説明

薬液注入器、およびそれを備えた給水ユニット

【課題】除菌剤などの薬剤を、少ない濃度ムラで注入する薬液注入器、および給水ユニットを提供する。
【解決手段】薬液注入器は、送水管内の流量を検出する流量検出手段と、薬液を注入する注入ポンプと、流量に基づき注入ポンプを作動させる制御手段を備え、算出された注入ポンプの作動頻度が下限値以上であれば、算出された作動頻度で注入ポンプを作動させ、作動頻度が下限値未満であれば、予め定められた最低頻度で注入ポンプを作動させることとした。給水ユニットは、薬液注入器と、給水ポンプと、濾過装置などから構成されている。送水管には、薬液注入器の注入位置より下流に濾過装置を設け、薬液は、原水を除菌、および酸化させる薬液であることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、井戸水などに所定濃度の薬液を注入する薬液注入器、およびそれを備えた給水ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば井戸水を水道水として給水する給水ユニットにおいては、送水管に除菌器と濾過装置を備え、除菌器から所定量の除菌剤を送水管に注入して井戸水に含まれる雑菌等を処理するとともに、井戸水に含まれる不純物を濾過装置で濾過している。
【0003】
除菌器は、除菌剤を貯留する貯留槽と、貯留槽から除菌剤を送水管内に注入させる注入ポンプなどから構成されている。注入ポンプとしては、ダイヤフラムをソレノイドで駆動させるソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプが、小型で、除菌器などに組み込み易く、少量の液体を正確に注入させるのに適している点などから広く使用されている。
【0004】
濾過装置は内部に、例えばセラミック製濾過砂や除マンガン濾過材を備え、井戸水中に含まれる浮遊分や除菌剤により不水溶化した鉄分をセラミック製濾過砂で濾過したり、マンガンイオン分を除マンガン濾過材に吸着させたりしている。
【0005】
給水ユニットは、送水管に流量検出装置を設けて送水管の流量を検出し、検出した井戸水の流量に基づき除菌剤が所定濃度となるよう、除菌剤の注入量、すなわちダイヤフラムポンプの単位時間当たりの作動回数を算出して除菌器を作動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−299868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら給水ユニットは、除菌剤を井戸水の流量に比例して注入しているため、井戸水の流量が低下すると、除菌剤の注入量も減少し、注入ポンプの時間当たりの作動回数(作動頻度)も低下する。ソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプは、除菌剤を注入する時間が非常に短かいので、作動頻度が低下すると、除菌剤を注入する間隔が広くなり、除菌剤の濃度にムラが生じてしまうおそれがある。
【0008】
これに対して注入ポンプの駆動源にリニアモータなどを用い、時間をかけて薬剤を注入する方法も知られているが、かかる注入装置は、リニアモータにコストがかかり、制御機構が複雑になるという問題があった。
【0009】
一方、注入ポンプのダイヤフラム径を小さくしたり、ダイヤフラムのストローク長を短くするなどして1ストローク当たりの注入量を少なくすれば、少ない注入量でも作動頻度を大きくでき、除菌剤の注入間隔を短くできる。ところが1ストロークの注入量を少なくすると、ポンプ自体の最大注入量が低下し、多量の薬剤を注入する場合に対応できなくなるという問題が生じていた。
【0010】
更にダイヤフラムポンプは、パラメータを変更するなどにより制御装置での作動を早めることは容易であるが、ボール一方向弁では、重力落下式のボールが高速動作に機械的に追従しなくなり、ソレノイドの作動回数を任意に増大させることができなかった。
【0011】
本発明は、上記課題を解決し、ソレノイド駆動式のダイヤフラムポンプを用い、注入量が少ない場合においても、薬液の濃度ムラを少なくした給水ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、薬液注入器、および給水ユニットを次のように構成した。
【0013】
薬液注入器は、送水管内の流量を検出する流量検出手段と、送水管に薬液を注入する注入ポンプと、流量検出手段の検出結果に基づき注入ポンプを作動させる制御手段を備え、制御手段により、送水管内の流量から算出した前記注入ポンプの作動頻度が下限値以上であれば、算出された作動頻度で注入ポンプが作動し、作動頻度が下限値未満であれば、予め定められた最低頻度で注入ポンプが作動するように構成した。
【0014】
給水ユニットは、薬液注入器と、井戸水など原水を送水する給水ポンプと、濾過装置などから構成されている。送水管には、薬液注入器が薬液を送水管内に注入させる位置より下流に濾過装置が設けてあり、薬液は、原水を除菌、および酸化させる除菌剤であることとした。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる除菌器、および給水ユニットは、次の効果を有する。
【0016】
原水の流量が少なく、算出された注入ポンプの作動頻度が低いときには、予め定められた最低ストローク数で注入ポンプが作動するので、除菌剤などの薬液が所定の時間間隔で原水に注入される。したがって、薬剤が注入されない無注入時間帯を最低限に設定でき、薬剤が含まれない井戸水などを、水道水として供給してしまうことを極力防止できる。
【0017】
一方、最低ストローク数で注入ポンプを作動させることにより、注入液濃度が高まるが、濃度が高くなることは、例えば除菌剤などの薬剤が含有されない状態の井戸水を供給することに比較して好ましい。また薬剤として次亜塩素酸ナトリウムを用いた場合、除菌とともに鉄イオンを酸化し鉄分を濾過材で濾過できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である給水ユニットを示す構成図である。
【図2】同給水ユニットに用いられる注入ポンプを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明にかかる給水ユニットについて説明する。
【0020】
図1に、給水ユニット10を示す。給水ユニット10は、給水ポンプ12と、送水管14と、薬液注入器としての除菌器16と、濾過装置18と、制御装置20などから構成されている。
【0021】
給水ポンプ12は、制御装置20からの指示信号に従って作動し、井戸水を吸水し、吸水した井戸水を送水管14内に送水する。
【0022】
送水管14には、圧力センサ22と、流量センサ24が取り付けてあり、信号線23、25を介して制御装置20に接続している。圧力センサ22は、送水管14内の圧力を検出し、また流量センサ24は、送水管14内を流れている流量を検出し、それぞれ検出結果を信号線23、25を介して制御装置20に送出する。
【0023】
濾過装置18は、セラミック製の濾過材や除マンガン用の濾過材(いずれも図示せず。)などを内装し、流量センサ24の下流に設けられている。セラミック製の濾過材は、井戸水中の浮遊物を濾過するとともに除菌器16から注入された次亜塩素酸ナトリウムにより酸化された鉄イオンを第二水酸化鉄の形で濾過する。また除マンガン用の濾過材は、マンガン成分を表面に凝着させる。
【0024】
除菌器16は、注入ポンプ30と、薬剤としての除菌剤を貯留する貯留槽32と、電源装置34などから構成されている。注入ポンプ30の一例を、図2に示す。注入ポンプ30は、ケース本体36と、ソレノイド38と、プランジャ40と、ダイヤフラム42などから構成されている。以下基本的に、ソレノイド38側から見て、ダイヤフラム42側を前方とし、その逆を後方として説明する。図2は、ダイヤフラム42が後退している状態である。尚、注入ポンプとしては、これに限るものではなく、他の構成のポンプでもよい。
【0025】
ケース本体36は、円筒状で、金属材料、あるいは樹脂材などから形成されている。ケース本体36の内部には、ソレノイド38が固定されている。ケース本体36の後方には、裏蓋44が固定されている。ケース本体36の前方には、ポンプ本体46が液密に取り付けられている。
【0026】
ソレノイド38は円筒状のコイルで、中心にはプランジャ40が前後方向に沿って移動自在に設けられている。ソレノイド38の入力端子(図示せず。)には、制御装置20からの電力線39が接続している。
【0027】
プランジャ40は、ソレノイド38の中心に設けられた孔48内に摺動自在に設けられている。プランジャ40は、所定位置まで前進すると、ソレノイド38の後面50に当接し前進動作が停止される。
【0028】
またソレノイド38には、戻しばね52が設けてあり、プランジャ40を所定のばね力で後方に付勢している。プランジャ40は、後退すると、調整ねじ54の前端に当接し、その時点で後退動作が停止される。調整ねじ54は、裏蓋44に対して回転させることにより、前端を任意の位置に設定できる。
【0029】
ダイヤフラム42は、弾性材料からなる板状部材で、ポンプ本体46に形成された圧送室56に臨ませて取り付けられている。ダイヤフラム42は、中心部分が軸58の先端に組み付けられ、外周部分がケース本体36の前端縁とポンプ本体46との間に液密に固定されている。ダイヤフラム42の形状、材質は特に問わない。
【0030】
ポンプ本体46は、圧送室56がほぼ中央に形成してあり、圧送室56の下方に流入口60が、上方に流出口62が設けられている。流入口60には流入用一方向ボール弁64が、また流出口62には流出用一方向ボール弁66がそれぞれ設けられている。
【0031】
流入口60には、貯留槽32(図1参照。)からの吸引管70が連結している。また流出口62には、注入管72が連結している。注入管72の他端は、送水管14(図1参照。)の混入部74に延びている。混入部74は、注入管72から送られてきた除菌剤を、送水管14内を流れる井戸水内に流出し混入させる。混入部74の下流側は、濾過装置18を介して、家庭用の蛇口などに接続されている。
【0032】
次に、制御装置20について説明する。
【0033】
制御装置20には、図1に示すように記憶装置76と、入力装置78と、表示装置80と、電源装置34などが接続されている。記憶装置76には、注入ポンプ30が1回のストローク動作で注入する除菌剤の量は、予め定められている。尚、1ストロークあたりの注入量は、圧力センサ22からの送水圧力に応じて適宜修正してもよい。
【0034】
記憶装置76には、予め各種設定条件、設定値テーブル等が記憶されている。また記憶装置76には、入力装置78から入力された、井戸水における除菌剤(主成分)の設定濃度、除菌剤に含まれる主成分の濃度、最低ストローク数等が記憶されている。記憶装置76は、制御装置20からの指示に従い各種情報を記憶するとともに、制御装置20からの要求に従い各種情報を送り出す。
【0035】
入力装置78は、例えばタッチパネル式の入力装置であり、作業者が入力した除菌剤の設定濃度や圧力値など所定の情報を制御装置20に送出する。表示装置80は、例えば液晶表示装置であり、制御装置20からの指示に従い表示する。
【0036】
電源装置34は、整流・平滑回路や直流電圧生成部など(図示せず。)を備え、商用電源200からの電力を整流、平滑する。平滑に生成された電力は、ON/OFFスイッチング部82に印加される。
【0037】
ON/OFFスイッチング部82は、制御装置20からの作動信号に従い、直流電圧生成部からの電圧を所定時間オンし、そしてオン状態が終了して所定時間経過した後再びオンにする。ON/OFFスイッチング部82がオン状態となることにより、直流電圧のパルスが注入ポンプ30のソレノイド38に印加される。
【0038】
制御装置20は、流量センサ24から送水管14内の原水(井戸水)の流量が送られてくると、その流量において井戸水の除菌剤の濃度が所定の値となるように注入ポンプ30の作動頻度、すなわち単位時間当たりのストローク数を算出する。
【0039】
更に制御装置20は、作動頻度が算出されると、算出された作動頻度を記憶装置76に記憶されている下限値としての下限頻度と比較する。下限頻度は、この値より単位時間当たりのストローク数を小さくすると井戸水に含まれる除菌剤の濃度にムラが発生すると判断される値である。算出された作動頻度が下限頻度より頻度が高いときは、算出された作動頻度で注入ポンプ30が作動するように、ON/OFFスイッチング部82に作動信号を送り出す。
【0040】
一方制御装置20は、算出された作動頻度が下限頻度未満と判断されたときには、予め定められた所定のストローク数、例えば下限頻度、あるいはそれより多い頻度で注入ポンプ30が作動するようにON/OFFスイッチング部82に作動信号を送出する。
【0041】
注入ポンプ30は、電源装置34から所定の電圧が印加されると、ソレノイド38に発生した磁力によりプランジャ40が吸引され、ダイヤフラム42が圧送室56内に前進する。すると流入用一方向ボール弁64が閉じ、流出用一方向ボール弁66が開き、所定量の除菌剤が所定の圧力で注入管72から送水管14に送られ、送水管14内を通過する井戸水に混入される。
【0042】
一方ON/OFFスイッチング部82で通電が停止されると、ソレノイド38での磁力が消失し、プランジャ40が戻しばね52のばね力で、調整ねじ54に当接するまで後退する。プランジャ40が後退すると、ダイヤフラム42が圧送室56内で後退し、流入用一方向ボール弁64が開き、流出用一方向ボール弁66が閉じ、所定量の除菌剤が貯留槽32から注入ポンプ30内に流入される。
【0043】
次に、給水ユニット10の作動を説明する。
【0044】
流量センサ24から、送水管14内の井戸水の流速を検出し、検出結果を制御装置20に送る。制御装置20は、流量センサ24から送られてきた検出結果から注入ポンプ30の作動頻度を算出し、算出した作動頻度を下限頻度と比較する。作動頻度が下限頻度より高いと判断されれば、算出した作動頻度に従った作動信号がON/OFFスイッチング部82に送り出され、注入ポンプ30が流量に応じて作動する。
【0045】
一方、算出した作動頻度が下限頻度より低いと判断されれば、下限頻度の値、つまり最低ストローク数に従った作動信号がON/OFFスイッチング部82に送り出され、注入ポンプ30が下限頻度で作動する。
【0046】
このように制御装置20が流量センサ24の検出結果に基づいて除菌器16を制御するので、除菌器16から送水管14内の井戸水に、所定の濃度の除菌剤を適切に注入できる。そして、井戸水の流量が減少したときには、下限頻度で注入ポンプ30が作動するので、除菌器16は、最低限の時間間隔で除菌剤を注入し、未処理の井戸水が水道水として給水されることを極力防止させる。
【0047】
以上述べたように、給水ユニット10によれば、井戸水などにおける除菌剤の濃度を所望の値に設定できる。また、井戸水などの流量が少なく、注入ポンプ30の単位時間当たりの作動回数が下限頻度を下回る場合には、予め定められたストローク数で注入ポンプ30が作動するので、流量が少ない場合でも所定の間隔で除菌剤が注入され、除菌剤のない未処理の井戸水を水道水として供給することを極力防止できる。また除菌剤を適宜注入することによりにより鉄イオンを酸化し、井戸水に含まれる鉄分を濾過装置18で確実に濾過できる。
【0048】
尚、時間当たりの所定のストローク数は、下限頻度と同じ値でなく、他の値であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
井戸水などに、除菌剤などの薬剤を流量に応じて所定濃度で注入する給水ユニットに利用できる。
【符号の説明】
【0050】
10…給水ユニット 12…給水ポンプ 14…送水管 16…除菌器 18…濾過装置 20…制御装置 24…流量センサ 30…注入ポンプ 32…貯留槽 38…ソレノイド 40…プランジャ 42…ダイヤフラム 46…ポンプ本体 64…流入用一方向ボール弁 66…流出用一方向ボール弁 70…吸引管 72…注入管 74…混入部 76…記憶装置 78…入力装置 80…表示装置 82…ON/OFFスイッチング部 200…商用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送水管内の流量を検出する流量検出手段と、前記送水管に薬液を注入する注入ポンプと、前記流量検出手段の検出結果に基づき前記注入ポンプを作動させる制御手段からなる薬液注入器において、
前記制御手段は、前記送水管内の流量から算出した前記注入ポンプの作動頻度が下限値以上であれば、算出された前記作動頻度で前記注入ポンプを作動させ、前記作動頻度が前記下限値未満であれば、予め定められた最低頻度で前記注入ポンプを作動させることを特徴とした薬液注入器。
【請求項2】
前記薬液は、前記送水管内の流水を除菌、酸化する除菌剤であり、前記注入ポンプは、ソレノイド駆動式ダイヤフラムポンプであることを特徴とした請求項1に記載の薬液注入器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の薬液注入器と、送水管内に所望の流量で原水を送水する給水ポンプとを備え、
前記送水管に、前記薬液注入器が前記薬液を前記送水管内に注入させる位置より下流に濾過装置を設け、前記薬液は、前記原水を除菌、および酸化させる薬液としたことを特徴とした給水ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−170942(P2012−170942A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38324(P2011−38324)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000148209)株式会社川本製作所 (161)
【Fターム(参考)】