説明

血液分離器具

【課題】血液検査のコスト低減化や血液の保存性及び検査精度の向上を図ると共に、採血作業及び血液検査作業の簡素化を図る。
【解決手段】本発明に係る血液分離器具10は、下端側から毛細管現象を利用して内部に血液を吸引し採取する筒状の採血手段11と、採血手段11の上端側を加圧して内部の血液を下端側から押し出す加圧手段12と、加圧手段12により押し出された血液を希釈液14内に収容する収容手段15とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分離器具に関し、特に、採取した血液をその場で、血球及び細胞成分と血漿又は血清に分離する血液分離器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、採血には、医師等一定の有資格者が注射器を用いて静脈から血液を採取する一般採血と、検査対象者本人が自分の手の指等に採血針を刺して血液を採取する自己採血とがある。
【0003】
一般採血により採取した血液は、採取容器に密閉された状態で検査場所に搬送され、そこで遠心分離器により、血球及び細胞成分と血漿又は血清に分離された後、検査が行われる。また、自己採血により採取された血液は、濾紙に含浸され乾燥された状態で検査場所に搬送され、その検査場所にて濾紙を溶剤に溶解させ、分析が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−322829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の一般採血の場合、採取した血液を遠心分離した後、上澄みの血球及び細胞成分をスポイトで吸い取り、血漿分析機用の特殊容器に移さなければならないので、血液を血球及び細胞成分と血漿又は血清に分離するのに手間が掛かりコスト高になり、また、特殊容器に移す際に、取り違う等の事故が起きる虞れがあった。
【0006】
また、血液中の血球は時間の経過と共に溶血し、血液の常温放置での精度保証期間はせいぜい1日程度であるので、それ以後に検査を行った場合にはナトリウム、カリウム、クロム等の電解質物質の測定数値に悪影響を及ぼしたり、GOT、GPT等の酵素系の数値の測定ができなくなったりし、診療、診断等の指針となるような検査数値が期待できなくなるといった問題が生じていた。
【0007】
また、遠心分離器により血液を分離させ、所定項目の検査を行うためには、1回に5〜10mL程度の採血量が必要とされていた。したがって、検査対象者本人で採血することは困難であり、医師等一定の有資格者が採血することになるので、検査対象者が病院等に行くか、或いは有資格者が検査対象者の居所に出向いたりする必要があり、採血に手間が掛かっていた。
【0008】
一方、上記した従来の自己採血は、血液を濾紙に含浸させ乾燥させた後に溶剤に溶解させる工程を必要とするため、斯かる工程を経ても検査数値に影響を与えるおそれのない特定の検査項目に関してのみ有効であり、これらの検査項目以外での実施は不可能であった。
【0009】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、血液検査のコスト低減化や血液の保存性及び検査精度の向上を図ることができると共に、採血作業及び血液検査作業の簡素化を図ることのできる血液分離器具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明に係る血液分離器具は、下端側から毛細管現象を利用して内部に血液を吸引し採取する筒状の採血手段と、該採血手段の上端側を加圧して内部の血液を下端側から押し出す加圧手段と、該加圧手段により押し出された血液を希釈液内に収容する収容手段とを備えていることを特徴とする。
【0011】
そして、本発明に係る血液分離器具において、前記採血手段の下端と前記収容手段内の希釈液の表面との間には表面張力が発生する程度の僅かな隙間が形成されているのが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る血液分離器具は、下端部に前記採血手段を保持すると共に、上端部から挿入される前記加圧手段を保持する保持手段を備えているのが好ましい。
【0013】
さらに、本発明に係る血液分離器具において、前記採血手段は、突起部により分割された互いに連通する複数の細長空間を備え、該各細長空間を取り囲む周壁内面には凹凸部が形成されているのが好ましい。
【0014】
さらにまた、本発明に係る血液分離器具において、前記加圧手段は、押圧操作するためのプッシュボタン部と、該プッシュボタン部の下端部に突設された軸部とを備え、該軸部の下端に加圧面が形成されているのが好ましい。
【0015】
さらに、本発明に係る血液分離器具において、前記保持手段は、前記加圧手段の動きを拘束するロック手段を備え、該ロック手段は、前記加圧手段の軸部を両側から挟持することにより該軸部に係合可能な係合部と、該係合部と前記加圧手段の軸部との係合状態を解除させるための解除操作部とを備えているのが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る血液分離器具において、前記ロック手段の解除操作部は、前記保持手段の外面から突出し、前記収容手段は、前記保持手段が挿入可能な開口部を備え、該開口部に前記保持手段を挿入すると、該保持手段により前記解除操作部が内側に押圧され、前記係合部と前記加圧手段の軸部との係合状態が解除され、前記加圧手段の下方への動きを許容するのが好ましい。
【0017】
さらに、本発明に係る血液分離器具において、前記収容手段の開口部を取り囲む端部にキャップが着脱可能に形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、血液検査のコスト低減化や血液の保存性及び検査精度の向上を図ることができる。また、微量の採血量で済むため、採血作業及び血液検査作業の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る血液分離器具を一部破断して示す正面図である。
【図2】本発明に係る血液分離器具の採血部品を示す正面図である。
【図3】本発明に係る血液分離器具の採血部品を示す底面図である。
【図4】本発明に係る血液分離器具の採血部品を示す側面図である。
【図5】本発明に係る血液分離器具の採血部品の内面を示す拡大図である。
【図6】本発明に係る血液分離器具の加圧部品を示す正面図である。
【図7】本発明に係る血液分離器具の加圧部品を示す平面図である。
【図8】本発明に係る血液分離器具の保持部品を示す正面図である。
【図9】本発明に係る血液分離器具の保持部品を示す平面図である。
【図10】本発明に係る血液分離器具の保持部品を示す側面図である。
【図11】本発明に係る血液分離器具のロック部品を示す正面図である。
【図12】本発明に係る血液分離器具のロック部品を示す側面図である。
【図13】本発明に係る血液分離器具のロック部品を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
図1は本発明に係る血液分離器具10を一部破断して示す正面図であり、この血液分離器具10は、血液を採取する採血部品11と、採血部品11の上方に配設される加圧部品12と、採血部品11及び加圧部品12を保持する保持部品13と、内部に希釈液14を収容する収容部品15とを備えて構成されている。
【0022】
図2〜図4に示されているように、採血部品11は、筒状を成し、その外形は上端部16が円形を成し、下方に向かうに従って次第に扁平形状となるように形成されている。採血部品11の中空部17は所定の容積(例えば、約65μリットル)を有しており、互いに対向する複数対(図示では二対)の突起部18により複数(図示では3個)の細長空間19a,19b,19cに分割されている。各細長空間19a,19b,19cは互いに連通しており、図5に良く示されているように、各細長空間19a,19b,19cを取り囲む周壁内面には凹凸部20が形成されており、この凹凸部20により毛細管現象を促進することができる。また、採血部品11の下端部には段差部49が形成されている。
【0023】
また、採血部品11の下端と収容部品15内の希釈液14の表面との間には表面張力が発生する程度の僅かな隙間51(図1参照)が形成されており、この隙間51は2〜5mm程度であるのが好ましい。
【0024】
図6及び図7に示されているように、加圧部品12は、押圧操作するためのプッシュボタン部21と、プッシュボタン部21の下端部に突設された軸部22とを備えている。プッシュボタン部21は、平面形状が円形となるように複数の板状部材23を櫛歯状に接続することにより形成され、上端部は半球状に形成され、下端面24は平坦に形成されている。また、軸部22は、十字状の平断面を有し、下端には平坦な加圧面25が形成され、加圧面25の直上部分に溝部26が形成されている。
【0025】
図8〜図10に示されているように、保持部品13は、凹凸の外面を有する略円筒形状の上側部分27と、鍔部28を隔てて上側部分27の下方に形成される略円筒形状の中間部分29と、中間部分29の下方に連続して形成される円筒形状の下端部分30とを備えて構成されている。そして、保持部品13の上側部分27に加圧部品12のプッシュボタン部21を収容し、中間部分29に加圧部品の軸部22を保持させ、下端部分30に採血部品11の上端部16を保持させることにより、採血器具50が組み付けられるようになっている。
【0026】
鍔部28は、左右両側が側方に突出する外鍔部31と、内側に円形の通孔32を有する内鍔部33とにより構成されており、通孔32は、その内径が、プッシュボタン部21の下端面24の外径より小さく、軸部22の最大外径より大きくなるように形成されている。
【0027】
中間部分29は、通孔32の内径と略同一の内径を有し、中間部分29の周壁34の前後面にはそれぞれ矩形状の開口35が形成され、開口35の下方の周壁内面には中心角が90度を成すように4個の補強リブ36が突設されている。
【0028】
図11〜図13に示されているように、保持部品13の中間部分の開口35には、ロック部品37が挿着されている。このロック部品37は、各開口35を閉塞する周壁部38と、周壁部38の上端部の前後端部同士をそれぞれ連結する上端連結部39と、周壁部38の中央部同士を連結する中央連結部40と、周壁部38の各下端部から互いに近接する方向に延出して対峙する係合部41とにより構成されている。
【0029】
周壁部38の外面の上端部には解除操作部42がそれぞれ前後方向に突設されており、この解除操作部42の下部には傾斜面から成るガイド部43が形成されている。上端連結部39の中央には伸縮部44が形成され、伸縮部44は他の部分より細幅の部材を正面視でへの字状を成すように屈曲させることにより形成されている。また、中央連結部40の中央には円形の通孔45が形成されており、この通孔45は、内径が軸部22の最大外径より大きくなるように形成されている。さらに、対峙する係合部41の間には略楕円形状の空間46が形成されており、この空間46の短径は通孔45の内径より僅かに短く設定されている。これにより、採血器具50の組み付け時には、この係合部41が軸部22の溝部26を両側から挟持することにより軸部22に係合し、加圧部品12の動きが拘束されるようになっている。
【0030】
収容部品15は、上端部47に開口部48を備え、この開口部48の内径は保持部品13の中間部分29の外径に略等しく、上端部47に保持部品13の中間部分29が挿着可能となっている。また、上端部47の外面は螺刻され、この上端部47にキャップ(図示省略)が螺嵌可能となっている。
【0031】
次に、上記した構成を備えた血液分離器具10の使用方法について説明する。
【0032】
先ず、検査対象者は、自分の手の指等に採血針(図示省略)を突き刺し、出血させ、採血部品11の下端をその出血箇所に接触させる。そうすると、毛細管現象により、血液が中空部17内に、微量(例えば、約65μリットル)採取される。この時、採血部品11の下端部に段差部49が形成されていると共に、中空部17内が互いに連通する細長空間19a,19b,19cに分割され、しかも、各細長空間19a,19b,19cを取り囲む周壁内面に凹凸部20が形成されているため、中空部17内への血液の採取作業を容易且つ確実に行うことができる。
【0033】
次いで、図1に示すように、採血部品11に血液を採取した採血器具50を、上端部47の開口部48から収容部品15内に挿着すると、ロック部品37の解除操作部42が収容部品15の上端部47の内面に押圧され、伸縮部44が収縮して上端連結部39が中央連結部40を支点に内側方向に移動する。
【0034】
この上端連結部39の動きに伴い、係合部41は反対に中央連結部40を支点に互いに離間する方向(すなわち、外側方向)に移動し、係合部41と軸部22の溝部26との係合状態が解除される。そこで、この時、プッシュボタン部21を下方に押圧すると、加圧部品12は保持部品13内で押し下げられ、加圧面25が採血部品11の上方のエアーを加圧するため、中空部17内の血液は採血部品11の下端から希釈液14内に滴下される。また、この時、採血部品11の下端と収容部品15内の希釈液14の表面との間に僅かな隙間51が形成されているため、希釈液14の表面張力により、採血部品11から安定した量の血液を簡単に取り出すことができる。
【0035】
この場合、毛細管現象で血液を吸引可能な筒状の採血部品11を使用しているため、この希釈液14中では、容易に血液成分を分散させることが可能となり、血液は血球及び細胞成分と血漿又は血清に容易に分離される。また、解除操作部42の下部に傾斜面からなるガイド部43が形成されており、しかも上端連結部39の中央に伸縮部44が形成されているため、収容部品15に対する採血器具50の挿着、及び係合部41と軸部の溝部26との係合状態の解除を円滑且つ確実に行うことができる。
【0036】
その後、使用済みの採血器具50を収容部品15から引き抜き、血液を収容した収容部品15の上端部47に前記キャップを螺嵌して検査場所まで搬送し、所定項目の検査を行う。
【0037】
このように本発明の実施の形態に係る血液分離器具10によれば、採血後直ぐにその場で血液を血球及び細胞成分と血漿又は血清とに分離させ、希釈液に混入させた状態で検査場所に搬送しているので、搬送中の溶血、血液の凝固等を防止することができる。したがって、血液の保存性がよく、検査精度の向上を図ることができる。また、採取した血液を1週間程度は常温で保存可能であり、搬送を迅速に行ったり、採血場所と検査場所の地域性を考慮したりする等の配慮が不要となり、作業の自由度を向上させることが可能となる。さらに、血液の分離に遠心分離器を使用しないので採血量が数滴で済み、自己採血により、従来の一般採血と同程度の項目について検査することができる。
【0038】
なお、上記実施の形態では、本発明を自己採血で使用する場合について説明したが、一般採血においても使用可能であることは言う迄もない。
【符号の説明】
【0039】
10 血液分離器具
11 採血部品(採血手段)
12 加圧部品(加圧手段)
13 保持部品(保持手段)
14 希釈液
15 収容部品(収容手段)
19a,19b,19c 細長空間
20 凹凸部
21 プッシュボタン部
22 軸部
25 加圧面
37 ロック部品(ロック手段)
41 係合部
42 解除操作部
47 端部
48 開口部
51 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端側から毛細管現象を利用して内部に血液を吸引し採取する筒状の採血手段と、
該採血手段の上端側を加圧して内部の血液を下端側から押し出す加圧手段と、
該加圧手段により押し出された血液を希釈液内に収容する収容手段と、
を備えていることを特徴とする血液分離器具。
【請求項2】
前記採血手段の下端と前記収容手段内の希釈液の表面との間には表面張力が発生する程度の僅かな隙間が形成されている請求項1に記載の血液分離器具。
【請求項3】
下端部に前記採血手段を保持すると共に、上端部から挿入される前記加圧手段を保持する保持手段を備えている請求項1又は2に記載の血液分離器具。
【請求項4】
前記採血手段は、突起部により分割された互いに連通する複数の細長空間を備え、該各細長空間を取り囲む周壁内面には凹凸部が形成されている請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の血液分離器具。
【請求項5】
前記加圧手段は、押圧操作するためのプッシュボタン部と、該プッシュボタン部の下端部に突設された軸部とを備え、該軸部の下端に加圧面が形成されている請求項1〜4のいずれか1の請求項に記載の血液分離器具。
【請求項6】
前記保持手段は、前記加圧手段の動きを拘束するロック手段を備え、該ロック手段は、前記加圧手段の軸部を両側から挟持することにより該軸部に係合可能な係合部と、該係合部と前記加圧手段の軸部との係合状態を解除させるための解除操作部とを備えている請求項3〜5のいずれか1の請求項に記載の血液分離器具。
【請求項7】
前記ロック手段の解除操作部は、前記保持手段の外面から突出し、前記収容手段は、前記保持手段が挿入可能な開口部を備え、該開口部に前記保持手段を挿入すると、該保持手段により前記解除操作部が内側に押圧され、前記係合部と前記加圧手段の軸部との係合状態が解除され、前記加圧手段の下方への動きを許容する請求項6に記載の血液分離装置。
【請求項8】
前記収容手段の開口部を取り囲む端部にキャップが着脱可能に形成されている請求項7に記載の血液分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−122900(P2011−122900A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279965(P2009−279965)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(509324506)株式会社フィジカルスクリーニング (4)
【Fターム(参考)】