説明

血液回路

【課題】
陰圧検出のための段差をなくして残血を抑制するとともに、透析治療時等の作業性を維持することができる血液回路を提供する。
【解決手段】
血液浄化器7と、先端の穿刺針から採取された血液を血液浄化器7に流動させる動脈側血液回路L1と、当該血液浄化器7からの血液を先端の穿刺針に流動させ、患者の体内に戻すための静脈側血液回路L2と、動脈側血液回路L1に液体を導入する液体導入ラインL3とを有する血液回路において、液体導入ラインL3の一部が動脈側血液回路L1と並行して配設され、当該並行した部位における液体導入ラインL3と動脈側血液回路L1とを一体化するとともに、一体化した部位における動脈側血液回路L1を構成する部位が液体導入ラインL3を構成する部位よりも柔らかく形成し、当該動脈側血液回路内の陰圧で径方向に撓み得るようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血液を採取し、体外循環させる過程においてダイアライザ等の血液浄化器で浄化した後、浄化後の血液を再び患者に戻すための血液回路に関し、特に、生理食塩水等の液体を血液の流路内に導入する液体導入ラインを具備した血液回路に関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療時に用いられる一般的な血液回路は、図9に示すように、一端に動脈側穿刺針101が取り付けられる動脈側血液回路L1と、一端に静脈側穿刺針102が取り付けられる静脈側血液回路L2とから主に構成されており、これら動脈側血液回路L1及び静脈側血液回路L2の各他端に血液浄化器としてのダイアライザ104を接続し得るよう構成されている。
【0003】
動脈側血液回路L1には、しごき型の血液ポンプ103が配設されており、動脈側穿刺針101及び静脈側穿刺針102を共に患者に穿刺した状態で当該血液ポンプ103を駆動させることにより、動脈側穿刺針101から血液を採取するとともに、その血液を動脈側血液回路L1内で流動させてダイアライザ104まで導き、該ダイアライザ104による浄化後の血液を静脈側血液回路L2内で流動させ、静脈側穿刺針102を介して患者の体内に戻して透析治療が行われる。
【0004】
尚、動脈側血液回路L1及び静脈側血液回路L2のそれぞれには、動脈側ドリップチャンバ106及び静脈側ドリップチャンバ107が接続されているとともに、動脈側血液回路L1における血液ポンプ103よりも上流側には、陰圧を検出するための陰圧検出部材105が接続されている。かかる陰圧検出部材105は、図10に示すように、内部に所定容量の空間105aを有した可撓性中空状部材から成り、動脈側血液回路L1内を流れる血液が陰圧となると表面部と裏面部とが近接する方向に撓むよう構成されるとともに、例えば当該表面部と裏面部とに陰圧検出器の測定子を当接させておくことにより当該陰圧を検出することができる。
【0005】
更に、血液回路に生理食塩水を導入してプライミング、補液又は血液回収を行うべく、図9に示すように、生理食塩水が充填された容器Cから延びる生食ライン(流体導入ライン)L3が形成されている。該生食ラインL3は、従来、容器Cから動脈側血液回路L1に近接する方向に延びつつT字管108を介して当該動脈側血液回路L1と並行して配設され、先端がY字管109を介して動脈側穿刺針101近傍に接続されていた。
【0006】
これにより、生食ラインL3を介して容器C内の生理食塩水を動脈側血液回路L1における動脈側穿刺針101近傍まで導き、その生理食塩水を動脈側血液回路L1、ダイアライザ104及び静脈側血液回路L2における血液の流路内に流すことができ、当該生理食塩水によるプライミング、補液又は血液回収が行われる。勿論、通常の透析治療時には、図示しないクランプ装置等で生食ラインL3の流路は遮断されている。尚、かかる先行技術は、文献公知発明に係るものでないため、記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の血液回路においては、以下の如き問題があった。即ち、動脈側血液回路L1に接続された陰圧検出部材105は、血液が導入される空間105aを有するため、その隅部(図10における斜線を施した部分)に血液が滞留し易くなっており、生食ラインL3から生理食塩水を供給して血液回収を行っても当該隅部に血液が付着したままとなって残血を生じてしまう虞があった。
【0008】
本出願人は、上記不具合を解消すべく改良のための検討を行った結果、動脈側血液回路L1を構成する可撓性チューブの肉厚を薄くすることにより柔らかくし、内部を流れる血液が陰圧になると径方向に撓むようにすることを考えた。これにより、上記空間105aの隅部の如き血液の流路の段差をなくすことができ、血液の滞留を抑制することができるとともに、径方向への撓みを検出することにより陰圧を検出することができる。
【0009】
しかし、上記の如く動脈側血液回路L1を構成する可撓性チューブが柔らかいと、当然折れ曲がりやすくなってしまい、折れ曲がりにより流路が閉塞されてしまう虞があるといった新たな問題が生じることが予想される。従って、不用意に流路が閉塞してしまわないよう、血液回路の扱いを極めて慎重に行わざるを得なくなり、透析治療或いはプライミング等の作業性が悪化してしまう可能性があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、陰圧検出のための段差をなくして残血を抑制するとともに、透析治療時等の作業性を維持することができる血液回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明は、血液浄化器に接続され、先端の穿刺針から採取された血液を当該血液浄化器に流動させる動脈側血液回路と、血液浄化器に接続され、当該血液浄化器からの血液を先端の穿刺針に流動させ、患者の体内に戻すための静脈側血液回路と、前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路に液体を導入する液体導入ラインとを有する血液回路において、前記液体導入ラインの少なくとも一部が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と並行して配設され、当該並行した部位における前記液体導入ラインと動脈側血液回路又は静脈側血液回路とを一体化するとともに、一体化した部位における動脈側血液回路又は静脈側血液回路を構成する部位が前記液体導入ラインを構成する部位よりも柔らかく形成し、当該動脈側血液回路又は静脈側血液回路内の陰圧で径方向に撓み得るようにしたことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液回路において、前記液体導入ラインが、一部が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と並行して配設されるとともに、先端が前記穿刺針近傍まで延びて当該動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続され、生理食塩水を当該穿刺針近傍から導入し得る生食ラインから成ることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液回路において、前記一体化した部位は、軸方向に延びた2つの流通孔を有した1本の可撓性チューブから成り、これら流通孔を当該可撓性チューブの軸心からずれた位置に形成するとともに一方の流通孔を前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の一部とし、他方の流通孔を前記液体導入ラインの一部としたことを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の血液回路において、前記可撓性チューブにおける一方の流通孔は、断面形状が楕円とされたことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液回路において、前記一体化した部位が、軸方向に延びた流通孔が各々形成された2本の可撓性チューブを接合して成り、一方の流通孔を前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の一部とし、他方の流通孔を前記液体導入ラインの一部としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、液体導入ラインと動脈側血液回路又は静脈側血液回路とが並行に延びる部位を一体化するとともに、一体化した部位における動脈側血液回路又は静脈側血液回路を構成する部位が前記液体導入ラインを構成する部位よりも肉厚を薄くすることにより柔らかく形成し、当該動脈側血液回路又は静脈側血液回路内の陰圧で径方向に撓み得るようにしたので、陰圧検出のための段差をなくして残血を抑制するとともに、折れ曲がりにくくして透析治療時等の作業性を維持することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、液体導入ラインが生食ラインから構成されているため、従来より動脈側血液回路又は静脈側血液回路と並行して配設された生食ラインをそのまま補強用の部材として用いることができ、請求項1の発明の効果をより十分に発揮することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、一体化した部位が軸方向に延びた2つの流通孔を有した1本の可撓性チューブで構成されているので、動脈側血液回路又は静脈側血液回路と液体導入ラインとが並行した部位を一体成形することができ、製造コストを低減させることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、可撓性チューブにおける一方の流通孔が、断面形状を楕円とされているので、陰圧を検出する部位である薄肉部の面積を大きくすることができ、より陰圧を検出し易くすることができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、一体化した部位が軸方向に延びた流通孔を各々形成有した2本の可撓性チューブを接合して成るものから成るので、既存の可撓性チューブ(肉厚の選択は必要だが)を用いて請求項1の発明の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本発明の実施形態に係る血液回路は、透析治療時に患者の血液を体外循環させるための可撓性チューブから成るもので、図1に示すように、血液浄化器としてのダイアライザ7に接続された動脈側血液回路L1と、静脈側血液回路L2とから主に構成されている。尚、動脈側血液回路L1及び静脈側血液回路L2を構成するいずれのチューブも、軟質の塩ビから成る可撓性チューブとされている。
【0022】
動脈側血液回路L1は、一体型可撓性チューブ3、可撓性チューブa〜c、g、及び大径可撓性チューブ4aから成り、ダイアライザ7より上流側のラインで構成され、その先端がコネクタ1aを介して動脈側穿刺針1に接続されている。一体型可撓性チューブ3の両端は、第1接続管8及び第2接続管9を介して可撓性チューブa及びgと接続されており、可撓性チューブbとcとの間にはドリップチャンバ(動脈側ドリップチャンバ)5が接続されている。
【0023】
大径可撓性チューブ4aには、しごき型ポンプから成る血液ポンプ4が配設され、動脈側穿刺針1で採取した患者の血液をダイアライザ7側に送液し得るよう構成されている。また、第1接続管8には、生理食塩水が充填された容器Cから延びる液体導入ラインとしての生食ラインL3の一部を構成する可撓性チューブfが接続されており、当該生理食塩水を動脈側血液回路L1内に導入し得るよう構成されている。
【0024】
上記動脈側血液回路L1の下流端に位置する可撓性チューブcは、ダイアライザ7における血液導入ポート7aに接続されている。ダイアライザ7に導入された血液は、内部の中空糸膜内(血液流路)を通過して血液排出ポート7bから排出される一方、透析液導入ポート7cから導入された透析液が当該中空糸膜外(透析液流路)を通過して透析液排出ポート7dから排出されるよう構成されている。
【0025】
これにより、血液流路を通過する血液中の老廃物等を透析液側に透過させ、清浄化することができ、その清浄な血液を静脈側血液回路L2を介して患者の体内に戻すことができる。かかる静脈側血液回路L2は、可撓性チューブd、eから成り、ダイアライザ7より下流側のラインで構成され、その先端がコネクタ2aを介して静脈側穿刺針2に接続されている。可撓性チューブdとeとの間にはドリップチャンバ(静脈側ドリップチャンバ)6が接続されている。
【0026】
以上が本実施形態に適用される血液回路の全体構成であるが、ここで、動脈側血液回路L1における一体型可撓性チューブ3は、図2に示すように、軸方向に延びた2つの流通孔3a、3bを有した1本の可撓性チューブから成り、これら流通孔3a、3bを当該可撓性チューブの軸心Crからずれた位置に形成(即ち、流通孔3a、3bを各々偏心した孔としている)するとともに、一方の流通孔3aを動脈側血液回路L1の一部とし、他方の流通孔3bを生食ラインL3の一部としている。
【0027】
即ち、一方の流通孔3aは、可撓性チューブg及びaと接続されて動脈側穿刺針1からの患者の血液を流動させるとともに、他方の流通孔3bは、可撓性チューブfと接続されて容器Cから導かれた生理食塩水を流動させるよう構成されている。具体的には、第1接続管8は、図4で示すように、一体型可撓性チューブ3の端部を接続する接続孔8a、可撓性チューブaの端部を接続する接続孔8b、及び可撓性チューブfの端部を接続する接続孔8cを有している。
【0028】
このうち接続孔8aは、一方の流通孔3aから可撓性チューブaまで延びる流通路8abと、他方の流通孔3bから可撓性チューブfまで延びる流通路8afとに連通されており、一方の流通孔3a、流通路8abが動脈側血液回路L1の一部を構成するとともに、可撓性チューブf、流通路8af、及び他方の流通孔3bが生食ラインL3を構成している。
【0029】
また、第2接続管9は、図5に示すように、可撓性チューブgの端部を接続する接続孔9a、一体型可撓性チューブ3の端部を接続する接続孔9bを有しており、このうち接続孔9aは、一方の流通孔3aまで延びる流通路9aaに連通されるとともに、該流通路9aaの途中から他方の流通孔3bまで延びる流通路9abが形成されている。
【0030】
これにより、動脈側穿刺針1から採取された患者の血液は、可撓性チューブg、流通路9aa、及び一体型可撓性チューブ3の一方の流通孔3aへと流れ、他方の流通孔3bを流れた生理食塩水は、流通路9abを通って流通路9aaに至り、一体型可撓性チューブ3の他方の流通孔3aへと流れることとなる。従って、生理食塩水を動脈側血液回路L1に導入することができるのである。
【0031】
ここで、図2に示すように、一方の流通孔3aを構成する肉厚の一部t1が、他方の流通孔3bを構成する肉厚の一部t2よりも薄くなるよう設計されており、当該肉厚t1の部位が柔らかくなっている。これにより、流通孔3a内が陰圧となった場合、図3に示すように、径方向に撓んで陰圧が認識できるようになっている。
【0032】
即ち、流通孔3aは、動脈側血液回路L1の一部を成すとともに、陰圧を検出し得る陰圧検出機能も備えているのである。従って、従来の如き別途の陰圧検出部材を必要とせず、その分血液の流路における段差をなくすことができるため、透析治療時における血液の滞留を抑制でき、血液回収後の残血を防止することができる。尚、肉厚がt1の部位における硬さの範囲は、HDA55〜95が好ましい。
【0033】
更に、図2に示すように、一方の流通孔3aの断面形状が楕円とされており、陰圧を検出する部位である薄肉部(同図範囲Hの部分)の面積を大きくすることができ、より陰圧を検出し易くすることができる。尚、本実施形態においては、他方の流通孔3bも断面形状が楕円とされているが、これを断面円形や矩形としてもよい。
【0034】
上記構成の血液回路にて透析治療を行うには、可撓性チューブfの一部をクランプ装置等で挟持することにより、生理食塩水の流路を閉塞した状態にて行われ、例えば透析治療前のプライミング、透析治療時の補液、又は透析治療後の血液回収時においてのみ可撓性チューブfの流路を開放する。該可撓性チューブfの流路が開放されると、容器C内に充填された生理食塩水は、当該可撓性チューブf内を流れた後、第1接続管8の流通路8acを介して他方の流通孔3bに至る。
【0035】
そして、当該他方の流通孔3bを流れた生理食塩水は、第2接続管9の流通路9abから流通路9aaに至り、動脈側血液回路L1に導入されることとなる。動脈側血液回路L1に導入された生理食塩水は、例えばプライミング又は血液回収時には、ダイアライザ7を介して静脈側血液回路L2に至り、静脈側穿刺針2から排出される一方、補液時には、血液と一緒に患者の体内に供給される。
【0036】
本実施形態によれば、一体型可撓性チューブが動脈側血液回路L1の一部として血液を流動する機能と、陰圧時に撓んで当該陰圧を検出する機能(従来の陰圧検出部材が有していた機能)とを兼ね備えることができるとともに、全体が薄肉に形成したものに比べ、折れ曲がり難くなっており、折れ曲がって不用意に流路が閉塞してしまうのを回避できるので、透析治療時等の作業性を維持することができる。即ち、本実施形態によれば、動脈側血液回路L1の一部により陰圧検出できるので、残血が生じ易いとされた従来の如き別個の陰圧検出部材を廃止できるのである。しかして、別個の陰圧検出部材を廃止できることにより、血液回路の構成を簡素化することができる。
【0037】
また、一体型可撓性チューブ3が2つの流通孔3a、3bを有した1本の可撓性チューブ3で構成されているので、一体成形にて製造することができ、別々に製造したチューブのものに比べ、製造コストを低減させることができる。例えば、別々に製造したチューブを紐等で接合した場合は、紐等の配設部位が圧せられ、血液の流動を妨げる虞があり、別々に製造したチューブを接着剤等にて接着した場合は、当該接着工程が必要とされ、製造コストが嵩んでしまう虞があるのに対し、本実施形態によれば血液の流動性を維持しつつ製造コストを抑えることができる。尚、一体型可撓性チューブ3の端部が接続されるべき第1接続管8又は第2接続管9を他の形態のものとしてもよい。
【0038】
次に、本発明の他の実施形態に係る血液回路について説明する。
本実施形態に係る血液回路は、図6に示すように、動脈側血液回路L1及び静脈側血液回路L2から主に構成されており、これら回路L1及びL2の途中において、血液ポンプ4、ドリップチャンバ(動脈側ドリップチャンバ5及び静脈側ドリップチャンバ6)及びダイアライザ7等が接続されている。尚、先の実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0039】
本実施形態においては、コネクタ1aと接続された可撓性チューブgは、Y字管13と接続されており、該Y字管13から第1可撓性チューブ11及び第2可撓性チューブ12が並行して延設されている。このうち第1可撓性チューブ11は、図8に示すようなT字管10に接続されており、容器Cから延設された可撓性チューブfと接続されている。
【0040】
かかるT字管10は、同図に示すように、可撓性チューブ11の端部を接続する接続孔10a、可撓性チューブfの端部を接続する接続孔10bを有し、これら接続孔10a及び10bと通じた接続孔10cが閉塞部材Kにて閉塞されて構成されている。また、T字管10内には、接続孔10aと10bとを連通する流通路10abが形成されており、該連通路10ab、可撓性チューブf、及び第1可撓性チューブ11が液体導入ラインとしての生食ラインL3を構成している。
【0041】
第1可撓性チューブ11及び第2可撓性チューブ12内には、図7に示すように、軸方向に延びた一方の流通孔11a及び他方の12aが各々形成されており、それぞれが生食ラインL3の一部、動脈側血液回路L1の一部を構成している。これら第1可撓性チューブ11と第2可撓性チューブ12とは、同図に示すように、密着した状態にて接着剤にて接合されて一体化している。尚、このように2本の可撓性チューブを接着剤で接合するものの他、熱溶着等で接合してもよい。
【0042】
更に、一方の流通孔12aが形成された第2可撓性チューブ12の肉厚w1を他方の流通孔11aが形成された第1可撓性チューブ11の肉厚w2よりも薄くし、当該第2可撓性チューブ12を柔らかく形成している。これにより、第2可撓性チューブ12内で陰圧が生じると、径方向に撓むので当該陰圧を検出することができるとともに、肉厚が厚い第1可撓性チューブ11と接合されているので、折れ曲がり難く、血液の流路の不用意な閉塞を回避することができる。尚、肉厚がw1の部位における硬さの範囲は、先の実施形態と同様、HDA55〜95が好ましい。
【0043】
また、このような1本の流通孔11a又は12aを有する可撓性チューブは、従来より広く用いられており、その肉厚も様々用意されているので、所望の肉厚の可撓性チューブを2本選択し、これらを接合させて動脈側血液回路L1の一部及び生食ラインL3の一部とすることができる。従って、既存の可撓性チューブ(肉厚の選択は必要だが)を用いて本実施形態の血液回路を構成することができる。
【0044】
上記構成の血液回路にて透析治療を行うには、可撓性チューブf或いは第1可撓性チューブ11の一部をクランプ装置等で挟持することにより、生理食塩水の流路を閉塞した状態にて行われ、例えば透析治療前のプライミング、透析治療時の補液、又は透析治療後の血液回収時においてのみ当該流路を開放する。流路が開放されると、容器C内に充填された生理食塩水は、可撓性チューブf内を流れた後、T字管10の流通路10abを介して第1可撓性チューブ11内を流れ、Y字管13に至る。
【0045】
そして、当該Y字管10に至った生理食塩水は、そこから第2可撓性チューブ12に流れるので、動脈側血液回路L1に導入されることとなる。動脈側血液回路L1に導入された生理食塩水は、例えばプライミング又は血液回収時には、ダイアライザ7を介して静脈側血液回路L2に至り、静脈側穿刺針2から排出される一方、補液時には、血液と一緒に患者の体内に供給される。
【0046】
尚、本実施形態においては、Y字管13からT字管10が配設された位置まで第1可撓性チューブ11が1本、Y字管13から大径可撓性チューブ4aまで第2可撓性チューブ12が1本それぞれ配設されているが、例えば途中においてゴムボタンを複数接続させるようにすれば、隣り合うゴムボタン間のみにおいて第2可撓性チューブ12を接続し、その部分のみで陰圧を検出するようにしてもよい。
【0047】
以上、2つの実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されず、例えば生食ラインL3の代わりに、薬液等を血液回路内に導入する他の液体導入ラインとしてもよい。この場合であっても、液体導入ラインと動脈側血液回路とが並行して配設された部位において、当該動脈側血液回路側の肉厚を小さくすることにより柔らかくし、内部の陰圧を検出し得る構成とする必要がある。
【0048】
また、本実施形態においては、液体導入ライン(生食ラインL3)が動脈側血液回路L1に接続されているが、これに代えて或いはこれと共に、静脈側血液回路L2に接続したものに適用してもよい。更に、上記血液回路に他の種々構成要素(例えば、気泡検出器等)を接続するようにしてもよく、反対に、所定の構成要素(例えば、動脈側のドリップチャンバ等)を省略してもよい。
【0049】
また更に、本実施形態においては、動脈側穿刺針1及び静脈側穿刺針2の2本の穿刺針を有したダブルニードル型のものを挙げているが、1本の穿刺針を有したシングルニードル型のものに適用するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
液体導入ラインの少なくとも一部が動脈側血液回路又は静脈側血液回路と並行して配設され、当該並行した部位における液体導入ラインと動脈側血液回路又は静脈側血液回路とを一体化するとともに、一体化した部位における動脈側血液回路又は静脈側血液回路を構成する部位が液体導入ラインを構成する部位よりも柔らかく形成し、当該動脈側血液回路又は静脈側血液回路内の陰圧で径方向に撓み得るようにした血液回路であれば、外観形状が異なるもの或いは他の機能が付加されたものにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る血液回路を示す全体模式図
【図2】図1におけるII−II線断面図(陰圧が生じていない状態)
【図3】本発明の実施形態に係る血液回路における流通孔3a内に陰圧が生じた状態を示す断面模式図
【図4】本発明の実施形態に係る血液回路における第1接続管を示す断面模式図
【図5】本発明の実施形態に係る血液回路における第2接続管を示す断面模式図
【図6】本発明の他の実施形態に係る血液回路を示す全体模式図
【図7】図6におけるVII−VII線断面図
【図8】本発明の他の実施形態に係る血液回路におけるT字管を示す断面模式図
【図9】従来の血液回路を示す全体模式図
【図10】従来の血液回路に配設された陰圧検出部材を示す正面図
【符号の説明】
【0052】
1…動脈側穿刺針
1a、2a…コネクタ
2…静脈側穿刺針
3…一体型可撓性チューブ
4…血液ポンプ
4a…大径可撓性チューブ
5、6…ドリップチャンバ
7…ダイアライザ(血液浄化器)
8…第1接続管
9…第2接続管
10…T字管
11…第1可撓性チューブ
12…第2可撓性チューブ
13…Y字管
L1…動脈側血液回路
L2…静脈側血液回路
L3…生食ライン(液体導入ライン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化器に接続され、先端の穿刺針から採取された血液を当該血液浄化器に流動させる動脈側血液回路と、
血液浄化器に接続され、当該血液浄化器からの血液を先端の穿刺針に流動させ、患者の体内に戻すための静脈側血液回路と、
前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路に液体を導入する液体導入ラインと、
を有する血液回路において、
前記液体導入ラインの少なくとも一部が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と並行して配設され、当該並行した部位における前記液体導入ラインと動脈側血液回路又は静脈側血液回路とを一体化するとともに、一体化した部位における動脈側血液回路又は静脈側血液回路を構成する部位が前記液体導入ラインを構成する部位よりも柔らかく形成し、当該動脈側血液回路又は静脈側血液回路内の陰圧で径方向に撓み得るようにしたことを特徴とする血液回路。
【請求項2】
前記液体導入ラインは、一部が前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路と並行して配設されるとともに、先端が前記穿刺針近傍まで延びて当該動脈側血液回路又は静脈側血液回路と接続され、生理食塩水を当該穿刺針近傍から導入し得る生食ラインから成ることを特徴とする請求項1記載の血液回路。
【請求項3】
前記一体化した部位は、軸方向に延びた2つの流通孔を有した1本の可撓性チューブから成り、これら流通孔を当該可撓性チューブの軸心からずれた位置に形成するとともに一方の流通孔を前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の一部とし、他方の流通孔を前記液体導入ラインの一部としたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血液回路。
【請求項4】
前記可撓性チューブにおける一方の流通孔は、断面形状が楕円とされたことを特徴とする請求項3記載の血液回路。
【請求項5】
前記一体化した部位は、軸方向に延びた流通孔が各々形成された2本の可撓性チューブを接合して成り、一方の流通孔を前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の一部とし、他方の流通孔を前記液体導入ラインの一部としたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血液回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−340845(P2006−340845A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168378(P2005−168378)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】