説明

血中カリウム濃度を調節する薬剤を調製するためのドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩の使用

血中カリウム濃度の調節に用いる薬剤を調製するためのドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中カリウム濃度の調節に用いる薬剤を調製するためのドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2−n−ブチル−3−[4−(3−ジ−n−ブチルアミノプロポキシ)ベンゾイル]−5−メチルスルホンアミドベンゾフラン、即ちドロネダロン、および医薬的に許容されるこの塩は、欧州特許EP0471609B1に記載されている。
【0003】
ドロネダロンは、カリウム、ナトリウム、およびカルシウムチャネルを遮断し、さらに抗アドレナリン特性を有する。
【0004】
ドロネダロンは、心房細動または心房粗動を呈する患者において洞調律を維持するのに有効な抗不整脈剤である。
【0005】
具体的には、このイオンは主要な浸透活性細胞内イオンであり、細胞内容積の調節において重要な役割を果たす。
【0006】
一定で安定したカリウム濃度は、酵素系の機能、ならびに良好な成長および細胞分裂に必須である。
【0007】
カリウムは細胞膜の静止電位の確立に寄与し、従って、特に細胞外画分におけるカリウム濃度の変化は、神経、筋肉、および心臓系の細胞興奮性に影響を及ぼす。
【0008】
カリウム濃度の低下は、心室レベルで心興奮性亢進を増大することが知られており、これは重篤で、死に至る可能性のある調律障害をもたらし得る。
【0009】
カリウム濃度低下の有害な役割は、種々の臨床状態において実証されている。
【0010】
例えば、心不全を罹患している患者では、カリウム濃度の低下は致死的な調律障害に至ることがあり、「カリウム保持性」効果を有する利尿薬は、この集団で有益な効果を有することが実証されている。
【0011】
激しい身体運動を突然停止した後に起こるカリウム濃度の急速な低下も、ある種の突然死の原因となり得る。
【0012】
用語「突然死」または「突然心臓死」は一般に、新たな症状の出現後1時間以内、もしくは1時間未満で起こる死、または警告なしの予期しない死を指す。
【0013】
カリウム濃度低下の寄与の可能性は、抗精神病薬による治療を受けた患者の突然死、および急性アルコール離脱症候群においても言及されている。
【0014】
カリウム摂取量の低い食習慣は、構造的な心臓病変がない場合でも、素因のある個体に突然死をもたらす可能性がある。
【0015】
致死性の心興奮性亢進のリスクは、ソタロール(Sotalex(登録商標))などの、細胞再分極の持続期間を延長する抗不整脈治療を受けている患者で特に高い。これらの薬剤は実際に、重篤で、死に至る可能性のある心室頻拍であるトルサード・ド・ポワントを誘発する可能性がある。トルサード・ド・ポワントは、カリウム濃度の低下によって促進される。
【0016】
最後に、カリウム濃度の低下は、心房細動を誘発することが示されている(Manoach M.、J.Mol.Cell.Cardiol.、1998、30(6):A4[8])。
【0017】
死に至る可能性のある心臓調律障害のリスクが高い別の臨床状態は、利尿薬による治療を受けた患者によって代表され、もっとも一般的には動脈性高血圧であるが、さらに心不全、腎不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、および緑内障といった多くの適応症で広く処方されているこれらの薬剤は、「カリウム保持性」利尿薬を除いて、患者をカリウム濃度低下のリスクにさらす。
【0018】
利尿薬による治療後に起こるカリウム濃度低下の合併症は、特に心臓の収縮機能障害もしくは左室機能不全を呈する患者、または心筋梗塞後の患者において、突然死である可能性がある。
【0019】
従って、カリウム濃度の調節は、特に抗不整脈治療(心房細動のため)を必要とする患者、および場合により他の危険因子を有する患者の集団において、重要で有益な役割を果たす可能性がある。
【0020】
利尿薬はこれらの有効性のために、動脈性高血圧、うっ血性心不全、腎不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、または緑内障などの多様な状態の治療において広く処方されている。
【0021】
カリウム保持性利尿薬を除いて、利尿薬に基づく治療の主要な結果の1つは、カリウム排出の増大であり、これは低カリウム血症をもたらし得る。
【0022】
現在、低カリウム血症は心興奮性を増大し、ある種の患者では、心室性不整脈および突然死をもたらすことが知られている(Cooperら、Circulation、1999、100、1311から1315頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】欧州特許第0471609号明細書
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Manoach M.、J.Mol.Cell.Cardiol.、1998、30(6):A4[8]
【非特許文献2】Cooperら、Circulation、1999、100、1311から1315頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
現在、療法においてこれまで、血中カリウム濃度の調節に関して有効であることが示された抗不整脈剤はない。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の主題は、血中カリウム濃度を調節する薬剤を調製するため、具体的には特に心房細動または心房粗動の病歴を有する患者、および/または利尿薬に基づく治療、特に非カリウム保持性利尿薬に基づく治療を受けている患者において、低カリウム血症の予防および/または治療に用いるための、ドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】30カ月にわたる初回投与から最終投与の間のカリウムの平均変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
前記利尿薬は、1mg/日から2g/日の間から選択された治療活性用量で投与される。
【0029】
医薬的に許容されるドロネダロンの塩のなかで、塩酸塩を挙げることができる。
【0030】
用語「非カリウム保持性利尿薬」は、カリウム排出を増大する利尿薬を意味することが意図される。
【0031】
語句「心房細動または心房粗動の病歴を有する」または「発作性または持続性心房細動または心房粗動を有する」または「心房細動もしくは心房粗動の病歴または進行中の心房細動もしくは心房粗動を有する」は、過去において、心房細動もしくは心房粗動の1つ以上のエピソードを呈した患者、および/またはドロネダロンもしくは医薬的に許容されるこの塩を使用している時点で心房細動もしくは心房粗動を罹患している患者を意味する。
【0032】
より具体的には、過去において、心房細動または心房粗動の1つ以上のエピソードを呈した患者は、ランダム化の少なくとも3カ月以上前、例えば3から6カ月前にこのようなエピソードを呈していることができる。
【0033】
低カリウム血症は、カリウムイオン[K+]濃度3mmol/L未満として定義することができる。
【0034】
心房細動または心房粗動の病歴を有する患者のなかで、さらに以下の危険因子の少なくとも1つを示す患者も挙げることができる。
年齢70歳以上、またはさらには75歳超、
高血圧、
糖尿病、
脳卒中または全身性塞栓症の病歴、
心エコー検査で測定された左心房径50mm以上、
2次元超音波検査で測定された左室駆出率40%未満。
【0035】
心房細動または心房粗動の病歴を有する患者のなかで、さらに追加の危険因子、即ち以下の病変の少なくとも1つを示す患者も挙げることができる。
高血圧、
根底にある構造的心臓疾患、
頻拍、
冠動脈疾患、
非リウマチ性心臓弁疾患、
虚血性由来の拡張型心筋症、
心房細動または心房粗動のアブレーション、例えばカテーテルアブレーション、または心内膜心筋アブレーション、
心房細動または心房粗動以外の上室頻拍、
心臓弁手術の病歴、
非虚血性拡張型心筋症、
肥大型心筋症、
リウマチ性弁疾患、
持続性心室頻拍、
先天性心臓障害、
心房細動または心房粗動以外の頻拍のアブレーション、例えばカテーテルアブレーション、
心室細動、
および/または以下から選択された少なくとも1つの心臓装置
心臓刺激装置、
植え込み型除細動器(「ICD」)。
【0036】
語句「血中カリウム濃度の調節」は、前記濃度の低下または起こり得る上昇を防ぐことを意味することが意図される。
【0037】
非カリウム保持性利尿薬の主な種類は以下のとおりである。
チアジド系利尿薬、
ループ利尿薬、
近位(proximal)利尿薬(浸透圧、炭酸脱水酵素阻害剤)。
【0038】
治療的に用いるために、ドロネダロンおよび医薬的に許容されるこの塩は一般に、医薬組成物に導入される。
【0039】
これらの医薬組成物は、有効量のドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩、および少なくとも1種の医薬的に許容される賦形剤を含有する。
【0040】
前記賦形剤は、所望の医薬形態および投与方法に従って、当業者に知られている通常の賦形剤から選択される。
【0041】
経口、舌下、皮下、筋内、静脈内、表面(topical)、局所(local)、気管内、鼻腔内、経皮、または直腸投与用の前記医薬組成物において、ドロネダロンまたはこの塩は、上記の症例で動物およびヒトに、従来の医薬賦形剤との混合物として、単位投与形態で投与できる。
【0042】
適切な単位投与形態には、経口投与形態、例えば錠剤、軟質または硬質ゲルカプセル、粉剤、顆粒剤、および経口溶液または懸濁液など、舌下、口腔、気管内、眼内、または鼻腔内投与形態、吸入投与用形態、表面、経皮、皮下、筋内、または静脈内投与形態、直腸投与形態、およびインプラントが含まれる。表面適用のために、ドロネダロンおよび医薬的に許容されるこの塩は、クリーム、ゲル、軟膏、またはローションで用いることができる。
【0043】
例として、錠剤形態のドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩の単位投与形態は、以下の例の1つに相当することができる。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
1日当たり、経口で投与されるドロネダロンの用量は、1回以上の摂取で、800mgに達することができる。
【0049】
より具体的には、投与されるドロネダロンの用量は、食物と共に服用することができる。
【0050】
より具体的には、1日当たり、経口で投与されるドロネダロンの用量は、食事と共に2回の摂取で、800mgに達することができる。
【0051】
1日当たり、経口で投与されるドロネダロンの用量は、食事と共に1日2回の割合で、例えば朝食および夕食と共に服用することができる。
【0052】
より具体的には、2回の摂取は、同量のドロネダロンを含むことができる。
【0053】
より多量または少量の投与量が適切である特定の場合が存在する可能性があり、このような投与量は本発明から逸脱しない。通常の実施によれば、それぞれの患者に適した投与量は、投与方法、ならびに前記患者の体重、病変、体表面、心拍出量、および反応に従って、医師によって決定される。
【0054】
別の態様によれば、本発明はまた、有効量のドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩を患者に投与することを含む、上に示した病変を治療する方法に関する。
【0055】
本発明を、添付の図面を参照して、以下にデータによって例示する。
【0056】
図1は、30カ月にわたる初回投与から最終投与の間のカリウムの平均変化を示す図である。
【0057】
心房細動または心房粗動の病歴を有する患者の2つの治療群(ドロネダロン塩酸塩で処置した群およびプラシーボで処置した群)において、ランダム分布による前向き、多国、多施設、二重盲検臨床研究で、ドロネダロン塩酸塩を用いて、心血管入院または死亡の防止に関して、プラシーボに対するドロネダロンおよび医薬的に許容されるこの塩の有効性を実証した。
【0058】
I.患者の選択
患者は心房細動もしくは心房粗動の病歴を有さなければならず、および/または組み入れ時に正常洞調律であるか、または心房細動もしくは心房粗動であることができた。
【0059】
患者の採用は、以下の組み入れ基準を考慮して行った。
組み入れ基準
1)以下の危険因子の1つが存在しなければならない。
場合によって少なくとも1つの以下の危険因子との組み合わせで、年齢70歳以上、またはさらには75歳超、
高血圧(少なくとも2つの異なる種類の降圧剤を服用)、
糖尿病、
脳卒中(一過性虚血事象もしくは完全脳卒中)または全身性塞栓症の病歴、
心エコー検査で測定された左心房径50mm以上、
2次元超音波検査で測定された左室駆出率40%未満。
2)心房細動または心房粗動の存在または病歴を実証するために、過去6カ月間に行われた心電図が入手可能。
3)正常洞調律の存在または不在を実証するために、過去6カ月間に行われた心電図が入手可能。
【0060】
II.期間および処置
処置は、朝食中または朝食直後の朝に錠剤1つおよび夕食中または夕食直後の夕方に錠剤1つの割合で、プラシーボ、またはドロネダロン400mgに相当する量のドロネダロン塩酸塩を含有する錠剤を用いて開始した。
【0061】
予期される処置の期間は、各患者が本研究に組み入れられた時期に応じて可変的であり、組み入れられた最後の患者の最短12カ月から、本研究の全期間に相当する最長期間(12カ月+組み入れ期間)、即ち組み入れられた最初の患者の約30カ月までの範囲であり得た。
【0062】
III.結果
III.1.血中カリウム濃度の調節
カリウム濃度調節効果は、バイタルパラメータのモニターにおいて、本研究の期間を通じて採取された定期血液サンプルの分析の結果によって、本研究において明らかに実証される。
【0063】
本研究の薬剤の初回投与から最終投与までのカリウム(mmol/l)の変化を図1に示すが、ここでBは基礎濃度を表わし、Dは日を表わし、Mは月を表わす。
【0064】
第24カ月後、本研究中の初期値を考慮した血中カリウム濃度の変化の共分散の分析は、プラシーボと比較してドロネダロンに有利な有意差を示す(p<0.0001)。
【0065】
従って、ドロネダロンは血中カリウム濃度の調節を可能にする。
【0066】
III.2.さらに利尿薬に基づく処置を受けている本研究の患者に関する結果
本研究の臨床結果は、カリウムの調節は、特に利尿治療薬の投与によって悪化するカリウム低下のリスクにさらされている患者において、突然死のリスクを低減するという仮説を実証する。突然死のリスクのドロネダロンによる低減、即ちプラシーボと比較した突然死の防止は、利尿薬を服用している患者で70.4%、利尿薬を服用していない患者で34%であった。
【0067】
さらに、リスクの低減は、高血圧患者など、利尿薬による治療を受けることの多い患者群でより大きく、高血圧でない患者で認められた45.5%の低減に対して、リスクの低減は62%であった。
【0068】
III.3.低カリウム血症に関する結果
低カリウム血症を有する患者の数をフィッシャーの正確確率検定を用いて比較した。
【0069】
低カリウム血症は、カリウムイオン[K+]濃度3mmol/L未満として定義される。
【0070】
プラシーボ群に含まれ、本研究中にカリウムを測定した2297人の患者のなかで、26人の患者、即ち1.1%がランダム化時点および最終投与まで低カリウム血症を有した。
【0071】
ドロネダロン塩酸塩による治療を受けた群に含まれ、本研究中にカリウムを測定した2255人の患者のなかで、14人の患者、即ち0.6%がランダム化時点および最終投与まで低カリウム血症を有した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血中カリウム濃度の調節に用いる薬剤を調製するためのドロネダロンまたは医薬的に許容されるこの塩の使用。
【請求項2】
低カリウム血症の予防および/または治療に用いる薬剤を調製するための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
治療される患者が、心房細動または心房粗動の病歴を有することを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の使用。
【請求項4】
患者が、利尿薬に基づく治療を受けていることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の使用。
【請求項5】
患者がさらに以下の危険因子の少なくとも1つ
年齢、
高血圧、
糖尿病、
脳卒中または全身性塞栓症の病歴、
心エコー検査で測定された左心房径50mm以上、
2次元超音波検査で測定された左室駆出率40%未満
を示すことを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の使用。
【請求項6】
患者がさらに追加の危険因子、即ち以下の病変の少なくとも1つ
高血圧、
根底にある構造的心臓疾患、
頻拍、
冠動脈疾患、
非リウマチ性心臓弁疾患、
虚血性由来の拡張型心筋症、
心房細動または心房粗動のカテーテルアブレーション、
心房細動または心房粗動以外の上室頻拍、
弁手術の病歴、
非虚血性拡張型心筋症、
肥大型心筋症、
リウマチ性弁疾患、
持続性心室頻拍、
先天性心臓障害、
心房細動または心房粗動以外の頻拍のカテーテルアブレーション、
心室細動、
および/または以下から選択された少なくとも1つの心臓装置
心臓刺激装置、
植え込み型除細動器(「ICD」)
を示すことを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の使用。
【請求項7】
1日当たり、経口で投与されるドロネダロンの用量が、1回以上の摂取で、800mgに達することができることを特徴とする、請求項1から6の一項に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−518147(P2011−518147A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504572(P2011−504572)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際出願番号】PCT/IB2009/005605
【国際公開番号】WO2009/144551
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】