説明

薬物の毒性予測方法

新規薬物起因性リン脂質症マーカー遺伝子および薬物のリン脂質症誘発ポテンシャルの新規インビトロ予測系を提供する。具体的には、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21または23に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子の発現を検出し得る核酸を含有する、化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの予測用試薬の提供である。また、試験化合物に曝露した哺乳動物細胞における、リン脂質症の発現と相関して発現が変動する1以上の遺伝子の発現を検出することを含む、化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの予測方法の提供である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、薬物の毒性予測方法およびそのためのツールに関する。より詳細には、本発明は、マーカー遺伝子の発現変動を指標とした、医薬候補化合物の毒性(例えば、リン脂質症誘発ポテンシャル等)の予測方法、並びに毒性マーカー遺伝子を検出するための試薬・キット等に関する。
【背景技術】
近年、コンビナトリアル・ケミストリーやハイ・スループット・スクリーニングの導入により、創薬研究におけるリード化合物最適化までのボトルネックは、薬効スクリーニングから毒性スクリーニングに移りつつある。従って、かかるボトルネックの解消に寄与し得る効率の良い毒性評価・毒性予測系の確立が強く望まれるところである。
現在、医薬品候補化合物の毒性評価は、通常、ラット等の実験動物への化合物投与によるインビボ毒性試験により行われているが、このような試験には、(1)毒性の発現に数日ないし数ヶ月を要する、(2)多量の化合物を必要とする等の欠点がある。特に、化合物の合成量に制限のある開発初期段階において、毒性の有無を迅速に予測し、構造の最適化を効率よく行うには、より少量で多検体を短時間で評価し得るインビトロスクリーニング系の構築が必須である。
薬物起因性リン脂質症(Phospholipidosis;以下、「PLsis」と略記する場合もある)は細胞内にリン脂質が過剰に蓄積する現象と定義され、抗うつ薬、抗狭心症薬、抗マラリア薬、抗食欲減退薬、抗高脂血症薬などの多くの薬剤もしくはその代謝物によって引き起こされる。PLsisでは、リン脂質は主としてリソソーム内に蓄積し、電子顕微鏡学的には円形ないしは楕円形のミエリン様構造物(lamellar body)が観察される。毒性の発現機構は完全には解明されていないが、1)化合物によるリソソーム酵素(主にリン脂質分解酵素(ホスホリパーゼ))の活性阻害、2)化合物によるリン脂質代謝に関わる輸送経路の阻害、3)化合物とリン脂質の複合体形成による複合体の分解阻害、4)化合物によるリン脂質の合成亢進などに起因するものと考えられている。
PLsisを誘発する化合物の多くは、分子内に疎水性領域と陽性荷電した親水性領域とを併せ持つ(cationic amphiphilic drug;CAD)構造を有する。近年、ゲノム解析の進展に伴いオーファン受容体の創薬ターゲットとしての価値が認識され、受容体に対する作動薬もしくは拮抗薬の開発が進められているが、そのような化合物は、受容体に作用するという性質ゆえにCAD構造を有している場合が多く、PLsisの発現が医薬品開発の妨げとなるケースが増加している。従って、効率の良いPLsis誘発性の評価・予測系の開発が急務である。
これに対し、ホスホリパーゼ活性阻害を指標とした評価方法(Matsuzawa,Y.およびHostetler,K.Y.、J.Biol.Chem.(米国)、1980年、第255巻(第2号)、pp.646−652)や、肝細胞もしくは培養リンパ球におけるリン脂質の蓄積を蛍光色素を用いて検出する方法(Gum,R.J.ら、Biochem.Pharmacol.(英国)、2001年、第62巻、pp.1661−1673およびXia,Z.ら、Biochem.Pharmacol.(英国)、1997年、第53巻、pp.1521−1532)等が提唱されているが、いずれも信頼性および/または迅速性などの面で不十分であり、未だ実用的なインビトロスクリーニング系の確立には至っていない。
ところで、数千〜数万種のmRNAの発現を同時にモニタリングするマイクロアレイ技術(網羅的遺伝子発現解析、トランスクリプトミクス(transcriptomics))が医学・生物学の種々の分野で盛んに利用されてきている。毒性学の分野でも、毒性発現メカニズムの解明や毒性予測の研究に本技術が活用され始めており、トキシコゲノミクス(toxicogenomics)と呼ばれる新たな研究分野として期待されている(Aardema,M.J.およびMacGregor,J.T.ら、Mutat.Res.(蘭国)、2002年、第499巻、pp.13−25)。毒性現象には、1ないし数個の遺伝子の独立した変化だけでなく、遺伝子間の相互作用やカスケード等のように多数の遺伝子が互いに関連し合った一体的な変動が伴うものと考えられる。そのため、マイクロアレイというトランスクリプトームレベルでの解析が可能な技術を用いることで、毒性発現に関わる分子の挙動を包括的に捉えることが可能になると期待される。例えば、国際公開第02/10453号パンフレットおよび国際公開第02/095000号パンフレットには、膨大な遺伝子群から選択される2ないし100以上の遺伝子の、試験化合物存在下における発現量を調べ、その結果を、既知陽性および陰性化合物を用いて個々の遺伝子について予め算出された陽性平均および/または陰性平均発現量と比較することにより、試験化合物の肝または腎毒性を予測する手法が開示されている。
【発明の開示】
本発明の目的は、PLsisの発現と相関して発現が変動する遺伝子、すなわちPLsisマーカー遺伝子を同定し、該遺伝子の発現変動を指標としたハイスループットな、PLsis誘発ポテンシャルの予測手段を提供することである。
また、本発明の別の目的は、ある毒性の発現に伴って発現が共通変動する一連の遺伝子群を包括的に把握するとともに、これら遺伝子の網羅的発現解析により得られる情報から、薬物の毒性の有無をより正確に予測し得るように評価系を構築するための最適化方策を提供することである。
本発明者らは、マイクロアレイを用いて、種々の既知PLsis誘発化合物に曝露したヒト培養細胞における網羅的遺伝子発現解析を行った結果、これら化合物の多くで顕著に発現が変動した遺伝子を同定した。これらの中から機能が重複せず発現変動率が高い12遺伝子を抽出し、リアルタイム定量PCRにより精査した結果、これらの遺伝子は、電子顕微鏡学的観察によるミエリン様構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物の出現程度と相関して発現が変動することが確認された。さらに、本発明者らは、PLsisの発現をこれらマーカー遺伝子の包括的な挙動との関連として捉え、発現の平均変動率という概念を導入することにより、偽陽性および偽陰性の確率が極めて低い、非常に信頼性に優れたPLsis誘発ポテンシャルのインビトロ評価系を構築することに成功して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
[1] 配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸を含有してなる、化合物のリン脂質症誘発ポテンシャル予測用試薬:
[2] リン脂質症の発現と相関して発現が変動する遺伝子の転写産物とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該転写産物に相補的な塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸を含有する1もしくは2以上の試薬を含んでなる、化合物のリン脂質症誘発ポテンシャル予測用キットであって、2以上の試薬を含む場合、各試薬は互いに異なる遺伝子の発現を検出し得るものであるキット;
[3] 少なくとも1つの試薬は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸を含有する、上記[2]記載のキット;
[4] 哺乳動物細胞を試験化合物に曝露した際の、各試薬中に含有される核酸がハイブリダイズし得る核酸の該細胞内での発現の平均変動率を指標とした場合に、リン脂質症誘発ポテンシャルの予測的中率が約70%以上である、上記[2]記載のキット;
[5] 化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの予測方法であって、化合物に曝露された哺乳動物細胞含有試料もしくは化合物を投与された哺乳動物より採取した試料における、リン脂質症の発現と相関して発現が変動する1以上の遺伝子の発現変動を検出することを含む方法;
[6] 少なくとも1つの遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するものである、上記[5]記載の方法;
[7] 化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの有無を判定するための基準を決定する方法であって、
(1)2以上の既知リン脂質症誘発化合物および2以上の既知リン脂質症非誘発化合物の各々に曝露された哺乳動物細胞含有試料もしくは該化合物の各々を投与された哺乳動物より採取した試料における、リン脂質症の発現と相関して発現が変動する1以上の遺伝子の発現変動を検出し、
(2)該遺伝子の発現の平均変動率とリン脂質症誘発ポテンシャルとの関係から、上記化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの有無を約70%以上正しく判定することができる平均変動率の値を基準値とすることを含む方法;
[8] 少なくとも1つの遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するものである、上記[7]記載の方法;
[9] 他の既知リン脂質症誘発化合物および既知リン脂質症非誘発化合物を用いて基準値の妥当性を検証することをさらに含む、上記[7]記載の方法;
[10] 遺伝子の発現の平均変動率を、上記[7]または[9]記載の方法により得られる基準値と比較することを含む、上記[5]記載の方法;
[11] 化合物の毒性の予測方法であって、
(1)化合物に曝露された哺乳動物細胞含有試料もしくは化合物を投与された哺乳動物より採取した試料における、毒性の発現と相関して発現が変動する1以上の遺伝子の発現変動を検出し、
(2)該遺伝子の発現の平均変動率を指標として該化合物の毒性の有無を判定することを含む方法;
などを提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、PLsis誘発化合物(アミオダロン、アミトリプチリン、AY−9944、クロルシクリジン、クロルプロマジンおよびクロミプラミン)の構造式、分子量、薬効および添加濃度を示す。
図2は、PLsis誘発化合物(フルオキセチン、イミプラミン、ペルヘキシリン、タモキシフェン、チオリダジンおよびジメリジン)の構造式、分子量、薬効および添加濃度を示す。
図3は、PLsis誘発化合物(クロザピン、ケトコナゾール、ロラタジン、ペンタミジンおよびセルトラリン)の構造式、分子量、薬効および添加濃度を示す。
図4は、PLsis非誘発化合物(アセトアミノフェン、クラリスロマイシン、ジソピラミド、エリスロマイシン、フレカイニドおよびハロペリドール)の構造式、分子量、薬効および添加濃度を示す。
図5は、PLsis非誘発化合物(レボフロキサシン、オフロキサシン、プロカイナミド、キニジン、ソタロール、スルファメトキサゾールおよびスマトリプタン)の構造式、分子量、薬効および添加濃度を示す。
図6は、化合物添加24時間後のHepG2細胞におけるPLsisマーカー遺伝子の発現の平均変動率(縦軸)と、化合物添加72時間後のHepG2細胞におけるミエリン様構造物の出現程度(横軸)との相関を示す。+++:大型のミエリン様構造物が複数認められる;++:中等度のミエリン様構造物が少数認められる;+:軽微なミエリン様構造物が少数認められる;−:ミエリン様構造物はみとめられない
図7は、種々の化合物の添加24時間後のHepG2細胞におけるPLsisマーカー遺伝子の発現の平均変動率の再現性を示す。横軸は1回目の実験により得られた平均変動率、縦軸は2回目の実験により得られた平均変動率をそれぞれ示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、PLsisの発現と相関して発現が変動する遺伝子(すなわち、PLsisマーカー遺伝子)の発現を検出し得る核酸を含有するPLsis誘発ポテンシャル予測用試薬を提供する。ここで「PLsis誘発ポテンシャル」とは、化合物が標的哺乳動物細胞と接触した場合に該細胞内にミエリン様構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物を生じさせる能力をいう。従って、インビボ投与でPLsisを誘発する化合物であっても、生体内代謝産物のみがPLsis誘発性である場合はPLsis誘発ポテンシャル陰性であり、一方、生体内で速やかに代謝されて無毒化される化合物であってもそれ自体がPLsis誘発性である場合はPLsis誘発ポテンシャル陽性である。
「PLsisの発現と相関して発現が変動する」とは、哺乳動物細胞を種々の化合物に曝露したときに、該化合物が該細胞内にミエリン様構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物を生じさせるものである場合に発現が実質的に増加または減少し、該化合物が該細胞内にミエリン様構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物を生じさせないものである場合には発現が実質的に変動しない、という傾向が統計学上有意に認められることをいう。尚、「実質的に増加または減少」とは、非曝露時の1.5倍以上に増加するか、あるいは非曝露時の2/3以下に減少することをいい、「実質的に変動しない」とは、非曝露時の2/3〜1.5倍の発現レベルであることをいう。
具体的には、PLsisマーカー遺伝子としては、リソソーム酵素をコードする遺伝子、脂質代謝(例:コレステロール合成、脂肪酸伸長反応、不飽和脂肪酸合成等)関連蛋白質をコードする遺伝子、輸送(例:脂肪酸輸送、蛋白質輸送、アミノ酸輸送等)関連蛋白質をコードする遺伝子、細胞増殖関連蛋白質をコードする遺伝子、プロテアーゼもしくはプロテアーゼインヒビターをコードする遺伝子、アミノ酸代謝関連蛋白質をコードする遺伝子などが挙げられる。より具体的には、本発明により抽出されたPLsisと相関して発現が増加する遺伝子としては、GenBankデータベースに、それぞれNM_014960、NM_000859、AL518627、NM_002130、AA639705、BC005807、AF116616、NM_025225、U47674、D80010、NM_001731、AW134535、NM_004354、AF135266、AC007182、NM_003832、NM_019058、AB040875、AA488687、NM_018687、NM_021158、BG231932、NM_024307、NM_000235、AA873600、D63807、AF096304、AW150953、NM_001360、NM_021969、AC001305、NM_024090、NM_001443、NM_006214、NM_024108、NM_021980、NM_002151、AF003934、NM_000596、U15979、M92934、NM_002087、AK023348、NM_002773、NM_000131、BC003169、NM_002217、NM_003122、NM_001673、NM_000050、NM_001085、U08024、NM_003167、BC005161、AF162690、AW517464、AF116616、NM_017983、AL136653、NM_016061、BE966922、BE552428、NM_022823、NM_012445、NM_000792、NM_015930、NM_021800、NM_005980、NM_000565およびAB033025のIDを付されて登録されている塩基配列を含有するヒト遺伝子および他の哺乳動物におけるそれらのホモログ等が挙げられる。一方、PLsisと相関して発現が減少する遺伝子としては、GenBankデータベースに、それぞれNM_006931、AL110298、NM_006931、NM_001955、NM_003897、NM_003186、AA778684、NM_001283、NM_012242、AI934469、NM_003186およびNM_002450のIDを付されて登録されている塩基配列を有するヒト遺伝子および他の哺乳動物におけるそれらのホモログ等が挙げられる。
好ましくは、本発明のPLsisマーカー遺伝子として、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される各塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列をそれぞれ有する12種の遺伝子が挙げられる。ここで「実質的に同一の塩基配列」とは、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される各塩基配列の相補鎖配列を有する核酸とそれぞれハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列であって、それにコードされる蛋白質が該配列番号に示される塩基配列にコードされる蛋白質と同一もしくは実質的に同一のものであるような配列を意味する。「ハイストリンジェントな条件」とは、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される各塩基配列の相補鎖配列を有する核酸と、オーバーラップする領域において約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上の相補性を有する塩基配列を有する核酸とがハイブリダイズし得る条件をいい、例えば、ナトリウム濃度が約19〜40mM、好ましくは約19〜20mMで、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃、特に好ましくは、ナトリウム濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
「実質的に同一の蛋白質」とは、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22および24に示される各アミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、且つ上記各配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する蛋白質と同質の活性を有する蛋白質をいう。「同質の活性」とは、活性が性質的に(例えば、生理学的に、または薬理学的に)同一であることをいい、量的には同等(例:0.5〜2倍)であることが好ましいが、異なっていてもよい。また、アミノ酸配列の相同性の条件を満たす限り、分子量などの他の量的要素が異なってもよい。
アミノ酸配列について、「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換は蛋白質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science,247:1306−1310(1990)を参照)。
アミノ酸配列の相同性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873−5877(1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version2.0)に組み込まれている(Altschulら,Nucleic Acids Res.,25:3389−3402(1997))]、Needlemanら,J.Mol.Biol.,48:444−453(1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller,CABIOS,4:11−17(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version2.0)に組み込まれている]、Pearsonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444−2448(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられるが、それらに限定されない。
より好ましくは、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22および24に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、各配列番号に示されるアミノ酸配列とそれぞれ約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
かかる相同性を有する蛋白質としては、例えば、1)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22または24に示されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、特に好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、2)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22または24に示されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、特に好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、3)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22または24に示されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、特に好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、4)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22または24に示されるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、特に好ましくは数(1〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有する蛋白質などが含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は特に限定されない。
より具体的には、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される各塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子として、各配列番号に示される塩基配列を有する遺伝子のアレル変異体や、該遺伝子の非ヒト哺乳動物(例:サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等)におけるオルソログ(ortholog)などが該当する。
本発明のヒト由来PLsisマーカー遺伝子の塩基配列(すなわち、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される塩基配列)はいずれも公知であり、GenBankデータベース上で、それぞれNM_014960、U47674、NM_024307、D63807、NM_021969、NM_001443、NM_002151、NM_001085、AL136653、NM_022823、NM_006931およびNM_003186の登録番号を付されて公開されている。
配列番号1に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「kiaa1001」と略記する場合がある)は、スルファターゼファミリーに属するリソソーム酵素、KIAA1001蛋白質をコードしている。
配列番号3に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「asah1」と略記する場合がある)は、セラミド代謝に関与するリソソーム酵素であり、ヒトにおいてはその欠損によりファーバー病(セラミド蓄積症)を生じるN−アシルスフィンゴシンアミドヒドロラーゼ(酸性セラミダーゼ)1をコードしている。
配列番号5に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「mgc4171」と略記する場合がある)は、リン脂質の分解に関与するグリセロホスホリルジエステル ホスホジエステラーゼファミリーに属するMGC4171蛋白質をコードしている。
配列番号7に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「lss」と略記する場合がある)は、コレステロール合成に関与するラノステロールシンターゼをコードしている。
配列番号9に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「nr0b2」と略記する場合がある)は、コレステロール 7a−ヒドロキシラーゼ(CYP7A1)の発現調節に関わる核内受容体蛋白質(サブファミリー0,グループb,メンバー2)をコードしている。
配列番号11に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「fabp1」と略記する場合がある)は、脂質輸送に関与する肝脂肪酸結合蛋白質1をコードしている。
上記6つの遺伝子は、一般的にPLsis誘発との関連性が示唆され得るリソソーム酵素および脂質代謝関連蛋白質をコードしているが、これら個々の遺伝子の発現が薬物のPLsis誘発ポテンシャルと実際に相関することについてはこれまで報告されていない。
配列番号13に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「hpn」と略記する場合がある)は、膜貫通型セリンプロテアーゼであるヘプシンをコードしている。
配列番号15に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「serpina3」と略記する場合がある)は、セリン(システイン)プロテアーゼインヒビター(クレードA,メンバー3)をコードしている。
配列番号17に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「depp」と略記する場合がある)は、プロゲステロンにより誘導される脱落膜由来蛋白質をコードしている。
配列番号19に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「flj22362」と略記する場合がある)は、フィブロネクチン タイプIIIとホモロジーの高い蛋白質(FLJ22362)をコードしている。
配列番号21に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「slc2a3」と略記する場合がある)は、グルコース輸送担体である溶質キャリアーファミリーに属する蛋白質(ファミリー2,メンバー3)をコードしている。
配列番号23に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子(以下、「tagln」と略記する場合がある)は、細胞骨格蛋白質であるトランスゲリンをコードしている。
これら6つの遺伝子にコードされる蛋白質は、一般的にもPLsis誘発との関連性が全く知られていない。
配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17および19に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子は、PLsis発現と相関して発現が増加し、一方、配列番号21および23に示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子は、PLsis発現と相関して発現が減少する。
本発明のPLsis誘発ポテンシャル予測用試薬(以下、「本発明の試薬」と略記する場合がある)に含有されるPLsisマーカー遺伝子の発現を検出し得る核酸としては、例えば、PLsisマーカー遺伝子の転写産物とハイブリダイズし得る核酸(プローブ)や、該転写産物の一部もしくは全部を増幅するプライマーとして機能し得るオリゴヌクレオチドのセットなどが挙げられる。すなわち、該核酸としては、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列を有する核酸(センス鎖=コード鎖)とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸(アンチセンス鎖=非コード鎖)とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸が好ましく例示される。「ハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る」とは上記と同義である。該核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。
プローブとして用いられる核酸は、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、供される試料に応じてセンス鎖(例:cDNA、cRNAの場合)またはアンチセンス鎖(例:mRNA、cDNAの場合)を選択して用いることができる。該核酸の長さは標的核酸と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、例えば約15塩基以上、好ましくは約30塩基以上である。該核酸は、標的核酸の検出・定量を可能とするために、標識剤により標識されていることが好ましい。標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔32P〕、〔H〕、〔14C〕などが用いられる。酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、プローブと標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジンを用いることもできる。一方、プローブとなる核酸を固相上に固定化する場合には、試料中の核酸を上記と同様の標識剤を用いて標識することができる。
プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドのセットとしては、各配列番号に示される塩基配列(センス鎖)およびそれに相補的な塩基配列(アンチセンス鎖)とそれぞれ特異的にハイブリダイズすることができ、それらに挟まれるDNA断片を増幅し得るものであれば特に制限はなく、例えば、各々約15〜約100塩基、好ましくは各々約15〜約50塩基の長さを有し、約100bp〜数kbpのDNA断片を増幅するようにデザインされたオリゴDNAのセットが挙げられる。
微量RNA試料を用いてPLsisマーカー遺伝子の発現を定量的に解析するためには、競合RT−PCRまたはリアルタイムRT−PCRを用いることが好ましい。競合RT−PCRとは、目的のDNAを増幅し得るプライマーのセットにより増幅され得る既知量の他の鋳型核酸をcompetitorとして反応液中に共存させて競合的に増幅反応を起こさせ、増幅産物の量を比較することにより、目的DNAの量を算出する方法をいう。従って、競合RT−PCRを用いる場合、本発明の試薬は、上記プライマーセットに加えて、該プライマーセットにより増幅され、目的DNAと区別することができる増幅産物(例えば、目的のDNAとはサイズの異なる増幅産物、制限酵素処理により異なる泳動パターンを示す増幅産物など)を生じる核酸をさらに含有することができる。このcompetitor核酸はDNAであってもRNAであってもよい。DNAの場合、RNA試料から逆転写反応によりcDNAを合成した後にcompetitorを添加して、PCRを行えばよく、RNAの場合は、RNA試料に最初から添加してRT−PCRを行うことができる。後者の場合、逆転写反応の効率も考慮に入れているので、元のmRNAの絶対量を推定することができる。
一方、リアルタイムRT−PCRは、PCRの増幅量をリアルタイムでモニタリングできるので、電気泳動が不要で、より迅速にPLsisマーカー遺伝子の発現を解析可能である。通常、モニタリングは種々の蛍光試薬を用いて行われる。これらの中には、SYBR Green I、エチジウムブロマイド等の二本鎖DNAに結合することにより蛍光を発する試薬(インターカレーター)の他、上記プローブとして用いることができる核酸(但し、該核酸は増幅領域内で標的核酸にハイブリダイズする)の両端をそれぞれ蛍光物質(例:FAM、HEX、TET、FITC等)および消光物質(例:TAMRA、DABCYL等)で修飾したもの等が含まれる。
PLsisマーカー遺伝子の発現を検出し得るプローブとして機能する核酸は、該遺伝子の転写産物の一部もしくは全部を増幅し得る上記プライマーセットを用い、哺乳動物(例:ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等)のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織、骨格筋など]由来のcDNAもしくはゲノムDNAを鋳型としてPCR法によって所望の長さの核酸を増幅するか、前記した細胞・組織由来のcDNAもしくはゲノムDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション等により上記PLsisマーカー遺伝子もしくはcDNAをクローニングし、必要に応じて制限酵素等を用いて適当な長さの断片とすることにより取得することができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。あるいは、該核酸は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される各塩基配列情報に基づいて、該塩基配列および/またはその相補鎖配列の一部もしくは全部を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによっても得ることができる。また、シリコンやガラス等の固相上で該核酸を直接in situ(on chip)合成することにより、該核酸が固相化されたチップを作成することもできる。
PLsisマーカー遺伝子の転写産物の一部もしくは全部を増幅し得るプライマーとして機能する核酸は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される各塩基配列情報に基づいて、該塩基配列およびその相補鎖配列の一部を市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによって得ることができる。
PLsisマーカー遺伝子の発現を検出し得る核酸は、乾燥した状態もしくはアルコール沈澱の状態で、固体として提供することもできるし、水もしくは適当な緩衝液(例:TE緩衝液等)中に溶解した状態で提供することもできる。標識プローブとして用いられる場合、該核酸は予め上記のいずれかの標識物質で標識した状態で提供することもできるし、標識物質とそれぞれ別個に提供され、用時標識して用いることもできる。
あるいは、該核酸は、適当な固相に固定化された状態で提供することもできる。固相としては、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等が挙げられるが、これらに限定されない。また、固定化手段としては、予め核酸にアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入しておき、一方、固相上にも該核酸と反応し得る官能基(例:アルデヒド基、アミノ基、SH基、ストレプトアビジンなど)を導入し、両官能基間の共有結合で固相と核酸を架橋したり、ポリアニオン性の核酸に対して、固相をポリカチオンコーティングして静電結合を利用して核酸を固定化するなどの方法が挙げられるが、これらに限定されない。
核酸プローブが固相に固定化された状態で提供される好ましい一例として、High Throughput Genomics社より提供されるArrayPlateTM等が挙げられる。ArrayPlateTMは96ウェルプレートの各ウェル底面に種々の核酸プローブが規則正しく配置した状態(例、4×4アレイ)で固定化されたものである。プローブとハイブリダイズし得る一端と標的核酸とハイブリダイズし得る他端とを有する核酸をスペーサーとして介在させることで、プローブと標的核酸とのハイブリダイゼーション反応を固相表面上ではなく液相中で行わせることができ、標的核酸の定量的な測定が可能となる。従って、単一のウェルで種々のPLsisマーカー遺伝子の発現変動を同時に一括検出することができ、十分な定量性が得られれば、各マーカー遺伝子の発現変動を別個に検出するリアルタイムPCRよりもさらに効率がよいという利点を有する。
本発明の試薬に関し、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子を検出し得る核酸を含有する場合を強調して説明してきたが、本発明の試薬は、上記12個のPLsisマーカー遺伝子以外のPLsisマーカー遺伝子、例えば、リソソーム酵素をコードする遺伝子、脂質代謝(例:コレステロール合成、脂肪酸伸長反応、不飽和脂肪酸合成等)関連蛋白質をコードする遺伝子、輸送(例:脂肪酸輸送、蛋白質輸送、アミノ酸輸送等)関連蛋白質をコードする遺伝子、細胞増殖関連蛋白質をコードする遺伝子、プロテアーゼもしくはプロテアーゼインヒビターをコードする遺伝子、アミノ酸代謝関連蛋白質をコードする遺伝子など、より具体的には、GenBankデータベースに、それぞれNM_000859、AL518627、NM_002130、AA639705、BC005807、AF116616、NM_025225、D80010、NM_001731、AW134535、NM_004354、AF135266、AC007182、NM_003832、NM_019058、AB040875、AA488687、NM_018687、NM_021158、BG231932、NM_000235、AA873600、AF096304、AW150953、NM_001360、AC001305、NM_024090、NM_006214、NM_024108、NM_021980、AF003934、NM_000596、U15979、M92934、NM_002087、AK023348、NM_002773、NM_000131、BC003169、NM_002217、NM_003122、NM_001673、NM_000050、U08024、NM_003167、BC005161、AF162690、AW517464、AF116616、NM_017983、NM_016061、BE966922、BE552428、NM_012445、NM_000792、NM_015930、NM_021800、NM_005980、NM_000565、AB033025、AL110298、NM_006931、NM_001955、NM_003897、AA778684、NM_001283、NM_012242、AI934469、NM_003186およびNM_002450のIDを付されて登録されている塩基配列を有するヒト遺伝子および他の哺乳動物におけるそれらのホモログ等を検出し得る核酸を含有するものであってもよい。
本発明の試薬は、PLsisマーカー遺伝子の発現を検出し得る核酸に加えて、該遺伝子の発現を検出するための反応において必要な他の物質であって、共存状態で保存することにより反応に悪影響を及ぼさない物質をさらに含有することができる。あるいは、本発明の試薬は、PLsisマーカー遺伝子の発現を検出するための反応において必要な他の物質を含有する別個の試薬とともにキット化して提供することもできる。例えば、PLsisマーカー遺伝子の発現を検出するための反応がPCRの場合、当該他の物質としては、例えば、反応緩衝液、dNTPs、耐熱性DNAポリメラーゼ等が挙げられる。競合PCRやリアルタイムPCRを用いる場合は、competitor核酸や蛍光試薬(上記インターカレーターや蛍光プローブ等)などをさらに含むことができる。
個々のPLsisマーカー遺伝子は、すべてのPLsis誘発化合物について発現が変動し、すべてのPLsis非誘発化合物について実質的に発現が変動しないというものではない。そのため、個々のマーカー遺伝子の発現を単独の指標とした場合、ある程度の偽陽性および偽陰性化合物の出現は避けられない。しかしながら、複数のPLsisマーカー遺伝子の発現変動を調べることにより、予測的中率をさらに向上させることができる。
したがって、本発明はまた、PLsisマーカー遺伝子を検出し得る核酸を含有する2以上の試薬を組み合わせてなる、薬物のPLsis誘発ポテンシャル予測用キットを提供する。ここで各試薬中に含有される核酸は、互いに異なるPLsisマーカー遺伝子を検出し得るものである。検出対象となるPLsisマーカー遺伝子は特に制限はなく、上記した通りのものが同様に例示されるが、好ましくは、該試薬の少なくとも1つは、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有する遺伝子を検出し得る核酸を含有するものである。より好ましくは、上記12個のPLsisマーカー遺伝子のうちのいずれか2個以上、さらに好ましくは3個以上、いっそう好ましくは4個以上、特に好ましくは5個以上、最も好ましくは6個以上を検出対象とするキットが挙げられる。
キットを構成する各試薬中に含有される核酸は、同一の方法(例:ノーザンブロット、ドットブロット、DNAアレイ技術、定量RT−PCR等)によりPLsisマーカー遺伝子の発現を検出し得るように構築されていることが特に好ましい。
あるいは、好適なマーカー遺伝子の組み合わせとして、哺乳動物細胞を試験化合物に曝露した際の発現の平均変動率(後記PLsis誘発ポテンシャル予測方法の説明において詳述する)を指標とした場合に、PLsis誘発ポテンシャルの予測的中率が約70%以上である組み合わせ、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上である組み合わせが挙げられる。ここで予測が的中するとは、PLsis陽性であると予測された化合物を哺乳動物細胞に曝露した際に細胞内にミエリン様構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物が観察され、PLsis陰性であると予測された化合物を哺乳動物細胞に曝露した際に細胞内にミエリン様構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物が観察されないことをいう。本明細書において、予測的中率は、図1〜3に記載のPLsis陽性化合物および図4〜5に記載のPLsis陰性化合物を基準化合物として算定される。
本発明のキットの構成として、上記本発明の試薬がそれぞれ別個に提供されるもの[例:核酸が標識プローブ(特にドットブロット解析の場合)やPCR(特にリアルタイム定量PCR)用プライマーとして機能する場合等]、異なるPLsisマーカー遺伝子の発現を検出し得る核酸が同一の試薬中に含有されて提供されるもの[例:核酸がPCR(特に、増幅産物のサイズ等により各マーカー遺伝子を区別し得る場合)や標識プローブ(特に、ノーザンブロット解析で転写産物のサイズにより各マーカー遺伝子を区別し得る場合)として機能する場合等]、あるいは、異なるPLsisマーカー遺伝子の発現を検出し得る核酸が、同一の固相の別個の領域にそれぞれ固定化されて提供されるもの[例:標識cRNA等とのハイブリダイゼーション用プローブとして機能する場合等]などが例示されるが、これらに限定されない。
本発明はまた、試験化合物を哺乳動物細胞含有試料またはヒトもしくは非ヒト哺乳動物に曝露した際の、1以上のPLsisマーカー遺伝子の発現変動を検出することを特徴とする、化合物のPLsis誘発ポテンシャルの予測方法を提供する。
本発明の方法により試験される化合物としては、例えば、医薬または動物薬の候補化合物などが挙げられる。特に、迅速に多検体を処理できるという点から、創薬初期段階で合成される多数の候補化合物群への適用が好ましい。この場合、細胞含有試料または非ヒト哺乳動物が被験体として用いられる。一方、PLsisマーカー遺伝子の発現変動は血液などの容易にサンプリングが可能な細胞含有試料を用いて測定することができるので、臨床試験という医薬品開発の最終段階においても好ましく使用し得る。
使用される哺乳動物細胞含有試料としては、哺乳動物(例:ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット等)、望ましくは試験化合物の投与対象とされる哺乳動物のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織、骨格筋など]、あるいは上記の細胞・組織から樹立される細胞株などが例示される。好ましくは、肝細胞、腎細胞、単球、末梢血リンパ球、線維芽細胞、副腎ステロイド産生細胞、精巣細胞、卵巣細胞、腹腔マクロファージ、肺胞上皮細胞、気管支上皮細胞、肺胞マクロファージ等が挙げられる。また、再現性の良さや(特にヒト細胞の場合)入手の容易さ等から細胞株の使用が好ましい。例えば、ヒト細胞株としては、肝癌由来のHepG2細胞株、リンパ腫由来のU−937細胞株、単球由来のTHP−1細胞株、大腸癌由来のCaco−2細胞株、子宮頚癌由来のHeLa細胞株等が挙げられる。
一方、非ヒト哺乳動物としては、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、マウス、サル、イヌ、ブタ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウシ等が例示されるがこれらに限定されない。好ましくは、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、マウス、サル、イヌ等である。
哺乳動物細胞含有試料を試験化合物に曝露する方法は特に制限はないが、具体的には、例えば、細胞株を試料として用いる場合、適当な培地中、好適な条件下で培養した細胞増殖期の細胞を、トリプシン−EDTAなどを用いて剥離させ、遠心して細胞を回収した後、適当な培地[例:約5〜約20%の胎仔ウシ血清(FBS)を含むMEM培地(Science,122:501(1952))、DMEM培地(Virology,8:396(1959))、RPMI 1640培地(The Journal of the American Medical Association,199:519(1967))、199培地(Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73:1(1950))など(必要に応じて、ペニシリン、ストレプトマイシン、ハイグロマイシン等の抗生物質を、さらに添加してもよい)]を加えて所望の細胞密度となるように懸濁する。細胞密度は、遺伝子発現およびその変動が検出可能であれば特に限定されないが、細胞が細胞増殖期の状態を保つように調整することが好ましい。したがって、好ましい当初細胞密度は使用する細胞の増殖速度等によって異なり、当業者であれば使用する細胞に応じて容易に設定することができるが、通常約5×10〜約1×10cells/mLである。適当な溶媒に溶解した試験化合物を培地でさらに希釈し、終濃度が、例えば細胞が生存し得る最高濃度(当該濃度は、別途組織学的観察を行って決定することができる)となるように、上記細胞懸濁液に添加して、通常条件下、例えば、COインキュベーター中で、5%CO/95%大気、5%CO/5%O/90%大気等の雰囲気下、約30〜約40℃で、約0.5〜約168時間、好ましくは約3〜約48時間、より好ましくは約23〜約25時間培養する。
哺乳動物を試験化合物に曝露する方法は、標的細胞(後にPLsisマーカー遺伝子の発現変動を調べるために該動物から採取する試料中に含まれる細胞)に十分量の試験化合物が到達するように、試験化合物を該動物に投与するものであれば待に制限はなく、例えば、試験化合物を固形、半固形、液状、エアロゾル等の形態で経口的もしくは非経口的(例:静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、皮下、皮内、気道内等)に投与することができる。試験化合物の投与量は、化合物の種類、動物種、体重、投与形態などによって異なり、例えば、動物が生存し得る範囲で、標的細胞が生存し得る最高濃度の試験化合物に一定時間以上曝露され得るのに必要な量などが挙げられる。投与は1回ないし数回に分けて行うことができる。投与から試料採取までの時間は試験化合物の体内動態等によって異なるが、通常、初回投与から約3時間〜約3日間である。
試験化合物を投与された哺乳動物から採取される試料としては、哺乳動物細胞含有試料について例示された種々の細胞を含有するものが好ましく挙げられるが、迅速且つ簡便に採取することができ、動物への侵襲が少ないなどの点から、血液(例:末梢血)等が特に好ましい。
本発明の予測方法において発現変動を調べられるPLsisマーカー遺伝子は特に制限されないが、例えば、リソソーム酵素をコードする遺伝子、脂質代謝(例:コレステロール合成、脂肪酸伸長反応、不飽和脂肪酸合成等)関連蛋白質をコードする遺伝子、輸送(例:脂肪酸輸送、蛋白質輸送、アミノ酸輸送等)関連蛋白質をコードする遺伝子、細胞増殖関連蛋白質をコードする遺伝子、プロテアーゼもしくはプロテアーゼインヒビターをコードする遺伝子、アミノ酸代謝関連蛋白質をコードする遺伝子などが挙げられる。より具体的には、PLsisと相関して発現が増加する遺伝子としては、GenBankデータベースに、それぞれNM_014960、NM_000859、AL518627、NM_002130、AA639705、BC005807、AF116616、NM_025225、U47674、D80010、NM_001731、AW134535、NM_004354、AF135266、AC007182、NM_003832、NM_019058、AB040875、AA488687、NM_018687、NM_021158、BG231932、NM_024307、NM_000235、AA873600、D63807、AF096304、AW150953、NM_001360、NM_021969、AC001305、NM_024090、NM_001443、NM_006214、NM_024108、NM_021980、NM_002151、AF003934、NM_000596、U15979、M92934、NM_002087、AK023348、NM_002773、NM_000131、BC003169、NM_002217、NM_003122、NM_001673、NM_000050、NM_001085、U08024、NM_003167、BC005161、AF162690、AW517464、AF116616、NM_017983、AL136653、NM_016061、BE966922、BE552428、NM_022823、NM_012445、NM_000792、NM_015930、NM_021800、NM_005980、NM_000565およびAB033025のIDを付されて登録されている塩基配列を含有するヒト遺伝子および他の哺乳動物におけるそれらのホモログ等が挙げられる。一方、PLsisと相関して発現が減少する遺伝子としては、GenBankデータベースに、それぞれNM_006931、AL110298、NM_006931、NM_001955、NM_003897、NM_003186、AA778684、NM_001283、NM_012242、AI934469、NM_003186およびNM_002450のIDを付されて登録されている塩基配列を有するヒト遺伝子および他の哺乳動物におけるそれらのホモログ等が挙げられる。
好ましくは、本発明の予測方法において発現変動を調べられるPLsisマーカー遺伝子の少なくとも1つは、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するものである。より好ましくは、上記12個のPLsisマーカー遺伝子のうちのいずれか2個以上、さらに好ましくは3個以上、いっそう好ましくは4個以上、特に好ましくは5個以上、最も好ましくは6個以上を検出対象とする方法が挙げられる。
あるいは、好適なマーカー遺伝子の組み合わせとして、本予測方法において全マーカー遺伝子の発現の平均変動率を指標とした場合に、PLsis誘発ポテンシャルの予測的中率が約70%以上である組み合わせ、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上である組み合わせが挙げられる。本発明の予測方法において「平均変動率」とは以下のように定義される。すなわち、各マーカー遺伝子について、哺乳動物(細胞)を試験化合物に曝露したときと曝露しなかったときとでそれぞれ発現量を測定し、曝露したときに発現量が増加した場合はその倍率(例えば、2倍に増加した場合は2)を、減少した場合はその倍率の逆数(例えば、1/2に減少した場合は2)を、それぞれの遺伝子についての発現変動率(X)とし、全マーカー遺伝子(n個)の発現変動率の平均値を平均変動率と定義する(下式)。

上式においてm(i=1〜n)は各遺伝子の重みを表す。重みに特に制限はないが、好ましくはm×n=0.2〜5であり、例えば、全て同じ重み(m=1/n)が挙げられる。
本発明の方法においては、この平均変動率が、後述する方法により決定された基準値以上の場合はPLsis陽性、基準値未満の場合はPLsis陰性と予測する。
試験化合物に曝露された哺乳動物細胞含有試料および試験化合物を投与された哺乳動物から採取した試料におけるPLsisマーカー遺伝子の発現は、該試料からRNA(例:全RNA、mRNA)画分を調製し、該画分中に含まれる該マーカー遺伝子の転写産物を検出することにより調べることができる。RNA画分の調製は、グアニジン−CsCl超遠心法、AGPC法など公知の手法を用いて行うことができるが、市販のRNA抽出用キット(例:RNeasy Mini Kit;QIAGEN製等)を用いて、微量試料から迅速且つ簡便に高純度の全RNAを調製することができる。RNA画分中のPLsisマーカー遺伝子の転写産物を検出する手段としては、例えば、ハイブリダイゼーション(ノーザンブロット、ドットブロット、DNAチップ解析等)を用いる方法、あるいはPCR(RT−PCR、競合PCR、リアルタイムPCR等)を用いる方法などが挙げられる。微量試料から迅速且つ簡便に定量性よくPLsisマーカー遺伝子の発現変動を検出できる点で競合PCRやリアルタイムPCRなどの定量的PCR法が、また、複数のマーカー遺伝子の発現変動を一括検出することができ、検出方法の選択によって定量性も向上させ得るなどの点でDNAチップ解析が好ましい。
ノーザンブロットまたはドットブロットハイブリダイゼーションによる場合、PLsisマーカー遺伝子の検出は、標識プローブとして用いられる核酸を含有する上記本発明の試薬またはキットを用いて行うことができる。すなわち、ノーザンハイブリダイゼーションによる場合は、上記のようにして調製したRNA画分をゲル電気泳動にて分離した後、ニトロセルロース、ナイロン、ポリビニリデンジフロリド等のメンブレンに転写し、本発明の試薬または本発明のキット中に含まれる各試薬を含むハイブリダイゼーション緩衝液中、上記「ハイストリンジェントな条件下で」ハイブリダイゼーションさせた後、適当な方法でメンブレンに結合した標識量をバンド毎に測定することにより、各PLsisマーカー遺伝子の発現量を測定することができる。ドットブロットの場合も、RNA画分をスポットしたメンブレンを同様にハイブリダイゼーション反応に付し(各PLsisマーカー遺伝子についてそれぞれ行う)、スポットの標識量を測定することにより、各マーカー遺伝子の発現量を測定することができる。
DNAチップ解析(上記本発明の試薬において記載した固相化プローブ)による場合、例えば、上記のようにして調製したRNA画分から、逆転写反応によりT7プロモーター等の適当なプロモーターを導入したcDNAを合成し、さらにRNAポリメラーゼを用いてcRNAを合成する(この時ビオチンなどで標識したモノヌクレオチドを基質として用いることにより、標識されたcRNAが得られる)。この標識cRNAを上記固相化プローブと接触させてハイブリダイゼーション反応させ、固相上の各プローブに結合した標識量を測定することにより、各PLsisマーカー遺伝子の発現量を測定することができる。当該方法は、検出するPLsisマーカー遺伝子(従って、固相化されるプローブ)の数が多くなるほど、迅速性および簡便性の面で有利である。
好ましい実施態様によれば、本発明の予測方法において、PLsisマーカー遺伝子の発現を検出する方法として定量的PCR法が用いられる。定量的PCRとしては、例えば、競合PCRやリアルタイムPCRなどがあるが、増幅反応後の電気泳動が不要であるという点でリアルタイムPCRがより迅速性に優れている。
競合PCRによる場合、上記本発明の試薬において記載したプライマーセットに加えて、該プライマーセットで増幅でき、増幅後に標的核酸(すなわち、PLsisマーカー遺伝子の転写産物)の増幅産物と区別することができる(例えば、増幅サイズが異なる、制限酵素処理断片の泳動パターンが異なるなど)既知量のcompetitor核酸が用いられる。標的核酸とcompetitor核酸とはプライマーを奪い合って増幅が競合的に起こるので、増幅産物の量比が元の鋳型の量比を反映することになる。competitor核酸はDNAでもRNAでもよい。DNAの場合、上記のようにして調製されるRNA画分から逆転写反応によりcDNAを合成した後に、本発明の試薬およびcompetitorの共存下でPCRを行えばよく、RNAの場合は、RNA画分にcompetitorを添加して逆転写反応を行い、さらに本発明の試薬を添加してPCRを実施すればよい。
一方、リアルタイムPCRは、蛍光試薬を用いて増幅量をリアルタイムでモニタリングする方法であり、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置を必要とする。このような装置は市販されている。用いる蛍光試薬によりいくつかの方法があり、例えば、インターカレンター法、TaqManTMプローブ法、Molecular Beacon法等が挙げられる。いずれも、上記のようにして調製されるRNA画分から逆転写反応によりcDNAを合成した後に、本発明の試薬とインターカレーター、TaqManTMプローブまたはMolecular Beaconプローブと呼ばれる蛍光試薬(プローブ)をそれぞれPCR反応系に添加するというものである。インターカレーターは合成された二本鎖DNAに結合して励起光の照射により蛍光を発するので、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型cDNA量を推定することができる。TaqManTMプローブは両端を蛍光物質と消光物質をそれぞれで修飾した、標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るオリゴヌクレオチドであり、アニーリング時に標的核酸にハイブリダイズするが消光物質の存在により蛍光を発せず、伸長反応時にDNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ活性により分解されて蛍光物質が遊離することにより蛍光を発する。従って、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型cDNA量を推定することができる。Molecular Beaconプローブは両端を蛍光物質と消光物質をそれぞれで修飾した、標的核酸の増幅領域にハイブリダイズし得るとともにヘアピン型二次構造をとり得るオリゴヌクレオチドであり、ヘアピン構造をとっている時は消光物質の存在により蛍光を発せず、アニーリング時に標的核酸にハイブリダイズして蛍光物質と消光物質との距離が広がることにより蛍光を発する。従って、蛍光強度を測定することにより増幅産物の生成量をモニタリングすることができ、それによって元の鋳型cDNA量を推定することができる。
本発明の予測方法において、化合物のPLsis誘発ポテンシャルの有無を判定する基準は、その基準に基づく予測結果が化合物スクリーニング系としての使用に堪え得る程度に十分な信頼性を有する限り特に制限されない。例えば、(1)検出対象であるすべてのPLsisマーカー遺伝子について、試験化合物の曝露により実質的に発現が増加または減少する(ここで「実質的に発現が増加または減少」とは上記と同義である)場合にPLsis陽性であると判定し、いずれかのPLsisマーカー遺伝子について、試験化合物の曝露により実質的に発現が変動しない(ここで「実質的に発現が変動しない」とは上記と同義である)場合にPLsis陰性であると判定する方法、(2)検出対象であるすべてのPLsisマーカー遺伝子について、試験化合物の曝露により実質的に発現が変動しない場合にPLsis陰性であると判定し、いずれかのPLsisマーカー遺伝子について、試験化合物の曝露により実質的に発現が増加または減少する場合にPLsis陽性であると判定する方法、(3)検出対象であるn個のPLsisマーカー遺伝子のうち一定数(例えば、2〜(n−1)個)以上について、試験化合物の曝露により実質的に発現が増加または減少する場合にPLsis陽性であると判定する方法などが挙げられる。しかしながら、上記(1)の方法によれば、偽陽性化合物の出現頻度を低減することはできるが、偽陰性化合物の出現頻度が多くなり、相当数のPLsis誘発化合物が排除されないという欠点がある。一方、(2)の方法によれば、偽陰性化合物の出現頻度を低減することはできるが、偽陽性化合物の出現頻度が多くなり、有望な化合物を排除して医薬品等の開発の幅を狭める可能性がある。
本発明は、選択されたPLsisマーカー遺伝子の組み合わせにおいて、系の信頼性(予測的中率)を最大限に向上するための判定基準の決定方法を提供する。すなわち、当該方法は、哺乳動物細胞含有試料またはヒトもしくは非ヒト哺乳動物を、2以上(好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上)の既知PLsis誘発化合物(例えば、図1〜3に記載される化合物)および2以上(好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上)の既知PLsis非誘発化合物(例えば、図4〜5に記載される化合物)の各々に曝露し、該試料もしくは該哺乳動物より採取した試料において、選択された1以上のPLsisマーカー遺伝子の発現変動を検出し、該マーカー遺伝子の発現の平均変動率(ここで「平均変動率」は上記と同義である)と、現実のPLsis誘発ポテンシャルの有無とを比較することを特徴とする。尚、本発明において、現実のPLsis誘発ポテンシャルの有無は、哺乳動物細胞を化合物で曝露した際に細胞内にミエリン構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物の出現を認めるか否かによって決定されるものとする。
比較の結果、上記の既知PLsis誘発および非誘発化合物のPLsis誘発性の有無を、約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上の確率で正しく判定することができる平均変動率の値を求め、これを基準値とする。例えば、図1〜5記載の化合物について、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される各塩基配列を有する12個のPLsisマーカー遺伝子の発現変動を調べると、平均変動率(各遺伝子の重みはすべて同じとする)は図6に示される通りであり、17種のPLsis誘発化合物すべてを陽性と判定し、13種のPLsis非誘発化合物中12種を陰性と判定することができる(従って、約97%の確率で正しく判定することができる)平均変動率1.5を基準値として決定することができる。
上記のようにして決定される基準値は、さらに別の既知PLsis誘発および非誘発化合物を用いて、同様にPLsisマーカー遺伝子の発現の平均変動率と現実のPLsis誘発ポテンシャルの有無とを比較することにより、その妥当性を検討することがさらに好ましい。新たに検討した化合物についての判定結果を総合して、より高い確率でPLsis誘発ポテンシャルの有無を正確に判定することができる平均変動率値が得られれば、基準値を補正すればよい。さらに、PLsis誘発ポテンシャルの有無が未知の化合物群について、本法による判定と顕微鏡学的観察とを行って既知化合物に関するデータを蓄積することにより、極めて精度の高い予測が可能となる。
本発明のPLsis予測方法において指標として好ましく用いられる平均変動率の概念は、網羅的遺伝子発現解析を用いた化合物の他の毒性予測方法にも適用することができる。例えば、肝毒性(例:肝炎、肝壊死、脂肪肝等の誘発性)の予測方法として、肝細胞を数種〜数十種の既知肝毒性化合物(例:アセトアミノフェン、アミトリプチリン、ANIT、四塩化炭素、酢酸シプロテロン、エストラジオール、インドメタシン等)に曝露した後、RNAを抽出し、常法によりcDNA、次いで標識cRNAを合成した後、これを断片化し、市販の哺乳動物ゲノムのDNAマイクロアレイ(例:GeneChip(登録商標)Affymetrix社製など)を用いて網羅的遺伝子発現解析を行い、例えば、調べた化合物の半数以上で発現が共通変動した遺伝子群を肝毒性マーカー遺伝子として同定し、これらのマーカー遺伝子のいくつかを選択して、肝細胞を試験化合物に曝露した際のマーカー遺伝子の発現の平均変動率を上記と同様にして調べることにより、化合物の肝毒性を精度よく予測することができるスクリーニング系を構築することができる。
本明細書において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
A :アデニン
T :チミン
G :グアニン
C :シトシン
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
dATP :デオキシアデノシン三リン酸
dTTP :デオキシチミジン三リン酸
dGTP :デオキシグアノシン三リン酸
dCTP :デオキシシチジン三リン酸
ATP :アデノシン三リン酸
EDTA :エチレンジアミン四酢酸
SDS :ドデシル硫酸ナトリウム
Gly :グリシン
Ala :アラニン
Val :バリン
Leu :ロイシン
Ile :イソロイシン
Ser :セリン
Thr :スレオニン
Cys :システイン
Met :メチオニン
Glu :グルタミン酸
Asp :アスパラギン酸
Lys :リジン
Arg :アルギニン
His :ヒスチジン
Phe :フェニルアラニン
Tyr :チロシン
Trp :トリプトファン
Pro :プロリン
Asn :アスパラギン
Gln :グルタミン
pGlu :ピログルタミン酸
Sec :セレノシステイン(selenocysteine)
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
[実施例1]
参考例 化合物のPLsis誘発ポテンシャルの電子顕微鏡学的検査
以下の30種の市販薬を試験化合物として、PLsis誘発ポテンシャルの程度を、電子顕微鏡観察による細胞内ミエリン様構造物あるいはその早期像である電子密度の高い構造物の出現を指標として調べた。アミオダロン(amiodarone)およびクロザピン(clozapine)はICN Biomedicalsから、イミプラミン(imipramine)、クラリスロマイシン(clarithromycin)、ジソピラミド(disopyramide)、エリスロマイシン(erythromycin)、ハロペリドール(haloperidol)、ケトコナゾール(ketoconazole)、キニジン(quinidine)、セルトラリン(sertraline)およびスルファメトキサゾール(sulfamethoxazole)は和光純薬工業(株)から、アミトリプチリン(amitriptyline)、AY−9944、クロルシクリジン(chlorcyclizine)、クロルプロマジン(chlorpromazine)、クロミプラミン(clomipramine)、フルオキセチン(fluoxetine)、ペルヘキシリン(perhexiline)、タモキシフェン(tamoxifen)、チオリダジン(thioridazine)、ジメリジン(dimelidine)、アセトアミノフェン(acetaminophen)、フレカイニド(flecainide)、オフロキサシン(ofloxacin)およびソタロール(sotalol)はSigmaから、レボフロキサシン(levofloxacin)はApin Chemicalsから、ロラタジン(loratadine)およびスマトリプタン(sumatriptan)はKEMPROTECから、ペンタミジン(pentamidine)はTronto Research Chemicalsから、プロカイナミド(procainamide)はAldrich Chemicalからそれぞれ購入した。
試験化合物は終濃度(別途、細胞を72時間化合物に曝露して細胞が生存していた最高濃度を採用した)が8.3−25μmol/Lになるようにジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。試験化合物の構造式、分子量、薬効、添加濃度を図1〜5に示す。
HepG2細胞(ATCCより購入)への試験化合物の曝露は常法に従って実施した。HepG2細胞は細胞増殖期の細胞を用いた。付着しているHepG2細胞を0.05w/v%EDTAを含むダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(カルシウムおよびマグネシウム塩不含;PBS(−))(大日本製薬)で2回洗浄後、0.25vol%トリプシン−1mmol/L EDTA(Gibco BRL)をPBS(−)で2倍に希釈した細胞解離液を用いて細胞を剥離させ、遠心して上清を除去し、培養液[50U/mLペニシリン(Gibco BRL)−50mmol/Lストレプトマイシン(Gibco BRL)および5vol%FBS(Bio whittaker)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco BRL)]を加えて2x10cells/250μLの濃度に調整した。DMSOのみ、もしくは上記試験化合物のDMSO溶液を溶解した培養液を250μLずつウェルに分注し、上記の細胞懸濁液250μLを添加した後、COインキュベーター(7100;Napco)中、5%炭酸ガス−95%空気の雰囲気下、37℃で培養した。
72時間培養後、培養液を除去し、1w/v%グルタールアルデヒド溶液を加えて固定した。常法に従い2w/v%オスミウム酸で2時間後固定し、アルコール系列で脱水後、樹脂(Quetol 812)に包埋した。超薄切片を作製し、電子染色後、電子顕微鏡(H−360;日立)で観察し、各サンプルあたり3枚以上の写真(倍率は5000倍)を撮影した。後固定以降の作業はアプライドメディカルリサーチにて実施した。電子顕微鏡写真を肉眼的に観察し、ミエリン様構造物の出現程度を重度、中等度、軽度、変化なしの4段階に盲検下で分類した(n=4)。尚、分類基準については、「重度」は大型のミエリン様構造物が複数見られるもの、「中等度」は中等度のミエリン様構造物が少数見られるもの、「軽度」は軽微なミエリン様構造物が少数見られるもの、「変化なし」はミエリン様構造物が見られないものとした。
その結果、12の既知PLsis誘発化合物(図1および2に示される化合物)のすべて、および18の評価系検討用化合物中5化合物(図3に示される化合物)において典型的なPLsis像であるミエリン様構造物がリソソームに認められた。一方、評価系検討用化合物中13化合物(図4および5に示される化合物)においては、リソソームに変化は認められなかった。ミエリン様構造物の出現程度をランク付けした結果を表1に示す(化合物の添加濃度は、培養72時間後に細胞が生存していた最高濃度を示す)。

[実施例2]
既知PLsis誘発および非誘発化合物曝露による種々の遺伝子の発現変動
実施例1(参考例)と同様にして、HepG2細胞をPLsis誘発化合物17種およびPLsis非誘発化合物14種にそれぞれ24時間曝露した後、培養液を除去し、−80℃で凍結保存した。RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて該細胞から全RNAを精製し、TaqMan Reverse Transcription Reagents(PE Applied Biosystems)を用いて100μLの系でcDNAを合成した。
配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23に示される塩基配列を基に、PrimerExpress(PE Applied Biosystems)を用いてプライマーおよびFAM標識プローブを設計、合成(シグマジェノシスジャパン社に委託)した。各プライマーおよびプローブの配列は配列番号25〜60にそれぞれ示した。グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のプライマーおよびVIC標識プローブはTaqMan GAPDH Control Reagents(PE Applied Biosystems)に添付のものを用いた。
5μLのcDNAを含む100μLの反応液(1X TaqMan Universal PCR Master Mix(PE Applied Biosystems)、200nMフォーワードプライマー、200nMリバースプライマーおよび200nM TaqManプローブ)で、40サイクル(1サイクル=95℃,15秒;60℃,1分)のPCRを行った。PCRおよび蛍光検出は、ABI PRISM Sequence Detector 7000(PE Applied Biosystems)を用いて実施した。内部標準としてGAPDHを用い、測定値の補正を行った。対照群との有意差判定にはt検定を用いた(n=3)。
各試験化合物について、対照群に対する12遺伝子の各発現変動率を求めた。その結果を表2に示す。調べた12遺伝子のすべてについて、PLsis誘発化合物の曝露によりその発現が変動し、PLsis非誘発化合物の曝露によってはその発現が実質的に変動しない傾向が認められた。従って、これら12の遺伝子は薬物のPLsis誘発ポテンシャル予測に有用なマーカー遺伝子であることが明らかとなった。

次に、各試験化合物について、12遺伝子の発現の平均変動率(各遺伝子はすべて同じ重みとする)を算出した。この平均変動率の値とミエリン様構造物の出現程度との相関を調べた結果を図6に示す。平均変動率の高いものほどミエリン用構造物の出現程度も大きい傾向があり、両者の間に良好な相関が認められた。また、PLsis誘発ポテンシャルの有無の判定基準値を平均変動率1.5とした場合、17のPLsis誘発化合物すべてで平均変動率1.5以上であるのに対し、13のPLsis非誘発化合物中12化合物において平均変動率1.5未満であり、計30化合物中29化合物(約97%)の確率でPLsis誘発ポテンシャルの有無を正しく判定することができた。
[実施例3]
評価系の信頼性の確認
実施例1(参考例)と同様にして、HepG2細胞をPLsis誘発ポテンシャルの有無が未知の26種の化合物にそれぞれ24時間曝露した後、実施例2と同様にして、12のPLsisマーカー遺伝子の発現変動率を求め、平均変動率(各遺伝子はすべて同じ重みとする)を算出した。同じ実験を2回実施した。1回目の実験での平均変動率をx座標、2回目の実験での平均変動率をy座標として各試験化合物をプロットした結果を図7に示す。2回の実験結果を比較したところ、良好な再現性(R=0.907)を示した。また、別途参考例の方法に従って、HepG2細胞をこれら26化合物に72時間曝露した際のミエリン様構造物の出現の有無を検出し、平均変動率との関係を調べた結果、PLsis陰性化合物はグラフ中の平均変動率1.5未満の領域に、PLsis陽性化合物は平均変動率1.5以上の領域にそれぞれ分布し、極めて良好な予測的中率を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
本発明のPLsisの予測方法は、哺乳動物細胞を化合物に曝露した際のPLsisマーカー遺伝子の発現変動を検出することを特徴とすることにより、従来のインビボ毒性試験や酵素活性や細胞内へのリン脂質等の蓄積を指標とする評価方法に比べて、迅速且つ簡便に多数の化合物を検査することができるという有利な効果を奏する。
また、本発明の毒性の予測方法は、毒性の発現と相関して発現が共通変動する遺伝子群の平均発現変動率を指標とすることにより、従来の評価方法に比べてより正確に毒性の有無を予測することができるという優れた効果を奏する。
本発明の化合物のPLsis誘発ポテンシャルの予測方法は、偽陽性および偽陰性の確率が低く、信頼性に優れたPLsis誘発ポテンシャルのインビトロ評価系であるだけでなく、従来よりも迅速且つ簡便に多検体を処理することができるので、特に、創薬初期段階での医薬候補化合物の毒性評価に有用である。
【配列表フリーテキスト】
配列番号25:kiaa1001遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号26:kiaa1001遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号27:kiaa1001遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号28:asah1遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号29:asah1遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号30:asah1遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号31:mgc4171遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号32:mgc4171遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号33:mgc4171遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号34:lss遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号35:lss遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号36:lss遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号37:nr0b2遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号38:nr0b2遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号39:nr0b2遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号40:fabp1遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号41:fabp1遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号42:fabp1遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号43:hpn遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号44:hpn遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号45:hpn遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号46:serpina3遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号47:serpina3遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号48:serpina3遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号49:depp遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号50:depp遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号51:depp遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号52:flj22362遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号53:flj22362遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号54:flj22362遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして、機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号55:slc2a3遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号56:slc2a3遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号57:slc2a3遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号58:tagln遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号59:tagln遺伝子転写産物を増幅するためのプライマーとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
配列番号60:tagln遺伝子転写産物の増幅を検出するためのTaqManプローブとして機能すべく設計されたオリゴヌクレオチド。
本出願は、日本で出願された特願2003−397551(出願日:2003年11月27日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸を含有してなる、化合物のリン脂質症誘発ポテンシャル予測用試薬。
【請求項2】
リン脂質症の発現と相関して発現が変動する遺伝子の転写産物とハイストリシジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該転写産物に相補的な塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸を含有する1もしくは2以上の試薬を含んでなる、化合物のリン脂質症誘発ポテンシャル予測用キットであって、2以上の試薬を含む場合、各試薬は互いに異なる遺伝子の発現を検出し得るものであるキット。
【請求項3】
少なくとも1つの試薬は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸、及び/又は該塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸を含有する、請求の範囲2記載のキット。
【請求項4】
哺乳動物細胞を試験化合物に曝露した際の、各試薬中に含有される核酸がハイブリダイズし得る核酸の該細胞内での発現の平均変動率を指標とした場合に、リン脂質症誘発ポテンシャルの予測的中率が約70%以上である、請求の範囲2記載のキット。
【請求項5】
化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの予測方法であって、化合物に曝露された哺乳動物細胞含有試料もしくは化合物を投与された哺乳動物より採取した試料における、リン脂質症の発現と相関して発現が変動する1以上の遺伝子の発現変動を検出することを含む方法。
【請求項6】
少なくとも1つの遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するものである、請求の範囲5記載の方法。
【請求項7】
化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの有無を判定するための基準を決定する方法であって、
(1)2以上の既知リン脂質症誘発化合物および2以上の既知リン脂質症非誘発化合物の各々に曝露された哺乳動物細胞含有試料もしくは該化合物の各々を投与された哺乳動物より採取した試料における、リン脂質症の発現と相関して発現が変動する1以上の遺伝子の発現変動を検出し、
(2)該遺伝子の発現の平均変動率とリン脂質症誘発ポテンシャルとの関係から、上記化合物のリン脂質症誘発ポテンシャルの有無を約70%以上正しく判定することができる平均変動率の値を基準値とすることを含む方法。
【請求項8】
少なくとも1つの遺伝子は、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21および23のいずれかに示される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するものである、請求の範囲7記載の方法。
【請求項9】
他の既知リン脂質症誘発化合物および既知リン脂質症非誘発化合物を用いて基準値の妥当性を検証することをさらに含む、請求の範囲7記載の方法。
【請求項10】
遺伝子の発現の平均変動を、請求の範囲7または9記載の方法により得られる基準値と比較することを含む、請求の範囲5記載の方法。
【請求項11】
化合物の毒性の予測方法であって、
(1)化合物に曝露された哺乳動物細胞含有試料もしくは化合物を投与された哺乳動物より採取した試料における、毒性の発現と相関して発現が変動する1以上の遺伝子の発現変動を検出し、
(2)該遺伝子の発現の平均変動率を指標として該化合物の毒性の有無を判定することを含む方法。

【国際公開番号】WO2005/052154
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515853(P2005−515853)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017995
【国際出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000002934)武田薬品工業株式会社 (396)
【Fターム(参考)】