説明

血圧測定装置および血圧測定方法

【課題】カフで動脈を圧迫する血圧測定時間を短縮できる血圧測定装置を提供する。
【解決手段】本血圧測定装置は、脈波検出部62と、脈波間隔計測部と、波形情報記憶部63と、変化傾向算出部と、波形情報比較部と、判断部と、を有する。波形情報記憶部は、検出された脈波の波形情報およびその時の前記カフ圧と脈波間隔とを記憶する。変化傾向算出部は、前記脈波の振幅値の変化傾向を算出する。波形情報比較部は、連続して検出される2拍の脈波の波形情報を比較する。判断部は、互いに異なるカフ圧において連続して検出される2拍の脈波について、振幅値の大小関係が前記変化傾向算出部によって算出された前記変化傾向に整合しており、かつ、脈波間隔が所定の範囲内にあり、なおかつ、波形情報が概ね一致している場合、連続して検出される2拍の脈波のうちの後に検出される振幅値を血圧値の算出に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧測定装置および血圧測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検者への負担軽減の観点から、カフで動脈を圧迫して行う血圧測定における測定時間の短縮が望まれている。血圧測定に要する時間は、一般に動脈を圧迫したのちカフ圧を徐々に減圧する過程に大きく依存する。オシロメトリック法を用いた血圧測定では、カフ圧を徐々に減圧させながら動脈からの脈波を検出するため、脈波は体動などに起因する外乱ノイズ(以下、アーティファクトと称する)の影響を受ける可能性がある。下記特許文献1の血圧測定装置では、ある特定のカフ圧について脈波が2拍連続して概ね同じ波形を呈する場合に、当該2拍の脈波を血圧値の算出に使用することにより、アーティファクトの影響を受けることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,360,029号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の血圧測定装置では、脈波がアーティファクトの影響を受けていない場合であっても、ある特定のカフ圧について少なくとも2拍の脈波をつねに必要とする。これでは、測定に長い時間を要するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、カフで動脈を圧迫する血圧測定時間を短縮できる血圧測定装置を提供することである。
【0006】
また、本発明の他の目的は、上記血圧測定装置を用いた血圧測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0008】
本発明の血圧測定装置は、動脈を圧迫するカフ圧を徐々に変更する過程で血圧を測定する血圧測定装置であって、脈波検出手段と、脈波間隔計測手段と、波形情報記憶手段と、変化傾向算出手段と、波形情報比較手段と、判断手段と、を有する。脈波検出手段は、前記動脈の脈波を検出する。脈波間隔計測手段は、連続して検出される2拍の脈波間隔を計測する。波形情報記憶手段は、検出された前記脈波の波形情報およびその時の前記カフ圧と前記脈波間隔とを記憶する。変化傾向算出手段は、前記脈波の振幅値の変化傾向を算出する。波形情報比較手段は、前記連続して検出される2拍の脈波の波形情報を比較する。判断手段は、互いに異なるカフ圧において連続して検出される2拍の脈波について、所定の条件、すなわち、振幅値の大小関係が前記変化傾向算出手段によって算出された前記変化傾向に整合しており、かつ、前記脈波間隔が所定の範囲内にあり、なおかつ、前記波形情報が概ね一致している場合、前記連続して検出される2拍の脈波のうちの後に検出される振幅値を血圧値の算出に使用すると判断する。
【0009】
本発明の血圧測定方法は、動脈を圧迫するカフ圧を徐々に変更する過程で脈波を連続して検出し、その検出された脈波に基づいて血圧を測定する血圧測定方法であって、互いに異なるカフ圧において連続して検出される2拍の脈波について、所定の条件、すなわち、それらの振幅値の大小関係が前記脈波の振幅値の変化傾向に整合しており、かつ、それらの脈波間隔が所定の範囲内にあり、なおかつ、それらの波形情報が概ね一致している場合、前記連続して検出される2拍の脈波のうちの後に検出される振幅値を血圧値算出の振幅値の一つとして使用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血圧測定装置および血圧測定方法によれば、脈波がアーティファクトの影響を受けていないと判断される場合は、ある特定のカフ圧について1拍の脈波を用いて血圧を算出するので、血圧測定に要する時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態における血圧測定装置を説明するためのブロック図である。
【図2】図1に示す血圧測定装置の演算部を説明するためのブロック図である。
【図3】カフ圧とオシレーションとの関係を示す波形図である。
【図4】連続する2拍の脈波を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施の形態における血圧測定方法のメイン処理を説明するフローチャートである。
【図6】図5に示すメイン処理における基準脈波間隔設定処理を説明するためのフローチャートである。
【図7】図5に示すメイン処理における血圧算出用脈波登録処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】図1に示す血圧測定装置による血圧測定および従来の血圧測定におけるカフ圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照して本発明の血圧測定装置の実施の形態を説明する。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態における血圧測定装置を説明するための概略ブロック図であり、図2は、図1に示す血圧測定装置の演算部を説明するためのブロック図であり、図3は、カフ圧と脈波振動(以下、オシレーションと称する)との関係を示す波形図である。また、図4は、連続する2拍の脈波を示す模式図であり、縦軸には圧力がとられており、横軸には時間がとられている。
【0014】
本実施の形態の血圧測定装置は、脈波がアーティファクトの影響を受けていないと判断される場合は、ある特定のカフ圧について1拍の脈波を用いて血圧値を算出するものである。なお、本明細書を通して最高血圧値、最低血圧値、および平均血圧値をすべて含めたものを血圧値と称する。
【0015】
図1に示すとおり、本実施の形態の血圧測定装置100は、カフ10と、加圧ポンプ20と、排気弁30と、圧力センサ40と、表示部50と、制御部60と、を有する。
【0016】
カフ10は、被検者の上腕などに巻回されて動脈を圧迫するものである。より具体的には、カフ10には例えばゴム製の袋が内蔵されており、空気が外部から送り込まれることにより袋が膨張して被検者の動脈を圧迫する。
【0017】
加圧ポンプ20は、カフ10に内蔵された袋に空気を送り込むものであり、排気弁30は、カフ10内に蓄えられた空気を外部に排気するものである。加圧ポンプ20および排気弁30は、カフ10内の空気圧が適切な圧力となるように制御部60によって制御される。
【0018】
圧力センサ40は、カフ圧を検出すると共に被検者の動脈からの脈波を検出して電気信号として出力するものである。より具体的には、圧力センサ40は、例えば半導体圧力センサを有し、カフ10内の空気圧を検出すると共に被検者の動脈の振動を検出し、圧力信号として出力する。
【0019】
表示部50は、測定された血圧値を表示するものである。より具体的には、表示部50は、例えば液晶表示パネルを備えており、測定された最高血圧値、最低血圧値、平均血圧値、脈拍数などを画面に表示する。
【0020】
制御部60は、加圧ポンプ20および排気弁30を制御するとともに圧力センサ40からの圧力信号に基づいて血圧値を算出して算出結果を表示部50に出力するものである。より具体的には、制御部60は、カフ圧検出部61と、脈波検出部62と、記憶部63と、カフ圧制御部64と、演算部65と、を有する。
【0021】
カフ圧検出部61は、圧力センサ40からの圧力信号に基づいてカフ圧信号を生成するものである。より具体的には、カフ圧検出部61は、例えば増幅回路およびA/Dコンバータを有しており、増幅回路に入力された圧力信号は、所定の電圧レベルまで増幅されたのち、A/Dコンバータでディジタル信号に変換されてカフ圧信号として記憶部63に出力される。
【0022】
脈波検出部62は、圧力センサ40からの圧力信号に基づいて脈波信号を生成するものであり、脈波検出手段として機能する。より具体的には、脈波検出部62は、例えば増幅回路、バンドパスフィルタ、およびA/Dコンバータを有しており、増幅回路に入力された圧力信号は、所定の電圧レベルまで増幅され、バンドパスフィルタで所望の周波数帯域成分が取り出されたのち、A/Dコンバータでディジタル信号に変換されて脈波信号として記憶部63に出力される。
【0023】
記憶部63は、各種の検出情報および算出結果を記憶するものであり、波形情報記憶手段として機能する。より具体的には、記憶部63は、例えばRAMを備えており、検出情報として、カフ圧検出部61で生成されたカフ圧信号のカフ圧Pと、脈波検出部62で生成された脈波信号の脈波情報を逐次記憶する。脈波信号の脈波情報としては、脈波の振幅値A、脈波が基準レベルから振幅値Aに達するまでに要する時間(以下、立ち上り時間Tと称する)、脈波間隔INTなどが含まれうる。また、記憶部63は、後述する基準脈波間隔INTrと、血圧値の算出に使用する振幅値Acnおよびカフ圧Pcnとを記憶する。さらに、記憶部63は、例えばROMを備えており、このROMには血圧測定手順を表わしたプログラム、血圧測定用の各種パラメータなどが記憶されている。
【0024】
カフ圧制御部64は、加圧ポンプ20および排気弁30を介してカフ10内の空気圧を制御するものである。より具体的には、血圧測定が開始されると、カフ圧制御部64は、演算部65の指示を受けて、カフ10が開始圧力Pに速やかに到達するように加圧ポンプ20に対して加圧することを指示する。開始圧力Pは、例えば、予想される最高血圧値よりも所定値だけ大きい値をとる。この結果、被検者の動脈は予想される最高血圧よりも所定圧力だけ高い圧力で圧迫される。続いて、カフ圧制御部64は、演算部65の指示を受けて、カフ圧を徐々に減圧するために排気弁30に対してカフ10内の空気を所定量ずつ排気することを指示する。この結果、図3に示すとおり、カフ圧は開始圧力Pまで急激に上昇したのち、階段状にΔPずつ徐々に下降する。そして、終了圧力Pに達すると、カフ圧制御部64は、演算部65の指示を受けて、排気弁30に対してカフ10の空気圧が速やかに大気圧に到達するように排気することを指示する。
【0025】
演算部65は、血圧値を算出して表示部50に出力するものである。より具体的には、演算部65は、CPUを備えており、記憶部63のROMに記憶されている、血圧測定手順を表わしたプログラムに従ってカフ圧制御部64に指示を与えるとともに、記憶部63に登録された脈波の振幅値Acnおよびカフ圧Pcnに基づいて、最高血圧値、最低血圧値、平均血圧値、および脈拍数を算出して表示部50に出力する。演算部65による具体的な血圧値の算出処理ステップについては後述する。
【0026】
本実施の形態では、最高血圧値、最低血圧値および平均血圧値は、図3に示すカフ圧とオシレーションとの関係において、次のように定義する。図3に示すとおり、血圧測定が開始されると、カフ圧は開始圧力Pまで急激に上昇したのち階段状にΔPずつ徐々に下降する一方で、脈波信号の振幅値Aはカフ圧の下降にともない上昇して最大値Amaxに達したのちに下降に転じる。本実施の形態では、脈波信号の振幅の最大値Amaxが得られたときのカフ圧を平均血圧P、最大値Amaxの1/2の振幅値が得られたときのカフ圧であって、平均血圧Pよりも高い方を最高血圧P、平均血圧Pよりも低い方を最低血圧Pとする。なお、本実施の形態では、図3に示すとおり、脈波の振幅値Aをベースから測った脈波信号のピークの高さと定義する。
【0027】
次に、血圧値を算出する過程において演算部65が担う機能について、図2〜図4を参照して説明する。図2に示すとおり、演算部65は、変化傾向算出部65aと、脈波間隔計測部65bと、脈波情報比較部65cと、判断部65d、算出部65eと、を有する。
【0028】
変化傾向算出部65aは、血圧値の算出に使用する脈波の振幅値の変化傾向を算出する変化傾向算出手段として機能する。より具体的には、変化傾向算出部65aは、記憶部63に登録された、血圧値の算出に使用する複数の脈波の振幅値Acnに基づいて振幅値の変化傾向を算出する。振幅値の変化傾向は、例えば、登録されている直近の複数の振幅値Acnを用いて、それらの振幅と接する包絡線Eの傾きとして算出される。包絡線Eの傾きをαとすれば、α>0のとき振幅値Acnの変化傾向αは増加傾向にあり、α<0のとき振幅値Acnの変化傾向αは減少傾向にある。
【0029】
脈波間隔計測部65bは、連続する2拍の脈波の脈波間隔を計測する脈波間隔計測手段として機能する。図4に示す脈波は、心臓の収縮に基づく血管内の圧力変化が血管へ伝わる波であり、容積脈波と圧脈波とがある。本実施の形態では、圧脈波を検出している。図4に示すとおり、連続する2拍の脈波の振幅値をそれぞれA,A、立ち上り時間をそれぞれT,T、両脈波間の間隔を脈波間隔INTと定義する。脈波間隔計測部65bは、ある特定のカフ圧Pにおいて、連続する2拍の脈波の間隔、すなわち検出された脈波と、当該脈波の直前の脈波との間隔を計測して計測結果を出力する。より具体的には、脈波間隔計測部65bは、例えば所定の周波数で動作するカウンタを備えており、記憶部63に入力された連続する2拍の脈波において、カウンタが1番目の脈波の立ち上りから2番目の脈波の立ち上りまでを計測し、計測結果を記憶部63に出力する。
【0030】
脈波情報比較部65cは、連続する2拍の脈波の波形情報を比較する波形情報比較手段として機能する。より具体的には、脈波情報比較部65cは、連続して検出された脈波の波形情報と当該脈波の直前の脈波の波形情報とを比較して比較結果を記憶部63に出力する。脈波の波形情報としては、上述のとおり、脈波の振幅値A、立ち上り時間Tなどが含まれる。脈波の振幅値に関する比較では、連続する2拍の脈波の振幅値AとAとの間の大小関係が出力される。大小関係には、振幅値AとAとの変化の傾向として増加傾向(正)か減少傾向(負)かも含まれる。また、連続する2拍の脈波の振幅値A,Aと立ち上り時間T,Tとから波形の形状が比較されて比較結果が出力される。比較結果としては、例えば、連続する2拍の脈波の振幅値の差ΔAと、立ち上り時間TとTとの差ΔTとが出力される。
【0031】
判断部65dは、検出された脈波を血圧値の算出に使用するか否かを判断する判断手段として機能する。より具体的には、判断部65dは、振幅値の変化傾向と、脈波間隔の計測結果と、脈波情報の比較結果とに基づいて、検出された脈波を血圧値の算出に使用するか否かを判断し、そのときの振幅値Acnとカフ圧Pcnを記憶部63に登録する。
【0032】
算出部65eは、登録された振幅値Acnおよびカフ圧Pcnに基づいて血圧値を算出して表示部50に出力する。より具体的には、算出部65eは、判断部65dの判断結果に基づいて記憶部63に登録された複数の振幅値Acnとそれらに対応するカフ圧Pcnとに基づいて、平均血圧P、最高血圧P、最低血圧Pを血圧値として算出して表示部50に出力する。
【0033】
以下、図5を参照して、本実施の形態における血圧測定方法を説明する。本実施の形態の血圧測定方法は、脈波がアーティファクトの影響を受けていないと判断される場合は、ある特定のカフ圧Pについて1拍の脈波を用いて血圧を算出するものである。
【0034】
図5は、本実施の形態における血圧測定方法のメイン処理を説明するフローチャートである。なお、以下では血圧測定開始後におけるカフの加圧から血圧測定終了時における血圧値の表示までの処理について説明する。
【0035】
図5に示すとおり、まず、カフ10を開始圧力Pまで加圧する(ステップS101)。より具体的には、カフ圧制御部64が加圧ポンプ20を制御してカフ10に空気を送り込むことにより、被検者の予想される最高血圧よりも所定圧力だけ高い開始圧力Pまでカフを加圧する。なお、予想される最高血圧値は、例えば前回に測定した際に得られた最高血圧値に基づいて設定されうる。
【0036】
次に、基準脈波間隔設定処理を実行する(ステップS102)。基準脈波間隔設定処理では、基準脈波間隔INTrを登録する。基準脈波間隔設定処理の具体的な作用については後述する。
【0037】
次に、血圧算出用脈波登録処理を実行する(ステップS103)。血圧算出用脈波登録処理では、検出した脈波を使用して血圧値の算出に使用する振幅値Acnおよびカフ圧Pcnを登録する。血圧算出用脈波登録処理の具体的な作用については後述する。
【0038】
次に、カフ圧を減圧させる(ステップS104)。より具体的には、カフ10の圧力を所定の微小な圧力ΔPだけ減少させる。微小な圧力ΔPは、例えば3〜10mmHg程度である。
【0039】
続いて、血圧値を算出可能か否か判断する(ステップS105)。より具体的には、血圧算出用脈波登録処理で登録された複数の脈波の振幅値Acnから算出される包絡線Eが、単調に増加したのち単調に減少しており、かつ最後に登録された脈波の振幅値が最大値Amaxの1/2を下回った場合、血圧値を算出可能と判断し、それ以外の場合、血圧値を算出可能ではないと判断する。血圧値を算出可能ではないと判断した場合(ステップS105:NO)、血圧算出用脈波登録処理(ステップS103)に戻る。
【0040】
一方、血圧値を算出可能と判断した場合(ステップS105:YES)、血圧値および脈拍数を算出する(ステップS106)。より具体的には、カフ圧制御部64が排気弁30を制御してカフ10内の空気を外部に排気することによりカフ圧を終了圧力Pから大気圧まで一気に減圧させるとともに、登録されている複数の脈波の振幅値Acnおよびカフ圧Pcnに基づいて演算部65の算出部65eが血圧値および脈拍数を算出する。本実施の形態では、脈波信号の最大値Amaxが得られたときのカフ圧を平均血圧P、最大値Amaxの1/2の振幅値が得られたときのカフ圧であって、平均血圧Pよりも高い方を最高血圧P、平均血圧Pよりも低い方を最低血圧Pとする。また、脈波間隔INTの平均値に基づいて脈拍数を計算する。
【0041】
次に、表示部50に血圧値および脈拍数を表示する(ステップS107)。その結果、操作者は、測定された最高血圧値、最低血圧値、平均血圧値、および脈拍数を表示部50の液晶表示パネルを通じて確認することができる。
【0042】
次に図6を参照して、基準脈波間隔設定処理について説明する。図6は、図5に示すメイン処理における基準脈波間隔設定処理を説明するためのフローチャートである。
【0043】
基準脈波間隔設定処理は、基準脈波間隔INTrを設定する処理である。基準脈波間隔INTrは、連続する2拍の脈波間隔INTのうちの最も多く出現する脈波間隔を基準として、以降で計測される脈波間隔INTと比較するために用いられる。例えば、概ね等しい3つの脈波間隔が出現した場合にこれらの脈波間隔に基づいて基準脈波間隔INTrが算出されて設定される。基準脈波間隔INTrの算出方法を以下に説明する。
【0044】
図6に示すとおり、まず、動脈の脈波を検出する(ステップS201)。より具体的には、圧力センサ40からの圧力信号に基づいて脈波信号およびカフ圧信号を生成する。
【0045】
次に、脈波間隔INTを計測する(ステップS202)。より具体的には、連続して検出される2拍の脈波間隔INTを計測する。
【0046】
次に、カフ圧、脈波情報等を記憶する(ステップS203)。より具体的には、ステップS201で生成されたカフ圧信号からカフ圧Pを抽出し、生成された脈波信号から脈波情報を抽出して記憶部63に記憶するとともに、ステップ202で得られた脈波間隔INTも記憶部63に記憶する。
【0047】
次に、現在のカフ圧Pで2拍以上か否かを判断する(ステップS204)。1拍目の脈波である場合(ステップS204:NO)、ステップS201に戻って脈波を検出する。
【0048】
一方、現在のカフ圧Pで2拍以上である場合(ステップS204:YES)、連続する2拍の脈波が概ね一致するか否かを判断する(ステップS205)。概ね一致する場合(ステップS205:YES)、これらの2拍の脈波の振幅値AおよびAの平均を血圧値の算出に使用する振幅値Acnとして使用すると判断して記憶部63に登録する(ステップS206)。より具体的には、連続する2拍の脈波の振幅値AとAとの誤差が振幅値Aに対して、例えば±25%の範囲内であり、立ち上り時間TとTとの誤差が立ち上り時間Tに対して、例えば±30%の範囲内であれば、連続する2拍の脈波の波形は一致していると判断する。一方、概ね等しい連続する2拍の脈波が検出されない場合(ステップS205:NO)、ステップS201に戻り脈波を検出する。
【0049】
次に、カフ圧を減圧する(ステップS207)。より具体的には、カフ圧を所定の微小な圧力ΔPだけ減圧させる。
【0050】
次に、概ね等しい脈波間隔が3つ以上出現したか否かを判断する(ステップS208)。概ね等しい脈波間隔が3つ以上出現した場合(ステップS208:YES)、これらの脈波間隔に基づいて基準脈波間隔INTrが算出されて設定される(ステップS209)。より具体的には、計測された脈波間隔INTが取りうる値の範囲において、脈波間隔INTを値に応じて複数の階級に逐次分類してそれぞれの階級について度数を算出する。そして、この度数が3以上になった階級の代表値をINTrとして記憶部63に設定する。なお、測定中に各階級における度数の大小関係が入れ替わった場合は、最も大きな度数の階級の代表値がINTrとして再設定される。また、脈波間隔INTの出現度数に対するしきい値は、3に限定されずに適宜変更されうる。一方、概ね等しい脈波間隔が3つ以上出現していない場合(ステップS208:NO)、ステップS201に戻り脈波を検出する。
【0051】
次に、図7を参照して、血圧算出用脈波登録処理について説明する。図7は、図5に示すメイン処理における血圧算出用脈波登録処理を説明するためのフローチャートである。
【0052】
本実施の形態の血圧算出用脈波登録処理では、カフ圧を開始圧力Pから終了圧力Pまで階段状に徐々に減少させる過程において、連続する2拍の脈波が整合性を有する場合、2拍の脈波のうちの後の脈波の振幅値Aを血圧値の算出に使用する脈波の振幅値Acnとして登録する一方で、連続する2拍の脈波が整合性を有しない場合、連続する2拍の脈波の振幅値AおよびAの平均を血圧値の算出に使用する脈波の振幅値Acnとして登録する。なお、以下の説明では説明の便宜上、血圧算出用脈波登録処理を1拍処理および2拍処理の場合に分けて説明する。
【0053】
図7に示すとおり、まず、動脈の脈波を検出する(ステップS301)。より具体的には、圧力センサ40からの圧力信号に基づいて脈波信号およびカフ圧信号を生成する。
【0054】
次に、脈波間隔INTを計測する(ステップS302)。より具体的には、連続して検出される2拍の脈波間隔INTを計測する。
【0055】
次に、カフ圧、脈波情報等を記憶する(ステップS303)。より具体的には、ステップS301で生成されたカフ圧信号からカフ圧Pを抽出し、生成された脈波信号から脈波情報を抽出して記憶部63に記憶するとともに、ステップS302で得られた脈波間隔INTも記憶部63に記憶する。
【0056】
次に、現在のカフ圧Pで2拍以上か否かを判断する(ステップS304)。2拍以上でない場合(ステップS304:NO)は1拍処理が実行され、2拍以上の場合(ステップS304:YES)は2拍処理が実行される。以下にまず1拍処理について説明し、その後に2拍処理について説明する。
【0057】
<1拍処理>
まず、1拍目の脈波である場合(ステップS304:NO)、振幅値の変化傾向を算出する(ステップS305)。より具体的には、登録された複数の脈波の振幅値Acnに基づいて包絡線Eの傾きαを算出する。
【0058】
次に、連続する2拍の脈波の振幅値の大小関係を算出する(ステップS306)。より具体的には、演算部65の波形情報比較部65cは、カフ圧を減少させる前の脈波とカフ圧を減少させた後の脈波である、連続する2拍の脈波の振幅値A,Aの大小関係の比較結果としてΔA=(A−A)を算出する。
【0059】
次に、振幅値の大小関係と振幅値の変化傾向の整合性を判断する(ステップS307)。より具体的には、α>0かつA<Aまたはα<0かつA>A、もしくはα≒0かつA≒Aを満たす場合、すなわち、αとΔAとの積α・ΔA≧0である場合、振幅値の変化傾向αと連続する2拍の脈波の振幅値AとAとの間の大小関係との間に整合性があると判断する(ステップS307:YES)。一方、上記の関係を満たさないとき、整合性がないと判断する(ステップS307:NO)。整合性がないと判断された場合は、脈波の検出(ステップS301)に戻る。
【0060】
次に、脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとが概ね一致するか否かを判断する(ステップS308)。より具体的には、脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとの誤差が、基準脈波間隔INTrに対して、例えば±30%の範囲内であれば、両者は概ね一致していると判断する。脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとが一致していない場合(ステップS308:NO)、脈波の検出(ステップS301)に戻る。
【0061】
一方、脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとが概ね一致している場合(ステップS308:YES)、連続して検出される2拍の脈波の波形情報を比較する(ステップS309)。より具体的には、連続する2拍の脈波の振幅値AとAとの誤差が振幅値Aに対して、例えば±25%の範囲内であり、立ち上り時間TとTとの誤差が立ち上り時間Tに対して、例えば±30%の範囲内であれば、連続する2拍の脈波の波形は概ね一致していると判断する。連続する2拍の脈波の波形が一致していない場合(ステップS309:NO)、脈波の検出(ステップS301)に戻る。
【0062】
一方、連続する2拍の脈波の波形が概ね一致している場合(ステップS309:YES)、連続する2拍の脈波のうちの後の脈波を血圧値の算出用に登録する(ステップS310)。より具体的には、連続する2拍の脈波のうち現在のカフ圧Pにおける脈波である、後の脈波の振幅値Aとそのときのカフ圧Pを記憶部63に血圧値の算出用として登録し、血圧算出用脈波登録処理からメイン処理に戻る。
【0063】
以上のとおり、1拍処理では、演算部65の判断部65dは、互いに異なるカフ圧において連続して検出される2拍の脈波について、振幅値AおよびAの大小関係が変化傾向算出部65aによって算出された変化傾向αに整合しており、かつ、脈波間隔INTが所定の範囲内にあり、なおかつ、波形情報が概ね一致している場合、連続して検出される2拍の脈波のうちの後に検出される振幅値Aを血圧値の算出に使用するように判断して記憶部63に登録する。それ以外の場合には、連続して検出される2拍の脈波のうちの後に検出される振幅値をそのままでは血圧値の算出に使用しないと判断して、次に説明する2拍処理に移行する。
【0064】
<2拍処理>
次に、血圧算出用脈波登録処理を2拍で行う場合について説明する。上述のステップS304において、現在のカフ圧Pで2拍以上であると判断された場合(ステップS304:YES)、脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとが概ね一致するか否かを判断する(ステップS311)。より具体的には、脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとの誤差が、基準脈波間隔INTrに対して、例えば±30%の範囲内であれば、両者は概ね一致していると判断する。脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとが一致していない場合(ステップS311:NO)、脈波の検出(ステップS301)に戻る。
【0065】
一方、脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとが概ね一致している場合(ステップS311:YES)、連続して検出される2拍の脈波の波形情報を比較する(ステップS312)。より具体的には、連続する2拍の脈波の振幅値AとAとの誤差が振幅値Aに対して、例えば±25%の範囲内であり、立ち上り時間TとTとの誤差が立ち上り時間Tに対して、例えば±30%の範囲内であれば、連続する2拍の脈波の波形は概ね一致していると判断する。連続する2拍の脈波の波形が一致していない場合(ステップS312:NO)、脈波の検出(ステップS301)に戻る。
【0066】
一方、連続する2拍の脈波の波形が概ね一致している場合(ステップS312:YES)、連続する2拍の脈波の平均を血圧値の算出用として登録する(ステップS313)。より具体的には、演算部65の判断部65dは、連続して検出される2拍の脈波の振幅値AおよびAの平均値とカフ圧Pとを血圧値の算出用として記憶部63に登録し、血圧算出用脈波登録処理からメイン処理に戻る。
【0067】
以上のとおり、2拍処理では、脈波間隔INTが所定の範囲内にあり、なおかつ、波形情報が概ね一致している場合、連続して検出される2拍の脈波の振幅値AおよびAの平均を血圧値の算出に使用すると判断する。また、脈波間隔INTと基準脈波間隔INTrとが一致していない場合、または連続する2拍の脈波の波形が一致していない場合は、現在のカフ圧Pを維持したまま脈波の検出を継続する。
【0068】
(実施例)
次に、図8を参照して、本実施の形態の血圧測定装置による血圧測定の一実施例を説明する。図8は、図1に示す血圧測定装置による血圧測定および従来の血圧測定におけるカフ圧の変化を示す図である。波形M1は、本実施の形態の血圧測定によるカフ圧の変化を示し、波形M0は、比較例としての従来の血圧測定によるカフ圧の変化を示す。
【0069】
図8に示すとおり、従来の血圧測定では、血圧算出用脈波登録処理の際につねに2拍の脈波を用いて検出している。一方、本実施の形態の血圧測定では、1〜3の番号で示される最初の3つの検出処理(基準脈波間隔設定処理)と、Rで示される最後の1つの検出処理を除いて1拍で検出している。1〜3の番号で示される検出処理は、初期化処理において基準脈波間隔INTrを設定する処理に対応しており、Rで示される検出処理は、検出された脈波にアーティファクトの影響があると判断されて、1拍処理から2拍処理に移行したことを示す。本実施の形態の血圧測定は、従来の血圧測定と比較してTdだけ早く測定を完了することができる。
【0070】
以上のとおり、説明した本実施の形態は以下の効果を奏する。
【0071】
(a)本実施の形態の血圧測定装置および血圧測定方法によれば、脈波がアーティファクトの影響を受けていないと判断される場合は、ある特定のカフ圧について1拍の脈波を用いて血圧値を算出するので、血圧測定に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0072】
(b)本実施の形態の血圧測定装置および血圧測定方法によれば、脈波がアーティファクトの影響を受けていないことの判断条件として、最新の連続する2拍の脈波において、それらの振幅値の大小関係と血圧値の算出用として登録されている最新の振幅値の変化傾向との間に整合性があり、それらの間隔が所定の範囲内にあり、かつ、それらの波形情報が概ね一致していることとしたため、脈波の誤検出を大幅に低減することができる。
【0073】
(c)本実施の形態の血圧測定装置および血圧測定方法によれば、通常は1拍の脈波を用いて血圧値を算出することで血圧測定に要する時間を短縮しつつ、脈波がアーティファクトの影響を受けていると判断される場合であっても、2拍の脈波の平均値を用いて血圧値を算出するので、血圧値を確実に算出することができる。
【0074】
以上のとおり、実施の形態において、本発明の血圧測定装置および血圧測定方法を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0075】
例えば、上述した実施の形態では、連続する2拍の脈波が所定の条件を満たすまで血圧値の算出に使用する振幅値は得られない。しかしながら、血圧測定における安全性および利便性を考慮して、血圧測定装置は測定状況に応じて測定処理を中断または終了させる機構を備えうる。
【0076】
また、本実施の形態では、便宜的に基準脈波間隔設定処理と血圧算出用脈波登録処理とが独立したフローチャートで説明されている。しかしながら、基準脈波間隔設定処理を血圧算出用脈波登録処理に組み込むことも可能である。
【0077】
また、上述した実施の形態では、演算部がCPUを備えており、記憶部のROMに記憶されている、血圧測定手順を表すプログラムに従って演算部を制御して血圧測定処理を実行する。しかしながら、本発明の血圧測定装置は上述したものに限定されず、演算部をハードウェアで制御して血圧測定処理を実行してもよい。
【0078】
また、上述した本実施の形態では、脈波信号の振幅の最大値Amaxが得られたときのカフ圧を平均血圧P、最大値Amaxの1/2の振幅値が得られたときのカフ圧であって、平均血圧Pよりも高い方を最高血圧P、平均血圧よりも低い方を最低血圧Pとして血圧値を算出する。しかしながら、最高血圧Pおよび最低血圧Pは他の定義に基づいて算出されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 カフ、
20 加圧ポンプ、
30 排気弁、
40 圧力センサ、
50 表示部、
60 制御部、
61 カフ圧検出部、
62 脈波検出部(脈波検出手段)、
63 記憶部(波形情報記憶手段)、
64 カフ圧制御部、
65 演算部、
65a 変化傾向算出部(変化傾向算出手段)、
65b 脈波間隔計測部(脈波間隔計測手段)、
65c 波形情報比較部(波形情報比較手段)、
65d 判断部(判断手段)、
65e 算出部、
100 血圧測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈を圧迫するカフ圧を徐々に変更する過程で血圧を測定する血圧測定装置であって、
前記動脈の脈波を検出する脈波検出手段と、
連続して検出される2拍の脈波間隔を計測する脈波間隔計測手段と、
検出された前記脈波の波形情報およびその時の前記カフ圧と前記脈波間隔とを記憶する波形情報記憶手段と、
前記脈波の振幅値の変化傾向を算出する変化傾向算出手段と、
前記連続して検出される2拍の脈波の波形情報を比較する波形情報比較手段と、
互いに異なるカフ圧において前記連続して検出される2拍の脈波について、所定の条件、すなわち、振幅値の大小関係が前記変化傾向算出手段によって算出された前記変化傾向に整合しており、かつ、前記脈波間隔が所定の範囲内にあり、なおかつ、前記波形情報が概ね一致している場合、前記連続して検出される2拍の脈波のうちの後に検出される振幅値を血圧値の算出に使用するように判断する判断手段と、
を有することを特徴とする血圧測定装置。
【請求項2】
前記判断手段は、
互いに異なるカフ圧において前記連続して検出される2拍の脈波について、前記所定の条件に合致しない場合、同一のカフ圧において連続して検出される2拍の脈波について、前記脈波間隔が所定の範囲内にあり、かつ、前記波形情報が概ね一致している場合、前記同一のカフ圧において連続して検出される2拍の脈波の振幅値の平均を血圧値の算出に使用すると判断することを特徴とする請求項1に記載の血圧測定装置。
【請求項3】
前記変化傾向算出手段は、前記血圧値の算出に使用する最新の振幅値と接する包絡線の傾きとして前記振幅値の変化傾向を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の血圧測定装置。
【請求項4】
動脈を圧迫するカフ圧を徐々に変更する過程で脈波を連続して検出し、その検出された脈波に基づいて血圧を測定する血圧測定方法であって、
互いに異なるカフ圧において連続して検出される2拍の脈波について、所定の条件、すなわち、それらの振幅値の大小関係が前記脈波の振幅値の変化傾向に整合しており、かつ、それらの脈波間隔が所定の範囲内にあり、なおかつ、それらの波形情報が概ね一致している場合、前記連続して検出される2拍の脈波のうちの後に検出される振幅値を血圧値算出の振幅値の一つとして使用するようにしたことを特徴とする血圧測定方法。
【請求項5】
互いに異なるカフ圧において前記連続して検出される2拍の脈波について、前記所定の条件に合致しない場合、同一のカフ圧において連続して検出される2拍の脈波について、それらの脈波間隔が所定の範囲内にあり、かつ、それらの波形情報が概ね一致している場合、前記同一のカフ圧において連続して検出される2拍の脈波の振幅値の平均を血圧値算出の振幅値の一つとして使用するようにしたことを特徴とする請求項4に記載の血圧測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−240068(P2011−240068A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116978(P2010−116978)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】