説明

蛍光体粒子および波長変換器ならびに発光装置

【課題】半導体超微粒子の表面に格子欠陥が生じることを抑制できる発光効率の高い蛍光体粒子および波長変換器ならびに発光装置を提供することである。
【解決手段】外殻3aを有する殻状体3の中に、光を波長変換する半導体超微粒子5と液体7とを含有してなる発光効率が40%以上の波長変換液9を内包し、殻状体3は、平均粒子径が0.05〜50μmであり、かつ透光性を有する無機物質からなり、波長変換液9の含水率が0.1質量%以下である蛍光体粒子1。この蛍光体粒子1を樹脂で固定してなる波長変換器である。発光素子と、該発光素子からの光を波長変換する前記波長変換器とを具備する発光装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子ディスプレイ用のバックライト電源、蛍光ランプ等の発光装置に好適に用いられる蛍光体に関し、より詳しくは、発光素子から発せられる光を波長変換して外部に取り出すために用いられる蛍光体であり、特に発光効率が高く長期信頼性に優れた蛍光体粒子および波長変換器ならびに発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体材料からなる発光素子(以後、LEDチップと言う)は、小型で電力効率が良く、鮮やかに発色する。LEDチップは、製品寿命が長い、オン・オフ点灯の繰り返しに強い、消費電力が低い、という優れた特徴を有するため、液晶等のバックライト光源や蛍光ランプ等の照明用光源への応用が期待されている。
【0003】
LEDチップの発光装置への応用は、LEDチップの光の一部を蛍光体で波長変換し、当該波長変換された光と波長変換されないLEDの光とを混合して放出することにより、LEDの光とは異なる色を発光する発光装置として既に製造されている。
【0004】
具体的には、白色光を発するために、LEDチップ表面に蛍光体を含む波長変換層を設けた発光装置が提案されている。例えば、nGaN系材料を使った青色LEDチップ上に(Y,Gd)3(Al,Ga)512の組成式で表されるYAG系蛍光体を含むマトリックス層を形成した発光装置では、LEDチップから青色光が放出され、マトリックス層で青色光の一部が黄色光に変化するため、青色と黄色の光が混色して白色を呈する発光装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
通常、蛍光体はマトリックス樹脂に分散させてLEDの光を受けて蛍光を発する構造となる。ここで、LEDの光は青色から低波長側の光であるため、エネルギーが高く、樹脂を劣化させることが予想された。LED用の樹脂としては、低価格のエポキシ樹脂と、耐熱性・光の透過性に優れたシリコーン樹脂とが使われているが、エポキシ樹脂は、主骨格が炭素―炭素結合となるため結合エネルギーが83kcal/モルと低い。
【0006】
一方、シリコーン樹脂のシリコーン酸素結合は108kcal/モルでありエポキシ樹脂よりも強いので、高寿命の目的のためにシリコーン樹脂が使用されるようになって来ている。さらに、LEDの光は青色から低波長側の光であるため、エポキシ樹脂のようにフェニル基等の官能基がある構造では、光を吸収して透過性が悪くなる。このため、光透過性を重視する場合にも、シリコーン樹脂が使われることが多くなって来ている(例えば、特許文献2)。
【0007】
また、半導体粒子の表面積は、現在主に使用されている平均粒子径が数μmの蛍光体の表面積に比べて非常に大きいため、例えば半導体粒子を真球と仮定した場合、体積に対する表面積(比表面積)は粒径2nmのものは粒径2μmのものの1000倍と非常に大きくなる。このため、平均粒子径が10nm以下の半導体粒子と、平均粒子径が数μmの蛍光体に、同じ割合で粒子表面の欠陥が存在する場合、平均粒子径が10nm以下の半導体粒子では波長変換効率が低下することとなる。
【0008】
この粒子表面の欠陥による波長変換効率を向上する目的で、有機アミンなどの有機物を半導体粒子の表面に結合させて表面欠陥を電気化学的に修復し、離散化したバンドギャップエネルギーの準位を安定化し、平均粒子径が10nm以下の半導体粒子の波長変換効率を高める試みが行なわれている(例えば、非特許文献1、特許文献3参照)。
【0009】
この平均粒径0.5から10nmの半導体粒子の合成法には、TOPO、ドデシルアミンなどの水を含まない有機溶媒中で合成を行なうホットソープ法がある他、一方で、水を意図的に存在させた系で合成する逆ミセル法(非特許文献2、3)がある。
【0010】
【特許文献1】特開平11−261114号公報
【特許文献2】特開2000−136275号公報
【特許文献3】特開2005−103746号
【非特許文献1】ドミトリィ ヴィー.タラピン(Dmitri V.Talapin)、アンドレイ エル.ロガッハ(Andrey L.Rogach)、アイヴォ メキス(Ivo Mekis)、ステファン ハウボルト(Stephan Haubold)、アンドレアス コウルノウスキィ(Andreas Kornowski),マルクス ハッセ(Markus Haase)、ホルスト ウェラー(Horst Weller)著、「コロイドと表面,A(Colloids and Surfaces,A)」、2002年、202巻、p.145
【非特許文献2】磯部徹彦,表面化学,22,315,(2001)
【非特許文献3】アギース エイ.ボル(Ageeth A.Bol)、アンドレアス メイジャーリンク(Andries Meijerink)著、「ジャーナル オブ フィジックスケミストリィ B(j.Phys.Chem.B)」、2001年、105巻、p.10197
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、半導体超微粒子を樹脂で保持した場合には、両者の熱膨張係数の差によって半導体超微粒子と樹脂との間に空隙が生じたり、応力が発生することがあり、半導体超微粒子の表面に格子欠陥が生じやすく、半導体超微粒子の発光効率が低下するという問題があった。
【0012】
また、このように水を多量に含んだ含水系溶媒で合成した半導体粒子を非水系溶媒に可溶な状態に変換置換した場合であっても、半導体粒子表面は一旦水と接触しているため、半導体粒子は水と化学反応して半導体粒子の表面が変質し、半導体粒子表面はOH基で被覆された状態となっている。そして、半導体粒子表面のOH基により半導体粒子は親水性が高くなり、波長変換器へ大気から侵入する水分を取り込みやすくなる。また、一旦、半導体粒子の表面に付いた水は除去しがたく、配位子交換の工程で溶媒を置換したとしても、水を半導体粒子表面から完全に除去することは難しい。
【0013】
そのため、水溶液中で合成した半導体粒子を蛍光体粒子として波長変換器に用いる場合には、励起光照射時に半導体粒子が表面に存在する水と化学反応して発光波長変換効率が極端に低下するという問題がある。このような問題は、半導体粒子を生体マーカーなどの用途として用いる場合には、発光効率が低くても検出できる程度の発光効率があれば充分であるため問題にされていない。また、生体マーカーとして用いる場合には、半導体粒子の親水性が高いことも要求されるため、水溶液中で半導体粒子を合成することが常識であり、照明用途に利用できる十分に高い発光効率を有する波長変換器は提供されていない。
【0014】
従って、本発明の課題は、半導体超微粒子の表面に格子欠陥が生じることを抑制できる発光効率の高い蛍光体粒子および波長変換器ならびに発光装置を提供することである。
を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)外殻を有する殻状体の中に、光を波長変換する半導体超微粒子と液体とを含有してなる発光効率が40%以上の波長変換液を内包し、前記殻状体は、平均粒子径が0.05〜50μmであり、かつ透光性を有する無機物質からなり、前記波長変換液の含水率が0.1質量%以下であることを特徴とする蛍光体粒子。
(2)前記液体は、水の溶解度が0.1質量%以下である前記(1)記載の蛍光体粒子。
(3)前記液体が、変性シリコーンオイルまたはジメチルシリコーンオイルの少なくとも1種からなる前記(1)または(2)記載の蛍光体粒子。
(4)前記液体が、オレイルアミンまたはドデシルアミンの少なくとも1種からなる前記(1)または(2)記載の蛍光体粒子。
(5)前記殻状体が、前記半導体超微粒子から発せられた光を50%以上透過する前記(1)〜(4)のいずれかに記載の蛍光体粒子。
(6)前記半導体超微粒子の平均粒子径が10nm以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の蛍光体粒子。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の蛍光体粒子を樹脂で固定してなることを特徴とする波長変換器。
(8)発光素子と、該発光素子からの光を波長変換する前記(7)記載の波長変換器とを具備することを特徴とする発光装置。
【発明の効果】
【0016】
前記(1)によれば、蛍光体粒子の構造を、外殻を有する殻状体の中に、半導体超微粒子と液体を内包した構造とすることで、半導体超微粒子が直接樹脂で固定されない構造となり、半導体超微粒子の表面に格子欠陥が発生することを抑制することができ、半導体超微粒子の発光効率が低下することを抑制することができる。しかも、平均粒径が0.05〜50μmの殻状体で、半導体超微粒子と液体とを保持するので、粉末のように取り扱うことが可能となり、その結果、取り扱い性に優れた蛍光体粒子となる。また、前記殻状体は透光性を有する無機物質からなるので、水分の殻状体内部への侵入を遮断することができると共に、LED等の発光装置から発せられた光を殻状体へ高い効率で入射させ、かつ半導体超微粒子から発せられる蛍光を外部へ効率よく透過させることができる。さらに、半導体超微粒子と液体とを含有してなる波長変換液の含水率を0.1質量%以下とすることで、半導体超微粒子の平均粒子径が例えば10nm以下と比表面積が大きいものであっても、半導体超微粒子が水分により変質することを抑制することができる。このような蛍光体粒子は、実質的に水の無い環境で合成した半導体超微粒子を使用することで発光効率が40%以上と高い波長変換液を作製することができる。
【0017】
前記(2)によれば、水の溶解度が0.1質量%以下の液体を用いるので、該液体が水分を遮断する働きがあるため、水分が半導体超微粒子へ到達するのを防ぐ効果を高めることができる。
前記(3)によれば、液体として、変性シリコーンオイルまたはジメチルシリコーンオイルの少なくとも1種からなるものが、耐熱性に優れることから好適に用いられる。なお、変性シリコーンオイルとは、ジメチルシリコーンオイルやメチルフェニルシリコーンオイルに官能基を結合させ機能付与したものである。
前記(4)によれば、液体として、オレイルアミンまたはドデシルアミンの少なくとも1種からなるものが、極性が高いことから好適に用いられる。
【0018】
前記(5)によれば、前記殻状体が、前記半導体超微粒子から発せられた光を50%以上透過させるので、LED等の発光装置から発せられた光を殻状体へ高い効率で入射させ、かつ半導体超微粒子から発せられる蛍光を外部へ効率よく透過させることができる。
前記(6)によれば、前記半導体超微粒子の平均粒子径を10nm以下にするので、半導体超微粒子のエネルギー準位が離散的となり、半導体超微粒子のバンドギャップエネルギーが半導体超微粒子の粒子径に合わせて変化する。このため、半導体超微粒子の粒子径を10nm以下の範囲において変えることで、赤(長波長)から青(短波長)まで様々な発光を得ることができ、演色性が高く、効率のよい蛍光体を作ることができる。
【0019】
前記(7)によれば、上記の構成の蛍光体粒子を樹脂で固定するので、取り扱いに優れた波長変換器となる。
前記(8)によれば、本発明の発光装置は、発光素子と、該発光素子からの光を波長変換する上記の構成を有する波長変換器とを具備するので、発光効率の低下が抑制された長寿命の発光装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<蛍光体粒子>
以下、本発明の蛍光体粒子の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の蛍光体粒子を示す拡大概略断面図である。図1に示すように、この蛍光体粒子1は、外殻3aを有する殻状体3の中、すなわち空間3b中に、半導体超微粒子5と液体7とを含有してなる波長変換液9を内包している。
【0021】
蛍光体粒子1を上記のような構成とすることで、固体の樹脂で直接、半導体超微粒子を保持する必要がなく、半導体超微粒子の熱膨張係数の差により生じていた樹脂と半導体超微粒子との間の空隙や、発生した応力により生じていた半導体超微粒子の表面の格子欠陥が発生することを抑制することができ、半導体超微粒子の発光効率が低下することを抑制することができる。しかも、水や大気などの雰囲気から半導体超微粒子5を遮断することができるため、半導体超微粒子5が水や大気などの雰囲気により変質し、波長変換機能が損なわれるのを抑制することができる。そして、このようにして構成された蛍光体粒子は高い発光効率を実現することができる。
【0022】
蛍光体粒子1が上記のような構成になっていることの確認は、例えば後述するように、透過型電子顕微鏡(TEM)、エネルギー分散型X線分析(EDS)、及びガスクロマトグラフ測定により確認することができる。
【0023】
(殻状体)
殻状体3は、外殻3aと空間3bから構成され、平均粒子径が0.05μm(50nm)〜50μmである。これにより、半導体超微粒子5の周囲に液体7が存在する形態でありながら、蛍光体粒子1を粉末のように取り扱うことができるため、取り扱い性に優れた蛍光体粒子1となる。前記平均粒子径の下限値は、取り扱い性の点から0.05μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上とすることが望ましい。また、前記平均粒子径の上限値は、光を外部に取り出すという観点から、50μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下とすることが望ましい。前記平均粒子径は、例えば殻状体3(蛍光体粒子1)を粒度分布測定装置(日機装社製の「マイクロトラック」)で測定して得られる値である。
【0024】
殻状体3は、透光性を有する無機物質からなる。これにより、外部から殻状体3内に侵入しようとする水蒸気等の水分を遮断することができると共に、LED等の発光装置から発せられた光を殻状体3へ高い効率で入射させ、かつ半導体超微粒子5から発せられる蛍光を外部へ効率よく透過させることができる。
【0025】
LED等の発光体から発せられた光を殻状体3内部へ効率よく取り込み、半導体超微粒子5で波長を変化させ発光された光を効率よく外部に取り出すためには、前記殻状体3が前記半導体超微粒子5から発せられた光を50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上透過することが好ましい。前記透過の割合を示す値は、透過率であり、該透過率は、波長変換液9を内包していない殻状体3のみを透過率測定装置(日立製作所社製の「分光光度計」)で測定して得られる値である。
【0026】
殻状体3を構成する材料は、透光性を有する無機物質であれば特に限定されるものではなく、例えば以下に例示するような透光性を有するガラス組成物またはセラミックスから選ばれる少なくとも1種からなるのが好ましい。前記ガラス組成物としては、例えばSiO2−CaO−MgO系、SiO2−BaO−Al23系、SiO2−B23系、SiO2−B23−Al23系、SiO2−Al23−アルカリ金属酸化物系、さらにはこれらの系にアルカリ金属酸化物、ZnO、PbO、Pb、ZrO2、TiO2等を配合した組成物が挙げられる。また、前記セラミックスとしては、例えばAl23、SiO2、Y23、MgO、CaO、TiO2、InO2、SnO2、BeO、ZrO2、HfO2、ThO2、Dy23、Ho23、Er23、MgAlO4、SiC、TiC、Si34、TiN等から選ばれる少なくとも1種をふくむセラミックスが挙げられ、更に、透光性セラミックスとして知られているAl23、SiO2、Y23、MgO、CaO、BeO、ZrO2、HfO2、ThO2、Dy23、Ho23、Er23、MgAlO4等から選ばれる少なくとも1種をふくむセラミックスが挙げられる。これらのセラミックスを用いた場合には、水分による特性の劣化が抑制され、しかも、LED等の発光装置から発せられた光を効率よく殻状体3の内部へ取り込み、半導体超微粒子5にて波長を変えて発光された光を殻状体3の外部に効率よく取り出すことができる。
【0027】
上記のような殻状体3の製造方法としては、例えば物理的方法、機械的方法、物理化学的方法、化学的方法等の一般に知られている方法で製造することができる。前記した製造方法のうち、物理化学的方法および化学的方法は、殻状体3の粒径を任意にコントロールし易く、数μm程度の小さいものも容易に製造でき、壁膜の緻密性の高い殻状体3が得られることから、好適に使用できる。
【0028】
特に、物理化学的方法であるコアセルベーション法は、化学的方法が疎水性および親水性溶液両方を使用しなければならないのに対して、疎水性溶液のみから殻状体3を形成できるため最適である。コアセルベーション法の例としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートを溶解するアマニ油溶液にケイ酸ナトリウムを加え、撹拌混合してO/W型乳濁液を調製し、ソルビタンモノステアレートとポリオキシエチレンソルビタンモノオレートの混合物を溶解するベンゼン溶液に上記O/W型乳濁液を加え、振とう混合して、O/W/O型乳濁液を得、塩化カルシウム水溶液に上記O/W/O型乳濁液を撹拌しつつ添加し、反応させる。この方法では、アマニ油を内包する淡黄色のケイ酸カルシウムの殻状体3を作製することができる。
【0029】
(波長変換液)
波長変換液9は、発光効率が40%以上、好ましくは50%以上である。このような高い発光効率は、実質的に水の無い環境で合成した半導体超微粒子5を使用することで実現することができる。前記発光効率とは、後述するように、Labsphere社製の全光束測定システムで測定して得られた値である。
【0030】
具体的には、まず、(A)LEDチップの出力エネルギーを求めるとともに、LEDチップの出力波長の最大値を求める。前記LEDチップは、例えば波長395nmの光を出力するサイズ0.3×0.3mmのIn−Ga−N組成である。次に、(B)波長変換液9を含む蛍光体粒子1を、後述する波長変換器11に調製し、該波長変換器11をLEDチップ上に載せた状態でLEDチップを発光させて波長変換器11に光を照射し、波長変換器11から出力された220〜1100nmの範囲の光を積分球で回収し、その回収エネルギーを求める。そして、(C)このエネルギーのうち、LEDチップの出力波長の最大値以下の波長のエネルギーを未変換のエネルギーとして取り扱う。
【0031】
上記で得られた(A)LEDチップの出力エネルギーと、(B)回収エネルギーと、(C)未変換のエネルギーとを、下記式(I)に当てはめ、算出して得た値を波長変換液9の発光効率とした。
【数1】

【0032】
また、波長変換液9は、半導体超微粒子5と液体7とを含有してなり、含水率が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下であることが重要であり、実質的にほとんど水を含んでいない。これにより、半導体超微粒子5が水分により変質することを抑制することができる。
【0033】
波長変換液9において、半導体超微粒子5と液体7との割合は、半導体超微粒子5の含有量が液体7総量に対して0.01〜10.0質量%、好ましくは0.1〜5.0質量%であるのがよい。また、波長変換液9の含水率を0.1質量%以下とするには、例えば後述する液体7が含有している水分を除去し、液体7の含水率を0.1質量%以下にすればよい。液体7から水分を除去する方法としては、例えば液体7中にモレキュラーシーブを液体7の総量に対して10重量%程度添加して水分を吸着させる方法等が挙げられる。また、半導体超微粒子5も乾燥機等で乾燥させておくのが好ましい。前記含水率は、例えば後述するように、波長変換液9をJIS K 0068に規定されたカールフィッシャー滴定法(水分気化法)で滴定して測定することができる。
【0034】
(半導体超微粒子)
上記した波長変換液9に含まれる半導体超微粒子5は、光を波長変換する機能を有する。半導体超微粒子5の平均粒子径は10nm以下、好ましくは5nm以下であるのがよい。半導体超微粒子5の平均粒子径を10nm以下にすると、LED等の発光装置または半導体超微粒子5自身から発せられた光の散乱を抑制する事ができ、効率よく外部へ光を取り出すことができる。更に、量子効果等を効果的に活用することができる。前記平均粒子径は、例えば後述するように、透過型電子顕微鏡(TEM)[JEOL社製の「JEM2010F」]により、加速電圧200kVで観察して測定することができる。
【0035】
また、前記半導体超微粒子5は370〜420nmの波長の紫外光を吸収し、吸収した紫外光を430〜700nmの可視光へ変換し放出することが好ましく、紫外光から可視光への変換効率が60%以上であることが好ましい。60%を下回る場合には、最適な白色光スペクトルに対して、対応する蛍光体1の蛍光強度が低下することから、半導体超微粒子5から発する出力光の演色性Raの低下が発生すると同時に、出力光の発光効率の低下が起こる。
【0036】
上記のような半導体超微粒子5としては、例えば周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物、周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第9族元素との周期表第16族元素との化合物、周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、周期表第4族元素との周期表第16族元素との化合物、周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、カルコゲンスピネル類等が挙げられる。
【0037】
具体的には、周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(PbS)、セレン化鉛(PbSe)、テルル化鉛(PbTe)等、周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物として、例えば窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等、周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ge2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等、周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物として、例えば塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等、周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等、周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等、周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化銅(I)(Cu2O)等、周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物として、例えば塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、ヨウ化銀(AgI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等、周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化ニッケル(II)(NiO)等、周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等、周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等、周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化マンガン(II)(MnO)等、周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等、周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(II)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等、周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等、周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物として、例えば硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等、カルコゲンスピネル類として、例えば酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等が挙げられる。
【0038】
上記で例示した中でも、特に、AgI等の第11−17族化合物半導体、CdSe、CdS、ZnS、ZnSe等の第12−16族化合物半導体、InAs、InP等の第13−15族化合物半導体を主体とする化合物半導体のいずれかが望ましい。なお、本発明で使用する周期表は、IUPAC無機化学命名法1990年規則に従うものとする。
【0039】
また、本発明の半導体超微粒子5は、前記半導体組成物のバンドギャップエネルギーが、1.5〜2.5eVの範囲であることが好ましい。これにより、半導体超微粒子5がナノサイズ化した場合には、430〜700nmの範囲の可視光領域の蛍光を発現できる。
【0040】
(液体)
上記した波長変換液9に含まれる液体7は、半導体超微粒子5の濃度を適当に調整する機能や、半導体超微粒子5を水や大気などの雰囲気から遮断する機能を備えている。該液体7としては、例えばジメチルシリコーンオイル、変性シリコーンオイル等のシリコーンオイルの他、流動パラフィン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−オクタン、n−デカン、n−ヘキサデカン、n−オクタデカン、ヘキセン、オクテン、デセン、オクタデセン、トルエン、キシレン、ベンジン、オレイルアミン、2−エチルへキサン酸、デカノール等の炭素数6〜20程度の炭化水素を挙げることができ、特に、耐熱性に優れる変性シリコーンオイルまたはジメチルシリコーンオイルが好ましい。
【0041】
また、液体7として極性を有する液体を用いるのが好ましい。これにより、液体7が半導体超微粒子5表面の欠陥補修の効果を果たすことが出来るため、予め半導体超微粒子5の表面の欠陥を有機アミンなどにより補修しなくて済む。また、半導体超微粒子5の表面の欠陥補修をしている有機アミンなどの化合物が脱離した場合にも、半導体超微粒子5の周囲に存在する液体7が、該化合物に代わって半導体超微粒子5表面の欠陥を補修できるため、長期の使用に対しても半導体超微粒子5の表面の欠陥補修は損なわれることがなく、長期にわたり安定した蛍光体粒子1とすることができる。
【0042】
具体的には、例えば半導体超微粒子5表面に欠陥補修効果のある有機アミンなどを予め結合せず、半導体超微粒子5を混合する分散媒にアミノ基をグラフトして導入した極性を持つ分散媒を用いる、あるいは極性のない液体に極性のある化合物を溶解するなどして、分散媒に直接欠陥補修の作用を持たせることが可能である。
【0043】
上記のような極性を持つ液体としては、例えばキシレン、トルエン、オレイルアミン、ドデカンチオール、オレイン酸、変性シリコーンオイル、2−エチルへキサン酸等が挙げられる。また、極性のない液体に極性のある化合物を溶解する例としては、例えばオクタデセンとオレイン酸を組み合わせる、あるいはオクタデセンとオクタデシルアミンを組み合わせる、あるいはシリコーンオイルと変性シリコーンオイルを組み合わせるといったことが可能である。特に、本発明では、高い極性を有するオレイルアミンまたはドデシルアミンが好ましい。
【0044】
また、液体7は、複数の種類の半導体超微粒子5あるいは半導体超微粒子5と半導体超微粒子5以外の蛍光体、その他例えば屈折率を調整するための機能性材料粒子とを組み合わせて波長変換器を構成する場合にはこれらが偏り、あるいは凝集することなく保持する機能を備えていることが望ましい。
【0045】
さらに、液体7は、LEDチップが出力した光が半導体超微粒子5まで届く光路、および半導体超微粒子5が波長変換した光が発光装置外部へ出るまでの光路となるため、これらの光の透過率が高いことが望ましい。また、LEDチップが出力した光やおよび半導体超微粒子5が波長変換した光、あるいはLEDチップが発生した熱により変質しないことが望ましい。また、この液体7は、単一の成分からなる必要は無く、複数の成分からなるものでもよい。
【0046】
液体7は、水の溶解度が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.02質量%以下であるのがよい。液体7の水の溶解度は、長期的な波長変換効率の低下に影響するものであり、水の溶解度を所定の値以下とすることで、水が液体7を経由して半導体超微粒子5に接触することを抑制することができる。なお、本発明における前記水の溶解度とは、25℃における液体7に溶解する水の質量%を意味する。
【0047】
<波長変換器>
次に、本発明の波長変換器の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図2は、本実施形態にかかる波長変換器を示す概略断面図である。なお、図2においては、前述した図1の構成と同一または同等な部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0048】
図2に示すように、この波長変換器11は、上記で説明した蛍光体粒子1をマトリックスである樹脂13で固定している。このマトリックスとして用いる樹脂13は、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリアリレート、さらにこれら材料の誘導体などが好適に用いられる。
【0049】
また、樹脂13は光透過性を有していることが好ましい。このような透明性に加え、耐熱性の観点から、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂がより好適に用いられる。シリコーン樹脂としては、直鎖状であっても架橋構造であってもよく、特に限定されない。また、シリコーン樹脂の珪素と結合している置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等の炭素数1〜20程度のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基等の芳香族炭化水素基を含有する炭化水素基等が例示され、中でもメチル基、エチル基等の炭素数の少ない直鎖状アルキル基が無機粒子の分散性の点で好ましい。
【0050】
さらに、本発明では、樹脂13として、酸素を透過しにくいポリビニルアルコール樹脂を用いてもよい。該ポリビニルアルコール樹脂の平均分子量は10000〜100000程度、好ましくは20000〜90000程度であるのがよい。これに対し、前記平均分子量が10000未満であると硬化しないのでフィルム状にできず、100000を超えると水に溶解しにくくなるので好ましくない。なお、前記分子量は重量平均分子量を意味し、前記ポリビニルアルコール樹脂をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0051】
<発光装置>
次に、本発明の発光装置の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図3は、本実施形態にかかる発光装置を示す概略断面図である。なお、図3においては、前述した図1,2の構成と同一または同等な部分には同一の符号を付して説明は省略する。
【0052】
図3に示すように、この発光装置17は、発光素子15と、この発光素子15からの光を受け、この光を波長変換する上記で説明した波長変換器11とを具備するものである。具体的には、発光装置17は、電極19が形成された基板21と、基板21上に中心波長が450nm以下の光を発する半導体材料を具備する発光素子15と、基板21上に発光素子15を覆うように形成された波長変換器11からなる。この波長変換器11には、上記で説明した蛍光体粒子1が含有されている。また、基板21に接着剤23により固定された発光素子15と電極19とはワイヤ25により接続されている。
【0053】
発光素子15から発せられる励起光の一部が波長変換器11を通過する途中で、蛍光体粒子1に吸収され出力光を発する。なお、所望により、発光素子15の側面には、光を反射する反射体を設け、側面に逃げる光を前方に反射し、出力光の強度を高めることもできる。
【0054】
基板21は、熱伝導性に優れ、全反射率の大きな基板が用いられ、例えばアルミナ、窒素アルミニウム等のセラミック材料の他に、金属酸化物微粒子を分散させた高分子樹脂等が好適に用いられる。
【0055】
発光素子15は、中心波長が450nm以下、特に370〜420nmの紫外光を発することが好ましい。この範囲の波長域の励起光を用いることにより、蛍光体の励起を効率的に行なうことができ、出力光の強度を高め、より発光強度の高い発光装置を得ることが可能となる。発光素子15は、上記中心波長を発するものであれば特に制限されるものではないが、発光素子基板表面に、半導体材料からなる発光層を備える構造(不図示)を有していることが、高い外部量子効率を有する点で好ましい。このような半導体材料として、例えばZnSeや窒化物半導体(GaN等)等種々の半導体を挙げることができるが、発光波長が上記波長範囲であれば、特に半導体材料の種類は限定されない。これらの半導体材料を有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタシャル成長法等の結晶成長法により、発光素子基板上に半導体材料からなる発光層を有する積層構造を形成すれば良い。
【0056】
基板21は、発光層との組み合わせを考慮して材料選定ができ、例えば窒化物半導体からなる発光層を表面に形成する場合には、サファイア、スピネル、SiC、Si、ZnO、ZrB2、GaNおよび石英等の材料が好適に用いられる。結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成させるためにはサファイア基板を用いることが好ましい。
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例]
<蛍光体粒子の作製>
(試料No.1〜17,19〜37)
まず、CdSe半導体超微粒子並びにZnS半導体超微粒子を水が混入しない条件で合成した。具体的には、CdSe半導体粒子の合成は次のように行なった。まず、五酸化りんで乾燥させた窒素雰囲気のグローブボックス中でフラスコにトリオクチルフォスフィン12.5gとセレン0.395gを加え、これを1時間攪拌した。次に、これにトリオクチルフォスフィン20g、酢酸カドミウム0.266g、ドデシルアミン(第1の液体)20mlを予め130℃で混合したものを加えた。これを200℃に加熱し、撹拌しながらそのまま200℃に維持して10分間攪拌してCdSe半導体粒子を合成した。
【0059】
ZnS半導体粒子の合成は次のように行なった。まず、五酸化りんで乾燥させた窒素雰囲気のグローブボックス中でフラスコにトリオクチルフォスフィン12.5gと硫黄0.16gを加え、これを1時間攪拌した。次に、これにトリオクチルフォスフィン20g、酢酸亜鉛0.212g、ドデシルアミン20mlを予め130℃で混合したものを加えた。これを200℃に加熱し、撹拌しながらそのまま200℃に維持して10分間攪拌してZnS半導体粒子を合成した。
【0060】
なお、溶媒として用いたドデシルアミンは、予め酸化カルシウムを加えて2時間還留した後に蒸留して水を除去したものを用いた。
【0061】
さらに、比較例として含水溶媒系でZnS半導体超微粒子を合成した。具体的には、まず、ヘプタン15mlにビス(2−エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウム1.6gを溶解し、これに水0.518gを添加した。これに硫化ナトリウム1.17gを加えた。また、これとは別に、ヘプタン15mlにビス(2−エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウム1.6gを溶解し、これに水0.518gを添加した。これに酢酸亜鉛を5.5g溶解した。つぎに、これら2つの溶液を混合して24時間攪拌してZnS半導体粒子を合成した。
【0062】
上記のようにして合成したCdSe半導体超微粒子並びにZnS半導体超微粒子の平均粒子径は次のようにして確認した。まず、粒子濃度が0.002〜0.02モル/リットルの範囲の粒子分散液を調整した。なお、溶媒はイソプロピルアルコール(IPA)やトルエンを用いた。
【0063】
次に、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用マイクログリッドを、上記で調整した粒子分散液に浸して粒子を付着させ、常温でデシケーター中に静置して粒子分散液を乾燥させ、半導体ナノ粒子が表面に付着したTEM観察用マイクログリッドを作成して測定に供した。
【0064】
測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)[JEOL社製の「JEM2010F」]を用い、加速電圧200kVで観察した。この際、倍率は500000倍から1000000倍で、粒子の格子縞が見えるように焦点を合わせ、得られたTEM像の拡大写真上で200個以上の粒子を試料として、粒径を測定した。粒子径が大きくて粒子全体が視野に入らない場合は、格子縞が見える高倍率で1次粒子であることを確認した後、粒子全体が視野に入る倍率でTEM像を観察して粒径を測定した。
【0065】
この際、半導体超微粒子は、格子縞が見えている部分のみを対象としており、粒子表面に吸着している有機配位子などの有機物は粒径に換算していない。また、半導体超微粒子に比べて十分に大きいサブミクロン以上の粒子は、樹脂の破断面を走査型電子顕微鏡で観察することで、200個以上の粒子について粒径を測定した。この際、粒子の直径は、破断面表面に露出している部分の直径に対し、係数1.5を掛けて粒子全体の直径として扱った(インターセプト法、「セラミックスのキャラクタリゼーション技術」pp.7〜8、社団法人窯業協会編、社団法人窯業協会発行)。
【0066】
測定した粒子の直径は、ヒストグラムを書いて統計的に計算することで、長さ平均径を算出した。長さ平均径の算出方法は、粒子径区に属する個数をカウントし、粒子径区の中心値と個数のそれぞれの積の和を、測定した粒子の個数の総数で割るという方法を用いた(平均粒子径の形状とその計算式、「セラミックの製造プロセス」pp.11〜12、窯業協会編集委員会講座小委員会編、社団法人窯業協会発行)。このようにして計算した長さ平均径を平均粒子径として扱った。
なお、TEM観察で得られた像を透明な樹脂フィルムシートに写し取り、画像解析処理装置によって、粒子の平均粒子径を求める方法でも測定は可能であることを確認した。
【0067】
上記のようにして測定した各半導体超微粒子の平均粒子径は、下記に示す通りであった。
・CdSe半導体超微粒子:3.3nm
・ZnS半導体超微粒子:3.5nm
・含水溶媒系で作製したZnS半導体超微粒子:3.5nm
【0068】
次に、表1および表2に示す液体に対して、上記で作製した各半導体超微粒子を表1および表2に示す組み合わせで0.5質量%の割合で混合し、波長変換液を作製した。なお、表1および表2中の液体には、予め、表1および表2の含水量となるように水を加えておいた。波長変換液の含水率は、JIS K 0068に規定されたカールフィッシャー滴定法(水分気化法)により求めた。
【0069】
次に、上記で作製した波長変換液に配位子(シリコーンオイル)を加えて混合液を作製した。そして、シリコーンオイルにソルビタンモノラウレートを10質量%溶解した液をケイ酸ナトリウム水溶液(SiO2として5モル%)へ添加し乳濁液を調製した。この液に、ソルビタンモノオレエートのトルエン溶液に上記乳濁液を添加し攪拌した。次に、この液に硫酸アンモニウム水溶液を攪拌しながら滴下し、反応させた。この反応液を遠心分離した後、上澄み液を取り除いて乾燥させ、外殻を有する殻状体の中に、波長変換液を内包した蛍光体粒子を得た(表1および表2中の試料No.1〜17,19〜37)。
【0070】
なお、上記の殻状体の調製方法はコアセルベーション法であり、得られた各蛍光体粒子の殻状体はSiO2(ガラス)からなり、各殻状体の平均粒子径は10μmであった。ここで、殻状体の平均粒子径は、各蛍光体粒子を粒度分布測定装置(日機装社製の「マイクロトラック」)で測定して得られた値を殻状体の平均粒子径とした。
【0071】
また、得られた各蛍光体粒子は、SiO2(ガラス)からなる殻状体の中に、配位子(シリコーンオイル)が表面に配位したCdSeと、表1および表2に示す各液体およびトルエンが内包されていた。なお、SiO2(ガラス)の殻の中へCdSeと液体が内包されている構造及びシリコーンオイル、トルエンの存在は、TEM、エネルギー分散型X線分析(EDS)、及びガスクロマトグラフ測定によりそれぞれ確認した。
【0072】
(試料No.18)
平均粒子径3.5nmのCdSe半導体超微粒子が、殻状体構造になっておらず、むき出しになっているものを試料No.18とした。
【0073】
<蛍光体粒子の評価>
上記で得られた蛍光体粒子(表1および表2中の試料No.1〜37)のうち、試料No.1〜19の各蛍光体粒子については、各蛍光体粒子を熱硬化型エポキシ樹脂にそれぞれ5質量%混合後、ガラス板上に厚み50μmで塗布し、150℃、2時間の条件でエポキシ樹脂を硬化させて波長変換器をそれぞれ作製した。ついで、得られた各波長変換器について、Labsphere社製の全光束測定システムを用いて波長変換液の発光効率と、100時間後の波長変換効率の維持率とを測定した。具体的には、各波長変換器を波長395nmを出力するサイズ0.3×0.3mmのIn−Ga−N組成LEDチップ上に載せて、波長変換液の発光効率を上記式(I)から算出した。ついで、この状態で100時間LEDチップを発光させて波長変換器に光を照射し、初期値(すなわち波長変換液の発光効率)に対する100時間後の値を式:[1−(100時間後の値/初期値)]×100に当てはめ、波長変換効率の維持率を測定した。これらの結果を表1および表2に併せて示す。なお、LEDチップの出力波長の最大値は、430nmであった。
【0074】
試料No.20〜37の各蛍光体粒子については、前記エポキシ樹脂に代えて、酸素を透過しにくいポリビニルアルコール樹脂を用いた以外は、試料No.1〜19と同様にして各波長変換器を作製した。ついで、得られた各波長変換器について、試料No.1〜19と同様にして、波長変換液の発光効率および100時間後の波長変換効率の維持率とを測定した。その結果を表1および表2に併せて示す。なお、前記ポリビニルアルコール樹脂の平均分子量は25000であった。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
表1および表2から明らかなように、本願発明の範囲外である含水量が、0.1質量%を超える試料No.16、17、35、36では、100時間後に波長変換効率が50%以下にまで低下した。また、殻状体構造になっておらず、CdSeがむき出しになっている試料No.18では、10時間後に波長変換効率が40%以下にまで低下した。また、試料No.19、37は、初期の発光効率が極端に低く、100時間後の波長変換効率が初期のそれぞれ37、42%まで低下した。
【0078】
一方、本願発明の含水量が、0.1質量%以下の試料No.1〜15、20〜34では、いずれも100時間後でも波長変換効率は、初期に対して70%以上を維持しているのがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明にかかる蛍光体粒子の一実施形態を示す拡大概略断面図である。
【図2】本発明にかかる波長変換器の一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明にかかる発光装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1・・・蛍光体粒子
3・・・殻状体
3a・・・外殻
3b・・・空間
5・・・半導体超微粒子
7・・・液体
9・・・波長変換液
11・・・波長変換器
13・・・樹脂
15・・・発光素子
17・・・発光装置
19・・・電極
21・・・基板
25・・・ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻を有する殻状体の中に、光を波長変換する半導体超微粒子と液体とを含有してなる発光効率が40%以上の波長変換液を内包し、
前記殻状体は、平均粒子径が0.05〜50μmであり、かつ透光性を有する無機物質からなり、前記波長変換液の含水率が0.1質量%以下であることを特徴とする蛍光体粒子。
【請求項2】
前記液体は、水の溶解度が0.1質量%以下である請求項1記載の蛍光体粒子。
【請求項3】
前記液体が、変性シリコーンオイルまたはジメチルシリコーンオイルの少なくとも1種からなる請求項1または2記載の蛍光体粒子。
【請求項4】
前記液体が、オレイルアミンまたはドデシルアミンの少なくとも1種からなる請求項1または2記載の蛍光体粒子。
【請求項5】
前記殻状体が、前記半導体超微粒子から発せられた光を50%以上透過する請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体粒子。
【請求項6】
前記半導体超微粒子の平均粒子径が10nm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体粒子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体粒子を樹脂で固定してなることを特徴とする波長変換器。
【請求項8】
発光素子と、該発光素子からの光を波長変換する請求項7記載の波長変換器とを具備することを特徴とする発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−262215(P2007−262215A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88255(P2006−88255)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】