蛍光検出システム及びこれを利用した濃度測定方法
【課題】使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができる蛍光検出システム及びこれを利用した濃度測定方法を提供する。
【解決手段】蛍光分析システム100は、入射端56aからの光を出射端56bに、出射端56bからの光を出射端56cに導光するカットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタを備える蛍光分析用光合分波器56、入射端56aと接続し、主波長λ1の励起光を出射する励起光用光源53、出射端56cと接続し、主波長λ2の蛍光を受光する検出器54、一端から入射した励起光を流路204中の試料に集光照射すると共に、他端から入射した蛍光を集光するレンズ40、並びに出射端56b及びレンズ40の一端と接続する光ファイバ103を備える。光ファイバ103は、励起光に起因した光を蛍光と同時に出射端56bまで導光する。
【解決手段】蛍光分析システム100は、入射端56aからの光を出射端56bに、出射端56bからの光を出射端56cに導光するカットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタを備える蛍光分析用光合分波器56、入射端56aと接続し、主波長λ1の励起光を出射する励起光用光源53、出射端56cと接続し、主波長λ2の蛍光を受光する検出器54、一端から入射した励起光を流路204中の試料に集光照射すると共に、他端から入射した蛍光を集光するレンズ40、並びに出射端56b及びレンズ40の一端と接続する光ファイバ103を備える。光ファイバ103は、励起光に起因した光を蛍光と同時に出射端56bまで導光する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出システム及びこれを利用した濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図9のような蛍光検出システムにより励起光を測定物質に照射し、その際に測定物質が発する蛍光を測定することで試料溶液中に含まれる測定物質の濃度を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、蛍光検出システムを外光が入る状態に置いて上記蛍光の測定を行うと、検出対象である蛍光以外の光(以下「ベース光」という。)も蛍光と同時に検出器に導光される。つまり、図10の実線で示すように、蛍光測定の際に得られる検出信号は、点線で示されるベース光の検出信号の上に、測定対象である蛍光の検出信号が乗った状態となる。このため、蛍光検出を感度良く行うことができない。この問題は、検出器を暗室内に設置してベース光が検出器に入らないようにすれば改善される。
【0004】
一方、励起光以外の外光が被測定物質に入射し、これによって生じた蛍光がベース光となる場合がある。このベース光は、上述したように検出器を暗室に設置しても除去することはできないので、蛍光測定の際に得られる検出信号(図11の点線1101)は、上記外光で生じた蛍光により生じるベース光の検出信号(図11の太線1102)の上に、測定対象である蛍光の検出信号が乗った状態となる。かかるベース光を除去する方法としては、励起光を変調し、その変調に同期した信号のみをロックインアンプで検出する方法が知られている。
【特許文献1】特開2005−30830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、励起光源としてLDやLEDを使用する場合、発光時間及び外部温度によって励起光の光量が変化する。また、検出器内にあって蛍光を受光する受光素子の検出感度も使用時間及び外部温度によって変化する。
【0006】
例えば、図12に示すように、励起光量の設定値は維持していても、測定開始直前で得られた励起光量1201は、一定時間経過後には励起光量1200まで変化しうる。この場合、検出器を暗室に設置し、且つロックインアンプにより励起光の強度の変調を行うようにして、同一濃度の蛍光物質からなる試料の蛍光測定を行ってもその検出信号が変動してしまう。具体的には、励起光量1200を照射したときの蛍光測定で得られる検出信号は点線1202で示すものとなるのに対し、励起光量1201を照射したときの蛍光測定で得られる検出信号は一点破線1203で示すものとなる。
【0007】
従来、かかる変動を考慮して正確な蛍光検出測定を実施するためには、所定時間毎、より正確さが求められる場合は、測定毎に、励起光源や検出器に対してキャリブレーションという補正作業を行う必要があり、測定に手間がかかった。
【0008】
本発明の目的は、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができる蛍光検出システム及びこれを利用した濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の蛍光検出システムは、主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、入射端からの光を第1の出射端に、前記第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、前記入射端と接続し、前記励起光を出射する励起光用光源と、前記第2の出射端と接続し、前記蛍光を受光する検出器と、一端から入射した前記励起光を前記試料に集光照射すると共に、他端から入射した前記蛍光を集光するレンズと、前記第1の出射端、及び前記レンズの一端と接続する光ファイバとを備え、前記検出器は、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に受光することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の蛍光検出システムは、請求項1記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、2つのレンズの間に介在されたフィルタを備え、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の蛍光検出システムは、請求項1記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の蛍光検出システムは、請求項1記載の蛍光検出システムにおいて、前記光ファイバは、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に前記第1の出射端まで導光することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の蛍光検出システムは、請求項4記載の蛍光検出システムにおいて、前記光ファイバは、その一部に反射素子が導入されており、前記励起光に起因した光は、前記反射素子により前記励起光の一部が反射された光であることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の蛍光検出システムは、請求項5記載の蛍光検出システムにおいて、前記反射素子はその端面における反射を利用した素子であることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の蛍光検出システムは、請求項6記載の蛍光検出システムにおいて、前記端面における反射はガラスの平面反射であることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の蛍光検出システムは、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の蛍光検出システムは、請求項8記載の蛍光検出システムにおいて、前記フィルタの波長λ1における透過率が−20dB以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の蛍光検出システムは、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のショートパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項11記載の蛍光検出システムは、請求項10記載の蛍光検出システムにおいて、前記フィルタの波長λ1における反射率が−20dB以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項12記載の蛍光検出システムは、請求項8乃至11のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記フィルタは、2つのレンズの間に介在されており、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする。
【0021】
請求項13記載の蛍光検出システムは、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする。
【0022】
請求項14記載の蛍光検出システムは、請求項4記載の蛍光検出システムにおいて、前記励起光に起因した光は、前記光ファイバからのラマン散乱光であることを特徴とする。
【0023】
請求項15記載の蛍光検出システムは、請求項14記載の蛍光検出システムにおいて、前記ラマン散乱光は、スト一クス散乱によるものであることを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成するために、請求項16記載の濃度測定方法は、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の蛍光検出システムを利用した濃度測定方法において、基準時に、第1の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第1の検出信号として取得する第1の取得ステップと、前記基準時に、第2の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第2の検出信号として取得する第2の取得ステップと、前記基準時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第3の検出信号を取得する第3の取得ステップと、前記第1乃至第3の検出信号に基づき検量線を作成する作成ステップと、前記基準時から所定時間の経過した測定時に、未知濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第4の検出信号として取得する第4の取得ステップと、前記測定時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第5の検出信号を取得する第5の取得ステップと、前記第3の検出信号及び前記第5の検出信号に基づき、前記第4の検出信号を補正する補正ステップと、前記補正された第4の検出信号を前記作成された検量線にあてはめ、前記未知濃度の値を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の蛍光検出システムによれば、主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、入射端からの光を第1の出射端に、第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、入射端と接続し、励起光を出射する励起光用光源と、第2の出射端と接続し、蛍光を受光する検出器と、一端から入射した励起光を試料に集光照射すると共に、他端から入射した蛍光を集光するレンズと、第1の出射端、及びレンズの一端と接続する光ファイバとを備え、検出器は、励起光に起因した光を蛍光と同時に受光するので、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができる。
【0026】
請求項2記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、2つのレンズの間に介在されたフィルタを備え、その2つのレンズの径がフィルタの径より大きいので、励起光に起因した光として、レンズの一端と接続する光ファイバからの光及び/又は励起光用光源からの光を光合分波器を介して検出器に確実に導光することができる。
【0027】
請求項3記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであるので、励起光に起因した光として、レンズの一端と接続する光ファイバからの光及び/又は励起光用光源からの光を光合分波器を介して検出器に確実に導光することができる。
【0028】
請求項4記載の蛍光検出システムによれば、光ファイバは、励起光に起因した光を蛍光と同時に第1の出射端まで導光するので、励起光に起因した光を蛍光と同時に確実に検出器に導光することができる。
【0029】
請求項5記載の蛍光検出システムによれば、光ファイバは、その一部に反射素子が導入されており、励起光に起因した光は、反射素子により励起光の一部が反射された光であるので、上記励起光に起因した光を蛍光と同時に確実に検出器に導光することができる。
【0030】
請求項6記載の蛍光検出システムによれば、反射素子はその端面における反射を利用した素子であるので、簡易に反射素子を作成することができる。
【0031】
請求項7記載の蛍光検出システムによれば、上記端面における反射はガラスの平面反射であるので、光ファイバの端面処理等により簡易に反射素子を作成することができる。
【0032】
請求項8記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタからなるフィルタを備えるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光を光合分波器を透過して検出器にまで導光することができる。
【0033】
請求項9記載の蛍光検出システムによれば、上記ロングパスフィルタからなるフィルタの波長λ1における透過率が−20dB以下であるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光を光合分波器を透過して検出器にまで確実に導光することができる。
【0034】
請求項10記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のショートパスフィルタからなるフィルタを備えるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光を光合分波器で反射して検出器にまで導光することができる。
【0035】
請求項11記載の蛍光検出システムによれば、上記ショートパスフィルタからなるフィルタの波長λ1における反射率が−20dB以下であるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光が過剰に検出器に導光されることを防止することができる。
【0036】
請求項12記載の蛍光検出システムによれば、上記フィルタは、2つのレンズの間に介在されており、この2つのレンズの径が上記フィルタの径より大きいので、励起光に起因した光として、入射端からの励起光も光合分波器を透過して検出器にまで導光することができる。
【0037】
請求項13記載の蛍光検出システムによれば、上記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであるので、励起光に起因した光として、入射端からの励起光も光合分波器を透過して検出器にまで導光することができる。
【0038】
請求項14記載の蛍光検出システムによれば、励起光に起因した光は、光ファイバからのラマン散乱光であるので、上記励起光に起因した光を蛍光と同時に確実に検出器に導光することができる。
【0039】
請求項15記載の蛍光検出システムによれば、上記ラマン散乱光は、スト一クス散乱によるものであるので、上記ラマン散乱光の波長を蛍光の波長とほぼ同一とでき、上記励起光に起因した光として、蛍光と同時により確実に検出器に導光することができる。
【0040】
請求項16記載の濃度測定方法によれば、上記蛍光検出システムを利用した濃度測定方法において、基準時に、第1の濃度を有する被測定物質に励起光を照射し、そのときに検出器に導光された光を、第1の検出信号として取得し、基準時に、第2の濃度を有する被測定物質に励起光を照射し、そのときに検出器に導光された光を、第2の検出信号として取得し、基準時に、励起光に起因した光のみを検出器に導光したときに、第3の検出信号を取得し、第1乃至第3の検出信号に基づき検量線を作成し、基準時から所定時間の経過した測定時に、未知濃度を有する被測定物質に励起光を照射し、そのときに検出器に導光された光を、第4の検出信号として取得し、測定時に、励起光に起因した光のみを検出器に導光したときに、第5の検出信号を取得し、第3の検出信号及び第5の検出信号に基づき、第4の検出信号を補正し、補正された第4の検出信号を作成された検量線にあてはめ、上記未知濃度の値を算出するので、上記蛍光検出システムにより得られた検出信号に基づき、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、入射端からの光を第1の出射端に、第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、入射端と接続し、励起光を出射する励起光用光源と、第2の出射端と接続し、蛍光を受光する検出器と、一端から入射した励起光を試料に集光照射すると共に、他端から入射した蛍光を集光するレンズの一端及び第1の出射端を接続する光ファイバとを備え、検出器は、励起光に起因した光を前記蛍光と同時に受光すると、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができることを見出した。
【0042】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0043】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述する。
【0044】
図1は、本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの概略構成を示す図である。
【0045】
図1において、蛍光分析システム100は、蛍光分析用光学モジュール100aと、励起光を蛍光分析用チップ20内部の流路204内の試料溶液に集光するレンズ付き光ファイバ(以下「プローブ」という。)50と、蛍光分析用チップ20を載置する試料台21とを備える。
【0046】
試料台21は、プローブ50に対し相対的に移動して試料の位置決めする不図示の移動機構を備える。尚、本発明の実施の形態では試料台21が移動機構を備えるものとしたが、試料の位置決めを行うことができればこれに限定されるものでなく、プローブ50も試料台21に対し相対的に移動する移動機構を備えてもよい。
【0047】
蛍光分析用光学モジュール100aは、主波長λ1の励起光を出射するLEDからなる励起光用光源53と、励起光をプローブ50を介して照射することにより試料から発生した主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を透過する蛍光分析用光合分波器56と、この蛍光を受光する検出器54と、励起光用光源53及び蛍光分析用光合分波器56の入射端56aを接続する光ファイバ106と、プローブ50及び蛍光分析用光合分波器56の出射端56bを接続する長さ30cmの光ファイバ103と、検出器54及び蛍光分析用光合分波器56の出射端56cを接続する光ファイバ108とを備える。蛍光分析用光学モジュール100aをこのような構成とすることにより、励起光を試料に導くと共に試料からの蛍光を蛍光分析用光合分波器56に導くことができる。
【0048】
また、本実施の形態のように励起光用光源53としてLEDを使用するのではなくLDを使用する場合は、蛍光分析用光合分波器56からの戻り励起光λ1が励起光用光源53に入ることを防止すべく、アイソレータを設けてもよい。これにより、LDの光源としての出力安定性を上げることができる。
【0049】
このように、蛍光分析用光学モジュール100aは、このモジュールを構成する上述の機器間において光を伝送するために光ファイバを用いるので、このモジュールを簡潔、小型化することができる。
【0050】
プローブ50は、光ファイバ103の他端の先端部103aを保持するフェルール104と、光ファイバ103の上記先端部103aと光学的に接続されたレンズ40と、フェルール104とレンズ40を固定するチューブ105とから成る。光ファイバ103の上記先端部103aは、平面加工され、励起光の一部が反射するように構成されている。これにより、光ファイバ103内に反射素子を簡易且つ確実に導入することができる。例えば、光ファイバ103がシリカガラスでできている場合、上記構成とすることにより約3.5%の励起光が光ファイバ103内に戻る。これに対して、光ファイバ103の上記先端部103aが斜め研磨され且つ無反射コートを施した場合、約0.01%の励起光しか光ファイバ103内には戻らない。
【0051】
励起光用光源53は、ロックイン変調回路109と接続されており、このロックイン変調回路109によりl00Hz以上10KHz以下で励起光用光源53のOn−Off変調(例えば矩形変調)が行われる。これにより確実に検出感度を上げることができる。
【0052】
また、ロックイン変調回路109はロックインアンプと接続されており、励起光用光源53の変調と同期(ロックイン)をさせて検出を行う。これにより、より測定精度を上げることができる。
【0053】
尚、本発明の実施の形態ではロックイン変調回路109及びロックインアンプが用いられていたが、外光の影響を除いて検出感度をあげることができる光変調機構であればこれに限定されるものではなく、例えばFFTを利用するようにしてもよい。
【0054】
図2は、図1における蛍光分析用光合分波器56の概略断面模式図である。
【0055】
図2において、蛍光分析用光合分波器56は、その出力端56a,56b側から順にロッドレンズ500と、その上に蒸着されたフィルタ501と、フィルタ501に接着剤により固定されたロッドレンズ502とを直列に配置したものから成り、これらは一体的に構成されている。これにより、蛍光分析用光合分波器56を貼り合わせ構造とすることができ、コンパクト化できる。また、フィルタ501をガラス基板上に形成し、このガラス基板をロッドレンズ500とロッドレンズ502の間に配置させてもよい。
【0056】
ロッドレンズ500,502は、中心から外部に向かって屈折率が低下するように屈折率勾配が設けられた屈折率分布型円柱状ロッドレンズである。これにより、入射面と出射面の2端面を光軸方向に直角方向の平面にでき、レンズの結合等の組立が容易にできる。また、ロッドレンズ500,502は、円柱状であるため、シリンダー状保持具に容易に格納でき、光軸合わせが容易とすることができる。
【0057】
フィルタ501は、屈折率の低いSiO2等から成る層(L)と屈折率の高いTiO2,ZrO2,Ta2O5等から成る層(H)が多層に積層された誘電体多層膜であって、そのカットオフ波長λは、λ1より大きくλ2より小さい。すなわち、フィルタ501は、いわゆるロングパスフィルタで構成される。より具体的には、本実施の形態に係るフィルタ501の特性は、波長λ1の光の透過率は−20dB(約1%)以下であって、波長λ2の光の透過率は−3dB以上(97〜50%)である。また、より好ましくは、波長λ1の光の透過率は−30dB以上、より好ましくは−35dB以上である。
【0058】
ここで、入射端56a及び出射端56cはロッドレンズ500の図2の向かって上側に、出射端56bは下側に配されている。ここで、蛍光分析用光合分波器56内において、上記フィルタ501が介在しない場合、入射端56aから光は点線503の光路を進み、出射端56bから光は実線504の光路を進む。しかし、本実施の形態においては、入射端56aからは主波長λ1の励起光が入射するので、フィルタ501でその約99%が反射して出射端56bに導光される一方、フィルタ501を透過した一部の励起光は、点線503の光路を経て出力端56dから外へ出る。かかる構成により、励起光用光源53からの光が蛍光分析用光合分波器56を介して直接検出器54に入射するのを確実に遮断することができる。
【0059】
また、プローブ50を介して出力端56bから入射される光は、試料から生じる蛍光と、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光とからなるが、このうち、蛍光の主波長はλ2であるので、フィルタ501を97〜50%透過して出力端56cに導光される。一方、上記一部反射された励起光の主波長はλ1であるので、フィルタ501でその約99%が反射して入射端56aに導光される一方、残りの約1%はフィルタ501を透過して出力端56cに導光される。これにより、蛍光を検出器54に導光するのと同時に、検出対象である蛍光以外の光として励起光の一部(以下「励起ベース光」という。)を検出器54に導光することができる。
【0060】
以上の構成により、蛍光分析システム100は蛍光の検出信号の強度を確保することができると共に、この蛍光と同時に励起ベース光を検出器54まで導光することができる。つまり、本システムにおいては、流路204に被測定物である蛍光物質を含まない試料を流し、これに励起光を照射すると、図3に示すように、何ら測定を行っていないときに得られる検出信号301(以下「BKG信号」という。)に励起ベース光の検出信号303が乗った、点線で示す検出信号300が測定される。一方、流路204に被測定物である蛍光物質を所定濃度含む試料を流し、これに励起光を照射すると、図3に示すように、BKG信号301に蛍光及び励起ベース光の総和としての検出信号304が乗った、点線で示す検出信号302が測定される。
【0061】
ここで、上記検出信号300,302は、ロックインアンプを用いて励起光と同期させて測定を行うことにより、BKG信号301を取り除くことができる。以下、図3の検出信号300からBKG信号301を除いたものを「ベース信号」という。このベース信号は励起ベース光のみに起因する。
【0062】
尚、本実施の形態では、フィルタ501の波長λ1に対する透過率を通常より高くなるように制御したが、励起光の一部を出力端56cに導光できるのであればこれに限定されるものではない。
【0063】
例えば、フィルタ501として、そのカットオフ波長λをより短波長側にシフトさせたものを使用してもよい。また、図13に示すように、ロングパスフィルタからなるフィルタ501をショートパスフィルタからなるフィルタ503に変更し、且つその接続を通常と逆とするようにしてもよい。ここで、通常と逆の接続とは、蛍光分析用光合分波器56の出力端56cに励起光用光源53、出力端56bにプローブ50を接続し、その入力端56aに検出器54を接続することをいう。この場合、光ファイバ103の先端部103aから一部反射された励起光に対するショートパスフィルタからなるフィルタ503の波長λ1における反射率は−20dB(約1%)以下となる。これにより、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光が過剰に検出器54に導光されることを防止することができる。また、より好ましくは、フィルタ503の波長λ1における反射率は−30dB以上、より好ましくは−35dB以上である。これにより、検出器54に励起ベース光として励起光の一部を蛍光分析用光合分波器56で反射して確実に導光することができる。また、上述したロングパスフィルタからなるフィルタ501やショートパスフィルタからなるフィルタ503の代わりに、バンドパスフィルタやノッチパスフィルタを用いるようにしてもよい。
【0064】
また、蛍光分析用光合分波器として分岐カプラを用いてもよい。この分岐カプラとしては、2本の光ファイバを融着・延伸して作成したフュージョン(溶融型)カプラ1400(図14)や、Si基板又は石英基板に光回路を形成した光導波路型カプラを用いることができる。この場合、フュージョン(溶融型)カプラ1400を介して検出器54に導光される励起ベース光には、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光だけでなく、励起光用光源53から直接フュージョン(溶融型)カプラ1400に導光された励起光も含まれる。
【0065】
さらに、本実施の形態では、光ファイバ103の先端部103aを平面研磨するようにしたが、光ファイバ103の一部に反射素子が導入され、これにより励起光の一部が出力端56bに導光できる構成であれば、反射素子の構成及びその導入場所は本実施の形態に限定されるわけでない。
【0066】
以上のように、図1、図2、図13、及び図14に示す構成を有する蛍光検出システム100によれば、試料から発生した蛍光と同時に、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光等からなる励起光に起因した光を検出器54に導光することができ、この結果、励起ベース光として検出器54に導光された励起光の一部を用いて、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量を以下後述するようにリアルタイムで補正することができる。
【0067】
図4は、蛍光測定時の検出信号をリアルタイムで補正する方法を説明するのに用いられるグラフであり、(a)は各FITC濃度におけるロックイン検出信号と励起光量の関係を示し、(b)は各FITC濃度におけるFITC蛍光信号とベース信号の関係を示す。本実施例において励起光量とは、励起光用光源53から出射される励起光の出力をいう。
【0068】
以下の測定では、流路204中の試料には、蛍光物質であるFITC(Fluorescein isothiocyanate)の濃度(以下「FITC濃度」という。)が0.1μmol/Lのものと、FITC濃度が1μmol/Lのものを用いた。また、ベース信号を測定すべく、蛍光を発しないバッファ液もFITC濃度0.0μmol/Lの試料として用いた。尚、蛍光を発する物質が含まれていないものであれば、上記FITC濃度0.0μmol/Lの試料としてバッファ液を用いなくてもよい。但し、洗浄液やバッファ液を使用すると、測定の合間に実施できるので、測定に際して工数が増えることはない点で好ましい。
【0069】
次に上記各試料に励起光を照射したときに検出されるロックインアンプからの出力値(mV)(以下「ロックイン検出信号」という。)を、励起光量を変化させながら測定した。この測定の結果、図4(a)に示すように、全ての試料のロックイン検出信号が励起光量を強くするほど大きくなることがわかった。
【0070】
ここで、FITC濃度0.0μmol/Lの試料のロックイン検出信号は、上述の励起ベース光のみに起因するベース信号を表すものであるので、かかる結果が得られるのは当然である。しかし、FITC濃度1.0μmol/L,0.1μmol/Lの試料のロックイン検出信号は、図3の検出信号304からBKG信号301を除いた信号であって、蛍光及び励起ベース光の総和としての信号である。また、蛍光は励起光量だけでなくFITC濃度にも依存する。そこで、各励起光量毎に、FITC濃度1.0μmol/L,0.1μmol/Lの試料のロックイン検出信号からベース信号を差し引き、試料から発生した蛍光のみに依存する信号(以下「FITC蛍光信号」という)、及びFITC濃度1.0μmol/LにおけるFITC蛍光信号をFITC濃度0.1μmol/LにおけるFITC蛍光信号で割ったときの信号比(以下「FITC信号比」という)を算出した。この結果、図4(b)に示すように、4μW以上の励起光量におけるベース信号において、FITC蛍光信号はベース信号に比例し、FITC信号比は、ベース信号に関係なくほぼ一定の値となることがわかった。
【0071】
以上の結果より、4μW以上の励起光量におけるベース信号においては、FITC蛍光信号は、ベース信号及びFITC濃度のみに比例することから、以下の式(1)のような関係が成立する。
F=b×d×C・・・(1)
F:FITC蛍光信号
b:ベース信号
d:FITC濃度
C:定数
一方、1μW未満の励起光量におけるベース信号においては、FITC信号比にばらつきが生じていることがわかった。これは1μW未満の励起光量におけるFITC蛍光信号はロックインアンプ等による電気的な影響を受けるため精度よく測定することはできないからであると考えられる。
【0072】
また、ベース信号が励起光量のみに比例するという図4(a)の関係が得られる程度に、励起ベース光の光量が確保される必要がある。励起ベース光の光量が非常に小さいと、上述の場合と同様にロックインアンプ等による電気的な影響を受け精度よく測定することはできないからであり、逆に励起ベース光の光量が非常に大きいと、受光素子が飽和し、やはり精度よく測定することはできないからである。
【0073】
以上の結果に基づき、測定時における未知濃度の試料について得られたFITC蛍光信号から、その試料の濃度を求める方法について説明する。
【0074】
まず、励起光量をA(例えば、A>4)μWに設定し、バッファ液及び複数の既知のFITC濃度の試料について蛍光測定を行い、横軸をFITC濃度、縦軸を上記各試料のFITC蛍光信号とする検量線を作成する。
【0075】
次に、励起光量の設定を変更することなく、上記検量線の作成後一定時間経過したときにバッファ液及び未知のFITC濃度の試料について蛍光測定を行う。ここで励起光用光源53はLEDであるため、励起光量の設定を維持していても、発光時間や外部温度により励起光量が変動する。この変動に生じるFITC蛍光信号への影響を以下の方法により補正する。
【0076】
まず、検量線作成時及び試料測定時において得られるベース信号を夫々b0,b1、未知のFITC濃度(濃度d1とする)におけるロックイン検出信号を夫々S0,S1、濃度d1におけるFITC蛍光信号を夫々F0,F1とする。FITC蛍光信号は、ロックイン検出信号からベース信号を差し引いた値であるので、
F0=S0−b0・・・(2)
F1=S1−b1・・・(3)
という関係が得られる。また、上記式(1)に代入すると、
F0=S0−b0=b0×d1×C・・・(4)
F1=S1−b1=b1×d1×C・・・(5)
という関係が得られる。
【0077】
このうち、S1,b0,b1は測定値として得ることができるので、F1は式(3)から算出できる。さらに、この算出値F1と測定値b1と式(5)から、d1×CはF1/b1と算出できる。
【0078】
次に、式(4)に算出されたd1×C(=F1/b1)を代入すると、F0=F1×b0/b1と算出される。
【0079】
よって、このF0の値を作成した検量線に当てはめることにより、d1の濃度を精度よく求めることができる。
【0080】
尚、上記方法においては、試料のロックイン検出信号からベース信号を差し引いたFITC蛍光信号を利用したが、ベース信号で試料のロックイン検出信号を割ったFITC蛍光信号比を利用してもよい。
【0081】
この場合、図4(a)で得られた各FITC濃度におけるロックイン検出信号に基づき、ベース信号とFITC蛍光信号比の関係をグラフ化すると、図5に示すように、4μW以上の励起光量におけるベース信号の場合、FITC蛍光信号比はベース信号に依存することなく、ほぼ一定値となる。つまり、FITC蛍光信号比は、FITC濃度にのみ比例するので、以下の式(6)が成立することがわかった。
F’=d×C’・・・(6)
F’:FITC蛍光信号比
d:FITC濃度
C’:定数
この結果に基づき、FITC蛍光信号比を利用して、未知のFITC濃度の試料の濃度を求める方法を説明する。
【0082】
まず、励起光量をA(例えば、A>4)μWに設定し、バッファ液及び複数の既知のFITC濃度の試料について蛍光測定を行い、横軸をFITC濃度、縦軸を上記各試料のロックイン検出信号とする検量線を作成する。
【0083】
この変形例において、FITC蛍光信号比は、ロックイン検出信号をベース信号で割った値であるので、検量線作成時及び試料測定時において得られる濃度d1におけるFITC蛍光信号比を夫々F’0,F’1とすると、
F’0=S0/b0・・・(7)
F’1=S1/b1・・・(8)
という関係が得られる。また、測定時の値を上記式(6)に代入すると、
F’0=d1×C’・・・(9)
F’1=d1×C’・・・(10)
という関係が得られる。
【0084】
このうち、S1,b0,b1は測定値として得ることができるので、F’1は式(8)から算出できる。よって、式(10)からd1×C’はS1/b1と算出できる。
【0085】
算出されたd1×C’を式(9)に代入すると、S0=S1・b0/b1という関係が得られる。
【0086】
よって、このS0の値を作成した検量線に当てはめることにより、d1の濃度を精度よく求めることができる。
【0087】
尚、蛍光分析システム100は、蛍光分析用光合分波器56のフィルタ特性を調整することにより、励起光の一部が検出器54まで導光されたが、この形態に限定されるわけではない。
【0088】
例えば、ロッドレンズ500,502の径をフィルタ501の径より大きくして、励起光の一部を検出器54まで導光するようにしてもよい。この場合、入射端56a側からの励起光は、フィルタ501の外側を迂回する理論上の光路から外れた光路をとるため、出射端56cにもその一部が導光される。つまり、この補正方法の場合、検出器54に導光される励起ベース光には、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光だけでなく、入射端56aから入った励起光用光源53からの励起光も含まれる。
【0089】
従って、この形態の蛍光分析用光合分波器を使用する場合は、光ファイバ103の先端部103aを従来通りに無反射処理を施したものを使用し、検出器54に導光される励起ベース光を、入射端56aから入った励起光用光源53からの励起光のみとしてもよい。
【0090】
図6は、本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【0091】
本変形例に係る蛍光分析システム100’は、上記実施の形態で用いられたファイバ長が30cmである光ファイバ103の代わりに、ファイバ長が7mであって、その先端部103a’は無反射処理(斜め研磨+APコート被覆)がされている光ファイバ103’が用いられる点、光ファイバ108が、λ1<λ’<λ2である波長λ’をカットオフ波長とするエッジフィルタ57を有している点、及び蛍光分析用光合分波器56’のフィルタ501’のλ1における透過率が-30dB以下である点において相違する。本変形例のその他の要素は、上記実施の形態の対応するものと同一なので、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0092】
本変形例においては、励起ベース光として光ファイバ103’を構成する成分により発生するラマン散乱光を用いる。
【0093】
ここで、散乱光には、入射光と同じ振動数であるレーリー散乱光、入射光とは異なる振動数であるラマン散乱光が存在する。ラマン散乱光における入射光との振動数のずれは、物質に入射した光が物質の原子、分子に衝突した際にエネルギーの授受を行うことで発生するものであり、このうち、振動数が小さくなる(波長が長くなる)ものをスト一クス散乱光、逆に振動数の大きくなる(波長が短くなる)ものをアンチストークス散乱光という。本変形例では、レーリー散乱光は、励起光と同じ波長である点で、上記実施の形態で用いた励起光の反射光と結局同じなので用いず、ラマン散乱光のみについて検討する。ラマン散乱光のうち、アンチストークス散乱光は蛍光分析用光合分波器56’のフィルタ501’で除去されるように設計されている。これに対し、ストークス散乱は波長が長くなるので蛍光の波長と重なり、フィルタ501’で除去することはできない。本変形例では、このストークス散乱の特徴を逆に利用すべく、ラマン散乱を検量線の補正に用いる励起ベース光として利用した。
【実施例】
【0094】
次に、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
図1で図示するシステムでベース信号及び試料のロックイン検出信号を測定した。
【0095】
具体的には、LEDからなる励起光用光源53として日亜化学社製のNSPB300Bを使用し、レンズ40として日本板硝子製のSLW18(0.4ピッチ)を使用し、光ファイバ103としてエドモンド製のコア径/クラッド径の比率が200/220であって、NAが0.22である石英製光ファイバを使用した。また、蛍光分析用光合分波器56として日本板硝子製の光合分波器を使用し、蛍光分析用光合分波器56内のレンズ500,502として日本板硝子製のSLW18(0.25ピッチ)を使用した。さらに、検出器54として浜松ホトニクス社製のPMT(H5784−20)を使用した。
【0096】
光ファイバ103の先端部103aは0度研磨を行い、またARコートは付けなかった。
【0097】
かかるシステム構成において、ブロープ50から出射した励起光量が点滅信号の平均値で40μWの状態でFITC濃度が0.1μmol/Lの試料の蛍光測定を行い、ロックインアンプ出力値を得た。
【0098】
その後、図7で示すシステムにより、上記得られたロックインアンプ出力値となるように励起光用光源53の励起光量を調整した。この調整により得られた励起光量は2pWであった。つまり、図1のシステム100において、上記試料から発生する蛍光及び励起ベース光の総和の光量は2pWであった。
【0099】
同様の方法で、バッファ溶液に上記励起光を照射してロックインアンプ出力値を得て、この得られたロックインアンプ出力値となるように図7で示すシステムにおける励起光用光源53の励起光量を調整した。この調整により得られた励起光量は1pWであった。つまり、図1のシステム100において、励起ベース光の光量は1pWであった。
(比較例1)
実施例1とは、光ファイバ103の先端部103aについて10度研磨を行い、ARコートは付けた点のみ異なり、それ以外は全て同一の条件で測定を行った。
【0100】
この結果、試料からの蛍光の光量は1pWであったのに対して、励起ベース光の光量は測定限界未満の値である0.01pW以下となった。
【0101】
以上の結果より、実施例1における励起ベース光の光量と、蛍光の光量はほぼ同じとなる。当然のことながら試料の濃度が変化すればそこから出力される蛍光の光量は変化するので、蛍光と励起ベース光の総和の光量と比べて励起ベース光のみ光量が小さくなる場合はある。しかし、実施例でえられた励起ベース光の光量は、比較例で得られた励起ベース光の光量のように測定限界未満の値であって、ノイズの影響を考慮しなくてはならないほどの小さな値ではない。よって、励起光を一部反射した光を励起ベース光として使用することができることがわかった。
【0102】
一方、検出器54中の受光素子が飽和する量は、100pWであるので、実施例で検出される励起ベース光を問題なく使用できることがわかった。
(実施例2)
図6の蛍光分析システム100’の光ファイバ103の長さを調整し、調整後のラマン散乱光を検出した。
【0103】
具体的には、LEDからなる励起光用光源53として日亜化学社製のNSPB300Bを使用し、レンズ40として日本板硝子製のSLW18(0.4ピッチ)を使用し、光ファイバ103としてエドモンド製のコア径/クラッド径の比率が200/220であって、NAが0.22である石英製光ファイバを使用した。また、蛍光分析用光合分波器56として日本板硝子製の光合分波器を使用し、蛍光分析用光合分波器56内のレンズ500,502として日本板硝子製のSLW18(0.25ピッチ)を使用した。さらに、検出器54として浜松ホトニクス社製のPMT(H5784−20)を使用した。
【0104】
また、光ファイバ103の先端部103aは10度研磨を行い、ARコートを付けた。
【0105】
かかるシステム構成において、上記光ファイバ103の長さを変化させ、ラマン散乱光の強度を測定した。
【0106】
この結果、図8に示すように、ファイバ長さが1m未満の場合に検出されるラマン散乱光の強度は0.01pW未満となり、測定限界未満の値となった。
【0107】
これに対して、ファイバ長さが5mの場合のラマン強度は0.5pW、7mではFITC蛍光信号の値とほぼ同じ約1pWとなり、ノイズの影響を考慮しなくてもよい程度の光量が得られた。
【0108】
よって、ファイバ長さが5m以上、より好ましくは7m以上の場合、励起ベース光としてラマン散乱を用いることで、上記検量線で試料のFITC濃度を図6のシステムにおいては確実に求めることができることがわかった。
【0109】
一方、ラマン散乱は励起光が光ファイバ内を通過した場合に発生するものであるので、当然上記の実施例1等の場合でも発生している。しかしながら、実施例1のプローブ部分の光ファイバ長(=30cm)が1m以下であったので、測定限界以下のラマン散乱しか発生しない。よって、比較例1のようなシステムにおいては励起ベース光としてラマン散乱を用いることはできないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1における蛍光分析用光合分波器の概略断面模式図である。
【図3】蛍光分析システムにより測定された検出信号を説明するのに用いられるグラフである。
【図4】蛍光測定時の検出信号をリアルタイムで補正する方法を説明するのに用いられるグラフであり、(a)は各FITC濃度におけるロックイン検出信号と励起光量の関係を示し、(b)は各FITC濃度におけるFITC蛍光信号とベース信号の関係を示す。
【図5】図4(b)とは異なる方法で算出されたFITC蛍光信号比とベース信号の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【図7】実施例1で用いられる励起光用光源の励起光量を調整するシステムの概略構成を示す図である。
【図8】図6の蛍光分析システムで検出されるラマン散乱光の強度を示すグラフである。
【図9】従来の蛍光検出システムの構成を概略的に示す図である。
【図10】図9の蛍光検出システムで測定される蛍光を説明するのに用いられる図である。
【図11】図9の蛍光検出システムで測定される蛍光を説明するのに用いられる図である。
【図12】図9の蛍光検出システムで測定される蛍光を説明するのに用いられる図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0111】
100 蛍光分析システム
20 蛍光分析用チップ
40 レンズ
53 励起光用光源
54 検出器
56 蛍光分析用光合分波器
103 光ファイバ
103a 先端部
109 ロックイン変調回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出システム及びこれを利用した濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図9のような蛍光検出システムにより励起光を測定物質に照射し、その際に測定物質が発する蛍光を測定することで試料溶液中に含まれる測定物質の濃度を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、蛍光検出システムを外光が入る状態に置いて上記蛍光の測定を行うと、検出対象である蛍光以外の光(以下「ベース光」という。)も蛍光と同時に検出器に導光される。つまり、図10の実線で示すように、蛍光測定の際に得られる検出信号は、点線で示されるベース光の検出信号の上に、測定対象である蛍光の検出信号が乗った状態となる。このため、蛍光検出を感度良く行うことができない。この問題は、検出器を暗室内に設置してベース光が検出器に入らないようにすれば改善される。
【0004】
一方、励起光以外の外光が被測定物質に入射し、これによって生じた蛍光がベース光となる場合がある。このベース光は、上述したように検出器を暗室に設置しても除去することはできないので、蛍光測定の際に得られる検出信号(図11の点線1101)は、上記外光で生じた蛍光により生じるベース光の検出信号(図11の太線1102)の上に、測定対象である蛍光の検出信号が乗った状態となる。かかるベース光を除去する方法としては、励起光を変調し、その変調に同期した信号のみをロックインアンプで検出する方法が知られている。
【特許文献1】特開2005−30830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、励起光源としてLDやLEDを使用する場合、発光時間及び外部温度によって励起光の光量が変化する。また、検出器内にあって蛍光を受光する受光素子の検出感度も使用時間及び外部温度によって変化する。
【0006】
例えば、図12に示すように、励起光量の設定値は維持していても、測定開始直前で得られた励起光量1201は、一定時間経過後には励起光量1200まで変化しうる。この場合、検出器を暗室に設置し、且つロックインアンプにより励起光の強度の変調を行うようにして、同一濃度の蛍光物質からなる試料の蛍光測定を行ってもその検出信号が変動してしまう。具体的には、励起光量1200を照射したときの蛍光測定で得られる検出信号は点線1202で示すものとなるのに対し、励起光量1201を照射したときの蛍光測定で得られる検出信号は一点破線1203で示すものとなる。
【0007】
従来、かかる変動を考慮して正確な蛍光検出測定を実施するためには、所定時間毎、より正確さが求められる場合は、測定毎に、励起光源や検出器に対してキャリブレーションという補正作業を行う必要があり、測定に手間がかかった。
【0008】
本発明の目的は、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができる蛍光検出システム及びこれを利用した濃度測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の蛍光検出システムは、主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、入射端からの光を第1の出射端に、前記第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、前記入射端と接続し、前記励起光を出射する励起光用光源と、前記第2の出射端と接続し、前記蛍光を受光する検出器と、一端から入射した前記励起光を前記試料に集光照射すると共に、他端から入射した前記蛍光を集光するレンズと、前記第1の出射端、及び前記レンズの一端と接続する光ファイバとを備え、前記検出器は、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に受光することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の蛍光検出システムは、請求項1記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、2つのレンズの間に介在されたフィルタを備え、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の蛍光検出システムは、請求項1記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の蛍光検出システムは、請求項1記載の蛍光検出システムにおいて、前記光ファイバは、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に前記第1の出射端まで導光することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の蛍光検出システムは、請求項4記載の蛍光検出システムにおいて、前記光ファイバは、その一部に反射素子が導入されており、前記励起光に起因した光は、前記反射素子により前記励起光の一部が反射された光であることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の蛍光検出システムは、請求項5記載の蛍光検出システムにおいて、前記反射素子はその端面における反射を利用した素子であることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の蛍光検出システムは、請求項6記載の蛍光検出システムにおいて、前記端面における反射はガラスの平面反射であることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の蛍光検出システムは、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の蛍光検出システムは、請求項8記載の蛍光検出システムにおいて、前記フィルタの波長λ1における透過率が−20dB以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の蛍光検出システムは、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のショートパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項11記載の蛍光検出システムは、請求項10記載の蛍光検出システムにおいて、前記フィルタの波長λ1における反射率が−20dB以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項12記載の蛍光検出システムは、請求項8乃至11のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記フィルタは、2つのレンズの間に介在されており、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする。
【0021】
請求項13記載の蛍光検出システムは、請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする。
【0022】
請求項14記載の蛍光検出システムは、請求項4記載の蛍光検出システムにおいて、前記励起光に起因した光は、前記光ファイバからのラマン散乱光であることを特徴とする。
【0023】
請求項15記載の蛍光検出システムは、請求項14記載の蛍光検出システムにおいて、前記ラマン散乱光は、スト一クス散乱によるものであることを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成するために、請求項16記載の濃度測定方法は、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の蛍光検出システムを利用した濃度測定方法において、基準時に、第1の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第1の検出信号として取得する第1の取得ステップと、前記基準時に、第2の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第2の検出信号として取得する第2の取得ステップと、前記基準時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第3の検出信号を取得する第3の取得ステップと、前記第1乃至第3の検出信号に基づき検量線を作成する作成ステップと、前記基準時から所定時間の経過した測定時に、未知濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第4の検出信号として取得する第4の取得ステップと、前記測定時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第5の検出信号を取得する第5の取得ステップと、前記第3の検出信号及び前記第5の検出信号に基づき、前記第4の検出信号を補正する補正ステップと、前記補正された第4の検出信号を前記作成された検量線にあてはめ、前記未知濃度の値を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の蛍光検出システムによれば、主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、入射端からの光を第1の出射端に、第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、入射端と接続し、励起光を出射する励起光用光源と、第2の出射端と接続し、蛍光を受光する検出器と、一端から入射した励起光を試料に集光照射すると共に、他端から入射した蛍光を集光するレンズと、第1の出射端、及びレンズの一端と接続する光ファイバとを備え、検出器は、励起光に起因した光を蛍光と同時に受光するので、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができる。
【0026】
請求項2記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、2つのレンズの間に介在されたフィルタを備え、その2つのレンズの径がフィルタの径より大きいので、励起光に起因した光として、レンズの一端と接続する光ファイバからの光及び/又は励起光用光源からの光を光合分波器を介して検出器に確実に導光することができる。
【0027】
請求項3記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであるので、励起光に起因した光として、レンズの一端と接続する光ファイバからの光及び/又は励起光用光源からの光を光合分波器を介して検出器に確実に導光することができる。
【0028】
請求項4記載の蛍光検出システムによれば、光ファイバは、励起光に起因した光を蛍光と同時に第1の出射端まで導光するので、励起光に起因した光を蛍光と同時に確実に検出器に導光することができる。
【0029】
請求項5記載の蛍光検出システムによれば、光ファイバは、その一部に反射素子が導入されており、励起光に起因した光は、反射素子により励起光の一部が反射された光であるので、上記励起光に起因した光を蛍光と同時に確実に検出器に導光することができる。
【0030】
請求項6記載の蛍光検出システムによれば、反射素子はその端面における反射を利用した素子であるので、簡易に反射素子を作成することができる。
【0031】
請求項7記載の蛍光検出システムによれば、上記端面における反射はガラスの平面反射であるので、光ファイバの端面処理等により簡易に反射素子を作成することができる。
【0032】
請求項8記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタからなるフィルタを備えるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光を光合分波器を透過して検出器にまで導光することができる。
【0033】
請求項9記載の蛍光検出システムによれば、上記ロングパスフィルタからなるフィルタの波長λ1における透過率が−20dB以下であるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光を光合分波器を透過して検出器にまで確実に導光することができる。
【0034】
請求項10記載の蛍光検出システムによれば、光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のショートパスフィルタからなるフィルタを備えるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光を光合分波器で反射して検出器にまで導光することができる。
【0035】
請求項11記載の蛍光検出システムによれば、上記ショートパスフィルタからなるフィルタの波長λ1における反射率が−20dB以下であるので、光ファイバに導入された反射素子により一部反射された励起光が過剰に検出器に導光されることを防止することができる。
【0036】
請求項12記載の蛍光検出システムによれば、上記フィルタは、2つのレンズの間に介在されており、この2つのレンズの径が上記フィルタの径より大きいので、励起光に起因した光として、入射端からの励起光も光合分波器を透過して検出器にまで導光することができる。
【0037】
請求項13記載の蛍光検出システムによれば、上記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであるので、励起光に起因した光として、入射端からの励起光も光合分波器を透過して検出器にまで導光することができる。
【0038】
請求項14記載の蛍光検出システムによれば、励起光に起因した光は、光ファイバからのラマン散乱光であるので、上記励起光に起因した光を蛍光と同時に確実に検出器に導光することができる。
【0039】
請求項15記載の蛍光検出システムによれば、上記ラマン散乱光は、スト一クス散乱によるものであるので、上記ラマン散乱光の波長を蛍光の波長とほぼ同一とでき、上記励起光に起因した光として、蛍光と同時により確実に検出器に導光することができる。
【0040】
請求項16記載の濃度測定方法によれば、上記蛍光検出システムを利用した濃度測定方法において、基準時に、第1の濃度を有する被測定物質に励起光を照射し、そのときに検出器に導光された光を、第1の検出信号として取得し、基準時に、第2の濃度を有する被測定物質に励起光を照射し、そのときに検出器に導光された光を、第2の検出信号として取得し、基準時に、励起光に起因した光のみを検出器に導光したときに、第3の検出信号を取得し、第1乃至第3の検出信号に基づき検量線を作成し、基準時から所定時間の経過した測定時に、未知濃度を有する被測定物質に励起光を照射し、そのときに検出器に導光された光を、第4の検出信号として取得し、測定時に、励起光に起因した光のみを検出器に導光したときに、第5の検出信号を取得し、第3の検出信号及び第5の検出信号に基づき、第4の検出信号を補正し、補正された第4の検出信号を作成された検量線にあてはめ、上記未知濃度の値を算出するので、上記蛍光検出システムにより得られた検出信号に基づき、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、入射端からの光を第1の出射端に、第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、入射端と接続し、励起光を出射する励起光用光源と、第2の出射端と接続し、蛍光を受光する検出器と、一端から入射した励起光を試料に集光照射すると共に、他端から入射した蛍光を集光するレンズの一端及び第1の出射端を接続する光ファイバとを備え、検出器は、励起光に起因した光を前記蛍光と同時に受光すると、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量をリアルタイムで補正することができることを見出した。
【0042】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0043】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述する。
【0044】
図1は、本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの概略構成を示す図である。
【0045】
図1において、蛍光分析システム100は、蛍光分析用光学モジュール100aと、励起光を蛍光分析用チップ20内部の流路204内の試料溶液に集光するレンズ付き光ファイバ(以下「プローブ」という。)50と、蛍光分析用チップ20を載置する試料台21とを備える。
【0046】
試料台21は、プローブ50に対し相対的に移動して試料の位置決めする不図示の移動機構を備える。尚、本発明の実施の形態では試料台21が移動機構を備えるものとしたが、試料の位置決めを行うことができればこれに限定されるものでなく、プローブ50も試料台21に対し相対的に移動する移動機構を備えてもよい。
【0047】
蛍光分析用光学モジュール100aは、主波長λ1の励起光を出射するLEDからなる励起光用光源53と、励起光をプローブ50を介して照射することにより試料から発生した主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を透過する蛍光分析用光合分波器56と、この蛍光を受光する検出器54と、励起光用光源53及び蛍光分析用光合分波器56の入射端56aを接続する光ファイバ106と、プローブ50及び蛍光分析用光合分波器56の出射端56bを接続する長さ30cmの光ファイバ103と、検出器54及び蛍光分析用光合分波器56の出射端56cを接続する光ファイバ108とを備える。蛍光分析用光学モジュール100aをこのような構成とすることにより、励起光を試料に導くと共に試料からの蛍光を蛍光分析用光合分波器56に導くことができる。
【0048】
また、本実施の形態のように励起光用光源53としてLEDを使用するのではなくLDを使用する場合は、蛍光分析用光合分波器56からの戻り励起光λ1が励起光用光源53に入ることを防止すべく、アイソレータを設けてもよい。これにより、LDの光源としての出力安定性を上げることができる。
【0049】
このように、蛍光分析用光学モジュール100aは、このモジュールを構成する上述の機器間において光を伝送するために光ファイバを用いるので、このモジュールを簡潔、小型化することができる。
【0050】
プローブ50は、光ファイバ103の他端の先端部103aを保持するフェルール104と、光ファイバ103の上記先端部103aと光学的に接続されたレンズ40と、フェルール104とレンズ40を固定するチューブ105とから成る。光ファイバ103の上記先端部103aは、平面加工され、励起光の一部が反射するように構成されている。これにより、光ファイバ103内に反射素子を簡易且つ確実に導入することができる。例えば、光ファイバ103がシリカガラスでできている場合、上記構成とすることにより約3.5%の励起光が光ファイバ103内に戻る。これに対して、光ファイバ103の上記先端部103aが斜め研磨され且つ無反射コートを施した場合、約0.01%の励起光しか光ファイバ103内には戻らない。
【0051】
励起光用光源53は、ロックイン変調回路109と接続されており、このロックイン変調回路109によりl00Hz以上10KHz以下で励起光用光源53のOn−Off変調(例えば矩形変調)が行われる。これにより確実に検出感度を上げることができる。
【0052】
また、ロックイン変調回路109はロックインアンプと接続されており、励起光用光源53の変調と同期(ロックイン)をさせて検出を行う。これにより、より測定精度を上げることができる。
【0053】
尚、本発明の実施の形態ではロックイン変調回路109及びロックインアンプが用いられていたが、外光の影響を除いて検出感度をあげることができる光変調機構であればこれに限定されるものではなく、例えばFFTを利用するようにしてもよい。
【0054】
図2は、図1における蛍光分析用光合分波器56の概略断面模式図である。
【0055】
図2において、蛍光分析用光合分波器56は、その出力端56a,56b側から順にロッドレンズ500と、その上に蒸着されたフィルタ501と、フィルタ501に接着剤により固定されたロッドレンズ502とを直列に配置したものから成り、これらは一体的に構成されている。これにより、蛍光分析用光合分波器56を貼り合わせ構造とすることができ、コンパクト化できる。また、フィルタ501をガラス基板上に形成し、このガラス基板をロッドレンズ500とロッドレンズ502の間に配置させてもよい。
【0056】
ロッドレンズ500,502は、中心から外部に向かって屈折率が低下するように屈折率勾配が設けられた屈折率分布型円柱状ロッドレンズである。これにより、入射面と出射面の2端面を光軸方向に直角方向の平面にでき、レンズの結合等の組立が容易にできる。また、ロッドレンズ500,502は、円柱状であるため、シリンダー状保持具に容易に格納でき、光軸合わせが容易とすることができる。
【0057】
フィルタ501は、屈折率の低いSiO2等から成る層(L)と屈折率の高いTiO2,ZrO2,Ta2O5等から成る層(H)が多層に積層された誘電体多層膜であって、そのカットオフ波長λは、λ1より大きくλ2より小さい。すなわち、フィルタ501は、いわゆるロングパスフィルタで構成される。より具体的には、本実施の形態に係るフィルタ501の特性は、波長λ1の光の透過率は−20dB(約1%)以下であって、波長λ2の光の透過率は−3dB以上(97〜50%)である。また、より好ましくは、波長λ1の光の透過率は−30dB以上、より好ましくは−35dB以上である。
【0058】
ここで、入射端56a及び出射端56cはロッドレンズ500の図2の向かって上側に、出射端56bは下側に配されている。ここで、蛍光分析用光合分波器56内において、上記フィルタ501が介在しない場合、入射端56aから光は点線503の光路を進み、出射端56bから光は実線504の光路を進む。しかし、本実施の形態においては、入射端56aからは主波長λ1の励起光が入射するので、フィルタ501でその約99%が反射して出射端56bに導光される一方、フィルタ501を透過した一部の励起光は、点線503の光路を経て出力端56dから外へ出る。かかる構成により、励起光用光源53からの光が蛍光分析用光合分波器56を介して直接検出器54に入射するのを確実に遮断することができる。
【0059】
また、プローブ50を介して出力端56bから入射される光は、試料から生じる蛍光と、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光とからなるが、このうち、蛍光の主波長はλ2であるので、フィルタ501を97〜50%透過して出力端56cに導光される。一方、上記一部反射された励起光の主波長はλ1であるので、フィルタ501でその約99%が反射して入射端56aに導光される一方、残りの約1%はフィルタ501を透過して出力端56cに導光される。これにより、蛍光を検出器54に導光するのと同時に、検出対象である蛍光以外の光として励起光の一部(以下「励起ベース光」という。)を検出器54に導光することができる。
【0060】
以上の構成により、蛍光分析システム100は蛍光の検出信号の強度を確保することができると共に、この蛍光と同時に励起ベース光を検出器54まで導光することができる。つまり、本システムにおいては、流路204に被測定物である蛍光物質を含まない試料を流し、これに励起光を照射すると、図3に示すように、何ら測定を行っていないときに得られる検出信号301(以下「BKG信号」という。)に励起ベース光の検出信号303が乗った、点線で示す検出信号300が測定される。一方、流路204に被測定物である蛍光物質を所定濃度含む試料を流し、これに励起光を照射すると、図3に示すように、BKG信号301に蛍光及び励起ベース光の総和としての検出信号304が乗った、点線で示す検出信号302が測定される。
【0061】
ここで、上記検出信号300,302は、ロックインアンプを用いて励起光と同期させて測定を行うことにより、BKG信号301を取り除くことができる。以下、図3の検出信号300からBKG信号301を除いたものを「ベース信号」という。このベース信号は励起ベース光のみに起因する。
【0062】
尚、本実施の形態では、フィルタ501の波長λ1に対する透過率を通常より高くなるように制御したが、励起光の一部を出力端56cに導光できるのであればこれに限定されるものではない。
【0063】
例えば、フィルタ501として、そのカットオフ波長λをより短波長側にシフトさせたものを使用してもよい。また、図13に示すように、ロングパスフィルタからなるフィルタ501をショートパスフィルタからなるフィルタ503に変更し、且つその接続を通常と逆とするようにしてもよい。ここで、通常と逆の接続とは、蛍光分析用光合分波器56の出力端56cに励起光用光源53、出力端56bにプローブ50を接続し、その入力端56aに検出器54を接続することをいう。この場合、光ファイバ103の先端部103aから一部反射された励起光に対するショートパスフィルタからなるフィルタ503の波長λ1における反射率は−20dB(約1%)以下となる。これにより、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光が過剰に検出器54に導光されることを防止することができる。また、より好ましくは、フィルタ503の波長λ1における反射率は−30dB以上、より好ましくは−35dB以上である。これにより、検出器54に励起ベース光として励起光の一部を蛍光分析用光合分波器56で反射して確実に導光することができる。また、上述したロングパスフィルタからなるフィルタ501やショートパスフィルタからなるフィルタ503の代わりに、バンドパスフィルタやノッチパスフィルタを用いるようにしてもよい。
【0064】
また、蛍光分析用光合分波器として分岐カプラを用いてもよい。この分岐カプラとしては、2本の光ファイバを融着・延伸して作成したフュージョン(溶融型)カプラ1400(図14)や、Si基板又は石英基板に光回路を形成した光導波路型カプラを用いることができる。この場合、フュージョン(溶融型)カプラ1400を介して検出器54に導光される励起ベース光には、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光だけでなく、励起光用光源53から直接フュージョン(溶融型)カプラ1400に導光された励起光も含まれる。
【0065】
さらに、本実施の形態では、光ファイバ103の先端部103aを平面研磨するようにしたが、光ファイバ103の一部に反射素子が導入され、これにより励起光の一部が出力端56bに導光できる構成であれば、反射素子の構成及びその導入場所は本実施の形態に限定されるわけでない。
【0066】
以上のように、図1、図2、図13、及び図14に示す構成を有する蛍光検出システム100によれば、試料から発生した蛍光と同時に、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光等からなる励起光に起因した光を検出器54に導光することができ、この結果、励起ベース光として検出器54に導光された励起光の一部を用いて、使用時間や外部温度に依存して変動する蛍光の量を以下後述するようにリアルタイムで補正することができる。
【0067】
図4は、蛍光測定時の検出信号をリアルタイムで補正する方法を説明するのに用いられるグラフであり、(a)は各FITC濃度におけるロックイン検出信号と励起光量の関係を示し、(b)は各FITC濃度におけるFITC蛍光信号とベース信号の関係を示す。本実施例において励起光量とは、励起光用光源53から出射される励起光の出力をいう。
【0068】
以下の測定では、流路204中の試料には、蛍光物質であるFITC(Fluorescein isothiocyanate)の濃度(以下「FITC濃度」という。)が0.1μmol/Lのものと、FITC濃度が1μmol/Lのものを用いた。また、ベース信号を測定すべく、蛍光を発しないバッファ液もFITC濃度0.0μmol/Lの試料として用いた。尚、蛍光を発する物質が含まれていないものであれば、上記FITC濃度0.0μmol/Lの試料としてバッファ液を用いなくてもよい。但し、洗浄液やバッファ液を使用すると、測定の合間に実施できるので、測定に際して工数が増えることはない点で好ましい。
【0069】
次に上記各試料に励起光を照射したときに検出されるロックインアンプからの出力値(mV)(以下「ロックイン検出信号」という。)を、励起光量を変化させながら測定した。この測定の結果、図4(a)に示すように、全ての試料のロックイン検出信号が励起光量を強くするほど大きくなることがわかった。
【0070】
ここで、FITC濃度0.0μmol/Lの試料のロックイン検出信号は、上述の励起ベース光のみに起因するベース信号を表すものであるので、かかる結果が得られるのは当然である。しかし、FITC濃度1.0μmol/L,0.1μmol/Lの試料のロックイン検出信号は、図3の検出信号304からBKG信号301を除いた信号であって、蛍光及び励起ベース光の総和としての信号である。また、蛍光は励起光量だけでなくFITC濃度にも依存する。そこで、各励起光量毎に、FITC濃度1.0μmol/L,0.1μmol/Lの試料のロックイン検出信号からベース信号を差し引き、試料から発生した蛍光のみに依存する信号(以下「FITC蛍光信号」という)、及びFITC濃度1.0μmol/LにおけるFITC蛍光信号をFITC濃度0.1μmol/LにおけるFITC蛍光信号で割ったときの信号比(以下「FITC信号比」という)を算出した。この結果、図4(b)に示すように、4μW以上の励起光量におけるベース信号において、FITC蛍光信号はベース信号に比例し、FITC信号比は、ベース信号に関係なくほぼ一定の値となることがわかった。
【0071】
以上の結果より、4μW以上の励起光量におけるベース信号においては、FITC蛍光信号は、ベース信号及びFITC濃度のみに比例することから、以下の式(1)のような関係が成立する。
F=b×d×C・・・(1)
F:FITC蛍光信号
b:ベース信号
d:FITC濃度
C:定数
一方、1μW未満の励起光量におけるベース信号においては、FITC信号比にばらつきが生じていることがわかった。これは1μW未満の励起光量におけるFITC蛍光信号はロックインアンプ等による電気的な影響を受けるため精度よく測定することはできないからであると考えられる。
【0072】
また、ベース信号が励起光量のみに比例するという図4(a)の関係が得られる程度に、励起ベース光の光量が確保される必要がある。励起ベース光の光量が非常に小さいと、上述の場合と同様にロックインアンプ等による電気的な影響を受け精度よく測定することはできないからであり、逆に励起ベース光の光量が非常に大きいと、受光素子が飽和し、やはり精度よく測定することはできないからである。
【0073】
以上の結果に基づき、測定時における未知濃度の試料について得られたFITC蛍光信号から、その試料の濃度を求める方法について説明する。
【0074】
まず、励起光量をA(例えば、A>4)μWに設定し、バッファ液及び複数の既知のFITC濃度の試料について蛍光測定を行い、横軸をFITC濃度、縦軸を上記各試料のFITC蛍光信号とする検量線を作成する。
【0075】
次に、励起光量の設定を変更することなく、上記検量線の作成後一定時間経過したときにバッファ液及び未知のFITC濃度の試料について蛍光測定を行う。ここで励起光用光源53はLEDであるため、励起光量の設定を維持していても、発光時間や外部温度により励起光量が変動する。この変動に生じるFITC蛍光信号への影響を以下の方法により補正する。
【0076】
まず、検量線作成時及び試料測定時において得られるベース信号を夫々b0,b1、未知のFITC濃度(濃度d1とする)におけるロックイン検出信号を夫々S0,S1、濃度d1におけるFITC蛍光信号を夫々F0,F1とする。FITC蛍光信号は、ロックイン検出信号からベース信号を差し引いた値であるので、
F0=S0−b0・・・(2)
F1=S1−b1・・・(3)
という関係が得られる。また、上記式(1)に代入すると、
F0=S0−b0=b0×d1×C・・・(4)
F1=S1−b1=b1×d1×C・・・(5)
という関係が得られる。
【0077】
このうち、S1,b0,b1は測定値として得ることができるので、F1は式(3)から算出できる。さらに、この算出値F1と測定値b1と式(5)から、d1×CはF1/b1と算出できる。
【0078】
次に、式(4)に算出されたd1×C(=F1/b1)を代入すると、F0=F1×b0/b1と算出される。
【0079】
よって、このF0の値を作成した検量線に当てはめることにより、d1の濃度を精度よく求めることができる。
【0080】
尚、上記方法においては、試料のロックイン検出信号からベース信号を差し引いたFITC蛍光信号を利用したが、ベース信号で試料のロックイン検出信号を割ったFITC蛍光信号比を利用してもよい。
【0081】
この場合、図4(a)で得られた各FITC濃度におけるロックイン検出信号に基づき、ベース信号とFITC蛍光信号比の関係をグラフ化すると、図5に示すように、4μW以上の励起光量におけるベース信号の場合、FITC蛍光信号比はベース信号に依存することなく、ほぼ一定値となる。つまり、FITC蛍光信号比は、FITC濃度にのみ比例するので、以下の式(6)が成立することがわかった。
F’=d×C’・・・(6)
F’:FITC蛍光信号比
d:FITC濃度
C’:定数
この結果に基づき、FITC蛍光信号比を利用して、未知のFITC濃度の試料の濃度を求める方法を説明する。
【0082】
まず、励起光量をA(例えば、A>4)μWに設定し、バッファ液及び複数の既知のFITC濃度の試料について蛍光測定を行い、横軸をFITC濃度、縦軸を上記各試料のロックイン検出信号とする検量線を作成する。
【0083】
この変形例において、FITC蛍光信号比は、ロックイン検出信号をベース信号で割った値であるので、検量線作成時及び試料測定時において得られる濃度d1におけるFITC蛍光信号比を夫々F’0,F’1とすると、
F’0=S0/b0・・・(7)
F’1=S1/b1・・・(8)
という関係が得られる。また、測定時の値を上記式(6)に代入すると、
F’0=d1×C’・・・(9)
F’1=d1×C’・・・(10)
という関係が得られる。
【0084】
このうち、S1,b0,b1は測定値として得ることができるので、F’1は式(8)から算出できる。よって、式(10)からd1×C’はS1/b1と算出できる。
【0085】
算出されたd1×C’を式(9)に代入すると、S0=S1・b0/b1という関係が得られる。
【0086】
よって、このS0の値を作成した検量線に当てはめることにより、d1の濃度を精度よく求めることができる。
【0087】
尚、蛍光分析システム100は、蛍光分析用光合分波器56のフィルタ特性を調整することにより、励起光の一部が検出器54まで導光されたが、この形態に限定されるわけではない。
【0088】
例えば、ロッドレンズ500,502の径をフィルタ501の径より大きくして、励起光の一部を検出器54まで導光するようにしてもよい。この場合、入射端56a側からの励起光は、フィルタ501の外側を迂回する理論上の光路から外れた光路をとるため、出射端56cにもその一部が導光される。つまり、この補正方法の場合、検出器54に導光される励起ベース光には、光ファイバ103の先端部103aで一部反射された励起光だけでなく、入射端56aから入った励起光用光源53からの励起光も含まれる。
【0089】
従って、この形態の蛍光分析用光合分波器を使用する場合は、光ファイバ103の先端部103aを従来通りに無反射処理を施したものを使用し、検出器54に導光される励起ベース光を、入射端56aから入った励起光用光源53からの励起光のみとしてもよい。
【0090】
図6は、本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【0091】
本変形例に係る蛍光分析システム100’は、上記実施の形態で用いられたファイバ長が30cmである光ファイバ103の代わりに、ファイバ長が7mであって、その先端部103a’は無反射処理(斜め研磨+APコート被覆)がされている光ファイバ103’が用いられる点、光ファイバ108が、λ1<λ’<λ2である波長λ’をカットオフ波長とするエッジフィルタ57を有している点、及び蛍光分析用光合分波器56’のフィルタ501’のλ1における透過率が-30dB以下である点において相違する。本変形例のその他の要素は、上記実施の形態の対応するものと同一なので、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0092】
本変形例においては、励起ベース光として光ファイバ103’を構成する成分により発生するラマン散乱光を用いる。
【0093】
ここで、散乱光には、入射光と同じ振動数であるレーリー散乱光、入射光とは異なる振動数であるラマン散乱光が存在する。ラマン散乱光における入射光との振動数のずれは、物質に入射した光が物質の原子、分子に衝突した際にエネルギーの授受を行うことで発生するものであり、このうち、振動数が小さくなる(波長が長くなる)ものをスト一クス散乱光、逆に振動数の大きくなる(波長が短くなる)ものをアンチストークス散乱光という。本変形例では、レーリー散乱光は、励起光と同じ波長である点で、上記実施の形態で用いた励起光の反射光と結局同じなので用いず、ラマン散乱光のみについて検討する。ラマン散乱光のうち、アンチストークス散乱光は蛍光分析用光合分波器56’のフィルタ501’で除去されるように設計されている。これに対し、ストークス散乱は波長が長くなるので蛍光の波長と重なり、フィルタ501’で除去することはできない。本変形例では、このストークス散乱の特徴を逆に利用すべく、ラマン散乱を検量線の補正に用いる励起ベース光として利用した。
【実施例】
【0094】
次に、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
図1で図示するシステムでベース信号及び試料のロックイン検出信号を測定した。
【0095】
具体的には、LEDからなる励起光用光源53として日亜化学社製のNSPB300Bを使用し、レンズ40として日本板硝子製のSLW18(0.4ピッチ)を使用し、光ファイバ103としてエドモンド製のコア径/クラッド径の比率が200/220であって、NAが0.22である石英製光ファイバを使用した。また、蛍光分析用光合分波器56として日本板硝子製の光合分波器を使用し、蛍光分析用光合分波器56内のレンズ500,502として日本板硝子製のSLW18(0.25ピッチ)を使用した。さらに、検出器54として浜松ホトニクス社製のPMT(H5784−20)を使用した。
【0096】
光ファイバ103の先端部103aは0度研磨を行い、またARコートは付けなかった。
【0097】
かかるシステム構成において、ブロープ50から出射した励起光量が点滅信号の平均値で40μWの状態でFITC濃度が0.1μmol/Lの試料の蛍光測定を行い、ロックインアンプ出力値を得た。
【0098】
その後、図7で示すシステムにより、上記得られたロックインアンプ出力値となるように励起光用光源53の励起光量を調整した。この調整により得られた励起光量は2pWであった。つまり、図1のシステム100において、上記試料から発生する蛍光及び励起ベース光の総和の光量は2pWであった。
【0099】
同様の方法で、バッファ溶液に上記励起光を照射してロックインアンプ出力値を得て、この得られたロックインアンプ出力値となるように図7で示すシステムにおける励起光用光源53の励起光量を調整した。この調整により得られた励起光量は1pWであった。つまり、図1のシステム100において、励起ベース光の光量は1pWであった。
(比較例1)
実施例1とは、光ファイバ103の先端部103aについて10度研磨を行い、ARコートは付けた点のみ異なり、それ以外は全て同一の条件で測定を行った。
【0100】
この結果、試料からの蛍光の光量は1pWであったのに対して、励起ベース光の光量は測定限界未満の値である0.01pW以下となった。
【0101】
以上の結果より、実施例1における励起ベース光の光量と、蛍光の光量はほぼ同じとなる。当然のことながら試料の濃度が変化すればそこから出力される蛍光の光量は変化するので、蛍光と励起ベース光の総和の光量と比べて励起ベース光のみ光量が小さくなる場合はある。しかし、実施例でえられた励起ベース光の光量は、比較例で得られた励起ベース光の光量のように測定限界未満の値であって、ノイズの影響を考慮しなくてはならないほどの小さな値ではない。よって、励起光を一部反射した光を励起ベース光として使用することができることがわかった。
【0102】
一方、検出器54中の受光素子が飽和する量は、100pWであるので、実施例で検出される励起ベース光を問題なく使用できることがわかった。
(実施例2)
図6の蛍光分析システム100’の光ファイバ103の長さを調整し、調整後のラマン散乱光を検出した。
【0103】
具体的には、LEDからなる励起光用光源53として日亜化学社製のNSPB300Bを使用し、レンズ40として日本板硝子製のSLW18(0.4ピッチ)を使用し、光ファイバ103としてエドモンド製のコア径/クラッド径の比率が200/220であって、NAが0.22である石英製光ファイバを使用した。また、蛍光分析用光合分波器56として日本板硝子製の光合分波器を使用し、蛍光分析用光合分波器56内のレンズ500,502として日本板硝子製のSLW18(0.25ピッチ)を使用した。さらに、検出器54として浜松ホトニクス社製のPMT(H5784−20)を使用した。
【0104】
また、光ファイバ103の先端部103aは10度研磨を行い、ARコートを付けた。
【0105】
かかるシステム構成において、上記光ファイバ103の長さを変化させ、ラマン散乱光の強度を測定した。
【0106】
この結果、図8に示すように、ファイバ長さが1m未満の場合に検出されるラマン散乱光の強度は0.01pW未満となり、測定限界未満の値となった。
【0107】
これに対して、ファイバ長さが5mの場合のラマン強度は0.5pW、7mではFITC蛍光信号の値とほぼ同じ約1pWとなり、ノイズの影響を考慮しなくてもよい程度の光量が得られた。
【0108】
よって、ファイバ長さが5m以上、より好ましくは7m以上の場合、励起ベース光としてラマン散乱を用いることで、上記検量線で試料のFITC濃度を図6のシステムにおいては確実に求めることができることがわかった。
【0109】
一方、ラマン散乱は励起光が光ファイバ内を通過した場合に発生するものであるので、当然上記の実施例1等の場合でも発生している。しかしながら、実施例1のプローブ部分の光ファイバ長(=30cm)が1m以下であったので、測定限界以下のラマン散乱しか発生しない。よって、比較例1のようなシステムにおいては励起ベース光としてラマン散乱を用いることはできないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの概略構成を示す図である。
【図2】図1における蛍光分析用光合分波器の概略断面模式図である。
【図3】蛍光分析システムにより測定された検出信号を説明するのに用いられるグラフである。
【図4】蛍光測定時の検出信号をリアルタイムで補正する方法を説明するのに用いられるグラフであり、(a)は各FITC濃度におけるロックイン検出信号と励起光量の関係を示し、(b)は各FITC濃度におけるFITC蛍光信号とベース信号の関係を示す。
【図5】図4(b)とは異なる方法で算出されたFITC蛍光信号比とベース信号の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【図7】実施例1で用いられる励起光用光源の励起光量を調整するシステムの概略構成を示す図である。
【図8】図6の蛍光分析システムで検出されるラマン散乱光の強度を示すグラフである。
【図9】従来の蛍光検出システムの構成を概略的に示す図である。
【図10】図9の蛍光検出システムで測定される蛍光を説明するのに用いられる図である。
【図11】図9の蛍光検出システムで測定される蛍光を説明するのに用いられる図である。
【図12】図9の蛍光検出システムで測定される蛍光を説明するのに用いられる図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る蛍光分析システムの変形例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0111】
100 蛍光分析システム
20 蛍光分析用チップ
40 レンズ
53 励起光用光源
54 検出器
56 蛍光分析用光合分波器
103 光ファイバ
103a 先端部
109 ロックイン変調回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、
入射端からの光を第1の出射端に、前記第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、
前記入射端と接続し、前記励起光を出射する励起光用光源と、
前記第2の出射端と接続し、前記蛍光を受光する検出器と、
一端から入射した前記励起光を前記試料に集光照射すると共に、他端から入射した前記蛍光を集光するレンズと、
前記第1の出射端、及び前記レンズの一端と接続する光ファイバとを備え、
前記検出器は、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に受光することを特徴とする蛍光検出システム。
【請求項2】
前記光合分波器は、2つのレンズの間に介在されたフィルタを備え、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする請求項1記載の蛍光検出システム。
【請求項3】
前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする請求項1記載の蛍光検出システム。
【請求項4】
前記光ファイバは、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に前記第1の出射端まで導光することを特徴とする請求項1記載の蛍光検出システム。
【請求項5】
前記光ファイバは、その一部に反射素子が導入されており、前記励起光に起因した光は、前記反射素子により前記励起光の一部が反射された光であることを特徴とする請求項4記載の蛍光検出システム。
【請求項6】
前記反射素子はその端面における反射を利用した素子であることを特徴とする請求項5記載の蛍光検出システム。
【請求項7】
前記端面における反射はガラスの平面反射であることを特徴とする請求項6記載の蛍光検出システム。
【請求項8】
前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項9】
前記フィルタの波長λ1における透過率が−20dB以下であることを特徴とする請求項8記載の蛍光検出システム。
【請求項10】
前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のショートパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項11】
前記フィルタの波長λ1における反射率が−20dB以下であることを特徴とする請求項10記載の蛍光検出システム。
【請求項12】
前記フィルタは、2つのレンズの間に介在されており、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項13】
前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項14】
前記励起光に起因した光は、前記光ファイバからのラマン散乱光であることを特徴とする請求項4記載の蛍光検出システム。
【請求項15】
前記ラマン散乱光は、スト一クス散乱によるものであることを特徴とする請求項14記載の蛍光検出システム。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の蛍光検出システムを利用した濃度測定方法において、
基準時に、第1の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第1の検出信号として取得する第1の取得ステップと、
前記基準時に、第2の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第2の検出信号として取得する第2の取得ステップと、
前記基準時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第3の検出信号を取得する第3の取得ステップと、
前記第1乃至第3の検出信号に基づき検量線を作成する作成ステップと、
前記基準時から所定時間の経過した測定時に、未知濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第4の検出信号として取得する第4の取得ステップと、
前記測定時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第5の検出信号を取得する第5の取得ステップと、
前記第3の検出信号及び前記第5の検出信号に基づき、前記第4の検出信号を補正する補正ステップと、
前記補正された第4の検出信号を前記作成された検量線にあてはめ、前記未知濃度の値を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする濃度測定方法。
【請求項1】
主波長λ1の励起光が照射された試料から発生する主波長λ2の蛍光(λ2>λ1)を分析する蛍光検出システムにおいて、
入射端からの光を第1の出射端に、前記第1の出射端からの光を第2の出射端に導光する光合分波器と、
前記入射端と接続し、前記励起光を出射する励起光用光源と、
前記第2の出射端と接続し、前記蛍光を受光する検出器と、
一端から入射した前記励起光を前記試料に集光照射すると共に、他端から入射した前記蛍光を集光するレンズと、
前記第1の出射端、及び前記レンズの一端と接続する光ファイバとを備え、
前記検出器は、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に受光することを特徴とする蛍光検出システム。
【請求項2】
前記光合分波器は、2つのレンズの間に介在されたフィルタを備え、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする請求項1記載の蛍光検出システム。
【請求項3】
前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする請求項1記載の蛍光検出システム。
【請求項4】
前記光ファイバは、前記励起光に起因した光を前記蛍光と同時に前記第1の出射端まで導光することを特徴とする請求項1記載の蛍光検出システム。
【請求項5】
前記光ファイバは、その一部に反射素子が導入されており、前記励起光に起因した光は、前記反射素子により前記励起光の一部が反射された光であることを特徴とする請求項4記載の蛍光検出システム。
【請求項6】
前記反射素子はその端面における反射を利用した素子であることを特徴とする請求項5記載の蛍光検出システム。
【請求項7】
前記端面における反射はガラスの平面反射であることを特徴とする請求項6記載の蛍光検出システム。
【請求項8】
前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のロングパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項9】
前記フィルタの波長λ1における透過率が−20dB以下であることを特徴とする請求項8記載の蛍光検出システム。
【請求項10】
前記光合分波器は、カットオフ波長λ(λ1<λ<λ2)のショートパスフィルタからなるフィルタを備えることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項11】
前記フィルタの波長λ1における反射率が−20dB以下であることを特徴とする請求項10記載の蛍光検出システム。
【請求項12】
前記フィルタは、2つのレンズの間に介在されており、前記2つのレンズの径が前記フィルタの径より大きいことを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項13】
前記光合分波器は、フュージョン(溶融型)カプラであることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項14】
前記励起光に起因した光は、前記光ファイバからのラマン散乱光であることを特徴とする請求項4記載の蛍光検出システム。
【請求項15】
前記ラマン散乱光は、スト一クス散乱によるものであることを特徴とする請求項14記載の蛍光検出システム。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか1項に記載の蛍光検出システムを利用した濃度測定方法において、
基準時に、第1の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第1の検出信号として取得する第1の取得ステップと、
前記基準時に、第2の濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第2の検出信号として取得する第2の取得ステップと、
前記基準時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第3の検出信号を取得する第3の取得ステップと、
前記第1乃至第3の検出信号に基づき検量線を作成する作成ステップと、
前記基準時から所定時間の経過した測定時に、未知濃度を有する前記被測定物質に前記励起光を照射し、そのときに前記検出器に導光された光を、第4の検出信号として取得する第4の取得ステップと、
前記測定時に、前記励起光に起因した光のみを前記検出器に導光したときに、第5の検出信号を取得する第5の取得ステップと、
前記第3の検出信号及び前記第5の検出信号に基づき、前記第4の検出信号を補正する補正ステップと、
前記補正された第4の検出信号を前記作成された検量線にあてはめ、前記未知濃度の値を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする濃度測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−287999(P2009−287999A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139218(P2008−139218)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
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