蛍光体及び蛍光体の製造方法
【課題】制御が難しい欠陥生成工程を利用せずに製造できる新規な蛍光体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】蛍光体母体材料と、蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料と接しながら分離している発光励起材料と、を含む構造を有する蛍光体とする。発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選択する。蛍光体母体材料と発光励起材料とは混合して加圧焼成することにより接合する。
【解決手段】蛍光体母体材料と、蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料と接しながら分離している発光励起材料と、を含む構造を有する蛍光体とする。発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選択する。蛍光体母体材料と発光励起材料とは混合して加圧焼成することにより接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体と蛍光体の製造方法に関する。また、蛍光体を用いたEL素子、当該EL素子を具備する発光装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種インテリアとしての照明やフラットパネルディスプレイ用の光源として、自発光型のエレクトロルミネッセンス(以下、「EL」ともいう)素子の開発が盛んである。EL素子は、高輝度、面発光、薄膜化、フレキシブル化を可能とするため、次世代の新しい光源として注目されている。また、照明以外にも、時計の文字盤、メンブレンスイッチ、電飾ディスプレイ等の用途が期待され、一部実用化されるに至っている。
【0003】
EL素子は、発光材料が無機化合物であるか、或いは有機化合物であるかによって区別され、一般に前者は無機EL素子、後者は有機EL素子と呼ばれている。
【0004】
無機EL素子は、素子構成により、分散型無機EL素子と薄膜型無機EL素子とに分類される。また、無機EL素子は、駆動方式により直流電圧駆動型と、交流電圧駆動型とに分類できる。さらに、無機EL素子の発光メカニズムとしては、金属イオンの内殻電子遷移を利用する局在型発光と、ドナー準位とアクセプター準位を利用するドナー−アクセプター再結合型発光とが挙げられる。
【0005】
分散型無機EL素子は、スクリーン印刷法やコーティング法等の簡便な方法により安価に面発光素子を製造できる点で優れている。分散型無機EL素子に用いる蛍光体としてはZnS:CuCl蛍光体が知られている。ここで、ZnS:CuCl蛍光体とは、ZnS中にドナー−アクセプター準位を形成するCu元素及びCl元素が添加されている蛍光体を示している。ZnS:CuCl蛍光体の発光機構を説明するモデル図としては、Fischerモデルが提唱されている。FischerはZnS:CuCl蛍光体内部の粒界に発光の起点となる構造があることを発見した。蛍光体に電圧を印加することで、まずZnS:CuCl蛍光体と前記発光の起点となる構造との間で電荷のやりとりが起こり、その後交流電圧の反転に伴って電荷が再結合して発光に至ると考察した。
【0006】
Fischerは、前記発光の起点となる構造に電界が集中しているであろうという考えのもと、導電性の高い物質が前記発光の起点となる構造を形成しているであろうと推察し、前記導電性の高い物質は析出した硫化銅であろうと推察した。すなわち、ZnS:CuCl蛍光体を製造する際に、ZnSに添加するCu元素は、発光準位(ドナー準位又はアクセプター準位)を形成するだけでなく、結晶中に前記発光の起点となる構造を形成するCu元素の供給源を兼ねていると考察した。なお、前記発光の起点となる構造は、Fischer構造とも言われる。
【0007】
Fischer構造は結晶欠陥に生じやすい。したがって、多くのFischer構造をつくり出すには、予め蛍光体内部に結晶欠陥を形成しておくことが有効である。結晶欠陥を形成する方法として、蛍光体の外部から応力を付与する方法が一般的である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)
【特許文献1】特開平6−330035号公報
【特許文献2】特開平11−193378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蛍光体の外部から応力を付与して内部に結晶欠陥を形成する方法では、前記蛍光体に付与する応力が弱すぎる場合は結晶欠陥が生じない。また、前記蛍光体に付与する応力が強すぎる場合は蛍光体を構成する結晶自体が壊れてしまう、或いは多すぎる結晶欠陥が生じてしまう恐れがある。蛍光体に多すぎる結晶欠陥が存在すると、励起された蛍光体が熱的に失活してしまう。その結果、EL発光の効率が低下してしまい、好ましくない。
【0009】
また、外部から応力を付与して結晶欠陥を形成する方法は、結晶欠陥の数や大きさを制御することは難しく、得られた蛍光体及び当該蛍光体を用いたEL素子などの品質がばらつく原因になってしまう。そして、品質のばらつきがある蛍光体及びEL素子を用いて発光装置を製造すると、信頼性も低下するおそれがある。
【0010】
上記問題を鑑み、本発明は、制御が難しい結晶欠陥生成工程を利用せずに製造できる新規な蛍光体及びその製造方法を提供することを課題の一とする。また、本発明は、新規な蛍光体を用いてEL素子、及び当該EL素子を具備する発光装置や電子機器を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者等は、電圧を印加することにより蛍光体母体材料との界面を介して電荷の授受を行う構造を、結晶欠陥に頼ることなく、蛍光体を構成する蛍光体母体材料中に直接設けることができれば、外部から応力を付与する結晶欠陥生成の如く制御の難しい工程は不要になると考えた。
【0012】
そこで発明者等は、欠陥生成工程を行うことなく、蛍光体母体材料と接しながら分離しており、且つ電圧の印加により電荷の授受を行うことができる発光励起材料を蛍光体母体材料中に分散させた構造が、蛍光体として機能することを見出した。また、発光励起材料を蛍光体母体材料中にまだら状に分散させることで、高輝度な蛍光体を実現できる可能性を見出した。以下、本明細書では、蛍光体母体材料中に発光励起材料を分散させた構造であり、且つ蛍光体母体材料と発光励起材料とが接しながら分離している構造を「コンポジット構造」ともいう。
【0013】
また、本発明者等は、蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合して焼成することで、コンポジット構造を有する蛍光体を製造できることを見出した。さらに、前記焼成を加圧焼成とすることで、発光励起材料をまだら状に分散させることができることを見出した。
【0014】
蛍光体母体材料は、所望の発光色を考慮して選択すればよい。本発明に係る発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選ばれる少なくとも一の材料を選択することが好ましい。
【0015】
本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、を含む蛍光体である。発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選択する。
【0016】
また、本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、を含む蛍光体である。発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選択する。また、蛍光体の表面は蛍光体母体材料である。
【0017】
上記構成において、発光励起材料は、蛍光体母体材料と発光励起材料とからなるコンポジット構造を持つ粒子よりも平均中心粒径の小さい発光励起材料粒子により構成されていることが好ましい。また、発光励起材料粒子の一は、他の発光励起材料粒子と連続していてもよいし、他の発光励起材料粒子の一と分離していてもよい。
【0018】
上記構成において、発光励起材料として金属酸化物を選択する場合、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化チタン、三酸化コバルト、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム、三酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化ストロンチウムルテニウム、酸化ストロンチウムイリジウム、又は酸化バリウム鉛を用いることができる。発光励起材料として周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体を選択する場合、酸化亜鉛を用いることができる。また、発光励起材料として周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を選択する場合、リン化インジウムを用いることができる。
【0019】
また、本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、を原料として混合し、得られた混合物を加圧焼成する製造方法である。
【0020】
また、本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、を混合し、得られた混合物を加圧焼成し、得られた焼成物を、中性、酸性、若しくは塩基性の溶液又は気体にさらす製造方法である。
【0021】
上記構成において、加圧焼成は、ホットプレス法、熱間等方加圧法、放電プラズマ焼結法、又は衝撃法により行うことが好ましい。また、原料の混合は、湿式法により混合するとともに得られる混合材料の粒径を小さく粉砕することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、高輝度、高効率なEL発光を実現できる蛍光体を製造することができる。また、品質のばらつきの少ない蛍光体を製造することができる。また、本発明は、EL素子及びEL素子を具備する発光装置や電子機器の高輝度化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、図面を用いて、以下に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなく、その形態及び詳細を様々に変更しうることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同じものを指す符号は異なる図面間で共通して用いる場合がある。
【0024】
(実施の形態1)
本発明に係る蛍光体について説明する。図1(A)は、本蛍光体100の一例を示す断面の模式図である。また、図1(B)には本蛍光体100の斜視の模式図を示しており、図1(A)は図1(B)をOP間で切断した断面の模式図である。
【0025】
本蛍光体100は、蛍光を発する蛍光体母体材料102と、発光励起材料104と、から構成される。このような蛍光体100は、コンポジット蛍光体ともいう。図1は粒子状の蛍光体100を例示しているが、本発明に係る蛍光体の形状は特に限定されず、いびつな形状であってもよい。また、蛍光体表面は滑らかであってもよいし、滑らかでなく粗くともよい。本蛍光体100の中心粒径は、0.1μm〜100μmであることが好ましい。
【0026】
発光励起材料104は、蛍光体母体材料102中に内包されている。また、発光励起材料104は、蛍光体母体材料102中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料とは接しながら分離して存在している。
【0027】
発光励起材料104は、蛍光体100よりも中心粒径の小さい複数の微小な発光励起材料粒子により構成されている。発光励起材料粒子の平均中心粒径は、数nm〜数100nmであることが好ましい。なお、複数の発光励起材料粒子は、それぞれ同一形状の粒子であってもよいし、異なる形状や異なる中心粒径を有する粒子であってもよい。
【0028】
なお、本明細書における「粒」、「粒子」、及び「粒子状」は、左右対称な丸い形状(球形)に限定されず、いびつな形状も含むものとする。
【0029】
また、上述のように、発光励起材料104は、蛍光体母体材料102中にまだら状に分散されている。本明細書における「まだら状」とは、種々の粒が入り交じっている状態を示しており、種々の粒がまばらに散らばっている状態とも言える。また、「まだら状」である種々の粒は、それぞれが分離している状態と、凝集している状態と、さらに凝集している粒が連続し境界面が判別できなくなっている状態と、を含むものとする。
【0030】
図1では、発光励起材料104は、分離してまばらに散っている発光励起材料粒子と、凝集して連続し境界が判別できなくなっている発光励起材料粒子と、で構成されている例を示している。なお、発光励起材料104は、分離した発光励起材料粒子のみで形成されていてもよいし、凝集して発光励起材料粒子が判別できない状態でもよい。
【0031】
本蛍光体100において、発光励起材料104は蛍光体母体材料102とは接しながら分離しており、且つ蛍光体母体材料中に分散されている。蛍光体100内部には、蛍光体母体材料102と発光励起材料104との界面が存在する。発光励起材料104は、電圧を印加することにより蛍光体母体材料102と接する界面で電荷の授受を行う。また、蛍光体母体材料102中に発光励起材料104をまだら状に分散させることで、蛍光体100中の蛍光体母体材料102は局所的に厚みの薄い領域が形成される。蛍光体母体材料102の厚みの薄い領域は発光励起材料104の界面と接しており、局所的に高電界とすることが可能となるため、発光しやすくできる。
【0032】
なお、微小な発光励起材料粒子により構成されるまだら状の発光励起材料104は、発光励起材料がバルクである場合よりも、微小な粒子状であることによって、隙間を埋める蛍光体母体材料102の厚みを薄くできる。また、発光励起材料104と蛍光体母体材料102との界面も多くできる。したがって、蛍光体母体材料102を局所的に高電界とすることが可能となり、EL発光の輝度を高めることができる。
【0033】
なお、発光励起材料104は、蛍光を発する蛍光体母体材料102中に均等にまだら状に分散されることが好ましい。これは、発光励起材料104を均等にまだら状に分散させることで、蛍光体母体材料102の厚みの薄い領域を蛍光体100中に均等に形成することにつながり、その結果、蛍光を発する領域のばらつきを低減できるからである。
【0034】
また、蛍光体100を構成する蛍光体母体材料102と発光励起材料104との体積は、求めるEL発光の輝度や効率により、適宜調整することが好ましい。EL発光の輝度を高めるためには、多くの発光励起材料をまだら状に分散させて高電界領域を形成することは効果的である。しかし、蛍光を発する役割は蛍光体母体材料102が果たしているため、蛍光体100を占める蛍光体母体材料102の体積比が小さくなると、蛍光を発する領域が小さくなり蛍光体100の発光効率が低下してしまう恐れがある。したがって、発光効率を低下させることなく、高輝度化を図ることができるように、蛍光体母体材料102と発光励起材料104の体積比は選択することが好ましい。
【0035】
また、蛍光体100の表面には発光励起材料104が露出していないことが好ましい。つまり、蛍光体100の表面は蛍光体母体材料102であることが好ましい。蛍光体100において、発光励起材料104を蛍光体母体材料102中に存在させ、蛍光体100の表面には露出させない構成とすることで、蛍光体100内部に電界を効率よく加えることができる。
【0036】
蛍光体母体材料102は、所望の発光色に応じた材料を選択すればよい。また、所望の発光色に応じて付活剤を添加することもできる。本明細書における「蛍光体母体材料」は、自身が蛍光を発する蛍光体母体材料と、蛍光を発する機能を付与する付活剤が添加された蛍光体母体材料と、の両方を範疇に含むものとする。
【0037】
蛍光体母体材料102の具体例としては、(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体母体材料、(2)周期表第2B族(第12族)元素と、周期表第3B族(第13族)元素と、周期表第6B族(第16族)元素とからなる三元系材料(三元系蛍光体母体材料)、(3)酸化物蛍光体母体材料、(4)ケイ酸塩蛍光体母体材料、(5)ハロケイ酸塩蛍光体母体材料、(6)リン酸塩蛍光体母体材料、(7)ハロリン酸塩蛍光体母体材料、(8)ホウ酸塩蛍光体母体材料、(9)アルミネイトおよびガレイト蛍光体母体材料、(10)モリブデン酸塩およびタングステン酸塩蛍光体母体材料、(11)ハロゲン化物およびオキシハロゲン化物蛍光体母体材料、(12)硫酸塩蛍光体母体材料、並びに(13)これらの共晶及び(14)これらの混合物などをあげることができる。
【0038】
(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体母体材料の例として、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、硫化カルシウム、硫化マグネシウム、硫化ストロンチウム、硫化バリウム等が挙げられる。
【0039】
(2)周期表第2B族(第12族)元素と、周期表第3B族(第13族)元素と、周期表第6B族(第16族)元素とからなる三元系材料の例として、カルシウムチオガレイト、バリウムチオアルミネート、ストロンチウムチオアルミネート、亜鉛チオガレイト、ZnBa2S3等が挙げられる。
【0040】
(3)酸化物蛍光体母体材料の例として、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化トリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン等が挙げられる。
【0041】
(4)ケイ酸塩蛍光体母体材料の例として、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸ストロンチウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸イットリウム、ケイ酸カルシウムマグネシウム、ケイ酸バリウムマグネシウム、ケイ酸バリウムリチウム等が挙げられる。
【0042】
(5)ハロケイ酸塩蛍光体母体材料の例として、ケイ酸ランタンクロライド、ケイ酸カルシウムクロライド、ハロケイ酸バリウムクロライド等が挙げられる。
【0043】
(6)リン酸塩蛍光体母体材料の例として、リン酸イットリウム、リン酸ランタン、リン酸カルシウムもしくはリン酸ストロンチウム、リン酸亜鉛等が挙げられる。
【0044】
(7)ハロリン酸塩蛍光体母体材料の例として、リン酸カルシウムフロライド、リン酸カルシウムクロライド、リン酸ストロンチウムフロライド、リン酸ストロンチウムクロライド等が挙げられる。
【0045】
(8)ホウ酸塩蛍光体母体材料の例として、ホウ酸イットリウム、ホウ酸ランタン、ホウ酸カルシウム、ホウ酸カルシウムイットリウム、ホウ酸ストロンチウム、ホウ酸イットリウムアルミ、ホウ酸カルシウムクロライド等が挙げられる。
【0046】
(9)アルミネイトおよびガレイト蛍光体母体材料の例として、リチウムアルミネイト、イットリウムアルミネイト、ランタンアルミネイト、カルシウムアルミネイト、亜鉛アルミネイト、亜鉛ガレイト、カルシウムガレイト等が挙げられる。
【0047】
(10)モリブデン酸塩およびタングステン酸塩蛍光体母体材料の例として、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム等が挙げられる。
【0048】
(11)ハロゲン化物およびオキシハロゲン化物蛍光体母体材料の例として、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、オキシブロモイットリウム、オキシクロロイットリウム、オキシフロロイットリウム等が挙げられる。
【0049】
(12)硫酸塩蛍光体母体材料の例として、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0050】
(13)これらの共晶の例としては、(1)〜(12)から選ばれる2つ以上の材料の共晶が挙げられる。なお、前記2つ以上の材料は、例えば(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体の中から選ばれる2つの材料でもよいし、(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体の中から選ばれる一の材料と(2)周期表第2B族(第12族)元素と、周期表第3B族(第13族)元素と、周期表第6B族(第16族)元素とからなる三元系材料の中から選ばれる一の材料とでもよい。
【0051】
同様に、(14)これらの混合物の例としては、(1)〜(12)から選ばれる2つ以上の材料の混合物が挙げられる。
【0052】
また、付活剤の例としては、希土類を含む遷移元素(Mn、Cu、Ag、Auなど)を含有する金属もしくは希土類を含む遷移元素を含有する化合物を添加することもできる。また、典型元素(Al、Ga、F、Cl、Br、Iなど)を含む化合物を添加することもできる。希土類を含む遷移元素は、局在型発光の発光中心材料として機能し、典型元素はドナー−アクセプター再結合型発光をもたらす不純物準位を形成する。
【0053】
発光励起材料104は、蛍光体100中に局所的高電界をつくり出す役割を果たす材料を選択すればよい。また、蛍光体100中の蛍光体母体材料102との界面で電荷の授受を行うことができる材料を選択すればよい。
【0054】
発光励起材料104の具体例としては、(I)金属酸化物、(II)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、(III)周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体、(IV)これらに不純物元素を添加したものなどを挙げることができる。
【0055】
(I)金属酸化物の例として、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化チタン、三酸化コバルト、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム、三酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化ストロンチウムルテニウム、酸化ストロンチウムイリジウム、又は酸化バリウム鉛等が挙げられる。
【0056】
(II)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体の例として、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0057】
(III)周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体の例として、リン化インジウム等が挙げられる。
【0058】
また、(IV)これらに不純物元素を添加した例としては、(I)〜(III)から選ばれる材料に希土類を含む遷移元素(Mn、Irなど)を添加したもの、もしくは典型元素(Al、Ga、Sn、Mgなど)を添加したもの等が挙げられる。具体的には、ZnO:Mn、ZnO:Ir、ZnO:Al、ZnO:Ga、In2O3:Sn、In2O3:Mg等が挙げられる。
【0059】
なお、蛍光体母体材料102に適用できる材料と、発光励起材料104に適用できる材料は、一部重複している。蛍光体母体材料102と発光励起材料104とは分離した構成とする必要があるため、両者が固溶することのない組み合わせとなるよう材料の選択を行う。
【0060】
次に、本蛍光体100を得るまでの一例を図2のフロー図に示す。
【0061】
それぞれ秤量した蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を原料として混合させて混合物を得る(S1001)。蛍光体母体材料と発光励起材料は、所望の発光色などにより選択すればよい。また、その混合比は、発光効率を低下させることなく、高輝度化を図ることができるように選択することが好ましい。
【0062】
蛍光体に付活剤を含有させる場合は、予め付活剤と蛍光体母体材料とを混合させて仮焼成したものを蛍光体母体材料として準備する。そして、付活剤が添加された蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合させる。または、予め付活剤と発光励起材料とを混合させて仮焼成した材料と、蛍光体母体材料と、を混合させる。または、付活剤と、蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を一緒に混合させることもできる。
【0063】
なお、(S1001)で得られる混合物の粒径は細かいほど良い。これは、混合物の粒径を細かくすると、蛍光体母体材料の粒径と発光励起材料の粒径も細かくなるため、蛍光体を製造した際に、該蛍光体を構成する蛍光体母体材料と発光励起材料との界面を多くすることができるからである。したがって、混合工程には粉砕工程も兼ねさせる、又は混合工程前もしくは混合工程後に粉砕工程を入れることが好ましい。例えば、ジェットミル、遊星ポットミル、ミックスローター、乳鉢等を利用することができる。好ましくは、蛍光体母体材料の中心粒径を0.001μm〜1μm程度、発光励起材料の中心粒径を0.001μm〜1μm程度となるように粉砕するとよい。
【0064】
次に、(S1001)で得られた混合物を加圧焼成し、焼成物を得る(S1002)。混合物の焼成は、ホットプレス法、熱間等方加圧(HIP;Hot Isostatic Pressing)法、放電プラズマ焼結法、又は衝撃法を適用することが好ましい。焼成温度は蛍光体母体材料の焼結温度により選択するが、好ましくは500℃〜2000℃程度であり、好適な温度は蛍光体母体材料と発光励起材料の組み合わせによって決定することができる。加圧力及び加圧焼成時間は混合物の材料によるが、20Pa〜40MPa程度の圧力で、1時間程度焼成することが好ましい。
【0065】
以上の手順で得られた焼成物は、EL発光を確認することができる。
【0066】
(S1002)で得られた焼成物は、そのままでも蛍光体として機能しうるが、さらに粉砕して蛍光体粒子を得る(S1003)。焼成物の粉砕は、ジェットミル、遊星ポットミル、ミックスローター、乳鉢等を利用することができる。
【0067】
次に、(S1003)で得られた蛍光体粒子を分級する(S1004)。蛍光体粒子は粒径を揃ったものにすることが好ましく、粒径を50μm以下とすることがより好ましい。蛍光体粒子の分級には、所望の大きさの開口を有するフルイ等を利用することができる。
【0068】
次に、蛍光体粒子を洗浄及び乾燥させる(S1005)。蛍光体粒子の洗浄は、酸性、中性、若しくは塩基性の溶液又は気体にさらすことにより行うことが好ましい。蛍光体粒子の表面に存在する発光励起材料を選択的に取り除くことを主目的とする場合は、発光励起材料粒子をエッチング除去できる溶液又は気体を選択する。なお、蛍光体粒子を構成する他の材料(蛍光体母体材料、付活剤)とは反応しない溶液又は気体を選択する。
【0069】
以上で、粒径が小さく、且つ粒径の揃った蛍光体粒子を得ることができる。なお、本発明に係る蛍光体を得るためには、少なくとも(S1001)、(S1002)、(S1003)の手順を行えばよい。
【0070】
本蛍光体の製造において、蛍光体母体材料と発光励起材料とを混合した後(S1001)、焼成する(S1002)ことによって、蛍光体母体材料と発光励起材料とを接合し、コンポジット構造を有する蛍光体を製造することができる。また、コンポジット構造を形成する際の焼成として加圧焼成を適用することで、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する蛍光体を製造することができる。
【0071】
以上により製造できる本蛍光体は、外部から応力を付与して蛍光体内部に結晶欠陥を生成するなどの制御の難しい欠陥生成工程がないため、個々の蛍光体による品質のばらつきを低減することができる。また、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する蛍光体とすることで、EL発光の効率を高め、高輝度化を実現することができる。
【0072】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせることができる。
【0073】
(実施の形態2)
本形態では、蛍光体を用いたEL素子について説明する。
【0074】
図3(A)には分散型EL素子の一例を示しており、基板302上に第1の電極304と、発光層306と、誘電体層308と、第2の電極310と、が設けられている。発光層306は、バインダー307中に蛍光体305が分散されている。蛍光体305としては、上記実施の形態1で示した蛍光体100のような蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有するものを適用する。
【0075】
EL素子300の構成及び製造方法について、一例を説明する。ここでは、発光層306からのEL発光を基板302側から外部に取り出す例を説明する。
【0076】
基板302上に第1の電極304を形成する。本形態では、基板302側から光を取り出すため、第1の電極304として透光性を有する電極を形成する。具体的には、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物ともいう)、ケイ素もしくは酸化ケイ素を含有した酸化インジウム−酸化スズ(ITSO:Indium Tin Silicon Oxide)、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide、酸化インジウム酸化亜鉛ともいう)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム−酸化スズ(IWZO)等が挙げられる。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)は、酸化インジウムに対し1wt%〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いたスパッタリング法により形成することができる。また、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム−酸化スズ(IWZO)は、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5wt%〜5wt%、酸化亜鉛を0.1wt%〜1wt%含有したターゲットを用いたスパッタリング法により形成することができる。なお、可視光の透過率が低い材料であっても、1nm以上50nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下の厚さで成膜することにより、透光性を有する電極として用いることができる。
【0077】
第1の電極304上に発光層306を形成する。発光層306は、蛍光体305をバインダー307に分散して形成する。蛍光体305は本発明に係る蛍光体であり、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する。バインダー307としては、無機バインダー及び有機バインダーのいずれを用いることもできる。例えば、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。これらの樹脂に、BaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。蛍光体粒子の分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。第1の電極304上に、バインダー307に蛍光体305を分散させた分散溶液をスピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー塗布法、スクリーン印刷法、コーティング法、又はスライドコート法などにより塗布することで、発光層306を形成することができる。
【0078】
発光層306上に誘電体層308を形成する。誘電体層308は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い誘電破壊電圧を有する材料を用いて形成する。例えば、金属酸化物、窒化物を用いて形成することができ、具体的にはBaTiO3、TiO2、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta2O3、BaTa2O6、LiTaO3、Y2O3、Al2O3、ZrO2、AlON、ZnSなどが用いられる。誘電体層308は、これらの材料を用いて均一な薄膜として形成してもよいし、バインダーに高誘電率材料の微粒子を分散させた粒子構造を有する層として形成してもよい。誘電体層308に用いるバインダーは、上記発光層306に用いるバインダー307と同様のものを用いることができる。
【0079】
誘電体層308を均一な薄膜として形成する場合は、スパッタリング法や蒸着法などにより形成できる。誘電体層308を、バインダーに高誘電率材料の微粒子を分散させて形成する場合は、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー塗布法、スクリーン印刷法、コーティング法、又はスライドコート法などにより形成できる。
【0080】
誘電体層308上に第2の電極310を形成する。第2の電極310は導電性材料を用いて形成すればよく、具体的にはアルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、又は金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。第2の電極310は、インクジェット法等の塗布法、蒸着法、スパッタリング法などにより形成できる。本形態のように、光を他方の電極(第1の電極304)側から取り出す構成とする場合は、第2の電極310は反射性を有する電極を形成することが好ましい。第2の電極310として反射性を有する電極を形成することで、発光層306からの光を効率よく取り出すことができる。
【0081】
なお、分散型EL素子において、第1の電極304と発光層306との間に誘電体層308と同様の誘電体層を形成し、誘電体層で発光層を挟持する構成とすることもできる。また、発光層の側面にも誘電体層を形成して、発光層を誘電体層で包み込む構成とすることもできる。
【0082】
例えば、図3(B)には発光層を誘電体層で挟持する構成のEL素子320の一例を示しており、基板302上に第1の電極304と、誘電体層329と、発光層306と、誘電体層308と、第2の電極310と、が設けられている。ここでは、発光層306が誘電体層329及び誘電体層308により挟持されており、且つ包み込まれた構成を示している。また、発光層306は、バインダー307中に本発明に係る蛍光体305が分散されている。誘電体層329は、誘電体層308と同様の材料及び方法により形成することができる。
【0083】
また、図3(C)には誘電体層を形成せず、一対の電極で発光層を挟持する構成のEL素子340の一例を示しており、基板302上に第1の電極304と、発光層306と、第2の電極310と、が設けられている。発光層306は、バインダー307中に本発明に係る蛍光体305が分散されている。
【0084】
本形態において、図3(A)、(B)に示すEL素子は誘電体層が設けられており、交流電圧駆動型のEL素子とすることができる。また、図3(C)に示すEL素子は誘電体層を設けておらず、直流電圧駆動型のEL素子とすることもできるし、交流電圧駆動型のEL素子とすることもできる。
【0085】
なお、ここでは発光層からの光を第1の電極及び基板を通過させて取り出す構成を説明したが、本発明は特に限定されない。第2の電極側から光を取り出す場合には、第2の電極として透光性を有する電極を形成すればよく、その場合は第1の電極は反射性を有する電極を形成すればよい。また、第1の電極及び第2の電極の両方とも透光性を有する電極として、両方向から光を取り出す構成としてもよい。
【0086】
また、EL素子の素子構成は、図3に示すものに限定されず、必要に応じて発光層の配向性を高める、又は電子や正孔を注入する注入層、或いは輸送する輸送層のような役割を果たす層を設けてもよい。
【0087】
発光層に分散される蛍光体は、その内部が蛍光体母体材料に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する。本蛍光体は高輝度化、高効率化が図られており、その結果、本蛍光体を分散させたEL素子の発光輝度、発光効率を向上させることが可能である。また、本蛍光体は制御の難しい欠陥生成工程を含まず、個々の蛍光体の品質のばらつきが低減されているため、EL素子のばらつきも抑えることが可能である。
【0088】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせることができる。
【0089】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明に係る蛍光体を用いたEL素子を具備する発光装置について説明する。
【0090】
図4〜図5に、パッシブマトリクス型(単純マトリクス型ともいう)発光装置の一例を示す。パッシブマトリクス型発光装置は、ストライプ状(帯状)に並列された複数の陽極と、ストライプ状に並列された複数の陰極とが互いに直交するように設けられており、その交差部に発光層が挟まれた構造となっている。従って、選択された(電圧が印加された)陽極と選択された陰極との交点にあたる画素が点灯することになる。
【0091】
図4(A)は、封止前における画素部の上面図であり、図4(A)中の線分AA’で切断した断面図が図4(B)であり、線分BB’で切断した断面図が図4(C)である。
【0092】
第1の基板1501上には、下地絶縁層として絶縁層1504を形成する。なお、下地絶縁層は必要でなければ特に形成しなくともよい。絶縁層1504上には、ストライプ状に複数の第1の電極1513が等間隔で配置されている。また、第1の電極1513上には、各画素に対応する開口部を有する隔壁1514が設けられ、開口部を有する隔壁1514は絶縁材料(感光性または非感光性の有機材料(ポリイミド、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド、レジストまたはベンゾシクロブテン)、またはSOG膜(例えば、アルキル基を含むSiOx膜))で構成されている。なお、各画素に対応する開口部が発光領域1521となる。
【0093】
開口部を有する隔壁1514上に、第1の電極1513と交差する互いに平行な複数の逆テーパ状の隔壁1522が設けられる。逆テーパ状の隔壁1522はフォトリソグラフィ法に従い、未露光部分がパターンとして残るポジ型感光性樹脂を用い、パターンの下部がより多くエッチングされるように露光量または現像時間を調節することによって形成する。
【0094】
また、平行な複数の逆テーパ状の隔壁1522を形成した直後における斜視図を図5に示す。なお、図4と同一の部分には同一の符号を用いている。
【0095】
開口部を有する隔壁1514及び逆テーパ状の隔壁1522を合わせた高さは、発光層を含む層及び第2の電極となる導電層の膜厚より大きくなるように設定する。図5に示す構成を有する第1の基板1501に対してEL層と、導電層とを積層形成すると、図4に示すように複数の領域に分離された、EL層1515と、第2の電極1516とが形成される。なお、複数に分離された領域は、それぞれ電気的に独立している。第2の電極1516は、第1の電極1513と交差する方向に伸長する互いに平行なストライプ状の電極である。なお、逆テーパ状の隔壁1522上にもEL層及び導電層が形成されるが、EL層1515及び第2の電極1516とは分断されている。なお、本形態におけるEL層は少なくとも発光層を有し、且つ該発光層が本発明に係る蛍光体を含むものである。すなわち、EL層は、少なくとも蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造である蛍光体を含む発光層を有する。発光層は、バインダー中に本蛍光体が分散された構成とすればよい。また、EL層は、発光層の他に誘電体層、又は電子や正孔を注入或いは輸送するような機能を有する層を有していてもよい。
【0096】
発光装置は、全面に同じ発光色を発光する単色の発光装置としてもよいが、適宜色変換層などを設けることで、RGBカラー(或いはRGBWカラー)表示可能な発光装置、モノクロ表示可能な発光装置、或いはエリアカラー表示可能な発光装置としてもよい。ここでは、発光層を含むEL層1515は、隔壁1514及び隔壁1522により複数の領域に分離されている。したがって、分離された領域に合わせて赤色、緑色、青色に変換することができる色変換層を配列させることで、RGBカラー表示を行う発光装置とすることができる。なお、発光層を含むEL層1515を白色発光する構成とする場合は、色変換層をカラーフィルタに置き換えることも可能である。色変換層は、発光層と光を取り出す側の基板との間に設ければよい。
【0097】
また、必要であれば、封止缶や封止のためのガラス基板などの封止材を用いて封止する。ここでは、第2の基板としてガラス基板を用い、シール材などの接着材を用いて第1の基板と第2の基板とを貼り合わせ、シール材などの接着材で囲まれた空間を密閉なものとしている。密閉された空間には、充填材や、乾燥した不活性ガスを充填してもよい。また、発光装置の信頼性を向上させるために、第1の基板と封止材との間に乾燥材などを封入してもよい。乾燥材によって微量な水分が除去され、十分乾燥される。また、乾燥材としては、酸化カルシウムや酸化バリウムなどのようなアルカリ土類金属の酸化物のような化学吸着によって水分を吸着する物質を用いることが可能である。なお、他の乾燥材として、ゼオライトやシリカゲル等の物理吸着によって水分を吸着する物質を用いてもよい。
【0098】
ただし、EL素子を覆って接する封止材が設けられ、十分に外気と遮断されている場合には、乾燥材は、特に設けなくともよい。
【0099】
次いで、FPCなどを実装した発光モジュールの上面図を図6に示す。
【0100】
なお、本明細書中における発光装置とは、画像表示デバイス、発光デバイス、もしくは光源(照明装置含む)を指す。また、発光装置にコネクター、例えばFPC(Flexible printed circuit)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、またはEL素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【0101】
図6に示すように画像表示を構成する画素部は、走査線群とデータ線群が互いに直交するように交差している。
【0102】
図4における第1の電極1513が図6の走査線1603に相当し、第2の電極1516がデータ線1602に相当し、逆テーパ状の隔壁1522が隔壁1604に相当する。データ線1602と走査線1603の間には本発明に係る蛍光体を含む発光層を有するEL層が挟まれており、領域1605で示される交差部が画素1つ分となる。
【0103】
なお、走査線1603は配線端で接続配線1608と電気的に接続され、接続配線1608が入力端子1607を介してFPC1609bに接続される。また、データ線1602は入力端子1606を介してFPC1609aに接続される。
【0104】
また、必要であれば、射出面に偏光板、又は円偏光板(楕円偏光板を含む)、位相差板(λ/4板、λ/2板)、カラーフィルタなどの光学フィルムを適宜設けてもよい。また、偏光板又は円偏光板に反射防止膜を設けてもよい。例えば、表面の凹凸により反射光を拡散し、映り込みを低減できるアンチグレア処理を施すことができる。
【0105】
以上でパッシブマトリクス型の発光装置を製造できる。本発明に係る蛍光体は、効率よく、高輝度にEL発光するように、局所的高電界をつくり出す役割を果たす発光励起材料をまだら状に分散させたコンポジット構造を有する。本蛍光体を用いたEL素子は発光輝度の向上が図られ、その結果、該EL素子を具備する発光装置の高輝度化が実現できる。また、制御の難しい欠陥生成工程を行わずに蛍光体を製造するため、個々の蛍光体の品質ばらつきが低減される。したがって、発光装置の信頼性の向上も図られている。
【0106】
また、パッシブマトリクス型の発光装置は構成が簡単であり、大面積化しても容易に製造することができる。さらに、EL素子として分散型EL素子を適用する場合は、スクリーン印刷法などにより、簡単に安価な面発光EL素子を製造することができる。
【0107】
なお、図6では、駆動回路を基板上に設けていない例を示したが、本発明は特に限定されず、基板に駆動回路を有するICチップを実装させてもよい。
【0108】
ICチップを実装させる場合、画素部の周辺(外側)の領域に、画素部へ各信号を伝送する駆動回路が形成されたデータ線側IC、走査線側ICをCOG方式によりそれぞれ実装する。COG方式以外の実装技術としてTCPやワイヤボンディング方式を用いて実装してもよい。TCPはTABテープにICを実装したものであり、TABテープを素子形成基板上の配線に接続してICを実装する。データ線側IC、および走査線側ICは、シリコン基板を用いたものであってもよいし、ガラス基板、石英基板もしくはプラスチック基板上にTFTで駆動回路を形成したものであってもよい。また、片側に一つのICを設けた例を説明しているが、片側に複数個に分割して設けても構わない。
【0109】
次に、アクティブマトリクス型の発光装置の一例を図7に示す。図7(A)は発光装置を示す上面図であり、図7(B)は図7(A)を線分AA’で切断した断面図である。本実施の形態に係るアクティブマトリクス型の発光装置は、素子基板1710上に設けられた画素部1702と、駆動回路部(ソース側駆動回路)1701と、駆動回路部(ゲート側駆動回路)1703と、を有する。画素部1702、駆動回路部1701、及び駆動回路部1703は、シール材1705によって、素子基板1710と封止基板1704との間に封止されている。
【0110】
また、素子基板1710上には、駆動回路部1701、及び駆動回路部1703に外部からの信号(例えば、ビデオ信号、クロック信号、スタート信号、又はリセット信号等)や電位を伝達する外部入力端子を接続するための引き回し配線1708が設けられる。ここでは、外部入力端子としてFPC(フレキシブルプリントサーキット)1709を設ける例を示している。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基板(PWB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけでなく、それにFPCもしくはPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
【0111】
次に、断面構造について図7(B)を用いて説明する。素子基板1710上には駆動回路部及び画素部が形成されているが、ここでは、ソース側駆動回路である駆動回路部1701と、画素部1702が示されている。
【0112】
駆動回路部1701はnチャネル型TFT1723とpチャネル型TFT1724とを組み合わせたCMOS回路が形成される例を示している。なお、駆動回路部を形成する回路は、公知のCMOS回路、PMOS回路もしくはNMOS回路で形成しても良い。また、本実施の形態では、基板上に駆動回路を形成したドライバー一体型を示すが、必ずしもその必要はなく、基板上ではなく外部に駆動回路を形成することもできる。
【0113】
また、画素部1702はスイッチング用TFT1711と、電流制御用TFT1712と当該電流制御用TFT1712の配線(ソース電極又はドレイン電極)に電気的に接続された第1の電極1713とを含む複数の画素により形成される。なお、第1の電極1713の端部を覆って隔壁1714が形成されている。ここでは、ポジ型の感光性アクリル樹脂を用いることにより形成する。
【0114】
また、上層に積層形成される膜の被覆性を良好なものとするため、隔壁1714の上端部または下端部に曲率を有する曲面が形成されるようにするのが好ましい。例えば、隔壁1714の材料としてポジ型の感光性アクリル樹脂を用いた場合、隔壁1714の上端部に曲率半径(0.2μm〜3μm)を有する曲面を持たせることが好ましい。また、隔壁1714として、感光性の光によってエッチャントに不溶解性となるネガ型、或いは光によってエッチャントに溶解性となるポジ型のいずれも使用することができ、有機化合物に限らず無機化合物、例えば、酸化シリコン、酸窒化シリコンや、有機化合物と無機化合物との両者を使用することができる。
【0115】
第1の電極1713上には、発光層を含むEL層1700及び第2の電極1716が積層形成されている。なお、ITOを用いて第1の電極1713を形成し、第1の電極1713と接続する電流制御用TFT1712の配線として窒化チタン膜とアルミニウムを主成分とする膜との積層膜、或いは窒化チタン膜、アルミニウムを主成分とする膜、窒化チタン膜との積層膜を適用すると、配線としての抵抗も低く、ITOを用いて形成した電極との良好なオーミックコンタクトがとれる。なお、ここでは図示しないが、第2の電極1716は外部入力端子であるFPC1709に電気的に接続されている。
【0116】
EL層1700は、少なくとも発光層が設けられており、且つ該発光層が本発明に係る蛍光体を含むものである。すなわち、EL層1700は、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する蛍光体を含む層が、少なくとも設けられている。発光層は、バインダー中に本蛍光体が分散された構成とすればよい。EL層1700は、発光層の他にも誘電体層や、電子や正孔を注入或いは輸送するような機能を有する層が設けられていてもよい。第1の電極1713、EL層1700及び第2の電極1716との積層構造で、EL素子1715が形成されている。
【0117】
また、図7(B)に示す断面図ではEL素子1715を1つのみ図示しているが、画素部1702において、複数のEL素子1715がマトリクス状に配置されているものとする。また、複数のEL素子1715は、それぞれ分離して選択的に形成することができる。
【0118】
さらにシール材1705で封止基板1704を素子基板1710と貼り合わせることにより、素子基板1710、封止基板1704、およびシール材1705で囲まれた空間1707にEL素子1715が備えられた構造になっている。なお、空間1707には、不活性気体(窒素やアルゴン等)が充填される場合の他、シール材1705で充填される構成も含むものとする。
【0119】
なお、シール材1705にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの材料はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。また、封止基板1704に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、ポリエステルまたはアクリル等からなるプラスチック基板を用いることができる。
【0120】
発光装置は、全面に同じ発光色を発光する発光装置としてもよいが、例えば図7(B)に示すように、封止基板1704側に色変換層1725と遮光層1728とを設けて、RGBカラー(或いはRGBWカラー)表示可能な発光装置、モノクロカラー表示可能な発光装置、或いはエリアカラー表示可能な発光装置を製造することもできる。色変換層1725は、例えば分離されたEL素子1715に合わせて赤色、緑色、青色に変換することができる色変換層を配列させることで、RGBカラー表示を行う発光装置とすることができる。なお、EL素子1715を白色発光する構成とする場合は、色変換層をカラーフィルタに置き換えることも可能である。
【0121】
以上でアクティブマトリクス型の発光装置を製造できる。本発明に係る蛍光体は、効率よく、高輝度にEL発光するように、局所的高電界をつくり出す役割を果たす発光励起材料をまだら状に分散させたコンポジット構造を有する。本蛍光体を用いたEL素子は発光輝度の向上が図られ、その結果、該EL素子を具備する発光装置の高輝度化が実現できる。また、制御の難しい欠陥生成工程を行わずに蛍光体を製造するため、個々の蛍光体の品質ばらつきが低減される。したがって、発光装置の信頼性の向上も図られている。
【0122】
なお、本実施の形態は、本明細書で示す他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせることができる。
【0123】
(実施の形態4)
実施の形態3に示した発光装置は、本発明に係る蛍光体を用いることにより、高輝度化を実現することができる。したがって、本蛍光体を用いた発光装置を各種表示装置や電子機器の表示部として実装することにより、明るい表示をさせることができる。また、本発明に係る蛍光体は、制御の難しい欠陥生成工程を行わずに製造できるため、品質のばらつきの少ない蛍光体を提供できる。したがって、発光装置の信頼性を高めることができる。
【0124】
本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は、電子機器の表示部や、大画面の表示装置に適用することができる。例えば、ビデオカメラ、デジタルカメラ等のカメラ、ゴーグル型ディスプレイ、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、コンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話、携帯型ゲーム機または電子書籍等)、記録媒体を備えた画像再生装置(具体的にはDigital Versatile Disc(DVD)等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうる表示装置を備えた装置)などが挙げられる。これらの電子機器の具体例を図21(A)〜図21(D)に示す。
【0125】
図21(A)はテレビ装置の一例を示しており、筐体9101、支持台9102、表示部9103、スピーカー部9104、ビデオ入力端子9105等で構成される。テレビ装置において、例えば表示部9103に本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を用いることができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本テレビ装置は明るく鮮明な画像表示を行うことができる。
【0126】
図21(B)はコンピュータの一例を示しており、本体9201、筐体9202、表示部9203、キーボード9204、外部接続ポート9205、ポインティングデバイス9206等で構成される。コンピュータにおいて、例えば表示部9203は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を適用することができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本コンピュータは明るく鮮明な表示を行うことができる。
【0127】
図21(C)は携帯電話の一例を示しており、本体9401、筐体9402、表示部9403、音声入力部9404、音声出力部9405、操作キー9406、外部接続ポート9407、アンテナ9408等で構成される。携帯電話において、例えば、表示部9403は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を適用することができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本携帯電話は明るく鮮明な表示を行うことができる。
【0128】
図21(D)はカメラの一例を示しており、本体9501、表示部9502、筐体9503、外部接続ポート9504、リモコン受信部9505、受像部9506、バッテリー9507、音声入力部9508、操作キー9509、接眼部9510等で構成される。カメラにおいて、例えば表示部9502は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を適用することができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本カメラは明るく鮮明な表示を行うことができる。
【0129】
以上の様に、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置の適用範囲は極めて広く、この発光装置をあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を用いることにより、明るい表示を行うことができる表示部を有する電子機器を提供することが可能となる。
【0130】
また、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は、発光輝度の高いEL素子を有しており、照明装置や光源として用いることもできる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を光源として用いる一例を、図22に示す。
【0131】
図22は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置をバックライトとして用いた液晶表示装置の一例である。図22に示した液晶表示装置は、筐体501、液晶層502、バックライト503、筐体504を有し、液晶層502は、ドライバーIC505と接続されている。また、バックライト503は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置が用いられおり、端子506により、電流が供給されている。
【0132】
本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を液晶表示装置のバックライトとして用いることにより、明るいバックライトが得られる。
【実施例1】
【0133】
以下、実施例に基づき本発明に係る蛍光体及びEL素子について説明する。
【0134】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した。ZnS:Mnは、付活剤であるMn(0.104mg)でZnS(24.080g)が予め活性化された材料である。
【0135】
それぞれ秤量したZnS:Mn粉末、ZnO粉末を、Φ2mmのZrO製ボール;90gと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により回転数300rpmで60分間混合、粉砕した。遊星ポットミルにZrO製ボールを入れて回転することで、混合するとともに材料の粉砕を行った。
【0136】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通してZrO製ボールを取り除いた。そして、フルイを通して得られた混合物を、Ar雰囲気下で、加圧力40MPa、焼成温度950℃の条件で、ホットプレス法で60分間加圧焼成した。このとき、混合物はペレットに成型した。
【0137】
得られた焼成ペレットを乳鉢で粉砕した後、50μmの開口を持つフルイを通すことで分級し、蛍光体粉末を得た。
【0138】
得られた蛍光体粉末の中から、一の蛍光体粒子をFIB(収束イオンビーム加工観察装置;Focused Ion Beam system)にて粒子断面が観察できるように加工した。粒子断面のSIM像を図8(A)に、当該図8(A)の部分拡大像を図8(B)に示す。なお、以降に示すSIM像において、白領域はZnOが該当し、黒領域はZnSが該当することがSTEM−EDXによって確認された。以上のことから、図8より、ZnS中にZnOがまだら状に分散されたコンポジット構造が形成されていることが確認できた。
【0139】
以上のように、付活剤を添加して蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合して加圧焼成する手順によって、本発明に係る蛍光体を製造した。本発明に係る蛍光体の製造方法には、外部から応力等を付与して内部に結晶欠陥をつくる欠陥生成工程がない。
【0140】
上記蛍光体を用いて、EL素子を製造した。以下、図20を用いて、説明する。
【0141】
まず、ガラス基板202上にスパッタリング法により110nmとなるようにITOを成膜し、第1の電極204とした。
【0142】
次に、シアノレジンを溶解させたN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として、上記で製造した蛍光体粉末を分散させて分散溶液を作製した。前記分散溶液を第1の電極204上に塗布した後、120℃で30分間乾燥させ、発光層206を形成した。なお、前記分散溶液は、DMF;0.070g、シアノレジン;0.033gに対して上記蛍光体粉末;0.100gを加えて作製した。また、発光層206の膜厚は、約50μmとなるように形成した。
【0143】
次に、シアノレジンを溶解させたDMFを溶媒として、チタン酸バリウムを分散させた分散溶液を発光層206上に塗布した後、120℃で60分間乾燥させて誘電体層208を形成した。なお、前記分散溶液は、DMF;1.800g、シアノジレン;1.000gに対してチタン酸バリウム;3.000gを加えて作製した。また、誘電体層208の膜厚は約15μmとなるように形成した。
【0144】
Agペーストを誘電体層208上に塗布した後、120℃で60分間乾燥させて第2の電極210を形成した。
【0145】
以上のようにして、第1の電極204と第2の電極210との間に、発光層206、誘電体層208と、を有するEL素子200を得た。EL素子200は分散型EL素子の一例であり、発光層206には本発明に係る蛍光体が分散されている。
【0146】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約171.9cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約171.9cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図9参照)。
【実施例2】
【0147】
本実施例では、上記実施例1で得られた蛍光体を酸性の溶液で洗浄した例について説明する。
【0148】
上記実施例1で得られた蛍光体粉末を酢酸水溶液(1.74mol%)で10分間洗浄した。そして、前記酢酸水溶液で洗浄した蛍光体粉末を純水で洗浄した。蛍光体粉末を洗浄した液が中性になるまで純水洗浄を行った後、乾燥させた。
【0149】
乾燥させた蛍光体粉末の中から、一の蛍光体粒子をFIBにて粒子断面が観察できるように加工した。粒子断面のSIM像を図10(A)に、該図10(A)の部分拡大像を図10(B)示す。図10より、ZnS中にZnOがまだら状に分散されたコンポジット構造が形成されていることが確認できた。また、蛍光体粒子表面近傍に空洞部が確認できた。空洞部は、ZnSに該当する黒領域よりも濃い黒領域として観察された。ここで観察される空洞部は、酢酸水溶液洗浄によりZnOがエッチングされて形成されたものと推定される。
【0150】
上記蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。具体的には、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造した。発光層206に本実施例2で得られる蛍光体を分散させるものとし、その他の素子構造及び製造方法は実施例1と同様としたため、ここでは省略する。
【0151】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約204.7cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜400Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約204.7cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図11参照)。
【0152】
以上より、EL素子の発光層に用いる蛍光体は、加圧焼成して得られた後、洗浄して表面の発光励起材料を取り除くことで、EL発光輝度を向上させることができることが確認できた。
【実施例3】
【0153】
本実施例では、付活剤としてAgを用いた例について説明する。
【0154】
蛍光体母体材料としてZnS:Ag粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した。ZnS:Agは、付活剤であるAg(化成オプトニクス社製)でZnSが予め活性化された材料である。原料以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0155】
混合、加圧焼成、粉砕、及び分級等を経て、得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子についても、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例3で得られる蛍光体粉末を分散させた。
【0156】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約1.4cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約1.4cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図12参照)。
【実施例4】
【0157】
本実施例では、付活剤としてCuClを用いた例について説明する。
【0158】
蛍光体母体材料としてZnS:CuCl粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した。ZnS:CuClは、付活剤であるCuCl(シルバニア社製)でZnSが予め活性化された材料である。原料以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0159】
混合、加圧焼成、粉砕、分級等を経て、得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子についても、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例4で得られる蛍光体を分散させた。
【0160】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、最高で約25.1cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約25.1cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図13参照)。
【実施例5】
【0161】
本実施例では、発光励起材料としてIn2O3を用いた例について説明する。
【0162】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;22.981g、発光励起材料としてIn2O3粉末;7.019gをそれぞれ秤量した。原料以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0163】
混合、加圧焼成、粉砕、分級等を経て、得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子についても、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例5で得られる蛍光体を分散させた。
【0164】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約20.3cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜400Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約20.3cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図14参照)。
【実施例6】
【0165】
本実施例では、上記実施例と異なる加圧焼成温度で、蛍光体を製造する例について説明する。
【0166】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した後、上記実施例1と同様に、ZrO製ボールと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により混合、粉砕した。混合、粉砕は、回転数300rpmで60分間行った。
【0167】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通して、ZrO製ボールを取り除いた後、フルイを通して得られた混合物をAr雰囲気下で、加圧力40MPa、焼成温度1150℃の条件で、ホットプレス法で60分間加圧焼成した。混合物はペレットに成型した。
【0168】
得られた焼成ペレットは、上記実施例1と同様に、粉砕した後に50μmの開口を持つフルイを通して分級した。得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子は、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例6で得られる蛍光体を分散させた。
【0169】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約24.5cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜400Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約24.5cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図15参照)。
【実施例7】
【0170】
本実施例では、発光励起材料としてZnMnOを用いた例について説明する。
【0171】
まず、ZnO粉末;14.342g、MnO粉末;0.658gをそれぞれ秤量した後、Φ2mmのZrO製ボール;90gと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により回転数300rpmとして60分間混合、粉砕した。
【0172】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通して、ZrO製ボールを取り除いた後、フルイを通して得られた混合物を窒素雰囲気下で焼成温度1150℃にて180分間焼成し、酸化亜鉛マンガン固溶体であるZnMnOを得た。ここで得られたZnMnOを発光励起材料として用いた。
【0173】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;24.184g、発光励起材料としてZnMnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した後、先と同様にΦ2mmのZrO製ボール;90gと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により回転数300rpmとして60分間混合、粉砕した。
【0174】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通して、ZrO製ボールを取り除いた後、フルイを通して得られた混合物をAr雰囲気下で、加圧力40MPa、焼成温度1150℃の条件で、ホットプレス法で60分間加圧焼成した。混合物はペレットに成型した。
【0175】
得られた焼成ペレットは、上記実施例1と同様に、粉砕した後に50μmの開口を持つフルイを通して分級した。得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子は、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例7で得られる蛍光体を分散させた。
【0176】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約73.3cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約73.3cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図16参照)。
【実施例8】
【0177】
本実施例では、上記実施例1と異なる割合で蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合した例について説明する。
【0178】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;16.346g、発光励起材料としてZnO粉末;13.654gをそれぞれ秤量した。原料となるZnS:Mn粉末と、ZnO粉末の分量以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0179】
混合、加圧焼成、粉砕、及び分級等を経て、得られた蛍光体粉末の中から、一の蛍光体粒子をFIBにて粒子断面が観察できるように加工した。粒子断面のSIM像を図17に示す。図17より、ZnS中にZnOがまだら状に分散されたコンポジット蛍光体が形成されていることが確認できた。
【0180】
上記蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子は、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例8で得られる蛍光体を分散させた。
【0181】
製造したEL素子に対し、360V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、最高で約25cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜360Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約25cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図18参照)。
【0182】
また、製造したEL素子を、FIBにて素子断面が観察できるように加工した。素子断面のSIM像を図19に示す。図19には、ガラス基板1901、発光層1903、誘電体層であるチタン酸バリウム1905が順次形成された積層構造が示されている。なお、ガラス基板と発光層との間にITO電極が形成されているが、膜厚が110nmと薄いため、判別できない。図19より、発光層中に蛍光体粒子1907が分散されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明に係る蛍光体の一例の模式図である。
【図2】本発明に係る蛍光体の製造方法の一例を説明するフロー図である。
【図3】本発明に係るEL素子の一例の断面の模式図である。
【図4】本発明に係るパッシブマトリクス型の発光装置の一例の上面図及び断面図である。
【図5】本発明に係るパッシブマトリクス型の発光装置の一例の斜視図である。
【図6】本発明に係るパッシブマトリクス型の発光装置の一例の上面図である。
【図7】本発明に係るアクティブマトリクス型の発光装置の一例の上面図及び断面図である。
【図8】実施例1の蛍光体粒子の断面SIM像である。
【図9】実施例1のEL素子の特性を示す図である。
【図10】実施例2の蛍光体粒子の断面SIM像である。
【図11】実施例2のEL素子の特性を示す図である。
【図12】実施例3のEL素子の特性を示す図である。
【図13】実施例4のEL素子の特性を示す図である。
【図14】実施例5のEL素子の特性を示す図である。
【図15】実施例6のEL素子の特性を示す図である。
【図16】実施例7のEL素子の特性を示す図である。
【図17】実施例8の蛍光体粒子の断面SIM像である。
【図18】実施例8のEL素子の特性を示す図である。
【図19】実施例8のEL素子の一部の断面SIM像である。
【図20】実施例1〜8のEL素子の構成を示す模式図である。
【図21】本発明に係る電子機器の例の斜視図である。
【図22】本発明に係る発光装置を光源として用いた液晶表示装置の分解図の一例である。
【符号の説明】
【0184】
100 蛍光体
102 蛍光体母体材料
104 発光励起材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体と蛍光体の製造方法に関する。また、蛍光体を用いたEL素子、当該EL素子を具備する発光装置、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種インテリアとしての照明やフラットパネルディスプレイ用の光源として、自発光型のエレクトロルミネッセンス(以下、「EL」ともいう)素子の開発が盛んである。EL素子は、高輝度、面発光、薄膜化、フレキシブル化を可能とするため、次世代の新しい光源として注目されている。また、照明以外にも、時計の文字盤、メンブレンスイッチ、電飾ディスプレイ等の用途が期待され、一部実用化されるに至っている。
【0003】
EL素子は、発光材料が無機化合物であるか、或いは有機化合物であるかによって区別され、一般に前者は無機EL素子、後者は有機EL素子と呼ばれている。
【0004】
無機EL素子は、素子構成により、分散型無機EL素子と薄膜型無機EL素子とに分類される。また、無機EL素子は、駆動方式により直流電圧駆動型と、交流電圧駆動型とに分類できる。さらに、無機EL素子の発光メカニズムとしては、金属イオンの内殻電子遷移を利用する局在型発光と、ドナー準位とアクセプター準位を利用するドナー−アクセプター再結合型発光とが挙げられる。
【0005】
分散型無機EL素子は、スクリーン印刷法やコーティング法等の簡便な方法により安価に面発光素子を製造できる点で優れている。分散型無機EL素子に用いる蛍光体としてはZnS:CuCl蛍光体が知られている。ここで、ZnS:CuCl蛍光体とは、ZnS中にドナー−アクセプター準位を形成するCu元素及びCl元素が添加されている蛍光体を示している。ZnS:CuCl蛍光体の発光機構を説明するモデル図としては、Fischerモデルが提唱されている。FischerはZnS:CuCl蛍光体内部の粒界に発光の起点となる構造があることを発見した。蛍光体に電圧を印加することで、まずZnS:CuCl蛍光体と前記発光の起点となる構造との間で電荷のやりとりが起こり、その後交流電圧の反転に伴って電荷が再結合して発光に至ると考察した。
【0006】
Fischerは、前記発光の起点となる構造に電界が集中しているであろうという考えのもと、導電性の高い物質が前記発光の起点となる構造を形成しているであろうと推察し、前記導電性の高い物質は析出した硫化銅であろうと推察した。すなわち、ZnS:CuCl蛍光体を製造する際に、ZnSに添加するCu元素は、発光準位(ドナー準位又はアクセプター準位)を形成するだけでなく、結晶中に前記発光の起点となる構造を形成するCu元素の供給源を兼ねていると考察した。なお、前記発光の起点となる構造は、Fischer構造とも言われる。
【0007】
Fischer構造は結晶欠陥に生じやすい。したがって、多くのFischer構造をつくり出すには、予め蛍光体内部に結晶欠陥を形成しておくことが有効である。結晶欠陥を形成する方法として、蛍光体の外部から応力を付与する方法が一般的である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)
【特許文献1】特開平6−330035号公報
【特許文献2】特開平11−193378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、蛍光体の外部から応力を付与して内部に結晶欠陥を形成する方法では、前記蛍光体に付与する応力が弱すぎる場合は結晶欠陥が生じない。また、前記蛍光体に付与する応力が強すぎる場合は蛍光体を構成する結晶自体が壊れてしまう、或いは多すぎる結晶欠陥が生じてしまう恐れがある。蛍光体に多すぎる結晶欠陥が存在すると、励起された蛍光体が熱的に失活してしまう。その結果、EL発光の効率が低下してしまい、好ましくない。
【0009】
また、外部から応力を付与して結晶欠陥を形成する方法は、結晶欠陥の数や大きさを制御することは難しく、得られた蛍光体及び当該蛍光体を用いたEL素子などの品質がばらつく原因になってしまう。そして、品質のばらつきがある蛍光体及びEL素子を用いて発光装置を製造すると、信頼性も低下するおそれがある。
【0010】
上記問題を鑑み、本発明は、制御が難しい結晶欠陥生成工程を利用せずに製造できる新規な蛍光体及びその製造方法を提供することを課題の一とする。また、本発明は、新規な蛍光体を用いてEL素子、及び当該EL素子を具備する発光装置や電子機器を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者等は、電圧を印加することにより蛍光体母体材料との界面を介して電荷の授受を行う構造を、結晶欠陥に頼ることなく、蛍光体を構成する蛍光体母体材料中に直接設けることができれば、外部から応力を付与する結晶欠陥生成の如く制御の難しい工程は不要になると考えた。
【0012】
そこで発明者等は、欠陥生成工程を行うことなく、蛍光体母体材料と接しながら分離しており、且つ電圧の印加により電荷の授受を行うことができる発光励起材料を蛍光体母体材料中に分散させた構造が、蛍光体として機能することを見出した。また、発光励起材料を蛍光体母体材料中にまだら状に分散させることで、高輝度な蛍光体を実現できる可能性を見出した。以下、本明細書では、蛍光体母体材料中に発光励起材料を分散させた構造であり、且つ蛍光体母体材料と発光励起材料とが接しながら分離している構造を「コンポジット構造」ともいう。
【0013】
また、本発明者等は、蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合して焼成することで、コンポジット構造を有する蛍光体を製造できることを見出した。さらに、前記焼成を加圧焼成とすることで、発光励起材料をまだら状に分散させることができることを見出した。
【0014】
蛍光体母体材料は、所望の発光色を考慮して選択すればよい。本発明に係る発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選ばれる少なくとも一の材料を選択することが好ましい。
【0015】
本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、を含む蛍光体である。発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選択する。
【0016】
また、本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、を含む蛍光体である。発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選択する。また、蛍光体の表面は蛍光体母体材料である。
【0017】
上記構成において、発光励起材料は、蛍光体母体材料と発光励起材料とからなるコンポジット構造を持つ粒子よりも平均中心粒径の小さい発光励起材料粒子により構成されていることが好ましい。また、発光励起材料粒子の一は、他の発光励起材料粒子と連続していてもよいし、他の発光励起材料粒子の一と分離していてもよい。
【0018】
上記構成において、発光励起材料として金属酸化物を選択する場合、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化チタン、三酸化コバルト、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム、三酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化ストロンチウムルテニウム、酸化ストロンチウムイリジウム、又は酸化バリウム鉛を用いることができる。発光励起材料として周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体を選択する場合、酸化亜鉛を用いることができる。また、発光励起材料として周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を選択する場合、リン化インジウムを用いることができる。
【0019】
また、本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、を原料として混合し、得られた混合物を加圧焼成する製造方法である。
【0020】
また、本明細書で開示する発明の一は、蛍光体母体材料と、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、を混合し、得られた混合物を加圧焼成し、得られた焼成物を、中性、酸性、若しくは塩基性の溶液又は気体にさらす製造方法である。
【0021】
上記構成において、加圧焼成は、ホットプレス法、熱間等方加圧法、放電プラズマ焼結法、又は衝撃法により行うことが好ましい。また、原料の混合は、湿式法により混合するとともに得られる混合材料の粒径を小さく粉砕することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、高輝度、高効率なEL発光を実現できる蛍光体を製造することができる。また、品質のばらつきの少ない蛍光体を製造することができる。また、本発明は、EL素子及びEL素子を具備する発光装置や電子機器の高輝度化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、図面を用いて、以下に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなく、その形態及び詳細を様々に変更しうることは、当業者であれば容易に理解される。したがって、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する本発明の構成において、同じものを指す符号は異なる図面間で共通して用いる場合がある。
【0024】
(実施の形態1)
本発明に係る蛍光体について説明する。図1(A)は、本蛍光体100の一例を示す断面の模式図である。また、図1(B)には本蛍光体100の斜視の模式図を示しており、図1(A)は図1(B)をOP間で切断した断面の模式図である。
【0025】
本蛍光体100は、蛍光を発する蛍光体母体材料102と、発光励起材料104と、から構成される。このような蛍光体100は、コンポジット蛍光体ともいう。図1は粒子状の蛍光体100を例示しているが、本発明に係る蛍光体の形状は特に限定されず、いびつな形状であってもよい。また、蛍光体表面は滑らかであってもよいし、滑らかでなく粗くともよい。本蛍光体100の中心粒径は、0.1μm〜100μmであることが好ましい。
【0026】
発光励起材料104は、蛍光体母体材料102中に内包されている。また、発光励起材料104は、蛍光体母体材料102中にまだら状に分散され、蛍光体母体材料とは接しながら分離して存在している。
【0027】
発光励起材料104は、蛍光体100よりも中心粒径の小さい複数の微小な発光励起材料粒子により構成されている。発光励起材料粒子の平均中心粒径は、数nm〜数100nmであることが好ましい。なお、複数の発光励起材料粒子は、それぞれ同一形状の粒子であってもよいし、異なる形状や異なる中心粒径を有する粒子であってもよい。
【0028】
なお、本明細書における「粒」、「粒子」、及び「粒子状」は、左右対称な丸い形状(球形)に限定されず、いびつな形状も含むものとする。
【0029】
また、上述のように、発光励起材料104は、蛍光体母体材料102中にまだら状に分散されている。本明細書における「まだら状」とは、種々の粒が入り交じっている状態を示しており、種々の粒がまばらに散らばっている状態とも言える。また、「まだら状」である種々の粒は、それぞれが分離している状態と、凝集している状態と、さらに凝集している粒が連続し境界面が判別できなくなっている状態と、を含むものとする。
【0030】
図1では、発光励起材料104は、分離してまばらに散っている発光励起材料粒子と、凝集して連続し境界が判別できなくなっている発光励起材料粒子と、で構成されている例を示している。なお、発光励起材料104は、分離した発光励起材料粒子のみで形成されていてもよいし、凝集して発光励起材料粒子が判別できない状態でもよい。
【0031】
本蛍光体100において、発光励起材料104は蛍光体母体材料102とは接しながら分離しており、且つ蛍光体母体材料中に分散されている。蛍光体100内部には、蛍光体母体材料102と発光励起材料104との界面が存在する。発光励起材料104は、電圧を印加することにより蛍光体母体材料102と接する界面で電荷の授受を行う。また、蛍光体母体材料102中に発光励起材料104をまだら状に分散させることで、蛍光体100中の蛍光体母体材料102は局所的に厚みの薄い領域が形成される。蛍光体母体材料102の厚みの薄い領域は発光励起材料104の界面と接しており、局所的に高電界とすることが可能となるため、発光しやすくできる。
【0032】
なお、微小な発光励起材料粒子により構成されるまだら状の発光励起材料104は、発光励起材料がバルクである場合よりも、微小な粒子状であることによって、隙間を埋める蛍光体母体材料102の厚みを薄くできる。また、発光励起材料104と蛍光体母体材料102との界面も多くできる。したがって、蛍光体母体材料102を局所的に高電界とすることが可能となり、EL発光の輝度を高めることができる。
【0033】
なお、発光励起材料104は、蛍光を発する蛍光体母体材料102中に均等にまだら状に分散されることが好ましい。これは、発光励起材料104を均等にまだら状に分散させることで、蛍光体母体材料102の厚みの薄い領域を蛍光体100中に均等に形成することにつながり、その結果、蛍光を発する領域のばらつきを低減できるからである。
【0034】
また、蛍光体100を構成する蛍光体母体材料102と発光励起材料104との体積は、求めるEL発光の輝度や効率により、適宜調整することが好ましい。EL発光の輝度を高めるためには、多くの発光励起材料をまだら状に分散させて高電界領域を形成することは効果的である。しかし、蛍光を発する役割は蛍光体母体材料102が果たしているため、蛍光体100を占める蛍光体母体材料102の体積比が小さくなると、蛍光を発する領域が小さくなり蛍光体100の発光効率が低下してしまう恐れがある。したがって、発光効率を低下させることなく、高輝度化を図ることができるように、蛍光体母体材料102と発光励起材料104の体積比は選択することが好ましい。
【0035】
また、蛍光体100の表面には発光励起材料104が露出していないことが好ましい。つまり、蛍光体100の表面は蛍光体母体材料102であることが好ましい。蛍光体100において、発光励起材料104を蛍光体母体材料102中に存在させ、蛍光体100の表面には露出させない構成とすることで、蛍光体100内部に電界を効率よく加えることができる。
【0036】
蛍光体母体材料102は、所望の発光色に応じた材料を選択すればよい。また、所望の発光色に応じて付活剤を添加することもできる。本明細書における「蛍光体母体材料」は、自身が蛍光を発する蛍光体母体材料と、蛍光を発する機能を付与する付活剤が添加された蛍光体母体材料と、の両方を範疇に含むものとする。
【0037】
蛍光体母体材料102の具体例としては、(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体母体材料、(2)周期表第2B族(第12族)元素と、周期表第3B族(第13族)元素と、周期表第6B族(第16族)元素とからなる三元系材料(三元系蛍光体母体材料)、(3)酸化物蛍光体母体材料、(4)ケイ酸塩蛍光体母体材料、(5)ハロケイ酸塩蛍光体母体材料、(6)リン酸塩蛍光体母体材料、(7)ハロリン酸塩蛍光体母体材料、(8)ホウ酸塩蛍光体母体材料、(9)アルミネイトおよびガレイト蛍光体母体材料、(10)モリブデン酸塩およびタングステン酸塩蛍光体母体材料、(11)ハロゲン化物およびオキシハロゲン化物蛍光体母体材料、(12)硫酸塩蛍光体母体材料、並びに(13)これらの共晶及び(14)これらの混合物などをあげることができる。
【0038】
(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体母体材料の例として、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、テルル化亜鉛、硫化カルシウム、硫化マグネシウム、硫化ストロンチウム、硫化バリウム等が挙げられる。
【0039】
(2)周期表第2B族(第12族)元素と、周期表第3B族(第13族)元素と、周期表第6B族(第16族)元素とからなる三元系材料の例として、カルシウムチオガレイト、バリウムチオアルミネート、ストロンチウムチオアルミネート、亜鉛チオガレイト、ZnBa2S3等が挙げられる。
【0040】
(3)酸化物蛍光体母体材料の例として、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化トリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン等が挙げられる。
【0041】
(4)ケイ酸塩蛍光体母体材料の例として、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸ストロンチウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸イットリウム、ケイ酸カルシウムマグネシウム、ケイ酸バリウムマグネシウム、ケイ酸バリウムリチウム等が挙げられる。
【0042】
(5)ハロケイ酸塩蛍光体母体材料の例として、ケイ酸ランタンクロライド、ケイ酸カルシウムクロライド、ハロケイ酸バリウムクロライド等が挙げられる。
【0043】
(6)リン酸塩蛍光体母体材料の例として、リン酸イットリウム、リン酸ランタン、リン酸カルシウムもしくはリン酸ストロンチウム、リン酸亜鉛等が挙げられる。
【0044】
(7)ハロリン酸塩蛍光体母体材料の例として、リン酸カルシウムフロライド、リン酸カルシウムクロライド、リン酸ストロンチウムフロライド、リン酸ストロンチウムクロライド等が挙げられる。
【0045】
(8)ホウ酸塩蛍光体母体材料の例として、ホウ酸イットリウム、ホウ酸ランタン、ホウ酸カルシウム、ホウ酸カルシウムイットリウム、ホウ酸ストロンチウム、ホウ酸イットリウムアルミ、ホウ酸カルシウムクロライド等が挙げられる。
【0046】
(9)アルミネイトおよびガレイト蛍光体母体材料の例として、リチウムアルミネイト、イットリウムアルミネイト、ランタンアルミネイト、カルシウムアルミネイト、亜鉛アルミネイト、亜鉛ガレイト、カルシウムガレイト等が挙げられる。
【0047】
(10)モリブデン酸塩およびタングステン酸塩蛍光体母体材料の例として、モリブデン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム等が挙げられる。
【0048】
(11)ハロゲン化物およびオキシハロゲン化物蛍光体母体材料の例として、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、オキシブロモイットリウム、オキシクロロイットリウム、オキシフロロイットリウム等が挙げられる。
【0049】
(12)硫酸塩蛍光体母体材料の例として、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0050】
(13)これらの共晶の例としては、(1)〜(12)から選ばれる2つ以上の材料の共晶が挙げられる。なお、前記2つ以上の材料は、例えば(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体の中から選ばれる2つの材料でもよいし、(1)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる蛍光体の中から選ばれる一の材料と(2)周期表第2B族(第12族)元素と、周期表第3B族(第13族)元素と、周期表第6B族(第16族)元素とからなる三元系材料の中から選ばれる一の材料とでもよい。
【0051】
同様に、(14)これらの混合物の例としては、(1)〜(12)から選ばれる2つ以上の材料の混合物が挙げられる。
【0052】
また、付活剤の例としては、希土類を含む遷移元素(Mn、Cu、Ag、Auなど)を含有する金属もしくは希土類を含む遷移元素を含有する化合物を添加することもできる。また、典型元素(Al、Ga、F、Cl、Br、Iなど)を含む化合物を添加することもできる。希土類を含む遷移元素は、局在型発光の発光中心材料として機能し、典型元素はドナー−アクセプター再結合型発光をもたらす不純物準位を形成する。
【0053】
発光励起材料104は、蛍光体100中に局所的高電界をつくり出す役割を果たす材料を選択すればよい。また、蛍光体100中の蛍光体母体材料102との界面で電荷の授受を行うことができる材料を選択すればよい。
【0054】
発光励起材料104の具体例としては、(I)金属酸化物、(II)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、(III)周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体、(IV)これらに不純物元素を添加したものなどを挙げることができる。
【0055】
(I)金属酸化物の例として、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化チタン、三酸化コバルト、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム、三酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化ストロンチウムルテニウム、酸化ストロンチウムイリジウム、又は酸化バリウム鉛等が挙げられる。
【0056】
(II)周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体の例として、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0057】
(III)周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体の例として、リン化インジウム等が挙げられる。
【0058】
また、(IV)これらに不純物元素を添加した例としては、(I)〜(III)から選ばれる材料に希土類を含む遷移元素(Mn、Irなど)を添加したもの、もしくは典型元素(Al、Ga、Sn、Mgなど)を添加したもの等が挙げられる。具体的には、ZnO:Mn、ZnO:Ir、ZnO:Al、ZnO:Ga、In2O3:Sn、In2O3:Mg等が挙げられる。
【0059】
なお、蛍光体母体材料102に適用できる材料と、発光励起材料104に適用できる材料は、一部重複している。蛍光体母体材料102と発光励起材料104とは分離した構成とする必要があるため、両者が固溶することのない組み合わせとなるよう材料の選択を行う。
【0060】
次に、本蛍光体100を得るまでの一例を図2のフロー図に示す。
【0061】
それぞれ秤量した蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を原料として混合させて混合物を得る(S1001)。蛍光体母体材料と発光励起材料は、所望の発光色などにより選択すればよい。また、その混合比は、発光効率を低下させることなく、高輝度化を図ることができるように選択することが好ましい。
【0062】
蛍光体に付活剤を含有させる場合は、予め付活剤と蛍光体母体材料とを混合させて仮焼成したものを蛍光体母体材料として準備する。そして、付活剤が添加された蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合させる。または、予め付活剤と発光励起材料とを混合させて仮焼成した材料と、蛍光体母体材料と、を混合させる。または、付活剤と、蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を一緒に混合させることもできる。
【0063】
なお、(S1001)で得られる混合物の粒径は細かいほど良い。これは、混合物の粒径を細かくすると、蛍光体母体材料の粒径と発光励起材料の粒径も細かくなるため、蛍光体を製造した際に、該蛍光体を構成する蛍光体母体材料と発光励起材料との界面を多くすることができるからである。したがって、混合工程には粉砕工程も兼ねさせる、又は混合工程前もしくは混合工程後に粉砕工程を入れることが好ましい。例えば、ジェットミル、遊星ポットミル、ミックスローター、乳鉢等を利用することができる。好ましくは、蛍光体母体材料の中心粒径を0.001μm〜1μm程度、発光励起材料の中心粒径を0.001μm〜1μm程度となるように粉砕するとよい。
【0064】
次に、(S1001)で得られた混合物を加圧焼成し、焼成物を得る(S1002)。混合物の焼成は、ホットプレス法、熱間等方加圧(HIP;Hot Isostatic Pressing)法、放電プラズマ焼結法、又は衝撃法を適用することが好ましい。焼成温度は蛍光体母体材料の焼結温度により選択するが、好ましくは500℃〜2000℃程度であり、好適な温度は蛍光体母体材料と発光励起材料の組み合わせによって決定することができる。加圧力及び加圧焼成時間は混合物の材料によるが、20Pa〜40MPa程度の圧力で、1時間程度焼成することが好ましい。
【0065】
以上の手順で得られた焼成物は、EL発光を確認することができる。
【0066】
(S1002)で得られた焼成物は、そのままでも蛍光体として機能しうるが、さらに粉砕して蛍光体粒子を得る(S1003)。焼成物の粉砕は、ジェットミル、遊星ポットミル、ミックスローター、乳鉢等を利用することができる。
【0067】
次に、(S1003)で得られた蛍光体粒子を分級する(S1004)。蛍光体粒子は粒径を揃ったものにすることが好ましく、粒径を50μm以下とすることがより好ましい。蛍光体粒子の分級には、所望の大きさの開口を有するフルイ等を利用することができる。
【0068】
次に、蛍光体粒子を洗浄及び乾燥させる(S1005)。蛍光体粒子の洗浄は、酸性、中性、若しくは塩基性の溶液又は気体にさらすことにより行うことが好ましい。蛍光体粒子の表面に存在する発光励起材料を選択的に取り除くことを主目的とする場合は、発光励起材料粒子をエッチング除去できる溶液又は気体を選択する。なお、蛍光体粒子を構成する他の材料(蛍光体母体材料、付活剤)とは反応しない溶液又は気体を選択する。
【0069】
以上で、粒径が小さく、且つ粒径の揃った蛍光体粒子を得ることができる。なお、本発明に係る蛍光体を得るためには、少なくとも(S1001)、(S1002)、(S1003)の手順を行えばよい。
【0070】
本蛍光体の製造において、蛍光体母体材料と発光励起材料とを混合した後(S1001)、焼成する(S1002)ことによって、蛍光体母体材料と発光励起材料とを接合し、コンポジット構造を有する蛍光体を製造することができる。また、コンポジット構造を形成する際の焼成として加圧焼成を適用することで、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する蛍光体を製造することができる。
【0071】
以上により製造できる本蛍光体は、外部から応力を付与して蛍光体内部に結晶欠陥を生成するなどの制御の難しい欠陥生成工程がないため、個々の蛍光体による品質のばらつきを低減することができる。また、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する蛍光体とすることで、EL発光の効率を高め、高輝度化を実現することができる。
【0072】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせることができる。
【0073】
(実施の形態2)
本形態では、蛍光体を用いたEL素子について説明する。
【0074】
図3(A)には分散型EL素子の一例を示しており、基板302上に第1の電極304と、発光層306と、誘電体層308と、第2の電極310と、が設けられている。発光層306は、バインダー307中に蛍光体305が分散されている。蛍光体305としては、上記実施の形態1で示した蛍光体100のような蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有するものを適用する。
【0075】
EL素子300の構成及び製造方法について、一例を説明する。ここでは、発光層306からのEL発光を基板302側から外部に取り出す例を説明する。
【0076】
基板302上に第1の電極304を形成する。本形態では、基板302側から光を取り出すため、第1の電極304として透光性を有する電極を形成する。具体的には、酸化インジウム−酸化スズ(ITO:Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物ともいう)、ケイ素もしくは酸化ケイ素を含有した酸化インジウム−酸化スズ(ITSO:Indium Tin Silicon Oxide)、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO:Indium Zinc Oxide、酸化インジウム酸化亜鉛ともいう)、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム−酸化スズ(IWZO)等が挙げられる。例えば、酸化インジウム−酸化亜鉛(IZO)は、酸化インジウムに対し1wt%〜20wt%の酸化亜鉛を加えたターゲットを用いたスパッタリング法により形成することができる。また、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム−酸化スズ(IWZO)は、酸化インジウムに対し酸化タングステンを0.5wt%〜5wt%、酸化亜鉛を0.1wt%〜1wt%含有したターゲットを用いたスパッタリング法により形成することができる。なお、可視光の透過率が低い材料であっても、1nm以上50nm以下、好ましくは5nm以上20nm以下の厚さで成膜することにより、透光性を有する電極として用いることができる。
【0077】
第1の電極304上に発光層306を形成する。発光層306は、蛍光体305をバインダー307に分散して形成する。蛍光体305は本発明に係る蛍光体であり、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する。バインダー307としては、無機バインダー及び有機バインダーのいずれを用いることもできる。例えば、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。これらの樹脂に、BaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。蛍光体粒子の分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。第1の電極304上に、バインダー307に蛍光体305を分散させた分散溶液をスピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー塗布法、スクリーン印刷法、コーティング法、又はスライドコート法などにより塗布することで、発光層306を形成することができる。
【0078】
発光層306上に誘電体層308を形成する。誘電体層308は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い誘電破壊電圧を有する材料を用いて形成する。例えば、金属酸化物、窒化物を用いて形成することができ、具体的にはBaTiO3、TiO2、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta2O3、BaTa2O6、LiTaO3、Y2O3、Al2O3、ZrO2、AlON、ZnSなどが用いられる。誘電体層308は、これらの材料を用いて均一な薄膜として形成してもよいし、バインダーに高誘電率材料の微粒子を分散させた粒子構造を有する層として形成してもよい。誘電体層308に用いるバインダーは、上記発光層306に用いるバインダー307と同様のものを用いることができる。
【0079】
誘電体層308を均一な薄膜として形成する場合は、スパッタリング法や蒸着法などにより形成できる。誘電体層308を、バインダーに高誘電率材料の微粒子を分散させて形成する場合は、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー塗布法、スクリーン印刷法、コーティング法、又はスライドコート法などにより形成できる。
【0080】
誘電体層308上に第2の電極310を形成する。第2の電極310は導電性材料を用いて形成すればよく、具体的にはアルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、タングステン、クロム、モリブデン、鉄、コバルト、銅、パラジウム、又は金属材料の窒化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。第2の電極310は、インクジェット法等の塗布法、蒸着法、スパッタリング法などにより形成できる。本形態のように、光を他方の電極(第1の電極304)側から取り出す構成とする場合は、第2の電極310は反射性を有する電極を形成することが好ましい。第2の電極310として反射性を有する電極を形成することで、発光層306からの光を効率よく取り出すことができる。
【0081】
なお、分散型EL素子において、第1の電極304と発光層306との間に誘電体層308と同様の誘電体層を形成し、誘電体層で発光層を挟持する構成とすることもできる。また、発光層の側面にも誘電体層を形成して、発光層を誘電体層で包み込む構成とすることもできる。
【0082】
例えば、図3(B)には発光層を誘電体層で挟持する構成のEL素子320の一例を示しており、基板302上に第1の電極304と、誘電体層329と、発光層306と、誘電体層308と、第2の電極310と、が設けられている。ここでは、発光層306が誘電体層329及び誘電体層308により挟持されており、且つ包み込まれた構成を示している。また、発光層306は、バインダー307中に本発明に係る蛍光体305が分散されている。誘電体層329は、誘電体層308と同様の材料及び方法により形成することができる。
【0083】
また、図3(C)には誘電体層を形成せず、一対の電極で発光層を挟持する構成のEL素子340の一例を示しており、基板302上に第1の電極304と、発光層306と、第2の電極310と、が設けられている。発光層306は、バインダー307中に本発明に係る蛍光体305が分散されている。
【0084】
本形態において、図3(A)、(B)に示すEL素子は誘電体層が設けられており、交流電圧駆動型のEL素子とすることができる。また、図3(C)に示すEL素子は誘電体層を設けておらず、直流電圧駆動型のEL素子とすることもできるし、交流電圧駆動型のEL素子とすることもできる。
【0085】
なお、ここでは発光層からの光を第1の電極及び基板を通過させて取り出す構成を説明したが、本発明は特に限定されない。第2の電極側から光を取り出す場合には、第2の電極として透光性を有する電極を形成すればよく、その場合は第1の電極は反射性を有する電極を形成すればよい。また、第1の電極及び第2の電極の両方とも透光性を有する電極として、両方向から光を取り出す構成としてもよい。
【0086】
また、EL素子の素子構成は、図3に示すものに限定されず、必要に応じて発光層の配向性を高める、又は電子や正孔を注入する注入層、或いは輸送する輸送層のような役割を果たす層を設けてもよい。
【0087】
発光層に分散される蛍光体は、その内部が蛍光体母体材料に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する。本蛍光体は高輝度化、高効率化が図られており、その結果、本蛍光体を分散させたEL素子の発光輝度、発光効率を向上させることが可能である。また、本蛍光体は制御の難しい欠陥生成工程を含まず、個々の蛍光体の品質のばらつきが低減されているため、EL素子のばらつきも抑えることが可能である。
【0088】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせることができる。
【0089】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明に係る蛍光体を用いたEL素子を具備する発光装置について説明する。
【0090】
図4〜図5に、パッシブマトリクス型(単純マトリクス型ともいう)発光装置の一例を示す。パッシブマトリクス型発光装置は、ストライプ状(帯状)に並列された複数の陽極と、ストライプ状に並列された複数の陰極とが互いに直交するように設けられており、その交差部に発光層が挟まれた構造となっている。従って、選択された(電圧が印加された)陽極と選択された陰極との交点にあたる画素が点灯することになる。
【0091】
図4(A)は、封止前における画素部の上面図であり、図4(A)中の線分AA’で切断した断面図が図4(B)であり、線分BB’で切断した断面図が図4(C)である。
【0092】
第1の基板1501上には、下地絶縁層として絶縁層1504を形成する。なお、下地絶縁層は必要でなければ特に形成しなくともよい。絶縁層1504上には、ストライプ状に複数の第1の電極1513が等間隔で配置されている。また、第1の電極1513上には、各画素に対応する開口部を有する隔壁1514が設けられ、開口部を有する隔壁1514は絶縁材料(感光性または非感光性の有機材料(ポリイミド、アクリル、ポリアミド、ポリイミドアミド、レジストまたはベンゾシクロブテン)、またはSOG膜(例えば、アルキル基を含むSiOx膜))で構成されている。なお、各画素に対応する開口部が発光領域1521となる。
【0093】
開口部を有する隔壁1514上に、第1の電極1513と交差する互いに平行な複数の逆テーパ状の隔壁1522が設けられる。逆テーパ状の隔壁1522はフォトリソグラフィ法に従い、未露光部分がパターンとして残るポジ型感光性樹脂を用い、パターンの下部がより多くエッチングされるように露光量または現像時間を調節することによって形成する。
【0094】
また、平行な複数の逆テーパ状の隔壁1522を形成した直後における斜視図を図5に示す。なお、図4と同一の部分には同一の符号を用いている。
【0095】
開口部を有する隔壁1514及び逆テーパ状の隔壁1522を合わせた高さは、発光層を含む層及び第2の電極となる導電層の膜厚より大きくなるように設定する。図5に示す構成を有する第1の基板1501に対してEL層と、導電層とを積層形成すると、図4に示すように複数の領域に分離された、EL層1515と、第2の電極1516とが形成される。なお、複数に分離された領域は、それぞれ電気的に独立している。第2の電極1516は、第1の電極1513と交差する方向に伸長する互いに平行なストライプ状の電極である。なお、逆テーパ状の隔壁1522上にもEL層及び導電層が形成されるが、EL層1515及び第2の電極1516とは分断されている。なお、本形態におけるEL層は少なくとも発光層を有し、且つ該発光層が本発明に係る蛍光体を含むものである。すなわち、EL層は、少なくとも蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造である蛍光体を含む発光層を有する。発光層は、バインダー中に本蛍光体が分散された構成とすればよい。また、EL層は、発光層の他に誘電体層、又は電子や正孔を注入或いは輸送するような機能を有する層を有していてもよい。
【0096】
発光装置は、全面に同じ発光色を発光する単色の発光装置としてもよいが、適宜色変換層などを設けることで、RGBカラー(或いはRGBWカラー)表示可能な発光装置、モノクロ表示可能な発光装置、或いはエリアカラー表示可能な発光装置としてもよい。ここでは、発光層を含むEL層1515は、隔壁1514及び隔壁1522により複数の領域に分離されている。したがって、分離された領域に合わせて赤色、緑色、青色に変換することができる色変換層を配列させることで、RGBカラー表示を行う発光装置とすることができる。なお、発光層を含むEL層1515を白色発光する構成とする場合は、色変換層をカラーフィルタに置き換えることも可能である。色変換層は、発光層と光を取り出す側の基板との間に設ければよい。
【0097】
また、必要であれば、封止缶や封止のためのガラス基板などの封止材を用いて封止する。ここでは、第2の基板としてガラス基板を用い、シール材などの接着材を用いて第1の基板と第2の基板とを貼り合わせ、シール材などの接着材で囲まれた空間を密閉なものとしている。密閉された空間には、充填材や、乾燥した不活性ガスを充填してもよい。また、発光装置の信頼性を向上させるために、第1の基板と封止材との間に乾燥材などを封入してもよい。乾燥材によって微量な水分が除去され、十分乾燥される。また、乾燥材としては、酸化カルシウムや酸化バリウムなどのようなアルカリ土類金属の酸化物のような化学吸着によって水分を吸着する物質を用いることが可能である。なお、他の乾燥材として、ゼオライトやシリカゲル等の物理吸着によって水分を吸着する物質を用いてもよい。
【0098】
ただし、EL素子を覆って接する封止材が設けられ、十分に外気と遮断されている場合には、乾燥材は、特に設けなくともよい。
【0099】
次いで、FPCなどを実装した発光モジュールの上面図を図6に示す。
【0100】
なお、本明細書中における発光装置とは、画像表示デバイス、発光デバイス、もしくは光源(照明装置含む)を指す。また、発光装置にコネクター、例えばFPC(Flexible printed circuit)もしくはTAB(Tape Automated Bonding)テープもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、またはEL素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【0101】
図6に示すように画像表示を構成する画素部は、走査線群とデータ線群が互いに直交するように交差している。
【0102】
図4における第1の電極1513が図6の走査線1603に相当し、第2の電極1516がデータ線1602に相当し、逆テーパ状の隔壁1522が隔壁1604に相当する。データ線1602と走査線1603の間には本発明に係る蛍光体を含む発光層を有するEL層が挟まれており、領域1605で示される交差部が画素1つ分となる。
【0103】
なお、走査線1603は配線端で接続配線1608と電気的に接続され、接続配線1608が入力端子1607を介してFPC1609bに接続される。また、データ線1602は入力端子1606を介してFPC1609aに接続される。
【0104】
また、必要であれば、射出面に偏光板、又は円偏光板(楕円偏光板を含む)、位相差板(λ/4板、λ/2板)、カラーフィルタなどの光学フィルムを適宜設けてもよい。また、偏光板又は円偏光板に反射防止膜を設けてもよい。例えば、表面の凹凸により反射光を拡散し、映り込みを低減できるアンチグレア処理を施すことができる。
【0105】
以上でパッシブマトリクス型の発光装置を製造できる。本発明に係る蛍光体は、効率よく、高輝度にEL発光するように、局所的高電界をつくり出す役割を果たす発光励起材料をまだら状に分散させたコンポジット構造を有する。本蛍光体を用いたEL素子は発光輝度の向上が図られ、その結果、該EL素子を具備する発光装置の高輝度化が実現できる。また、制御の難しい欠陥生成工程を行わずに蛍光体を製造するため、個々の蛍光体の品質ばらつきが低減される。したがって、発光装置の信頼性の向上も図られている。
【0106】
また、パッシブマトリクス型の発光装置は構成が簡単であり、大面積化しても容易に製造することができる。さらに、EL素子として分散型EL素子を適用する場合は、スクリーン印刷法などにより、簡単に安価な面発光EL素子を製造することができる。
【0107】
なお、図6では、駆動回路を基板上に設けていない例を示したが、本発明は特に限定されず、基板に駆動回路を有するICチップを実装させてもよい。
【0108】
ICチップを実装させる場合、画素部の周辺(外側)の領域に、画素部へ各信号を伝送する駆動回路が形成されたデータ線側IC、走査線側ICをCOG方式によりそれぞれ実装する。COG方式以外の実装技術としてTCPやワイヤボンディング方式を用いて実装してもよい。TCPはTABテープにICを実装したものであり、TABテープを素子形成基板上の配線に接続してICを実装する。データ線側IC、および走査線側ICは、シリコン基板を用いたものであってもよいし、ガラス基板、石英基板もしくはプラスチック基板上にTFTで駆動回路を形成したものであってもよい。また、片側に一つのICを設けた例を説明しているが、片側に複数個に分割して設けても構わない。
【0109】
次に、アクティブマトリクス型の発光装置の一例を図7に示す。図7(A)は発光装置を示す上面図であり、図7(B)は図7(A)を線分AA’で切断した断面図である。本実施の形態に係るアクティブマトリクス型の発光装置は、素子基板1710上に設けられた画素部1702と、駆動回路部(ソース側駆動回路)1701と、駆動回路部(ゲート側駆動回路)1703と、を有する。画素部1702、駆動回路部1701、及び駆動回路部1703は、シール材1705によって、素子基板1710と封止基板1704との間に封止されている。
【0110】
また、素子基板1710上には、駆動回路部1701、及び駆動回路部1703に外部からの信号(例えば、ビデオ信号、クロック信号、スタート信号、又はリセット信号等)や電位を伝達する外部入力端子を接続するための引き回し配線1708が設けられる。ここでは、外部入力端子としてFPC(フレキシブルプリントサーキット)1709を設ける例を示している。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基板(PWB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけでなく、それにFPCもしくはPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
【0111】
次に、断面構造について図7(B)を用いて説明する。素子基板1710上には駆動回路部及び画素部が形成されているが、ここでは、ソース側駆動回路である駆動回路部1701と、画素部1702が示されている。
【0112】
駆動回路部1701はnチャネル型TFT1723とpチャネル型TFT1724とを組み合わせたCMOS回路が形成される例を示している。なお、駆動回路部を形成する回路は、公知のCMOS回路、PMOS回路もしくはNMOS回路で形成しても良い。また、本実施の形態では、基板上に駆動回路を形成したドライバー一体型を示すが、必ずしもその必要はなく、基板上ではなく外部に駆動回路を形成することもできる。
【0113】
また、画素部1702はスイッチング用TFT1711と、電流制御用TFT1712と当該電流制御用TFT1712の配線(ソース電極又はドレイン電極)に電気的に接続された第1の電極1713とを含む複数の画素により形成される。なお、第1の電極1713の端部を覆って隔壁1714が形成されている。ここでは、ポジ型の感光性アクリル樹脂を用いることにより形成する。
【0114】
また、上層に積層形成される膜の被覆性を良好なものとするため、隔壁1714の上端部または下端部に曲率を有する曲面が形成されるようにするのが好ましい。例えば、隔壁1714の材料としてポジ型の感光性アクリル樹脂を用いた場合、隔壁1714の上端部に曲率半径(0.2μm〜3μm)を有する曲面を持たせることが好ましい。また、隔壁1714として、感光性の光によってエッチャントに不溶解性となるネガ型、或いは光によってエッチャントに溶解性となるポジ型のいずれも使用することができ、有機化合物に限らず無機化合物、例えば、酸化シリコン、酸窒化シリコンや、有機化合物と無機化合物との両者を使用することができる。
【0115】
第1の電極1713上には、発光層を含むEL層1700及び第2の電極1716が積層形成されている。なお、ITOを用いて第1の電極1713を形成し、第1の電極1713と接続する電流制御用TFT1712の配線として窒化チタン膜とアルミニウムを主成分とする膜との積層膜、或いは窒化チタン膜、アルミニウムを主成分とする膜、窒化チタン膜との積層膜を適用すると、配線としての抵抗も低く、ITOを用いて形成した電極との良好なオーミックコンタクトがとれる。なお、ここでは図示しないが、第2の電極1716は外部入力端子であるFPC1709に電気的に接続されている。
【0116】
EL層1700は、少なくとも発光層が設けられており、且つ該発光層が本発明に係る蛍光体を含むものである。すなわち、EL層1700は、蛍光体母体材料中に発光励起材料がまだら状に分散されたコンポジット構造を有する蛍光体を含む層が、少なくとも設けられている。発光層は、バインダー中に本蛍光体が分散された構成とすればよい。EL層1700は、発光層の他にも誘電体層や、電子や正孔を注入或いは輸送するような機能を有する層が設けられていてもよい。第1の電極1713、EL層1700及び第2の電極1716との積層構造で、EL素子1715が形成されている。
【0117】
また、図7(B)に示す断面図ではEL素子1715を1つのみ図示しているが、画素部1702において、複数のEL素子1715がマトリクス状に配置されているものとする。また、複数のEL素子1715は、それぞれ分離して選択的に形成することができる。
【0118】
さらにシール材1705で封止基板1704を素子基板1710と貼り合わせることにより、素子基板1710、封止基板1704、およびシール材1705で囲まれた空間1707にEL素子1715が備えられた構造になっている。なお、空間1707には、不活性気体(窒素やアルゴン等)が充填される場合の他、シール材1705で充填される構成も含むものとする。
【0119】
なお、シール材1705にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの材料はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。また、封止基板1704に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Reinforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、ポリエステルまたはアクリル等からなるプラスチック基板を用いることができる。
【0120】
発光装置は、全面に同じ発光色を発光する発光装置としてもよいが、例えば図7(B)に示すように、封止基板1704側に色変換層1725と遮光層1728とを設けて、RGBカラー(或いはRGBWカラー)表示可能な発光装置、モノクロカラー表示可能な発光装置、或いはエリアカラー表示可能な発光装置を製造することもできる。色変換層1725は、例えば分離されたEL素子1715に合わせて赤色、緑色、青色に変換することができる色変換層を配列させることで、RGBカラー表示を行う発光装置とすることができる。なお、EL素子1715を白色発光する構成とする場合は、色変換層をカラーフィルタに置き換えることも可能である。
【0121】
以上でアクティブマトリクス型の発光装置を製造できる。本発明に係る蛍光体は、効率よく、高輝度にEL発光するように、局所的高電界をつくり出す役割を果たす発光励起材料をまだら状に分散させたコンポジット構造を有する。本蛍光体を用いたEL素子は発光輝度の向上が図られ、その結果、該EL素子を具備する発光装置の高輝度化が実現できる。また、制御の難しい欠陥生成工程を行わずに蛍光体を製造するため、個々の蛍光体の品質ばらつきが低減される。したがって、発光装置の信頼性の向上も図られている。
【0122】
なお、本実施の形態は、本明細書で示す他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせることができる。
【0123】
(実施の形態4)
実施の形態3に示した発光装置は、本発明に係る蛍光体を用いることにより、高輝度化を実現することができる。したがって、本蛍光体を用いた発光装置を各種表示装置や電子機器の表示部として実装することにより、明るい表示をさせることができる。また、本発明に係る蛍光体は、制御の難しい欠陥生成工程を行わずに製造できるため、品質のばらつきの少ない蛍光体を提供できる。したがって、発光装置の信頼性を高めることができる。
【0124】
本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は、電子機器の表示部や、大画面の表示装置に適用することができる。例えば、ビデオカメラ、デジタルカメラ等のカメラ、ゴーグル型ディスプレイ、ナビゲーションシステム、音響再生装置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、コンピュータ、ゲーム機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話、携帯型ゲーム機または電子書籍等)、記録媒体を備えた画像再生装置(具体的にはDigital Versatile Disc(DVD)等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうる表示装置を備えた装置)などが挙げられる。これらの電子機器の具体例を図21(A)〜図21(D)に示す。
【0125】
図21(A)はテレビ装置の一例を示しており、筐体9101、支持台9102、表示部9103、スピーカー部9104、ビデオ入力端子9105等で構成される。テレビ装置において、例えば表示部9103に本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を用いることができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本テレビ装置は明るく鮮明な画像表示を行うことができる。
【0126】
図21(B)はコンピュータの一例を示しており、本体9201、筐体9202、表示部9203、キーボード9204、外部接続ポート9205、ポインティングデバイス9206等で構成される。コンピュータにおいて、例えば表示部9203は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を適用することができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本コンピュータは明るく鮮明な表示を行うことができる。
【0127】
図21(C)は携帯電話の一例を示しており、本体9401、筐体9402、表示部9403、音声入力部9404、音声出力部9405、操作キー9406、外部接続ポート9407、アンテナ9408等で構成される。携帯電話において、例えば、表示部9403は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を適用することができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本携帯電話は明るく鮮明な表示を行うことができる。
【0128】
図21(D)はカメラの一例を示しており、本体9501、表示部9502、筐体9503、外部接続ポート9504、リモコン受信部9505、受像部9506、バッテリー9507、音声入力部9508、操作キー9509、接眼部9510等で構成される。カメラにおいて、例えば表示部9502は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を適用することができる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は高輝度化が図られており、本カメラは明るく鮮明な表示を行うことができる。
【0129】
以上の様に、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置の適用範囲は極めて広く、この発光装置をあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を用いることにより、明るい表示を行うことができる表示部を有する電子機器を提供することが可能となる。
【0130】
また、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置は、発光輝度の高いEL素子を有しており、照明装置や光源として用いることもできる。本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を光源として用いる一例を、図22に示す。
【0131】
図22は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置をバックライトとして用いた液晶表示装置の一例である。図22に示した液晶表示装置は、筐体501、液晶層502、バックライト503、筐体504を有し、液晶層502は、ドライバーIC505と接続されている。また、バックライト503は、本発明に係る蛍光体を用いた発光装置が用いられおり、端子506により、電流が供給されている。
【0132】
本発明に係る蛍光体を用いた発光装置を液晶表示装置のバックライトとして用いることにより、明るいバックライトが得られる。
【実施例1】
【0133】
以下、実施例に基づき本発明に係る蛍光体及びEL素子について説明する。
【0134】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した。ZnS:Mnは、付活剤であるMn(0.104mg)でZnS(24.080g)が予め活性化された材料である。
【0135】
それぞれ秤量したZnS:Mn粉末、ZnO粉末を、Φ2mmのZrO製ボール;90gと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により回転数300rpmで60分間混合、粉砕した。遊星ポットミルにZrO製ボールを入れて回転することで、混合するとともに材料の粉砕を行った。
【0136】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通してZrO製ボールを取り除いた。そして、フルイを通して得られた混合物を、Ar雰囲気下で、加圧力40MPa、焼成温度950℃の条件で、ホットプレス法で60分間加圧焼成した。このとき、混合物はペレットに成型した。
【0137】
得られた焼成ペレットを乳鉢で粉砕した後、50μmの開口を持つフルイを通すことで分級し、蛍光体粉末を得た。
【0138】
得られた蛍光体粉末の中から、一の蛍光体粒子をFIB(収束イオンビーム加工観察装置;Focused Ion Beam system)にて粒子断面が観察できるように加工した。粒子断面のSIM像を図8(A)に、当該図8(A)の部分拡大像を図8(B)に示す。なお、以降に示すSIM像において、白領域はZnOが該当し、黒領域はZnSが該当することがSTEM−EDXによって確認された。以上のことから、図8より、ZnS中にZnOがまだら状に分散されたコンポジット構造が形成されていることが確認できた。
【0139】
以上のように、付活剤を添加して蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合して加圧焼成する手順によって、本発明に係る蛍光体を製造した。本発明に係る蛍光体の製造方法には、外部から応力等を付与して内部に結晶欠陥をつくる欠陥生成工程がない。
【0140】
上記蛍光体を用いて、EL素子を製造した。以下、図20を用いて、説明する。
【0141】
まず、ガラス基板202上にスパッタリング法により110nmとなるようにITOを成膜し、第1の電極204とした。
【0142】
次に、シアノレジンを溶解させたN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として、上記で製造した蛍光体粉末を分散させて分散溶液を作製した。前記分散溶液を第1の電極204上に塗布した後、120℃で30分間乾燥させ、発光層206を形成した。なお、前記分散溶液は、DMF;0.070g、シアノレジン;0.033gに対して上記蛍光体粉末;0.100gを加えて作製した。また、発光層206の膜厚は、約50μmとなるように形成した。
【0143】
次に、シアノレジンを溶解させたDMFを溶媒として、チタン酸バリウムを分散させた分散溶液を発光層206上に塗布した後、120℃で60分間乾燥させて誘電体層208を形成した。なお、前記分散溶液は、DMF;1.800g、シアノジレン;1.000gに対してチタン酸バリウム;3.000gを加えて作製した。また、誘電体層208の膜厚は約15μmとなるように形成した。
【0144】
Agペーストを誘電体層208上に塗布した後、120℃で60分間乾燥させて第2の電極210を形成した。
【0145】
以上のようにして、第1の電極204と第2の電極210との間に、発光層206、誘電体層208と、を有するEL素子200を得た。EL素子200は分散型EL素子の一例であり、発光層206には本発明に係る蛍光体が分散されている。
【0146】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約171.9cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約171.9cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図9参照)。
【実施例2】
【0147】
本実施例では、上記実施例1で得られた蛍光体を酸性の溶液で洗浄した例について説明する。
【0148】
上記実施例1で得られた蛍光体粉末を酢酸水溶液(1.74mol%)で10分間洗浄した。そして、前記酢酸水溶液で洗浄した蛍光体粉末を純水で洗浄した。蛍光体粉末を洗浄した液が中性になるまで純水洗浄を行った後、乾燥させた。
【0149】
乾燥させた蛍光体粉末の中から、一の蛍光体粒子をFIBにて粒子断面が観察できるように加工した。粒子断面のSIM像を図10(A)に、該図10(A)の部分拡大像を図10(B)示す。図10より、ZnS中にZnOがまだら状に分散されたコンポジット構造が形成されていることが確認できた。また、蛍光体粒子表面近傍に空洞部が確認できた。空洞部は、ZnSに該当する黒領域よりも濃い黒領域として観察された。ここで観察される空洞部は、酢酸水溶液洗浄によりZnOがエッチングされて形成されたものと推定される。
【0150】
上記蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。具体的には、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造した。発光層206に本実施例2で得られる蛍光体を分散させるものとし、その他の素子構造及び製造方法は実施例1と同様としたため、ここでは省略する。
【0151】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約204.7cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜400Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約204.7cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図11参照)。
【0152】
以上より、EL素子の発光層に用いる蛍光体は、加圧焼成して得られた後、洗浄して表面の発光励起材料を取り除くことで、EL発光輝度を向上させることができることが確認できた。
【実施例3】
【0153】
本実施例では、付活剤としてAgを用いた例について説明する。
【0154】
蛍光体母体材料としてZnS:Ag粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した。ZnS:Agは、付活剤であるAg(化成オプトニクス社製)でZnSが予め活性化された材料である。原料以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0155】
混合、加圧焼成、粉砕、及び分級等を経て、得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子についても、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例3で得られる蛍光体粉末を分散させた。
【0156】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約1.4cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約1.4cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図12参照)。
【実施例4】
【0157】
本実施例では、付活剤としてCuClを用いた例について説明する。
【0158】
蛍光体母体材料としてZnS:CuCl粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した。ZnS:CuClは、付活剤であるCuCl(シルバニア社製)でZnSが予め活性化された材料である。原料以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0159】
混合、加圧焼成、粉砕、分級等を経て、得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子についても、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例4で得られる蛍光体を分散させた。
【0160】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、最高で約25.1cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約25.1cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図13参照)。
【実施例5】
【0161】
本実施例では、発光励起材料としてIn2O3を用いた例について説明する。
【0162】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;22.981g、発光励起材料としてIn2O3粉末;7.019gをそれぞれ秤量した。原料以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0163】
混合、加圧焼成、粉砕、分級等を経て、得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子についても、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例5で得られる蛍光体を分散させた。
【0164】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約20.3cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜400Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約20.3cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図14参照)。
【実施例6】
【0165】
本実施例では、上記実施例と異なる加圧焼成温度で、蛍光体を製造する例について説明する。
【0166】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;24.184g、発光励起材料としてZnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した後、上記実施例1と同様に、ZrO製ボールと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により混合、粉砕した。混合、粉砕は、回転数300rpmで60分間行った。
【0167】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通して、ZrO製ボールを取り除いた後、フルイを通して得られた混合物をAr雰囲気下で、加圧力40MPa、焼成温度1150℃の条件で、ホットプレス法で60分間加圧焼成した。混合物はペレットに成型した。
【0168】
得られた焼成ペレットは、上記実施例1と同様に、粉砕した後に50μmの開口を持つフルイを通して分級した。得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子は、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例6で得られる蛍光体を分散させた。
【0169】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約24.5cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜400Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約24.5cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図15参照)。
【実施例7】
【0170】
本実施例では、発光励起材料としてZnMnOを用いた例について説明する。
【0171】
まず、ZnO粉末;14.342g、MnO粉末;0.658gをそれぞれ秤量した後、Φ2mmのZrO製ボール;90gと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により回転数300rpmとして60分間混合、粉砕した。
【0172】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通して、ZrO製ボールを取り除いた後、フルイを通して得られた混合物を窒素雰囲気下で焼成温度1150℃にて180分間焼成し、酸化亜鉛マンガン固溶体であるZnMnOを得た。ここで得られたZnMnOを発光励起材料として用いた。
【0173】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;24.184g、発光励起材料としてZnMnO粉末;5.816gをそれぞれ秤量した後、先と同様にΦ2mmのZrO製ボール;90gと一緒に遊星ポットミルに入れ、湿式法により回転数300rpmとして60分間混合、粉砕した。
【0174】
得られた混合物を乾燥させ、1mmの開口を持つフルイに通して、ZrO製ボールを取り除いた後、フルイを通して得られた混合物をAr雰囲気下で、加圧力40MPa、焼成温度1150℃の条件で、ホットプレス法で60分間加圧焼成した。混合物はペレットに成型した。
【0175】
得られた焼成ペレットは、上記実施例1と同様に、粉砕した後に50μmの開口を持つフルイを通して分級した。得られた蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子は、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例7で得られる蛍光体を分散させた。
【0176】
製造したEL素子に対し、400V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、約73.3cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、周波数0Hz〜50kHzまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約73.3cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図16参照)。
【実施例8】
【0177】
本実施例では、上記実施例1と異なる割合で蛍光体母体材料と、発光励起材料と、を混合した例について説明する。
【0178】
蛍光体母体材料としてZnS:Mn粉末;16.346g、発光励起材料としてZnO粉末;13.654gをそれぞれ秤量した。原料となるZnS:Mn粉末と、ZnO粉末の分量以外の蛍光体の製造方法は実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0179】
混合、加圧焼成、粉砕、及び分級等を経て、得られた蛍光体粉末の中から、一の蛍光体粒子をFIBにて粒子断面が観察できるように加工した。粒子断面のSIM像を図17に示す。図17より、ZnS中にZnOがまだら状に分散されたコンポジット蛍光体が形成されていることが確認できた。
【0180】
上記蛍光体粉末を用いて、EL素子を製造した。EL素子は、上記実施例1の図20と同様に分散型EL素子を製造し、発光層206に本実施例8で得られる蛍光体を分散させた。
【0181】
製造したEL素子に対し、360V、50kHzの正弦波交流電圧を印加してEL発光させたところ、最高で約25cd/m2のEL発光輝度を得た。具体的には、電圧0V〜360Vまでの範囲で、EL発光輝度が0cd/m2〜約25cd/m2へ非線形的に上昇する特性であった(図18参照)。
【0182】
また、製造したEL素子を、FIBにて素子断面が観察できるように加工した。素子断面のSIM像を図19に示す。図19には、ガラス基板1901、発光層1903、誘電体層であるチタン酸バリウム1905が順次形成された積層構造が示されている。なお、ガラス基板と発光層との間にITO電極が形成されているが、膜厚が110nmと薄いため、判別できない。図19より、発光層中に蛍光体粒子1907が分散されていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】本発明に係る蛍光体の一例の模式図である。
【図2】本発明に係る蛍光体の製造方法の一例を説明するフロー図である。
【図3】本発明に係るEL素子の一例の断面の模式図である。
【図4】本発明に係るパッシブマトリクス型の発光装置の一例の上面図及び断面図である。
【図5】本発明に係るパッシブマトリクス型の発光装置の一例の斜視図である。
【図6】本発明に係るパッシブマトリクス型の発光装置の一例の上面図である。
【図7】本発明に係るアクティブマトリクス型の発光装置の一例の上面図及び断面図である。
【図8】実施例1の蛍光体粒子の断面SIM像である。
【図9】実施例1のEL素子の特性を示す図である。
【図10】実施例2の蛍光体粒子の断面SIM像である。
【図11】実施例2のEL素子の特性を示す図である。
【図12】実施例3のEL素子の特性を示す図である。
【図13】実施例4のEL素子の特性を示す図である。
【図14】実施例5のEL素子の特性を示す図である。
【図15】実施例6のEL素子の特性を示す図である。
【図16】実施例7のEL素子の特性を示す図である。
【図17】実施例8の蛍光体粒子の断面SIM像である。
【図18】実施例8のEL素子の特性を示す図である。
【図19】実施例8のEL素子の一部の断面SIM像である。
【図20】実施例1〜8のEL素子の構成を示す模式図である。
【図21】本発明に係る電子機器の例の斜視図である。
【図22】本発明に係る発光装置を光源として用いた液晶表示装置の分解図の一例である。
【符号の説明】
【0184】
100 蛍光体
102 蛍光体母体材料
104 発光励起材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体母体材料と、
前記蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、前記蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、
を含み、
前記発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選ばれた一の材料であることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
蛍光体母体材料と、
前記蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、前記蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、
を含み、
前記発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選ばれた一の材料であり、
表面は前記蛍光体母体材料であることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記発光励起材料は、前記蛍光体母体材料と前記発光励起材料を含む粒子よりも平均中心粒径の小さい発光励起材料粒子により構成されていることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
請求項3において、
前記発光励起材料粒子の一は、他の前記発光励起材料粒子と連続していることを特徴とする蛍光体。
【請求項5】
請求項3において、
前記発光励起材料粒子の一は、他の前記発光励起材料粒子の一と分離していることを特徴とする蛍光体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化チタン、三酸化コバルト、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム、三酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化ストロンチウムルテニウム、酸化ストロンチウムイリジウム、又は酸化バリウム鉛であることを特徴とする蛍光体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体は、酸化亜鉛であることを特徴とする蛍光体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一において、
前記周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体は、リン化インジウムであることを特徴とする蛍光体。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一において、
前記蛍光母体材料は、前記発光励起材料と固溶しない材料であることを特徴とする蛍光体。
【請求項10】
蛍光体母体材料と、
金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、
を原料として混合し、
得られた混合物を加圧焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項11】
蛍光体母体材料と、
金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、
を混合し、
得られた混合物を加圧焼成し、
得られた焼成物を、中性、酸性、若しくは塩基性の溶液又は気体にさらすことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11において、
前記加圧焼成は、ホットプレス法、熱間等方加圧法、放電プラズマ焼結法、又は衝撃法により行うことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項13】
請求項10乃至請求項12のいずれか一において、
前記原料の混合は、湿式法により混合するとともに得られる混合材料の粒径を小さく粉砕することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項1】
蛍光体母体材料と、
前記蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、前記蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、
を含み、
前記発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選ばれた一の材料であることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
蛍光体母体材料と、
前記蛍光体母体材料中にまだら状に分散され、前記蛍光体母体材料と分離している発光励起材料と、
を含み、
前記発光励起材料は、金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体から選ばれた一の材料であり、
表面は前記蛍光体母体材料であることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記発光励起材料は、前記蛍光体母体材料と前記発光励起材料を含む粒子よりも平均中心粒径の小さい発光励起材料粒子により構成されていることを特徴とする蛍光体。
【請求項4】
請求項3において、
前記発光励起材料粒子の一は、他の前記発光励起材料粒子と連続していることを特徴とする蛍光体。
【請求項5】
請求項3において、
前記発光励起材料粒子の一は、他の前記発光励起材料粒子の一と分離していることを特徴とする蛍光体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化チタン、三酸化コバルト、酸化コバルト、酸化タングステン、酸化モリブデン、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、酸化インジウム−酸化スズ、酸化インジウム、三酸化レニウム、酸化ルテニウム、酸化ストロンチウムルテニウム、酸化ストロンチウムイリジウム、又は酸化バリウム鉛であることを特徴とする蛍光体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
前記周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体は、酸化亜鉛であることを特徴とする蛍光体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一において、
前記周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体は、リン化インジウムであることを特徴とする蛍光体。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一において、
前記蛍光母体材料は、前記発光励起材料と固溶しない材料であることを特徴とする蛍光体。
【請求項10】
蛍光体母体材料と、
金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、
を原料として混合し、
得られた混合物を加圧焼成することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項11】
蛍光体母体材料と、
金属酸化物、周期表第2B族(第12族)元素と周期表第6B族(第16族)元素とからなる半導体、又は周期表第3B族(第13族)元素と周期表第5B族(第15族)元素とからなる半導体を含む発光励起材料と、
を混合し、
得られた混合物を加圧焼成し、
得られた焼成物を、中性、酸性、若しくは塩基性の溶液又は気体にさらすことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11において、
前記加圧焼成は、ホットプレス法、熱間等方加圧法、放電プラズマ焼結法、又は衝撃法により行うことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項13】
請求項10乃至請求項12のいずれか一において、
前記原料の混合は、湿式法により混合するとともに得られる混合材料の粒径を小さく粉砕することを特徴とする蛍光体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図8】
【図10】
【図17】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図20】
【図21】
【図22】
【図8】
【図10】
【図17】
【図19】
【公開番号】特開2009−74080(P2009−74080A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220652(P2008−220652)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】
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