説明

血液浄化装置及びそのプライミング方法

【課題】プライミング液中の気泡をスムーズ且つ確実に外部に排出させることができ、当該プライミング液の使用量を抑制することができるとともに、プライミング時におけるプライミング液の供給量を容易に把握することができる血液浄化装置及びそのプライミング方法を提供する。
【解決手段】血液ポンプ4を逆転駆動させることにより、動脈側血液回路1、静脈側血液回路2及びダイアライザ3内の流路において液を循環させる循環工程と、動脈側弁手段(V6)及びプライミング弁手段(V3)を開放させつつ、プライミング液供給ラインLcからプライミング液を供給しつつ動脈側オーバーフローライン13から液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程とを行わせるものとされ、且つ、気泡検知手段(9または10)で気泡が検知されたことを条件として、循環工程からオーバーフロー工程へ移行させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈側血液回路及び静脈側血液回路にて患者の血液を体外循環させるとともに、当該動脈側血液回路及び静脈側血液回路に接続された血液浄化器にて体外循環する血液を浄化するための血液浄化装置及びそのプライミング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療時においては、採取した患者の血液を体外循環させて再び体内に戻すための血液回路が用いられており、かかる血液回路は、例えば中空糸膜を具備したダイアライザ(血液浄化手段)と接続し得る動脈側血液回路及び静脈側血液回路から主に構成されている。これら動脈側血液回路及び静脈側血液回路の各先端には、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が取り付けられ、それぞれが患者に穿刺されて透析治療における血液の体外循環が行われることとなる。
【0003】
このうち、動脈側血液回路には、しごき型の血液ポンプが配設されており、当該血液ポンプを駆動させることにより患者の体内から血液をダイアライザ側に送り込む一方、動脈側血液回路及び静脈側血液回路には、動脈側エアトラップチャンバ及び静脈側エアトラップチャンバが接続されており、除泡した後に患者の体内に血液が戻されるようになっている。
【0004】
また、動脈側血液回路における血液ポンプより上流側(即ち、動脈側穿刺針側)には、プライミングや返血時等に生理食塩水を供給するためのプライミング液供給ライン(生理食塩水ライン)がT字管等を介して接続されており、当該プライミング液供給ラインの先端にプライミング液(生理食塩液)を収容した収容バッグが接続されていた。而して、透析治療前に、血液回路や該血液回路に接続されたエアトラップチャンバ等構成要素に対してプライミング液供給ラインから生理食塩液等のプライミング液を流して充填させることにより、プライミングが行われるよう構成されている。尚、プライミング液供給ラインを具備した透析装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−93449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の血液浄化装置においては、血液回路内にプライミング液を供給して充填させた際、当該血液回路内や血液浄化器内に滞留した気泡が外部に排出されず残存する虞があり、その残存した気泡を外部に排出して除去するためには、比較的長時間に亘って多量のプライミング液を供給し続ける必要があった。このため、血液浄化治療時に必要とされる収容バッグ内の生理食塩液が不足したり、或いはプライミング液を多量に使用することによるコスト高が生じてしまうという不具合があった。また、プライミング時、プライミング液をどの程度供給したのかを把握することができないという不具合もあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、プライミング液中の気泡をスムーズ且つ確実に外部に排出させることができ、当該プライミング液の使用量を抑制することができるとともに、プライミング時におけるプライミング液の供給量を容易に把握することができる血液浄化装置及びそのプライミング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、血液浄化膜を内在し、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成された血液浄化器と、一端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、一端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、前記動脈側血液回路の途中に形成された動脈側エアトラップチャンバと、該動脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該動脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る動脈側オーバーフローラインと、該動脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な動脈側弁手段と、前記動脈側血液回路における当該動脈側血液回路先端と血液ポンプとの間の連結部にて接続され、プライミング液を供給可能なプライミング液供給ラインと、該プライミング液供給ラインの流路を任意に閉塞又は開放可能なプライミング弁手段と、前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の所定部位に配設され、当該部位を流れる液体中の気泡を検知し得る気泡検知手段と、少なくとも前記血液ポンプ、動脈側弁手段及びプライミング弁手段を任意タイミングにて制御可能な制御手段とを具備した血液浄化装置において、プライミング時、前記動脈側血液回路先端と静脈側血液回路先端とを接続して連通状態とされるとともに、前記制御手段は、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を閉塞させつつ、前記血液ポンプを逆転駆動させることにより、前記動脈側血液回路、静脈側血液回路及び血液浄化器内の流路において液を循環させる循環工程と、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させつつ、前記血液ポンプを正転駆動させることにより、前記プライミング液供給ラインからプライミング液を供給しつつ前記動脈側オーバーフローラインから液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程とを行わせるものとされ、且つ、前記気泡検知手段で気泡が検知されたことを条件として、前記循環工程からオーバーフロー工程へ移行させることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液浄化装置において、前記制御手段は、前記気泡検知手段による気泡検知がなくなるまで前記循環工程とオーバーフロー工程とを繰り返し行わせることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置において、前記静脈側血液回路の途中に形成された静脈側エアトラップチャンバと、該静脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該静脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る静脈側オーバーフローラインと、該静脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な静脈側弁手段とを具備するとともに、前記制御手段は、前記循環工程開始からオーバーフロー工程終了までの間に、前記静脈側弁手段を開放させて前記静脈側オーバーフローラインから液体をオーバーフローさせることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の血液浄化装置において、前記静脈側エアトラップチャンバは、内部に濾過網が形成されるとともに、前記動脈側血液回路における先端から前記血液ポンプまでの間又は前記静脈側血液回路における先端から前記静脈側エアトラップチャンバまでの間に流路を開閉可能な血液回路弁手段を具備し、且つ、前記循環工程は、前記血液回路弁手段を開閉することで循環する液流を変化させ、前記静脈側エアトラップチャンバ内の濾過網に付着した気泡を当該静脈側エアトラップチャンバの上方側で捕捉し得ることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記制御手段は、前記循環工程及びオーバーフロー工程が終了した後、前記血液ポンプを高速且つ短時間だけ正転駆動させることにより前記血液浄化器における前記血液導入口近傍の気泡を攪拌する攪拌工程と、該攪拌工程の後、前記血液ポンプを所定時間だけ逆転駆動させ、攪拌させた気泡を前記動脈側エアトラップチャンバにて捕捉させる捕捉工程と、該捕捉工程の後、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させるとともに前記血液ポンプを正転駆動させ、前記動脈側オーバーフローラインからオーバーフローさせる開放工程とを行わせるものであることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、血液浄化膜を内在し、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成された血液浄化器と、一端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、一端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、前記動脈側血液回路の途中に形成された動脈側エアトラップチャンバと、該動脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該動脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る動脈側オーバーフローラインと、該動脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な動脈側弁手段と、前記動脈側血液回路における当該動脈側血液回路先端と血液ポンプとの間の連結部にて接続され、プライミング液を供給可能なプライミング液供給ラインと、該プライミング液供給ラインの流路を任意に閉塞又は開放可能なプライミング弁手段と、前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の所定部位に配設され、当該部位を流れる液体中の気泡を検知し得る気泡検知手段とを具備した血液浄化装置のプライミング方法において、プライミング時、前記動脈側血液回路先端と静脈側血液回路先端とを接続して連通状態とされるとともに、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を閉塞させつつ、前記血液ポンプを逆転駆動させることにより、前記動脈側血液回路、静脈側血液回路及び血液浄化器内の流路において液を循環させる循環工程と、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させつつ、前記血液ポンプを正転駆動させることにより、前記プライミング液供給ラインからプライミング液を供給しつつ前記動脈側オーバーフローラインから液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程とを行わせるものとされ、且つ、前記気泡検知手段で気泡が検知されたことを条件として、前記循環工程からオーバーフロー工程へ移行させることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の血液浄化装置のプライミング方法において、前記気泡検知手段による気泡検知がなくなるまで前記循環工程とオーバーフロー工程とを繰り返し行わせることを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項6又は請求項7記載の血液浄化装置のプライミング方法において、前記静脈側血液回路の途中に形成された静脈側エアトラップチャンバと、該静脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該静脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る静脈側オーバーフローラインと、該静脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な静脈側弁手段とを具備するとともに、前記循環工程開始からオーバーフロー工程終了までの間に、前記静脈側弁手段を開放させて前記静脈側オーバーフローラインから液体をオーバーフローさせることを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の血液浄化装置のプライミング方法において、前記静脈側エアトラップチャンバは、内部に濾過網が形成されるとともに、前記動脈側血液回路における先端から前記血液ポンプまでの間又は前記静脈側血液回路における先端から前記静脈側エアトラップチャンバまでの間に流路を開閉可能な血液回路弁手段を具備し、且つ、前記循環工程は、前記血液回路弁手段を開閉することで循環する液流を変化させ、前記静脈側エアトラップチャンバ内の濾過網に付着した気泡を当該静脈側エアトラップチャンバの上方側で捕捉し得ることを特徴とする。
【0017】
請求項10記載の発明は、請求項6〜9何れか1つに記載の血液浄化装置のプライミング方法において、前記循環工程及びオーバーフロー工程が終了した後、前記血液ポンプを高速且つ短時間だけ正転駆動させることにより前記血液浄化器における前記血液導入口近傍の気泡を攪拌する攪拌工程と、該攪拌工程の後、前記血液ポンプを所定時間だけ逆転駆動させ、攪拌させた気泡を前記動脈側エアトラップチャンバにて捕捉させる捕捉工程と、該捕捉工程の後、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させるとともに前記血液ポンプを正転駆動させ、前記動脈側オーバーフローラインからオーバーフローさせる開放工程とを行わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1、6の発明によれば、気泡検知手段で気泡が検知されたことを条件として、循環工程からオーバーフロー工程に移行するので当該気泡は血液浄化器に送り込まれず、なおかつ当該オーバーフロー工程は、動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させつつ、血液ポンプを正転駆動させることにより、プライミング液供給ラインからプライミング液を供給しつつ動脈側オーバーフローラインから液をオーバーフローさせるので、プライミング液中の気泡をスムーズ且つ確実に外部に排出させることができ、当該プライミング液の使用量を抑制することができる。
【0019】
また、血液ポンプの回転角あたりの吐出量が既知のポンプチューブを用いるようにすれば、オーバーフロー工程時の血液ポンプの正転駆動量(回転数)に基づいて、プライミング時におけるプライミング液の供給量を容易に把握することができる。よって、プライミング液を補液時の補液又は返血時の置換液として使用する血液浄化装置であっても、プライミング時のプライミング液の使用量を把握できるため、その後の血液浄化治療や返血時等において、補液又は置換液が不足してしまうのを回避することができる。
【0020】
請求項2、7の発明によれば、気泡検知手段による気泡検知がなくなるまで循環工程とオーバーフロー工程とを繰り返し行わせるので、プライミング時、血液回路内の気泡をより確実に外部に排出させることができるとともに、プライミング液の流路の体積(プライミングボリューム)が既知の動脈側血液回路を用いるようにすれば、オーバーフロー工程におけるプライミング液のオーバーフロー量をより抑制することができる。
【0021】
請求項3、8の発明によれば、循環工程開始からオーバーフロー工程終了までの間に、静脈側弁手段を開放させて静脈側オーバーフローラインから液体をオーバーフローさせるので、静脈側エアトラップチャンバを液で満たすことによって気泡が血液浄化器に送られてしまうのを防止することができる。
【0022】
請求項4、9の発明によれば、循環工程は、血液回路弁手段を開閉することで循環する液流を変化させ、静脈側エアトラップチャンバ内の濾過網に付着した気泡を当該静脈側エアトラップチャンバの上方側で捕捉し得るので、血液の体外循環に移行する前の気泡除去確認が簡略化できるとともに、気泡が残っていた際の気泡除去操作、気泡除去のためのプライミング液の追加が不要になる。
【0023】
請求項5、10の発明によれば、循環工程及びオーバーフロー工程が終了した後、血液ポンプを高速且つ短時間だけ正転駆動させることにより血液浄化器における血液導入口近傍の気泡を攪拌する攪拌工程と、該攪拌工程の後、血液ポンプを所定時間だけ逆転駆動させ、攪拌させた気泡を動脈側エアトラップチャンバにて捕捉させる捕捉工程と、該捕捉工程の後、動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させるとともに血液ポンプを正転駆動させ、動脈側オーバーフローラインからオーバーフローさせる開放工程とを行わせるので、血液浄化器における血液導入口近傍に比較的細かい気泡が残留したとしても、その気泡を確実に外部に排出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る血液浄化装置を示す全体摸式図
【図2】同血液浄化装置を示す全体摸式図(プライミング予工程)
【図3】同血液浄化装置を示す全体摸式図(プライミング予工程)
【図4】同血液浄化装置を示す全体摸式図(プライミング予工程)
【図5】同血液浄化装置を示す全体摸式図(循環工程)
【図6】同血液浄化装置を示す全体摸式図(移送工程)
【図7】同血液浄化装置を示す全体摸式図(オーバーフロー工程)
【図8】同血液浄化装置を示す全体摸式図(静脈側オーバーフロー工程)
【図9】同血液浄化装置を示す全体摸式図(撹拌工程)
【図10】同血液浄化装置を示す全体摸式図(捕捉工程)
【図11】同血液浄化装置を示す全体摸式図(開放工程)
【図12】本発明の他の実施形態に係る血液浄化装置を示す全体摸式図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、透析治療を行うための透析装置から成り、図1に示すように、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2から成る血液回路と、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2の間に介装されて血液回路を流れる血液を浄化するダイアライザ3(血液浄化手段)と、動脈側血液回路1に配設されたしごき型の血液ポンプ4と、動脈側血液回路1に接続された動脈側エアトラップチャンバ5と、静脈側血液回路2に接続された静脈側エアトラップチャンバ6と、プライミング液としての生理食塩液を収容した収容手段7と、該収容手段7と動脈側血液回路1とを連結したプライミング液供給ラインLcと、該プライミング液供給ラインLcの途中に接続されたプライミング液チャンバ8及びプライミング弁手段としての電磁弁V3とから主に構成されている。
【0026】
動脈側血液回路1には、その先端にコネクタcを介して動脈側穿刺針aが接続されるとともに、途中にしごき型の血液ポンプ4が配設され、動脈側エアトラップチャンバ5が接続ている。静脈側血液回路2には、その先端にコネクタdを介して静脈側穿刺針bが接続されるとともに、途中に静脈側エアトラップチャンバ6が接続されている。そして、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ4を駆動させると、患者の血液は、動脈側エアトラップチャンバ5にて除泡がなされつつ動脈側血液回路1を通ってダイアライザ3に至った後、該ダイアライザ3によって血液浄化が施され、静脈側エアトラップチャンバ6で除泡がなされつつ静脈側血液回路2を通って患者の体内に戻る。即ち、患者の血液を血液回路の動脈側血液回路1の先端から静脈側血液回路2の先端まで体外循環させつつダイアライザ3にて浄化するのである。
【0027】
動脈側エアトラップチャンバ5には、上方側(空気層側)から延びて先端が大気解放とされた動脈側オーバーフローライン13が延設されており、当該動脈側エアトラップチャンバ5をオーバーフローした液体(生理食塩液等のプライミング液)及び動脈側エアトラップチャンバ5で捕捉した気泡を外部に排出させ得るよう構成されている。この動脈側オーバーフローライン13には、動脈側弁手段としての電磁弁V6が配設されており、当該動脈側オーバーフローライン13を任意に閉塞又は開放可能とされている。
【0028】
同様に、静脈側エアトラップチャンバ6には、上方側(空気層側)から延びて先端が大気解放とされた静脈側オーバーフローライン14が延設されており、当該静脈側エアトラップチャンバ6をオーバーフローした液体(生理食塩液等のプライミング液)及び静脈側エアトラップチャンバ6で捕捉した気泡を外部に排出させ得るよう構成されている。この静脈側オーバーフローライン14には、静脈側弁手段としての電磁弁V7が配設されており、当該静脈側オーバーフローライン14を任意に閉塞又は開放可能とされている。
【0029】
ダイアライザ3(血液浄化器)は、その筐体部に、血液導入口3a(血液導入ポート)、血液導出口3b(血液導出ポート)、透析液導入口3c(透析液導入ポート)及び透析液導出口3d(透析液導出ポート)が形成されており、このうち血液導入口3aには動脈側血液回路1が、血液導出口3bには静脈側血液回路2がそれぞれ接続されている。また、透析液導入口3c及び透析液導出口3dは、透析装置本体から延設された透析液導入ラインLa及び透析液排出ラインLbとそれぞれ接続されている。
【0030】
ダイアライザ3内には、複数の中空糸(不図示)が収容されており、この中空糸が血液を浄化するための血液浄化膜を構成している。而して、ダイアライザ3内には、血液浄化膜を介して患者の血液が流れる血液流路(血液導入口3aと血液導出口3bとの間の流路)及び透析液が流れる透析液流路(透析液導入口3cと透析液導出口3dとの間の流路)が形成されている。そして、血液浄化膜を構成する中空糸には、その外周面と内周面とを貫通した微小な孔(ポア)が多数形成されて中空糸型の半透膜を形成しており、該膜を介して血液側と透析液側で物質交換が行われ血液を浄化するよう構成されている。
【0031】
複式ポンプ(不図示)は、透析装置本体内で透析液導入ラインLa及び透析液排出ラインLbに跨って配設されているとともに、当該透析装置本体には、ダイアライザ3中を流れる患者の血液から水分を除去するための除水ポンプ(不図示)が配設されている。更に、透析液導入ラインLaの一端がダイアライザ3(透析液導入口3c)に接続されるとともに、他端が所定濃度の透析液を調製する透析液供給装置(不図示)に接続されている。また、透析液排出ラインLbの一端は、ダイアライザ3(透析液導出口3d)に接続されるとともに、他端が図示しない排液手段と接続されており、透析液供給装置から供給された透析液が透析液導入ラインLaを通ってダイアライザ3に至った後、透析液排出ラインLbを通って排液手段に送られるようになっている。
【0032】
透析液導入ラインLaの途中(複式ポンプとダイアライザ3との間)には、その流路を閉塞及び開放し得る電磁弁V4が接続されているとともに、透析液排出ラインLbの途中(複式ポンプとダイアライザ3との間)には、その流路を閉塞及び開放し得る電磁弁V5が接続されている。また、動脈側血液回路1の先端側(コネクタc近傍)(動脈側血液回路に1おける先端から血液ポンプ4までの間)及び静脈側血液回路2の先端側(コネクタd近傍)(静脈側血液回路2における先端から静脈側エアトラップチャンバ6までの間)には、その流路を閉塞及び開放し得る電磁弁V1及びV2(血液回路弁手段)が接続されているとともに、プライミング液供給ラインLcの途中には、その流路を閉塞及び開放し得るプライミング弁手段としての電磁弁V3が接続されている。
【0033】
更に、動脈側血液回路1の先端側には、その部位を流れる液体中の気泡を検知し得る動脈側気泡検知手段9が配設されるとともに、静脈側血液回路2の先端側には、その部位を流れる液体中の気泡を検知し得る静脈側気泡検知手段10が配設されている。尚、図中符号11、12は、動脈側血液回路1の先端側及び静脈側血液回路2の先端側にそれぞれ配設された血液判別器を示している。この他、動脈側血液回路1の先端側、静脈側血液回路2の先端側、及びプライミング液供給ラインLcの途中にそれぞれチューブ検出器を配設してもよい。
【0034】
これら電磁弁V1〜V7は、上述のように開閉動作により、配設された各々の部位における流路を閉塞及び開放し得るものであり、その開閉動作がマイコン等から成る制御手段15にて制御されるよう構成されている。特に、本実施形態における制御手段15は、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)による検知信号を受信し、且つ、血液ポンプ4、電磁弁V1、V2、V4、V5、プライミング弁手段としての電磁弁V3、動脈側弁手段としての電磁弁V6、静脈側弁手段としての電磁弁V7を制御可能なものとされ、これら構成要素と電気的に接続されている。
【0035】
収容手段7(所謂「生理食塩液バッグ」と称されるもの)は、可撓性の透明な容器から成り、生理食塩液(プライミング液)を所定容量収容し得るもので、例えば透析装置本体に突設されたポール(不図示)の先端に取り付けられている。プライミング液供給ラインLcは、動脈側血液回路1における動脈側穿刺針aと動脈側エアトラップチャンバ5の間の部位(連結部P)に接続され、収容手段7内の生理食塩液(プライミング液)を血液回路内に供給し得るものである。このプライミング液供給ラインLcの途中には、プライミング液チャンバ8が接続されており、生理食塩液(プライミング液)の供給(滴下)を目視し得るようになっている。
【0036】
然るに、治療前のプライミング(生理食塩液等のプライミング液を血液の流路或いは透析液の流路で流して洗浄し、当該プライミング液を血液の流路或いは透析液の流路に予め満たしておく作業)時、動脈側血液回路1先端と静脈側血液回路2先端とを接続して連通(具体的には、コネクタcとコネクタdとを接続して互いの流路を連通)可能とされている。
【0037】
ここで、本実施形態に係る透析装置(血液浄化装置)は、治療前のプライミング時、制御手段15は、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)による検知信号(気泡検知信号)を受信し且つ血液ポンプ4の駆動制御及び電磁弁V1〜V5を任意タイミングにて開閉制御可能とされるとともに、動脈側血液回路1、静脈側血液回路2及びダイアライザ3の血液流路内をプライミング液(生理食塩液)で満たす予工程(図2〜4)と、循環工程(図5)と、移送工程(図6)と、オーバーフロー工程(図7)とを順次行わせるよう構成されている。
【0038】
特に、本実施形態においては、電磁弁V6(動脈側弁手段)及び電磁弁V3(プライミング弁手段)を閉塞させつつ、血液ポンプ4を逆転駆動させることにより、動脈側血液回路1、静脈側血液回路2及びダイアライザ3(血液浄化器)内の流路において液を循環させる循環工程と、電磁弁V6(動脈側弁手段)及び電磁弁V3(プライミング弁手段)を開放させつつ、血液ポンプ4を正転駆動させることにより、プライミング液供給ラインLcからプライミング液を供給しつつ動脈側オーバーフローライン13から液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程とを行わせるものとされ、且つ、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)で気泡が検知されたことを条件として、循環工程からオーバーフロー工程へ移行させるよう制御手段15による制御がなされ、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)による気泡検知がなくなるまで循環工程とオーバーフロー工程とを繰り返し行わせるよう構成されている。
【0039】
以下、本実施形態に係る透析装置で行われるプライミングの各工程について説明する。
プライミング時、図2に示すように、ダイアライザ3の血液導入口3aが上方を向いた状態(図示しない固定手段により固定)とし、且つ、コネクタcとコネクタdとを接続して互いの流路を連通させた後、予工程を行わせる。予工程は、図2〜4に示すように、生理食塩液(プライミング液)の自重或いは血液ポンプ4の正転駆動により、プライミング液供給ラインLcを介して収容手段7内の生理食塩液(プライミング液)を動脈側血液回路1、静脈側血液回路2及びダイアライザ3の流路内に充填させるための工程である。
【0040】
具体的には、制御手段15による制御にて、図2に示すように、血液ポンプ4の停止を維持するとともに、電磁弁V1〜V3、及び電磁弁V7を開状態、電磁弁V6を閉状態とする。これにより、収容手段7内の生理食塩液(プライミング液)は、その落差により生じる自重(落差圧)で、プライミング液供給ラインLc、動脈側血液回路1の連結部Pから先端までの間、及び静脈側血液回路2の先端から静脈側エアトラップチャンバ6まで至り、その上部から延設された静脈側オーバーフローライン14を通って外部に排出されることとなる。
【0041】
その後、図3に示すように、血液ポンプ4を正転駆動させるとともに、電磁弁V1、V2及び電磁弁V6を閉状態、電磁弁V3及びV7を開状態とする。これにより、ダイアライザ3がウェット型(予め充填液が充填されたタイプ)の場合は、予め充填された充填液がダイアライザ3の血液導出口3bから押し出され、静脈側エアトラップチャンバ6に至り、静脈側オーバーフローライン14を通って外部に排出される。よって、静脈側血液回路2における血液導出口3bから静脈側エアトラップチャンバ6までの間を予めダイアライザ3内の充填液で満たすことができ、後の循環工程移行時、ダイアライザ3に空気を送ることなく生理食塩液(プライミング液)の送液が可能になる。
【0042】
尚、本実施形態においては、ダイアライザ3がウェット型のもの或いはドライ型(充填液は充填されていないタイプ)のものの何れでも本工程が行われるよう制御されるが、ダイアライザ3がウェット型のものの場合に限って本工程を行うよう制御してもよい。但し、ウェット型及びドライ型の何れのダイアライザ3を用いた場合にも本工程を行わせるようにすれば、ダイアライザ3のタイプによらず自動的に予工程を行わせることができる。
【0043】
そして、図4で示すように、血液ポンプ4の正転駆動を維持させるとともに、電磁弁V1、V2及び電磁弁V7を閉状態、電磁弁V3及びV6を開状態とする。これにより、収容手段7内の生理食塩液(プライミング液)は、血液ポンプ4の駆動力により、プライミング液供給ラインLc、動脈側血液回路1の連結部Pから血液ポンプ4が配設されたチューブを通って動脈側エアトラップチャンバ5まで至り、その上部から延設された動脈側オーバーフローライン13を通って外部に排出されることとなる。以上で、予工程が終了する。
【0044】
続いて、制御手段15の制御にて、図5に示すように、電磁弁V6(動脈側弁手段)、V7(静脈側弁手段)及び電磁弁V3(プライミング弁手段)を閉塞させつつ、血液ポンプ4を逆転駆動させることにより、動脈側血液回路1、静脈側血液回路2及びダイアライザ3(血液浄化器)内の流路において液を循環させる(循環工程)。尚、循環工程においては、電磁弁V1、V2は、開状態とされている。かかる循環工程によれば、先の予工程にて充填された液を循環させる過程で、ダイアライザ3の血液導入口3aから排出された気泡を動脈側血液回路1の先端側(コネクタc側)まで移動させることができる。
【0045】
然るに、循環工程において、電磁弁V1またはV2(血液回路弁手段)を短時間且つ任意タイミングにて開閉動作させるのが好ましい。その場合、当該開閉動作によって、静脈側エアトラップチャンバ6内の濾過網(メッシュや網目状コーン等)に付着した細かい気泡を当該濾過網から離間させて除去させ、その後のオーバーフロー工程にて外部に排出させることができる。尚、電磁弁V1またはV2の開閉のタイミングとしては、閉時間が長いと血液ポンプ吐出側における血液回路の内圧が上昇し過ぎる可能性があるので、0.1〜1.0秒を閉時間とするのがよい。開状態は送られた液と気泡の分離、内圧の戻りを確実にするため、1.0〜3.0秒と閉状態時間より長めに設定するのが望ましい。
【0046】
上記の如く、循環工程において、電磁弁V1またはV2(血液回路弁手段)を開閉することで循環する液流を変化させ、静脈側エアトラップチャンバ6内の濾過網に付着した気泡を当該静脈側エアトラップチャンバ6の上方側(空気層)で捕捉し得るので、血液の体外循環に移行する前の気泡除去確認が簡略化できるとともに、気泡が残っていた際の気泡除去操作、気泡除去のためのプライミング液の追加が不要になる。即ち、循環工程において、電磁弁V1またはV2(血液回路弁手段)を開閉することで、循環する液体の流速、圧力に緩急を生じさせることにより、上方向の液体の流れとともに静脈側エアトラップチャンバ6の上方(空気層)にて気泡を捕捉するのである。
【0047】
上記循環工程において、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)で気泡が検知されると、制御手段15の制御にて血液ポンプ4を一旦停止させ、その後、図6に示すように、電磁弁V1、V2を開状態としつつ電磁弁V3、V6及びV7を閉状態とするとともに、血液ポンプ4を正転駆動させる(移送工程)。これにより、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)近傍の気泡を血液ポンプ4の配設位置(動脈側血液回路1の連結部Pから血液ポンプ4の配設位置までの間)まで移送することができる。
【0048】
その後、制御手段15の制御にて、図7に示すように、電磁弁V6(動脈側弁手段)及び電磁弁V3(プライミング弁手段)を開放させつつ、血液ポンプ4を正転駆動させることにより、プライミング液供給ラインLcからプライミング液を供給しつつ動脈側オーバーフローライン13から液をオーバーフローさせる(オーバーフロー工程)。尚、オーバーフロー工程においては、電磁弁V1、V2及びV7(静脈側弁手段)は、閉状態とされている。かかるオーバーフロー工程によれば、先の移送工程にて移送された気泡を、オーバーフローライン13を介して外部に排出させることができる。
【0049】
以上でプライミング過程における気泡除去工程が終了する。そして、電磁弁V4、V5を開状態としつつ透析液導入ラインLa、ダイアライザ3内の透析液流路、及び透析液排出ラインLbに透析液を流通させることにより、ガスパージ工程(ダイアライザ3内の透析液流路のプライミング)が行われることとなる。尚、ガスパージ工程は、一連の気泡除去工程と並行して或いは当該気泡除去工程の後に行うようにしてもよい。
【0050】
本実施形態においては、上記の如きオーバーフロー工程を所定時間行った後、或いは血液ポンプ4を所定回転数駆動した後、再び循環工程が行われることとなる。即ち、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)による気泡検知がなくなるまで循環工程とオーバーフロー工程とが(本実施形態においては、循環工程と、移送工程と、オーバーフロー工程とが)繰り返し行われるのである。尚、気泡検知手段を動脈側血液回路1の連結部Pから血液ポンプ4の配設位置までの間に設置することができ、その気泡検知手段にて気泡が検知されたことを条件として循環工程からオーバーフロー工程へ移行させるものとすれば、移送工程を省略することができる。
【0051】
上記実施形態によれば、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)で気泡が検知されたことを条件として、循環工程から移送工程を介してオーバーフロー工程へ移行させ、当該オーバーフロー工程は、電磁弁V6(動脈側弁手段)及び電磁弁V3(プライミング弁手段)を開放させつつ、血液ポンプ4を正転駆動させることにより、プライミング液供給ラインLcからプライミング液を供給しつつ動脈側オーバーフローライン13から液をオーバーフローさせるので、例えば収容手段7内の生理食塩液(プライミング液)を、その落差により生じる自重(落差圧)で供給させるものに比べ、プライミング液中の気泡をスムーズ且つ確実に外部に排出させることができ、当該プライミング液の使用量を抑制することができる。
【0052】
また、血液回路に回転角あたりの吐出量が既知のポンプチューブ4aを用いるようにすれば、オーバーフロー工程時の血液ポンプ4の正転駆動量(回転数)に基づいて、プライミング時におけるプライミング液の供給量を容易に把握することができる。よって、プライミング液を補液時の補液又は返血時の置換液として使用する血液浄化装置(本実施形態の如く生理食塩液をプライミング液の他、補液及び返血時の置換液として使用するもの)であっても、プライミング時のプライミング液の使用量を把握できるため、その後の血液浄化治療や返血時等において、補液又は置換液が不足してしまうのを回避することができる。
【0053】
更に、気泡検知手段9(又は気泡検知手段10)による気泡検知がなくなるまで循環工程とオーバーフロー工程とを(本実施形態においては、循環工程と、移送工程と、オーバーフロー工程とを)繰り返し行わせるので、プライミング時、血液回路内の気泡をより確実に外部に排出させることができるとともに、プライミング液の流路の体積(プライミングボリューム)が既知の動脈側血液回路を用いるようにすれば、オーバーフロー工程におけるプライミング液のオーバーフロー量をより抑制することができる。
【0054】
然るに、図8に示すように、制御手段15は、循環工程開始からオーバーフロー工程終了までの間に、電磁弁V7(静脈側弁手段)を開放させて静脈側オーバーフローライン14から液体をオーバーフローさせるようにするのが好ましい。この場合、静脈側エアトラップチャンバ6を液で満たすことによって気泡がダイアライザ3(血液浄化器)に送られてしまうのを防止することができる。
【0055】
また、上記循環工程及びオーバーフロー工程(本実施形態においては移送工程含む)が終了した後、ダイアライザ3(血液浄化器)における血液導入口3a近傍(ダイアライザ3の上端側であって血液が流れる流路内)に付着した比較的細かい気泡を除去すべく、制御手段15にて、撹拌工程(図9)、捕捉工程(図10)及び開放工程(図11)を順次行わせるものとしてもよい。
【0056】
撹拌工程は、血液ポンプ4を高速且つ短時間だけ正転駆動させることによりダイアライザ3(血液浄化器)における血液導入口3a近傍の気泡を攪拌する工程である。即ち、図9に示すように、制御手段15の制御にて、電磁弁V3(プライミング弁手段)及び電磁弁V6(動脈側弁手段)、V7(静脈側弁手段)を閉塞させつつ電磁弁V1、V2を開放させるとともに、血液ポンプ4を短時間且つ正転方向に高速回転させることにより、ダイアライザ3(血液浄化器)における血液導入口3a近傍の気泡を撹拌して散らし、気泡の粒を比較的大きくして移動を容易に行わせるのである。尚、血液ポンプ4の運転条件としては、300mL/min以上の高流量で2〜10秒正転駆動した後、停止(0mL/min)若しくは逆転(300mL/min以上の高流量で2〜10秒)する動作を数回繰り返し、血液導入口3a近傍の流れを撹拌するのが好ましい。
【0057】
捕捉工程は、攪拌工程の後、血液ポンプ4を所定時間だけ逆転駆動させ、攪拌させた気泡を動脈側エアトラップチャンバ5にて捕捉させる工程である。即ち、図10に示すように、電磁弁の開閉状態を維持(電磁弁V3(プライミング弁手段)及び電磁弁V6(動脈側弁手段)、V7(静脈側弁手段)を閉塞させつつ電磁弁V1、V2を開放)するとともに、血液ポンプ4を逆転駆動させることにより、撹拌工程で比較的大粒とされた気泡を液体と共に移動させ、動脈側エアトラップチャンバ5の上方側(空気層)に至らせて捕捉させるのである。尚、血液ポンプ4の運転条件としては、50〜200mL/minの流量が好ましく、回転角あたりの吐出量が既知のポンプチューブ4aとプライミング液の流路の体積(プライミングボリューム)が既知の動脈側血液回路の組み合わせであれば時間による条件設定も可能である。
【0058】
開放工程は、捕捉工程の後、図11に示すように、電磁弁V6(動脈側弁手段)及び電磁弁V3(プライミング弁手段)を開放させるとともに血液ポンプ4を正転駆動させ、動脈側オーバーフローライン13からオーバーフローさせる工程である。即ち、電磁弁V6(動脈側弁手段)を開放させることにより、捕捉工程で動脈側エアトラップチャンバ5にて捕捉された気泡は、オーバーフローする液体と共に動脈側オーバーフローライン13を介して外部に排出されるのである。上記した撹拌工程、捕捉工程及び開放工程を経ることにより、血液浄化器における血液導入口3a近傍に比較的細かい気泡が残留したとしても、その気泡を確実に外部に排出させることができる。
【0059】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図12に示すように、透析液導入ラインLaからプライミング液供給ラインLc’を分岐させ、その先端を動脈側血液回路1における動脈側穿刺針aと動脈側エアトラップチャンバ5の間の部位(連結部P)に接続するとともに、当該プライミング液供給ラインLc’の途中に送液ポンプ等から成る送液手段16及び電磁弁V3’(プライミング弁手段)を接続させた血液浄化装置に適用してもよい。この場合、プライミング時に血液回路に供給されるプライミング液は、透析液とされる。尚、本実施形態においては、透析治療時に用いられる透析装置に適用しているが、患者の血液を体外循環させつつ浄化し得る他の装置(例えば血液濾過透析法、血液濾過法、AFBFで使用される血液浄化装置、血漿吸着装置など)に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
プライミング時、動脈側血液回路先端と静脈側血液回路先端とを接続して連通状態とされるとともに、動脈側弁手段及びプライミング弁手段を閉塞させつつ、血液ポンプを逆転駆動させることにより、動脈側血液回路、静脈側血液回路及び血液浄化器内の流路において液を循環させる循環工程と、動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させつつ、血液ポンプを正転駆動させることにより、プライミング液供給ラインからプライミング液を供給しつつ動脈側オーバーフローラインから液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程とを行わせるものとされ、且つ、気泡検知手段で気泡が検知されたことを条件として、循環工程からオーバーフロー工程へ移行させる血液浄化装置及びそのプライミング方法であれば、他の構成及び機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 動脈側血液回路
2 静脈側血液回路
3 ダイアライザ(血液浄化手段)
4 血液ポンプ
5 動脈側エアトラップチャンバ
6 静脈側エアトラップチャンバ
7 収容手段
8 プライミング液チャンバ
9、10 気泡検知手段
11、12 血液判別器
13 動脈側オーバーフローライン
14 静脈側オーバーフローライン
15 制御手段
16 送液手段
La 透析液導入ライン
Lb 透析液排出ライン
Lc プライミング液供給ライン
V1、V2 電磁弁(血液回路弁手段)
V3 電磁弁(プライミング弁手段)
V4、V5 電磁弁
V6 電磁弁(動脈側弁手段)
V7 電磁弁(静脈側弁手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液浄化膜を内在し、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成された血液浄化器と、
一端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、
一端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、
前記動脈側血液回路の途中に形成された動脈側エアトラップチャンバと、
該動脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該動脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る動脈側オーバーフローラインと、
該動脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な動脈側弁手段と、
前記動脈側血液回路における当該動脈側血液回路先端と血液ポンプとの間の連結部にて接続され、プライミング液を供給可能なプライミング液供給ラインと、
該プライミング液供給ラインの流路を任意に閉塞又は開放可能なプライミング弁手段と、
前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の所定部位に配設され、当該部位を流れる液体中の気泡を検知し得る気泡検知手段と、
少なくとも前記血液ポンプ、動脈側弁手段及びプライミング弁手段を任意タイミングにて制御可能な制御手段と、
を具備した血液浄化装置において、
プライミング時、前記動脈側血液回路先端と静脈側血液回路先端とを接続して連通状態とされるとともに、前記制御手段は、
前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を閉塞させつつ、前記血液ポンプを逆転駆動させることにより、前記動脈側血液回路、静脈側血液回路及び血液浄化器内の流路において液を循環させる循環工程と、
前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させつつ、前記血液ポンプを正転駆動させることにより、前記プライミング液供給ラインからプライミング液を供給しつつ前記動脈側オーバーフローラインから液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程と、
を行わせるものとされ、且つ、前記気泡検知手段で気泡が検知されたことを条件として、前記循環工程からオーバーフロー工程へ移行させることを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記気泡検知手段による気泡検知がなくなるまで前記循環工程とオーバーフロー工程とを繰り返し行わせることを特徴とする請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記静脈側血液回路の途中に形成された静脈側エアトラップチャンバと、
該静脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該静脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る静脈側オーバーフローラインと、
該静脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な静脈側弁手段と、
を具備するとともに、前記制御手段は、前記循環工程開始からオーバーフロー工程終了までの間に、前記静脈側弁手段を開放させて前記静脈側オーバーフローラインから液体をオーバーフローさせることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記静脈側エアトラップチャンバは、内部に濾過網が形成されるとともに、前記動脈側血液回路における先端から前記血液ポンプまでの間又は前記静脈側血液回路における先端から前記静脈側エアトラップチャンバまでの間に流路を開閉可能な血液回路弁手段を具備し、且つ、前記循環工程は、前記血液回路弁手段を開閉することで循環する液流を変化させ、前記静脈側エアトラップチャンバ内の濾過網に付着した気泡を当該静脈側エアトラップチャンバの上方側で捕捉し得ることを特徴とする請求項3記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記循環工程及びオーバーフロー工程が終了した後、
前記血液ポンプを高速且つ短時間だけ正転駆動させることにより前記血液浄化器における前記血液導入口近傍の気泡を攪拌する攪拌工程と、
該攪拌工程の後、前記血液ポンプを所定時間だけ逆転駆動させ、攪拌させた気泡を前記動脈側エアトラップチャンバにて捕捉させる捕捉工程と、
該捕捉工程の後、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させるとともに前記血液ポンプを正転駆動させ、前記動脈側オーバーフローラインからオーバーフローさせる開放工程と、
を行わせるものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
血液浄化膜を内在し、血液導入口、血液導出口、透析液導入口及び透析液排出口が形成された血液浄化器と、
一端が前記血液浄化器の血液導入口に接続され、その途中において血液ポンプが配設された動脈側血液回路と、
一端が前記血液浄化器の血液導出口に接続された静脈側血液回路と、
前記動脈側血液回路の途中に形成された動脈側エアトラップチャンバと、
該動脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該動脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る動脈側オーバーフローラインと、
該動脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な動脈側弁手段と、
前記動脈側血液回路における当該動脈側血液回路先端と血液ポンプとの間の連結部にて接続され、プライミング液を供給可能なプライミング液供給ラインと、
該プライミング液供給ラインの流路を任意に閉塞又は開放可能なプライミング弁手段と、
前記動脈側血液回路又は静脈側血液回路の所定部位に配設され、当該部位を流れる液体中の気泡を検知し得る気泡検知手段と、
を具備した血液浄化装置のプライミング方法において、
プライミング時、前記動脈側血液回路先端と静脈側血液回路先端とを接続して連通状態とされるとともに、
前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を閉塞させつつ、前記血液ポンプを逆転駆動させることにより、前記動脈側血液回路、静脈側血液回路及び血液浄化器内の流路において液を循環させる循環工程と、
前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させつつ、前記血液ポンプを正転駆動させることにより、前記プライミング液供給ラインからプライミング液を供給しつつ前記動脈側オーバーフローラインから液をオーバーフローさせるオーバーフロー工程と、
を行わせるものとされ、且つ、前記気泡検知手段で気泡が検知されたことを条件として、前記循環工程からオーバーフロー工程へ移行させることを特徴とする血液浄化装置のプライミング方法。
【請求項7】
前記気泡検知手段による気泡検知がなくなるまで前記循環工程とオーバーフロー工程とを繰り返し行わせることを特徴とする請求項6記載の血液浄化装置のプライミング方法。
【請求項8】
前記静脈側血液回路の途中に形成された静脈側エアトラップチャンバと、
該静脈側エアトラップチャンバの上方側から延設され、当該静脈側エアトラップチャンバをオーバーフローした液体を外部に排出させ得る静脈側オーバーフローラインと、
該静脈側オーバーフローラインの流路を任意に閉塞又は開放可能な静脈側弁手段と、
を具備するとともに、前記循環工程開始からオーバーフロー工程終了までの間に、前記静脈側弁手段を開放させて前記静脈側オーバーフローラインから液体をオーバーフローさせることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の血液浄化装置のプライミング方法。
【請求項9】
前記静脈側エアトラップチャンバは、内部に濾過網が形成されるとともに、前記動脈側血液回路における先端から前記血液ポンプまでの間又は前記静脈側血液回路における先端から前記静脈側エアトラップチャンバまでの間に流路を開閉可能な血液回路弁手段を具備し、且つ、前記循環工程は、前記血液回路弁手段を開閉することで循環する液流を変化させ、前記静脈側エアトラップチャンバ内の濾過網に付着した気泡を当該静脈側エアトラップチャンバの上方側で捕捉し得ることを特徴とする請求項8記載の血液浄化装置のプライミング方法。
【請求項10】
前記循環工程及びオーバーフロー工程が終了した後、
前記血液ポンプを高速且つ短時間だけ正転駆動させることにより前記血液浄化器における前記血液導入口近傍の気泡を攪拌する攪拌工程と、
該攪拌工程の後、前記血液ポンプを所定時間だけ逆転駆動させ、攪拌させた気泡を前記動脈側エアトラップチャンバにて捕捉させる捕捉工程と、
該捕捉工程の後、前記動脈側弁手段及びプライミング弁手段を開放させるとともに前記血液ポンプを正転駆動させ、前記動脈側オーバーフローラインからオーバーフローさせる開放工程と、
を行わせることを特徴とする請求項6〜9の何れか1つに記載の血液浄化装置のプライミング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−136003(P2011−136003A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297338(P2009−297338)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】