説明

蛍光ランプおよび照明装置

【課題】商用電源および高周波回路による点灯において、良好な始動性を得ることができる蛍光ランプおよびこの蛍光ランプを用いた照明装置を提供することを目的とする。
【解決手段】気密封止された長尺のガラスバルブ10と;このガラスバルブ10内に放電を生起させるようにガラスバルブ10内の両端にそれぞれ封装された電極手段20と;前記ガラスバルブ10の両端からそれぞれ前記ガラスバルブ10の管長Lに対して4〜30%の未塗布部11aを有して前記ガラスバルブ10の内面側に形成された透明導電性膜11と;前記透明導電性膜11および前記未塗布部11a上に形成された保護膜12と;前記保護膜12上に形成された蛍光体膜13と;を具備していることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスバルブ内面に透明導電性膜を塗布した蛍光ランプ、およびこの蛍光ランプを用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光体膜とガラスバルブの間に酸化錫を主体とした透明導電性膜を形成したラピッドスタート形蛍光ランプが知られている。
【0003】
このラピッドスタート形蛍光ランプは、透明導電性膜が形成されていないスタータ式の一般形蛍光ランプに比べて始動性が改善されている。
【0004】
しかし、ラピッドスタート形蛍光ランプは透明導電性膜に起因して電極近傍が黒く変色しやすいという問題がある。
【0005】
この黒化の原因の一つとしては、交流電力でランプを点灯させているときに、極性の反転に伴って電極と透明導電性被膜との間で微放電が生じ、透明導電膜が変質すると考えられている。
【0006】
また別の原因として、電極近傍の蛍光体膜の上に水銀が付着していると、この水銀が微放電の通路となり、このため水銀と接している蛍光体が微放電の高エネルギーにより破壊されたり、水銀と反応したり、さらにはこの水銀と透明導電性被膜が反応したりして黒化が発生すると言われている。
【0007】
これに対し透明導電性被膜の管端部および管中央部の管軸方向の抵抗値および膜厚を規定することによって、この黒化を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−320697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、ラピッドスタート形蛍光ランプは専用の安定器と組合わせて点灯されるが、ランプ効率を高くする等の観点から、近年では高周波点灯形のインバータ装置と組合わせ点灯させる方式も採用されている。しかしながら、このようなラピッドスタート形蛍光ランプを高周波点灯回路で点灯させる場合には電極から近傍の透明導電性被膜へ向かって微放電が発生するために始動電圧が上昇し、逆に始動性が悪化してしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたもので、管端部の黒化を抑制するとともに商用電源およびインバータによる点灯において、良好な始動性を得ることができる蛍光ランプおよびこの蛍光ランプを用いた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の蛍光ランプは、気密封止された長尺なガラスバルブと;このガラスバルブ内に放電を生起させるようにガラスバルブの両端にそれぞれ封装された電極手段と;前記ガラスバルブの両端からそれぞれ前記ガラスバルブの管長に対して4〜30%、好ましくは6〜25%の未塗布部を有して前記ガラスバルブの内面側に形成された透明導電性膜と;前記透明導電性膜および前記未塗布部上に形成された保護膜と;前記保護膜上に形成された蛍光体膜と;を具備していることを特徴とする。
【0011】
「長尺の」とは、ここでは管長が500mm以上の直管形蛍光ランプを意味し、例えば管長が600mm以上、800mm以上、1000mm以上などが許容される。なお、ここでいう管長とは、直管形蛍光ランプにおいてJIS C 7617-2で定義される一端の口金端面から他端の口金端面までの距離をいう。
【0012】
透明導電性膜は、導電性を有しており、可視光を透過する被膜である。例えば、酸化錫を主体として構成され、添加剤、未分解の化合物がその他の構成物質として含まれる他、一部還元された金属あるいは不純物を適当に含有していてもよい。
【0013】
なお、添加剤は導電性を付与するとともに透明導電性膜の抵抗値を調整するものであってもよい。
【0014】
請求項2記載の照明装置は、照明器具本体と;照明器具本体に装着された請求項1に記載の蛍光ランプと;を具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の蛍光ランプによれば、管端部の黒化を抑制すると共に高周波点灯回路による点灯および商用電源による点灯のいずれの場合においても良好な始動性を確保する事ができる。
【0016】
請求項2記載の照明装置によれば、請求項1に記載の蛍光ランプの作用を有する照明装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照して説明する。各図において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0018】
図1は蛍光ランプの全体を示した一部切り欠き正面図、図2は蛍光ランプを正面方向から見たガラスバルブの透視図、図3は高周波点灯回路による点灯における透明導電性膜の未塗布部の長さと始動電圧の関係図、図4は蛍光ランプの各位置における透明導電性膜の抵抗値、図5は従来のラピッドスタート形蛍光ランプのガラスバルブの各位置と透明導電性被膜上の電位および管壁の電位との関係図である。
【0019】
蛍光ランプ1は、長尺状のガラスバルブ10を有し、ガラスバルブ10の内面には透明導線性膜11、保護膜12、蛍光体層13が順次形成されている。ガラスバルブ10の両端部は放電生起手段としての電極20が封装されている。電極20は、ステム21、ステム21から導出された図示しない一対のアウターウエルズ、このアウターウエルズに接続されてステム21によって封着支持された一対のインナーウエルズ23、23およびこのインナーウエルズ23、23に支持されるフィラメント24からなる。フィラメント24には、酸化バリウム(BaO)等からなる熱電子放射性物質が担持されている。
【0020】
また、このガラスバルブ10の両端部には、アウターウエルズに接続された一対の接続ピン30、30を備えた口金31が被着されている。
【0021】
蛍光体層13に使用する蛍光体は、紫外線を吸収して、可視光を発する物質であれば、どのようなものであってもよい。このような蛍光体としては、例えば、2価のユーロピウム付活アルカリ土類ハロリン酸塩蛍光体、セリウム、テルビウム共付活リン酸ランタン蛍光体(LaPO4:Ce,Tb)、および3価のユーロピム付活酸化イットリウム蛍光体(Y2O3:Eu)のような3波長発光形の蛍光体、或いはハロリン酸塩蛍光体のような白色発光形の蛍光体を使用することができる。なお、蛍光体は、用途によって適宜選択して使用することができ、またアルミナ、シリカ、ボレートなどの結着剤を使用する事ができる。
【0022】
放電媒体は、水銀および希ガスから構成されている。水銀は、アマルガム或いは液体水銀の形で封入することが可能である。アマルガムとしては、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)、鉛(Pb)、錫(Sn)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)などの中から選ばれた少なくとも1種の金属と水銀(Hg)との合金を用いることができる。
【0023】
また、点灯直後に光束を速く安定させるために放電容器内に補助アマルガムを封入してもよい。この場合補助アマルガムは、放電電極に近接した位置に配設することが好ましい。
【0024】
希ガスは、放電開始を容易にするために使用されるもので、一般的には放電容器を透過しなければ特に限定されないが、アルゴン(Ar)を主体とするのが好ましいが、この他にネオン(Ne)、クリプトン(Kr)またはキセノン(Xe)を適宜混合してもよい。希ガスの圧力は、100〜1000Pa程度である。
【0025】
保護膜12としては金属酸化物微粒子から構成したものが好適であり、金属酸化物微粒子には、アルミナ(Al2O3)の他にシリカ(SiO2)や酸化チタン(TiO2)など周知のものを用いることが可能である。
【0026】
透明導電性膜11は、ガラスバルブ10の両端から管壁に沿って長さlだけ未塗布部11aがそれぞれ形成されている。この未塗布部11aの長さlは、ガラスバルブ10の管長Lに対して、4〜30%形成されている。なお、ここで未塗布部11aにはインピーダンスが大きく変化しないのであれば導電性を有さない被膜を形成してもよい。
なお、本実施形態では未塗布部11aに電極20が配設される場合について説明する。
【0027】
次に未塗布部11aの長さと始動電圧の関係について説明する。
【0028】
図3は、横軸を未塗布部11aの長さ、縦軸を蛍光ランプ1の始動電圧として示した図であり、表1はこれを数字で表したものである。なお、未塗布部11aは両端にそれぞれ同じ長さで設けられており、図の横軸は管長Lに対する一方の未塗布部11aの長さlの比l/Lを示している。
【0029】
なお、本実験はFLR40S.EX−N/36−Hの透明導電性膜11の両端部に未塗布部11aを形成した管長が約1176mmの蛍光ランプおよび高周波標準回路を用いて行った。それ以外の蛍光ランプおよび回路の設定は全て同じ条件で行った。
【表1】


【0030】
図3および表1から分かるように、始動電圧は未塗布部11aを管長に対して4%以上形成すると下がり始め、約10%で極小値となる。未塗布部11aがそれ以上形成されると逆に始動電圧は上昇し約30%あたりからそれ以上上昇しなくなる。
【0031】
このように、透明導電性膜11を形成した蛍光ランプ1は、未塗布部11aを管長Lに対して4〜30%形成しておく事によって高周波回路で点灯させたときの始動電圧を下がる事が分かる。
【0032】
これは、電極20のフィラメント24近傍に透明導電性膜11が形成されている場合には、微放電がフィラメント24近傍の管壁に向かって発生するが、所定の未塗布部11aを形成することによって、上記微放電が発生しにくくなり、一方のフィラメント24から対向するフィラメント24に向かって放電が発生し易くなるため、始動電圧が下がる方向に寄与するものと考えられる。このことは、ラピッドスタート式の安定器と組合せて点灯させたときにも効果があるが、高周波点灯専用のインバータと組合わせて点灯させたときに顕著に現れる。いずれにしても、本願の構成のように透明伝導性膜11aを所定の長さで形成することによって、ラピッドスタート式の安定器または高周波点灯専用のインバータによる点灯の始動性が改善され管端部の黒化も減少する。
【0033】
また、ガラスバルブ10の両端部に未塗布部11aを形成しておくことによって、ガラスバルブ10の端部とフィラメント24との間で微放電が発生し難くなり、ガラスバルブ10の黒化を抑制することができる。
【0034】
次に透明導電性膜11の形成方法について説明する。
【0035】
透明導電性膜11は、有機錫、例えば(CHSnClの溶液をバルブ10の内側に塗布し、このガラスバルブ10を加熱すると上記有機錫が化学反応することにより透明導電性膜11が形成される。つまり、上記(CHSnClは加熱によりSnと2CHClとに分解される。一方、ガラスバルブ10を加熱すると、バルブ材料からNaOが析出し、上記加熱によって生成されたClと化学的に安定したNaClが生成される。このため、SnとOとの反応が促されバルブ10内面に導電性のSnO被膜が形成される。
【0036】
この反応は温度に依存しており温度が高いほど反応は促進される。このため、バルブ10の加熱を制御することによってSnO被膜の形成を制御することができる。例えば、端部側に比べて管中央部の温度を高くすることによって管中央部のSnO被膜の量を多くすることができる。また、管中央部のみを加熱し両端部を加熱しない事によって、両端部におけるSnO被膜の生成を抑制し両端部に未塗布部11aを形成することができる。このように、温度を制御することによって導電膜の形成および導電膜の電気抵抗値を制御することができる。
【0037】
また、未塗布部11aの形成方法としてはSnO被膜の生成のための加熱を行う前に予めバルブ10の両端部の有機錫を剥がしておいてもよい。
【0038】
なお、未塗布部11aが形成された状態において、透明導電性膜11はガラスバルブ10の端部側に比べて、中央部の抵抗値を下げておく事によって始動性を良好にし、管端部の黒化をさらに抑制することができる。
【0039】
図4は、ガラスバルブ10の各位置における透明導電性膜11の抵抗値を示している。実線が本願発明に係る蛍光ランプ1の抵抗値、点線が従来のラピッドスタート形蛍光ランプの抵抗値を示している。ここで、透明導電性膜11の抵抗値はガラスバルブ10の軸方向の50mm間の抵抗をマルチメータで測定した値である。
【0040】
このように、両端部の抵抗値を上げることによって始動性を良好にする事ができた。
【0041】
一般形蛍光ランプでは点灯始動時に、フィラメントから対向するフィラメントへ向かって放電が発生する。一方、透明導電性膜11が形成されているラピッドスタート式の蛍光ランプはフィラメントから管壁に向かって微放電が発生する。ラピッドスタート式の蛍光ランプを高周波点灯するには、この微放電が始動性の悪化に関係していると考えられる。
【0042】
図5はガラスバルブおよび透明導電性膜上の電位を示した図である。図に示すように透明導電性膜上に電位の谷が形成されると、谷が形成された方向に放電が引き寄せられる。本願発明者らが詳しく調べたところ、管端部の透明導電性膜上に電位の谷が形成されやすくこれによって始動性が悪くなっている事が分かった。これは、ガラスバルブ10に有機錫を塗布形成した際に管端部の一部に被膜が厚くなった部位が形成され、これが加熱によって導電性の被膜となり電位の谷を形成するものと考えられる。
【0043】
本発明によれば、両端から管長に対して4〜30%の未塗布部11aを形成するため、このような電位の谷が形成されなくなり、始動性が向上すると考えられる。
【0044】
図6は、本実施の形態に係る照明装置を示す正面図である。
図に示す照明装置Dは天井直付け形の照明器具であって、図中D1は照明器具本体で、この本体D1には天井面などの構造体への取付具(図示しない。)、電源接続機構や安定器D2などの点灯装置が収納され、この本体D1の下方には一対のランプソケットD3、D3が取付けられ、その間に蛍光ランプ10が装着されている。この蛍光ランプ10はソケットD3、D3に支持されているとともに、安定器D2およびソケットD3、D3を介して給電され、安定的に点灯される。
【0045】
なお、本発明は上記の実施の形態の記載内容に限定されるものではなく、構造や材質、各部材の配置等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】蛍光ランプの全体を示した一部切り欠き正面図。
【図2】蛍光ランプを正面方向から見た透視図。
【図3】高周波点灯回路による点灯における透明導電性膜の未塗布部の長さと始動電圧の関係図。
【図4】蛍光ランプの各位置とその位置における透明導電性膜の抵抗値との関係図。
【図5】従来のラピッドスタート形蛍光ランプのガラスバルブの各位置と透明導電性被膜上の電位および管壁の電位との関係図。
【図6】本実施の形態に係る照明装置を示す正面図。
【符号の説明】
【0047】
1 蛍光ランプ
10 ガラスバルブ
11 透明導電性膜
12 保護膜
13 蛍光体層
20 電極
D 照明装置
D1 照明器具本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密封止された長尺なガラスバルブと;
このガラスバルブ内に放電を生起させるようにガラスバルブの両端にそれぞれ封装された電極手段と;
前記ガラスバルブの両端からそれぞれ前記ガラスバルブの管長に対して4〜30%の未塗布部を有して前記ガラスバルブの内面側に形成された透明導電性膜と;
前記透明導電性膜および前記未塗布部上に形成された保護膜と;
前記保護膜上に形成された蛍光体膜と;
を具備していることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
照明器具本体と;
照明器具本体に装着された請求項1に記載の蛍光ランプと;
を具備していることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−218102(P2008−218102A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51822(P2007−51822)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】