説明

蛍光標識用色素、蛍光標識用色素で標識された生物由来物質、及びそれらを含有する試薬

【目的】670〜780nm付近に発振波長をもつ小型半導体レーザを用いて測定するための、種々の抗原・薬物の分析やDNAの塩基配列の分析等に有用な試薬を提供する。
【構成】一般式(I)で表される蛍光標識用色素、それによって標識されたビタミン、ヌクレオチドもしくはタンパク質等の生物由来物質、又はこれらを含有する試薬。
【化1】(一般式(I)中、Aはナフタレン環、アンスラセン環等であり、MはAl、Si、H2等であり、R1〜R4はスルホン酸基、アミノ基等であり、k、l、m及びnは0〜4の整数であり、Yはヒドロキシ基、ハロゲン原子等であり、pは0〜2の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、蛍光標識用色素、蛍光標識用色素で標識された生物由来物質、及びそれらを含有する試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】フタロシアニン系顔料は、環状共役鎖を構成する4つの窒素原子によって結合された4個のイソインドール部分を有する有機顔料である。これらの顔料に用いられている化合物としては、フタロシアニン(青緑)、銅フタロシアニン(青)、塩素置換銅フタロシアニン(緑)、スルホン化銅フタロシアニン(緑)等がある。フタロシアニン系顔料は、一般に、エナメル、プラスチック、リノリウム、インク、壁紙、織物、紙、ゴム製品などに使用されている。いっぽう、フリーベースフタロシアニン、アルミニウム、カドミウム、マグネシウム、シリコン、すず及び亜鉛フタロシアニンが螢光を示すことが報告された(The Phthalocyanines 1:127、1983)。
【0003】また、フタロシアニン類は種々の免疫分析に使用できることが種々報告されている(US特許第4,160,645号公報、US特許第4,193,983号公報、US特許第4,220,450号公報、US特許第4,233,402号公報、US特許第4,235,869号公報、US特許第4,256,834号公報、US特許第4,277,437号公報、US特許第4,318,707号公報、US特許第4,483,929号公報、US特許第4,540,660号公報、US特許第4,540,670号公報、US特許第4,560,534号公報、US特許第4,650,770号公報、US特許第4,656,129号公報、US特許第4,659,676号公報)。
【0004】更に、フタロシアニン類は、化学発光免疫分析系で触媒として使用されている〔Bull.Chem.Soc.Jpn.第56巻、2965−2968頁(1983)、同第56巻、2267−2271頁(1983)、同第57巻、587−588頁(1984)、同第57巻、3009−3010頁(1984)、同第58巻、1299−1303頁(1985)〕。原らは、ルミノールと過酸化水素とのあいだの化学発光反応の触媒として鉄フタロシアニンを用いて、化学発光のシグナル量から、テストサンプル中の分析対象を定量している。彼らは鉄及びコバルトのフタロシアニン並びに鉄、パラジウム、白金、マンガン及びスズのポルフィリン錯体について検討し、鉄フタロシアニンが最も優れた触媒作用を示し、かつ高感度であることを報告した。
【0005】免疫分析で着色物質のほかに螢光物質が広く利用されているが、さらに、酵素免疫分析においても、螢光物質は感度を上げることができるので着色物質よりも好んで使用されるようになってきている。よく知られた螢光物質−酵素対はアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)と4−メチルウムベリフェリルホスフェート(4-methylumbelliferyl phosphate)、β−ガラクトシダーゼ(β-galactosidase)と4−メチルウムベリフェリル−D−ガラクトピラノシド(4-methylumbelliferyl-D-galactopyranoside)、西洋ワサビのパーオキシダーゼ(horse radish peroxidase)とp−ヒドロキシフェニル酢酸(p-hydroxyphenyl acetic acid)等があり、これらの系の検出感度は10-15 Mである。しかし検出感度をさらに上げようとしても生成する螢光体の分析特性には限界がある。
【0006】最近、螢光量子収率が高く、水に対して高い溶解性を示すフタロシアニン類を用いた試薬が提案された(WO特許第88/04777号公報、WO特許第90/02747号公報、特開平1−233222号公報)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしフタロシアニン類は、ほぼ等価な骨格をもつ4つの芳香環を有するので、水等の極性溶媒中で容易に会合体を形成し、検出感度が低下する。更に、フタロシアニン類は、そのQ−バンドの吸収域及び蛍光発光域が波長650〜700nmの領域にあり、生体の血液中に存在するヘム等の吸収域(<700nm)と重なるので、その妨害を受ける欠点がある。
【0008】また、放射線光源は今後安価で小型の半導体レーザ(670〜780nm)が主流になると考えられるが、670〜690nmの半導体レーザで励起する場合に、フタロシアニンは螢光発光領域がこれと同様の波長域にあるため、照射レーザ光からの散乱光と螢光発光を区別することが困難であるだけでなく、700〜780nmの半導体レーザで励起する場合には、フタロシアニンは光を吸収できないため励起されず、したがって検出薬としての役目を果たさない。
【0009】本発明は、将来主流になると予想される安価で小型の半導体レーザ(670〜780nm)を用いて測定でき、また水等の極性溶媒中で容易に会合体を形成しないため高い感度を示し、更に血液中に存在するヘム等の生体内物質に影響されない、抗原・薬物の分析やあるいはDNAの塩基配列の分析等に有用な試薬又は臨床検査試薬を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は下記(1)〜(6)に関する。すなわち、(1)一般式(I)
【化3】


〔一般式(I)中、Aは、次のいずれかの構造式(化4)で表される芳香環を示し、
【化4】


Mは、H2 、Al、Si、P、Ga、Ge、Cd、Sc、Mg、Sn又はZnを示し、R1 、R2 、R3 及びR4 は、それぞれ独立に、−XQW、−QW、−W又は水素原子を示し、(ここで、Xは、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、ケイ素原子、セレン原子、CR56 (ただし、R5 及びR6 は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、R56 としてカルボニル酸素でもよい。)、又はフェニレン基を示し、Qは、XとWを結合する基を示し、Wは−OH、−CO2H、−CO2- 、−OCH2CO2H、−OCH2CO2- 、−PO42- 、−PO3- 、−SO3- 、−SO2-、−SO2Cl、−SO4 2 - 、−NH2 、−NHR7 、−NR89 又は−N(+)R101112(ただし、R7 〜R12は、それぞれ独立にC1 〜C10のアルキル基、C6 〜C12のアリール基又はC6 〜C12のアラルキル基である。)を示す。)k、l、m及びnは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、Yは、ハロゲン原子、−OR13又は−NR142 (ただし、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、親水性置換基を有するものであってもよいアルキル基、親水性置換基を有するものであってもよいアシル基、親水性置換基を有するものであってもよいシリル基又は親水性置換基を有するものであってもよいリン原子含有基である。)を示し、pは、YのMへの結合数を表わす0〜2の整数を示す。〕で表される蛍光標識用色素。
(2)上記(1)の蛍光標識用色素を含有する試薬。
(3)上記(1)の蛍光標識用色素で標識された生物由来物質。
(4)上記(3)の標識された生物由来物質を含有する試薬。
(5)生物由来物質がビタミン、アルカロイド又はヌクレオチドである上記(3)の標識された生物由来物質。
(6)生物由来物質がビタミン、アルカロイド又はヌクレオチドである上記(4)の試薬。
【0011】本発明の一般式(I)の化合物において、R1〜R4中のX中のR5 及びR6 のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、sec−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等があり、アリール基の例としては、フェニル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、トリル基、アニシル基、4−アミノフェニル基等があり、アラルキル基としては、べンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、1−フェニルプロピル基等がある。
【0012】また、Y中のR13及びR14の親水性置換基を有するものであってもよいアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、ドコシル基等の直鎖、分枝及び脂環状の基があり、親水性置換基を有するものであってもよいアシル基の例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基等があり、親水性置換基を有するものであってもよいシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、トリアミルシリル基、トリヘキシルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ジ(t−ブチル)メチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基等があり、親水性置換基を有するものであってもよいリン原子を含む置換基としては、−P(=O)R78、−P(=O)(NR9102 、−PR112 (ただし、R7〜R11は、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、アシル基、シクロアルキル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、ポリエーテル基、ヒドロキシル基又はハロゲン原子を示し、それらは種々の置換基を持っていてもよい。)等がある。
【0013】R1〜R4中のQはXとWを結合する基で、C1〜C8の飽和又は不飽和の直鎖状、分枝状又は環状の結合基、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、ビニレン基、プロペニレン基、シクロプロピレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等のほか、ポリエーテル、ポリアミン、ポリアルコール等の基がある。
【0014】W中、R7 〜R12のC1〜C10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、ノニル基、デシル基の直鎖状、分枝状及び環状の基があり、C6〜C12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、アニシル基、ナフチル基、ビフェニル基等があり、C6〜C12のアラルキル基としては、ベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、1−フェニルプロピル基等がある。
【0015】一般式(I)中、Yが−OR13又は−NR142 (R13及びR14は、アルキル基、アシル基及びシリル基を示す)であり、pが1又は2である化合物は、一般式(I)中、Yが−OH又は−NH2 である化合物を、相当するアルコール、アシルクロリド、シラノール、クロロシラン、クロロホスフィン、クロロホスファイト又はホスフォリルクロリドなどと反応させることによって合成できる。
【0016】一般式(I)中、Yが−OH又は−NH2 であり、pが1又は2である化合物は、一般式(I)中、Yがハロゲン原子であり、pが1又は2である化合物を加水分解又は加アンモニア分解することによって得ることができる。
【0017】一般式(I)中、Yがハロゲン原子でありpが1又は2である化合物、及びpがゼロでYをもたない化合物は、次の2つの経路により合成することができる。第1の経路は文献(Zh. Obsch. Khim.、第39巻、2554-2558頁(1969年))記載の方法に準じて、式(II)
【化5】


で表される化合物と式(III)
【化6】


〔式(III)中、Aは一般式(I)中と同じ意味を示す。〕で表される化合物とをクロスカップリングさせることにより、次式(IV)
【化7】


〔式(IV)中、A、M及びpは一般式(I)中と同じ意味を示し、Y’は−OH又は−NH2を示す。〕で表される化合物を得、次にこれに、一般式(I)において、置換基R1、R2、R3又はR4を形成しうるようなR1、R2、R3又はR4部位含有の化学種を反応させて得る方法である。
【0018】第2の経路は、文献(Monatsh. Chem., 103巻、150-155頁(1972年)及び同105巻、405-418頁(1974年))記載の方法を参考にして得られる次式(V)
【化8】


と前記の式(III)で示される化合物とを、文献(J. Am. Chem. Soc., 112巻、9640-9641頁(1990年))記載の方法に準じて反応させることにより式(IV)で示される化合物を得たのち、更に一般式(I)で表される化合物を得る方法である。
【0019】一般式(I)で表される化合物の例を次の表1及び表2に示す。
【表1】
表1 一般式(I)で表される化合物の例(その1)
────────────────────────────────────No. A M−Yp R1234──────────────────────────────────── 1 化9 H2 SO3Na SO3Na SO3Na SO3Na 2 〃 〃 〃 〃 〃 − 3 〃 Mg 〃 〃 〃 − 4 〃 AlCl 〃 〃 〃 − 5 〃 Si〔OCH2CH2OH〕2 〃 〃 〃 − 6 〃 Si〔OC(CH2OH)32 〃 〃 〃 − 7 化10 AlCl PO3Na PO3Na PO3Na PO3Na 8 〃 Si〔OCH2CH(CH2OH)22 SO3Na SO3Na SO3Na SO3Na 9 化11 〃 〃 〃 〃 〃10 化12 〃 〃 〃 〃 〃11 〃 Ge〔OC(CH2OH)32 CO2Na CO2Na CO2Na CO2Na12 〃 〃 SCH2OH SCH2OH SCH2OH SCH2OH13 化13 〃 − CONH2 CONH2 CONH214 〃 Zn − 〃 〃 〃15 化9 〃 SC3H7 SO3Na SO3Na SO3Na16 化13 〃 NH2 〃 〃 〃17 化10 〃 SO3Na NHCO2Na NHCO2Na NHCO2Na18 化9 〃 化14 化14 化14 化1419 〃 Al-OH 〃 〃 〃 〃 20 〃 化15 〃 〃 〃 〃────────────────────────────────────
【表2】
表2 一般式(I)で表される化合物の例(その2)
────────────────────────────────────No. A M−Yp R1234────────────────────────────────────21 化9 Mg 化14 化14 化14 化1422 〃 〃 化16 化16 化16 化1623 〃 〃 化17 SO3Na SO3Na SO3Na24 〃 〃 化18 化14 化14 化1425 〃 Zn 化17 化17 化17 化1726 〃 〃 化18 化18 化18 化18────────────────────────────────────ただし、表1及び表2において、k、l、m及びnはいずれも1であり、化9〜化18とあるのは次の化学式を示す。
【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】−S−Ph−SO3Na (ただし、Phはベンゼン環を示す)
【化18】


【0020】本発明において用いられる生物由来物質としては、動物、植物、微生物(ウイルスを含む)等の生物から得られるタンパク質・ペプチド、ヌクレオチド、糖類、脂質、ホルモン、ビタミン、アルカロイド、抗生物質、それらの複合物等があり、これらは、天然から抽出したもの、人工的に完全合成したもの、あるい人工的に半合成したもののいずれであってもよい。
【0021】タンパク質・ペプチドの具体例としては、血清アルブミン、IgG・IgA・IgM・IgD・IgE等の免疫グロブリン、種々のタンパク質や白血球の膜抗原に対するモノクローナル抗体、パーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素等が挙げられ、ヌクレオチドの具体例としてはDNA、RNA、合成オリゴヌクレオチド、合成ポリヌクレオチド、ATP、CTP、GTP、TTP、UTP、dATP、dCTP、dGTP、dTTP、dUTP、ddATP、ddCTP、ddGTP、ddTTP、ddUTP、あるいはそれらの誘導体等が挙げられ、糖類の具体例としては、グリコーゲン、デンプン、マンナン等の多糖類のほかオリゴ糖やグルコース、マンノース等の単糖類が挙げられ、脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノラミン、脂肪、脂肪酸等が挙げられ、ホルモンとしてはインシュリン、成長ホルモン、オキシトシン、バソプレッシン、セクレチン、上皮細胞成長因子、ガストリン、グルカゴン、カルシトニン等のペプチド性ホルモン、アンドロゲン、エストロゲン、ハイドロコーチゾン等のステロイドホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン等のカテコラミン類等が挙げられ、ビタミンとしてはビタミンA、ビタミンB1、B2、B6、B12、p−アミノ安息香酸(PABA)、ビオチン、葉酸、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等の各種ビタミンが挙げられ、アルカロイドとしてはモルフィン等のアヘンアルカロイド、アトロピン、スコポラミン等のトロパンアルカロイド、ビンブラスチン、ビンクリスチン等のインドールアルカロイド、オウレン等のイソキノリンアルカロイド等が挙げられ、抗生物質としては、ペニシリン、セファロスポリン、カナマイシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール等が挙げられる。
【0022】生物由来物質に蛍光標識用色素を結合させるためには、生物由来物質中のアミノ基、水酸基等の官能基と蛍光標識用色素中のカルボキシル基、スルフォン基等の官能基を利用して直接、イオン結合的又は共有結合的に直接結合させるか、あるいは蛍光標識用色素が反応できるように、生物由来物質の一部に結合基(リンカー)を付加する等の化学修飾を施したのち、反応させればよい。蛍光標識用色素で標識された生物由来物質はクロマトグラフィー、再結晶等の慣用の分離手段により精製することができる。
【0023】3個のベンゼン環に加え、Q吸収帯を長波長へシフトさせる役割をもつ芳香環が縮環したことにより、一般式(I)で表される化合物の吸収及び蛍光発光波長はフタロシアニン類に比べ長波長域(700nm以上)に移動し、また非対称の分子構造となるため水中での会合体の形成が抑制される。そのため、一般式(I)で表される化合物を用いれば、血中ヘム等のスペクトル的妨害因子の影響を免れることができ、しかも検出感度の高い分析・検査試薬とすることができるので、生体中の種々の抗原、薬物の分析やあるいはDNAの塩基配列の分析等に有用に利用できる。
【0024】
【実施例】以下、実施例により更に具体的に本発明を説明する。なお、化合物のNo.は表1及び表2の番号に符合する。
実施例1 化合物No.4の合成文献〔Monatsh. Chem., 105巻、405-418頁(1974年)〕記載の方法を参考にして合成したサブフタロシアニン(1.2g)及び1,3−ジイミノベンゾ〔f〕イソインドリン(3.2g)を、文献〔J. Am. Chem. Soc., 112巻、9640-9641頁(1990年)〕記載の方法を参考にして反応させたのち、キノリン(300ml)中、220℃で塩化アルミニウム(3.0g)を反応させ、クロロアルミニウムフタロナフタロシアニン(3.6g)を得た。次に、これをクロロスルホン酸(20ml)中、65℃で6時間撹拌した。放冷後、内容物を氷水(1kg)に注ぎ、固体を濾取し、水、続いてメタノールで洗浄後、減圧乾燥した。得られた固体(2.9g)に1N−NaOH(40ml)を加え、室温で24時間撹拌した。反応物をクロマトグラフィー(展開溶媒:10重量%NH4OH/メタノール)により精製し、黒緑色固体(1.9g)を得た。本固体には、約3個のスルホン酸基が導入されていることが分かった。
【0025】実施例2 化合物No.18の合成文献〔Monatsh. Chem., 105巻、405-418頁(1974年)〕記載の方法を参考にして合成したサブフタロシアニン(1.2g)及び1,3−ジイミノベンゾ〔f〕イソインドリン(3.2g)を、文献〔J. Am. Chem. Soc., 112巻、9640-9641頁(1990年)〕記載の方法を参考にして反応させたのち、キノリン(300ml)中、220℃で塩化亜鉛(3.0g)を反応させ、亜鉛フタロナフタロシアニン(3.4g)を得た。次に、これをクロロスルホン酸(20ml)中、65℃で6時間撹拌した。放冷後、内容物を氷水(1kg)に注ぎ、固体を濾取し、水、続いてメタノールで洗浄し、減圧乾燥した。得られた固体(2.8g)を無水クエン酸(10g)とともにキノリン(300ml)中、180℃で3時間反応させたのち、反応液中のキノリンを減圧下で留去した。固体をメタノール(20ml)でほぐしたのち、トルエン(100ml)で2回、更にn−ヘキサンで洗浄し、乾燥した。水を加えてクエン酸を溶かし、不溶性の固体を濾取した。この固体を炭酸ナトリウム溶液中に投入し、30分撹拌後、濾過して得た濾液を弱酸性にし調整して析出させた固体を濾取した。この固体を赤外スペクトル分析の結果、カルボン酸基が多数導入されていることが分かった。この固体を炭酸ナトリウム溶液に溶かして、化合物No.18を得た。
【0026】実施例3 化合物No.15の合成1,3−ジイミノベンゾ〔f〕イソインドリン及び塩化アルミニウムの代わりに、それぞれ6−プロピルチオ-1,3−ジイミノベンゾ〔f〕イソインドリン及び塩化亜鉛を用いたほかは、実施例1と同様にして、化合物No.15を得た。
【0027】実施例4 化合物No.7の合成1,3−ジイミノベンゾ〔f〕イソインドリン及び塩化アルミニウムの代わりに、それぞれ下記の化19
【化19】


で表される化合物及び四塩化珪素を用いたほかは、実施例1と同様にして、M−YpがSi(OH)2である化合物を得たのち、キノリン中、2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールと脱水縮合反応させ、化合物No.7を得た。
【0028】実施例5 化合物No.4のモノ{N−(p−ヒドロキシカルボニルフェニル)スルファモイル}ジスルホン酸ナトリウム塩の合成実施例1において、1N−NaOH水溶液でナトリウム塩とする前のトリスルホン酸(200mg)のベンゼン(2ml)溶液に、25℃でオキザリルクロリド(0.75ml)を滴下した。6時間撹拌後、溶媒を除去し、トリスルホニルクロリド誘導体を黒緑色固体として得た。一方、炭酸ナトリウム(75mg)の水(1.5ml)溶液に、80℃で、p−アミノ安息香酸(PABA)(45mg)を加え、5分間撹拌し、トリスルホニルクロリド誘導体(72mg)を加えた。反応液を80℃で更に6時間撹拌したのち、溶媒を除去し得た固体を10重量%水酸化アンモニウムを含むメタノールで希釈し、再度濃縮し、アセトンで粉砕して、化合物No.4のモノ{N−(p−ヒドロキシカルボニルフェニル)スルファモイル}ジスルホン酸ナトリウム塩を得た。
【0029】実施例6 化合物No.15のモノ{N−(p−ヒドロキシカルボニルフェニル)スルファモイル}ジスルホン酸ナトリウム塩の合成実施例3において、1N−NaOH水溶液でナトリウム塩にする前のトリスルホン酸を実施例4と同様に処理し、化合物No.15のモノ{N−(p−ヒドロキシカルボニルフェニル)スルファモイル}ジスルホン酸ナトリウム塩を得た。
【0030】実施例7 化合物No.15のモノ〔2−(2’−アミノエトキシ)エチルアミノスルホニル〕ジスルホン酸ナトリウム塩の合成実施例3において、1N−NaOH水溶液でナトリウム塩とする前のトリスルホン酸(72mg)のベンゼン(3ml)溶液に、25℃でオキザリルクロリド(1.0ml)を滴下した。6時間撹拌後、溶媒を除去し、トリスルホニルクロリド誘導体を黒緑色固体として得た。一方、炭酸ナトリウム(30mg)の水(1.2ml)溶液に、80℃で、2,2’−オキシビス(エチルアミン)ハイドロクロリド(25mg)を加え、5分間撹拌し、先に調製したトリスルホニルクロリド誘導体を加えた。反応液を80℃で更に12時間加熱し、化合物No.15のモノ〔2−(2’−アミノエトキシ)エチルアミノスルホニル〕ジスルホン酸ナトリウム塩を得た。
【0031】実施例8 アンチモルフィンモノクローナル抗体に対する相対免疫親和性化合物No.4のモノ{N−(p−ヒドロキシカルボニルフェニル)スルファモイル}ジスルホン酸ナトリウム塩から得られる化合物No.4のモノ{N−(p−ヒドロキシカルボニルフェニル)スルファモイル}ジスルホニルクロリド(50mg)のトリエチルアミン(0.5ml)溶液に、0℃で撹拌しながらクロロギ酸エチル(7ml)を加えた。5分間撹拌後、3−(4−アミノブチル)モルフィン(29mg)を加え、室温で反応混合物を8時間撹拌し、化合物No.4のモノ{N−(p−ヒドロキシカルボニルフェニル)スルファモイル}ジスルホニルクロリドで標識したモルフィンを得た。
【0032】モルフィン、アミノモルフィン及びここで得た標識化モルフィンについて、アンチモルフィンモノクロナール抗体に対する相対免疫親和性を、トリチウムでラベルしたモルフィンとの競争反応を用いて測定した。その結果を表3に示す。
【表3】
表3 アンチモルフィンモノクローナル抗体に対する親和性 ────────────────────────────────── 分子種 相対親和性 ────────────────────────────────── モルフィン 1 アミノモルフィン 1 標識化モルフィン 0.9 ──────────────────────────────────表3の結果から分子種の違いによる相対親和性の違いはほとんでみられず、モルフィンに化合物No.4を結合させてもモルフィンとモノクローナル抗体の反応性はほとんど変化がないことが分かる。
【0033】実施例9(1)リンカーが結合したオリゴヌクレオチド・プライマーの合成固相CED−フォスフォラミド法を用いた自動DNA合成装置によりプライマー(5’−GTTTCCCAGTCACGAC−3’)を合成した。合成したプライマーのリン酸化は、50mMトリス−塩酸(pH7.6)、10mM塩化マグネシウム、10mMジチオスレイトール、3mM ATP、T4−ヌクレオチドカイネースを含む100μlの反応液中で37℃、1時間保温して行った。リン酸化されたプライマーは、ゲル濾過用カラムを使用して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離し、リン酸化されたプライマーのピークを集め、凍結乾燥で溶媒を除いた。
【0034】次に、これを250mMの1,2−ジアミノエタン(pH6.0),200mMのエチル−3(3−ジエチルアミノプロピル)カルボジイミド及び100mMのN−メチルイミダゾール(pH6.0)を含む反応液100μl中、25℃で一晩保温して5’末端のグアノシンのリン酸部にリンカー〔NH2−(CH2)2−NH−〕を結合させた。
【0035】(2)化合物No.4で標識されたオリゴヌクレオチド・プライマーの合成5’末端グアノシンのリン酸部にリンカーが結合した上記(1)のオリゴヌクレオチド・プライマーと実施例1で得た化合物を0.2M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.3)中で混合し、25℃で一晩、暗室で保温したのち、HPLCで精製することにより、リンカーを介して化合物No.4が結合したプライマーを得た。
【0036】(3)DNAの塩基配列の分析既知の塩基配列のDNAをサンプルとし、上記(3)で得られたリンカーを介して化合物No.4が結合したプライマーを用いて、それぞれ4種の塩基でサンガー反応を行ったのち、それぞれ別々のレーンで電気泳動分離し、720nmの発振波長の半導体レーザーを搭載したDNAシークエンサーで分析した。その結果、DNAの300塩基までを99%の精度で決定できた。
【0037】
【発明の効果】本発明により、血液中に存在するヘム等の生体内物質に影響されず、また、将来主流になると予想される小型の半導体レーザ(670〜780nm)を用いて測定するための、血液中の種々の抗原、薬物の分析やあるいはDNAの塩基配列の分析等に有用な試薬又は臨床検査試薬を提供できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式(I)
【化1】


〔一般式(I)中、Aは、次のいずれかの構造式(化2)で表される芳香環を示し、
【化2】


Mは、H2 、Al、Si、P、Ga、Ge、Cd、Sc、Mg、Sn又はZnを示し、R1 、R2 、R3 及びR4 は、それぞれ独立に、−XQW、−QW、−W又は水素原子を示し、(ここで、Xは、酸素原子、窒素原子、イオウ原子、リン原子、ケイ素原子、セレン原子、CR56 (ただし、R5 及びR6 は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、R56 としてカルボニル酸素でもよい。)、又はフェニレン基を示し、Qは、XとWを結合する基を示し、Wは−OH、−CO2H、−CO2- 、−OCH2CO2H、−OCH2CO2- 、−PO42- 、−PO3- 、−SO3- 、−SO2-、−SO2Cl、−SO4 2 - 、−NH2 、−NHR7 、−NR89 又は−N(+)R101112(ただし、R7 〜R12は、それぞれ独立にC1 〜C10のアルキル基、C6 〜C12のアリール基又はC6 〜C12のアラルキル基である。)を示す。)k、l、m及びnは、それぞれ独立に0〜4の整数を示し、Yは、ハロゲン原子、−OR13又は−NR142 (ただし、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、親水性置換基を有するものであってもよいアルキル基、親水性置換基を有するものであってもよいアシル基、親水性置換基を有するものであってもよいシリル基又は親水性置換基を有するものであってもよいリン原子含有基である。)を示し、pは、YのMへの結合数を表わす0〜2の整数を示す。〕で表される蛍光標識用色素。
【請求項2】請求項1記載の蛍光標識用色素を含有する試薬。
【請求項3】請求項1記載の蛍光標識用色素で標識された生物由来物質。
【請求項4】請求項3記載の標識された生物由来物質を含有する試薬。
【請求項5】生物由来物質がビタミン、アルカロイド又はヌクレオチドである請求項3記載の標識された生物由来物質。
【請求項6】生物由来物質がビタミン、アルカロイド又はヌクレオチドである請求項4記載の試薬。

【公開番号】特開平5−194942
【公開日】平成5年(1993)8月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−9592
【出願日】平成4年(1992)1月23日
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)