説明

蛍光体およびその製造方法、ならびに発光装置

【課題】発光効率が高く、温度特性が良いSrサイアロン蛍光体、その製造方法、および発光装置を提供すること。
【解決手段】酸化ストロンチウムおよび炭酸ストロンチウムの少なくとも1種を含むストロンチウム化合物と、窒化珪素と、窒化アルミニウムと、酸化アルミニウムと、酸化ユーロピウムとを含む蛍光体原料混合物を、50MPa〜200MPaの不活性ガス雰囲気下で、1400℃〜2200℃で焼成する蛍光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蛍光体およびその製造方法、ならびに発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体粉末は、たとえば、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)等の発光装置に用いられる。発光装置は、たとえば、基板上に配置され所定の色の光を出射する半導体発光素子と、この半導体発光素子から出射される紫外光、青色光等の光により励起されて可視光を発する蛍光体粉末を封止樹脂である透明樹脂硬化物中に含む発光部とを備える。
【0003】
発光装置の半導体発光素子としては、たとえば、GaN、InGaN、AlGaN、InGaAlP等が用いられる。また、蛍光体粉末の蛍光体としては、たとえば、半導体発光素子からの出射光により励起されてそれぞれ青色光、緑色光、黄色光、赤色光の光を出射する青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体、赤色蛍光体等が用いられる。
【0004】
発光装置は、封止樹脂中に赤色蛍光体等の各種の蛍光体粉末を含有させることにより、放射光の色を調整することができる。すなわち、半導体発光素子と、半導体発光素子から放射された光を吸収して所定波長域の光を発光する蛍光体粉末とを組み合わせて用いることにより、半導体発光素子から放射された光と蛍光体粉末から放射された光との作用で、可視光領域の光や白色光を発光させることが可能になる。
従来、蛍光体としては、ストロンチウムを含むユーロピウム付活サイアロン(Si−Al−O−N)構造の蛍光体(Srサイアロン蛍光体)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/105631号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の蛍光体には150℃程度の高温領域で使用する場合、常温(25℃)領域で使用する場合に比べて発光効率が低下するという問題があった。以下、蛍光体の発光効率が、常温領域で使用する場合に比べて150℃程度の高温領域で使用する場合に低下しないことまたは低下の度合いが小さいことを、温度特性が良いと称する。また、蛍光体の発光効率が、常温領域で使用する場合に比べて150℃程度の高温領域で使用する場合に低下の度合いが大きいことを、温度特性が悪いと称する。
また、蛍光体は、常温(25℃)の発光効率が高いことが好ましい。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発光効率が高く、温度特性が良い蛍光体およびその製造方法、ならびに発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の蛍光体および発光装置は、高圧下で蛍光体を製造すると、熱力学的に安定でかつ結晶性がよい結晶構造を有する蛍光体が得られ、この蛍光体は温度特性が良くなることを見出して完成されたものである。
【0009】
実施形態の蛍光体の製造方法は、上記問題点を解決するものであり、酸化ストロンチウムおよび炭酸ストロンチウムの少なくとも1種を含むストロンチウム化合物と、窒化珪素と、窒化アルミニウムと、酸化アルミニウムと、酸化ユーロピウムとを含む蛍光体原料混合物を、50MPa〜200MPaの不活性ガス雰囲気下で、1400℃〜2200℃で焼成することを特徴とする。
【0010】
実施形態の蛍光体は、上記問題点を解決するものであり、前記製造方法により得られ、下記一般式(1)
【0011】
[化1]
一般式:(Sr1−x,EuαSiβAlγδω (1)
(式中、xは0<x<1、αは0<α≦4であり、β、γ、δおよびωはαが3のときに換算した数値が、9<β≦15、0.5≦δ≦3、1≦γ≦5、10≦ω≦25を満足する数である)
【0012】
で表されるユーロピウム付活サイアロン結晶体からなり、紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより緑色発光することを特徴とする。
【0013】
また、実施形態の蛍光体は、上記問題点を解決するものであり、前記製造方法により得られ、下記一般式(2)
【0014】
[化2]
一般式:(Sr1−x,EuαSiβAlγδω (2)
(式中、xは0<x<1、αは0<α≦3であり、β、γ、δおよびωはαが2のときに換算した数値が、5≦β≦9、0.5≦δ≦2、1≦γ≦5、5≦ω≦15を満足する数である)
【0015】
で表されるユーロピウム付活サイアロン結晶体からなり、紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより赤色発光することを特徴とする。
【0016】
さらに、実施形態の発光装置は、上記問題点を解決するものであり、基板と、この基板上に配置され、紫外光、紫色光または青色光を出射する半導体発光素子と、この半導体発光素子の発光面を覆うように形成され、前記半導体発光素子からの出射光により励起されて可視光を発する蛍光体を含む発光部と、を備え、前記蛍光体は、請求項2〜7のいずれか1項の蛍光体を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】発光装置の発光スペクトルの一例である。
【図2】発光装置の発光スペクトルの他の一例である。
【図3】実施例および比較例で作製した蛍光体の温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施形態の蛍光体および発光装置について説明する。実施形態の蛍光体には、紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより緑色発光する緑色蛍光体と、紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより赤色発光する赤色蛍光体とがある。
【0019】
[緑色蛍光体]
緑色蛍光体は、下記一般式(1)
【0020】
[化3]
一般式:(Sr1−x,EuxαSiβAlγδω (1)
(式中、xは0<x<1、αは0<α≦4であり、β、γ、δおよびωはαが3のときに換算した数値が、9<β≦15、1≦γ≦5、0.5≦δ≦3、10≦ω≦25を満足する数である)
【0021】
で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体からなり、紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより緑色発光する蛍光体である。この緑色発光する蛍光体を、以下、「Srサイアロン緑色蛍光体」ともいう。
【0022】
ここで、一般式(1)で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体と、Srサイアロン緑色蛍光体との関係について説明する。
一般式(1)で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体は、斜方晶の単結晶である。
一方、Srサイアロン緑色蛍光体は、一般式(1)で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体の1個からなる結晶体、またはこのユーロピウム付活サイアロン結晶体の2個以上が凝集してなる結晶体の集合体である。
【0023】
通常、Srサイアロン緑色蛍光体は、単結晶粉末の形態をとる。
【0024】
Srサイアロン緑色蛍光体が、上記ユーロピウム付活サイアロン結晶体の2個以上が凝集してなる結晶体の集合体である場合は、解砕することにより、上記ユーロピウム付活サイアロン結晶体ごとに分離することが可能になっている。
【0025】
一般式(1)において、xは、0<x<1、好ましくは0.025≦x≦0.5、さらに好ましくは0.25≦x≦0.5を満足する数である。
xが0であると焼成工程で得られる焼成体が蛍光体にならず、xが1であるとSrサイアロン緑色蛍光体の発光効率が低くなる。
【0026】
また、xは0<x<1の範囲内で小さい数になるほどSrサイアロン緑色蛍光体の発光効率が低下しやすくなる。さらに、xは0<x<1の範囲内で大きい数になるほどEu濃度の過剰のために濃度消光を起こしやすくなる。
このため、xは0<x<1のうちでも、0.025≦x≦0.5を満足する数が好ましく、0.25≦x≦0.5を満足する数がさらに好ましい。
【0027】
一般式(1)において、Srの総合的な添え字(1−x)αは0<(1−x)α<4を満足する数である。また、Euの総合的な添え字xαは0<xα<4を満足する数である。すなわち、一般式(1)において、SrおよびEuの総合的な添え字は、それぞれ0を超え4未満を満足する数である。
【0028】
一般式(1)において、SrとEuの合計量はαで表される。この合計量αを一定値3とした場合におけるβ、γ、δおよびωの数値を規定することにより、一般式(1)のα、β、γ、δおよびωの比率の特定は明確になっている。
【0029】
一般式(1)において、β、γ、δおよびωは、αが3のときに換算した数値である。
一般式(1)において、Siの添え字であるβは、αが3のときに換算した数値が9<β≦15を満足する数である。
一般式(1)において、Alの添え字であるγは、αが3のときに換算した数値が1≦γ≦5を満足する数である。
一般式(1)において、Oの添え字であるδは、αが3のときに換算した数値が0.5≦δ≦3を満足する数である。
一般式(1)において、Nの添え字であるωは、αが3のときに換算した数値が10≦ω≦25を満足する数である。
【0030】
一般式(1)において、添え字β、γ、δおよびωが、それぞれ上記範囲外の数になると、焼成で得られる蛍光体の組成が、一般式(1)で表される斜方晶系のSrサイアロン緑色蛍光体と異なるものになるおそれがある。
【0031】
Srサイアロン緑色蛍光体は、通常、単結晶粉末、すなわち粉末を構成する各粒子が単結晶粒子の状態になっている。
このSrサイアロン緑色蛍光体の粉末は、平均粒径が、通常1μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上80μm以下、さらに好ましくは8μm以上80μm以下、より好ましくは8μm以上40μm以下である。ここで、平均粒径とは、コールターカウンター法による測定値であり、体積累積分布の中央値D50を意味する。
【0032】
Srサイアロン緑色蛍光体の粉末の平均粒径が1μm未満であったり100μmを超えたりすると、透明樹脂硬化物中にSrサイアロン緑色蛍光体の粉末や他の色の蛍光体粉末を分散させ、半導体発光素子からの紫外光、紫色光または青色光の照射により緑色光や他の色の光を出射させる構造の発光装置を作製した場合に、発光装置からの光の取り出し効率が低下するおそれがある。
一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体は、紫外光、紫色光または青色光が照射されると励起し、緑色光を出射する。
【0033】
ここで、紫外光、紫色光または青色光とは、紫外光、紫色光または青色光の波長域内にピーク波長を有する光を意味する。紫外光、紫色光または青色光は、370nm以上470nm以下の範囲内にピーク波長を有する光であることが好ましい。
【0034】
紫外光、紫色光または青色光の受光により励起された一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体は、発光ピーク波長が500nm以上540nm以下の範囲内の緑色光を発光する。
【0035】
[赤色蛍光体]
赤色蛍光体は、下記一般式(2)
【0036】
[化4]
一般式:(Sr1−x,EuxαSiβAlγδω (2)
(式中、xは0<x<1、αは0<α≦3であり、β、γ、δおよびωはαが2のときに換算した数値が、5≦β≦9、1≦γ≦5、0.5≦δ≦2、5≦ω≦15を満足する数である)
【0037】
で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体からなり、紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより赤色発光する蛍光体である。この赤色発光する蛍光体を、以下、「Srサイアロン赤色蛍光体」ともいう。
【0038】
ここで、一般式(2)で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体と、Srサイアロン赤色蛍光体との関係について説明する。
一般式(2)で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体は、斜方晶の単結晶である。
一方、Srサイアロン赤色蛍光体は、一般式(2)で表される組成を有するユーロピウム付活サイアロン結晶体の1個からなる結晶体、またはこのユーロピウム付活サイアロン結晶体の2個以上が凝集してなる結晶体の集合体である。
【0039】
通常、Srサイアロン赤色蛍光体は、単結晶粉末の形態をとる。
【0040】
Srサイアロン赤色蛍光体が、上記ユーロピウム付活サイアロン結晶体の2個以上が凝集してなる結晶体の集合体である場合は、解砕することにより、上記ユーロピウム付活サイアロン結晶体ごとに分離することが可能になっている。
【0041】
一般式(2)において、xは、0<x<1、好ましくは0.025≦x≦0.5、さらに好ましくは0.25≦x≦0.5を満足する数である。
xが0であると焼成工程で得られる焼成体が蛍光体にならず、xが1であるとSrサイアロン赤色蛍光体の発光効率が低くなる。
【0042】
また、xは0<x<1の範囲内で小さい数になるほどSrサイアロン赤色蛍光体の発光効率が低下しやすくなる。さらに、xは0<x<1の範囲内で大きい数になるほどEu濃度の過剰のために濃度消光を起こしやすくなる。
このため、xは0<x<1のうちでも、0.025≦x≦0.5を満足する数が好ましく、0.25≦x≦0.5を満足する数がさらに好ましい。
【0043】
一般式(2)において、Srの総合的な添え字(1−x)αは0<(1−x)α<3を満足する数である。また、Euの総合的な添え字xαは0<xα<3を満足する数である。すなわち、一般式(2)において、SrおよびEuの総合的な添え字は、それぞれ0を超え3未満を満足する数である。
【0044】
一般式(2)において、SrとEuの合計量はαで表される。この合計量αを一定値2とした場合におけるβ、γ、δおよびωの数値を規定することにより、一般式(2)のα、β、γ、δおよびωの比率の特定は明確になっている。
【0045】
一般式(2)において、β、γ、δおよびωは、αが2のときに換算した数値である。
一般式(2)において、Siの添え字であるβは、αが2のときに換算した数値が5≦β≦9を満足する数である。
一般式(2)において、Alの添え字であるγは、αが2のときに換算した数値が1≦γ≦5を満足する数である。
一般式(2)において、Oの添え字であるδは、αが2のときに換算した数値が0.5≦δ≦2を満足する数である。
一般式(2)において、Nの添え字であるωは、αが2のときに換算した数値が5≦ω≦15を満足する数である。
【0046】
一般式(2)において、添え字β、γ、δおよびωが、それぞれ上記範囲外の数になると、焼成で得られる蛍光体の組成が、一般式(2)で表される斜方晶系のSrサイアロン赤色蛍光体と異なるものになるおそれがある。
【0047】
Srサイアロン赤色蛍光体は、通常、単結晶粉末、すなわち粉末を構成する各粒子が単結晶粒子の状態になっている。
このSrサイアロン赤色蛍光体の粉末は、平均粒径が、好ましくは1μm以上100μm以下、さらに好ましくは5μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上35μm以下である。ここで、平均粒径とは、コールターカウンター法による測定値であり、体積累積分布の中央値D50を意味する。
【0048】
Srサイアロン赤色蛍光体の粉末の平均粒径が1μm未満であったり100μmを超えたりすると、透明樹脂硬化物中にSrサイアロン赤色蛍光体の粉末や他の色の蛍光体粉末を分散させ、半導体発光素子からの紫外光、紫色光または青色光の照射により赤色光や他の色の光を出射させる構造の発光装置を作製した場合に、発光装置からの光の取り出し効率が低下するおそれがある。
一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体は、紫外光、紫色光または青色光を受光すると励起され、赤色光を出射する。
【0049】
ここで、紫外光、紫色光または青色光とは、紫外光、紫色光または青色光の波長域内にピーク波長を有する光を意味する。紫外光、紫色光または青色光は、370nm以上470nm以下の範囲内にピーク波長を有する光であることが好ましい。
【0050】
紫外光、紫色光または青色光の受光により励起された一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体は、発光ピーク波長が550nm以上650nm以下の範囲内の赤色光を発光する。
【0051】
[緑色蛍光体および赤色蛍光体の製造方法]
一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体および一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体の製造方法は、酸化ストロンチウムSrOおよび炭酸ストロンチウムSrCOの少なくとも1種を含むストロンチウム化合物と、窒化珪素Siと、窒化アルミニウムAlNと、酸化アルミニウムAlと、酸化ユーロピウムEuとを含む蛍光体原料混合物を、50MPa〜200MPaの不活性ガス雰囲気下で、1400℃〜2200℃で焼成するものである。
【0052】
蛍光体原料混合物は、酸化ストロンチウムSrOおよび炭酸ストロンチウムSrCOの少なくとも1種を含むストロンチウム化合物と、窒化珪素Siと、窒化アルミニウムAlNと、酸化アルミニウムAlと、酸化ユーロピウムEuとを含む。
【0053】
ストロンチウム化合物のうち酸化ストロンチウムは、炭素原子Cを含まないため、本発明のような高圧下で焼成した場合に蛍光体中に炭素原子が不純物として混入するおそれが小さいため好ましい。
【0054】
蛍光体原料混合物中の、酸化ストロンチウムSrOおよび炭酸ストロンチウムSrCOの少なくとも1種を含むストロンチウム化合物と、窒化珪素Siと、窒化アルミニウムAlNと、酸化アルミニウムAlと、酸化ユーロピウムEuとの配合量は、焼成時に蛍光体原料混合物からOが減少することを考慮した上で、蛍光体中のSr、Si、Al、Eu、OおよびNの組成比が所望のものになるように適宜設定する。
【0055】
蛍光体原料混合物は、さらにフラックス剤として、反応促進剤であるフッ化カリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物や、塩化ストロンチウムSrCl等を含んでいてもよい。
蛍光体原料混合物は、耐火るつぼに充填される。耐火るつぼとしては、たとえば、窒化ホウ素るつぼ、カーボンるつぼ等が用いられる。
【0056】
耐火るつぼに充填された蛍光体原料混合物は焼成される。焼成装置は、耐火るつぼが配置される内部の焼成雰囲気の組成および圧力、ならびに焼成温度および焼成時間が所定条件に保たれる装置が用いられる。本発明の製造方法では、焼成雰囲気が高圧になる。このような高圧に耐えられる焼成装置としては、たとえば、密閉焼成可能な電気炉が用いられる。
焼成雰囲気としては、不活性ガスが用いられる。不活性ガスとしては、たとえば、Nガス、Arガス、NとHとの混合ガス等が用いられる。
【0057】
一般的に、蛍光体原料混合物から蛍光体粉末を焼成するときは、蛍光体粉末に対して酸素Oを過剰に含む蛍光体原料混合物から適量の酸素Oが消失することにより、所定の組成の蛍光体粉末を得る。
【0058】
焼成雰囲気中のNは、蛍光体原料混合物から蛍光体粉末を焼成する際に、蛍光体原料混合物から適量の酸素Oを消失させる作用を有する。
【0059】
また、焼成雰囲気中のArは、蛍光体原料混合物から蛍光体粉末を焼成する際に、蛍光体原料混合物に余分な酸素Oを供給しない作用を有する。
【0060】
また、焼成雰囲気中のHは、蛍光体原料混合物から蛍光体粉末を焼成する際に、還元剤として作用し、Nに比べて蛍光体原料混合物からより多くの酸素Oを消失させる。
【0061】
このため、不活性ガス中にHが含まれる場合は、不活性ガス中にHが含まれない場合に比べて、焼成時間を短くすることができる。ただし、不活性ガス中のHの含有量が多すぎると、得られる蛍光体粉末の組成が、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体と異なりやすく、このために蛍光体粉末の発光効率が低下するおそれがある。
【0062】
不活性ガスが、Nガス、またはNとHとの混合ガスである場合、不活性ガス中のNとHとのモル比率は、N:Hが、通常10:0〜1:9、好ましくは8:2〜2:8、さらに好ましくは6:4〜4:6である。
【0063】
不活性ガス中のNとHとのモル比率が、上記範囲内、すなわち通常10:0〜1:9であると、短時間の焼成で、結晶構造の欠陥の少ない高品質な単結晶の蛍光体粉末を得ることができる。
【0064】
不活性ガス中のNとHとのモル比率は、焼成装置のチャンバー内に連続的に供給されるNとHとを、NとHとの流量の比率が上記比率になるように供給するとともに、チャンバー内の混合ガスを連続的に排出することにより、上記比率、すなわち通常10:0〜1:9にすることができる。
【0065】
なお、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体は、一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体に比べて、窒素Nを多く含んでいる。このため、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体と、一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体とは、蛍光体原料混合物中のSrO、SrCO、Si、AlN、Al、およびEu等の各原料の配合比率を変えたり、焼成の際の炉内の不活性ガス量を変えたりすることにより作り分けることができる。
たとえば、焼成の際の炉内の不活性ガスが窒素ガスである場合に、窒素ガスの圧力を50MPa(略500atm)程度の低めにすると一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体が得られやすく、200MPa(略2000atm)程度の高めにすると一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体が得られやすい。
【0066】
焼成雰囲気である不活性ガスは、焼成装置のチャンバー内で気流を形成させるように流通させると、焼成が均一に行われるため好ましい。
【0067】
焼成雰囲気である不活性ガスの圧力は、通常50MPa(略500atm)〜200MPa(略2000atm)である。
【0068】
焼成雰囲気である不活性ガスの圧力が、50MPa〜200MPaの範囲内にあると、焼成後の蛍光体の結晶構造が従来よりも熱力学的に安定な相をとるとともに、焼成後の蛍光体の結晶構造の結晶性が向上するため、発光効率が高くかつ温度特性の良い蛍光体が得られる。ここで、結晶性が良いとは、不純物および格子欠陥が少ないことを意味する。
また、不活性ガスの圧力が、50MPa〜200MPaの範囲内にあると、焼成の際の結晶成長性が向上することがあり、この場合は蛍光体を短時間で焼成することが可能になる。
【0069】
本発明において、焼成雰囲気である不活性ガスの圧力を50MPa〜200MPaの範囲内にしたことによる蛍光体の発光効率および温度特性の改善効果は、通常、一般式(2)で表される組成のSrサイアロン赤色蛍光体に比べて、一般式(1)で表される組成のSrサイアロン緑色蛍光体のほうが大きい。
【0070】
焼成雰囲気の圧力が50MPa未満であると、焼成前にるつぼに仕込んだ蛍光体原料混合物に比較して、焼成後に得られる蛍光体粉末の組成が大きく異なりやすい。この結果、得られた蛍光体は、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体と異なりやすく、このために蛍光体粉末の発光効率が低くなったり温度特性が悪くなったりするおそれがある。
【0071】
具体的には、一般式(1)で表される組成のSrサイアロン緑色蛍光体を製造しようとする場合、焼成雰囲気の圧力が50MPa未満であると、結晶構造が熱力学的に不安定な相になって蛍光体の焼成が困難になったり、蛍光体の発光効率が低くなったり、蛍光体の温度特性が悪くなったりしやすい。
【0072】
たとえば、一般式(1)で表される組成のSrサイアロン緑色蛍光体を製造しようとする場合、焼成雰囲気の圧力が0.1MPa(略1気圧)であると、焼成中の結晶構造が熱力学的に不安定な相になり、蛍光体の合成が不可能になりやすい。また、一般式(1)で表される組成のSrサイアロン緑色蛍光体を製造しようとする場合、焼成雰囲気の圧力が0.7MPa(略7気圧)であると、蛍光体の焼成自体は可能であるものの、蛍光体の発光効率が低くなったり温度特性が悪くなったりしやすい。
【0073】
また、一般式(2)で表される組成のSrサイアロン赤色蛍光体を製造しようとする場合、焼成雰囲気の圧力が50MPa未満であると、蛍光体の結晶性が低いことにより、蛍光体の発光効率が低くなったり温度特性が悪くなったりしやすい。
【0074】
たとえば、一般式(2)で表される組成のSrサイアロン赤色蛍光体を製造しようとする場合、焼成雰囲気の圧力が0.7MPa(略7気圧)であると、蛍光体の発光効率が低くなったり温度特性が悪くなったりしやすい。
【0075】
焼成雰囲気の圧力が200MPaを超えると、圧力が200MPa以下の場合と比較しても焼成条件に特に変化がなく、エネルギーの無駄遣いになるため好ましくない。
【0076】
なお、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体を製造する場合には、焼成雰囲気である不活性ガスの圧力は、好ましくは100MPa〜150MPaである。
【0077】
また、一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体を製造する場合には、焼成雰囲気である不活性ガスの圧力は、好ましくは50MPa〜100MPaである。
【0078】
焼成温度は、通常1400℃〜2200℃、好ましくは1800℃〜2000℃、さらに好ましくは1850℃〜1950℃である。
焼成温度が1400℃〜2200℃の範囲内にあると、短時間の焼成で、結晶構造の欠陥の少ない高品質な単結晶の蛍光体粉末を得ることができる。
【0079】
焼成温度が1400℃未満であると、得られる蛍光体粉末が紫外光、紫色光または青色光により励起されて出射する光の色が、所望の色にならないおそれがある。すなわち、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体を製造したい場合に、紫外光、紫色光または青色光により励起されて出射する光の色が緑色以外の色になったり、一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体を製造したい場合に、紫外光、紫色光または青色光により励起されて出射する光の色が赤色以外の色になったりするおそれがある。
【0080】
焼成温度が2200℃を超えると、焼成の際のNとOの消失度合いが大きくなることにより得られる蛍光体粉末の組成が一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体と異なりやすく、このために蛍光体粉末の発光効率が低下するおそれがある。
焼成時間は、通常0.5時間〜20時間、好ましくは1時間〜10時間、さらに好ましくは3時間〜5時間、より好ましくは3.5時間〜4.5時間である。
【0081】
焼成時間が0.5時間未満である場合または20時間を超える場合は、得られる蛍光体粉末の組成が一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体と異なりやすく、このために蛍光体粉末の発光効率が低下するおそれがある。
【0082】
焼成時間は、焼成温度が高い場合は、0.5時間〜20時間の範囲内で短い時間とすることが好ましく、焼成温度が低い場合は、0.5時間〜20時間の範囲内で長い時間とすることが好ましい。
【0083】
焼成後の耐火るつぼ中には、蛍光体粉末からなる焼成体が生成される。焼成体は、通常、弱く固まった塊状になっている。焼成体を、乳棒等を用いて軽く解砕すると、蛍光体粉末が得られる。解砕で得られた蛍光体粉末は、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体の粉末になる。
【0084】
[発光装置]
発光装置は、上記の一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体を用いる発光装置である。
具体的には、発光装置は、基板と、この基板上に配置され、紫外光、紫色光または青色光を出射する半導体発光素子と、この半導体発光素子の発光面を覆うように形成され、半導体発光素子からの出射光により励起されて可視光を発する蛍光体を含む発光部とを備え、蛍光体は、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体を含む発光装置である。
【0085】
蛍光体としては、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体または一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体の少なくともいずれかを含んでいればよく、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体および一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体の両方を含んでいてもよい。
【0086】
発光装置は、発光部中に含まれる蛍光体がSrサイアロン緑色蛍光体のみであれば発光装置の出射面から緑色光を出射し、発光部中に含まれる蛍光体がSrサイアロン赤色蛍光体のみであれば発光装置の出射面から赤色光を出射する。
【0087】
また、発光装置は、発光部中に、Srサイアロン緑色蛍光体に加え、青色蛍光体、およびSrサイアロン赤色蛍光体等の赤色蛍光体等の蛍光体を含むようにしたり、Srサイアロン赤色蛍光体に加え、青色蛍光体、およびSrサイアロン緑色蛍光体等の緑色蛍光体等の蛍光体を含むようにしたりすると、各色の蛍光体から出射される赤色光、青色光および緑色光等の各色の光の混色により、発光装置の出射面から白色光を出射する白色光発光装置とすることもできる。
【0088】
さらに、発光装置は、Srサイアロン緑色蛍光体に加え他の緑色蛍光体を含んでいたり、Srサイアロン赤色蛍光体に加え他の赤色蛍光体を含んでいたりしてもよい。
【0089】
なお、発光装置は、蛍光体として、一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体と一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体とを含んでいてもよい。蛍光体として、Srサイアロン緑色蛍光体とSrサイアロン赤色蛍光体との両方が含まれる場合は、温度特性の良い発光装置が得られる。
【0090】
(基板)
基板としては、たとえば、アルミナ、窒化アルミニウム(AlN)等のセラミックス、ガラスエポキシ樹脂等が用いられる。基板がアルミナ板や窒化アルミニウム板であると、熱伝導性が高く、LED光源の温度上昇を抑制することができるため好ましい。
【0091】
(半導体発光素子)
半導体発光素子は、基板上に配置される。
半導体発光素子としては、紫外光、紫色光または青色光を出射する半導体発光素子が用いられる。ここで、紫外光、紫色光または青色光とは、紫外光、紫色光または青色光の波長域内にピーク波長を有する光を意味する。紫外光、紫色光または青色光は、370nm以上470nm以下の範囲内にピーク波長を有する光であることが好ましい。
【0092】
紫外光、紫色光または青色光を出射する半導体発光素子としては、たとえば、紫外発光ダイオード、紫色発光ダイオード、青色発光ダイオード、紫外レーザダイオード、紫色レーザダイオードおよび青色レーザダイオード等が用いられる。なお、半導体発光素子がレーザダイオードの場合、上記ピーク波長とは、ピーク発振波長を意味する。
【0093】
(発光部)
発光部は、半導体発光素子からの出射光である紫外光、紫色光または青色光により励起されて可視光を出射する蛍光体を透明樹脂硬化物中に含むものであり、半導体発光素子の発光面を被覆するように形成される。
【0094】
発光部に用いられる蛍光体は、少なくとも上記のSrサイアロン緑色蛍光体、またはSrサイアロン赤色蛍光体を含む。また、蛍光体は、Srサイアロン緑色蛍光体とSrサイアロン赤色蛍光体との両方を含んでいてもよい。
【0095】
また、発光部に用いられる蛍光体は、上記のSrサイアロン緑色蛍光体またはSrサイアロン赤色蛍光体と、Srサイアロン緑色蛍光体またはSrサイアロン赤色蛍光体以外の蛍光体とを含むものであってもよい。Srサイアロン緑色蛍光体またはSrサイアロン赤色蛍光体以外の蛍光体としては、たとえば、赤色蛍光体、青色蛍光体、緑色蛍光体、黄色蛍光体、紫色蛍光体、橙色蛍光体等を用いることができる。蛍光体としては、通常、粉末状のものが用いられる。
発光部において、蛍光体は透明樹脂硬化物中に含まれる。通常、蛍光体は透明樹脂硬化物中に分散される。
【0096】
発光部に用いられる透明樹脂硬化物は、透明樹脂、すなわち透明性の高い樹脂を硬化させたものである。透明樹脂としては、たとえば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が用いられる。シリコーン樹脂は、エポキシ樹脂よりもUV耐性が高いため好ましい。また、シリコーン樹脂のうちでは、ジメチルシリコーン樹脂が、UV耐性が高いためさらに好ましい。
【0097】
発光部は、蛍光体100質量部に対して透明樹脂硬化物20〜1000質量部の割合で構成されていることが好ましい。蛍光体に対する透明樹脂硬化物の割合がこの範囲内にあると、発光部の発光強度が高い。
【0098】
発光部の膜厚は、通常、80μm以上800μm以下、好ましくは150μm以上600μm以下である。発光部の膜厚が80μm以上800μm以下であると、半導体発光素子から出射される紫外光、紫色光または青色光の漏出量が少ない状態で実用的な明るさを確保することができる。発光部の膜厚を150μm以上600μm以下とすると、発光部からの発光をより明るくすることができる。
【0099】
発光部は、たとえば、はじめに透明樹脂と蛍光体とを混合して、蛍光体が透明樹脂中に分散した蛍光体スラリーを調製し、次に、蛍光体スラリーを半導体発光素子やグローブ内面に塗布し硬化させることにより得られる。
【0100】
蛍光体スラリーを半導体発光素子に塗布した場合には、発光部は半導体発光素子に接触して被覆する形態となる。また、蛍光体スラリーをグローブ内面に塗布した場合には、発光部は半導体発光素子と離間してグローブ内面に形成される形態となる。この発光部がグローブ内面に形成される形態の発光装置は、リモートフォスファー型LED発光装置と称される。
蛍光体スラリーは、たとえば、100℃〜160℃に加熱することにより硬化させることができる。
【0101】
図1は、発光装置の発光スペクトルの一例である。
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nmの紫色光を出射する紫色LEDを用いるとともに、蛍光体としてSr2.7Eu0.3Si13Al21で表されるSrサイアロン緑色蛍光体のみを用いた、25℃での緑色発光装置の発光スペクトルである。
なお、紫色LEDは、順方向降下電圧Vfが3.199V、順方向電流Ifが20mAである。
【0102】
図1に示すように、蛍光体として一般式(1)で表されるSrサイアロン緑色蛍光体を用いた緑色発光装置は、紫色光等の短波長の励起光を用いた場合でも発光強度が高い。
【0103】
図2は、発光装置の発光スペクトルの他の一例である。
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nmの紫色光を出射する紫色LEDを用いるとともに、蛍光体としてSr1.6Eu0.4SiAlON13で表されるSrサイアロン赤色蛍光体のみを用いた、25℃での赤色発光装置の発光スペクトルである。
なお、紫色LEDは、順方向降下電圧Vfが3.190V、順方向電流Ifが20mAである。
【0104】
図2に示すように、蛍光体として一般式(2)で表されるSrサイアロン赤色蛍光体を用いた赤色発光装置は、紫色光等の短波長の励起光を用いた場合でも発光強度が高い。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【0106】
(緑色蛍光体の作製)
はじめに、SrOを260g、Alを63g、AlNを63g、Siを568g、およびEuを49g秤量し、これらにフラックス剤を適量加え、乾式混合して蛍光体原料混合物を調製した(試料No.1)。その後、この蛍光体原料混合物を窒化ホウ素るつぼに充填した。蛍光体原料混合物の原料の配合量を表1に示す。
蛍光体原料混合物が充填された窒化ホウ素るつぼを、高圧で密閉焼成可能な電気炉内で、200MPa(略2000気圧)の窒素雰囲気中、1900℃で4時間焼成したところ、るつぼ中に焼成粉末の塊が得られた。
この塊を解砕した後、焼成粉末に焼成粉末の質量の10倍量の純水を加えて10分間攪拌し、ろ過して焼成粉末を得た。この焼成粉末の洗浄操作をさらに2回繰り返し、合計3回洗浄した。洗浄後の焼成粉末をろ過し、乾燥した後、目開き75ミクロンのナイロンメッシュで篩ったところ、焼成粉末が得られた(試料No.1)。
この焼成粉末を分析したところ、表2に示す組成からなる単結晶のSrサイアロン緑色蛍光体であった。
焼成粉末の組成を表2に示す。
【0107】
得られたSrサイアロン蛍光体について発光ピーク波長、発光効率、150℃での発光効率維持率、および平均粒径を測定した。
発光効率は、25℃で測定した発光効率を、後述する試料No.5の25℃での発光効率(lm/W)を100とする相対値(%)として示したものである。
150℃での発光効率維持率は、150℃での発光効率(lm/W)を測定した後、この150℃での発光効率を、25℃での発光効率で除した値を%で表示したものである。この150℃での発光効率維持率は、温度特性を評価するための指標である。
平均粒径は、コールターカウンター法による測定値であり、体積累積分布の中央値D50の値である。
発光ピーク波長、発光効率、および150℃での発光効率維持率の測定結果を表3に示す。また、平均粒径の測定結果を表2に示す。
【0108】
(他の緑色蛍光体の作製)
蛍光体原料混合物の原料の配合量を表1に示すように変えた以外は試料No.1と同様にして、緑色蛍光体を作製した(試料No.2〜10)。
なお、試料No.1〜4は焼成雰囲気の圧力を本発明の範囲内で変えた実施例である。また、試料No.5〜8は焼成雰囲気の圧力を本発明の範囲外とした比較例である。さらに、試料No.9および10は一般式(1)で表される組成を変えた実施例である。
得られた緑色蛍光体(試料No.2〜10)に対し、試料No.1と同様にして、発光ピーク波長、発光効率、150℃での発光効率維持率、および平均粒径を測定した。
焼成粉末の組成、および平均粒径の測定結果を表2に示す。また、発光ピーク波長、発光効率、および150℃での発光効率維持率の測定結果を表3に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
【表3】

【0112】
(赤色蛍光体の作製)
蛍光体原料混合物の原料の配合量を表1に示すように変えた以外は試料No.1と同様にしたところ、焼成粉末が得られた(試料No.11〜20)。
これらの焼成粉末を分析したところ、表2に示す組成からなる単結晶のSrサイアロン赤色蛍光体であった。
なお、試料No.11〜14は焼成雰囲気の圧力を本発明の範囲内で変えた実施例である。また、試料No.15〜18は焼成雰囲気の圧力を本発明の範囲外とした比較例である。さらに、試料No.19および20は一般式(2)で表される組成を変えた実施例である。
得られた赤色蛍光体(試料No.11〜20)に対し、緑色蛍光体の試料No.1と同様にして、発光ピーク波長、発光効率、150℃での発光効率維持率、および平均粒径を測定した。
焼成粉末の組成、および平均粒径の測定結果を表2に示す。また、発光ピーク波長、発光効率、および150℃での発光効率維持率の測定結果を表3に示す。
【0113】
表1〜表3より、特定範囲内の高圧下で焼成した蛍光体は、発光率および温度特性(150℃での発光効率維持率)が高いことが分かる。
【0114】
図3は、実施例および比較例で作製した蛍光体の温度特性を示すグラフである。
具体的には、試料No.2(実施例)およびNo.5(比較例)のSr2.7Eu0.3Si13Al21で表されるSrサイアロン緑色蛍光体をそれぞれ温度管理可能な大気中に配置し、この蛍光体に対して、ピーク波長が450nmの紫色光を出射するXeランプ単色化光源の光を照射した場合における発光強度を、大気の温度ごとに測定したものである。
【0115】
図3より、100MPa(略1000atm)の高圧下で焼成した試料No.2の蛍光体は、0.7MPa(略7atm)の低圧下で焼成した試料No.5の蛍光体に比較して、高温でも発光強度が高く、温度特性が良好であることが分かる。
【0116】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0117】
以上説明した実施例によれば、発光効率が高く、温度特性が良い蛍光体および発光装置が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ストロンチウムおよび炭酸ストロンチウムの少なくとも1種を含むストロンチウム化合物と、窒化珪素と、窒化アルミニウムと、酸化アルミニウムと、酸化ユーロピウムとを含む蛍光体原料混合物を、50MPa〜200MPaの不活性ガス雰囲気下で、1400℃〜2200℃で焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られ、下記一般式(1)
[化1]
一般式:(Sr1−x,EuαSiβAlγδω (1)
(式中、xは0<x<1、αは0<α≦4であり、β、γ、δおよびωはαが3のときに換算した数値が、9<β≦15、0.5≦δ≦3、1≦γ≦5、10≦ω≦25を満足する数である)
で表されるユーロピウム付活サイアロン結晶体からなり、
紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより緑色発光することを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により得られ、下記一般式(2)
[化2]
一般式:(Sr1−x,EuαSiβAlγδω (2)
(式中、xは0<x<1、αは0<α≦3であり、β、γ、δおよびωはαが2のときに換算した数値が、5≦β≦9、0.5≦δ≦2、1≦γ≦5、5≦ω≦15を満足する数である)
で表されるユーロピウム付活サイアロン結晶体からなり、
紫外光、紫色光または青色光で励起されることにより赤色発光することを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
前記紫外光、紫色光または青色光は、370nm以上470nm以下の範囲内にピーク波長を有する光であることを特徴とする請求項2または3に記載の蛍光体。
【請求項5】
平均粒径が1μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の蛍光体。
【請求項6】
発光ピーク波長が500nm以上540nm以下であることを特徴とする請求項2、4および5のいずれか1項に記載の緑色発光する蛍光体。
【請求項7】
発光ピーク波長が550nm以上650nm以下であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の黄色乃至赤色発光する蛍光体。
【請求項8】
基板と、
この基板上に配置され、紫外光、紫色光または青色光を出射する半導体発光素子と、
この半導体発光素子の発光面を覆うように形成され、前記半導体発光素子からの出射光により励起されて可視光を発する蛍光体を含む発光部と、を備え、
前記蛍光体は、請求項2〜7のいずれか1項の蛍光体を含むことを特徴とする発光装置。
【請求項9】
前記半導体発光素子は370nm以上470nm以下の範囲内にピーク波長を有する光を出射する発光ダイオードまたはレーザダイオードであることを特徴とする請求項8に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−193305(P2012−193305A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59489(P2011−59489)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】