血中HDL増加剤または抗動脈硬化剤
【課題】HDLの血中レベルを上げるために有用な新規のPIポリアミドの提供。該PIポリアミドを有効成分とする抗動脈硬化剤の提供。
【解決手段】ヒトABCA1遺伝子の発現を制御し得るPIポリアミド(3種)を合成し、PIポリアミドを有効成分とする抗動脈硬化剤を得た。
【解決手段】ヒトABCA1遺伝子の発現を制御し得るPIポリアミド(3種)を合成し、PIポリアミドを有効成分とする抗動脈硬化剤を得た。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のピロールイミダゾールポリアミド(以下、PIポリアミドと示す)、該PIポリアミドを有効成分として含む血中高比重リポ蛋白増加剤(以下、血中HDL増加剤と示す)または抗動脈硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポ蛋白のひとつであるHDLは、その血中レベルと動脈硬化性疾患の頻度が逆相関し、抗動脈硬化作用を示すことが知られている。そこで、アテローム性動脈硬化症等の動脈硬化性疾患の治療や予防を目的として、HDLの血中レベルを挙げる様々な物質が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ABCA1(ATP binding cassette A1)は、HDLが末梢組織の細胞からコレステロールを引き抜く際に主要な役割を担う蛋白であり、この発現量とHDLの血中レベルは相関している。そこで、ABCA1の発現量を大幅かつ持続的に上昇させるシステインプロテアーゼインヒビターを有効成分とした低HDL血症改善剤および動脈硬化症予防・治療剤(例えば、特許文献2参照)や、ビスフェノール型化合物を有効成分としたABCA1安定化剤が開発されている(例えば、特許文献3)。これらはHDLの血中レベルを挙げるために有用であるが、さらに安定かつ効果的な血中HDL増加剤の提供が望まれていた。
【0004】
近年、遺伝子発現制御技術において、生体内での安定性、組織・細胞への移行性に優れたPIポリアミドが注目されている。本発明者らはこの物質に着目し、独自の方法により、HDLの血中レベルを挙げるために効果的な、新たなPIポリアミドの開発に取り組んでいる。その結果、本発明において、従来の低HDL血症改善剤および動脈硬化症予防・治療剤等よりも安定かつ効果的な血中HDL増加剤等の提供するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−522293号公報
【特許文献2】国際公開第2003/033023号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/067904号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はHDLの血中レベルを上げるために有用な新規のPIポリアミドの提供を課題とする。さらに、該PIポリアミドを有効成分とする抗動脈硬化剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、HDLの血中レベルに相関するABCA1の発現量を上昇させるため、ヒトABCA1遺伝子の発現を制御し得るPIポリアミド(3種)を合成し、本発明を完成するに至った。
本発明者らが合成したこれらのPIポリアミドは、ヒトABCA1遺伝子プロモーター領域に存在する負の転写制御領域であるAP2結合部位に結合するものであり、AP2の結合を阻害することで、ヒトABCA1遺伝子の発現を上昇させることができる。本発明者らは、これらのPIポリアミドが、in vitro、in vivoの試験においてABCA1遺伝子の発現を増加させることを確認しており、また、in vivoの試験において血中HDLを増加させることも確認している。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)〜(3)のPIポリアミド、該PIポリアミドを有効成分とする血中HDL増加剤および抗動脈硬化剤等に関する。
(1)化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む血中HDL増加剤。
【化1】
【化2】
【化3】
(2)化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む抗動脈硬化剤。
(3)化学式1または2に記載のPIポリアミド。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって提供されるPIポリアミドを有効成分とする抗動脈硬化剤は、動脈硬化性疾患の予防、治療において、ABCA1遺伝子の発現を増加させ、HDLを増加させる、新たな作用を有する薬剤として広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒトABCA1遺伝子プロモーター領域の塩基配列を示した図である(実施例1)。
【図2】PIポリアミドが認識するAP2結合部位を中心とした部位の塩基配列を示した図である(実施例1)。
【図3】PIポリアミドの精製結果を示した図である(実施例1)。
【図4】PIポリアミドの配列特異性を確認した図である(試験例1)。
【図5】ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例2)。
【図6】ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例2)。
【図7】細胞外への脂質の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例3)。
【図8】細胞外への脂質の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例3)。
【図9】ABCA1タンパク質の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例4)。
【図10】PIポリアミドの配列特異性を確認した図である(試験例5)。
【図11】ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【図12】細胞外への脂質(遊離コレステロール)の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【図13】細胞外への脂質(リン脂質)の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【図14】In vivoでの血中HDL増加作用におけるPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「血中HDL増加剤」とは、ヒト等の哺乳類に注射等によって投与することによって、血中のHDLを増加させることができる剤のことをいう。
化学式1〜3のPIポリアミドを一種または組み合わせて有効成分とする剤であれば良く、有効成分以外に薬物的に許容されている担体等を含んでいても良い。
化学式1〜3のPIポリアミドは、従来知られているいずれのPIポリアミドの合成方法によっても合成することができるが、特にPSSM−8の合成プログラムによって合成することが好ましい。
【0012】
これらのPIポリアミドは、抗動脈硬化剤の有効成分とすることができる。この「抗動脈硬化剤」とは、動脈硬化性疾患の予防や治療を目的とする剤のことをいい、化学式1〜3のPIポリアミドを一種または組み合わせて有効成分とする剤であれば良く、有効成分以外に薬物的に許容されている担体等を含んでいても良い。
【0013】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
<PIポリアミドの作製>
1.PIポリアミドの設計
ヒトABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位に結合するように、次の1〜3のPIポリアミド(3種)を設計した。図1にヒトABCA1遺伝子プロモーター領域の塩基配列を示した。このうち、青色の枠で囲われた、上にAP2結合部位と記載された部分がAP2結合部位の塩基配列である。以下、化学式における各記号は次の意味を示す(Ac:アセチル、Py:ピロール、Im:イミダゾール、β:β−アラニン、γ:γ−酪酸、Dp:N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン)。
PIポリアミドは、Py/PyやPy/Imの組み合わせのように、2つを組み合わせて対をなすことでDNA二重螺旋構造の認識を可能としたものである。しかし、Py/PyやPy/Imの組み合わせからなるPIポリアミドは構造的に非常に剛直であり、5つ以上連結するとDNA二重螺旋構造の副溝から外れてしまい結合力が低下する。そのため、3つ置きにW(AまたはT)を認識する柔軟なβ−アラニンペア(β/βの組み合わせ)を導入しなければDNA二重螺旋構造の副溝に結合出来ないという大きな制限がある。そのため、従来からGC配列が豊富な塩基配列を認識できるPIポリアミドの構築は困難であった。また、4−8塩基の塩基配列を認識するPIポリアミドは得られているものの、ゲノム上のユニーク遺伝子を認識するには、少なくとも12塩基以上が必要とされていることから、より長い塩基配列を認識できるPIポリアミドの提供が求められていた。
本発明では自動合成機PSSM−8を用い、その最適化によることで12塩基を認識するPIポリアミドの自動合成に初めて成功した。PIポリアミドの設計において、ポリアミドにヘアピン構造を取り込み、ポリアミドの2つの対がずれない構造にすると共に、従来のPy/Py、Py/Imの組み合わせの他に、PyまたはImとの組み合わせで自由度を高く保ち、DNA二重螺旋のスパイラル構造の曲がりに柔軟に対応するβ−アラニンを取り入れ、Py/β、Im/βの組み合わせを連続することでβ−アラニンがクロスする構造を加えた。これによって、3塩基毎のβ/βのβ−アラニンの組み合わせによるW(AまたはT)の配列認識の規則を必要とせず、GC、CG等の認識を配することで克服が可能となった。すなわち、本発明は、GC配列が豊富な塩基配列の認識の選択性を高めることができ、かつ螺旋構造にねじれた位置関係の自由度を持たせて結合できるヘアピン型PIポリアミドを初めて得たものである。
【0015】
1)PIポリアミド(8塩基認識)
図2(2)の赤字部分に示した塩基配列(8塩基配列)を認識するように、AcImPyβImImPyPyγImImPyβImImPyβDp(化学式1)のPIポリアミドを設計した。化学式はC85H104N37O17+、分子量は1915.97であった。
2)PIポリアミド(12塩基認識)
図2(3)赤字部分に示した塩基配列(12塩基配列)を認識するように、AcImPyPyβImPyβImImPyPyγImImPyβImImβImImImPyβDp(化学式2)のPIポリアミドを設計した。化学式はC123H146N55O25+、分子量は2794.83であった。
8塩基以上の塩基配列を認識するPIポリアミドとして、タンデムなヘアピン構造のPIポリアミドやDNAとの複合体は理論上可能とされているが、化学式1、2のような単純なヘアピン構造のPIポリアミドにおいて、8塩基以上の塩基配列を認識するものは知られていなかった。さらに、これらのPIポリアミドはGC配列が豊富な塩基配列を認識できる新規なものであった。
3)PIポリアミド(7塩基認識)
図2(1)赤字部分に示した塩基配列(7塩基配列)を認識するように、AcPyPyβPyPyImγPyPyPyβImImβDp(化3)(化学式3)のPIポリアミドを設計した。化学式は1667.77C77H96N29O15+、分子量は1667.77であった。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
2.PIポリアミドの合成
<HCTUを用いたピロールイミダゾールポリアミドの合成>
HCTU(株式会社ペプチド研究所)を縮合活性化剤として、上記1.で設計したPIポリアミド(3種)をそれぞれ合成した。
1.試薬の調製
1)モノマー
FmocPyCOOH(Wako,36mg)、FmocImCOOH(Wako,77mg)、Fmoc−γ−Abu−OH(Nova Biochem,34mg)及びFmoc−β−Ala−OH(Nova Biochem,32mg)を合成するPIポリアミドごとに必要なカップリング分用意し、レジンに対してFmocImCOOHを4当量、それ以外を2当量ずつ秤量し、1.5mLのエッペンドルフチューブに移した。さらにHCTUをFmocImCOOHのチューブには88mg、それ以外のチューブには44mgをそれぞれ加え、NMP(Nacalai tesque製)をFmocImCOOHのチューブに500μL、それ以外のチューブには250μL加えボルテックス及び1時間静置し完全に溶解させた。
2)合成用試薬
合成機による合成のために、表1に記載の試薬を調製して用いた。
【0020】
【表1】
【0021】
3.レジンの調製
Fmoc−β−Ala−Wang−Resin(Peptide Institute製)をSmall Libra Tube(HiPep研究所製)に40mg(0.04mmol)取り、ペプチド合成機にセットし、NMP1mLを加え20分間膨潤させた。
【0022】
4.ペプチド合成(自動)
上記1.で調製したDIEAを縮合活性化剤として合成機(PSSM−8;島津製作所製)にインストールし、また先に準備しておいた各モノマーの入ったチューブをC末端から順番通りに合成機内ラックに配置した。PSSM−8の合成プログラムをセットし、合成機をスタートさせ、H2NImPyβImImPyPyγImImPyβImImPyβ−Resin、H2NImPyPyβImPyβImImPyPyγImImPyβImImβImImImPyβ−ResinまたはH2NPyPyβPyPyImγPyPyPyβImImβ−Resinまで次の(1)〜(4)の反応サイクルを繰り返すことで自動合成を行った。
【0023】
反応サイクル
(1)カップリング処理を、上記活性化剤を用いてNMP中で30分間行った。
(2)余剰のモノマー及び活性化剤を除くため1mLのNMPによるレジンの洗浄を5回繰り返した。
(3)Fmoc脱保護溶液(30%Piperidine/NMP)を1mL加え3分間反応させ、溶液を除去後、再び同じサイクルを繰り返した。
(4)Fmoc脱保護溶液を除くため1mLのNMPによるレジンの洗浄を5回繰り返し(1)に戻った。目的産物が得られるまでこのサイクルを繰り返した。
【0024】
5.精製
合成機からレジンを取り出し、洗浄、乾燥の後、ネジ式キャップのエッペンドルフチューブに移しN,N−Dimethylpropanediamine(Nacalai tesque製,2mL)を500μL加えてヒートブロックにより55℃で一晩加熱することでレジンからポリアミドの切り出しを行った。反応液をLibra Tubeに移し、濾過によりレジンを取り除き、レジンに付着している残りの反応液をNMP1mL及びメタノール1mLで回収した。
溶媒を留去後、HPLCで分取精製した。分取精製後のHPLCを図3に示した(0.1%AcOH:CH3CN=100:0〜0:100,30min)。分取精製の後、凍結乾燥をして、上記1.で設計したPIポリアミド(3種)をそれぞれ得た。
【0025】
[試験例1]
<PIポリアミドの配列特異性の確認>
実施例1において合成したPIポリアミド(化学式3)のヒトABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性をゲルシフトアッセイによって確認した。
1.試料の作成および試験
1)PIポリアミドが結合するAP2結合部位を含むFITC conjugated oligo DNA(配列表配列番号1)とその相補鎖を委託(invitrogen製)により合成した。
即ち、この相補鎖とFITC conjugated oligo DNAを用い、表2に記載の組成となるよう混合したものを95℃で5分間インキュベーションした。その後、ゆっくりと室温まで温度を下げることで、2本鎖DNAを作成した。
2)上記1)の2本鎖DNAをそのまま用いた(図4、1.)
3)上記1)の2本鎖DNAと等量(等モル)のPIポリアミド(化学式3)を用い、表3に記載の組成となるように混合したものを室温で1時間インキュベートした(図4、2.)。
4)特異的competitorとして、FITC conjugated oligo DNAに対し10倍量のnon−labeled oligo DNA(FITCの修飾がないoligo DNA)を加え、2本鎖DNAとPIポリアミド(化学式3)を用い、表4に記載の組成となるように混合したものを室温で1時間インキュベートした(図4、3.)。
5)FITC conjugated oligo DNAと実施例1と同様の方法により独自に作製したミスマッチPIポリアミド(AcPyPyβPyImPyγPyPyPyβImPyβDp、化学式:C89H108N33O17、分子量:1666.6)を用い、表5に記載の組成となるように混合したものを室温で1時間インキュベートした(図4、4.)。
6)上記2)〜5)をそれぞれ、あらかじめ0.5×TBEバッファー(組成:44.5mM Tris、44.5mM boric acid、1mM EDTA(pH8.0)で350V、20分泳動しておいた20%polyacrylamide gelで、350Vで3時間泳動した。
7)泳動が終わったgelをLAS3000(FUJIFILM製)で撮影した。結果を図4に示した。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
【表5】
【0030】
2.結果
図4、1.において、2本鎖DNAがPIポリアミドと結合することにより、移動度が変わり2.の位置にシフトすることが確認された。
また、図4、3.において、PIポリアミドがnon−labeled oligo DNAにも結合したため、FITC conjugated oligo DNAとの結合が減少することが確認された。この結果より、2本鎖DNAとPIポリアミドが配列特異的に結合していることが示された。
さらに、図4、4.において、2本鎖DNAとミスマッチPIポリアミドとが結合しないこと確認され、配列がマッチしていないと結合がおこらないことが示された。
実施例1において合成したPIポリアミド(化学式1、化学式2)においても同様に、ヒトABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性が確認された。
【0031】
[試験例2]
<ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果>
1.試料
1)PIポリアミド
実施例1で合成したPIポリアミド(化学式1〜3)をそれぞれ用いた。
2)細胞
Health Science Reserch Resources Bankより分譲を受けたTHP−1細胞(JCRB0112)(Human(peripheral blood,acute monocytic leukemia,lymphocyte−like))を、10%FBS含RPMI−1640培地(Invitrogen製)で6well plateで培養した。細胞はphorbol 12−myristate 13−acetate(PMA)3.2×10−7M(最終濃度)で72時間培養してTHP−1マクロファージに分化させた。すべての細胞は5%CO2ガス、37℃で培養を行った。
【0032】
2.ABCA1遺伝子の発現の確認
上記1.2)のTHP−1マクロファージを、PIポリアミド1uM、ドクサゾシン(Doxsazosin、Sigma製(D9815))10uM(ポジティブコントロール)またはGo6983(Sigma製(G1918))10nM(ポジティブコントロール)をそれぞれ添加した10%FBS含RPMI−1640培地で6well plateで16時間培養した。
16時間後に培地を捨て、細胞をトライゾール(TRIzol)で回収し、total RNAを精製した(Invitrogen製)。精製したtotal RNAは High capacity cDNA reverse transcription kit(applied biosystems製)で逆転写を行なった。
その後、委託(invitrogen)により合成したPrimer(配列表配列番号2,3)を用い、Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems製(4367659))を使用してreal−time PCRを行なった。また、Taqman probe法(human 18S rRNA:applied biosystems(製品番号4352930E)TaqMan Universal Master Mix II, with UNG (Applied Biosystems製(4440038))にてABI PRISM 7500(Applied Biosystems製)を使用してreal−time PCRを行なった。
得られたデータを18SrRNAの結果で補正し、図5、6に示した。
【0033】
3.結果
図5に示したように、PIポリアミド(化学式3)(図5、PyIm)を用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ドクサゾシン(図5、Doxazosin)またはGo6983を用いた場合と同様に、ABCA1遺伝子(mRNA)の発現が、コントロールと比べて有意に上昇することが確認された。
また、図6に示したように、PIポリアミド(化学式1〜3)(図6、7mer:化学式3、8mer:化学式1、12mer:化学式2)のいずれを用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ABCA1遺伝子(mRNA)の発現が上昇することが確認された。
【0034】
[試験例3]
<Apo−AI存在下での細胞外への脂質の引き抜きに対するPIポリアミドの効果>
1.試料
実施例1で合成したPIポリアミド(化学式1〜3)および試験例2と同様に得たTHP−1マクロファージを用いた。
【0035】
2.Apo−AI存在下での細胞外への脂質の引き抜きの確認
THP−1マクロファージを、PIポリアミド 1uM、ドクサゾシン 10uM(ポジティブコントロール)またはGo6983 10nM(ポジティブコントロール)をそれぞれ添加した0.1%BSA、apo−AI 10ug/ml含RPMI−1640培地で6well plateで16時間培養した。Apo A−Iはヒトの血漿から超遠心法によりHDL画分を採取し、エタノール:エーテル(3:2)で脱脂後、Sephacry S−200 ゲルクロマトグラフィーによって得たものを用いた。
16時間後に各wellの培地を回収し、これに含まれる脂質をクロロホルム:メタノール(2:1)混液で抽出し、減圧乾固の後にイソプロパノールで溶解した。抽出した脂質に含まれる遊離コレステロールおよびリン脂質を遊離コレステロールE−テストワコー(Wako chemicals製(435−35801))またはリン脂質C−テストワコー(Wako chemicals製(433−36201))によって、それぞれ測定した。
細胞はRIPA buffer(Nacalai tesque製(08714))で溶解し、BCA kit(Thermo Scientific製(#23227))にてタンパク質量を測定した。測定した遊離コレステロールおよびリン脂質の量はタンパク質量で補正し、図7、8に示した。
【0036】
3.結果
図7(FC:遊離コレステロール(Free cholesterol),PL:リン脂質(Phospholipid))に示したように、PIポリアミド(化学式3)を用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ドクサゾシン(図7、Doxazosin)またはGo6983を用いた場合と同様に、遊離コレステロールおよびリン脂質の量がコントロールと比べて多く、PIポリアミド(図7、PyIm)が細胞外への脂質の引き抜きに有用であることが確認された。
また、図8に示したように、PIポリアミド(化学式1〜3)(図8、7mer:化学式3、8mer:化学式1、12mer:化学式2)のいずれを用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、リン脂質の量がコントロールと比べて多く、PIポリアミド(化学式1〜3)のいずれもが細胞外への脂質の引き抜きに有用であることが確認された。
【0037】
[試験例4]
<ABCA1タンパク質の発現に対するPIポリアミドの効果>
1.試料
実施例1で合成したPIポリアミド(化学式3)および試験例2と同様に得たTHP−1マクロファージを用いた。
【0038】
2.ABCA1タンパク質の発現確認
THP−1マクロファージを、PIポリアミド 1uM、ドクサゾシン 10uM(ポジティブコントロール)またはGo6983 10nM(ポジティブコントロール)をそれぞれ添加した10%FBS含RPMI−1640培地で6well plateで24時間培養した。
24時間後に培地を捨て、細胞をPBSで洗った後、1% Triton X−100,2mM 2−mercaptoethanolを含むRIPA buffer(nacalai tesque製(08714))で溶解した。4−20% gradient gelでSDS−PAGEを行い、PVDF膜に転写後、抗ABCA1抗体(Santa Cruz Biotechnology製(SC−5491))を用い、ECL Plus reagent(GE Healthcare製(RPN2132))にて発現したABCA1タンパク質を検出した。
【0039】
3.結果
図9に示したように、PIポリアミド(化学式3)(図9、PyIm)を用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ドクサゾシン(図9、Doxazosin)またはGo6983を用いた場合と同様に、ABCA1タンパク質の発現が、コントロールと比べて上昇することが確認された。
【実施例2】
【0040】
<抗動脈硬化剤>
実施例1において合成した1種以上のPIポリアミドを有効成分として、抗動脈硬化剤を製造した。
【0041】
[試験例5]
<In vivoでの血中HDL増加作用におけるPIポリアミドの効果>
1.In vitroでのPIポリアミドの効果の確認
マウスABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位(認識部位:図2(4)の赤字部分に示した塩基配列(7塩基配列))に結合するように設計し、実施例1と同様の方法により独自に作製したPIポリアミド(AcPyPyImβImImγPyPyβPyPyImβDp(化学式4)以下、mABC1と示す)、化学式:C76H95N30O15+、分子量:1666.93)を用い、試験例1と同様の方法で、マウスABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性をゲルシフトアッセイによって確認した。その結果、図10に示すように、mABC1はマウスABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性に対し、配列特異性を有することが確認された。
次に、理研バイオリソースセンターより分譲を受けたマウスマクロファージ細胞(RAW264cell)を用いて、試験例2と同様の方法で、マウスABCA1遺伝子の発現を確認し、試験例3と同様の方法でApo−AI存在下での細胞外への脂質の引き抜きに対する効果を確認した。
その結果、図11に示すように、コントロールに対してmABC1(図11、PyIm)はRAW264celにおけるABCA1遺伝子の発現をポジティブコントロールであるドクサゾシン(図11、Dox)と同様に有意に増加させた。また、細胞外への脂質の引き抜きにおいても遊離コレステロール(図12)、リン脂質(図13)ともにmABC1(図12、13、PyIm)はその引き抜きを有意に増加させることが確認された。
【0042】
【化4】
【0043】
2.In vivoでのPIポリアミドの効果の確認
室温22±5℃でマウスラットハムスター用の飼料MF(オリエンタル酵母株式会社)と水を不断給餌にて飼育したC57BL/6Jマウス9週令雄(オリエンタル酵母株式会社)を用いた。
マウスをミスマッチPIポリアミド(試験例1、5)で用いているものと同じもの)を投与するコントロール群と実験群(PIポリアミド(以下、mABC1とする)投与)群に分け(n=5)、各PIポリアミドを0.1%酢酸に溶解し、1mg/kg BWを尾静脈より1日おきに4回投与し、10日目に麻酔下で心臓からの採血と肝臓の摘出を行なった。
この血液より血漿を分離し、アガロースゲル電気泳動を行なった。その結果、図14に示したように、mABC1投与群(図14、P−2〜P−5)において、コントロール群(図14、C−3〜C−6)と比べてHDL分画の増加が認められた。さらにHPLCで詳細な変化を検討したところ、mABC1投与群でlarge HDLおよびvery large HDLが増加していることが確認された。
さらにHPLCにて詳細な血漿中のリポタンパク解析を行なうとともに、血液中の白血球と肝臓組織からtotal RNAを採取し、ABCA1遺伝子(mRNA)の発現を調べた。その結果、白血球中のABCA1遺伝子(mRNA)の発現は有意な差はないもののPIポリアミド投与群で高くなることが確認された。また肝臓におけるABCA1遺伝子(mRNA)の発現量はコントロール群に対して有意に増加することが確認された。
【0044】
これらの結果より、マウスABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位に結合するPIポリアミドがin vivoにおいて、血中HDLを増加させる作用や肝臓のABCA1遺伝子(mRNA)の発現量を増加させる作用を有することが確認できたことから、本発明において作成したヒトABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位に結合するPIポリアミド(化学式1〜3)も同様の作用を有するものと予測された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によって提供されるPIポリアミドは、安定かつ効果的な血中HDL増加剤および抗動脈硬化剤の有効成分として利用できる。また、PIポリアミドを有効成分とする薬剤の提供により、動脈硬化性疾患の予防、治療において、さらに有用なPIポリアミドの合成を行うことが可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のピロールイミダゾールポリアミド(以下、PIポリアミドと示す)、該PIポリアミドを有効成分として含む血中高比重リポ蛋白増加剤(以下、血中HDL増加剤と示す)または抗動脈硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポ蛋白のひとつであるHDLは、その血中レベルと動脈硬化性疾患の頻度が逆相関し、抗動脈硬化作用を示すことが知られている。そこで、アテローム性動脈硬化症等の動脈硬化性疾患の治療や予防を目的として、HDLの血中レベルを挙げる様々な物質が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ABCA1(ATP binding cassette A1)は、HDLが末梢組織の細胞からコレステロールを引き抜く際に主要な役割を担う蛋白であり、この発現量とHDLの血中レベルは相関している。そこで、ABCA1の発現量を大幅かつ持続的に上昇させるシステインプロテアーゼインヒビターを有効成分とした低HDL血症改善剤および動脈硬化症予防・治療剤(例えば、特許文献2参照)や、ビスフェノール型化合物を有効成分としたABCA1安定化剤が開発されている(例えば、特許文献3)。これらはHDLの血中レベルを挙げるために有用であるが、さらに安定かつ効果的な血中HDL増加剤の提供が望まれていた。
【0004】
近年、遺伝子発現制御技術において、生体内での安定性、組織・細胞への移行性に優れたPIポリアミドが注目されている。本発明者らはこの物質に着目し、独自の方法により、HDLの血中レベルを挙げるために効果的な、新たなPIポリアミドの開発に取り組んでいる。その結果、本発明において、従来の低HDL血症改善剤および動脈硬化症予防・治療剤等よりも安定かつ効果的な血中HDL増加剤等の提供するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−522293号公報
【特許文献2】国際公開第2003/033023号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/067904号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はHDLの血中レベルを上げるために有用な新規のPIポリアミドの提供を課題とする。さらに、該PIポリアミドを有効成分とする抗動脈硬化剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、HDLの血中レベルに相関するABCA1の発現量を上昇させるため、ヒトABCA1遺伝子の発現を制御し得るPIポリアミド(3種)を合成し、本発明を完成するに至った。
本発明者らが合成したこれらのPIポリアミドは、ヒトABCA1遺伝子プロモーター領域に存在する負の転写制御領域であるAP2結合部位に結合するものであり、AP2の結合を阻害することで、ヒトABCA1遺伝子の発現を上昇させることができる。本発明者らは、これらのPIポリアミドが、in vitro、in vivoの試験においてABCA1遺伝子の発現を増加させることを確認しており、また、in vivoの試験において血中HDLを増加させることも確認している。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)〜(3)のPIポリアミド、該PIポリアミドを有効成分とする血中HDL増加剤および抗動脈硬化剤等に関する。
(1)化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む血中HDL増加剤。
【化1】
【化2】
【化3】
(2)化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む抗動脈硬化剤。
(3)化学式1または2に記載のPIポリアミド。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって提供されるPIポリアミドを有効成分とする抗動脈硬化剤は、動脈硬化性疾患の予防、治療において、ABCA1遺伝子の発現を増加させ、HDLを増加させる、新たな作用を有する薬剤として広く利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ヒトABCA1遺伝子プロモーター領域の塩基配列を示した図である(実施例1)。
【図2】PIポリアミドが認識するAP2結合部位を中心とした部位の塩基配列を示した図である(実施例1)。
【図3】PIポリアミドの精製結果を示した図である(実施例1)。
【図4】PIポリアミドの配列特異性を確認した図である(試験例1)。
【図5】ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例2)。
【図6】ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例2)。
【図7】細胞外への脂質の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例3)。
【図8】細胞外への脂質の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例3)。
【図9】ABCA1タンパク質の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例4)。
【図10】PIポリアミドの配列特異性を確認した図である(試験例5)。
【図11】ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【図12】細胞外への脂質(遊離コレステロール)の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【図13】細胞外への脂質(リン脂質)の引き抜きに対するPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【図14】In vivoでの血中HDL増加作用におけるPIポリアミドの効果を示した図である(試験例5)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「血中HDL増加剤」とは、ヒト等の哺乳類に注射等によって投与することによって、血中のHDLを増加させることができる剤のことをいう。
化学式1〜3のPIポリアミドを一種または組み合わせて有効成分とする剤であれば良く、有効成分以外に薬物的に許容されている担体等を含んでいても良い。
化学式1〜3のPIポリアミドは、従来知られているいずれのPIポリアミドの合成方法によっても合成することができるが、特にPSSM−8の合成プログラムによって合成することが好ましい。
【0012】
これらのPIポリアミドは、抗動脈硬化剤の有効成分とすることができる。この「抗動脈硬化剤」とは、動脈硬化性疾患の予防や治療を目的とする剤のことをいい、化学式1〜3のPIポリアミドを一種または組み合わせて有効成分とする剤であれば良く、有効成分以外に薬物的に許容されている担体等を含んでいても良い。
【0013】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
<PIポリアミドの作製>
1.PIポリアミドの設計
ヒトABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位に結合するように、次の1〜3のPIポリアミド(3種)を設計した。図1にヒトABCA1遺伝子プロモーター領域の塩基配列を示した。このうち、青色の枠で囲われた、上にAP2結合部位と記載された部分がAP2結合部位の塩基配列である。以下、化学式における各記号は次の意味を示す(Ac:アセチル、Py:ピロール、Im:イミダゾール、β:β−アラニン、γ:γ−酪酸、Dp:N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン)。
PIポリアミドは、Py/PyやPy/Imの組み合わせのように、2つを組み合わせて対をなすことでDNA二重螺旋構造の認識を可能としたものである。しかし、Py/PyやPy/Imの組み合わせからなるPIポリアミドは構造的に非常に剛直であり、5つ以上連結するとDNA二重螺旋構造の副溝から外れてしまい結合力が低下する。そのため、3つ置きにW(AまたはT)を認識する柔軟なβ−アラニンペア(β/βの組み合わせ)を導入しなければDNA二重螺旋構造の副溝に結合出来ないという大きな制限がある。そのため、従来からGC配列が豊富な塩基配列を認識できるPIポリアミドの構築は困難であった。また、4−8塩基の塩基配列を認識するPIポリアミドは得られているものの、ゲノム上のユニーク遺伝子を認識するには、少なくとも12塩基以上が必要とされていることから、より長い塩基配列を認識できるPIポリアミドの提供が求められていた。
本発明では自動合成機PSSM−8を用い、その最適化によることで12塩基を認識するPIポリアミドの自動合成に初めて成功した。PIポリアミドの設計において、ポリアミドにヘアピン構造を取り込み、ポリアミドの2つの対がずれない構造にすると共に、従来のPy/Py、Py/Imの組み合わせの他に、PyまたはImとの組み合わせで自由度を高く保ち、DNA二重螺旋のスパイラル構造の曲がりに柔軟に対応するβ−アラニンを取り入れ、Py/β、Im/βの組み合わせを連続することでβ−アラニンがクロスする構造を加えた。これによって、3塩基毎のβ/βのβ−アラニンの組み合わせによるW(AまたはT)の配列認識の規則を必要とせず、GC、CG等の認識を配することで克服が可能となった。すなわち、本発明は、GC配列が豊富な塩基配列の認識の選択性を高めることができ、かつ螺旋構造にねじれた位置関係の自由度を持たせて結合できるヘアピン型PIポリアミドを初めて得たものである。
【0015】
1)PIポリアミド(8塩基認識)
図2(2)の赤字部分に示した塩基配列(8塩基配列)を認識するように、AcImPyβImImPyPyγImImPyβImImPyβDp(化学式1)のPIポリアミドを設計した。化学式はC85H104N37O17+、分子量は1915.97であった。
2)PIポリアミド(12塩基認識)
図2(3)赤字部分に示した塩基配列(12塩基配列)を認識するように、AcImPyPyβImPyβImImPyPyγImImPyβImImβImImImPyβDp(化学式2)のPIポリアミドを設計した。化学式はC123H146N55O25+、分子量は2794.83であった。
8塩基以上の塩基配列を認識するPIポリアミドとして、タンデムなヘアピン構造のPIポリアミドやDNAとの複合体は理論上可能とされているが、化学式1、2のような単純なヘアピン構造のPIポリアミドにおいて、8塩基以上の塩基配列を認識するものは知られていなかった。さらに、これらのPIポリアミドはGC配列が豊富な塩基配列を認識できる新規なものであった。
3)PIポリアミド(7塩基認識)
図2(1)赤字部分に示した塩基配列(7塩基配列)を認識するように、AcPyPyβPyPyImγPyPyPyβImImβDp(化3)(化学式3)のPIポリアミドを設計した。化学式は1667.77C77H96N29O15+、分子量は1667.77であった。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
2.PIポリアミドの合成
<HCTUを用いたピロールイミダゾールポリアミドの合成>
HCTU(株式会社ペプチド研究所)を縮合活性化剤として、上記1.で設計したPIポリアミド(3種)をそれぞれ合成した。
1.試薬の調製
1)モノマー
FmocPyCOOH(Wako,36mg)、FmocImCOOH(Wako,77mg)、Fmoc−γ−Abu−OH(Nova Biochem,34mg)及びFmoc−β−Ala−OH(Nova Biochem,32mg)を合成するPIポリアミドごとに必要なカップリング分用意し、レジンに対してFmocImCOOHを4当量、それ以外を2当量ずつ秤量し、1.5mLのエッペンドルフチューブに移した。さらにHCTUをFmocImCOOHのチューブには88mg、それ以外のチューブには44mgをそれぞれ加え、NMP(Nacalai tesque製)をFmocImCOOHのチューブに500μL、それ以外のチューブには250μL加えボルテックス及び1時間静置し完全に溶解させた。
2)合成用試薬
合成機による合成のために、表1に記載の試薬を調製して用いた。
【0020】
【表1】
【0021】
3.レジンの調製
Fmoc−β−Ala−Wang−Resin(Peptide Institute製)をSmall Libra Tube(HiPep研究所製)に40mg(0.04mmol)取り、ペプチド合成機にセットし、NMP1mLを加え20分間膨潤させた。
【0022】
4.ペプチド合成(自動)
上記1.で調製したDIEAを縮合活性化剤として合成機(PSSM−8;島津製作所製)にインストールし、また先に準備しておいた各モノマーの入ったチューブをC末端から順番通りに合成機内ラックに配置した。PSSM−8の合成プログラムをセットし、合成機をスタートさせ、H2NImPyβImImPyPyγImImPyβImImPyβ−Resin、H2NImPyPyβImPyβImImPyPyγImImPyβImImβImImImPyβ−ResinまたはH2NPyPyβPyPyImγPyPyPyβImImβ−Resinまで次の(1)〜(4)の反応サイクルを繰り返すことで自動合成を行った。
【0023】
反応サイクル
(1)カップリング処理を、上記活性化剤を用いてNMP中で30分間行った。
(2)余剰のモノマー及び活性化剤を除くため1mLのNMPによるレジンの洗浄を5回繰り返した。
(3)Fmoc脱保護溶液(30%Piperidine/NMP)を1mL加え3分間反応させ、溶液を除去後、再び同じサイクルを繰り返した。
(4)Fmoc脱保護溶液を除くため1mLのNMPによるレジンの洗浄を5回繰り返し(1)に戻った。目的産物が得られるまでこのサイクルを繰り返した。
【0024】
5.精製
合成機からレジンを取り出し、洗浄、乾燥の後、ネジ式キャップのエッペンドルフチューブに移しN,N−Dimethylpropanediamine(Nacalai tesque製,2mL)を500μL加えてヒートブロックにより55℃で一晩加熱することでレジンからポリアミドの切り出しを行った。反応液をLibra Tubeに移し、濾過によりレジンを取り除き、レジンに付着している残りの反応液をNMP1mL及びメタノール1mLで回収した。
溶媒を留去後、HPLCで分取精製した。分取精製後のHPLCを図3に示した(0.1%AcOH:CH3CN=100:0〜0:100,30min)。分取精製の後、凍結乾燥をして、上記1.で設計したPIポリアミド(3種)をそれぞれ得た。
【0025】
[試験例1]
<PIポリアミドの配列特異性の確認>
実施例1において合成したPIポリアミド(化学式3)のヒトABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性をゲルシフトアッセイによって確認した。
1.試料の作成および試験
1)PIポリアミドが結合するAP2結合部位を含むFITC conjugated oligo DNA(配列表配列番号1)とその相補鎖を委託(invitrogen製)により合成した。
即ち、この相補鎖とFITC conjugated oligo DNAを用い、表2に記載の組成となるよう混合したものを95℃で5分間インキュベーションした。その後、ゆっくりと室温まで温度を下げることで、2本鎖DNAを作成した。
2)上記1)の2本鎖DNAをそのまま用いた(図4、1.)
3)上記1)の2本鎖DNAと等量(等モル)のPIポリアミド(化学式3)を用い、表3に記載の組成となるように混合したものを室温で1時間インキュベートした(図4、2.)。
4)特異的competitorとして、FITC conjugated oligo DNAに対し10倍量のnon−labeled oligo DNA(FITCの修飾がないoligo DNA)を加え、2本鎖DNAとPIポリアミド(化学式3)を用い、表4に記載の組成となるように混合したものを室温で1時間インキュベートした(図4、3.)。
5)FITC conjugated oligo DNAと実施例1と同様の方法により独自に作製したミスマッチPIポリアミド(AcPyPyβPyImPyγPyPyPyβImPyβDp、化学式:C89H108N33O17、分子量:1666.6)を用い、表5に記載の組成となるように混合したものを室温で1時間インキュベートした(図4、4.)。
6)上記2)〜5)をそれぞれ、あらかじめ0.5×TBEバッファー(組成:44.5mM Tris、44.5mM boric acid、1mM EDTA(pH8.0)で350V、20分泳動しておいた20%polyacrylamide gelで、350Vで3時間泳動した。
7)泳動が終わったgelをLAS3000(FUJIFILM製)で撮影した。結果を図4に示した。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
【表5】
【0030】
2.結果
図4、1.において、2本鎖DNAがPIポリアミドと結合することにより、移動度が変わり2.の位置にシフトすることが確認された。
また、図4、3.において、PIポリアミドがnon−labeled oligo DNAにも結合したため、FITC conjugated oligo DNAとの結合が減少することが確認された。この結果より、2本鎖DNAとPIポリアミドが配列特異的に結合していることが示された。
さらに、図4、4.において、2本鎖DNAとミスマッチPIポリアミドとが結合しないこと確認され、配列がマッチしていないと結合がおこらないことが示された。
実施例1において合成したPIポリアミド(化学式1、化学式2)においても同様に、ヒトABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性が確認された。
【0031】
[試験例2]
<ABCA1遺伝子の発現に対するPIポリアミドの効果>
1.試料
1)PIポリアミド
実施例1で合成したPIポリアミド(化学式1〜3)をそれぞれ用いた。
2)細胞
Health Science Reserch Resources Bankより分譲を受けたTHP−1細胞(JCRB0112)(Human(peripheral blood,acute monocytic leukemia,lymphocyte−like))を、10%FBS含RPMI−1640培地(Invitrogen製)で6well plateで培養した。細胞はphorbol 12−myristate 13−acetate(PMA)3.2×10−7M(最終濃度)で72時間培養してTHP−1マクロファージに分化させた。すべての細胞は5%CO2ガス、37℃で培養を行った。
【0032】
2.ABCA1遺伝子の発現の確認
上記1.2)のTHP−1マクロファージを、PIポリアミド1uM、ドクサゾシン(Doxsazosin、Sigma製(D9815))10uM(ポジティブコントロール)またはGo6983(Sigma製(G1918))10nM(ポジティブコントロール)をそれぞれ添加した10%FBS含RPMI−1640培地で6well plateで16時間培養した。
16時間後に培地を捨て、細胞をトライゾール(TRIzol)で回収し、total RNAを精製した(Invitrogen製)。精製したtotal RNAは High capacity cDNA reverse transcription kit(applied biosystems製)で逆転写を行なった。
その後、委託(invitrogen)により合成したPrimer(配列表配列番号2,3)を用い、Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems製(4367659))を使用してreal−time PCRを行なった。また、Taqman probe法(human 18S rRNA:applied biosystems(製品番号4352930E)TaqMan Universal Master Mix II, with UNG (Applied Biosystems製(4440038))にてABI PRISM 7500(Applied Biosystems製)を使用してreal−time PCRを行なった。
得られたデータを18SrRNAの結果で補正し、図5、6に示した。
【0033】
3.結果
図5に示したように、PIポリアミド(化学式3)(図5、PyIm)を用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ドクサゾシン(図5、Doxazosin)またはGo6983を用いた場合と同様に、ABCA1遺伝子(mRNA)の発現が、コントロールと比べて有意に上昇することが確認された。
また、図6に示したように、PIポリアミド(化学式1〜3)(図6、7mer:化学式3、8mer:化学式1、12mer:化学式2)のいずれを用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ABCA1遺伝子(mRNA)の発現が上昇することが確認された。
【0034】
[試験例3]
<Apo−AI存在下での細胞外への脂質の引き抜きに対するPIポリアミドの効果>
1.試料
実施例1で合成したPIポリアミド(化学式1〜3)および試験例2と同様に得たTHP−1マクロファージを用いた。
【0035】
2.Apo−AI存在下での細胞外への脂質の引き抜きの確認
THP−1マクロファージを、PIポリアミド 1uM、ドクサゾシン 10uM(ポジティブコントロール)またはGo6983 10nM(ポジティブコントロール)をそれぞれ添加した0.1%BSA、apo−AI 10ug/ml含RPMI−1640培地で6well plateで16時間培養した。Apo A−Iはヒトの血漿から超遠心法によりHDL画分を採取し、エタノール:エーテル(3:2)で脱脂後、Sephacry S−200 ゲルクロマトグラフィーによって得たものを用いた。
16時間後に各wellの培地を回収し、これに含まれる脂質をクロロホルム:メタノール(2:1)混液で抽出し、減圧乾固の後にイソプロパノールで溶解した。抽出した脂質に含まれる遊離コレステロールおよびリン脂質を遊離コレステロールE−テストワコー(Wako chemicals製(435−35801))またはリン脂質C−テストワコー(Wako chemicals製(433−36201))によって、それぞれ測定した。
細胞はRIPA buffer(Nacalai tesque製(08714))で溶解し、BCA kit(Thermo Scientific製(#23227))にてタンパク質量を測定した。測定した遊離コレステロールおよびリン脂質の量はタンパク質量で補正し、図7、8に示した。
【0036】
3.結果
図7(FC:遊離コレステロール(Free cholesterol),PL:リン脂質(Phospholipid))に示したように、PIポリアミド(化学式3)を用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ドクサゾシン(図7、Doxazosin)またはGo6983を用いた場合と同様に、遊離コレステロールおよびリン脂質の量がコントロールと比べて多く、PIポリアミド(図7、PyIm)が細胞外への脂質の引き抜きに有用であることが確認された。
また、図8に示したように、PIポリアミド(化学式1〜3)(図8、7mer:化学式3、8mer:化学式1、12mer:化学式2)のいずれを用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、リン脂質の量がコントロールと比べて多く、PIポリアミド(化学式1〜3)のいずれもが細胞外への脂質の引き抜きに有用であることが確認された。
【0037】
[試験例4]
<ABCA1タンパク質の発現に対するPIポリアミドの効果>
1.試料
実施例1で合成したPIポリアミド(化学式3)および試験例2と同様に得たTHP−1マクロファージを用いた。
【0038】
2.ABCA1タンパク質の発現確認
THP−1マクロファージを、PIポリアミド 1uM、ドクサゾシン 10uM(ポジティブコントロール)またはGo6983 10nM(ポジティブコントロール)をそれぞれ添加した10%FBS含RPMI−1640培地で6well plateで24時間培養した。
24時間後に培地を捨て、細胞をPBSで洗った後、1% Triton X−100,2mM 2−mercaptoethanolを含むRIPA buffer(nacalai tesque製(08714))で溶解した。4−20% gradient gelでSDS−PAGEを行い、PVDF膜に転写後、抗ABCA1抗体(Santa Cruz Biotechnology製(SC−5491))を用い、ECL Plus reagent(GE Healthcare製(RPN2132))にて発現したABCA1タンパク質を検出した。
【0039】
3.結果
図9に示したように、PIポリアミド(化学式3)(図9、PyIm)を用いた場合でも、1μMという低濃度にもかかわらず、ドクサゾシン(図9、Doxazosin)またはGo6983を用いた場合と同様に、ABCA1タンパク質の発現が、コントロールと比べて上昇することが確認された。
【実施例2】
【0040】
<抗動脈硬化剤>
実施例1において合成した1種以上のPIポリアミドを有効成分として、抗動脈硬化剤を製造した。
【0041】
[試験例5]
<In vivoでの血中HDL増加作用におけるPIポリアミドの効果>
1.In vitroでのPIポリアミドの効果の確認
マウスABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位(認識部位:図2(4)の赤字部分に示した塩基配列(7塩基配列))に結合するように設計し、実施例1と同様の方法により独自に作製したPIポリアミド(AcPyPyImβImImγPyPyβPyPyImβDp(化学式4)以下、mABC1と示す)、化学式:C76H95N30O15+、分子量:1666.93)を用い、試験例1と同様の方法で、マウスABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性をゲルシフトアッセイによって確認した。その結果、図10に示すように、mABC1はマウスABCA1のAP2結合部位に対する配列特異性に対し、配列特異性を有することが確認された。
次に、理研バイオリソースセンターより分譲を受けたマウスマクロファージ細胞(RAW264cell)を用いて、試験例2と同様の方法で、マウスABCA1遺伝子の発現を確認し、試験例3と同様の方法でApo−AI存在下での細胞外への脂質の引き抜きに対する効果を確認した。
その結果、図11に示すように、コントロールに対してmABC1(図11、PyIm)はRAW264celにおけるABCA1遺伝子の発現をポジティブコントロールであるドクサゾシン(図11、Dox)と同様に有意に増加させた。また、細胞外への脂質の引き抜きにおいても遊離コレステロール(図12)、リン脂質(図13)ともにmABC1(図12、13、PyIm)はその引き抜きを有意に増加させることが確認された。
【0042】
【化4】
【0043】
2.In vivoでのPIポリアミドの効果の確認
室温22±5℃でマウスラットハムスター用の飼料MF(オリエンタル酵母株式会社)と水を不断給餌にて飼育したC57BL/6Jマウス9週令雄(オリエンタル酵母株式会社)を用いた。
マウスをミスマッチPIポリアミド(試験例1、5)で用いているものと同じもの)を投与するコントロール群と実験群(PIポリアミド(以下、mABC1とする)投与)群に分け(n=5)、各PIポリアミドを0.1%酢酸に溶解し、1mg/kg BWを尾静脈より1日おきに4回投与し、10日目に麻酔下で心臓からの採血と肝臓の摘出を行なった。
この血液より血漿を分離し、アガロースゲル電気泳動を行なった。その結果、図14に示したように、mABC1投与群(図14、P−2〜P−5)において、コントロール群(図14、C−3〜C−6)と比べてHDL分画の増加が認められた。さらにHPLCで詳細な変化を検討したところ、mABC1投与群でlarge HDLおよびvery large HDLが増加していることが確認された。
さらにHPLCにて詳細な血漿中のリポタンパク解析を行なうとともに、血液中の白血球と肝臓組織からtotal RNAを採取し、ABCA1遺伝子(mRNA)の発現を調べた。その結果、白血球中のABCA1遺伝子(mRNA)の発現は有意な差はないもののPIポリアミド投与群で高くなることが確認された。また肝臓におけるABCA1遺伝子(mRNA)の発現量はコントロール群に対して有意に増加することが確認された。
【0044】
これらの結果より、マウスABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位に結合するPIポリアミドがin vivoにおいて、血中HDLを増加させる作用や肝臓のABCA1遺伝子(mRNA)の発現量を増加させる作用を有することが確認できたことから、本発明において作成したヒトABCA1遺伝子プロモーター領域のAP2結合部位を中心とした部位に結合するPIポリアミド(化学式1〜3)も同様の作用を有するものと予測された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によって提供されるPIポリアミドは、安定かつ効果的な血中HDL増加剤および抗動脈硬化剤の有効成分として利用できる。また、PIポリアミドを有効成分とする薬剤の提供により、動脈硬化性疾患の予防、治療において、さらに有用なPIポリアミドの合成を行うことが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む血中HDL増加剤。
[化学式1]
[化学式2]
[化学式3]
【請求項2】
化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む抗動脈硬化剤。
【請求項3】
化学式1または2に記載のPIポリアミド。
【請求項1】
化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む血中HDL増加剤。
[化学式1]
[化学式2]
[化学式3]
【請求項2】
化学式1〜3のいずれか一種以上のPIポリアミドを有効成分として含む抗動脈硬化剤。
【請求項3】
化学式1または2に記載のPIポリアミド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−6897(P2012−6897A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146985(P2010−146985)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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