説明

蛍光ナノ粒子複合体自体、そのような複合体を調製する方法、及び生体分子に親和性を有する迅速な診断システムにおける使用

本発明は、蛍光ナノ粒子複合体自体、そのような複合体を調製する方法、そのような複合体を含む(「キット」としての)迅速な診断のためのシステム、及びそのような複合体の使用を提供する。好ましい実施形態では、本発明の複合体は、DNAなどの生体分子に対する親和性を有する。本発明には、生体物質を含むプローブの調製も含まれ、その上に蛍光ナノ粒子複合体が添加され、これにより、例えば、特に医療及び獣医学の分野における疾患及び遺伝形質の迅速で経済的な生物学的診断が実行可能になる。深青色及び/又は緑色を含む近紫外及び可視範囲付近での発光を伴う紫外及び可視領域の光線の吸収により、光起電性装置若しくは有機LEDなどのエレクトロルミネセンス装置における、又は蛍光灯の光束利得を増加させるための、蛍光特性の有利な使用が可能になるという事実もあり、これは本発明の別の特徴を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ナノ粒子複合体に言及する。より具体的には、本発明は、複合体自体、そのような複合体を調製する方法、そのような複合体を含む(「キット」としての)迅速な診断のためのシステム、及びそのような複合体の使用に言及する。特に、本発明の複合体は、とりわけ、深青色及び/又は緑色を含む近紫外及び可視範囲での発光を伴う、紫外及び可視領域の光線の吸収という利点を提供し、光起電装置又は有機LEDなどのエレクトロルミネセンス装置において、又は蛍光灯の光束利得の増加のために、蛍光特性の有利な使用を実現する。その上、本発明の複合体は、DNA及びRNAなどの生体分子に対する親和性を有し、医療及び獣医学の分野、並びに遺伝疾患、更にいくつかの病原体により引き起こされる疾患の診断に適用することも可能である。
【背景技術】
【0002】
分子診断
特に臨床分析の領域において、疾患及び遺伝形質の分子診断は新興分野である。一般的にこれは、DNA/RNA、感染病原体、又は生物自体における遺伝子変化の研究に関する分子生物学由来の技法を使用し、感染及び遺伝疾患の診断及び予後の助けとなる。
【0003】
現在使用されている、より一般的な分子生物学的技法は、DNAの酵素増幅(PCR)、制限酵素を用いるゲノムDNA鎖又はPCR産物の消化、DNA又はPCR産物の電気泳動的分離、オリゴヌクレオチドプローブを用いるDNA又はPCR断片のハイブリダイゼーション、DHPLC及び細胞遺伝学的方法である。これらの技法により、多型マーカーの迅速な遺伝子型同定が可能になり、特徴付けられていない変異を追跡することができる。特に、正常及び異常な染色体の微視的観察に基づく細胞遺伝学的方法により、多くの種のゲノムの細胞遺伝学的地図の構築が可能になる。FISH(蛍光インサイツハイブリダイゼーション)細胞遺伝学的方法は、細胞遺伝学的地図中に分子及び遺伝子マーカーを位置付ける最も直接的な手段であり、これにより遺伝子及び分子マーカーの間の統合が可能になる。ある種の染色体の小さなセグメント中に連結される特有の配列であるコスミドプローブなどのプローブは、診断に幅広く使用され、微小欠失の研究に有用である。他のプローブは、転座及び高度な反復配列の検出に使用される。しかし、いくつかのこれらの技法は、偽陽性シグナルなどのいくつかの限界を依然として有し、診断でエラーを引き起こし得ることを指摘すべきである。
【0004】
よく知られている分子診断システムは、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)である。この免疫酵素検査により、患者の血清中の特定の抗体を検出することが可能になり、これはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の診断における第一の検査である。この検査を行うための方法は、抗体抗原相互作用に基づいており、この検査はホルモンなどの他の物質を検出することもできる。
【0005】
本発明は、蛍光ナノ粒子複合体自体、これらの複合体を調製するための方法、かかる化合物を含む(「キット」としての)迅速な診断のためのシステム、及び前記「キット」の機能に言及する。特に、本発明の複合体は、大きさ及び蛍光に関して特定の特徴を有し、DNA、RNA及び又タンパク質などの生体分子に対する親和性を有する。これらの化合物を調製するための方法も、本発明で記載される。さらに、本発明により、調査を望む生物の生体物質を含む、適切なプローブ(本明細書では「支持体」と名付ける)を調製する方法も記載される。この支持体上に、診断システムを構成する蛍光ナノ粒子複合体及び患者の生体物質が添加されるが、この診断システムは、本明細書でELINOR(「無機/有機ナノ複合体由来の強化したルミネセンス」)検査と称し、とりわけ、いくつかの病原体及び/又は遺伝疾患により引き起こされる疾患を診断するためのものである。本発明は、主に医療及び獣医学分野で適用される。
【0006】
特許文献には、特定疾患の診断に関する十分に様々なプローブが記載される。しかし、文書のほとんどには、分子生物学的技法のPCRを使用する方法が論じられており、診断を行うために調査を望む生体分子の増幅を必要とする。以下に示される文書によって疾患の診断のための方法を例示することができる。
【0007】
デングウイルスによる感染を検出するために同じ技法を使用する、文書US7,041,255と同様に、文書US6,258,570は、PCRを使用するウイルス性髄膜炎の診断方法を論じている。同様に、PCRは、文書US6,027,89に記載されているように、ヒトパピローマウイルス(HPV)の診断、及びUS6,869,767に記載されているように、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の診断に使用される。
【0008】
本発明は、分子診断を行うために増幅のステップ(PCR技法で行うものなど)を必要としないことにより、これらの全ての文書と異なる。
【0009】
特許文献はまた、金を含む蛍光バイオセンサーのいくつかの例も明らかにしており、これらの中で、本発明者等は最も関連があるものを強調して述べる。
【0010】
文書US2007/0059693には、蛍光面、核酸分子及びフルオフォア(fluophore)を含むバイオセンサーが記載されている。蛍光面は、金を含む金属であってよい。核酸分子は、端の1つが蛍光面に結合し、他の端がフルオフォアに結合していなければならない。この核酸分子は、内部のハイブリダイゼーション領域も有することができ、ハイブリダイズするときに「ステープル」を形成する。これらの場合、フルオフォアは蛍光面に接近し、蛍光の発生が可能となろう。本発明は、支持体の面が必ずしも蛍光性又は金属性ではなく、蛍光を発するために核酸分子が「ステープル」を形成する必要がないため、この文書とは異なる。
【0011】
文書US2005/0196876には、生体試料とナノ多孔性バイオセンサーとの接触によって生体試料の内容を分析するための方法が記載されている。このバイオセンサーは、試料に結合して複合体を形成するプローブを含み、この複合体は第2プローブに結合することになる。特定の蛍光シグナルを発するように、このプローブは照射されることになる。任意選択の構成において、このバイオセンサーは金の層を有し得る。本発明は、金を含む蛍光ナノ粒子を扱うことにより前述の文書とは異なり、2つ以上のプローブに結合する必要はない。
【0012】
文書US6,773,884には、核酸を検出するための方法が記載されており、この方法において、これらの分子は、オリゴヌクレオチド及び蛍光分子に結合している金の1つ又は複数のナノ粒子に接触させられる。ハイブリダイゼーションが起きるとき、これらの分子とオリゴヌクレオチドとの相互作用は、蛍光の変化として検出可能な変化を受ける。本発明は、金がポリマーに覆われているナノ粒子を扱うこと、及び調査される生体分子の上に置かれ、ナノ粒子に結合しているオリゴヌクレオチドの存在は必要ないことにより、前述の文書とは異なる。
【0013】
文書US7,083,928には、水溶性陽イオンポリチオフェンを使用する、負電荷のポリマーの検出が記載されている。負電荷のポリマーには、核酸などの生体分子が挙げられる。このポリマーは、金表面などの導電性支持体に結合し得る。ポリマーが検出されるとき、電子負荷、蛍光又は色が変化する。本発明は、生体分子と相互作用するポリマーに覆われる金のナノ粒子であって、金が、生体分子を固定化することになる適切な支持体の一部ではないナノ粒子を扱うことにより、前述の文書とは異なる。
【0014】
したがって、蛍光ナノ粒子複合体自体、その調製方式、診断用「キット」で使用するためのかかる複合体を含むシステム、又はかかるシステムの機能発現方式を記載又は提案する文書は見出されなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的の1つは、
a)少なくとも1つの酸化剤と、
b)少なくとも1つの安定剤と、
c)少なくとも1つのモノマーと
を含む、ナノ粒子自体の蛍光複合体の生成である。
【0016】
優先的な実現形態において、酸化剤はHAuClである。
【0017】
優先的な実現形態において、安定剤は(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MPS)である。
【0018】
優先的な実現形態において、モノマーはアニリンである。
【0019】
優先的な実現形態において、蛍光複合体は、線形サイズが5nm以下の、金属性ナノ粒子を包む導電性ポリマー鎖により構成される。
【0020】
優先的な実現形態において、複合体の特性は、それらの酸化状態の変化、及び/又は媒質のpHの変化によって変化する。
【0021】
本発明のさらなる目的は、機械的撹拌下で、少なくとも1つの酸化剤、少なくとも1つの安定剤、及び少なくとも1つのモノマーを、少なくとも1つのアルコール又は極性溶媒に添加することを伴う、蛍光ナノ粒子の複合体を調製するための方法を提供することである。
【0022】
優先的な実現形態において、上述の機械的撹拌は、600〜1,200rpmの間で行う。
【0023】
酸化剤の酸化状態及び/又はpHの調整により、前記複合体の特性が調整でき、モノマーの選択により、負又は正の表面電荷を有する生体分子との複合体の親和性が決定されることを理解すべきである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、
a)少なくとも1つの蛍光複合体と、
b)少なくとも1つの短いヌクレオチド配列と、
c)上述の配列を固定化するための適した基板と、
d)患者の遺伝子試料と
を含む、迅速な診断のための1つのシステムである。
【0025】
優先的な実現形態において、上述のヌクレオチド配列は、一本鎖DNAの一部である。
【0026】
優先的な実現形態において、上述の基板はスライドガラスである。
【0027】
優先的な実現形態において、上述の固定化は、基板上に生体試料の100pmol溶液およそ1μlを付着させることにより行う。
【0028】
優先的な実現形態において、患者の遺伝子物質は、患者により提供される物質試料からDNAを単純抽出した後に得られる「総DNA」である。
【0029】
本発明のさらなる目的は、遺伝及び/又は感染疾患を診断するための改善された方法を提供することである。優先的な実現形態において、本発明の診断方法は、
a)調査対象生物を特異に特徴付け、少なくとも1つの適切な支持体上に置かれた、ヌクレオチド配列の短い一本鎖を固定化するステップ、
b)固定化されたa)の物質、患者から得た遺伝子物質、及び蛍光粒子の複合体の間に物理的接触を確立するステップ、
c)対応する蛍光発光シグナルを決定するステップ
を含む。
【0030】
優先的な実現形態において、c)の遺伝子物質は、DNAの単純な抽出後に得られる「総DNA」である。
【0031】
本発明のさらなる別の目的は、太陽電池などの光起電性装置、有機LEDなどのエレクトロルミネセンス装置、センサーを調製するため、又は蛍光灯の照明効率を増加させるための、本発明の蛍光複合体の使用を提供することである。
【0032】
本発明のさらなる別の目的は、これに限定されないが、診断で使用するための蛍光マーカーなどの試薬及び又は消耗品を調製するための、本発明の複合体の使用を提供することである。
【0033】
優先的な実現形態において、蛍光発光の強度により、患者から得た遺伝子試料において試験対象生物の生体物質の有無が示される。
【0034】
代替の優先的な実現形態において、外部磁場を使用して、対象とする生体物質を含む蛍光画分の増加及び/又は分離を確実にできるように、該複合体を磁性複合体と組み合わせる。
【0035】
別の優先的な実現形態において、該複合体は、患者の(天然及び変性のタンパク質を含む)遺伝子物質を、固体基板上で固定する追加の必要がなく、溶液相中でさえ蛍光標識できるように、機能化ポリマー、すなわち共有結合で短いヌクレオチド配列に結合されたポリマーを使用することにより調製される。
【0036】
以上のこと及び本発明の目的は、本発明の詳細な説明及び対応する添付の特許請求の範囲を分析した後に、理解が深められ、適正に認識されよう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】蛍光複合体((Auナノ粒子)/(導電性ポリマー))を得るための調製ルートを表す概略図である。
【図2】Au/PANi複合体のUV可視吸収スペクトルであり、ここでは(金属性ナノ粒子を形成する還元した金に関係する)プラズモンバンド、及び(ポリマーの形成を導くモノマーの酸化方法に関係する)ポラロンバンドの図である。
【図3】蛍光複合体(Auナノ粒子)/(導電性ポリマー)の走査電子顕微鏡画像の図である(拡大倍率4,000X)。
【図4】蛍光複合体(Auナノ粒子)/(導電性ポリマー)の走査電子顕微鏡画像の図である(拡大倍率10,000X)。
【図5】蛍光複合体(Auナノ粒子)/(導電性ポリマー)の透過型電子顕微鏡画像の図である。
【図6】蛍光複合体(Auナノ粒子)/(導電性ポリマー)の暗視野における透過型電子顕微鏡画像の図である。より明るい領域は、ポリマー鎖に包まれている金属性ナノ凝集体の存在を示す。
【図7】蛍光複合体(Auナノ粒子)/(導電性ポリマー)の透過型電子顕微鏡画像であり、金属性ナノ凝集体が見える図である。
【図8】蛍光複合体(Auナノ粒子)/(導電性ポリマー)の高分解能透過型電子顕微鏡画像の図である。
【図9】蛍光複合体(Auナノ粒子)/(導電性ポリマー)のX線回析画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の複合体は、いずれの場合も量子効率の実質的な上昇を起こす。太陽電池などの光起電性装置、及び有機LEDのようなエレクトロルミネセンス装置の調製;蛍光灯の照明効率の増加;診断手順のための試薬及び消耗品の調製を含む様々な用途にとりわけ有用である。本発明の複合体は、とりわけ、紫外又は可視領域における入射光の吸収、並びに「深青」色及び/又は緑色を含む紫外及び可視領域の発光という利点を提供し、太陽電池などの光起電性装置若しくは有機LEDのようなエレクトロルミネセンス装置において、又は蛍光灯などの照明システムの量子収量の増加のために使用した際に、特別な利点を提供する。後者の用途に関しては、本発明の複合体によって、紫外量子の遮断を確実にするために、蛍光灯外被の内部層に現在使用され、適正に廃棄されないと汚染源になる蛍光体に代わる、より環境にやさしくよりエネルギー効率の良い代替手段が提供される。本発明の複合体は、組成及び調製方法の調節によって、様々な色、及び幅広い調整強度の発光をするように調製することができる。
【0039】
本発明の複合体は、DNA、RNA又はタンパク質などの生体分子に対する親和性を有し、ヒト及び動物の健康の分野、及び異なる病原体により引き起こされる疾患の診断検査においても適用することができる。これに関して、以下の実施例は、本発明の範囲を制限することを目的とせず、むしろ本発明を実現させる無数の方法の1つを単に例示するものである。
【0040】
「生体物質」は、これに限定されないが、DNA、RNA、タンパク質、脂質、ペプチド、非コードRNA、及び/又は一本鎖若しくは単鎖で表すことができる任意の他の生体物質を含む化合物群であると理解される。
【0041】
「患者の遺伝子物質」は、これに限定されないが、少量の血液中に存在し得る、又は上皮若しくは粘膜細胞の単純な採取から、及び/又は患者の分泌及び/又は排泄から得られる、任意の生物の生体物質を含む生体物質群であると理解される。「酸化剤」は、陽イオンが周期表の1B〜8B族から選ばれる金属を含む群から選択される塩であると理解される。この化合物群は、これに限定されないが、HAuClなどの金化合物を含む。優先的には、金原子は、3+の酸化状態である。しかし、1B〜8B族の金属の他の塩も使用できるが、但しそれらの酸化還元電位によりモノマーの酸化が可能になり、ポリマーが形成されるものとする。本発明者等は、アニリン及びチオフェンの誘導体などのピロールに加えて他のモノマーを使用し、Auだけでなく、Ag及びCuを基にした他の化合物も調製した。同様にして、当業者は、ニッケル、白金及びパラジウムなどの金属も使用できることを理解するであろう。本発明者等はまた、蛍光及び磁性の特性を同時に示す複合体を得るように、導電性ポリマーを金属酸化物の存在下で使用した他の合成物も調製した。金属酸化物は、酸素と、それだけに限定されないが、鉄及びチタンなどの金属とを含む化合物、すなわち一般分類の化合物であると理解される。
【0042】
「モノマー」は、酸化剤によって重合できる任意の化合物であると理解される。すなわちモノマーは、これに限定されないが、アニリン(CNH)、チオフェン(CS)、ピロール(CN)に由来するようなポリマーの最小反復単位、又は個々のポリマーであるポリアニリン、PEDOT((ポリ(3,4−エチレンジオキシチフェン)ポリ(スチレンスルホネート))、PTAA(ポリチオフェン酢酸)及びポリピロールの前駆体分子、及び/又はこれらの混合物又はブレンドを含む群から選ばれる。
【0043】
「安定剤」は、これに限定されないが、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(MPS)、(3−メルカプトプロピル)メチルジメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3−メルカプトエチル)トリメトキシシラン及び/又はこれらの混合物などのシランを含む化合物群であると理解される。
【0044】
「アルコール」は、これに限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロール、エチレングリコール及び/又はこれらの混合物を含む群であると理解される。
【実施例】
【0045】
(例1)ナノ粒子の合成及び特性決定
(例1.1)ナノ粒子の調製
ナノ粒子の調製を、エタノール(20ml)を含み、続いて添加し、激しい撹拌(1,100rpm)にさらした以下の化合物:アニリン(Ani−CNH)(0.030mol/L)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS−C16SSi)(6.46×10−2mol/L)及びHAuCl・xHO(0.81mmol/L)を含む丸底ガラスフラスコ中で行った(図1のスキームを参照されたい)。アニリン(ANi−CNH)はVETEC(ブラジル)から入手し、クーゲルロール器具中で蒸留してから初めて使用した。他の化合物は、Aldrich社(USA)から購入し、少なくとも99%の純度を有していた。その後の全実験は、混合後、48時間の時間間隔で行った。
【0046】
(例1.2)ナノ粒子の特性決定
フォトルミネセンス特性を、(20±1)℃で、PC1(ISS、USA)蛍光分光光度計において石英キュベット(1cm及び5mL)を使用することにより測定した。2つのルミネセンスマトリクス:(1)200〜360nmの励起範囲、及び370〜600nm間隔での発光、並びに(2)270〜330nmの励起範囲、及び280〜600nm間隔での発光を使用することにより、試料を異なるpH値でモニターした。JSM−5900(JEOL、日本)電子顕微鏡を使用して、走査電子顕微鏡(SEM)によって形態学的解析を行った。試料をガラス基板上に置き、カーボンテープで固定した。この後、スパッタリング(BalTec SCD 050)を使用して、金の薄層で試料を覆った。粒子の大きさを、Zetasizer Nano−ZS90器械(Malvern)を使用して、光散乱法によって決定した。
【0047】
(例2)ナノ粒子の特性
約5nmオーダーの直径を有する金ナノ粒子は、吸収スペクトルにおいて、525nmを中心とする表面プラズモン(SP)バンドを示す。複合体のUV可視スペクトルは図2に示され、560nmでSPバンドの強い存在を観察することができる。SPバンドの波長及び強度は、大きさ、形及び「粒子間の」誘電性媒質により変化し、相対モル分率(安定剤)/Auにも敏感であることが知られている[J.Am.Chem.Soc.2003,125,9906]。ポリアニリン(PANi)が、UV可視領域における2つの特徴的な吸収バンド(324nm及び625nm)を示すことも知られている。
【0048】
本発明で使用される方法では、金含有化合物(HAuCl・xHO)は、酸化剤、すなわちアニリンの重合のトリガーとして働き、一方、メルカプトシランは、形成された金属性ナノ粒子の共安定剤として含まれる。PANi−Au試料の蛍光マトリクスにおいて、複合体は、紫外(350nm)領域で励起するときに、400nm付近を中心とするフォトルミネセンスのピークを示すため、複合体が可視領域でルミネセンス性を示すことを検証することができる。発光ダイオードにおける金ナノ粒子及び導電性ポリマーの使用については、エレクトロルミネセンスの安定性及び量子収量の増加を試みているが、最近の論文で議論されており[Chem.Mater.:2004,16,688−692]、観察された効果の理由は、金属の陰極表面の粗さの増加、及び金属性ナノ粒子により促進された注入電荷の均衡の改善であると提案されている。一方、水溶性の高度ルミネセンスナノ粒子の例は最近公表されており[Physical Review Letters vol.93(7)を介した2004,pp.77402−1 77402−4]、強いルミネセンスは、エネルギーの離散準位を介した電荷の注入及び輸送を起こすと思われる金属性凝集体の形成に起因した。上記の関連する例とは異なり、本発明の場合では、使用される方法により、本発明者等は、5nm(以下)オーダーの大きさを有し、導電性ポリマーの「シェル」によって包まれている金ナノ粒子であって、それらの酸化状態、及び/又はそれらが分散する媒質のpHのいずれかを変えることによって誘電特性が変化し得る金ナノ粒子を調製できるようになった。この様にして、少なくとも原理上では、媒質の誘電特性を正しく調整することによって、複合体の発光波長を調節することができる。複合体の第1試料の量子収量の測定により、1.5〜7.5%の間隔での値が示されたが、すでに実行された調製方法の修正により、本発明者等は、異なる波長での同じシステムの量子収量及び発光を増加できるようになった。
【0049】
走査電子顕微鏡(SEM)により、ナノ粒子はより複雑な構造で整列する傾向があることが示される(図3及び4)。
【0050】
明視野の透過型電子顕微鏡(TEM)画像が、本発明の複合体対象について得られた(図5)が、これにより平均直径50nmの凝集物の存在を確認することができる。さらに、暗視野モードでは、規則的で均質な金ナノ粒子の分布をはっきりと見ることができる(図6)。光散乱実験において、複合体凝集物の平均の大きさが、150〜300nmの範囲内であると推定されたことを強調するのは重要である。
【0051】
図7により、よく知られている金ナノ粒子の特徴であるジェミナルな粒子の形成が、場合によっては確認し得るとしても、ナノ粒子は、大きさが2〜5nmに変化する単分散に分布していることが明らかになる。金/(導電性ポリマー)ハイブリッドナノ複合体の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)画像により、結晶構造の存在が明らかになる(図8)が、これは対応するX線回折(XRD)パターンの調査で確認される観察である(図9)。
【0052】
(例3)蛍光ナノ構造複合体を含む診断キット
本発明で提案した手法を、低資本投資及び単位当たりの価格でさえ大規模な生産に適合することが可能であるという事実によって、当関連技術は、細菌又はウイルスによって引き起こされる感染疾患の診断に通常採用される方法に対する主要な比較優位点として、適用の一般性及び柔軟性の向上を伴う要因である、低コスト及び実施の速さを有している。診断キットにおける蛍光ナノ複合体の使用のいくつかの重要な特徴を、以下のように特定することができる。
【0053】
(1)所与の病原体の存在に対する特異性は、プローブ中に固定化された(DNA一本鎖などの)生体物質の断片の性質によって決定されるため、この技法は、その点に関して制限されず、DNAなどの生体物質の特定の短い配列を入手できる任意の生物の同定に使用できる。
【0054】
(2)当技術は、原因が、たとえ人間由来であってもa)既知の病原体に起因し得る、又はb)(DNA若しくはRNAなどの)生体物質の特定配列の存在に関連し得る、任意の疾患の診断に汎用でき、したがってすでに定着した疾患の調査だけでなく、遺伝病理の今後の発症に関して、患者の遺伝的傾向を分析するためにも当技術を使用する可能性が開かれる。
【0055】
(3)診断アッセイで使用される生体物質の量は、極めて少ない(例えば、DNAなどの生体物質100pmol溶液の体積1μL)。
【0056】
(4)(DNAなどの)生体物質の配列を含むプローブの調製は、やはり非常に低コストで大規模な生産に適合できるステップである。
【0057】
(5)提案された診断手順で用いることになる、患者から得た遺伝子物質の操作には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び同様の技法による、対象DNAの分離及び増幅に関連するステップを必要としない。
【0058】
(6)診断アッセイの結果は、結論的な特徴(すなわち、陽性/陰性)を有し、いかなる種類の培地も使用する必要なく、数分で得ることができる。
【0059】
(7)診断アッセイの結果は、蛍光シグナル強度の観察に基づき、対象となるヌクレオチド配列の有無を示す。
【0060】
(8)異なるサブタイプにおいて病原体の遺伝的変異が存在する場合(例えば、デングウイルスの場合のように)、アッセイのプローブは、調査される各サブタイプの生体物質を含むように調製されるため、1回の検査により、患者によって提供された遺伝子試料における病原体の変種の有無に関して、決定的な解答を得ることができる。
【0061】
(8)患者により示される症状が、限定された数の可能性のある病原体に起因し得る場合(例えば、院内感染のような場合、又は深い穿孔及び傷を有する事故の犠牲者のような場合)、1回の迅速な試験で、診断によりいずれもの病原体の有無についても決定を下せるように、プローブは、1つ1つの病原体の生体物質(ヌクレオチド配列)を含むように調製することができる。
【0062】
この技術は、任意の病原体の有無の診断に適用できるため、所与の国又は地域の公衆衛生にとって対象となる可能性のある問題から規定される適切な検査で、調査すべき微生物の性質を選ぶことができる。本明細書で提案された迅速な診断キットを、デングウイルス、ii)結核、iii)C型肝炎、iv)ヒトパピローマウイルス(HPV)、v)リーシュマニア症、vi)後天性院内感染の原因の(事前に選択した選択肢の範囲内からの)迅速な同定、vii)髄膜炎菌感染の迅速な同定、viii)バイオテロリズムハザード、さらにix)遺伝性疾患(中でも、テイサックス、フェニルケトン尿症、乳がんなど)の遺伝子スクリーニングの診断に使用できるが、これに限定されない。数例を以下で議論する。
【0063】
(例3.1)ヒトパピローマウイルスHPVの有無の診断
診断手順には、HPVの変種16の20塩基からなるヌクレオチド一本鎖の短い配列を使用する。約500塩基対を有するHPVの変種18の二本鎖にプローブをさらしたときはいつも陰性解答が得られ、HPVの変種16の500塩基対を有する二本鎖にプローブをさらしたときにのみ陽性な解答が得られたとき、応答の質を証明することができる。
【0064】
(例3.2)デングウイルスの有無の診断
診断手順には、デングウイルスのサブタイプ2の22塩基からなる短い一本鎖を使用する。応答の質は、使用した元の配列に相補的ではない二本鎖にプローブをさらしたときの陰性解答、及びデングウイルスのサブタイプ2の22塩基対を含む二本鎖にプローブをさらしたときの陽性診断に関連する。
【0065】
(例3.3)ヒトパピローマウイルス(HPV)の有無の診断及び対立遺伝子の存在に対する応答の感受性
診断手順では、異なるHPV変種に対するヒトレクチン応答に対応する、19(MBL54mt)及び22(MBL57mt)塩基の短い一本鎖配列を使用し、これらのいくつかは、患者の物質中に存在する病原体のDNA鎖のハイブリダイゼーションを遮断し得る、特定の位置に変異を含む。ホモ接合及びヘテロ接合の患者に対して、それぞれ得られた応答の種類(陽性又は陰性解答)が、当技術の感受性を優れたものとして規定する。
【0066】
上述の全ての例において、ヌクレオチド鎖(DNA又はRNA)の一本鎖の短い配列を、前もってシラン処理したガラス基板上に固定し、その後、混合物の(複合体の(金属ナノ粒子)/(電導性ポリマー)+(患者の総DNA))の小液滴を添加した。続いてこのシステムを流れる蒸留水で洗浄し、乾燥のために約3分間待った後、基板を分析のために蛍光顕微鏡上に置いた。患者から得た生体物質(「総DNA」)中に病原体の遺伝子物質が存在する場合、病原体の長いヌクレオチド鎖が、固定化された短い配列にハイブリッドし、より多量の蛍光複合体が保たれることになり、「陽性」解答が生じるでことになろう。もし、ハイブリダイゼーションが起こらなければ、より少量の複合体が、固定化された短いヌクレオチド配列に付着したままになるだけであり、結果として蛍光シグナルが最小(基礎量)となり、「陰性」解答となろう。HPVを用いる一連の検査において、20塩基のうち1つを故意に変更したとき、本来の「陽性」解答が「陰性」に変化したため、本明細書で提案した手順の感受性は、20塩基中1つの変化を識別できることに注目しなければならない。
【0067】
一度、当分野の専門家等が本情報に触れれば、彼らは本発明の複合体対象の更に他の適用をすぐに理解することができる。中でも、戦場での疾患の診断;炭疽菌及び他種のバイオテロリズム汚染の迅速な同定;穀物及びシリアルの質を制御する場合のような、一般的な食品及び飲料品の生物学的汚染;余分な物質を採取及び輸送する必要性を排除し、事前に選択された生物学的特徴に関して、検体をin situ同定及び比較分析するための当分野での生物学的アッセイ(当分野でのスクリーニング又はバイオバーコード);並びに法医学的同定方法などの状況での迅速なインサイツの診断に、注目を促すことができる。最後のテーマに関しては、本発明の複合体が「ナノルミノール」として働くことができ、http://www.topnews.in/health/handheld−dna−detector−may−soon−be−reality−21411で入手できる、サンディエゴ大学のかなり最近の出版物では、ポータブルDNA検出器が、本発明の技術を凌ぐ実質的な利点を提供し得ることが示されている。かかる文献で採用された技術は、本発明で議論したものに比べて、よりいっそう複雑で高価であるが(イオン感応性電界効果トランジスター、ISFET)、当分野の専門技術の新しい発展に実際に必要な重要な例である。
【0068】
当業者であれば、本教示の価値をすぐに認め、また、本明細書で例示された本発明を実行する形態の改変を、本発明の精神内、及び添付の特許請求の範囲の全般的な範囲内と考えなければならないことを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの酸化剤と、
b)少なくとも1つの安定剤と、
c)少なくとも1つのモノマーと
を含むことを特徴とする、蛍光ナノ粒子複合体自体。
【請求項2】
前記酸化剤は、陽イオンが、周期表の1B〜8B族から選ばれる金属を含む群から選択される塩であるという事実を特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記酸化剤がHAuClであるという事実を特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
安定剤が、メルカプト基及び/又はシラン基を含む化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
安定剤が3−メルカプトプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
モノマーがアニリンであることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
約15nm以下の金属性ナノ粒子を有するポリマー鎖を含み、単独で、又は約50nm以下の磁性金属若しくは金属酸化物のナノ粒子と一緒に使用されることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一項に記載の複合体。
【請求項8】
機械的撹拌下で、少なくとも1つの酸化剤、少なくとも1つの安定剤、及び少なくとも1つのモノマーをアルコール又は極性溶媒に添加するステップを含むことを特徴とする、蛍光ナノ粒子複合体を調製するための方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、陽イオンが、周期表の1B〜8B族から選ばれる金属を含む群から選択される塩であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記酸化剤がHAuClであるという事実を特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
安定剤が、メルカプト基及び/又はシラン基を含む化合物であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
安定剤が3−メルカプトプロピルトリメトキシシランであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
モノマーがアニリンであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
アルコールがエタノールであるという事実を特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
機械的撹拌が、600〜1200rpmの間で行われるという事実を特徴とする、請求項8から14までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
a)少なくとも1つの蛍光複合体と、
b)少なくとも1つの短いヌクレオチド配列と、
c)前記配列を固定化するための適切な基板と、
d)患者の遺伝子試料と
を含むという事実を特徴とする、迅速な生物学的診断キット。
【請求項17】
前記ヌクレオチド配列が、RNA又は一本鎖DNAであるという事実を特徴とする、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記基板が、スライドガラス、紙及び/又はポリマー細片であるという事実を特徴とする、請求項16に記載のキット。
【請求項19】
a)調査対象の生物を特異に特徴付け、少なくとも1つの適切な支持体上に処理される、ヌクレオチド配列の短い一本鎖を固定化するステップと、
b)固定化されたa)の物質、患者から得た遺伝子物質、及び蛍光粒子の複合体の間に物理的接触を確立するステップと、
c)対応する蛍光発光シグナルを決定するステップと
を含むことを特徴とする、速い生物学的診断の方法。
【請求項20】
診断用反応性物質の調製における、少なくとも1つの酸化剤と、少なくとも1つの安定剤と、少なくとも1つのモノマーとを含む、蛍光複合体の使用。
【請求項21】
蛍光ポリマーの調製における、少なくとも1つの酸化剤と、少なくとも1つの安定剤と、少なくとも1つのモノマーとを含む、蛍光複合体の使用。
【請求項22】
ナノ複合体及び装置活性物質の間でのエネルギー移動過程を介した、光起電性又はエレクトロルミネセンス装置の効率上昇に寄与する蛍光ポリマーの調製における、少なくとも1つの酸化剤と、少なくとも1つの安定剤と、少なくとも1つのモノマーとを含む、蛍光複合体の使用。
【請求項23】
装置が、太陽電池又は有機LEDであるという事実を特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
装置が、蛍光灯又は照明システムであるという事実を特徴とする、請求項22に記載の使用。
【請求項25】
少なくとも1つの酸化剤と、少なくとも1つの安定剤と、少なくとも1つのモノマーとを含む蛍光複合体の使用であって、生物学的兵器又はバイオテロリズムの攻撃の迅速な検出のための蛍光検査を準備する目的であることを特徴とする、使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2011−523960(P2011−523960A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501067(P2011−501067)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【国際出願番号】PCT/BR2009/000117
【国際公開番号】WO2009/117798
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(510255314)ユニベルシダデ フェデラル デ フェルナンブーコ − ウエフェペエ (1)
【Fターム(参考)】