蛍光体材料および発光装置
【課題】 耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができ、かつ、コーティングによる特性劣化を抑制することができる蛍光体材料および発光装置を提供する。
【解決手段】 蛍光体粒子11と、この蛍光体粒子11の表面を被覆する被覆層12とを有し、被覆層12は、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子12Aが積層された構造を有している。微粒子の最大粒子径は50nm以下であることが好ましく、微粒子12Aは厚み方向に3粒子層以上積層されていることが好ましい。
【解決手段】 蛍光体粒子11と、この蛍光体粒子11の表面を被覆する被覆層12とを有し、被覆層12は、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子12Aが積層された構造を有している。微粒子の最大粒子径は50nm以下であることが好ましく、微粒子12Aは厚み方向に3粒子層以上積層されていることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子の表面に被覆層を有する蛍光体材料およびそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶テレビのバックライトまたは次世代照明としてLEDランプに注目が集まっている。LEDランプを白色に発光させるためには、LED素子自体の発光を赤・青・緑等の蛍光体の塗布または練りこまれたレンズを通し、蛍光体からの発光を重ね合わせることにより白色を得る必要がある。しかし、蛍光体は水分、熱、あるいは紫外線に曝露されると、発光特性が低下してしまうという弱点を有している。そこで、それらの外因から保護するために、蛍光体粒子を金属酸化物の被膜でコーティングする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2009−137727号
【特許文献2】特開2008−291251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コーティングの方法は各種あるが、その中の一つにゾルゲル法がある(特許文献1参照)。しかしながら、ゾルゲル法の場合、蛍光体粒子の表面に前駆体膜を形成したのち、酸化雰囲気により熱処理をして金属酸化物の被膜を形成するので、蛍光体の種類によっては、熱処理により特性の低下などの影響が生じてしまう場合があった。
【0005】
また、他のコーティング方法としては、金属酸化物の微粒子を用いて蛍光体の表面をコーティングする方法もある(特許文献2参照)。この方法によれば、金属酸化物の微粒子を用いているので、酸化雰囲気での熱処理は必要なく、熱処理による特性の低下の問題は発生しない。しかしながら、一般に、この方法を用いた場合には、蛍光体粒子全面をコーティングすることは困難であり、電子顕微鏡レベルで観察すると、蛍光体の露出部分が確認される。また、一見一様にコーティングされている場合でも、金属酸化物の微粒子の界面から水分または紫外線が透過し、寿命が短くなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができ、かつ、コーティングによる特性劣化を抑制することができる蛍光体材料および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体材料は、蛍光体粒子と、この蛍光体粒子の表面を被覆した被覆層とを有し、被覆層は、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子が積層された構造を有するものである。
【0008】
本発明の発光装置は、本発明の蛍光体材料を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体材料によれば、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子を積層した構造を有する被覆層を備えるようにしたので、蛍光体粒子の全面を実質的に被覆することができると共に、微粒子の界面から水分または紫外線が透過してしまうことを抑制することができる。よって、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができ、時間の経過による輝度維持率を向上させることができる。また、微粒子を積層した構造としたので、蛍光体粒子が劣化する温度で熱処理をしなくても製造することができ、熱処理による特性の低下を防止することができる。よって、初期輝度の低下を抑制することができ、高い特性を得ることができる。従って、本発明の蛍光体材料を用いた発光装置によれば、優れた特性を得ることができると共に、長寿命化を図ることができる。
【0010】
特に、微粒子の最大粒子径を50nm以下とするようにすれば、蛍光体粒子をより安定して被覆することができ、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0011】
また、被覆層は、微粒子が厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有するようにすれば、水分または紫外線の透過をより効果的に抑制することができ、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができる。
【0012】
更に、被覆層の厚みを、10nm以上1μm以下とするようにすれば、優れた耐水性を得ることができると共に、高い透過性を得ることができる。
【0013】
加えて、被覆層は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含むようにすれば、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0014】
更にまた、被覆層は、イットリウム(Y),ガドリニウム(Gd),セリウム(Ce)およびランタン(La)からなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物を含むようにすれば、より高い特性を得ることができ、また、コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蛍光体材料の構成を表す模式図である。
【図2】図1の蛍光体材料を用いた発光装置の構成を表す図である。
【図3】実施例1の蛍光体材料のSEM写真である。
【図4】実施例1で用いた蛍光体粒子のSEM写真である。
【図5】実施例1の蛍光体材料のTEM写真である。
【図6】図5の蛍光体材料の拡大写真である。
【図7】比較例1−2の蛍光体材料のTEM写真である。
【図8】実施例1および比較例1−1,1−2の輝度維持率を示す特性図である。
【図9】実施例3の蛍光体材料のTEM写真である。
【図10】実施例3の輝度維持率を示す特性図である。
【図11】実施例4の蛍光体材料のSEM写真である。
【図12】比較例4の蛍光体材料のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施の形態に係る蛍光体材料10を模式的に表したものである。この蛍光体材料10は、蛍光体粒子11と、蛍光体粒子11の表面を被覆する被覆層12とを有している。
【0018】
蛍光体粒子11としては、例えば、BaMgAl10O17:Eu,ZnS:Ag,Cl,BaAl2S4:EuあるいはCaMgSi2O6:Euなどの青色系蛍光体、Zn2SiO4:Mn,(Y,Gd)BO3:Tb,ZnS:Cu,Alあるいは(Ba,Sr,Mg)O・aAl2O3:Mnなどの緑色系蛍光体、(Y,Gd)BO3:Eu,Y2O2S:EuあるいはYPVO4:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。蛍光体粒子11の粒子径は、基本的には問わないが、平均粒子径が5μmから20μm程度で、粒子径はできるだけ揃っていた方が好ましい。特性を安定させることができるからである。
【0019】
被覆層12は、蛍光体粒子11の表面に、平均粒子径が40nm以下の微粒子12Aが積層された構造を有している。これにより、蛍光体粒子11の表面全体を実質的に被覆することができると共に、微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過してしまうことを抑制することができるようになっている。また、蛍光体粒子11が劣化する温度で熱処理をしなくても製造することができるので、熱処理による特性の低下がなく、高い特性を得ることができるようになっている。なお、本発明において、被覆層12が蛍光体粒子11の表面全体を被覆しているというのは、空孔などの欠陥が存在する場合までも排除するものではなく、実質的に100%近くの被覆率であることを意味している。また、微粒子12Aの平均粒子径というのは、一次粒子の平均粒子径のことである。
【0020】
微粒子12Aの平均粒子径は、例えば、30nm以下であればより好ましく、25nm以下であれば更に好ましい。また、微粒子12Aの平均粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であればより好ましい。微粒子12Aの平均粒子径があまり小さいと、粗大な二次凝集粒子が発生し、蛍光体粒子11を均一に被覆することが難しくなるからである。なお、微粒子12Aの平均粒子径は、蛍光体粒子11の平均粒子径の1/100以下から1/500以下程度であることが好ましい。被覆層12をより安定して形成することができるからである。
【0021】
微粒子12Aの最大粒子径は、例えば、50nm以下であることが好ましい。50nmよりも大きい粒子が存在すると、蛍光体粒子11が露出する欠陥が生じやすくなるからである。微粒子12Aの最大粒子径は、例えば、40nm以下であればより好ましく、30nm以下であれば更に好ましい。
【0022】
また、被覆層12は、微粒子12Aが厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有していることが好ましい。微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過してしまうことをより効果的に抑制することができるからである。被覆層12の厚みは、10nm以上1μm以下であることが好ましい。厚みが薄いと耐水性および耐紫外線の効果が少なくなり、蛍光体粒子11が劣化し、厚みが厚いと、光透過性が低下して発光効率が低下してしまうからである。
【0023】
被覆層12は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウム・アルミニウム・ガーネットなどのイットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウム,およびMgAl2O4などのアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を主成分として含んでいることが好ましい。具体的には、この金属酸化物を含む酸化物粒子を微粒子12の少なくとも一部に含んでいることが好ましい。耐水性および耐紫外光などの特性を向上させることができるからである。中でも、希土類酸化物が好ましく、イットリウム,ガドリニウム,セリウムおよびランタンからなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物がより好ましく、特にY2O3が望ましい。より高い効果を得ることができ、また、コストを抑制することができるからである。
【0024】
被覆層12は、これらの1種を単独で含んでいてもよいが、2種以上を混合して含んでいてもよい。例えば、複数種の酸化物粒子を混合して含んでいてもよく、層状に異なる酸化物粒子を積層して含んでいてもよく、1つの酸化物粒子の中に複数種の酸化物を含んでいてもよい。また、被覆層12は、他の成分を含んでいてもよいが、他の成分の割合は、0.1質量%以下であることが好ましい。他の成分の割合が多くなると、光透過性および耐紫外線が低下してしまうからである。
【0025】
なお、緑色系蛍光体は紫外光による劣化が大きいが、Y2O3により被覆層12を形成すれば、劣化を飛躍的に抑制することができるので好ましい。
【0026】
この蛍光体材料10は、例えば、次のようにして製造するこができる。まず、平均粒子径が40nm以下の微粒子12Aを溶媒に分散させたスラリーを用意し、次に、このスラリーに蛍光体粒子11を混合することにより、または、蛍光体粒子11の流動層内でスラリーを噴霧することにより、蛍光体粒子11の表面にスラリーを塗布する。続いて、塗布層を乾燥させて溶媒を除去し、被覆層12を形成する。その際、熱処理をしなくてもよいが、450℃以下の温度で熱処理をすることが好ましい。蛍光体粒子11の特性の劣化を防止しつつ、被覆層12の密着性を高めることができるからである。熱処理時の雰囲気は、大気雰囲気でも構わないが、熱処理時の酸素に起因する特性劣化を防止するため窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気とすることがより好ましい。また、蛍光体粒子11に対するスラリーの塗布工程および乾燥工程は、2回以上繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すようにすればより好ましい。繰り返すことにより微粒子12Aを確実に3粒子層以上積層することができるからである。但し、3粒子層以上の積層が可能であれば特に塗布回数を複数回に増やす必要は無い。
【0027】
図2は、この蛍光体材料10を用いた発光装置20の一構成例を表わすものである。この発光装置20は、基板21の上に発光素子22が搭載されており、発光素子22は基板21の上に形成された配線23とワイヤ24により電気的に接続されている。また、発光素子22の周りには例えばリフレクタ枠25が形成されており、発光素子22の上には、発光素子22を覆うように封止層26が形成されている。封止層26は、例えば、蛍光体材料10を分散させた樹脂により構成されている。
【0028】
発光素子22には、例えば、励起光として紫外光、青色光、または緑色光を発するものが用いられる。蛍光体材料10としては、例えば、発光素子22から発光された励起光により赤色光を発するもの、青色光を発するもの、緑色光を発するもの、黄色光を発するものなどが、1種類または必要に応じて混合して用いられる。
【0029】
このように本実施の形態によれば、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子12Aを積層した構造を有する被覆層12を備えるようにしたので、蛍光体粒子11の全面を実質的に被覆することができると共に、微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過してしまうことを抑制することができる。よって、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができ、時間の経過による輝度維持率を向上させることができる。また、微粒子12Aを積層した構造としたので、蛍光体粒子11が劣化する温度で熱処理をしなくても製造することができ、熱処理による特性の低下を防止することができる。よって、初期輝度の低下を抑制することができ、高い特性を得ることができる。従って、この蛍光体材料10を用いた発光装置20によれば、優れた特性を得ることができると共に、長寿命化を図ることができる。
【0030】
特に、微粒子12Aの最大粒子径を50nm以下とするようにすれば、蛍光体粒子11をより安定して被覆することができ、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0031】
また、被覆層12は、微粒子が厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有するようにすれば、水分または紫外線の透過をより効果的に抑制することができ、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができる。
【0032】
更に、被覆層12の厚みを、10nm以上1μm以下とするようにすれば、優れた耐水性を得ることができると共に、高い透過性を得ることができる。
【0033】
加えて、被覆層12は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含むようにすれば、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0034】
更にまた、被覆層12は、イットリウム,ガドリニウム,セリウムおよびランタンからなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物を含むようにすれば、より高い特性を得ることができ、また、コストを抑制することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
平均粒子径20nm、最大粒子径50nmの酸化イットリウム(Y2O3)の微粒子12Aを溶媒に分散させたスラリーを用意し、このスラリーに平均粒子径が10μm程度の緑色系の蛍光体粒子11を混合して、蛍光体粒子11の表面にスラリーを塗布した。次いで、スラリーを塗布した蛍光体粒子11を熱処理して乾燥させた。熱処理は、大気中において300℃で2時間、または、窒素雰囲気中において400℃で2時間とした。続いて、乾燥させた蛍光体粒子11について、同様にしてスラリーの塗布工程および乾燥工程をもう1回繰り返し、蛍光体材料10を得た。
【0036】
図3は、得られた蛍光体材料10のSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)写真の一例を表したものであり、図4は、被覆層12を形成する前の蛍光体粒子11のSEM写真の一例を表したものである。また、図5は、得られた蛍光体材料10の表面付近のTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)写真の一例を表したものであり、図6は、図5のTEM写真の一部を拡大したものである。図3および図5に示したように、この蛍光体材料10は、蛍光体粒子11の表面全体に被覆層12が形成されていることが分かる。また、図6に示したように、被覆層12は、蛍光体粒子11の表面に微粒子12Aが平均的に3粒子層以上積層された構造を有していることが分かる。
【0037】
続いて、得られた蛍光体材料10を用い、図2に示したような発光装置20を作製した。発光素子22には紫外光を発するものを用いた。
【0038】
(比較例1−1)
蛍光体粒子に被覆層を形成せずに、そのまま蛍光体材料として用いたことを除き、他は実施例1と同様にして発光装置を作製した。
【0039】
(比較例1−2)
溶媒にイットリウム塩を溶解した溶液に蛍光体粒子11を混合して、蛍光体粒子11の表面に溶液を付着させ、乾燥させてゲル化したのち、大気雰囲気中において500℃で2時間焼成した。蛍光体粒子11には実施例1と同一のものを用いた。図7は、得られた蛍光体材料の表面付近のTEM写真の一例を表したものである。図7において、111で示した部分が蛍光体粒子であり、112で示した部分が被覆層である。なお、蛍光体粒子11および被覆層112の上の白色の部分は、分析時に用いるカーボン膜である。図7に示したように、この蛍光体材料についても、蛍光体粒子111の表面全体に被覆層112が形成されているが、微粒子の積層構造は見られなかった。この蛍光体材料についても、実施例1と同様にして発光装置を作製した。
【0040】
(劣化試験)
実施例1および比較例1−1,1−2の各発光装置20について、発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。図8に実施例1と比較例1−1,1−2の結果を比較して示す。図8において、縦軸は被覆層を形成していない比較例1の初期輝度を100%とした場合の相対的な輝度維持率である。なお、実施例1について、熱処理を大気中において300℃で2時間行ったものと、窒素雰囲気中において400℃で2時間行ったものとは、同様の結果が得られた。
【0041】
図8に示したように、被覆層12が微粒子12Aの積層構造を有する実施例1によれば、被覆層を形成していない比較例1−1に比べて時間による輝度の低下を大幅に抑制することができた。また、比較例1−2では、時間による輝度維持率は高いものの、初期輝度の低下が見られるのに対して、実施例1によれば、初期輝度の低下を大幅に抑制することができた。すなわち、蛍光体粒子11の表面を微粒子12Aの積層構造を有する被覆層12で被覆するようにすれば、時間の経過による輝度維持率を向上させることができると共に、初期輝度の低下を抑制することができ、高い特性を得られることが分かった。
【0042】
(実施例2−1〜2−4,比較例2−1)
微粒子12Aの平均粒子径および最大粒子径を変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料10および発光装置20を作製した。実施例2−1では平均粒子径が40nm、最大粒子径が50nm、実施例2−2では平均粒子径が30nm、最大粒子径が50nm、実施例2−3では平均粒子径が25nm、最大粒子径が50nm、実施例2−4では平均粒子径が20nm、最大粒子径が40nm、比較例2−1では平均粒子径が50nm、最大粒子径が80nmの微粒子12Aを用いた。得られた発光装置20について実施例1と同様にして発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。得られた結果を実施例1および比較例1−1,1−2の結果と共に表1に示す。表1において、2000時間後の輝度維持率というのは、被覆層を形成していない比較例1−1の初期輝度を100%とした場合の相対値である。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示したように、微粒子12Aの平均粒子径が40nm以下において良好な結果が得られた。すなわち、微粒子12Aの平均粒子径を40nm以下とすれば高い特性を得られることが分かった。また、微粒子12Aの最大粒子径が50nm以下において良好な結果が得られた。すなわち、微粒子12Aの最大粒子径を50nm以下とすればより高い特性を得られることが分かった。
【0045】
(実施例3)
スラリーの塗布工程および乾燥工程を1回しか行わなかったことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料10および発光装置20を作製した。得られた蛍光体材料10をTEMにより観察したところ、蛍光体粒子11の表面全体に被覆層12が形成されている様子が確認された。また、被覆層12は、平均的に、微粒子12が1粒子層から3粒子層の間で積層された構造を有していた。図9に得られた蛍光体材料10の表面付近のTEM写真を示す。また、得られた発光装置20について実施例1と同様にして発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。得られた結果を実施例1および比較例1−1の結果と共に表2および図10に示す。表2および図10において、輝度維持率というのは、被覆層を形成していない比較例1−1の初期輝度を100%とした場合の相対値である。
【0046】
【表2】
【0047】
表2および図10に示したように、実施例3では、被覆層12を形成しない比較例1−1に比べて輝度維持率を大幅に向上させることができたものの、実施例1に比べて輝度維持率は低かった。これは、微粒子12Aの積層数が少ないために微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過する場合があるためであると考えられる。すなわち、微粒子12Aを厚み方向において3粒子層以上積層させるようにすれば、より高い特性を得られることが分かった。
【0048】
(実施例4,比較例4)
微粒子12Aの平均粒子径を小粒径側に変化させ、それに付随して最大粒子径が変化したことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料10および発光装置20を作製した。実施例4では平均粒子径が15nm、最大粒子径が40nm、比較例4では平均粒子径が8nm、最大粒子径が30nmの微粒子12Aを用いた。得られた発光装置20について実施例1と同様にして発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。得られた結果を実施例1および比較例1−1の結果と共に表3に示す。表3において、2000時間後の輝度維持率というのは、被覆層を形成していない比較例1−1の初期輝度を100%とした場合の相対値である。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示したように、微粒子12Aの平均粒子径を15nmとした実施例4では、実施例1と同様に良好な結果が得られた。これに対して、微粒子12Aの平均粒子径を8nmとした比較例4では、経時による輝度維持率が著しく低下した。すなわち、微粒子12Aの平均粒子径を10nm以上、好ましくは15nm以上とすれば、高い特性を得られることが分かった。
【0051】
これらの原因を検証するため、実施例4および比較例4で得られた蛍光体材料10についてSEMを用いて観察を行った。図11は実施例4の蛍光体材料10のSEM写真の一例であり、図12は比較例4の蛍光体材料のSEM写真の一例である。図11および図12に示したように、実施例4では一様に微粒子12Aが被覆しているのに対して、比較例4では微粒子12Aが均一に被覆せず、微粒子12Aの凝集体と見られる粗大な二次凝集粒子として付着していることが分かった。すなわち、微粒子12Aの平均粒子径が小さすぎると、蛍光体粒子11を被覆する前に、微粒子12A同士の異常な二次凝集が生じてしまい、蛍光体粒子11を均一に被覆することが難しくなると考えられる。
【0052】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、蛍光体粒子11の表面に微粒子12Aを積層した構造を有する被覆層12を形成したものについて説明したが、蛍光体粒子11に悪影響を与えない他の物質を含む層が更に形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
LEDなどの発光装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10…蛍光体材料、11…蛍光体粒子、12…被覆層、12A…微粒子、20…発光装置、21…基板、22…発光素子、23…配線、24…ワイヤ、25…リフレクタ枠、26…封止層
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子の表面に被覆層を有する蛍光体材料およびそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶テレビのバックライトまたは次世代照明としてLEDランプに注目が集まっている。LEDランプを白色に発光させるためには、LED素子自体の発光を赤・青・緑等の蛍光体の塗布または練りこまれたレンズを通し、蛍光体からの発光を重ね合わせることにより白色を得る必要がある。しかし、蛍光体は水分、熱、あるいは紫外線に曝露されると、発光特性が低下してしまうという弱点を有している。そこで、それらの外因から保護するために、蛍光体粒子を金属酸化物の被膜でコーティングする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2009−137727号
【特許文献2】特開2008−291251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コーティングの方法は各種あるが、その中の一つにゾルゲル法がある(特許文献1参照)。しかしながら、ゾルゲル法の場合、蛍光体粒子の表面に前駆体膜を形成したのち、酸化雰囲気により熱処理をして金属酸化物の被膜を形成するので、蛍光体の種類によっては、熱処理により特性の低下などの影響が生じてしまう場合があった。
【0005】
また、他のコーティング方法としては、金属酸化物の微粒子を用いて蛍光体の表面をコーティングする方法もある(特許文献2参照)。この方法によれば、金属酸化物の微粒子を用いているので、酸化雰囲気での熱処理は必要なく、熱処理による特性の低下の問題は発生しない。しかしながら、一般に、この方法を用いた場合には、蛍光体粒子全面をコーティングすることは困難であり、電子顕微鏡レベルで観察すると、蛍光体の露出部分が確認される。また、一見一様にコーティングされている場合でも、金属酸化物の微粒子の界面から水分または紫外線が透過し、寿命が短くなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができ、かつ、コーティングによる特性劣化を抑制することができる蛍光体材料および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体材料は、蛍光体粒子と、この蛍光体粒子の表面を被覆した被覆層とを有し、被覆層は、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子が積層された構造を有するものである。
【0008】
本発明の発光装置は、本発明の蛍光体材料を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蛍光体材料によれば、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子を積層した構造を有する被覆層を備えるようにしたので、蛍光体粒子の全面を実質的に被覆することができると共に、微粒子の界面から水分または紫外線が透過してしまうことを抑制することができる。よって、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができ、時間の経過による輝度維持率を向上させることができる。また、微粒子を積層した構造としたので、蛍光体粒子が劣化する温度で熱処理をしなくても製造することができ、熱処理による特性の低下を防止することができる。よって、初期輝度の低下を抑制することができ、高い特性を得ることができる。従って、本発明の蛍光体材料を用いた発光装置によれば、優れた特性を得ることができると共に、長寿命化を図ることができる。
【0010】
特に、微粒子の最大粒子径を50nm以下とするようにすれば、蛍光体粒子をより安定して被覆することができ、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0011】
また、被覆層は、微粒子が厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有するようにすれば、水分または紫外線の透過をより効果的に抑制することができ、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができる。
【0012】
更に、被覆層の厚みを、10nm以上1μm以下とするようにすれば、優れた耐水性を得ることができると共に、高い透過性を得ることができる。
【0013】
加えて、被覆層は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含むようにすれば、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0014】
更にまた、被覆層は、イットリウム(Y),ガドリニウム(Gd),セリウム(Ce)およびランタン(La)からなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物を含むようにすれば、より高い特性を得ることができ、また、コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蛍光体材料の構成を表す模式図である。
【図2】図1の蛍光体材料を用いた発光装置の構成を表す図である。
【図3】実施例1の蛍光体材料のSEM写真である。
【図4】実施例1で用いた蛍光体粒子のSEM写真である。
【図5】実施例1の蛍光体材料のTEM写真である。
【図6】図5の蛍光体材料の拡大写真である。
【図7】比較例1−2の蛍光体材料のTEM写真である。
【図8】実施例1および比較例1−1,1−2の輝度維持率を示す特性図である。
【図9】実施例3の蛍光体材料のTEM写真である。
【図10】実施例3の輝度維持率を示す特性図である。
【図11】実施例4の蛍光体材料のSEM写真である。
【図12】比較例4の蛍光体材料のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施の形態に係る蛍光体材料10を模式的に表したものである。この蛍光体材料10は、蛍光体粒子11と、蛍光体粒子11の表面を被覆する被覆層12とを有している。
【0018】
蛍光体粒子11としては、例えば、BaMgAl10O17:Eu,ZnS:Ag,Cl,BaAl2S4:EuあるいはCaMgSi2O6:Euなどの青色系蛍光体、Zn2SiO4:Mn,(Y,Gd)BO3:Tb,ZnS:Cu,Alあるいは(Ba,Sr,Mg)O・aAl2O3:Mnなどの緑色系蛍光体、(Y,Gd)BO3:Eu,Y2O2S:EuあるいはYPVO4:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。蛍光体粒子11の粒子径は、基本的には問わないが、平均粒子径が5μmから20μm程度で、粒子径はできるだけ揃っていた方が好ましい。特性を安定させることができるからである。
【0019】
被覆層12は、蛍光体粒子11の表面に、平均粒子径が40nm以下の微粒子12Aが積層された構造を有している。これにより、蛍光体粒子11の表面全体を実質的に被覆することができると共に、微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過してしまうことを抑制することができるようになっている。また、蛍光体粒子11が劣化する温度で熱処理をしなくても製造することができるので、熱処理による特性の低下がなく、高い特性を得ることができるようになっている。なお、本発明において、被覆層12が蛍光体粒子11の表面全体を被覆しているというのは、空孔などの欠陥が存在する場合までも排除するものではなく、実質的に100%近くの被覆率であることを意味している。また、微粒子12Aの平均粒子径というのは、一次粒子の平均粒子径のことである。
【0020】
微粒子12Aの平均粒子径は、例えば、30nm以下であればより好ましく、25nm以下であれば更に好ましい。また、微粒子12Aの平均粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であればより好ましい。微粒子12Aの平均粒子径があまり小さいと、粗大な二次凝集粒子が発生し、蛍光体粒子11を均一に被覆することが難しくなるからである。なお、微粒子12Aの平均粒子径は、蛍光体粒子11の平均粒子径の1/100以下から1/500以下程度であることが好ましい。被覆層12をより安定して形成することができるからである。
【0021】
微粒子12Aの最大粒子径は、例えば、50nm以下であることが好ましい。50nmよりも大きい粒子が存在すると、蛍光体粒子11が露出する欠陥が生じやすくなるからである。微粒子12Aの最大粒子径は、例えば、40nm以下であればより好ましく、30nm以下であれば更に好ましい。
【0022】
また、被覆層12は、微粒子12Aが厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有していることが好ましい。微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過してしまうことをより効果的に抑制することができるからである。被覆層12の厚みは、10nm以上1μm以下であることが好ましい。厚みが薄いと耐水性および耐紫外線の効果が少なくなり、蛍光体粒子11が劣化し、厚みが厚いと、光透過性が低下して発光効率が低下してしまうからである。
【0023】
被覆層12は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウム・アルミニウム・ガーネットなどのイットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウム,およびMgAl2O4などのアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を主成分として含んでいることが好ましい。具体的には、この金属酸化物を含む酸化物粒子を微粒子12の少なくとも一部に含んでいることが好ましい。耐水性および耐紫外光などの特性を向上させることができるからである。中でも、希土類酸化物が好ましく、イットリウム,ガドリニウム,セリウムおよびランタンからなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物がより好ましく、特にY2O3が望ましい。より高い効果を得ることができ、また、コストを抑制することができるからである。
【0024】
被覆層12は、これらの1種を単独で含んでいてもよいが、2種以上を混合して含んでいてもよい。例えば、複数種の酸化物粒子を混合して含んでいてもよく、層状に異なる酸化物粒子を積層して含んでいてもよく、1つの酸化物粒子の中に複数種の酸化物を含んでいてもよい。また、被覆層12は、他の成分を含んでいてもよいが、他の成分の割合は、0.1質量%以下であることが好ましい。他の成分の割合が多くなると、光透過性および耐紫外線が低下してしまうからである。
【0025】
なお、緑色系蛍光体は紫外光による劣化が大きいが、Y2O3により被覆層12を形成すれば、劣化を飛躍的に抑制することができるので好ましい。
【0026】
この蛍光体材料10は、例えば、次のようにして製造するこができる。まず、平均粒子径が40nm以下の微粒子12Aを溶媒に分散させたスラリーを用意し、次に、このスラリーに蛍光体粒子11を混合することにより、または、蛍光体粒子11の流動層内でスラリーを噴霧することにより、蛍光体粒子11の表面にスラリーを塗布する。続いて、塗布層を乾燥させて溶媒を除去し、被覆層12を形成する。その際、熱処理をしなくてもよいが、450℃以下の温度で熱処理をすることが好ましい。蛍光体粒子11の特性の劣化を防止しつつ、被覆層12の密着性を高めることができるからである。熱処理時の雰囲気は、大気雰囲気でも構わないが、熱処理時の酸素に起因する特性劣化を防止するため窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの不活性雰囲気とすることがより好ましい。また、蛍光体粒子11に対するスラリーの塗布工程および乾燥工程は、2回以上繰り返すことが好ましく、3回以上繰り返すようにすればより好ましい。繰り返すことにより微粒子12Aを確実に3粒子層以上積層することができるからである。但し、3粒子層以上の積層が可能であれば特に塗布回数を複数回に増やす必要は無い。
【0027】
図2は、この蛍光体材料10を用いた発光装置20の一構成例を表わすものである。この発光装置20は、基板21の上に発光素子22が搭載されており、発光素子22は基板21の上に形成された配線23とワイヤ24により電気的に接続されている。また、発光素子22の周りには例えばリフレクタ枠25が形成されており、発光素子22の上には、発光素子22を覆うように封止層26が形成されている。封止層26は、例えば、蛍光体材料10を分散させた樹脂により構成されている。
【0028】
発光素子22には、例えば、励起光として紫外光、青色光、または緑色光を発するものが用いられる。蛍光体材料10としては、例えば、発光素子22から発光された励起光により赤色光を発するもの、青色光を発するもの、緑色光を発するもの、黄色光を発するものなどが、1種類または必要に応じて混合して用いられる。
【0029】
このように本実施の形態によれば、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子12Aを積層した構造を有する被覆層12を備えるようにしたので、蛍光体粒子11の全面を実質的に被覆することができると共に、微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過してしまうことを抑制することができる。よって、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができ、時間の経過による輝度維持率を向上させることができる。また、微粒子12Aを積層した構造としたので、蛍光体粒子11が劣化する温度で熱処理をしなくても製造することができ、熱処理による特性の低下を防止することができる。よって、初期輝度の低下を抑制することができ、高い特性を得ることができる。従って、この蛍光体材料10を用いた発光装置20によれば、優れた特性を得ることができると共に、長寿命化を図ることができる。
【0030】
特に、微粒子12Aの最大粒子径を50nm以下とするようにすれば、蛍光体粒子11をより安定して被覆することができ、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0031】
また、被覆層12は、微粒子が厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有するようにすれば、水分または紫外線の透過をより効果的に抑制することができ、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができる。
【0032】
更に、被覆層12の厚みを、10nm以上1μm以下とするようにすれば、優れた耐水性を得ることができると共に、高い透過性を得ることができる。
【0033】
加えて、被覆層12は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含むようにすれば、耐水性や耐紫外光などの特性をより向上させることができる。
【0034】
更にまた、被覆層12は、イットリウム,ガドリニウム,セリウムおよびランタンからなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物を含むようにすれば、より高い特性を得ることができ、また、コストを抑制することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
平均粒子径20nm、最大粒子径50nmの酸化イットリウム(Y2O3)の微粒子12Aを溶媒に分散させたスラリーを用意し、このスラリーに平均粒子径が10μm程度の緑色系の蛍光体粒子11を混合して、蛍光体粒子11の表面にスラリーを塗布した。次いで、スラリーを塗布した蛍光体粒子11を熱処理して乾燥させた。熱処理は、大気中において300℃で2時間、または、窒素雰囲気中において400℃で2時間とした。続いて、乾燥させた蛍光体粒子11について、同様にしてスラリーの塗布工程および乾燥工程をもう1回繰り返し、蛍光体材料10を得た。
【0036】
図3は、得られた蛍光体材料10のSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)写真の一例を表したものであり、図4は、被覆層12を形成する前の蛍光体粒子11のSEM写真の一例を表したものである。また、図5は、得られた蛍光体材料10の表面付近のTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)写真の一例を表したものであり、図6は、図5のTEM写真の一部を拡大したものである。図3および図5に示したように、この蛍光体材料10は、蛍光体粒子11の表面全体に被覆層12が形成されていることが分かる。また、図6に示したように、被覆層12は、蛍光体粒子11の表面に微粒子12Aが平均的に3粒子層以上積層された構造を有していることが分かる。
【0037】
続いて、得られた蛍光体材料10を用い、図2に示したような発光装置20を作製した。発光素子22には紫外光を発するものを用いた。
【0038】
(比較例1−1)
蛍光体粒子に被覆層を形成せずに、そのまま蛍光体材料として用いたことを除き、他は実施例1と同様にして発光装置を作製した。
【0039】
(比較例1−2)
溶媒にイットリウム塩を溶解した溶液に蛍光体粒子11を混合して、蛍光体粒子11の表面に溶液を付着させ、乾燥させてゲル化したのち、大気雰囲気中において500℃で2時間焼成した。蛍光体粒子11には実施例1と同一のものを用いた。図7は、得られた蛍光体材料の表面付近のTEM写真の一例を表したものである。図7において、111で示した部分が蛍光体粒子であり、112で示した部分が被覆層である。なお、蛍光体粒子11および被覆層112の上の白色の部分は、分析時に用いるカーボン膜である。図7に示したように、この蛍光体材料についても、蛍光体粒子111の表面全体に被覆層112が形成されているが、微粒子の積層構造は見られなかった。この蛍光体材料についても、実施例1と同様にして発光装置を作製した。
【0040】
(劣化試験)
実施例1および比較例1−1,1−2の各発光装置20について、発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。図8に実施例1と比較例1−1,1−2の結果を比較して示す。図8において、縦軸は被覆層を形成していない比較例1の初期輝度を100%とした場合の相対的な輝度維持率である。なお、実施例1について、熱処理を大気中において300℃で2時間行ったものと、窒素雰囲気中において400℃で2時間行ったものとは、同様の結果が得られた。
【0041】
図8に示したように、被覆層12が微粒子12Aの積層構造を有する実施例1によれば、被覆層を形成していない比較例1−1に比べて時間による輝度の低下を大幅に抑制することができた。また、比較例1−2では、時間による輝度維持率は高いものの、初期輝度の低下が見られるのに対して、実施例1によれば、初期輝度の低下を大幅に抑制することができた。すなわち、蛍光体粒子11の表面を微粒子12Aの積層構造を有する被覆層12で被覆するようにすれば、時間の経過による輝度維持率を向上させることができると共に、初期輝度の低下を抑制することができ、高い特性を得られることが分かった。
【0042】
(実施例2−1〜2−4,比較例2−1)
微粒子12Aの平均粒子径および最大粒子径を変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料10および発光装置20を作製した。実施例2−1では平均粒子径が40nm、最大粒子径が50nm、実施例2−2では平均粒子径が30nm、最大粒子径が50nm、実施例2−3では平均粒子径が25nm、最大粒子径が50nm、実施例2−4では平均粒子径が20nm、最大粒子径が40nm、比較例2−1では平均粒子径が50nm、最大粒子径が80nmの微粒子12Aを用いた。得られた発光装置20について実施例1と同様にして発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。得られた結果を実施例1および比較例1−1,1−2の結果と共に表1に示す。表1において、2000時間後の輝度維持率というのは、被覆層を形成していない比較例1−1の初期輝度を100%とした場合の相対値である。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示したように、微粒子12Aの平均粒子径が40nm以下において良好な結果が得られた。すなわち、微粒子12Aの平均粒子径を40nm以下とすれば高い特性を得られることが分かった。また、微粒子12Aの最大粒子径が50nm以下において良好な結果が得られた。すなわち、微粒子12Aの最大粒子径を50nm以下とすればより高い特性を得られることが分かった。
【0045】
(実施例3)
スラリーの塗布工程および乾燥工程を1回しか行わなかったことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料10および発光装置20を作製した。得られた蛍光体材料10をTEMにより観察したところ、蛍光体粒子11の表面全体に被覆層12が形成されている様子が確認された。また、被覆層12は、平均的に、微粒子12が1粒子層から3粒子層の間で積層された構造を有していた。図9に得られた蛍光体材料10の表面付近のTEM写真を示す。また、得られた発光装置20について実施例1と同様にして発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。得られた結果を実施例1および比較例1−1の結果と共に表2および図10に示す。表2および図10において、輝度維持率というのは、被覆層を形成していない比較例1−1の初期輝度を100%とした場合の相対値である。
【0046】
【表2】
【0047】
表2および図10に示したように、実施例3では、被覆層12を形成しない比較例1−1に比べて輝度維持率を大幅に向上させることができたものの、実施例1に比べて輝度維持率は低かった。これは、微粒子12Aの積層数が少ないために微粒子12Aの界面から水分または紫外線が透過する場合があるためであると考えられる。すなわち、微粒子12Aを厚み方向において3粒子層以上積層させるようにすれば、より高い特性を得られることが分かった。
【0048】
(実施例4,比較例4)
微粒子12Aの平均粒子径を小粒径側に変化させ、それに付随して最大粒子径が変化したことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料10および発光装置20を作製した。実施例4では平均粒子径が15nm、最大粒子径が40nm、比較例4では平均粒子径が8nm、最大粒子径が30nmの微粒子12Aを用いた。得られた発光装置20について実施例1と同様にして発光試験を行い、輝度の経時変化を調べた。得られた結果を実施例1および比較例1−1の結果と共に表3に示す。表3において、2000時間後の輝度維持率というのは、被覆層を形成していない比較例1−1の初期輝度を100%とした場合の相対値である。
【0049】
【表3】
【0050】
表3に示したように、微粒子12Aの平均粒子径を15nmとした実施例4では、実施例1と同様に良好な結果が得られた。これに対して、微粒子12Aの平均粒子径を8nmとした比較例4では、経時による輝度維持率が著しく低下した。すなわち、微粒子12Aの平均粒子径を10nm以上、好ましくは15nm以上とすれば、高い特性を得られることが分かった。
【0051】
これらの原因を検証するため、実施例4および比較例4で得られた蛍光体材料10についてSEMを用いて観察を行った。図11は実施例4の蛍光体材料10のSEM写真の一例であり、図12は比較例4の蛍光体材料のSEM写真の一例である。図11および図12に示したように、実施例4では一様に微粒子12Aが被覆しているのに対して、比較例4では微粒子12Aが均一に被覆せず、微粒子12Aの凝集体と見られる粗大な二次凝集粒子として付着していることが分かった。すなわち、微粒子12Aの平均粒子径が小さすぎると、蛍光体粒子11を被覆する前に、微粒子12A同士の異常な二次凝集が生じてしまい、蛍光体粒子11を均一に被覆することが難しくなると考えられる。
【0052】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、蛍光体粒子11の表面に微粒子12Aを積層した構造を有する被覆層12を形成したものについて説明したが、蛍光体粒子11に悪影響を与えない他の物質を含む層が更に形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
LEDなどの発光装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10…蛍光体材料、11…蛍光体粒子、12…被覆層、12A…微粒子、20…発光装置、21…基板、22…発光素子、23…配線、24…ワイヤ、25…リフレクタ枠、26…封止層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子と、この蛍光体粒子の表面を被覆した被覆層とを有し、
前記被覆層は、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子が積層された構造を有することを特徴とする蛍光体材料。
【請求項2】
前記微粒子の最大粒子径は50nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体材料。
【請求項3】
前記被覆層は、前記微粒子が厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光体材料。
【請求項4】
前記被覆層の厚みは、10nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の蛍光体材料。
【請求項5】
前記被覆層は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1に記載の蛍光体材料。
【請求項6】
前記希土類酸化物は、イットリウム(Y),ガドリニウム(Gd),セリウム(Ce)およびランタン(La)からなる群のうちの少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項5に記載の蛍光体材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の蛍光体材料を含む発光装置。
【請求項1】
蛍光体粒子と、この蛍光体粒子の表面を被覆した被覆層とを有し、
前記被覆層は、平均粒子径が10nm以上40nm以下の微粒子が積層された構造を有することを特徴とする蛍光体材料。
【請求項2】
前記微粒子の最大粒子径は50nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体材料。
【請求項3】
前記被覆層は、前記微粒子が厚み方向に3粒子層以上積層された構造を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蛍光体材料。
【請求項4】
前記被覆層の厚みは、10nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載の蛍光体材料。
【請求項5】
前記被覆層は、希土類酸化物,酸化ジルコニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1に記載の蛍光体材料。
【請求項6】
前記希土類酸化物は、イットリウム(Y),ガドリニウム(Gd),セリウム(Ce)およびランタン(La)からなる群のうちの少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項5に記載の蛍光体材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の蛍光体材料を含む発光装置。
【図1】
【図2】
【図8】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図2】
【図8】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−31377(P2012−31377A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38210(P2011−38210)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】
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