説明

蛍光ランプ用ガラス管

【課題】 波長313nmを含む有害紫外線の遮蔽性に優れており、蛍光ランプ用途として十分な耐紫外線ソラリゼーション性を持ち、蛍光体の劣化や封入水銀量の消費が少ない蛍光ランプ用ガラスを提供することを目的とする。
【解決手段】 質量%で、SiO55〜75%、Al 1〜7%、B10〜25%、LiO0.1〜3%、KO3〜9.5%, CaO+MgO+BaO+SrO0.1〜5%、Nb+SnO+ZrO+ZnO0.01〜5%、CeO+WO+V0.1〜5%、Fe0.001〜0.05%を含有し、JIS‐R‐3102に定める0〜300℃の範囲の平均線膨張係数が36〜57×10−7/℃である硼珪酸系ガラスからなり、実質的にNa、 As、 Sb、 Pbを含有しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ランプ用ガラス管に関し、特に液晶ディスプレイ(以下LCDと称すことがある)等の表示デバイスのバックライトに用いられる蛍光ランプに適した蛍光ランプ用ガラス管に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチメディア関連機器のキーデバイスとして液晶ディスプレイは広く用いられているが、その用途の拡大とともに軽量化、薄型化、低消費電力化、高輝度化、低コスト化などが求められるようになっている。特にLCDの中でもパソコン用ディスプレイ、車載用表示装置、TVモニター等では高品位な表示装置が要求されている。また、近年におけるフラットパネルディスプレイの進歩は目覚ましいものがあり、大画面薄型テレビの需要は急激に拡大している。プラズマディスプレイや液晶テレビが現在の主流であるが、自発光のPDPに対して、液晶表示素子自体は非発光であるため、蛍光ランプを光源とするバックライトが必要になる。
【0003】
一般に、バックライトと呼ばれる面光源は、その光源配置から大きく分けて、液晶の背面に数本の蛍光ランプを並べて配置し光を照射する直下方式と、導光板のエッジに蛍光ランプを配置したエッジライト方式の二通りがあるが、大型化・高画素化が進む液晶テレビにおいては、高輝度が得られやすい直下方式が主流となっている。

【0004】
液晶テレビ用途の場合、民生テレビの主役であるCRT方式からの置き換えが前提となるため、パソコン用やモニター用のバックライトに比べ、寿命に対する要求は厳しいものとなる。バックライトの寿命は所定の輝度が維持できなくなるまでの時間で示されるが、輝度が低下する要因としては、(1)紫外線によるバルブの黒化、(2)漏洩紫外線による導光板/拡散板の劣化、(3)蛍光体の劣化、(4)封入水銀量の低下などが挙げられる。
【0005】
上記(1)の紫外線によるバルブの黒化は、紫外線ソラリゼーションと呼ばれる現象で、ランプ単体の輝度維持率を低下させる。特許文献1および特許文献2に開示のガラスは、この用途におけるガラスの代表的な例であり、TiO,PbO,Sbのいずれかを含有させることでガラスの耐紫外線ソラリゼーション性を高めたものである。
【0006】
また、上記(2)の漏洩紫外線による導光板/拡散板の劣化は、近年、クローズアップされた問題で、従来のガラスでカットできない波長313nmの紫外線がバックライトユニットを構成する樹脂部材を劣化させ、輝度が低下するというものである。この長波長側の紫外線対策としては、ガラス管内面に紫外線カット膜を塗布する方式もあるが、コスト高になることからガラス素材での対策も検討されており、特許文献3や特許文献4にこのような対策が施された組成のガラスが開示されている。
【特許文献1】特開平9−77529号公報
【特許文献2】特開平9−110467号公報
【特許文献3】特開2005−41729号公報
【特許文献4】特開2005−75705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1および特許文献2に開示のガラスは、バックライトの輝度低下要因として挙げた4つの項目のうち、紫外線ソラリゼーションによるバルブの黒化を除く3項目については対策されておらず、また、上記特許文献3、特許文献4に開示のガラスは、313nm以上の紫外線漏洩対策および紫外線ソラリゼーション対策の2項目については考慮されているものの、蛍光体の劣化や水銀消費量低下への対策は盛り込まれていない。これらの考慮されていない項目への対策として、保護膜の塗布も考えられるが、コストアップになるため、全ての輝度低下要因について対策されたガラス管が強く望まれている。
【0008】
本発明は以上のような諸事情を考慮してなされたものであり、波長313nmを含む有害紫外線の遮蔽性に優れており、蛍光ランプ用途として十分な耐紫外線ソラリゼーション性を持ち、蛍光体の劣化や封入水銀量の消費が少なく、さらには、As、Sb、Pbといった有害物質を含まない液晶テレビ用のバックライトとして使用するのに好適な蛍光ランプ用ガラス管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、蛍光ランプ用ガラス管において、質量%で、SiO 55〜75%、Al 1〜7%、B 10〜25%を含有し、JIS‐R‐3102に定める0〜300℃の範囲の平均線膨張係数が36〜57×10−7/℃である硼珪酸系ガラスからなり、実質的にNa、 As、 Sb、 Pbを含有しないことを特徴とする。
【0010】
前記硼珪酸系ガラスは、質量%で、SiO 55〜75%、Al 1〜7%、B 10〜25%、LiO 0.1〜3%、KO 3〜9.5%、CaO+MgO+BaO+SrO
0.1〜5%、Nb+SnO+ZrO+ZnO 0.01〜5%、CeO+WO+V 0.1〜5%、Fe 0.001〜0.05%を含有することが好ましい。
【0011】
また、Nb0〜5%、SnO0.1〜3%、ZrO0.01〜3%、ZnO0.1〜5%、CeO0.1〜5%、WO0〜3%、V0〜2%を含有することが好ましい。
【0012】
また、肉厚0.3mmでの波長313nmにおける透過率が5%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、ガラス管の外径が0.7〜6mm、肉厚が0.07〜0.7mm、真円度が真円からの偏差で表して10μm以下であり、液晶表示デバイスのバックライト光源に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のガラスは、コバールやタングステンとの封着に適した熱膨張係数を持ち、従来から求められている紫外線カット特性や耐紫外線ソラリゼーション性に加えてランプ点灯中の蛍光体劣化や水銀消費の要因となるNaを含有しないため、特に、液晶ディスプレイのバックライト用蛍光ランプとして使用した場合に、従来のガラスに比べて輝度の劣化が少なく、表示装置の信頼性を向上させる効果がある。
【0015】
また、従来のガラスよりも高い紫外線カット性を持ち、Naの拡散もないため、これを用いてランプを製作する場合、UVカット膜や蛍光体保護膜が不要となり、ランプ製作時の低コスト化や工程の合理化が実現できる。さらに、本発明のガラスは、実質的にAs、Sb、Pbなどの有害物質を含有していないため、環境負荷の低減にも貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、上記構成により上記目的を達成したものであり、本発明のガラスを構成する各成分の含有量等を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0017】
SiOはガラスの網目形成成分であるが、75%を超えるとガラスの溶融性・成形性が悪化し、55%未満ではガラスの化学的耐久性が低下する。化学的耐久性の低下はウェザリング、ヤケ等の原因となり蛍光ランプの輝度低下、色むら発生の原因となる。好ましくは、60〜70%である。
【0018】
Alはガラスの失透性および化学的耐久性を改善する作用があるが、7%を超えると脈理の発生など溶融性が悪化する。1%未満では分相や失透が発生しやすくなり、ガラスの化学的耐久性も低下する。好ましくは2〜5%の範囲である。
【0019】
は溶融性向上および粘度調整の目的で用いられる成分であるが、揮発性が非常に高く25%を超えると均質なガラスが得られにくくなる。また、含有量が10%未満では溶融性が悪化する。好ましくは、12〜20%である。
【0020】
以上のような基本組成を有するガラスは、細管に成形した時のガラス管に充分な強度と蛍光ランプの発熱に耐える耐熱性を有するものとなる。本発明のガラスの平均線膨張係数を36〜57×10−7/℃の範囲としたのは、電極材となるコバールまたはタングステン/モリブデンとの熱膨張の整合性を取り、封止性を高めるためである。それぞれの電極材を使用する場合におけるガラスの平均線膨張係数の好ましい範囲は、タングステン/モリブデンの場合には36〜46×10−7/℃、コバールの場合には46〜57×10−7/℃であり、この範囲を外れると封止性が悪化する。
【0021】
アルカリ金属酸化物は、融剤としての作用を期待して添加される。従来のガラスには、アルカリ金属酸化物として、NaOも使用されているが、蛍光ランプ点灯中、NaOは水銀と反応し、アマルガムを形成することが知られている。また、NaOは、ガラス中で動きやすい成分であり、蛍光体への拡散により、劣化を促進するとも言われている。アマルガムの形成による内部封入水銀量の低下はランプ発光効率の低下を招き、Na拡散による蛍光体の劣化は明るさを落とす要因となり得るため、特に高い輝度維持率が求められるTVモニター用バックライトではNaOは含有しないことが望ましく、本発明においては、NaOを実質的に含まないこととした。なお、本発明において実質的に含まないとは、当該成分を意図的に添加しないことを意味し、他の成分原料から不純物として混入するものを排除する意図ではない。
【0022】
以上のガラスをベースとし、紫外線吸収成分およびソラリゼーション防止成分を加えることで上述した4つの輝度低下要因について対策されたガラス管とすることができる。この系のガラスにおいて紫外線吸収性が確認されている成分としては、TiO、CeO、WO、V、SnO、Fe、Bi、MoOなどがあり、これらを合量で0.05〜10%程度、好ましくは5%まで含有させることで蛍光ランプから放射される紫外線をカットすることができる。これらの成分は、前記合量の上限を越えると、可視域の吸収が大きくなりランプの輝度や光色に影響を与えるので好ましくない。なお、前記範囲内であっても成分や組合せによって紫外線吸収能に差異があり、可視域に着色となって現れる場合もあるため、本発明において好ましいと考える成分組成については後述する。
【0023】
また、ソラリゼーション防止成分としては、Nb、SnO、ZrO、ZnO、TiO、Ta、Biなどがあり、これらを合量で0.01〜10%程度、好ましくは5%まで含有させることでガラスのソラリゼーション防止に寄与する。これらの成分も前記合量の上限を越えて添加すると、可視域の吸収が大きくなりランプの輝度や光色に影響を与える。ソラリゼーション防止成分についても、本発明において好ましいと考える成分組成について以下に述べる。
【0024】
以上説明した成分のほか本発明のガラス管を構成するガラスとしては、LiO0.1〜3%、KO3〜9.5%, CaO+MgO+BaO+SrO0.1〜5%、Nb+SnO+ZrO+ZnO0.01〜5%、CeO+WO+V0.1〜5%、Fe0.001〜0.05%を含有することが好ましい。以下、これら成分について含有量を限定した理由を説明する。
【0025】
LiOは融剤として非常に高い効果を持ち、ガラスの溶融性を改善するとともに粘度、熱膨張係数の調整に用いられる成分である。その含有量が0.1%未満では、融剤としての効果が少ないため、溶融性が悪化する。また、3%を超えると、化学的耐久性が悪化するため、好ましくない。後述する真円度への影響も考慮すると1%以上添加することが望ましい。
【0026】
Oも融剤として作用するとともに粘度、熱膨張係数の調整に用いられる成分であるが、3%未満ではその効果がなく、9.5%を超えると熱膨張係数が大きくなりすぎるとともに化学的耐久性が悪化するため、好ましくない。後述する真円度への影響も考慮すると5%以上の添加が望ましい。
【0027】
CaO、 MgO、 BaO、 SrOはガラスの高温における粘度を下げ、溶融性を向上させる効果を持つ成分であり、必要に応じて合量で5%まで添加することができる。これら成分の合量が0.1%未満ではその効果はほとんど期待できず、上限値を超えて添加すると、ガラス状態が不安定となり、失透が生じやすくなる。
【0028】
Nb、 SnO、 ZrO、 ZnOは耐ソラリゼーション性を高める成分であり、これら成分の合量で0.01〜5%の範囲で使用する。0.01%未満ではその効果はほとんど期待できず、5%を超えるとガラスの失透性が悪化するため好ましくない。このような効果を期待できる成分として、PbOも考えられるが、環境有害物質であるため、本願では不含とした。
【0029】
Nbは耐ソラリゼーション性を高める任意成分であり、0〜5%の範囲で使用する。添加量が5%を超えるとガラスの失透性が悪化するため好ましくない。
【0030】
SnOは耐ソラリゼーション性を高めるほか2価の化合物で添加することで還元剤として作用する成分である。また、紫外線カットの効果も期待できる必須成分であり、0.1〜3%の範囲で使用する。0.1%未満では還元剤としての効果が小さく、5%を超えると失透性が悪化する。紫外線吸収剤にWOまたはVを使用する場合には、酸化性での溶融が好ましく、この場合には、4価の化合物として添加する。
【0031】
ZrOは耐ソラリゼーション性を高めるほかガラスを安定化する効果を合わせ持つ成分であるが、0.01%未満ではほとんどその効果が期待できない。3%を超えると溶融性が悪化し、脈利などのガラス不良の原因となるため、好ましくない。
【0032】
ZnOはガラスの耐候性を上げる効果も持つ成分である。0.1%未満ではその効果は小さく、5%を超えると失透性が高くなる。
【0033】
CeO、 WO、 Vは強力に紫外線を吸収する成分であり、本発明の必須成分である。これら成分は単独でも2種類以上の併用でも使用できるが、含有量が0.1%未満では、紫外線を遮蔽する能力が不足し、5%を超えるとガラスが着色し、ガラスの透過率を下げるため、好ましくない。なお、CeOを使用する場合には、ガラスの着色防止のため、還元性で溶融を行なうことが好ましく、この場合にはCeO単独で使用した方が良い。逆に、WO、Vを使用する場合には、酸化性の溶融が好ましく、CeOを併用しない方がより無色のガラスが得られる。
【0034】
CeOは強力な紫外線吸収剤であり、本発明の必須成分である。CeOはガラス中では3価と4価の状態を取り、どちらも紫外線カットには有効に作用するが、3価の割合を増加させた方が無色透明で、かつ313nmの紫外線を効率的に吸収することが可能になる。その含有量が0.1%未満ではほとんどその効果が期待できず、5%を超えると失透性が悪化するため好ましくない。
【0035】
WO、Vも紫外線吸収に効果があり、特に、Vは微量でも強力に紫外線を吸収する成分である。この2成分を紫外線吸収剤として使用する場合には、CeOは酸化剤として作用させることでガラスを無色にすることができる。ただし、両成分共にRedoxの状態によっては着色しやすい成分でもあるため、WOの場合には3%、Vの場合には2%までとすることが好ましい。
【0036】
蛍光ランプの管内ではHg励起による紫外線が発生し、特に、従来のガラスでカットできない313nmの紫外線がバックライトユニットを構成する樹脂製の導光板や拡散板を劣化させる。導光板や拡散板が紫外線劣化により着色すると、可視光が吸収され、輝度が下がるため、313nmの紫外線カット特性は、バックライトユニットの輝度維持率の向上には大きな効果がある。この波長の紫外線を効率よく遮蔽するための前記紫外線吸収成分の好ましい範囲は0.5〜4%、より好ましくは0.8〜3.5%である。紫外線カット特性は、ガラスを肉厚0.3mmに光学研磨した状態で、波長313nmにおける紫外線透過率が10%以下、より好ましくは5%以下となるように上記成分を選択することが望ましい。これにより、従来のガラスに比べて、管外に放出される313nmの紫外線を8割〜9割程度低く抑えることが可能となり、バックライトユニットを構成する樹脂部品の劣化を防止することができる。
【0037】
Feは原料や工程の不純物としてガラス中に入るものであり、分光特性に大きな影響がある成分である。微量でも強力な紫外線吸収特性を示すが、含有量が増加すると、ガラスの着色およびソラリゼーション特性の悪化が生じるため、適切な範囲にコントロールすべき成分である。含有量が0.001〜0.05%の範囲にあれば、着色やソラリゼーション特性への悪影響が出ることなく、適度な紫外線カット特性を与えることができる。0.001%未満でもバックライト用の蛍光ランプは作成できるが、珪砂等の原料中の不純物を極力抑える必要があり、原料コストが上がるため、本発明では0.001%以上とした。また、0.05%を超える場合には、前述の分光特性への悪影響が生じるため、好ましくない。
【0038】
本発明のガラス溶融の際にはKCl、KSO、BaSO等の清澄剤が使用できる。また、紫外線吸収成分としてCeOを選択した場合には、それ自身にも清澄作用があり、特に、清澄剤を使用しなくても十分な泡切れが期待できる。As、Sbはガラスの清澄剤として一般的な成分であるが、環境問題への配慮から本発明では実質的に含まないこととした。
【0039】
本発明の好ましい態様においては、紫外線吸収剤としてCeO、 WO、 Vの3成分を単独または2種類以上の組合せで使用するが、313nmの紫外線をカットするためには、従来のガラスと比べてこれら成分を多く添加する必要がある。一般に紫外線カット特性を上げていくと、紫外域の吸収が可視域にかかってくるため、ガラスは黄色に着色しやすい。過度の着色は好ましくないが、薄い着色であれば、色の補正で対応が可能である。色の補正には、CoO、NiO、Nd、MnO等が使用できるが、これらの成分は、強力な着色剤であるため、過度の添加は好ましくなく、上限は1%までとする。
【0040】
本発明のガラスは、上述の成分だけに限定されるものではなく、ガラスの粘度調整や溶融性、成形性の改善、光学特性の調整 等を目的に、バックライト用として必要な特性を損なわない範囲で、Ti、Cu、Ga、Ge、Y、Mo、In、Te、Ta、Bi、La、Pr、Eu、Gd、Tb等の酸化物を5%以下で適宜添加することが可能である。
【0041】
本発明の蛍光ランプ用ガラス管を液晶表示素子のバックライト用光源として使用する場合、ガラス管は外径が0.7〜6mm、肉厚が0.07〜0.7mmの範囲、また、真円度が真円からの偏差で表して10μm以下となるように成形することが望ましい。特に、真円度は、円周方向の輝度のバラツキに影響があり、10μm以下とした。真円度が10μmを超える場合、外径に乱れが生じているため、光の拡散が起こり、円周方向での輝度にムラが生じる。10μm以下であれば、輝度ムラはほとんど生じない。
【0042】
真円度の悪化は、大きく見た場合の楕円状態と細かく見た場合の外径の乱れに起因する。楕円状態は成形条件に左右され、これを適正化することで真円度は良くすることができるが、細かく見た場合の乱れは、いわゆる木目スジであり、これがあると、円周方向で部分的な光の拡散が起こり、輝度ムラの原因となる。特に、SiOやAlといった溶け難い成分起因の脈利が木目スジの原因となるため、溶け難い成分、具体的には、SiO、Al、ZrOについては上記限定範囲に調整する必要がある。
【0043】
本発明のガラスは次のようにして作製することができる。まず得られるガラスが上記組成範囲になるように珪砂、各金属の炭酸塩、水酸化物等の原料を秤量、混合する。この原料混合物を石英るつぼまたは白金るつぼに収容し、電気炉内において加熱溶融する。十分に攪拌・清澄した後、所望の形態に成形する。本発明の蛍光ランプ用の細管等を作製するために管状に量産成形をする場合には、タンク炉で溶融したガラスを、白金部材を使用したフォアハ−ス及び、ガラス供給成形機構により、ダンナ−法、リドロー等既知の管引き成形方法によって問題なく成形することができる。
【実施例】
【0044】
次に、本発明のガラスについて、実施例に基づき詳細に説明する。表1のNo.1〜12に本発明の実施例、No.13、14に従来のガラスを示す比較例を示す。なお、表中の組成は質量%で示してある。表中記載のガラスは、表に示す酸化物組成となるよう珪砂、各金属の炭酸塩、水酸化物等の原料粉末を秤量・混合し、KClを用いた清澄方法により白金坩堝もしくは石英坩堝を用いて1450℃で5時間溶融した。その後、充分に攪拌・清澄したガラスを矩形枠内に流出させ、徐冷後に以下に示す評価項目に合わせて所望の形状に加工したサンプルを作成した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表1】

【0047】
表1において熱膨張係数として示した値は、JIS‐R‐3102に定める規格に基づき0〜300℃における平均線膨張係数を測定した値を×10−7/℃で示してあり、また313nmの透過率は、各ガラスサンプルを一辺30mm角の板状にカットし、厚さが0.3mmとなるよう両面光学研磨加工した試料を分光光度計にて測定した値を示した。
【0048】
表1中、No.1〜6がコバールシール用、No.7〜12がタングステン/モリブデンシール用のガラスであるが、表から明らかなように、本発明の実施例は、コバールの平均線膨張係数55×10−7/℃およびタングステン/モリブデンの平均線膨張係数45×10−7/℃と比較的近い値であり、良好かつ信頼性の高い封着が得られる。また、肉厚0.3mmでの波長313nmの透過率が従来のガラスに比べて非常に低く抑えられており、有害紫外線をほとんど透過しない。これに対し比較例であるNo.13の試料は313nmにおける透過率が高く、バックライトユニットの樹脂部材が紫外線により劣化を起こす危険性が高い。
【0049】
【表2】

【0050】
表2はNo.1とNo.14のガラスのアルカリ溶出量を比較したものである。測定は、JIS‐R‐3502記載の方法で評価を行なったが、この数値が低いほど、蛍光体へのアルカリ拡散およびランプ点灯中の水銀との反応に対する危険性は低くなり、長期に渡って輝度を維持できる可能性が高くなる。No.1の実施例では測定値は検出下限を下回っており、アルカリ溶出はほとんど確認されないが、No.14の比較例ではアルカリ溶出が認められ、蛍光ランプの輝度維持に対しては不利である。なお、No.2〜12の実施例においてもアルカリ溶出量は検出下限を下回っていた。
【0051】
【表3】

【0052】
表3は、真円度と輝度バラツキの関係を示したものである。真円度は、接触式の真円度測定器を使用し、数値は真円からの偏差(中心に対して測定した輪郭と最大半径または最小半径との差)である。輝度バラツキは、実際に製作した冷陰極型蛍光ランプ(CCFL)での円周方向における輝度のバラツキであり、管軸に対して90°ごと方向を変えて輝度を測定したときの最大輝度と最少輝度との差を比で表したものである。本発明に係る実施例のガラス管を用いたものは、真円度10μm以下を満足する成形状態であり、輝度のバラツキは3%程度に抑えられているが、比較例のガラス管は真円度が14.8μmと大きく、ランプ化前のガラスは筋が見られた。ランプ化後の輝度のバラツキも大きく12.5%を超えており、この場合、直下式で多数本バックライトを並べた場合、輝度ムラが生じる心配がある。
【0053】
本発明の実施例に係る蛍光ランプ用ガラス管は、環境有害物質であるAs、Sb、Pbを含有していないため、環境負荷の低減に貢献するとともに、製造設備上の制約も少なくなる。また、蛍光ランプの特性に悪影響があるNaも含有していないため、従来のガラスを使用した場合と比べて、封入水銀の消費や蛍光体の劣化が低く抑えられ、長期に渡り、安定した輝度を維持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係るガラスは以上に詳述したように蛍光ランプ用ガラス管、特に液晶ディスプレイ等のバックライト用蛍光ランプ外囲器として好適するものであるが、これに限定されることなく、優れた紫外線カット性及び可視光透過性から紫外線カットフィルタ、合せて高い耐紫外線ソラリゼーション性を有することから水銀ランプなど紫外線放射を伴う光源の外囲器等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、SiO 55〜75%、Al 1〜7%、B 10〜25%を含有し、JIS‐R‐3102に定める0〜300℃の範囲の平均線膨張係数が36〜57×10−7/℃である硼珪酸系ガラスからなり、実質的にNa、 As、 Sb、 Pbを含有しないことを特徴とする蛍光ランプ用ガラス管。
【請求項2】
質量%で、SiO 55〜75%、Al 1〜7%、B 10〜25%、LiO 0.1〜3%、KO 3〜9.5%、CaO+MgO+BaO+SrO
0.1〜5%、Nb+SnO+ZrO+ZnO 0.01〜5%、CeO+WO+V 0.1〜5%、Fe 0.001〜0.05%を含有することを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ用ガラス管。
【請求項3】
Nb0〜5%、SnO0.1〜3%、ZrO0.01〜3%、ZnO0.1〜5%、CeO0.1〜5%、WO0〜3%、V0〜2%を含有することを特徴とする請求項2記載の蛍光ランプ用ガラス管。
【請求項4】
肉厚0.3mmでの波長313nmにおける透過率が5%以下であることを特徴とする請求項2または3記載の蛍光ランプ用ガラス管。
【請求項5】
ガラス管の外径が0.7〜6mm、肉厚が0.07〜0.7mm、真円度が真円からの偏差で表して10μm以下であり、液晶表示デバイスのバックライト光源に用いられることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蛍光ランプ用ガラス管。

【公開番号】特開2007−210851(P2007−210851A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33713(P2006−33713)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000158208)旭テクノグラス株式会社 (81)
【Fターム(参考)】