は、軟質PVC(ポリ塩化ビニル)等の非晶質の樹脂には適用できるが、本発明に係る薬液充填用容器のように材料の樹脂中に多数の結晶を生成させるものについては結晶による透過光の散乱や干渉を生じるため適切であるとはいえない。そこで、本実施例では、試料を透過した光線の全てを採取し、その光量を計測できる積分球を用いた光線透過率を測定することにした。なお、平行光線透過率の測定結果(株式会社島津製作所製の紫外可視分光光度計 UVmini(登録商標)1240を使用)については省略する。
【0045】
(4)曲げ弾性率
曲げ弾性率は、ASTM−D−790に準拠して測定した。試験片は、成形機(株式会社名機製作所製のM70C、樹脂温度220℃、金型温度40℃、JIS平板D2金型)を使用して成形した。
【0046】
(5)ルアー部の耐トルク性
シリンジに延長チューブを連結するためには、チューブ近位端にある三方活栓をシリンジのルアー・ロック部にねじ込む。プレフィルドシリンジは、注入装置(インジェクター)により高圧(概ね3〜10kgf/cm2 の圧力)で薬液を注入することを想定し、接続部からのリークを嫌い、強く締め込んで注入装置に装着する。この際、シリンジ側のルアー・ロック部が割れたり、ネジ山が削ぎ落とされたり、することが発生し易い。したがって、これに対する耐久性(ルアー部の耐トルク性)がどの程度あるかが極めて重要な要素となる。
【0047】
代表的な三方活栓としては、テルモ株式会社製の「テルフュージョン(登録商標)延長チューブ付三方活栓(型番TS−WR0525L)」を使用した。そして、この三方活栓を用いてルアー部の耐トルク性を測定・評価することにした。トルクの測定方法は、シリンジをトルクメーターに固定し、三方活栓を18rpmの速度でねじ込み、三方活栓あるいはシリンジが損壊したときのトルク値を読み取ることによって行なった。トルクの測定に使用した機器には、株式会社東日製作所製のデジタル・トルク・メーター(2TME450CN型)を使用した。
【0048】
(6)耐圧性
シリンジをインジェクター(たとえば、株式会社根本杏林堂から提供されているインジェクター(DUAL SHOT(登録商標))に装着し、上記の延長チューブを繋ぎ、更にその先端にテルモ株式会社の23G金属製注射針を装着する。耐圧性は、毎分2.5mLの注入量で注入を行なった際、シリンジが膨張変形して後端より薬液の漏出を見たり、シリンジのフランジ部や筒胴部に破損が生じたりしたかどうかを確認することによって測定した。そして、注入行程における最高表示圧力を記録するようにした。なお、psi単位は、1psi=0.0703kgf/cm2 である。
【0049】
3.実施例1〜実施例3
(1)実施例1
(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)100重量部に対して、造核剤として(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)が0.15重量部、中和剤として(C)ステアリン酸カルシウムが0.05重量部、安定剤として(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGANOX(登録商標)1010)が0.04重量部、安定剤として(F)リン系加工熱安定剤(IRGAFOS168)が0.05重量部の割合で含有されたものを用い、上記試験を行ない、その結果を表1に示している。
【0050】
なお、PPランダムコポリマーとしては、米国ハンツマン・コーポレーション製のエチレン−プロピレン共重合体樹脂(ASTM−D1238、230℃、2.16kg荷重に準拠して測定したMFIが約25g/10分)でエチレン分が1%あるいは2%のものを使用した。
【0051】
(2)実施例2
(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)100重量部に対して、造核剤として(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)が0.175重量部、中和剤として(C)ステアリン酸カルシウムが0.05重量部、安定剤として(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGANOX(登録商標)1010)が0.04重量部、安定剤として(F)リン系加工熱安定剤(IRGAFOS168)が0.05重量部の割合で含有されたものを用い、上記試験を行ない、その結果を表1に示している。
【0052】
(3)実施例3
(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)100重量部に対して、造核剤として(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)が0.2重量部、中和剤として(C)ステアリン酸カルシウムが0.05重量部、安定剤として(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGANOX(登録商標)1010)が0.04重量部、安定剤として(F)リン系加工熱安定剤(IRGAFOS168)が0.05重量部の割合で含有されたものを用い、上記試験を行ない、その結果を表1に示している。
【0053】
4.比較例1〜比較例7
(1)比較例1
造核剤として添加する(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)をエチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)100重量部に対して0.10重量部、それ以外を実施例1〜実施例3と同様として上記試験を行ない、その結果を表1に実施例1〜実施例3と併せて示している。
【0054】
(2)比較例2
造核剤として添加する(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)をエチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)100重量部に対して0.30重量部、それ以外を実施例1〜実施例3と同様として上記試験を行ない、その結果を表1に実施例1〜実施例3と併せて示している。
【0055】
(3)比較例3
造核剤として添加する(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)をエチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 2%)100重量部に対して0.15重量部、それ以外を実施例1〜実施例3と同様として上記試験を行ない、その結果を表1に実施例1〜実施例3と併せて示している。
【0056】
(4)比較例4
造核剤として添加する(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)をエチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 2%)100重量部に対して0.20重量部、それ以外を実施例1〜実施例3と同様として上記試験を行ない、その結果を表1に実施例1〜実施例3と併せて示している。
【0057】
(5)比較例5
造核剤として添加する(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)をエチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 2%)100重量部に対して0.30重量部、それ以外を実施例1〜実施例3と同様として上記試験を行ない、その結果を表1に実施例1〜実施例3と併せて示している。
【0058】
(6)比較例6
(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)100重量部に対して、造核剤として環状有機リン酸エステル金属塩(NA−11)が0.2重量部、中和剤として(C)ステアリン酸カルシウムが0.05重量部、安定剤として(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGANOX(登録商標)1010)が0.03重量部、安定剤として(F)リン系加工熱安定剤(IRGAFOS168)が0.06重量部の割合で含有されたものを用い、上記試験を行ない、その結果を表1に実施例1〜実施例3と併せて示している。
【0059】
(7)比較例7
(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)100重量部に対して、造核剤として(B)環状有機リン酸エステル金属塩(NA−21)が0.2重量部、中和剤として(D)ハイドロタルサイトが0.02重量部、安定剤として(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(IRGANOX(登録商標)1010)が0.04重量部、安定剤として(F)リン系加工熱安定剤(IRGAFOS168)が0.05重量部の割合で含有されたものを用い、上記試験を行ない、その結果を表1に実施例1〜実施例3と併せて示している。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示した物性測定結果から以下のことが明らかになった。
(1)比較例3〜5のもの(エチレン分が2%のもの)は、耐圧性が114〜166psiと低く、高圧注入には耐えられない。すなわち、比較例3〜5のものは、注入装置に装着し高圧注入を行なう造影剤プレフィルドシリンジとして採用することは不適である。
(2)比較例6のもの(NA−11を添加したもの)は、透明性が58−61%と低く、更に耐圧性試験ではフランジが破損してしまう(3個/5個中)等、材質が脆い。すなわち、比較例6のものは、シリンジとして採用することは不適である。
(3)上記(1)及び(2)から、(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂(PPランダムコポリマー エチレン分 1%)にNA−21を添加することが望ましいことがわかった(実施例1〜実施例3、比較例1、比較例2、比較例7)。
【0062】
(4)比較例1のもの(NA−21の添加量が0.10重量部のもの)は、透明性が65−67%と低い。したがって、比較例1のものは、注入装置に装着し高圧注入を行なうために厚い筒壁を求められる造影剤プレフィルドシリンジとして採用することは不適である。
(5)比較例2のもの(NA−21の添加量が0.30重量部のもの)は、透明性が70−74%と向上するものの、耐圧試験ではフランジが破損してしまう(4個/5個中)。したがって、比較例2のものは、材質が脆くなり、注入装置に装着し高圧注入を行なう造影剤プレフィルドシリンジとして採用することは不適である。
(6)上記(4)及び(5)から透明性と強度とのバランスがとれるNA−21の最適な添加量の範囲は、0.15〜0.175〜0.20重量部であることがわかった。
【0063】
(7)比較例7は、実施例3とほぼ同様で、ステアリン酸カルシウム0.05重量部の代わりにハイドロタルサイト0.02重量部を添加したものである。比較例7のものは、透明性が若干向上したものの、曲げ弾性率、ルアー部耐トルク性、耐圧性が多少低下した。これは、成形された樹脂の剛性が低下し、柔らかくなったためと考えられる。これは、高い耐圧性が要求されるプレフィルドシリンジには採用できないが、高い耐圧性が要求されない通常の製剤(たとえば、医師が手で注入するもの)には有用であると判断できる。
【0064】
以上のように、本発明に係る薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤は、衛生性、耐熱性、透明性及び耐圧性に優れているものである。つまり、本発明に係る薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤は、121℃で60分高圧蒸気滅菌した後でも透明性が大幅に低下をすることなく、滅菌による変形もなく、高い物性バランスと衛生性を備えたものである。したがって、本発明の薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤は、耐圧性(剛性及びルアー部耐トルク性)及び透明性がよく、非常に有用なものである。
【0065】
特に、本発明に係る薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤は、高圧蒸気滅菌処理される場合においても透明性及び耐圧性に優れたものになっている。プレフィルドシリンジのような薬液充填製剤は、薬液が予め充填され、密封された後に高圧蒸気滅菌が施されるようになっているが、高温・高圧の飽和水蒸気への曝露に耐えることができ、透明性が高く、注入装置を用いての高圧注入でも破壊されない強靭さを持つ安全性が高いものになっている。また、本発明に係る薬液充填用容器及びそれを用いた薬液充填製剤によれば、ポリ環状オレフィン樹脂製のシリンジやガラス製のシリンジを製造する場合に比べ、製造コストを約20分の1に低減できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液が充填される薬液充填用容器であって、
エチレン分0.5%〜1.2%を含む(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に、
0.15〜0.20重量部の(B)環状有機リン酸エステル金属塩と、
0.04〜0.06重量部の(C)ステアリン酸カルシウムと、を含むポリオレフィン樹脂組成物を成形して得られる
ことを特徴とする薬液充填用容器。
【請求項2】
薬液が充填される薬液充填用容器であって、
エチレン分0.5%〜1.2%を含む(A)エチレン−プロピレン共重合体樹脂100重量部に、
0.15〜0.20重量部の(B)環状有機リン酸エステル金属塩と、
0.01〜0.05重量部の(D)ハイドロタルサイトと、を含むポリオレフィン樹脂組成物を成形して得られる
ことを特徴とする薬液充填用容器。
【請求項3】
(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び(F)リン系加工熱安定剤のうち少なくとも1つを添加している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の薬液充填用容器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬液充填用容器に薬液が充填されている
ことを特徴とする薬液充填製剤。
【請求項5】
前記薬液充填用容器に薬液が充填され、密封されてから高圧蒸気滅菌が施される
ことを特徴とする請求項4に記載の薬液充填製剤。
【請求項6】
前記薬液充填用容器に充填する薬液が造影剤である
ことを特徴とする請求項4または5に記載の薬液充填製剤。

【公開番号】特開2011−21048(P2011−21048A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164463(P2009−164463)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(502025521)コヴィディエンジャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】