説明

薬液散布装置

【課題】 薬液タンクを搭載して噴射ノズルを取り付けた走行車両が傾いても、噴射ノズルの角度変化を補正して、少ない労力で常に同じ散布パターンで薬液を芝生に散布することができる薬液散布装置を提供すること。
【解決手段】 走行車両9に搭載された薬液タンク91と、この走行車両9に取り付けられ、上記走行車両9の走行方向を回動軸としてモータ3により回動して薬液の噴射方向の仰俯角が変化する噴射ノズル1と、モータ3の正転、停止、反転を制御して噴射ノズル1の仰俯角を変えるための手動切換スイッチ5とを具備するものである。また、ロータリーエンコーダ6および錘63を用いて、散布ノズル1の水平面または垂直面に対する角度αの変化を検知して補正するように構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフ場、公園、果樹園や道路において、走行しながら肥料や殺虫剤等の薬液を散布する薬剤散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自走車両に薬液タンクを搭載して走行しながら薬液を散布する際に、一定面積当たりの薬液の散布量が等しくなるように、走行速度に比例した量の薬液を散布ノズルから車両の側方へ吐出させるように構成した薬液散布車が下記特許文献1に開示されている。
【0003】
肥料、殺虫剤、殺菌剤等の薬剤を散布する場合に、散布に適するように希釈した低濃度の薬液を充填した薬液タンクおよび薬剤散布機をトラックなどの自走車両に搭載して、走行しながら薬液を散布する車両が下記特許文献2に開示されている。
【0004】
このように、自走車両には希釈した低濃度の大量の薬液を搭載しており、自走車両の重量が大きくなって芝生を傷めるので、リールに巻いたホースを予め搭載しておき、特に、グリーンに散布する場合には、薬液タンクからホースを引き出して人手により散布していた。このように太いホースを引き出し、重い散布器をもって散布する作業は重労働であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6−021768号公報
【特許文献2】特開平8−107748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような従来の薬液散布車においては、散布ノズルが設定状態で車両に固定されているので、車両が走行中に傾いたり横揺れすると、散布ノズルも傾いたり横揺れして散布パターンがが変化する。特にゴルフ場のグリーンや法面に散布する場合、薬液散布車が大きく傾いて片側の車輪に加重が集中する場合、あるいは、ぬかるんだ芝生地においては、人手により散布せざるを得なかった。
【0007】
そこで、この発明は、車両に取り付けた散布ノズルの仰俯角を調整できるように構成して、平坦面でも斜面でも走行しながら同じ散布パターンで薬液を散布するための薬液散布装置を提供するために考えられたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の薬剤散布装置は、走行車両に搭載された薬液タンクと、この上記走行車両に取り付けられ、上記走行車両の走行方向を回動軸としてモータにより回動して薬液の噴射方向の仰俯角が変化する噴射ノズルと、上記モータ3の正転、停止、反転を制御して上記噴射ノズルの仰俯角を変えるための手動切換スイッチとを具備するものである。
【0009】
この発明の薬剤散布装置の他の形態は、走行車両に搭載された薬液タンクと、上記走行車両に取り付けられ、上記走行車両の走行方向を回動軸としてモータにより回動して薬液の噴射方向の仰俯角が変化する噴射ノズルと、この噴射ノズルの水平面または垂直面に対する角度変化を検知するロータリーエンコーダと、このロータリーエンコーダから出力される計数値および回転方向を示す正負の出力に基づいて上記モータを制御する制御回路とを具備するものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明の薬剤散布装置によると、自走車両に取り付けた散布ノズルの仰俯角を走行中に調整できるので、自走車両が傾いても走行しながら同じ散布パターンで薬液を散布することができ、労働力を軽減できて、むらなく散布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】散布ノズルを取り付けた薬剤散布車の実施形態を示す後部の正面図、
【図2】薬剤散布車に取り付けた散布ノズルの実施形態を示す正面図、
【図3】散布ノズルの実施形態を示す平面図、
【図4】散布ノズルの車体に対する角度を変えるモータの制御回路の第1の実施形態を示す回路図。
【図5】散布ノズルの第2実施形態の要部を示す底面図、
【図6】第2の実施形態の制御回路を示すブロック図、
【図7】第2の実施形態の動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
この発明の薬剤散布装置は、図1の後部正面図に示すように、自走車両9に薬剤を入れる薬剤タンク91と、薬剤を加圧するポンプ92を搭載し、さらに、後端部に噴射角度を変えられる散布ノズル1を取り付けたものである。
【0013】
薬剤散布装置は、図2の正面図および図3の平面図に示すように、自走車両の後部に固定される架台2と、この架台2に取り付けられたモータ3と、このモータ3の出力軸に結合された1段目のウオーム歯車41と、この1段目のウオーム歯車41の出力軸に結合された2段目のウオーム歯車42と、この2段目のウオーム歯車42の出力軸44(図5参照)に固定された細長いノズル支持部材15と、このノズル支持部材15にUボルト16を用いて固定された散布ノズル1とにより構成される。
【0014】
架台2は、自走車両に取り付けられる第1の板材21と、この板材21に対して一端が垂直に植設されたパイプ24と、このパイプ24の中間に固定された第2の板材22と、パイプ24の他端に固定された第3の板材23とにより構成されている。
【0015】
1段目および2段目のウオーム歯車41、42を一体に組み立て、モータ3を組み付けてアッセンブリーとし、架台2の第2の板材22と第3の板材23とによって2段目のウオーム歯車42を支持させることにより、アッセンブリーを架台2に組み付ける。
【0016】
2段目のウオーム歯車42の出力軸に対して細長いノズル支持部材15を直交するように取り付ける。2段目のウオーム歯車42の出力軸44とノズル支持部材15との角度を調整したい場合には、角度調整部材45を介在させればよいのである。このノズル支持部材15には、細長い鉄板やチャンネルを使用する。
【0017】
そして、ノズル支持部材15にUボルト16を用いて散布ノズル1を固定する。この散布ノズル1には、平米当たりの散布量、散布幅などの散布パターンに合わせて複数個のスプレーガン11〜14が取り付けられている。
【0018】
先端のスプレーガン11は、薬剤を細く絞って最も遠く(例えば、25m)まで飛ばせるガンであり、2番目のスプレーガン12は中距離まで薬剤を飛ばせるガンであり、3番目および4番目のスプレーガン13、14は、薬剤を拡散させながら近くの部分に散布するガンである。
【0019】
自走車両の運転台には、加圧された薬剤を散布ノズル1へ供給する流路を開閉するバルブと、散布ノズル1の角度を変化させるモータ3の正転、停止、反転を制御するために、図4の制御回路図に示す手動スイッチ5設けられている。
【0020】
ゴルフ場の芝生の上を自走車両を走行させながら薬剤の散布を行う際に、自走車両が横揺れしたり傾くことがある。このような自走車両の横方向の傾きにより、散布ノズル1も連動して傾くので散布パターンが変化する。
【0021】
作業者は、自走車両を運転しながら、散布状態をみて、手動スイッチ5を操作する。この手動スイッチ5の操作によりモータ3を正転・停止・反転させて自走車両に対する散布ノズル1の角度を調整しながら薬剤を散布する。
【0022】
(第2の実施形態)
この第2の実施形態においては、自走車両自体の横揺れや傾きに基づく散布ノズル1の横揺れや傾きを逆方向に自動的に補正して、自走車両が横方向に傾いても、常に散布ノズル1を水平面または垂直軸を基準にして一定角度に保ちながら薬剤の散布を行わせるように構成したものである。
【0023】
モータおよび歯車のアッセンブリー部分を拡大した図5の底面図に示すように、予め設定した散布ノズル1の水平面または垂直軸に対する角度変化を検出するロータリーエンコーダ6の本体を、ノズル支持部材15またはノズル支持部材15と連動する2段目のウオーム歯車42の出力軸44に取り付ける。この2段目のウオーム歯車42の出力軸44とロータリーエンコーダ6の回転軸61とは平行になるように配置する。
【0024】
そして、ロータリーエンコーダ6の回転軸61に棒材62を介して錘63を垂下させる。この錘63が振り子のように不必要に揺れることを防止するためにダンパー(図示せず)を併設する。
【0025】
回転方向および回転角度を検知するために、このロータリーエンコーダ6には、位相が90°異なる2相のパルスを発生するものを使用する。
【0026】
図6のブロック図に制御回路7を示すように、ロータリーエンコーダ6から出力される2相のパルスが印加されるアップ・ダウン・カウンタ70を備え、このアップ・ダウン・カウンタ70には、計数値をゼロにリセットするリセット端子71と、計数値を出力する計数端子72と、計数値が正か負か示す正負出力端子73、74とを備えている。
【0027】
さらに、アップ・ダウン・カウンタ70の計数端子72から出力される計数値とメモリ回路83に格納されている基準値sとの大小を判別する比較回路81と、この比較回路81の出力が一方の入力端子にそれぞれ印加され、アップ・ダウン・カウンタ70の正出力73および負出力74がそれぞれ他方の入力端子に印加される2つのAND回路83、84と、この2つのAND回路83、84の出力によりモータ3を正回転または逆回転させる2つのリレー85、86を備えている。
【0028】
次に、このように構成された第2の実施形態の動作について説明する。
【0029】
ゴルフ場において自走車両を走行させながら芝生に薬剤を散布する際に、自走車両が横揺れしたり傾くと、自走車両に取り付けられた散布ノズル1およびロータリーエンコーダ6の本体も連動して傾き、散布パターンが変化するが、ロータリーエンコーダ6の回転軸61に垂下された錘63は、回転軸61の直下に存在して、棒材62は常に垂直である。
【0030】
そこで、作業者は、自走車両を運転しながら、手動スイッチを操作してモータ3を正転・停止・反転させて自走車両に対する散布ノズル1の角度を調整する。そして、散布状態が適切であると判断したときに、手動・自動切換スイッチを自動運転側に切り換える。
【0031】
このように、自動運転に切換えると、リセット・スイッチ71を開路する。このとき、図7に示すように、垂直面に対する散布ノズル1の角度αを基準角度として設定する。そして、アップ・ダウン・カウンタ70の計数値を0に固定していたリセット・スイッチ71が開路されることにより、この開路時からアップ・ダウン・カウンタ70が0から計数動作を開始する。
【0032】
散布中に自走車体が傾いて、散布ノズル1と錘63との角度が角度αより変化すると、その変化角度に対応するパルスが発生され、アップ・ダウン・カウンタ70で計数されて計数端子72より計数値Aが出力される。このとき、計数値Aが正(右周り)であるか負(左周り)であるかを示す正出力73または負出力74も発生する。
【0033】
散布ノズル1と錘63との角度変化が僅少である場合には、モータ3を作動させないように、アップ・ダウン・カウンタ70から出力される計数値Aとメモリ回路82に格納された基準値sとを比較回路81において比較し、アップ・ダウン・カウンタ70から出力される計数値Aが基準値sよりも大きくなると(A>s)、比較回路81から出力が発生する。
【0034】
比較回路81から出力が発生すると、その出力は2つのAND回路83、84の一方の入力端子に同時に印加される。しかし、2つのAND回路83、84の他方の入力端子には、正出力73または負出力74のいずれか1つの出力が印加される。
【0035】
散布ノズル1が右周りに傾いた場合には、正出力73が印加されているAND回路84が出力を発生して左回転用リレー86を動作させて、モータ3を左回転させる。モータ3が左回転して散布ノズル1を左周りに戻すと、アップ・ダウン・カウンタ70から出力される計数値Aが減少し、計数値Aが基準値sよりも小さくなると(A<s)、比較回路81の出力が停止して左回転用リレー86が不動作となってモータ3の左回転も停止する。
【0036】
これとは反対に、散布ノズル1が左周りに傾いた場合には、負出力74が印加されているAND回路85が出力を発生して右回転用リレー85を動作させて、モータ3を右回転させる。モータ3が右回転して散布ノズル1を右周りに戻すと、アップ・ダウン・カウンタ70から出力される計数値Aが減少し、計数値Aが基準値sよりも小さくなると(A<s)、比較回路81の出力が停止して右回転用リレー85が不動作となってモータ3の右回転も停止する。
【0037】
このように、自走車両が横向きに傾いても、図7に示すように、散布ノズル1は、常に垂直な棒材62に対して設定した角度αの姿勢を保つことができる。
【0038】
(その他の実施形態)
以上で説明した第2の実施形態においては、自走車両の傾きをロータリーエンコーダ6および回転軸61に垂下された錘63を用いて検知しているが、音叉ジャイロを用いても同様の動作を行わせることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 散布ノズル
11、12、13、14 スプレーガン
2 架台
21、22、23 板材
24 パイプ
3 モータ
41、42 ウオーム歯車
5 手動スイッチ
6 ロータリーエンコーダ
61 回転軸
62 棒材
63 錘
7 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車両に搭載された薬液タンクと、
上記走行車両に取り付けられ、上記走行車両の走行方向を回動軸としてモータにより回動して薬液の噴射方向の仰俯角が変化する噴射ノズルと、
上記モータ3の正転、停止、反転を制御して上記噴射ノズルの仰俯角を変えるための手動切換スイッチと、
を具備することを特徴とする薬液散布装置。
【請求項2】
走行車両に搭載された薬液タンクと、
上記走行車両に取り付けられ、上記走行車両の走行方向を回動軸としてモータにより回動して薬液の噴射方向の仰俯角が変化する噴射ノズルと、
該噴射ノズルの水平面または垂直面に対する角度変化を検知するロータリーエンコーダおよび錘と、
該ロータリーエンコーダから出力される計数値および回転方向を示す正負の出力に基づいて上記モータを制御する制御回路と、
を具備することを特徴とする薬液散布装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−100633(P2012−100633A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254340(P2010−254340)
【出願日】平成22年11月13日(2010.11.13)
【出願人】(591113747)イービーエス産興株式会社 (2)
【Fターム(参考)】