説明

薬液容器

【課題】簡単な操作で製剤を速やかに溶解して所定の均一な濃度の薬液に調整することができる上、最少の部品点数で全体構造が簡単な薬液容器を提供する。
【解決手段】溶解液Wを収納する容器10と、容器の口部に装着し、製剤Tを収納する内筒20と、内筒に挿入し、先端に注出口33を有する中栓30と、容器の口部に装着するねじ式のキャップ40とを備えてなり、内筒20は、容器の口部に固定する大径部21と、第1の薄肉部24を介して大径部の下端に連接する小径部22と、第2の薄肉部を介して小径部の下端を閉じる脚23b付きの底部材23とを有し、キャップ40を締め込むと、中栓30を介して小径部22が押し下げられて第1の薄肉部24が破断し、キャップをさらに締め込むと、脚23bが容器10の底部に到達し、第2の薄肉部が破断して小径部22の下端を開口させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、錠剤や粉末剤の用時溶解形の製剤と、その溶解液とを分離して収納し、使用時に簡単な操作により製剤を溶解し、薬液として使用することができる薬液容器に関する。
【背景技術】
【0002】
用時溶解形の製剤と、その溶解液とを個別に分離して収納し、使用時に製剤を溶解させる薬液容器が知られている(特許文献1)。
【0003】
従来の薬液容器は、注出口を有し、固体の製剤を収納するカバー体と、上部材と下部材とをねじ連結する中筒と、中筒の下部材に連結し、溶解液を収納する容器とを直線状に連結し、中筒の上部材の上端部にプラグ付きの中栓を装着するとともに、注出口を封止するキャップを備えて構成されている。中筒の上部材、下部材を相対回転させて両者の長さを短縮すると、下部材の上端に上向きに設ける押上げ部材を介して上部材側のプラグを突き上げ、プラグに設ける連通孔を開口させることにより容器側の溶解液をカバー体に流入させ、カバー体内の製剤を溶解させて注出口から滴下させて使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−83514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、容器内の溶解液は、プラグに開口される連通孔だけを通ってカバー体に流入するため、製剤の溶解が速やかに進行せず、所定の均一な濃度の薬液に調整し難い上、部品点数が多く、全体構造が複雑であるなどの問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、第1、第2の薄肉部を介して中間部と下端とを順に破断する内筒を用いることによって、簡単な操作で製剤を速やかに溶解して所定の均一な濃度の薬液に調整することができる上、最少の部品点数で全体構造が簡単な薬液容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、溶解液を収納する容器と、容器の口部に装着し、製剤を収納する内筒と、内筒に挿入し、先端に注出口を有する中栓と、容器の口部に装着するねじ式のキャップとを備えてなり、内筒は、容器の口部に固定する大径部と、第1の薄肉部を介して大径部の下端に連接する小径部と、第2の薄肉部を介して小径部の下端を閉じる脚付きの底部材とを有し、キャップを締め込むと、中栓を介して小径部が押し下げられて第1の薄肉部が破断し、キャップをさらに締め込むと、脚が容器の底部に到達し、第2の薄肉部が破断して小径部の下端を開口させることをその要旨とする。
【0008】
なお、第1の薄肉部は、大径部、小径部の共通の軸心に対して斜めに配置することができる。
【0009】
また、中栓は、大径部を相対移動可能に貫通して小径部に到達する本体部と、本体部から下向きに延長し、小径部に挿入する延長部とを有してもよく、本体部から延長部にかけて下端開放のスリットを形成してもよい。
【0010】
さらに、底部材は、第2の薄肉部と薄肉のヒンジ部とを介して小径部の下端に付設してもよい。
【発明の効果】
【0011】
かかる発明の構成によるときは、容器の口部に装着し、製剤を収納する内筒は、中間の第1の薄肉部を介して連接する上下の大径部、小径部と、第2の薄肉部を介して小径部の下端を閉じる底部材とを有している。そこで、内筒は、キャップを締め込んで中栓を介して小径部を押し下げると、第1の薄肉部が破断し、大径部、小径部が分離して容器の上部が内筒の内部と連通し、さらにキャップを締め込むことにより底部材の脚が容器の底部に到達し、底部材が相対的に押し上げられて第2の薄肉部が破断し、容器の下部において小径部の下端が開口される。したがって、容器内の溶解液は、上下の開口部分を通して内筒内に容易に流入し、内筒内の製剤を速やかに溶解させて所定の均一な濃度の薬液に調製することができる。また、容器、内筒、中栓、キャップの各部材は、それぞれ適切なプラスチック材料により一体成形可能であって、全体構造も簡単である。
【0012】
なお、内筒に収納する固体の製剤は、錠剤または粉末剤のいずれであってもよく、内筒によって容器内の溶解液から完全に区分されているため、使用前に変質したりすることがなく、溶解前の溶解液だけが誤使用されるおそれもない。ただし、キャップの締込み時の所要回転操作角度は、リードが大きな多条ねじを採用することにより、たとえば1回転未満に設定することが好ましい。
【0013】
大径部、小径部を連接する第1の薄肉部は、軸心に対して斜めに配置することにより、破断する際の起点が1点に設定され、破断時に要する押圧力を小さくして良好な使用感を実現することができる。
【0014】
中栓は、内筒の大径部を貫通する本体部と、本体部に付設する下向きの延長部とを設けることにより、キャップを締め込むと、本体部が大径部にガイドされて正しく下向きに移動するとともに、延長部を介して小径部を拘束し、第1の薄肉部が破断して大径部から分離した小径部が容器内にフリーに浮遊することがない。なお、小径部が容器内に浮遊すると、つづいて小径部の下端を開口させることが困難である。
【0015】
中栓に形成する下端開放のスリットは、内筒の中間の第1の薄肉部が破断することにより内筒の内部と容器の内部とを大面積に連通させるとともに、容器内の液溜りを消失させ、容器内の残液を少なくすることに貢献する。
【0016】
底部材は、薄肉のヒンジ部を介して小径部の下端に付設することにより、第2の薄肉部が破断しても小径部から分離することがなく、容器内に浮遊して外観を害したり、不快な異音を発したりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】全体構成分解斜視図
【図2】全体組立縦断面図
【図3】内筒の構成説明図(1)
【図4】内筒の構成説明図(2)
【図5】中栓の構成説明図
【図6】図2相当の動作説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0019】
薬液容器は、容器10、内筒20、中栓30、キャップ40を備えてなる(図1、図2)。なお、図2には、内筒20に収納する錠剤の製剤T、容器10に収納する溶解液Wが併せて図示されている。
【0020】
容器10は、胴部11の上部に口部12を開口している。口部12の外周上部には、たとえば3条ねじの雄ねじ13が形成されており、口部12の外周下部には、環状リブ14が形成されている。口部12の上端部は、上向きの段部12aを介して薄肉に形成され、環状の係合リブ12bが薄肉部分の外周上端に形成されている。容器10は、たとえばPPのような適切な弾性を有する透明ないし半透明のプラスチック材料により一体成形されている。
【0021】
内筒20は、上下に連接する大径部21、小径部22と、小径部22の下端に付設する脚23b付きの底部材23とを有する(図1、図3)。ただし、図3(A)、(B)は、それぞれ内筒20の正面図、右側面図相当の縦半断面図である。
【0022】
大径部21の上端には、外フランジ21aが形成されている。外フランジ21aの外周縁には、下向きに垂下する短いスカート部21bが形成され、スカート部21bの内周下部には、環状の係合リブ21cが形成されている(図4(B))。スカート部21bには、容器10の口部12の上端の薄肉部分を嵌め込み、係合リブ12b、21cを上下に係合させて抜止めすることができる。ただし、図4(A)は、図3(A)のX矢視相当拡大底面図であり、図4(B)、(C)は、それぞれ図3(B)の要部拡大図である。
【0023】
大径部21、小径部22は、リング状の第1の薄肉部24を介して上下に同軸状に連接されている(図3、図4(C))。小径部22の外径は、大径部21の内径より小さく、第1の薄肉部24は、大径部21の下端、小径部22の上端をほぼ水平に連結するようにして、大径部21、小径部22の共通の軸心に対して傾き角θ>90°の斜めに配置されている(図3(A))。なお、小径部22の内周上部には、上向きの段部22aが形成され、小径部22は、段部22aの上方の内径が下方の内径より大きく形成されている。
【0024】
底部材23は、小径部22の下端に形成する台形状の底板23aに対し、横断面V字状の脚23bを垂設して形成されている(図3、図4(A))。なお、脚23bは、底板23aの頂点側に頂角を合わせるようにして、底板23aに対して偏心位置に垂設されている。
【0025】
底板23aの底辺側の一辺は、薄肉のヒンジ部23cに形成され、底板23aの底辺以外の各辺は、第2の薄肉部23dに形成されている。そこで、底板23aは、第2の薄肉部23d、薄肉のヒンジ部23cを介して小径部22の下端を閉じている。なお、小径部22の下端外周には、短い下向きの補助脚22b、22b…が軸対称に円形に配列されている。また、脚23bの下端は、ヒンジ部23c側に突出する下面が斜面23e、23eに形成されている。
【0026】
中栓30は、円筒状の本体部31の上端に外フランジ32を介して注出口33用のノズル筒33aを突設し、本体部31の下端に延長部34を同軸状に設けて形成されている(図1、図5)。ただし、図5(A)、(B)は、それぞれ中栓30の正面図、右側面図相当の縦半断面図である。
【0027】
本体部31の上部外径は、下向きの段部31aを介し、段部31aの下の外径より僅かに大径に形成されている。また、本体部31の中間部から延長部34にかけて、下端開放のスリット35、35が軸対称に形成されている。延長部34の外径は、本体部31の外径より小さいが、延長部34の内径は、本体部31の内径と同一である。なお、本体部31、延長部34の下端外周縁は、それぞれ斜めに面取りされている。
【0028】
キャップ40の外周には、滑り止め用のローレット41、41…が形成されている(図1、図2)。キャップ40の内周には、容器10側の雄ねじ13に適合するたとえば3条ねじの雌ねじ42が形成されている。また、キャップ40の天面には、中栓30の注出口33を封止するシール部43が形成され、注出口33用のノズル筒33aを収納するスカート44が垂設されている。
【0029】
内筒20は、たとえば透明ないし半透明のLDPEにより一体成形されている。中栓30、キャップ40は、それぞれHDPEまたはPPのような硬質プラスチック材料により一体成形されている。
【0030】
内筒20は、大径部21を容器10の口部12に挿入し、上端のスカート部21bに口部12の上端の薄肉部分を収納して係合リブ21c、12bを係合させ、大径部21を口部12に固定して口部12に装着されている(図2、図4(B))。すなわち、大径部21の外径は、口部12の内径に適合し、大径部21の長さは、口部12の長さより短い。また、このとき、容器10内に垂下する小径部22の下端の脚23bは、容器10の底部に対し、余裕隙間dを残して対峙している。
【0031】
一方、中栓30は、本体部31の段部31aから下の部分を内筒20の大径部21に挿入し、延長部34を小径部22の上部に挿入するようにして内筒20と一体に組み立てる。なお、このとき、本体部31の下端は、小径部22の斜めの上端の1点に当接し、延長部34の下端は、小径部22の内周の段部22aの直近に到達する。また、本体部31の段部31aから下の部分は、大径部21とほぼ同長であって大径部21に対して相対移動可能であり、段部31aから上の部分は、大径部21に対して圧入可能である。
【0032】
なお、中栓30を内筒20と組み合わせるに先き立って内筒20内に製剤Tを収納し、内筒20を容器10の口部12に装着するに先き立って容器10に溶解液Wを収納する。そこで、図2のように、溶解液W入りの容器10と、製剤T入りの内筒20、中栓30とを一体に組み立てると、キャップ40を容器10の口部12に装着して注出口33を封止し、全体をたとえば図示しないシュリンクフィルムで包装して保存する。
【0033】
製剤Tを溶解させて使用するときは、全体の包装を開封した上、キャップ40を締め込み、中栓30の本体部31の段部31aから上の部分を内筒20の大径部21に圧入する(図6(A)の矢印K1 、K2 方向)。このとき、キャップ40は、天面のシール部43を介して中栓30のノズル筒33aの先端を押圧するが、スカート44の下端により外フランジ32の上面を併せて押圧してもよい。一方、このようにしてキャップ40により中栓30が押し下げられると、中栓30の本体部31を介して内筒20の小径部22が下向きに駆動され、大径部21、小径部22の間の第1の薄肉部24が破断し、小径部22の下端の脚23bが容器10の底部に到達する(図6(A))。
【0034】
そこで、キャップ40をさらに締め込み、中栓30の外フランジ32の下面が大径部21の上端の外フランジ21aの上面に当接するまで中栓30を押し下げると、小径部22の下端の第2の薄肉部23dが破断し、ヒンジ部23cを介して底板23aが小径部22内に斜めに押し上げられて小径部22の下端が開口する(図6(B))。また、このとき、小径部22は、大径部21から下方に離れ、大径部21、小径部22の間には、各スリット35に対応して大面積の開口部Pが形成される。
【0035】
すなわち、容器10の上部、下部において内筒20の内部、容器10の内部が連通するから、以後、全体を倒立させたり振ったりして容器10内の溶解液Wを内筒20内に流入させ、溶解液Wにより製剤Tを速やかに溶解させて薬液を調製することができる。製剤Tが完全に溶解したら、キャップ40を戻し方向に回転して口部12から取り外し、容器10の胴部11を手指でスクイズして注出口33から薬液を滴下させて使用する。なお、小径部22の下端の補助脚22b、22b…は、開口後の小径部22の下端が容器10の底部に密着してしまうことを防止する。また、補助脚22b、22b…は、開口後の小径部22が中栓30の延長部34から外れてしまうことを防止する。
【0036】
以上の説明において、下端に斜面23e、23eを有する脚23bは、底板23aに対する垂設位置が偏心位置であることと相俟って、容器10の底部に到達すると傾き易く、底板23aのまわりの第2の薄肉部23dを容易に破断する。ただし、脚23bは、図示の形状以外の形状に変形してよいものとする。
【0037】
また、薬液容器は、図2のように一体に組み立てると、図示しないストッパリングをキャップ40の下端と環状リブ14との間に着脱自在に装着し、キャップ40を誤操作によって締め込んでしまう事故を防止することができる。なお、中栓30の段部31aは、図2の規定の待機位置にまで本体部31を大径部21に挿入することにより、所要押圧力が大きくなり、キャップ40の締込み方向の回転トルクが急激に大きくなるため、自動組立動作を実現し易いという利点がある。
【0038】
さらに、容器10、内筒20を透明ないし半透明にすることにより、内筒20の開口状況や製剤Tの溶解状況を外部から確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明は、用時溶解形の製剤Tを使用する点眼剤や、試薬、外用剤などの用途に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
T…製剤
W…溶解液
10…容器
12…口部
20…内筒
21…大径部
22…小径部
23…底部材
23b…脚
23c…ヒンジ部
23d…第2の薄肉部
24…第1の薄肉部
30…中栓
31…本体部
33…注出口
34…延長部
35…スリット
40…キャップ

特許出願人 伸晃化学株式会社

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解液を収納する容器と、該容器の口部に装着し、製剤を収納する内筒と、該内筒に挿入し、先端に注出口を有する中栓と、前記容器の口部に装着するねじ式のキャップとを備えてなり、前記内筒は、前記容器の口部に固定する大径部と、第1の薄肉部を介して前記大径部の下端に連接する小径部と、第2の薄肉部を介して前記小径部の下端を閉じる脚付きの底部材とを有し、前記キャップを締め込むと、前記中栓を介して前記小径部が押し下げられて前記第1の薄肉部が破断し、前記キャップをさらに締め込むと、前記脚が前記容器の底部に到達し、前記第2の薄肉部が破断して前記小径部の下端を開口させることを特徴とする薬液容器。
【請求項2】
前記第1の薄肉部は、前記大径部、小径部の共通の軸心に対して斜めに配置することを特徴とする請求項1記載の薬液容器。
【請求項3】
前記中栓は、前記大径部を相対移動可能に貫通して前記小径部に到達する本体部と、該本体部から下向きに延長し、前記小径部に挿入する延長部とを有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の薬液容器。
【請求項4】
前記中栓は、前記本体部から前記延長部にかけて下端開放のスリットを形成することを特徴とする請求項3記載の薬液容器。
【請求項5】
前記底部材は、前記第2の薄肉部と薄肉のヒンジ部とを介して前記小径部の下端に付設することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか記載の薬液容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−254802(P2012−254802A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128018(P2011−128018)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000190068)伸晃化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】