説明

藻類増殖量自動測定装置

【課題】本発明は、藻類について、多数のサンプルを均一な条件下で簡便に培養することができ、且つ、各サンプルの経時的な増殖量を自動的にモニタリングすることができる新規な藻類増殖量自動測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の藻類増殖量自動測定装置は、複数の培養容器と、前記培養容器を循環移送するための循環移送手段と、前記循環移送手段の移送経路上に配置されるRGB吸光光度測定手段と、培養光源と、前記培養容器内の培養液を通気撹拌するための通気手段を含み、前記RGB吸光光度測定手段は、順次移送される前記培養容器に測定光を照射するための測定光源と、該培養容器を透過した前記測定光を検出するためのRGB成分検出部と、検出した前記測定光のRGB成分毎に光検出信号を出力する光検出信号出力部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類の培養装置に関し、より詳細には、藻類の経時的な増殖量を自動的に測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
富栄養化した湖沼やダム湖においては、夏期に入るとアオコが大量発生することがある。アオコの多くはミクロキスティス属などの毒産生藍藻やフォルミディウム属などのカビ臭産生藍藻から構成されており、水域環境を著しく悪化させる。この点につき、特開2009−66549号公報(特許文献1)は、藻類の増殖を抑制するために、重金属キレートを水域に添加して増殖の制限要因を排除する技術を開示する。しかしながら、このような技術を適用する前段階において、対象水域における有害藍藻の発生を事前に予測する技術が必要となる。
【0003】
藍藻の発生予測は、その水域環境の持つ藻類生産の潜在能力を測定することによって行うことができる。このような藻類生産の潜在能力(Algal Growth
Potential)を測定する試験としては、米国において標準法が制定されている生物検定法の一種である、AGP試験が知られている。AGP試験では、自然水や排水などの試水に特定の藻類を接種し、光・温度等の物理的条件を最適化して培養した藻類の最大増殖量(乾燥重量:mg/mL)を測定し、これを藻類生産力の指標とする。さらに、AGP試験によれば、試水に対して、リン、窒素、鉄などの異なる栄養物質を添加した複数の培養系を用意し、各系についてAGP測定を実施することによって、その水域における藍藻増殖の制限要因を突き止めることができる。
【0004】
しかしながら、複数の培養条件についてAGP試験を実施する場合、統計的有意性を担保するためには、相当の数の培養が必要になり、これを三角フラスコで行うとなると大きなスペースが必要となる。また、培養容器の数が増えるにつれ、光の照射条件を均一にすることも難しくなる上、全ての培養容器を定期的に撹拌する必要があり、適切な培養環境を維持するために多大な労力を要する。
【0005】
また、AGP測定においては、藻類が最大増殖量に至ったことを知るために、その増殖量を経時的にモニタリングする必要がある。また、さらに、最大増殖量のみでは藍藻の発生予測を正確に行うことはできず、増殖量の経時的モニタリングに基づき、藍藻の比増殖速度を測定することが重要であるが、従来、このモニタリングは、培養容器から一定量の培養液を取り出し、その中に含まれる細胞数を直接計数することによって行われていたため、数多くの培養系を正確にモニタリングすることは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−66549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、藻類について、多数のサンプルを均一な条件下で簡便に培養することができ、且つ、各サンプルの経時的な増殖量を自動的にモニタリングすることができる新規な装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、藻類について、多数のサンプルを均一な条件下で簡便に培養することができ、且つ、各サンプルの経時的な増殖量を自動的にモニタリングすることができる装置につき鋭意検討した結果、複数の培養容器を循環移送するとともに、その移送経路上にRGB吸光光度測定手段を配置し、順次移送される培養容器について吸光度を測定する構成を見出し、本発明に至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明によれば、藻類の増殖量を自動的に測定するための装置であって、複数の培養容器と、前記培養容器を循環移送するための循環移送手段と、前記循環移送手段の移送経路上に配置されるRGB吸光光度測定手段と、培養光源と、前記培養容器内の培養液を通気撹拌するための通気手段を含み、前記RGB吸光光度測定手段は、順次移送される前記培養容器に測定光を照射するための測定光源と、該培養容器を透過した前記測定光を検出するためのRGB成分検出部と、検出した前記測定光のRGB成分毎に光検出信号を出力する光検出信号出力部とを含む、藻類増殖量自動測定装置が提供される。本発明者においては、前記測定光源を、前記培養光源とは異なる周波数で駆動し、前記光検出信号出力部は、検出した前記測定光を前記測定光源の駆動信号を参照信号として位相検波する位相検波手段を含むことができる。また、本発明者においては、前記循環移送手段を、回転駆動される回転軸を中心に放射状の延び、先端部に前記培養容器を固定するための固定部が同一円周上に並んで形成された複数の支持体を含むものとすることができ、前記培養光源を、前記回転軸に対して軸対称となるように配置することができる。さらに、本発明者においては、前記培養容器を、前記測定光が透過する壁面が互いに平行になるように構成することができ、前記培養容器を下端へ向かって窄まった中空部を備え、容器の断面が直角三角形の形状を有するように構成することができる。また、本発明者においては前記RGB吸光光度測定手段を、前記培養光源からの外乱光を遮蔽するための筐体を備えるものとして構成することができる。さらに、本発明によれば、上記藻類増殖量自動測定装置と、該藻類増殖量自動測定装置から入力される前記光検出信号に基づいて演算処理を実行し、前記培養容器毎の細胞密度を経時的に取得する手段を備える情報処理装置とを含む、藻類増殖量自動測定システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、藻類について、多数のサンプルを均一な条件下で簡便に培養することができ、且つ、各サンプルの経時的な増殖量を自動的にモニタリングすることができる新規な測定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の藻類増殖量自動測定システムを示す図。
【図2】本実施形態の藻類増殖量自動測定装置における通気手段を示す図。
【図3】本実施形態藻類増殖量自動測定装置における培養容器を示す図。
【図4】本実施形態の藻類増殖量自動測定装置におけるRGB吸光光度測定手段を示す図。
【図5】本実施形態の藻類増殖量自動測定装置の動作を説明するための概念図。
【図6】本実施形態の藻類増殖量自動測定システムの機能ブロック図。
【図7】RGB成分毎の位相検波出力を示す図。
【図8】細胞密度(cell/mL)とRGB成分毎の吸光度(O.D.)の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0013】
図1は、本発明の実施形態である藻類増殖量自動測定システム100を示す。藻類増殖量自動測定システム100は、藻類増殖量自動測定装置10とパーソナル・コンピュータなどで構成される情報処理装置50(以下、PC50として参照する)とを含んで構成される。藻類増殖量自動測定装置10は、複数の培養容器20と、培養容器20を循環移送するための循環移送手段30と、RGB吸光光度測定手段40とを含み、これらの要素が滅菌空間を形成する筐体12の中に配設されて構成されている。
【0014】
循環移送手段30は、回転モータ32などによって構成される回転駆動手段32(以下、回転モータ32として参照する)によって回転駆動される回転軸34を中心に放射状の延びた複数の支持体36を含んで構成されている。支持体36は、回転軸34を中心とした円周C(破線で示す)を等分割するように放射状に延びており、各支持体36の先端近傍には、培養容器20を固定するための培養容器固定部(図示せず)が同一円周上に形成されている。その結果、各培養容器固定部に固定された複数の培養容器20は、同一円周上に等間隔に並んで配置されることになる。この状態において、回転軸34が回転駆動され、各培養容器20が図中の矢印の方向に循環移送される。なお、本発明者における循環移送手段は、図1に示した態様に限定されるものではなく、循環する移送経路を実現しうる構成であればどのような手段であってもよい。
【0015】
一方、RGB吸光光度測定手段40は、培養容器20に光を照射し、その透過光を検出するための手段である。RGB吸光光度測定手段40は、複数の培養容器20が並ぶ円周上(すなわち、培養容器20の移送経路上)の適切な位置に配置されており、その結果、循環移送される各培養容器20は、RGB吸光光度測定手段40の測定光の光路を遮る位置に順次置かれることになる。RGB吸光光度測定手段40は、培養液の細胞密度に相関する光検出信号を生成しPC50に送信する。PC50は、当該光検出信号を使用して藻類の経時的な増殖量を演算する処理を実行する。
【0016】
藻類増殖量自動測定装置10の筐体12内は、全ての培養容器20に対して、光照射条件および温度条件が均等になるように調整することが好ましい。図1に示す例においては、培養光源としての複数の蛍光灯14が、回転軸34を中心とした同一円周上であって、複数の培養容器20が並ぶ円周の内側に等間隔に配設されており、循環移送される全ての培養容器20が、常に、同じ光照射条件下に置かれるように構成されている。なお、全ての培養容器20に対して常に同じ光照射条件を維持するためには、複数の培養光源を、その位置が回転軸34に対して軸対称となるように配置してもよく、また、単一の培養光源を回転軸34上の適切な位置に配置してもよい。
【0017】
さらに、本実施形態の藻類増殖量自動測定装置10は、各培養容器20内の培養液を通気するための通気手段を備える。図2は、本実施形態の藻類増殖量自動測定装置10が備える通気手段60を示す図であり、図2(a)は、その側断面図を示し、図2(b)は、その上面図を示す。なお、図2(b)においては、紙面の都合上、二本の支持体36についてのみ示すものとする。
【0018】
通気手段60は、エアコンプレッサなどで構成される送気手段62と、送気手段62に通気管63を介して接続される通気カプラー64と、通気カプラー64に通気管65を介して接続される円環状通気管66と、支持体36ごとに用意される通気管68とを含んで構成されている。通気カプラー64は、回転モータ32側に固定されるカプラー固定部64aと、回転軸34とともに回転するカプラー回転部64bとから形成されており、回転軸34とカプラー固定部64aとの間、ならびに、カプラー固定部64aとカプラー回転部64bとの間は、それぞれメカニカルシールによって空気が漏れないように構成されている。また、円環状通気管66の上面には、コネクター67が支持体36に対応する数だけ並んで形成されており、コネクター67に通気管68が接続されている。通気管68は、支持体36の内部を貫通して延び、その端部は、培養容器固定部37に固定される培養容器20の内部に挿入されている。なお、通気管68には、通気量を制御するための可変バルブ69を設けることができる。上述した構成を備える通気手段60によれば、送気手段62から送られた空気は、通気管63、通気カプラー64、通気管65、円環状通気管66、および通気管68を介して培養容器20の内部に導入される。
【0019】
次に、本発明における培養容器について説明する。図3は、本発明における培養容器の好ましい実施形態である培養容器20を示す図であり、図3(a)はその正面断面図を示す。培養容器20は、高い光透過性を備える材料(たとえば、ガラス)で形成される容器22とポリカーボネート等で形成される蓋23を含んで構成され、ガラスやステンレス等で形成される通気管68が蓋23を貫通して内部に挿入されている。本実施形態における培養容器20は、A-A’断面図(破線で囲んで示す)に示されるように、その上部に直方体状の筒構造を備えており、RGB吸光光度測定手段40の測定光Pが透過する壁面22aおよび22bが互いに平行になるように構成されている。さらに、培養容器20は、当該筒構造から容器22の下端へ向かって窄まった中空部を備える。
【0020】
図3(b)は、培養容器20の側面断面図を示す。図3(b)に示されるように、培養容器20に挿入される通気管68は、その手前に微生物除去フィルタ72が設けられており、培養容器20内のコンタミネーションを防止している。さらに、培養容器20には蓋23を貫通して排気管74が設けられており、排気管74は、通気性のよい栓76(綿栓やシリコ栓など)によって封止された滅菌容器78に接続されている。なお、本実施形態においては、滅菌容器78を支持体36の適当な位置に固設することができる。
【0021】
また、本実施形態の培養容器20においては、図3(b)に示されるように、容器22の断面が直角三角形(長い方の隣辺が容器22の長手方向の壁面に平行な直角三角形)の形状に構成され、且つ、通気管68が当該直角三角形の長い方の隣辺に沿って挿入されて、その先端が容器22の窄まった中空部の底部近傍にまで到達している。その結果、底部から発生したバブリングの気泡によって容器22内を循環する安定した流れが形成される。また、図3(b)に破線で囲んだ拡大図に示されるように、窄まった中空部の底部Tが丸みを帯びるように形成されているため、底部Tに藻類の沈殿物が集積することが防止される。すなわち、本実施形態においては、上述した培養容器20および通気手段60を採用することによって、培養液が自動的に撹拌され、その濃度分布が常に均一に保たれる。なお、本実施形態においては、測定光Pの光路にバブリングの気泡がかからないように通気量を調整することが好ましい。
【0022】
次に、本実施形態におけるRGB吸光光度測定手段40について、図4を参照して説明する。RGB吸光光度測定手段40は、測定光源42と、光学系43と、測定室44と、RGB成分検出部45と、光検出信号出力部49とを含んで構成される。測定光源42は、吸光度測定のための光源であり、RGBの全ての成分を放射できる白色LEDを用い、直進性を高めるために、凸レンズ系などを用いて平行光とすることが好ましい。測定室44は、培養光源(蛍光灯)からの外乱光を遮蔽するための筐体であって、培養容器20を収容可能なスペースを備えている。なお、測定室44の側面は、培養容器20の循環移送経路を確保するようにその一部(または全部)が欠かれており、また、その上面は、培養容器20の移送の障害にならないようにスリットの入ったゴムシート46などで構成されている。
【0023】
測定光源42から出射した光は、レンズ43aやスリット43bなどによって構成される適切な光学系43を経て直進性の測定光Pに整形されて、測定室44内に収容された培養容器20に照射され、これを透過した光線がRGB成分検出部45に到達する。RGB成分検出部45は、3CCDビデオカメラに用いられるものと同様のダイクロイックプリズム47と、3つのフォトダイオード48R、48G、48Bを含んで構成されている。培養容器20を透過した光線は、ダイクロイックプリズム47によってR成分、G成分、B成分に分割され、各成分は、それぞれ、フォトダイオード48R、48G、48Bによって検出される。光検出信号出力部49は、フォトダイオード48の検出信号からRGB成分毎に光検出信号を生成する。
【0024】
なお、RGB吸光光度測定手段40の測定室44は、上述したように側面の一部(または全部)が培養容器20の循環移送経路を確保のために欠かれているため、その内部を完全に遮光することができないので、光検出信号出力部49は、培養光源(蛍光灯)からの外乱光の影響を排除するための構成を備えることが好ましい。この点につき、本実施形態においては、測定光を位相検波するための位相検波手段を備えることができる。本実施形態においては、測定光源42を所定周波数の正弦波でドライブして光強度を変調した上で、位相検波手段がフォトダイオード48(RGB)からの出力を増幅し、参照信号(変調波)に同期する成分のみを直流電圧信号として抽出する。この場合、測定光源42を変調する周波数は、培養光源の周波数から離れ、且つ、その整数倍でないことが好ましい。このような処理を施すことによって、培養光源(蛍光灯)からの外乱光の影響を完全に排除することができる。なお、上述した位相検波手段はロックインアンプなどによって構成することができる。フォトダイオード48によって検出され、位相検波手段を経たRGB成分毎の直流電圧信号は、図示しないA/D変換器によってRGB成分毎の光検出信号に変換され、PC50に送信される。以上、本実施形態の藻類増殖量自動測定装置10の基本構成について説明してきたが、次に、藻類増殖量自動測定装置10の具体的な動作について以下説明する。
【0025】
図5は、藻類増殖量自動測定装置10を上から見た図である。なお、図5は、8つの培養容器20a〜20hがセットされた態様を示し、培養光源14等については適宜省略している。本実施形態においては、循環移送手段30は、移送モードと測定モードの2種類の運転モードによって駆動される。移送モードにおいては、循環移送手段30は、図5(a)に示すように、一定の角速度で回転して培養容器20aを図中の矢印方向に移送する。移送された培養容器20aがRGB吸光光度測定手段40の測定室44に収容されると、図5(b)に示すように、循環移送手段30の運転モードは測定モードに切り替わり、所定時間(たとえば、1〜3分)停止する。その間、RGB吸光光度測定手段40の測定光源から光線が照射され、培養容器20aを透過した光がフォトダイオードによって検出されると、培養液の細胞密度に相関した大きさの光検出信号がPC50に送信される。
【0026】
所定時間が経過すると、図5(c)に示すように、循環移送手段30が再び一定の角速度で回転し、測定室44から培養容器20aが送出される。同様の手順で、培養容器20b〜20hが順次、測定室44に収容され、各培養容器20内の細胞密度に相関した大きさの光検出信号がPC50に送信されることが繰り返される。上述した循環移送手段30の運転モードの切り替え、ならびに、RGB吸光光度測定手段40の測定光源の駆動は、PC50によって一括制御することができる。なお、本実施形態においては、循環移送手段30の各支持体36に識別子を付与し、PC50側でこれを管理することによって、測定室44に収容されている培養容器20を特定することができるように構成されている。
【0027】
次に、本実施形態における藻類増殖量自動測定システム100が実行する処理について、図6に示す機能ブロック図を参照して以下説明する。RGB吸光光度測定手段40においては、測定光源42から照射され培養容器20を透過した測定光PがRGB成分検出部45に検出され、光検出信号出力部49は、当該検出信号からRGB成分毎に光検出信号を生成してPC50に送信する。
【0028】
RGB吸光光度測定手段40から送信されたRGB成分毎の光検出信号は、PC50の吸光度演算部51に入力される。一方、循環移送手段駆動制御部52は、循環移送手段30に設けた角度センサや測定室44に設けた赤外線センサからの出力を利用するなどして、循環移送手段30の運転モードの切り替えを含む駆動制御を実行するとともに、測定中の培養容器20を特定するための情報、すなわち、測定室44に収容されている培養容器20がセットされた支持体36の識別子を吸光度演算部51に通知する。なお、測定光源駆動制御部53は、循環移送手段駆動制御部52から通知されるタイミング信号に基づいて測定光源42の駆動を制御する。
【0029】
吸光度演算部51には、細胞を含まない基準溶液について測定した光検出信号(入射光強度)が格納されており、吸光度演算部51は、当該光検出信号(入射光強度)とRGB吸光光度測定手段40から入力された光検出信号(透過光強度)とからRGB成分毎の吸光度を演算する。吸光度演算部51は、RGB成分毎に演算された吸光度を、循環移送手段駆動制御部52から通知された支持体36の識別子(すなわち、培養容器20)および測定時刻に対応付けて細胞密度演算部54に送る。
【0030】
細胞密度演算部54は、細胞密度算出式データベース55を検索して、測定対象となる藻類に対応する細胞密度算出式を取得する。細胞密度演算部54は、吸光度演算部51から与えられたRGB成分毎の吸光度の値を、細胞密度算出式データベース55から取得した細胞密度算出式に代入して細胞密度(cell/mL)を算出する。算出された細胞密度(cell/mL)は、支持体36の識別子(すなわち、培養容器20)および測定時刻に対応付けて細胞密度記憶部56に経時的に記録される。
【0031】
なお、細胞密度算出式は、以下の手順で導出することができる。まず、基準となる藻類培養液を用意し、直接計数法などを使用して細胞密度を算出しておく。次に、この基準培養液を段階希釈した複数の試料の吸光度を測定し、RGB成分毎の吸光度(3つの説明変数)と細胞密度(目的変数)の間で多変量線形回帰分析を行うことによって、RGB成分毎の吸光度の関数として定義される細胞密度算出式が導出される。導出された細胞密度算出式は、測定対象となる藻類の種ごとに細胞密度算出式データベース55に蓄積・管理される。
【0032】
測定結果生成部57は、細胞密度記憶部56に経時的に記録された細胞密度を使用して、細胞の増殖速度(cell/mL・h)や細胞増加率(%)などの情報をユーザの求めに応じて測定結果として生成する。生成された測定結果情報は、出力部58によって出力表示され、必要に応じてハードディスクなどの記録デバイスに記録される。
【0033】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の藻類増殖量自動測定装置について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0035】
本発明の藻類増殖量自動測定装置の測定性能を以下の手順で検証した。まず。図1〜4について説明したのと同様の藻類増殖量自動測定装置を作製した。なお、本実施例の藻類増殖量自動測定装置においては、測定光源としての白色LED光を1601Hzの正弦波で変調して位相検波した。また、循環移送手段30は、測定モード時間を8秒とし、移送モードにおける移動角速度を約0.0976 rad/sedに設定して、一周を16.9分で回転するように制御した。
【0036】
(供試藍藻)
供試藻類(藍藻:Microcystis Viridis)をM11培地で定常期になるまで増殖させ、当該培養液の細胞密度を算出した。なお、細胞密度は、TATAI計算盤を使用して目視で計数した細胞数から算出した。
【0037】
この藍藻培養液(5.86×105 cell/mL)をRO水(逆浸透膜水)で6段階(
1倍、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍 )に希釈した6種類の希釈液とRO水を用意し、これら7つのサンプルを各々60mL入れた培養容器(ガラス製、セルの光路長:2.5cm )を藻類増殖量自動測定装置にセットして測定を行った。
【0038】
図7は、各サンプルについて検出されたRGB成分毎の位相検波出力を示す図である。図7に示されるように、RGBのいずれ成分についても、希釈倍率が大きくなるに従って(すなわち、細胞密度が小さくなるに従って)、位相検波出力が大きくなっていった。
【0039】
ここで、希釈液サンプルにおけるRGB成分毎の出力電圧をそれぞれR、G、Bとし、RO水サンプルにおけるRGB成分毎の出力電圧をそれぞれR0、G0、B0とし、RGB成分毎の吸光度をそれぞれA,A,Aとすると、使用した培養容器のセルの光路長が2.5cmであるので、RGB成分毎の吸光度(A,A,A)は下記式1によって表すことができる。
【0040】
【数1】

【0041】
次に、希釈倍率( 1倍、2倍、4倍、8倍、16倍、32倍 )から各サンプルの細胞密度(cell/mL)を算出するとともに、各サンプルの出力電圧を上記式に代入して使用して吸光度(A、A、A)を求めた。図8(a)(b)は、細胞密度(cell/mL)とRGB成分毎の吸光度(O.D.)の関係を示す図である。図8(b)に示されるように、細胞密度=約1.0×105
cell/mL(吸光度=0.4OD)までのレンジにおいては、吸光度と細胞密度との間に比例関係が成立することがわかった。そこで比例関係が成立するレンジにおいて、吸光度(A,A,A)を説明変数とし、細胞密度(cell/mL)を目的変数として多変量線形回帰分析を行った結果、下記式2に示す細胞密度算出式を導出することができた。
【0042】
【数2】

【符号の説明】
【0043】
10…藻類増殖量自動測定装置
12…筐体
14…培養光源
20…培養容器
22…容器
23…蓋
30…循環移送手段
32…回転駆動手段
34…回転軸
36…支持体
37…培養容器固定部
40…RGB吸光光度測定手段
42…測定光源
43…光学系
44…測定室
45…RGB成分検出部
46…ゴムシート
47…ダイクロイックプリズム
48…フォトダイオード
49…光検出信号出力部
50…情報処理装置
51…吸光度演算部
52…循環移送手段駆動制御部
53…測定光源駆動制御部
54…細胞密度演算部
55…細胞密度算出式データベース
56…細胞密度記憶部
57…測定結果生成部
58…出力部
60…通気手段
62…送気手段
63,65,68…通気管
64…通気カプラー
66…円環状通気管
67…コネクター
69…可変バルブ
72…微生物除去フィルタ
74…排気管
76…栓
78…滅菌容器
100…藻類増殖量自動測定システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類の増殖量を自動的に測定するための装置であって、
複数の培養容器と、
前記培養容器を循環移送するための循環移送手段と、
前記循環移送手段の移送経路上に配置されるRGB吸光光度測定手段と、
培養光源と、
前記培養容器内の培養液を通気撹拌するための通気手段を含み、
前記RGB吸光光度測定手段は、
順次移送される前記培養容器に測定光を照射するための測定光源と、該培養容器を透過した前記測定光を検出するためのRGB成分検出部と、検出した前記測定光のRGB成分毎に光検出信号を出力する光検出信号出力部とを含む、
藻類増殖量自動測定装置。
【請求項2】
前記測定光源は、前記培養光源とは異なる周波数で駆動され、前記光検出信号出力部は、検出した前記測定光を前記測定光源の駆動信号を参照信号として位相検波する位相検波手段を含む、請求項1に記載の藻類増殖量自動測定装置。
【請求項3】
前記循環移送手段は、回転駆動される回転軸を中心に放射状の延び、先端部に前記培養容器を固定するための固定部が同一円周上に並んで形成された複数の支持体を含む、請求項1または2に記載の藻類増殖量自動測定装置。
【請求項4】
前記培養光源は、前記回転軸に対して軸対称となるように配置される、請求項3に記載の藻類増殖量自動測定装置。
【請求項5】
前記培養容器は、前記測定光が透過する壁面が互いに平行になるように構成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の藻類増殖量自動測定装置。
【請求項6】
前記培養容器は、下端へ向かって窄まった中空部を備える、請求項5に記載の藻類増殖量自動測定装置。
【請求項7】
前記培養容器は、容器の断面が直角三角形の形状に構成される、請求項6に記載の藻類増殖量自動測定装置。
【請求項8】
前記RGB吸光光度測定手段は、前記培養光源からの外乱光を遮蔽するための筐体を備える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の藻類増殖量自動測定装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の藻類増殖量自動測定装置と、該藻類増殖量自動測定装置から入力される前記光検出信号に基づいて演算処理を実行し、前記培養容器毎の細胞密度を経時的に取得する手段を備える情報処理装置とを含む、藻類増殖量自動測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−182731(P2011−182731A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52972(P2010−52972)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(500132214)学校法人明星学苑 (23)
【Fターム(参考)】