説明

薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子

【課題】 薬物を効率よく封入するとともに、薬物を安定に粒子内へ閉じ込め、かつ肝臓に集積し易くする、薬物を封入した肝臓集積製ナノ粒子を提供すること。
【解決手段】 薬物を、ポリDL又はL−乳酸又はポリ(DL又はL−乳酸/グリコール酸)共重合体、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体、金属イオン及び塩基性低分子化合物とからなるナノ粒子へ封入させることにより得られる薬物封入ナノ粒子であり、薬物として、例えば、抗肝炎ウイルス薬、肝癌治療薬又は肝機能改善薬であり、優れた肝臓集積性及び持続性を示す薬物封入ナノ粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を封入したナノ粒子に関し、さらに詳しくは肝臓に集積することにより薬物の一層の薬理効果及び副作用の軽減をはかることができる薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルスに感染すると高率で慢性肝炎に進展し、さらに肝硬変、肝臓癌に至る場合もある。わが国では約200万人のC型肝炎ウイルス感染者がいると推定されており、この感染症に起因したC型肝炎から進行した肝臓癌により毎年2万人が死亡している。
その治療法としては、インターフェロン又はインターフェロンにポリエチレングリコールを化学修飾したペグインターフェロンと抗肝炎ウイルス薬、例えばリバビリンとの併用療法が主流である。
【0003】
しかし、ペグインターフェロンと抗肝炎ウイルス薬であるリバビリンとの併用療法の治癒率は、48週投与で50%程度にとどまり、その治療には副作用が伴う。特に、リバビリンによる溶血性貧血の副作用は完全治癒に至るまでの大きな障壁となっている。
【0004】
近年において、薬物送達システム、すなわちドラッグデリバリーシステム(DDS:Drug Delivery System)に基づく製剤(DDS製剤)の開発が積極的に行われてきており、患部ターゲッティング、作用持続性、薬物徐放性、副作用軽減などを目的として、各種薬物に広く応用されている。
【0005】
本発明者らは、水溶性非ペプチド性低分子薬物を金属イオンで疎水化し、それをポリ乳酸(PLA)又はポリ乳酸−グリコール共重合体(PLGA)微粒子に封入した徐放性ターゲッティングを目的としたナノ粒子製剤を提案している(特許文献1)。
さらに本発明者らは、水溶性非ペプチド性低分子薬物を金属イオンで疎水化し、さらに塩基性低分子化合物を加え、これをポリエチレングリコールが結合したポリ乳酸(PEG−PLA)又はポリ乳酸−グリコール共重合体(PEG−PLGA)に封入したナノ粒子を提案している。このナノ粒子はステルス型ナノ粒子と称して肝臓への滞留、蓄積を低減したものである(特許文献2)。
【0006】
ところで、ガラクトースを結合した合成高分子鎖をポリ乳酸(PLA)ナノ粒子表面にコーティングした製剤が知られており(非特許文献1、非特許文献2)、そのナノ粒子の肝臓到達、急性肝炎に対する治療効果が検証されている(非特許文献3)。また、アラビノガラクタンとポリリジンを結合させた結合体とDNAとを混合した製剤(ポリ乳酸は使用していない。)が肝臓に到達することが確認されている(非特許文献4)。さらに、デキストランとポリリジンとの結合体とポリ乳酸(PLA)からなるナノ粒子が開示されている(非特許文献5)。
【0007】
しかしながら、ポリ乳酸又はポリ(乳酸/グリコール酸)共重合体と、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体と、金属イオンと塩基性低分子化合物とからなるナノ粒子へ薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開 WO 2004/084871
【特許文献2】国際公開 WO 2007/074604
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biomaterials, 15.13. 1035-1042 (1994)
【非特許文献2】Biomaterials, 22. 45-51 (2001)
【非特許文献3】Hepatology. 32(6), 1300-8, (2000)
【非特許文献4】Prep. Biochem. Biotech., 29, 353-370 (1999)
【非特許文献5】Bioconjugate Chemistry, 8, 735-742 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明は、薬物を効率よく封入するとともに、薬物を安定に粒子内へ閉じ込め、かつ肝臓に集積し易くする、薬物を封入した肝臓集積製ナノ粒子を提供することを課題とする。
【0011】
かかる課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討した結果、薬物を、ポリDL又はL−乳酸又はポリ(DL又はL−乳酸/グリコール酸)共重合体、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体、金属イオン及び塩基性低分子化合物とからなるナノ粒子へ封入させることにより得られる薬物封入ナノ粒子が、優れた肝臓集積性及び持続性を示すことを確認して、本発明を完成するに至った。
【0012】
特に本発明は、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体を粒子表面に取り込むことにより、優れた肝臓集積性及び持続性を示す点に特徴がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって本発明は、薬物を効率よく封入し、薬物を安定に粒子内へ閉じ込め、かつ肝臓に集積するため、肝臓疾患を治療する薬物に対して特に有利性を発揮するナノ粒子を提供する。
例えば、抗肝炎ウイルス薬のリバビリンは溶血性貧血の副作用が強いため患者が完全治癒するに至るまでの投与が困難であったが、本発明のナノ粒子に封入することによりリバビリンを粒子内に安定に閉じ込めることができ、血中における赤血球とリバビリンとの相互作用をなくして溶血性貧血の副作用が回避することができる。
したがって、本発明は、特に抗肝炎ウイルス薬、肝癌治療薬又は肝機能改善薬を封入した肝臓集積性ナノ粒子を提供する。
さらに本発明は、当該ナノ粒子を有効成分とする医薬を提供する。
【0014】
より具体的には、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(1)薬物を、ポリDL又はL−乳酸又はポリ(DL又はL−乳酸/グリコール酸)共重合体、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体、金属イオン及び塩基性低分子化合物とからなるナノ粒子へ封入したことを特徴とする、薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子;
(2)粒子の直径が20〜300nmである上記1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子;
(3)金属イオンが、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオン、ベリリウムイオン、マンガンイオン又はコバルトイオンの1種又は2種以上である上記1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子;
(4)塩基性低分子化合物が、(ジメチルアミノ)ピリジン、ピリジン、ピペリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、キノリン、キヌクリジン、イソキノリン、ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ナフチルアミン、モルホリン、アマンタジン、アニリン、スペルミン、スペルミジン、ヘキサメチレンジアミン、プトレシン、カダベリン、フェネチルアミン、ヒスタミン、ジアザビシクロオクタン、ジイソプロピルエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミンからなる群から選択される1種又は2種以上のものである上記1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子;
(5)薬物が、前記金属イオンにより疎水化されるためのリン酸基、硫酸基又はカルボキシル基を分子内に有しているか又はそれらの基が結合されている薬物であることを特徴とする上記1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子;
(6)薬物が、抗肝炎ウイルス薬、肝癌治療薬又は肝機能改善薬である上記1又は5に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子;
(7)抗肝炎ウイルス薬がリバビリン又はリバビリン−リン酸である上記6に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子;
(8)上記1〜7に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子を有効成分とする医薬;
である。
【0015】
すなわち本発明は、薬物を、ポリDL又はL−乳酸又はポリ(DL又はL−乳酸/グリコール酸)共重合体、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体、金属イオン及び塩基性低分子化合物とからなるナノ粒子へ封入された、肝臓集積性ナノ粒子を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、薬物を効率よく封入し、薬物を安定に粒子内へ閉じ込め、かつ肝臓に集積するため、肝臓疾患を治療する薬物に対して特に有利性を発揮する。また、ナノ粒子の構成成分が生分解性ポリマーであるため生体内で徐々に分解されることにより封入されている薬物が少しずつ放出され、その結果薬理効果が長期にわたり持続可能になる。
【0017】
本発明の最大の特徴点は、肝臓への集積性が高いため肝臓ターゲッティングを可能にしている点である。ガラクトースを有する分子は、肝臓の肝実質細胞のレセプターと結合しエンドサイトーシス経由で細胞内に取り込まれることが知られている。したがって、本発明のナノ粒子の表面にガラクトースを主成分とした糖鎖を配することで、薬物を肝臓に運搬可能にしている。
その結果、本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、経口剤、非経口剤のいずれの投与形態の製剤にも容易に調製できる特徴を有している。
【0018】
したがって、これまで十分に達成されていなかった肝臓へのターゲッティング及び持続的な徐放性を向上させ、患部で効率良く薬理効果を発揮し副作用を軽減させるナノ粒子を提供する点で、特に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の結果を示した図であり、アラビノガラクタンとポリリジンとの結合体の生成を示した。
【図2】実施例2の結果を示した図であり、鉄イオン及びジエタノールアミンと粒子封入率の結果を示した。
【図3】実施例2の結果を示した図であり、アラビノガラクタンとポリリジンとの結合体及びジエタノールアミンと粒子封入率の結果を示した。
【図4】実施例2の結果を示した図であり、添加条件と粒子封入率の結果を示した。
【図5】実施例3の結果を示した図であり、ナノ粒子の凝集試験の結果を示した。
【図6】実施例4の結果を示した図である。細胞の顕微鏡像を示した。
【図7】実施例4の結果を示した図であり、リバビリンの細胞内取り込みの結果を示した。
【図8】実施例5の結果を示した図であり、リバビリンの肝臓集積性試験の結果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の基本的態様である薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、薬物を、ポリDL又はL−乳酸又はポリ(DL又はL−乳酸/グリコール酸)共重合体、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体、金属イオン及び塩基性低分子化合物とからなるナノ粒子へ封入させることにより得られる。
【0021】
本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、ナノ粒子を形成する成分のひとつとしてアラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体を使用することに一つの特徴点を有する。すなわち、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子を使用することにより、ナノ粒子を肝臓に集積し易くすることができる。
【0022】
上記により提供される本発明の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、錠剤、カプセル剤、散剤などの経口投与剤、および静脈注射用製剤、局所注射用製剤、点鼻剤、点眼剤、吸入剤、噴霧剤などの非経口投与用製剤とすることにより、投与することができる。
【0023】
本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、例えば、以下の手段により作製することができる。
すなわち、薬物と、ポリDL又はL−乳酸又はポリ(DL又はL−乳酸/グリコール酸)共重合体と、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体と、金属イオンと、塩基性低分子化合物とを有機溶媒に溶解又は懸濁し、これを大量の水に徐々に添加することでナノ粒子を作製することができる(Oil-in-Water 型溶媒拡散法)。
この場合、薬物の量や添加速度を調整することにより、様々な物性を有するナノ粒子が作製できる。
【0024】
アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体に使用される体内分解性カチオン性高分子としては、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、塩基性アミノ酸を多く含むポリペプチド、キチン、キトサンなどが挙げられ、ポリリジンが好ましく使用される。
【0025】
アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体は、透析精製したアラビノガラクタンをシアノ水素化ホウ素ナトリウムと体内分解性カチオン性高分子と一緒に水系溶媒に溶解し、水酸化ナトリウムなどの塩基でpH7.5〜9.0の塩基性とし、40〜100℃で加熱攪拌することにより生成することができる。
【0026】
金属イオンとしては、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオン、ベリリウムイオン、マンガンイオン、コバルトイオンのいずれかであり、それらの水溶性金属塩の1種又は2種以上が使用される。そのなかでも好ましくは亜鉛イオン、鉄イオンであり、塩化亜鉛、塩化鉄などが好ましく使用できる。
【0027】
上記の反応に使用される溶媒としては、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、プロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの有機溶媒、あるいはこれらの含水溶媒であり、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、テトラヒドロフランが好ましい。
【0028】
本発明に使用される薬物は、上記の金属イオンと結合して疎水化され易いように分子内にリン酸基、硫酸基又はカルボキシル基を有しているか又はこれらの基が薬物の分子と結合されている薬物であることが好ましい。
また、薬物の分子量は1,000以下であることが好ましい。
【0029】
そのような薬物として種々の薬物を挙げることができるが、なかでも薬物封入ナノ粒子が肝臓に集積するため肝臓疾患を治療する薬物にとって特に有利であり、例えば、抗肝炎ウイルス薬、肝癌治療薬、肝機能改善薬などが好適である。
より具体的には、リバビリン、ラミブジン、アデホビル、エンテカビル、ビダラビンなどの抗肝炎ウイルス薬;シクロホスファミド、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、テガフール、シタラビン、ドキソルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、マイトマイシンなどの肝癌治療薬;ウルソデオキシコール酸、フロプロピオン、グルタチオン、グリチルリチン酸などの肝機能改善薬などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なかでも、リバビリン、リバビリンとリン酸が結合したリバビリン−リン酸が好ましい。
【0030】
本発明の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子おいて、さらに塩基性低分子化合物を混合することにより、薬物のナノ粒子への封入率が増加する。
このような塩基性低分子化合物としては(ジメチルアミノ)ピリジン、ピリジン、ピペリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、キノリン、キヌクリジン、イソキノリン、ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ナフチルアミン、モルホリン、アマンタジン、アニリン、スペルミン、スペルミジン、ヘキサメチレンジアミン、プトレシン、カダベリン、フェネチルアミン、ヒスタミン、ジアザビシクロオクタン、ジイソプロピルエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン等を挙げることができ、好ましくは、2級又は3級アミン類であり、ジエタノールアミンが特に好ましい。
【0031】
本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子にあっては、その粒子の直径は20〜300nmの範囲内であり、好ましくは50〜200nmであり、それぞれの薬物の治療目的に応じてその粒子径を決定することができる。
例えば、薬物が抗肝炎ウイルス薬の場合には、50〜200nmの粒径を有するナノ粒子を経口投与又は静脈注射投与することが好ましい。
【0032】
本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子において各薬物の量や溶媒拡散法における水への添加速度、金属イオンや塩基性低分子化合物の添加量によって封入率が異なり、その際粒子径も変化する。
【0033】
かくして調製した本発明の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、ナノ粒子の溶液又は懸濁液を、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、フィルター濾過、ファイバー透析などの操作により適宜精製した後、凍結乾燥して取得、保存されることが好ましい。
【0034】
その際、凍結乾燥した製剤を再懸濁して投与できるようにするため安定化剤及び/又は分散化剤を加えて凍結乾燥されることが好ましく、そのような安定化剤、分散化剤としてはショ糖、トレハロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどが好ましく使用される。
【0035】
本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、静脈注射用製剤、局所注射用製剤、点鼻剤、点眼剤、吸入剤、噴霧剤などの非経口投与用製剤の医薬品として使用され、なかでも静脈注射用製剤とすることで当該ナノ粒子の特性、効果をより良く発揮することができる。また、通常の賦形剤、添加剤を用いて錠剤、カプセル剤、散剤などの経口投与剤の医薬品として使用される。
【0036】
これらの非経口投与用製剤及び経口投与用製剤の調製に使用される基剤、その他の添加剤成分としては、製剤学的に許容され、使用されている各種基剤、成分を挙げることができる。具体的には、生理食塩水、単糖類、二糖類、糖アルコール類、多糖類などの糖類;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、結晶セルロースなどの高分子添加剤;イオン性又は非イオン性界面活性剤;などが剤型に応じて適宜選択され、使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1:アラビノガラクタン(AG)とポリリジン(PLL)との結合体(AG−PLL)の合成
アラビノガラクタン(AG、東京化成製)を3日間透析精製し凍結乾燥を行ったあと回収した。この精製したアラビノガラクタン600mg、シアノ水素化ホウ素ナトリウム300mg、ポリリジン(PLL、シグマ社製)100mgを水8mLに溶解し、4N水酸化ナトリウム水溶液を添加しpHを8.5に調整した。この溶液を60℃で18時間攪拌した。5倍量のエタノールを用いて再沈精製を3回繰り返し行った後、凍結乾燥した。得られた反応生成物は、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)により分析した。カラムはTSKgelα3000及びTSKgelα2500(トーソー製)を使用し、示差屈折計及び紫外/可視分光光度計により検出した。また、得られた反応生成物にアミノ基検出試薬であるトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を添加し、同様にサイズ排除クロマトグラフィーにより解析した。
【0039】
示差屈折計による解析の結果、反応生成物はアラビノガラクタンよりもわずかに早く溶出された。さらに、TNBSを添加し、その吸収波長である365nmで検出したところ、アラビノガラクタンではピークが見られなかったのに対し、反応生成物では示差屈折計で見られたピーク位置と同じ位置に吸収のピークが認められた(図1参照)。したがって、この反応生成物はアラビノガラクタンとポリリジンが結合した結合体(AG−PLL)であることが明らかになった。なお、収率は94%であった。
【0040】
実施例2:ナノ粒子の調製
(1)リバビリン−リン酸(RMP)の製造法
リバビリン−リン酸は、J. Med. Chem., 21(8), 742-746(1978) に記載の方法により製造した。
すなわち、リバビリン、リン酸トリメチル、塩化ホスホリル及び水を混合し、氷冷しながら5時間攪拌した。160gの氷を添加し、溶解後、4規定水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを3に調整した。この溶液をクロロホルムで洗浄後、活性炭に吸着させ、水/エタノール/アンモニア水(10:10:1)の混合溶媒で溶出した。得られたリバビリン−リン酸は、NMR及び質量分析により確認した。
【0041】
(2)リバビリン−リン酸を含有するナノ粒子の調製(溶媒拡散法)
ポリDL−乳酸(多木化学製)、アラビノガラクタンとポリリジンとの結合体、リバビリン−リン酸、塩化第二鉄及びジエタノールアミンをジメチルスルホキシドに溶解し、この溶液を大量の水中に攪拌子で攪拌しながら徐々に添加することによりナノ粒子を得た。その際、使用した各化合物の使用量や添加速度などを変化させ、ナノ粒子の粒子径及びリバビリン−リン酸の粒子内への封入率に及ぼす影響を評価した。それぞれの結果を図2、図3、図4に示した。
【0042】
図2から、塩化第二鉄及びジエタノールアミン(DEA)の量を変化させることによりリバビリン−リン酸(RMP)の封入率が大きく影響を及ぼしていることがわかる。すなわち、鉄量として7.5、11.25、15.0μmolを使用し、同時にジエタノールアミン(DEA)量も変えて調整されたナノ粒子中に封入されたリバビリン−リン酸の量を高速液体クロマトグラフィーにより定量した。
その結果、最大の封入効率を得るための至摘なジエタノールアミンの量が存在していた。また、その量は、鉄量が多くなるほど多量のジエタノールアミンが必要であることが判明した。
【0043】
図3に、アラビノガラクタンとポリリジンとの結合体(AG−PLL)の量として0、2.5、5.0mgを使用し、同時にジエタノールアミン(DEA)の量も変えて調製されたナノ粒子中に封入されたリバビリン−リン酸(RMP)の量を高速液体クロマトグラフィーにより定量した結果を示した。
その結果、最大の封入効率を得るための至摘なジエタノールアミンの量が存在していた。また、その至摘量や最大封入効率は、アラビノガラクタンとポリリジンの量にはあまり依存していないことが判明した。
【0044】
図4に、水相の攪拌の有無、ジメチルスルホキシド溶液の添加速度の変化及びジエタノールアミン(DEA)の量を変えて調製したナノ粒子中に封入されたリバビリン−リン酸(RMP)の量を液体クロマトグラフィーにより定量した結果を示した。
その結果、攪拌が有効であり、最大の封入効率を得るための至摘なジエタノールアミンの量が存在することがわかった。また、最大封入効率は、ジメチルスルホキシド溶液の添加速度に依存することが判明した。
【0045】
リバビリン−リン酸の代わりにリン酸基が結合していないリバビリンを用いナノ粒子を調製した。
ポリDL−乳酸(多木化学製)、アラビノガラクタンとポリリジンとの結合体、リバビリン、塩化第二鉄及びジエタノールアミンをジメチルスルホキシドに溶解し、この溶液を大量の水中に攪拌子で攪拌しながら徐々に添加することにより、ナノ粒子を得た。
リバビリンの封入効率は0.53重量%であり、リバビリン−リン酸の場合の1.58重量%に比較して低いものの、リバビリンを封入したナノ粒子が調製可能であることが判明した。この点から、リバビリン−リン酸におけるリン酸基が、ナノ粒子内への封入に重要な役割を果たしていることが理解される。
なお、塩化第二鉄を用いずに調製した場合には、リバビリンはナノ粒子内に全く封入されていなかった。
【0046】
また、リバビリン−リン酸やリバビリンなどの薬物を含有しない薬物未封入ナノ粒子は、ポリ乳酸とアラビノガラクタンとポリリジンとの結合体だけを使用してジメチルスルホキシドに溶解し、前記と同様な溶媒拡散法により調整が可能であった。
【0047】
実施例3:ナノ粒子の物性評価
実施例2の結果を精査することにより、粒子径が比較的小さくかつリバビリン−リン酸の封入効率が高いナノ粒子を調整する条件を決定した。すなわち、得られたナノ粒子の粒子径は105nmであり、リバビリン−リン酸の封入率は1.7重量%であり、ナノ粒子中のアラビノガラクタンの含量は5.7重量%であった。ゼータ電位の値は、アラビノガラクタンを添加せずに調整したナノ粒子では−43.4mVであったのに対し、本発明のナノ粒子では−7.7mVであった。また、ガラクトース残基を特異的に認識するヒーナッツレクチン(PNA)をこのナノ粒子の懸濁液に添加すると、ナノ粒子の凝集が観察された(図5を参照、左:ナノ粒子懸濁液、右:PNAを添加したナノ粒子懸濁液)。
【0048】
以上の結果から、アラビノガラクタンの分子がナノ粒子の表面に配位し露出していることが判明し、そしてレクチンによりガラクトース残基が認識可能であることが明らかになった。
【0049】
実施例4:細胞との相互作用評価
HepG細胞(ヒト肝がん由来細胞株)を50,000Cells/8wellチャンバースライドに播種し、一晩インキュベートした。培地をOpti−MEMに交換し、ラベルした蛍光物質ローダミン123を封入したナノ粒子を添加後3時間インキュベートした。細胞を生理食塩水で3回洗浄し、4%ホルムアルデヒド液で細胞を固定後、蛍光顕微鏡で観察した。
【0050】
図6に細胞の顕微鏡像を示した。アラビノガラクタンとポリリジンとの結合体(AG−PLL)を用いて調製したナノ粒子は、それを用いないで調製したナノ粒子(糖未修飾ナノ粒子)に比べて細胞内に顕著に取り込まれていることが判明した。
【0051】
さらに、細胞内に取り込まれたリバビリンの定量を行った。HepG細胞を200万Cells/プレートで播種し、一晩インキュベートした。培地をOpti−MEM培地に変えて、粒子又はリバビリンを添加し3時間、37℃でインキュベートした。細胞をトリプシン処理し、遠心により回収した細胞ペレットを超音波処理した。アセトニトリルを添加して粒子を溶解し、酸性フォスファターゼ処理したあと脱リン酸を行い、カートリッジカラムで精製したのち高速液体クロマトグラフィーによりリバビリンの量を定量した。
【0052】
その結果を図7に示した。リバビリン単独よりも、リバビリン−リン酸(RMP)をナノ粒子内に封入することにより、多量のリバビリンが細胞内に取り込まれることが判明した。
【0053】
実施例5:肝臓集積性の動物実験
マウス(C57BL6マウス、雌性、6週令、体重約20g)にリバビリン水溶液又はリバビリン−リン酸封入ナノ粒子懸濁液を尾静脈注射し、所定時間後肝臓を採取してホモジナイズした。ホモジナイズ液にアセトニトリルを添加して粒子を溶解し、酸性フォスファターゼ処理した後、脱リン酸を行い、カートリッジカラムで精製した後、高速液体クロマトグラフィーによりリバビリンを定量した。
【0054】
その結果を図8に示した。リバビリン水溶液を投与した場合に比べ、リバビリンを封入したナノ粒子を投与することで肝臓にリバビリンが顕著に集積することが明らかになった。また、肝臓に集積したリバビリンは投与後徐々に減少し7日後においても残存していることがわかり、リバビリンが肝臓でナノ粒子から徐々に放出され、薬効の持続性を有することが判明した。
なお、図中、RBVはリバビリン水溶液、NPはバビリン−リン酸封入ナノ粒子を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上記載のように、本発明が提供する薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子は、これまで十分に達成されていなかった肝臓へのターゲッティング及び持続性を向上させ、患部で効率良く薬理効果を発揮させるナノ粒子である。
したがって、肝臓疾患の治療に使用する抗肝炎ウイルス薬、肝癌治療薬、肝機能改善薬などの肝臓へのターゲッティング、肝臓における持続性を達成することができる点で、その産業上の利用性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を、ポリDL又はL−乳酸又はポリ(DL又はL−乳酸/グリコール酸)共重合体、アラビノガラクタンと体内分解性カチオン性高分子との結合体、金属イオン、及び塩基性低分子化合物とからなるナノ粒子中へ封入したことを特徴とする、薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子。
【請求項2】
粒子の直径が20〜300nmである請求項1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子。
【請求項3】
金属イオンが、亜鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオン、ベリリウムイオン、マンガンイオン又はコバルトイオンの1種又は2種以上である請求項1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子。
【請求項4】
塩基性低分子化合物が、(ジメチルアミノ)ピリジン、ピリジン、ピペリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、キノリン、キヌクリジン、イソキノリン、ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン、ナフチルアミン、モルホリン、アマンタジン、アニリン、スペルミン、スペルミジン、ヘキサメチレンジアミン、プトレシン、カダベリン、フェネチルアミン、ヒスタミン、ジアザビシクロオクタン、ジイソプロピルエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミンからなる群から選択される1種又は2種以上のものである請求項1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子。
【請求項5】
薬物が、前記金属イオンにより疎水化されるためのリン酸基、硫酸基又はカルボキシル基を分子内に有しているか又はそれらの基が結合されている薬物であることを特徴とする請求項1に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子。
【請求項6】
薬物が、抗肝炎ウイルス薬、肝癌治療薬又は肝機能改善薬である請求項1又は5に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子。
【請求項7】
抗肝炎ウイルス薬が、リバビリン又はリバビリン−リン酸である請求項6に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の薬物を封入した肝臓集積性ナノ粒子を有効成分とする医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53103(P2013−53103A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192838(P2011−192838)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(303010452)株式会社LTTバイオファーマ (27)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】