説明

蛍光ランプ及びこれを用いた黄色光源装置

【課題】顔料層等を設けずに単純な構造により黄色光を発光することができ、黄色光の発光を必要とする光源装置、例えば、果樹園に飛来する害虫を忌避するための害虫忌避灯や、半導体製造工場のフォトリソグラフィ−工程の作業室の照明灯、植物の成長を促進させる植物栽培用光源等に好適な蛍光ランプを提供する。特に、1種のYAG蛍光体を用いることにより黄色光を発光することができ、これにより色ズレを生じさせず、高強度な発光を得ることができる蛍光ランプを提供する。
【解決手段】放電により紫外線を発生する水銀を含むガスを封入した透光性容器と、該透光性容器の内壁面に設けられた蛍光体層とを有する蛍光ランプにおいて、蛍光体層が、水銀原子から放射される253.7nmの紫外線により黄色光を発光するYAG蛍光体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、YAG蛍光体を用い黄色光を発光する蛍光ランプや黄色光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、果樹園において、夜間飛来して果実を害する夜蛾等の害虫の飛来を忌避するために、500nmから700nm等の波長域の光を放射する黄色蛍光ランプを組み込んだ害虫忌避灯が使用されている。また、半導体製造工場において、フォトリソグラフィー工程を行う作業室の照明用等に黄色を発光する蛍光ランプ等が使用されている。この種の蛍光ランプとしては、黄色光の発光を得るために、図4に示すように、異なる領域の波長光をそれぞれ発光する蛍光体、色温度が2300KのCa10(PO46FCl:Sb,Mn(アンチモン、マンガン付活ハロ燐酸カルシウム蛍光体)を含有する蛍光体層31をガラス管32内に設け、この蛍光体層から発光される蛍光を、蛍光体層とガラス管の間に設けられる、イエローチタン等の顔料層33を透過させ、黄色光を発光させるものが知られている。また、このような顔料層を設けずに黄色光を発光させ得る蛍光ランプとしては、586nm付近に発光ピーク波長を有するアンチモン及びマンガン付活ハロリン酸カルシウム蛍光体と、611nm付近に発光ピーク波長を有するユーロピウム付活酸化イットリウム蛍光体との混合体等を使用した害虫類の防除用蛍光ランプ(特許文献1)等が報告されている。
【0003】
一方、青色発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を用いた照明装置において、LEDからの青色により励起され緑黄色光や橙赤色光の蛍光を発光させ演色効果を図るため、YAG蛍光体を用いることが知られており、このYAG蛍光体を使用した放電ランプ(特許文献2)が報告されている。この放電ランプは、蛍光体成分としてYAG蛍光体を用いることにより、蛍光体成分の損傷による色位置のずれや励起における量子効率の改善を図ったものであるが、VUV領域(200nm以下)の電磁波によりUVA領域の電磁波を発生する成分を含む第1の蛍光体層と、UVA領域の電磁波により励起され可視領域の電磁波を発生する成分を含む第2の蛍光体層を含むものである。
【0004】
また、YAG蛍光体を含む蛍光体混合物を用いた蛍光表示管や蛍光ランプ等の照明装置等(特許文献3)が報告されているが、この蛍光体混合物も、色ズレを抑制し演色性と発光強度の向上を図ったものであり、特定の蛍光体を組み合わせて発光強度の高い白色光を得るものである。
【0005】
更に、YAG蛍光体を含有する蛍光体用いた蛍光高圧水銀灯(特許文献4)が報告されているが、この蛍高圧水銀灯においては青色域の水銀輝線出力を抑制し演色性を改善するためにY3Al512:Ceが用いられているものの、365nm励起により黄緑色発光を得るものである。
【0006】
また、YAG蛍光体を用いた低圧水銀蒸気放電灯(特許文献5)が報告されているが、ここで用いられるYAG蛍光体は発光ピーク波長が近赤外線領域にある蛍光体である。
【0007】
これらの蛍光ランプ等はいずれも、蛍光体としてYAG蛍光体を含むものであるが、各種の蛍光体を混合して用いており、YAG蛍光体を含有する蛍光体層により純黄色光の発光を得られるものは知られていない。
【特許文献1】特開平1−187757号公報
【特許文献2】特開2004−363102
【特許文献3】特開2006−241249
【特許文献4】特開昭61−68854号公報
【特許文献5】特開平9−199086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、顔料層等を設けずに単純な構造により黄色光を発光することができ、黄色光の発光を必要とする光源装置、例えば、果樹園に飛来する害虫を忌避するための害虫忌避灯や、半導体製造工場のフォリソグラフィー工程の作業室における照明灯、植物の成長を促進させる植物栽培用光源等に好適な蛍光ランプを提供することにある。特に、1種のYAG蛍光体を用いることにより黄色光を発光することができ、これにより色ズレを生じさせず、高強度な発光を得ることができる蛍光ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、水銀原子から放射される253.7nmの紫外線によりYAG蛍光体が黄色光を発光することに着目し、蛍光ランプにおいて、放電電子を受けた水銀原子から放射される253.7nmの紫外線により、顔料層等を設けずにYAG蛍光体からの黄色光の発光が可能であることの知見を得た。更に、YAG蛍光体としてセリウムで賦活されたY3Al512のみを用いることにより、1種の蛍光体で黄色光を発光することができ、これにより色ズレが生じることがなく、高強度な発光を得ることができることの知見を得た。かかる知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、放電により紫外線を発生する水銀を含むガスを封入した透光性容器と、該透光性容器の内壁面に設けられた蛍光体層とを有する蛍光ランプにおいて、蛍光体層が、水銀原子から放射される253.7nm波長光により黄色光を発光するYAG蛍光体を含有することを特徴とする蛍光ランプに関する。
【0011】
また、本発明は、上記蛍光ランプを用いることを特徴とする黄色光源装置に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛍光ランプは、顔料層等を設けずに単純な構造により黄色光を発光することができ、黄色光の発光を必要とする光源装置、例えば、果樹園に飛来する害虫を忌避するための害虫忌避灯や、半導体製造工場のフォリソグラフィー工程の作業室における照明灯、植物の成長を促進させる植物栽培用光源等に好適に用いることができる。特に、1種のYAG蛍光体を用いることにより1種の蛍光体により黄色光を発光することができ、これにより色ズレを生じさせず、高強度な発光を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の蛍光ランプは、放電により紫外線を発生する水銀を含むガスを気密に封入した透光性容器と、該透光性容器の内壁面に設けられた蛍光体層とを有する蛍光ランプにおいて、蛍光体層が、水銀から放射される253.7nmの紫外線により黄色光を発光するYAG蛍光体を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の蛍光ランプに用いる透光性容器としては、ガラス製など、可視光を透過する材質のものであればいずれのものであってもよい。その形状としては直管型、湾曲型、環形、バルブ型等いずれであってもよい。
【0015】
透光性容器内には放電により紫外線を発生する水銀が封入され、さらに、アルゴンやネオン等の希ガスが封入される。透光性容器内で発生された放電電子が水銀原子に衝突し、253.7nmを含む紫外線を発生する。封入する水銀の蒸気圧としては、蛍光ランプの点灯時において、例えば、1〜10Pa等を挙げることができる。
【0016】
透光性容器内に放電を発生させる手段としては、バリウム、カルシウム、イットリウム等の酸化物等のエミッタ物質を塗布したタングステンコイル等からなる電極等を挙げることができる。この電極に外部からの電荷が印加されると、エミッタ物質から電子が放出される。
【0017】
このような透光性容器の内壁に設けられる蛍光体層は、水銀原子から放射される253.7nmの紫外線により黄色光を発光するYAG蛍光体を含有する。YAG蛍光体は、熱に対して劣化が少なく、また、水銀の吸着が少ないため、蛍光ランプの始動時において水銀蒸気圧が高い状況が継続する場合があるが、そのような場合においても蛍光体が吸着する水銀による透明性容器の劣化を抑制することができる。YAG蛍光体として、セリウムで賦活されたY3Al512(Y3Al512:Ce)が好ましい。Y3Al512:Ceを用いることにより、図1に示すように、水銀から放射される253.7nm紫外線により、580〜595nmの純黄色の発光を得ることができる。このため、Y3Al512:Ceのみを蛍光体として用いることにより、蛍光ランプにおいて色ズレ等を生じさせずに発光強度を高めることができ、黄色光を必要とする光源装置等の蛍光ランプに好適なものとなる。また、蛍光体層は、このような水銀から放射される253.7nm紫外線により黄色光を発光するYAG蛍光体に加え、水銀から放射される253.7nm紫外線に励起されることにより、近赤外線から赤、青、黄緑、緑等の可視光を発光するYAG蛍光体や、YAG蛍光体以外の蛍光体を含むものとして、演色性に優れた白色光を得る一般的な照明用蛍光ランプ用とすることも可能である。
【0018】
このような蛍光体層は、1cm2当たり6mg〜10mgのYAG蛍光体を含有するように設けることが、好ましい。蛍光体層におけるYAG蛍光体の含有量が1cm2当たり6mg以上であれば、10mg水銀から発生する360nm付近の紫外線の漏洩を抑制することができ、10mg以下であれば蛍光体層による可視光の透過率の低下を抑制することができる。蛍光体層の厚さとしては、50μm〜60μm程度を挙げることができる。
【0019】
本発明の蛍光ランプは、蛍光体層と透明性容器との間、又は、透明性容器内の放電空間側に360nm付近の紫外線の漏洩を抑制するため、若しくは、水銀等による透明性容器の劣化を抑制するため保護層を設けてもよい。保護層としては、例えば、酸化イットリウム、酸化アルミニウム、酸化セりウム等の金属酸化物等を用いて形成することができる。保護層の厚さとしては、1〜4μm程度を挙げることができる。
【0020】
この種の蛍光ランプを駆動させる点灯回路としては、蛍光ランプと別途に設けた点灯回路により電極を予熱し高圧パルスを発生するスターター式点灯回路を用いることができるが、蛍光ランプと一体化して設けた、電極予熱回路と昇圧回路とを有する安定器を備えたラピッドスタート式点灯回路、更に高周波変換回路を備えたインバータ式点灯回路を用いることもできる。点灯回路を一体化して設ける場合、透明性容器を湾曲若しくは屈曲し、その周囲を更にグローブで覆い、点灯回路に接続された口金を有する電球型としても、透明性容器が外部に露出した構造としてもよい。
【0021】
このような蛍光ランプを製造する方法としては、特に限定されるものではなく、上記YAG蛍光体を溶媒に分散させた分散液を調製し、これを所定の形状のガラス製等の透明性容器の内壁面に所定の厚さに浸漬、スプレー等の方法により塗工する。その後、透明性容器の端部に電極を設けると共に、電極に接続される外部リード等を有する口金で封止して製造することができる。
【0022】
本発明の蛍光ランプは、水銀原子から放射される253.7nmの紫外線によりYAG蛍光体が黄色光発光するものであり、赤、青等の可視光を発生するYAG蛍光体等と共に用いて白色光を得るものとすることもできるが、黄色光を発生するYAG蛍光体のみ、より好ましくは、Y3Al512:Ceのみを用いたものとし、黄色光源装置に好適に適用することができる。黄色光源装置としては、害虫忌避灯や、植物栽培用光源、半導体製造工場の照明灯等に好適に適用することができる。
【実施例】
【0023】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0024】
本発明の蛍光ランプを直管型蛍光ランプに適用した一例を、図面を参照して説明する。図2の構成図に示す直管型蛍光ランプは、透明性容器を構成する管内径が15〜38mmの直管状のガラス管12とこの両端をそれぞれ閉塞するステム11を有する。ステム11には1対のリード線14が設けられ、このリード線間に、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化カルシウム等の電子放出物質のエミッタが塗布されたタングステンフィラメントにより形成され、熱陰極として機能する電極15が設けられる。各リード線は、ガラス管を気密に保持する口金16に突出して設けられる端子16に接続され、リード線を介して外部電力が電極15に印加されるようになっている。このようなガラス管12の内壁面には蛍光体層18が設けられ、気密に保持される内部には水銀が、点灯時における蒸気圧が1〜10Paとなるように封入されると共に、アルゴン等の希ガスが、3Torr等として封入されている。
【0025】
上記ガラス管の内壁面に設けられる蛍光体層18は、図3に示すように、ガラス管内壁に、例えば、厚さ50〜60μmで設けられる。蛍光体層には、Y3Al512の:Ceのみが含有され、1cm2当たり6mg〜10mgとして設けられる。蛍光体層に含有する蛍光体が上記範囲であるため、水銀から放射される360nmの波長光は蛍光体層により遮断されガラス管外への漏洩が抑制される。
【0026】
尚、上記ガラス管には保護層を設けていないが、カラス管内壁面と蛍光体層との間に、酸化イットリウム、又は酸化アルミニウム等の保護層を設け、水銀から放射される360nmの波長光がガラス管外部への漏洩を抑制するようにしてもよい。保護層の厚さとしては、具体的に、1〜4μmを挙げることができる。
【0027】
このような直管型蛍光ランプの作動を説明する。端子17、リード線を介して電極(陰極)に電流を流して予熱すると、高温になったエミッタから電子が放出される。放出された電子は電極(陽極)に引かれて移動し、放電が始まる。放電電子が水銀原子と衝突すると、水銀原子から253.7nmの紫外線が放出される。この紫外線を蛍光体層のY3Al512の:Ce蛍光体が吸収し、580〜595nmの黄色光を発光する。このとき、水銀から放射される360nm近傍の紫外線は蛍光体層によりガラス管外への放出が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の蛍光ランプに用いる蛍光体の分光強度を示す図である。
【図2】本発明の蛍光ランプの一例の直管型蛍光ランプを示す概略構成図である。
【図3】図2に示す直管型蛍光ランプを示す断面図である。
【図4】従来の蛍光ランプを示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
12 ガラス管(透明性容器)
18 蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電により紫外線を発生する水銀を含むガスを封入した透光性容器と、該透光性容器の内壁面に設けられた蛍光体層とを有する蛍光ランプにおいて、蛍光体層が、水銀原子から放射される253.7nmの紫外線により黄色光を発光するYAG蛍光体を含有することを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
YAG蛍光体が、セリウムで賦活されたY3Al512のみからなることを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
蛍光体層が、1cm2当たり6mg〜10mgのYAG蛍光体を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの蛍光ランプを用いることを特徴とする黄色光源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−210633(P2008−210633A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45628(P2007−45628)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】