説明

血流速促進弾性ストッキング

【課題】地厚な生地になりがちな弾性ストッキングに吸放湿性を付与する事によってムレ感を軽減し、快適な着用感を実現できる弾性ストッキングとする。
【解決手段】ポリアミド繊維と弾性繊維から成るストッキングにおいて、少なくともレッグ部に吸湿差率ΔMRが2.5%以上である生地が使用されていることを特徴とする血流速促進弾性ストッキング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、血栓発生抑制や静脈瘤予防などの医療目的のみならず、下肢部のむくみ抑制などを目的として健常者をも対象とした血流速促進弾性ストッキングに関するものである。
なお、本発明でいうストッキングとは、パンティストッキング、股下丈までのロングストッキング、膝下丈のショートストッキングで代表されるストッキングやタイツ製品類を指す。
【背景技術】
【0002】
従来より、下肢部静脈で発生した血栓が血流に乗って肺に運び込まれ、肺動脈を詰まらせて体内の酸素供給能力を低下させる病態として肺塞栓症が知られており、重度の場合には死に至ることもある。
血栓は血流速の滞りや逆流が生じた静脈内で発生することが知られているが、肺塞栓症の発症要因の一つとして、手術患者に対する全身麻酔によるものが挙げられる。麻酔が人体に作用すると血管の拡張が誘発され、その結果、下肢部の静脈血流速が低下して血栓が発生するといったものである。
【0003】
また、健常者についても、乗り物やデスクワークなどで長時間座った状態が続くと下肢部の血行が悪化してむくみが生じることがある。さらに悪化すると血栓が誘発され、この血栓が肺に流れ込んで、いわゆる「エコノミークラス症候群」で知られる急性肺塞栓症を引き起こすことがある。
【0004】
こうした症状に対しては、下肢部静脈の血流速を促進させることが必要であり、従来より弾性ストッキングが有効な手段として知られ、医療機関を中心に広く利用されている。また、健常者向けにはむくみ予防を目的とした非医療用弾性ストッキングが市販されている。
【0005】
弾性ストッキングの一般的な設計概念は、足首に最も大きな着圧を付与し、さらに上肢に向かうにつれて着圧を低下させる着圧勾配を付与させることで、静脈血にポンプ作用を働かせるというものであるが、対象とする病症や着用目的によって着圧の大きさや着圧勾配の設定は様々であり、医療用途、非医療用途を問わず様々な弾性ストッキングが提案されている。
【0006】
例えば、特開平2−19501号、特開平11−47186号、特開平13−140104号には脚の各部位毎に段階的に着圧を変化させ、血流速を促進させるストッキングが提案されている。
【0007】
しかし、こうした弾性ストッキングは大きな着圧を付与するために伸縮力の強い繊維を用いることが多く、必然的に地厚感の大きい生地となり、かつ編目の混んだ生地になってしまう。その結果、熱を生地内部にため込み易く、また通気性も悪く、ムレ感を感じ易くなるといった欠点を有している。こうしたストッキングの生地の吸放湿率差ΔMRは通常、高々2.0%程度と小さいものであった。
【特許文献1】特開平2−19501号公報
【特許文献2】特開平11−47186号公報
【特許文献3】特開平13−140104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解決することで、ストッキング着用時のムレ感を軽減し、快適な着用感を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の血流速促進弾性ストッキングは以下の構成を有する。
(1)主にポリアミド繊維と弾性繊維から成るストッキングにおいて、少なくともレッグ部に吸放湿率差ΔMRが2.5%以上である生地が使用されていることを特徴とする血流速促進弾性ストッキング。
(2)ストッキングを構成する少なくとも一部のポリアミド繊維がポリビニルピロリドンを3%重量%〜20重量%含有していることを特徴とする上記1に記載の血流速促進弾性ストッキング。
(3)少なくとも一部に吸放湿性を有する弾性繊維が使用されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の血流速促進弾性ストッキング。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血流速促進弾性ストッキングは、吸放湿性が付与された編地を用いることでムレ感が改善され、快適な着用感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の血流速促進弾性ストッキングについて説明する。
【0012】
本発明の血流速促進弾性ストッキングはその少なくとも一部の生地において、吸湿率差ΔMR(以下ΔMRとのみ記載)が2.5%以上であることが必要であり、3.0重量%以上であればさらに快適感が実感できて好ましい。ΔMRが2.5%より小さければ、充分な吸放湿性が得られず、着用時のムレ感が解消されず快適性に劣るものとなる。
【0013】
本発明の弾性ストッキングは、ポリウレタンに代表される芯糸にポリアミド繊維を一重または二重に被覆させた被覆弾性糸やポリアミド長繊維に代表される非弾性糸から構成されている。
【0014】
一般的に、ストッキングはレッグ部の糸使いによって、ゾッキタイプと交編タイプに分類でき、全ての糸が同一被覆弾性糸のみ、あるいは全ての糸が同一非弾性糸で編成されるものがゾッキタイプで、被覆弾性糸とポリアミド長繊維が交互に編成されるものが交編タイプである。本発明のストッキングはいずれのタイプであってもよく、これらに限定されず、ポリアミド長繊維で編成されたグランド編地に被覆弾性糸を挿入したレイインタイプであってもよい。
【0015】
一般的な弾性ストッキングの構成は、図1に示すパンティストッキングであればウエストバンド部、パンティ部、レッグ部、かかと部、つま先部から成り、図2に示すロングストッキングやショートストッキングであれば口ゴム部、レッグ部、かかと部、つま先部から成るものである。また、鬱血を確認するためのモニターホールの役割を付与させるためにつま先部を有さないオープントゥタイプとしたものであってもよい。
【0016】
本発明の血流速促進弾性ストッキングは、脚の各部位毎に着圧を変化させ、着圧勾配を設けることによって下肢静脈にポンプ作用を与えるもので、基本的な設計は、足首に最も大きな着圧を与え、上部に向かうにつれて着圧を徐々に低下させていくというものである。着圧の大きさや勾配に関しては様々な理論が提唱されており、代表的なものでは足首部で18mmHg、ふくらはぎ部で14mmHg、大腿部で10mmHgとするSigel理論があるが、本発明の血流速促進弾性ストッキングの着圧設計に関しては、着圧値や着圧勾配について特に限定されるものではない。
【0017】
実感できる吸放湿性を付与するためには、ストッキングに占める構成比率が最も大きいレッグ部に吸放湿性を有する生地を用いることが好ましい。さらに、かかと部やつま先部といった比較的構成比率の小さい部位にも吸放湿性を有する生地を用いれば、より好ましい。なお、パンティストッキングタイプであればパンティ部にも吸放湿性を有する生地を用いれば着用快適感が増して効果的である。
【0018】
生地に吸放湿性を付与させる手段としては、ポリマーに吸放湿成分を添加させるなどして繊維自体に吸放湿性を付与する方式や、編地を編成し染色加工を施した後に吸放湿成分を含ませた樹脂をコーティングする方法が一般的に実施されているが、吸放湿性能の耐久性や生地風合いの観点から、繊維自体のポリマーに吸放湿成分を添加させる方式が好ましい。
【0019】
吸放湿性成分を含有させる繊維としては、ゾッキタイプ、交編タイプに関わらず、生地に対して大部分の重量比率を占めるポリアミド長繊維を採用することが好ましい。吸放湿性ポリアミド長繊維の占める重量比率が大きいほどΔMRは大きくなるが、所望の吸放湿性を付与するためには吸放湿性を有するポリアミド繊維の重量比率が生地重量に対して30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であればさらに好ましい。
【0020】
また、ポリアミド長繊維自体に吸放湿性を付与させる手段としては、所望の吸放湿性が付与できればいかなる方法でもよく、例えば、吸放湿性を示すアクリル系金属変性粒子などの無機粒子をポリマーに混ぜ込む方式や、ポリアミドポリマーに吸放湿性を示す成分を分子レベルで結合させたポリマーアロイ方式などが代表的な手法であるが、優れた吸湿性、充分な強度や白度を付与するといった観点から後者が望ましく、具体的な吸放湿成分としてはポリエーテルエステル、ポリエーテルアミド、ポリエーテルイミドアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、吸放湿性能や製糸安定性の観点からポリビニルピロリドン(以下、PVPと記載する)をポリアミドに添加し、溶融紡糸して得られるポリマーアロイ型のポリアミドが好ましい。複合されるポリビニルピロリドンの量は、充分な吸放湿性を付与するといった観点から、3重量%以上であることが好ましく、複合量が多くなるほど、吸放湿性能は増加するが、逆に多くなりすぎると、紡糸性悪化や繊維強度の低下などの問題が発生するため、複合比率は20重量%以下でなければならない。
【0021】
さらに弾性繊維にも吸放湿性を有するものを用いれば、ストッキング全体としての吸放湿性も増加して好ましい。
【0022】
ここで、被覆弾性糸の芯糸をなす弾性繊維としては、ポリウレタン系弾性繊維、ポリアミド系エラストマ弾性繊維、ポリエステル系エラストマ弾性繊維などが用いられるが、ストッキング用には弾性特性や熱特性の観点から、ポリウレタン系弾性繊維を用いることが好ましい。
【0023】
本発明でいうポリアミド繊維とは主にナイロン6、ナイロン66を指すが、ナイロン610、ナイロン46や、これらのポリマーを互いに複合させたものであってもよい。また、該ポリアミドには必要に応じて、艶消し剤、顔料、耐電防止剤などが配合されていてもよく、さらに繊度、単糸数、断面形状についてはなんら制約はなく、例えば、断面形状であれば、一般的な丸断面以外にも、三葉断面や中空断面などの変形断面であってもよい。
【0024】
本発明でいうストッキングとは、パンティストッキング、股下丈までのロングストッキング、膝下丈のショートストッキングで代表されるストッキングやタイツ製品類を指す。
【0025】
また、後加工によってストッキングに防臭機能や抗菌機能を付与させてもよい。
【実施例】
【0026】
以下実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0027】
なお実施例中のΔMR(%)は次の方法で求めた。ただし、本発明がこれら実施例により限定されるものではない。
[繊維のΔMR(%)]
ストッキングレッグ部の生地を約1cm×1cm四方カットし、絶乾時で24時間放置後の重量(W1)、20℃×65%RH雰囲気下で24時間放置後の重量(W2)、30℃×90%RH雰囲気下で24時間放置後の重量(W3)をそれぞれ測定し、次式により各雰囲気下での吸湿率を求める。
【0028】
MR1=((W2−W1)/W1)×100
MR2=((W3−W1)/W1)×100
吸放湿率差ΔMRは次式により求められる。
ΔMR=MR2−MR1
ここで、吸湿率(%)=((吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量)×100とする。
[ムレ感]
被験者5名(A〜E)がストッキングを連続して8時間着用したときの官能評価で評価した。結果は、◎:極めて快適、○:快適、△:やや不快、×:不快、の4段階で評価した。
【0029】
[実施例1]
PVPを7重量%含有した78dtex、48フィラメントの吸放湿性ナイロン6ウーリー糸を2本引き揃えた糸をストッキングのグランド糸とし、395dtexのポリウレタン繊維にPVPを7重量%含有した33dtex、26フィラメントの吸放湿性ナイロン6ウーリー糸を二重に巻き付けたダブルカバリング糸(ヨリ数:1200T/m、カバリングドラフト:4.0、以下、DCYと記載する)をレイインしてなるストッキングを4口編み機にて編成し、オープントゥタイプのロングストッキングを編成した。なお、かかと部にはDCYのレイインは実施せず、グランド糸のウーリーナイロンだけで構成されている。
【0030】
このストッキングを90℃の染色温度で30分間染色し、乾燥後、110℃の乾熱で10秒間セットし製品化した。
【0031】
得られたストッキングのレッグ部のΔMRを測定したところ、3.8%であり、ムレ感の官能評価は表1のとおりでムレ感は感じられないものであった。
[実施例2]
DCYの巻き糸に用いている33dtex、26フィラメントのポリアミド長繊維にPVPを全く用いない糸を用いた以外は実施例1と同じの繊維構成および編み設計でロングストッキングを編成し、実施例1と同じ染色加工を施して製品化した。
【0032】
得られたストッキングのレッグ部のΔMRを測定したところ、3.5%であり、ムレ感の官能評価は表1のとおりで良好なものであった。
【0033】
[比較例1]
実施例1で用いたものと同じ繊維構成であるが、いずれのポリアミド長繊維にもPVPを全く添加しないナイロン6長繊維を用いて、実施例1と同じ編み設計、染色工程を経てロングストッキングを製品化した。
【0034】
得られたストッキングのレッグ部のΔMRを測定したところ、1.8%であり、ムレ感の官能評価は表1のとおりで快適性に劣るものであった。
【0035】
[比較例2]
グランド糸の78dtex、48フィラメントのナイロン6長繊維にはPVPを全く添加しないものを用いた以外は、実施例1と同じ繊維構成および編み設計でロングストッキングを編成し、実施例1と同じ染色加工を施して製品化した。
得られたストッキングのレッグ部のΔMRを測定したところ、2.0%であり、ムレ感の官能評価は表1のとおりで快適性に劣るものであった。
【0036】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかるストッキングの模式図である。
【図2】本発明にかかるロングストッキングの側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1:レッグ部
2:かかと部
3:つま先部
4:ウエストバンド部
5:パンティ部
6:口ゴム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にポリアミド繊維と弾性繊維から成るストッキングにおいて、少なくともレッグ部に吸湿率差ΔMRが2.5%以上である生地が使用されていることを特徴とする血流速促進弾性ストッキング。
【請求項2】
少なくとも一部のポリアミド繊維がポリビニルピロリドンを3重量%以上、20重量%以下含有していることを特徴とする請求項1に記載の血流速促進弾性ストッキング。
【請求項3】
少なくとも一部に吸放湿性を有する弾性繊維が使用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の血流速促進弾性ストッキング。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−75236(P2007−75236A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264768(P2005−264768)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】