説明

蛍光顕微鏡および光学フィルタ

【課題】蛍光観察に用いる光学フィルタの透過波長帯域を迅速に変更する。
【解決手段】試料2に照射する励起光を照明光から抽出するための励起フィルタ13内には、チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bが光軸に沿って並べられている。チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bは、光の入射角により透過波長帯域の幅をほぼ一定に保ったまま中心波長が変化する。チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bは、光軸に対する角度を個別に調整することが可能である。本発明は、例えば、蛍光顕微鏡に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光顕微鏡および光学フィルタに関し、特に、蛍光観察に用いて好適な蛍光顕微鏡および光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光色素により染色した試料や蛍光タンパク質を発現した試料に所定の波長の励起光を照射し、試料から発せられる蛍光を顕微鏡により観察する蛍光観察が行われている。
【0003】
励起光および試料から発せられる蛍光の波長は、蛍光色素または蛍光タンパク質の種類によりそれぞれ異なる。そこで、複数のフィルタセットをターレットにセットしておき、観察対象となる蛍光色素または蛍光タンパク質を変更する度に、使用するフィルタセットを交換することが一般的に行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−139794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ターレットを用いてフィルタセットを交換する場合、所望のフィルタセットが光路に設定される位置までターレットを回転させる必要があり、交換作業に時間がかかっていた。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、蛍光観察に用いる光学フィルタの透過波長帯域を迅速に変更できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面の蛍光顕微鏡は、試料に照射する励起光を照明光から抽出するための第1の光学フィルタ、または、前記試料からの光の所定の波長帯域を透過する第2の光学フィルタのうち少なくとも一方が、光の入射角により透過波長帯域の幅をほぼ一定に保ったまま中心波長が変化する複数の可変フィルタが光軸に沿って並べられ、複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整可能な光学フィルタにより構成される。
【0008】
本発明の第2の側面の光学フィルタは、光の入射角により透過波長帯域の幅をほぼ一定に保ったまま中心波長が変化する複数の可変フィルタが光軸に沿って並べられ、複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整可能である。
【0009】
本発明の第1の側面においては、第1の光学フィルタに備えられている複数の可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整することにより、励起光の波長が変更され、第2の光学フィルタに備えられている複数の可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整することにより、試料を観察する光の波長が変更される。
【0010】
本発明の第2の側面においては、複数の可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整することにより、光学フィルタの透過波長帯域が変更される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の側面または第2の側面によれば、蛍光観察に用いる光学フィルタの透過波長帯域を迅速に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した蛍光顕微鏡の照明光学系の構成例を示す図である。
【図2】本発明を適用した蛍光顕微鏡の観察光学系の構成例を示す図である。
【図3】チューナブルバンドパスフィルタの特性の一例を示す図である。
【図4】励起フィルタの透過波長帯域の一例を模式的に示す図である。
【図5】顕微鏡システムの構成例を示すブロック図である。
【図6】顕微鏡システムにより実行される観察処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】GFPとYFPの励起スペクトルを示す図である。
【図8】GFPとYFPの蛍光スペクトルを示す図である。
【図9】顕微鏡システムにより実行されるアンミキシング観察処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態
2.変形例
【0014】
<1.実施の形態>
[蛍光顕微鏡の構成例]
図1および図2は、本発明を適用した蛍光顕微鏡の光学系の一実施の形態を示す図である。図1は、蛍光顕微鏡1の照明光学系の構成例を示し、図2は、蛍光顕微鏡1の観察光学系の構成例を示している。
【0015】
光源11から発せられた照明光は、コリメータレンズ12により平行光束とされ、励起フィルタ13に入射する。励起フィルタ13は、透過波長帯域が可変の光学フィルタであり、入射する照明光のうち設定された波長帯域(以下、励起波長帯域と称する)の光を透過し、それ以外の波長帯域の光を遮断または減衰することにより、励起光を抽出する。
【0016】
励起フィルタ13により抽出された励起光は、集光レンズ14を透過し、ダイクロイックミラー15により対物レンズ16の方向に反射され、対物レンズ16を透過して、試料2に照射される。
【0017】
励起光が照射された試料2からの光(以下、観察光と称する)は、対物レンズ16およびダイクロイックミラー15を透過し、バリアフィルタ17に入射する。試料2は、所定の蛍光色素により染色されたり、あるいは、蛍光タンパク質が発現しており、励起光を照射することにより蛍光色素または蛍光タンパク質から発せられる蛍光が観察光に含まれる。
【0018】
なお、以下、蛍光色素および蛍光タンパク質など励起光を照射することにより蛍光を発する物質を蛍光物質と総称する。
【0019】
バリアフィルタ17は、透過波長帯域が可変の光学フィルタであり、観察光のうち設定された波長帯域(以下、シグナル取得波長帯域と称する)の光を透過し、それ以外の波長帯域の光を遮断または減衰する。
【0020】
バリアフィルタ17を透過した観察光は、結像レンズ18に入射し、結像レンズ18により試料2の像3が結ばれる。
【0021】
ここで、さらに図3および図4を参照して、励起フィルタ13およびバリアフィルタ17の特性について説明する。
【0022】
励起フィルタ13内には、チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bが光軸に沿って並べられている。同様に、バリアフィルタ17内には、チューナブルバンドパスフィルタ21c,21dが光軸に沿って並べられている。チューナブルバンドパスフィルタ21a乃至21dは、透過波長帯域が可変の同じ種類の光学フィルタである。以下、チューナブルバンドパスフィルタ21a乃至21dを個々に区別する必要がない場合、単に、チューナブルバンドパスフィルタ21と称する。
【0023】
図3は、チューナブルバンドパスフィルタ21の特性の一例を示している。なお、図3の横軸は波長(単位はnm)を示し、縦軸は透過率(単位は%)を示している。チューナブルバンドパスフィルタ21は、入射光の角度(入射角)を所定の許容範囲内で調整することにより、透過波長帯域の幅(以下、透過波長帯幅と称する)をほぼ一定に保ったまま、中心波長(以下、透過中心波長と称する)を変更することができる光学フィルタである。例えば、Semrock社のVersaChorome(商標)をチューナブルバンドパスフィルタ21として採用することが可能である。
【0024】
例えば、図3の波形51は、入射角が0度の場合のチューナブルバンドパスフィルタ21の透過特性を示し、波形52は、入射角が許容範囲の最大値(例えば、60度)である場合のチューナブルバンドパスフィルタ21の透過特性を示している。そして、許容範囲内で入射角を変化させることにより、波形51と波形52の間の範囲内において、透過波長帯幅をほぼ一定に保ったまま、透過中心波長を連続して変化させることができる。
【0025】
図4は、励起フィルタ13の透過波長帯域の一例を模式的に示す図である。波形61aは、チューナブルバンドパスフィルタ21aの透過波長帯域を示し、波形61bは、チューナブルバンドパスフィルタ21bの透過波長帯域を示している。
【0026】
励起フィルタ13全体の透過波長帯域は、波形61aと波形61bとが重なる斜線で示される範囲、すなわち、2つのチューナブルバンドパスフィルタ21の透過波長帯域が重なる帯域となる。つまり、励起フィルタ13を透過する透過光の中心波長および波長帯幅は、チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bの透過中心波長の相対的な差によって決定される。
【0027】
従って、チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bの光軸に対する角度(以下、設定角度と称する)を個別に調整し、両者の透過波長帯域が重なる範囲を変えることにより、励起フィルタ13の透過中心波長を、チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bの透過中心波長の設定可能範囲内で任意の値に設定することができ、励起フィルタ13の透過波長帯幅を、チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bの透過波長帯幅の範囲内で任意の値に設定することができる。
【0028】
なお、チューナブルバンドパスフィルタ21a,21bの設定角度の調整は、手動または電動のどちらで行うようにしてもよい。
【0029】
また、バリアフィルタ17は、励起フィルタ13と同様の構成を有しており、励起フィルタ13と同様の方法により、シグナル取得波長帯域を任意の値に設定することが可能である。
【0030】
このように、蛍光顕微鏡1では、例えば、励起スペクトルが近接した蛍光色素で多重染色した試料において特定の色素だけを励起したり、蛍光褪色や生細胞への光毒性を抑制したりするために、透過波長帯幅を変更する場合、または、蛍光のブリードスルーの悪影響を避けるためにシグナル取得波長帯幅を変更する場合などに、光学フィルタを交換する手間や時間を省くことができる。すなわち、各チューナブルバンドパスフィルタ21の設定角度を調整するだけで、迅速に透過波長帯域およびシグナル取得波長帯域を所望の値に設定することができる。
【0031】
また、ターレットや複数の種類の光学フィルタを設ける必要がなく、蛍光顕微鏡1の構成をシンプルにすることができる。
【0032】
[顕微鏡システムの構成例]
図5は、蛍光顕微鏡1を用いた顕微鏡システム101の構成例を示すブロック図である。顕微鏡システム101は、蛍光顕微鏡1、カメラ111および制御装置112を含むように構成される。
【0033】
カメラ111は、例えば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどの撮像素子を用いたデジタルカメラであり、試料2の像3を撮影し、その結果得られた画像(以下、観察画像と称する)を制御装置112に供給する。
【0034】
制御装置112は、例えば、市販のコンピュータにより構成される。制御装置112は、撮影制御部121、励起波長帯域制御部122、シグナル取得波長帯域制御部123、観察位置制御部124、画像処理部125、表示制御部126、入力部127、表示部128、および、記憶部129を含むように構成される。撮影制御部121、励起波長帯域制御部122、シグナル取得波長帯域制御部123、観察位置制御部124、画像処理部125、表示制御部126、入力部127、表示部128、および、記憶部129は、バス130を介して相互に接続されている。
【0035】
撮影制御部121は、カメラ111を制御するとともに、カメラ111により撮影された観察画像を取得し、記憶部129に記憶させる。
【0036】
励起波長帯域制御部122は、励起フィルタ13のチューナブルバンドパスフィルタ21a,21bの設定角度を個別に調整し、励起フィルタ13の励起波長帯域の設定を行う。
【0037】
シグナル取得波長帯域制御部123は、バリアフィルタ17のチューナブルバンドパスフィルタ21c,21dの設定角度を個別に調整し、バリアフィルタ17のシグナル取得波長帯域の設定を行う。
【0038】
観察位置制御部124は、蛍光顕微鏡1のステージ(不図示)等の位置を制御することにより、試料2の観察位置の設定を行う。
【0039】
画像処理部125は、観察画像を記憶部129から取得し、取得した観察画像に対して各種の画像処理を施し、記憶部129に記憶させる。
【0040】
表示制御部126は、記憶部129に記憶されている観察画像を、表示部128に表示させる。また、表示制御部126は、顕微鏡システム101の操作や設定等を行うための画面を表示部128に表示させる。
【0041】
入力部127は、例えば、キーボード、マウス、ボタン、スイッチ等の各種の入力装置により構成される。入力部127は、ユーザにより入力された各種の指令を制御装置112の各部に供給する。
【0042】
表示部128は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置により構成され、表示制御部126の制御の基に、観察画像や、顕微鏡システム101の操作や設定等を行うための画面を表示する。
【0043】
記憶部129は、例えば、ハードディスクドライブ等の記憶装置により構成される。記憶部129には、上述した観察画像の他に、各蛍光物質の励起スペクトルおよび蛍光スペクトルのデータ等が記憶される。
【0044】
[観察処理]
次に、図6のフローチャートを参照して、顕微鏡システム101により実行される観察処理について説明する。なお、この処理は、例えば、1種類以上の蛍光色素により染色された試料2、または、1種類以上の蛍光タンパク質が発現した試料2が、蛍光顕微鏡1のステージにセットされた状態で行われる。
【0045】
ステップS1において、制御装置112は、試料2に適用されている蛍光物質の種類を取得する。具体的には、例えば、表示制御部126は、蛍光物質(蛍光色素および蛍光タンパク質)の一覧を表示部128に表示させる。ユーザは、入力部127を用いて、表示された一覧の中から、試料2に適用されている蛍光物質を選択する。なお、複数の蛍光物質が試料2に適用されている場合、ユーザは、その複数の蛍光物質を一覧の中から選択する。入力部127は、ユーザにより選択された蛍光物質の種類を、励起波長帯域制御部122およびシグナル取得波長帯域制御部123に通知する。
【0046】
ステップS2において、励起波長帯域制御部122およびシグナル取得波長帯域制御部123は、励起波長帯域およびシグナル取得波長帯域を設定する。具体的には、励起波長帯域制御部122は、観察対象となる蛍光物質の励起スペクトルのデータを記憶部129から取得し、シグナル取得波長帯域制御部123は、観察対象となる蛍光物質の蛍光スペクトルのデータを記憶部129から取得する。
【0047】
なお、観察対象となる蛍光物質は、その都度ユーザが入力部127を介して指定するようにしてもよいし、例えば、タイムラプス観察を行う場合などには、観察対象とする蛍光物質の順番を予め設定しておくようにしてもよい。
【0048】
そして、励起波長帯域制御部122は、取得した励起スペクトルのデータに基づいて、励起フィルタ13のチューナブルバンドパスフィルタ21a,21bの設定角度を調整し、観察対象となる蛍光物質に適した励起波長帯域を設定する。また、シグナル取得波長帯域制御部123は、取得した蛍光スペクトルのデータに基づいて、バリアフィルタ17のチューナブルバンドパスフィルタ21c,21dの設定角度を調整し、観察対象となる蛍光物質に適したシグナル取得波長帯域を設定する。
【0049】
ここで、励起波長帯域およびシグナル取得波長帯域の設定方法の具体例について説明する。
【0050】
まず、試料2に適用されている蛍光物質が1種類の場合、または、試料2に適用されている複数の蛍光物質の励起スペクトルが互いに離れている場合、励起波長帯域制御部122は、例えば、観察対象となる蛍光物質の励起スペクトルのピークを透過中心波長とする所定の幅の波長帯域を励起波長帯域に設定する。
【0051】
同様に、試料2に適用されている蛍光物質が1種類の場合、または、試料2に適用されている複数の蛍光物質の蛍光スペクトルが互いに離れている場合、シグナル取得波長帯域制御部123は、例えば、観察対象となる蛍光物質の蛍光スペクトルのピークを透過中心波長とする所定の幅の波長帯域をシグナル取得波長帯域に設定する。
【0052】
また、試料2に適用されている複数の蛍光物質の励起スペクトルが互いに近接している場合、励起波長帯域制御部122は、観察対象となる蛍光物質の励起スペクトルが他の蛍光物質の励起スペクトルと重ならない範囲を、励起波長帯域に設定する。
【0053】
図7は、GFP(Green Fluorescent Protein)とYFP(Yellow Fluorescent Protein)の励起スペクトルを示している。なお、図7の横軸は、波長(単位はnm)を示し、縦軸は、スペクトルの強度を示している。ただし、各励起スペクトルの強度は、ピーク値を100に正規化した値で示している。
【0054】
図7を見ると、GFPの励起スペクトルの強度がピークとなる波長付近では、YFPの励起スペクトルもある程度の強度を有している。従って、試料2がGFPとYFPにより染色されている場合、GFPの励起スペクトルのピーク付近に励起波長帯域を設定すると、GFPだけでなくYFPも励起され、観察画像においてブリードスルーが発生してしまう。
【0055】
そこで、励起波長帯域制御部122は、観察対象となるGFPの励起スペクトルの強度が所定の第1の閾値以上となり、YFPの励起スペクトルの強度が所定の第2の閾値(<第1の閾値)以下となる波長の範囲内で、励起波長帯域を設定する。例えば、励起波長帯域制御部122は、図7の斜線で示される約400nm〜450nmの範囲内において、励起波長帯域を設定する。
【0056】
同様に、試料2に適用されている複数の蛍光物質の蛍光スペクトルが互いに近接している場合、シグナル取得波長帯域制御部123は、観察対象となる蛍光物質の蛍光スペクトルが他の蛍光物質の蛍光スペクトルと重ならない範囲を、シグナル取得波長帯域に設定する。
【0057】
図8は、GFPとYFPの蛍光スペクトルを示している。なお、図8の横軸は、波長(単位はnm)を示し、縦軸は、スペクトルの強度を示している。ただし、各蛍光スペクトルの強度は、ピーク値を100に正規化した値で示している。
【0058】
図8を見ると、GFPの蛍光スペクトルの強度がピークとなる波長付近では、YFPの蛍光スペクトルもある程度の強度を有している。従って、試料2がGFPとYFPにより染色されている場合、観察対象となるGFPの蛍光スペクトルのピーク付近にシグナル取得波長帯域を設定すると、GFPからの蛍光とYFPからの蛍光が混ざり、観察画像においてブリードスルーが発生してしまう。
【0059】
そこで、シグナル取得波長帯域制御部123は、GFPの蛍光スペクトルの強度が所定の第3の閾値以上となり、YFPの蛍光スペクトルの強度が所定の第4の閾値(<第3の閾値)以下となる波長帯域の範囲内で、シグナル取得波長帯域を設定する。例えば、シグナル取得波長帯域制御部123は、図8の斜線で示される約480nm〜500nmの範囲内において、シグナル取得波長帯域を設定する。
【0060】
また、タイムラプス観察を行う場合、通常の観察を行う場合と比較して、励起光が試料2に照射される時間が長くなり、蛍光褪色が発生したり、光毒性により試料2がダメージを受けたりしやすくなる。従って、蛍光褪色や光毒性を軽減するために、できる限り励起光の強度を抑えることが望ましい。一方、観察画像の画質を向上させるためには、試料2の像3に含まれる蛍光の強度をできるだけ強くすることが望ましい。
【0061】
従って、タイムラプス観察を行う場合には、通常の観察時と比較して、励起波長帯域を狭く設定し、シグナル取得波長帯域を広く設定するようにすることが望ましい。あるいは、観察時間が長くなるほど、励起波長帯域を狭く設定し、シグナル取得波長帯域を広く設定するようにしてもよい。
【0062】
なお、例えば、蛍光褪色や光毒性の軽減、蛍光物質が複数適用されている場合のクロストークの回避などを目的として、励起波長帯域制御部122およびシグナル取得波長帯域制御部123により設定された励起波長帯域およびシグナル取得波長帯域を、さらにユーザが調整することも可能である。
【0063】
ステップS3において、撮影制御部121は、観察画像のシグナル強度が最適な値になるようにカメラ111のパラメータ、例えば、露光時間、ゲイン等を調整する。なお、撮影制御部121は、励起波長帯域またはシグナル取得波長帯域の少なくとも一方が変更され、観察画像のシグナル強度が変化する度に、カメラ111の各パラメータを調整する。
【0064】
ステップS4において、顕微鏡システム101は、観察画像を取得する。具体的には、カメラ111は、撮影制御部121の制御の基に、試料2の像3を撮影し、得られた観察画像を記憶部129に記憶させる。
【0065】
なお、複数の種類の蛍光物質が試料2に適用されており、各蛍光物質による蛍光の観察画像を個別に取得する場合、ステップS2乃至S4の処理が繰り返され、各蛍光物質が順番に観察対象に設定され、励起波長帯域、シグナル取得波長帯域、および、カメラ111のパラメータが、観察対象に設定された蛍光物質に適した値に設定され、設定された条件で観察画像が取得される。
【0066】
また、タイムラプス観察を行う場合、ユーザにより設定されたプログラムに従って、観察位置制御部124が、蛍光顕微鏡1のステージの位置を制御し、試料2の観察位置を移動しながら、各位置における観察画像が所定のタイミングで取得される。
【0067】
なお、記憶部129に記憶された観察画像は、自動的に、あるいは、ユーザの指令に従って、表示制御部126の制御の基に、表示部128に表示される。
【0068】
このようにして、蛍光物質の種類によって光学フィルタを交換することなく、迅速に励起波長帯域およびシグナル取得波長帯域を適切な値に調整し、各蛍光物質からの蛍光による観察画像を良好な画質で取得することができる。
【0069】
また、従来、タイムラプス観察を行う場合、励起光の強度を弱めるために減光フィルタ(NDフィルタ)が用いられているが、この場合、蛍光褪色や光毒性を軽減することができる一方で、取得される観察画像のS/N比が悪化する恐れがある。一方、本実施形態では、励起波長帯域全体を減光するのではなく、励起波長帯域およびシグナル取得波長帯域を調整することにより、蛍光褪色や光毒性を軽減するため、減光フィルタを用いる場合と比較して、観察画像のS/N比が向上する。
【0070】
次に、図9のフローチャートを参照して、顕微鏡システム101により実行されるアンミキシング観察処理について説明する。なお、この処理は、例えば、1種類以上の蛍光色素により染色された試料2、または、1種類以上の蛍光タンパク質が発現した試料2が、蛍光顕微鏡1のステージにセットされた状態で行われる。また、この処理では、励起フィルタ13は用いられない。すなわち、光源11からの照明光が、そのまま励起光として試料2に照射される。
【0071】
ステップS31において、制御装置112は、取得するスペクトルの範囲および波長分解能の設定値を取得する。具体的には、例えば、表示制御部126は、取得するスペクトルの範囲および波長分解能の設定画面を表示部128に表示させる。ユーザは、入力部127を用いて、所望のスペクトルの範囲および波長分解能を入力する。入力部127は、ユーザにより入力されたスペクトルの範囲および波長分解能の設定値をシグナル取得波長帯域制御部123に供給する。
【0072】
なお、以下、取得するスペクトルの範囲が500nm〜600nmに設定され、波長分解能が2nmに設定された場合について説明する。
【0073】
ステップS32において、シグナル所得波長帯域制御部123は、シグナル取得波長帯域を設定する。例えば、シグナル所得波長帯域制御部123は、バリアフィルタ17のチューナブルバンドパスフィルタ21c,21dの角度を調整し、バリアフィルタ17のシグナル取得波長帯域を500nm〜502nmに設定する。
【0074】
ステップS33において、顕微鏡システム101は、観察画像を取得する。具体的には、カメラ111は、撮影制御部121の制御の基に試料2の像3を撮影し、得られた観察画像を記憶部129に記憶させる。
【0075】
ステップS34において、シグナル所得波長帯域制御部123は、全ての範囲のスペクトルを取得したか否かを判定する。シグナル所得波長帯域制御部123は、設定されたスペクトルの範囲のうち、まだ所得していない波長帯域が残っている場合、まだ全ての範囲のスペクトルを取得していないと判定し、処理はステップS35に進む。
【0076】
ステップS35において、シグナル取得波長帯域制御部123は、シグナル取得波長帯域をシフトする。すなわち、シグナル取得波長帯域制御部123は、バリアフィルタ17のチューナブルバンドパスフィルタ21c,21dの角度を調整し、バリアフィルタ17のシグナル取得波長帯域を、現在の波長帯域に波長分解能を加えた波長帯域にシフトする。例えば、いまの場合、シグナル取得波長帯域が502nm〜504nmにシフトされる。
【0077】
その後、処理はステップS33に戻り、ステップS34において全ての範囲のスペクトルを取得したと判定されるまで、ステップS33乃至S35の処理が繰返し実行される。
【0078】
一方、ステップS34においてシグナル取得波長帯域制御部123は、設定されたスペクトルの範囲内において所得していない波長帯域が残っていない場合、全ての範囲のスペクトルを取得したと判定し、処理はステップS36に進む。
【0079】
このステップS33乃至S35の処理により、指定されたスペクトルの範囲を指定された波長分解能で分割した各波長帯域にシグナル取得波長帯域が順番に設定され、各シグナル取得波長帯域に設定されたバリアフィルタ17を透過した試料2の光の像3が撮影される。この例の場合、500nm〜600nmの範囲内において2nm刻みでシグナル取得波長帯域が設定され、各シグナル取得波長帯域に対応する合計50枚(=(600nm−500nm)÷2nm)の観察画像が取得される。
【0080】
ステップS36において、画像処理部125は、アンミキシング画像処理を実行する。例えば、画像処理部125は、ステップS33乃至S35の処理で取得された、シグナル取得波長帯域が異なる複数の観察画像を記憶部129から取得し、取得した複数の観察画像に基づいて、観察画像の各画素のスペクトル分布を検出する。次に、画像処理部125は、各画素のスペクトル分布、および、試料2に適用されている各蛍光物質の蛍光スペクトルのデータに基づいて、各蛍光物質に対応する蛍光の含有率を画素毎に算出する。
【0081】
そして、画像処理部125は、各画素における各蛍光の含有率に基づいて、各蛍光を分離した観察画像を生成し、記憶部129に記憶させる。なお、このとき、蛍光毎に異なる観察画像を生成するようしてもよいし、1枚の観察画像内において複数の蛍光を区別して示すようにしてもよい。また、表示部128は、表示制御部126の制御の基に、画像処理部125により生成された観察画像を表示する。
【0082】
このようにして、蛍光スペクトルが近接する複数の蛍光を分離したり、蛍光物質による蛍光と自家蛍光とを分離して観察することができる。また、試料2内の蛍光スペクトルや蛍光スペクトルの経時変化を観察することができる。
【0083】
また、観察画像の各画素のスペクトル分布を所望の波長分解能で取得することができる。
【0084】
さらに、従来、観察画像の各画素のスペクトル分布の検出は、観察画像の各画素に対応する観察光を分光し、複数のPMT(光電子増倍管)を用いて各波長帯域の光の強度を検出することにより行われている。一方、本実施の形態では、CCDイメージセンサなどの2次元の撮像素子を用いて、観察画像の各画素のスペクトル分布を検出することが可能である。また、PMTの数を増やすなどの対応を行うことなく、簡単に波長分解能を任意の値に設定することができる。
【0085】
<2.変形例>
以上の説明では、励起フィルタ13およびバリアフィルタ17にそれぞれ2つのチューナブルバンドパスフィルタ21を設ける例を示したが、3つ以上設けるようにすることも可能である。
【0086】
また、励起フィルタ13およびバリアフィルタ17のいずれか一方にのみ、本発明を適用した光学フィルタを用いるようにすることも可能である。
【0087】
さらに、制御装置112の機能の一部または全部を蛍光顕微鏡1に設けるようにすることも可能である。
【0088】
また、本発明は、上述した蛍光顕微鏡1以外にも、光学フィルタの透過波長帯域を変更する必要がある光学顕微鏡などの各種の装置に適用することが可能である。
【0089】
なお、本明細書において、システムの用語は、複数の装置、手段などより構成される全体的な装置を意味するものとする。
【0090】
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 蛍光顕微鏡, 2 試料, 3 像, 11 光源, 12 コリメータレンズ, 13 励起フィルタ, 14 集光レンズ, 15 ダイクロイックミラー, 16 対物レンズ, 17 バリアフィルタ, 18 結像レンズ, 21a乃至21d チューナブルバンドパスフィルタ, 101 顕微鏡システム, 111 カメラ, 112 制御装置, 121 撮影制御部, 122 励起波長帯域制御部, 123 シグナル取得波長帯域制御部, 124 観察位置制御部, 125 画像処理部, 126 表示制御部, 127 入力部, 128 表示部, 129 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に照射する励起光を照明光から抽出するための第1の光学フィルタ、または、前記試料からの光の所定の波長帯域を透過する第2の光学フィルタのうち少なくとも一方が、光の入射角により透過波長帯域の幅をほぼ一定に保ったまま中心波長が変化する複数の可変フィルタが光軸に沿って並べられ、複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整可能な光学フィルタにより構成される
ことを特徴とする蛍光顕微鏡。
【請求項2】
前記試料に適用する蛍光物質の種類に応じて、前記第1の光学フィルタに備えられている複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整し、前記第1の光学フィルタの透過波長帯域を設定する透過波長帯域制御手段を
さらに備えることを特徴とする請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項3】
前記透過波長帯域制御手段は、さらに、前記試料に適用する蛍光物質の種類に応じて、前記第2の光学フィルタに備えられている複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整し、前記第2の光学フィルタの透過波長帯域を設定するとともに、前記試料の観察時間が長くなるほど、前記第1の光学フィルタの透過波長帯域を狭く設定し、前記第2の光学フィルタの透過波長帯域を広く設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項4】
前記試料に適用する蛍光物質の種類に応じて、前記第2の光学フィルタに備えられている複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整し、前記第2の光学フィルタの透過波長帯域を設定する透過波長帯域制御手段を
さらに備えることを特徴とする請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項5】
前記第2の光学フィルタに備えられている複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整し、指定された波長帯域を指定された波長分解能で分割した各波長帯域に、前記第2の光学フィルタの透過波長帯域を設定する透過波長帯域制御手段と、
各透過波長帯域に設定された第2の光学フィルタを透過した前記試料からの光の像をそれぞれ撮影した複数の画像を取得する画像取得手段と、
複数の前記画像に基づいて、前記画像の各画素のスペクトル分布を検出するスペクトル分布検出手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の蛍光顕微鏡。
【請求項6】
光の入射角により透過波長帯域の幅をほぼ一定に保ったまま中心波長が変化する複数の可変フィルタが光軸に沿って並べられ、複数の前記可変フィルタの光軸に対する角度を個別に調整可能な光学フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−150253(P2012−150253A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8453(P2011−8453)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】