薬物添加繊維
患者の体内の標的位置への治療薬剤の送達のための移植片および方法が開示される。この移植片は、ポリマー材料を含み最大約20ミクロンの直径を有する繊維と、その繊維内の第1の治療薬剤とを含む。治療薬剤は実質的に粒子状の形である。移植片は、たとえば個々の繊維、ヤーン、ロープ、チューブおよびパッチなどのさまざまな構成である。一実施形態において、患者の体内の位置への治療薬剤の送達のための移植片が提供され、上記移植片は、第1のポリマー材料を含み最大約20ミクロンの直径を有する繊維;および、上記繊維内の第1の治療薬剤を含み、ここで上記治療薬剤の量は、上記第1のポリマー材料における上記治療薬剤の溶解度限界よりも多い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、Palasisらによる表題「Compositions and Methods for Treating Joint Conditions」の米国仮出願第61/146,060号(この開示は、参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は薬物添加された繊維に関し、より特定的には患者の体内の標的位置に薬物を送達するために用いられる小さい繊維に関する。
【背景技術】
【0003】
患者の体内での治療薬剤の局在的送達を含むいくつかの医学的適用に対して、繊維が提案されている。こうした使用を促進するために、ポリマー繊維に薬物を添加した後に患者に移植することによって、長期間にわたる薬物の送達を可能にする。しかしながら、こうした繊維の製造および実際の適用は、それらのサイズが小さいために中に添加できる薬物の量が制限されることから、限定されてきた。加えて、こうした繊維から有用かつ調節可能な薬物放出動態(drug release kinetics)を得ること、ならびに患者の体内でのこうした繊維の配置およびその後の移動性を調節することも困難であり得る。したがってこうした繊維の使用は限定されてきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの局面において、本発明は、高い薬物添加率を有し、有用かつ調節可能な薬物放出動態を提供する薬物添加繊維に関する。
【0005】
別の局面において、本発明は、高い薬物添加率を有し、有用かつ調節可能な薬物放出動態を提供する少なくとも1つの薬物添加繊維を含む移植片に関する。
【0006】
別の局面において、本発明は、高い薬物添加率を有し、有用かつ調節可能な薬物放出動態を提供する薬物添加繊維およびそれから作られる移植片を作製する方法に関する。
【0007】
さらに別の局面において、本発明は、本発明の繊維を用いて患者を処置する方法に関する。本発明の繊維はポリマー材料および薬物を含む。この繊維は最大約20ミクロンの直径を特徴とし、繊維の中に位置付けられる薬物は実質的に粒子状の形である。特定の実施形態において、薬物は繊維の少なくとも約20重量パーセントを構成する。薬物はポリマーおよび溶剤に実質的に不溶性であるか、または溶液中の薬物の量がポリマーもしくは溶剤における薬物の溶解度限界(solubility limit)を超えているかのいずれかである。いくつかの実施形態において、本発明の繊維は内側半径部分および外側半径部分を含む。薬物は内側および/または外側半径部分の中に位置付けられる。
【0008】
本発明の移植片は、患者の体内への移植のために適合される。本発明の移植片の実施形態は、1つもしくはそれ以上の個別の繊維、または1つもしくはそれ以上の繊維から作られたその他の移植片構成、たとえばヤーン、ロープ、チューブおよびパッチなどを含む。
【0009】
一実施形態において、本発明の繊維は、少なくとも1つの溶液がエレクトロスピニングされて繊維になる同軸エレクトロスピニングプロセスによって作製される。この溶液はポリマーと、溶剤と、薬物とを含む。薬物はポリマーおよび溶剤に実質的に不溶性であるか、または溶液中の薬物の量がポリマーもしくは溶剤における薬物の溶解度限界を超えているかのいずれかである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1aおよび図1bは、本発明の実施形態に従う繊維の側面図を模式的に表す図である。
【図2】図2aおよび図2bは、本発明の実施形態に従う繊維の側面図を模式的に表す図である。
【図3】図3aは、本発明の繊維を製造するために用いられるエレクトロスピニングシステムを模式的に表す図である。図3bは、本発明のエレクトロスピニングシステムにおいて用いられる同軸針(の断面)を模式的に表す図である。
【図4】図4は、本発明の繊維を製造するために用いられるエレクトロスピニングシステムを模式的に表す図である。
【図5】図5aおよび図5bは、本発明の実施形態に従う、内側および外側半径部分を有する同軸繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の特定の繊維実施形態からの薬物放出プロファイルを示す図である。
【図7】図7は、本発明の特定の繊維実施形態からの薬物放出プロファイルを示す図である。
【図8】図8は、本発明の特定の繊維実施形態からの薬物放出プロファイルを示す図である。
【図9】図9は、本発明のヤーンを製造するために用いられるエレクトロスピニングシステムを模式的に表す図である。
【図10】図10a、図10bおよび図10cは、本発明の実施形態に従う、放射線不透過性のマーカーバンドの組み込みを含むヤーンを示す図である。
【図11】図11a、図11bおよび図11cは、本発明のロープを示す図である。
【図12】図12は、本発明のチューブを模式的に表す図である。
【図13】図13は、本発明のパッチを模式的に表す図である。
【図14】図14は、本発明のロープをイヌ屍体の硬膜外腔およびくも膜下腔に移植することに成功したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、繊維と、こうした繊維を作製する方法と、こうした繊維から作製される移植片と、こうした繊維を用いて患者を処置する方法とを含む。発明者らは、驚くほど高い薬物添加率および多数の医学的適用の特定の要求に合わせられ得る薬物放出プロファイルを有する小さい繊維の製造が可能であることを見出した。加えて発明者らは、所望の薬物送達特徴を最適化し、かつ患者への移植片の適切な送達能力およびその後の移植片移動性を促進するために、本発明の繊維からさまざまな移植片構成を作製できる。本明細書において用いられるとき、「薬物」および「治療薬剤」は、所望の治療効果を生じさせるために用いられる小分子、生物製剤、およびその他の活性薬剤を含むように同義で用いられる。
【0012】
本発明の繊維の例を図1aおよび図1bに模式的に示す。繊維100は一般的に管状の形であり、長さ110および直径111によって特徴付けられる。本発明の繊維は一般的に、広範囲の医学的適用に対処するための移植に有用であるために十分に小さい。よって繊維の直径111は、好ましくは最大約20ミクロンである。繊維の長さ110は意図される医学的使用によって決められ、一般的には数ミクロンから数ミリメートルから数センチメートルの範囲であってもよい。
【0013】
繊維100はあらゆる好適なポリマー生体適合性材料から作られており、その中に埋め込まれた薬物を含んでいる。好ましくは、繊維100は移植後に時間とともに患者の体内で分解するような生体吸収性材料から作られる。繊維100を形成するために用いられるポリマー材料の分解速度は、ポリマー材料からの薬物の送達後に分解するように設計されてもよいし、分解プロセスを介して薬物送達速度を調節するための手段として設計されてもよい。
【0014】
本発明の繊維100の形成に有用な生体吸収性材料の例は以下を含む:ポリエステル、たとえばポリ(ε−カプロラクトン)(poly(ε−caprolactone):PCL)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(poly lactic−co−glycolic acid:PLGA)、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(DL−乳酸)など;そのコポリマー、たとえばポリ(ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)とのコポリマーなど;分岐鎖ポリエステル、たとえばポリ(グリセロールセバシン酸)など;ポリ(フマル酸プロピレン);ポリ(エーテルエステル)、たとえばポリジオキサノンなど;ポリ(オルトエステル);ポリ無水物、たとえばポリ(セバシン酸無水物)など;ポリカーボネート、たとえばポリ(トリメチルカーボネート)および関連コポリマーなど;ポリヒドロキシアルカン酸、たとえば3−ヒドロキシ酪酸塩、3−ヒドロキシ吉草酸塩、および生物由来であってもなくてもよい関連コポリマーなど;ポリホスファゼン;ポリ(アミノ酸)、たとえばポリ(L−リジン)、ポリ(グルタミン酸)および関連コポリマーなど。
【0015】
本発明の繊維100の形成に有用な生物由来の生体吸収性ポリマーの例は以下を含む:ポリペプチド、たとえばコラーゲン、エラスチン、アルブミンおよびゼラチンなど;グリコサミノグリカン、たとえばヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸ケラタン、ヘパラン硫酸およびヘパリンなど;キトサンおよびキチン;アガロース;コムギグルテン;多糖、たとえばデンプン、セルロース、ペクチン、デキストランおよびデキストラン硫酸など;ならびに修飾多糖、たとえばカルボキシメチルセルロースおよび酢酸セルロースなど。その他の溶解性または吸収性のポリマーの例は、プルロニックおよびリバースプルロニック(reverse pluronics)として公知であるポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)コポリマーを含む。
【0016】
本発明の繊維100の形成に有用な非生分解性ポリマーの例は以下を含む:ナイロン4,6;ナイロン6;ナイロン6,6;ナイロン12;ポリアクリル酸;ポリアクリロニトリル;ポリ(ベンゾイミダゾール)(poly(benzimidazole):PBI);ポリ(エーテルイミド)(poly(etherimide):PEI);ポリ(エチレンイミン);ポリ(エチレンテレフタレート);ポリスチレン;ポリスルホン;ポリウレタン;ポリウレタン尿素;ポリビニルアルコール;ポリ(N−ビニルカルバゾール);ポリ塩化ビニル;ポリ(ビニルピロリドン);ポリ(フッ化ビニリデン);ポリ(テトラフルオロエチレン)(poly(tetrafluoroethylene):PTFE);ポリシロキサン;およびポリ(メタクリル酸メチル)。
【0017】
図1aおよび図1bに模式的に示される一実施形態において、繊維100の組成は実質的に均一であり、すなわち繊維100は均一なポリマー組成と、全体に実質的に均一に分散された薬物とを含む。しかし、好ましい実施形態においては、図2aおよび図2bに示されるとおり、繊維100は内側半径部分(inner radial portion)120および外側半径部分(outer radial portion)130を含む。内側および外側半径部分120、130を用いることによって、薬物放出動態の調整が可能になる。たとえば、好ましい実施形態においては、製造時の状態では繊維100内の実質的にすべての薬物が内側半径部分120の中に位置付けられる。この好ましい実施形態において、外側半径部分130は製造時の状態では実質的に薬物を含まず、繊維100の移植後に内側半径部分120から患者への薬物送達の速度を調節または制限するための薬物拡散バリアとして作用してもよい。他の実施形態においては、外側半径部分130も薬物を含み、その薬物は内側半径部分120に含まれる薬物と同じであっても異なっていてもよい。さらに他の実施形態においては、製造時の状態では繊維100内の実質的にすべての薬物が外側半径部分130の中に位置付けられ、内側半径部分120は実質的に薬物を含まない。本発明の好ましい実施形態において、繊維100は図2aおよび図2bに示されるとおりの内側および外側半径部分120、130を含み、繊維の総直径は約20ミクロン以下であり、外側半径部分の直径は内側半径部分よりも約1〜7ミクロン大きい。
【0018】
本発明の繊維内の薬物の量は、好ましくは少なくとも約20重量パーセントである。発明者らは驚くべきことに、本発明の方法を用いると、20重量パーセントおよびそれ以上(たとえば25、30、35、40、45、50重量パーセントおよびそれ以上など)という高い薬物添加率を達成できることを見出した。これらの高い薬物添加率を達成するために、(製造プロセスの間に用いられるあらゆる溶剤を含む)繊維100のポリマーに実質的に不溶性である薬物が用いられるか、または使用される薬物の量がポリマー(または溶剤)における薬物の溶解度限界よりも高くされる。こうすることで、公知の薬物添加繊維技術とは異なり、薬物はポリマーおよび関連溶剤に溶解することなく粒子状の形で存在する。
【0019】
本発明の繊維は、好ましくはエレクトロスピニング技術を用いて製造される。エレクトロスピニングは、圧力および電界の両方を印加することによって、ポリマー溶液の連続的な流れを「スピナレット」として公知の円筒形のチューブまたは針から収集基体に向けて排出するプロセスである。このプロセスの間に、電荷の蓄積および溶液からの溶剤の蒸発によって、典型的にナノメートルからミクロンのスケールの直径を特徴とする単一の長いポリマー繊維が得られる。
【0020】
好ましい実施形態において、内側および外側半径部分を有する本発明の繊維は、図3に模式的に示される同軸スピナレットシステムを用いて製造される。このシステム200は、それぞれのシリンジまたは類似の容器215、216の中に装填された内側溶液供給物210と、外側溶液供給物211とを含む。内側溶液供給物は、ポリマーと、溶剤と、好ましい実施形態においては治療薬剤とを含む溶液を含む。前に考察したとおり、薬物はポリマーまたは溶剤のいずれかに実質的に不溶性であるように選択されるか、または内側溶液供給物内の薬物の量がポリマーまたは溶剤のいずれかにおける薬物の溶解度限界を超えるように選択される。好ましい実施形態において、外側溶液供給物はポリマーおよび溶剤を含む溶液を含む。好ましくは、シリンジ215、216は中に装填された溶液の送出速度を計測する1つまたはそれ以上のポンプによって独立に駆動される。この例において、スピナレット220は、内側溶液供給物210に流体連結している内側針221と、外側溶液供給物211に流体連結している外側針222とを含む同軸針配置である。好ましくは、外側針222はたとえば好適なステンレス鋼などの電気伝導性材料を含み、より好ましくは、外側および内側針222、221の両方が伝導性材料を含む。図3aの断面図に示されるとおり、スピナレット220の同軸針配置の結果として、外側溶液供給物が内側溶液供給物を包んでいる。
【0021】
内側および外側溶液供給物がスピナレット220を通って移動すると、それらは外側針222への電位の印加によって帯電する。電荷は外側針222を通って外側溶液供給物に移り、好ましくは内側溶液供給物にも移る。図4に示されるとおり、スピナレット220の端部225からの予め定められた距離、好ましくは数十センチメートルのオーダのところに、1つまたはそれ以上の接地された伝導性基体230が置かれる。基体230の形状は、エレクトロスピニングプロセスによって得られることが望ましい移植片の形によって決められる。ポリマー溶液がスピナレットの端部225から出ると、ポリマー溶液中の溶剤は迅速に蒸発し、スピナレット220と接地基体230との間に形成された電界におけるたとえば電荷反発および電荷加速などの電気力の作用によって、溶液は引っ張られて小直径の繊維100となる。
【0022】
内側および外側半径部分120、130を有する繊維100を生成するための同軸針配置を特定的に参照してエレクトロスピニングプロセスを説明しているが、図1aおよび図1bを参照して説明したような均一な繊維の形成も本発明に含まれることが認識されるべきであり、そこでは単一の供給溶液が単一針スピナレットを通じてエレクトロスピニングされる。
【0023】
本発明の繊維に用いられる薬物は、それらが送達される医学的状態の処置のために選択されるあらゆる好適な薬物であるが、ただしそれらは繊維100に用いられるポリマーおよび溶剤に実質的に不溶性であるか、または薬物の量がこれらの材料における薬物の溶解度限界を超えているかのいずれかである。本発明において有用な薬物の一般的なカテゴリは以下を含むがそれに限定されない:オピオイド;ACE阻害剤;下垂体前葉(adenohypophoseal)ホルモン;アドレナリン作用性ニューロン遮断剤;副腎皮質ステロイド;副腎皮質ステロイドの生合成の阻害剤;アルファ−アドレナリン作用性アゴニスト;アルファ−アドレナリン作用性アンタゴニスト;選択的アルファ−2−アドレナリン作用性アゴニスト;アンドロゲン;抗依存性薬剤;抗アンドロゲン;抗感染薬、たとえば抗生物質、抗菌剤(antimicrobals)および抗ウイルス剤など;鎮痛薬および鎮痛薬の組み合わせ;食欲抑制薬;抗寄生虫剤;抗関節炎薬;抗喘息剤;抗けいれん薬;抗うつ薬;抗糖尿病薬;下痢止め薬;抗嘔吐および腸管運動促進薬;抗てんかん薬;抗エストロゲン;抗真菌薬;抗ヒスタミン剤;抗炎症薬;抗片頭痛製剤;抗ムスカリン剤;制吐薬;抗新生物薬;抗寄生虫剤;抗パーキンソン症薬;抗血小板剤;抗プロゲスチン;鎮痒薬;抗精神病薬;解熱剤;鎮痙薬;抗コリン作用薬;抗甲状腺剤;鎮咳薬;アザスピロデカンジオン;交感神経興奮剤;キサンチン誘導体;カリウムおよびカルシウムチャネル遮断薬、アルファ遮断薬、ベータ遮断薬、ならびに抗不整脈薬を含む心血管製剤;高血圧治療薬;利尿剤および抗利尿剤;全身の冠状動脈、末梢血管および脳血管を含む血管拡張薬;中枢神経系刺激剤;血管収縮薬;副腎皮質ステロイドを含む、たとえばエストラジオールおよびその他のステロイドなどのホルモン;催眠薬;免疫抑制薬;筋弛緩薬;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;鎮静剤;精神安定剤;ニコチンおよびその酸付加塩;ベンゾジアゼピン;バルビツール剤;ベンゾサイアジアザイド;ベータ−アドレナリン作用性アゴニスト;ベータ−アドレナリン作用性アンタゴニスト;選択的ベータ−1−アドレナリン作用性アンタゴニスト;選択的ベータ−2−アドレナリン作用性アンタゴニスト;胆汁酸塩;体液の体積および組成に影響する薬剤;ブチロフェノン;石灰化に影響する薬剤;カテコールアミン;コリン作用性アゴニスト;コリンエステラーゼ再賦活薬;外皮用剤;ジフェニルブチルピペリジン;麦角アルカロイド;神経節遮断薬;ヒダントイン;胃酸性度の調節および消化性潰瘍の処置のための薬剤;血液生成剤;ヒスタミン;5−ヒドロキシトリプタミンアンタゴニスト;高リポ蛋白血症(hyperlipiproteinemia)の処置のための薬物;下剤;メチルキサンチン;モノアミンオキシダーゼ阻害剤;神経筋遮断剤;有機硝酸塩;膵臓酵素;フェノチアジン;プロスタグランジン;レチノイド;けいれんおよび急性筋けいれんのための薬剤;スクシンイミド;チオキサンチン;血栓溶解剤;甲状腺剤;有機化合物の尿細管輸送の阻害剤;子宮運動性に影響する薬物;抗脈管形成および血管新生剤;ビタミン;その他;またはその組み合わせ。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態は、以下を含んでもよいがそれに限定されない活性成分を含む:a)副腎皮質ステロイド、たとえばコルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プロピオン酸ベクロメタゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、フルメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、酢酸フルオシノロン、プロピオン酸クロベタゾールなど、またはその組み合わせ;b)鎮痛性抗炎症薬、たとえばアセトアミノフェン、メフェナム酸、フルフェナム酸、インドメタシン、ジクロフェナク、ジクロフェナクナトリウム、アルクロフェナク、イブフェナク、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、サリチル酸、メチルサリチル酸塩、アセチルサルチル酸、1−メントール、樟脳、スリンダク(slindac)、トルメチンナトリウム、ナプロキセン、フェンブフェンなど、またはその組み合わせ;c)催眠鎮静剤、たとえばフェノバルビタール、アモバルビタール、シクロバルビタール、ロラゼパム、ハロペリドールなど、またはその組み合わせ;d)精神安定剤、たとえばフルフェナジン(fulphenazine)、チオリダジン、ジアゼパム、フルラゼパム、クロルプロマジンなど、またはその組み合わせ;e)高血圧治療薬、たとえばクロニジン、塩酸クロニジン、ボピニドール(bopinidol)、チモロール、ピンドロール、プロプラノロール、塩酸プロプラノロール、ブプラノロール、インデノロール、ブクモロール、ニフェジピン、ブニトロロールなど、またはその組み合わせ;f)降圧利尿剤、たとえばベンドロフルメチアジド、ポリチアジド、メチルクロルチアジド、トリクロルメチアジド、シクロペンチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ブメタニドなど、またはその組み合わせ;g)抗生物質、たとえばペニシリン、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、硫酸フラジオマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコールなど、またはその組み合わせ;h)麻酔薬、たとえばリドカイン、ベンゾカイン、エチルアミノ安息香酸など、またはその組み合わせ;i)別の鎮痛薬、たとえばアセチルサリチル酸、トリサリチル酸コリンマグネシウム、アセトアミノフェン、イブプロフェン、フェノプロフェン、ジフルシナル、ナプロキセンなど;j)鎮痒薬、たとえばビサボロール、カモミールの油、カマズレン、アラントイン、D−パンテノール、グリチルレチン酸(glycyrrhetenic acid)、副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン剤など;k)抗菌剤、たとえばヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾール、ベンザルコニウム塩化物、ニトロフラゾン、ナイスタチン、硫黄アセトアミド、クロトリマゾール(clotriamazole)など、またはその組み合わせ;l)抗真菌薬、たとえばペンタマイシン、アンホテリシンB、ピロールニトリン、クロトリマゾールなど、またはその組み合わせ;m)ビタミン、たとえばビタミンA、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、オクトトリアミン、リボフラビン酪酸エステルなど、またはその組み合わせ;n)抗てんかん薬、たとえばニトラゼパム、メプロバメート、クロナゼパムなど、またはその組み合わせ;o)抗ヒスタミン剤、たとえば塩酸ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ジフェニルイミダゾールなど、またはその組み合わせ;p)鎮咳薬、たとえばデキストロメトルファン、テルブタリン、エフェドリン、塩酸エフェドリンなど、またはその組み合わせ;q)性ホルモン、たとえばプロゲステロン、エストラジオール、エストリオール、エストロンなど、またはその組み合わせ;r)抗うつ薬、たとえばドキセピンなど;s)血管拡張薬、たとえばニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ニトログリコール、ペンタエリトリトール四硝酸塩、ジピリダモールなど、またはその組み合わせ;t)局所麻酔薬、たとえばプロカイン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン/ラロカイン、プロポキシカイン、プロカイン/ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン/アメトカイン、リドカイン、アルチカイン、ブピバカイン、カルチカイン、シンコカイン/ジブカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン/リグノカイン、メピバカイン、ピペロカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカインなど;u)別の薬物、たとえば5−フルオロウラシル、ジヒドロエルゴタミン、デスモプレッシン、ジゴキシン、メトクロプラミド、ドンペリドン、スコポラミン、塩酸スコポラミンなど、またはその組み合わせなど;またはその組み合わせ。
【0025】
本発明の実施形態において、あらゆるオピオイドが用いられてもよい。有用なオピオイドは、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アニレリジン、ベンジルモルヒネ、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、デソモルヒネ、デキストロモラミド、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルホン、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルヒネ、ジヒドロモルホン、ジヒドロイソモルヒネ、ジメノキサドール、ジメフェプタノール、ジメチルチアンブテン、ジオキサフェチルブチレート、ジピパノン、エプタゾシン、エトヘプタジン、エチルメチルチアンブテン、エチルモルヒネ、エトニタゼン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ヒドロモルホドン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、ケトベミドン、レボルファノール、レボフェナシルモルファン、ロフェンタニル、メペリジン、メプタジノール、メタゾシン、メタドン、メトポン、モルヒネ、ミロフィン、ナルセイン、ニコモルヒネ、ノルレボルファノール、ノルメタドン、ナロルフィン、ナルブフェン、ノルモルヒネ、ノルピパノン、アヘン、オキシコドン、オキシモルホン、パントポン、パパベレタム(papavereturn)、パレゴリック、ペンタゾシン、フェナドキソン、フェンジメトラジン、フェンジメトラゾン、フェノモルファン、フェナゾシン、フェノペリジン、ピミノジン、ピリトラミド、プロフェプタジン、プロメドール、プロペリジン、プロポキシフェン、プロピルヘキセドリン、スフェンタニル、チリジン、トラマドール、その薬学的に許容できる塩、およびそのいずれか2つまたはそれ以上の混合物を含むがそれに限定されない。
【0026】
本発明の繊維は、注射可能な溶液内で送達され得る個々の移植片として用いられてもよいし、いかなる関連溶液も伴わない1つの移植片として用いられてもよい。他の実施形態において、繊維はたとえばヤーン、ロープ、チューブおよびパッチなどの他の構成に形成される。こうした構成はさまざまな医学的適用のために有用であり、患者への送達後に所望の薬物送達特徴、送達能力および移動性を得るために用いられる。たとえば、本発明の繊維は体内の流体で満たされた空間、たとえば関節、眼房、くも膜下腔および心膜腔などへの注射のために有用である。加えて、この繊維は組織内にたとえば筋内または皮下にて注射または移植されてもよいし、血管などの体内管腔に入れられてもよい。さらにこの繊維は組織係留特徴を提供する構成に形成されてもよい。こうした構成の例は、端部が伸長してTバーアンカー、矢の先端または曲がったフックなどの形になったものなどを含む。本発明の繊維および移植片、ならびにそれらを作製および使用する方法を、以下の限定的でない実施例を参照しながらさらに説明する。
【実施例】
【0027】
実施例1 均一な繊維の形成
本発明に従って、ポリe−カプロラクトン(PCL)から作製されかつ10wt%のデキサメタゾンを含有する均一な繊維を製造した。クロロホルムおよびアセトン溶剤中に15wt%のPCLを含有する溶液を18ゲージ針をかぶせたシリンジに入れ、シリンジポンプセットに接続して約4mL/hの流量を送出するようにした。ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluroroethylene)でコートした接地マンドレルを針の先端から約17cmのところに置いた。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。この繊維は実質的に均一な組成および形態ならびに約10ミクロンの直径を特徴とし、その全体にわたってデキサメタゾンが粒子状の形で分散された。
【0028】
実施例2 コア−シース繊維の形成
本発明に従って、内側および外側半径部分、すなわちいわゆる「コア−シース」構造を有する繊維を製造した。
【0029】
コア−シース繊維の第1の組は、PCLを含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するように製造された。これらの繊維は、クロロホルム/エタノール中に20wt%のPCLを含む外側部分溶液と、クロロホルム/アセトン中の20wt%のPCLおよび(PCLに対して)30wt%のデキサメタゾンを含む内側部分溶液とを処方することによって作製された。内径約2.3mmのステンレス鋼の外側チューブと、外径約0.9mmで内径約0.6mmのステンレス鋼の内側チューブとを含む同軸針配置を用いて、外側および内側部分溶液をそれぞれエレクトロスピニングプロセスに送出した。外側部分溶液は約23mL/hの速度で送出され、内側部分溶液は約12mL/hの速度で送出された。ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluroroethylene)でコートした接地マンドレルを針の先端から約20cmのところに置いた。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。
【0030】
コア−シース繊維の第2の組は、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)を含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するように製造された。これらの繊維は、ヘキサフルオロイソプロパノール中に6wt%のPLGAを含む外側部分溶液と、クロロホルム/アセトン中の15wt%のPCLおよび(PCLに対して)30wt%のデキサメタゾンを含む内側部分溶液とを処方することによって作製された。内径約2.3mmのステンレス鋼の外側チューブと、外径約0.9mmで内径約0.6mmのステンレス鋼の内側チューブとを含む同軸針配置を用いて、外側および内側部分溶液をそれぞれエレクトロスピニングプロセスに送出した。外側部分溶液は約8mL/hの速度で送出され、内側部分溶液は約3mL/hの速度で送出された。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。
【0031】
コア−シース繊維のどちらの組も、内側および外側半径部分を特徴とする構造を有することが見出された。図5aおよび図5bの走査型電子顕微鏡写真に示されるとおり、これらの繊維は約10ミクロンから15ミクロンの平均断面直径を有していた。図5aにみられるとおり、本発明に従って生成された繊維は、薬物が実質的に粒子状の形で存在する形態を特徴とする。これは、繊維を作るために用いられるポリマー溶液中の薬物の量が使用されるポリマー材料に不溶性であるか、または使用されるポリマー材料における薬物の溶解度限界を超えているためである。図5bは、図5aに示される繊維をメタノールに浸漬して中に含まれるデキサメタゾンを抽出した後を示しており、よって残った外側半径部分が現れており、内側半径部分が実質的にデキサメタゾンで構成されていたことを示している。
【0032】
実施例3 薬物放出速度の比較
実施例1および2に従って製造された繊維を計量した後、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline:PBS)およびシクロデキストリンの溶液中に入れた。UV吸光度技術を用いて、繊維からのデキサメタゾン放出速度を測定した。予想どおり、実施例1に従って製造された均一な繊維構造は、実施例2に従って製造されたコア−シース繊維構造よりも顕著な「バースト」薬物放出プロファイルをもたらした。その結果、デキサメタゾンは均一な繊維からは実質的に約5時間以内に放出されることが見出された。それに比べて、実施例2の第1の組の繊維はPBS溶液内への配置後約120時間にわたるデキサメタゾン放出をもたらし、実施例2の第2の組の繊維はPBS溶液内への配置後約170時間にわたるデキサメタゾン放出をもたらした。
【0033】
実施例4 処理条件を用いた薬物放出速度の調整可能性
PLGAを含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するコア−シース繊維を製造した。この繊維は、ヘキサフルオロイソプロパノール中に4wt%のPLGAを含む外側部分溶液と、クロロホルム/アセトン中の20wt%のPCLおよび(PCLに対して)20wt%のデキサメタゾンを含む内側部分溶液とを用いて作製された。全繊維中のデキサメタゾンの量は約13wt%であった。内径約2.3mmのステンレス鋼の外側チューブと、外径約0.9mmで内径約0.6mmのステンレス鋼の内側チューブとを含む同軸針配置を用いて、外側および内側部分溶液をそれぞれエレクトロスピニングプロセスに送出した。ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluroroethylene)でコートした接地マンドレルを針の先端から約20cmのところに置いた。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。エレクトロスピニングプロセスの際に内側および外側部分溶液の供給速度のみを以下のとおりに変えて、この実施例に従って3つの繊維構造をエレクトロスピニングした。
【0034】
【表1】
繊維を計量した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)およびシクロデキストリンの溶液中に入れた。UV吸光度技術を用いて、繊維からのデキサメタゾン放出速度を測定した。発明者らは驚くべきことに、デキサメタゾン添加および相対的PLGA対PCL比の両方がすべての繊維に対して実質的に同一であったにもかかわらず、溶出プロファイルはエレクトロスピニングの際の内側および外側溶液の供給速度によって変わったことを見出した。たとえば図6に示されるとおり、内側および外側部分溶液に対して最も遅い供給速度を用いると、より速い溶液供給速度を用いて製造された繊維よりも遅い累積薬物放出がもたらされた。このことが図7にさらに示されており、ここではすべての繊維からのデキサメタゾン放出が少なくとも約110日間続いたが、内側および外側部分溶液に対して最も遅い供給速度を用いて製造された繊維からもたらされるバースト放出は、より速い溶液供給速度を用いて製造された繊維に比べて顕著に低く、その結果より線形的な薬物放出プロファイルが得られたことが示されている。
【0035】
実施例5 高い薬物添加を伴う繊維
ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)を含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するようにコア−シース繊維を製造した。これらの繊維は、クロロホルムおよびメタノール中にPLGAを含む外側部分溶液と、クロロホルムおよびアセトン中にPCLを含む内側部分溶液とから作製された。実施例2に記載されるプロセスと類似のエレクトロスピニングプロセスを用いて3組の繊維を製造した。コア溶液はPCLに対して80wt%という高い薬物添加を含んだ。外側溶液の条件を変えて3組の繊維を生成した:(総繊維質量に対して)第1の組は30wt%のデキサメタゾン含有量を有し、第2の組は50wt%のデキサメタゾン含有量を有し、第3の組は67wt%のデキサメタゾン含有量を有した。繊維を計量した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)およびシクロデキストリンの溶液中に入れた。UV吸光度技術を用いて、繊維からのデキサメタゾン放出速度を測定した。図8に示されるとおり、発明者らは、本発明の繊維のコア−シース構造を用いて、高い添加率を有する繊維からの調節された薬物放出を達成可能であることを示した。
【0036】
実施例6 ヤーンの形成
一実施形態において、本発明の繊維は薬物を含有するヤーンに形成される。図9に示されるとおり、こうしたヤーンは、前述のとおりに繊維をエレクトロスピニングし、予め定められた間隙311を間に有する接地コレクタ310上にその繊維を集めることによって形成される。エレクトロスピニングプロセスの際に、コレクタ310間の間隙311に少なくとも1本の繊維100が形成され、コレクタ310は繊維が付着されると反対方向に回される。その結果、図10aに模式的に示され、図10bの走査型電子顕微鏡写真に示されるとおりの、撚り合わされた構成の整列した繊維100を含むヤーン構造330が得られる。好ましい実施形態において、この繊維は前述のとおりの内側および外側部分を有するコア−シース構造を有する。ヤーン330の形成後、それは切断されるか、別様でコレクタ310から取り外され、製造時のまま用いられるか、またはより短い長さに切断されるか、または他のヤーン構造とともに密封されて、後に編んだり結んだりされる構造を作製するために用いられ得る長い連続的なヤーンを作製する。本発明のヤーンは100ミクロンを超える例示的直径と、1ミリメートルまたはそれ以上の長さとを有し、さらに任意には図10cに示されるとおり、放射線不透過性のマーカーバンド335を付着させるために十分な大きさに製造されてもよい。
【0037】
実施例7 ロープの形成
一実施形態において、実施例6に記載されるとおりの複数のヤーンが作製され、撚り合わされてロープにされる。図11aに示されるとおり、こうしたヤーンは互いに平行に配置されてからあらゆる好適な機械的手段を用いて撚り合わされてロープ350を形成する。その結果得られる例示的な構造は図11bに模式的に示されており、図11cの走査型電子顕微鏡写真にみることができる。一例として、実施例6に記載されるとおりのヤーンを、固定された距離だけ離された2つの小さい直径のマンドレルからなるエレクトロスピニング固定具の上に集めた。マンドレルを約35rpmにて互いに反対方向に約25〜30秒間回転させることによって、ヤーンを撚り合わせてロープにした。
【0038】
他の実施形態において、本発明に従うロープは、組成、特性、薬物放出速度、および/または中に添加される薬物が異なる複数のヤーンを含む。たとえば本発明のロープは、2つの治療薬剤が相乗的に働くような適用のために有用であってもよく、これは第1の相乗的薬剤を含む1つのヤーンを形成し、第2の相乗的薬剤および/または第1の薬剤に対するアジュバントを含む別のヤーンを形成し、次いでこれらのヤーンを撚り合わせてロープにすることによって達成されてもよい。こうした適用の例として、たとえばブピバカインおよびモルヒネなどの薬剤が別個のヤーンに添加された後にロープに形成されてもよい。
【0039】
本発明のロープの機械的特性は、ヤーンの数を変えることによって調節されてもよい。たとえば発明者らは、ロープ内のヤーンの数を1本、3本および6本に変えたときの、PLGAヤーンから作られたロープの以下の機械的特性を測定した。
【0040】
【表2】
実施例8 チューブの形成
一実施形態において、本発明の繊維は薬物を含有するチューブに形成される。こうしたチューブを作るために、薬物を含有する繊維が前述のとおりエレクトロスピニングされるが、好ましくは約200ミクロンよりも小さい直径を有する伸長した接地ワイヤの上にエレクトロスピニングされる。エレクトロスピニングプロセスに続いて溶剤が蒸発された後にワイヤを抽出して、図12に示されるとおりの、貫通空洞410と、1つまたはそれ以上の薬物含有繊維100から作られた側壁411とを有する中空のチューブ400を得る。好ましい実施形態においては、患者の体内への移植のためにチューブ400を約1ミリメートル未満の長さのセグメントに切断する。血管移植などとして用いるためにたとえば血管などの体内腔に挿入するために、たとえば最大数ミリメートルなどのより大きい直径、およびたとえば最大数十ミリメートルまたはそれ以上などのより大きな長さを有するチューブが本発明に従って作製されてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態において、本発明のチューブ400は、貫通空洞410の内側に薬物を含むようにさらに処理される。この薬物は、チューブの側壁411を構成する繊維100に含まれる薬物と同じであっても異なっていてもよい。こうした実施形態においては、圧力、熱、または溶剤の適用を用いて側壁411の固有間隙率を変えることによって、チューブ側壁411の繊維100および貫通空洞410からの薬物の送達速度を変えることができる。繊維100および貫通空洞410の両方の中で薬物を用いることによって、たとえば即時的バースト放出に続く徐放など、目的に合わせた薬物送達プロファイルが可能になる。
【0042】
実施例9 パッチの形成
一実施形態においては、図13に示されるとおり、本発明の繊維が薬物を含有するパッチ500に形成される。こうしたパッチは、1つまたはそれ以上の繊維を金属基体上にエレクトロスピニングして繊維のシート100を作製し、次いでそれを基体から機械的または化学的に取り外して所望の構成に切断することによって形成される。その後の繊維パッチ500を患者への内部的または外部的な投与に合わせてさらに処理してもよい。たとえば、パッチはポリマーコーティング層510、たとえばヒドロゲル、ポリマーのPLGAファミリーのものなどの吸収性ポリエステル、またはコラーゲンなどのポリペプチドなどを含むことによって、パッチからの薬物送達速度の調節を助けたり、および/または移植後の組織接着を防いだりしてもよい。別の例において、パッチ500は、患者の皮膚または内部体表面にパッチ500を付着させるために用いられるコーティング層510と類似のバッキング層を含む。こうしたパッチは創傷治癒適用によく適している。なぜならこうしたパッチは細胞内殖のための足場の役割をして、抗生物質などの治療薬剤を送達し得るからである。小さいメッシュサイズを有するように設計されているとき、このパッチは流体の通過/排出および栄養素の輸送を可能にしながら病原体に対する物理的障壁の役割もしてもよい。
【0043】
代替的実施形態においては、薬物を含有する繊維でできたチューブ400が、接地金属基体上にエレクトロスピニングされたパッチ500から作られる。エレクトロスピニングプロセスの後に、パッチを基体から取り外して巻くことにより、好ましくは約50ミクロンから約1ミリメートルの範囲の直径を有するチューブにする。
【0044】
実施例10 関節の状態の処置
一実施形態においては、本発明の繊維が骨関節炎などの関節の状態を処置するために用いられる。この目的のために繊維は「乾いて」送達されてもよいし、流動可能な材料を含む組成物に含まれていてもよい。後者のときには、流動可能な材料は関節炎またはその他の関節の状態になった患者の患部関節に投与できるあらゆる好適な材料である。こうした流動可能な材料の例は、液体、たとえば食塩水、緩衝液および等張性溶液など;ゲル、たとえばアルギン酸塩などのポリマーを含むものなど、グリコサミノグリカン(glycosaminoglycans:GAGs)、水溶性ゴム、たとえば寒天、アラビアゴム、イナゴマメガム(carob)、カラゲーニン、セルロース誘導体、キチンおよびキトサンに基づくポリマー、コンドロイチン硫酸、酸化エチレン含有ポリマー、ポロキサマー、ガッチゴム、グアーガム、ヒアルロン酸、カラヤゴム、カダヤゴム、イナゴマメガム(locust bean)、トラガカントゴム、キサンタンガム(xantham)、ラミニン、エラスチンなど、およびその他の粘性媒体である。
【0045】
数百ミクロンのオーダの長さを有する本発明の繊維を、流動可能な材料に懸濁する。流動可能な材料内の繊維の体積パーセントは、所望の治療効果を提供するためのあらゆる好適な範囲内である。繊維は好ましくは生分解性であり、患者に投与されたときに顕著な悪影響をもたらさない好適な生体適合性の材料から作られる。こうした材料は、合成吸収性ポリマー、たとえばポリエステル、たとえばポリジオキサノン(polydioxanone:PDO)、ポリ乳酸(polylactic acid:PLA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、ポリe−カプロラクトン(PCL)およびそのコポリマー、ポリグリコリド(poly glycolide:PGA)、ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate:PHB)、ポリヒドロキシアルカン酸(polyhydroxyalkanoate:PHA)、ポリグリセロールセバシン酸(poly glycerol sebacate:PGS)など;ポリカーボネート、たとえばポリトリメチレンカーボネート(poly trimethylene carbonate:PTMC)など;ポリ無水物、たとえばポリ(セバシン酸無水物)、ポリ(ビスカルボキシフェノキシプロパン)、分解性ウレタン、およびポリホスファゼン(polyphasphazenes)など;天然ポリマー、たとえばグリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ラミニン、エラスチン、コラーゲン、ゼラチン、およびアルブミンなど;ならびに溶解性ポリマー、たとえばデキストラン、デキストラン硫酸、カルボキシメチル(carboxymthyl)セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールおよびそのコポリマー、およびプルロニックポリマーなどを含むがそれに限定されない。
【0046】
図2aおよび図2bに示されるとおり、この繊維は内側および外側半径部分を含む。内側部分は、関節炎および/またはその症状を処置するための薬物、たとえば鎮痛剤、たとえばブピバカイン、リドカイン、ベンゾカイン、テトラカイン、キシロカイン、アセトアミノフェン、パラ−アミノサリチル酸(para−aminosalicyclic acid)、インドメタシン、非ステロイド性抗炎症薬(non−steroidal anti−inflammatory drugs:NSAIDs)、たとえばジクロフェナク、ケトプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキシノド(naproxcinoid)など、COX阻害剤、たとえばセレコキシブ、エトリコキシブ、ルミラコキシブ、メロキシカム、ニメスルフィド(nimesulfide)、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、およびオピオイドなど;抗生物質、たとえばサイクリンなど;生物製剤、たとえばRNAi、オリゴヌクレオチド、タンパク質、およびアプタマーなど;抗菌剤、たとえば二酸化塩素(chlorium dioxide)および銀など;MMP阻害剤;たとえばインターロイキン−1、インターロイキン12、インターロイキン23などのサイトカインの阻害剤;腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)およびインターフェロンガンマ(interferon gamma:IFN−γ);グルコース誘導体、たとえばアウロチオグルコースなど;ならびにステロイド、たとえばコルチゾン、プレドニゾンおよび副腎皮質ステロイドなどを含む。好ましい実施形態において、薬物は鎮痛薬であり、流動可能な材料はヒアルロン酸を含む。
【0047】
流動可能な材料内の繊維懸濁物は、当該技術分野において公知の方法を用いて患部関節に注射される。好ましい実施形態において、繊維懸濁物は針注射によって処置されるべき関節の中またはその近く、たとえば膝の関節内腔の中または膝関節嚢に隣接する脂肪パッドの中などに直接注射される。非限定的な例として、本発明の組成物は膝、肩、腰、手首、足首および手の関節の中および周囲に注射可能であり、さらに脊柱、下顎骨(顎骨)および副鼻洞腔にも注射可能である。注射は手術中または手術後の手順で行なわれてもよいし、手術手順とは独立に行なわれてもよい。本発明の利点の結果として、所望の臨床効果を達成するために必要な注射の回数を最小化し得る。
【0048】
実施例11 眼疾患の処置
本発明の別の実施形態においては、眼疾患を処置するために繊維が用いられる。こうした疾患の非限定的な例は、強膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、角膜新血管形成、フックスジストロフィー、円錐角膜、虹彩炎、ブドウ膜炎、白内障、網膜症、黄斑変性、黄斑浮腫、および緑内障を含む。
【0049】
非限定的な例において、本発明の同軸繊維は、それぞれPLGAおよびPCLを含む外側および内側半径部分と、内側半径部分に含有されるフルオシノロンアセトニドとで構成される。1つまたはそれ以上の繊維を数ミリメートルのオーダの長さに切断し、硝子体内注射と類似の手順において、小直径の針によって患者の眼の硝子体液に注射することによって、たとえば糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性、および/または後部ブドウ膜炎などの状態を処置する。フルオシノロンアセトニド含有繊維を眼房水に付加的に注射することによって、前部ブドウ膜炎または強膜炎を処置してもよい。
【0050】
実施例12 疼痛およびCNS疾患の処置
本発明の別の実施形態においては、疼痛(たとえば慢性疼痛、癌疼痛、または腰痛などのその他の疼痛)または中枢神経系(central nervous system:CNS)の疾患、たとえばけいれん、パーキンソン病、アルツハイマー病などを処置するために薬物を脊椎に送達するために繊維が用いられる。たとえば、最小限の全身性副作用を伴う持続的疼痛緩和のために、本明細書に記載されるとおり、本発明のロープに、たとえばスフェンタニル、フェンタニル、ゲンタニル(gentanyle)、ヒドロモルホン、モルヒネ、ブピバカイン、ブプレノルフィンまたはジコニチド(ziconitide)などの適切な治療薬剤を添加して、疼痛受容体の近くの位置、たとえば硬膜外腔またはクモ膜下腔内などに注射してもよい。
【0051】
本発明の実施形態の適用可能性および送達能力を示すために、ロープを製造してイヌ屍体に移植した。最初に、実施例6に従ってヤーンを形成した。ヤーンの外径よりも大きい内径を有する放射線不透過性のマーカーバンドをヤーンの1つの上に置いた。実施例7に記載されるとおりにヤーンを固定具に付着させ、撚り合わせてロープにした。標準的なカテーテルに基づく送達系および方法を用いて、マーカーバンドを含むロープをイヌ屍体に移植した。図14に示されるとおり、ロープを硬膜外腔およびクモ膜下腔内に移植することに成功した。
【0052】
実施例13 繊維を用いた治療薬の全身送達
本発明の繊維を、単独またはチューブ、ヤーンもしくはロープの形で、治療薬剤の全身送達のために患者に注射してもよい。こうした注射は、乾燥繊維または流動可能な懸濁物内の繊維として、針による筋内または皮下注射として行なわれてもよい。こうした全身送達は、最大数ヵ月の長期間にわたる持続的薬物放出を可能にする。非限定的な例の1つとして、本発明のコア−シース繊維の内側部分の中にリスペリドンが含まれて、統合失調症の処置のために筋内注射によって投与される。
【0053】
本発明は、繊維と、こうした繊維を作製する方法と、こうした繊維から作られる移植片と、こうした繊維を用いて患者を処置する方法とを含む。発明者らは、驚くほど高い薬物添加率と、多数の医学的適用の特定の要求に合わせられ得る薬物放出プロファイルとを有する小さい繊維を製造することが可能であることを見出した。本発明の局面を、その実施形態例を参照しながら説明したが、本発明の範囲から逸脱することなくその形および詳細にさまざまな変更を加えてもよいことが当業者に理解されるだろう。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、Palasisらによる表題「Compositions and Methods for Treating Joint Conditions」の米国仮出願第61/146,060号(この開示は、参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は薬物添加された繊維に関し、より特定的には患者の体内の標的位置に薬物を送達するために用いられる小さい繊維に関する。
【背景技術】
【0003】
患者の体内での治療薬剤の局在的送達を含むいくつかの医学的適用に対して、繊維が提案されている。こうした使用を促進するために、ポリマー繊維に薬物を添加した後に患者に移植することによって、長期間にわたる薬物の送達を可能にする。しかしながら、こうした繊維の製造および実際の適用は、それらのサイズが小さいために中に添加できる薬物の量が制限されることから、限定されてきた。加えて、こうした繊維から有用かつ調節可能な薬物放出動態(drug release kinetics)を得ること、ならびに患者の体内でのこうした繊維の配置およびその後の移動性を調節することも困難であり得る。したがってこうした繊維の使用は限定されてきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの局面において、本発明は、高い薬物添加率を有し、有用かつ調節可能な薬物放出動態を提供する薬物添加繊維に関する。
【0005】
別の局面において、本発明は、高い薬物添加率を有し、有用かつ調節可能な薬物放出動態を提供する少なくとも1つの薬物添加繊維を含む移植片に関する。
【0006】
別の局面において、本発明は、高い薬物添加率を有し、有用かつ調節可能な薬物放出動態を提供する薬物添加繊維およびそれから作られる移植片を作製する方法に関する。
【0007】
さらに別の局面において、本発明は、本発明の繊維を用いて患者を処置する方法に関する。本発明の繊維はポリマー材料および薬物を含む。この繊維は最大約20ミクロンの直径を特徴とし、繊維の中に位置付けられる薬物は実質的に粒子状の形である。特定の実施形態において、薬物は繊維の少なくとも約20重量パーセントを構成する。薬物はポリマーおよび溶剤に実質的に不溶性であるか、または溶液中の薬物の量がポリマーもしくは溶剤における薬物の溶解度限界(solubility limit)を超えているかのいずれかである。いくつかの実施形態において、本発明の繊維は内側半径部分および外側半径部分を含む。薬物は内側および/または外側半径部分の中に位置付けられる。
【0008】
本発明の移植片は、患者の体内への移植のために適合される。本発明の移植片の実施形態は、1つもしくはそれ以上の個別の繊維、または1つもしくはそれ以上の繊維から作られたその他の移植片構成、たとえばヤーン、ロープ、チューブおよびパッチなどを含む。
【0009】
一実施形態において、本発明の繊維は、少なくとも1つの溶液がエレクトロスピニングされて繊維になる同軸エレクトロスピニングプロセスによって作製される。この溶液はポリマーと、溶剤と、薬物とを含む。薬物はポリマーおよび溶剤に実質的に不溶性であるか、または溶液中の薬物の量がポリマーもしくは溶剤における薬物の溶解度限界を超えているかのいずれかである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1aおよび図1bは、本発明の実施形態に従う繊維の側面図を模式的に表す図である。
【図2】図2aおよび図2bは、本発明の実施形態に従う繊維の側面図を模式的に表す図である。
【図3】図3aは、本発明の繊維を製造するために用いられるエレクトロスピニングシステムを模式的に表す図である。図3bは、本発明のエレクトロスピニングシステムにおいて用いられる同軸針(の断面)を模式的に表す図である。
【図4】図4は、本発明の繊維を製造するために用いられるエレクトロスピニングシステムを模式的に表す図である。
【図5】図5aおよび図5bは、本発明の実施形態に従う、内側および外側半径部分を有する同軸繊維の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の特定の繊維実施形態からの薬物放出プロファイルを示す図である。
【図7】図7は、本発明の特定の繊維実施形態からの薬物放出プロファイルを示す図である。
【図8】図8は、本発明の特定の繊維実施形態からの薬物放出プロファイルを示す図である。
【図9】図9は、本発明のヤーンを製造するために用いられるエレクトロスピニングシステムを模式的に表す図である。
【図10】図10a、図10bおよび図10cは、本発明の実施形態に従う、放射線不透過性のマーカーバンドの組み込みを含むヤーンを示す図である。
【図11】図11a、図11bおよび図11cは、本発明のロープを示す図である。
【図12】図12は、本発明のチューブを模式的に表す図である。
【図13】図13は、本発明のパッチを模式的に表す図である。
【図14】図14は、本発明のロープをイヌ屍体の硬膜外腔およびくも膜下腔に移植することに成功したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、繊維と、こうした繊維を作製する方法と、こうした繊維から作製される移植片と、こうした繊維を用いて患者を処置する方法とを含む。発明者らは、驚くほど高い薬物添加率および多数の医学的適用の特定の要求に合わせられ得る薬物放出プロファイルを有する小さい繊維の製造が可能であることを見出した。加えて発明者らは、所望の薬物送達特徴を最適化し、かつ患者への移植片の適切な送達能力およびその後の移植片移動性を促進するために、本発明の繊維からさまざまな移植片構成を作製できる。本明細書において用いられるとき、「薬物」および「治療薬剤」は、所望の治療効果を生じさせるために用いられる小分子、生物製剤、およびその他の活性薬剤を含むように同義で用いられる。
【0012】
本発明の繊維の例を図1aおよび図1bに模式的に示す。繊維100は一般的に管状の形であり、長さ110および直径111によって特徴付けられる。本発明の繊維は一般的に、広範囲の医学的適用に対処するための移植に有用であるために十分に小さい。よって繊維の直径111は、好ましくは最大約20ミクロンである。繊維の長さ110は意図される医学的使用によって決められ、一般的には数ミクロンから数ミリメートルから数センチメートルの範囲であってもよい。
【0013】
繊維100はあらゆる好適なポリマー生体適合性材料から作られており、その中に埋め込まれた薬物を含んでいる。好ましくは、繊維100は移植後に時間とともに患者の体内で分解するような生体吸収性材料から作られる。繊維100を形成するために用いられるポリマー材料の分解速度は、ポリマー材料からの薬物の送達後に分解するように設計されてもよいし、分解プロセスを介して薬物送達速度を調節するための手段として設計されてもよい。
【0014】
本発明の繊維100の形成に有用な生体吸収性材料の例は以下を含む:ポリエステル、たとえばポリ(ε−カプロラクトン)(poly(ε−caprolactone):PCL)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(poly lactic−co−glycolic acid:PLGA)、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(DL−乳酸)など;そのコポリマー、たとえばポリ(ラクチド−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−コ−ε−カプロラクトン)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol:PEG)とのコポリマーなど;分岐鎖ポリエステル、たとえばポリ(グリセロールセバシン酸)など;ポリ(フマル酸プロピレン);ポリ(エーテルエステル)、たとえばポリジオキサノンなど;ポリ(オルトエステル);ポリ無水物、たとえばポリ(セバシン酸無水物)など;ポリカーボネート、たとえばポリ(トリメチルカーボネート)および関連コポリマーなど;ポリヒドロキシアルカン酸、たとえば3−ヒドロキシ酪酸塩、3−ヒドロキシ吉草酸塩、および生物由来であってもなくてもよい関連コポリマーなど;ポリホスファゼン;ポリ(アミノ酸)、たとえばポリ(L−リジン)、ポリ(グルタミン酸)および関連コポリマーなど。
【0015】
本発明の繊維100の形成に有用な生物由来の生体吸収性ポリマーの例は以下を含む:ポリペプチド、たとえばコラーゲン、エラスチン、アルブミンおよびゼラチンなど;グリコサミノグリカン、たとえばヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、硫酸ケラタン、ヘパラン硫酸およびヘパリンなど;キトサンおよびキチン;アガロース;コムギグルテン;多糖、たとえばデンプン、セルロース、ペクチン、デキストランおよびデキストラン硫酸など;ならびに修飾多糖、たとえばカルボキシメチルセルロースおよび酢酸セルロースなど。その他の溶解性または吸収性のポリマーの例は、プルロニックおよびリバースプルロニック(reverse pluronics)として公知であるポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)コポリマーを含む。
【0016】
本発明の繊維100の形成に有用な非生分解性ポリマーの例は以下を含む:ナイロン4,6;ナイロン6;ナイロン6,6;ナイロン12;ポリアクリル酸;ポリアクリロニトリル;ポリ(ベンゾイミダゾール)(poly(benzimidazole):PBI);ポリ(エーテルイミド)(poly(etherimide):PEI);ポリ(エチレンイミン);ポリ(エチレンテレフタレート);ポリスチレン;ポリスルホン;ポリウレタン;ポリウレタン尿素;ポリビニルアルコール;ポリ(N−ビニルカルバゾール);ポリ塩化ビニル;ポリ(ビニルピロリドン);ポリ(フッ化ビニリデン);ポリ(テトラフルオロエチレン)(poly(tetrafluoroethylene):PTFE);ポリシロキサン;およびポリ(メタクリル酸メチル)。
【0017】
図1aおよび図1bに模式的に示される一実施形態において、繊維100の組成は実質的に均一であり、すなわち繊維100は均一なポリマー組成と、全体に実質的に均一に分散された薬物とを含む。しかし、好ましい実施形態においては、図2aおよび図2bに示されるとおり、繊維100は内側半径部分(inner radial portion)120および外側半径部分(outer radial portion)130を含む。内側および外側半径部分120、130を用いることによって、薬物放出動態の調整が可能になる。たとえば、好ましい実施形態においては、製造時の状態では繊維100内の実質的にすべての薬物が内側半径部分120の中に位置付けられる。この好ましい実施形態において、外側半径部分130は製造時の状態では実質的に薬物を含まず、繊維100の移植後に内側半径部分120から患者への薬物送達の速度を調節または制限するための薬物拡散バリアとして作用してもよい。他の実施形態においては、外側半径部分130も薬物を含み、その薬物は内側半径部分120に含まれる薬物と同じであっても異なっていてもよい。さらに他の実施形態においては、製造時の状態では繊維100内の実質的にすべての薬物が外側半径部分130の中に位置付けられ、内側半径部分120は実質的に薬物を含まない。本発明の好ましい実施形態において、繊維100は図2aおよび図2bに示されるとおりの内側および外側半径部分120、130を含み、繊維の総直径は約20ミクロン以下であり、外側半径部分の直径は内側半径部分よりも約1〜7ミクロン大きい。
【0018】
本発明の繊維内の薬物の量は、好ましくは少なくとも約20重量パーセントである。発明者らは驚くべきことに、本発明の方法を用いると、20重量パーセントおよびそれ以上(たとえば25、30、35、40、45、50重量パーセントおよびそれ以上など)という高い薬物添加率を達成できることを見出した。これらの高い薬物添加率を達成するために、(製造プロセスの間に用いられるあらゆる溶剤を含む)繊維100のポリマーに実質的に不溶性である薬物が用いられるか、または使用される薬物の量がポリマー(または溶剤)における薬物の溶解度限界よりも高くされる。こうすることで、公知の薬物添加繊維技術とは異なり、薬物はポリマーおよび関連溶剤に溶解することなく粒子状の形で存在する。
【0019】
本発明の繊維は、好ましくはエレクトロスピニング技術を用いて製造される。エレクトロスピニングは、圧力および電界の両方を印加することによって、ポリマー溶液の連続的な流れを「スピナレット」として公知の円筒形のチューブまたは針から収集基体に向けて排出するプロセスである。このプロセスの間に、電荷の蓄積および溶液からの溶剤の蒸発によって、典型的にナノメートルからミクロンのスケールの直径を特徴とする単一の長いポリマー繊維が得られる。
【0020】
好ましい実施形態において、内側および外側半径部分を有する本発明の繊維は、図3に模式的に示される同軸スピナレットシステムを用いて製造される。このシステム200は、それぞれのシリンジまたは類似の容器215、216の中に装填された内側溶液供給物210と、外側溶液供給物211とを含む。内側溶液供給物は、ポリマーと、溶剤と、好ましい実施形態においては治療薬剤とを含む溶液を含む。前に考察したとおり、薬物はポリマーまたは溶剤のいずれかに実質的に不溶性であるように選択されるか、または内側溶液供給物内の薬物の量がポリマーまたは溶剤のいずれかにおける薬物の溶解度限界を超えるように選択される。好ましい実施形態において、外側溶液供給物はポリマーおよび溶剤を含む溶液を含む。好ましくは、シリンジ215、216は中に装填された溶液の送出速度を計測する1つまたはそれ以上のポンプによって独立に駆動される。この例において、スピナレット220は、内側溶液供給物210に流体連結している内側針221と、外側溶液供給物211に流体連結している外側針222とを含む同軸針配置である。好ましくは、外側針222はたとえば好適なステンレス鋼などの電気伝導性材料を含み、より好ましくは、外側および内側針222、221の両方が伝導性材料を含む。図3aの断面図に示されるとおり、スピナレット220の同軸針配置の結果として、外側溶液供給物が内側溶液供給物を包んでいる。
【0021】
内側および外側溶液供給物がスピナレット220を通って移動すると、それらは外側針222への電位の印加によって帯電する。電荷は外側針222を通って外側溶液供給物に移り、好ましくは内側溶液供給物にも移る。図4に示されるとおり、スピナレット220の端部225からの予め定められた距離、好ましくは数十センチメートルのオーダのところに、1つまたはそれ以上の接地された伝導性基体230が置かれる。基体230の形状は、エレクトロスピニングプロセスによって得られることが望ましい移植片の形によって決められる。ポリマー溶液がスピナレットの端部225から出ると、ポリマー溶液中の溶剤は迅速に蒸発し、スピナレット220と接地基体230との間に形成された電界におけるたとえば電荷反発および電荷加速などの電気力の作用によって、溶液は引っ張られて小直径の繊維100となる。
【0022】
内側および外側半径部分120、130を有する繊維100を生成するための同軸針配置を特定的に参照してエレクトロスピニングプロセスを説明しているが、図1aおよび図1bを参照して説明したような均一な繊維の形成も本発明に含まれることが認識されるべきであり、そこでは単一の供給溶液が単一針スピナレットを通じてエレクトロスピニングされる。
【0023】
本発明の繊維に用いられる薬物は、それらが送達される医学的状態の処置のために選択されるあらゆる好適な薬物であるが、ただしそれらは繊維100に用いられるポリマーおよび溶剤に実質的に不溶性であるか、または薬物の量がこれらの材料における薬物の溶解度限界を超えているかのいずれかである。本発明において有用な薬物の一般的なカテゴリは以下を含むがそれに限定されない:オピオイド;ACE阻害剤;下垂体前葉(adenohypophoseal)ホルモン;アドレナリン作用性ニューロン遮断剤;副腎皮質ステロイド;副腎皮質ステロイドの生合成の阻害剤;アルファ−アドレナリン作用性アゴニスト;アルファ−アドレナリン作用性アンタゴニスト;選択的アルファ−2−アドレナリン作用性アゴニスト;アンドロゲン;抗依存性薬剤;抗アンドロゲン;抗感染薬、たとえば抗生物質、抗菌剤(antimicrobals)および抗ウイルス剤など;鎮痛薬および鎮痛薬の組み合わせ;食欲抑制薬;抗寄生虫剤;抗関節炎薬;抗喘息剤;抗けいれん薬;抗うつ薬;抗糖尿病薬;下痢止め薬;抗嘔吐および腸管運動促進薬;抗てんかん薬;抗エストロゲン;抗真菌薬;抗ヒスタミン剤;抗炎症薬;抗片頭痛製剤;抗ムスカリン剤;制吐薬;抗新生物薬;抗寄生虫剤;抗パーキンソン症薬;抗血小板剤;抗プロゲスチン;鎮痒薬;抗精神病薬;解熱剤;鎮痙薬;抗コリン作用薬;抗甲状腺剤;鎮咳薬;アザスピロデカンジオン;交感神経興奮剤;キサンチン誘導体;カリウムおよびカルシウムチャネル遮断薬、アルファ遮断薬、ベータ遮断薬、ならびに抗不整脈薬を含む心血管製剤;高血圧治療薬;利尿剤および抗利尿剤;全身の冠状動脈、末梢血管および脳血管を含む血管拡張薬;中枢神経系刺激剤;血管収縮薬;副腎皮質ステロイドを含む、たとえばエストラジオールおよびその他のステロイドなどのホルモン;催眠薬;免疫抑制薬;筋弛緩薬;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;鎮静剤;精神安定剤;ニコチンおよびその酸付加塩;ベンゾジアゼピン;バルビツール剤;ベンゾサイアジアザイド;ベータ−アドレナリン作用性アゴニスト;ベータ−アドレナリン作用性アンタゴニスト;選択的ベータ−1−アドレナリン作用性アンタゴニスト;選択的ベータ−2−アドレナリン作用性アンタゴニスト;胆汁酸塩;体液の体積および組成に影響する薬剤;ブチロフェノン;石灰化に影響する薬剤;カテコールアミン;コリン作用性アゴニスト;コリンエステラーゼ再賦活薬;外皮用剤;ジフェニルブチルピペリジン;麦角アルカロイド;神経節遮断薬;ヒダントイン;胃酸性度の調節および消化性潰瘍の処置のための薬剤;血液生成剤;ヒスタミン;5−ヒドロキシトリプタミンアンタゴニスト;高リポ蛋白血症(hyperlipiproteinemia)の処置のための薬物;下剤;メチルキサンチン;モノアミンオキシダーゼ阻害剤;神経筋遮断剤;有機硝酸塩;膵臓酵素;フェノチアジン;プロスタグランジン;レチノイド;けいれんおよび急性筋けいれんのための薬剤;スクシンイミド;チオキサンチン;血栓溶解剤;甲状腺剤;有機化合物の尿細管輸送の阻害剤;子宮運動性に影響する薬物;抗脈管形成および血管新生剤;ビタミン;その他;またはその組み合わせ。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態は、以下を含んでもよいがそれに限定されない活性成分を含む:a)副腎皮質ステロイド、たとえばコルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、プロピオン酸ベクロメタゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、フルメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロン、フルオシノロンアセトニド、酢酸フルオシノロン、プロピオン酸クロベタゾールなど、またはその組み合わせ;b)鎮痛性抗炎症薬、たとえばアセトアミノフェン、メフェナム酸、フルフェナム酸、インドメタシン、ジクロフェナク、ジクロフェナクナトリウム、アルクロフェナク、イブフェナク、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、サリチル酸、メチルサリチル酸塩、アセチルサルチル酸、1−メントール、樟脳、スリンダク(slindac)、トルメチンナトリウム、ナプロキセン、フェンブフェンなど、またはその組み合わせ;c)催眠鎮静剤、たとえばフェノバルビタール、アモバルビタール、シクロバルビタール、ロラゼパム、ハロペリドールなど、またはその組み合わせ;d)精神安定剤、たとえばフルフェナジン(fulphenazine)、チオリダジン、ジアゼパム、フルラゼパム、クロルプロマジンなど、またはその組み合わせ;e)高血圧治療薬、たとえばクロニジン、塩酸クロニジン、ボピニドール(bopinidol)、チモロール、ピンドロール、プロプラノロール、塩酸プロプラノロール、ブプラノロール、インデノロール、ブクモロール、ニフェジピン、ブニトロロールなど、またはその組み合わせ;f)降圧利尿剤、たとえばベンドロフルメチアジド、ポリチアジド、メチルクロルチアジド、トリクロルメチアジド、シクロペンチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、ブメタニドなど、またはその組み合わせ;g)抗生物質、たとえばペニシリン、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、硫酸フラジオマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコールなど、またはその組み合わせ;h)麻酔薬、たとえばリドカイン、ベンゾカイン、エチルアミノ安息香酸など、またはその組み合わせ;i)別の鎮痛薬、たとえばアセチルサリチル酸、トリサリチル酸コリンマグネシウム、アセトアミノフェン、イブプロフェン、フェノプロフェン、ジフルシナル、ナプロキセンなど;j)鎮痒薬、たとえばビサボロール、カモミールの油、カマズレン、アラントイン、D−パンテノール、グリチルレチン酸(glycyrrhetenic acid)、副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン剤など;k)抗菌剤、たとえばヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、クロロクレゾール、ベンザルコニウム塩化物、ニトロフラゾン、ナイスタチン、硫黄アセトアミド、クロトリマゾール(clotriamazole)など、またはその組み合わせ;l)抗真菌薬、たとえばペンタマイシン、アンホテリシンB、ピロールニトリン、クロトリマゾールなど、またはその組み合わせ;m)ビタミン、たとえばビタミンA、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、オクトトリアミン、リボフラビン酪酸エステルなど、またはその組み合わせ;n)抗てんかん薬、たとえばニトラゼパム、メプロバメート、クロナゼパムなど、またはその組み合わせ;o)抗ヒスタミン剤、たとえば塩酸ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ジフェニルイミダゾールなど、またはその組み合わせ;p)鎮咳薬、たとえばデキストロメトルファン、テルブタリン、エフェドリン、塩酸エフェドリンなど、またはその組み合わせ;q)性ホルモン、たとえばプロゲステロン、エストラジオール、エストリオール、エストロンなど、またはその組み合わせ;r)抗うつ薬、たとえばドキセピンなど;s)血管拡張薬、たとえばニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ニトログリコール、ペンタエリトリトール四硝酸塩、ジピリダモールなど、またはその組み合わせ;t)局所麻酔薬、たとえばプロカイン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン/ラロカイン、プロポキシカイン、プロカイン/ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン/アメトカイン、リドカイン、アルチカイン、ブピバカイン、カルチカイン、シンコカイン/ジブカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン/リグノカイン、メピバカイン、ピペロカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカインなど;u)別の薬物、たとえば5−フルオロウラシル、ジヒドロエルゴタミン、デスモプレッシン、ジゴキシン、メトクロプラミド、ドンペリドン、スコポラミン、塩酸スコポラミンなど、またはその組み合わせなど;またはその組み合わせ。
【0025】
本発明の実施形態において、あらゆるオピオイドが用いられてもよい。有用なオピオイドは、アルフェンタニル、アリルプロジン、アルファプロジン、アニレリジン、ベンジルモルヒネ、ベジトラミド、ブプレノルフィン、ブトルファノール、クロニタゼン、コデイン、デソモルヒネ、デキストロモラミド、デゾシン、ジアンプロミド、ジアモルホン、ジヒドロコデイン、ジヒドロモルヒネ、ジヒドロモルホン、ジヒドロイソモルヒネ、ジメノキサドール、ジメフェプタノール、ジメチルチアンブテン、ジオキサフェチルブチレート、ジピパノン、エプタゾシン、エトヘプタジン、エチルメチルチアンブテン、エチルモルヒネ、エトニタゼン、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、フェンタニル、ヘロイン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、ヒドロモルホドン、ヒドロキシペチジン、イソメタドン、ケトベミドン、レボルファノール、レボフェナシルモルファン、ロフェンタニル、メペリジン、メプタジノール、メタゾシン、メタドン、メトポン、モルヒネ、ミロフィン、ナルセイン、ニコモルヒネ、ノルレボルファノール、ノルメタドン、ナロルフィン、ナルブフェン、ノルモルヒネ、ノルピパノン、アヘン、オキシコドン、オキシモルホン、パントポン、パパベレタム(papavereturn)、パレゴリック、ペンタゾシン、フェナドキソン、フェンジメトラジン、フェンジメトラゾン、フェノモルファン、フェナゾシン、フェノペリジン、ピミノジン、ピリトラミド、プロフェプタジン、プロメドール、プロペリジン、プロポキシフェン、プロピルヘキセドリン、スフェンタニル、チリジン、トラマドール、その薬学的に許容できる塩、およびそのいずれか2つまたはそれ以上の混合物を含むがそれに限定されない。
【0026】
本発明の繊維は、注射可能な溶液内で送達され得る個々の移植片として用いられてもよいし、いかなる関連溶液も伴わない1つの移植片として用いられてもよい。他の実施形態において、繊維はたとえばヤーン、ロープ、チューブおよびパッチなどの他の構成に形成される。こうした構成はさまざまな医学的適用のために有用であり、患者への送達後に所望の薬物送達特徴、送達能力および移動性を得るために用いられる。たとえば、本発明の繊維は体内の流体で満たされた空間、たとえば関節、眼房、くも膜下腔および心膜腔などへの注射のために有用である。加えて、この繊維は組織内にたとえば筋内または皮下にて注射または移植されてもよいし、血管などの体内管腔に入れられてもよい。さらにこの繊維は組織係留特徴を提供する構成に形成されてもよい。こうした構成の例は、端部が伸長してTバーアンカー、矢の先端または曲がったフックなどの形になったものなどを含む。本発明の繊維および移植片、ならびにそれらを作製および使用する方法を、以下の限定的でない実施例を参照しながらさらに説明する。
【実施例】
【0027】
実施例1 均一な繊維の形成
本発明に従って、ポリe−カプロラクトン(PCL)から作製されかつ10wt%のデキサメタゾンを含有する均一な繊維を製造した。クロロホルムおよびアセトン溶剤中に15wt%のPCLを含有する溶液を18ゲージ針をかぶせたシリンジに入れ、シリンジポンプセットに接続して約4mL/hの流量を送出するようにした。ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluroroethylene)でコートした接地マンドレルを針の先端から約17cmのところに置いた。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。この繊維は実質的に均一な組成および形態ならびに約10ミクロンの直径を特徴とし、その全体にわたってデキサメタゾンが粒子状の形で分散された。
【0028】
実施例2 コア−シース繊維の形成
本発明に従って、内側および外側半径部分、すなわちいわゆる「コア−シース」構造を有する繊維を製造した。
【0029】
コア−シース繊維の第1の組は、PCLを含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するように製造された。これらの繊維は、クロロホルム/エタノール中に20wt%のPCLを含む外側部分溶液と、クロロホルム/アセトン中の20wt%のPCLおよび(PCLに対して)30wt%のデキサメタゾンを含む内側部分溶液とを処方することによって作製された。内径約2.3mmのステンレス鋼の外側チューブと、外径約0.9mmで内径約0.6mmのステンレス鋼の内側チューブとを含む同軸針配置を用いて、外側および内側部分溶液をそれぞれエレクトロスピニングプロセスに送出した。外側部分溶液は約23mL/hの速度で送出され、内側部分溶液は約12mL/hの速度で送出された。ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluroroethylene)でコートした接地マンドレルを針の先端から約20cmのところに置いた。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。
【0030】
コア−シース繊維の第2の組は、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)を含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するように製造された。これらの繊維は、ヘキサフルオロイソプロパノール中に6wt%のPLGAを含む外側部分溶液と、クロロホルム/アセトン中の15wt%のPCLおよび(PCLに対して)30wt%のデキサメタゾンを含む内側部分溶液とを処方することによって作製された。内径約2.3mmのステンレス鋼の外側チューブと、外径約0.9mmで内径約0.6mmのステンレス鋼の内側チューブとを含む同軸針配置を用いて、外側および内側部分溶液をそれぞれエレクトロスピニングプロセスに送出した。外側部分溶液は約8mL/hの速度で送出され、内側部分溶液は約3mL/hの速度で送出された。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。
【0031】
コア−シース繊維のどちらの組も、内側および外側半径部分を特徴とする構造を有することが見出された。図5aおよび図5bの走査型電子顕微鏡写真に示されるとおり、これらの繊維は約10ミクロンから15ミクロンの平均断面直径を有していた。図5aにみられるとおり、本発明に従って生成された繊維は、薬物が実質的に粒子状の形で存在する形態を特徴とする。これは、繊維を作るために用いられるポリマー溶液中の薬物の量が使用されるポリマー材料に不溶性であるか、または使用されるポリマー材料における薬物の溶解度限界を超えているためである。図5bは、図5aに示される繊維をメタノールに浸漬して中に含まれるデキサメタゾンを抽出した後を示しており、よって残った外側半径部分が現れており、内側半径部分が実質的にデキサメタゾンで構成されていたことを示している。
【0032】
実施例3 薬物放出速度の比較
実施例1および2に従って製造された繊維を計量した後、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline:PBS)およびシクロデキストリンの溶液中に入れた。UV吸光度技術を用いて、繊維からのデキサメタゾン放出速度を測定した。予想どおり、実施例1に従って製造された均一な繊維構造は、実施例2に従って製造されたコア−シース繊維構造よりも顕著な「バースト」薬物放出プロファイルをもたらした。その結果、デキサメタゾンは均一な繊維からは実質的に約5時間以内に放出されることが見出された。それに比べて、実施例2の第1の組の繊維はPBS溶液内への配置後約120時間にわたるデキサメタゾン放出をもたらし、実施例2の第2の組の繊維はPBS溶液内への配置後約170時間にわたるデキサメタゾン放出をもたらした。
【0033】
実施例4 処理条件を用いた薬物放出速度の調整可能性
PLGAを含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するコア−シース繊維を製造した。この繊維は、ヘキサフルオロイソプロパノール中に4wt%のPLGAを含む外側部分溶液と、クロロホルム/アセトン中の20wt%のPCLおよび(PCLに対して)20wt%のデキサメタゾンを含む内側部分溶液とを用いて作製された。全繊維中のデキサメタゾンの量は約13wt%であった。内径約2.3mmのステンレス鋼の外側チューブと、外径約0.9mmで内径約0.6mmのステンレス鋼の内側チューブとを含む同軸針配置を用いて、外側および内側部分溶液をそれぞれエレクトロスピニングプロセスに送出した。ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluroroethylene)でコートした接地マンドレルを針の先端から約20cmのところに置いた。針に電流を印加すると、本明細書に記載されるとおりのエレクトロスピニング技術に従って繊維がエレクトロスピニングされた。エレクトロスピニングプロセスの際に内側および外側部分溶液の供給速度のみを以下のとおりに変えて、この実施例に従って3つの繊維構造をエレクトロスピニングした。
【0034】
【表1】
繊維を計量した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)およびシクロデキストリンの溶液中に入れた。UV吸光度技術を用いて、繊維からのデキサメタゾン放出速度を測定した。発明者らは驚くべきことに、デキサメタゾン添加および相対的PLGA対PCL比の両方がすべての繊維に対して実質的に同一であったにもかかわらず、溶出プロファイルはエレクトロスピニングの際の内側および外側溶液の供給速度によって変わったことを見出した。たとえば図6に示されるとおり、内側および外側部分溶液に対して最も遅い供給速度を用いると、より速い溶液供給速度を用いて製造された繊維よりも遅い累積薬物放出がもたらされた。このことが図7にさらに示されており、ここではすべての繊維からのデキサメタゾン放出が少なくとも約110日間続いたが、内側および外側部分溶液に対して最も遅い供給速度を用いて製造された繊維からもたらされるバースト放出は、より速い溶液供給速度を用いて製造された繊維に比べて顕著に低く、その結果より線形的な薬物放出プロファイルが得られたことが示されている。
【0035】
実施例5 高い薬物添加を伴う繊維
ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)を含む外側半径部分と、PCLおよびデキサメタゾンを含む内側半径部分とを有するようにコア−シース繊維を製造した。これらの繊維は、クロロホルムおよびメタノール中にPLGAを含む外側部分溶液と、クロロホルムおよびアセトン中にPCLを含む内側部分溶液とから作製された。実施例2に記載されるプロセスと類似のエレクトロスピニングプロセスを用いて3組の繊維を製造した。コア溶液はPCLに対して80wt%という高い薬物添加を含んだ。外側溶液の条件を変えて3組の繊維を生成した:(総繊維質量に対して)第1の組は30wt%のデキサメタゾン含有量を有し、第2の組は50wt%のデキサメタゾン含有量を有し、第3の組は67wt%のデキサメタゾン含有量を有した。繊維を計量した後、リン酸緩衝食塩水(PBS)およびシクロデキストリンの溶液中に入れた。UV吸光度技術を用いて、繊維からのデキサメタゾン放出速度を測定した。図8に示されるとおり、発明者らは、本発明の繊維のコア−シース構造を用いて、高い添加率を有する繊維からの調節された薬物放出を達成可能であることを示した。
【0036】
実施例6 ヤーンの形成
一実施形態において、本発明の繊維は薬物を含有するヤーンに形成される。図9に示されるとおり、こうしたヤーンは、前述のとおりに繊維をエレクトロスピニングし、予め定められた間隙311を間に有する接地コレクタ310上にその繊維を集めることによって形成される。エレクトロスピニングプロセスの際に、コレクタ310間の間隙311に少なくとも1本の繊維100が形成され、コレクタ310は繊維が付着されると反対方向に回される。その結果、図10aに模式的に示され、図10bの走査型電子顕微鏡写真に示されるとおりの、撚り合わされた構成の整列した繊維100を含むヤーン構造330が得られる。好ましい実施形態において、この繊維は前述のとおりの内側および外側部分を有するコア−シース構造を有する。ヤーン330の形成後、それは切断されるか、別様でコレクタ310から取り外され、製造時のまま用いられるか、またはより短い長さに切断されるか、または他のヤーン構造とともに密封されて、後に編んだり結んだりされる構造を作製するために用いられ得る長い連続的なヤーンを作製する。本発明のヤーンは100ミクロンを超える例示的直径と、1ミリメートルまたはそれ以上の長さとを有し、さらに任意には図10cに示されるとおり、放射線不透過性のマーカーバンド335を付着させるために十分な大きさに製造されてもよい。
【0037】
実施例7 ロープの形成
一実施形態において、実施例6に記載されるとおりの複数のヤーンが作製され、撚り合わされてロープにされる。図11aに示されるとおり、こうしたヤーンは互いに平行に配置されてからあらゆる好適な機械的手段を用いて撚り合わされてロープ350を形成する。その結果得られる例示的な構造は図11bに模式的に示されており、図11cの走査型電子顕微鏡写真にみることができる。一例として、実施例6に記載されるとおりのヤーンを、固定された距離だけ離された2つの小さい直径のマンドレルからなるエレクトロスピニング固定具の上に集めた。マンドレルを約35rpmにて互いに反対方向に約25〜30秒間回転させることによって、ヤーンを撚り合わせてロープにした。
【0038】
他の実施形態において、本発明に従うロープは、組成、特性、薬物放出速度、および/または中に添加される薬物が異なる複数のヤーンを含む。たとえば本発明のロープは、2つの治療薬剤が相乗的に働くような適用のために有用であってもよく、これは第1の相乗的薬剤を含む1つのヤーンを形成し、第2の相乗的薬剤および/または第1の薬剤に対するアジュバントを含む別のヤーンを形成し、次いでこれらのヤーンを撚り合わせてロープにすることによって達成されてもよい。こうした適用の例として、たとえばブピバカインおよびモルヒネなどの薬剤が別個のヤーンに添加された後にロープに形成されてもよい。
【0039】
本発明のロープの機械的特性は、ヤーンの数を変えることによって調節されてもよい。たとえば発明者らは、ロープ内のヤーンの数を1本、3本および6本に変えたときの、PLGAヤーンから作られたロープの以下の機械的特性を測定した。
【0040】
【表2】
実施例8 チューブの形成
一実施形態において、本発明の繊維は薬物を含有するチューブに形成される。こうしたチューブを作るために、薬物を含有する繊維が前述のとおりエレクトロスピニングされるが、好ましくは約200ミクロンよりも小さい直径を有する伸長した接地ワイヤの上にエレクトロスピニングされる。エレクトロスピニングプロセスに続いて溶剤が蒸発された後にワイヤを抽出して、図12に示されるとおりの、貫通空洞410と、1つまたはそれ以上の薬物含有繊維100から作られた側壁411とを有する中空のチューブ400を得る。好ましい実施形態においては、患者の体内への移植のためにチューブ400を約1ミリメートル未満の長さのセグメントに切断する。血管移植などとして用いるためにたとえば血管などの体内腔に挿入するために、たとえば最大数ミリメートルなどのより大きい直径、およびたとえば最大数十ミリメートルまたはそれ以上などのより大きな長さを有するチューブが本発明に従って作製されてもよい。
【0041】
いくつかの実施形態において、本発明のチューブ400は、貫通空洞410の内側に薬物を含むようにさらに処理される。この薬物は、チューブの側壁411を構成する繊維100に含まれる薬物と同じであっても異なっていてもよい。こうした実施形態においては、圧力、熱、または溶剤の適用を用いて側壁411の固有間隙率を変えることによって、チューブ側壁411の繊維100および貫通空洞410からの薬物の送達速度を変えることができる。繊維100および貫通空洞410の両方の中で薬物を用いることによって、たとえば即時的バースト放出に続く徐放など、目的に合わせた薬物送達プロファイルが可能になる。
【0042】
実施例9 パッチの形成
一実施形態においては、図13に示されるとおり、本発明の繊維が薬物を含有するパッチ500に形成される。こうしたパッチは、1つまたはそれ以上の繊維を金属基体上にエレクトロスピニングして繊維のシート100を作製し、次いでそれを基体から機械的または化学的に取り外して所望の構成に切断することによって形成される。その後の繊維パッチ500を患者への内部的または外部的な投与に合わせてさらに処理してもよい。たとえば、パッチはポリマーコーティング層510、たとえばヒドロゲル、ポリマーのPLGAファミリーのものなどの吸収性ポリエステル、またはコラーゲンなどのポリペプチドなどを含むことによって、パッチからの薬物送達速度の調節を助けたり、および/または移植後の組織接着を防いだりしてもよい。別の例において、パッチ500は、患者の皮膚または内部体表面にパッチ500を付着させるために用いられるコーティング層510と類似のバッキング層を含む。こうしたパッチは創傷治癒適用によく適している。なぜならこうしたパッチは細胞内殖のための足場の役割をして、抗生物質などの治療薬剤を送達し得るからである。小さいメッシュサイズを有するように設計されているとき、このパッチは流体の通過/排出および栄養素の輸送を可能にしながら病原体に対する物理的障壁の役割もしてもよい。
【0043】
代替的実施形態においては、薬物を含有する繊維でできたチューブ400が、接地金属基体上にエレクトロスピニングされたパッチ500から作られる。エレクトロスピニングプロセスの後に、パッチを基体から取り外して巻くことにより、好ましくは約50ミクロンから約1ミリメートルの範囲の直径を有するチューブにする。
【0044】
実施例10 関節の状態の処置
一実施形態においては、本発明の繊維が骨関節炎などの関節の状態を処置するために用いられる。この目的のために繊維は「乾いて」送達されてもよいし、流動可能な材料を含む組成物に含まれていてもよい。後者のときには、流動可能な材料は関節炎またはその他の関節の状態になった患者の患部関節に投与できるあらゆる好適な材料である。こうした流動可能な材料の例は、液体、たとえば食塩水、緩衝液および等張性溶液など;ゲル、たとえばアルギン酸塩などのポリマーを含むものなど、グリコサミノグリカン(glycosaminoglycans:GAGs)、水溶性ゴム、たとえば寒天、アラビアゴム、イナゴマメガム(carob)、カラゲーニン、セルロース誘導体、キチンおよびキトサンに基づくポリマー、コンドロイチン硫酸、酸化エチレン含有ポリマー、ポロキサマー、ガッチゴム、グアーガム、ヒアルロン酸、カラヤゴム、カダヤゴム、イナゴマメガム(locust bean)、トラガカントゴム、キサンタンガム(xantham)、ラミニン、エラスチンなど、およびその他の粘性媒体である。
【0045】
数百ミクロンのオーダの長さを有する本発明の繊維を、流動可能な材料に懸濁する。流動可能な材料内の繊維の体積パーセントは、所望の治療効果を提供するためのあらゆる好適な範囲内である。繊維は好ましくは生分解性であり、患者に投与されたときに顕著な悪影響をもたらさない好適な生体適合性の材料から作られる。こうした材料は、合成吸収性ポリマー、たとえばポリエステル、たとえばポリジオキサノン(polydioxanone:PDO)、ポリ乳酸(polylactic acid:PLA)、ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)、ポリe−カプロラクトン(PCL)およびそのコポリマー、ポリグリコリド(poly glycolide:PGA)、ポリヒドロキシ酪酸(polyhydroxybutyrate:PHB)、ポリヒドロキシアルカン酸(polyhydroxyalkanoate:PHA)、ポリグリセロールセバシン酸(poly glycerol sebacate:PGS)など;ポリカーボネート、たとえばポリトリメチレンカーボネート(poly trimethylene carbonate:PTMC)など;ポリ無水物、たとえばポリ(セバシン酸無水物)、ポリ(ビスカルボキシフェノキシプロパン)、分解性ウレタン、およびポリホスファゼン(polyphasphazenes)など;天然ポリマー、たとえばグリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ラミニン、エラスチン、コラーゲン、ゼラチン、およびアルブミンなど;ならびに溶解性ポリマー、たとえばデキストラン、デキストラン硫酸、カルボキシメチル(carboxymthyl)セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールおよびそのコポリマー、およびプルロニックポリマーなどを含むがそれに限定されない。
【0046】
図2aおよび図2bに示されるとおり、この繊維は内側および外側半径部分を含む。内側部分は、関節炎および/またはその症状を処置するための薬物、たとえば鎮痛剤、たとえばブピバカイン、リドカイン、ベンゾカイン、テトラカイン、キシロカイン、アセトアミノフェン、パラ−アミノサリチル酸(para−aminosalicyclic acid)、インドメタシン、非ステロイド性抗炎症薬(non−steroidal anti−inflammatory drugs:NSAIDs)、たとえばジクロフェナク、ケトプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ナプロキシノド(naproxcinoid)など、COX阻害剤、たとえばセレコキシブ、エトリコキシブ、ルミラコキシブ、メロキシカム、ニメスルフィド(nimesulfide)、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、およびオピオイドなど;抗生物質、たとえばサイクリンなど;生物製剤、たとえばRNAi、オリゴヌクレオチド、タンパク質、およびアプタマーなど;抗菌剤、たとえば二酸化塩素(chlorium dioxide)および銀など;MMP阻害剤;たとえばインターロイキン−1、インターロイキン12、インターロイキン23などのサイトカインの阻害剤;腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)およびインターフェロンガンマ(interferon gamma:IFN−γ);グルコース誘導体、たとえばアウロチオグルコースなど;ならびにステロイド、たとえばコルチゾン、プレドニゾンおよび副腎皮質ステロイドなどを含む。好ましい実施形態において、薬物は鎮痛薬であり、流動可能な材料はヒアルロン酸を含む。
【0047】
流動可能な材料内の繊維懸濁物は、当該技術分野において公知の方法を用いて患部関節に注射される。好ましい実施形態において、繊維懸濁物は針注射によって処置されるべき関節の中またはその近く、たとえば膝の関節内腔の中または膝関節嚢に隣接する脂肪パッドの中などに直接注射される。非限定的な例として、本発明の組成物は膝、肩、腰、手首、足首および手の関節の中および周囲に注射可能であり、さらに脊柱、下顎骨(顎骨)および副鼻洞腔にも注射可能である。注射は手術中または手術後の手順で行なわれてもよいし、手術手順とは独立に行なわれてもよい。本発明の利点の結果として、所望の臨床効果を達成するために必要な注射の回数を最小化し得る。
【0048】
実施例11 眼疾患の処置
本発明の別の実施形態においては、眼疾患を処置するために繊維が用いられる。こうした疾患の非限定的な例は、強膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、角膜新血管形成、フックスジストロフィー、円錐角膜、虹彩炎、ブドウ膜炎、白内障、網膜症、黄斑変性、黄斑浮腫、および緑内障を含む。
【0049】
非限定的な例において、本発明の同軸繊維は、それぞれPLGAおよびPCLを含む外側および内側半径部分と、内側半径部分に含有されるフルオシノロンアセトニドとで構成される。1つまたはそれ以上の繊維を数ミリメートルのオーダの長さに切断し、硝子体内注射と類似の手順において、小直径の針によって患者の眼の硝子体液に注射することによって、たとえば糖尿病性黄斑浮腫、加齢性黄斑変性、および/または後部ブドウ膜炎などの状態を処置する。フルオシノロンアセトニド含有繊維を眼房水に付加的に注射することによって、前部ブドウ膜炎または強膜炎を処置してもよい。
【0050】
実施例12 疼痛およびCNS疾患の処置
本発明の別の実施形態においては、疼痛(たとえば慢性疼痛、癌疼痛、または腰痛などのその他の疼痛)または中枢神経系(central nervous system:CNS)の疾患、たとえばけいれん、パーキンソン病、アルツハイマー病などを処置するために薬物を脊椎に送達するために繊維が用いられる。たとえば、最小限の全身性副作用を伴う持続的疼痛緩和のために、本明細書に記載されるとおり、本発明のロープに、たとえばスフェンタニル、フェンタニル、ゲンタニル(gentanyle)、ヒドロモルホン、モルヒネ、ブピバカイン、ブプレノルフィンまたはジコニチド(ziconitide)などの適切な治療薬剤を添加して、疼痛受容体の近くの位置、たとえば硬膜外腔またはクモ膜下腔内などに注射してもよい。
【0051】
本発明の実施形態の適用可能性および送達能力を示すために、ロープを製造してイヌ屍体に移植した。最初に、実施例6に従ってヤーンを形成した。ヤーンの外径よりも大きい内径を有する放射線不透過性のマーカーバンドをヤーンの1つの上に置いた。実施例7に記載されるとおりにヤーンを固定具に付着させ、撚り合わせてロープにした。標準的なカテーテルに基づく送達系および方法を用いて、マーカーバンドを含むロープをイヌ屍体に移植した。図14に示されるとおり、ロープを硬膜外腔およびクモ膜下腔内に移植することに成功した。
【0052】
実施例13 繊維を用いた治療薬の全身送達
本発明の繊維を、単独またはチューブ、ヤーンもしくはロープの形で、治療薬剤の全身送達のために患者に注射してもよい。こうした注射は、乾燥繊維または流動可能な懸濁物内の繊維として、針による筋内または皮下注射として行なわれてもよい。こうした全身送達は、最大数ヵ月の長期間にわたる持続的薬物放出を可能にする。非限定的な例の1つとして、本発明のコア−シース繊維の内側部分の中にリスペリドンが含まれて、統合失調症の処置のために筋内注射によって投与される。
【0053】
本発明は、繊維と、こうした繊維を作製する方法と、こうした繊維から作られる移植片と、こうした繊維を用いて患者を処置する方法とを含む。発明者らは、驚くほど高い薬物添加率と、多数の医学的適用の特定の要求に合わせられ得る薬物放出プロファイルとを有する小さい繊維を製造することが可能であることを見出した。本発明の局面を、その実施形態例を参照しながら説明したが、本発明の範囲から逸脱することなくその形および詳細にさまざまな変更を加えてもよいことが当業者に理解されるだろう。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内の位置への治療薬剤の送達のための移植片であって、前記移植片は:
第1のポリマー材料を含み最大約20ミクロンの直径を有する繊維;および、
前記繊維内の第1の治療薬剤
を含み、前記治療薬剤の量は、前記第1のポリマー材料における前記治療薬剤の溶解度限界よりも多い、移植片。
【請求項2】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約20重量パーセントを構成する、請求項1に記載の移植片。
【請求項3】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約30重量パーセントを構成する、請求項1に記載の移植片。
【請求項4】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約40重量パーセントを構成する、請求項1に記載の移植片。
【請求項5】
前記繊維は内側半径部分と外側半径部分とを含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項6】
前記第1の治療薬剤の実質的にすべてが前記内側半径部分内に位置付けられる、請求項5に記載の移植片。
【請求項7】
前記繊維内に第2の治療薬剤をさらに含む、請求項6に記載の移植片。
【請求項8】
前記第2の治療薬剤の実質的にすべてが前記外側半径部分内に位置付けられる、請求項7に記載の移植片。
【請求項9】
前記第1のポリマー材料は生体吸収性である、請求項1に記載の移植片。
【請求項10】
第2のポリマー材料をさらに含む、請求項5に記載の移植片。
【請求項11】
前記内側半径部分は前記第1のポリマー材料を含み、前記外側半径部分は前記第2のポリマー材料を含み、前記第1のポリマー材料および前記第2のポリマー材料は互いに異なる、請求項10に記載の移植片。
【請求項12】
前記移植片は、ヤーンに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項13】
前記移植片は、ロープに形成される少なくとも2本のヤーンを含む、請求項12に記載の移植片。
【請求項14】
前記少なくとも2本のヤーンの各々が異なる治療薬剤を含む、請求項13に記載の移植片。
【請求項15】
前記ヤーンの少なくとも1本の周りに配置される放射線不透過性のバンドをさらに含む、請求項13に記載の移植片。
【請求項16】
前記放射線不透過性のバンドは生体吸収性である、請求項15に記載の移植片。
【請求項17】
前記移植片は、チューブに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項18】
前記移植片は、パッチに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項19】
患者の体内の位置への治療薬剤の送達のための移植片であって、前記移植片は:
第1のポリマー材料を含み最大約20ミクロンの直径を有する繊維であって、前記繊維は内側半径部分および外側半径部分を含む、繊維;ならびに
前記繊維内の第1の治療薬剤
を含み、前記第1の治療薬剤の実質的にすべてが前記内側半径部分内に位置付けられ、前記治療薬剤の量は前記第1のポリマー材料における前記治療薬剤の溶解度限界よりも多い、移植片。
【請求項20】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約20重量パーセントを構成する、請求項20に記載の移植片。
【請求項21】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約30重量パーセントを構成する、請求項20に記載の移植片。
【請求項22】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約40重量パーセントを構成する、請求項20に記載の移植片。
【請求項23】
前記移植片は、ヤーンに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項19に記載の移植片。
【請求項24】
前記移植片は、ロープに形成される少なくとも2本のヤーンを含む、請求項20に記載の移植片。
【請求項25】
前記少なくとも2本のヤーンの各々が異なる治療薬剤を含む、請求項24に記載の移植片。
【請求項26】
前記ヤーンの少なくとも1本の周りに配置される放射線不透過性のバンドをさらに含む、請求項24に記載の移植片。
【請求項27】
前記放射線不透過性のバンドは生体吸収性である、請求項15に記載の移植片。
【請求項28】
前記移植片は、チューブに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項19に記載の移植片。
【請求項29】
前記移植片は、パッチに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項19に記載の移植片。
【請求項1】
患者の体内の位置への治療薬剤の送達のための移植片であって、前記移植片は:
第1のポリマー材料を含み最大約20ミクロンの直径を有する繊維;および、
前記繊維内の第1の治療薬剤
を含み、前記治療薬剤の量は、前記第1のポリマー材料における前記治療薬剤の溶解度限界よりも多い、移植片。
【請求項2】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約20重量パーセントを構成する、請求項1に記載の移植片。
【請求項3】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約30重量パーセントを構成する、請求項1に記載の移植片。
【請求項4】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約40重量パーセントを構成する、請求項1に記載の移植片。
【請求項5】
前記繊維は内側半径部分と外側半径部分とを含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項6】
前記第1の治療薬剤の実質的にすべてが前記内側半径部分内に位置付けられる、請求項5に記載の移植片。
【請求項7】
前記繊維内に第2の治療薬剤をさらに含む、請求項6に記載の移植片。
【請求項8】
前記第2の治療薬剤の実質的にすべてが前記外側半径部分内に位置付けられる、請求項7に記載の移植片。
【請求項9】
前記第1のポリマー材料は生体吸収性である、請求項1に記載の移植片。
【請求項10】
第2のポリマー材料をさらに含む、請求項5に記載の移植片。
【請求項11】
前記内側半径部分は前記第1のポリマー材料を含み、前記外側半径部分は前記第2のポリマー材料を含み、前記第1のポリマー材料および前記第2のポリマー材料は互いに異なる、請求項10に記載の移植片。
【請求項12】
前記移植片は、ヤーンに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項13】
前記移植片は、ロープに形成される少なくとも2本のヤーンを含む、請求項12に記載の移植片。
【請求項14】
前記少なくとも2本のヤーンの各々が異なる治療薬剤を含む、請求項13に記載の移植片。
【請求項15】
前記ヤーンの少なくとも1本の周りに配置される放射線不透過性のバンドをさらに含む、請求項13に記載の移植片。
【請求項16】
前記放射線不透過性のバンドは生体吸収性である、請求項15に記載の移植片。
【請求項17】
前記移植片は、チューブに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項18】
前記移植片は、パッチに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項1に記載の移植片。
【請求項19】
患者の体内の位置への治療薬剤の送達のための移植片であって、前記移植片は:
第1のポリマー材料を含み最大約20ミクロンの直径を有する繊維であって、前記繊維は内側半径部分および外側半径部分を含む、繊維;ならびに
前記繊維内の第1の治療薬剤
を含み、前記第1の治療薬剤の実質的にすべてが前記内側半径部分内に位置付けられ、前記治療薬剤の量は前記第1のポリマー材料における前記治療薬剤の溶解度限界よりも多い、移植片。
【請求項20】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約20重量パーセントを構成する、請求項20に記載の移植片。
【請求項21】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約30重量パーセントを構成する、請求項20に記載の移植片。
【請求項22】
前記第1の治療薬剤は前記繊維の少なくとも約40重量パーセントを構成する、請求項20に記載の移植片。
【請求項23】
前記移植片は、ヤーンに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項19に記載の移植片。
【請求項24】
前記移植片は、ロープに形成される少なくとも2本のヤーンを含む、請求項20に記載の移植片。
【請求項25】
前記少なくとも2本のヤーンの各々が異なる治療薬剤を含む、請求項24に記載の移植片。
【請求項26】
前記ヤーンの少なくとも1本の周りに配置される放射線不透過性のバンドをさらに含む、請求項24に記載の移植片。
【請求項27】
前記放射線不透過性のバンドは生体吸収性である、請求項15に記載の移植片。
【請求項28】
前記移植片は、チューブに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項19に記載の移植片。
【請求項29】
前記移植片は、パッチに形成される少なくとも1本の繊維を含む、請求項19に記載の移植片。
【図4】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図11(c)】
【図12】
【図13】
【図6】
【図7】
【図8】
【図14】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図9】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図10(c)】
【図11(a)】
【図11(b)】
【図11(c)】
【図12】
【図13】
【図6】
【図7】
【図8】
【図14】
【公表番号】特表2013−511527(P2013−511527A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539996(P2012−539996)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/057010
【国際公開番号】WO2011/062974
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(509094919)アーセナル メディカル, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/057010
【国際公開番号】WO2011/062974
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(509094919)アーセナル メディカル, インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】
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