説明

螺旋構造の螺旋向きが一定の重合体及びその製造方法

【課題】 光学活性物質異性体の光学分割用カラム等として有効に利用される、螺旋の向きが一定方向を持つ重合体を効率よく提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表される光学活性な化合物を配位させた金属錯体触媒を用いて、下記一般式(2)で表されるラセミ化アセチレン系化合物を重合させて、螺旋構造の螺旋向きが一定の重合体を製造する。
[MLmL’n]pQq (1)
CH≡C−X−Z’−R (2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の触媒を用いて容易に螺旋の向きが一定方向を持つ重合体を得る方法であり、本発明により得られる重合体は光学活性物質異性体の光学分割用カラム等として有効に利用される。
【背景技術】
【0002】
従来より特定の方向性を持つ螺旋構造を有する化合物は、蛋白質のα−へリックスやDNAを始めとする生化学化合物で良く知られているが、合成される螺旋構造を持った高分子としては、溶液中で安定なポリアクリル酸エステルやポリイソシアニド、溶液中では不安定なポリイソシアナート、ポリシランが知られている程度である。最近、光学活性なメントールを溶媒の一部に用いてラジカル重合したポリアクリルアミドが1方向性を持つ高分子として合成された(非特許文献1)。
【0003】
また、アイソタクチックポリプロピレンやポリスチレンは結晶状態で左右のらせん向きが対を作っていることが知られており、固体状態では光学不活性で安定な構造を示している。アセチレン系高分子では、特殊な水酸基を有するエチニル化合物を用いて重合すると光学活性な高分子が得られることが知られており(非特許文献2)、本発明者も結果として光学活性を有する高分子を得ている(特許文献1)。しかしながら、これらの得られる高分子はいずれも結果として一定方向性の螺旋状態を得ているにすぎず、重合諸条件との因果関係が定かではない。
【0004】
また、生理活性を有する有用な化合物としては、光学活性異性体の内のL型である化合物が多く知られており、生理活性を有する化合物を合成的な手段で生成すると通常ラセミ体としてD型である異性体を含み、生理活性を有するL型異性体を得るには、光学分割、ラセミ分割として操作が非効率で煩雑な分離手段を採って精製していた。光学分割の手法は、良く知られている方法として、ラセミ体溶液中への再結晶核としてD若しくはL体の一方の結晶を入れ、所望の施光体を析出させる優先晶出法や、塩形成性ラセミ体化合物を特定のキラル体で塩形成し、このジアステレオマーを再結晶若しくはクロマトグラフィーになどの方法により2種類の塩に分離するジアステレオマー法、異性化晶出法、包摂化合物法、生物体代謝物が殆どL体であることを利用した酵素による光学分割法、クロマトグラフィーによる光学分割法、更にはキラル化合物または酵素をカラムに固定した分割法等がある。それらの技術は、日本化学会編、季刊化学総説6、光学異性体の分離、1989年10月刊に詳しく記述されている。また、ラセミ構造を持つポリマーを基材に使用する例としてカラムに高分子系キラル固定相を使用したものが挙げられ、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸エステル等が限定された溶媒や温度管理により実施されている。
【非特許文献1】G.Tian et'al, J.Am.Chem.Soc., 123, 4082(2004)
【非特許文献2】R.Nomura et'al, ibid,123, 8430(2001)
【特許文献1】特開2003−327548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、従来の手法により得られる螺旋向きが一定方向の高分子としては、溶液中のみで安定なポリアクリル酸エステルやアクリルアミド、固体で安定なポリアセチレンが知られているものの、ポリアクリル酸エステルは溶媒中で螺旋向きの安定性に欠け、劣化を受け易くアクリルアミドは高価なキラル溶媒を混合して作成しており実用としての経済性に欠けている。ポリアセチレンは特殊な骨格のモノマーを使用して側鎖の水素結合により螺旋向きを保持しているので溶剤緩和や熱での変形を受け易く螺旋向きの安定性の面で利用が限定される。
【0006】
特にポリアセチレンは導電性が周知であり、通電時の螺旋向きによる電気特性の安定性は利用の利便性を制限してしまうので螺旋向きの方向性の制御は大きな意味を有する。
【0007】
更には、従来の螺旋構造を提供する方法は、いずれも反応の結果としてどちらかの一定方向性の高分子が得られているにすぎず、恣意的にどちらかの螺旋向きの重合体を生じさせることは困難であった。恣意的な重合体を生じても、生じる条件が極めて限定されており、汎用としての経済性に欠けており、特殊なモノマー骨格に限定されているので使用目的に沿った設計に困難を有している。
【0008】
また光学分割の手法は、工業的な手法では、カラムによる分離が常套手段として用いられ、一般的にはカラム中で一定方向性の螺旋高分子をカラム中のシリカに固定して使用するが、従来の一定方向性の高分子化合物は使用する溶剤による加水分解等の劣化を受け易く、使用する溶剤の制約を受け光学分割する化合物の範囲も限定されていた。従って、汎用性が高く安定な一定方向性の保持力を有する高分子化合物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ってきた結果、光学活性な配位子を有する特定構造の触媒を用いることにより、特定のラセミ化モノマーから所望とする螺旋の向きの方向性のみの重合体が得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
また、得られる重合体は光学活性を有しており、この高分子化合物を加水分解することでほぼ定量的に所望とする光学活性を有する化合物を得ることが出来る。また光学活性化合物を化学的手段により取り出した残基である高分子化合物の螺旋構造がそのまま保持されているのは従来の螺旋構造の高分子では思いもよらないことである。加水分解をしない高分子および加水分解後の高分子のいずれもが、光学分割用のカラムに担持、もしくはそのままカラム中に充填しても光学分離カラムの基材として汎用性の有機溶剤に使用が可能であり、しかも、種々のラセミ体の光学分離カラム基材としての使用が可能であり、特徴として飛躍的に分離理論段数が高いことが挙げられ、汎用性の溶剤に効果を有することを見出し、発明として完成させるに至ったものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記一般式(1)で表される光学活性な化合物を配位させた金属錯体触媒を用いて、下記一般式(2)で表されるラセミ化アセチレン系化合物を重合させて、螺旋構造の螺旋向きが一定の重合体を製造する方法であり、本発明では触媒に挿入されるキラルな配位子による反応場でラセミ体のキラリテイに誘導されたモノマーのみを反応させて螺旋構造の螺旋向きが一定の重合体を得るものである。
【0012】
[MLmL’n]pQq (1)
(式中、MはVIIb族又はVIII族の元素、Lは多重結合を有する光学活性な化合物に由来する配位子、L’は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子、Qは陰イオン、mは1〜8の整数、nは0〜2の整数、pは1〜2の整数、qは0〜2の整数を表す。)
CH≡C−X−Z’−R (2)
(式中、Rは不斉炭素を有する炭化水素基を表し、Z’は、Zである−OH、−COOH、−NH2、−CHO、−CHS、−CSOH、−CSSH、−SeHまたは−SHの反応残基を表し、Xは連結基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の螺旋向きの一定な重合体を容易な手法により得られるので、得られた重合体を使用して光学分割のカラムや重合体の工程を利用して所望の光学分割を行うことが出来、更には重合体が導電性を有する螺旋構造体であるので当業者に周知の方法で電気素子としての広範な使用が出来る。また、本発明により得られた光学活性化合物は、医薬、農薬、生理活性物質、液晶ディスプレイ材料などの合成原料として、また、光学活性アセチレン系モノマーは、光学活性重合体の原料として、光学活性重合体は導電性材料、光学活性の光導電性材料などの電気光学材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明でモノマーとして使用されるのは前記一般式(2)で表されるラセミ化アセチレン系化合物である。一般式(2)において、Rは不斉炭素を有する炭化水素基、好ましくは不斉炭素を有するアルキル基を表す。Rで表される炭化水素基の炭素数は、通常1〜30、好ましくは1〜14である。特に好ましくは、1−メチルブチル基、1−メチルペンチル基、1−エチルヘキシル基、1−メチルヘキシル基、1−メチルオクチル基などが挙げられる。
【0015】
一般式(2)において、Z’は以下のZの反応残基である。即ちZは−OH、−COOH、−NH2、−CHO、−CHS、−CSOH、−CSSH、−SeHまたは−SHを表す。好ましくは−OHである。Zが−OHの場合、不斉炭素を有するアルコールであり、具体的には、2−ブタノール、2−ペンタノール、2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−オクタノールなどが挙げられる。
【0016】
本発明において、一般式(2)で表されるラセミ化アセチレン系モノマーは、一般式(4)で表されるラセミ化合物と一般式(5)で表されるアセチレン系化合物とを反応させることにより得ることができる。
【0017】
R−Z (4)
CH≡C−X−OH (5)
一般式(5)において、Xは連結基を表す。Xは、好ましくは(CH2y(ただし、yは1〜24の整数を表す。)、−C(CH32−などの脂肪族炭化水素基、S、O、Se、−Si(CH32−、2〜6置換の芳香族基、−CO−、−OCO−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−PO3−などから選ばれる1以上を表す。特に好ましくは、−X1x−X2−を表す。(xが1の場合は、X1が三重結合を有する炭素原子に結合する。)X1は、(CH2y(ただし、yは1〜24の整数を表す。)、−C(CH32−などの脂肪族炭化水素基、−CO−、S、O、Se、−Si(CH32−、2〜6価の芳香族基などを表す。xは0または1を表し、好ましくは0である。X2は、具体的には電子吸引性基または電子供与性基のいずれでもよく、好ましくは−CO−、−OCO−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−PO3−などを表す。
【0018】
一般式(5)で表される化合物としては、プロピオール酸(CH≡C−COOH)、CH≡C−CH2−COOH、CH≡C−(CH22−COOH、CH≡C−(CH26−COOH、CH≡C−Ph−COOH、CH≡C−C(=O)−Ph−COOH、CH≡C−C(=O)−Ph−COOHなどが挙げられ、好ましくはプロピオール酸が用いられる。Phはフェニル基を示す。
【0019】
一般式(2)において、Z’は、上述のZと、一般式(5)における−OH基との反応の結果生じる、Zに由来する残基を表す。Zが−OHの場合、Z’は−O−であり、Zが−COOHの場合、Z’は−OCO−、Zが−NH2の場合、Z’は−NH−であり、Zが−CHOの場合、Z’は−CO−であり、Zが−SHの場合、Z’は−S−となる。Zが−CSOHの場合、Z’は−CSO−となり、Zが−CSSHの場合、Z’は−CSS−となり、Zが−CHSの場合、Z’は−CS−となり、Zが−SeHの場合、Z’は−Se−となる。
【0020】
R−Zで表されるラセミ化化合物(4)と一般式(5)で表されるアセチレン系化合物とを反応させ、一般式(2)で表されるラセミ化アセチレン系モノマーを得る方法は特に限定されないが、Xが−CO−、Z’が−O−であるラセミ化アセチレン系モノマーを得る方法としては、R−Zで表されるラセミ化アルコールとプロピオール酸とを脱水触媒の存在下、通常室温15℃以上、好ましくは30℃以上であり、通常150℃以下、好ましくは100℃以下で、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上であり、通常240時間以下、好ましくは10時間以下の加熱により反応させて得ることができる。
【0021】
脱水触媒としては、p−トルエンスルホン酸、五酸化リン、リン酸、ポリリン酸、硫酸、ブレンシュテット酸、ジシクロカルジイミド、C611−N=C=N−C611とジメチルアミノビピリジンとの組合せなどが挙げられる。脱水反応は、通常、溶媒の存在下行われ、溶媒としては、通常、ベンゼン、トルエン等の炭化水素、クロロフォルムなどのハロゲン化溶媒などが用いられる。
【0022】
得られたラセミ化アセチレン系モノマーを選択的に一定方向の螺旋重合体を重合しうる触媒を用いて重合し、所望の光学活性重合体を得る。例えば、R体のアセチレン系モノマーを選択的に重合させると、旋光度が逆のR体の光学活性重合体が得られ、S体のアセチレン系モノマーを選択的に重合させると、S体の光学活性重合体が得られる。
【0023】
本発明では、ラセミ化アセチレン系モノマーから、R体とS体のいずれか一方を選択的に重合しうる触媒として、前記一般式(1)で示される光学活性な化合物を配位させた金属錯体触媒が用いられる。
【0024】
一般式(1)において、MはVIIb族又はVIII族の元素を表す。Mは、好ましくはロジウム、ルテニウム、レニウム、ニッケル、白金、パラジウム、イリジウムなどが挙げられ、特に好ましくはロジウムが用いられる。
【0025】
Lは多重結合を有する光学活性な化合物に由来する配位子を表す。Lは、好ましくはシクロオレフィンが挙げられる。シクロオレフィンとしては、ノルボルネン、ノルボナジエン、シクロプロペン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエンが好ましく、シクロオクタジエン、ノルボナジエンが特に好ましく、その環内にヘテロ原子あるいは、カルボニル基、スルホン基、Nオキシド基が含まれてよい。その化合物が持つ光学活性な置換基は、キラルアルキル、アミノ酸、乳酸、マンデル酸、カンファー、スルフォン酸、ミルタニル基、メンチル基、カルボン基等が挙げられる。
【0026】
これらの具体的構造を以下に示す。
【0027】
【化2】

【0028】
L’は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子を表す。L’は、好ましくは窒素、リン、ヒ素、酸素、イオウなどの原子を有する配位子、ハロゲン原子などが挙げられる。特に好ましくはリンを有する配位子、ハロゲン原子が挙げられ、最も好ましくはハロゲン原子が挙げられる。具体的には、窒素を有する配位子としては、ピリジン、ビピリジル、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、フェナンスロリン、DBU、スパルテイン、DNAなどが挙げられる。リンを有する化合物としては、トリフェニルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、ビスジフェニルホスフィン、n−ノニルフェニルホスフィン、エチレンビスフェニルホスフィンなどが挙げられ、トリフェニルホスフィンが特に好ましく、光学活性のリン化合物でもよい。ヒ素を有する配位子としてはトリフェニルアルシンなどが挙げられる。酸素を有する配位子としてはジフェニルエーテル、アルコキシなどが挙げられる。イオウを有する配位子としては、ジフェニルチオエーテルなどが挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、塩素が特に好ましい。
【0029】
配位子L’としては、沸点370℃未満の有機溶剤(各種アルコール、テトラヒドロフラン等のヘテロ原子を含む)に由来する酸素あるいは窒素を有する配位子が好ましい。
【0030】
Qは陰イオンを表す。Qは、具体的には、PF6-、BF4-、ClO4-、SO3CF3-などが挙げられ、BF4-およびPF6-が好ましく用いられる。mは1〜8の整数、好ましくは1〜5の整数、特に好ましくは1〜2の整数を表す。nは0〜2の整数、好ましくは1〜2の整数を表す。pは1〜2の整数を表す。qは0〜2の整数、好ましくは1〜2の整数を表す。
【0031】
一般式(1)で表される触媒の具体例としては、[Rh(COD)Cl]2、[Rh(NBD)Cl]2、[Rh(NBD)OCH32、[Rh(COD)bipy]SO3CF3、[Rh(COD)bipy]PF6、[Rh(NBD)bipy]PF6、[Rh(COD)bipyam]PF6、[Rh(COD)(PPh32]PF6、[Rh(COD)EDA]Cl、[Rh(COD)TEDA]Cl、[Rh(COD)]BF4-、[Rh(NBD)]BF4-などが挙げられる。但し、CODはキラル基含有シクロオクタジエニル、NBDはキラル基含有ノルボナジエニル、bipyはビピリジル、bipyamはビピラン、Phはフェニル、EDAはエチレンジアミン、TEDAはトリエチレンジアミン、Zはハロゲン原子を示す。
【0032】
重合は、通常、溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、触媒または一般式(2)で表されるアセチレン系モノマーと反応しないものであればよい。触媒として一般式(1)で表される触媒を用いる場合、一般式(2)で表されるアセチレン系モノマーを溶解する溶媒が好ましく、具体的には、水、エタノール、メタノール、ブタノール、サイクリックアルコールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル類、アセトニトリルなどのシアノ化合物などが挙げられ、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の有機アミン、より好ましくはアルコール、特に好ましくは炭素数1〜6のアルコールが用いられる。
【0033】
溶媒に溶解するモノマー濃度は、触媒に対して、通常0.01モル%以上、好ましくは0.1モル%以上であり、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。触媒濃度は、モノマーに対して、通常1〜10-5モル%以上、好ましくは1〜10-4モル%以上であり、通常1〜10-1モル%以下、好ましくは1〜10-2モル%以下である。重合時間は、通常1分以上、好ましくは3時間以上であり、通常4日以下、好ましくは48時間以下である。重合温度は、通常−30℃以上、好ましくは0℃以上、特に好ましくは10℃以上であり、通常120℃以下、好ましくは100℃以下、特に好ましくは80℃以下である。
【0034】
重合後に得られた光学活性重合体と未反応のアセチレン系モノマーとを分離し、該光学活性重合体を加水分解などで分解することにより所望の光学活性化合物が得られる。本発明によれば重合体は所望の光学活性モノマーを略定量的に重合するので得られる光学活性化合物の純度は極めて高い物が得られる。通常、光学活性重合体は、貧溶媒に不溶なので、濾過などの常法により、未反応のアセチレン系モノマーと分離することができる。得られた光学活性重合体は、通常、低級アルコール等で洗浄した後、通常減圧下で乾燥させる。
【0035】
このようにして得られる光学活性重合体は、下記一般式(3)で表される繰り返し単位からなり、所望とする螺旋向きの重合体は95重量%以上であり、略定量的に所望の重合体が得られる。また、数平均分子量は通常100以上、好ましくは500以上、特に好ましくは1,000以上であり、通常100,000,000以下、好ましくは1,000,000以下である。分子量分散(数平均分子量/重量平均分子量の比)は通常1.5以上、好ましくは5以上であり、通常100以下、好ましくは20以下である。
【0036】
【化3】

【0037】
Rは不斉炭素を有する炭化水素基あるいはヘテロ原子を含む炭化水素基を表し、好ましくは不斉炭素を有するアルキル基を表す。Rで表される炭化水素基の炭素数は、通常1〜30、好ましくは1〜14である。特に好ましくは、1−メチルブチル基、1−メチルヘキシル基、1−メチルヘキシル基、1−メチルオクチル基などが挙げられる。
【0038】
Xは連結基を表す。Xは、好ましくは(CH2y(ただし、yは1〜24の整数を表す。)、−C(CH32−などの脂肪族炭化水素基、S、O、Se、−Si(CH32−、2〜6価の芳香族基、−CO−、−OCO−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−PO3−などから選ばれる1以上を表す。特に好ましくは、−X1x−X2−を表す。(xが1の場合は、X1が三重結合を有する炭素原子に結合する。)X1は、(CH2y(ただし、yは1〜24の整数を表す。)、−C(CH32−などの脂肪族炭化水素基、−CO−、S、O、Se、−Si(CH32−、2〜6価の芳香族基などを表す。xは0または1を表し、好ましくは0である。X2は、具体的には電子吸引性基または電子供与性基のいずれでもよく、好ましくは−CO−、−OCO−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−PO3−などを表す。
【0039】
Z’は−O−、−OCO−、−SCO−、−SCS−、−NH−、−CO−、−CS−、−S−又は−Se−などを表し、好ましくは−O−である。
【0040】
例えば、本発明を利用すれば、ラセミ体の内、R体を選択的に重合させて得られたR体の光学活性重合体からは、原料より高純度なR体の光学活性化合物を得ることができ、同様にS体を選択的に重合させて得られたS体の光学活性重合体からは、原料より高純度なS体の光学活性化合物を得ることができる。本発明で得られた光学活性重合体から光学活性化合物を得る方法は、特に限定されないが、加水分解などにより光学活性な化合物を生成させることができる。
【0041】
加水分解の方法は特に限定されないが、通常、水、ベンゼン、トルエン、エーテルなどの溶媒中、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質の存在下、通常4℃以上、好ましくは80℃以上であり、通常120℃以下、好ましくは100℃以下で、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上であり、通常24時間以下、好ましくは10時間以下加熱することにより、光学活性化合物を生成させることができる。
【0042】
生成した光学活性化合物がアルコールの場合、その回収は、まず、反応液に溶媒を添加し、アルコールを抽出する。ついで、溶媒層を分取した後、溶媒を留去することにより、光学活性アルコールを得ることができる。光学活性アルコールの回収に用いる溶媒は、エーテルなどの光学活性アルコールは溶解するが、光学活性重合体に基づく塩および反応液には溶解しない溶媒が用いられ、好ましくは、前述の条件に加え、光学活性アルコールよりも沸点の低い溶媒が用いられる。具体的には、エーテル、n−ヘキサンが挙げられ、溶媒の沸点が100℃以下が好ましい。このようにして得られる光学活性化合物の光学純度は、通常70%以上、好ましくは80%以上である。
【0043】
反応後に得られた光学活性重合体を除去することにより、選択的に重合された光学異性体とは異なる光学異性体のアセチレン系モノマーとを分離することができる。
【0044】
このように、一方の光学活性体は、選択的に重合され、光学活性重合体として除去しているので、未反応のアセチレン系モノマーは、出発時のラセミ化合物よりも、選択的に重合されたのとは異なる光学異性体のアセチレン系モノマーの割合が高くなっている。例えば、R体のアセチレン系モノマーを選択的に重合させた場合、未反応のアセチレン系モノマーは、S体の割合が高くなり、S体のアセチレン系モノマーを選択的に重合させた場合、未反応のアセチレン系モノマーは、R体の割合が高くなっている。
【0045】
未反応のアセチレン系モノマーは、光学活性重合体を除去することにより未反応のアセチレン系モノマーの溶液として得ることができる。未反応のアセチレン系モノマーを溶媒から分離するには、常法にしたがって、溶媒を除去すればよい。このようにして回収された、一方の光学活性異性体の割合が高くなっている未反応のアセチレン系モノマーは、必要に応じて、溶媒としてn−ヘキサンなどを用い、シリカゲルカラムなどにより精製してもよい。
【0046】
また、回収された未反応のアセチレン系モノマーは、再度、同様の重合工程に従って、一方の光学活性体を重合し、さらに、未反応のアセチレン系モノマーを回収することで、選択的に重合された光学異性体とは異なる光学異性体の割合をさらに高めることができ、最終的には純度100%の光学活性の未反応のアセチレン系モノマーを得ることができる。
【0047】
このようにして回収される光学活性アセチレン系モノマーの光学純度は、本発明の重合工程における反応率、選択率および、重合工程の繰り返しの有無などにより異なるが、通常60%以上、好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上であり、通常100%も可能である。
【0048】
回収された一方の光学異性体を多く含む未重合の光学活性アセチレン系モノマーを分解して光学活性化合物を得る。分解方法は、特に限定されないが、加水分解などにより光学活性な化合物を生成させることができる。
【0049】
加水分解の方法は特に限定されないが、通常、水、ベンゼン、トルエン、アルカンなどの溶媒中、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性物質の存在下、通常5℃以上、好ましくは30℃以上であり、通常150℃以下、好ましくは110℃以下、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上であり、通常24時間以下、好ましくは10時間以下の条件で加熱することにより、光学活性化合物を生成させることができる。
【0050】
生成した光学活性化合物がアルコールなどの場合、その回収は、反応液に溶媒を添加し、アルコールを抽出する。溶媒層を分取した後、溶媒を留去することにより、光学活性アルコールを得ることができる。光学活性アルコールの回収に用いる溶媒は、エーテルなどの光学活性アルコールは溶解するが、光学活性重合体に基づく塩および反応液には溶解しない溶媒が用いられ、好ましくは、前述の条件に加え、光学活性アルコールよりも沸点の低い溶媒が用いられ、100℃以下の溶媒が用いられる。具体的には、エーテルが挙げられる。
【0051】
このようにして回収される光学活性化合物の光学純度は、重合工程における反応率、選択率および、重合の繰り返しの有無などにより異なるが、通常70%以上、好ましくは80%以上である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
<モノマーの合成>
下記式(7)で表されるラセミ体のアルコール(東京化成社製、[α]D=0.03°)10ml(6.2ラ10-2モル)、プロピオール酸(東京化成社製)5.29g(6.35モル)、p−トルエンスルホン酸(東京化成社製)2.0gとを、溶媒である脱水したベンゼン(純正化学社製)100mlに添加し、溶解させた。
【0053】
【化4】

【0054】
この混合溶液を約100℃で6時間反応させた後、蒸留し、式(8)で表されるラセミ体のアセチレン系モノマーを得た。得られたアセチレン系モノマーの旋光度[α]Dは0.51°だった。
【0055】
【化5】

【0056】
<触媒の調製>
NBD*はノルボナジエンにd−カンファースルフォン酸を付加させたカンファースルフォニルノルボルネンを用いた。NBD*の調製は以下の通りである。
[Rh(NBD*)Cl]2(アルドリッチ社製)46mgを、溶媒としてテトラヒドロフラン50ml中で溶解しd−カンファースルフォンニルノルボルナジエン(純正化学社製)45mgを攪拌しながら50℃で4時間配位子置換させた。17mgのノルボナジエンを回収でき置換効率92%であった。N−ヘキサンで洗浄後乾燥させた。
<重合体の合成>
得られたラセミ体のアセチレン系モノマー0.55g、触媒として[Rh(NBD*)Cl]2 39mg、溶媒としてメタノール(純正化学社製)6mlを混合し、30℃で4時間反応を行ったところ、重合体が不溶物として析出した。反応液にメタノール100mlを添加し、重合体を濾別した。得られた重合体をアルコールで洗浄、乾燥した。重合体の重量は0.24g、旋光度[α]Dは+288°だった。
<重合体からアルコールの回収>
得られた重合体に、水、水酸化ナトリウムを混合し、加熱することにより、加水分解を行う。反応終了後、エーテルを添加して、振とうした後、静置し、エーテル層を回収する。エーテル層からエーテルを留去し、光学活性アルコール0.15gを得た。施光度[α]Dは+10°であった。反応残基である重合体の施光度。施光度[α]Dは+250°であった。
<未反応のモノマーの回収>
<重合体の合成>において、重合体を濾別した後の、褐色の濾液からメタノールを留去し、さらに、溶媒としてn−ヘキサンを用い、シリカゲルカラムで2回精製を行い、溶媒を留去して、0.2gの未反応モノマー(液体。オリゴマーを含む)を得た。得られた未反応モノマーの旋光度[α]Dは−14.0°だった。なお、S体として市販されている式(7)で表されるアルコールから、本実施例と同様にして得られるS体の式(8)で表されるモノマーの旋光度[α]Dは+23.4°であった。R体として市販されている式(7)で表されるアルコールから、本実施例と同様にして得られるモノマーの旋光度[α]Dは−22°であった。
比較例1
実施例と同様にして以下の実験を行った。
<触媒の調製>
[Rh(NBDまたはCOD)Cl]2(アルドリッチ社製)27mgを、溶媒としてテトラヒドロフラン50ml中で溶解しS−2−オクタノール(純正化学社製)15mgを攪拌しながら30〜40℃で4時間配位子置換させた。略定量的な配位がなされた。N−ヘキサンで洗浄後乾燥させた。
<重合体の合成>
得られたラセミ体のアセチレン系モノマー0.55g、触媒として[Rh(NBDまたはCOD)Cl]2 アルコール処理体42mg、溶媒としてメタノール(純正化学社製)6mlを混合し、30〜40℃で4時間反応を行ったところ、重合体が不溶物として析出した。反応液にメタノール100mlを添加し、重合体を濾別した。得られた重合体をアルコールで洗浄、乾燥した。重合体の重量は0.22g、旋光度[α]Dは+1.00°であった。
<重合体からアルコールの回収>
得られた重合体に、水、水酸化ナトリウムを混合し、加熱することにより、加水分解を行う。反応終了後、エーテルを添加して、振とうした後、静置し、エーテル層を回収する。エーテル層からエーテルを留去し、光学活性アルコール0.13gを得た。施光度[α]Dは+46°であった。反応残基である重合体の施光度[α]Dは+0.06°であった。
<未反応のモノマーの回収>
<重合体の合成>において、重合体を濾別した後の、褐色の濾液からメタノールを留去し、さらに、溶媒としてn−ヘキサンを用い、シリカゲルカラムで2回精製を行い、溶媒を留去して、0.2gの未反応モノマー(液体とオリゴマーを含む)を得た。得られた未反応モノマーの旋光度[α]Dは−171.07°だった。なお、S体として市販されている式(7)で表されるアルコールから、本実施例と同様にして得られるS体の式(8)で表されるモノマーの旋光度[α]Dは+23.4°であった。R体として市販されている式(7)で表されるアルコールから、本実施例と同様にして得られるモノマーの旋光度[α]Dは−17.5°であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される光学活性な化合物を配位させた金属錯体触媒を用いて、下記一般式(2)で表されるラセミ化アセチレン系化合物を重合させて、螺旋構造の螺旋向きが一定の重合体を製造する方法。
[MLmL’n]pQq (1)
(式中、MはVIIb族又はVIII族の元素、Lは多重結合を有する光学活性な化合物に由来する配位子、L’は孤立電子対を有する化合物に由来する配位子、Qは陰イオン、mは1〜8の整数、nは0〜2の整数、pは1〜2の整数、qは0〜2の整数を表す。)
CH≡C−X−Z’−R (2)
(式中、Rは不斉炭素を有する炭化水素基を表し、Z’は、Zである−OH、−COOH、−NH2、−CHO、−CHS、−CSOH、−CSSH、SeHまたは−SHの反応残基を表し、Xは連結基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)における配位子L’が、沸点370℃未満の有機溶剤に由来する配位子である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
上記一般式(1)における配位子Lが、ノルボルネン、ノルボナジエン、シクロプロペン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエンより選ばれる化合物からなり、その化合物が光学活性な置換基を有するものである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により製造され、下記一般式(3)で表される(S,R)−繰り返し単位を有する重合体であって、該繰り返し単位のうちR体の割合が50重量%未満、S体の割合が50重量%以上であり、数平均分子量が500〜100,000,000である、螺旋構造の螺旋向きが一定の重合体。
【化1】

(式中、Rは不斉炭素を有する炭化水素基、Xは連結基、Z’は−O−、−OCO−、−SCO−、−SCS−、−NH−、−CO−、−CS−、−S−、−SO−(スルホキシド基)、−SO2−(スルホン基)、−Se−、荷電体基を表す。)
【請求項5】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により製造された重合体を用いた光学分割用カラム。
【請求項6】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により製造された重合体を用いた電気素子。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により重合体を製造した後、未反応の残渣を含む溶液と濾過分離し、得られた未反応溶液から光学活性体を得る方法。
【請求項8】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により重合体を製造した後、未反応の溶液残渣を濾過分離して得た重合体を加水分解して光学活性化合物を得る方法。
【請求項9】
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により製造された重合体を、加水分解して光学活性化合物を除いた後の重合体。

【公開番号】特開2006−257278(P2006−257278A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77068(P2005−77068)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】