説明

薬物イオン投与方法及びピン型イオントフォレーシス装置

【課題】
ピアス孔の内側の粘膜から薬液を投与できるようにしたピン型イオントフォレーシス装置を提供する。
【解決手段】ピン型イオントフォレーシス装置10は、耳たぶ20を両側からはさみ込む作用側電極構造体12、非作用側電極構造体14を有して構成され、作用側電極構造体12には、薬物イオンを保持する薬液保持部28と、皮膚に接触する第1イオン選択性膜30とを少なくとも有してなり、作用側電極構造体12の先端の第1イオン選択性膜30は、その中央部が、薬液保持部28と共にピアス孔21に挿入可能な太さの突起部48とされ、この突起部48をピアス孔21に挿入することによって、薬液をピアス孔21の内周面から投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレーシスにより薬剤イオンを生体に投与するための方法及びそれに用いられるピン型イオントフォレーシス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなイオントフォレーシス装置は、皮膚や粘膜に薬物イオンを浸透させるものであって、従来、小さい場合でも直径が20mm程度の比較的広い面積の皮膚や粘膜を対象としている。
【0003】
このイオントフォレーシス装置は、例えば、特許文献1に記載されるように、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体とを有し、これらを異なる極性で直流電源に接続されていて、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体のそれぞれの先端に、皮膚あるいは粘膜に接触するイオン交換膜等が配置されている。
【0004】
皮膚は、皮脂や汗が分泌されるため、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体の先端のイオン交換膜を密着させることが困難な場合があり、薬液投与の際の障壁電圧が高くなって電池(直流電源)の効率が低下してしまう。
【0005】
他方、粘膜から薬物イオンを投与する場合は、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体先端のイオン交換膜を粘膜に密着させるために、患者や医師がこれらを押えたり、あるいは特殊な粘着剤を用いて密着させる必要があり、使い勝手が悪く、使用者の負担が大きいという問題点がある。
【0006】
【特許文献1】WO03/037425A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、薬液投与の際の障壁電圧が高くなく、取扱いが簡単で使用者の負担が少ない薬物イオン投与方法及びピン型イオントフォレーシス装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、ピアス孔等の、生体に人工的に形成さる孔の内周面が、外皮と比較して障壁電圧が低く、電池の効率が高くなると共に使用者の負担を小さくできることを見出し、この孔の内周面からイオントフォレーシスにより薬物イオンを投与する方法及びそれに用いるピン型イオントフォレーシス装置を考えた。
【0009】
即ち、以下の各実施例により上記課題を解決することができる。
【0010】
(1)生体に人工的に孔を形成し、該孔の内周面から、イオントフォレーシスにより薬物イオンを投与することを特徴とする薬物イオン投与方法。
【0011】
(2)前記生体は哺乳動物であり、この哺乳動物の耳たぶにピアス孔を形成し、このピアス孔の内周面から、イオントフォレーシスにより薬物イオンを投与することを特徴とする(1)に記載の薬物イオン投与方法。
【0012】
(3)イオントフォレーシスにより薬物イオンを投与するために使用される作用側電極構造体及び非作用側電極構造体と、これらの作用側電極構造体及び非作用側電極構造体に異なる極性で接続される直流電源と、を有し、前記作用側電極構造体は、前記直流電源における前記薬物イオンと同性の極性に接続された作用側電極、この作用側電極に電気的に接続されると共に前記薬物イオンを保持する薬液保持部、この薬液保持部の前面に配置され、薬物イオンと同種のイオンを選択して通過させる第1イオン選択性膜を少なくとも有してなり、前記第1イオン選択性膜及び薬液保持部の少なくとも一部は、生体に形成された孔への挿入が可能な太さのピン形状の突起部とされ、この突起部の第1イオン選択性膜から薬液保持部の薬液の投与可能とされたことを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【0013】
(4)前記作用側電極構造体は、一対設けられ、これらは、前記突起部が対向するように配置されたことを特徴とする(3)に記載のピン型イオントフォレーシス装置。
【0014】
(5)前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体は、相互に先端が対向して配置され、非作用側電極構造体は、その先端に、前記突起部に対向する部分が非導通部とされたイオン選択性膜を有することを特徴とする(3)に記載のピン型イオントフォレーシス装置。
【0015】
(6)前記非作用側電極構造体は、その先端に、作用側電極構造体における前記突起部と対向する位置に、絶縁体からなり、前記突起部とほぼ同径のピン形状の対向突起部を有することを特徴とする(5)に記載のピン型イオントフォレーシス装置。
【0016】
(7)前記非作用側電極構造体は、前記直流電源における、前記薬物イオンの帯電イオンと反対の極性に接続された非作用側電極と、この非作用側電極に、電気的に接続されると共に、電解液を保持する電解液保持部と、この電解液保持部の前面に配置され、前記薬物イオンの帯電イオンと反対のイオンを選択して通過させる非作用側のイオン選択性膜と、を少なくとも有してなり、且つ、前記非作用側イオン選択性膜及び電解液保持部の少なくとも一方はピアス孔への挿入が可能な太さの非作用側突起部とされ、前記作用側電極構造体及び非作用側電極構造体は、相互に先端の前記突起部と非作用側突起部とが、これらの突起部の中心軸線に対して直交する方向にずれて、且つ、対向して配置されたことを特徴とする(3)に記載のピン型イオントフォレーシス装置。
【0017】
(8)前記作用電極構造体及び非作用電極構造体を、相互の先端が接近する方向に付勢又は締付可能に支持する締付装置を有することを特徴とする(5)乃至(7)のいずれかに記載のピン型イオントフォレーシス装置。
【0018】
(9)前記作用側電極構造体における突起部は、細い棒状の前記作用側電極の外周に、少なくとも前記薬液保持部と、前記第1イオン選択性膜とを、この順で積層して構成されたことを特徴とする(3)乃至(8)のいずれかに記載のピン型イオントフォレーシス装置。
【0019】
(10)前記作用側電極構造体は、前記作用側電極と、この作用側電極の前面に配置され、電解液を保持する電解液保持部と、この電解液保持部の前面に配置され、前記薬物イオンと反対のイオンを選択して通過させる第2イオン選択性膜と、この第2イオン選択性膜の前面に配置された前記薬液保持部と、この薬液保持部の前面に配置された前記第1イオン選択性膜と、を有してなり、前記非作用側電極構造体は、前記直流電源における、前記薬物イオンと反対の極性に接続された非作用側電極と、この非作用側電極の前面に配置され、第2電解液を保持する第2電解液保持部と、この第2電解液保持部の前面に配置され、前記薬物イオンと同種のイオンを選択して通過させる第3イオン選択性膜と、この第3イオン選択性膜の前面に配置され、第3電解液を保持する第3電解液保持部と、この第3電解液保持部の前面に配置され、前記イオン性薬剤の帯電イオンと反対のイオンを選択して通過させる非作用側イオン選択性膜である第4イオン選択性膜と、を有してなることを特徴とする(3)乃至(9)のいずれかに記載のピン型イオントフォレーシス装置。
【発明の効果】
【0020】
この発明において、作用側電極構造体の先端の第1イオン選択性膜及び薬液保持部の少なくとも一部が小径のピン状突起部とされ、ここから、薬液の投与が可能であるので、例えば、耳たぶに形成されたピアス孔に突起部の先端を挿入すると、該突起部から、ピアス孔における障壁電圧の低い内周面を経由して、電池の効率を低くすることなく、且つ、使用者の負担が少なく薬物イオンを投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明を実施するための最良の形態に係るピン型イオントフォレーシス装置は、作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を有し、作用側電極構造体の先端の第1イオン選択性膜及び薬液保持部の少なくとも一部が、外径が0.8mm〜1.6mmの太さのピン状の突起部とされ、この突起部の第1イオン選択性膜から薬液保持部の薬液の投与が可能とされ、又、非作用側電極構造体は、前記作用側電極構造体における突起部と対向する先端を有し、該先端の第4イオン選択性膜は、前記突起部に対向する部分が絶縁膜により被われて、突起部と接触しないようにされている。例えば耳たぶのピアス孔に用いる場合は、突起部をピアス孔の一方から挿入し、非作用側電極構造体の第4イオン選択性膜は、突起部と反対側から、且つピアス孔の外側から耳たぶに接触するように構成されている。
【実施例1】
【0022】
次に、図1、図2に示される、本発明の実施例1に係るピン型イオントフォレーシス装置10について説明する。
【0023】
このピン型イオントフォレーシス装置10は、薬物イオンを投与するために使用される作用側電極構造体12及び非作用側電極構造体14とこれらが異なる極性で接続される直流電源16とを有して構成されている。
【0024】
これら作用側電極構造体12と非作用側電極構造体14は、それぞれの先端が、例えば耳たぶ20を挟み込むことができるように対向して締付装置18に取付けられている。この締付装置18は、通常のイヤリングと同様に、ばねの弾性により、あるいは作用側電極構造体12を螺進させることによって、両者間で、耳たぶ20を挟み込むことができるようにされている。
【0025】
前記作用側電極構造体12は、基端側から、作用側電極22と、電解液保持部24と、第2イオン選択性膜26と、薬液保持部28と、第1イオン選択性膜30と、をこの順で積層して構成され、ほぼ円板形状とされている。
【0026】
前記作用側電極22は、ベースシート32の一方の面に塗布された、例えばカーボンペースト等の非金属導電フィラーが配合された導電塗料から構成すると良い。この作用側電極22も銅板や金属薄膜によって構成することもできるが、ここから溶出した金属が薬剤塗料に際して生体に移行することも考えられるので、非金属製が好ましい。
【0027】
前記電解液保持部24は、電解質を含み、この電解質は、水の電解反応(プラス極での酸化及びマイナス極での還元)よりも酸化又は還元され易い電解質、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)やアスコルビン酸ナトリウム等の医薬剤、乳酸、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸等の有機酸及び/又はその塩を使用することが特に好ましく、これにより、酸素ガスや水素ガスの発生を抑制することが可能であり、又、溶媒に溶解した際に緩衝電解液となる組合せの複数種の電解質を配合することにより、通電中におけるpHの変動を抑制することもできる。
【0028】
又、電解質保持部24は、ガーゼや濾紙などの繊維シート、あるいは、アクリル系樹脂のヒドロゲル(アクリルヒドロゲル)、セグメント化ポリウレタン系ゲルなどの高分子ゲルシートなど、保水性を有する任意の素材よりなる担体に電解液を含浸又は含有させて構成されている。又、電解液を液体状態で保持するものでもよいし、電解質塗料を用いてもよい。
【0029】
前記第2イオン選択性膜26は、後述の、薬液保持部28中の薬物イオンと反対導電型のイオンを対イオンとするイオン交換基が導入されたイオン交換樹脂を含有している。又、第2イオン選択性膜26は、薬液保持部28における薬効成分がカチオンとなる薬物イオンに解離する薬剤が使用される場合には陰イオン交換樹脂が配合され、逆に、薬効成分がアニオンとなる薬物イオンに解離する薬剤が使用される場合には陽イオン交換樹脂が配合される。
【0030】
前記薬液保持部28は、水等の溶媒に溶解する等により薬効成分がカチオン又はアニオン(薬物イオン)に解離する薬剤(薬剤の前駆体を含む)を含有している。薬効成分がカチオンに解離する薬剤としては、麻酔薬である塩酸リドカイン、麻酔薬である塩酸モルヒネ等を例示することができ、薬効成分がアニオンに解離する薬剤としては、ビタミン剤であるアスコルビン酸等を例示することができる。
【0031】
薬液保持部28は、ガーゼや濾紙などの繊維シート、あるいは、アクリル系樹脂のヒドロゲル(アクリルヒドロゲル)、セグメント化ポリウレタン系ゲルなどの高分子ゲルシートなど、保水性を有する任意の素材よりなる担体に電解液を含浸又は含有させて構成されている。又、電解液を液体状態で保持するものでもよいし、薬物を塗料として塗布したものでもよい。
【0032】
前記第1イオン選択性膜30は、薬液保持部28中の薬物イオンと同一導電型のイオンを対イオンとするイオン交換基が導入されたイオン交換樹脂を含有している。又、第1イオン選択性膜30は、薬液保持部28の薬効成分が、カチオン又はアニオンの薬物イオンに解離する薬剤が使用される場合には、陰イオン交換樹脂又は陽イオン交換樹脂が配合される。
【0033】
上記陽イオン交換樹脂としては、ポリスチレン樹脂やアクリル酸系樹脂等の炭化水素系樹脂やパーフルオロカーボン骨格を有するフッ素系樹脂等の3次元的な網目構造を持つ高分子に、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等の陽イオン交換基(対イオンが陽イオンである交換基)が導入されたイオン交換樹脂が制限無く使用することができる。
【0034】
又、上記陰イオン交換樹脂としては、前記陽イオン交換樹脂と同様の3次元的な網目構造を持つ高分子に、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基、ピリジル基、イミダゾール基、4級ピリジニウム基、4級イミダゾリウム基等の陰イオン交換基(対イオンが陰イオンである交換基)が導入されたイオン交換樹脂が制限無く使用できる。
【0035】
前記非作用側電極構造体14は、非作用側ベースシート34の一方の面側に設けられた非作用側電極36と、第2電解液保持部38と、第3イオン選択性膜40と、第3電解液保持部42と、第4イオン選択性膜44とをこの順で積層して構成され、前記作用側電極構造体12と同様に円板形状とされている。
【0036】
前記非作用側電極36は、前記作用側電極構造体12における作用側電極22と同様の構成であり、又、前記第2電解液保持部38及び第3電解液保持部42の構成及び成分も、前記電解液保持部24と同様であるが、成分は必ずしも同一でなくてもよい。
【0037】
更に、前記第3イオン選択性膜40は、前記第1イオン選択性膜34を形成している第1のイオン交換樹脂と同様であり、第1イオン選択性膜34と同様の、イオン交換膜として機能する。
【0038】
前記第4イオン選択性膜44は、第2のイオン交換樹脂から形成されている。この第4イオン選択性膜44は、第2イオン選択性膜26と同様のイオン交換膜として機能する。
【0039】
前記ベースシート32の他方の面には、作用電極端子板22Aが設けられ、この作用電極端子板22Aは、前記作用側電極構造体12の作用側電極22に対して、ベースシート32に設けたスルーホールを介して導通されると共に、電源回路46を介して、前記直導電源16に接続されている。
【0040】
同様に、前記非作用側ベースシート34の他方の面には、非作用電極端子板36Aが設けられていて、この非作用電極端子板34Aは、非作用側電極36に対して、非作用側ベースシート34に形成されたスルーホールを介して導通されると共に、前記電源回路46を経て、直流電源16に接続されている。
【0041】
前記作用側電極構造体12における前記薬液保持部28及び第1イオン選択性膜30は、その中央部に、外径がピアス孔21の孔径とほぼ一致する太さ(通常、孔径は、耳用が0.8mm〜1.6mm、ボディ用が最大12.7mm)のピン状の突起部48が形成されている。この突起部48は、前記ベースシート32の中央部に、先端方向に突出したベース突起32Aを設けることによって、形成されている。
【0042】
また、前記非作用側電極構造体14の、前記突起部48と対向する先端部は、突起部48よりも大きい外径の絶縁膜50が設けられている。
【0043】
前記のピン型イオントフォレーシス装置10の使用の際は、作用側電極構造体12の突起部48が、例えば耳たぶ20に形成されているピアス孔21の一方から挿入する状態で、非作用側電極構造体14とともに、耳たぶ20をはさみ込むようにする。
【0044】
このとき、前記突起部48と対向する非作用側電極構造体14の先端は、第4イオン選択性膜44の中心部が絶縁膜50によって覆われているので、第4イオン選択性膜44の一部がピアス孔21に接触することはない。
【0045】
前記のような状態で、直流電源16から通電すると、薬液保持部28に保持された薬液は、第1イオン選択性膜30からピアス孔21の内周面に浸透していく。この内周面は、粘膜あるいは粘膜に近い性状であるので、外皮と比較して作用側電極構造体12の密着性がよく、薬物イオン投与の際の障壁電圧が低くなり、直流電源の効率が良い。
【0046】
なお、作用側電極構造体12の密着性はよいが、耳たぶ20の血液循環量は生体の他の部位と比較して非常に少なく、又、ピアス孔21の内周面の面積も小さいので、薬液が急激に生体に投与されることはない。即ち、小さな電流でよいので、電源を小型軽量化できて使用者の負担が少なく、薬物イオンを僅かずつ長時間投与する場合に、好適である。
【0047】
図2の符号50は、前記突起部48の周囲を囲むようにして、第1イオン交換膜30の前面に配置された絶縁膜を示す。この絶縁膜50は、ピアス孔21の周囲のかぶれ等を抑制するためのものであり、必ずしも設けなくてもよい。
【0048】
前記突起部48の太さは、ピアス孔21が約0.8〜1.6mmの孔径としたとき、これとほぼ同一径としてもよい。なお、ピアス孔21は突起部48の挿入によって内径を拡大できるので、非装着状態でのピアス孔21の内径よりも外径の大きい突起部48を用いてもよい。この場合、突起部48の、ピアス孔21の内周面への密着性が高くなる。
【実施例2】
【0049】
次に、図3に示される本発明の実施例3にかかるピン型イオントフォレーシス装置60について説明する。
【0050】
このピン型イオントフォレーシス装置60は、作用側電極構造体62の外周に、これと平行にリング状の非作用側電極構造体64を一体的に連結したものを一対設け、ピアス孔21の両端から突起部66が挿入されるように構成したものである。なお、作用側電極構造体62の外周と非作用側電極構造体64の内周との間には、セパレータ63に配置され、両者間を絶縁かつシールするようにされている。
【0051】
又、これら作用側電極構造体62、セパレータ63、非作用側電極構造体64は、共通のベースシート68の一方の面に同心状に配置されている。
【0052】
このベースシート68の中央には、前記ベースシート32におけると同様に、ベース突起68Aが形成されていて、これが、前記突起部48を形成している。
【0053】
更に、前記突起部48の外側を囲むようにして、第1イオン選択性膜30の平面に絶縁膜50が設けられ、第1イオン選択性膜30と耳たぶ20の皮膚とが接触しないようにされている。
【0054】
他の構成部分は、図1、図2に示されるピン型イオントフォレーシス装置10における構成と同一部分には同一符号を付することにより説明を省略するものとする。なお、図3では、直流電流16、作用電極端子板22A、非作用電極端子板36A及び電流回路46の図示が省略されている。
【0055】
この実施例においては、ピアス孔21の両端から突起部48が挿入されて薬液が浸透されるので、実施例1の場合と比較して、単位時間あたりの薬液投与量を増大させることができる。
【実施例3】
【0056】
次に、図4に示される本発明の実施例3に係るピン型イオントフォレーシス装置70について説明する。
【0057】
この実施例3のピン型イオントフォレーシス装置70は、実施例1における作用側電極構造体12と同一構成の作用側電極構造体72と、非作用側電極構造体14に対して絶縁膜の構成が異なる非作用側電極構造体74とから構成されている。
【0058】
前記非作用側電極構造体74は、実施例1における絶縁膜50に代えて、絶縁材料からなる絶縁突起76を第4イオン選択性膜44の中央位置に設けたものである。
【0059】
他の構成は実施例1に係るピン型イオントフォレーシス装置10の構成と同一であるので、同一部分に同一符号を付することにより説明を省略するものとする。
【0060】
この実施例3に係るピン型イオントフォレーシス装置70においては、作用側電極構造体72の突起部48及び非作用側電極構造体74における絶縁突起76は、耳たぶ20のピアス孔21に対して、両側から対向するように挿入されるので、これら作用電極構造体72及び非作用電極構造体74を安定して耳たぶ20に取り付けることができる。
【0061】
なお、実施例1及び3における絶縁膜70あるいは絶縁突起76は、これらが、ピアス孔21の内側の粘膜に対して、電気的に接続されない非導通部であればよく、従って、例えば第4イオン選択性膜44の、前記突起部48に対向する部分を凹部あるいは穴部からなる非導通部としてもよい。
【0062】
又、前記非導通部は、作用側電極構造体のイオン交換膜と非作用側電極構造体のイオン交換膜とがピアス孔21の内周面を介して短絡する恐れがある場合のものであり、短絡することがなければ非導通部としなくてもよい。
【実施例4】
【0063】
次に、図5に示される本発明の実施例4に係るピン型イオントフォレーシス装置80について説明する。
【0064】
この実施例4のピン型イオントフォレーシス装置80は、図4に示される作用側電極構造体72と同様の作用側電極構造体82と、図2に示される実施例1における非作用側電極構造体に、作用側電極構造体72における突起部48と同様の非作用側突起部86を設けた非作用側電極構造体84とから構成されている。
【0065】
この非作用側突起部86は、非作用側電極構造体84における非作用側ベースシート34の中央部に、前記べース突起32Aと同様の、非作用側ベース突起34Aを形成し、この上に、非作用側電極36、第2電解液保持部38、第3イオン選択性膜40、第3電解液保持部42及び第4イオン選択性膜44を積層して、前記非作用側突起部86を形成している。
【0066】
この実施例4の構成は、ピアス孔21の内周面を介して、第1イオン選択性膜30と第4イオン選択性膜44とが短絡する恐れが無い場合に用いられる。
【0067】
特に、この実施例においては、第1イオン選択性膜30及び第4イオン選択性膜44が共に、ピアス孔21の内周面に接触しているので、両者間のインピーダンスが小さく、従って薬物イオンの投与の際の障壁電圧を更に低くすることができる。
【実施例5】
【0068】
次に、図6に示される本発明の実施例5に係るピン型インオトフォレーシス装置90について説明する。
【0069】
この実施例5のピン型イオントフォレーシス装置90は、前記図5に示される実施例4における、作用側電極構造体82と非作用側電極構造体84を、その先端を、突起部48及び非作用側突起部86と直交する方向にずらして設けたものである。
【0070】
この実施例5に係るピン型イオントフォレーシス装置90は、図6に示されるように、ピアス孔21が2箇所設けられていて、且つこれが接近している場合に、一方に作用側電極構造体72、他方に非作用側電極構造体84をそれぞれ装着できるようにしたものである。非作用側電極構造体84は、スライド機構85により図6において上下方向にスライド可能とされ、電源回路46は、スライド時において伸縮可能に、一部コイル状とされている。
【0071】
この実施例5の場合、第1イオン選択性膜30と第4イオン選択性膜44との短絡が無いので、突起部48及び非作用側突起部86を長く、例えばピアス孔21の全長さ範囲で接触するように構成することができる。
【実施例6】
【0072】
次に、図7に示される本発明の実施例6に係るピン型イオントフォレーシス装置100について説明する。
【0073】
このピン型イオントフォレーシス装置100は、細い棒状の突起部103を有する作用側電極構造体102と、実施例3におけると同一の非作用側電極構造体74とから構成されている。
【0074】
前記突起部104は、中心に、細い棒状の作用側電極106を有し、この作用側電極106の周囲に、電解液保持部108、第2イオン選択性膜110、薬液保持部112、第1イオン選択性膜114を内側からこの順で筒状に積層して構成したものである。
【0075】
この実施例6に係るピン型イオントフォレーシス装置100においては、細長い棒状の第1イオン選択性膜114が、ピアス孔21の内周面に接触するので、その接触面積が大きくなり、薬物イオンを短時間で投与することができる。
【0076】
なお、この実施例6においても、突起部103の長さを、非作用側電極構造体74と短絡を生じない程度に短くできれば、非作用側電極構造体74にも、突起部103と同様の突起部を形成してもよい。
【0077】
上記実施例における作用側電極構造体は、作用側電極と第1イオン交換膜との間に、電解液保持部、第2イオン選択性膜、薬液保持部が設けられているが、本発明は、これに限定されるものではなく、電解液保持部、第2イオン選択性膜を設けない場合にも適用されるものである。非作用側電極構造体も同様である。
【0078】
なお、上記実施例はいずれも人体の耳に形成されたピアス孔を利用して薬物イオンを投与するものであるが、本発明はこれに限定されるものでなく、人間を含む哺乳動物等の生体に人工的に孔を形成し、その孔の内周面からイオントフォレーシスにより薬物イオンを投与する場合に適用されるものである。
【0079】
従って、人体の耳たぶ以外の部分のピアス孔、その他の人工的な孔を利用する場合、牛、馬、犬等の家畜あるいはペットにも、本発明は適用される。
【0080】
なお、上記実施例のように耳たぶに、イヤリング型のイオントフォレーシス装置を装着した場合、前述のように、投与の際の障壁電圧が低く、直流電源を小型軽量化できるので、装着状態での負担が少なく、長時間の投与も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の実施例1に係るピン型イオントフォレーシス装置の概略を示す斜視図
【図2】同ピン型イオントフォレーシス装置を耳たぶに装着した状態を拡大して示す断面図
【図3】本発明の実施例2に係るピン型イオントフォレーシス装置を示す図2と同様の拡大断面図
【図4】本発明の実施例3に係るピン型イオントフォレーシス装置を示す図2と同様の拡大断面図
【図5】本発明の実施例4に係るピン型イオントフォレーシス装置を示す図2と同様の拡大断面図
【図6】本発明の実施例5に係るピン型イオントフォレーシス装置を示す図2と同様の拡大断面図
【図7】本発明の実施例6に係るピン型イオントフォレーシス装置を示す図2と同様の拡大断面図
【符号の説明】
【0082】
10、60、70、80、90、100…ピン型イオントフォレーシス装置
12、62、72、84、102…作用側電極構造体
14、64、74、86…非作用側電極構造体
16…直流電源
21…ピアス孔
22A…作用電極端子板
22、106…作用側電極
24、108…電解液保持部
26、110…第2イオン選択性膜
28、112…薬液保持部
30、114…第1イオン選択性膜
32、68…ベースシート
34…非作用側ベースシート
34A…非作用側ベース突起
36…非作用側電極
36A…非作用電極端子板
38…第2電解液保持部
40…第3イオン選択性膜
42…第3電解液保持部
44…第4イオン選択性膜
46…電源回路48、66、104…突起部
50、68…絶縁膜
52…非作用側絶縁膜
76…絶縁突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に人工的に孔を形成し、該孔の内周面から、イオントフォレーシスにより薬物イオンを投与することを特徴とする薬物イオン投与方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記生体は哺乳動物であり、この哺乳動物の耳たぶにピアス孔を形成し、このピアス孔の内周面から、イオントフォレーシスにより薬物イオンを投与することを特徴とする薬物イオン投与方法。
【請求項3】
イオントフォレーシスにより薬物イオンを投与するために使用される作用側電極構造体及び非作用側電極構造体と、これらの作用電極構造体及び非作用電極構造体に異なる極性で接続される直流電源と、を有し、
前記作用側電極構造体は、前記直流電源における前記薬物イオンと同種の極性に接続された作用側電極、この作用側電極に電気的に接続されると共に前記薬物イオンを保持する薬液保持部、この薬液保持部の前面に配置され、薬物イオンと同種のイオンを選択して通過させる第1イオン選択性膜を少なくとも有してなり、
前記第1イオン選択性膜及び薬液保持部の少なくとも一部は、生体に形成された孔への挿入が可能な太さのピン形状の突起部とされ、この突起部の第1イオン選択性膜から薬液保持部の薬液の投与可能とされたことを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記作用側電極構造体は、一対設けられ、これらは、前記突起部が対向するように配置されたことを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記作用側電極構造体及び前記非作用側電極構造体は、相互に先端が対向して配置され、非作用側電極構造体は、その先端に、前記突起部に対向する部分が非導通部とされたイオン選択性膜を有することを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記非作用側電極構造体は、その先端に、作用側電極構造体における前記突起部と対向する位置に、絶縁体からなり、前記突起部とほぼ同径のピン形状の対向突起部を有することを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記非作用側電極構造体は、
前記直流電源における、前記薬物イオンの帯電イオンと反対の極性に接続された非作用電極と、
この非作用側電極に、電気的に接続されると共に、電解液を保持する電解液保持部と、
この電解液保持部の前面に配置され、前記薬物イオンの帯電イオンと反対のイオンを選択して通過させる非作用側イオン選択性膜と、を少なくとも有してなり、且つ、
前記非作用側イオン選択性膜及び電解液保持部の少なくとも一方はピアス孔への挿入が可能な太さの非作用側突起部とされ、
前記作用側電極構造体及び非作用側電極構造体は、相互に先端の前記突起部と非作用側突起部とが、これらの突起部の中心軸線に対して直交する方向にずれて、且つ、対向して配置されたことを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかにおいて、
前記作用側電極構造体及び非作用側電極構造体を、相互の先端が接近する方向に付勢又は締付可能に支持する締付装置を有することを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【請求項9】
請求項3乃至8のいずれかにおいて、
前記作用側電極構造体における突起部は、細い棒状の前記作用側電極の外周に、少なくとも前記薬液保持部と、前記第1イオン選択性膜とを、この順で積層して構成されたことを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。
【請求項10】
請求項3乃至9のいずれかにおいて、
前記作用側電極構造体は、前記作用側電極と、この作用側電極の前面に配置され、電解液を保持する電解液保持部と、
この電解液保持部の前面に配置され、前記薬物イオンと反対のイオンを選択して通過させる第2イオン選択性膜と、
この第2イオン選択性膜の前面に配置された前記薬液保持部と、
この薬液保持部の前面に配置された前記第1イオン交換膜と、
を有してなり、
前記非作用側電極構造体は、
前記直流電源における、前記薬物イオンと反対の極性に接続された非作用側電極と、
この非作用側電極の前面に配置され、第2電解液を保持する第2電解液保持部と、
この第2電解液保持部の前面に配置され、前記薬物イオンと同種のイオンを選択して通過させる第3イオン選択性膜と、
この第3イオン選択性膜の前面に配置され、第3電解液を保持する第3電解液保持部と、
この第3電解液保持部の前面に配置され、前記薬物イオンと反対のイオンを選択して通過させる非作用側イオン選択性膜である第4イオン選択性膜と、
を有してなることを特徴とするピン型イオントフォレーシス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−135814(P2007−135814A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332523(P2005−332523)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(504153989)トランスキュー・テクノロジーズ 株式会社 (83)
【Fターム(参考)】